説明

クリーン環境用アクチュエータ

【課題】本発明は,高剛性で軽量であって高速,高加減速の作動にも対応可能で高精度に位置決め可能で,断面高さが小さいコンパクトな構造に構成する。
【解決手段】本発明のクリーン環境用アクチュエータは,ベッド5とスライダ3とを筐体1で覆い,ベッド5の側壁33に形成されたTスロット29にパッキン30を挿入して装着してベッド5とサイドカバー3との隙間を密閉する。筐体1は,ベッド5の両端面を覆うエンドブラケット9とモータブラケット10,ベッドの両側面と上面とを覆う一対のサイドカバー3,サイドカバー3間の開口部を覆うシールプレート4,及びシールプレート4の両側面から突出して露出したテーブル6とスライダ2に掛かるシールプレート4の部分とを上方から覆うテーブルカバー7から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,クリーンルーム等のクリーン環境下で適用可能になるように,長尺状のベッドを密閉部材で構成された筐体で密閉し,スライダに一体構造に設けたテーブルを駆動装置によってベッドの長手方向に沿って移動自在に位置決めできるテーブル装置を構成するクリーン環境用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,アクチュエータは,ワークを直線上に駆動案内し,組立装置,測定装置,機械装置,産業ロボット,半導体製造装置等の各種装置に広範囲に利用されている。近年,クリーンルーム等のクリーン環境下で使用されるアクチュエータとしては,上記のような各種装置に使用され,益々,電子機器等の小型化,高機能化が促進されるのに伴って,高速,高加減速な作動であっても高いクリーン度クラスが要望されると共に,高精度で,コンパクトであって軽量なものが要望されている。
【0003】
本出願人は,上記のようなアクチュエータとして,断面U字形状で成る長尺状のフレーム及び前記フレーム内の長手方向に沿って摺動自在なスライダを押出成形による軽合金で形成し,転動体が転走する部分には引抜加工されたスチール部材の軌道部材をそれぞれに嵌着し,軽量で,断面高さが小さく,コンパクトな構造のものを開発し,先に特許出願した。該アクチュエータは,フレームとスライダ本体を軽合金の押出加工で成形し,フレームにおける軌道部材の固着を簡潔な構造に構成し,フレームとスライダ本体との間に上面シールを配設し,フレームの側壁には,T字形状の溝が設けられている。また,該アクチュエータは,両側壁に軌道部材を配設したアリ溝形状の軌道部材溝と舌部が形成された断面U字形状の長尺状のフレーム,軌道部材を配設した矩形形状の軌道部材溝が形成されたスライダ,及びフレームに対してスライダを移動自在に駆動する駆動装置を有するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
従来,アクチュエータとして,開口部を備えたハウジングと,該ハウジングに対して開口部に沿って移動可能なスライダと,開口部を閉塞するシールプレートから構成されたものは知られている。該アクチュエータは,内部に発生した塵埃を外部へ流出させ,内部に塵埃が流入するのを防止したものであり,塵埃の流入又は流出を防止可能に構成されており,スライダによるポンピング現象を防止するため,ハウジング自体内にスライダの移動方向に沿って延びる中空部を形成すると共に,その中空部と任意の位置でのスライダ前後の空間とを連通可能にするため,前記中空部を造るハウジングの内壁面に多数の連通孔を形成したものである(例えば,特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−138981号公報
【特許文献2】特開2000−197304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記特許文献1に開示されているアクチュエータは,文献の図1に示されるように,フレームの周囲が開放されており,スライダを動作することで生じる塵埃が周囲に拡散してしまうので,クリーン環境下では使用づらいものに成っていた。また,上記特許文献2に開示されているアクチュエータは,文献の図5に示されるように,装置全体の容積が大きくなってしまい,内部空気を吸引する吸引量が多くなり,近年におけるスライダが高速,高加減速に作動する各種装置に対して,高いクリーン度クラスを実現することが難しいものに成っていた。
【0007】
そこで,本出願人は,特許文献2に開示されているアクチュエータに比較して,更に高いクリーン度クラス(クラス3)を実現することができたクリーン環境用アクチュエータを開発することに成功したものである。本出願人によるクリーンルーム内で使用されるアクチュエータは,アクチュエータの動作により発生した塵埃をクリーンルーム内に放出しないように,アクチュエータ内部の空気を吸引してクリーンルームの外部へ放出することが可能になったものである。
【0008】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,特許文献1に開示したアクチュエータを踏襲したものであり,スライダの高速,高加減速な作動にも対応可能であり,アクチュエータそのものを軽量に構成し,断面高さを低く構成し,コンパクトな構造の本体部分である断面U字形状のベッドの周囲を密閉性の富んだ筐体で覆って,更に,筐体の外側にセンサを配設して筐体内部をコンパクトにベッド内部空間を小さく構成し,ベッドに対する筐体の密閉性を高めて内部空間を少ない吸引量で済むように構成し,吸引口を効率的な吸引配置位置に形成してより高いクリーン度クラスを実現したことを特徴とするクリーン環境用アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は,底板と該底板の両側から長手方向に沿って立設された一対の側壁とによって断面U字形状に形成された長尺状のベッド,前記ベッドの前記側壁間の前記長手方向に沿って転動体を介して移動可能なスライダ,前記ベッドに対して前記スライダを移動可能に駆動する駆動装置,少なくとも前記ベッドの両端面と両側面と上面とを覆う筐体,及び前記スライダと一体構造に形成されて前記筐体の上面側から露出する取付面を備えたテーブルから成るクリーン環境用アクチュエータにおいて,
前記筐体は,前記ベッドの一端面を覆うエンドブラケット,前記ベッドの他端面を覆うモータブラケット,前記ベッドの前記両側面と前記両側面側の前記上面とを前記ベッドの両側からそれぞれ覆う一対のサイドカバー,前記ベッドの前記上面である前記サイドカバー間の開口部を覆うシールプレート,及び前記スライダの上面部分に掛かる前記シールプレートの部分と前記シールプレートの両側面から突出した前記テーブルとを上方から覆うテーブルカバーから構成されており,
前記ベッドのそれぞれの前記側壁に前記長手方向に沿って形成された取付溝を構成するTスロットに全長に渡って嵌挿されたパッキンを備え,前記パッキンは前記ベッドの前記側面を覆う前記サイドカバーに密接して前記ベッドと前記サイドカバーとの間の隙間を密閉することを特徴とするクリーン環境用アクチュエータに関する。
【0010】
また,前記パッキンは,前記取付溝内に配設された本体部,前記Tスロットを形成するフランジ部に係止する前記本体部から突出した係止部,前記Tスロットの底部に当接する前記本体部から突出した基底リップ,及び前記Tスロットを形成する開口部から突出して前記サイドカバーに密接する前記本体部から突出した封止リップから構成されている。
【0011】
また,前記サイドカバーは,前記ベッドの前記側面に密接する側板部と前記側板部から延びて前記側板部に直交して前記ベッドの前記上面に掛けて延びる上板部とで断面L字形状に形成されており,前記サイドカバーの前記L字形状の角部には,前記側板部から前記ベッドの前記側壁上を内方へと入り込んだ形状に形成されたTスロットで成るセンサ取付溝が設けられ,前記センサ取付溝を形成する下面部分は前記ベッドの前記側壁の上面に設置される肩部に形成されている。
【0012】
また,密閉された前記筐体内の内部空間を前記スライダが前記ベッド上を移動する際に生じるポンピング現象を防止するため,前記スライダには,前記テーブル寄りの前記スライダの上部の端面間を貫通する通気孔が形成されている。
【0013】
また,前記駆動装置は,モータ,及び前記モータで回転駆動され且つ前記ベッド内で前記エンドブラッケットと前記モータブラケットとで軸受を介して回転自在に軸端がそれぞれ支持されたボールねじ軸と前記ボールねじ軸に螺合して前記スライダに取り付けられたボールねじナットとから成るボールねじから構成されており,前記エンドブラケットと前記モータブラケットには,塵埃が発生し易い場所である前記ボールねじ軸の前記軸端の近辺に,前記筐体の内部の空気を吸引するための吸引口が一対ずつ形成されている。
【発明の効果】
【0014】
この発明によるクリーン環境用アクチュエータは,上記のように構成されているので,断面U字形状のベッドとベッド内の長手方向に沿って転動体を介して摺動自在なスライダとから成るアクチュエータを基本的構成にしているので,剛性があり,高精度に位置決め可能であり,スライダの高速,高加減速の作動にも対応可能で成り,軽量であって断面高さが低く構成でき,コンパクトな構造に構成されている。また,このクリーン環境用アクチュエータは,ベッドを覆う筐体を密閉部材で構成して密閉性を高めた構成,特に,ベッドの側壁に従来備えていたTスロットにパッキンを挿入して装着してベッドとサイドカバーとの隙間を確実に密閉すると共に,ベッドとスライダとを簡素な筐体で覆ってセンサを筐体の外側に配設しているので,ベッド内をスライダが摺動移動する筐体内の総容積を小さく構成でき,塵埃等を含んだ内部空気を少ない吸引量で吸引して浄化でき,高いクリーン度クラスを実現することができる。また,このクリーン環境用アクチュエータは,サイドカバーにベッド上方の筐体内部に入り込む状態でTスロットのセンサ取付溝を設けたので,若干でも筐体容積を小さくでき,新たにセンサレールを設ける必要も無く,サイドカバーにベッドの側壁上面に設置される肩部が形成されているので,サイドカバーがベッドの側壁の上面に配置し易くなり,塵埃等を含んだ内部空気が少ない吸引量で浄化された高いクリーン度クラスを実現可能にしている。更に,このクリーン環境用アクチュエータは,スライダの上部に通気孔を形成するだけで,スライダの摺動移動がスムーズであって内部空気が圧縮されずシールプレートから圧縮空気が漏れ出ることが防止され,塵埃等を含んだ内部空気が少ない吸引量で浄化され,高いクリーン度クラスを実現可能にしている。また,このクリーン環境用アクチュエータは,エンドブラケット及びモータブラケットに一対の吸引口を設けるだけで,筐体内部の塵埃を効率良くクリーンルームの外に排出可能に成り,塵埃等を含んだ内部空気が少ない吸引量で浄化され,高いクリーン度クラスを実現可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明によるクリーン環境用アクチュエータの一実施例を示す平面図である。
【図2】図1のクリーン環境用アクチュエータを示す正面図である。
【図3】図2のクリーン環境用アクチュエータにセンサが配設された状態を含めて示す側面図である。
【図4】図1のクリーン環境用アクチュエータのA−A位置で断面して,テーブルからテーブルカバー等を取り外し,センサが配設された状態で示すA−A断面図である。
【図5】図1のクリーン環境用アクチュエータのB−B位置でテーブルの部分を断面して,手前のサイドカバーを取り外した状態を含めて示すB−B断面図である。
【図6】図1のクリーン環境用アクチュエータのテーブルの部分を示し,テーブルカバー及びシールプレートを取り外し,ガイドローラの軸受部分を一部断面した状態を含む平面図である。
【図7】このクリーン環境用アクチュエータにおけるスライダを構成するケーシングを示す端面図である。
【図8】図4のクリーン環境用アクチュエータのC部を拡大して示す拡大図である。
【図9】図4のクリーン環境用アクチュエータに配設されるパッキンを断面して示す断面図である。
【図10】図1のクリーン環境用アクチュエータに配設される一対のサイドカバーのうち一方のサイドカバーを示す側面図である。
【図11】図10のサイドカバーを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面を参照して,この発明によるクリーン環境用アクチュエータの実施例を説明する。この発明によるクリーン環境用アクチュエータは,本出願人が先に開発した特許文献1に開示されたアクチュエータである精密位置決めテーブルを基にして,特に,アクチュエータの周囲を種々のカバー等の密閉部材で構成した筐体1で覆ってクリーン環境用に適用できる構造に構成したものである。このクリーン環境用アクチュエータは,クリーンルーム等のクリーン環境下で適用可能になるように,長尺状のベッド1を密閉部材で構成された筐体1で密閉し,筐体1の外部から内部へ又は内部から外部への塵埃の出入を防止し,筐体1外へ突出して露出した取付面14を備えたテーブル6をモータ8等によってベッド5の長手方向に沿って移動自在に位置決めできるテーブル装置を構成したものである。筐体1は,本体部分である断面U字形状のベッド5に対して,ベッド5の一端面を覆うエンドブラケット9,ベッド5の他端面を覆うモータブラケット10,ベッド5の両側面と該両側面側の上面とをそれぞれに覆う一対のサイドカバー3,ベッド5の上面であるサイドカバー3間の開口部を覆うシールプレート4,及びベッド5に対して摺動自在なスライダ2の上面部分に掛かるシールプレート4の両側面から突出して露出したテーブル6とスライダ2の上面部分に掛かるシールプレート4の部分とを上方から覆うテーブルカバー7から構成されている。サイドカバー3は,両端部に形成された取付け用孔58(図11)にねじ13を通してサイドカバー3の両端がエンドブラケット9とモータブラケット10とにそれぞれ固定されている(図2)。サイドカバー3は,特に,ベッド5に対して中央部が固定されていないので,両者の間の隙間を密閉するため,後述のパッキン30が配設されている。
【0017】
このクリーン環境用アクチュエータは,クリーン環境に適用されて,高いクリーン度クラスの要望(課題)に応えたものであり,断面U字形状のベッド5とベッド5を種々のカバー等で覆った筐体1の内部をコンパクトに内部空間を小さく構成し,筐体1の密封性を高めて,筐体1内を浄化するため少ない吸引量とし,効率的な吸引配置により,高いクリーン度クラス(クラス3)を実現したものに成っている。このクリーン環境用アクチュエータは,図4に示すように,底壁である底板34と底板34の両側から立設された一対の側壁33とによって断面U字形状に形成された長尺状のベッド5,ベッド5の一対の側壁33間の長手方向に沿って転動体を介して移動可能なスライダ2,及びベッド5に対してスライダ2を移動自在に駆動する駆動装置であるモータ8を基本構成にしており,図1〜図4に示すように,ベッド5の両端面と両側面と上面とを密閉部材で成る筐体1で覆ったものである。ベッド5の一対の側壁33には,転動体が転走する軌道溝を形成する軌道部材40を配置する取付け用溝39が形成されている。このアクチュエータでは,ベッド5に配設した軌道部材40,及びケーシング60に配設した軌道部材61については,本出願人が先に出願した特許文献1に開示されているものを適用できるものであるので,ここでは詳細な説明を省略する。
【0018】
スライダ2は,ケーシング60,ケーシング60の長手方向の両端面に取り付けられたエンドキャップ43(図6),エンドキャップ43の端面に取り付けられ且つ給油口38を備えたエンドシール37から構成されている。スライダ2を構成するケーシング60には,図7に示すように,中央にボールねじ軸36を嵌挿する通し孔64,通し孔64の斜め上方に一対の通気孔27,通し孔64の斜め下方に一対のリターン路孔62,及びベッド5の軌道部材40に対応した位置の両側面に軌道溝を構成する軌道部材61を配設する長手方向に延びる配置溝65が形成されている。更に,ケーシング3は,その上部に形成された首部59と首部59の上面部分41から両側方に延びる連結部28とを介して一体構造に構成された一対のフランジで成るテーブル6を備えている。即ち,テーブル6は,ケーシング3の本体の摺動方向(長手方向)の両側にそれぞれ形成された一対のフランジ部で構成されている。テーブル6は,一体構造に形成された連結部28をサイドカバー3とガイドローラ31で持ち上がったシールプレート4との間を通して突出させ,ケーシング本体の両側の上方に位置するように構成されている。テーブル6の上面は,筐体1のテーブルカバー7から露出(表出)させてワーク等の他部材を取り付けるための取付面14,及び取付面14より低い面になるテーブルカバー7を取り付けるためのカバー取付面23に構成されている。従って,テーブルカバー7は,取付面14を除いてテーブル6の上面のカバー取付面23と,テーブル6を構成するフランジ部の側面を密閉している。
【0019】
このクリーン環境用アクチュエータについて,第1の特徴的要件である筐体1の密閉性を高めた構造は,サイドカバー3はその両端がエンドブラケット9とモータブラケット10との側面にねじ13でそれぞれ固定された構造であるので,ベッド3の側壁33とサイドカバー3の側板部55との間を密閉するために,ベッド5とサイドカバー3との間にゴム製等の弾性部材でなるパッキン30を配設して相互間の隙間を密閉したことであり,従来のベッドの側壁に長手方向に形成されたTスロットでなるセンサ取付溝を利用したものであり,その取付溝に適合し且つベッド5とサイドカバー3との相互にフィット可能な断面形状に形成されているパッキン30を取付溝であるTスロット29の略全長に渡り装着したものに成っている。
【0020】
また,このクリーン環境用アクチュエータについて,第2の特徴的要件である筐体1の内部空間を小さくした構造は,サイドカバー3にTスロット状のセンサ取付溝20を設けると共に,センサ取付溝20を筐体1の内部側へ入り込んだ状態に周囲壁を構成したものであり,従来のようにセンサをベッドに配設することなく,センサ22をサイドカバー3のセンサ取付溝20に配設したので,筐体1の内部空間を小さく構成でき,また,センサ取付溝20の周囲壁の下部部分67である肩部49をベッド5の側壁33の上面42に当接可能な載置面に形成することによって,サイドカバー3が側壁33の上面に位置決めされ,設置し易いものに構成されている。センサ取付溝20には,センサ22が配設され,センサ22は,テーブル6の側面に配設されている遮蔽板21で遮蔽されている。
【0021】
また,このクリーン環境用アクチュエータについて,第3の特徴的要件は,内部空間が小さい筐体1内をベッド5の長手方向に沿ってスライダ2が高速,高加減速に摺動する時に生じるポンピング現象,例えば,スライダ2の進行側の空間が圧縮され且つその圧縮された空気がベッド5の上面を覆うシールプレート4を押し退けて漏れ出る現象を防ぐために,スライダ2の端面間を貫通して通気孔27を形成したものであり,通気孔27はシールプレート4寄りのスライダ2,詳しくは,スライダ2を構成するケーシング60の上部に形成されている。また,効率的な吸引配置としては,塵埃が発生し易い場所であるボールねじを構成するボールねじ軸36の支持部,即ち,ボールねじ軸36の軸端の軸受部の近辺におけるエンドブラケット9に一対の吸引口25を形成し,更に,モータブラケット10では,ボールねじ軸36の軸端の軸受部が形成された端面部分に本体部に連通する一対の連通孔(図示せず)が形成されており,端面部分に続くモータ8とボールねじ軸36とを連結するカップリング部を収容するカップリング収容部16の両側壁部に上記連通孔に通じる吸引口15を形成したものである。また,このクリーン環境用アクチュエータでは,ベッド5,スライダ2及びテーブル6は,主として,高強度アルミニウム合金製に構成され,軽量に構成されており,取り扱い易い材料で構成されている。
【0022】
両側のテーブル6の上面は,筐体1から露出したワーク等を取り付けるための取付面14に形成されており,取付面14には,一対の取付け用ねじ孔17が形成されている。ベッド5の下面は,ベース等へ取り付けるための取付面18に形成されており,取付面18には,所定間隔を有して長手方向に沿って複数の取付け用ねじ孔19が形成されている。このクリーン環境用アクチュエータにおいて,ベッド5,スライダ2,スライダ2と一体構造のテーブル6,エンドブラケット9,モータブラケット10,及び一対のサイドカバー3は,押出成形等による軽合金,例えば,高強度アルミニウム合金で形成されている。また,このクリーン環境用アクチュエータは,本出願人に係る特開2010−138981号公報に開示されているように,ベッド5及びスライダ2の転動体が転走する部分には,長手方向に沿って引抜加工されたスチール部材の軌道部材40,61がそれぞれに嵌着されて構成されている。従って,このクリーン環境用アクチュエータは,軌道部材を除く部分が軽量な材料で構成されているので軽量であって,断面高さが低く構成でき,コンパクトな構造に構成でき,剛性があり,高精度に位置決め可能で高速・高加減速な作動にも対応可能に構成されている。
【0023】
このクリーン環境用アクチュエータにおいて,ベッド5に対してスライダ2を位置決め自在に移動させる駆動装置は,筐体1内に配設されており,両軸端をエンドブラッケット9とモータブラケット10とで軸受(図示せず)を介して回転自在に支持されたボールねじ軸36とボールねじ軸36に螺合し且つスライダ2の端部にねじ44で取り付けられたたボールねじナット35とから成るボールねじ,及びボールねじ軸36を回転駆動するモータブラケット10に配設されたモータ8から構成されている。
【0024】
エンドブラケット9は,ベッド5の一方の端面にねじ13で固着されている。筐体1内の内側端面には,全幅の中心位置にボールねじ軸36を支持した軸受(図示せず)が嵌着されている。エンドブラケット9には,塵埃発生源となる上記軸受に隣接する両側において,筐体1内の塵埃を含んだ空気を吸引排出して空気を吸引する一対の吸引口25が形成されている。一対の吸引口25は,管継ぎ手用ねじ孔に形成されており,例えば,管継ぎ手用ねじ孔には,塵埃含有空気を浄化するフイルタ等の浄化装置に接続された吸引管(図示せず)が接続され,不使用側の吸引口25の管継ぎ手用ねじ孔には,密閉のため止めプラグ(図示せず)が装着されて閉鎖されており,上記吸引管へ吸引された汚染空気は,浄化装置で浄化処理される。
【0025】
モータブラケット10は,エンドブラケット9とは反対側のベッド端面にねじ13で固着されている。筐体1内の内側端面には,全幅の中心位置にボールねじ軸36を支持した軸受(図示せず)が嵌着されている。モータブラケット10は,その内側端面から外側に長手方向に延びてカップリング収容部16が形成され,カップリング収容部16の外側端面にモータアタッチメント11が取り付けられている。外側端面のモータアタッチメント11には,モータ8が配設されている。カップリング収容部16は,内側端面から貫通して突出したボールねじ軸36の軸端と外側端面を貫通して突出したモータ軸(図示せず)とを連結してなるカップリングを収容するための部屋に構成されて密閉されている。
【0026】
モータブラケット10には,内側端面の軸受に隣接する両側に一対の連通孔(図示なし)がカップリング収容部16に貫通した状態で形成されており,それらの連通孔に続き,カップリング収容部16の両側壁部に吸引口15がそれぞれ形成されている。吸引口15から筐体1の内部及びカップリング収容部16の空気を排出することができるように構成されている。一対の吸引口15は,エンドブラケット9に形成した吸引口25と同様に,管継ぎ手用ねじ孔に形成されており,例えば,管継ぎ手用ねじ孔には,塵埃含有空気を浄化するフイルタ等の浄化装置に接続された吸引管(図示せず)が接続され,不使用側の吸引口15に形成された管継ぎ手用ねじ孔には,密閉のため止めプラグ(図示せず)が装着されて閉鎖されている。
【0027】
一対のサイドカバー3は,ベッド5の側方両側に長手方向に沿って延び,ベッド5の全長に渡って,ベッド5のそれぞれの側面から上面の一部に掛けて覆う一対の密閉部材に構成され,サイドカバー3の一端部はエンドブラケット9にねじ13で固着され,他端部はモータブラケット10にねじ13で固着されている。サイドカバー3は,特に,図4,図10,及び図11に示すように,ベッド5の側面に長手方向に沿って当接する側板部55と,側板部55から直交して延びてベッド5の側面側の上面42に掛けて延びる上板部56とによって断面略L字形状に形成されいる。また,サイドカバー3は,断面L字形状の角部に当たる側板部55に側板部55の外側面24から内方へ入り込んだ状態にTスロットで成るセンサ取付溝20が形成され,センサ取付溝20を形作る内部の周囲壁の下面部分がベッド5の側壁33の上面42に設置当接可能な肩部49に形成されている。言い換えれば,Tスロットで成るセンサ取付溝20は,サイドカバー3の断面L字形状の角部において側板部55からベッド5の側壁33上を内方へと入り込んだ形状に形成されて,肩部49がベッド5の側壁33上に設置されている。また,サイドカバー3の上板部56の長手方向に延びる側端部57には,ベッド5の上面42を覆うシールプレート4をサイドカバー3に吸着して境界部を密閉するため,ベッド5の上面42で互いに対向して長手方向に沿って延びるマグネットシート26を配設できるように,長手方向に沿って延びる凹部から成るマグネットシート配設部54が形成されている。
【0028】
シールプレート4は,ベッド5の上面42に配設されたサイドカバー3の上板部56間を長手方向に沿って覆っており,シールプレート4の両端がエンドブラッケット9及びモータブラケット10の上面に固定板12を当ててねじ13で固定されている。シールプレート4は,マグネットシート26のマグネットに吸着可能なステンレス製の薄板に構成され,サイドカバー3にマグネットシート26を介して吸着されている。シールプレート4は,図5及び図6に示すように,スライダ2を構成するケーシング60及びケーシング60と一体構造のテーブル6との部分では,ガイドローラ31にガイドされてテーブル6間でケーシング60の上方へガイドされている。即ち,ケーシング60に一体構造でケーシング60の首部59の上面部分41から延びる連結部28は,シールプレート4とサイドカバー3との間から外側へ突出しており,突出した連結部28から上方へ延びるフランジ部から成るテーブル6が形成されている。従って,テーブル6は,シールプレート4の両側に長手方向に延びて,シールプレート4の両側から露出したフランジ部から成るテーブル6に構成されている。テーブル6を構成するフランジ部の上面には,ワーク等の他部品を取り付ける取付面14が形成される。シールプレート4は,テーブル6のフランジ部間に設けられたガイドローラ31に案内され,サイドカバー3の上面から浮き上がって,ケーシング60の上面部分41の上方に沿って延び,再びサイドカバー3の上面へ当接して戻る状態にスライダ2の摺動移動に伴って上記状態が繰り返される。
【0029】
テーブルカバー7は,フランジ部から成るテーブル6のワーク取付面14が露出させた状態で,テーブル6の上面部分に掛かるシールプレート4の部分を上部から覆うと共に,シールプレート4がサイドカバー3の上面から浮き上がった隙間を覆うように,テーブル6の周囲を覆い,テーブル6にねじ固定されている。また,テーブル6を構成するフランジ部の対向する内側面間には,ガイドローラ31,32が配設されている。ガイドローラ31,32は,図6に示されるように,フランジ部に形成された取付け孔に配設された軸受45を介して,シールプレート4を案内するように回転自在に配置されている。即ち,ガイドローラ31,32は,テーブル6のフランジ部間に渡って両端が軸受45で回転支持された3本から成り,1本のガイドローラ31はテーブル6の長手方向中央に配設されてシールプレート4の下面をガイドして回転し,2本のガイドローラ32はテーブル6の端部にそれぞれ配設されてシールプレート4の上面を押えてガイドし,摺動方向の上流側ガイドローラ32は,ガイドローラ31によって持ち上がるシールプレート4を押さえて持ち上がりの起点となり,摺動方向の下流側ガイドローラ32は,ガイドローラ31によって持ち上がったシールプレート4を押さえてサイドカバー3上へ戻すようにガイドするようにシールプレート4を回転支持している。また,ガイドローラ31,32は,例えば,樹脂ライニングローラで構成されている。
【0030】
一般に,クリーンルーム内で使用されるアクチュエータは,アクチュエータの動作により発生した塵埃をクリーンルーム内に放出しないように,アクチュエータ内部の空気を吸引してクリーンルームの外部へ放出している。本願発明の特徴的要件に関して,少ない吸引量で高いクリーン度クラスであるクリーン度クラス3を実現可能にした構造に構成されている。以下,このクリーン環境用アクチュエータを高いクリーン度クラスに構成できる特徴を述べる。
【0031】
第1は,筐体1の密封性を高めた構成であり,図4,図5,図8及び図9に示すように,ベッド5とサイドカバー3とに間にパッキン30を配設して相互間の隙間を密閉したものであり,従来のベッドの側壁部に形成されたセンサ取付溝でなるTスロットを利用して,そのTスロットに適合してベッド5とサイドカバー3とに相互にフィット可能な断面形状で成るパッキン30をTスロット29の略全長に渡り装着したものに成っている。パッキン30は,図8及び図9に示すように,弾性変形可能なゴム製等から成り,Tスロット29のフランジ部46に係止するパッキン本体部50の側部から突出して形成された一対の係止部52,Tスロット29の底部48に当接してしっかりと支持可能に本体部下部から二股に突出して形成された一対の基底リップ51,及びTスロット29の開口部47から突出してサイドカバー3に柔軟に当接可能に成る本体部50の上部から二股に突出して形成された封止リップ53から構成されている。従って,パッキン30は,サイドカバー3の両端をエンドブラケット9とモータブラケット10とにねじ固定するだけで,ベッド5とサイドカバー3との隙間を密閉するようになる。
【0032】
第2は,筐体1の内部の内部空間を少しでも小さくした構造であり,サイドカバー3に新たなTスロットで成るセンサ取付溝20を設けると共に,センサ取付溝20を筐体内部へ入り込んだ状態に周囲壁を構成したものに成っている。また,サイドカバー3は,周囲壁の下部部分にベッド5の側壁33の上面に当接可能な当接面になる肩部49を形成したことで,サイドカバー3がベッド5の側壁33の上面に高い精度で位置決め可能で配設し易いものに構成されている。また,サイドカバー3がベッド5の上面に高い精度で位置決めされることによって,サイドカバー3間を密封するシールプレート4の密着性が良好に成っている。
【0033】
第3は,内部空間が小さい筐体1内をベッド5の長手方向に沿ってスライダ2が高速,高加減速に摺動移動するときに生じるポンピング現象,例えば,スライダ2の進行側の空間が圧縮され,その圧縮された空気がベッド5の上面を覆うシールプレート4を押し退けて漏れ出る現象を防ぐために,スライダ2の端面間に渡る通気孔27を形成したものであり,通気孔27はシールプレート4寄りのスライダ2の上部に形成されている。通気孔27は,スライダ2の強度に影響しない形状と大きさに形成され,実施例では,円形孔に形成され,孔径はテスト結果から求められている。通気孔27であればよいものである。
【0034】
第4は,モータブラケット10に形成した吸引口15,及びエンドブラケット9に形成した吸引口25は,その配設位置を塵埃が発生し易い場所,例えば,軸受近傍に近接して配置したものである。即ち,ボールねじの支持部の近辺に成るエンドブラケット9に一対の吸引口25を設け,モータブラケット10のカップリング収容部16の両側壁部に一対の吸引口15を設けたものに成っている。また,モータブラケット10では,ボールねじ軸36の軸端の軸受部が形成された端面部分に筐体1内部に連通する一対の連通孔が形成され(図示無し),端面部分に続くモータ8とボールねじ軸36とを連結するカップリング部を収容する密閉されたカップリング収容部16の両側壁部に連通孔に通じるそれぞれ吸引口15が形成されている。
【0035】
第5は,ベッド5,スライダ2,スライダ2と一体構造のテーブル6,エンドブラケット9,モータブラケット10,及び一対のサイドカバー3が押出成形等による軽合金で形成されており,ベッド5及びスライダ2の転動体が転走する部分が長手方向に沿って引抜加工されたスチール部材の軌道部材40,61がそれぞれに嵌着されて構成されているので,軽量で,断面高さが小さく,コンパクトな構造に構成され,剛性があり高精度に位置決め可能で高速・高加減速な作動にも対応可能に構成されている。また,サイドカバー3にセンサ取付溝20を形成したので,別途センサレールを取り付ける必要がないものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
この発明によるクリーン環境用アクチュエータは,クリーンルーム内の半導体製造装置,液晶製造装置,各種組立装置等の各種の装置における位置決め装置として使用される。
【符号の説明】
【0037】
1 筐体
2 スライダ
3 サイドカバー
4 シールプレート
5 ベッド
6 テーブル
7 テーブルカバー
8 モータ
9 エンドブラケット
10 モータブラケット
14 取付面
15,25 吸引口
20 センサ取付け用溝
27 通気孔
29 Tスロット
30 パッキン
33 側壁
34 底壁
35 ボールねじナット
36 ボールねじ軸
42 上面
49 肩部
50 パッキン本体部
51 基底リップ
52 係止部
53 封止リップ
55 側板部
56 上板
59 首部
60 ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と該底板の両側から長手方向に沿って立設された一対の側壁とによって断面U字形状に形成された長尺状のベッド,前記ベッドの前記側壁間の前記長手方向に沿って転動体を介して移動可能なスライダ,前記ベッドに対して前記スライダを移動可能に駆動する駆動装置,少なくとも前記ベッドの両端面と両側面と上面とを覆う筐体,及び前記スライダと一体構造に形成されて前記筐体の上面側から露出する取付面を備えたテーブルから成るクリーン環境用アクチュエータにおいて,
前記筐体は,前記ベッドの一端面を覆うエンドブラケット,前記ベッドの他端面を覆うモータブラケット,前記ベッドの前記両側面と前記両側面側の前記上面とを前記ベッドの両側からそれぞれ覆う一対のサイドカバー,前記ベッドの前記上面である前記サイドカバー間の開口部を覆うシールプレート,及び前記スライダの上面部分に掛かる前記シールプレートの部分と前記シールプレートの両側面から突出した前記テーブルとを上方から覆うテーブルカバーから構成されており,
前記ベッドのそれぞれの前記側壁に前記長手方向に沿って形成された取付溝を構成するTスロットに全長に渡って嵌挿されたパッキンを備え,前記パッキンは前記ベッドの前記側面を覆う前記サイドカバーに密接して前記ベッドと前記サイドカバーとの間の隙間を密閉することを特徴とするクリーン環境用アクチュエータ。
【請求項2】
前記パッキンは,前記取付溝内に配設された本体部,前記Tスロットを形成するフランジ部に係止する前記本体部から突出した係止部,前記Tスロットの底部に当接する前記本体部から突出した基底リップ,及び前記Tスロットを形成する開口部から突出して前記サイドカバーに密接する前記本体部から突出した封止リップから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のクリーン環境用アクチュエータ。
【請求項3】
前記サイドカバーは,前記ベッドの前記側面に密接する側板部と前記側板部から延びて前記側板部に直交して前記ベッドの前記上面に掛けて延びる上板部とで断面L字形状に形成されており,前記サイドカバーの前記L字形状の角部には,前記側板部から前記ベッドの前記側壁上を内方へと入り込んだ形状に形成されたTスロットで成るセンサ取付溝が設けられ,前記センサ取付溝を形成する下面部分は前記ベッドの前記側壁の上面に設置される肩部に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のクリーン環境用アクチュエータ。
【請求項4】
密閉された前記筐体内の内部空間を前記スライダが前記ベッド上を移動する際に生じるポンピング現象を防止するため,前記スライダには,前記テーブル寄りの前記スライダの上部の端面間を貫通する通気孔が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクリーン環境用アクチュエータ。
【請求項5】
前記駆動装置は,モータ,及び前記モータで回転駆動され且つ前記ベッド内で前記エンドブラッケットと前記モータブラケットとで軸受を介して回転自在に軸端がそれぞれ支持されたボールねじ軸と前記ボールねじ軸に螺合して前記スライダに取り付けられたボールねじナットとから成るボールねじから構成されており,前記エンドブラケットと前記モータブラケットには,塵埃が発生し易い場所である前記ボールねじ軸の前記軸端の近辺に,前記筐体の内部の空気を吸引するための吸引口が一対ずつ形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のクリーン環境用アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−237383(P2012−237383A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106921(P2011−106921)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】