説明

クレス種子抽出物の新規用途

【課題】クレス種子抽出物の特性に基づいた種々の新規用途を提供する。
【解決手段】クレス種子抽出物の可食性組成物用物性改良剤としての用途、詳細には、耐熱性付与剤、冷凍組成物用増粘安定剤、酸性組成物用増粘剤、高濃度塩分含有組成物用増粘剤、分散安定剤、澱粉組成物用品質改良剤、保水性改良剤、液状組成物の流動性改良剤、食感改良剤、乳化安定剤としての用途。増粘剤組成物として、クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレス種子抽出物の特性に基づいた種々の新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品の品質改良、例えば、増粘性、ゲル化性、安定性、分散性、乳化性、起泡性などの物性を改良したり、食物繊維を強化したりする目的で、種々の食品ハイドロコロイドが使用されている。食品ハイドロコロイドとは、水を分散媒体として食品中に存在する、粒子径約1μm以下のたんぱく質および多糖類のことを指す。食品ハイドロコロイドは特異な物性を有し、それ自身が食品素材として有用なだけでなく、他の食品に少量添加することで食品の物性や機能性を改良する作用がある。食品のおいしさを支配する要因の一つである食感(テクスチャー)と食品物性の間には密接な関係があり、食品物性を制御することができる食品ハイドロコロイドはテクスチャーモディファイアーとも呼ばれている。最近では、咀嚼・嚥下困難者用食品のかたさや喉越しを改良する目的で食品ハイドロコロイドが汎用されており、その使用用途は拡大している。
【0003】
食品ハイドロコロイドのうち食品多糖類は、種々の起源のものがあり、その機能も多種多様である。食品多糖類の起源としては、種子、根茎、樹液、果実、海藻、微生物等があり、それぞれ代表的な物質として、種子ではグァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、水溶性ヘミセルロース、タマリンドシードガム、およびサイリウムシードガムが、根茎ではコンニャク粉、グルコマンナン、およびでん粉が、樹液ではアラビアガム、トラガントガム、カラヤガム、およびガティガムが、果実ではペクチンが、海藻では寒天、カラギナン、アルギン酸、およびアルギン酸塩が、微生物ではキサンタンガム、ジェランガム、プルラン、およびカードラン等を挙げることができる。
【0004】
また、多様化するニーズに応えるために、耐熱性、耐冷凍性、耐酸性、耐塩性などの機能性に優れた食品ハイドロコロイドが求められてきている。これらの要望に応えるための方法として、機能性が異なる複数の食品ハイドロコロイドを併用し、相補的・相乗的効果により解決する方法が考えられている。例えば、キサンタンガムとグァーガム、キサンタンガムとローカストビーンガム、キサンタンガムとグルコマンナン等の組み合わせによる、ゲル強度の上昇や離水の減少等の効果(非特許文献1)が知られている。しかしながら、多様化する市場のニーズに応えるために、更に高度な機能性を有する、新規な素材が求められている。
【0005】
ガーデンクレス(学名:Lepiduim Sativum)の種子の周囲に存在する粘液から熱水抽出された抽出物(以下、「クレス種子抽出物」と記載する)は、L−アラビノース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、L−ラムノース、D−ガラクツロン酸等といった様々な糖からなる多糖類を主成分としている(非特許論文2)。クレス種子抽出物の水溶液は、高い粘性をもち、食品の増粘剤や食感改良剤として使用することができると期待されるが、実際に食品、飲料若しくは医薬品分野などの可食性組成物および経口組成物へ使用された例は特許、非特許文献ともに見られない。
【0006】
【非特許文献1】食品多糖類 乳化・増粘・ゲル化の知識 岡崎直道、佐野征男、幸書房(2001)
【非特許文献2】Biochemical Journal 29 (1935) pp.2477−2485 Kenneth,Belley
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、特に食品、飲料若しくは医薬品などの可食性組成物における、クレス種子抽出物の新規な用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、主にクレス種子抽出物の基礎的性質について鋭意研究を重ねていたところ、クレス種子抽出物が、従来の食品ハイドロコロイドに比べて下記の性質において優れていることを見いだした。
(1)耐熱性
(2)耐冷凍性
(3)耐酸性
(4)耐塩性
(5)分散安定性
(6)流動性改良(レオロジー的に固体的性質が強い)
(7)水への溶解性(特に常温域)
(8)粘度発現の安定性(液性によらず、一定の粘度を発現する)
(9)乳化安定性
【0009】
本発明者らは、これらの知見に基づき、クレス種子抽出物を利用することによって、多機能な増粘剤組成物を調製することができることや、従来の食品ハイドロコロイドでは実現できなかった機能を対象組成物に対して付与できること等を確認して本発明を開発するに至った。
【0010】
つまり、本発明は、クレス種子抽出物およびクレス種子抽出物を含む増粘剤組成物およびその可食性組成物での用途に関する。詳細には、クレス種子抽出物およびクレス種子抽出物を含む増粘剤組成物の各種組成物、特に可食性組成物の物性改良(主に耐熱性、耐冷凍性、耐酸性、耐塩性、分散安定性、耐老化性、保水性、流動性、食感、乳化安定性)に関する。
【0011】
詳細には、以下に掲げるクレス種子抽出物の可食性組成物や経口組成物に関する新規用
途を提供するものである。
項1.クレス種子抽出物を含むことを特徴とする可食性組成物用物性改良剤。
項2.耐熱性付与剤である、項1に記載の物性改良剤。
項3.冷凍組成物用増粘安定剤である、項1に記載の物性改良剤。
項4.酸性組成物用増粘剤である、項1に記載の物性改良剤。
項5.高濃度塩分含有組成物用増粘剤である、項1に記載の物性改良剤。
項6.分散安定剤である、項1に記載の物性改良剤。
項7.澱粉含有組成物用品質改良剤である、項1に記載の物性改良剤。
項8.保水性改良剤である、項1に記載の物性改良剤。
項9.液状組成物の流動性改良剤である、項1に記載の物性改良剤。
項10.食感改良剤である、項1に記載の物性改良剤。
項11.乳化安定剤である、項1に記載の物性改良剤。
項12.クレス種子抽出物を含むことを特徴とする可食性組成物。
項13.クレス種子抽出物を0.02〜15質量%の割合で含む項12記載の可食性組成物。
項14.クレス種子抽出物を添加することを特徴とする、可食性組成物の物性の改質もしくは改良方法。
項15.改質もしくは改良される可食性組成物の物性が、耐熱性、耐冷凍性、耐酸性、耐塩性、分散安定性、耐老化性、保水性、流動性、食感または乳化安定性である項13記載の物性の改質もしくは改良方法。
項16.クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有することを特徴とする増粘剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、可食性組成物の物性改良効果を有する、多様な増粘剤組成物を提供することができる。詳細には、可食性組成物にクレス種子抽出物を含む増粘剤組成物を配合することにより、可食性組成物に耐熱性、耐冷凍性、耐酸性、耐塩性、分散安定性、耐老化性、及び乳化安定性を付与し、可食性組成物の保水性、流動性、および食感を改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、クレス種子抽出物を含むことを特徴とする可食性組成物用物性改良剤に関する。クレス種子抽出物はガーデンクレス、ウォータークレス、ペッパークレス、若しくは胡椒草(学名:Lepiduim Sativum)と呼ばれるアブラナ科の一年草の種子の周囲に存在する粘液を水抽出して得られる抽出物、およびそれをアルコールなどで精製した精製物の総称である。クレス種子抽出物はL−アラビノース、D−ガラクトース、D−グルコース、D−フルクトース、D−マンノース、L−ラムノース、D−ガラクツロン酸、D−グルクロン酸等といった様々な糖からなる平均分子量約50万Daの多糖類を主成分としており、その他の成分としては、少量のタンパクや脂質等が含まれる。
【0014】
本発明の物性改良剤は、クレス種子抽出物が可食性組成物中0.02〜15質量%含有されるように添加することが望ましい。含有濃度が0.02質量%より低いと十分な改質および改良効果が発揮されず、一方、15質量%以上添加してもそれ以上の効果は見込めず、更には粘度等の上昇により製造・作業効率が低下するからである。また、本発明の物性改剤には、クレス種子抽出物の効果を妨げない範囲において、他の多糖類等を併用することができる。
【0015】
本発明の物性改良剤の形態は、錠剤、顆粒、粉末状、液状、ペースト状等何れの形態で使用しても良い。
以下、本発明の物性改良剤の機能毎に述べる。
【0016】
(1)耐熱性付与剤(レトルト殺菌等の過酷な加熱処理を施す可食性組成物に使用する増粘剤)
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする耐熱性付与剤に関する。本発明は、クレス種子抽出物を含有する耐熱性付与剤を組成物、特に可食性組成物に添加することにより、特にレトルト殺菌やUHT(超高温短時間殺菌)などの過酷な殺菌条件や加熱処理を含む工程で製造しても、粘度の変動が少なく、また、内容成分の凝集や分離などが起こらない、物性や食感の安定性が高い可食組成物品が得られることが特徴である。
【0017】
即ち、本発明は、クレス種子抽出物の耐熱性付与剤としての用途、並びに該耐熱性付与剤を含有することにより耐熱性が向上してなる組成物、特に可食性組成物を提供するものである。
【0018】
レトルト殺菌(加熱加圧殺菌)は、加熱時に蒸気や加圧熱水を使用して行う殺菌であり、装置はバッチ式と連続式に大別でき、バッチ式が多用されている。バッチ式も加熱媒体の種類により、加熱蒸気を利用する蒸気式と、加圧加熱水を利用する熱水式がある。現在の主流は熱水式である。可食性組成物を充填した密封容器がレトルト釜の中で固定されている静置式と、時間短縮と熱ムラを少なくするために回転させる回転式など、生産性や内容品に応じて種々のタイプが使用される。本発明では、汎用されるレトルト殺菌条件として、例えば、120〜130℃、20〜40分間を挙げることができる。
【0019】
UHT(超高温;ultra high temperature)殺菌とは超高温殺菌のことであり、120℃以上、120〜150℃程度の高温温度で行う殺菌である。UHT殺菌機を用いた殺菌には、間接加熱方法と直接加熱方法がある。間接加熱方法は、プレート式熱交換、チューブラー式熱交換、かき取り式熱交換などがあり、直接加熱方法には、製品のなかに加圧蒸気を吹き込む方式(injection type)と蒸気の充満した容器のなかに製品を噴射する方式(infusion type)がある。本発明では、汎用されるUHT殺菌条件として、例えば、140℃、30〜60秒間を挙げることができる。
【0020】
本発明の増粘剤(物性改良剤)を組成物に添加することで、レトルト殺菌やUHT殺菌を行っても、粘度の変動が少なく、また、内容成分の凝集や分離などが起こらない、物性や食感の安定性が高い組成物が得られる。よって、特に当該加熱殺菌のような過酷な加熱処理を施す組成物に有用である。かかる組成物、特に可食性組成物として、例えばレトルトカレー、レトルトシチュー、缶詰入りスープなどを挙げることができる。
【0021】
かかる耐熱性付与剤は、組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物を0.02〜15質量%、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.2〜3質量%添加することが好ましい。
【0022】
(2)冷凍組成物用増粘剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする冷凍組成物用増粘剤に関する。本発明は、クレス種子抽出物を含有する冷凍組成物用増粘剤を組成物、特に可食性組成物に添加することにより、冷凍解凍しても冷凍前の食感や保形性が維持され、離水が発生しない、物性や食感の安定性が高い可食性組成物が得られることが特徴である。即ち、本発明は、クレス種子抽出物の耐冷凍性付与剤としての用途、並びに該耐冷凍性付与剤を含有することにより耐冷凍性が向上してなる冷凍組成物、特に冷凍可食性組成物を提供するものである。
【0023】
かかる組成物、特に可食性組成物として、例えば冷凍惣菜類(餃子、コロッケ、ハンバーグ、エビフライ、とんかつ等)および冷凍ソース類等を挙げることができる。
【0024】
本発明の冷凍組成物用増粘剤は、組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物が0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0025】
なお、本発明により調製された冷凍組成物は、凍結・解凍によって内部に包含される水分含量はほとんど変わらない。このため、内部に含まれる成分の濃度(例えば、糖濃度)も変化せず、凍結・解凍によってそれらの成分が溶けきれなくなくなり、析出するということがほとんどなくなる。
【0026】
更には、凍結方法及び解凍方法には特に限定されず、かかる組成物を−18℃のフリーザーに入れて凍結させる方法、室温放置や電子レンジで急速解凍する方法など、通常の方法を広く使用することができる。
【0027】
(3)酸性組成物用増粘剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする酸性組成物用増粘剤に関する。粘度付与の目的で食品ハイドロコロイドを酸性溶液に添加すると、経時的な粘度低下や内容成分の凝集、分離などが起こるなどの問題がある。本発明の増粘剤を組成物、特に可食性組成物に添加することにより、酸性領域下でも経時的な粘度低下や内容成分の凝集・分離が起こらない、物性や食感の安定性が高い組成物を調製することができる。
【0028】
即ち、本発明は、クレス種子抽出物の耐酸性付与剤としての用途、並びに該耐酸性付与剤を含有することにより耐酸性が向上してなる酸性組成物、特に酸性可食性組成物を提供するものである。
【0029】
中でも本発明で使用するクレス種子抽出物は、pH2.5〜5、好ましくはpH3〜4程度の液性を示す酸性の可食性組成物に対して、良好な改質および改良効果を発揮する。
【0030】
かかる組成物、特に可食性組成物として、例えば、ラムネ飲料、スパークリングワイン等の炭酸・微炭酸飲料、オレンジジュース、グレープフルーツジュース等の果汁飲料等を挙げることができる。
【0031】
本発明の酸性組成物用増粘剤は、組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物が0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0032】
(4)高濃度塩分含有組成物用増粘剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする高濃度塩分含有組成物用増粘剤に関する。従来、粘度付与の目的で食品ハイドロコロイドを食塩などの塩を高濃度含有する溶液に添加すると、塩析効果による粘度低下や内容成分の凝集、分離などが起こるなどの問題があった。しかし、本発明の増粘剤を被検組成物、特に可食性組成物に添加することにより、高塩濃度下でも粘度低下や内容成分の凝集・分離が起こらない、物性や食感の安定性が高い組成物を調製することができる。
【0033】
即ち、本発明は、クレス種子抽出物の耐塩性付与剤としての用途、並びに該耐塩性付与剤を含有することにより耐塩性が向上してなる高濃度塩分含有組成物、特に高濃度塩分含有可食性組成物を提供するものである。
【0034】
本発明の高濃度塩分含有組成物用増粘剤は、組成物全質量(100%)に対して、1〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の食塩を含有する組成物に対して、良好な効果を発揮する。かかる組成物、特に可食性組成物として、例えば、蒲焼きのタレ、みたらし団子のタレ、焼き肉のタレ等のタレ類、海苔の佃煮、イカナゴ佃煮等の佃煮類、キムチ、福神漬け等の漬け物類等を挙げることができる。
【0035】
本発明の高濃度塩分含有組成物用増粘剤は、組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物を0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好まくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0036】
(5)分散安定剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする分散安定剤に関する。本発明は、クレス種子抽出物による、固相成分(分散質)の液相(分散媒)への分散性の向上及び安定化作用、並びに油相と水相が混在する非混和性溶液の混和性の向上及び安定化作用に基づく。即ち、クレス種子抽出物を添加することにより、液状組成物中に存在する固形分の分散性および均質性を維持することができるとともに、非混和性の液体が混在する液状組成物の分離を抑えて該液体成分の均質性を保持することができる。即ち、本発明はクレス種子抽出物の分散安定性としての用途、並びに該分散安定性を含有することにより分散性が向上、安定化してなる組成物、特に可食性組成物を提供するものである。
【0037】
本発明の分散安定剤は、例えば、ココア粉、抹茶粉末、カルシウム、野菜・果実等の繊維分、ゼリー粒、ゼリー片、蛋白成分、ゴマ、プラスティックビーズ、顔料、塗料などの固形分が水性媒体もしくはこれに水混和性の有機溶媒を混ぜた媒体に速やかに分散することを助け、かつそれらの凝集、沈降を防ぐ作用を有するものである。
【0038】
また、一般に水性成分と油性成分とは混和せず、振とう若しくは攪拌して両者を懸濁しても直ちに分離してしまう。これに対して、本発明の分散安定剤によれば、水性成分に含まれる各成分の分散性・均質性を安定に維持すると共に、該水性成分に例えば、サラダオイル、オリーブオイル、ゴマ油などの油性成分を配合した場合であっても、ホモミキサー等での攪拌又はホモジナイザーなどでの乳化等により両者を均一に混和せしめ、且つその状態を安定に維持することが可能となる。従って、本発明の分散安定性付与剤は、油性成分が水性成分に容易に混和・懸濁することを助け、さらに分散・懸濁状態を安定化することにより、両成分が速やかに分離してしまうことを防ぐ作用を有するものである。
【0039】
このように、本発明の分散安定剤が対象とする分散系は、分散媒が液相であり、また分散質が固相もしくは液相であれば特に制限されず、例えば、可食性組成物や香粧品などを挙げることができる。
【0040】
可食性組成物として、具体的には、ココア飲料,カルシウム強化飲料、抹茶入り飲料、野菜又は果汁入り飲料,豆乳飲料,ゼリー入り飲料及びしるこドリンク等の飲料、コーンスープ、ポタージュスープ及び卵入りスープ等のスープ、味噌汁、ドレッシング,たれ及びソース等の液体調味料、アイスキャンデー及びソフトクリーム等の冷菓や冷菓ミックス等を例示できる。
【0041】
また、香粧品としては、毛髪化粧料、洗顔料、化粧水、ローションなどの液体化粧料であって、内容成分として固形分または油性成分を含有するものなどが例示される。例えば、パール粉又は金粉等の入ったローション、カラミンパウダーを含むカラミンローション等は、固形分の沈降により使用時に振盪することが必要であり、また使用によって製品が少なくなると固形分の含有量が多くなるなど、成分組成が使用開始時と終わり頃とでは異なる等といった問題がある。しかし、本発明の分散安定剤の使用によれば、かかる固形分を液相中に長期にわたり均質に分散させることができ、均一な成分組成でもって最後まで使い切ることが可能となる。
【0042】
これらの分散系に用いられるクレス種子抽出物の添加量は、対象の分散系がゲル化しない範囲内であれば特に制限されず、対象となる分散系の種類及び内容成分に応じて適宜選択することができる。液相中に存在する固形分の沈殿防止及び液状成分同士の混和性の安定化にはいずれも、分散系100質量%に対してクレス種子抽出物を0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0043】
(6)澱粉含有組成物用品質改良剤(老化抑制剤)
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする澱粉含有組成物用品質改良剤(老化抑制剤)に関する。本発明の物性改良剤を澱粉含有組成物、特に澱粉含有食品組成物に添加することにより、釜落ち現象や割れを抑制し、しかも、パサパサとした食感とならずに、しっとりとした食感を保つことができる。即ち、本発明は、クレス種子抽出物の耐老化性付与剤としての用途、並びに該耐老化付与剤を含有することにより耐老化性が向上してなる澱粉含有組成物、特に可食性澱粉含有組成物を提供するものである。
【0044】
本発明でいう、澱粉含有組成物、特に澱粉含有可食性組成物は、小麦粉、糖類、油脂、全卵等からなる主原料を混合後、焼成、蒸し、揚げなどの加熱処理工程を経て製造される食品である。具体的には、スポンジケーキ、シフォンケーキ、カステラ、チーズケーキ、ホットケーキ、どらやきの皮、クッキー、ドーナツ等を挙げることができる。
【0045】
かかる物性改良効果を得るためには、澱粉含有組成物に使用する穀粉100質量%に対して、クレス種子抽出物が0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0046】
(7)保水性改良剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする保水性改良剤に関する。本発明の保水性改良剤を組成物、特に可食性組成物に添加することにより、冷蔵もしくは常温保存中に可食性組成物から経時的に水分が流出する、いわゆる「離水」を抑制し、水分含量が減少して食感が損なわれたり、味が変化する等の問題を抑制することができる。即ち、本発明は、クレス種子抽出物の保水性改良剤としての用途、並びに該保水性改良剤を含有することにより保水性が向上してなる組成物、特に可食性組成物を提供するものである。
【0047】
本発明の保水性向上剤は、例えば、ソーセージ、ハム、豚カツ、ハンバーグ等の畜肉加工品、肉まん、サンドイッチ等に使用するフィリング類、練りわさび・練りカラシ・練りショウガ等の練り調味料、ヨーグルト等の乳製品、キムチ、浅漬け等の漬物類、佃煮、イチゴジャム、マーマレード等のジャム類、ワインゼリー、コーヒーゼリー、フルーツゼリー等のゼリー類、うどん、そば、パスタ、中華麺等の麺類等に利用することができる。
【0048】
また、本発明の保水性改良剤は、組成物全質量(100質量%)に対して、クレスシード抽出物が0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0049】
(8)液状組成物の流動性改良剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする、液状組成物の流動性改良剤に関する。本発明の流動性改良剤を、液状組成物、特に液状の可食性組成物に添加することにより、該可食性組成物の流動性を液状から弱いゲル状に改質することができる。即ち、本発明は、クレス種子抽出物の流動性改良剤としての用途、並びに該流動性改良剤を含有することにより流動性を改質してなる液状組成物、特に液状可食性組成物を提供するものである。
【0050】
液状の可食性組成物として、例えば、タレ、ドレッシング等を挙げることができ、具材剤へののり(流れない、たれない)を改良し、ショートなテクスチャーを付与することができる。かかる保形性改良のためには、液状組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物が0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0051】
(9)食感改良剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする食感改良剤に関する。本発明の食感改良剤を組成物、特に可食性組成物に添加することより、例えばスープ類やソース類等の液状食品および冷菓等には滑らかな食感を付与することができ、ハンバーグ、餃子の具等の畜肉加工食品にはジューシーな食感を付与することができ、ケーキやドーナツのような澱粉含有食品にはしっとりとした食感を付与することができ、更には、うどん、そば、パスタ、中華麺等麺類にはしっかりとしたコシと滑らかな食感とを付与することができる。即ち、本発明は、クレス種子抽出物の食感改良剤としての用途、並びに該食感改良剤を含有することにより食感が改良してなる組成物、特に可食性組成物を提供するものである。
【0052】
かかる食感改良効果を得るためには、組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物が0.02〜15質量%、好ましくは0.05〜5質量%、より好ましくは0.1〜3質量%添加するのが好ましい。
【0053】
(10)乳化安定剤
本発明は、前記クレス種子抽出物を含有することを特徴とする乳化安定剤に関する。本発明の乳化安定剤を組成物、特に可食性組成物に添加することより、例えば、乳化状ドレッシングまたは半固形状ドレッシング、具体的にはフレンチドレッシング、サラダドレッシング、サラダクリーミードレッシング、マヨネーズタイプドレッシングなどの乳化安定性を著しく向上させることができる。即ち、本発明は、クレス種子抽出物の乳化安定剤としての用途、並びに該乳化安定剤を含有することにより乳化状態が安定化された組成物、特に可食性組成物を提供するものである。
【0054】
かかる乳化安定効果を得るためには、組成物全質量(100質量%)に対して、クレス種子抽出物が0.05〜1.00質量%、好ましくは0.10〜0.40質量%、より好ましくは0.20〜0.30質量%添加するのが好ましい。
【0055】
本発明の物性改良剤の可食性組成物への添加方法は特に制限されず、例えば、他の粉体原料と予め混合する方法、練りこみ、噴霧あるいは浸漬する方法等、従来公知の方法を使用することができる。
【0056】
本発明の物性改良剤が対象とする可食性組成物は、前述のものに限定されるわけでなく、例えば、乳酸菌飲料、果汁入り清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、菜汁飲料、茶飲料、イオン飲料、スポーツ飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、ゼリー飲料、および粉末飲料等の飲料類;カスタードプリン,ミルクプリン、および果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア、および等のデザート類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート、およびメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)やタフィ等のキャラメル類;ソフトビスケットやソフトクッキー等の菓子類;乳化タイプドレッシング、セパレートドレッシング、およびノンオイルドレッシング等のドレッシング類、ケチャップ、たれ、およびソース等のソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、およびプレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ等の加工用果実;ハム、ソーセージ、および焼き豚等の畜肉加工品;魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉すり身、蒲鉾、竹輪、はんぺん、薩摩揚げ、伊達巻き、および鯨ベーコン等の水産練り製品;食パン、菓子パン、および惣菜パン等のパン類、コーヒークリーム、生クリーム、カスタードクリーム、ホイップクリーム、発酵クリーム、およびサワークリーム等のクリーム類、コンソメスープ、ポタージュスープ、クリームスープ、中華スープ等の各種スープ、味噌汁、清汁、シチュウ、カレー、およびグラタン等のスープ類;その他、各種総菜及び加工食品等を挙げることができる。
また、このような一般食品に加えて、蛋白質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、ミキサー食、およびキザミ食等の特殊食品や治療食及びいわゆるトロミ剤と呼ばれる咀嚼・嚥下補助食品等を挙げることができる。
【0057】
(11)クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有する増粘剤組成物
更に、本発明は、クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有することを特徴とする増粘剤組成物に関する。本発明は、クレス種子抽出物にガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを併用することで、ゲル化することなく相乗的に粘度が上昇するという現象に基づく。組成物、特に可食性組成物に、クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンからなる組成物を添加して増粘させることが可能であり、更にガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有する原材料を使用する可食性組成物であれば、クレス種子抽出物のみを添加して増粘させることもできる。即ち、本発明は、クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有する増粘剤組成物、並びに該増粘剤組成物を含有することを特徴とする組成物、特に可食性組成物を提供するものである。
【0058】
本発明で得られる増粘剤組成物は、例えば、飲料、菓子、デザート、タレ等の可食性組成物を、ゲル化させることなく高度に増粘させる場合に有用である。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の内容を以下の実験例および実施例で具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、処方中、特に記載のない限り単位は質量部とし、文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標を示す。
【0060】
調製例1:クレス種子抽出物の調製
クレス種子100kgを0.1MのNaOHでpH10.0に調整した3000Lのイオン交換水に分散し、攪拌しながら35℃で15分間抽出して、得られたスラリー状のガム相を種子表面から掻き落した。ガム相をフィルターろ過し、60℃で18時間静置することにより乾燥した。得られたクレス種子は646gであった。以上のようにして得られたクレス種子抽出物をミルで粉砕し、使用するまで乾燥した冷暗所に保存し、以下の実験に使用した。
【0061】
実験例1:クレス種子抽出物の基礎物性(溶液特性、耐塩性、耐酸性、耐熱性)
80℃に加熱した脱イオン水、3%塩化ナトリウム水溶液、若しくはpH3.0に調整した100mMクエン酸緩衝液に、濃度0.5%(固形物換算)になるようにクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて2,000rpmで10分間攪拌した。攪拌終了後、8℃で10分間静置後、20℃で1時間以上静置して粘度測定に供した。また、上記のクレス種子抽出物溶液を120℃、20分間レトルト加熱処理をし、8℃で10分間静置後、20℃で1時間以上静置した試料の粘度の測定も併せて行った。粘度測定にはB型回転粘度計を用いた。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
クレス種子抽出物溶液の粘度は、全ての溶媒において低回転速度で高く、高回転速度において低くなり、典型的なシュードプラスチック粘性を示した。この結果は、クレス種子抽出物溶液が静置した状態では固体的な性質、激しく攪拌するなどして外力による流れを与えられた場合には液体的な性質になることを示しており、このことはクレス種子抽出物溶液が高い保形性や分散安定性を持つことを示している。クレス種子抽出物は3%塩化ナトリウム水溶液中およびpH3.0に調整されたクエン酸緩衝液中においても、脱イオン水中とほぼ同程度の粘度を示しており、この結果はクレス種子抽出物が食塩や酸への耐性が強いことを示している。また、レトルト加熱後においてもクレス種子抽出物溶液の粘度は、殆ど低下せず、レトルト殺菌のような過酷な加熱条件においてもクレス種子抽出物が高い耐熱性を有することがわかった。
【0064】
実験例2:ガラクトマンナン、グルコマンナンとの相乗効果
クレス種子抽出物と他の多糖類(ローカストビーンガム、グァーガム、コンニャクグルコマンナン)を1:1の比率で予め粉体混合した。80℃に加熱した脱イオン水に、濃度0.5%となるように上記粉体混合物を添加し、プロペラ攪拌機を用いて2,000rpm、10分間攪拌した。8℃で10分間静置後、20℃で1時間以上静置して、粘度測定に供した。粘度測定にはB型回転粘度計を用いた。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
本実験で使用した、ガラクトマンナン(ローカストビーンガム、グァーガム)及びコンニャクグルコマンナン単独の0.5%水溶液の6rpmでの粘度は各々約200、約600、約450mPa・sだった。クレス種子抽出物をローカストビーンガム、グァーガム若しくはコンニャクグルコマンナンと併用すると、いずれの場合においてもゲルの形成はみられなかったが、6rpmでの粘度が650mPa・sから各々2400、2100、3100mPa・sへと飛躍的に増加し、相乗的な増粘効果が認められた。
【0067】
以上の結果から、クレス種子抽出物とガラクトマンナンやグルコマンナンを併用することにより、低添加量でも効果的な増粘効果が得られ、実用的にはコストダウンが図れることが確認できた。また、食品成分によって用途が限定されてしまうキサンタンガム(例えば、食品成分中にローカストビーンガムが存在している場合、キサンタンガムを添加するとゲル化をしてしまい、食感が劇的に変化する場合がある)とは異なり、幅広い食品群で増粘効果を期待できることが示唆された。
【0068】
実験例3:耐冷凍性
80℃に加熱した脱イオン水に、濃度0.5%となるようにクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて2,000rpm、10分間攪拌した。8℃で10分間静置後、20℃で1時間以上静置して粘度測定に供した。その後、溶液を−40℃で約2時間冷凍、20℃で自然解凍(約3時間)して粘度測定に供した(冷凍解凍処理)。冷凍解凍処理は3回繰り返した。粘度測定にはB型回転粘度計を用いた。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
クレス種子抽出物水溶液は冷凍解凍による粘度変化が小さく、冷凍解凍処理を繰り返しても処理前の粘度を維持した。また、澱粉やその他一部の多糖類に見られる、冷凍解凍処理による分子凝集を原因とする相分離現象も認められなかった。以上の結果から、クレス種子抽出物が高い耐冷凍性を有することがわかった。
【0071】
以上の結果から、クレス種子抽出物は高い、耐塩、耐酸、耐熱、耐冷凍性を持っていることが確認され、またその液性から高い分散安定性を持っていることが示唆された。以下にクレス種子抽出物を実際に食品に使用した例を挙げ、クレス種子抽出物の有用性を示す。
【0072】
実施例1:レトルトカレーソース(耐熱性付与;食感改良目的)
表4に処方を示す。水に全原料を加え、80℃で10分間攪拌した。これをアルミパウチに充填し、レトルト殺菌(121℃、20分間)した。
【0073】
【表4】

【0074】
ブランクのカレーソース(比較例1−1)はとろみがなくさらさらとしており、カレー特有の食感が全く感じられなかった。クレス種子抽出物およびタピオカ澱粉を添加したカレーソース(実施例1および比較例1−2)はレトルト処理前には同程度の粘度(とろみ)であったが、クレス種子抽出物を添加したカレーソース(実施例1)は、タピオカ加工澱粉を添加したカレーソース(比較例1−2)に比べてレトルト処理による粘度変化が小さく、食感が重くなく(食感が糊的ではなく)、フレーバーリリースも良好であった。
【0075】
実施例2:レトルトホワイトソース(耐熱性付与;食感改良目的)
表5に処方を示す。牛乳および水に残りの全原料を加え、80℃で10分間攪拌した。これをアルミパウチに充填し、レトルト殺菌(121℃、20分間)した。
【0076】
【表5】

【0077】
ブランクのホワイトソース(比較例2−1)はとろみがなくさらさらとしており、ホワイトソース特有の食感が全く感じられなかった。クレス種子抽出物およびタピオカ澱粉を添加したホワイトソース(実施例2および比較例2−2)はレトルト処理前には同程度の粘度(とろみ)であったが、クレス種子抽出物を添加したホワイトソース(実施例2)は、タピオカ加工澱粉を添加したホワイトソース(比較例2−2)に比べてレトルト処理による粘度変化が小さく、食感が重くなく(食感が糊的ではなく)、フレーバーリリースも良好であった。
【0078】
実施例3:コーンスープ缶詰(耐熱性付与;食感改良目的)
表6に処方を示す。水に焙焼小麦粉およびクレス種子抽出物あるいはタピオカ加工澱粉の粉体混合物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて80℃で10分間攪拌した。残りの全原料を加え、80℃で更に5分間攪拌した。水で質量補正し、均質化(14.7MPa)後、缶容器に充填し、レトルト殺菌(121℃、20分間)した。
【0079】
【表6】

【0080】
ブランクのコーンスープ(比較例3−1)はさらさらとしており、コーンスープ特有のとろみが全く感じられなかった。クレス種子抽出物およびタピオカ澱粉を添加したコーンスープ(実施例3および比較例3−2)はレトルト処理前には同程度の粘度(とろみ)であったが、クレス種子抽出物を添加したコーンスープ(実施例3)は、タピオカ加工澱粉を添加したコーンスープ(比較例3−2)に比べてレトルト処理による粘度変化が小さく、食感が重くなく(食感が糊的ではなく)、フレーバーリリースも良好であった。
【0081】
実施例4:冷凍お好み焼きソース(耐冷凍性付与、食感改良目的)
表7に処方を示す。予め果糖ぶどう糖液糖に分散したクレス種子抽出物あるいはキサンタンガムを、80℃まで加温した水に添加し、プロペラ式攪拌機を用いて10分間攪拌した。残りの全原料を添加し、80℃で更に5分間攪拌した。水で質量補正した後、90℃まで加熱し、容器に充填した。これを急速凍結(−40℃、3時間)して試料を調製し、流水中で常温に戻して評価した。
【0082】
【表7】

【0083】
ブランクのお好み焼きソース(比較例4−1)はさらさらとしており、お好み焼きソース特有のとろみが全く感じられなかった。クレス種子抽出物を添加したお好み焼きソース(実施例4)は、キサンタンガムを添加したお好み焼きソース(比較例4−2)に比べて冷凍解凍処理による粘度変化が小さく、更に食感も滑らかであった。
【0084】
実施例5:冷凍餃子(耐冷凍性付与、食感改良目的)
表8に処方を示す。全原料を混合し、成形(10g/個)した。これを市販の餃子の皮に包み、餃子を調製した。ホットプレートを用いて底面を焼成(180℃、90秒間)し、蒸煮(85℃、5分間)後、急速凍結(−40℃、3時間)した。電子レンジで再加熱して評価した。
【0085】
【表8】

【0086】
クレス種子抽出物の添加により(実施例5)、ブランク(比較例5−1)に比べて歩留りが上昇し、具材の縮みが抑制され、食感がジューシーでソフトになった。
【0087】
実施例6:ラムネ飲料(酸性組成物における増粘、食感改良目的)
表9に処方を示す。水にクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて80℃で10分間攪拌した。クエン酸、クエン酸三ナトリウム、スクラロース(1%水溶液として使用)、および香料を添加後、水を加えて全量を調整した。8℃の水浴中で冷却し、炭酸水と混合後、瓶に充填した。70℃で20分間加熱し、8℃の水浴中で冷却後、5℃で保存した。なお、飲料の最終pHは3.1であった。
【0088】
【表9】

【0089】
ノン/ローシュガータイプの炭酸飲料にクレス種子抽出物を添加すると、比較例6に比べボディ感が増し、口当たりがリッチになった。クレス種子抽出物は酸性領域でも良好に粘度発現し、粘度の経時変化も小さいため、保存による品質(物性および食感)の低下は認められなかった。
【0090】
実施例7:果汁飲料(酸性組成物における増粘、分散安定目的)
表10に処方を示す。水にHMペクチンあるいはクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて20℃で10分間攪拌した。砂糖および果汁を添加後、50%クエン酸溶液を加えて、pH3.5に調整した。93℃達温まで加熱後、瓶に充填した。8℃の水浴中で冷却後、5℃で保存した。なお、飲料の最終pHは3.8であった。
【0091】
【表10】

【0092】
果汁飲料にクレス種子抽出物を添加することで、比較例7−1に比べてパルプ質などの不溶性固形分の沈澱を抑制できた(実施例7)。クレス種子抽出物溶液はレオロジー的に固体的な性質が強く、HMペクチンに比べて低添加量で効果があった。クレス種子抽出物は酸性領域でも良好に粘度発現し、粘度の経時変化も小さいため、保存による品質(物性および食感)の低下は認められなかった。
【0093】
実施例8:ノンオイルドレッシング(分散安定目的)
表11に処方を示す。予め果糖ぶどう糖液糖に分散させたクレス種子抽出物を、80℃に加温した水に添加し、プロペラ式攪拌機を用いて10分間攪拌した。これにリンゴ酢、レモン果汁、醸造酢、食塩、L-グルタミン酸ナトリウム、調味料、およびDL−リンゴ酸を加え、80℃で更に5分間攪拌した。次いで香味料、香料およびバジルチップを添加し、室温まで冷却後、水で質量補正した。
【0094】
【表11】

【0095】
クレス種子抽出物の添加により、ドレッシングの粘度を劇的に上昇させることなく、適度な濃厚感で、かつバジルをドレッシング中に均一に分散・保持できた。
【0096】
実施例9:分離型ドレッシング(分散安定目的)
表12に処方を示す。水および果糖ぶどう糖液糖にクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて80℃で10分間攪拌した。残りの全原料を添加し、80℃で更に5分間攪拌した。水で質量を補正後、同量のサラダ油と混合し、ドレッシングを調製した。
【0097】
【表12】

【0098】
クレス種子抽出物の添加により水相部と油部の混和性がよくなり、容器を振ることで水相部と油相部が擬似乳化し、乳化状態が長時間維持された。
【0099】
実施例10:蒲焼きのたれ(高濃度塩分含有組成物における増粘、保形目的)
表13に処方を示す。クレス種子抽出物を、80℃に加温した水に添加し、プロペラ式攪拌機を用いて10分間攪拌した。残りの全原料を添加し、90℃になるまで更に攪拌した。水で質量補正した後、ホットパック充填した。
【0100】
【表13】

【0101】
クレス種子抽出物の添加により、保形性が向上し、のりの良い(たれない)たれとなり、蒲焼の歩留りが向上した。
【0102】
実施例11:みたらし団子のたれ(高濃度塩分含有組成物における増粘、保形目的)
表14に処方を示す。砂糖およびクレス種子抽出物を予め混合し、水、液糖、および濃口醤油に添加した後、プロペラ式攪拌機を用いて常温で5分間攪拌した。残りの全原料を加えて更に1分間攪拌した後、加温し、80℃で10分間攪拌した。90℃まで加熱、水で質量補正した後、ホットパック充填した。
【0103】
【表14】

【0104】
クレス種子抽出物の添加により、保形性が向上し、のりの良い(たれない)たれとなり、みたらし団子の歩留りが向上した。
【0105】
実施例12:焼肉のたれ(高濃度塩分含有組成物での増粘、分散安定、保形目的)
表15に処方を示す。水にクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて80℃で10分間攪拌した。残りの全原料を添加し、90℃になるまで更に攪拌した。水で質量補正した後、ホットパック充填した。
【0106】
【表15】

【0107】
クレス種子抽出物の添加により、たれの保形性が向上するとともに、胡麻がたれ中に均一に分散し、経時的にも沈澱せず、安定であった。
【0108】
実施例13:海苔の佃煮(高濃度塩分含有組成物での増粘、保水、食感改良目的)
表16に処方を示す。砂糖とクレス種子抽出物を予め混合し、80℃に加温した水に添加した後、プロペラ式攪拌機を用いて10分間攪拌した。鍋中で残りの全原料と、砂糖及びクレス種子抽出物混合溶液を混合し、全量が100質量部になるまで煮詰め、容器に充填した。
【0109】
【表16】

【0110】
クレス種子抽出物の添加により離水が減少し、つやのよい、口どけのよい滑らかな食感となった。
【0111】
実施例14:キムチ(高濃度塩分含有組成物での増粘、保水目的)
表17に処方を示す。水にクレス種子抽出物を添加し、プロペラ式攪拌機を用いて80℃で10分間攪拌した。残りの全原料を添加し、80℃で更に5分間攪拌した。白菜100部に対し、キムチだれ30部を添加し、手でよく混合した。
【0112】
【表17】

【0113】
クレス種子抽出物の添加により、キムチだれと野菜の混和性が向上(野菜となじみ易くなる)するとともに、キムチのつやが増し、離水が減少した。
【0114】
実施例15:蒸しケーキ(澱粉含有組成物の老化防止、食感改良目的)
表18に処方を示す。油脂(「パーミングM」および「パーミングH」)および卵黄を万能混合攪拌機のボールに入れ、ホイッパーを用いて216rpmで1分間混合した。これに糖類(砂糖、「サンマルト みどり」、トレハロース)を加え、216rpmで更に1分30秒間混合した。水に膨張剤(「サンオーバー※O-50*」)、抹茶、色素(「抹茶サングリーン1739」)、およびフレーバー(マッチャオイル83128)を分散・溶解して別のボールにとり、卵白を添加した後、ホイッパーを用いて216rpmで1分30秒間混合した。ボールの内容物を合わせて木べらで混合し、これに薄力粉、加工でん粉、およびクレス種子抽出物の粉体混合物(予め篩過)を加えて混合し、生地を調製した。アルミ箔に生地20gをのせ、蒸し器で15分間蒸煮した。
【0115】
【表18】

【0116】
クレス種子抽出物の添加により、蒸しパンの保湿性が向上し、しっとりとした食感になった。また、保存による硬化(老化現象)も抑制され、食感の経時変化が小さくなった。
【0117】
実施例16:ケーキドーナツ(澱粉含有組成物の老化防止、食感改良目的)
表19に処方を示す。ショートニングを万能混合攪拌機のボールに量り取り、砂糖およびぶどう糖を加え、フックを用いて126rpmで3分間混合した。全卵を3回に分けて添加し、5分間混合した。薄力粉、膨脹剤(「サンオーバー※O-62*」)、食塩、ミルククリームEM、クレス種子抽出物の粉体混合物(予め篩過)を加え、63rpmで3分間、次いで126rpmで2分間混合した。牛乳を加え、63rpmで2分間混合し、生地を調製した。圧延棒で伸展した生地を約40gに型抜きし、180℃で片面60秒間ずつ、計2分間フライした。
【0118】
【表19】

【0119】
クレス種子抽出物の添加により、生地の伸展性、型抜き性が向上し、作業性が改善された。また、しっとりとしたソフトな食感になり、食感の経時変化が小さくなった。また、フライ中の亀裂、割れも減少した。
【0120】
実施例17:和風クッキー(澱粉含有組成物の老化防止、食感改良目的)
表20に処方を示す。万能混合攪拌機のボールにショートニングおよび乳化剤(「モノエースSPゴールドAG」)を量り取り、粉糖を加えた後、ビーターを用いて126rpmで3分間混合した。これに糖類(「ソルビットL-70」)、次に白こしあんを加え、126rpmで各3分間混合した。エキスパウダー(「SD紅茶エキスパウダーNO.16691」)の水溶液(90℃の水に溶解後、常温に戻す)およびフレーバー(「ブラックティーオイルNO.9305」)、次に薄力粉、膨脹剤(「サンオーバーO-62」)およびクレス種子抽出物の粉体混合物(予め篩過)、最後に全卵を加えて混合し、生地を調製した。生地12gを搾り出し、上火190℃、下火180℃で10分間焼成した。
【0121】
【表20】

【0122】
クレス種子抽出物の添加により、焼き菓子の保湿性が向上し、しっとりとした食感になり、食感の経時変化も小さくなった。また、焼成後の亀裂、割れも減少した。
【0123】
実施例18:嚥下困難者用補助食品(トロミ調整剤)
表21に処方を示す。デキストリンおよびクレス種子抽出物あるいはキサンタンガムを粉体混合した。流動層造粒機(大河原製作所製、UNIGRATT)を用い、温風温度65℃で、粉体仕込み量300gに対し、100mLの脱イオン水を流速10mL/分、スプレー圧4kgf/cm2で噴霧し、噴霧終了後10分間乾燥して造粒物(顆粒)を調製した。得られた造粒物3gを20℃の脱イオン水100mLに添加し、スパーテルを用いて約4回転/秒で攪拌して、評価した。
【0124】
【表21】

【0125】
クレス種子抽出物の造粒物はキサンタンガムの造粒物に比べて、ダマが少なく、分散性
に優れていた。また、食感的にもクレス種子抽出物の方が口腔内でのまとまりがよく、飲
み込みやすかった。
【0126】
実施例19:麺類の食感改良
下記表22に掲げる処方のうち、水に食塩、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムを溶かして25℃に調製した(かん水)。小麦粉、加工澱粉、植物性蛋白及び食感改良剤を加え、更に万能混合機でかき混ぜながら、ゆっくりかん水を加えて1 3分攪拌混合した。次いで、混合物を製麺機(ヒグチ麺機製作所製)を用いて、粗複合して麺帯とし、さらに複合、圧延を行い、厚さ1.4mmの麺帯を調製した。得られた麺帯を#22の切刃にて麺線とし、40 cmの長さに切断した。これを沸騰水で3分30秒茹でて、30秒流水で、ついで30秒氷水で冷却し、冷やし中華用の麺を調製した。
【0127】
【表22】

【0128】
得られたチルド中華麺について、食感を官能評価した結果、クレス種子抽出物を使用した実施例19−1の中華麺は、他の多糖類を使用したもの(比較例19−1および19−2)に比べ、弾力、滑らかさ(つるみ)、風味ともに良好であった。クレス種子抽出物とグァーガム若しくはコンニャクグルコマンナンを併用した実施例19−2および19−3の中華麺の弾力と滑らかさはさらに向上し、全体的な食感もさらに良好になった。
【0129】
実施例20:乳化型ドレッシング(乳化安定性向上目的)
下表に揚げる処方のうち、砂糖およびクレス種子抽出物を混合して水に添加し、10℃にて10分間攪拌溶解した後、食塩、醸造酢、L−グルタミン酸ナトリウム、調味料を加えてさらに5分間攪拌したものに、卵黄を添加してから、更に1分間攪拌した。これを特殊機化工業社製のホモミキサーで8000rpmで混合しながらサラダ油をゆっくりと滴下し、全量滴下後8000rpmで5分間乳化した。脱気後、スクリュー瓶2本と冷凍用容器(プラスティック製のチューブ)に充填して、乳化型ドレッシングを調製した。
【0130】
【表23】

【0131】
得られた乳化型ドレッシングについて、40℃で10日間保存後の乳化状態をみた。更には、−20℃の冷凍庫にて1日保管後、室温(25℃)にて自然解凍した乳化状態をみた。クレス種子抽出物を使用した実施例20−1および20−2はいずれの保存条件においても乳化状態が良く、下層分離や油浮きも見られなかった。また、冷凍後も良好な乳化状態を保っていた。食感はどちらもクリーミーであったが、グァーガムを併用した実施例20−2のほうがやや濃厚感が増した。クレス種子抽出物およびグァーガムを使用しない比較例20−1は、乳化直後から徐々に分離が進み、40℃で10日間保存した後には油相と水相が完全に分離した。グァーガムのみを使用した比較例20−2は、40℃、10日間の保存により僅かに下層分離がみられ、冷凍解凍後にははっきりとした下層分離が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明により、可食性組成物の物性改良効果を有する、多様な増粘剤組成物を提供することができる。詳細には、可食性組成物にクレス種子抽出物を含む増粘剤組成物を配合することにより、可食性組成物に耐熱性、耐冷凍性、耐酸性、耐塩性、分散安定性、耐老化性及び乳化安定性を付与し、可食性組成物の保水性、流動性、および食感を改良することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレス種子抽出物を含むことを特徴とする可食性組成物用物性改良剤。
【請求項2】
耐熱性付与剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項3】
冷凍組成物用増粘安定剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項4】
酸性組成物用増粘剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項5】
高濃度塩分含有組成物用増粘剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項6】
分散安定剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項7】
澱粉含有組成物用品質改良剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項8】
保水性改良剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項9】
液状組成物の流動性改良剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項10】
食感改良剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項11】
乳化安定剤である、請求項1に記載の物性改良剤。
【請求項12】
クレス種子抽出物を含むことを特徴とする可食性組成物。
【請求項13】
クレス種子抽出物を0.02〜15質量%の割合で含む請求項12記載の可食性組成物。
【請求項14】
クレス種子抽出物を添加することを特徴とする、可食性組成物の物性の改質もしくは改良方法。
【請求項15】
改質もしくは改良される可食性組成物の物性が、耐熱性、耐酸性、耐塩性、分散安定性、耐老化性、保水性、流動性、食感、または乳化安定性である請求項14記載の物性の改質もしくは改良方法。
【請求項16】
クレス種子抽出物とガラクトマンナン及び/又はグルコマンナンを含有することを特徴とする増粘剤組成物。

【公開番号】特開2010−263877(P2010−263877A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137637(P2009−137637)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】