説明

クレーンの制御装置

【課題】負荷検出器の誤差の影響を受けにくく、より確実に荷振れを抑制できるクレーンの制御装置を提供する。
【解決手段】起伏自在のブームと、前記ブームの先端からワイヤによって吊り下げられるフックと、を備えるクレーンの制御装置2である。
そして、このクレーンの制御装置2は、吊荷を地切りする際に、ワイヤを巻上げてブームの撓みを増加させ、撓みの増加に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すためのブームの必要起仰量をブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、必要起仰量だけブームを起仰する移動制御手段20を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブームやジブを備えたクレーンでは、吊荷を巻上げる際にブームの先端が吊荷の重心を通る鉛直線上に位置していないと、地切り時に荷振れが生じるという問題があった。
【0003】
このような地切り時の荷振れを防止するために、例えば特許文献1では、フックの横振れを検出する横振検出装置を設け、ブームの伸縮、起伏、旋回を制御して吊荷の真上に移動させるブームの姿勢制御装置などが提案されている。
【0004】
しかし、吊荷の真上にブームの先端を移動させた場合でも、ワイヤを巻上げるとブームやジブに撓みが生じてブームの先端位置がずれるため、地切り時に吊荷が作業半径方向に振れる荷振れが生じていた。
【0005】
この問題を解決するため、例えば特許文献2では、ブーム起伏状態と負荷検出器からの信号とに基づいてブームの撓みを演算し、演算した撓みを打ち消すように自動的にブームを起仰する発明が開示されている。
【0006】
この構成によれば、オペレータがフックを巻上げ操作することで、負荷に基づいて演算した撓み分だけ自動的にブームが起仰されるため、荷振れすることなく吊荷を地切りすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公昭55−54710号公報
【特許文献2】特開平1−256496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この特許文献2の構成は、負荷検出器の検出値を用いているため、検出値に誤差があれば撓みの演算と地切りの判定を誤ってしまい、吊荷が荷振れする可能性があった。
【0009】
そこで、本発明は、負荷検出器の誤差の影響を受けにくく、より確実に荷振れを抑制できるクレーンの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明のクレーンの制御装置は、起伏自在のブームと、前記ブームの先端からワイヤによって吊り下げられるフックと、を備えるクレーンの制御装置であって、吊荷を地切りする際に、前記ワイヤを巻上げて前記ブームの撓みを増加させ、前記撓みの増加に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すための前記ブームの必要起仰量を前記ブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、前記必要起仰量だけ前記ブームを起仰する移動制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のクレーンの制御装置は、起伏自在のブームと、前記ブームの先端からワイヤによって吊り下げられるフックと、を備えるクレーンの制御装置であって、吊荷を荷降しする際に、前記ワイヤを巻下げて前記ブームの撓みを減少させ、前記撓みの減少に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すための前記ブームの必要倒伏量を前記ブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、前記必要倒伏量だけ前記ブームを倒伏する移動制御手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明のクレーンの制御装置は、吊荷を地切りする際に、ワイヤを巻上げてブームの撓みを増加させ、この撓みの増加に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すためのブームの必要起仰量をブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、必要起仰量だけブームを起仰する移動制御手段を備えている。
【0013】
このように、実際のブーム先端の姿勢のみに基づいてブームの必要起仰量を演算することで、負荷検出器の誤差の影響を受けることなく、より確実に荷振れを抑制できる。
【0014】
また、本発明のクレーンの制御装置は、吊荷を荷降しする際に、ワイヤを巻下げてブームの撓みを減少させ、撓みの減少に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すためのブームの必要倒伏量をブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、必要倒伏量だけブームを倒伏する移動制御手段を備えている。
【0015】
このように、実際のブーム先端の姿勢のみに基づいてブームの必要倒伏量を演算することで、負荷検出器の誤差の影響を受けることなく、より確実にフックの振れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ラフテレーンクレーンの全体構成を説明する側面図である。
【図2】姿勢角基準装置の構成を説明する説明図である。(a)は側面図であり、(b)は正面図である。
【図3】実施例1のクレーンの制御装置のブロック図である。
【図4】実施例1のクレーンの制御装置の地切り処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】実施例1のクレーンの制御装置の作用を説明する作用図である。(a)は巻上げ時であり、(b)は起仰時である。
【図6】実施例2のクレーンの制御装置の荷降し処理の流れを説明するフローチャートである。
【図7】実施例2のクレーンの制御装置の作用を説明する作用図である。(a)は巻下げ時であり、(b)は倒伏時である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
(機械の構成)
まず、図1の側面図を用いて実施例1のクレーンの制御装置2を備えるクレーンとしてのラフテレーンクレーン1の機械的な構成を説明する。なお、以下の実施例1,2では、ラフテレーンクレーン1を例にして説明するが、これに限定されるものではなく、オールテレーンクレーンなどの移動式クレーンに広く本発明を適用できる。
【0019】
本実施例のラフテレーンクレーン1は、図1に示すように、走行機能を有する車両の本体部分となる車体10と、車体10の四隅に設けられたアウトリガ11,・・・と、車体10に水平旋回可能に取り付けられた旋回台12と、旋回台12に立設されたブラケット13に取り付けられたブーム14と、を備えている。
【0020】
旋回台12は、旋回用モータの動力を伝達されるピニオンギヤを有しており、このピニオンギヤが車体10に設けた円形状のギヤに噛み合うことで旋回軸を中心に回動する。
【0021】
ブーム14は、基端ブーム141と中間ブーム142と先端ブーム143とによって入れ子式に構成されており、伸縮シリンダ(不図示)によって伸縮できるようになっている。
【0022】
この基端ブーム141は、付け根部がブラケット13に水平に設置された支持軸に揺動自在に取り付けられており、支持軸を回転中心として上下に起伏できるようになっている。
【0023】
また、ブラケット13と基端ブーム141との間には、起伏シリンダ15が架け渡されており、この起伏シリンダ15を伸縮することでブーム14全体を起伏することができる。
【0024】
さらに、先端ブーム143の最先端のブームヘッド144にはシーブ(不図示)が配置されており、このシーブにはワイヤ16が掛け回されてフック17が吊下げられている。
【0025】
加えて、図2の拡大図に示すように、本実施例のブームヘッド144の側方に設置したブラケット145には、カメラ70と、姿勢角基準装置3と、が設置されている。
【0026】
カメラ70は、吊荷90の相対的な位置を認識するために設置されるもので、ブームヘッド144に下向きに取り付けられて下方を撮影するムービーカメラであり、カメラ駆動部71によって常に鉛直下方を向くように向きを制御されている。
【0027】
そして、本実施例では、図2に示すように、ブームヘッド144の側方に設置したブラケット145に、水平面に対するブーム14の先端の角度(以下、姿勢角という)を検出する姿勢角基準装置3が設置されている。ここにおいて、姿勢角とは、先端ブーム143の軸線がブームヘッド144の位置で水平面となす角度をいうものとする。
【0028】
この姿勢角基準装置3は、重力方向加速度を検出する加速度計31と、起伏方向の角速度を検出するジャイロ32と、ジャイロ32の信号に含まれるドリフト成分を重力方向加速度を使って除去した信号を積分して傾斜角度を計算する計算機(不図示)と、を備えている。
【0029】
なお、計算機は必須のものではなく、後述するコントローラ20(図3参照)において傾斜角度を計算する場合にはなくてもよい。また、姿勢角基準装置3としては、クレーン作動中でも姿勢角を検出できるものであればよく、必ずしも加速度計31とジャイロ32とを備えるものでなくてもよい。
【0030】
加速度計31は、重力加速度の影響を受けたブームヘッド144の加速度を検出するもので、コイルばねや板ばねを用いる機械式、光ファイバへの張力による波長の変化を検出する光学式、静電容量型、ピエゾ抵抗型、ガス温度分布型等の半導体式など、いずれの方式でもよい。
【0031】
ジャイロ32は、ブームヘッド144の起伏方向の回転角速度を検出する角速度検出器であり、コリオリの力を利用した振動ジャイロ、サニャック効果を用いた光学式ジャイロなど、いずれの方式でもよい。
【0032】
ここで、本実施例の姿勢角基準装置3の特徴について説明する。ジャイロ32にはジャイロ特有のドリフトがあるため、積分すると誤差が増えるという欠点がある。一方、加速度計31は重力加速度より三角関数を使って重力方向を基準とした傾斜角を得ることができるものの、加速度には振動成分や衝撃成分が重畳するため正しい傾斜角を検出できないという欠点がある。
【0033】
そこで、地球の重力方向を基準とした傾斜角が検出できる加速度計31の情報からカルマンフィルタを使ってジャイロ32のドリフト分を推定し、ジャイロ32の検出角速度からドリフト分を差し引いて積分した相対傾斜角を併用することにより、振動や衝撃を含まない地球の重力方向を基準とした傾斜角が得られる。
【0034】
(制御の構成)
本実施例のクレーンの制御装置2は、図3のブロック図に示すように、入力側として、加速度計31及びジャイロ32を有する姿勢角基準装置3と、クレーンの姿勢を検出するクレーン姿勢検出手段4と、吊荷の荷重の概略値を入力する荷重入力手段50と、を備えている。さらに、クレーンの制御装置2は、出力側として、ブーム14を駆動するクレーン駆動手段6を備えている。そして、入力側からの入力値に基づいて出力側に出力値を指令するコントローラ20を備えている。
【0035】
クレーン姿勢検出手段4は、旋回台12の旋回角度を検出する旋回角度検出器、ブーム14の起伏角度を検出する起伏角度検出器、ブーム14の長さを検出するブーム長さ検出器、ワイヤ16の長さを検出するワイヤ長検出器、などによって構成される。
【0036】
荷重入力手段50は、地切り作業の開始時点で吊荷90の荷重の概略値を知得している場合などに、荷重の概略値を入力するための入力機器である。具体的には、テンキー、マウス、タッチパネル、ボタン、レバー等を荷重入力手段50として使用できる。ここにおいて、荷重の概略値とは、実測値である必要はなく予測値などを含む数値であり、例えば、5(t)ごとの範囲を指定するものであってもよい。
【0037】
クレーン駆動手段6は、旋回台12を旋回させる旋回駆動手段、ブーム14を起伏させる起伏駆動手段、ブーム14を伸縮させるブーム伸縮駆動手段、ワイヤ16を巻上げたり巻下げたりするウインチ駆動手段、などによって構成される。
【0038】
そして、本実施例の移動制御手段としてのコントローラ20は、CPU、メモリ、HDD、SSDなどによって構成される汎用のマイクロコンピュータである。
【0039】
コントローラ20は、操作手段(不図示)からの入力を受けてクレーン駆動手段6への出力を演算して出力する通常の処理の他に、吊荷を地切りする際に、ワイヤ16を巻上げてブーム14の撓みを増加させ、この撓みの増加に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すためのブーム14の必要起仰量をブーム14の姿勢のみに基づいて演算し、必要起仰量だけブーム14を起仰する地切り処理を実行する(図4参照)。
【0040】
この他、図示しないが、コントローラ20は、姿勢角基準装置3からの入力に基づいて、カメラ70が鉛直下方に向くようにカメラ駆動部71を制御している。
【0041】
(地切り処理)
次に、図1の側面図、図3のブロック図及び図4のフローチャートを用いて、本実施例のクレーンの制御装置2で実行される地切り処理について説明する。
【0042】
まず、オペレータは、目視によって吊荷90の真上にブームヘッド144を移動させる(ステップS1)。なお、目視によらずにカメラ70等を用いて移動させてもよい。
【0043】
次に、姿勢角基準装置3の加速度計31及びジャイロ32を用いて、吊荷90の負荷が作用していない状態のブーム14の加速度及び起伏方向の回転角速度を計測し、コントローラ20において無負荷時の初期姿勢角θt0を演算する(ステップS2)。
【0044】
次に、玉掛け作業者は、吊荷90の真上に位置しているフック17に、ワイヤ16を用いて吊荷90を掛ける(ステップS3)。
【0045】
そして、玉掛け作業の終了後、オペレータは、スタートボタン51を押して地切り処理を開始する(ステップS4)。なお、オペレータは、作業計画書などを見て事前に吊荷90の荷重の概略値を知得している場合に、荷重入力手段50によって荷重の概略値を入力することが好ましい。
【0046】
地切り処理では、まず、ウインチ駆動手段に指示して、ごく短い単位時間Δt秒の間に単位巻上量だけウインチによってワイヤ16を巻上げる(ステップS5)。ここで単位時間Δt秒は、単位巻上量が過大になってブームヘッド144の位置ずれが大きくならない程度に定められる。加えて、コントローラ20に荷重の概略値が入力されている場合には、荷重に相当する撓みを生じるだけの巻上げに要する時間を予測できるため、初期の単位時間Δt秒を大きくとり、終期の単位時間Δt秒を小さくとるようにすることが好ましい。
【0047】
そして、負荷が作用して撓みを生じた状態のブーム14の姿勢角θtnを検出した後に(ステップS6)、単位起仰量D1=((θtn−θt(n−1))×K)(式(1))を演算する(ステップS7)。θtnは、ある時刻tnでの姿勢角であり、θt(n−1)はtnより1つ前の時刻t(n−1)での姿勢角であり、Kは変換係数である。変換係数Kは、姿勢角の増加量(θtn−θt(n−1))を単位起仰量D1に変換するための定数であり、あらかじめ計算によって求めることができるが、実験によって定めることもできる。
【0048】
次に、演算した単位起仰量D1=0かどうかを判定する(ステップS8)。単位起仰量D1=0であれば(ステップS8のYES)、撓みが増加しておらず地切り完了と判断されるため、そのままウインチを巻上げて所定位置まで吊荷を吊上げて処理を終了する(ステップS9)。
【0049】
一方、単位起仰量D1=0ではなくD1>0であれば(ステップS8のNO)、撓みが増加しており地切り未完了と判断されるため、起伏駆動手段によって起伏シリンダ15を駆動して単位起仰量D1だけブーム14を起仰する(ステップS10)。
【0050】
起仰の際には、同時に姿勢角θも検出しておいて(ステップS11)、検出値の時系列に基づき起仰したことで上下振動が発生していないかどうかを判定する(ステップS12)。上下振動が発生していれば(ステップS12のYES)、地切り完了と判断されるため、そのままウインチを巻上げて所定位置まで吊荷を吊上げて処理を終了する(ステップS9)。一方、上下振動が発生していなければ(ステップS12のNO)、地切り未完了と判断されるため、ステップS5に戻って再びΔt秒間だけウインチを巻上げる(ステップS5)。
【0051】
上記したように、ステップS5からステップS12で実行される単位巻上げと単位起仰とを複数回繰り返すことによって、自動的に吊荷90を荷振れなく地切りする。
【0052】
すなわち、図5(a)に示すように、Δt秒間だけウインチを巻上げることで(ステップS5)、吊荷90の荷重がブーム14に作用して撓みを生じるため、ブームヘッド144が点Aから点Bへと移動する。
【0053】
そして、図5(b)に示すように、ブーム14を単位起仰量D1だけ起仰させることで(ステップS10)、ブームヘッド144が点Bから点Cまで移動するため、点Aから点Bへのブームヘッド144の水平移動量を打ち消して、再びブームヘッド144が吊荷90の真上に移動する。
【0054】
このように、Δt秒間の単位巻上げと(点Aから点B)、式(1)に対応する単位起仰量D1だけの単位起仰と(点Bから点C)を繰り返して、最終的に巻上げ中又は起仰中に吊荷90の荷重に相当する撓みが生じた時点で吊荷90が荷振れなく地切りされる。
【0055】
(効果)
次に、本実施例のクレーンの制御装置2の効果を列挙して説明する。
【0056】
(1)本実施例のクレーンの制御装置2は、起伏自在のブーム14と、ブーム14の先端のブームヘッド144からワイヤ16によって吊り下げられるフック17と、を備えるクレーンの制御装置2である。
【0057】
そして、吊荷90を地切りする際に、ワイヤ16を巻上げてブーム14に撓みを増加させ、この撓みの増加に基づくブーム先端のブームヘッド144の位置ずれを打ち消すためのブームの必要起仰量をブーム14先端の姿勢のみに基づいて演算し、必要起仰量だけブーム14を起仰する移動制御手段としてのコントローラ20を備えている。
【0058】
このように、実際のブーム14先端の姿勢のみに基づいてブーム14の必要起仰量を演算することで、負荷検出器の誤差の影響を受けることなく、より確実に荷振れを抑制できる。
【0059】
ここにおいて、必要起仰量は、後述する単位起仰量D1を含むが、単位巻上げと単位起仰とを複数回繰り返す場合だけでなく、1回の巻上げで吊荷90の荷重に相当する起仰量を生じさせる際の起仰量も含む。
【0060】
(2)また、移動制御手段としてのコントローラ20は、ワイヤ16の単位巻上げとブーム14の単位起仰とを複数回繰り返すことで、吊荷90の重量に相当するブーム14の撓みを生じさせて吊荷90を地切りすることで、地切りした際の荷振れを小さくできる。
【0061】
つまり、各回の単位巻上げ量を小さくすることで、各回のブーム14の撓みに基づくブームヘッド144の移動量も小さくなるため、繰り返し処理の途中で巻上げや起仰によって地切りした際の荷振れを小さくできる。
【0062】
さらに、単位巻上げと単位起仰を繰り返すことで、荷振れを抑制しつつ地切り処理を全自動化できるため、地切り処理をきわめて迅速に実行できるようになる。
【0063】
(3)さらに、移動制御手段としてのコントローラ20は、ブーム14の先端のブームヘッド144に取り付けた姿勢角基準装置3で計測した姿勢角θに基づいて、ブーム14の必要起仰量を演算することで、簡単かつ確実に地切り処理を実行できる。
【0064】
つまり、必要起仰量や単位起仰量D1は、姿勢角基準装置3によって正確に検出される姿勢角θのみに基づき、きわめて簡単な計算式を用いて演算することができるため、確実に吊荷90を地切りできる。
【0065】
(4)そして、移動制御手段としてのコントローラ20は、ワイヤ16の巻上げ中におけるブーム14の姿勢角θの変化に基づいて、吊荷90の地切りの正否を判定することで、負荷検出器等の特別な検知機器を用いることなく、簡易かつ確実に地切りのタイミングを捉えることができる。
【0066】
すなわち、ワイヤ16の巻上げ中に吊荷90が地切りすると、ブーム14の撓みが変化しなくなるため、姿勢角θの変化がなくなることをもって地切りしたことを判定できる。
【0067】
(5)また、移動制御手段としてのコントローラ20は、ブーム14の起仰中におけるブーム14の振動に基づいて、吊荷90の地切りの正否を判定することで、負荷検出器等の特別な検知機器を用いることなく、簡易かつ確実に地切りのタイミングを捉えることができる。
【0068】
すなわち、ブーム14の起仰中に吊荷90が地切りすると、地切りした勢いでブーム14が振動し、それに伴って姿勢角θも振動することをもって地切りしたことを判定できる。
【0069】
(6)さらに、移動制御手段としてのコントローラ20は、吊荷90の荷重の概略値を知得している場合に、この概略値の大きさに合わせて、各回のワイヤ16の単位巻上量及びブーム14の単位起仰量を調整することで、繰り返し処理の回数を少なくできる。
【0070】
つまり、初期の単位時間Δt秒を大きくとり終期の単位時間Δt秒を小さくとることで、処理全体の繰り返し回数を少なくして迅速に地切りできる。加えて、終期の単位時間Δt秒を小さくとることで、終期の単位巻上げ量が小さくなるため、地切りの際の荷振れを小さくできる。
【実施例2】
【0071】
以下、図1,3,6,7を用いて、実施例1の地切り処理と異なり、荷降し処理について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0072】
(構成)
まず構成について説明すると、機械の構成及び制御の構成ともに、実施例1と同様であるから説明を省略する。
【0073】
(荷降し処理)
次に、図1の側面図、図3のブロック図及び図6のフローチャートを用いて、本実施例のクレーンの制御装置2で実行される荷降し処理について説明する。
【0074】
まず、オペレータは、着地地点まで吊荷90を移動して、徐々にワイヤ16を巻下げて吊荷90を着地させる(ステップS21)。
【0075】
次に、姿勢角基準装置3の加速度計31及びジャイロ32を用いて、撓みに相当する吊荷90の負荷が作用している状態のブーム14の加速度及び起伏方向の回転角速度を計測し、コントローラ20において無負荷時の初期姿勢角θt0を演算する(ステップS22)。
【0076】
そして、オペレータは、スタートボタン51を押して荷降し処理を開始する(ステップS23)。なお、実施例1と同様に荷重入力手段50によって荷重の概略値を入力することが好ましい。あるいは、クレーンに装備されている過負荷防止装置で得られる宙吊り状態の吊荷荷重を与えても良い。
【0077】
荷降し処理では、まず、ウインチ駆動手段に指示して、ごく短い単位時間Δt秒の間に単位巻下量だけウインチによってワイヤ16を巻下げる(ステップS24)。
【0078】
そして、ワイヤ16を巻下げた分だけ負荷が除かれて撓みが戻った状態のブーム14の姿勢角θtnを検出した後に(ステップS25)、単位倒伏量D2=((θt(n−1)−θtn)×K)(式(2))を演算する(ステップS26)。
【0079】
次に、演算した単位倒伏量D2=0かどうかを判定する(ステップS27)。単位倒伏量D2=0であれば(ステップS27のYES)、撓みが減少しておらず荷降し完了と判断されるため、玉掛け作業者がフック17からワイヤ16を取外して処理を終了する(ステップS28)。
【0080】
一方、単位倒伏量D2=0ではなくD2>0であれば(ステップS27のNO)、撓みが減少しており荷降し未完了と判断されるため、起伏駆動手段によって起伏シリンダ15を駆動して単位倒伏量D2だけブーム14を倒伏して(ステップS29)、ステップS24に戻って再びΔt秒間だけウインチを巻下げる(ステップS24)。なお、荷降し処理でも地切り処理と同様に、姿勢角θを検出して振動の有無を判定するが(ステップS30,31)、荷降し処理では振動は発生しない(ステップS31のNO)。
【0081】
上記したように、ステップS24からステップS29で実行される単位巻下げと単位倒伏とを複数回繰り返すことによって、ブーム14に撓みのない状態で吊荷90を荷降しすることができる。
【0082】
すなわち、図7(a)に示すように、Δt秒間だけウインチを巻下げることで(ステップS24)、ブーム14に作用する吊荷90の荷重が減少して撓みも減少するため、ブームヘッド144が点Aから点Bへと移動する。
【0083】
そして、図7(b)に示すように、ブーム14を単位倒伏量D2だけ倒伏させることで(ステップS29)、ブームヘッド144が点Bから点Cまで移動するため、点Aから点Bへのブームヘッド144の水平移動量を打ち消して、再びブームヘッド144が吊荷90の真上に移動する。
【0084】
このように、Δt秒間の単位巻下げと(点Aから点B)、式(2)に対応する単位倒伏量D2だけの単位倒伏と(点Bから点C)を繰り返して、ブーム14の撓みがなくなった後に玉外し作業を行うことで、フック17の振れを防止できる。
【0085】
(効果)
次に、本実施例のクレーンの制御装置2の効果を列挙して説明する。
【0086】
(1)本実施例のクレーンの制御装置2は、起伏自在のブーム14と、ブーム14の先端からワイヤ16によって吊り下げられるフック17と、を備えるクレーンの制御装置2である。
【0087】
そして、吊荷90を荷降しする際に、ワイヤ16を巻下げてブーム14の撓みを減少させ、撓みの減少に基づくブーム先端のブームヘッド144の位置ずれを打ち消すためのブーム14の必要倒伏量をブーム14先端の姿勢のみに基づいて演算し、必要倒伏量だけブーム14を倒伏する移動制御手段としてのコントローラ20を備えている。
【0088】
このように、実際のブーム14先端の姿勢のみに基づいてブーム14の必要倒伏量を演算することで、負荷検出器の誤差の影響を受けることなく、より確実にフック17の振れを抑制できる。
【0089】
(2)また、移動制御手段としてのコントローラ20は、ワイヤ16の単位巻下げとブーム14の単位倒伏とを複数回繰り返すことで、吊荷90の重量に相当するブーム14の撓みを回復させて吊荷90を荷降しすることで、荷降しした際のフック17の振れを小さくできる。
【0090】
さらに、コントローラ20は、地切り処理における繰り返し処理の回数又は撓み量などに基づいて推定される荷重推定値を記憶しておき、荷降し処理において記憶した前記荷重推定値に基づいて繰り返し処理を実行することで、迅速に荷降しできるうえにフック17の振れも小さく抑制できる。
【0091】
つまり、荷降し処理において荷重推定値の大きさに合わせて、各回のワイヤ16の単位巻下量及びブーム14の単位倒伏量を調整することで、繰り返し処理の回数を少なくできる。
【0092】
具体的には、初期の単位時間Δt秒を大きくとり終期の単位時間Δt秒を小さくとることで、処理全体の繰り返し回数を少なくして迅速に荷降しできる。加えて、終期の単位時間Δt秒を小さくとることで、終期の単位巻下げ量が小さくなるため、荷降しの際のフック17の振れを小さくできる。
【0093】
なお、この他の構成および作用効果については、実施例1と略同様であるため説明を省略する。
【0094】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0095】
例えば、実施例1,2では、クレーンの制御装置2が荷重入力手段50を備える場合について説明したが、これに限定されるものではなく、荷重入力手段50はなくてもよい。
【0096】
また、実施例1では、ブーム14の振動による地切り判定する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、単位起仰量が十分に小さい場合には、振動による地切り判定は実行しなくてもよい。
【0097】
さらに、実施例1,2では、姿勢角基準装置3で計測したブーム14の姿勢角θに基づいてブーム14の必要起仰量を演算する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ブーム14の姿勢に基づいて必要起仰量を演算できれば、どのような計測機器を用いてもよい。
【0098】
そして、実施例1,2では、スタートボタン51を押した後、地切り処理又は荷降し処理を実行するように説明したが、巻上げ又は巻下げ操作信号と姿勢角の変化を使って地切り処理又は荷降し処理を実行することも可能であり、スタートボタン51はなくても良い。
【0099】
また、実施例1,2の単位起仰量D1、単位倒伏量D2の式中のKは、一定値に限らず、クレーン姿勢検出手段4で得られるクレーン姿勢に応じた可変値としても良い。
【符号の説明】
【0100】
D1 単位起仰量
D2 単位倒伏量
1 ラフテレーンクレーン
14 ブーム
144 ブームヘッド
15 起伏シリンダ
16 ワイヤ
17 フック
2 クレーンの制御装置
20 コントローラ(移動制御手段)
3 姿勢角基準装置
31 加速度計
32 ジャイロ
4 クレーン姿勢検出手段
50 荷重入力手段
51 スタートボタン
6 クレーン駆動手段
90 吊荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起伏自在のブームと、前記ブームの先端からワイヤによって吊り下げられるフックと、を備えるクレーンの制御装置であって、
吊荷を地切りする際に、
前記ワイヤを巻上げて前記ブームの撓みを増加させ、前記撓みの増加に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すための前記ブームの必要起仰量を前記ブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、前記必要起仰量だけ前記ブームを起仰する移動制御手段を備えることを特徴とするクレーンの制御装置。
【請求項2】
前記移動制御手段は、前記ワイヤの単位巻上げと前記ブームの単位起仰とを複数回繰り返すことで、前記吊荷の重量に相当する前記ブームの撓みを生じさせて前記吊荷を地切りすることを特徴とする請求項1に記載のクレーンの制御装置。
【請求項3】
前記移動制御手段は、前記ブームの先端に取り付けた姿勢角基準装置で計測した姿勢角に基づいて、前記ブームの必要起仰量を演算することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のクレーンの制御装置。
【請求項4】
前記移動制御手段は、前記ワイヤの巻上げ中における前記ブームの姿勢角の変化に基づいて、前記吊荷の地切りの正否を判定することを特徴とする請求項3に記載のクレーンの制御装置。
【請求項5】
前記移動制御手段は、前記ブームの起仰中における前記ブームの振動に基づいて、前記吊荷の地切りの正否を判定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のクレーンの制御装置。
【請求項6】
前記移動制御手段は、前記吊荷の荷重の概略値を知得している場合に、前記概略値の大きさに合わせて、各回の前記ワイヤの単位巻上量及び前記ブームの単位起仰量を調整することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか一項に記載のクレーンの制御装置。
【請求項7】
起伏自在のブームと、前記ブームの先端からワイヤによって吊り下げられるフックと、を備えるクレーンの制御装置であって、
吊荷を荷降しする際に、
前記ワイヤを巻下げて前記ブームの撓みを減少させ、前記撓みの減少に基づくブーム先端の位置ずれを打ち消すための前記ブームの必要倒伏量を前記ブーム先端の姿勢のみに基づいて演算し、前記必要倒伏量だけ前記ブームを倒伏する移動制御手段を備えることを特徴とするクレーンの制御装置。
【請求項8】
前記移動制御手段は、
前記ワイヤの単位巻下げと前記ブームの単位倒伏とを複数回繰り返すことで、前記吊荷の重量に相当する前記ブームの撓みを回復させて前記吊荷を荷降しするとともに、
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の地切り処理において推定された荷重推定値を記憶しておき、荷降し処理において記憶している前記荷重推定値に基づいて繰り返し処理を実行することを特徴とする請求項7に記載のクレーンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−131586(P2012−131586A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283000(P2010−283000)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】