説明

クレーンのティーチングプレイバック装置

【課題】座標データのデータ量が少なくても可及的に再現精度を向上させるとともに、ティーチング作業を容易に行うことのできるクレーンのティーチングプレイバック装置を提供する。
【解決手段】コントローラ30は、遠隔操作器70の4つの選択スイッチ71、72、73、74の操作状態を監視して、ティーチングモードのときには、いずれかの選択スイッチの状態が変わったときに、そのときのブーム先端部の座標データとフックの座標データをそれぞれ記憶するとともに、プレイバックモードのときには、ティーチングモードにおいて記憶したブーム先端部とフックの座標を直線移動によって順方向または逆方向に順次に再現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンのティーチングプレイバック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブーム付き作業機のティーチングプレイバック装置において、ティーチングは、例えば特許文献1記載の技術においては、予め決められた時間ステップ毎にブーム先端部の作業装置の座標データを記憶させている。
他の技術として、繰り返し同じ動作が求められる産業用ロボット等に使用されるティーチングでは、プレイバックを行いたい一連の動作を複数のポイントに分割し、それぞれのポイント毎にその座標データを記憶させるという作業を、オペレータが手動操作でロボットを動かして行なうようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−287899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、ティーチング時、予め決められた時間ステップ毎に座標データを記憶させるため、時間ステップの間隔を小さくすれば座標データの分解能が増し、プレイバック時の再現精度は良くなるもののデータ量が多くなるという問題がある。一方、時間ステップの間隔を大きくすればデータ量が少なくなるものの分解能が荒くなり、プレイバック時の再現精度が低下するという問題がある。よって、記憶させるデータ量とプレイバック時の再現精度とのバランスを取ることが重要になってくる。
【0005】
また、クレーン作業は、一般的な産業用ロボットとは異なり、一定の規則性や繰り返し性が常時求められるものではなく、必要なときだけ繰り返し作業ができることが望ましい。そのため、プレイバックを行いたい作業が生じた都度、一般的な産業用ロボットのようにポイントにクレーンを動かして、ティーチング作業を行うのは面倒である。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、ティーチング時に記憶させるデータ量が少なくても、プレイバック時の再現精度を向上させるとともに、ティーチング作業を容易に行うことのできるクレーンのティーチングプレイバック装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、例えば車両搭載型のクレーンは、クレーンのブーム伸縮、ブーム起伏、ブーム旋回およびウインチ巻上巻下の各アクチュエータに対応した選択スイッチと、アクチュエータの作動速度を制御するための速度レバーとを有する遠隔操作器と、この遠隔操作器からの信号に基づいて、対応するアクチュエータを駆動させるコントローラとを備え、遠隔操作器によるクレーン作業が行われる。
【0007】
ここで、上記車両搭載型クレーンの遠隔操作器では、通常、選択スイッチとしてトグルスイッチが用いられ、このトグルスイッチは、中立位置から2方向(上方および下方)に傾倒可能になっており、傾倒すると該当する操作信号がONするようになっている。また、速度レバーにはポテンショメータが内蔵され、速度レバーの引き量に応じた比例信号が出力されるようになっている。遠隔操作器によるクレーン作業を行なう場合、まず、遠隔操作器側では、選択スイッチで作動させたいアクチュエータとその作動方向を選択し、速度レバーを操作する。この際、コントローラ側では、遠隔操作器の選択スイッチの操作により、使用されるアクチュエータとその作動方向が決定する。そして、速度レバーの操作により、所望のアクチュエータが作動開始し、操作量に応じて作動速度の調整を行うようになっている。ただし、速度レバーを操作していなければ、アクチュエータは作動しない。なお、上記特許文献1記載のブーム付き作業機や産業用ロボットにおいては、これらの選択スイッチおよび速度レバーは装備されておらず、一般に比例制御型のジョイスティックレバーを用いている。
【0008】
本発明は、このような点に鑑み、クレーンの遠隔操作器におけるON/OFFタイプの選択スイッチと速度レバーの操作によりアクチュエータを作動させるといった特性を利用して、プレイバックの再現精度を保ちつつ、必要最小限の座標データのみを記憶させることを可能としたものである。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明は、クレーンのブーム伸縮、ブーム起伏、ブーム旋回およびウインチ巻上巻下の各アクチュエータに対応した選択スイッチを有する遠隔操作器と、該遠隔操作器の選択スイッチからのON/OFFの信号に基づいて、対応するアクチュエータを駆動させるコントローラとを備えるクレーンに用いられ、該クレーンの一連の動作内容の記憶、並びにその一連の動作内容の再生および逆再生が可能なティーチングプレイバック装置であって、前記コントローラは、ティーチングモードのときには、前記遠隔操作器のいずれかの選択スイッチのON/OFFの信号の状態が変わったときに、そのときのブーム先端部の座標データとフックの座標データを記憶するとともに、プレイバックモードのときには、前記ティーチングモードにおいて記憶したブーム先端部とフックの座標を直線移動によって順方向または逆方向に順次に再現することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るクレーンのティーチングプレイバック装置によれば、ティーチング時の座標データを記憶するタイミングは、遠隔操作器の選択スイッチからのON/OFFの信号に基づいて決定されるので、必要最小限の座標データの記憶量で済む。そして、プレイバックモードのときには、ティーチングモードにおいて記憶したブーム先端部とフックの座標を直線移動によって順方向または逆方向に順次に再現するので、座標データの記憶量が少なくても、従来(例えば上記特許文献1)の時間ステップ毎に記憶させるティーチングプレイバック技術と、同等の再現精度を得ることができる。
【0010】
ここで、前記遠隔操作器が、前記アクチュエータの作動開始と作動速度を制御するための速度レバーを備えているので、前記コントローラが、前記ティーチングモードのときには、いずれかの選択スイッチがONの状態で、速度レバーの操作/非操作の状態が変わったときと、速度レバーが操作状態で、いずれかの選択スイッチのON/OFFの信号の状態が変わったときに、そのときのブーム先端部の座標データとフックの座標データを記憶することは好ましい。このような構成であれば、仮に速度レバーを操作せずに選択スイッチのみをON/OFFさせてしまうクレーンが動作しないような操作をした場合に、そのときの座標データの取得についてはキャンセルすることができる。よって、余計なデータ量を増やさない構成とする上でより好適である。
【発明の効果】
【0011】
上述のように、本発明によれば、ティーチング時に記憶させるデータ量が少なくても、プレイバック時の再現精度を向上させるとともに、ティーチング作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るクレーンの一実施形態としての車両搭載型クレーンを説明する構成図である。
【図2】図1の車両搭載型クレーンの制御装置を説明する構成図である。
【図3】遠隔操作器の説明図であり、同図(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図4】コントローラで実行されるティーチングプレイバック処理のフローチャートである。
【図5】ティーチング処理時の動作を説明する図である。
【図6】ティーチング処理時の動作を説明する図である。
【図7】ティーチング処理時の動作を説明する図である。
【図8】ティーチング処理時の動作を説明する図である。
【図9】2連動操作でのティーチング処理時の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。
図1に示すように、この車両搭載型クレーン(以下、単に「クレーン」ともいう)1は、アウトリガ2を備えたベース4上にコラム6が旋回自在に設けられ、このコラム6の上端部に伸縮するブーム7が起伏自在に枢支されている。コラム6にはウインチ11が設けられており、このウインチ11からワイヤロープ12をブーム7の先端部7sに導いて、ブーム7の先端部7sの滑車(図示略)を介して吊荷用のフック13に掛回すことにより、フック13をブーム7の先端部7sから吊下している。
【0014】
ここで、このクレーン1には、コラム6の旋回、ブーム7の起伏と伸縮、及びウインチ11の巻上巻下の作動を行うための複数のアクチュエータとして、旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、ウインチ用油圧モータ10、及びアウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rを備えている。
そして、これらの旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、ウインチ用油圧モータ10、及びアウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rは、図2に示すように、何れも車両のエンジン15のPTO16に連結して駆動される油圧ポンプ17からコントロールバルブ20を介して圧油を供給することにより作動するようになっている。
【0015】
ここで、上記コントロールバルブ20は、上記各アクチュエータをそれぞれ制御する複数の切換弁を連結して構成した多連結弁装置であり、図2に示すように、旋回用油圧モータ5、ブーム起伏用油圧シリンダ9、ブーム伸縮用油圧シリンダ8、及びウインチ用油圧モータ10の、各アクチュエータにそれぞれ対応する複数の切換弁31、32、33、34と、アウトリガ用油圧シリンダ3L、3Rの、各アクチュエータにそれぞれ対応する複数の切換弁28、29と、車両のエンジン15の回転数を制御して各アクチュエータを所望の速度で作動させるためのアクセルシリンダ50とを備えており、各切換弁31、32、33、34と、アクセルシリンダ50は、コントローラ30で制御される。
【0016】
さらに、図2に示すように、このクレーン1は、上記ブーム7の長さを検出するブーム長検出器61、ブーム7の起伏角度を検出するブーム角度検出器62、コラム6の旋回角度を検出する旋回角度検出器63、ウインチ11からのワイヤロープ12の繰り出し、および繰り込み量を検出するウインチドラム回転検出器64を備えている。そして、各検出器からの信号は、クレーンのコントローラ30に読み込まれ、コントローラ30は、上記各検出器からの信号により、ブーム7の先端部7sの位置とフック13の位置を3次元座標として認識できるようになっている。なお、ワイヤロープ12の繰り出し、繰り込み量を検出する方法は種々考えられるが、本実施形態の例では、ウインチドラムの回転を検出して、繰り出しおよび繰り込み量を計算する方法を採用した例である。
【0017】
つまり、このクレーン1は、ブーム長検出器61でブーム7の長さを検出することができるので、コントローラ30側ではブーム長さがわかり、同様に、ブーム角度検出器62でブーム7の起伏角度を検出することができるので、ブームの起伏角度がわかる。また、ウインチドラム回転検出器64でウインチ11からのワイヤロープ12の繰り出し、繰り込み量を検出することができるので、ブーム7の先端とフック13間の距離がわかり、旋回角度検出器63でコラム6の旋回角度を検出することができるので、ブーム7の旋回角度がわかる。
【0018】
なお、厳密には、ブーム7の長さが変化すると先端部7sとフック13間の距離が変わってしまうため、ウインチドラム回転検出器64単独ではブーム7の先端部7sとフック13間の距離を検出することはできないが、ブーム長検出器61とブーム角度検出器62によってブーム長さとブーム角度の変化を同時に検出し、距離の変動分を補正することでブーム7の先端部7sとフック13間の距離を検出することが可能となっている。
【0019】
また、上記遠隔操作器70は、図3に示すように、クレーン1の各アクチュエータを動作させるための、ブーム起伏選択スイッチ71、フック巻上巻下選択スイッチ72、ブーム伸縮選択スイッチ73、および左右旋回選択スイッチ74の4つの選択スイッチと、クレーン1の作動速度を制御するための速度レバー75を有している。
詳しくは、この遠隔操作器70は、選択スイッチ71、72、73、74としてトグルスイッチが用いられ、このトグルスイッチは、中立位置から2方向(上方および下方)に傾倒可能になっており、傾倒すると該当する操作信号がONするようになっている。また、速度レバー75にはポテンショメータが内蔵され、速度レバー75の引き量に応じた比例信号が出力されるようになっている。
【0020】
そして、この遠隔操作器70からは、所定の操作データが、図2に示す、クレーン1の制御装置の受信機19に送信され、コントローラ30に送られる。受信機19は、遠隔操作器70との間で、クレーン作業に必要な操作データをはじめとする必要なデータを無線通信で授受するようになっている。そのため、コントローラ30側では、遠隔操作器70の選択スイッチ71、72、73、74の操作によるON/OFFの信号により、作動するアクチュエータとその作動方向が判る。そして、速度レバー75の操作による比例信号により、所望のアクチュエータの作動を開始させるようになっている。ここで、4つの選択スイッチ71、72、73、74のうち複数を選択すると複数のアクチュエータが連動して作動するようになる。
【0021】
また、この遠隔操作器70には、オペレータが、ティーチング処理(後述する)の実行の開始と終了を入力するためのティーチングモード開始/終了ボタン76が設けられている。ティーチングモード開始/終了ボタン76は、一度押されるとティーチングモードが開始され、再度押されるとティーチングモードが終了するようになっている。また、この遠隔操作器70には、2つのプレイバックボタン77、78も設けられている。各プレイバックボタン77、78は、ティーチングモードによって記憶されたティーチング内容の再生および逆再生がそれぞれ可能になっている。つまり、プレイバックボタン77を押せば記憶されたティーチング内容が順方向(記憶された順序)にプレイバックされ、プレイバックボタン78を押せば記憶されたティーチング内容が逆方向(記憶された順序とは逆の順序)にプレイバックされるようになっている。なお、プレイバックの実行速度は、プレイバックボタン77、78が押されたときには、最初は最も遅い速度から起動し、徐々に速度を上げ、最後は徐々に速度を下げて停止するように設定されている。
【0022】
次に、上記コントローラ30についてより詳しく説明する。
このコントローラ30は、以下いずれも図示しない、所定の制御プログラムに基づいて、演算およびこの車両搭載型クレーン1のシステム全体を制御するCPUと、所定領域に予めCPUの制御プログラム等を格納しているROM等の記憶装置と、ROM等の記憶装置から読み出したデータやCPUの演算過程で必要な演算結果を格納するためのRAMと、クレーン1の遠隔操作器70等を含めた外部装置に対してデータの入出力を媒介するI/F(インターフェイス)とを有して構成されている。これらは、データを転送するための信号線であるバスで相互にかつデータ授受可能に接続されている。そして、遠隔操作器70からは、クレーン1の各アクチュエータを作動させる実行指令となる所定の操作信号が入力されるようになっている。
【0023】
次に、このコントローラ30で実行されるティーチング処理について図4を参照しつつ説明する。
このティーチング処理は、遠隔操作器70のティーチングモード開始/終了ボタン76(図3(a)参照)が押されると実行され、コントローラ30でティーチング処理が実行されると、図4に示すように、まず、ステップS1に移行して、それまでにティーチングされていた記憶データが初期化されてステップS2に移行する。ステップS2では、ティーチング時の座標データを記憶するタイミングを遠隔操作器70の選択スイッチ71、72、73、74のON/OFFの信号の状態の変化に基づいて行う。つまり、選択スイッチ71、72、73、74のうち、いずれかの選択スイッチがOFFからONに変化したか否かを監視し、いずれかの選択スイッチがOFFからONに変化したとき(Yes)はステップS4に移行し、そうでないとき(No)はステップS3に移行する。また、同様にして、ステップS3では、選択スイッチ71、72、73、74のうち、いずれかの選択スイッチがONからOFFに変化したか否かを監視し、いずれかの選択スイッチがONからOFFに変化したとき(Yes)はステップS4に移行し、そうでないとき(No)はステップS6に移行する。
【0024】
ステップS4では、現在のブーム先端部7sの座標を記憶し、続くステップS5では、現在のフック13の座標を記憶してステップS6に移行する。ここで、本実施形態の例では、ブーム先端部7sの位置の測定箇所は、ブーム先端部7sのシーブピンの中心位置(横方向はブームの中央の位置)とし、フック13の位置の測定箇所は、フック13のシーブピン中心(横方向はフックの中央の位置)を測定点としてこれを記憶するものとした。
【0025】
そして、ステップS6では、遠隔操作器70のティーチングモード開始/終了ボタン76(図3(a)参照)が押されたか否かを監視し、ティーチングモード開始/終了ボタン76が押されたとき(Yes)は通常モードに復帰し、そうでないとき(No)はステップS2に処理を戻してティーチングモードを継続する。
図5〜図8に具体例を示しつつ説明すると、今、オペレータが遠隔操作器70のティーチングモード開始/終了ボタン76(図3(a)参照)を押すとティーチングが可能な状態となる(図4のステップS1)。ここで、例えばオペレータがフック巻上巻下選択スイッチ72を巻上方向に操作したとすると(ステップS2)、コントローラ30では、図5に示すように、現在のブーム先端部7sの座標BP1および現在のフック13の座標HP1を記憶する(ステップS4,S5)。
【0026】
次いで、以下同様に、オペレータが、ある程度の巻上げ操作を継続した後に、フック巻上巻下選択スイッチ72の操作を止めて(ステップS3)、ブーム伸縮選択スイッチ73を伸長方向に操作したとすると(ステップS2)、コントローラ30では、図6に示すように、現在のブーム先端部7sの座標BP2、BP3および現在のフック13の座標HP2、HP3をそれぞれ記憶する(ステップS4,S5)。
【0027】
次いで、オペレータが、ある程度のブーム伸長操作を継続した後に、ブーム伸縮選択スイッチ73の操作を止めて(ステップS3)、ブーム起伏選択スイッチ71を伏せ方向に操作したとすると(ステップS2)、コントローラ30では、図7に示すように、現在のブーム先端部7sの座標BP4、BP5および現在のフック13の座標HP4、HP5をそれぞれ記憶する(ステップS4,S5)。
【0028】
次いで、オペレータが、ある程度のブーム伏せ操作を継続した後に、ブーム起伏選択スイッチ71の操作を止めたとすると(ステップS3)、コントローラ30では、図8に示すように、現在のブーム先端部7sの座標BP6および現在のフック13の座標HP6をそれぞれ記憶して(ステップS4,S5)、ティーチングモード開始/終了ボタン76(図3(a)参照)を再度押すと、ティーチングモードを終了して通常モードに復帰する(ステップS6)。
【0029】
これにより、ブーム先端部7sの座標BP1〜6、およびフック13の座標HP1〜6がコントローラ30の記憶装置に格納される。上記例示した記憶内容の最終記憶内容を以下の表1に示すととともに、最終記憶内容の各座標のイメージを図8に併せて示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これら座標BP1〜6、HP1〜6は、ティーチングモード開始/終了ボタン76が改めて押されるまでは記憶されており、オペレータが遠隔操作器70のプレイバックボタン77、78(図3(a)参照)を押すとプレイバックが可能である。つまり、プレイバックボタン77を押せば順方向(BP1〜6方向、HP1〜6方向)にプレイバックされ、プレイバックボタン78を押せば逆方向(BP6〜1方向、HP6〜1方向)にプレイバックされる。
【0032】
このように、本発明に係るクレーンのティーチングプレイバック装置においては、座標データの記憶に時間ステップの観念を入れず、座標の測定点でもって空間認識を行い、各アクチュエータの作動の始点と終点とを座標上で管理するものである。換言すれば、選択スイッチ71、72、73、74のONのときの座標データとOFFときの座標データさえ記憶しておけば、その間のブーム先端部7sは直線で動いているとみなせるし、フック13の位置についても、ブーム先端部7sから吊り下げられているものであるから、やはり直線で動いているとみなせるのである。
【0033】
次に、このティーチングプレイバック装置の作用・効果について説明する。
上述したように、このクレーンのティーチングプレイバック装置によれば、ティーチング時の座標データを記憶するタイミングを、遠隔操作器の4つの選択スイッチ71、72、73、74からのON/OFFの信号に基づいて決定されるので、必要最小限の座標データを記憶することで構成できる。よって、ティーチングモード開始/終了ボタン76を押してティーチングモードを開始すれば、クレーンを作動させたい方向に障害物がある場合でも、特に意識せずに通常に障害物を避けたクレーン操作を行えば、当該操作に対応して、ブーム先端部7sの座標データとフック13の座標データの記憶が行われる。
【0034】
そして、障害物近傍のクレーン操作をその後も繰り返し行うときであれば、プレイバックモードのときには、2つのプレイバックボタン77、78の操作を適宜に行うだけで、ティーチングモードにおいて記憶したブーム先端部とフックの座標を直線移動によって順方向(プレイバックボタン77を押したとき)または逆方向(プレイバックボタン78を押したとき)に順次に再現するので、記憶容量を少なくしつつも、従来(例えば上記特許文献1)の時間管理によるティーチングプレイバック技術に比べて、同等のプレイバック精度を得ることができる。
以上説明したように、このティーチングプレイバック装置によれば、ティーチング時に記憶させるデータ量が少なくても、プレイバック時の再現精度を向上させるとともに、ティーチング作業を容易に行うことができる。
【0035】
なお、本発明に係るクレーンのティーチングプレイバック装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能なことは勿論である。
例えば、上記実施形態では、ティーチングモードのときに、いずれかの選択スイッチのON/OFFの信号の状態が変わったときに、そのときのブーム先端部の座標データとフックの座標データを記憶する例を説明したが、仮に選択スイッチ71、72、73、74を間違って傾倒してしまい、速度レバーを引く前に気づいて選択スイッチの操作をやり直した場合であっても、クレーンが動作しないのにもかかわらず、各選択スイッチのON/OFFの信号に対応して、ブーム先端部7sの座標データとフック13の座標データの記憶が行われてしまう。このような構成であっても実質的に問題はないものの無駄に記憶されたデータが増えることにはなる。そこで、このような不要なデータの記憶をキャンセル可能な構成としてもよい。
【0036】
具体的には、上記遠隔操作器70は、アクチュエータの作動量を制御する速度レバー75を備えている。よって、コントローラ30が、ティーチングモードのときには、いずれかの選択スイッチ71、72、73、74がONの状態で、速度レバー75の操作/非操作の状態が変わったときと、速度レバー75が操作状態で、いずれかの選択スイッチ71、72、73、74のON/OFFの信号の状態が変わったときに、そのときのブーム先端部7sの座標データとフック13の座標データを記憶する構成とすることができる。このような構成とすれば、仮に速度レバー75を操作せずに選択スイッチ71、72、73、74のみをON/OFFさせてしまうクレーンは動作しないような操作をした場合であっても、そのときの座標データの取得についてはキャンセルすることができる。よって、余計なデータ量を増やさない構成とする上でより好適である。
【0037】
また、上記実施形態のティーチング例では、ティーチングモード時に、選択スイッチ71、72、73、74の複合操作を行わない単独操作を原則とした例で説明したが、これに限らず、本発明に係るクレーンのティーチングプレイバック装置において、選択スイッチ71、72、73、74の複合操作に適用することもできる。
具体的な動作の例としては、例えば図9に示すように、クレーンを作動させたい方向に障害物がある場合に、ブーム伸縮選択スイッチ73をONとしたまま、フック巻上巻下選択スイッチ72を、OFF〜ON〜OFFと操作し、特に意識せずに障害物を避けたクレーン操作を行えば、図4において、ステップS6からステップS2に処理を戻してティーチングモードを継続するループとなっているため、フック巻上巻下選択スイッチ72をOFF〜ONしたときと、同じくON〜OFFしたときのブーム先端部7sの座標データとフック13の座標データが記憶できるようになっている。したがって、図9のBP1〜4、HP1〜4に対応したブーム先端部7sの座標データとフック13の座標データが記憶されるように構成することができる。
【0038】
そして、図9に示す障害物近傍のクレーン操作をその後も繰り返し行うときであれば、上述の実施形態同様に、プレイバックモードのときには、2つのプレイバックボタン77、78の操作を適宜に行うだけで、ティーチングモードにおいて記憶したブーム先端部とフックの座標を直線移動によって順方向(プレイバックボタン77を押したとき)または逆方向(プレイバックボタン78を押したとき)に順次に再現するので、この変形例においても、記憶容量を少なくしつつも、従来(例えば上記特許文献1)の時間ステップ毎に記憶させるティーチングプレイバック技術に比べて、同等のプレイバック精度を得ることができる。
【0039】
また、ティーチングを行う際に、選択スイッチのクリック操作(選択スイッチを瞬時に中立に戻し再度入れる操作)の制御技術(例えば特開2003−73073号公報記載の制御技術)を盛り込むこともできる。
例えば、ブームの伸長作動に加えてウインチ巻下げ作動を連動させる場合、ブーム伸縮選択スイッチ73とフック巻上巻下選択スイッチ72を適宜クリック操作することで、ブームの伸長作動に対するウインチの巻下げ作動の割合を変化させることができる。この場合でも、選択スイッチのON/OFF操作によりクリック操作を行うため、ティーチング時には、クリック操作により作動割合が変化した位置でのブーム先端部7sの座標データとフック13の座標データが記憶されることになる。
【0040】
また、図4のフローチャートにおいて、ブーム起伏操作中にブーム起伏用油圧シリンダ9のストロークエンドに達したときや、ブーム伸縮操作中にブーム伸縮用油圧シリンダ8のストロークエンドに達したときなどは、そのときの座標データを記憶させるステップを追加することで、より好ましい形態となる。
【符号の説明】
【0041】
1 車両搭載型クレーン(クレーン)
2 アウトリガ
3L、3R アウトリガ用油圧シリンダ
4 ベース
5 旋回用油圧モータ
6 コラム
7 ブーム
8 ブーム伸縮用油圧シリンダ
9 ブーム起伏用油圧シリンダ
10 ウインチ用油圧モータ
11 ウインチ
12 ワイヤロープ
13 フック
14 タンク
15 エンジン
16 PTO
17 油圧ポンプ
18 操作レバー
19 受信機
20 コントロールバルブ
30 コントローラ
31、32、33、34 切換弁
35 減圧弁
36 メインスプール
37 パイロットピストン
40 位置検出器
41 比例ソレノイド
50 アクセルシリンダ
51 比例ソレノイド
52 メインスプール
53 位置検出器
61 ブーム長検出器
62 ブーム角度検出器
63 旋回角度検出器
64 ウインチドラム回転検出器
70 遠隔操作器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンのブーム伸縮、ブーム起伏、ブーム旋回およびウインチ巻上巻下の各アクチュエータに対応した選択スイッチを有する遠隔操作器と、該遠隔操作器の選択スイッチからのON/OFFの信号に基づいて、対応するアクチュエータを駆動させるコントローラとを備えるクレーンに用いられ、該クレーンの一連の動作内容の記憶、並びにその一連の動作内容の再生および逆再生が可能なティーチングプレイバック装置であって、
前記コントローラは、ティーチングモードのときには、前記遠隔操作器のいずれかの選択スイッチのON/OFFの信号の状態が変わったときに、そのときのブーム先端部の座標データとフックの座標データを記憶するとともに、プレイバックモードのときには、前記ティーチングモードにおいて記憶したブーム先端部とフックの座標を直線移動によって順方向または逆方向に順次に再現することを特徴とするクレーンのティーチングプレイバック装置。
【請求項2】
前記遠隔操作器は、前記アクチュエータの作動開始と作動速度を制御するための速度レバーを備え、
前記コントローラが、前記ティーチングモードのときには、いずれかの選択スイッチがONの状態で、速度レバーの操作/非操作の状態が変わったときと、速度レバーが操作状態で、いずれかの選択スイッチのON/OFFの信号の状態が変わったときに、そのときのブーム先端部の座標データとフックの座標データを記憶することを特徴とする請求項1に記載のクレーンのティーチングプレイバック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−75730(P2013−75730A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215285(P2011−215285)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(506002823)古河ユニック株式会社 (54)
【Fターム(参考)】