説明

クレーンの巻上げギヤを制御するためのクレーン制御器

【課題】クレーンの巻上げギヤを制御するためのクレーン制御器に関するものであって、動的荷重を考慮した改良されたクレーン制御器を提供する。
【解決手段】クレーンの巻上げギヤの制御において、巻上げロープの弾性に起因する動的振動を考慮して、該動的振動を低減させるように巻上げギヤを適切に制御するもので、該巻上げギヤの駆動速度をオーバーシュートを抑制するために最大許容駆動速度に制限する。この最大許容駆動速度はクレーンデータを基に動的に決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの巻上げギヤを制御するためのクレーン制御器に関し、特に、オペレータによって入力部材(特にハンドレバー)を介して入力された入力信号から、クレーンの巻上げギヤの制御信号を決定する電子クレーン制御器に関する。上記入力信号は、自動化システムによって発生するものであってもよい。
【背景技術】
【0002】
クレーンによって荷物を上昇させる際には、荷物の重量に起因してロープ及びクレーンに作用する静的荷重に加えて、荷物が動くことによる動的荷重が更に生じる。この動的荷重を許容できるようにするために、クレーン構造をこれに対応してより強固な構造にするか、又は、最大静的荷重を低減することが求められる。
【0003】
従来のクレーン制御においては、オペレータは、手動レバーを操作することで巻上げギアの速度を自在に決定する。この操作に応じて、クレーンの安定した(そして非常に高価な)構造においても考慮せざるを得ない相当な動的荷重が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、改良されたクレーン制御器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1による発明のクレーン制御によって達成される。本発明では、クレーンの巻上げギヤを制御するためのクレーン制御器が提供される。このクレーン制御器は、上記巻上げギヤの制御において、巻上げロープの弾性に起因する動的振動を考慮して、該動的振動を低減又は減衰させるように上記巻上げギヤを制御する。ここで、ロープ及び荷物を含むシステムの動的振動が特に考慮される。さらに好ましくは、巻上げギヤ及び/又はクレーン構造を考慮してもよい。本発明に係るクレーン制御を用いることによって、ロープ及びクレーン構造に作用する動的荷重を減らすことが可能になる。これにより、クレーン構造をより軽量化するか又はより大きな静的荷重を作用させることが可能になる。本発明に係るクレーン制御器によれば、巻上げギヤ、ロープ、及び荷物を含むシステムの動的振動を考慮に入れることで、クレーン構造に作用する巻上げ力を、許容される最大値に制限することができる。
【0006】
本発明に係るクレーン制御器によれば、巻上げロープの弾性に起因する動的振動を考慮した振動低減演算を含むことが有利であり、その一方で、クレーン構造が支持されている固定の支持部の移動可能性は、巻上げギヤの制御において考慮されない。したがって、本発明に係る制御器は、巻上げロープ及び/又はギア及び/又はクレーン構造に起因する振動を考慮しなければならないだけである。例えば浮動クレーンにおいて波の動きによって生じる支持部の動きは、これとは対照的に、振動低減演算において考慮されない。こうして、クレーン制御は実質的により簡単な制御設計となる。
【0007】
本発明に係るクレーン制御器は、クレーン構造が巻上げ中においても固定位置(特に地面)に支持されたクレーンに使用することができる。本発明に係るクレーン制御器は、浮動クレーンに使用することもできる。しかし、浮動する本体部の動きは振動低減演算において考慮されない。クレーン制御器が、アクティブに上下動を補償する作動モードを有する場合、振動低減演算は、アクティブ上下動補償の動作なしになされる。
【0008】
本発明に係るクレーン制御器によれば、可搬型及び/又は移動型のクレーンにも使用することができる。この点に関して、クレーンは、異なる巻上げ場所にて支持可能な支持手段を有していることが好ましい。さらに、本発明に係る方法は、港湾用クレーン、特に移動型の港湾用クレーン、クローラ付きクレーン、移動クレーン等に使用することができる。
【0009】
本発明に係るクレーンの巻上げギアは、油圧により駆動することができる。或いは、電気モータで駆動されるものであってもよい。
【0010】
本発明に係るクレーン制御器は、オペレータによって入力部材(特に手動レバー)を介して入力される入力信号から、クレーンの巻上げギヤの制御信号を決定することが有利であり、その制御信号の決定には、ロープ及びクレーン構造に作用する動的荷重を制限するために、巻上げロープの弾性に起因する、巻上げギヤ、ロープ及び荷物を含むシステムの動的振動が考慮される。それに代えて、又は、それに加えて、クレーン制御器は、所望の巻上げ動作を行う自動化システムを有するものであってもよい。
【0011】
この点に関して、巻上げギヤの駆動速度は、少なくとも一つの作動局面において、特に荷物の上昇及び/又は下降中において、オーバーシュートを抑制するための最大許容駆動速度によって制限されることが好ましい。最大許容駆動速度は、クレーン制御器が巻上げギヤを停止させるためにゼロとなることもあり得る。しかしながら、クレーン制御器は、上昇動作が妨げられないように、駆動速度をゼロよりも大きな速度に制限する。
【0012】
本発明は、静的荷重を越えて所定量に達するような巻上げ力のオーバーシュートを制限することが可能である。このオーバーシュートは、ブーム位置に依存する一定の最大荷重値に制限されることが好ましい。
【0013】
上記動的振動又は駆動速度の制限を考慮することは、特に巻上げ機、巻上げロープ及び荷物を含むシステムの動的荷重と関連性のあるこの種の作動局面において少なくとも起こる。駆動速度は、特定の作動局面において制限されるのみであるが、他の作動局面においては、オペレータを不必要に制限しないために制限解除されるものとしてもよい。駆動速度は、荷物の上昇及び/又は下降中に限って制限されて、それ以外は制限解除されるものであってもよい。
【0014】
さらに、巻上げギヤの駆動速度は、該駆動速度が最大許容駆動速度を下回っている限り、入力信号に基づいて決定されるものであってもよい。オペレータによる入力信号から決定される駆動速度が最大許容駆動速度を超えたときだけ、駆動速度を最大許容駆動速度に制限する。したがって、オペレータは、ギヤの駆動速度が最大許容駆動速度を越えない限りは、従来通りに巻上げギヤを自由に操作することができる。
【0015】
クレーン制御器は、クレーンデータを基に、巻上げギヤの最大許容駆動速度を動的に決定することが有利である。したがって、固定された最大許容駆動速度が予め設定されておらず、状況に応じてケース毎に決定される。これにより、最大許容駆動速度を、個々の巻き上げ状況に適した速度とすることができる。これは、巻き上げギアの駆動速度が、不必要に高い値に制限されることがないという点で好ましい。
【0016】
クレーンの半径は、最大許容駆動速度に含まれることが有利である。クレーンの半径は、クレーン構造が受け入れることが可能な最大荷重を決定し、そして、許容される最大動的荷重を決定する。クレーンが水平な起伏軸を中心として起伏可能に構成されたブームである場合には、起伏角を最大許容駆動速度の決定において考慮することもできる。
【0017】
更に有利な方法として、巻上げギヤの最大許容駆動速度は、その時点で測定される巻上げ力に基づいて決定される。これによって、巻上げ力のオーバーシュートを、許容される最大静的荷重に制限することができる。巻上げ力が増加するに連れて、最大許容駆動速度を低下させることが有利である。最大許容駆動速度は、その時点で計測された巻上げ力の平方根に反比例することが好ましい。巻上げ力は、負荷質量センサを介して測定することができる。
【0018】
更に有利な方法によれば、巻上げギヤの最大許容駆動速度を、ロープ長さに基づいて決定する。ロープ長さは、巻上げロープの硬さに影響し、延いては、巻上げ機、ロープ、及び荷物を含むシステムの動的挙動に影響する。ロープ長さは、巻上げギヤの動きに関する計測値、又は、巻上げギヤの制御データを基に決定することが有利である。
【0019】
更に有利な方法として、最大許容駆動速度の算出において、クレーン構造及びロープ構造に依存した特定の定数を考慮する。
【0020】
巻上げギヤの最大許容駆動速度は、巻上げギヤ、ロープ、及び荷物を含むシステムの動的振動を表す物理モデルに基づいて決定することが有利である。これにより、最大許容駆動速度の精度良い制限を達成することが可能になる。また、クレーン制御器を、他のクレーンモデルにより簡単に適用することができる。
【0021】
クレーンに作用する動的荷重及びロープに作用する動的荷重は、持上げ時の動作局面によって大きく異なるため、異なる局面のそれぞれにおいて好適な制御プログラムによりクレーン制御が行われることが好ましい。
【0022】
それ故、本発明に係るクレーン制御器は、状況認識システムを備えていることが有利であり、クレーン制御器は、その状況認識システムを基にクレーン制御器の制御挙動を決定する。本発明に係るクレーン制御器によれば、状況認識システムを参照してクレーン制御器の制御挙動を決定する有限状態機械を有することが特に有利である。この有限状態機械が、個別の事象(状態)を認識して、各事象のそれぞれに対して予め設定された巻上げギヤのための制御プログラムを実行することが特に有利である。
【0023】
上記状況認識システムは、オーバーシュートを回避するために巻上げギヤの駆動速度が制限されている持上げ状態を認識することが有利である。この目的のために、上記有限状態機械は、オーバーシュート回避のために巻上げギヤの駆動速度が制限されている持上げ状態を有することが有利である。持上げによりロープ及びクレーンには最大動的荷重が作用するため、この局面において巻上げギヤの駆動速度を、オーバーシュート回避のために制限することは重要である。
【0024】
上記状況認識システムが、地面に載置された荷物が上昇したことを認識したときに、持上げ状態への変化が生じる。地面に置かれた荷物が地面から離れるときに初めて、巻上げロープの巻上げによって巻上げロープに張力がかかる。この局面では、巻上げギヤの駆動速度は、荷物を上げた後の荷物のオーバーシュートを回避するために制限される。
【0025】
上記状況認識システムは、測定された巻上げ力の変化がモニタされている持上げ状態を認識することが有利である。この点に関して、巻上げ力の微分値を上記状況認識において考慮することが有利である。巻上げ力の時間による微分値が、予め設定された最小値を上回るかどうかの判定を行うことができる。上記力の絶対値も、上記状況認識において更に考慮することができる。この点に関して、その時点で測定された巻上げ力と、単に荷物の静的重量だけで決定される最終的な巻上げ力との差を考慮することが有利である。この差が特定の設定値を上回るかどうかを判定すればよい。上記力の絶対値も考慮されることで、荷物がフックにフリーの状態で吊り下げられて過大なオーバーシュートが発生する虞れがないにも拘わらず持上げ状態が検出されるのを防止することができる。
【0026】
更に有利な方法において、上記状況認識システムは、巻上げギヤの駆動速度の制限が解除されている解除状態を認識する。その解除状態は、荷物が持ち上げられた後にクレーンのロープにフリーの状態で吊り下げられているときに、認識されることが有利である。上記有限状態機械は、この目的のために、巻上げギヤの駆動速度が制限解除される解除状態を有していることが有利である。これによれば、巻上げ力のオーバーシュートが起こらないと予想されるこれらの作動局面においては、オペレータによる操作がクレーン制御器によって制限されないこととなる。これらの局面において、巻上げギヤは、クレーン制御器によってその駆動速度が制限されることなく、オペレータによる自由な操作が可能になっている。
【0027】
上記状況認識システムが、荷物が上昇し且つ現在クレーンにフリーで吊されていることを認識したときに、解除状態への変化が生じる。この状態では、限界動的挙動が起こる可能性はないため、オペレータは、巻上げ機構を自由に操作することができる。
【0028】
この点に関して、荷物が上昇したか否かを認識するために、巻上げギヤの動きに関するデータが、状況認識システムにおいて考慮される。特に状況認識システムは、計測された巻上げ力及びロープの伸長挙動に関するデータを基に、荷物を地面から持ち上げるために巻上げギヤが十分に巻き上げられたか否かを決定する。
【0029】
更に有利な方法において、上記状況認識システムは、荷物をセットダウン(荷降ろし)するときにロープが不必要に解かれるのを防止するために、巻上げギヤの駆動速度が制限されているセットダウン状態を認識する。この目的のために、有限状態機械には、荷物をセットダウンするときにロープが不必要に解かれるのを防止するために巻上げギヤの駆動速度が制限されているセットダウン状態を有することが有利である。荷物のセットダウン時においては、クレーン構造の安定性に関する規制は必要ない。しかし、クレーンのオペレータが、荷物を地面にセットダウンしたときに、緩んだロープを解き過ぎないようにするために、本発明に係るクレーン制御器はこの種の状況にも関連している。
【0030】
本発明に係るクレーン制御器の上述の形態は、荷物が持ち上げられるか又はセットダウンされるかのいずれかの局面における巻上げギヤの制御に実質的に関連している。このことは、これらの局面において、速度の制限、特に荷重に依存した速度制限によってオーバーシュートを効果的に低減することが可能となるように、最大の動的効果が生じる、という考えに基づいている。荷物がクレーンフックにフリーの状態で吊り下げられている間は、制御器は前述の速度制限を採用しないか、又は、例外的な状況においてのみ該速度制限を採用する。
【0031】
本発明は更に、荷物がクレーンロープにフリーの状態で吊り下げられている局面において使用することが有利な異なる形態の制御器を含んでいる。この局面において、クレーン制御器は、ロープ及びクレーン構造の負担になり易い該ロープ及び/又はクレーンの自然振動を回避するために使用される。
【0032】
この点に関して、本発明は、荷物の所望の持上げの動き(移動)を入力変数とする制御器を含んでいて、この入力を基に巻上げギヤを制御するための制御パラメータが算出される。この点に関して、本発明に係るクレーン制御器は、制御パラメータの算出において、巻上げロープの弾性に起因して生じる動的振動を考慮に入れている。これにより、ロープ及び荷物を含むシステムの自然振動を減衰することができる。荷物の所望の持上げの動きは、先ず、オペレータ及び/又は自動化システムからの入力信号によって発生して、本発明によるクレーン制御器の入力変数として使用される。自然振動を減衰するべく巻上げギヤを制御するための制御パラメータは、この入力変数及び動的振動を考慮して算出される。
【0033】
この点に関して、巻上げロープの弾性に加えて、作動油の圧縮性に起因する巻上げギヤの動的振動を、制御パラメータの算出において考慮することが好ましい。この要素もまた、クレーン構造に対してひずみを生じさせる、巻上げギヤ、ロープ、及び荷物を含むシステムの自然振動を引き起こす可能性がある。
【0034】
巻上げロープの変化する長さは、制御パラメータの算出において考慮されるべきである。巻上げロープの長さは、ロープの剛性及びその動特性に影響を及ぼす。更に有利な方法において、測定された巻上げ力又は該巻上げ力から決まる、ロープに吊り下げられた荷物の重量を、制御パラメータの算出に際して考慮してもよい。ロープに吊り下げられた荷物の重量は、巻上げロープ、巻上げギヤ及び荷物を含むシステムの動特性に影響を及ぼす。
【0035】
巻上げギヤの制御は、巻上げギヤの制御パラメータに依存する上記荷物の持上げの動きを含む物理モデルに基づいて行うことが有利である。これにより、非常に良好な振動減衰を達成することができる。さらに、物理モデルの使用は、他のクレーンに対して本発明の制御器を迅速に適用することができる。このような適用は、簡単な計算及びクレーンデータに基づいて行われる。この点に関して、上記モデルは、クレーンの支持部を固定したものを想定したものであることが有利である。
【0036】
巻上げギヤの制御は、上記物理モデルの逆モデルに基づいて行われることが有利である。巻上げギヤの制御パラメータは、上記物理モデルの逆モデルによる上記制御器の入力変数として使用可能な上記荷物の持上げの動きに依存して得られる。
【0037】
さらに、本発明によるクレーン制御器の上記2つの変形を結合することが考えられる。この点に関して、巻上げギヤの駆動速度の制限は、特に上記有限状態機械が持上げ状態にあるときに行うことができ、巻上げギヤの制御は、上記有限状態機械が解除状態に変化したときに所望の持上げの動きに基づいて行うことができる。
【0038】
本発明は更に、巻上げギヤの制御において、巻上げロープの弾性に起因して生じる、巻上げギヤ、ロープ及び荷物を含むシステムの動的振動を考慮して、巻上げギヤの適した制御により該動的振動を低減又は減衰させる、クレーン制御器によりクレーンの巻上げギヤを制御する方法を含む。この巻上げギヤの制御は、特に、本発明による、上述したクレーン制御器によって行われる。
【0039】
本発明は、上述したクレーン制御器を備えたクレーンを更に含む。
【0040】
本発明は、実施形態及び図面を参照してより詳細に示される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るクレーン制御器を使用した場合と使用しない場合とにおいて、荷物上昇時の巻上げギヤの荷重測定軸におけるオーバーシュートを示すグラフである。
【図2】本発明に係るクレーン制御器を使用したクレーンの実施形態1を示す図である。
【図3】状況認識システムと、持上げ状態における巻上げギヤの駆動速度制限手段とを備えた本発明の実施形態1に係るクレーン制御器を示すブロック線図である。
【図4】実施形態1に係る有限状態機械のブロック線図である。
【図5】実施形態1に係るクレーン制御器を使用した場合と使用しない場合とにおいて、荷物の持上げ中における巻上げギヤの駆動速度を示すグラフである。
【図6】クレーン制御器を有する場合と有さない場合とおいて、図5に示す巻上げギヤの制御時に生じる持上げ力を示すグラフである。
【図7】巻上げギヤの油圧駆動装置を示すブロック図である。
【図8】ギア、ロープ及び荷物を含むシステムの実施形態2に使用される物理モデルを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
図2は、本発明の実施形態に係るクレーン制御器を備えたクレーンを示す。このクレーンは、水平な起伏軸に対して起伏(上下動)可能にタワー2に枢支されたブーム1を備えている。ブーム1及びタワー2間に枢着された油圧シリンダ10が、起伏面にてブームを起伏させるために設けられている。タワー2は、鉛直な回転軸回りに回動可能に配置されている。この目的のために、タワー2は、下部構造体8に対して回転ギヤを介して回動可能に構成された上部構造体7上に配置されている。本実施形態では、下部構造体8が移動用ギア9を備えた移動型クレーンとされている。このクレーンは、支持要素71を介して巻上げ位置に支持可能になっている。
【0043】
荷物の持上げは、荷物受入要素4(本実施形態ではクレーンフック)が配設された巻上げロープ3を介して行われる。巻上げロープ3は、タワーの頂部6及びブームの先端部5の滑車を経て、上部構造体7に設けた巻上げギヤ30へと導かれて、その巻上げギヤ30を介して巻上げロープの長さが変更可能になっている。この点で、巻上げギヤ30は、巻上げ機として使用されている。
【0044】
本発明によれば、クレーン制御器は、巻上げロープの弾性に起因する振動を低減するために、巻上げギヤの制御において、巻上げギヤ、巻上げロープ、及び荷物を含むシステムの動的特性を考慮するようにしている。
【0045】
本発明の実施形態1に係るクレーン制御器により実行される制御方法を、以下においてより詳細に説明する。
【0046】
1 実施形態1の序論
DIN(ドイツ工業規格) EN 13001−2及びDIN EN 14985によれば、巻上げギヤの荷重測定軸における最大のオーバーシュート量が保証される場合には、回転するブームクレーンに使用される鉄製の構造物を低減することができる。巻上げギヤの半径に依存する最大許容巻上げ力は、地面からの荷物の持上げ時における動的オーバーシュートによってピーク値を越える可能性がある。このような最大オーバーシュートを保証するために、自動巻上げシステムを採用することができる。
【0047】
図1は、最大オーバーシュートを保証する自動巻上げシステムを有する場合と有しない場合とにおける、荷物上昇時に測定された巻上げ力を示す。以下に述べる自動巻き上げシステムは、巻上げギヤの半径に依存する、荷物を地面から持ち上げているときの巻上げギヤの最大許容巻上げ力がピーク値を絶対に越えないことを保証する。さらに、ここで述べられる自動巻き上げシステムは、荷物を地面にセットダウンする際に巻上げギヤの駆動速度を減少させる。これにより、クレーンオペレータが、荷物を地面にセットダウンしたときに緩んだロープを解き過ぎるのを回避することができる。
【0048】
2 実施形態1におけるクレーンモデル
以下では、自動巻き上げシステムの実施形態1に使用されるクレーンモデルについて述べる。図2は、港湾用の移動型クレーンの完成構造を示す。質量mを有する荷物は、荷持取上げ手段を介してクレーンによって持ち上げられて、全長lを有するロープを介して巻上げ機に接続される。上記ロープは、上記荷持取上げ手段から、ブーム頭部及びタワーのそれぞれに設けられた屈曲プーリを経て屈曲して配置されている。ロープは、ブーム頭部において巻上げ機に向けて直接屈曲されるのではなく、ブーム頭部からタワーに向かって屈曲された後に、ブーム頭部に戻ってそれからタワーを経て巻上げ機へと向かう点に注意すべきである(図2参照)。全体のロープ長さは式(1)で表される。
【0049】
【数1】

【0050】
ここで、l、l及びlは、それぞれ、巻上げ機からタワーまでの長さ、タワーからブーム頭部までの長さ、及び、ブーム頭部から荷物取上げ手段までの長さである。クレーンは、荷物の持上げ時には、バネ質量ダンパーとして機能すると考えられる。荷物の持上げに際してのクレーンの全バネ剛性は、ロープのバネ剛性とクレーンのバネ剛性(タワーの屈曲及びブームの屈曲等)とからなる。ロープのバネ剛性は式(2)で表される。
【0051】
【数2】

【0052】
ここで、E及びAは、それぞれ、ロープの弾性係数及びロープの断面積である。港用の移動型クレーンでは、n本の平行なロープが荷物を持ち上げるので(図2参照)、ロープのバネ剛性cropeは式(3)で表される。
【0053】
【数3】

【0054】
全バネ剛性の算出のために、例えばクレーン及びロープが直列に接続されていると過程した場合には、全バネ剛性は式(4)で表される。
【0055】
【数4】

【0056】
3 実施形態1における自動巻上げシステム
ここで示される自動巻上げシステムは、個別の事象(状態)を有し且つ荷物の持上がりを検出可能な有限状態機械に基づいている。荷物が持ち上げられると直ぐに、巻上げ速度が、予め設定された値に減じられて、これにより、動的に変化する巻上げ力の最大オーバーシュートが保証されることとなる。一旦、荷物が地面から十分に持ち上げられた状態になると、自動巻き上げシステムによって、巻上げギヤ速度の制限が解除される。さらに、自動巻上げシステムは、荷物のセットダウン(荷下ろし)を検出したときにも同様に巻上げギヤの速度を減じる。巻上げギアはまた、そのセットダウンに引き続いて解放(制限解除)されなければならない。
【0057】
図3に、自動巻上げ機のシステムの模式図を示す。「vup,vdownのプリセット」ブロックにおいて、荷物の持上げ及びセットダウンのための最大許容速度が計算又は予め設定される。その正確な算出方法は、以下で説明する。「状況認識」ブロックにおいて、荷物が地面から持ち上げられたか、若しくは、地面にセットダウンされたか否か、又は、クレーンが通常操作モードにあるか否かが検出される。そして、その時の状況に基づいて、対応する所望の速度vdesが選択される。この決定は、上述の通り、別々の事象(状態)を有する有限状態機械に基づいて行われる。
【0058】
以下の説明では、荷物移動のz軸が下方へと延びている(図2参照)。これにより、正の巻上げギヤ速度vhgによって荷物が下降する一方、負の巻上げギヤ速度vhgによって荷物が上昇することとなる。
【0059】
3.1 vup,vdownのプリセット
このブロックにおいては、地面から荷物を持ち上げる場合における最大許容巻上げ速度vupが計算される。この速度は、そのときに測定された巻上げ力F、最大許容巻上げ力mmax、及び全バネ剛性ctotalに依存している。その計算のために、荷物が地面から持ち上がった後の荷物の巻上げ動作が、一定の巻上げ運動と、これに重畳的に加わる振動とからなるものと仮定される。その振動は、非減衰のバネ−質量系システムによって記述される。これにより、上記測定された巻上げ力は式(5)にて表される。
【0060】
【数5】

【0061】
ここで、Fconst(=mg)は、重力に基づく一定の荷重である。動的巻上げ力Fdynは、バネ−質量発振器の動的なバネ力によって表される。
【0062】
【数6】

【0063】
ここで、zdynの文字の上に「・・」を付したもの(zdyn″と同じ)は、荷物の加速度(重力に起因する加速度を除いた加速度)である。非減衰のバネ−質量系システムのための微分方程式は式(7)で表される。
【0064】
【数7】

【0065】
式(7)の初期条件は、式(8)で表される。
【0066】
【数8】

【0067】
これは、Fdyn(0)=mdyn″(0)=−ctotaldyn(0)=0であり、且つ
【0068】
【数9】

【0069】
であり、また、速度vupを有する荷物が地面から持ち上げられる(zは正の方向が下方に向かう)からである。
【0070】
式(7)の一般解は式(10)で表される。
【0071】
【数10】

【0072】
係数A,Bは、初期条件である式(8)及び式(9)によって計算されて、式(11)及び式(12)のようになる。
【0073】
【数11】

【0074】
【数12】

【0075】
ここで、ω=(ctotal/m1/2である。
【0076】
動的な巻上げ力の時間変化は、式(13)で表される。
【0077】
【数13】

【0078】
−1≦sin(ωt)≦1であるので、最大値は式(13)で表される。
【0079】
【数14】

【0080】
巻上げ力の最大オーバーシュートをpmmaxgとする。これから、持上げ時における最大許容巻上げ速度が求まる。
【0081】
【数15】

【0082】
【数16】

【0083】
持上げ動作中(荷物が未だ持ち上げられていないとき)における現時点の巻上げ荷重mは、測定された荷重により計算される。この時点においては、動的荷重Fdynは存在しない。これにより、Fは式(17)で表される。尚、動的な巻上げ力は、巻上げギヤのロープがぴんと張っている間に加わる。
【0084】
【数17】

【0085】
これより、式(18)が導かれる。
【0086】
【数18】

【0087】
加えて、このブロックでは、荷物のセットダウン時における最大許容巻上げ速度vdownが予め設定される。ここでは平準化のための規制は必要ないので、その値は一定値として設定することができる。この速度に対する減速は、緩んだロープに対する安全性にのみ役立つ。
【0088】
3.2 状況認識
このブロックにおいては、上記対応する所望の速度が、独立した別個の事象(状態)を有する有限状態機械によって、その時の状態に基づいて選択される。ここで、有限状態機械は図4に示される。各状態への移行及び各状態の動作を以下に述べる。個々の変数は、表1にまとめて示す。
【0089】
3.2.1 全体計算
この項で説明する計算は、上記各事象(状態)とは別に独立して行われる。以下において、測定された荷物質量mは、動的な巻上げ力を無視して、荷重測定軸にて測定された、フックに掛けられた荷物質量(例えばm=F/g)であると理解される。
【0090】
′の計算
これは、そのときに測定された巻上げ力の時間微分値として求まる。
【0091】
Δmupの計算
これは、測定された荷物質量と、測定信号の最新の最小値(以下では、mo,upとして示される)との差の絶対値である。加えて、mo,upは、有限状態機械において移行状態2が過ぎた後に更新される(mo,up=m)。これは、荷物が持ち上げられた後に荷物が地面から上昇完了したことが検出されたときに対応するケースである。
【0092】
Δmdownの計算
これは、測定された荷物質量と、測定信号の最新の最大値(以下では、mo,downとして示される)との差の絶対値である。加えて、mo,downは、有限状態機械において移行状態6が過ぎた後に更新される(mo,down=m)。これは、荷物がセットダウンされた後に巻上げギヤが再び解放(制限解除)されたときに対応するケースである。
【0093】
Δmup,detの計算
これは、荷物の持上げの検出が可能なように、Δmupが上回らなければならない閾値である。この閾値は、各クレーンタイプ及び測定信号の最新の最小値mo,upに依存している。
【0094】
Δmdown,detの計算
これは、荷物のセットダウンの検出が可能なように、Δmdownが下回らなければならない閾値である。この閾値は、各クレーンタイプ及び測定信号の最新の最大値mo,downに依存している。
【0095】
tresh′の計算
これは、荷物の持上げの検出が可能なように、F′が上回らなければならない閾値である。この閾値は、各クレーンタイプ、全バネ剛性ctotal、荷重測定軸における許容オーバーシュートp、及び、比率m/mmax(mmaxは、半径に依存する最大許容巻上げ力)に依存している。
【0096】
3.2.2 状態の説明
状態I(巻上げギヤの解放)
この状態では、巻上げギヤは解放(制限解除)されて通常の方法で作動される。この状態では、上記システムは、初期化(クレーンの始動)の後に始動する。
【0097】
状態Iへの移行時の動作及び計算
Δl=0
状態Iにあるときの動作及び計算
この状態では手動レバーが解放されるので、
des=vhl
となる。
【0098】
状態II(持上げ)
荷物が上昇していることが検出された後に、上記システムはこの状態になる。この状態に移行した後、l及びmがlrel及びmでもって初期化される。lrelは、巻上げ機の角度の相対値であってメートルに換算される値であり、mは、そのときに計測された荷物の質量である。
【0099】
状態IIにあるときの動作及び計算
上記システムがこの状態になると直ぐに、各時間ステップにおいて、lに対して巻き上げられたロープ長さ、及び、上昇のために理論的に必要なロープ長さΔlraiseの計算が実行される。
【0100】
【数19】

【0101】
ここで、msafetyは、この状態が終了する前に必要以上の長さのロープを巻き取ることが可能なようにするための安全ファクター(安全係数)である。
【0102】
この状態では、制御信号の計算上、2つのケースを区別する必要がある。現時点における手動レバー速度vhl、及び、持上げ時における最大許容巻上げギヤ速度vup(式(16))が、これらのケースを区別するために役立つ。負のvは持上げを表し、正のvは下降を表す点に注意しなくてはならない。2つのケースは、以下の通りである。
【0103】
1.(vhl<vup
このケースでは、手段レバーの速度が許容範囲外にあり、
des=vup
となる。
【0104】
2.(vhl>vup
このケースでは、手動レバーの速度が許容範囲内にあり、
des=vhl
となる。
【0105】
状態III(セットダウン)
荷物のセットダウン(荷下ろし)が検出されると直ぐに、上記システムはこの状態になる。この状態への移行後に、lがlrelでもって初期化される。
【0106】
状態IIIにおける動作及び計算
上記システムがこの状態になると直ぐに、各時間ステップにおいて、lに対して巻き上げられたロープ長さの計算が実行される。
【0107】
Δl=l−lrel
この状態では、制御信号の計算上、2つのケースを区別する必要がある。現時点における手動レバー速度vhl、及び、セットダウン時における最大許容巻上げギヤ速度vdownが、これらのケースを区別するために役立つ。負のvは持上げを表し、正のvは下降を表す点に注意しなくてはならない。2つのケースは、以下の通りである。
【0108】
1.(vhl>vdown
このケースでは、手段レバーの速度が許容範囲外にあり、
des=vdown
となる。
【0109】
2.(vhl<vdown
このケースでは、手動レバーの速度が許容範囲内にあり、
des=vhl
となる。
【0110】
3.2.3 移行の説明
現時点で測定された巻上げ速度vhgは、以下のように定義される点に注意すべきである。すなわち、負のvhgは、巻上げ機が持上げ動作していることを意味する。正のvhgは、巻上げ機が下降動作していることを意味する。
【0111】
移行状態1
「巻上げギヤの解放」状態において、地面からの荷物の持上げが検出されると直ぐに作動する。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0112】
【数20】

【0113】
この移行が終了したときに、
=lrel
=m
が実行される。
【0114】
移行状態2
荷物持上げ時に巻上げ機が下降動作に入ると直ぐにこの移行状態になる。そして、相対巻上げロープ長さΔlは、再度完全に解かれることとなる。こうして上記システムは、荷物の持上げが再度検出されるまで初期状態になる。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0115】
【数21】

【0116】
この移行が終了したときに、
=0
が実行される。
【0117】
移行状態3
荷物が地面から上昇して持ち上がったことが検出されると直ぐにこの移行状態になる。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0118】
Δl>Δlraise
この移行が終了したときに、
=0
が実行される。
【0119】
加えて、この移行がなされたときに、m0,upが、Δmupの計算のために、現時点で測定された荷物質量mに設定される(3.2.1を参照)。
【0120】
移行状態4
「持上げ」状態において、荷物のセットダウンが検出されるか、又は、測定荷重が荷物取上げ手段の空重量を下回ったことが検出されると直ぐに、この移行状態になる。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0121】
【数22】

【0122】
この移行が終了したときに、
=lrel
=0
が実行される。
【0123】
移行状態5
「巻上げギヤの解放」状態において、荷物の地面からの持ち上がりが検出されると直ぐに、この移行状態になる。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0124】
【数23】

【0125】
この移行が終了したときに、
=lrel
=m
が実行される。
【0126】
移行状態6
「セットダウン」状態において、相対巻上げロープ長さΔlが、(移行状態7の終了前に)再度初期状態になったことが検出されると直ぐに、この移行状態になる。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0127】
Δl>0
この移行が終了したときに、m0,downが、Δmdownの計算のために、現時点で測定された荷物質量mに設定される(3.2.1を参照)。
【0128】
移行状態7
「巻上げギヤの解放」状態において、荷物のセットダウンが検出されるか、又は、測定荷重が荷物取上げ手段の空重量を下回ったことが検出されると直ぐに、この移行状態になる。以下の事象が、この移行を起こさせる。
【0129】
【数24】

【0130】
この移行が終了したときに、
=lrel
が実行される。
【0131】
4 実施形態1に係るクレーン制御の結果
測定の結果が、図5及び図6の例によって示されている。この例では、60tの荷物がロープでもって持ち上げられた結果を示している。いずれの図においても、本発明の実施形態1に係る自動巻上げシステムを有する場合と有さない場合とを示している。
【0132】
自動巻上げシステムの変数の説明を表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
5 実施形態2の序文
以下に、本発明の実施形態2に係るクレーン制御器により実行される制御方法を示す。この方法では、作動液の圧縮性及び荷物持上げ系の弾性に基づく、巻上げギヤ、巻上げロープ及び荷物を含むシステムの動的振動を考慮に入れるようにしている。
【0135】
図7は、巻上げギヤを含む油圧システムのブロック図を示す。可変吐出ポンプ26を駆動するために、例えばディーゼルエンジン又は電気モータ25が設けられている。この可変吐出ポンプ26は、油圧モータ27と共に油圧回路を形成してそれを駆動する。この点で、油圧モータ27は可変容量モータである。或いは、一定量排出モータを用いることもできる。巻上げ機は、油圧モータ27を介して駆動される。
【0136】
図8に、上記巻上げ機、巻上げロープ3及び荷物を含む実施形態2に係る物理モデルを示す。巻上げロープ及び荷物を含むシステムは、バネ定数C、減衰定数dを有する減衰バネ振り子システムと考えることができる。ここで、巻上げロープの長さLは、バネ定数Cに組み込まれていて、測定値を基に決定されるか、又は、巻上げ機の制御に基づいて算出される。負荷質量センサを介して測定された荷物の質量Mが、制御において更に考慮される。
【0137】
本実施形態2も、図2に示す港湾用の移動型クレーンに適用することができる。ブーム、タワー、及び巻上げ機は、対応する駆動機構を介して駆動される。クレーンの巻上げ機を駆動する油圧装置は、油圧システム及び/又は巻上げロープの自然な動的挙動に起因する自然振動を発生させる。その結果として生じる力の振動は、ロープ及び全クレーン構造の長期の疲労に影響し、保守工数の増加を招く。本発明によれば、クレーンの起伏、旋回、及び巻上げの動きにより生じる自然振動を抑制する制御則が提供されて、それにより、ヴェーラー線図(S−N曲線)における荷重サイクルが低減される。荷重サイクルの低減は、理論的にはクレーン構造の耐用年数を増加させる。
【0138】
実施形態2の制御則の導出においてフィードバックは避けるべきである。なぜなら、そのような制御は、工業上の適用に際して、特定の安全要求を満たしたセンサ信号を必要とし、それ故に高いコスト招く結果となるからである。
【0139】
それ故、フィードバックのない純粋なベースフィードフォワード制御器の設計が必要とされる。ここでは、巻上げギヤのために、上記システムの動特性を反転させる平坦性ベースフィードフォワード制御が用いられる。
【0140】
6 巻上げ機
上記実施形態では、クレーンの巻上げ機は、油圧により作動するロータリモータによって駆動される。巻上げ機の動的モデル及び制御則は、以下の項において導かれる。
【0141】
6.1 動的モデル
巻上げ力は、荷物の移動により直接的に影響を受けるので、荷物の動的な動きを考慮に入れる必要がある。図2に示すように、質量mを有する荷物は、フックに取り付けられて、クレーンによってロープ長さlに応じて上昇又は下降可能である。ロープは、ブーム先端及びタワーの屈曲プーリにて屈曲している。しかしながら、ロープは、ブームの端部から巻上げ機に向けて直接屈曲されるのではなく、ブームの端部からタワーに向かい、そこからブームの端部に戻ってそれからタワーを経て巻上げ機へと向かう(図2参照)。ロープの全長は式(38)で与えられる。
【0142】
【数25】

【0143】
ここで、l、l及びlは、それぞれ、巻上げ機からタワーまでの長さ、タワーからブームの端部までの長さ、及び、ブームの端部からフックまでの長さである。巻上げ機、ロープ、及び荷物を含むクレーンの巻上げシステムは、以下において、バネ質量ダンパーシステムと考えることができ、図8に示されている。ニュートン-オイラー法による荷物の運動方程式は、以下のようになる。
【0144】
【数26】

【0145】
ここで、gは重力定数、cropeはバネ定数、dは減衰定数、rは巻上げ機の半径、φは巻上げ機の角度、φの文字の上に「・」を付したもの(φ′と同じ)は角速度、zは荷物位置、zの文字の上に「・」を付したもの(z′と同じ)は荷物速度、zの文字の上に「・・」を付したもの(z″と同じ)は荷物加速度である。
【0146】
ロープ長さlは、式(40)により与えられる。
【0147】
【数27】

【0148】
ここで、φ(0)は、式(41)により与えられる。
【0149】
【数28】

【0150】
長さlのロープのバネ定数cは、フックの法則により与えられて、式(42)のように表される。
【0151】
【数29】

【0152】
ここで、E及びAは、それぞれ、ロープの弾性係数及びロープの断面積である。クレーンは、n本の平行なロープを有しており(図2参照)、したがって、クレーンの巻上げギヤのバネ定数は式(43)で与えられる。
【0153】
【数30】

【0154】
減衰定数dは、無次元の減衰比Dを用いて式(44)で与えられる。
【0155】
【数31】

【0156】
ニュートン-オイラー法による巻上げ機の回転運動についての微分方程式は式(45)で表される。
【0157】
【数32】

【0158】
ここで、J及びJは、それぞれ、上記巻上げ機及び上記モータの慣性モーメントである。iは、上記モーターと巻上げ機との間のギア比であり、Δpは、上記モータの高圧室と低圧室との差圧であり、Dは油圧モータの排出量であり、Frは、式(39)中で与えられるバネ力である。巻上げ機の角度のための初期条件φw0は、式(41)によって与えられる。巻上げ機の油圧回路は、図7に示されている。上記モータの上記2つの圧力室の圧力差Δpは、内部漏れ又は外部漏れがないという仮定で、圧力増加式によって記述される。さらに、モーター角度φに起因する小さな体積変化は、以下において無視される。上記2つの圧力室の体積は、このように一定としてみなして、Vによって示される。これらの仮定の下で、圧力増加式は式(46)で表される。
【0159】
【数33】

【0160】
ここで、βは作動油の圧縮率である。作動油の流量qは、ポンプ角度によって予め設定されていて、式(47)で与えられる。
【0161】
【数34】

【0162】
ここで、u及びKは、それぞれ、ポンプ角度の現在の制御値及び比例定数である。
【0163】
6.2 制御則
巻上げ機の動的モデルは、平坦性ベースフィードフォワード制御器を設計するために、以下に示す状態空間に変換される。制御則の導出は、減衰を無視する。したがって、D=0とされる。クレーンの巻上げギヤの状態ベクトルは、以下のように定義される。
【0164】
【数35】

【0165】
式(39)、式(40)、式(43)、式(45)及び式(47)を含む動的モデルは、このように一階の微分方程式のシステムとして表されて、このシステムは式(48)で与えられる。
【0166】
【数36】

【0167】
上記システム出力に関する相対次数rは、平坦性ベースフィードフォワード制御器の設計のための上記システムの次数nと等しくしなければならない。実際のシステム(式(48))の相対次数は、以下により調べることができる。上記システム出力に関する上記相対次数は、以下の条件により決まる。
【0168】
【数37】

【0169】
演算子L及びLは、それぞれベクトル場f及びgに沿ったリー微分を表す。上記システム(式(49)、式(50)、式(51)を含む式(48))が平坦となり且つ平坦性ベースフィードフォワード制御器がD=0に設計されるように、式(52)の使用によりr=n=5とされる。
【0170】
上記システム出力(式(51))及びその微分は、上記システムの動特性を反転させるために使用される。その微分はリー微分によって以下のように与えられる。
【0171】
【数38】

【0172】
上記システム出力及びその微分に依存する状態は、式(53)、式(54)、式(55)、式(56)及び式(57)から得られて、以下のように表される。
【0173】
【数39】

【0174】
上記システム入力u後の式(58)を、式(59)、式(60)、式(61)、式(62)及び式(63)を用いて解くことで、巻上げギヤのための平坦性ベースフィードフォワード制御器の制御則が以下のように導かれる。
【0175】
【数40】

【0176】
これは、上記システムの動特性を反転させる。基準信号y及びその微分値は、クレーンのオペレータの手動レバー信号からの数値の軌跡から得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの巻上げギヤを制御するためのクレーン制御器であって、
上記巻上げギヤの制御において、巻上げロープの弾性に起因する動的振動を考慮して、該動的振動を低減させるように上記巻上げギヤを制御することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項2】
請求項1記載のクレーン制御器において、
上記巻上げギヤの駆動速度を、オーバーシュートを抑制するために最大許容駆動速度に制限することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項3】
請求項2記載のクレーン制御器において、
上記最大許容駆動速度を、クレーンデータを基に動的に決定することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項4】
請求項2又は3記載のクレーン制御器において、
上記最大許容駆動速度を、現時点で測定された巻上げ力及びロープ長さの少なくとも一方に基づいて決定することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1つに記載のクレーン制御器において、
上記最大許容駆動速度を、巻上げギヤ、ロープ及び荷物を含むシステムの動的振動を表す物理モデルに基づいて決定することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載のクレーン制御器において、
状況認識システムを備え、
上記状況認識システムを基に上記クレーン制御器の制御挙動を決定することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項7】
請求項6記載のクレーン制御器において、
上記状況認識システムは、オーバーシュートを回避するために上記巻上げギヤの駆動速度が制限されている持上げ状態を認識することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項8】
請求項6記載のクレーン制御器において、
上記状況認識システムは、上記巻上げギヤの駆動速度の制限が解除されている解除状態を認識することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項9】
請求項6記載のクレーン制御器において、
上記状況認識システムは、荷物をセットダウンするときにロープが不必要に解かれるのを防止するために巻上げギヤの駆動速度が制限されているセットダウン状態を認識することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載のクレーン制御器において、
荷物の持上げの動きを入力変数として使用して、該入力変数に基づいて、上記巻上げギヤを制御するための制御パラメータを算出するとともに、
上記制御パラメータの算出において、自然振動を低減するべく、上記巻上げロープの弾性に起因する動的振動を考慮することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項11】
請求項10記載のクレーン制御器において、
上記巻上げギヤは、油圧により駆動され、
上記制御パラメータの算出において、上記油圧作動油の圧縮性に起因する動的振動を考慮することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項12】
請求項10又は11記載のクレーン制御器において、
上記制御パラメータの算出において、変化するロープ長さ及び測定された巻上げ力の少なくとも一方を考慮することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1つに記載のクレーン制御器において、
上記巻上げギヤの制御パラメータに依存する上記荷物の持上げの動きを含む、クレーンの物理モデルに基づいて、上記巻上げギヤを制御することを特徴とするクレーン制御器。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1つに記載のクレーン制御器によって、クレーンの巻上げギヤを制御する方法であって、
上記巻上げギヤの制御において、巻上げロープの弾性に起因する動的振動を考慮して、該動的振動を低減させるように上記巻上げギヤを制御することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1つに記載のクレーン制御器を備えることを特徴とするクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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