説明

クレーンのジブ張出し、格納方法および同装置

【目的】 ブーム動作、および大きな周辺空間を必要としないで、倒伏させたブームの近くでの単純、軽便な操作によって簡単にジブを張出し、格納できるようにする。
【構成】 ジブ2を格納位置から前進位置まで移動させた後、ジブポイントシーブ7を着地させるとともに、ジブ基端部とブーム先端部との間に連結ロッド13をかけ渡し、ジブ全体を前後移動させながら、連結ロッド13をガイドとしてジブ基端側を回動させることにより、ジブ2をブーム先端に張出すようにしたジブ張出し、格納方法および同装置。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はジブをブーム側面の格納位置とブーム先端の張出し位置との間で移動させるクレーンのジブ張出し、格納方法および同装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】クレーンのジブ張出し、格納装置としては従来から種々提案され、実施されている。
【0003】たとえば特公昭63−30278号公報には、横置き姿勢でブーム下面に配置されたジブの基端部をブーム先端部に水平軸まわりに回動可能に連結し、ジブを、この連結点を支点として前方にほぼ180°振り出す下方張出し式のものが示されている。
【0004】また、特公昭63−59957号等には、所謂ジブツイスト方式、すなわち、ジブの基端部一側をブームの先端部に連結した状態で、ジブを、この連結点を支点として垂下させ、ついで捻転させ、さらに前方に振り上げる方式のものが示されている。
【0005】さらに別の方式として、ジブを格納位置から側方→前方へとほぼ180°振り出す側方張出し方式をとるものも公知となっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来のジブ張出し、格納装置によると、いずれの方式においても次のような欠点があった。
【0007】(イ)手順が複雑で、手間も多く、しかもブームの伸縮または起伏動作が必要なことからオペレータが何度も運転室と操作位置との間で往復しなければならないため、作業能率が悪いとともに、オペレータの肉体的および精神的疲労が激しい。
【0008】(ロ)手順および操作が複雑な分、手順ミス、操作ミスが起こりやすく、このミスによって各部の損傷等が発生しやすい。
【0009】(ハ)クレーン周辺にジブ張出し、格納のための大きな空間を必要とするため、市街地や屋内等、周辺スペースに余裕のない狭隘現場では使用しにくい。
【0010】そこで本発明は、ブームの伸縮、起伏といったブーム動作、および大きな周辺空間を必要としないで、倒伏させたブームの近くでの単純、軽便な操作によって簡単に、そして能率良くジブを張出し、格納することができるクレーンのジブ張出し、格納方法および同装置を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、ジブを、基端部がブーム基端部の側方に位置する状態でブーム側面に格納し、ジブ張出し時に、ジブを、上記格納位置から、基端部がブーム先端部の側方に位置する前進位置まで移動させ、この前進位置でジブ先端部を着地させるとともに、ジブ基端部とブーム先端部の両者間に連結ロッドを、この両者に対して竪軸まわりに回転可能で、かつ、両者を結ぶ線上でジブ基端部に対してスライド可能、さらに両者の少なくとも一方に対して着脱可能な状態でかけ渡し、ジブをこの連結ロッドと上記着地点とで支持した状態で、ジブ全体を前後移動させながら、ジブ基端側を上記ブーム先端部に対する連結ロッドの取付点を支点として回動させることにより、ジブ中心線がブームの中心線上に位置する状態でジブ基端部とブーム先端部の連結点を一致させてこれらを連結し、これと逆の手順によってジブを格納するものである。
【0012】請求項2の発明は、ジブを、基端部がブーム基端部の側方に位置する格納位置と、ジブ基端部がブーム先端部の側方に位置しかつジブ先端部が着地する前進位置との間で移動案内する移動ガイド手段と、上記前進位置で着地するようにジブ先端部に設けられた転輪と、上記ジブ前進位置でジブ基端部とブーム先端部との間にかけ渡される連結ロッドとを具備し、この連結ロッドは、ジブ基端部およびブーム先端部の両者に対して竪軸まわりに回転可能で、かつ、この両者を結ぶ線上でジブ基端部に対してスライド可能、さらに両者の少なくとも一方に対して着脱可能な状態で取付けられてなるものである。
【0013】
【作用】この構成によると、ジブを、格納位置と前進位置との間での移動操作と、前進位置と張出し位置との間での移動操作のみにより、終始同じ向きのまま、ブームの伸縮および起伏動作を一切用いずに張出し、格納することができる。
【0014】とくに、ジブを前進位置と張出し位置との間で移動させる手段として、ジブ基端部とブーム先端部との間に連結ロッドをかけ渡し、この連結ロッドのスライド運動および竪軸まわりの回転運動により、ジブ全体を前後移動さながらジブ基端側を回動させる手段をとっているため、この前進位置と張出し位置との間でのジブの移動操作が容易となる。
【0015】従って、手順、手間が少なく、操作が単純となること、すべての操作をブームの周辺で行なうことができ、オペレータが運転室と操作位置との間で何度も往復する必要がないことにより、ジブの張出し、格納作業を能率良く、そして肉体的、精神的疲労を招くことなく楽に行なうことができる。
【0016】しかも、ジブを張出し、格納のための空間としては、ブーム前方のみに、ほぼジブ長さ分だけ確保できればよいため、市街地や屋内等の狭隘現場でも手軽にジブを張出し、格納することができる。
【0017】また、上記のように最も問題となる前進位置と張出し位置との間でのジブの移動を連結ロッドを用いて行うため、たとえばブーム上に吊り装置を設け、ジブをこの吊り装置で吊って両位置間で移動させる場合と比較して、構造が簡単でコストが安くてすむ。
【0018】
【実施例】本発明の実施例を図によって説明する。
【0019】1はブーム、2はジブである。
【0020】ブーム1は、通常、三段以上のブームによって伸縮可能に構成されるが、ここでは説明をわかり易くするために、基本ブーム1aと一段の可動ブーム1bのみからなる二段ブーム構成をとっている。
【0021】このブーム1には、可動ブーム1bの先端部左右両側にジブ取付軸3,4が水平に突設され、図5仮想線および図6に示すように、ジブ2における左右両側主桁2a,2bの基端部に設けられた二股状のジブフット5,6がこの両側ジブ取付軸3,4に係合連結された状態でジブ2がブーム先端に張出される。
【0022】一方、ジブ2は、不使用時には図1,2に示すように、両側ジブフット5,6がブーム基端部の側方において張出し時同様に後方(ブーム基端方向)を向き、かつ、同ジブフット5,6が左右に位置する横置き姿勢でブーム1の側面(通常は図示のように運転室から見て左側面、以下、この場合で説明する)に格納される。
【0023】このジブ2には、先端部にジブポイントシーブ7が設けられ、クレーン作業時に図示しない補巻ウィンチから引出された補巻ロープがこのジブポイントシーブ7に通され、その端末に補巻フックが装着される。
【0024】図1,7中、8,8はジブ2をこの格納位置で基本ブーム1aに係留固定するための係留機構(他の図では省略している)で、ジブ側およびブーム側両ブラケット8a,8bと、この両ブラケット8a,8b同士を連結する固定ピン8cとから成っている。
【0025】また、図1,2中、9はブーム1を起伏自在に支持するクレーンの上部旋回体フレームである。
【0026】次に、ジブ2を図1〜図2の格納位置と図5R>5仮想線および図6に示す張出し位置との間で移動させるための構成を説明する。
【0027】基本ブーム1aの先端部と中間部に、移動ガイド手段としてのガイド部材10,10が設けられている。
【0028】この両ガイド部材10,10は、図7に示すように、ブーム側方に突出する状態で基本ブーム1aの底面に取付けられたガイドフレーム11と、このガイドフレーム11に水平軸まわりに回転自在に取付けられたローラ12とから成り、ジブ2がこのローラ12上をスライドして、図1,2の格納位置と、図3実線および図4に示すようにジブ基端部がブーム先端部の側方に位置する前進位置との間で移動しうるようになっている。
【0029】一方、ジブ2には、左側主桁2aの基端部上面に連結ロッド13が設けられている。
【0030】この連結ロッド13は、図8,9に示すように、主桁2aの上面に竪軸14まわりに回転自在に取付けられた筒状の軸受部材15に一端側が挿通支持されることにより、竪軸14まわりに回転可能で、かつ、ジブ上面と平行な面上でロッド軸方向にスライド可能な状態で主桁2aに取付けられている。
【0031】同ロッド13には、一端に軸受部材15に対する抜け止め用のストッパ16が設けられるとともに、他端に筒状の連結部17が竪方向に取付けられている。
【0032】この連結ロッド13は、不使用時には、連結部17が主桁2aに格納ピン18で止め付けられて主桁2a上に格納される。
【0033】一方、ジブ張出し、格納時に同ロッド13の連結部17が止め付けられるブーム側部分として、図1R>1,11に示すように左側ジブ取付軸3の先端部に竪方向に貫通する連結孔19が設けられている。
【0034】なお、この左側ジブ取付軸3は、このロッド連結部分だけ右側ジブ取付軸4よりも長く形成されている。
【0035】次にジブ張出し、格納作用を説明する。
【0036】ジブ張出し手順■ 図1,2に示すようにブーム1を最大限に倒伏させる。この実施例ではブーム1が最大倒伏状態で先下がりに傾斜するように構成された場合を例示している。
【0037】■ 係留機構8,8の固定ピン8c,8cを取外してジブ2の固定を解き、人力によってジブ2を前方にスライドさせる。
【0038】■ 図3,4に示すように、ジブ2を、両側ジブフット5,6がブーム先端部の側方に位置する前進位置(この位置でジブ2は基端部がブーム先端側のガイド部材10のみによって支持された状態となる)までスライドさせた後、図3仮想線で示すようにジブ2の先端側を下げてジブポイントシーブ7を着地させる。
【0039】■ この状態で、図3,4に示すようにジブ2とブーム1との間に連結ロッド13をかけ渡す。
【0040】すなわち、図8,9に示す格納ピン18を抜き、連結ロッド13を竪軸14まわりに回転させて、図10,11に示すように連結部17を左側ジブ取付軸3の連結孔19に一致させ、連結ピン20で連結する。図11中、21はこの連結用のスペーサである。
【0041】これにより、連結ロッド13が、ジブ基端部およびジブ取付軸3の両者に対してそれぞれ竪軸まわりに回転可能で、かつ、この両者を結ぶ線上でジブ基端部に対してスライド可能な状態で取付けられる。
【0042】この状態で、ジブ2は基端側が連結ロッド13を介してブーム1に、先端側がジブポイントシーブ7を介して地面にそれぞれ支持される。
【0043】■ ジブ2を、図3,4の前進位置から、図5に示すようにジブフット5,6がジブ取付軸3,4の側方に並ぶ張出し前位置まで、ジブポイントシーブ7を車輪がわりにしてさらに前進させる。
【0044】■ この張出し前位置から、ジブ2全体を前後移動させながら、ジブ基端側を連結ピン20を支点として回動させることにより、ジブ2を、図5仮想線および図6に示すようにジブ中心線がブーム中心線と一致し、かつ、両側ジブフット5,6が両側ジブ取付軸3,4に係合する張出し位置まで移動させる。
【0045】■ 両側ジブフット5,6を両側ジブ取付軸3,4に図示しない固定ピンによって固定し、かつ、ジブ2とブーム1との間にサスペンションロッドSをかけ渡す。
【0046】この後、連結ロッド13の連結部17を左側ジブ取付軸3から取外し、図8,9に示すように元通り左側主桁2aに止め付けてジブ2の張出しが完了する。
【0047】また、ジブ2の格納作業は上記張出し時と全く逆の手順によって行なうことができる。
【0048】このように、ブーム1の伸縮および起伏動作を一切用いないで、簡単な人力操作のみによってジブ2を張出し、格納することができる。
【0049】とくに、ジブ2の前進位置と張出し位置との間での移動を、連結ロッド13の回転およびスライド作用によって簡単、スムーズに行うことができる。
【0050】このため、従来のジブ下方張出し方式やジブツイスト方式、ジブ側方張出し方式等をとる装置と比較して、手順、手間が少なく、操作が遥かに単純となる。また、従来のようにオペレータが運転室と操作位置との間で何度も往復する必要がなくなる。
【0051】さらに、ジブ2を、格納位置と張出し位置との間で終始同じ向きのまま、しかもブーム1の近くで移動させることができるため、ジブ張出し、格納のために必要な空間がブームまわりの小さなものですむ。
【0052】他の実施例(1)上記実施例では、ジブ2を格納位置と前進位置との間で移動案内するガイド手段として、ローラ12付きのガイド部材10を用いたが、これに代えて、基本ブーム1aの側面にほぼ全長に亘ってガイドレールを設け、ジブの長さ方向複数個所に設けたローラをこのガイドレール内で転動させて両位置間で移動案内する構成をとってもよい。
【0053】(2)上記実施例では、ジブ2を図3,4の前進位置と図5仮想線および図6に示す張出し位置との間で移動させる工程でジブポイントシーブ7を車輪がわりに利用するようにしたが、このジブポイントシーブ7とは別の転輪をジブ先端部に設けてもよい。
【0054】(3)上記実施例では、連結ロッド13をジブ基端部に対して常時取付け、ジブ取付軸3に対して着脱するようにしたが、これとは逆に、同ロッド13をジブ取付軸3に対して常時取付け、ジブ基端部に対して着脱するようにしてもよいし、双方に対して着脱可能としてもよい。
【0055】(4)上記実施例では、梯子形のジブ2を例にあげたが、本発明は箱形またはラチス式のジブにも上記同様に適用することができる。
【0056】
【発明の効果】上記のように本発明によるときは、ブームの伸縮、起伏動作を一切用いずに、ジブの前後移動および連結ロッドをガイドとするジブ基端側の回動という単純な人力操作のみにより、ジブを、基端部が後方を向いた張出しおよび格納時の向きのままブーム側面の格納位置とブーム先端の張出し位置との間で移動させることができる。
【0057】従って、手順、手間が少なく、操作が単純となること、すべての操作をブームの周辺で行なうことができ、オペレータが運転室と操作位置との間で何度も往復する必要がないことにより、ジブの張出し、格納作業を能率良く、そして肉体的、精神的疲労を招くことなく楽に行なうことができる。
【0058】また、手順、操作が単純で、かつすべてブーム周辺での作業であるためミスがなく、各部の損傷発生のおそれがない。
【0059】しかも、ジブを張出し、格納時の向きのまま移動させるため、張出し、格納のために必要な空間がブームまわりの小さなものですむ。このため、市街地や屋内等の狭隘現場でも手軽にジブを張出し、格納することができる。
【0060】また、上記のように最も問題となる前進位置と張出し位置との間でのジブの移動を連結ロッドを用いて行うため、たとえばブーム上に吊り装置を設け、ジブをこの吊り装置で吊って両位置間で移動させる場合と比較して、構造が簡単でコストが安くてすむ。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示すジブ格納状態の平面図である。
【図2】ジブ格納状態の側面図である。
【図3】ジブを格納位置から前進位置まで移動させた状態の側面図である。
【図4】図3の状態の平面図である。
【図5】ジブを図4の状態から張出し前位置まで移動させた状態の平面図である。
【図6】ジブ張出し状態の側面図である。
【図7】図1のVII-VII線拡大断面図である。
【図8】図1の一部拡大図である。
【図9】図8の一部断面側面図である。
【図10】図5の一部拡大図である。
【図11】図10のXI-XI線断面図である。
【符号の説明】
1 ブーム
2 ジブ
3,4 ブームのジブ取付軸
10 移動ガイド手段としてのガイド部材
11 ガイド部材のガイドフレーム
12 ガイド部材のガイドローラ
7 転輪を兼ねるジブポイントシーブ
13 連結ロッド
15 連結ロッドをジブ基端部に連結するための軸受部材
14 同竪軸
17 連結ロッドをブーム先端部に連結するための連結部
18 同竪軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ジブを、基端部がブ―ム基端部の側方に位置する状態でブーム側面に格納し、ジブ張出し時に、ジブを、上記格納位置から、基端部がブーム先端部の側方に位置する前進位置まで移動させ、この前進位置でジブ先端部を着地させるとともに、ジブ基端部とブーム先端部の両者間に連結ロッドを、この両者に対して竪軸まわりに回転可能で、かつ、両者を結ぶ線上でジブ基端部に対してスライド可能、さらに両者の少なくとも一方に対して着脱可能な状態でかけ渡し、ジブをこの連結ロッドと上記着地点とで支持した状態で、ジブ全体を前後移動させながら、ジブ基端側を上記ブーム先端部に対する連結ロッドの取付点を支点として回動させることにより、ジブ中心線がブームの中心線上に位置する状態でジブ基端部とブーム先端部の連結点を一致させてこれらを連結し、これと逆の手順によってジブを格納することを特徴とするクレーンのジブ張出し、格納方法。
【請求項2】 ジブを、基端部がブーム基端部の側方に位置する格納位置と、ジブ基端部がブーム先端部の側方に位置しかつジブ先端部が着地する前進位置との間で移動案内する移動ガイド手段と、上記前進位置で着地するようにジブ先端部に設けられた転輪と、上記ジブ前進位置でジブ基端部とブーム先端部との間にかけ渡される連結ロッドとを具備し、この連結ロッドは、ジブ基端部およびブーム先端部の両者に対して竪軸まわりに回転可能で、かつ、この両者を結ぶ線上でジブ基端部に対してスライド可能、さらに両者の少なくとも一方に対して着脱可能な状態で取付けられてなることを特徴とするクレーンのジブ張出し、格納装置。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図10】
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【図11】
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