説明

クロストリジウム神経毒を定量化するためのアッセイ

クロストリジウム神経毒によって筋肉組織に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)筋肉組織又は細胞培養物を、前記クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)前記クロストリジウム神経毒によって前記筋肉組織に誘導された効果を測定するステップ
を含み、ステップ(c)を、前記サンプルの不存在下で実施する前記方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体外で(ex vivo)、参照サンプルに含まれるクロストリジウム毒素の既知濃度に基づいて、あるサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法に関する。本発明の方法は、上記サンプルと接触させた筋肉組織を電気的に刺激するステップ、及び該筋肉組織に誘導されたそれぞれの効果を比較し、それにより、上記未知濃度を決定するステップを含むことができる。また、本発明の方法は、参照基準に基づいて、あるサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を推測するために使用することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、ボツリヌス神経毒は、限局性筋失調症及び痙攣性麻痺症状(spastic indication)の標準的治療薬となっている。医薬製剤は、例えば、Ipsen Ltd.(Dysport(登録商標))又はAllergan Inc.(Botox(登録商標))から市販されている。その他のクロストリジウムタンパク質を含まない高純度神経毒は、例えば、Merz Pharmaceuticals(Xeomin(登録商標))から市販されている。許認可された別の製剤には、Solstice Neurosciences Inc.(Myobloc(登録商標))がある。許認可されたさらに別の製剤には、Mentor Corporation(PurTox(登録商標))がある。これらの製剤は、使用されるボツリヌス毒素の種類又は生物学的有効性又は効能の点で異なる。
【0003】
患者の治療では、一般的に、神経毒を罹患筋肉組織へ注入し、神経筋終板の近傍、すなわち、罹患筋肉をコントロールする神経細胞への神経毒の取り込みを媒介する細胞受容体の近傍に薬剤を導入する。様々な程度の神経毒の拡散(spread)が観察される。この拡散は、注入された神経毒の注入量及び製剤化の種類と相関すると考えられている。拡散の結果、アセチルコリン放出阻害に起因する系統的(systematic)副作用が、筋肉組織の近傍で観察される場合がある。治療に必要なレベルまで注入量を減少させることにより、目的としない未治療筋肉の麻痺の大部分を回避することができる。注入された神経毒が中和抗体の形成を引き起こす場合があるので、過剰投与が患者の免疫系にとって問題となる場合がある。この場合、神経毒が不活性化され、不随意筋活性を緩和することができない。
【0004】
市販品又は製造プロセス間に産生されたバッチ等の調製物の所定の効能における投与当量又は変化量の不一致は、副作用及び免疫促進の可能性を通じた患者のリスク増加をもたらす。したがって、上記市販品又は製造バッチに含有されるクロストリジウム神経毒の濃度を、信頼性をもって(すなわち、有意な変動なしに)、できるだけ正確に決定し、患者の利益のために上記毒素濃度を信頼性のある効果的投与量に調節することが非常に重要である。これは、製造業者が、様々な治療目的における生物学的活性(すなわち効能)の最適な発揮を可能とする調製物を提供する誘因としても役立つ。
【0005】
EP1597584B1は、生体外で(ex vivo)、サンプル(例えば、ボツリヌス神経毒を含むサンプル)中のシナプス前神経筋遮断物質の量を決定する方法を提案する。この方法は、シナプス前神経筋遮断物質を含むサンプルの存在下で、筋肉組織(好ましくは、マウスの肋骨筋)を電気的に刺激するステップ、並びに、該サンプルによって誘導された効果を、参照物質によって誘導された効果と比較し、該サンプル中のシナプス前神経筋遮断物質の量を決定するステップを含む。
【0006】
GB2416849A及びGB2398636Aは、生体外で(ex vivo)、サンプル(例えば、ボツリヌス神経毒を含むサンプル)中のシナプス前神経筋遮断物質の量を決定する方法を提案する。この方法は、シナプス前神経筋遮断物質を含むサンプルの存在下で、平滑筋組織(好ましくは、マウス又はラットの肋骨筋)を電気的に刺激するステップ、並びに、該サンプルによって誘導された効果を、参照物質によって誘導された効果と比較し、該サンプル中のシナプス前神経筋遮断物質の量を決定するステップを含む。
【0007】
US2003/0032891A1は、生体内で(in vivo)、物質(例えば、クロストリジウム毒素)の効能を測定する方法であって、該物質を哺乳動物に投与し、該哺乳動物に刺激を与え、該刺激に対する該哺乳動物の耳介反射応答をモニターリングする方法を提案する。
【0008】
EP2015065A1は、神経毒(例えば、クロストリジウム神経毒)の効能を定量化する方法であって、該神経毒を非ヒト哺乳動物の後肢に投与し、該非ヒト哺乳動物に電気的刺激を与え、該後肢の収縮を測定し、その他の後肢の収縮と比較する方法を提案する。
【0009】
Pearce等(Toxicon, Vol. 35, No. 9, pp. 1373-1412, 1997)は、ボツリヌス神経毒結合性に関するラット/マウス横隔膜神経−片側横隔膜の適合性を開示する。
【0010】
Wohlfahrt等(Naunyn-Schmiedeberg's Arch Pharmacol 355, 335-340 (1997))は、マウスの横隔膜を使用した用量依存的反応曲線によって、市販の2種類のボツリヌス毒素A調製物の効能を比較する。
【0011】
Chang等(Naunyn-Schmiedeberg's Arch. Pharmacol. 282, 129-142 (1974))は、単離された神経筋調製物(例えば、マウス及びラットの横隔膜)に対するA型ボツリヌス毒素及びβ−ブンガロトキシンのシナプス前作用を比較する。
【0012】
Sheridan等(J. Appl. Toxicol. 19, S29-S33 (1999))は、毒素濃度の伝統的なバイオアッセイに基づくボツリヌスアンタゴニストの効能の決定を記載する。
【0013】
James等(Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 285, G291- G297 (2003))は、幽門洞平滑筋に対するボツリヌス毒素の阻害効果を記載する。
【0014】
Goschel等(Exp. Neurol., vol. 147, 1, 1997)は、既知量の毒素を含むサンプルの効能と比較して、あるサンプル中のボツリヌス毒素の相対的効能を決定するための濃度反応曲線を記載する。異なるボツリヌス毒素調製物がマウスの片側横隔膜で試験されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記に参照した従来の定量方法は、規制当局による認証に必要な精度を欠いている。したがって、それらの方法は、規制の目的に使用することができず、その代わりに、依然としてマウスを犠牲にする昔ながらのアッセイを実施しなければならない。
【0016】
本発明の1つの目的は、従来の方法を改良すること、並びに、サンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能又は濃度を決定するための、信頼性のある正確な方法を開発することにあり、該方法は、規制の目的に使用することができる。このような改良された方法は、安全で効果的な投与の必要性を満足するためにも役立つであろう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒によって筋肉組織に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)筋肉組織を、上記クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)上記クロストリジウム神経毒によって上記筋肉組織に誘導された効果を測定するステップ
を含み、
ステップ(c)を、上記サンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0018】
一実施形態では、上記筋肉組織を電気的に刺激する。
【0019】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(a)の後にステップ(b):
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
を含む。
【0020】
別の実施形態では、ステップ(b)を、上記サンプルの不存在下で実施する。
【0021】
別の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(a)筋肉組織を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(k)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0022】
一実施形態では、上記筋肉組織を電気的に刺激する。
【0023】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(a)の後にステップ(b)を含み、ステップ(f)の後にステップ(g)を含む。
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
【0024】
別の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定する方法であって、
(a)筋肉組織を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された上記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0025】
一実施形態では、上記筋肉組織を電気的に刺激する。
【0026】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(a)の後にステップ(b)を含み、ステップ(f)の後にステップ(g)を含む。
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
【0027】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(m)及び(n):
(m)上記様々な濃度を、上記第1及び上記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から選択するステップ、
(n)下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた上記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた上記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)上記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)上記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、上記最良適合を決定するステップ
をさらに含む。
【0028】
一実施形態において、上記統計的検定は、F検定、又はχ2検定、又はt検定である。
【0029】
一実施形態において、サブステップ(α)〜(δ)のそれぞれに関する誤拒否確率(false-rejection probability)は≦5(%表示)である。
【0030】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(ε):
(ε)線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、上記第2のサンプルに対する上記第1のサンプルの相対的効能を計算するステップ
をさらに含む。
【0031】
本発明の第2及び第3の態様に係る方法の一実施形態では、ステップ(b)又は(g)を第2又は第1のサンプルの不存在下で実施するか、あるいはステップ(b)及び(g)を第2及び第1のサンプルの不存在下で実施する。
【0032】
本発明の3つの態様に係る方法のいずれか1つの一実施形態において、上記クロストリジウム神経毒に対する筋肉組織の曝露時間、すなわち、上記サンプル(第1又は第2のサンプル)の不存在下で、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記効果の測定の前に、ステップ(a)において、筋肉組織を、サンプル(クロストリジウム神経毒を含む第1又は第2のサンプル)と接触させる時間は、1〜60分間である。
【0033】
本発明の3つの態様に係る方法のいずれか1つの一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前に、上記筋肉組織を、5〜30分間、上記クロストリジウム毒素に曝露する。
【0034】
本発明の3つの態様に係る方法のいずれか1つの別の実施形態において、上記神経毒に対する上記筋肉組織の曝露時間は、約15分間である。
【0035】
本発明の3つの態様に係る方法のいずれか1つの一実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)及び/又はステップ(f)の前に既に電気的に刺激されている。
【0036】
別の実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)及び/又はステップ(f)の間に既に電気的に刺激されている。
【0037】
別の実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)の前及びステップ(a)の間に、並びに/又はステップ(f)の前及びステップ(f)の間に、既に電気的に刺激されている。
【0038】
一実施形態において、上記測定された第2の効果の記録は、上記第2の効果を濃度に対してプロットすることにより実施され、上記第2のデータセットの作成は、検量線を作成することにより実施される。
【0039】
一実施形態では、上記第2の効果を、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で測定する。
【0040】
別の実施形態において、上記濃度は、10〜1000、又は10〜70、又は15〜60、又は20〜45である。
【0041】
別の実施形態において、上記濃度は、20〜400であるか、又は100〜800である。
【0042】
一実施形態において、上記マウスLD50単位は、Xeomin(登録商標)単位である。
【0043】
一実施形態において、上記効果(上記第1及び第2の各効果)は、上記筋肉組織の麻痺までの時間、上記筋肉組織の収縮速度の変化、上記筋肉組織の収縮距離の変化、上記筋肉組織の収縮力の変化、上記筋肉組織の終板電位又は微小終板電位の変化からなる群より選択される。
【0044】
一実施形態において、上記効果(上記第1及び第2の各効果)は、麻痺までの時間である。
【0045】
一実施形態において、上記筋肉組織は、肋間筋、後肢筋、後肢長趾伸筋、後足の足底筋、横隔膜神経−片側横隔膜、長耳挙筋(levator auris longus muscle)、カエルの神経筋接合部、ニワトリの頸二腹筋、肋骨筋、脳組織又はエイの発電器官から選択される。
【0046】
一実施形態において、上記横隔膜神経−片側横隔膜は、ラット又はマウス由来である。
【0047】
一実施形態において、上記クロストリジウム神経毒は、ボツリヌス毒素である。
【0048】
別の実施形態において、上記ボツリヌス神経毒は、A、B、C、D、E、F及びGからなる群より選択される血清型であるか、又はA、B、C、D、E、F及びGからなる群より選択される血清型のボツリヌス神経毒の化学的又は遺伝子工学的に修飾された誘導体である。
【0049】
一実施形態において、上記神経毒は、タンパク質と複合体形成していない。
【0050】
別の実施形態において、上記神経毒は、血清型A又はBである。
【0051】
一実施形態において、上記電気的刺激は、消泡剤を含む緩衝液中で実施される。
【0052】
一実施形態において、上記消泡剤は、シリコン含有化合物から選択される。
【0053】
一実施形態において、上記緩衝液は、酸素でパージされている。
【0054】
別の態様において、本発明は、本発明の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0055】
別の態様において、本発明は、
(A)−クロストリジウム神経毒に曝露された筋肉組織を刺激して、上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された効果を選定するためのデバイス、
−上記効果を測定して記録するためのデバイス、並びに、
(B)本発明の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品
を含むキットに関する。
【0056】
別の態様において、本発明は、本発明の方法のいずれか1つにおける筋肉組織の使用に関する。
【0057】
別の態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの効能をコントロールするための、本発明の3つの態様のいずれか1つに係る方法の使用に関する。
【0058】
一実施形態において、上記サンプルは、保管サンプルである。
【0059】
一実施形態において、上記サンプルは、凍結乾燥サンプルであるか、又は再構成サンプルである。
【0060】
一態様において、本発明は、例えば、クロストリジウム神経毒の製造プロセスにおける品質管理の間に、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するための、又は第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定するための、本発明の第1の態様に係る方法の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、器官槽(organ bath)に適用されたボツリヌス神経毒NTの濃度(マウスLD50単位で表示)に対する、麻痺までの時間(片側横隔膜の初期収縮力の中間点に達するのに必要な時間)(分で表示)のプロットを示す(半対数目盛り)。図中の■(黒い正方形)は、誘導された効果が神経毒の存在下で測定されたサンプルを表し、図中の◆(黒い菱形)は、組織を、15分間、神経毒を含有するサンプルに曝露したサンプルを表す。その後、筋肉組織を器官槽から取り出し、サンプルを、神経毒不含成分で置換した。電気的刺激を実施した後、誘導された効果を測定した。曲線は、本発明の方法に従って決定された適合線を表す。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本明細書に開示した方法を適用することにより、従来の定量方法で観察される有意なバラツキ(variability)を、有意でない程度まで低減させることができることが見出された。
【0063】
第1の態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒によって筋肉組織に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)筋肉組織を、上記クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された効果を測定するステップ
を含み、ステップ(c)を上記サンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0064】
「筋肉組織を上記サンプル(本発明の別の態様に係る方法では、第1又は第2のサンプルであり得る)と接触させる」という表現は、上記サンプルの神経毒の少なくとも一部分が、上記接触の間に、上記筋肉組織に取り込まれること、すなわち、上記サンプルに含まれる神経毒の少なくとも一部分が、上記筋肉組織に含まれる適当な受容体に結合することを意味する。
【0065】
「サンプルの不存在」という表現は、ステップ(c)における効果の測定が、サンプルの含有量(別の言い方をすれば、サンプルの神経毒の含有量)が10重量%未満である(例えば、ゼロである)媒体(典型的には適当な緩衝液)中で実施されることを意味する。
【0066】
一実施形態において、上記筋肉組織は、クロストリジウム神経毒を含むサンプル(本発明の別の態様に係る方法では、第1又は第2のサンプルであり得る)に連続的に曝露されず、一時的にのみ曝露される。
【0067】
これは、上記筋肉組織の曝露に対する応答を生じさせるために、上記筋肉組織を上記神経毒に対して、所定時間、曝露した後(すなわち、ステップ(a)における接触の後)、対応する効果(本発明の別の態様に係る方法では、第1又は第2の効果)の測定(測定において、例えば、上記筋肉組織は電気的に刺激される)が、下記方法を利用して、上記サンプル(本発明の別の態様に係る方法では、上記第1又は第2のサンプルであり得る)の不存在下で実施されることを意味する。
【0068】
一実施形態において、上記測定の前に、上記筋肉組織は、例えば、下記のように、上記サンプルを含む器官槽(organ bath)から取り出され、神経毒不含成分を含む器官槽に移される。次いで、電気的刺激及び効果(サンプルが第1又は第2のサンプルであるとき、第1又は第2の効果であり得る)の程度の測定が実施される。これは、電気的刺激及び該刺激に対する応答が、神経毒が取り込まれた筋肉組織を使用して実施されることを意味する。
【0069】
別の実施形態において、神経毒含有成分、すなわち、サンプル(第1又は第2のサンプルであり得る)は、神経毒不含成分で置換される。置換の後、効果(サンプルが第1又は第2のサンプルであるとき、第1又は第2の効果であり得る)の程度の測定が実施される。
【0070】
「クロストリジウム神経毒(又はクロストリジウム毒素)」という用語は、クロストリジウム毒素複合体及び高純度神経毒(すなわち、その他のクロストリジウムタンパク質を含まない神経毒調製物)を包含する。
【0071】
一実施形態において、上記クロストリジウム神経毒は、ボツリヌス神経毒である。
【0072】
別の実施形態において、上記ボツリヌス神経毒は、A,B,C,D,E,F及びGからなる群より選択された血清型である。
【0073】
「ボツリヌス毒素複合体」という用語は、少なくとも別の非毒性タンパク質が複合したボツリヌス毒素を包含する。例えば、ここで使用されるボツリヌス毒素複合体という用語には、例えばC.ボツリヌスの培養物から取得し得る、450kDa及び900kDaボツリヌス毒素複合体が含まれる。A型ボツリヌス毒素複合体をベースとした調製物は、例えば、Ipsen Ltd.(Dysport(登録商標))又はAllergan Inc.(Botox(登録商標))から市販されている。B型ボツリヌス毒素複合体をベースとした別の調製物は、Solstice Neurosciences,Inc.(Myobloc(登録商標))から市販されている。その他のクロストリジウムタンパク質を含まないA型高純度神経毒は、Merz Pharmaceuticals(Xeomin(登録商標))から市販されている。それは、数種類の形態の限局性筋失調症を改善するための選択薬である。
【0074】
別の実施形態において、上記ボツリヌス神経毒は、A,B,C,D,E,F及びGからなる群より選択された血清型の化学的又は遺伝子工学的に修飾された誘導体である。
【0075】
上記神経毒の化学的に修飾された誘導体は、例えば、ピルビン酸化(pyruvation)、リン酸化、硫酸化(sulfatation)、脂質化及び/又はグリコシル化によって修飾されたものである。
【0076】
上記神経毒の遺伝子工学的に修飾された誘導体は、上記血清型のタンパク質に含まれる1又は2以上のアミノ酸の欠失、付加又は置換によって修飾されたものである。
【0077】
そのような修飾毒素は、好ましくは、生物学的に活性である。
【0078】
生物学的に活性な毒素は、細胞に取り込まれ、SNARE複合体に含まれる1又は2以上のポリペプチドをタンパク分解的に切断し得る毒素である。
【0079】
一実施形態では、上記筋肉組織を電気的に刺激する。
【0080】
一実施形態において、本発明の方法は、
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
をさらに含む。
【0081】
一実施形態では、ステップ(b)を、上記サンプルの不存在下で実施する。
【0082】
驚くべきことに、上記筋肉組織を上記神経毒に曝露した後、電気的に刺激し、上記サンプルの不存在下において上記効果を測定することにより、それぞれの用量反応曲線がシフトし、本発明の方法の感度が有意に増加することが見出された。感度は、マウスLD50単位/mLで表される、上記サンプル中の上記クロストリジウム神経毒の濃度が低濃度である場合に、特に増加する。
【0083】
例えば、効果(又は応答)として、麻痺までの時間が測定される場合、上記麻痺までの時間は、上記効果がサンプルの存在下で測定される方法と比較して増加する。この結果、特に低濃度の神経毒に適用される場合に、本発明の方法の感度の有利な増加が生じる。効能が低濃度で測定される場合、神経毒は、一般的に、最も大きな変化を示し得る。これに対して、比較的高い濃度の場合、効能は互いに近づく。
【0084】
この感度の増加によって、それぞれの用量反応曲線に関するより正確で、より信頼性のある解析が可能となる。そして、これにより、本発明の方法のいずれか1つを実施するために犠牲にしなければならなかったはずの実験動物(例えば、マウス)の数を大幅に減少させることが可能となる。したがって、本発明のこの実施形態によれば、技術的側面の向上だけでなく、倫理的側面の向上も図られる。
【0085】
ここで使用される「感度」という用語は、生理学で一般的に使用される意味、すなわち、外部刺激に応答する筋肉組織の能力を意味する。ここで、外部刺激は、筋肉組織をクロストリジウム神経毒と接触させることにより実施される。本発明の範囲内には、一定の濃度範囲を選択することが包含され、例えば、上記感度が増加する比較的低い濃度のクロストリジウム神経毒の濃度範囲を選択することができる、すなわち、別の方法では決定できない応答又は許容できない偏差でしか決定できない応答を決定することができる。
【0086】
第2の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(a)筋肉組織を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(k)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0087】
一実施形態では、上記筋肉組織を電気的に刺激する。
【0088】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(a)の後にステップ(b)を含むか、又はステップ(a)の後にステップ(b)を含み、ステップ(f)の後にステップ(g)を含む。
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
【0089】
別の実施形態では、ステップ(b)又は(g)を、第2又は第1のサンプルの不存在下で実施するか、あるいは、ステップ(b)及び(g)を、第2及び第1のサンプルの不存在下で実施する。
【0090】
したがって、一実施形態では、上記第2及び/又は上記第1の効果の測定を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する。
【0091】
別の実施形態では、上記筋肉組織の電気的刺激を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する。これは、ステップ(a)の後であってステップ(b)の前に、及び/又はステップ(f)の後であってステップ(g)の前に、上記筋肉組織が、上記のように、上記第2及び/又は上記第1のサンプルから取り出されることを意味する。
【0092】
「上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定する」(ステップ(k)及び(l))という表現は、上記第1及び上記第2の効果が定性的及び定量的に同一であること、すなわち、誘導された効果(例えば、麻痺までの時間)が、同一の測定値を有することを意味する。
【0093】
一実施形態において、信頼性をもって比較し得る結果を得るために、上記第2又は上記第1のサンプルに含まれる上記神経毒に対する上記筋肉組織の曝露時間は、同程度にすべきである。
【0094】
一実施形態において、上記曝露時間は同一である。
【0095】
一実施形態において、ステップ(e)で測定された上記第2の効果の記録は、上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、上記測定された第2の効果を濃度に対してプロットし、これにより検量線を作成することにより実施される。
【0096】
上記第2のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された効果がマウスLD50単位/mLで表される様々な濃度に基づいて決定される場合、検量線は、上記のようにして得ることができる。
【0097】
例えば、所定濃度範囲内にある10種のLD50単位/mL又は5種のLD50単位/mLにおいて誘導された上記効果を決定することができる。
【0098】
したがって、ステップ(e)で作成された第2のデータセットにより、検量線がプロットされ、それを使用して、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒の未知濃度が、ステップ(k)及びそれに続くステップ(l)に従って特定される。
【0099】
一実施形態において、作成された検量線はプロットされ、ステップ(k)〜(l)における特定するステップ及び見なすステップは、グラフ分析により実施される。
【0100】
上記第1のサンプルの未知濃度は、検量線から、上記第1及び上記第2の効果が同一の値(例えば、麻痺までの同一時間)を有する濃度を特定し、ステップ(l)で上記濃度を上記未知濃度と見なすことにより決定することができる。
【0101】
上記決定の必要条件は、第1のサンプルに含まれる未知濃度のクロストリジウム毒素が筋肉組織に対して効果を発揮することであり、それは、上記検量線によって定量化することができる。当業者は、第2のサンプルとの比較が可能となる濃度範囲を実現するために、すなわち、第1及び第2の効果が同一となり得るように、必要に応じて、未知濃度の第1のサンプルを、1回又は数回、希釈又は濃縮することが必要な場合があることを容易に理解するであろう。そして、希釈又は濃度因子に基づいて、未希釈又は未濃縮の第1のサンプルに最初に存在していた神経毒の濃度を、計算により決定することができる。
【0102】
別の実施形態において、上記特定する及び見なすステップは、ステップ(h)及びそれに続くステップ(k)及び(l)における1つの濃度のみでの一点測定によっては実施されず、多数の様々な濃度での測定により実施される。これは、規制上の要件の点から特に重要である。
【0103】
本発明の別の態様において、上記第2及び第1のサンプルの信頼性のある比較が可能である濃度範囲を最適化することが望ましい。これは、公知の市販クロストリジウム神経毒製剤の生物学的有効性に関する比較可能性だけでなく、将来開発され得る又は既に開発段階にある製剤に関しても適用される。
【0104】
一実施形態において、上記第2及び第1のサンプルの信頼性のある比較が可能である、マウスLD50単位/mLで表される濃度範囲を最適化するために、ステップ(e)及び/又はステップ(h)で作成された検量線の標準偏差を初めに決定することが望ましい。適当な段階的重回帰分析を使用することにより、用量反応曲線に基づいて未知毒素サンプルの効能を予測するための回帰モデルを作製することができる。
【0105】
このような方法を使用することにより、2つの異なるデータ群を表す第1及び第2のサンプルに関して、用量反応曲線間の相関が最大に達する(すなわち、最良適合が決定される)濃度範囲を特定することができる。
【0106】
一実施形態において、上記検定は、所定の回帰モデルに従って、上記第1及び上記第2のサンプルの対応するデータセットの値域を、適合曲線又は線形化及び並列化した所定の信頼区間内の上記適合曲線で表すことにより、さらに精度を向上させることができる。
【0107】
したがって、第3の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定する方法であって、
(a)筋肉組織を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(h)ステップ(g)で得られた上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された上記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0108】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(m)及び(n):
(m)上記様々な濃度を、上記第1及び上記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から選択するステップ、
(n)下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた上記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた上記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、上記最良適合を決定するステップ
をさらに含む。
【0109】
一実施形態では、上記筋肉組織を電気的に刺激する。
【0110】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(a)の後にステップ(b)を含み、ステップ(f)の後にステップ(g)を含む。
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
【0111】
一実施形態では、ステップ(b)又は(g)を上記第2又は上記第1のサンプルの不存在下で実施するか、あるいは、ステップ(b)及び(g)を上記第2及び上記第1のサンプルの不存在下で実施する。
【0112】
したがって、一実施形態では、上記第2及び/又は上記第1の効果の決定を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する。
【0113】
別の実施形態において、上記筋肉組織の電気的刺激を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する。これは、ステップ(a)の後であってステップ(b)の前に、及び/又はステップ(f)の後であってステップ(g)の前に、上記筋肉組織が、上記のように、上記第2及び/又は上記第1のサンプルから取り出されることを意味する。
【0114】
上記手順(sequence)を実施するのに適した統計的検定は周知である(例えば、蓋然性指数検定(likelihood-quotient-tests))。そのような蓋然性指数検定の具体例は、公知のF検定である。χ2検定(カイ二乗検定又はχ2分布検定)又はt検定等の検定も使用することができる。上記検定も当業者に公知である。
【0115】
一実施形態において、上記統計的検定はF検定である。
【0116】
上記検定により、所定の信頼区間において、異なる2つの群から採取した2つの無作為サンプルが分散の点で本質的に異なるか否かを決定することができる。したがって、このような検定は、2つの統計的サンプル(ここでは、第2及び第1のサンプル)の差の検定に役立つ。
【0117】
一実施形態において、信頼性のある結果を得るために、信頼区間は広くすべきである、すなわち、誤拒否確率は比較的低くすべきである。
【0118】
一実施形態において、誤拒否確率は≦5(%表示;(すなわち0.05))であるか、又は信頼区間は≧95(%表示;(すなわち0.95))である。
【0119】
一実施形態において、各サブステップ(α)〜(δ)に関する誤拒否確率は≦5(%表示)である。
【0120】
一実施形態において、ステップ(γ)における線形化は、対応するデータセットを最良適合直線で表すことにより実施される。
【0121】
一実施形態において、ステップ(δ)における並列化は、最良適合直線の共通の傾きを決定することにより実施される。
【0122】
ステップ(δ)の後に、線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、第2のサンプルに対する第1のサンプルの相対的効能が決定される。
【0123】
したがって、一実施形態において、上記方法は、ステップ(δ)の後に、ステップ(ε):
(ε)線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、第2のサンプルに対する第1のサンプルの相対的効能を計算するステップ
をさらに含む。
【0124】
一実施形態において、「相対的効能」という用語は、第2のサンプルに対する第1のサンプルの効能が、線形化及び並列化したそれぞれの適合曲線に基づいて、同一濃度(1又は複数)において決定されることを意味する。
【0125】
一実施形態において、第2のサンプルの効能は100%と見なされ、第1のサンプルの相対的効能は%で表される。例えば、第1のサンプルに関して、第2のサンプルに対する110%、90%等の効能が得られる。110%〜100%の効能を有する第1のサンプルをそれぞれ希釈することにより、三の法則(the rule of three)が適用され、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒が、従来知られていなかった効果的濃度となる。そこでの測定単位は相対的効能であり、その値は参照標準(第2のサンプル)の活性(効能)に基づいて定義された活性(効能)単位として表される。
【0126】
別の実施形態において、上記相対的効能は、上記第1及び上記第2のサンプルの効能の比として表される。
【0127】
一実施形態において、上記モデルは、適用された神経毒量の対数値を予測するために使用される。
【0128】
別の実施形態において、誘導された効果量及びサンプル中の神経毒量の両方が、対数尺度で記録される。
【0129】
一実施形態において、上記第2の効果又は上記第1の効果は、上記第2のサンプル又は上記第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の少なくとも3つの異なる濃度において測定される。
【0130】
一実施形態において、上記データセットの作成又は上記検量線(1又は複数)の作成は、片対数プロットの様式で実施される。
【0131】
別の実施形態において、両対数プロットが実施される。
【0132】
相対的効能を決定する方法は、ヨーロッパ薬局方に記載されている。
【0133】
一実施形態において、例えば10マウスLD50単位/mLという濃度で開始する場合、上記相対的効能を決定する方法は、データセットの全範囲にわたって適用される。次いで、10を上回る値のマウスLD50単位/mL(例えば、11,12,13,14,15,16,17マウスLD50単位/mL)が、開始ポイントとして使用される。上記繰り返しは、適用されたモデルによって目的とする必要な精度が実現されるまで実施される。
【0134】
一実施形態において、最良適合及び濃度範囲が統計的検定によって特定されると、未知濃度(効果的濃度)のクロストリジウム神経毒を含む第1のサンプルを、本発明の方法によって特定された上記濃度範囲内において、第2のサンプルに含まれる既知濃度の上記クロストリジウム神経毒と比較することができる。
【0135】
一実施形態において、上記測定された第2の効果の記録は、上記第2の効果を濃度に対してプロットすることにより実施され、上記第2のデータセットの作成は、検量線を作成することにより実施される。
【0136】
アッセイにおいて、相対的効能の推量を使用すること、及び参照標準(第2のサンプル)を包含させることにより、より正確で、より再現性のある推定が可能となり、これにより、動物の使用低減の実現が可能となる。
【0137】
本発明の3つの態様に係る方法のいずれか1つの一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前に、上記筋肉組織を、5〜30分間、上記クロストリジウム毒素に曝露する。
【0138】
本発明の3つの態様に係る方法のいずれか1つの一実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)及び/又はステップ(f)の前に既に電気的に刺激されている。
【0139】
別の実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)及び/又はステップ(f)の間に、既に電気的に刺激されている。
【0140】
別の実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)の前及びステップ(a)の間に、並びに/又はステップ(f)の前及びステップ(f)の間に、既に電気的に刺激されている。
【0141】
統計的検定は、通常、適当なコンピュータプログラム及び適当なコンピュータを使用して実施される。
【0142】
一実施形態において、上記統計的検定は、上記統計的検定を実行する適当なソフトウェア手段を含む適当なコンピュータプログラムを使用して実施される。
【0143】
したがって、一実施形態において、本発明は、本発明の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0144】
一実施形態において、第2のサンプルは、市販の許認可されたボツリヌス毒素調製物から選択される。これらの製品は、医薬品又は薬剤として許認可されており、明確に規定された量又は濃度のボツリヌス毒素を含む。
【0145】
別の実施形態において、標準的な条件の下で製造された、いかなるボツリヌス毒素を使用してもよい。
【0146】
一実施形態では、上記した市販の調製物を、第2のサンプルとして使用してもよい。したがって、第2のサンプルは、例えば、Xeomin(登録商標)、Botox(登録商標)、Dysport(登録商標)、Myobloc(登録商標)又はPurTox(登録商標)である。これらの調製物は、使用されるボツリヌス毒素の種類の点、又は生物学的有効性/活性(すなわち効能)の点、例えば、ボツリヌス神経毒の濃度の点、又はそこに含まれるボツリヌスの種類の点で、異なる。
【0147】
マウスLD50で表されるマウス単位は、サンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の濃度を規定するために一般的に採用される単位である。LD50値は、マウス集団に適用された場合に該マウス集団の50%が死亡する致死量を規定する。その値を決定するための方法は、当業者に公知である。そのような方法は、ヨーロッパ薬局方に記載されている。
【0148】
公知のように、ボツリヌス神経毒の製品のラベリングにおけるLD50単位は、製品特異的又は製造者特異的である場合もあるし、標準がないために互換性がない場合もある。
【0149】
一実施形態において、ここで使用されるLD50単位は、Xeomin(登録商標)の特性及びラベリングで決定された単位であり、例えば、第2のサンプルはXeomin(登録商標)である。したがって、ある効能に関する単位は、Xeomin(登録商標)単位である。したがって、本発明のアッセイ系は、Xeomin(登録商標)に基づいて、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの効能を比較評価するために使用することができる。上記方法により、Xeomin(登録商標)単位に基づいて、クロストリジウム神経毒(未知濃度)を含む第1のサンプルを直接比較することが可能となる。
【0150】
Xeomin(登録商標)及びBotox(登録商標)は、ほぼ同程度の有効性又は効能を示す。Xeomin(登録商標)及びBotox(登録商標)と同じ有効性又は効能を得るためには、約2.5倍量のDysport(登録商標)又は約10倍量のMyobloc(登録商標)が適用される必要がある。
【0151】
一実施形態において、これらの市販の調製物を、それに含まれるボツリヌス神経毒が所定濃度となるように希釈又は濃縮し、上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定する。上記測定された効果を、ボツリヌス毒素の濃度に対してプロットし、それにより、検量線を作成する。上記第2のデータセット又は上記検量線により、第1のサンプルに含まれるボツリヌス神経毒の未知濃度を決定することができる。
【0152】
サンプル(例えば、第1又は第2のサンプル)に含まれるクロストリジウム神経毒の濃度が、10以上のマウスLD50単位/mLで表される場合、本発明の方法を有利に適用できることが見出された。但し、本発明における濃度は全てマウスLD50単位/mLである。
【0153】
一実施形態において、上記濃度は少なくとも15である。
【0154】
別の実施形態において、上記濃度は少なくとも20である。
【0155】
別の実施形態において、上記濃度は10〜1000である。
【0156】
一実施形態において、上記濃度は10〜70である。
【0157】
別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。
【0158】
さらに別の実施形態において、上記濃度は20〜45である。
【0159】
一実施形態において、上記第2のサンプルはXeomin(登録商標)である。
【0160】
一実施形態において、Xeomin(登録商標)が第2のサンプルとして使用される場合、第2の効果が10〜70の少なくとも1つの濃度で決定されると、特に信頼性の高い結果が得られることが見出された。別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。さらに別の実施形態において、上記濃度は25〜45である。
【0161】
一実施形態において、Botox(登録商標)が第2のサンプルとして使用される場合、第2の効果が10〜70の少なくとも1つの濃度で決定されると、信頼性のある結果が得られることが見出された。別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。さらに別の実施形態において、上記濃度は25〜45である。
【0162】
第2のサンプルがステップ(e)に従って検量線を決定するために使用される場合、神経毒の濃度が高い、すなわち、LD50単位/mLの値が大きいXeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)よりも濃度が低い又は有効性若しくは効能が低いボツリヌス神経毒を含む第2のサンプルが、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)によって誘導される効果と比較可能な第2の効果の強度を実現するために、必要となる。
【0163】
第2のサンプルにおけるボツリヌス神経毒の濃度又は効能がXeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)よりも低い一実施形態において、第2の効果は、20〜400又は100〜800の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0164】
第2のサンプルがDysport(登録商標)である一実施形態において、第2の効果は、20〜400、又は25〜300、又は30〜250の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0165】
第2のサンプルがMyobloc(登録商標)である別の実施形態において、第2の効果は、100〜800、又は150〜700、又は200〜600の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0166】
別の実施形態において、上記濃度は、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)と比較される上記第2のサンプルに含まれる上記神経毒の有効性又は効能の濃度に基づいて、30〜600、又は30〜400、又は30〜200、又は30〜100、又は30〜80、又は40〜500、又は40〜400、又は40〜300、又は40〜200、又は40〜100、又は40〜90、又は50〜300、又は50〜200、又は50〜100、又は60〜100の範囲をとることができる。
【0167】
一実施形態において、LD50単位は、Xeomin(登録商標)単位である。
【0168】
本発明の第1の変更例において、上記未知濃度の決定に使用される効果は、筋肉組織の麻痺までの時間である。時間は、例えば、秒又は分として測定される。別の変更例において、麻痺までの時間は、筋肉収縮距離(収縮距離が0になった時点で麻痺が達成される)又は筋攣縮頻度(筋攣縮頻度が0になった時点で麻痺が達成される)に基づいて決定することができる。収縮距離は、例えば、センチメートル又はミリメートルとして測定される。
【0169】
「麻痺までの時間」は、最大攣縮の半値を達するまでに経過した時間として定義することができる。これは、毒素濃度に完全に依存する。
【0170】
本発明の別の変更例において、上記誘導された効果は、筋肉組織の収縮速度の変化であるか、又は筋肉組織の収縮の変化であるか、又は筋肉組織の収縮力の変化であるか、又は筋肉組織の終板電位若しくは微小終板電位の変化である。これらの方法は当業者に公知であり、例えば、EP1597584B1に記載されている。
【0171】
一実施形態において、上記効果、すなわち誘導された上記第1及び上記第2の効果は、筋肉組織の麻痺までの時間である。
【0172】
本発明の方法では、基本的に、神経筋の性質を示すいかなる筋肉組織、すなわち、電気的刺激に応答するいかなる筋肉組織を選択してもよい。筋肉組織は、電気的に刺激可能な、1又は複数の神経細胞又はそれに付着する神経を有する1又は複数の筋繊維を含む調製物を意味する。平滑筋及び横紋筋の両方の筋肉組織が使用可能である。
【0173】
本発明の教示に従うと、筋肉組織には、肋間筋、後肢筋及び後肢長趾伸筋(例えば、マウス及びラット由来のもの)、後足の足底筋(例えば、マウス又はラット由来のもの)、横隔膜神経−片側横隔膜(例えば、マウス又はラット由来のもの)、長耳挙筋(levator auris longus muscle)(例えば、マウス及びラット由来のもの)、カエルの神経筋接合部、ニワトリの頸二腹筋が含まれる。例えば、肋骨筋又は脳組織(マウス及びラット由来のもの)あるいはエイの発電器官を使用することもできる。
【0174】
さらに、一実施形態において、マウスの横隔膜神経−片側横隔膜の使用がクロストリジウム毒性の測定に有用なツールであることが実験により示された。したがって、それを、クロストリジウム毒性を測定するためのアッセイに使用することができる。
【0175】
一実施形態において、上記マウス片側横隔膜アッセイの信頼性により、規制当局の許認可条件を満たすことができるとともに、ボツリヌス毒素(例えば、血清型A又は血清型B)の安全で効果的な投与の必要性を満たすことができる。
【0176】
一実施形態において、上記片側横隔膜は、齧歯動物(例えば、ラット又はマウス)の片側横隔膜である。
【0177】
一実施形態において、上記片側横隔膜は、マウスの片側横隔膜である。
【0178】
「マウス又はラットの片側横隔膜」という用語は、ラット又はマウスの横隔膜神経−片側横隔膜を意味する。
【0179】
さらに別の実施形態において、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素及び上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素は、同一のクロストリジウム毒素である。
【0180】
さらに別の実施形態において、第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素又は神経毒及び上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素又は神経毒は、互いに異なる。
【0181】
上記方法の実験的実現のために、典型的には、運動ニューロンが付着した筋肉組織を動物(例えば、マウス又はラット)から取り出し、緩衝液(例えば、生理的緩衝液)を含有する器官又は組織槽(organ or tissue bath)に設置し、この際、該器官又は組織槽において、イオン組成、グルコース、温度、pH及び酸素供給等の条件をコントロールして組織生存能力及び機能を最適化する。電気的刺激後の筋肉収縮力の測定は、筋肉を力変換器に取り付けて実施することができ、これにより、神経筋機能に対する毒素の効果を直接測定することができる。
【0182】
一実施形態において、上記緩衝液の温度は、35〜39℃、又は36〜38℃である。別の実施形態において、上記温度は、36.5〜37.5℃である。
【0183】
さらに別の実施形態において、上記温度は、37℃又は約37℃である。
【0184】
一実施形態において、上記緩衝液のpHは7〜8又は7.2〜7.8である。一実施形態において、上記pHは7.5又は約7.5である。
【0185】
一実施形態において、酸素供給は、酸素を含むガス混合物を使用して実施される。一実施形態において、酸素供給は、二酸化炭素及び酸素の混合物を使用して実施される。一実施形態において、95部の酸素(容積基準)及び5部の二酸化炭素(容積基準)からなるガス混合物が使用される。carbogeneとして知られる市販の混合物を使用することができる。
【0186】
効果、すなわち第2及び第1の各効果を測定するための電気的刺激を実施するために、基本的に、参照した従来法を使用することができる。
【0187】
一実施形態において、本発明の方法は、ステップ(b)又は(g)における電気的刺激が少なくとも過最大電圧(supra-maximal voltage)に等しい電圧で実施されるように、実施される。過最大電圧は、筋肉組織の最大攣縮反応(maximum twitch response)が得られる最小電圧として理解される。一般的に、そのような実験は数回繰り返され、信頼性のある結果を得るために、得られた結果は平均化される。
【0188】
電気的刺激は、上記組織の過最大電圧に少なくとも等しい電圧で、一定間隔のパルス刺激により刺激されるように、実施することができる。パルス刺激は、刺激が実施されない所定間隔で分断される、所定時間継続される刺激を意味する。このアプローチは、例えば、Goschel等, Exp. Neurol., vol. 147, 1, 1997, Wohlfahrt等, Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol (1997) 355:335-340に記載されている。
【0189】
また、電気的刺激は、パルス列(train pulse)刺激であってもよい。そのような方法は、EP1597584B1に記載されている。
【0190】
パルス刺激の一実施形態において、刺激期間は、10μs〜1msの範囲をとることができる。刺激が実施されない期間は、0.1〜10sの範囲をとることができる。過最大電圧は、例えば、1mV〜15Vの範囲をとることができる。筋肉組織は、例えば、周波数が例えば1Hzのパルスを使用して、2つの電極を介して、連続的に電気的に刺激される。
【0191】
微小電極は、神経筋接合部又はその近傍に設置することができ、自発的な誘発膜電位の細胞内記録法を実施することができる。これらの膜電位は、アセチルコリンによるイオンチャネル内蔵型受容体の活性化によって生じ、毒素の影響を受ける。終板電位の分析は、アセチルコリンの量子的放出に対する毒素の効果に関する情報を得るために使用することができる。
【0192】
具体的には、適当な筋肉組織(例えば、左側の横隔膜神経−片側横隔膜(横隔神経))を例えば雄又は雌のマウスから切除し、器官槽に設置することができる。一実施形態において、この器官槽は、クレブス−リンガー溶液又はアール平衡塩類溶液(EBSS)又は生理的食塩水を含有する溶液槽である。上記溶液は当業者に公知である。筋肉組織は、次いで、公知の方法に従って、第1又は第2のサンプルの存在下、横隔神経を介して刺激される。誘導された効果は記録され、公知の方法(例えば、参照した従来法)を使用して評価される。
【0193】
筋肉組織は、緩衝液(例えば、生理的緩衝液)中に浸漬することができる。緩衝液は、エネルギー源を含むことができる。エネルギー源は、ATPエネルギー源、例えば、ATP、糖(例えば、グルコース)、クレアチン、脂肪酸、アミノ酸、グリコーゲン、界面活性剤及びピルビン酸の1種又は2種以上であってよい。
【0194】
緩衝液には、酸素供給してもよく、これは、特に、長時間のアッセイの場合に適する。好ましくは、酸素及びグルコース(又はその他のATP源)を、上記筋肉組織の生存期間を延長させるために、器官槽に加えることができる。界面活性剤の添加は、特に、本発明の方法に不利な影響を与える場合がある泡を低減させるために有用である。
【0195】
一実施形態において、上記界面活性剤は消泡剤である。
【0196】
「消泡剤」という用語は、液体中に含まれる気泡の表面張力に作用するあらゆる薬剤を包含する。
【0197】
ある種の消泡剤は、液体中に含まれる気泡の表面張力を低下させ、それにより気泡を破壊する。
【0198】
しかしながら、消泡剤は、気泡の表面張力を増加させることもでき、これにより、気泡を融合させ、小さな気泡よりも容易に液体から抜け出す大きな気泡とする効果が発揮される。
【0199】
表面張力の作用は、当業者に公知の方法(例えば、接触角及びぬれ角の測定)によって測定することができる。
【0200】
したがって、消泡剤は、泡の形成を阻害する又は既に形成された泡を破壊する薬剤である。
【0201】
一般的に使用される消泡剤には、不溶性オイル、ジメチルポリシロキサン及びその他のシリコーン、アルコール、ステアレート並びにグリコールがある。
【0202】
一実施形態において、上記消泡剤は、少なくとも1種のシリコン含有化合物から選択される。
【0203】
別の実施形態において、少なくとも1種のシリコン含有化合物はシロキサンである。
【0204】
「シロキサン」という用語は、オリゴシロキサン及びポリシロキサンを包含する。一実施形態において、上記シロキサンは、アルキル基及び/又はアリール基で置換される。このようなシロキサンは当業者に周知である。シリコン含有化合物は、単一の化合物として又は2種以上のシリコン含有化合物の混合物として使用することができる。
【0205】
好適なシリコン化合物又は好適なシロキサンの具体例としては、これらに限定されるわけではないが、α−(トリメチルシリル)−ω−メチルポリ[オキシ(ジメチルシリレン)]及びポリジメチルシロキサンが挙げられる。これらの化合物は、シメチコン(simethicone)及びジメチコン(dimethicone)の名前で市販されており、医薬の成分として又は医薬として使用される。
【0206】
当業者は、シメチコン及びジメチコンと同様の活性を有する他の化合物を本発明の方法に適用可能であることを容易に理解するであろう。
【0207】
別の態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒に曝露された筋肉組織が刺激され、(例えば上記のように)該刺激の効果が測定される器官槽(organ bath)と、統計的検定を実施し、信頼性のある結果を得るために、神経毒によって生じた効果が測定される濃度範囲を最適化するコンピュータプログラム製品とを含むキットに関する。
【0208】
したがって、一態様において、本発明は、
(A)−クロストリジウム神経毒に曝露された筋肉組織を刺激して、上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された効果を選定するためのデバイス、
−上記効果を測定して記録するためのデバイス、並びに、
(B)本発明の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品
を含むキットに関する。
【0209】
第4の態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒を含む第2のサンプルに基づいて、クロストリジウム神経毒を含む第1のサンプルの効能を、所定の信頼区間又は誤拒否確率で決定することができる濃度範囲を特定する、改良された方法を提供する。
【0210】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒を含む第2のサンプルに基づいて、クロストリジウム神経毒を含む第1のサンプルの効能を決定することができる濃度範囲の特定方法は、下記ステップ:
(a)筋肉組織を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(h)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された上記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、
上記濃度が、上記第1及び上記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から選択され、
上記最良適合が、下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた上記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた上記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)上記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)上記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、決定される。
【0211】
上記実施形態において、上記第2及び上記第1の効果は、定性的に同一である。上記方法を改良するために、上記方法を本発明の第3の態様に係る方法と組み合わせて使用することができる。
【0212】
本発明の別の態様において、本発明の方法は、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの質、すなわち、該サンプルの効能を、製造プロセスで要求されるような参照標準に基づいてコントロールするために、有利に使用することができる。
【0213】
したがって、上記態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの質、すなわち、該サンプルの効能をコントロールするための、本発明の方法の使用に関する。
【0214】
一実施形態において、保管されていたサンプルの効能が決定される。一実施形態において、上記サンプルは、少なくとも1時間又は少なくとも1日間保管されていたサンプルである。
【0215】
一実施形態において、上記サンプルは、凍結乾燥サンプルであるか、又は再構成サンプルである。
【0216】
別の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するための、あるいは、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定するための、本発明の第1の態様に係る方法の使用に関する。
【0217】
別の態様において、本発明は、本発明の方法のいずれか1つにおいてクロストリジウム活性を決定するための、あるいは、本発明のキットを使用してクロストリジウム活性を決定するための、筋肉組織の使用、特にマウス又はラットの片側横隔膜の使用に関する。
【0218】
以下の実施形態も、本発明の範囲に包含され、上記実施形態が同様に下記方法に適用されると理解されるべきである。
【0219】
すなわち、本発明は、生体外で(ex vivo)、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(a)筋肉組織を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(b)ステップ(a)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(c)上記神経毒によって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(g)ステップ(f)で得られた上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(h)ステップ(g)で得られた上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ
を含み、
上記第2の効果が、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で決定される、上記方法にも関する。
【0220】
一実施形態において、上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度が特定され、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒の未知濃度と見なされる。
【0221】
したがって、一実施形態において、本発明の方法は、ステップ(k)及び(l):
(k)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
をさらに含む。
【0222】
一実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)及び/又はステップ(f)の前に既に電気的に刺激されている。
【0223】
別の実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)及び/又はステップ(f)の間に既に電気的に刺激されている。
【0224】
別の実施形態において、上記筋肉組織は、ステップ(a)の前及びステップ(a)の間に、並びに/又はステップ(f)の前及びステップ(f)の間に、既に電気的に刺激されている。
【0225】
上記筋肉組織が上記第2及び/又は上記第1のサンプルに存在する上記クロストリジウム神経毒に曝露された場合には、上記筋肉組織の上記電気的刺激は、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下又は存在下で実施することができる。
【0226】
一実施形態において、本発明は、生体外で(ex vivo)、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(i)上記第2のサンプルの存在下で筋肉組織を電気的に刺激し、上記第2のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された第2の効果を選択するステップ、
(ii)ステップ(i)における上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、測定された上記第2の効果を濃度に対してプロットし、第2のデータセットを作成するステップ、
(iii)上記第1のサンプルの存在下で上記筋肉組織を電気的に刺激するステップ、
(iv)上記第1のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された第1の効果を選択するステップ、
(v)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、並びに、
(vi)ステップ(v)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
上記第2の効果が、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で決定される、上記方法に関する。
【0227】
一実施形態において、ステップ(e)又はステップ(ii)で測定された上記第2の効果の上記記録は、上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、測定された上記第2の効果を濃度に対してプロットし、検量線を作成することにより実施される。
【0228】
したがって、ステップ(e)又は(ii)で作成される第2のデータセットにより、検量線がプロットされ、それにより、ステップ(k)及びそれに続くステップ(l)、又はステップ(v)及びそれに続くステップ(vi)において、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒の未知濃度が特定される。
【0229】
一実施形態において、作成される検量線はプロットされ、ステップ(k)〜(l)、又はステップ(v)及びそれに続くステップ(vi)における特定するステップ及び見なすステップは、グラフ分析によって実施される。
【0230】
一実施形態において、上記濃度は、少なくとも15であるか、又は少なくとも20である。
【0231】
別の実施形態において、上記濃度は、10〜1000である。
【0232】
一実施形態において、上記第2のサンプルの濃度は、10〜70である。
【0233】
別の実施形態において、上記第2のサンプルの濃度は、15〜60である。
【0234】
さらに別の実施形態において、上記濃度は、20〜45である。
【0235】
一実施形態において、上記した市販の調製物を、上記第2のサンプルとして使用することができる。したがって、第2のサンプルは、例えば、Xeomin(登録商標)、Botox(登録商標)、Dysport(登録商標)、Myobloc(登録商標)又はPurTox(登録商標)である。
【0236】
一実施形態において、使用される単位は、Xeomin(登録商標)単位である。
【0237】
一実施形態において、これらの市販の調製物は、それに含有されるボツリヌス神経毒が所定濃度となるように希釈又は濃縮され、上記第2の効果は、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定される。測定された上記効果は、ボツリヌス毒素の濃度に対してプロットされ、検量線が作成される。上記第2のデータセット又は上記検量線により、第1のサンプルに含まれるボツリヌス神経毒の未知濃度が決定される。
【0238】
一実施形態において、Xeomin(登録商標)が上記第2のサンプルとして使用される場合、上記第2の効果が10〜70の範囲の少なくとも1つの濃度で測定されると、特に信頼性のある結果が得られることが見出された。別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。さらに別の実施形態において、上記濃度は25〜45である。
【0239】
一実施形態において、Botox(登録商標)が上記第2のサンプルとして使用される場合、上記第2の効果が10〜70の範囲の少なくとも1つの濃度で決定されると、信頼性のある結果が得られることが見出された。別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。さらに別の実施形態において、上記濃度は25〜45である。
【0240】
第2のサンプルが、ステップ(ii)に従って検量線を決定するために使用される場合、ボツリヌス神経毒の濃度が高い、すなわち、LD50単位/mLの値が大きいXeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)よりも濃度が低い又は有効性若しくは効能が低いボツリヌス神経毒を含む第2のサンプルが、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)によって誘導される効果と比較可能な第2の効果の強度を実現するために、必要となる。
【0241】
第2のサンプルが、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)よりも濃度又は効能が低いボツリヌス神経毒を含む一実施形態において、第2の効果は、20〜400又は100〜800の範囲の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0242】
第2のサンプルがDysport(登録商標)である一実施形態において、第2の効果は、20〜400又は25〜300又は30〜250の範囲の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0243】
第2のサンプルがMyobloc(登録商標)である別の実施形態において、第2の効果は、100〜800又は150〜700又は200〜600の範囲の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0244】
別の実施形態において、上記濃度は、上記第2のサンプルの有効性又は効能がXeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)と比較可能である濃度に応じて、30〜600、又は30〜400、又は30〜200、又は30〜100、又は30〜80、又は40〜500、又は40〜400、又は40〜300、又は40〜200、又は40〜100、又は40〜90、又は50〜300、又は50〜200、又は50〜100、又は60〜100の範囲をとることができる。
【0245】
上記第2のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された効果が、マウスLD50単位/mLで表される様々な濃度に基づいて決定される場合、検量線は、上記のように得ることができる。
【0246】
例えば、所定濃度範囲内にある10種のLD50単位/mL又は5種のLD50単位/mLにおいて誘導された上記効果を決定することができる。
【0247】
第1のサンプルの上記未知濃度は、上記第1及び上記第2の効果が同一の値(例えば、麻痺までの同一時間)である濃度を検量線から特定し、ステップ(l)に従って上記濃度を上記未知濃度と見なすことにより、決定することができる。
【0248】
上記決定の必要条件は、第1のサンプルに含まれる未知濃度のクロストリジウム毒素が、上記検量線によって定量化可能な、筋肉組織に対する効果を発揮することである。当業者は、第2のサンプルとの比較が可能な濃度範囲を達成するために、すなわち、第1及び第2の効果が同一となるように、必要に応じて、未知濃度の第1のサンプルを1回又は数回希釈又は濃縮する必要があるかもしれないことを容易に理解するであろう。その後、希釈又は濃度因子が判明すれば、未希釈又は未濃縮サンプルに最初に存在する神経毒の濃度を計算により決定することができる。
【0249】
一実施形態において、本発明の方法は、ステップ(b)又は(g)、あるいはステップ(i)及び(iii)における電気的刺激が、上記した従来の方法を使用して、過最大電圧と少なくとも等しい電圧で実施されるように、実施される。
【0250】
一実施形態において、上記筋肉組織はマウスの横隔膜である。
【0251】
したがって、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法は、
(i)マウス片側横隔膜を、上記第2のサンプルの存在下で電気的に刺激し、上記第2のサンプルによって上記マウス片側横隔膜に誘導された第2の効果を選択するステップ、
(ii)ステップ(i)における上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、測定された上記第2の効果を濃度に対してプロットし、検量線を作成するステップ、
(iii)上記筋肉組織を、上記第1のサンプルの存在下で電気的に刺激するステップ、
(iv)上記第1のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(v)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、並びに、
(vi)ステップ(v)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
上記第2の効果は、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で決定される。
【0252】
一実施形態において、上記筋肉組織はラット又はマウスの横隔膜神経−片側横隔膜であり、誘導された効果は麻痺までの時間であり、上記クロストリジウムボツリヌスは、血清型Aのボツリヌス神経毒である。
【0253】
本発明の特定の実施形態において、本発明の方法は、第2のサンプルに含まれる血清型Aのボツリヌス神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれる血清型Aのボツリヌス神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(i)マウス片側横隔膜を、上記第2のサンプルの存在下で電気的に刺激し、上記第2のサンプルによって上記マウス片側横隔膜に誘導された麻痺までの第2の時間を選択するステップ、
(ii)ステップ(i)における上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、測定された上記第2の効果を濃度に対してプロットし、検量線を作成するステップ、
(iii)上記筋肉組織を、上記第1のサンプルの存在下で電気的に刺激するステップ、
(iv)上記第1のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(v)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、並びに、
(vi)ステップ(v)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
上記麻痺までの第2の時間が、10〜70、又は15〜60、又は20〜45の範囲のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で決定され、第2のサンプルがXeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)である、上記方法を包含する。
【0254】
一実施形態において、上記濃度は、16.6マウスLD50単位/mL〜56.3マウスLD50単位/mLの範囲にある。
【0255】
別の実施形態において、上記濃度は、20マウスLD50単位/mL〜55マウスLD50単位/mLの範囲にある。
【0256】
さらに別の実施形態において、上記濃度は、25マウスLD50単位/mL〜50マウスLD50単位/mLの範囲にある。
【0257】
本発明の別の特定の実施形態において、本発明の方法は、第2のサンプルに含まれるボツリヌスA毒素の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれる血清型Aのボツリヌス毒素の未知濃度を決定する方法であって、
(i)マウス片側横隔膜を、上記第2のサンプルの存在下で電気的に刺激し、上記第2のサンプルによって上記マウス片側横隔膜に誘導された麻痺までの第2の時間を選択するステップ、
(ii)ステップ(i)における上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、測定された上記第2の効果を濃度に対してプロットし、検量線を作成するステップ、
(iii)上記筋肉組織を、上記第1のサンプルの存在下で電気的に刺激するステップ、
(iv)上記第1のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(v)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、並びに、
(vi)ステップ(v)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
上記麻痺までの第2の時間が、20〜400、又は25〜300、又は30〜250の範囲のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で測定され、上記第2のサンプルがDysport(登録商標)である、上記方法を包含する。
【0258】
本発明の別の特定の実施形態において、本発明の方法は、第2のサンプルに含まれるボツリヌスB毒素又はボツリヌスA毒素の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれる血清型Bのボツリヌス神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(i)マウス片側横隔膜を、上記第2のサンプルの存在下で電気的に刺激し、上記第2のサンプルによって上記マウス片側横隔膜に誘導された麻痺までの第2の時間を選択するステップ、
(ii)ステップ(i)における上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、測定された上記第2の効果を濃度に対してプロットし、検量線を作成するステップ、
(iii)上記筋肉組織を、上記第1のサンプルの存在下で電気的に刺激するステップ、
(iv)上記第1のサンプルによって上記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(v)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、並びに、
(vi)ステップ(v)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
上記麻痺までの第2の時間が、100〜800、又は150〜700、又は200〜600の範囲のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で決定され、上記第2のサンプルがMyobloc(登録商標)である、上記方法を包含する。
【0259】
但し、神経毒の濃度又は効能を決定するアッセイでは、上記のような組織だけでなく、細胞培養物も利用することができる。
【0260】
別の態様において、本発明は、参照サンプルに含まれるクロストリジウム毒素の既知濃度に基づいて、あるサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するために、細胞培養物を使用してクロストリジウム神経毒の活性を決定するアッセイに関する。上記方法は、クロストリジウムボツリヌス神経毒に感受性のある細胞培養物を上記神経毒に曝露したときにSNARE複合体の切断によって生じるSNAP25等のタンパク質の定量化を利用する。上記方法はまた、参照基準に基づいて、あるサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を推定するために使用することができる。
【0261】
Pellet,S.等(Comparison of the primary rat spinal cord cell (RSC) assay and the mouse bioassay for botulinum neurotoxin type A determination, Journal of Pharmacological and Toxicological Methods (2010), doi: 10.1016/j.vascn.2010.01.003)は、マウスバイオアッセイに代わるものとして、精製された血清型Aボツリヌス神経毒の効能決定のための細胞系アッセイを提案する。
【0262】
Keller,J.E.等(Persistence of botulinum neurotoxin action in cultured spinal cord cells, FEBS Letters 456 (1999) 137-142)は、ボツリヌス神経毒A(BoNT/A)及びボツリヌス神経毒E(BoNT/E)活性の持続性の相違の原因となるメカニズムを開示する。
【0263】
本発明の別の目的は、これら従来の方法を改良すること、並びに、サンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能又は該効能を生じる濃度を決定するための、信頼性のある正確な方法を開発することにあり、該方法は、規制の目的で使用することができる。このような改良された方法は、安全で効果的な投与の必要性を満たすためにも役立つであろう。
【0264】
この目的は、細胞培養物を、クロストリジウム神経毒を含むサンプルに曝露する又は接触させる方法であって、上記クロストリジウム神経毒によって上記細胞培養物の細胞に誘導される効果を測定する前に、上記サンプルを、あるクロストリジウム神経毒又は上記クロストリジウム神経毒を含まない水性媒体(例えば、緩衝液、又は中性緩衝液)と置換し、上記細胞培養物を、所定期間、例えば、1時間以上、又は2時間以上、又は3時間以上、又は4時間以上、又は5時間以上、上記水性媒体に曝露する方法によって達成される。測定の前に、上記細胞培養物を、最大100時間又はそれ以上、上記水性媒体と接触させてもよい。
【0265】
驚くべきことに、クロストリジウムボツリヌス神経毒を含むサンプルに曝露又は接触させた後、上記クロストリジウムボツリヌス神経毒を含まない水性媒体との接触に続いて上記サンプルの不存在下で上記効果を測定すると、それぞれの用量反応曲線がシフトし、本発明の方法の感度が有意に増加することが見出された。マウスLD50単位/mLで表される、上記サンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒の濃度が低濃度であると、感度は特に増加する。
【0266】
したがって、第1の態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒によって細胞培養物に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)細胞培養物を、上記クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)上記クロストリジウム神経毒によって上記細胞培養物に誘導された上記効果を測定するステップ
を含み、
ステップ(c)を、上記サンプルの不存在下で実施し、
ステップ(c)における上記測定の前であって、ステップ(a)における上記接触の後に、上記細胞培養物を、0.5〜100時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、上記方法に関する。
【0267】
第2の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(a)細胞培養物を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(k)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における上記濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施し、
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の後に、上記細胞培養物を、0.5〜100時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、上記方法に関する。
【0268】
第3の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定する方法であって、
(a)細胞培養物を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された上記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施し、
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の後に、上記細胞培養物を、0.5〜100時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、上記方法に関する。
【0269】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(m)及び(n):
(m)上記第1及び上記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から、上記様々な濃度を選択するステップ、
(n)下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた上記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた上記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)上記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)上記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、上記最良適合を決定するステップ
をさらに含む。
【0270】
一実施形態において、上記統計的検定は、F検定、又はχ2検定、又はt検定である。
【0271】
一実施形態において、サブステップ(α)〜(δ)のそれぞれに関する誤拒否確率は、≦5(%表示)である。
【0272】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(ε):
(ε)線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、第2のサンプルに対する第1のサンプルの相対的効能を計算するステップ
をさらに含む。
【0273】
一実施形態において、上記効果(第1及び/又は第2の効果を含む)は、SNARE複合体由来タンパク質の切断である。
【0274】
一実施形態において、上記タンパク質はSNAP25である。
【0275】
一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前に、上記細胞培養物を、5〜45時間又は15〜40時間又は25〜35時間、上記クロストリジウム毒素と接触させる。
【0276】
一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の後に、上記細胞培養物を、0.5〜100時間、又は1〜95時間、又は6〜90時間、又は7〜80時間、又は8〜70時間、又は9〜60時間、又は10〜50時間、又は11〜50時間、又は12〜40時間、又は15〜40時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる。
【0277】
一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の後に、上記細胞培養物を溶解させる。
【0278】
別の実施形態において、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の前に、細胞培養物を溶解させる。
【0279】
一実施形態において、上記測定は、ウエスタンブロット分析又はELISAによって実施される。
【0280】
一実施形態において、上記細胞培養物は、神経細胞株又は初代神経細胞の細胞培養物から選択される。
【0281】
一実施形態において、上記測定された第2の効果の記録は、上記第2の効果を濃度に対してプロットすることにより実施され、上記第2のデータセットの作成は、検量線を作成することにより実施される。
【0282】
一実施形態において、上記第2の効果は、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度で決定される。
【0283】
別の実施形態において、上記濃度は、10〜1000、又は10〜70、又は15〜60、又は20〜45の範囲である。
【0284】
別の実施形態において、上記濃度は、20〜400の範囲であるか、又は100〜800の範囲である。
【0285】
一実施形態において、上記マウスLD50単位は、Xeomin(登録商標)単位である。
【0286】
一実施形態において、上記クロストリジウム神経毒は、ボツリヌス毒素である。
【0287】
別の実施形態において、上記ボツリヌス神経毒は、A,B,C,D,E,F及びGからなる群より選択された血清型であるか、あるいは、A,B,C,D,E,F及びGからなる群より選択された血清型のボツリヌス神経毒の、化学的又は遺伝子工学的に修飾された誘導体である。
【0288】
別の実施形態において、上記神経毒は、血清型A又はC又はEである。
【0289】
一実施形態において、上記神経毒は、複合体形成するタンパク質を含まない。
【0290】
別の態様において、本発明は、本発明の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0291】
別の態様において、本発明は、本発明の方法のいずれか1つにおける、細胞培養物の使用に関する。
【0292】
別の態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの効能をコントロールするための、本発明の第1、第2及び第3の態様のいずれか1つに係る方法の使用に関する。
【0293】
一実施形態において、上記サンプルは、保管サンプルである。
【0294】
一実施形態において、上記サンプルは、凍結乾燥サンプル又は再構成サンプルである。
【0295】
別の態様において、本発明は、例えばクロストリジウム神経毒の製造プロセスにおける品質管理の間に、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するための、あるいは、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定するための、本発明の第1の態様に係る方法の使用に関する。
【0296】
細胞培養物を使用する当業者に公知の方法と比較すると、本発明の方法によって、クロストリジウムボツリヌス神経毒の生物学的活性の定量に関する正確性及び精密性の有意な改善を可能となる。本発明の方法は、規制上の要件を満足する。
【0297】
本明細書に開示された方法を適用することにより、細胞培養物を使用する従来の定量法で観察される有意なバラツキ(variability)を、有意でない程度まで顕著に低減させることができることをが見出された。
【0298】
一実施形態において、本発明は、クロストリジウム神経毒によって細胞培養物に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)細胞培養物を、クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された効果を測定するステップ
を含み、
ステップ(c)を、上記サンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0299】
「細胞培養物をサンプル(本発明の別の態様では、第1又は第2のサンプルであり得る)と接触させる」という表現は、サンプルの神経毒の少なくとも一部が接触の間に細胞培養物に取り込まれる、すなわち、サンプルに含まれる神経毒の少なくとも一部が細胞培養物の細胞に含まれる適当な受容体に結合することを意味する。
【0300】
「サンプルの不存在」という表現は、ステップ(c)における効果の測定が、サンプルの含有量(別の言い方をすれば、サンプルの神経毒の含有量)が10重量%未満である(例えば、ゼロである)媒体、典型的には適当な緩衝液中で実施されることを意味する。
【0301】
一実施形態において、上記細胞培養物は、クロストリジウム神経毒を含むサンプル(本発明の別の態様に係る方法では、第1又は第2のサンプルであり得る)に連続的に曝露(接触)されず、一時的にのみ曝露される。
【0302】
これは、上記細胞培養物の曝露に対する応答を生じさせるために、上記細胞培養物を神経毒に対して、所定時間、曝露させた後(すなわち、ステップ(a)における接触の後)、対応する効果(本発明の別の態様に係る方法では、第1又は第2の効果)の測定は、上記サンプル(本発明の別の態様に係る方法では、上記第1又は上記第2のサンプルであり得る)の不存在下で実施されることを意味し、その際、下記方法が利用される。
【0303】
一実施形態において、上記測定の前に、上記細胞培養物は、例えば、下記のように、上記サンプルを含む容器(bath)から取り出され、神経毒不含成分を含む容器に移される。次いで、効果(サンプルが第1又は第2のサンプルであるとき、第1又は第2の効果であり得る)の程度の測定が実施される、すなわち、効果が定量化される。これは、上記刺激に対する応答が、神経毒を取り込んだ細胞培養物を使用して実施されることを意味する。
【0304】
別の実施形態において、神経毒含有成分、すなわちサンプル(例えば、第1又は第2のサンプル)は、神経毒不含成分によって置換される。一実施形態において、サンプルは、例えばデカンテーションにより、細胞培養物から取り除かれ、下記のような神経毒不含成分によって置換される。置換の後、効果(サンプルが第1又は第2のサンプルである場合、第1又は第2の効果であり得る)の程度の測定が実施される。
【0305】
「クロストリジウム神経毒(又はクロストリジウム毒素)」という用語は、クロストリジウム毒素複合体及び高純度神経毒(すなわち、その他のクロストリジウムタンパク質を含まない神経毒調製物)を包含する。
【0306】
一実施形態において、上記クロストリジウム神経毒はボツリヌス神経毒である。
【0307】
別の実施形態において、上記ボツリヌス神経毒は、A,B,C,D,E,F及びGからなる群より選択される血清型である。
【0308】
「ボツリヌス毒素複合体」という用語は、少なくとも別の非毒性タンパク質と複合化したボツリヌス毒素を包含する。例えば、ここで使用されるボツリヌス毒素複合体という用語には、例えばC.ボツリヌスの培養物から得られる、450kDa及び900kDaボツリヌス毒素複合体が含まれる。そのような調製物のうち、A型ボツリヌス毒素複合体をベースとしたものは、例えば、Ipsen Ltd.(Dysport(登録商標))又はAllergan Inc.(Botox(登録商標))から市販されている。B型ボツリヌス複合体をベースとした別の調製物は、Solstice Neurosciences,Inc.(Myobloc(登録商標))から市販されている。その他のクロストリジウムタンパク質を含まないA型高純度神経毒は、Merz Pharmaceuticals(Xeomin(登録商標))から市販されている。それは、数種のタイプの限局性筋失調症を改善するための選択薬である。
【0309】
別の実施形態において、上記ボツリヌス神経毒は、A,B,C,D,E,F及びGからなる群より選択される血清型の、化学的又は遺伝子工学的に修飾された誘導体である。
【0310】
上記神経毒の化学的に修飾された誘導体は、例えば、ピルビン酸化(pyruvation)、リン酸化、硫酸化(sulfatation)、脂質化及び/又はグリコシル化によって修飾されたものである。
【0311】
上記神経毒の遺伝子工学的に修飾された誘導体は、上記血清型のタンパク質に含まれる1個又は2個以上のアミノ酸の欠失、付加又は置換によって修飾されたものである。
【0312】
そのような修飾された毒素は、好ましくは、生物学的に活性である。
【0313】
生物学的に活性な毒素は、細胞内に取り込まれ、1個又は2個以上のポリペプチド(例えば、SNARE複合体と関連するSNAP25)をタンパク分解的に切断することができる毒素である。タンパク分解的に切断されたポリペプチド(例えば、SNAP25)の濃度が測定及び定量化されると、使用された毒素の濃度又は効能が計算され得る。
【0314】
本発明の3つの態様のいずれか1つに係る方法の一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前に、上記細胞培養物を、5.0〜45時間又は15〜40時間又は25〜35時間、上記クロストリジウム毒素に曝露(接触)させる。
【0315】
別の実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の後に、上記細胞培養物を、0.5〜100時間、又は1〜95時間、又は6〜90時間、又は7〜80時間、又は8〜70時間、又は9〜60時間、又は10〜50時間、又は11〜50時間、又は12〜40時間、又は15〜40時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる。
【0316】
「水性媒体」という用語は、水を含む液体又は流体を意味する。
【0317】
一実施形態において、上記水性媒体は緩衝液である。
【0318】
一実施形態において、上記緩衝液は、中性緩衝液である。「中性」という用語は、6〜8、又は6.5〜7.5、又は約7のpH範囲を包含する。
【0319】
一実施形態において、上記緩衝液はリン酸緩衝液である。
【0320】
一実施形態において、上記水性媒体の温度は、20〜40℃、又は25〜40℃、又は30〜40℃である。一実施形態において、上記温度は約37℃である。
【0321】
一実施形態において、ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における上記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の後に、上記細胞培養物を溶解させる。
【0322】
「溶解」という用語は、例えば細胞の完全性を破壊するウイルス、酵素又は浸透圧の作用による、細胞の破壊を意味する。溶解細胞の内容物を含む流体は、「溶解物」と呼ばれる。例えば、溶解は、特定のタンパク質、脂質及び核酸のそれぞれの組成又はそれらの複合体の組成を分析するために、ウエスタン及びサザンブロッティングにおいて使用することができる。溶解に関しては、一般的に知られている溶解バッファーを使用することができる。
【0323】
別の実施形態において、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における上記接触の前に、上記細胞培養物を溶解する。
【0324】
驚くべきことに、上記細胞培養物をクロストリジウムボツリヌス神経毒に曝露又は接触させた後、上記クロストリジウムボツリヌス神経毒を含まない水性媒体との接触に続いて上記サンプルの不存在下で上記効果を測定することにより、それぞれの用量反応曲線がシフトし、本発明の方法の感度が有意に増加することが見出された。感度は、マウスLD50単位/mLで表される、上記サンプル中の上記クロストリジウム神経毒の濃度が低濃度である場合に、特に増加する。
【0325】
例えば、効果(又は応答)として、SNARE複合体由来SNAP25等のタンパク質の切断が測定される場合、上記方法は、上記方法の感度の有利な増加を生じ、これは、特に神経毒の濃度が低い場合に当てはまる。上記効能が低濃度で測定される場合、神経毒は、一般的に、最も大きな変化を示し得る。これに対して、比較的高い濃度の場合、効能は互いに近づく。
【0326】
この感度の増加によって、それぞれの用量反応曲線に関するより正確で、より信頼性のある解析が可能となる。そして、これにより、本発明の方法のいずれか1つを実施するために犠牲にしなければならなかったはずの実験動物(例えば、マウス)の数を大幅に減少させることが可能となる。したがって、本発明のこの実施形態によれば、技術的側面の向上だけでなく、倫理的側面の向上も図られる。
【0327】
ここで使用される「感度」という用語は、生理学で一般的に使用される意味、すなわち、外部刺激に応答する細胞培養物の能力を意味する。ここで、外部刺激は、細胞培養物をクロストリジウム神経毒と接触させることにより実施される。本発明の範囲内には、一定の濃度範囲を選択することが包含され、例えば、上記感度が増加する比較的低い濃度のクロストリジウム神経毒の濃度範囲を選択することができる、すなわち、別の方法では決定できない応答又は許容できない偏差でしか決定できない応答を決定することができる。
【0328】
別の実施形態において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する方法であって、
(a)細胞培養物を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(k)上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における濃度を上記未知濃度と見なすステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0329】
したがって、一実施形態において、上記第2及び/又は上記第1の効果の決定は、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施される。これは、上記したように、ステップ(a)の後及び/又はステップ(f)の後に、上記細胞培養物を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルから取り出すか、あるいは、上記第2及び/又は上記第1のサンプルを上記細胞培養物から取り出すことを意味する。
【0330】
「上記第1及び上記第2の効果が同一である濃度を特定する」(ステップ(k)及び(l))という表現は、上記第1及び上記第2の効果が定性的及び定量的に同一であること、すなわち、誘導された効果(例えば、SNARE複合体由来SNAP25等のタンパク質又はポリペプチドの切断)が、同一の測定値を有することを意味する。
【0331】
一実施形態において、信頼性のある比較が可能である結果を得るために、上記第2又は上記第1のサンプルに含まれる神経毒の細胞培養物に対する曝露時間は、同程度であるべきである。
【0332】
一実施形態において、上記曝露時間は同一である。
【0333】
一実施形態において、ステップ(e)における上記測定された第2の効果の記録は、上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定し、上記測定された第2の効果を濃度に対してプロットし、検量線を作成することにより実施される。
【0334】
上記第2のサンプルによって上記細胞培養物に誘導された効果が、マウスLD50単位/mLで表される様々な濃度に基づいて決定されると、上記のように、検量線を得ることができる。
【0335】
例えば、所定濃度範囲内にある10種のLD50単位/mL又は5種のLD50単位/mLにおいて誘導された上記効果を決定することができる。
【0336】
したがって、ステップ(e)で記録された第2のデータセットを使用して、検量線がプロットされ、それにより、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒の未知濃度がステップ(k)及びそれに続くステップ(l)に従って特定される。
【0337】
一実施形態において、作成された検量線はプロットされ、ステップ(k)〜(l)の特定するステップ及び見なすステップは、グラフ分析により実施される。
【0338】
上記第1のサンプルの未知濃度は、上記第1及び上記第2の効果が同一の値(例えば、産生されたSNAP25の同一濃度)を有する検量線から濃度を特定し、ステップ(l)で上記濃度を上記未知濃度と見なすことにより決定することができる。
【0339】
上記決定の必要条件は、上記第1のサンプルに含まれる未知濃度のクロストリジウム毒素が細胞培養物に対して効果を発揮することであり、それは、上記検量線によって定量化することができる。当業者は、上記第2のサンプルとの比較が可能である濃度範囲を実現するために、すなわち、第1及び第2の効果が同一となるように、必要に応じて、未知濃度の第1のサンプルを1回又は数回希釈又は濃縮することが必要であり得ることを容易に理解するであろう。そして、希釈又は濃度因子に基づいて、未希釈又は未濃縮の第1のサンプルに最初に存在する神経毒の濃度を、計算により決定することができる。
【0340】
別の実施形態において、上記特定する及び見なすステップは、ステップ(h)及びそれに続くステップ(k)及び(l)における1つの濃度のみでの一点測定によっては実施されず、多数の様々な濃度での測定により実施される。これは、規制上の要件の点から特に重要である。
【0341】
本発明の別の態様において、上記第2及び第1のサンプルの信頼性のある比較が可能である濃度範囲を最適化することが望ましい。これは、公知の市販クロストリジウム神経毒製剤の生物学的有効性に関する比較可能性だけでなく、将来開発され得る又は既に開発段階にある製剤に関しても適用される。
【0342】
一実施形態において、上記第2及び第1のサンプルの信頼性のある比較が可能である、マウスLD50単位/mLで表される濃度範囲を最適化するために、ステップ(e)及び/又はステップ(h)で作成された検量線の標準偏差を初めに決定することが望ましい。適当な段階的重回帰分析を使用することにより、用量反応曲線に基づいて未知毒素サンプルの効能を予測するための回帰モデルを作製することができる。
【0343】
このような方法を使用することにより、2つの異なるデータ群を表す第1及び第2のサンプルに関して、用量反応曲線間の相関が最大に達する(すなわち、最良適合が決定される)濃度範囲を特定することができる。
【0344】
一実施形態において、上記検定は、所定の回帰モデルに従って、上記第1及び上記第2のサンプルの対応するデータセットの値域を、適合曲線で表すことにより、又は線形化及び並列化した所定の信頼区間内の上記適合曲線で表すことにより、さらに精度を向上させることができる。
【0345】
したがって、第3の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定する方法であって、
(a)細胞培養物を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)ステップ(g)で得られた上記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された上記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ、
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施する、上記方法に関する。
【0346】
一実施形態において、上記方法は、ステップ(m)及び(n):
(m)上記第1及び上記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から、上記様々な濃度を選択するステップ、
(n)下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた上記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた上記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)上記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)上記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、上記最良適合を決定するステップ
をさらに含む。
【0347】
一実施形態において、上記第2及び/又は上記第1の効果の測定は、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施される。
【0348】
別の実施形態において、上記効果の測定は、上記第2及び/又は上記第1のサンプルの不存在下で実施される。これは、ステップ(a)の後及び/又はステップ(f)の後に、上記のように、上記培養物が上記第2及び/又は上記第1のサンプルから取り出されるか、あるいは、上記第2及び/又は上記第1のサンプルが細胞培養物から取り出されることを意味する。
【0349】
上記手順(sequence)を実施するのに適した統計的検定は周知である(例えば、蓋然性指数検定(likelihood-quotient-tests))。そのような蓋然性指数検定の具体例は、公知のF検定である。χ2検定(カイ二乗検定又はχ2分布検定)又はt検定等の検定も使用することができる。上記検定も当業者に公知である。
【0350】
一実施形態において、上記統計的検定は、F検定である。
【0351】
上記検定により、所定の信頼区間において、異なる2つの群から採取した2つの無作為サンプルが分散の点で本質的に異なるか否かを決定することができる。したがって、このような検定は、2つの統計的サンプル(ここでは、第2及び第1のサンプル)の差の検定に役立つ。
【0352】
一実施形態において、信頼性のある結果を得るために、信頼区間は広くすべきである、すなわち、誤拒否確率は比較的低くすべきである。
【0353】
一実施形態において、誤拒否確率は≦5(%表示;(又は0.05))、すなわち信頼区間は≧95(%表示;(又は0.95))である。
【0354】
一実施形態において、各サブステップ(α)〜(δ)に関する誤拒否確率は≦5(%表示)である。
【0355】
一実施形態において、ステップ(γ)における線形化は、対応するデータセットを最良適合直線で表すことにより実施される。
【0356】
一実施形態において、ステップ(δ)における並列化は、最良適合直線の共通の傾きを決定することにより実施される。
【0357】
ステップ(δ)の後に、線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、第2のサンプルに対する第1のサンプルの相対的効能が決定される。
【0358】
したがって、一実施形態において、上記方法は、ステップ(δ)の後に、ステップ(ε):
(ε)線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、第2のサンプルに対する第1のサンプルの相対的効能を計算するステップ
をさらに含む。
【0359】
一実施形態において、「相対的効能」という用語は、第2のサンプルに対する第1のサンプルの効能が、線形化及び並列化したそれぞれの適合曲線に基づいて、同一濃度(1又は複数)において決定されることを意味する。
【0360】
一実施形態において、第2のサンプルの効能は100%と見なされ、第1のサンプルの相対的効能は%で表される。例えば、第1のサンプルに関して、第2のサンプルに対する110%、90%等の効能が得られる。110%〜100%の効能を有する第1のサンプルをそれぞれ希釈することにより、三の法則(the rule of three)が適用され、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒が、従来知られていなかった効果的濃度となる。そこでの測定単位は相対的効能であり、その値は参照標準(第2のサンプル)の活性(効能)に基づいて定義された活性(効能)単位として表される。
【0361】
別の実施形態において、上記相対的効能は、上記第1及び上記第2のサンプルの効能の比として表される。
【0362】
一実施形態において、上記モデルは、適用された神経毒量の対数値を予測するために使用される。
【0363】
別の実施形態において、誘導された効果量及びサンプル中の神経毒量の両方が、対数尺度で記録される。
【0364】
一実施形態において、第2の効果及び第1の効果は、それぞれ、第2のサンプル及び第1のサンプルに含まれる少なくとも3つの異なる濃度のクロストリジウム神経毒で測定される。
【0365】
一実施形態において、上記データセットの作成又は上記検量線(1又は複数の検量線)の作成は、片対数プロットの様式で実施される。
【0366】
別の実施形態において、両対数プロットが実施される。
【0367】
相対的効能を決定する方法は、ヨーロッパ薬局方に記載されている。
【0368】
一実施形態において、例えば10マウスLD50単位/mLという濃度で開始する場合、上記相対的効能を決定する方法は、データセットの全範囲に適用される。次いで、10マウスLD50単位/mLよりも大きい値(例えば、11,12,13,14,15,16,17マウスLD50単位/mL)が、開始ポイントとして使用される。上記繰り返しは、適用されたモデルによって目的とする必要な精度が実現されるまで実施される。
【0369】
一実施形態において、最良適合及び濃度範囲が統計的検定によって特定されると、未知濃度(未知効果的濃度)のクロストリジウム神経毒を含む第1のサンプルが、本発明の方法によって特定された上記濃度範囲内において、第2のサンプルに含まれる既知濃度の上記クロストリジウム神経毒と比較され得る。
【0370】
一実施形態において、上記測定された第2の効果の記録は、上記第2の効果を濃度に対してプロットすることにより実施され、上記第2のデータセットの作成は、検量線を作成することにより実施される。
【0371】
アッセイにおいて、相対的効能の推量を使用すること、及び参照標準(第2のサンプル)を包含させることにより、より正確で、より再現性のある推定が可能となり、これにより、動物の使用低減の実現が可能となる。
【0372】
統計的検定は、通常、適当なコンピュータプログラム及び適当なコンピュータを使用して実施される。
【0373】
一実施形態において、上記統計的検定は、上記統計的検定を実行する適当なソフトウェア手段を含む適当なコンピュータプログラムを使用して実施される。
【0374】
したがって、一実施形態において、本発明は、本発明の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品に関する。
【0375】
一実施形態において、上記第2のサンプルは、許認可された市販のボツリヌス毒素調製物から選択される。これらの製品は、医薬品又は薬剤として許認可されており、明確に規定された量又は濃度のボツリヌス毒素を含む。
【0376】
別の実施形態において、標準的条件下で製造された、いかなるボツリヌス毒素調製物を使用してもよい。
【0377】
一実施形態において、上記した市販の調製物を、第2のサンプルとして使用することができる。したがって、第2のサンプルは、例えば、Xeomin(登録商標)、Botox(登録商標)、Dysport(登録商標)、Myobloc(登録商標)又はPurTox(登録商標)である。これらの調製物は、使用されるボツリヌス毒素の種類又は生物学的有効性/活性すなわち効能、例えば、含有されるボツリヌス神経毒の濃度又はボツリヌスの種類の点で、異なる。
【0378】
マウスLD50で表されるマウス単位は、サンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の濃度を規定するために一般的に採用される単位である。LD50値は、マウス集団に適用された場合に該マウス集団の50%が死亡する致死量を規定する。その値を決定するための方法は、当業者に公知である。そのような方法は、ヨーロッパ薬局方に記載されている。
【0379】
公知のように、ボツリヌス神経毒の製品のラベリングにおけるLD50単位は、製品特異的又は製造者特異的である場合もあるし、標準がないために互換性がない場合もある。
【0380】
一実施形態において、ここで使用されるLD50単位は、Xeomin(登録商標)の特性及びラベリングで決定された単位であり、例えば、第2のサンプルはXeomin(登録商標)である。したがって、ある効能に関する単位は、Xeomin(登録商標)単位である。したがって、本発明のアッセイ系は、Xeomin(登録商標)に基づいて、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの効能を比較評価するために使用することができる。上記方法により、Xeomin(登録商標)単位に基づいて、クロストリジウム神経毒(未知濃度)を含む第1のサンプルを直接比較することが可能となる。
【0381】
Xeomin(登録商標)及びBotox(登録商標)は、ほぼ同程度の有効性又は効能を示す。Xeomin(登録商標)及びBotox(登録商標)と同じ有効性又は効能を得るためには、約2.5倍量のDysport(登録商標)又は約10倍量のMyobloc(登録商標)が適用される必要がある。
【0382】
一実施形態において、これらの市販の調製物を、それに含まれるボツリヌス神経毒が所定濃度となるように希釈又は濃縮し、上記第2の効果を、上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて測定する。上記測定された効果を、ボツリヌス毒素の濃度に対してプロットし、それにより、検量線を作成する。上記第2のデータセット又は上記検量線により、第1のサンプルに含まれるボツリヌス神経毒の未知濃度を決定することができる。
【0383】
サンプル(例えば、第1又は第2のサンプル)に含まれるクロストリジウム神経毒の濃度が、10以上のマウスLD50単位/mLで表される場合、本発明の方法を有利に適用できることが見出された。但し、本発明における濃度は全てマウスLD50単位/mLである。
【0384】
一実施形態において、上記サンプルは、上記神経毒に加えて水を含む。一実施形態において、上記サンプルは上記神経毒の水溶液又は懸濁水を含む。
【0385】
一実施形態において、上記サンプルに含まれる上記神経毒の濃度は少なくとも15である。
【0386】
別の実施形態において、上記濃度は少なくとも20である。
【0387】
別の実施形態において、上記濃度は10〜1000である。
【0388】
一実施形態において、上記濃度は10〜70である。
【0389】
別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。
【0390】
さらに別の実施形態において、上記濃度は20〜45である。
【0391】
一実施形態において、上記第2のサンプルはXeomin(登録商標)である。
【0392】
一実施形態において、Xeomin(登録商標)が第2のサンプルとして使用される場合、第2の効果が10〜70の少なくとも1つの濃度で決定されると、特に信頼性のある結果が得られることが見出された。別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。さらに別の実施形態において、上記濃度は25〜45である。
【0393】
一実施形態において、Botox(登録商標)が第2のサンプルとして使用される場合、第2の効果が10〜70の少なくとも1つの濃度で決定されると、信頼性のある結果が得られることが見出された。別の実施形態において、上記濃度は15〜60である。さらに別の実施形態において、上記濃度は25〜45である。
【0394】
第2のサンプルが、ステップ(e)に従って検量線を決定するために使用される場合、ボツリヌス神経毒の濃度が高い、すなわち、LD50単位/mLの値が大きいXeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)よりも濃度が低い又は有効性若しくは効能が低いボツリヌス神経毒を含む第2のサンプルが、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)によって誘導される効果と比較可能な第2の効果の強度を実現するために、必要となる。
【0395】
第2のサンプルが、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)よりも濃度又は効能が低いボツリヌス神経毒を含む一実施形態において、第2の効果は、20〜400又は100〜800の範囲の少なくとも1つの濃度で決定される。
【0396】
第2のサンプルがDysport(登録商標)である一実施形態において、第2の効果は、20〜400、又は25〜300、又は30〜250のうち、少なくとも1つの濃度で決定される。
【0397】
第2のサンプルがMyobloc(登録商標)である別の実施形態において、第2の効果は、100〜800、又は150〜700、又は200〜600のうち、少なくとも1つの濃度において決定される。
【0398】
別の実施形態において、上記濃度は、Xeomin(登録商標)又はBotox(登録商標)と比較される上記第2のサンプルに含まれる上記神経毒の有効性又は効能の濃度に基づいて、30〜600、又は30〜400、又は30〜200、又は30〜100、又は30〜80、又は40〜500、又は40〜400、又は40〜300、又は40〜200、又は40〜100、又は40〜90、又は50〜300、又は50〜200、又は50〜100、又は60〜100の範囲をとることができる。
【0399】
一実施形態において、LD50単位は、Xeomin(登録商標)単位である。
【0400】
一実施形態において、上記細胞培養物アッセイの信頼性により、規制当局の許認可条件を満たすことができるとともに、ボツリヌス毒素(例えば、血清型A又は血清型C又は血清型E)の安全で効果的な投与の必要性を満たすことができる。
【0401】
さらに別の実施形態において、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素及び上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素は、同じクロストリジウム毒素である。
【0402】
さらに別の実施形態において、上記第1のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素又は神経毒及び上記第2のサンプルに含まれる上記クロストリジウム毒素又は神経毒は、互いに異なる。
【0403】
上記方法の実験的実現のために、典型的には、ボツリヌス毒素への曝露に応答する細胞培養物、すなわち、ボツリヌス毒素が効果(例えば、SNARE複合体中のタンパク質又はポリペプチドの切断)を発揮する細胞培養物が使用される。
【0404】
「細胞培養物」という用語は、制御された生体外の条件下で成長する細胞を包含する。
【0405】
一実施形態において、「細胞培養物」という用語は、多細胞真核生物(特に動物細胞)由来の細胞の培養物を意味する。しかしながら、この用語はまた、植物、菌類、及び微生物の細胞培養物、例えば、ウイルス、細菌及び原生生物の細胞培養物も包含する。
【0406】
細胞培養方法は、当業者に周知である。一実施形態において、細胞は、生体外(ex vivo)培養のために、組織から単離されてもよい。一実施形態において、組織片が培養培地に入れられ、成長する細胞が培養に利用され得る。別の実施形態において、細胞外マトリックスを破壊する酵素(例えば、コラゲナーゼ、トリプシン又はプロナーゼ等)を使用した酵素消化により、細胞が軟部組織から精製される。不死化細胞株が使用される場合、そのような細胞株は、通常、ランダム突然変異又は意図的な修飾を通じて無限に増殖する能力を有する。細胞は、懸濁液又は接着性培養プレート中で成長することができる。細胞の種類に応じて、細胞は、表面に付着することなく、懸濁液中で生存する場合がある。接着性細胞は、表面(例えば、組織培養プレート又はマイクロキャリア)を必要とし、表面は、接着性を増加させるために、並びに成長及び分化に必要なその他のシグナルを供給するために、細胞外マトリックス成分でコーティングされていてもよい。
【0407】
一実施形態において、本発明の方法の実験的実現のために、細胞を、細胞インキュベーターにおいて、適当な温度及び気体混合物(例えば、37℃及び5%CO2)下に維持して成長させることができる。培養条件は、細胞の種類に応じて大きく変化する場合があり、特定の種類の細胞に関して、条件の変化が異なる表現型の発現を生じる場合がある。温度及び気体混合物以外に、培養系における最も一般的な変動因子は、成長培地である。成長培地の処方構成は、pH、グルコース濃度、成長因子及びその他の栄養素の存在等の点で変化し得る。当業者は、上記様々な種類の細胞培養に精通している。
【0408】
培養した細胞を、回収後、本発明の方法のいずれか1つにおいて使用することができる。
【0409】
一実施形態において、上記細胞は、神経細胞株又は初代神経細胞の細胞培養物から選択される。
【0410】
「細胞株」という用語は、無限に増殖する、ある種の細胞を包含する。
【0411】
「初代細胞」という用語は、組織から直接得られた非不死化細胞系を包含する。
【0412】
一実施形態において、上記細胞培養物の細胞は脊髄細胞を含む。
【0413】
一実施形態において、上記細胞培養物の細胞(例えば、脊髄細胞)は、齧歯動物から得られる。一実施形態において、上記細胞培養物の細胞は、マウス脊髄細胞又はラット脊髄細胞である。
【0414】
一実施形態において、従来技術で使用された細胞培養物(Pellet, S.等;Keller, J.E.等参照)を、本発明の目的に使用することができる。
【0415】
一態様において、本発明はまた、クロストリジウム神経毒を含む第2のサンプルに基づいて、クロストリジウム神経毒を含む第1のサンプルの効能を、所定の信頼区間又は誤拒否確率の範囲内で決定することができる濃度範囲を特定する、改良された方法を提供する。
【0416】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒を含む第2のサンプルに基づいて、クロストリジウム神経毒を含む第1のサンプルの効能を決定することができる濃度範囲を特定する上記方法は、下記ステップ:
(a)細胞培養物を上記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返す、
(e)ステップ(d)で測定された上記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を上記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)上記神経毒によって上記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、上記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された上記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、
上記濃度は、上記第1及び上記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から選択され、上記最良適合は、下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた上記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた上記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)上記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)上記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって決定される。
【0417】
上記実施形態において、上記第2及び上記第1の効果は、定性的に同一である。上記方法を改良するために、上記方法を、本発明の第3の態様に係る方法と組み合わせて使用することができる。
【0418】
本発明の別の態様において、製造プロセスで要求されるような参照標準に基づいて、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの品質(すなわち効能)をコントロールするために、本発明の方法を有利に使用することができる。
【0419】
したがって、上記態様において、本発明は、クロストリジウム神経毒を含むサンプルの品質(すなわち効能)をコントロールするための、本発明の方法の使用に関する。
【0420】
一実施形態において、保管されていたサンプルの効能が決定される。一実施形態において、サンプルは、少なくとも1時間、又は少なくとも1日間、保管されていたものである。
【0421】
一実施形態において、サンプルは、凍結乾燥サンプルであるか、又は再構成サンプルである。
【0422】
別の態様において、本発明は、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するための、あるいは、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定するための、本発明の第1の態様に係る方法の使用に関する。
【0423】
別の態様において、本発明は、本発明の方法のいずれかに1つにおいてクロストリジウム活性を決定するための、細胞培養物、特に脊髄細胞(例えば、ラット又はマウス由来の細胞)を含む細胞培養物の使用に関する。
【実施例】
【0424】
下記実施形態も本発明に属し、上記実施形態は逆に下記方法に適用されると理解されるべきである。
実施例1
標準的な測定のために、マウスの片側横隔膜を調製し、アール緩衝塩類溶液(Earle's Balanced Salt Solution)を満たした器官槽(organ bath)に入れた。片側横隔膜の横隔神経を白金電極に取り付け、それにより神経を電気的に刺激し、片側横隔膜の収縮を生じさせた。片側横隔膜を器官槽に固定(clamp)した。固定の間、刺激のスイッチを切ったが、固定後直ちにスイッチを入れた。刺激のための電流強度は、片側横隔膜の収縮力が測定可能となるように選択した。一定の収縮力が測定可能となった後、媒体を、ボツリヌス神経毒を含有する媒体と交換した。収縮力が中間点に達するのに必要な時間(麻痺時間)を、各濃度(少なくとも濃度ごとの時間)について測定し、器官槽に適用したボツリヌス神経毒の濃度に対してプロットした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム神経毒によって細胞培養物に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)細胞培養物を、前記クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)前記クロストリジウム神経毒によって前記細胞培養物に誘導された効果を測定するステップ
を含み、
ステップ(c)を、前記サンプルの不存在下で実施し、
ステップ(c)における前記測定の前であって、ステップ(a)における前記接触の後に、前記細胞培養物を、0.5〜100時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、前記方法。
【請求項2】
第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する、請求項1に記載の方法であって、
(a)細胞培養物を前記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)前記神経毒によって前記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、前記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された前記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を前記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)前記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(k)前記第1及び前記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における前記濃度を前記未知濃度と見なすステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、前記第2及び/又は前記第1のサンプルの不存在下で実施し、
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における前記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における前記接触の後に、前記細胞培養物を、0.5〜100時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、前記方法。
【請求項3】
第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定する、請求項1に記載の方法であって、
(a)細胞培養物を前記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)前記神経毒によって前記細胞培養物に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、前記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された前記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)細胞培養物を前記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)前記細胞培養物に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、前記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された前記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、前記第2及び/又は前記第1のサンプルの不存在下で実施し、
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における前記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における前記接触の後に、前記細胞培養物を、0.5〜100時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、前記方法。
【請求項4】
ステップ(m)及び(n):
(m)前記様々な濃度を、前記第1及び前記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から選択するステップ、
(n)下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた前記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた前記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)前記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)前記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、前記最良適合を決定するステップ
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記統計的検定が、F検定、又はχ2検定、又はt検定である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
サブステップ(α)〜(δ)のそれぞれに関する誤拒否確率(false-rejection probability)が≦5(%表示)である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(ε):
(ε)線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、前記第2のサンプルに対する前記第1のサンプルの相対的効能を計算するステップ
をさらに含む、請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記効果が、SNARE複合体由来タンパク質の切断である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記タンパク質が、SNAP25である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における前記測定の前に、前記細胞培養物を、5〜45時間、又は15〜40時間、又は25〜35時間、前記クロストリジウム毒素と接触させる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における前記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における前記接触の後に、前記細胞培養物を、0.5〜100時間、又は1〜95時間、又は6〜90時間、又は7〜80時間、又は8〜70時間、又は9〜60時間、又は10〜50時間、又は11〜50時間、又は12〜40時間、又は15〜40時間、クロストリジウム毒素を含まない水性媒体と接触させる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における前記測定の前であって、ステップ(a)若しくはステップ(f)又はステップ(a)及びステップ(f)における前記接触の後に、前記細胞培養物を溶解する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記測定を、ウエスタンブロット分析又はELISAによって実施する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞培養物が、神経細胞株又は初代神経細胞の細胞培養物から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記測定された第2の効果の記録を、前記第2の効果を濃度に対してプロットすることにより実施し、前記第2のデータセットの作成を、検量線を作成することにより実施する、請求項2〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の効果を、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度において決定する、請求項2〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記濃度が、10〜1000、又は10〜70、又は15〜60、又は20〜45である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記濃度が、20〜400、又は100〜800である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記マウスLD50単位が、Xeomin(登録商標)単位である、請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記クロストリジウム神経毒が、ボツリヌス毒素である、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項3〜20のいずれか1項に記載の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品。
【請求項22】
クロストリジウム神経毒を含むサンプルの効能をコントロールするための、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項23】
前記サンプルが、保管サンプルである、請求項22記載の使用。
【請求項24】
前記サンプルが、凍結乾燥サンプルであるか、又は再構成サンプルである、請求項22又は23に記載の使用。
【請求項25】
例えば、クロストリジウム神経毒の製造プロセスにおける品質管理の間に、第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するための、又は第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定するための、請求項1に記載の方法の使用。
【請求項26】
クロストリジウム神経毒によって筋肉組織に誘導された効果を測定する方法であって、
(a)筋肉組織を、前記クロストリジウム神経毒を含むサンプルと接触させるステップ、
(c)前記クロストリジウム神経毒によって前記筋肉組織に誘導された効果を測定するステップ、
を含み、
ステップ(c)を、前記サンプルの不存在下で実施する、前記方法。
【請求項27】
第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定する、請求項26に記載の方法であって、
(a)筋肉組織を前記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)前記神経毒によって前記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、前記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された前記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を前記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)前記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(k)前記第1及び前記第2の効果が同一である濃度を特定するステップ、
(l)ステップ(k)における前記濃度を前記未知濃度と見なすステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、前記第2及び/又は前記第1のサンプルの不存在下で実施する、前記方法。
【請求項28】
第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定する、請求項26に記載の方法であって、
(a)筋肉組織を前記第2のサンプルと接触させるステップ、
(c)前記神経毒によって前記筋肉組織に誘導された第2の効果を測定するステップ、
(d)ステップ(a)〜(c)を、前記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(e)ステップ(d)で測定された前記第2の効果を濃度に対して記録し、第2のデータセットを作成するステップ、
(f)筋肉組織を前記第1のサンプルと接触させるステップ、
(h)前記筋肉組織に誘導された第1の効果を測定するステップ、
(i)ステップ(f)〜(h)を、前記クロストリジウム神経毒を様々な濃度に変化させて繰り返すステップ、
(j)ステップ(i)で測定された前記第1の効果を濃度に対して記録し、第1のデータセットを作成するステップ
を含み、
ステップ(c)及び/又はステップ(h)を、前記第2及び/又は前記第1のサンプルの不存在下で実施する、前記方法。
【請求項29】
ステップ(m)及び(n):
(m)前記様々な濃度を、前記第1及び前記第2のデータセットに最良適合する濃度範囲から選択するステップ、
(n)下記サブステップ(α)〜(δ):
(α)ステップ(e)で得られた前記第2のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(β)ステップ(j)で得られた前記第1のデータセットの値域を適合曲線で表すサブステップ、
(γ)前記適合曲線をそれぞれ線形化するサブステップ、
(δ)前記線形化した適合曲線を並列化するサブステップ
を含む統計的検定によって、前記最良適合を決定するステップ
をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記統計的検定が、F検定、又はχ2検定、又はt検定である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
サブステップ(α)〜(δ)のそれぞれに関する誤拒否確率(false-rejection probability)が≦5(%表示)である、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
ステップ(ε):
(ε)線形化及び並列化した適合曲線の互いに対するシフトから、前記第2のサンプルに対する前記第1のサンプルの相対的効能を計算するステップ
をさらに含む、請求項28〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記筋肉組織を電気的に刺激する、請求項26〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
ステップ(a)の後にステップ(b)を含むか、又はステップ(a)の後にステップ(b)を含み、ステップ(f)の後にステップ(g)を含む:
(b)ステップ(a)で得られた前記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
(g)ステップ(f)で得られた前記筋肉組織を電気的に刺激するステップ
請求項26〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(b)又は(g)を前記第2又は前記第1のサンプルの不存在下で実施するか、あるいは、ステップ(b)及び(g)を前記第2及び前記第1のサンプルの不存在下で実施する、請求項26〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
ステップ(c)若しくはステップ(h)又はステップ(c)及びステップ(h)における前記測定の前に、前記筋肉組織を、5〜30分間、前記クロストリジウム毒素に曝露する、請求項33〜35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記測定された第2の効果の記録を、前記第2の効果を濃度に対してプロットすることにより実施し、前記第2のデータセットの作成を、検量線を作成することにより実施する、請求項26〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記第2の効果を、10以上のマウスLD50単位/mLで表される、少なくとも1つの濃度において決定する、請求項27〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記濃度が、10〜1000、又は10〜70、又は15〜60、又は20〜45である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記濃度が、20〜400、又は100〜800である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記マウスLD50単位が、Xeomin(登録商標)単位である、請求項38〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1及び第2の効果が、前記筋肉組織の麻痺までの時間、前記筋肉組織の収縮速度の変化、前記筋肉組織の収縮距離の変化、前記筋肉組織の収縮力の変化、前記筋肉組織の終板電位又は微小終板電位の変化からなる群より選択される、請求項26〜41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記第1及び第2の効果が、麻痺までの時間である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記筋肉組織が、肋間筋、後肢筋、後肢長趾伸筋、後足の足底筋、横隔膜神経−片側横隔膜、長耳挙筋(levator auris longus muscle)、カエルの神経筋接合部、ニワトリの頸二腹筋、肋骨筋、脳組織又はエイの発電器官から選択される、請求項26〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記横隔膜神経−片側横隔膜が、ラット又はマウス由来である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記クロストリジウム神経毒が、ボツリヌス毒素である、請求項26〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記電気的刺激を、消泡剤を含む緩衝液中で実施する、請求項26〜46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
請求項28〜47のいずれか1項に記載の方法を実行するソフトウェア手段を含むコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品。
【請求項49】
(A)−クロストリジウム神経毒に曝露された筋肉組織を刺激して、前記神経毒によって前記筋肉組織に誘導された効果を選定するためのデバイス、
−前記効果を測定して記録するためのデバイス、並びに、
(B)請求項48に記載のコンピュータプログラム製品
を含むキット。
【請求項50】
クロストリジウム神経毒を含むサンプルの効能をコントロールするための、請求項26〜47のいずれか1項に記載の方法の使用。
【請求項51】
前記サンプルが、保管サンプルである、請求項50に記載の使用。
【請求項52】
前記サンプルが、凍結乾燥サンプルであるか、又は再構成サンプルである、請求項50又は51に記載の使用。
【請求項53】
第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の既知濃度に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の未知濃度を決定するための、又は第2のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の効能に基づいて、第1のサンプルに含まれるクロストリジウム神経毒の相対的効能を決定するための、請求項26に記載の方法の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−511264(P2013−511264A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539222(P2012−539222)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006967
【国際公開番号】WO2011/060916
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(512042433)メルツ ファーマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト アウフ アクティーン (2)
【Fターム(参考)】