説明

クロスカップリング化合物の製造方法

【課題】グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物との反応により、クロスカップリング化合物を効率よく製造する方法の提供。
【解決手段】クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下、次式(1):R1MgX(式中、R1は、炭素数1〜15のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるグリニャール化合物と、次式(2):R2−X′(式中、R2は、カルボキシル基を有する炭素数1〜30のアルキル基を示し、X′はハロゲン原子を示す。)で表されるアルキルハロゲン化物を反応させる、次式(3):R1−R2 (式中、R1及びR2は、前記と同じ。)で表されるクロスカップリング化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラウンエーテル化合物と銅化合物を用いたクロスカップリング化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物とのクロスカップリング反応は、多くの炭素−炭素生成反応に利用されている。
この炭素−炭素結合生成反応では、一般的に、パラジウム、ニッケル、銅などの遷移金属化合物が触媒として使用される。さらに、これらの遷移金属化合物と種々の添加剤の組み合わせによるクロスカップリング反応収率の向上が多く報告されている。これまでに、ニッケル触媒やパラジウム触媒とホスフィンを用いることで収率が向上すること(非特許文献1)、銅触媒と1,3−ブタジエン等のオレフィン類を用いることで収率が向上すること(非特許文献2)等が知られている。
【0003】
脂肪酸の製造方法においても、二種のグリニャール化合物とハロカルボン酸との炭素−炭素結合生成反応が報告されている(非特許文献3)。
しかし、この方法では、ハロカルボン酸にグリニャール化合物を加えマグネシウムクロライド塩とした後に、ジリチウムテトラクロロキュプレートを加える必要があり、また、この反応では、マグネシウムクロライド塩とした後に、再度、グリニャール化合物を加える必要があるため、操作が極めて迂遠であり、工場での製造上問題があった。
【0004】
また、銅化合物存在下、グリニャール化合物とハロカルボン酸エステルから、カルボン酸エステルを生成し、加水分解することで、脂肪酸を得る製造方法が報告されている(特許文献1)。
しかし、この方法では、炭素−炭素結合生成反応の後に、エステルを加水分解する必要があるため、操作が迂遠であるという問題があった。
【0005】
一方、クラウンエーテル化合物は、カチオンを捕捉するという性質を持ち、その性質を利用して、相間移動触媒として広く用いられている環状のポリエーテルである。
しかし、炭素−炭素結合生成反応に、クラウンエーテル化合物と銅化合物を用いて、収率向上を図ることはこれまで知られていない。
【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn., 1976,49, 1958-1969
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 5646-5647
【非特許文献3】Tetrahedron Lett., 1976, 51, 4697-4700
【特許文献1】国際公開第2006/083030号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物とのクロスカップリング反応を簡便かつ高収率で、効率よく行うための方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、クロスカップリング化合物の工場で生産する上で有効な手法を検討したところ、クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下で、グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物を反応させることにより、簡便な操作で、しかも効率よくクロスカップリング化合物を製造できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下、次式(1):R1MgX(式中、R1は、炭素数1〜15のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるグリニャール化合物と、次式(2):R2−X′(式中、R2は、カルボキシル基を有する炭素数1〜30のアルキル基を示し、X′はハロゲン原子を示す。)で表されるアルキルハロゲン化物を反応させる、次式(3):R1−R2 (式中、R1及びR2は、前記と同じ。)で表されるクロスカップリング化合物の製造方法に係るものである。
また、本発明は、クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下、次式(1):R1MgX(式中、R1は、炭素数1〜15のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるグリニャール化合物と、次式(2):R2−X′(式中、R2は、カルボキシル基を有する炭素数1〜30のアルキル基を示し、X′はハロゲン原子を示す。)で表されるアルキルハロゲン化物を反応させる、次式(3):R1−R2 (式中、R1及びR2は、前記と同じ。)で表されるクロスカップリング反応方法に係るものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物とのクロスカップリング化合物を、簡便な操作で、しかも効率よく製造できる。
本発明は、特に、ヘアケア素材として有用な18−メチルエイコサン酸などの分岐脂肪酸を、グリニャール化合物とハロカルボン酸から、簡便な操作でしかも効率よく製造でき、工業的製法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明におけるクラウンエーテル化合物としては、18−クラウン−6、15−クラウン−5、12−クラウン−4、30−クラウン−10等の他;ベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、トリベンゾ−18−クラウン−6、ベンゾ−15−クラウン−5、ジベンゾ−15−クラウン−5、トリベンゾ−15−クラウン−5、ベンゾ−12−クラウン−4、ジベンゾ−12−クラウン−4、トリベンゾ−12−クラウン−4、ベンゾ−30−クラウン−10、ジベンゾ−30−クラウン−10、トリベンゾ−30−クラウン−10等のベンゾクラウン系;ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−15−クラウン−5、ジシクロヘキサノ−12−クラウン−4、ジシクロヘキサノ−30−クラウン−10等のシクロヘキサノクラウン系が挙げられ、炭素−炭素結合生成反応の効率の点から、18−クラウン−6、15−クラウン−5、ジベンゾ−18−クラウン−6が好ましい。
また、斯かるクラウンエーテルは、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、これらのクラウンエーテルは、ハロゲン化アルキルにナトリウムアルコキシドを反応させる等の公知のエーテル合成法によって得ることができ、市販品を用いることもできる。
【0011】
本発明において用いられる銅化合物は、特に限定されないが、炭素−炭素結合生成反応に通常用いられる銅化合物を使用することができ、ハロゲン化銅、リチウム銅化合物が好ましく、例えば、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)、ジリチウムテトラクロロキュプレート等が挙げられる。
【0012】
1で表される炭素数1〜15のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、n‐ブチル基、tert‐ブチル基、ペンチル基、sec-ブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、n‐ペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、n‐ヘキシル基等が挙げられる。このうち、炭素数3〜6の分岐鎖のアルキル基が好ましく、イソプロピル基、2−メチルプロピル基、sec-ブチル基がより好ましく、sec-ブチル基がさらに好ましい。
【0013】
Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0014】
1MgXで表されるグリニャール化合物としては、イソプロピルマグネシウムブロミド、2−メチルプロピルマグネシウムブロミド、sec−ブチルマグネシウムブロミドが好ましく、sec−ブチルマグネシウムブロミドがより好ましい。
なお、R1MgXで表されるグリニャール化合物は、対応するハロゲン化アルキルから公知の方法で合成することができ、市販の試薬を用いることもできる。
【0015】
2で表されるカルボキシル基を有する炭素数1〜30のアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のいずれでもよく、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシブチル基、カルボキシへキシル基、カルボキシオクチル基、カルボキシデシル基、カルボキシウンデシル基、カルボキシドデシル基、カルボキシトリデシル基,カルボキシテトラデシル基、カルボキシペンタデシル基、カルボキシヘキサデシル基、カルボキシヘプタデシル基等が挙げられる。このうち、炭素数5〜20の直鎖のものが好ましく、カルボキシウンデシル基、カルボキシドデシル基、カルボキシトリデシル基,カルボキシテトラデシル基、カルボキシペンタデシル基、カルボキシヘキサデシル基、カルボキシヘプタデシル基がより好ましく、カルボキシペンタデシル基がさらに好ましい。
【0016】
X′で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、臭素原子が好ましい。
【0017】
2−X′で表されるアルキルハロゲン化物としては、11−ブロモウンデカン酸、12−ブロモドデカン酸、13−ブロモトリデカン酸、14−ブロモテトラデカン酸、15−ブロモペンタデカン酸、16−ブロモヘキサデカン酸、17−ブロモヘプタデカン酸が好ましく、15−ブロモペンタデカン酸がより好ましい。
なお、R2−X′で表されるアルキルハロゲン化物は、例えば、ヒドロキシ脂肪酸を臭化水素酸又は臭化水素酸と硫酸との混合物などを用いてブロモ化する等の公知の方法で合成することができ、市販品を用いることもできる。
【0018】
反応は、グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物に、溶媒の存在下又は非存在下において、クラウンエーテル化合物及び銅化合物を加えることにより行うことができる。
【0019】
クラウンエーテル、銅化合物、グリニャール化合物の使用量は、反応時間の遅延や反応速度の低下が起こらない量を適宜選択すればよいが、アルキルハロゲン化物に対して、それぞれ、0.0001〜10当量、0.001〜1当量、1.5〜4当量用いるのが好ましい。
【0020】
本発明方法は、溶媒存在下、溶媒非存在下いずれでも行うことができる。溶媒は、特に限定はないが、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メトキシエタン、t−ブチルメチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、デカン等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0021】
反応温度は、特に限定はなく、例えば、−20〜65℃程度である。
【0022】
反応時間は、特に限定はなく、例えば、反応時間は30分〜50時間程度である。
【0023】
本発明方法は、円滑な炭素−炭素結合生成反応の促進の点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスは、特に限定されないが、例えば、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等が挙げられる。
【0024】
目的化合物は、ろ過、洗浄、乾燥、再結晶、各種溶媒による抽出、クロマトグラフィー等の通常の手段を適宜組み合わせて、反応系から、単離、精製することができる。
【実施例】
【0025】
以下に反応の詳細について実施例を用いて説明する。
なお、生成物の確認は、文献既知の手法により、別途合成した標品とガスクロマトグラフィーにて比較した。
【0026】
実施例1 16−メチルオクタデカン酸の製造(1)
【0027】
【化1】

【0028】
還流冷却管、10mL滴下ロート、マグネチックスターラー、温度センサーを備えた50mLの4口フラスコに、15−ブロモペンタデカン酸1.01g(3.14mmol)、18−クラウン−6を823.3mg(1.0eq)を入れ、減圧乾燥した。アルゴン雰囲気下、臭化銅(I)13.3mg(0.03eq)、無水テトラヒドロフラン6ml
を加え、原料を溶解した。室温下、sec−ブチルマグネシウムブロミド7.85mL(2.5eq、テトラヒドロフラン溶液1.0M)を、30分で滴下した。1時間攪拌した後、6N−硫酸水溶液5mLを加え、ヘキサン10mLで抽出した。イオン交換水10mLで2回洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過、減圧濃縮して、粗生成物0.84gを得た。
ガスクロマトグラフィー(カラム:アジレント社製Ultra−2、30m×0.2mm×0.33μm、DET300℃、INJ300℃、カラム温度100℃→300℃、10℃/分)で測定した結果、収率95%であった。
【0029】
実施例2〜6 16−メチルオクタデカン酸の製造(2)
下記表1に示す銅化合物とクラウンエーテルを用いて、実施例1と同様の操作で16−メチルオクタデカン酸を製造した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
比較例1〜3 16−メチルオクタデカン酸の製造
実施例1に準じ、表1に示すクラウンエーテルを添加しない条件にて標記化合物を製造した。
【0032】
【表2】

【0033】
<考察>
実施例1〜6及び比較例1〜3の結果より、sec−ブチルマグネシウムブロミドと15−ブロモペンタデカン酸とのカップリング反応について、クラウンエーテルと臭化銅(I)存在下で行うことにより、室温付近で良好に反応が進行し、所望のアルキル分枝脂肪酸の著しい収率向上が認められた。
すなわち、グリニャール化合物とアルキルハロゲン化物との炭素−炭素結合生成反応において、クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下で反応を行うことにより、良好な収率で所望のクロスカップリング化合物を製造できることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下、次式(1):R1MgX(式中、R1は、炭素数1〜15のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるグリニャール化合物と、次式(2):R2−X′(式中、R2は、カルボキシル基を有する炭素数1〜30のアルキル基を示し、X′はハロゲン原子を示す。)で表されるアルキルハロゲン化物を反応させる、次式(3):R1−R2 (式中、R1及びR2は、前記と同じ。)で表されるクロスカップリング化合物の製造方法。
【請求項2】
1が炭素数3〜6の分岐鎖のアルキル基である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
2がカルボキシル基を有する炭素数5〜20の直鎖のアルキル基である請求項1〜2のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項4】
クラウンエーテル化合物及び銅化合物の存在下、次式(1):R1MgX(式中、R1は、炭素数1〜15のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるグリニャール化合物と、次式(2):R2−X′(式中、R2は、カルボキシル基を有する炭素数1〜30のアルキル基を示し、X′はハロゲン原子を示す。)で表されるアルキルハロゲン化物を反応させる、次式(3):R1−R2 (式中、R1及びR2は、前記と同じ。)で表されるクロスカップリング反応方法。

【公開番号】特開2009−114078(P2009−114078A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285429(P2007−285429)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】