クリーンルーム用丁番およびそれを用いた扉装置
【課題】
微細なダストの拡散を生じないようにしたクリーンルーム用丁番において、ダストが外部に確実に飛散しないようにしたクリーンルーム用丁番を提供する。
【解決手段】
上羽根1と下羽根2の対向する管部5,6の端面に合成樹脂製の上軸受12と下軸受13を密着して設ける。各軸受は摺接状態で当接する。下軸受13の内周面17の上部には管部の内方に落ちたダストを溜めるための空所(凹部)32がある。下軸受13の外周面20の外側には、上方に起立する外周壁22により形成される受溝部21がある。上軸受12の外周面28には、上記下軸受13の受溝部21に入り込み該下軸受13と上軸受12の摺接面19,27を越えて下軸受13の外周面20に沿って下方に延びる被覆壁29がある。管部の外方に落ちるダストは被覆壁29でカバーされた状態で受溝部21内に溜まる。
微細なダストの拡散を生じないようにしたクリーンルーム用丁番において、ダストが外部に確実に飛散しないようにしたクリーンルーム用丁番を提供する。
【解決手段】
上羽根1と下羽根2の対向する管部5,6の端面に合成樹脂製の上軸受12と下軸受13を密着して設ける。各軸受は摺接状態で当接する。下軸受13の内周面17の上部には管部の内方に落ちたダストを溜めるための空所(凹部)32がある。下軸受13の外周面20の外側には、上方に起立する外周壁22により形成される受溝部21がある。上軸受12の外周面28には、上記下軸受13の受溝部21に入り込み該下軸受13と上軸受12の摺接面19,27を越えて下軸受13の外周面20に沿って下方に延びる被覆壁29がある。管部の外方に落ちるダストは被覆壁29でカバーされた状態で受溝部21内に溜まる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵埃が飛散しないようにし高度のクリーン度が要求される場所で好適に使用されるクリーンルーム用丁番(蝶番)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密電子機器、記憶媒体、半導体等の製造工場では、従来のクリーン度より一層高度のクリーンさを要求されているが、扉に使用されている一般的な丁番では微小なダストが発生してしまうので、そのまま使用することができない。すなわち、通常、枠に対して扉を開閉自在に支持する丁番(蝶番)は、枠側に取り付ける板部およびほぼ円筒形状の管部を端縁に有する下羽根と該管部に固着され管部上端面から上方に突出する軸と管部下端に固着された儀星を具備する下羽根組立と、扉側に取り付ける板部およびほぼ円筒形状の管部を端縁に有する上羽根と該管部の上端に固着された儀星を具備する上羽根組立から成り、上記軸を上羽根組立の管部下端から管部内周に回転可能に嵌合している。そして、上記丁番を回動すると、上羽根は軸を回転中心として回転するが、この回転の際、上羽根の管部内周面との間で扉の倒れ荷重を受けた状態で摺動回転する内面摺動部と、上羽根の管部下端面と下羽根の管部上端面の間で扉の荷重を受けた状態で摺動回転する管端摺動部の2箇所を摺動部として、扉は自在に開閉するから、摺動部の摺動抵抗が大きく、摩滅によるダストが発生する。
【0003】
上記丁番を構成する上・下羽根等の材質は、一般的にステンレススチールやスチール材料等で作られ、一枚の矩形薄板をせん断し、丸め加工して板部と管部を塑性加工により成形しているから、丸め加工した管部の先端部と板部の間には間隙が生じ、この間隙からダストが外部に飛散するおそれがある。なお、アルミニウム材料を押出し加工して板部と管部を一度に成形する場合はそのような間隙が生じるおそれはないが、重い扉の丁番として使用することはむずかしい。
【0004】
一方、クリーンルームで使用する丁番には、摺動部にオイル、グリース等の揮発性成分を含有する潤滑剤を使用できない。そこで、ダストの発生を少なくするよう摺動部に合成樹脂製の軸受を設けた丁番が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、従来提案されているように、単に合成樹脂製のブッシュやワッシャーを組み合わせただけでは、金属粉塵の飛散を防止できるとしても、樹脂粉塵が外部に飛散するおそれがある。また、ベアリングの周りを環囲部で囲んだ構成も提案されている(例えば特許文献2参照)が、ベアリング部分の外周が開放されているので、ベアリング部分から生じた摩擦粉が落下する際、環囲部の底に落ち込まずに舞い上がって環囲部の上方に飛び出し外部に飛散するおそれがあり、充分とは言えない。環状溝を有するピン受部材を管部の内方に設けて軸から発生したダストを環状溝で捕捉する構成の丁番も知られているが(例えば、特許文献3参照)、上羽根と下羽根の管部の対向面からダストが飛散するおそれがあり、確実に防止できるとは考えられない。
【特許文献1】特許第2958309号公報(特許請求の範囲、段落0007、図3)
【特許文献2】特許第4108098号公報(特許請求の範囲、段落0006、図2)
【特許文献3】特開平10−280780号公報(特許請求の範囲、段落0011、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題は、上記のように高度のクリーン度を要求されるクリーンルーム用の丁番において、回動に伴う金属粉末や合成樹脂粉末等の微細なダストが周囲に飛散しないようにしたクリーンムール用丁番を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、端縁に管部を形成した一対の羽根と、上下に組み合わせた各羽根の管部に連通する軸を有し、該軸を回転中心として上記羽根が回動するようにした丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を設けて軸との間に空所を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上軸受の外周面に上記下軸受の受溝部に入り込み該下軸受と上軸受の摺接面を越えて下軸受の外周面に沿って下方に延びる被覆壁を設けたクリーンルーム用丁番が提供され、上記課題が解決される。
【0007】
また、本発明によれば、上記被覆壁の先端は上記受溝部の底部に接しておらず、上記外周壁の下方には下羽根の管部に沿って下方に延びる嵌合壁が形成された上記クリーンルーム用丁番、外周壁の上部に上羽根の管部外周に形成した環状凹部に非接触状態で近接する突縁が設けられた上記クリーンルーム用丁番、及び上記軸を管部内周面に嵌合する大径部と管部内周面から離れた小径部に形成し、上記上軸受と下軸受の内周面に小径部と管部内周面間に嵌合する内方筒部を形成した上記クリーンルーム用丁番提供され、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成され、管部に軸を挿通して上羽根と下羽根を開閉可能に組み合わせた丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を設けて空所を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上軸受の外周面に上記下軸受の受溝部に入り込み該下軸受と上軸受の摺接面を越えて下軸受の外周面に沿って下方に延びる被覆壁を設けたから、羽根の回転により生じた管部内の摩滅粉等のダストは下軸受の切欠き部によって形成された軸との間の空所に蓄積されて管部の外方に殆ど逸散されることがない。また上軸受と下軸受の摺接面から生じる合成樹脂粉等のダストのうち内周方向に向かったダストは上記軸との間の空所に収納され、外周方向に向かったダストは下軸受の外周に形成した受溝部内に落下して収納される。この際、上記摺接面の外周を被覆壁で覆ったので、摺接面から落下するダストが周囲に飛散しにくく、かつ落下する場合にダストは下軸受の外周面と被覆壁の内周面の間の狭い空間を通して確実に受溝部の底部に案内されるから、一層飛散しにくくすることができる。このようにして、本発明の丁番は、使用により生じるダストを二段階に捕捉して外部に飛散しないようにすることができる。
【0009】
また、外周壁の下方に下羽根の管部に沿って延びる嵌合壁を形成したので、上記受溝部を形成する外周壁の強度を高めることができ、該外周壁の先端に上羽根の外周に形成した環状凹部に非接触状態で近接する突縁を設けると、上記受溝部の上方の開口部を閉鎖的に形成することができるので、被覆壁と協働して一層ダストの飛散を防止することができ、場合によっては上記被覆壁を設けなくてもダストの飛散を防止することができる。
【0010】
なお、上記軸を大径部と小径部に形成し、大径部を管部内周面に固定し、上記小径部に嵌合するよう上記各軸受に内方筒部を形成して嵌め合わせれば、金属材料で構成された軸と管部の摺動部を少なくし、摩滅粉の発生を少なくし、一層ダストの逸散を防止したクリーンルーム用の丁番が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のクリーンルーム用の丁番は、精密電子機器、記憶媒体、半導体等の製造工場その他の各種クリーンルームの扉やクリーン機器の開閉蓋その他適宜の機構の適所に適用することができる。図1〜図5を参照し、本発明の丁番は、それぞれ板部3,4の端縁に管部5,6を形成した上羽根1と下羽根2から成る一対の羽根と、この上羽根1と下羽根2を上下に組み合わせて上記管部5,6に連通した軸7を具備している。図に示す実施例において、該軸7の基端は下羽根2の管部6に図示を省略した溶接、圧入、ピン等で固定され、先端が管部6から上方に突出し、この突出部に上羽根1の管部5が回転可能に挿入され、軸7を回転中心として羽根が回動する。
【0012】
上記下羽根2の板部4には、枠側に取り付けるための取付孔8が形成され、上羽根1の板部3には扉側に取り付けるための取付孔9が形成され、各羽根1,2の管部端には儀星10が嵌着され、管部内が密閉されている。なお、上記各羽根1,2や軸7は金属材料で構成されるが、各羽根をステンレススチール材料やスチール材料で塑性加工する場合には、図3、図4に示すように管部と板部の間隙からダストが逸散しないよう間隙部分を溶接、ロー付け、半田付け、或いは接着剤等の閉鎖部材11で塞いでおく。アルミニウム材料で押出成形する場合にはそのような間隙が生じないので、その必要はない。
【0013】
上記上羽根1と下羽根2の上下に対向する管部5、6の端面にはそれぞれ合成樹脂製の上軸受12と下軸受13が密着状態で設けられ、各軸受12,13は摺接状態で当接している。該合成樹脂材料としては、耐摩耗性のある機械的強度の高い適宜の材料が選択される。上軸受12の上面14及び下軸受13の下面15は扉の荷重により各管部5,6の端面に密着しているが、接着剤で接着してもよい。
【0014】
図5〜図8を参照し、下軸受13は、中央に挿通孔16を有する略円筒状に形成され、上記軸7に軽圧入による嵌合若しくは接着される内周面17を有し、この内周面17の上部には面取り等により形成される切欠き部18を設けてある。この切欠き部は上方に開口し、通常の面取り加工よりも大きく形成するのが好ましい。下軸受13の上面には摺接面19が形成され、下面15は上述したように管部6に圧着若しくは接着される。また、外周面20の外側には、受溝部21を形成するよう外周面20との間に間隙を存して上方に起立する外周壁22が設けられ、該外周壁22の下方には上記下羽根2の管部6に沿って延びる嵌合壁23が形成されている。この外周壁22の内面面24と上記上羽根1の管部5の外周面間には、両者が接触しない程度の間隔が設けられている。
【0015】
上記上軸受12は、中央に挿通孔25を有する略円板状に形成され、上記軸7に回転可能に摺接する内周面26を有し、下面には上記下軸受13の摺接面19と摺接する摺接面27が形成され、上面14は上述したように管部5に圧着若しくは接着される。また、上軸受12の外周面28には、上記下軸受13の受溝部21に先端が入り込み上記下軸受13と上軸受12の摺接面19,27を越えて下軸受13の外周面20に沿って下方に延びる被覆壁29が一連に形成されている。該被覆壁29の先端は上記受溝部21の底部に接触しない長さである。なお、該被覆壁29の内周面30は上記下軸受13の外周面20に接触していてもいいし、該外周面20との間に隙間があってもよい。また、該被覆壁29の外周面31と上記下軸受13の外周壁22の内面面24との間には、両者が接触しない程度の間隔が形成されている。
【0016】
上記の構成により上羽根1の管部5と軸7との回動による摩耗粉は、上羽根1の管部5の嵌合隙間から下方に落下する。一方、上軸受12の上面14は上羽根1の管部5の下端面との間で扉の荷重を受けて密着しており、内周面26は軸7の外周面に回動自在に摺動するよう嵌合している。したがって、上方から落下した摩耗粉は一部が上軸受12の内周面26と軸7の外周面の間から下軸受13と軸7の間に落ち込み、上記切欠き部18により形成された空所(凹部)32に溜まる。
【0017】
上記上軸受12の下面の摺接面27と上記下軸受13の上面の摺接面19は扉の荷重を受けた状態で回動するため密着しているが、この間で発生する摩耗粉は軸受12,13の内周面および外周面方向に徐徐に排出され、内周面方向に向かった摩耗粉は上記空所(凹部)32に溜まり、外周面方向に向かった摩耗粉は上記被覆壁29により直接外方に拡散することなく、該被覆壁29の内周面30と下軸受13の外周面20の間を通って上記受溝部21の下方に溜まり、外部に飛散することはない。このようにして、上記丁番は二段階にダストを捕捉するように構成されているので、ダストの飛散が確実に防止され、安心して使用することができる。
【0018】
上記実施例は軸7の太さが一様であったが、管部内周面に嵌合する大径部33と管部内周面から離れている小径部34に形成してもよい。図9はそのような実施例を示し、軸7の大径部33は下羽根2の管部6に固定され、小径部34は上方に突出している。上記上軸受12および下軸受13の内周面には上記小径部34と管部内周面間に嵌合する内方筒部35,36が形成されている。このような構成によれば、軸7と管部5,6間の摺動部が少なくなるので、摩耗粉の発生を少なくすることができる。
【0019】
図10は、他の実施例を示している。図において上軸受12は上記実施例と同じであるが、下軸受13の外周壁22と上羽根1の管部5の関係が相違している。すなわち、上記上羽根1の管部外周に環状の凹部37を設け、外周壁22の先端に該環状凹部37に向かって非接触状態で近接する突縁38を形成している。このように構成すると、外周壁22の先端突縁38と環状凹部37により受溝部21内に溜まったダストの外部への流出が一層妨げられ、効果的である。また、この実施例においても、図11に示すように軸7を大径部33と小径部34に形成してもよい。さらに、摩耗粉の発生が比較的少ない場合等には、図12に示すように、上記下軸受13の被覆壁29を省略して先端突縁38と環状凹部37により拡散を防止するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例を示す丁番の正面図。
【図2】図1の平面図。
【図3】羽根の平面図。
【図4】羽根の一部の正面図。
【図5】管部に沿った断面図を示し、Aは縦断面図、BはA図のB部拡大断面図。
【図6】下軸受を示し、Aは断面図、Bは底面図。
【図7】上軸受を示しAは断面図、Bは底面図。
【図8】下軸受と上軸受を組み合わせた状態に断面図。
【図9】他の実施例を示す断面図。
【図10】さらに他の実施例を示す断面図。
【図11】さらに他の実施例を示す断面図。
【図12】さらに他の実施例を示す断面図。
【符号の説明】
【0021】
1 上羽根
2 下羽根
5,6 管部
7 軸
10 儀星
12 上軸受
13 下軸受
19、27 摺動面
21 受溝部
22 外周壁
23 嵌合壁
29 被覆壁
32 空所(凹部)
33 大径部
34 小径部
35,36 内方筒部
37 環状凹部
38 突縁
【技術分野】
【0001】
本発明は、塵埃が飛散しないようにし高度のクリーン度が要求される場所で好適に使用されるクリーンルーム用丁番(蝶番)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密電子機器、記憶媒体、半導体等の製造工場では、従来のクリーン度より一層高度のクリーンさを要求されているが、扉に使用されている一般的な丁番では微小なダストが発生してしまうので、そのまま使用することができない。すなわち、通常、枠に対して扉を開閉自在に支持する丁番(蝶番)は、枠側に取り付ける板部およびほぼ円筒形状の管部を端縁に有する下羽根と該管部に固着され管部上端面から上方に突出する軸と管部下端に固着された儀星を具備する下羽根組立と、扉側に取り付ける板部およびほぼ円筒形状の管部を端縁に有する上羽根と該管部の上端に固着された儀星を具備する上羽根組立から成り、上記軸を上羽根組立の管部下端から管部内周に回転可能に嵌合している。そして、上記丁番を回動すると、上羽根は軸を回転中心として回転するが、この回転の際、上羽根の管部内周面との間で扉の倒れ荷重を受けた状態で摺動回転する内面摺動部と、上羽根の管部下端面と下羽根の管部上端面の間で扉の荷重を受けた状態で摺動回転する管端摺動部の2箇所を摺動部として、扉は自在に開閉するから、摺動部の摺動抵抗が大きく、摩滅によるダストが発生する。
【0003】
上記丁番を構成する上・下羽根等の材質は、一般的にステンレススチールやスチール材料等で作られ、一枚の矩形薄板をせん断し、丸め加工して板部と管部を塑性加工により成形しているから、丸め加工した管部の先端部と板部の間には間隙が生じ、この間隙からダストが外部に飛散するおそれがある。なお、アルミニウム材料を押出し加工して板部と管部を一度に成形する場合はそのような間隙が生じるおそれはないが、重い扉の丁番として使用することはむずかしい。
【0004】
一方、クリーンルームで使用する丁番には、摺動部にオイル、グリース等の揮発性成分を含有する潤滑剤を使用できない。そこで、ダストの発生を少なくするよう摺動部に合成樹脂製の軸受を設けた丁番が提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、従来提案されているように、単に合成樹脂製のブッシュやワッシャーを組み合わせただけでは、金属粉塵の飛散を防止できるとしても、樹脂粉塵が外部に飛散するおそれがある。また、ベアリングの周りを環囲部で囲んだ構成も提案されている(例えば特許文献2参照)が、ベアリング部分の外周が開放されているので、ベアリング部分から生じた摩擦粉が落下する際、環囲部の底に落ち込まずに舞い上がって環囲部の上方に飛び出し外部に飛散するおそれがあり、充分とは言えない。環状溝を有するピン受部材を管部の内方に設けて軸から発生したダストを環状溝で捕捉する構成の丁番も知られているが(例えば、特許文献3参照)、上羽根と下羽根の管部の対向面からダストが飛散するおそれがあり、確実に防止できるとは考えられない。
【特許文献1】特許第2958309号公報(特許請求の範囲、段落0007、図3)
【特許文献2】特許第4108098号公報(特許請求の範囲、段落0006、図2)
【特許文献3】特開平10−280780号公報(特許請求の範囲、段落0011、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題は、上記のように高度のクリーン度を要求されるクリーンルーム用の丁番において、回動に伴う金属粉末や合成樹脂粉末等の微細なダストが周囲に飛散しないようにしたクリーンムール用丁番を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、端縁に管部を形成した一対の羽根と、上下に組み合わせた各羽根の管部に連通する軸を有し、該軸を回転中心として上記羽根が回動するようにした丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を設けて軸との間に空所を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上軸受の外周面に上記下軸受の受溝部に入り込み該下軸受と上軸受の摺接面を越えて下軸受の外周面に沿って下方に延びる被覆壁を設けたクリーンルーム用丁番が提供され、上記課題が解決される。
【0007】
また、本発明によれば、上記被覆壁の先端は上記受溝部の底部に接しておらず、上記外周壁の下方には下羽根の管部に沿って下方に延びる嵌合壁が形成された上記クリーンルーム用丁番、外周壁の上部に上羽根の管部外周に形成した環状凹部に非接触状態で近接する突縁が設けられた上記クリーンルーム用丁番、及び上記軸を管部内周面に嵌合する大径部と管部内周面から離れた小径部に形成し、上記上軸受と下軸受の内周面に小径部と管部内周面間に嵌合する内方筒部を形成した上記クリーンルーム用丁番提供され、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成され、管部に軸を挿通して上羽根と下羽根を開閉可能に組み合わせた丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を設けて空所を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上軸受の外周面に上記下軸受の受溝部に入り込み該下軸受と上軸受の摺接面を越えて下軸受の外周面に沿って下方に延びる被覆壁を設けたから、羽根の回転により生じた管部内の摩滅粉等のダストは下軸受の切欠き部によって形成された軸との間の空所に蓄積されて管部の外方に殆ど逸散されることがない。また上軸受と下軸受の摺接面から生じる合成樹脂粉等のダストのうち内周方向に向かったダストは上記軸との間の空所に収納され、外周方向に向かったダストは下軸受の外周に形成した受溝部内に落下して収納される。この際、上記摺接面の外周を被覆壁で覆ったので、摺接面から落下するダストが周囲に飛散しにくく、かつ落下する場合にダストは下軸受の外周面と被覆壁の内周面の間の狭い空間を通して確実に受溝部の底部に案内されるから、一層飛散しにくくすることができる。このようにして、本発明の丁番は、使用により生じるダストを二段階に捕捉して外部に飛散しないようにすることができる。
【0009】
また、外周壁の下方に下羽根の管部に沿って延びる嵌合壁を形成したので、上記受溝部を形成する外周壁の強度を高めることができ、該外周壁の先端に上羽根の外周に形成した環状凹部に非接触状態で近接する突縁を設けると、上記受溝部の上方の開口部を閉鎖的に形成することができるので、被覆壁と協働して一層ダストの飛散を防止することができ、場合によっては上記被覆壁を設けなくてもダストの飛散を防止することができる。
【0010】
なお、上記軸を大径部と小径部に形成し、大径部を管部内周面に固定し、上記小径部に嵌合するよう上記各軸受に内方筒部を形成して嵌め合わせれば、金属材料で構成された軸と管部の摺動部を少なくし、摩滅粉の発生を少なくし、一層ダストの逸散を防止したクリーンルーム用の丁番が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のクリーンルーム用の丁番は、精密電子機器、記憶媒体、半導体等の製造工場その他の各種クリーンルームの扉やクリーン機器の開閉蓋その他適宜の機構の適所に適用することができる。図1〜図5を参照し、本発明の丁番は、それぞれ板部3,4の端縁に管部5,6を形成した上羽根1と下羽根2から成る一対の羽根と、この上羽根1と下羽根2を上下に組み合わせて上記管部5,6に連通した軸7を具備している。図に示す実施例において、該軸7の基端は下羽根2の管部6に図示を省略した溶接、圧入、ピン等で固定され、先端が管部6から上方に突出し、この突出部に上羽根1の管部5が回転可能に挿入され、軸7を回転中心として羽根が回動する。
【0012】
上記下羽根2の板部4には、枠側に取り付けるための取付孔8が形成され、上羽根1の板部3には扉側に取り付けるための取付孔9が形成され、各羽根1,2の管部端には儀星10が嵌着され、管部内が密閉されている。なお、上記各羽根1,2や軸7は金属材料で構成されるが、各羽根をステンレススチール材料やスチール材料で塑性加工する場合には、図3、図4に示すように管部と板部の間隙からダストが逸散しないよう間隙部分を溶接、ロー付け、半田付け、或いは接着剤等の閉鎖部材11で塞いでおく。アルミニウム材料で押出成形する場合にはそのような間隙が生じないので、その必要はない。
【0013】
上記上羽根1と下羽根2の上下に対向する管部5、6の端面にはそれぞれ合成樹脂製の上軸受12と下軸受13が密着状態で設けられ、各軸受12,13は摺接状態で当接している。該合成樹脂材料としては、耐摩耗性のある機械的強度の高い適宜の材料が選択される。上軸受12の上面14及び下軸受13の下面15は扉の荷重により各管部5,6の端面に密着しているが、接着剤で接着してもよい。
【0014】
図5〜図8を参照し、下軸受13は、中央に挿通孔16を有する略円筒状に形成され、上記軸7に軽圧入による嵌合若しくは接着される内周面17を有し、この内周面17の上部には面取り等により形成される切欠き部18を設けてある。この切欠き部は上方に開口し、通常の面取り加工よりも大きく形成するのが好ましい。下軸受13の上面には摺接面19が形成され、下面15は上述したように管部6に圧着若しくは接着される。また、外周面20の外側には、受溝部21を形成するよう外周面20との間に間隙を存して上方に起立する外周壁22が設けられ、該外周壁22の下方には上記下羽根2の管部6に沿って延びる嵌合壁23が形成されている。この外周壁22の内面面24と上記上羽根1の管部5の外周面間には、両者が接触しない程度の間隔が設けられている。
【0015】
上記上軸受12は、中央に挿通孔25を有する略円板状に形成され、上記軸7に回転可能に摺接する内周面26を有し、下面には上記下軸受13の摺接面19と摺接する摺接面27が形成され、上面14は上述したように管部5に圧着若しくは接着される。また、上軸受12の外周面28には、上記下軸受13の受溝部21に先端が入り込み上記下軸受13と上軸受12の摺接面19,27を越えて下軸受13の外周面20に沿って下方に延びる被覆壁29が一連に形成されている。該被覆壁29の先端は上記受溝部21の底部に接触しない長さである。なお、該被覆壁29の内周面30は上記下軸受13の外周面20に接触していてもいいし、該外周面20との間に隙間があってもよい。また、該被覆壁29の外周面31と上記下軸受13の外周壁22の内面面24との間には、両者が接触しない程度の間隔が形成されている。
【0016】
上記の構成により上羽根1の管部5と軸7との回動による摩耗粉は、上羽根1の管部5の嵌合隙間から下方に落下する。一方、上軸受12の上面14は上羽根1の管部5の下端面との間で扉の荷重を受けて密着しており、内周面26は軸7の外周面に回動自在に摺動するよう嵌合している。したがって、上方から落下した摩耗粉は一部が上軸受12の内周面26と軸7の外周面の間から下軸受13と軸7の間に落ち込み、上記切欠き部18により形成された空所(凹部)32に溜まる。
【0017】
上記上軸受12の下面の摺接面27と上記下軸受13の上面の摺接面19は扉の荷重を受けた状態で回動するため密着しているが、この間で発生する摩耗粉は軸受12,13の内周面および外周面方向に徐徐に排出され、内周面方向に向かった摩耗粉は上記空所(凹部)32に溜まり、外周面方向に向かった摩耗粉は上記被覆壁29により直接外方に拡散することなく、該被覆壁29の内周面30と下軸受13の外周面20の間を通って上記受溝部21の下方に溜まり、外部に飛散することはない。このようにして、上記丁番は二段階にダストを捕捉するように構成されているので、ダストの飛散が確実に防止され、安心して使用することができる。
【0018】
上記実施例は軸7の太さが一様であったが、管部内周面に嵌合する大径部33と管部内周面から離れている小径部34に形成してもよい。図9はそのような実施例を示し、軸7の大径部33は下羽根2の管部6に固定され、小径部34は上方に突出している。上記上軸受12および下軸受13の内周面には上記小径部34と管部内周面間に嵌合する内方筒部35,36が形成されている。このような構成によれば、軸7と管部5,6間の摺動部が少なくなるので、摩耗粉の発生を少なくすることができる。
【0019】
図10は、他の実施例を示している。図において上軸受12は上記実施例と同じであるが、下軸受13の外周壁22と上羽根1の管部5の関係が相違している。すなわち、上記上羽根1の管部外周に環状の凹部37を設け、外周壁22の先端に該環状凹部37に向かって非接触状態で近接する突縁38を形成している。このように構成すると、外周壁22の先端突縁38と環状凹部37により受溝部21内に溜まったダストの外部への流出が一層妨げられ、効果的である。また、この実施例においても、図11に示すように軸7を大径部33と小径部34に形成してもよい。さらに、摩耗粉の発生が比較的少ない場合等には、図12に示すように、上記下軸受13の被覆壁29を省略して先端突縁38と環状凹部37により拡散を防止するようにすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例を示す丁番の正面図。
【図2】図1の平面図。
【図3】羽根の平面図。
【図4】羽根の一部の正面図。
【図5】管部に沿った断面図を示し、Aは縦断面図、BはA図のB部拡大断面図。
【図6】下軸受を示し、Aは断面図、Bは底面図。
【図7】上軸受を示しAは断面図、Bは底面図。
【図8】下軸受と上軸受を組み合わせた状態に断面図。
【図9】他の実施例を示す断面図。
【図10】さらに他の実施例を示す断面図。
【図11】さらに他の実施例を示す断面図。
【図12】さらに他の実施例を示す断面図。
【符号の説明】
【0021】
1 上羽根
2 下羽根
5,6 管部
7 軸
10 儀星
12 上軸受
13 下軸受
19、27 摺動面
21 受溝部
22 外周壁
23 嵌合壁
29 被覆壁
32 空所(凹部)
33 大径部
34 小径部
35,36 内方筒部
37 環状凹部
38 突縁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端縁に管部を形成した一対の羽根と、上下に組み合わせた各羽根の管部に連通する軸を有し、該軸を回転中心として上記羽根が回動するようにした丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を設けて軸との間に空所を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上軸受の外周面に上記下軸受の受溝部に入り込み該下軸受と上軸受の摺接面を越えて下軸受の外周面に沿って下方に延びる被覆壁を設けたクリーンルーム用丁番。
【請求項2】
上記軸は下羽根の管部に固定され、上羽根と下羽根の管部端には儀星が嵌着され、上軸受は内周面が回転可能に上記軸に摺接していることを特徴とする請求項1に記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項3】
上記被覆壁の先端は上記受溝部の底部に接していない請求項1または2に記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項4】
上記外周壁の下方には下羽根の管部に沿って下方に延びる嵌合壁が形成されている請求項1から3のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項5】
上記上羽根の管部外周には環状の凹部が形成され、外周壁の先端には該環状凹部に向かって非接触状態で近接する突縁が形成されている請求項1から4のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項6】
上記軸は管部内周面に嵌合する大径部と管部内周面から離れている小径部に形成され、上記上軸受および下軸受の内周面には上記小径部と管部内周面間に嵌合する内方筒部が形成されている請求項1から5のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項7】
端縁に管部を形成した一対の羽根と、上下に組み合わせた各羽根の管部に連通する軸を有し、該軸を回転中心として上記羽根が回動するようにした丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上記上羽根の管部外周に環状の凹部を設け、上記外周壁の先端に該環状凹部に向かって非接触状態で近接する突縁を形成したことを特徴とするクリーンルーム用丁番。
【請求項8】
上記請求項1から7のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番を具備する扉装置。
【請求項1】
端縁に管部を形成した一対の羽根と、上下に組み合わせた各羽根の管部に連通する軸を有し、該軸を回転中心として上記羽根が回動するようにした丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を設けて軸との間に空所を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上軸受の外周面に上記下軸受の受溝部に入り込み該下軸受と上軸受の摺接面を越えて下軸受の外周面に沿って下方に延びる被覆壁を設けたクリーンルーム用丁番。
【請求項2】
上記軸は下羽根の管部に固定され、上羽根と下羽根の管部端には儀星が嵌着され、上軸受は内周面が回転可能に上記軸に摺接していることを特徴とする請求項1に記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項3】
上記被覆壁の先端は上記受溝部の底部に接していない請求項1または2に記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項4】
上記外周壁の下方には下羽根の管部に沿って下方に延びる嵌合壁が形成されている請求項1から3のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項5】
上記上羽根の管部外周には環状の凹部が形成され、外周壁の先端には該環状凹部に向かって非接触状態で近接する突縁が形成されている請求項1から4のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項6】
上記軸は管部内周面に嵌合する大径部と管部内周面から離れている小径部に形成され、上記上軸受および下軸受の内周面には上記小径部と管部内周面間に嵌合する内方筒部が形成されている請求項1から5のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番。
【請求項7】
端縁に管部を形成した一対の羽根と、上下に組み合わせた各羽根の管部に連通する軸を有し、該軸を回転中心として上記羽根が回動するようにした丁番において、上記各羽根の対向する管部の端面に合成樹脂製の上軸受と下軸受を密着して設け、各軸受を摺接状態で当接し、下軸受の内周面の上部に切欠き部を形成するとともに下軸受の外周面の外側に受溝部を形成するよう外周部との間に間隙を存して上方に起立する外周壁を形成し、上記上羽根の管部外周に環状の凹部を設け、上記外周壁の先端に該環状凹部に向かって非接触状態で近接する突縁を形成したことを特徴とするクリーンルーム用丁番。
【請求項8】
上記請求項1から7のいずれかに記載のクリーンルーム用丁番を具備する扉装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−126878(P2010−126878A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298999(P2008−298999)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(501433619)中西産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(501433619)中西産業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】
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