説明

クレアチニン測定方法、クレアチニン測定デバイス、及びクレアチニン測定装置、並びにそれらを用いた尿中塩分量測定方法、尿中塩分量測定デバイス、及び尿中塩分量測定装置

【課題】試料中に含まれるクレアチニンを精度良く定量することができるクレアチニン測定方法、クレアチニン測定デバイス、及びクレアチニン測定装置を提供する。
【解決手段】(A)クレアチニンを含む試料と、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを接触させることにより、前記試料中に含まれる前記クレアチニンと前記キノン化合物とが直接反応して、前記キノン化合物の還元物が生成する工程、
(B)前記工程Aにおける前記反応を光学的に測定する工程、並びに
(C)前記工程Bにおける測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるクレアチニンや塩分の定量を行うための測定方法、測定デバイス、及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれるクレアチニンの測定は臨床化学や分析化学の分野において重要である。クレアチニンは筋肉の内在代謝の産物であるため、尿中のクレアチニン量は総筋肉質量を反映することが知られている。したがって、人間が一日に排泄する尿中のクレアチニン量は一般に個人ごとに一定であり、日間変動が無いといわれている。そのため、尿中のクレアチニン量は排泄される尿の濃淡の尺度として用いられることがある。また、尿中及び血中のクレアチニン量は尿毒症や腎機能の低下によって増減するため、尿中または血中のクレアチニン量の測定により、尿毒症や腎機能の低下の有無を知ることができる。
【0003】
クレアチニンの測定方法としては、アルカリ性のピクリン酸溶液を用いたヤッフェ(Jaffe)反応に基づく方法が知られている。この方法においては、ピクリン酸がクレアチニンと反応することにより得られる橙赤色の生成物を分光学的に測定する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他のクレアチニン測定方法として、クレアチニンと特異的に反応をする酵素を用いた方法が知られている。酵素を用いる方法としては、例えば、クレアチニンデイミナーゼを用いてクレアチニンを分解することによりアンモニアを得て、そのアンモニア量をpH変化などから測定することによってクレアチニンの濃度を得る方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
酵素を用いる他の方法として、下記の(化1)〜(化3)による反応によりクレアチニンを測定する方法がある。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【化3】

【0009】
(化1)〜(化3)の反応を触媒する酵素として、それぞれ順にクレアチニンアミドヒドロラーゼ(クレアチニナーゼ)、クレアチンアミジノヒドロラーゼ(クレアチナーゼ)、及びサルコシンオキシダーゼまたはサルコシンデヒドロゲナーゼが用いられる。ここでクレアチニンの定量方法としては、例えば、ペルオキシダーゼとともにロイコ色素やトリンダー(Trinder)試薬を利用し、(化3)において生成した過酸化水素を呈色させて分光学的に定量する方法が用いられている(例えば、特許文献3参照)。また他のクレアチニン定量方法として、(化3)において生成した過酸化水素を電極で電気化学的に酸化し、流れる電流からクレアチニンを定量する方法が用いられている(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0010】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、上記(化1)及び(化2)の反応に加えて、上記(化3)の反応に代えて、サルコシンと電子伝達体との反応を用いてクレアチニンを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献6及び7参照)。特許文献6には、基板上に少なくとも一対の作用極及び対極を備えたセンサにおいて、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼ及び電子伝達体をpH7〜8.5の緩衝液中に溶解させた試薬溶液を、電極上または電極周辺の基板上で乾燥させることにより固定化したクレアチニンバイオセンサが開示されている。具体的には、電子伝達体をしてフェリシアン化カリウムを用い、緩衝液としてpH6.86のリン酸緩衝液を用いることが開示されている。また、緩衝液のpHがpH7以下またはpH8.5以上になると、酵素活性が低下するため好ましくないことが開示されている。特許文献7には、サルコシンオキシダーゼとともに、シクロデキストリンにより包摂されたメディエータを用い、比色法または電気化学的検出方法によりクレアチニンを測定することが開示されている。具体的には、シクロデキストリンにより包摂されるメディエータの例としてα−ナフトキノン(1,4−ナフトキノン)が挙げられている。しかし、特許文献7では、α−ナフトキノン、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート(M−PMS)等のメディエータがシクロデキストリンに包摂されていない状態では、酵素を用いたクレアチニンの測定に不適切であることが開示されている。
【0011】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、上記(化1)及び(化2)の反応に加えて、上記(化3)の反応に代えて、サルコシンとテトラゾリウム指示薬との反応を用いて分光学的にクレアチニンを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。特許文献8には、クレアチニン測定用組成物として、クレアチニン加水分解酵素、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、テトラゾリウム指示薬であるチアゾリルブルー及びpH7.5のリン酸カリウムからなる混合試薬を用いることが開示されている。
【0012】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ及びサルコシンデヒドロゲナーゼを用いてクレアチニンをグリシンとホルムアルデヒドとに変え、生成したホルムアルデヒドを呈色剤により発色させ、その吸光度によりクレアチニンを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献9参照)。特許文献9には、クレアチニンアミドヒドロラーゼ、クレアチンアミジノヒドロラーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ及び呈色剤に加えて、pH7.5のリン酸緩衝液と、ホルムアルデヒドの生成を促す反応促進剤としてフェリシアン化カリウムとを用いることが開示されている。
【0013】
また、酵素を用いるさらに他の方法として、クレアチニンの加水分解を触媒するポリマー、サルコシン酸化酵素及びメディエータを固定化した電極を用いて、クレアチニンを測定する方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。特許文献10には、メディエータとして、フェリシアン化カリウム、フェロセン、オスミウム誘導体、フェナジンメトサルフェート(PMS)などを用いることができることが開示されている。
【0014】
さらに他のクレアチニン測定方法として、1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸カリウムを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献11、非特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】米国特許第3705013号明細書
【特許文献2】特表2001−512692号公報
【特許文献3】特開昭62−257400号公報
【特許文献4】特表2003−533679号公報
【特許文献5】米国特許第5466575号明細書
【特許文献6】特開2006−349412号公報
【特許文献7】特開2005−118014号公報
【特許文献8】特開昭55−023998号公報
【特許文献9】特開昭54−151095号公報
【特許文献10】特開2003−326172号公報
【特許文献11】特開昭63−033661号公報
【非特許文献1】サリバン、外1名、「クレアチニンの高特異的テスト」、ジャーナル オブ バイオロジカル ケミストリー、1958年、第233巻、第2号、p.530−534(Sullivan,“A Highly Specific Test for Creatinine”,1958,Vol.233,No.2,p.530−534)
【非特許文献2】ナラヤナン、外1名、「クレアチニン:レヴュー」、クリニカル ケミストリー、1980年、第26巻、第8号、p.1119−1126(Narayanan,“Creatinine:A Review”,Clinical Chemistry,1980,Vol.26,No.8,p.1119−1126)
【非特許文献3】クーパー、外1名、「4つの尿中クレアチニン測定方法の評価」、クリニカル ケミストリー、1961年、第7巻、第6号、p.665−673(Cooper,“An Evaluation of Four Methods of Measuring Urinary Creatinine”,1961,Vol.7,No.6,P.665−673)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記従来の方法では、以下のような問題点があった。
【0016】
特許文献1に記載の方法においては、グリシン、ヒスチジン、グルタミン、セリン等のアミノ酸やグルコース等の糖がピクリン酸と反応してしまうため、アミノ酸や糖を含む試料、例えば尿や血液などの生体試料中においてクレアチニンを正確に定量することは困難である。
【0017】
また、特許文献2に記載の方法においては、pHや電位の変化が不安定であるため、クレアチニンを正確に定量することは困難である。
【0018】
また、特許文献2〜10に記載の方法においては、試料中に塩分等のイオン種や尿素が存在すると酵素が変性することにより酵素の活性が低下するため、試料中に含まれるイオン種や尿素の濃度によって反応速度にばらつきが生じる。したがって、イオン種や尿素を含む試料、例えば尿や血液などの生体試料中のクレアチニンを定量する際には、試料中に含まれるイオン種や尿素の濃度によって測定結果に誤差が生じる。
【0019】
また、特許文献11及び非特許文献1に記載されている1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸カリウムを用いる方法については、非特許文献2及び3において、測定結果の再現性が非常に低いという問題が報告されている。
【0020】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑み、試料中に含まれるクレアチニンを精度良く定量することができるクレアチニン測定方法、クレアチニン測定デバイス、及びクレアチニン測定装置を提供することを第1の目的とする。
【0021】
また、本発明は、尿中に含まれる塩分を精度良く定量することができる尿中塩分量測定方法、尿中塩分量測定デバイス、及び尿中塩分量測定装置を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記従来の問題を解決するために、本発明のクレアチニン測定方法は、(A)クレアチニンを含む試料と、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを接触させることにより、前記試料中に含まれる前記クレアチニンと、前記キノン化合物とが直接反応して、前記キノン化合物の還元物が生成する工程、
(B)前記工程Aにおける前記反応を光学的に測定する工程、並びに
(C)前記工程Bにおける測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める工程を含む。
【0023】
また、本発明の尿中塩分量測定方法は、試料として尿を用い、上記のクレアチニン測定方法の工程A及びBに加えて、
(F)前記尿と前記クレアチニン測定用試薬とが接触する前に、前記尿の電気特性を測定する工程、及び
(G)前記工程Bにおける測定値と、前記工程Fにおいて測定された前記電気特性とに基づいて、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める工程をさらに含む。
【0024】
また、本発明のクレアチニン測定デバイスは、上記のクレアチニン測定方法に用いられるクレアチニン測定デバイスであって、クレアチニンを含む試料を収容するための試料収容室と、前記試料収容室と連通し、前記試料収容室内に前記試料を導入するための試料導入口と、前記試料収容室内に配置された、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを備える。
【0025】
また、本発明の尿中塩分量測定デバイスは、上記の尿中塩分量測定方法に用いられる尿中塩分量測定デバイスであって、試料である尿を収容するための第1の試料収容室と、前記第1の試料収容室と連通し、前記第1の試料収容室内に前記尿を導入するための第1の試料導入口と、前記第1の試料収容室内に配置された、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬と、前記尿を収容するための第2の試料収容室と、前記第2の試料収容室と連通し、前記第2の試料収容室内に前記尿を導入するための第2の試料導入口と、前記第2の試料収容室内に配置された少なくとも2つの電極とを備える。
【0026】
また、本発明のクレアチニン測定装置は、上記のクレアチニン測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記クレアチニン測定デバイスの前記試料収容室内におけるクレアチニンと前記クレアチニン測定用試薬との反応を光学的に測定する測定部、及び前記測定部における測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める演算部を備える。
【0027】
また、本発明の尿中塩分量測定装置は、上記の尿中塩分量測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記尿中塩分量測定デバイスの前記第1の試料収容室内におけるクレアチニンと前記クレアチニン測定用試薬との反応を光学的に測定する第1の測定部、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記尿中塩分量測定デバイスの前記第2の試料収容室内における前記尿の電気特性を測定する第2の測定部、及び前記第1の測定部における測定値と前記第2の測定部により測定された前記電気特性とに基づき、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める演算部を備える。
【発明の効果】
【0028】
本発明のクレアチニン測定方法によれば、試料中に含まれるクレアチニンを精度良く定量することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の発明者は、クレアチニンと、キノン化合物とが直接的に反応することを新たに見出した。この反応においては、クレアチニンに作用する酵素が存在しない状態であっても、クレアチニンとキノン化合物とが反応して、クレアチニン及びキノン化合物の量が減少し、クレアチニンの酸化物と、キノン化合物の還元物とが生成する。
【0030】
本発明は上記の新たな知見に基づいてなされたものであり、クレアチニン測定用試薬組成物の有効成分としてキノン化合物を用いることを特徴とする。
【0031】
本発明のクレアチニン測定方法は、(A)クレアチニンを含む試料と、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを接触させることにより、前記試料中に含まれる前記クレアチニンと、前記キノン化合物とが直接反応して、前記キノン化合物の還元物が生成する工程、
(B)前記工程Aにおける前記反応を光学的に測定する工程、並びに
(C)前記工程Bにおける測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める工程を含む。
【0032】
この方法によると、従来の測定方法と異なり、クレアチニンに作用する酵素やピクリン酸がない状態において、クレアチニンとキノン化合物とが直接反応するので、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定方法よりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0033】
本発明において用いるキノン化合物として、pH7、25℃における酸化還元電位が、銀−塩化銀電極に対して(以下、「vs Ag/AgCl」と略称する)−180mVよりも正であるキノン化合物を用いることが好ましい。pH7、25℃における酸化還元電位の好ましい上限値は0mV(vs Ag/AgCl)である。キノン化合物のpH7、25℃における酸化還元電位のより好ましい範囲は、−100mV〜0mV(vs Ag/AgCl)である。
【0034】
キノン化合物としては、下記(化4)の構造式で表される1,2−ナフトキノン(化学式:C10)、下記(化5)の構造式で表される5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン(化学式:C10)等を用いることができる。pH7、25℃における酸化還元電位は、1,2−ナフトキノンが−60mV(vs Ag/AgCl)であり、5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンが−180mV(vs Ag/AgCl)である。
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
前記工程Aにおいて、前記試料に緩衝剤を接触させてもよい。
【0038】
本発明において用いられる緩衝剤としては、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム等のリン酸系緩衝剤、クエン酸系緩衝剤、フタル酸系緩衝剤、酢酸系緩衝剤、MES緩衝剤などが挙げられる。
【0039】
本発明のクレアチニン測定方法において、前記工程Aにおいて、前記試料にリン酸系緩衝剤を接触させることにより、前記試料のpHが4〜8に調整されることが好ましい。試料のpHが4〜6に調整されることがより好ましい。試料のpHが4〜5に調整されることがさらに好ましい。
【0040】
このようにすると、クレアチニンとキノン化合物との直接反応の反応速度が速くなるため、測定時間を短縮することができる。
【0041】
本発明のクレアチニン測定方法においては、リン酸系緩衝剤が、リン酸水素二カリウムとリン酸二水素カリウムとから構成されることが好ましい。このようにすると、これらのリン酸塩が試料中に溶解することによって、リン酸系緩衝剤が溶解後の試料のpHを4〜8の範囲内に調整することができる。
【0042】
また、本発明のクレアチニン測定方法は、工程Aにおいて、リン酸系緩衝剤が溶解後の試料におけるリン酸系緩衝剤の濃度が5〜1000mMであることが好ましい。本発明者は、リン酸系イオンの濃度の増加に伴いクレアチニンとキノン化合物との反応の速度が速くなることを見出した。リン酸系緩衝剤の濃度が5mM以上であれば、十分な反応速度が得られる。また、1000mMは試料のpHを4〜8に調整する緩衝能を有するリン酸系緩衝剤の溶解度の上限である。
【0043】
また、本発明のクレアチニン測定方法において、前記工程Bが、
(D)前記試料に入射光を照射する工程、及び
(E)前記試料を透過した透過光または前記試料において反射した反射光を検出する工程を含み、
前記工程Cにおいて、
前記工程Eにおいて検出された前記透過光または前記反射光の強度に基づいて前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求めてもよい。
【0044】
このようにすると、試料中に含まれるクレアチニンの濃度または量を光学的に容易に求めることができる。
【0045】
本発明の尿中塩分量測定方法は、試料として尿を用い、上記のクレアチニン測定方法の工程A及びBに加えて、
(F)前記尿と前記クレアチニン測定用試薬とが接触する前に、前記尿の電気特性を測定する工程、及び
(G)前記工程Bにおける測定値と、前記工程Fにおいて測定された前記電気特性とに基づいて、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める工程をさらに含む。
【0046】
尿とクレアチニン測定用試薬とが接触して尿中にクレアチニン測定用試薬が溶解する前における尿の電気特性は、尿中に含まれる電解質の濃度を反映している。尿中に含まれる電解質の濃度は、尿中に含まれる塩分の濃度と相関がある。塩分等の成分は、水分摂取、発汗などの影響を受け、濃縮または希釈されて尿中に排泄される。そのため、昼間、夜間を問わず随時に採取された尿である随時尿中に含まれる塩分等の尿中成分の濃度は、尿の濃縮・希釈の影響を受けて変動する。
【0047】
一方、上述のように、クレアチニンは筋肉量に依存して産生されることから、単位時間当たりの尿中へのクレアチニンの排泄量は一定であることが知られている。そこで、随時尿を用いた場合であっても、例えば、測定された尿中成分濃度のクレアチニン濃度に対する比(尿中成分/クレアチニン比)を求めることにより、尿の濃縮・希釈の影響を補正することができる。
【0048】
本発明の尿中塩分量測定方法によると、クレアチニン濃度を精度良く反映している、工程Bにおける測定値と、塩分濃度を反映している、工程Fにおいて測定された電気特性とを用いることにより、尿の濃縮・希釈の影響が精度良く補正されるので、尿中への塩分の排泄量を適切に反映する値を求めることができる。
【0049】
ここで、尿の電気特性としては、抵抗、導電率、インピーダンス、入力された電流(または電圧)信号に対して出力される電圧(または電流)信号、入力された交流信号の位相と出力される交流信号の位相との位相差等が挙げられる。
【0050】
工程Gにおいて求められる尿中への塩分の排泄量を反映する値としては、クレアチニン単位量当たりの塩分量、単位時間(例えば1日)当たりの尿中塩分排泄量、単位時間(例えば1日)当たりの塩分摂取量等が挙げられる。
【0051】
本発明のクレアチニン測定デバイスは、上記のクレアチニン測定方法に用いられるクレアチニン測定デバイスであって、クレアチニンを含む試料を収容するための試料収容室と、前記試料収容室と連通し、前記試料収容室内に前記試料を導入するための試料導入口と、前記試料収容室内に配置された、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを備える。
【0052】
このデバイスによると、従来の測定デバイスと異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素やピクリン酸がない状態であってもクレアチニンとキノン化合物とが直接反応するので、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0053】
本発明のクレアチニン測定デバイスは、前記試料収容室内に配置されたリン酸系緩衝剤をさらに備えていてもよい。
【0054】
本発明の尿中塩分量測定デバイスは、上記の尿中塩分量測定方法に用いられる尿中塩分量測定デバイスであって、試料である尿を収容するための第1の試料収容室と、前記第1の試料収容室と連通し、前記第1の試料収容室内に前記尿を導入するための第1の試料導入口と、前記第1の試料収容室内に配置された、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬と、前記尿を収容するための第2の試料収容室と、前記第2の試料収容室と連通し、前記第2の試料収容室内に前記尿を導入するための第2の試料導入口と、前記第2の試料収容室内に配置された少なくとも2つの電極とを備える。このデバイスによると、クレアチニン濃度を精度良く反映している、尿中に含まれるクレアチニンとクレアチニン測定用試薬との反応の量と、塩分濃度を反映している尿の電気特性とを測定することができる。上記反応量と電気特性とを用いることにより、尿の濃縮・希釈の影響が精度良く補正されるので、尿中への塩分の排泄量を適切に反映する値を求めることができる。
【0055】
本発明のクレアチニン測定装置は、上記のクレアチニン測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記クレアチニン測定デバイスの前記試料収容室内におけるクレアチニンと前記クレアチニン測定用試薬との反応を光学的に測定する測定部、及び前記測定部における測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める演算部を備える。
【0056】
この測定装置によると、測定デバイス取付け部に取付けられた上記のクレアチニン測定デバイスを用いて、光学的に試料中に含まれるクレアチニンの濃度または量を測定することができる。本発明のクレアチニン測定装置は、従来の測定装置と異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素やピクリン酸がない状態であってもクレアチニンとキノン化合物とが直接反応するので、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0057】
本発明のクレアチニン測定装置は、前記測定部が、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記クレアチニン測定デバイスの前記試料収容室内に入射する入射光を出射する光源、及び前記試料収容室内を透過した透過光または前記試料収容室内において反射した反射光を検出する受光器を有し、前記演算部が、前記受光器において検出された前記透過光または前記反射光の強度に基づいて前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求めてもよい。
【0058】
この構成によると、測定デバイス取付け部に取付けられた上記のクレアチニン測定デバイスを用いて、試料中に含まれるクレアチニンの濃度または量を光学的に容易に求めることができる。
【0059】
本発明の尿中塩分量測定装置は、上記の尿中塩分量測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記尿中塩分量測定デバイスの前記第1の試料収容室内におけるクレアチニンと前記クレアチニン測定用試薬との反応を光学的に測定する第1の測定部、前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記尿中塩分量測定デバイスの前記第2の試料収容室内における前記尿の電気特性を測定する第2の測定部、及び前記第1の測定部における測定値と前記第2の測定部により測定された前記電気特性とに基づき、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める演算部を備える。この測定装置によると、高精度に定量された尿中のクレアチニン濃度を用いて、測定された尿の電気特性に対して尿の濃淡を補正することができるので、精度良く尿中に含まれる塩分の量を求めることができる。
【0060】
本発明の尿中塩分量測定方法によると、クレアチニン濃度を精度良く反映している、尿中に含まれるクレアチニンとクレアチニン測定用試薬との反応の量と、塩分濃度を反映している尿の電気特性とを用いることにより、尿の濃縮・希釈の影響が精度良く補正されるので、尿中への塩分の排泄量を適切に反映する値を求めることができる。
【0061】
試料としては、水溶液の他、血液、血清、血漿、尿、間質液、リンパ液、唾液などの体液が挙げられる。特に、尿は非侵襲的に在宅での日常の健康管理を行うためには非常に有効的な試料である。これらの体液中のイオン種および尿素の濃度は比較的高いので、本発明の効果が非常に高く得られる。
【0062】
本発明における少なくとも2つの電極の材料としては、金、白金、パラジウムあるいはそれらの合金または混合物、及びカーボンのいずれかを少なくとも含むものが好ましい。これらの材料は化学的、電気化学的に安定であり、安定した測定を実現することができる。
【0063】
本発明における光源としては、キノン化合物とクレアチニンとの反応により吸収強度が変化する波長を含む光を出射するものであればよい。光源としては、例えば、LED、レーザ等が挙げられる。
【0064】
本発明の測定デバイスにおいては、クレアチニン測定用試薬が乾燥状態で備えられ、試料収容室内に試料が導入されたときに試料に溶解するように配置されていることが好ましい。
【0065】
例えば、ガラス繊維や濾紙等から構成される多孔性の担体にクレアチニン測定用試薬を含む溶液を含浸させた後、乾燥させることによりクレアチニン測定用試薬を上記担体に担持させ、当該担体を試料と接する部分に設ければよい。また、測定デバイスにおける試料と接する部分の壁面に、クレアチニン測定用試薬を含む溶液を直接塗布した後乾燥することによりクレアチニン測定用試薬を配置してもよい。
【0066】
上記測定デバイスは着脱可能な状態で測定装置の測定デバイス取付け部に取付けられることが好ましい。また、特に尿や血液などの生体液を用いる場合には衛生的な観点から、測定デバイスは使い捨てであることが好ましい。
【0067】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0068】
(実施の形態1)
次に、本発明の実施の形態1に係るクレアチニン測定デバイスについて、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態におけるクレアチニン測定デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【0069】
本実施の形態に係るクレアチニン測定デバイス400は、光学的に試料中に含まれるクレアチニンの濃度を定量するクレアチニン測定方法に用いられる。本実施の形態に係るクレアチニン測定デバイス400は、絶縁性の第1の基板102及び空気孔108を有する第2の基板104が、スリット110を有するスペーサ106を挟んで組み合わされた構造を有している。
【0070】
第1の基板102上にはクレアチニン測定用試薬を含む試薬層130が配置されている。第1の基板102の寸法は、適宜設定すればよいが、例えば、幅が7mm程度、長さが30mm程度、厚みが0.7mm程度である。
【0071】
次に、クレアチニン測定デバイス400の製造方法について説明する。本実施の形態においては、クレアチニン測定用試薬の有効成分として、キノン化合物である1,2−ナフトキノンを用いている。
【0072】
まず、ポリエチレンテレフタレート製の第1の基板102上に、クレアチニン測定用試薬である1,2−ナフトキノン、リン酸二水素カリウム、及びリン酸水素二カリウムを溶解した水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて一定量滴下した後、第1の基板102を室温〜30℃程度の環境に静置して乾燥させることにより試薬層130を形成する。塗布する試薬を含む水溶液の濃度及び量は、必要とするデバイスの特性やサイズに応じて選択すればよいが、例えば、試薬を含む水溶液中の1,2−ナフトキノンの濃度が0.5mM程度であり、滴下量が0.7mL程度である。また、試薬層130を形成する領域の面積は、試料に対する試薬の溶解性などを鑑みて適宜選択すればよいが、例えば、その面積を3mm程度とする。
【0073】
次に、試薬層130が形成された第1の基板102、スリット110を有するポリエチレンテレフタレート製のスペーサ106、及び空気孔108を有する第2の基板104を組み合わせる。第1の基板102、スペーサ106及び第2の基板104の各接合部分に接着剤を塗布し、これらを張り合わせた後、押圧して静置し接着させる。この方法に代えて、接着剤を塗布せずに組み合わせた後、市販の溶着機を用いて接合部分を熱または超音波によって溶着させてもよい。
【0074】
第1の基板102、スペーサ106及び第2の基板104を組み合わせたときに、第1の基板102、スペーサ106に設けられたスリット110及び第2の基板104により形成される空間部が、試料収容室として機能する。また、スリット110の開口部が試料導入口132として機能する。
【0075】
次に、本実施の形態に係るクレアチニン測定装置及びそれを用いたクレアチニン測定方法について、図2及び3を用いて説明する。図2は、本実施の形態に係るクレアチニン測定装置500の外観を示す斜視図、図3はクレアチニン測定装置500の構成を示すブロック図である。
【0076】
まず、クレアチニン測定装置500の構成について、図2を参照しながら説明する。
【0077】
クレアチニン測定装置500の筐体202には、クレアチニン測定装置500にクレアチニン測定デバイス400を取付けるための測定デバイス取付け部208、測定結果等が表示されるディスプレイ204、及びクレアチニン測定装置200によるクレアチニンの測定を開始させるための測定開始ボタン206が設けられている。
【0078】
次に、クレアチニン測定装置500の筐体202内部の構成について、図3を参照しながら説明する。
【0079】
クレアチニン測定装置500は、筐体202内部に、光源502、受光器504、制御部306、計時部308、及び記憶部310を備えている。
【0080】
光源502は、測定デバイス取付け部208に取付けられたクレアチニン測定デバイス400の試料収容室内に入射する光を出射する機能を有する。光源502から出射される光の波長は、1,2−ナフトキノンとクレアチニンとの反応により吸収強度が変化する波長を選択すればよい。光源502としては、例えば、410nmを含む波長範囲の光を出射する紫色LEDを用いる。
【0081】
受光器504は、光源502から出射され、測定デバイス取付け部208に取付けられたクレアチニン測定デバイス400の試料収容室内において反射した光を検出する機能を有する。
【0082】
記憶部310には、クレアチニンの濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す検量線に相当する相関データが格納されている。記憶部310としては、例えば、RAM、ROM等のメモリを用いることができる。
【0083】
制御部306は、上記相関データを参照して、受光器504により検出される反射光の強度をクレアチニン濃度に換算する機能を有する。制御部306は、本発明における演算部に相当する。制御部306としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータを用いることができる。
【0084】
次に、クレアチニン測定デバイス400及びクレアチニン測定装置500を用いた、本実施の形態に係るクレアチニン測定方法について説明する。
【0085】
まず、使用者がクレアチニン測定デバイス400の試料導入口132と反対側をクレアチニン測定装置500の測定デバイス取付け部208に挿入する。
【0086】
測定デバイス取付け部208にクレアチニン測定デバイス400が挿入されると、測定デバイス取付け部208内に設けられたマイクロスイッチからなる測定デバイス挿入検知スイッチが作動して、制御部306に信号を出力する。測定デバイス挿入検知スイッチからの出力信号により制御部306がクレアチニン測定デバイス400の挿入を検知すると、制御部306は光源502を作動させる。これにより、クレアチニン測定デバイス400の試料収容室に光源502からの光が照射される。
【0087】
次に、使用者が、クレアチニン測定デバイス400の試料導入口132に、試料を接触させる。この接触により、試料導入口132を通ってクレアチニン測定デバイス400の試料収容室内に、試料が毛管現象により吸引され、試料収容室内が試料によって充填される。試料収容室内における光の照射位置に到達すると、透過率が変化するため、それに起因して反射光強度の変化を受光器504が検出する。
【0088】
受光器504からの出力信号により、試料収容室に試料が導入されたことを制御部306が検知すると、制御部306がタイマーである計時部308による計時を開始させる。
【0089】
試料収容室内に露出している試薬層130と試料とが接触すると、試薬層130に含まれるクレアチニン測定用試薬中の1,2−ナフトキノンが試料中に溶解する。試料中に溶解した1,2−ナフトキノンが試料中に含まれるクレアチニンと直接反応することにより、クレアチニンの酸化物と還元された1,2−ナフトキノンとが生成する。1,2−ナフトキノンが還元されることにより、試料の吸収スペクトルが変化する。ここで、試料の吸収スペクトルの変化量は、還元された1,2−ナフトキノンの濃度に依存する。
【0090】
計時部308からの信号によって、所定時間(例えば、60秒)経過したことを制御部306が判断すると、試料収容室内において反射した光の強度を受光器504において測定する。このとき、受光器504において測定される反射光の強度は、試料中に含まれるクレアチニン濃度に依存する。
【0091】
制御部306は記憶部310に格納されているクレアチニンの濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す検量線に相当する相関データを読み出し、それを参照することにより、受光器504において検出された反射光の強度を試料中のクレアチニン濃度に換算する。
【0092】
得られたクレアチニン濃度はディスプレイ204に表示される。ディスプレイ204にクレアチニン濃度が表示されることにより、ユーザはクレアチニン濃度測定が完了したことがわかる。得られたクレアチニン濃度は、計時部308により計時された時刻とともに記憶部310に保存されることが好ましい。
【0093】
本実施の形態に係るクレアチニン測定デバイス400によれば、従来の測定デバイスと異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素やピクリン酸がない状態であってもクレアチニンと1,2−ナフトキノンとが直接反応するので、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0094】
なお、本実施の形態においては、クレアチニン測定用試薬中の有効成分として1,2−ナフトキノンを用いる例を示したが、代わりに5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いてもよい。クレアチニン測定用試薬の有効成分として5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いる場合にも、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0095】
また、本実施の形態では、クレアチニン測定デバイスが1つの試薬層を備える例を示したこれに限定されない。クレアチニン測定デバイスが、2つの試薬層、例えばクレアチニン測定用試薬を含む第1の試薬層とリン酸系緩衝剤を含む第2の試薬層とを備えていてもよい。
【0096】
また、本実施の形態においては、試料の検知後、反射光強度を検出するまでの時間(反応時間)を60秒とする例を示したが、必ずしもその値である必要はない。クレアチニン濃度の違いに対する反射光強度の差を有意に検出できる限り、反応時間は上記より小さい値を用いることができる。一方、反応時間をより大きくした場合、クレアチニンと1,2−ナフトキノンとの反応が完了状態あるいは定常状態に達する可能性が高まるため、温度などの環境条件の影響を受けずにクレアチニンの存在量をより正確に定量しやすくなる。
【0097】
また、クレアチニン測定デバイスの試料収容室内への試料の導入をより円滑にするために、レシチンをトルエンまたはその他の有機溶媒に溶解した溶液を、第2の基板の内壁に塗布して乾燥させることによりレシチン層を形成してもよい。このような構造にすることにより、試料量をより再現性よく一定とすることができるため、より精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0098】
また、クレアチニン測定装置が、測定結果として得られたクレアチニン濃度をSDカードなどの記憶媒体に記録するための記録部をさらに備えていてもよい。取り外し可能な記憶媒体に保存することにより、測定結果をクレアチニン測定装置から容易に取り出すことができるので、分析関連業者に測定結果の分析を依頼することが容易になる。
【0099】
また、クレアチニン測定装置が、測定結果として得られたクレアチニン濃度をクレアチニン測定装置外に送信するための送信部をさらに備えていてもよい。これにより、測定結果を、病院内の分析関連部門または分析関連業者等に送信し、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析することができるので、測定から分析までの時間を短縮することができる。
【0100】
また、クレアチニン測定装置が、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部をさらに備えていてもよい。これにより、分析結果を迅速に使用者にフィードバックすることができる。
【0101】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る尿中塩分量測定デバイスについて、図4及び5を用いて説明する。図4は、本実施の形態における尿中塩分量測定デバイスを第1の基板の第1の面側からみた構成を示す分解斜視図であり、図5は、本実施の形態における尿中塩分量測定デバイスを第1の基板の第2の面側からみた構成を示す分解斜視図である。
【0102】
本実施の形態に係る尿中塩分量測定デバイス700は、試料である尿中に含まれるクレアチニンを光学的に測定するとともに尿の電気特性を測定し、これらの測定結果を用いて、1日に排泄される尿中に含まれる塩分の量を推定する方法に用いられる。
【0103】
本実施の形態に係る尿中塩分量測定デバイス700は、絶縁性の第1の基板102及び空気孔108を有する第2の基板104が、第1の基板102の第1の面702と第1のスペーサ106とが接するように、スリット110を有する第1のスペーサ106を挟んで組み合わされ、さらに絶縁性の第1の基板102及び空気孔708を有する第3の基板704が、第1の基板102の第2の面802と第2のスペーサ706とが接するように、スリット710を有する第2のスペーサ706を挟んで組み合わされた構造を有している。
【0104】
第1の基板102の第1の面702上には、実施の形態1に係るクレアチニン測定デバイス100と同様に、クレアチニン測定用試薬を含む試薬層130が配置されている。
【0105】
一方、第1の基板102の第2の面802上には、第1の電極712、第2の電極714、第3の電極716、第4の電極718、第1の電極712と電気的に接続された第1のリード722、第2の電極714と電気的に接続された第2のリード724、第3の電極716と電気的に接続された第3のリード726、及び第4の電極718と電気的に接続された第4のリード728が配置されている。第1の基板102の寸法は、適宜設定すればよいが、例えば、幅が7mm程度、長さが30mm程度、厚みが0.7mm程度である。
【0106】
次に、尿中塩分量測定デバイス700の製造方法について説明する。
【0107】
まず、ポリエチレンテレフタレート製である第1の基板102の第2の面802上に、樹脂製の電極パターンマスクを設置した状態でパラジウムをスパッタリングすることによって、第1の電極712、第2の電極714、第3の電極716、第4の電極718、第1のリード722、第2のリード724、第3のリード726、及び第4のリード728を形成する。第1の電極712、第2の電極714、第3の電極716、及び第4の電極718は、それぞれ第1のリード722、第2のリード724、第3のリード726、及び第4のリード728によって、後述する尿中塩分量測定装置の端子と電気的に接続される。
【0108】
次に、第1の基板102の第1の面702上に、クレアチニン測定用試薬である1,2−ナフトキノン、リン酸二水素カリウム、及びリン酸水素二カリウムを溶解した水溶液を、マイクロシリンジなどを用いて一定量滴下した後、第1の基板102を室温〜30℃程度の環境に静置して乾燥させることにより試薬層130を形成する。塗布する試薬を含む水溶液の濃度及び量は、必要とするデバイスの特性やサイズに応じて選択すればよいが、例えば、試薬を含む水溶液中の1,2−ナフトキノンの濃度が0.5mM程度であり、滴下量が0.7mL程度である。また、試薬層130を形成する領域の面積は、試料に対する試薬の溶解性などを鑑みて適宜選択すればよいが、例えば、その面積を3mm程度とする。
【0109】
次に、第1の基板102の第1の面702と第1のスペーサ106とが接し、第1の基板102の第2の面802と第2のスペーサ706とが接するように、空気孔108を有する第2の基板104、スリット110を有するポリエチレンテレフタレート製の第1のスペーサ106、第1の基板102、スリット710を有するポリエチレンテレフタレート製の第2のスペーサ706、及び空気孔708を有する第3の基板704を組み合わせる。各部材の各接合部分に接着剤を塗布し、これらを張り合わせた後、押圧して静置し接着させる。この方法に代えて、接着剤を塗布せずに組み合わせた後、市販の溶着機を用いて接合部分を熱または超音波によって溶着させてもよい。
【0110】
第1の基板102、第1のスペーサ106及び第2の基板104を組み合わせたときに、第1の基板102、第1のスペーサ106に設けられたスリット110及び第2の基板104により形成される空間部が、クレアチニン測定用の第1の試料収容室として機能する。また、スリット110の開口部がクレアチニン測定用の第1の試料導入口132として機能する。
【0111】
一方、第1の基板102、第2のスペーサ706及び第3の基板704を組み合わせたときに、第1の基板102、第2のスペーサ706に設けられたスリット710及び第3の基板704により形成される空間部が、尿の電気特性用の第2の試料収容室として機能する。また、スリット710の開口部が尿の電気特性用の第2の試料導入口732として機能する。
【0112】
次に、本実施の形態に係る尿中塩分量測定装置及びそれを用いた尿中塩分量測定方法について、図6及び7を用いて説明する。図6は、本実施の形態に係る尿中塩分量測定装置900の外観を示す斜視図、図7は尿中塩分量測定装置900の構成を示すブロック図である。
【0113】
まず、尿中塩分量測定装置900の構成について、図6を参照しながら説明する。
【0114】
尿中塩分量測定装置900の筐体202には、尿中塩分量測定装置900に尿中塩分量測定デバイス700を取付けるための測定デバイス取付け部208、測定結果等が表示されるディスプレイ204、及び尿中塩分量測定装置900によるクレアチニン及び尿の電気特性の測定を開始させるための測定開始ボタン206が設けられている。また、測定デバイス取付け部208の内部には、測定デバイス取付け部208に取り付けられた尿中塩分量測定デバイス700の第1のリード722、第2のリード724、第3のリード726、及び第4のリード728とそれぞれ電気的に接続される第1の端子、第2の端子、第3の端子、及び第4の端子が設けられている。
【0115】
次に、尿中塩分量測定装置900の筐体202内部の構成について、図7を参照しながら説明する。
【0116】
尿中塩分量測定装置900は、筐体202内部に、光源502、受光器504、定電流交流電源902、電圧検出器904、制御部306、計時部308、及び記憶部310を備えている。
【0117】
光源502は、測定デバイス取付け部208に取付けられた尿中塩分量測定デバイス700の第1の試料収容室内に入射する光を出射する機能を有する。光源502から出射される光の波長は、1,2−ナフトキノンとクレアチニンとの反応により吸収強度が変化する波長を選択すればよい。光源502としては、例えば、410nmを含む波長範囲の光を出射する紫色LEDを用いる。
【0118】
受光器504は、光源502から出射され、測定デバイス取付け部208に取付けられた尿中塩分量測定デバイス700の第1の試料収容室内において反射した光を検出する機能を有する。
【0119】
定電流交流電源902は、測定デバイス取付け部208に取付けられた尿中塩分量測定デバイス700の第1のリード722及び第4のリード728とそれぞれ電気的に接続された第1の端子及び第4の端子を介して、尿中塩分量測定デバイス700の第1の電極712と第4の電極718との間に一定の交流電流を印加する機能を有する。印加する交流電流は、例えば、周波数が1kHz程度、電流値が0.1mA程度である。
【0120】
電圧検出器904は、第2の端子及び第3の端子を介して、第2の電極714と第3の電極716との間の電圧(交流電圧の実効値)を検出する機能を有する。
【0121】
記憶部310には、クレアチニンの濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す第1の検量線に相当する第1の相関データ、塩分の濃度と電圧検出器904により検出される電圧との相関を表す第2の検量線に相当する第2の相関データ、及び1日当たりの尿中塩分排泄量とクレアチニン濃度により補正された塩分濃度との相関を表す第3の検量線に相当する第3の相関データが格納されている。記憶部310としては、例えば、RAM、ROM等のメモリを用いることができる。
【0122】
制御部306は、第1の相関データを参照して、受光器504により検出された反射光の強度をクレアチニン濃度に換算する機能、第2の相関データを参照して、電圧検出器904により検出された電圧を塩分濃度に換算する機能、得られたクレアチニン濃度を用いて塩分濃度を補正する機能、及び第3の相関データを参照して、補正後の塩分濃度を1日当たりの尿中塩分排泄量に換算する機能を有する。制御部306は、本発明における演算部に相当する。制御部306としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータを用いることができる。
【0123】
次に、尿中塩分量測定デバイス700及び尿中塩分量測定装置900を用いた、本実施の形態に係る尿中塩分量測定方法について説明する。
【0124】
まず、使用者が尿中塩分量測定デバイス700のリード側を尿中塩分量測定装置900の測定デバイス取付け部208に挿入する。これにより、尿中塩分量測定デバイス700の第1のリード722、第2のリード724、第3のリード726、及び第4のリード728と、測定デバイス取付け部208内部に設けられている第1の端子、第2の端子、第3の端子、及び第4の端子とがそれぞれ接触することにより電気的に導通する。
【0125】
測定デバイス取付け部208に尿中塩分量測定デバイス700が挿入されると、測定デバイス取付け部208内に設けられたマイクロスイッチからなる測定デバイス挿入検知スイッチが作動して、制御部306に信号を出力する。測定デバイス挿入検知スイッチからの出力信号により制御部306が尿中塩分量測定デバイス700の挿入を検知すると、制御部306は光源502を作動させる。これにより、尿中塩分量測定デバイス700の第1の試料収容室に光源502からの光が照射される。
【0126】
次に、使用者が、尿中塩分量測定デバイス700の第1の試料導入口132及び第2の試料導入口732に、試料を接触させる。この接触により、第1の試料導入口132及び第2の試料導入口732を通って尿中塩分量測定デバイス700の2つの試料収容室内に、試料が毛管現象により吸引され、2つの試料収容室内が試料によって充填される。試料が第1の試料収容室内における光の照射位置に到達すると透過率が変化するため、それに起因して反射光強度の変化を受光器504が検出する。
【0127】
受光器504からの出力信号により、試料収容室に試料が導入されたことを制御部306が検知すると、制御部306がタイマーである計時部308による計時を開始させる。
【0128】
また、試料導入の検知に伴い、制御部306は定電流交流電源902を制御して、第1の端子及び第4の端子を介して、第1の電極712及び第4の電極718との間に一定の交流電流(例えば、周波数1kHz、電流値0.1mA)を印加する。交流電流の印加から所定時間経過後(例えば5秒後)に、電圧検出器904は第2の電極714及び第3の電極716との間の電圧(交流電流の実効値)を測定する。
【0129】
制御部306は記憶部310に格納されている塩分の濃度と電圧検出器904により検出される電圧との相関を表す第2の相関データを読み出し、それを参照することにより電圧検出器904により検出された電圧を試料中の塩分濃度に換算する。得られた塩分濃度はディスプレイ204に表示される。得られた塩分濃度は、計時部308により計時された時刻とともに記憶部310に保存されることが好ましい。
【0130】
クレアチニン測定用の第1の試料収容室内に露出している試薬層130と試料とが接触すると、試薬層130に含まれるクレアチニン測定用試薬中の1,2−ナフトキノンが試料中に溶解する。試料中に溶解した1,2−ナフトキノンが試料中に含まれるクレアチニンと直接反応することにより、クレアチニンの酸化物と還元された1,2−ナフトキノンとが生成する。1,2−ナフトキノンが還元されることにより、試料の吸収スペクトルが変化する。ここで、試料の吸収スペクトルの変化量は、還元された1,2−ナフトキノンの濃度に依存する。
【0131】
計時部308からの信号によって、所定時間(例えば、60秒)経過したことを制御部306が判断すると、試料収容室内において反射した光の強度を受光器504において測定する。このとき、受光器504において測定される反射光の強度は、試料中に含まれるクレアチニン濃度に依存する。
【0132】
制御部306は記憶部310に格納されているクレアチニン濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す第1の相関データを読み出し、それを参照することにより、受光器504において検出された反射光の強度を試料中のクレアチニン濃度に換算する。
【0133】
次に、制御部306は得られたクレアチニン濃度を用いて塩分濃度を補正する。続いて、制御部306は記憶部310に格納されている1日当たりの尿中塩分排泄量とクレアチニン濃度により補正された塩分濃度との相関を表す第3の検量線に相当する第3の相関データを読み出し、それを参照することにより補正後の塩分濃度を1日当たりの尿中塩分排泄量に換算する。
【0134】
得られたクレアチニン濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量はディスプレイ204に表示される。ディスプレイ204にクレアチニン濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量が表示されることにより、ユーザは測定が完了したことがわかる。得られたクレアチニン濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量は、計時部308により計時された時刻とともに記憶部310に保存されることが好ましい。
【0135】
本実施の形態に係る尿中塩分量測定デバイス700によれば、従来の測定デバイスと異なり、試料収容室内において、クレアチニンに作用する酵素やピクリン酸がない状態であってもクレアチニンと1,2−ナフトキノンとが直接反応するので、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく反応が進行する。そのため、尿や血液などの生体試料を用いた場合であっても、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0136】
また、本実施の形態に係る尿中塩分量測定装置900によれば、高い精度で測定されたクレアチニン濃度により補正された塩分濃度に基づいて、1日当たりの尿中塩分排泄量を算出しているので、1日当たりの尿中塩分排泄量を精度良く求めることができる。
【0137】
なお、本実施の形態においては、クレアチニン測定用試薬中の有効成分として1,2−ナフトキノンを用いる例を示したが、代わりに5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いてもよい。クレアチニン測定用試薬中の有効成分として5−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いる場合にも、塩分等のイオン種、尿素、アミノ酸、糖などの妨害成分の影響を受けることなく、従来の測定デバイスよりも精度良く試料中に含まれるクレアチニンを定量することができる。
【0138】
また、本実施の形態では、尿中塩分量測定デバイスが1つの試薬層を備える例を示したこれに限定されない。尿中塩分量測定デバイスが、2つの試薬層、例えばクレアチニン測定用試薬を含む第1の試薬層とリン酸系緩衝剤を含む第2の試薬層とを備えていてもよい。
【0139】
また、本実施の形態においては、試料の検知後、電気信号を検出するまでの時間(反応時間)を60秒とする例を示したが、必ずしもその値である必要はない。クレアチニン濃度の違いに対する電流値の差を有意に検出できる限り、反応時間は上記より小さい値を用いることができる。一方、反応時間をより大きくした場合、クレアチニンと1,2−ナフトキノンとの反応が完了状態あるいは定常状態に達する可能性が高まるため、温度などの環境条件の影響を受けずにクレアチニンの存在量をより正確に定量しやすくなる。
【0140】
また、本実施の形態では、記憶部に、クレアチニンの濃度と受光器504により検出される反射光の強度との相関を表す第1の検量線に相当する第1の相関データ、塩分の濃度と電圧検出器904により検出される電圧との相関を表す第2の検量線に相当する第2の相関データ、及び1日当たりの尿中塩分排泄量とクレアチニン濃度により補正された塩分濃度との相関を表す第3の検量線に相当する第3の相関データが格納されている例を示したがこれに限定されない。これに代えて、受光器により検出される反射光の強度と電圧検出器により検出される電圧と単位時間当たり(例えば1日)の尿中塩分排泄量との相関を示す相関データが記憶部に格納されていてもよい。この場合は、クレアチニン濃度や塩分濃度を求めなくても、受光器により検出される反射光の強度と電圧検出器により検出される電圧とを用いて、単位時間当たりの尿中塩分排泄量を直接求めることができる。
【0141】
また、尿中塩分量測定デバイスの試料収容室内への試料の導入をより円滑にするために、レシチンをトルエンまたはその他の有機溶媒に溶解した溶液を、第2の基板及び第3の基板の内壁に塗布して乾燥させることによりレシチン層を形成してもよい。このような構造にすることにより、試料量をより再現性よく一定とすることができるため、より精度良く試料中に含まれるクレアチニン及び塩分を定量することができる。
【0142】
また、尿中塩分量測定装置が、測定結果として得られたクレアチニン濃度、塩分濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量をSDカードなどの記憶媒体に記録するための記録部をさらに備えていてもよい。取り外し可能な記憶媒体に保存することにより、測定結果を尿中塩分量測定装置から容易に取り出すことができるので、分析関連業者に測定結果の分析を依頼することが容易になる。
【0143】
また、尿中塩分量測定装置が、測定結果として得られたクレアチニン濃度、塩分濃度及び1日当たりの尿中塩分排泄量を尿中塩分量測定装置外に送信するための送信部をさらに備えていてもよい。これにより、測定結果を、病院内の分析関連部門または分析関連業者等に送信し、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析することができるので、測定から分析までの時間を短縮することができる。
【0144】
また、尿中塩分量測定装置が、分析関連部門または分析関連業者などにおいて分析した結果を受信するための受信部をさらに備えていてもよい。これにより、分析結果を迅速に使用者にフィードバックすることができる。
【実施例】
【0145】
(実施例1)
本発明に係るクレアチニン測定方法の効果を確認するために以下の実験を行った。本実施例では、クレアチニン測定用試薬中の有効成分としてキノン化合物である1,2−ナフトキノンを用い、クレアチニンを含む試料として尿を用いる場合について示す。
【0146】
まず、100mMのリン酸水素二カリウム水溶液と100mMのリン酸二水素カリウム水溶液とを作製した。pHメーターを用いてモニターしながら2つの水溶液を交互に混合することにより、得られる混合水溶液のpHを7に調整した。このようにして得られた100mMのリン酸系緩衝液(pH=7)に1,2−ナフトキノンを濃度が0.1mMとなるよう溶解することにより、1,2−ナフトキノン水溶液を調整した。
【0147】
得られた1,2−ナフトキノン水溶液をガラス製のセル容器に入れ、吸光光度計(島津製作所製、型式:MultiSpec−1500)を用いて、250〜750nmの波長範囲について吸光スペクトルを測定した。次に、尿を別のガラス製セル容器に入れ、同じ吸光光度計を用いて、250〜750nmの波長範囲について吸光スペクトルを測定した。以上の実験は室温(約25℃)にて行った。
【0148】
測定結果について図8を参照しながら説明する。図8は、1,2−ナフトキノン水溶液及び尿について測定された吸光スペクトルを示すグラフである。図8において、横軸は波長(nm)、縦軸は吸光度(任意強度)を示し、線Aが1,2−ナフトキノン水溶液の吸光スペクトル、線Bが尿の吸光スペクトルをそれぞれ示す。
【0149】
図8からわかるように、1,2−ナフトキノン水溶液は、約350nmを中心とする吸収ピーク及び約410nmを中心とする吸収ピークを有する。一方、この約300〜500nmに存在する1,2−ナフトキノンの吸収領域において、尿は緩やかな吸収を有するが、尿の吸収の吸光度に比べて、1,2−ナフトキノンの吸収の吸光度の方が有意に大きいことがわかる。この結果から、1,2−ナフトキノンと尿中に含まれるクレアチニンとの反応に伴う1,2−ナフトキノンの吸収の吸光度変化を測定することが可能であることがわかった。
【0150】
そこで、本発明の実施の形態1に係るクレアチニン測定デバイス400及びクレアチニン測定装置500を用いて、例えば、以下のようにして尿中に含まれるクレアチニン濃度を定量することができる。
【0151】
例えば、410nmを含む波長範囲の光を出射する紫色LEDを光源502として用いる。
【0152】
まず、使用者が、クレアチニン測定デバイス400の試料導入口132に尿を接触させると、試料導入口132を通ってクレアチニン測定デバイス400の試料収容室内に尿が吸引される。試料収容室内における光の照射位置に尿が到達すると、反射率が変化することにより、受光器504において検出される反射光強度が変化する。このとき受光器504により検出された反射光強度Aは、尿中に試薬層130に含まれるクレアチニン測定用試薬が溶解した直後に測定された値であるため、下記(数1)に示すように、尿自身の410nmにおける吸光度A(U)と1,2−ナフトキノンの410nmにおける吸光度A(Q)との和に相当する。
【0153】
【数1】

【0154】
次に、計時部308からの信号によって、所定時間(例えば、60秒)経過したことを制御部306が判断すると、試料収容室内において反射した光の強度を受光器504において測定する。このとき、受光器504において検出される反射光強度Aは、下記(数2)に示すように、尿自身の410nmにおける吸光度A(U)と、尿中に含まれるクレアチニンと1,2−ナフトキノンとの反応に関与しなかった未反応の1,2−ナフトキノンの410nmにおける吸光度A(Q)との和に相当する。
【0155】
【数2】

【0156】
そこで、下記(数3)に示すように、反射光強度Aと反射光強度Aとの差を求めると、尿自身の410nmにおける吸光度A(U)を含まず、尿中に含まれるクレアチニンと反応した1,2−ナフトキノンの濃度を反映する値となる。
【0157】
【数3】

【0158】
したがって、クレアチニンの濃度と受光器504により検出される反射光強度Aと反射光強度Aとの差との相関を表す検量線に相当する相関データを記憶部310にあらかじめ格納しておけば、制御部306がその相関データを読み出し、それを参照することにより、受光器504において検出された反射光強度Aと反射光強度Aとの差を尿中のクレアチニン濃度に換算することができる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、試料、特に尿などの生体試料中に含まれるクレアチニンを定量する際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明の一実施の形態におけるクレアチニン測定デバイスの構成を示す分解斜視図
【図2】同実施の形態におけるクレアチニン測定装置の外観を示す斜視図
【図3】同クレアチニン測定装置の構成を示すブロック図
【図4】本発明の他の実施の形態における尿中塩分量測定デバイスを第1の基板の第1の面側からみた構成を示す分解斜視図
【図5】同尿中塩分量測定デバイスを第1の基板の第2の面側からみた構成を示す分解斜視図
【図6】同実施の形態における尿中塩分量測定装置の外観を示す斜視図
【図7】同尿中塩分量測定装置の構成を示すブロック図
【図8】本発明の一実施例において1,2−ナフトキノン水溶液及び尿についてについて測定された吸光スペクトルを示すグラフ
【符号の説明】
【0161】
102 第1の基板
104 第2の基板
106 スペーサ(第1のスペーサ)
108,708 空気孔
110,710 スリット
130 試薬層
132 試料導入口(第1の試料導入口)
202 筐体
204 ディスプレイ
206 測定開始ボタン
208 測定デバイス取付け部
302 電圧印加部
304 電気信号検出部
306 制御部
308 計時部
310 記憶部
400 クレアチニン測定デバイス
500 クレアチニン測定装置
502 光源
504 受光器
700 尿中塩分量測定デバイス
702 第1の面
704 第3の基板
706 第2のスペーサ
712 第1の電極
714 第2の電極
716 第3の電極
718 第4の電極
722 第1のリード
724 第2のリード
726 第3のリード
728 第4のリード
732 第2の試料導入口
802 第2の面
900 尿中塩分量測定装置
902 定電流交流電源
904 電圧検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クレアチニンを含む試料と、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを接触させることにより、前記試料中に含まれる前記クレアチニンと、前記キノン化合物とが直接反応して、前記キノン化合物の還元物が生成する工程、
(B)前記工程Aにおける前記反応を光学的に測定する工程、並びに
(C)前記工程Bにおける測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める工程を含むクレアチニン測定方法。
【請求項2】
前記キノン化合物のpH7、25℃における酸化還元電位が、銀−塩化銀電極に対して−180mVよりも正である、請求項1記載のクレアチニン測定方法。
【請求項3】
前記キノン化合物が1,2−ナフトキノンである、請求項1または2に記載のクレアチニン測定方法。
【請求項4】
前記工程Aにおいて、
前記試料にリン酸系緩衝剤を接触させることにより、前記試料のpHを4〜8に調整する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクレアチニン測定方法。
【請求項5】
前記工程Bが、
(D)前記試料に入射光を照射する工程、及び
(E)前記試料を透過した透過光または前記試料において反射した反射光を検出する工程を含み、
前記工程Cにおいて、
前記工程Eにおいて検出された前記透過光または前記反射光の強度に基づいて前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクレアチニン測定方法。
【請求項6】
試料として尿を用い、
請求項1に記載のクレアチニン測定方法の工程A及びBに加えて、
(F)前記尿と前記クレアチニン測定用試薬とが接触する前に、前記尿の電気特性を測定する工程、及び
(G)前記工程Bにおける測定値と、前記工程Fにおいて測定された前記電気特性とに基づいて、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める工程をさらに含む尿中塩分量測定方法。
【請求項7】
請求項1に記載のクレアチニン測定方法に用いられるクレアチニン測定デバイスであって、
クレアチニンを含む試料を収容するための試料収容室と、
前記試料収容室と連通し、前記試料収容室内に前記試料を導入するための試料導入口と、
前記試料収容室内に配置された、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬とを備えるクレアチニン測定デバイス。
【請求項8】
前記キノン化合物のpH7、25℃における酸化還元電位が、銀−塩化銀電極に対して−180mVよりも正である、請求項7記載のクレアチニン測定デバイス。
【請求項9】
前記キノン化合物が1,2−ナフトキノンである、請求項7または8に記載のクレアチニン測定デバイス。
【請求項10】
前記試料収容室内に配置されたリン酸系緩衝剤をさらに備える、請求項7〜9のいずれか1項に記載のクレアチニン測定デバイス。
【請求項11】
請求項6に記載の尿中塩分量測定方法に用いられる尿中塩分量測定デバイスであって、
試料である尿を収容するための第1の試料収容室と、
前記第1の試料収容室と連通し、前記第1の試料収容室内に前記尿を導入するための第1の試料導入口と、
前記第1の試料収容室内に配置された、キノン化合物を含むクレアチニン測定用試薬と、
前記尿を収容するための第2の試料収容室と、
前記第2の試料収容室と連通し、前記第2の試料収容室内に前記尿を導入するための第2の試料導入口と、
前記第2の試料収容室内に配置された少なくとも2つの電極とを備える尿中塩分量測定デバイス。
【請求項12】
請求項7に記載のクレアチニン測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記クレアチニン測定デバイスの前記試料収容室内におけるクレアチニンと前記クレアチニン測定用試薬との反応を光学的に測定する測定部、及び
前記測定部における測定値に基づき前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める演算部を備えるクレアチニン測定装置。
【請求項13】
前記測定部が、
前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記クレアチニン測定デバイスの前記試料収容室内に入射する入射光を出射する光源、及び
前記試料収容室内を透過した透過光または前記試料収容室内において反射した反射光を検出する受光器を有し、
前記演算部が、
前記受光器において検出された前記透過光または前記反射光の強度に基づいて前記試料中に含まれる前記クレアチニンの濃度または量を求める、請求項12に記載のクレアチニン測定装置。
【請求項14】
請求項11に記載の尿中塩分量測定デバイスを取付けるための測定デバイス取付け部、
前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記尿中塩分量測定デバイスの前記第1の試料収容室内におけるクレアチニンと前記クレアチニン測定用試薬との反応を光学的に測定する第1の測定部、
前記測定デバイス取付け部に取付けられた前記尿中塩分量測定デバイスの前記第2の試料収容室内における前記尿の電気特性を測定する第2の測定部、及び
前記第1の測定部における測定値と前記第2の測定部により測定された前記電気特性とに基づき、前記尿中への塩分の排泄量を反映する値を求める演算部を備える尿中塩分量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−281906(P2009−281906A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135127(P2008−135127)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】