説明

クレーンガーダの補強構造

【課題】レールを嵩上げするための補強部材の疲労寿命を延ばすことができるクレーンガーダの補強構造を提案する。
【解決手段】水平に置かれるクレーンガーダ13の上面には、トロリが走行するレール11をクレーンガーダ13の上面から嵩上げする補強部材12が設けられる。補強部材12は、レール11が固定される上部フランジ14a、及び荷重を支えるウェブ14bを有するT形鋼14と、上部フランジ14aの下面及びウェブ14bの側面に溶接され、T形鋼14を補強する複数のプレート状の補鋼材15と、を有する。上部フランジ14aとウェブ14bとの接続部に溶接される補鋼材15の角部15cには、スカラップ15aが設けられていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を吊り上げて搬送する天井走行クレーンのクレーンガーダの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
天井クレーンは、建物に固定された頭上の軌道を車輪により走行・横行する巻上げ機である。図1に示されるように、建物の梁1上には水平方向に伸びるクレーンガーダ2が架け渡される。クレーンガーダ2は、梁1に設けられるレール3上を走行する。クレーンガーダ2には、水平方向に伸びるレール4が設けられる。重量物を吊り上げ下げするクラブトロリ5は、レール4上を走行する。クラブトロリ5は、レール4上を転がる車輪5a(図2参照)を有し、レール4に沿って横行方向に移動する。
【0003】
クレーンガーダ2には、重量物を吊り上げたクラブトロリ5の繰り返し荷重がかかる。長年に渡って天井クレーンを使用し続けると、クラブトロリ5からの繰り返し荷重によって、クレーンガーダ2には疲労亀裂が発生する。クレーンガーダ2に発生する疲労亀裂は、クレーンガーダ2の破壊に繋がるおそれがある。クレーンガーダ2の破壊を防止し、クレーンガーダ2に十分な強度を持たせるために、図2に示されるように、クレーンガーダ2の断面形状はボックス形状に形成される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−279273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、クレーンガーダ2をボックス形状にしても、レール4の下方における、クレーンガーダ2の上部フランジ2aとウェブ2bとの溶接部分に繰り返し荷重によって疲労亀裂が入る場合がある。
【0005】
クレーンガーダ2に入る疲労亀裂を防止するために、出願人は、図3に示されるように、クレーンガーダ2の上面とレール4との間に補強部材6を介在させ、クラブトロリが走行するレール4をクレーンガーダ2の上面から嵩上げしたクレーンガーダの補強構造を考案した。レール4を嵩上げすることで、車輪5aからクレーンガーダ2にかかる荷重の分散範囲は、図中(1)の分散範囲から(2)の嵩上げ対策後の分散範囲に拡大される。レール4を嵩上げして荷重を分散させることにより、クレーンガーダ2内に発生する応力を、嵩上げしない場合の応力の40%程度にまで低減でき、クレーンガーダ2の疲労寿命を飛躍的に延ばすことができる。
【0006】
しかし、レール4を嵩上げすると、最弱部がクレーンガーダ2からレール4の直下の補強部材に移ってしまう。補強部材6の疲労寿命がクレーンガーダ2の疲労寿命よりも短い場合、クレーンガーダ2の補強構造の全体の疲労寿命が補強部材6の疲労寿命で決まってしまう。クレーンガーダ2の補強構造の全体の疲労寿命を延ばすためには、補強部材6の疲労寿命を延ばす必要がある。
【0007】
そこで本発明は、補強部材の疲労寿命を延ばすことができ、ひいてはクレーンガーダの補強構造の全体の疲労寿命を延ばすことができるクレーンガーダの補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、水平に置かれるクレーンガーダと、クレーンガーダの上面に設けられ、トロリが走行するレールをクレーンガーダの上面から嵩上げする補強部材と、を備えるクレーンガーダの補強構造において、前記補強部材は、前記レールが固定される上部フランジ、及び荷重を支えるウェブを有するT形鋼又はH形鋼と、前記上部フランジの下面及び前記ウェブの側面に溶接され、前記T形鋼又は前記H形鋼を補強する複数のプレート状の補鋼材と、を有し、前記上部フランジと前記ウェブとの接続部に溶接される前記補鋼材の角部には、スカラップが設けられていないクレーンガーダの補強構造である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のクレーンガーダの補強構造において、前記T形鋼又は前記H形鋼は、前記上部フランジ及び前記ウェブからなるT形鋼であり、前記T形鋼の前記ウェブの下面及び前記補鋼材の下面には、前記補強部材がH形に形成されるように水平部材が溶接され、前記T形鋼の前記ウェブ及び前記水平部材に溶接される前記補鋼材の角部には、スカラップが設けられることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のクレーンガーダの補強構造において、前記T形鋼の前記ウェブと前記補鋼材との、上下方向に伸びる溶接線の前記スカラップ側の端部、又は前記下部フランジと前記補鋼材との、水平方向に伸びる溶接線の前記スカラップ側の端部が、前記T形鋼の長手方向からみて、前記溶接線の内側に向かって凸の曲線形状になるように削られることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載のクレーンガーダの補強構造において、前記T形鋼は、H形鋼をウェブに沿って切断することで製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、トロリが走行するレールをクレーンガーダの上面から嵩上げしているので、トロリの車輪の荷重が分散してクレーンガーダに伝わる。このため、クレーンガーダに発生する応力を低減することができ、クレーンガーダの寿命を延ばすことができる。しかも、補強部材にT形鋼又はH形鋼を用いることで、プレート状の補鋼材の上部においてはスカラップの本来の存在理由である溶接線の交差が生じなくなる。補鋼材の上部にスカラップを設けないことで、補強部材が耐疲労性に優れた構造になり、補強部材の疲労寿命が延びる。
【0013】
請求項2に記載の発明によれば、補鋼材の下部にスカラップを設けることで、溶接線の交差を避けることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、補鋼材の下部にスカラップを設けた場合であっても、溶接線の端部を溶接線の内側に向かって凸の曲線形状になるように仕上げ加工することにより、溶接線の端部に応力が集中するのを緩和でき、疲労寿命を向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、上部フランジの幅、ウェブの幅、ウェブの高さの選択の自由度が広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下添付図面に基づいて、本発明のクレーンガーダの補強構造を詳細に説明する。図4は、トロリが走行するレール11、及びこのレール11をクレーンガーダ13(図5参照)から嵩上げする補強部材12の斜視図を示す。
【0017】
補強部材12はクレーンガーダの上面に固定される。クレーンガーダ13は建物の梁などに固定されて水平方向に伸びる。補強部材12及びレール11は、クレーンガーダ13と同様に水平方向に伸びる。
【0018】
クレーンガーダ13は、トロリなどを支持する構造物であり、桁ともよばれる。クレーンガーダ13には、箱型の断面構造のボックスガーダ、主桁と補助桁を組み合わせたトラスガーダなどが用いられる。
【0019】
レール11はクラブトロリの走行の軌道になる。クラブトロリの車輪はレール11の上面を転がり、クラブトロリは水平方向に移動する
【0020】
補強部材12は、T形鋼14、補鋼材である複数のダイヤフラム15、水平部材16と、から構成される。T形鋼14は、レール11が固定される上部フランジ14a、及び荷重を支えるウェブ14bを有する。T形鋼14は、H形鋼をウェブに沿って切断することで製造される。ウェブ14bはレール11の下方に配置される。ダイヤフラム15はプレート状であり、上部フランジ14aの下面、ウェブ14bの側面及び水平部材16の上面に溶接される。複数のダイヤフラム15は、ウェブ14bの左右に、かつ補強部材12の長手方向に一定のピッチで設けられる。水平部材16は、T形鋼14のウェブ14bの下面及びダイヤフラム15の下面に溶接される。
【0021】
補強部材12は、レール11をクレーンガーダ13の上面から嵩上げする。補強部材12は、クラブトロリからクレーンガーダ13にかかる荷重を分散させる。しかし、補強部材12を設けると、最弱部がクレーンガーダ13からレール11直下の補強部材12に移ってしまう。このため、本実施形態の補強部材12には疲労寿命を延ばすための工夫が施されている。
【0022】
図5は、長手方向からみたレール11及び補強部材12の正面図を示す。図中(a)がダイヤフラム15の上部にスカラップ15aを設けた比較例であり、図中(b)がダイヤフラム15の上部にスカラップを設けない本発明例である。
【0023】
図5(b)に示されるように、T形鋼14のウェブ14bの下面には、水平部材16がすみ肉溶接される。ダイヤフラム15は、T形鋼14の上部フランジ14aと水平部材16との間に挿入される。ダイヤフラム15の上側の角には、上部フランジ14a及びウェブ14bの接続部の形状に対応して面取りされた円弧形状の角部15cが形成される。ダイヤフラム15の下側の角には、扇形の切欠きであるスカラップ15bが形成される。ダイヤフラム15は上部フランジ14aと水平部材16との間に挿入された後、その上面が上部フランジ14aの下面に溶接され、その角部15cが上部フランジ14a及びウェブ14bの接続部に溶接され、そのウェブ側の側面がウェブ14bにすみ肉溶接される。また、ダイヤフラム15の下面は水平部材16にすみ肉溶接される。
【0024】
スカラップとは、溶接線の交差(すみ肉溶接同士の交差)を避けるために一方の部材に設けられる切欠きである。スカラップ15bは溶接線の交差部が熱影響により材質的に弱くなるのを防止するために設けられる。この実施形態のT形鋼から構成される上部フランジ14a及びウェブ14bは、一体に圧延され、溶接されていない。このため、ダイヤフラム15の上側の角部15cでは、溶接線の交差は生じず、図5(a)に示されるようなスカラップ15aを設ける必要はない。
【0025】
図5(a)に示されるようなスカラップ15aを付けると、ウェブ14bのスカラップ15aに対応する部分に応力が集中してしまい、補強部材12の疲労寿命を短くする。補強部材12のFEM解析の結果、図6(b)に示されるように、スカラップ15aを付けないことで、ウェブ14bに発生する最高応力を、スカラップ15aを付けた場合の80%にまで低減することができる。寿命は最高応力のマイナス三乗に比例する。最高応力を20%低減することで、寿命を約1.9倍に延ばすことができる。
【0026】
他方、ダイヤフラム15の下側の角部では、ウェブ14bに水平部材16がすみ肉溶接されるので、溶接線の交差が生ずる。溶接線の交差を避けるために、T形鋼14のウェブ14bと水平部材16との溶接部18に溶接されるダイヤフラム15の角部には、スカラップ15bが形成される。
【0027】
図7は、ウェブ14bとダイヤフラム15との溶接線20のスカラップ15b側の端部20aの詳細図を示す。ダイヤフラム15にスカラップ15bを付けることで、ウェブ14bのスカラップ15bに対応する部分に応力が集中し易くなる。応力集中を緩和するために、溶接線20の端部20aはグラインダなどで削られる。溶接線20の端部20aは、溶接線20の内側(スカラップ15bとは反対側)に向かって凸の曲線形状(例えば円弧形状)になるように削られる。図中点々で示される部分が削り取られた部分であり、斜線で示される部分が最終的に仕上げられた形状である。仕上げ加工することで、ウェブ14bと溶接線20の端部20aとのなす角度が鋭角のθ1から鈍角のθ2に変化する。このため、ウェブ14bが切り欠き状態になって応力が集中するのを防止することができる。
【0028】
なお、本発明は上記実施形態に限られることなく、本発明の要旨を変更しない範囲で様々に変更可能である。補強部材のT形鋼の替わりに、上部フランジ、ウェブ、及び下部フランジを有するH形鋼を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来の天井クレーンの斜視図
【図2】従来のクレーンガーダの断面図
【図3】レールを嵩上げしたクレーンガーダの補強構造を示す図
【図4】本発明の一実施形態の補強部材の斜視図
【図5】長手方向からみたレール及び補強部材の正面図(図中(a)がダイヤフラムの上部にスカラップを設けた比較例であり、図中(b)がダイヤフラムの上部にスカラップを設けない本発明例)
【図6】補強部材のFEM解析の結果を示す図(図中(a)がダイヤフラムの上部にスカラップを設けた比較例であり、図中(b)がダイヤフラムの上部にスカラップを設けない本発明例)
【図7】ウェブとダイヤフラムとの溶接線のスカラップ側の端部の詳細図
【符号の説明】
【0030】
11…レール
12…補強部材
13…クレーンガーダ
14…T形鋼
14a…上部フランジ
14b…ウェブ
15…ダイヤフラム(補鋼材)
15a,15b…スカラップ
15c…角部
16…水平部材
20…溶接線
20a…端部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に置かれるクレーンガーダと、クレーンガーダの上面に設けられ、トロリが走行するレールをクレーンガーダの上面から嵩上げする補強部材と、を備えるクレーンガーダの補強構造において、
前記補強部材は、前記レールが固定される上部フランジ、及び荷重を支えるウェブを有するT形鋼又はH形鋼と、前記上部フランジの下面及び前記ウェブの側面に溶接され、前記T形鋼又は前記H形鋼を補強する複数のプレート状の補鋼材と、を有し、
前記上部フランジと前記ウェブとの接続部に溶接される前記補鋼材の角部には、スカラップが設けられていないクレーンガーダの補強構造。
【請求項2】
前記T形鋼又は前記H形鋼は、前記上部フランジ及び前記ウェブからなるT形鋼であり、
前記T形鋼の前記ウェブの下面及び前記補鋼材の下面には、前記補強部材がH形に形成されるように水平部材が溶接され、
前記T形鋼の前記ウェブ及び前記水平部材に溶接される前記補鋼材の角部には、スカラップが設けられることを特徴とする請求項1に記載のクレーンガーダの補強構造。
【請求項3】
前記T形鋼の前記ウェブと前記補鋼材との、上下方向に伸びる溶接線の前記スカラップ側の端部、又は前記下部フランジと前記補鋼材との、水平方向に伸びる溶接線の前記スカラップ側の端部が、前記T形鋼の長手方向からみて、前記溶接線の内側に向かって凸の曲線形状になるように削られることを特徴とする請求項2に記載のクレーンガーダの補強構造。
【請求項4】
前記T形鋼は、H形鋼をウェブに沿って切断することで製造されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のクレーンガーダの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−190880(P2009−190880A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35745(P2008−35745)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】