説明

クレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させる方法

【課題】公知のクレアチニンアミドヒドロラーゼの欠点を克服し、より比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼを提供すること。
【解決手段】シュードモナス・プチダ由来クレアチニンアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸を他のアミノ酸に置換することを特徴とするクレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させる方法、比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体、該クレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体をコードする遺伝子、該クレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体の製造法及び該クレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体のクレアチニン測定試薬への種々の適用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クレアチニンアミドヒドロラーゼ(EC 3.5.2.10) は、臨床的に筋疾患、腎疾患の診断の指標となっている。体液中のクレアチニンの測定用酵素として、他の酵素、例えばクレアチンアミジノヒドロラーゼ、ザルコシンオキシダーゼおよびペルオキシダーゼと共に使用されている。クレアチニンアミドヒドロラーゼは、水の存在下にクレアチニンに作用してクレアチンを生成する可逆的反応を触媒する酵素である。
【0003】
このようなクレアチニンアミドヒドロラーゼは、シュードモナス属(非特許文献1)あるいはアルカリゲネス属(非特許文献2)の細菌が生産することが知られている。さらに、これら以外の細菌としては、フラボバクテリウム属、コリネバクテリウム属、マイクロコッカス属(特許文献1)、ペニシリウム属 (特許文献2) 等の細菌が生産することが知られているにすぎない。このうち、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)PS−7が産生するクレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子は既に分離され、アミノ酸配列が公開されている(特許文献3)。
【非特許文献1】Journal of Biochemistry,Vol.86,1109-1117(1979)
【非特許文献2】Chemical and Pharmaceutical Bulletin,Vol.34,No.1,269-274(1986)
【特許文献1】特開昭51−115989号公報
【特許文献2】特開昭47−43281号公報
【特許文献3】特許第2527035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述のような公知のクレアチニンアミドヒドロラーゼを改変し、クレアチニン測定用としてより適した酵素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来、公知の各種菌体から製造されたクレアチニンアミドヒドロラーゼは臨床検査薬用酵素としてはクレアチニンに対するKm値が大きく、試薬組成中に大量の酵素を添加する必要があった。例えばアルカリゲネス・フェカリスTE3581由来の酵素(特許文献4)は、クレアチニンに対するKm値は約42mMであることが報告されている。さらにアースロバクター・エスピーTE1826由来の酵素は、クレアチニンに対するKm値は約66mMと大きかった(特許文献5)。
【特許文献4】特開平9−154574号公報
【特許文献5】特開平10−215874号公報
【0006】
そこで、本発明者らはシュードモナス・プチダ(PS−7)株由来クレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子を用い、蛋白質工学的手法によりKm値が低い改変体(179位のグリシンを種々のアミノ酸に置換した改変体)を創出した(特願2006−303451)。
しかし、これらの改変体は比活性が低く、臨床診断薬中では高濃度のタンパク質を添加しなければならないという欠点があった。そこで、本発明者らはさらに、これらの改変体の比活性を向上させる方法を検討した。
その結果、本発明者らは、改変体を基にさらに43位のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することにより、比活性が向上した改変体を創出することに成功した。
【0007】
また、上記とは別に、本発明者らは、Km値が低い改変体、中でも、179位のグリシンをセリンに置換した改変体に、さらに175位のアミノ酸置換を行うことでキレート剤耐性が向上することを見出し、この2重変異体にさらに43位のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することにより、比活性を向上させることができた。
【0008】
本発明者らは、さらに、Km値が低い改変体に限定されることなく、野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼであっても43位のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することにより、同様に比活性が向上した改変体を創出できることを見出した。
【0009】
以上のことから、本発明者らは、43位のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することが比活性を向上させるのに有用な方法であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[項1]
配列表の配列番号1〜6からなる群より選ばれる少なくとも1つに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することを特徴とするクレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させる方法。
[項2]
項1に記載される方法で製造したクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体。
[項3]
項2に記載されるクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体をコードする遺伝子。
[項4]
項3に記載の遺伝子を含むベクター。
[項5]
項4に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
[項6]
項5に記載の形質転換体を培養し、該培養物からクレアチニンアミドヒドロラーゼを採取することを特徴とするクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体の製造法。
[項7]
項6に記載されるクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体を含むクレアチニン測定用試薬。
[項8]
項6に記載されるクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体を用いるクレアチニン測定方法。
[項9]
配列表の配列番号1〜6からなる群より選ばれる少なくとも1つに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することを特徴とする、比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により臨床検査薬用酵素として有用な、比活性の高い新規クレアチニンアミドヒドロラーゼを創出し、工業的に大量に該クレアチニンアミドヒドロラーゼを生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の一態様は、配列表の配列番号1〜6のいずれかに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することを特徴とする、クレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させる方法である。
また、そのような方法で製造したクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体、すなわち、配列表の配列番号1〜6からなる群より選ばれる少なくとも1つに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸がアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換され、かつ、クレアチニンアミドヒドロラーゼ活性を有するクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体である。
【0014】
本願明細書において、アミノ酸は1文字記号または3文字記号で表す。また、アミノ酸の変異の位置については次のように表記する。例えば「G179S」は、179位のG(Gly)をS(Ser)に置換することを意味する。
また、多重変異体については、同様の原則によって表記したものをプラス(+)でつなげて表記する。例えば、「G179S+N43D」は、179位のG(Gly)をS(Ser)、43位のN(Asn)をA(Asp)に置換すること又は置換した改変体を意味する。
【0015】
クレアチニンアミドヒドロラーゼは、EC3.5.2.10に分類される酵素である。
【0016】
本発明のクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体は、改変前のクレアチニンアミドヒドロラーゼよりも比活性が向上したものである。比活性の向上とは、タンパク質あたりの活性値が上昇することを意味する。
【0017】
本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの改変の基になるクレアチニンアミドヒドロラーゼは、コリネバクテリウム属、シュードモナス属、アースロバクター属、フラボバクテリウム属、ミクロコッカス属などの微生物由来の野生型のもの等が例示されるが、特に限定されるものではない。
具体的には例えば、シュードモナス・プチダ(PS−7)株に由来するものが挙げられ、そのアミノ酸配列は配列番号1、当該アミノ酸配列をコードする遺伝子は配列番号7でそれぞれ示される。これらはいずれも特許第2527035号公報に記載されている。
なお、配列番号1において、アミノ酸の表記は、メチオニンを1として番号付けされて
いる。
【0018】
本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの改変の基になるクレアチニンアミドヒドロラーゼは、クレアチニンに対する作用性が本質的に維持される限り、上記種々の由来のものに、さらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換・挿入等されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加または置換等されていてもよい。さらに、本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼは、クレアチニンに対する作用性が本質的に維持される限り、クレアチニンアミドヒドロラーゼにヒスチジンタグなどのタグを結合または挿入させた態様、クレアチニンアミドヒドロラーゼの少なくとも一方の末端に他のペプチドや他の蛋白質(たとえばストレプトアビジンやシトクロム)を融合させた態様、糖鎖や他の化合物により化学修飾された態様、クレアチニンアミドヒドロラーゼ分子内および/または分子間でジスルフィド結合などにより架橋されたものやリンカーペプチドなどを介して連結されたもの等の態様を含みうる。あるいは、いくつかの由来の野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼの断片を組み合わせて構成したものを含みうる。
具体的には例えば、シュードモナス・プチダ(PS−7)株に由来するクレアチニンアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列のうち179位のグリシンをセリンに置換したものや、175位のアスパラギン酸をグルタミン、かつ179位のグリシンをセリンに置換したもの、175位のアスパラギン酸をリシン、かつ179位のグリシンをセリンに置換したもの、175位のアスパラギン酸をセリン、かつ179位のグリシンをセリンに置換したもの、175位のアスパラギン酸をヒスチジン、かつ179位のグリシンをセリンに置換したものが挙げられる。これらのアミノ酸配列はそれぞれ配列番号2〜6が示される。また、それらをコードする遺伝子の典型的な態様が、それぞれ配列番号8〜12で示される。
【0019】
なかでもシュードモナス・プチダ(PS−7)株起源のクレアチニンアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列、G179S、G179S+D175Q、G179S+D175K、G179S+D175S、G179S+D175Hからなる群より選ばれる少なくとも1つの43位のアスパラギンをアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換したものが好ましい。
【0020】
なお、上記の置換位置は、シュードモナス・プチダ(PS−7)株以外の起源のクレアチニンアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列における同等の位置であっても良い。同等の位置かどうかは、一次構造、立体構造の知見を基に判断することができる。
【0021】
シュードモナス・プチダ由来のクレアチニンアミドヒドロラーゼの立体構造は既に明らかになっていたが、蛋白質工学的手法によりクレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させることを示唆する記載はなかった(非特許文献3、4)。
【非特許文献3】Journal of Molecular Biology,Vol337,399-416(2004)
【非特許文献4】Journal of Molecular Biology,Vol332,287-301(2004)
【0022】
なお、本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼは、本願発明の効果が本質的に維持される限り、さらに他のアミノ酸残基の一部が欠失または置換・挿入等されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加または置換等されていてもよい。
さらに、本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼは、クレアチニンに対する作用性が本質的に維持される限り、クレアチニンアミドヒドロラーゼにヒスチジンタグなどのタグを結合または挿入させた態様、クレアチニンアミドヒドロラーゼの少なくとも一方の末端に他のペプチドや他の蛋白質(たとえばストレプトアビジンやシトクロム)を融合させた態様、糖鎖や他の化合物により化学修飾された態様、クレアチニンアミドヒドロラーゼ分子内および/または分子間でジスルフィド結合などにより架橋されたものやリンカーペプチドなどを介して連結されたもの等の態様を含みうる。あるいは、いくつかの由来の野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼの断片を組み合わせて構成したものを含みうる。
【0023】
本発明はさらに、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を含む。
本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子は、例えば、微生物など種々の起源(由来)より得られる野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を含むDNA断片を改変することにより得ることができる。具体的には、例えばアルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)、アースロバクター・エスピー(Arthrobacter sp.)、フラボバクテリウム・エスピー(Flavobacterium sp.)、コリネバクテリウム・ウレアファシエンス(Corinebacterium ureafaciens)、コリネバクテリウム・クレアチノボランス(Corinebacterium creatinovorans)、マイクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等の細菌を挙げることができる。
本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子は、好ましくは、配列番号7〜12に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつクレアチニンアミドヒドロラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAである。
【0024】
本発明の遺伝子は、さらに、野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子の改変により得られた改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子について、クレアチニンアミドヒドロラーゼの発現を向上させるように、さらにコドンユーセージ(Codon usage)を変更したものを含みうる。
【0025】
野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作成される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(Transformer Site−Directed Mutagenesis Kit;Clonetech製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0026】
本発明はさらに、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を含むベ
クター、さらには該ベクターで形質転換された形質転換体を含む。
作製された改変タンパク質の遺伝情報を有するDNAは、プラスミドと連結された状態にて宿主微生物中に移入され、改変タンパク質を生産する形質転換体となる。
ベクターとしてプラスミドを用いる場合、例えば、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)を宿主微生物とする場合にはpBluescript,pUC18などが使用できる。宿主微生物としては、例えば、エシェリヒア・コリー W3110、エシェリヒア・コリーC600、エシェリヒア・コリーJM109、エシェリヒア・コリーDH5αなどが利用できる。宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア属に属する微生物の場合には、カルシウムイオンの存在下で組換えDNAの移入を行なう方法などを採用することができ、更にエレクトロポレーション法を用いても良い。更には、市販のコンピテントセル(例えば、コンピテントハイJM109;東洋紡績製)を用いても良い。
【0027】
このような遺伝子はこれらの菌株より抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらに、PCR法の利用により、クレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子を含むDNA断片を得ることも可能である。
【0028】
本発明において、クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。例えばシュードモナス・プチダ(PS−7)株由来の染色体を分離、精製した後、超音波処理、制限酵素処理等を用いてDNAを切断したものと、リニアーな発現ベクターと両DNAの平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーと酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得る。
【0029】
次いで、上記組換えベクターを保持する微生物を培養して、該培養微生物の菌体から該組換えベクターを分離、精製し、該発現ベクターからクレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を採取することができる。例えば、遺伝子供与体であるシュードモナス・プチダ(PS−7)の染色体DNAは、具体的には以下のようにして採取される。
【0030】
該遺伝子供与微生物を例えば1〜3日間攪拌培養して得られた培養液を遠心分離により集菌し、次いで、これを溶菌させることによりクレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子の含有溶菌物を調製することができる。溶菌の方法としては、例えばリゾチーム等の溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼや他の酵素やドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤が併用される。さらに、凍結融解やフレンチプレス処理のような物理的破砕方法と組み合わせてもよい。
【0031】
上記のようにして得られた溶菌物からDNAを分離精製するには、常法に従って、例えばフェノール処理やプロテアーゼ処理による除蛋白処理や、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理などの方法を適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0032】
微生物から分離、精製されたDNAを切断する方法は、例えば超音波処理、制限酵素処理などにより行うことができる。好ましくは特定のヌクレオチド配列に作用するII型制限酵素が適している。
【0033】
クローニングする際のベクターとしては、宿主微生物内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。ファージとしては、例えばエシェリヒア・コリを宿主微生物とする場合にはLambda gt10 、Lambda gt11 などが例示される。また、プラスミドとしては、例えば、エ
シェリヒア・コリを宿主微生物とする場合には、pBR322、pUC19 、pBluescript などが例示される。
【0034】
クローニングの際、上記のようなベクターを、上述したクレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子供与体である微生物DNAの切断に使用した制限酵素で切断してベクター断片を得ることができるが、必ずしも該微生物DNAの切断に使用した制限酵素と同一の制限酵素を用いる必要はない。微生物DNA断片とベクターDNA断片とを結合させる方法は、公知のDNAリガーゼを用いる方法であればよく、例えば微生物DNA断片の付着末端とベクター断片の付着末端とのアニーリングの後、適当なDNAリガーゼの使用により微生物DNA断片とベクターDNA断片との組換えベクターを作製する。必要に応じて、アニーリングの後、宿主微生物に移入して生体内のDNAリガーゼを利用し組換えベクターを作製することもできる。
【0035】
クローニングに使用する宿主微生物としては、組換えベクターが安定であり、かつ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質発現できるものであれば特に制限されない。一般的には、エシェリヒア・コリW3110 、エシェリヒア・コリC600、エシェリヒア・コリHB101 、エシェリヒア・コリJM109 、エシェリヒア・コリDH5αなどを用いることができる。
【0036】
宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がエシェリヒア・コリの場合には、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0037】
上記のように得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量のクレアチニンアミドヒドロラーゼを安定に生産し得る。宿主微生物への目的組換えベクターの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの薬剤耐性マーカー発現する微生物を検索すればよい。
【0038】
上記の方法により得られたクレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子の塩基配列は、Sc
ience ,第214巻,1205(1981)に記載されたジデオキシ法により解読した。また、クレアチニンアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列は上記のように決定された塩基配列より推定した。
【0039】
上記のようにして、一度選択されたクレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子を保有する組換えベクターより、クレアチニンアミドヒドロラーゼ生産能を有する微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、クレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりクレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。また、これらのベクターによるクレアチニンアミドヒドロラーゼ生産能を有する微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0040】
本発明はさらに、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする遺伝子を含むベクターで形質転換された形質転換体を培養することを含む改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの製造法に関する。
【0041】
例えば上記のようにして得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量の改変タンパク質を安定して生産し得る。形質転換体である宿主微生物の培養形態は、宿主の栄養生理的性質を考慮して培養条件を選択すればよく、多くの場合は液体培養で行う。工業的には通気攪拌培養を行うのが有利である。
【0042】
培地の栄養源としては,微生物の培養に通常用いられるものが広く使用され得る。炭素源としては資化可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、ラクトース、糖蜜、ピルビン酸などが使用される。また、窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えば、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、カゼイン加水分解物、大豆粕アルカリ抽出物などが使用される。その他、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、マンガン、亜鉛などの塩類、特定のアミノ酸、特定のビタミンなどが必要に応じて使用される。
【0043】
培養温度は菌が成育し、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、上記のようなクレアチニンアミドヒドロラーゼ生産能を有する微生物の場合、好ましくは20〜42℃程度である。培養時間は条件によって多少異なるが、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼが最高収量に達する時期を見計らって適当時期に培養を完了すればよく、通常は6〜48時間程度である。培地のpHは菌が発育し、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼを生産する範囲で適宜変更し得るが、好ましくはpH6.0〜9.0程度の範囲である。
【0044】
培養物中の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼを生産する菌体を含む培養液をそのまま採取し、利用することもできるが、一般には、常法に従って、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼが培養液中に存在する場合はろ過、遠心分離などにより、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼ含有溶液と微生物菌体とを分離した後に利用される。改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼが菌体内に存在する場合には、得られた培養物からろ過または遠心分離などの手段により菌体を採取し、次いで、この菌体を機械的方法またはリゾチームなどの酵素的方法で破壊し、また、必要に応じて、EDTA等のキレート剤及び界面活性剤を添加してクレアチニンアミドヒドロラーゼを可溶化し、水溶液として分離採取する。
【0045】
上記のようにして得られたクレアチニンアミドヒドロラーゼ含有溶液を、例えば減圧濃縮、膜濃縮、さらに硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどの塩析処理、あるいは親水性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどによる分別沈殿法により沈殿せしめればよい。また、加熱処理や等電点処理も有効な精製手段である。その後、吸着剤あるいはゲルろ過剤などによるゲルろ過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーを行うことにより、精製されたクレアチニンアミドヒドロラーゼを得ることができる。
【0046】
例えば、セファデックス(Sephadex)ゲル(GEヘルスケアバイオサイエンス)などによるゲルろ過、DEAEセファロースCL−6B(GEヘルスケアバイオサイエンス)、オクチルセファロースCL−6B(GEヘルスケアバイオサイエンス)等のカラムクロマトグラフィーにより分離、精製し、精製酵素標品を得ることができる。該精製酵素標品は、電気泳動(SDS−PAGE)的に単一のバンドを示す程度に純化されていることが好ましい。
【0047】
上記のようにして得られた精製酵素を、例えば凍結乾燥、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化して流通させることが可能である。その際、精製酵素はリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液やGOODの緩衝液に溶解しているものを用いることができる。好適なも
のはGOODの緩衝液であり、なかでも、PIPES、MESもしくはMOPS緩衝液が特に好ましい。また、グルタミン酸、グルタミン、リジン等のアミノ酸類、さらに血清アルブミン等を添加することによりクレアチニンアミドヒドロラーゼをより安定化することができる。
【0048】
本発明の改変タンパク質の製造方法は、特に限定されないが、以下に示すような手順で製造することが可能である。タンパク質を構成するアミノ酸配列を改変する方法としては、通常行われる遺伝情報を改変する手法が用いられる。すなわち、タンパク質の遺伝情報を有するDNAの特定の塩基を変換することにより、或いは特定の塩基を挿入または欠失させることにより、改変蛋白質の遺伝情報を有するDNAが作製される。DNA中の塩基を変換する具体的な方法としては、例えば市販のキット(TransformerMutagenesis Kit;Clonetech製,EXOIII/Mung Bean
Deletion Kit;Stratagene製,QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製など)の使用、或いはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)の利用が挙げられる。
【0049】
本発明では、配列番号1〜6に示されるクレアチニンアミドヒドロラーゼの43位に着目し、これらのアミノ酸部位へ上記変異導入キットを用いてランダムに変異を導入したライブラリーを作製し、比活性の変化を指標にスクリーニングしたところ、比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体を得ることができた。
【0050】
本発明の別の一形態は、上記のいずれかに記載の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼを含むクレアチニン測定用試薬を含む。
それらの形態は特に制約されないが、クレアチニン測定用組成物、および/または、クレアチニン測定としての形態をとりうる。
【0051】
上記各形態において、本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチニン測定用組成物、クレアチニン測定キットは、液状(水溶液、懸濁液等)、粉末、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
【0052】
さらに上記各形態において、本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチニン測定用組成物、クレアチニン測定キットは、その形態や使用方法に応じて、精製された状態であっても良いし、必要により他の成分、例えば界面活性剤、安定化剤、賦形剤など種々の添加物が加えられていても良い。
本発明へのそれらの添加物の配合法は特に制限されるものではない。例えばクレアチニンアミドヒドロラーゼを含む緩衝液に安定化剤を配合する方法、安定化剤を含む緩衝液にクレアチニンアミドヒドロラーゼを配合する方法、あるいはクレアチニンアミドヒドロラーゼと安定化剤を緩衝液に同時に配合する方法などが挙げられる。
【0053】
含有される緩衝液としては特に限定されるものではないが、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、グッド緩衝液などが挙げられる。該緩衝液のpHは5.0〜10.0程度の範囲で使用目的に応じて調整される。凍結乾燥物中においては緩衝剤の含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1%(重量比)以上、特に好ましくは0.1〜30%(重量比)の範囲で使用される。
【0054】
また、さらに血清アルブミンを含有させてもよい。前記の水性組成物に血清アルブミンを添加する場合、その含有量は0.05〜0.5重量%であることが好ましい。
使用できるアルブミンとしては、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン(OVA)などが挙げられる。特にBSAが好ましい。該アルブミンの含有量は、好ましくは1〜80%(重量比)、より好ましくは5〜70%(重量比)の範囲で使用される。
【0055】
一方、上記各形態において、本発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチニン測定用組成物ならびにクレアチニン測定用キットは、宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分を含有しない構成とすることもできる。
宿主由来のタンパク質成分以外のタンパク質成分としては、例えばBSA等の生体由来物質が挙げられる。
このような構成にすることにより、クレアチニン測定系における非特異反応が低減する可能性が考えられる。
【0056】
緩衝剤としては、一般的に使用されるものであれば良く、通常、組成物のpHを5〜10とするものが好ましい。緩衝剤としてさらに好ましくは、ホウ酸や酢酸といった緩衝剤や、BES、Bicine、Bis−Tris、CHES、EPPS、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、PIPES、POPSO、TAPS、TAPSO、TES、Tricineといったグッド緩衝剤が挙げられる。
また、粉末組成物において、緩衝剤の含有量(W/W)は、1.0%〜50%であることが望ましい。
【0057】
また、改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼと緩衝剤から基本的に成る組成物に、アミノ酸、あるいは有機酸をさらに加えてもかまわない。また、これらを含有するものであれば、水性組成物、凍結乾燥物を問わない。
【0058】
本発明の別の一形態は、上記のいずれかに記載の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼを含むクレアチニン測定方法を含む。
後述の実施例にも記載されているように、本願発明の改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼでは比活性が改変前のクレアチニンアミドヒドロラーゼに対して著しく向上している。このことは、例えば、臨床サンプルにおけるクレアチニン測定においてクレアチニンアミドヒドロラーゼ量を著しく低下させることができ、低コスト化が見込める。
【0059】
また、本願発明のさらに別の一つの態様は、配列表の配列番号1〜6のいずれかに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することを特徴とする、比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼの製造方法である。
さらには、本願発明は、クレアチニンアミドヒドロラーゼを用いる測定系において、上記のいずれかに記載のアミノ酸変異を行ったクレアチニンアミドヒドロラーゼを含有することを含む、測定の反応性が向上したクレアチニン測定用試薬組成物を、製造する方法である。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1 改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子の作製
特許第2527035号、および、Biosci.Biotech.Biochem.,5
9巻7号、1331−1332ページ(1995)に記載の方法を参照してシュードモナス・プチダPS−7株の染色体DNAを調製し、次いで、該株由来のクレアチニンアミドヒドロラーゼ遺伝子を含む発現プラスミドpCNH5−13を調製した。
野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼの発現プラスミドpCNH5−13は、ベクターpBluescript SK(-)のマルチクローニング部位にシュードモナス・プチダPS−7株由来のクレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする構造遺伝子を挿入しているものである。その塩基配列は配列表の配列番号4に、また該塩基配列から推定されるクレアチニンアミドヒドロラーゼのアミノ酸配列は配列表の配列番号1に示される。
次に、pCNH5−13と変異導入部位のアミノ酸をコードするトリプレットを中央に含む40mer程度の合成オリゴヌクレオチドを基に、QuickChangeTMSite−Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE製)を用いて、そのプロトコールに従って変異処理操作を行い、43位においてアミノ酸置換をランダムに変異導入した変異ライブラリーを作製した。そして、比活性の変化を指標にスクリーニングして得られた候補株の塩基配列を決定して、配列番号1記載のアミノ酸配列の43番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換された変異型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする組換えプラスミド(pCNH−N43D)を取得した。
その他上記と同様に、ライブラリー作製、スクリーニングを実施し、比活性が向上した変異型クレアチニンアミドヒドロラーゼをコードする組換えプラスミドを取得した。
【0061】
実施例2 改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの作製
各組み換えプラスミドでエシェリヒアコリーDH5αのコンピテントセルを形質転換し、該形質転換体をそれぞれ取得した。
5mlのCNH生産培地(1%ポリペプトン、2%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、5mM塩化マンガン)を試験管に分注し、121℃、20分間オートクレーブを行い、放冷後別途無菌濾過したアンピシリンを100μl/mlになるように添加した。この培地に100μl/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地で予め37℃、16時間培養したエシェリヒアコリーDH5α(pCNH−N43D)のシングルコロニーを接種し、37℃で22時間通気攪拌培養した。
上記菌体を遠心分離により集菌し、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.8)に懸濁した後、超音波処理により破砕し、更に遠心分離を行い、上清液を粗酵素液として得た。また、この変異体をN43Dと命名した。その他上記と同様に、粗酵素液を得た。

【0062】
比較例1 野生型クレアチニンアミドヒドロラーゼの作製
比較例として、pCNH5−13によるエシェリヒアコリーDH5α形質転換体について、上記方法と同様にして、改変前の粗酵素液を取得した。
【0063】
比較例2 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(G179S)の作製
比較例2として、pCNH−G179SによるエシェリヒアコリーDH5α形質転換体について、上記方法と同様にして、粗酵素液を取得した。
【0064】
比較例3 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(G179S+D175Q)の作製
比較例3として、pCNH−G179S+D175QによるエシェリヒアコリーDH5α形質転換体について、上記方法と同様にして、粗酵素液を取得した。
【0065】
比較例4 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(G179S+D175K)の作製
比較例4として、pCNH−G179S+D175KによるエシェリヒアコリーDH5α形質転換体について、上記方法と同様にして、粗酵素液を取得した。
【0066】
比較例5 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(G179S+D175S)の作製
比較例5として、pCNH−G179S+D175SによるエシェリヒアコリーDH5α形質転換体について、上記方法と同様にして、粗酵素液を取得した。
【0067】
比較例6 クレアチニンアミドヒドロラーゼ(G179S+D175H)の作製
比較例6として、pCNH−G179S+D175HによるエシェリヒアコリーDH5α形質転換体について、上記方法と同様にして、粗酵素液を取得した。
【0068】
実施例3 改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの評価1
実施例2で取得した変異型クレアチニンアミドヒドロラーゼおよび比較例1で取得した各種クレアチニンアミドヒドロラーゼをそれぞれ、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.8)中に加え、それを2分割して片方にfinal 5mMとなるようにEDTA・3Naを添加し、もう片方には何も添加せずに60℃で20分間処理を行った。後述する活性測定法によりクレアチニンアミドヒドロラーゼを測定し、(キレート剤添加ありの活性)/(キレート剤添加なしの活性)×100をキレート剤耐性(%)とした。
また、比活性(U/OD660)は実施例2で取得した各種クレアチニンアミドヒドロラーゼの活性値(U/mL)/超音波破砕前の菌体濁度(OD660)にて算出した。
特許文献3ではシュードモナス・プチダ(PS−7)由来のクレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性は1905U/mgと記載されているが、比較例1では同一のものであるにもかかわらず比活性は53U/OD660である。これは、精製度が異なるからであり、実施例中では同一精製度のもので比較している。
その結果を表1に示す。表1から判るように本発明のクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体は改変前と比べて比活性が向上していることが確認された。また、キレート剤耐性も向上している。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例4 改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの評価2
実施例2で取得した変異型クレアチニンアミドヒドロラーゼおよび比較例2で取得した各種クレアチニンアミドヒドロラーゼをそれぞれ、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.8)中に加え、それを2分割して片方にfinal 2.5mMとなるようにEDTA・3Naを添加し、もう片方には何も添加せずに50℃で20分間処理を行った。後述する活性測定法によりクレアチニンアミドヒドロラーゼを測定し、(キレート剤添加ありの活性)/(キレート剤添加なしの活性)×100をキレート剤耐性(%)とした。
また、比活性(U/OD660)は実施例2で取得した各種クレアチニンアミドヒドロラーゼの活性値(U/mL)/超音波破砕前の菌体濁度(OD660)にて算出した。
その結果を表2に示す。表2からわかるように本発明のクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体は改変前と比べて比活性が向上していることが確認された。さらに比較例1の野生型と比較するとKm値が低下していることがわかる。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例3 改変型クレアチニンアミドヒドロラーゼの評価3
実施例2で取得した変異型クレアチニンアミドヒドロラーゼおよび比較例3〜6で取得した各種クレアチニンアミドヒドロラーゼをそれぞれ、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.8)中に加え、それを2分割して片方にfinal 2.5mMとなるようにEDTA・3Naを添加し、もう片方には何も添加せずに50℃で20分間処理を行った。後述する活性測定法によりクレアチニンアミドヒドロラーゼを測定し、(キレート剤添加ありの活性)/(キレート剤添加なしの活性)×100をキレート剤耐性(%)とした。
また、比活性を測定するために実施例2および比較例3〜6で取得した粗精製液をさらに精製している。まず、5%ポリエチレンイミンを対液0.5%添加し、室温で30分放置した後、遠心分離し上清を回収した。次に0.65飽和の硫酸アンモニウムを添加し、室温で30分放置した後、遠心分離し沈澱を回収、20mM リン酸カリウム緩衝液pH7.8で再溶解した精製酵素標品の活性値と280nmの吸光度を測定し、比活性(U/A280)を求めた。
その結果を表3に示す。表中のNo.1〜4は比較例3〜6である。No.1と5、2と6、3と7、4と8の比活性を比較するとN43Dのアミノ酸置換により比活性が上がっていることがわかる。また、キレート剤耐性も向上している。
【0073】
【表3】

【0074】
実施例中、クレアチニンアミドヒドロラーゼの活性測定は以下のようにして行った。なお、本発明の酵素活性の定義は、下記条件下に1分間に1マイクロモルの橙色色素を生成する酵素量を1単位(U)とする。
酵素溶液は酵素標品をあらかじめ氷冷した50mMリン酸緩衝液pH7.5で溶解し、分析直前に1.8〜2.4U/mLに希釈する。
試験管に0.1M クレアチン溶液(50mMリン酸緩衝液pH7.5で溶解)を1.0mLとり、37℃約5分予備加温する。次に酵素溶液を0.1mL加える。37℃で正確に反応させた後、直ちに反応液0.1mLをとり、あらかじめ準備した0.5N NaOH溶液2.0mLに入れる。1.0% ピクリン酸溶液を1.0mL加え、25℃で20分間放置後520nmにおける吸光度(ODtest)を測定する。盲検は0.1M クレアチン溶液(50mMリン酸緩衝液pH7.5で溶解)を1.0mLに酵素希釈液を添加後直ちに反応液の0.1mLをとり、あらかじめ準備した0.5N NaOH溶液2.0mLに入れる。1.0% ピクリン酸溶液を1.0mL加え、25℃で20分間放置後520nmにおける吸光度(ODblank)を測定する。
U/mL=ΔOD(ODtest−ODblank)×7.33×希釈倍率
【0075】
実施例中、Km値を示す指標として2水準(final 11mM,55mM)のクレアチニン濃度でそれぞれ活性値を測定し、その比(11mM/55mM)が高いものほどKm値が低いと判断した。
<R1>
0.58M HEPES pH8
0.005% 4アミノアンチピリン
0.015% フェノール
60U/mlクレアチンアミジノヒドロラーゼ
12U/ml ザルコシンオキシダーゼ
6U/ml ペルオキシダーゼ
<R2 (final 55mM)>
0.25M クレアチニン
0.27N HCl
<R2 (final 11mM)>
0.05M クレアチニン
0.27N HCl
R1:200μlに、R2:60μl及び酵素液10μlを加え、37℃で10分間反応させ、505nmの吸光度変化をHITACHI7060型自動分析装置を用いて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼを得ることができる。このクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体は、クレアチニン測定試薬に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1〜6からなる群より選ばれる少なくとも1つに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することを特徴とするクレアチニンアミドヒドロラーゼの比活性を向上させる方法。
【請求項2】
請求項1に記載される方法で製造したクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体。
【請求項3】
請求項2に記載されるクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体をコードする遺伝子。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項6】
請求項5に記載の形質転換体を培養し、該培養物からクレアチニンアミドヒドロラーゼを採取することを特徴とするクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体の製造法。
【請求項7】
請求項6に記載されるクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体を含むクレアチニン測定用試薬。
【請求項8】
請求項6に記載されるクレアチニンアミドヒドロラーゼ改変体を用いるクレアチニン測定方法。
【請求項9】
配列表の配列番号1〜6からなる群より選ばれる少なくとも1つに記載されるアミノ酸配列の43位、あるいはそれと同等の位置のアミノ酸をアスパラギン酸又はグルタミン酸に置換することを特徴とする、比活性が向上したクレアチニンアミドヒドロラーゼの製造方法。

【公開番号】特開2009−77680(P2009−77680A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250874(P2007−250874)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】