クロストークキャンセルステレオスピーカーシステム
【課題】2次クロストークを伴わずにクロストークを低減して、サラウンド音場を再生するステレオスピーカーを求め、又一般的スピーカーでも同様の効果を得る。
【解決手段】左右各スピーカーで左右chを再生する主ユニットと、反対側chを逆相再生する副ユニットを、リスナー両耳と平行に、左右主ユニットに対し左右副ユニットを、略両耳間隔内側に設け、上記構成で2次クロストークを相殺した時、クロストークと到達誤差を生じても良好に相殺される中低音域に限定し、クロストークキャンセルする。又クロストークキャンセル方法では、左右入力を各2分し、左右フィルターブロック出力を、反対側ディレイブロック出力から減算して右、左出力とし、中低音域に限定し、クロストークキャンセルする。
【解決手段】左右各スピーカーで左右chを再生する主ユニットと、反対側chを逆相再生する副ユニットを、リスナー両耳と平行に、左右主ユニットに対し左右副ユニットを、略両耳間隔内側に設け、上記構成で2次クロストークを相殺した時、クロストークと到達誤差を生じても良好に相殺される中低音域に限定し、クロストークキャンセルする。又クロストークキャンセル方法では、左右入力を各2分し、左右フィルターブロック出力を、反対側ディレイブロック出力から減算して右、左出力とし、中低音域に限定し、クロストークキャンセルする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステレオスピーカーのクロストークを、2次クロストークを伴わずに低減し、サラウンド音場を再生するための、ステレオスピーカー、およびクロストークキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりステレオ再生の理想は、人の両耳間隔に近く設置されたペアマイクによって、収録現場の音を、L,R音量差情報と位相差情報とともに収録し、収録音を低歪みで伝達、増幅して、上記ペアマイクと等価的な信号変換器で再生して、ペアマイクと上記信号変換器とを聴感上相殺し、リスナーが自身の耳で収録現場の音を聴取するに等しくすることだとされてきた。
【0003】
上記方法にバイノーラルがある。ダミーヘッドに取り付けた左右2個のマイク収録音をヘッドフォン再生し、マイクとヘッドフォンが等価的な信号変換器となって相殺された時、リスナーは自身の両耳で収録現場の音を聴取するに等しい。
なおバイフォニックはステレオ収録音をヘッドフォン再生するもので、ペアマイクとヘッドフォンは等価的ではないため、再生音場は頭内定位をともない狭小となる。この頭内定位を回避するため、再生音に頭部伝達関数(HRTF)に基づくフィルター特性を持たせる技術がある。
【0004】
一方ステレオフォニックは、リスナー前方の左右等距離、等角度に2個のスピーカーを設置し、ステレオ収録音を両耳で聴取するものである。ステレオ収録音は通常L,Rチャンネル共通の同一成分(当明細書では以下これを、モノラル成分、と表記する)と、モノラル成分以外のL,R成分を含み、リスナーは左右スピーカーが再生するモノラル成分のクロストークでスピーカー間の中央定位を認識し、上記中央定位を基準ベクトルとし、モノラル成分以外のL,R音量差情報と位相差情報とのベクトル合成によって、立体的な音場定位を認識する。
【0005】
しかしステレオスピーカーを小さな角度で見込むと、モノラル成分以外のL,R成分のクロストークが増加し、再生音場は左右スピーカー間に矮小化される。
上記傾向の改善のため、ステレオスピーカーは、ITU−R推奨の60°といった大きな角度で見込むよう配置される。これにより頭部遮蔽効果でクロストークが低下すると、ステレオスピーカーは一定のサラウンド音場も再生する。しかし低音域ほどクロストークは残存し、再生音場はスピーカー間に歪められ、中、大型楽器の大きさが再現されない。また左右スピーカーを大きな角度で見込むほど、左右スピーカーそれぞれが発する音は時間差をともなって両耳に聴取され、過渡特性が低下する。
なお中、大型楽器の大きさは、大口径ウーファーでのみ再現されると考える当業者は多い。
【0006】
そこで、上記クロストークを打ち消し、ステレオソースが本来含むサラウンド音場再生を目的としたクロストークキャンセルシステムが多数商品化されてきた。
図2に示される、基本的なクロストークキャンセル回路5では、左オーディオ入力LをWとXとし、右オーディオ入力RをYとZとして、XとYを、WとZに対して遅延させ、かつフィルター特性を持たせた後、XをZから減算して右オーディオ出力とし、YをWから減算して左オーディオ出力とする。
なお出力の仕方は上記2チャンネルに限られず、左右ステレオスピーカー以外に、クロストークキャンセル用スピーカーを用いる場合、それに応じて、上記クロストークキャンセル回路5の出力は3チャンネル以上となる。ただし3チャンネル以上としたスピーカー構成では、リスナー両耳との関係性はそれぞれ異なるため、本明細書では、クロストークキャンセル回路5の左右オーディオ出力を、増幅し、ステレオスピーカーで再生する方式にのみ触れる。
【0007】
リスナーに対して等距離、等角度の左右それぞれのスピーカーから遠方側の耳に再生音が到達するとき、頭部遮蔽効果や耳介の構造で生じるフィルター特性を変数K(当明細書では以下同様に表記)とし、これに応じてクロストークキャンセル信号に付加される、通常Kとは異なるフィルター特性を変数k(当明細書では以下同様に表記)とする。又、左右スピーカー双方からリスナーの一方の耳位置に再生音が到達する時の、直線で計測される距離差を変数a(当明細書では以下同様に表記)とし、また左右スピーカー再生音の一方が頭部を回り込むためにaに加算される距離差を変数aa(当明細書では以下同様に表記)とする。
上記変数K,k,aおよびaaを用いれば、ステレオスピーカーのうち左スピーカーのクロストークキャンセル信号 −kRは、L再生位置から(a+aa)分後方で発せられたように遅延した時に、右スピーカーのクロストークKRとリスナー左耳へ同時到達して、相殺される。同様に右スピーカーのクロストークキャンセル信号 −kLは、R再生位置から(a+aa)分後方で発せられたように遅延した時に、左スピーカーのクロストークKLとリスナー右耳へ同時到達して、相殺される。
図2に示される、L,R再生音に対してクロストークキャンセル信号 −kR,−kLを遅延させるクロストークキャンセル回路の左右オーディオ出力を、増幅し、リスナーから左右等距離、等角度に配置したステレオスピーカーで再生する装置を、現行クロストークキャンセルシステム(当明細書では以下同様に表記)とする。現行クロストークキャンセルシステムは、多くの場合、入力信号に前記頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を持たせる音場補正技術を併用して広く販売されていて、多くのメーカーは、上記クロストークキャンセルシステムが、“ヘッドフォンのように”Lチャンネルを左耳のみに聴取させ、またRチャンネルを右耳のみに聴取させると、特許文献やユーザーへの紹介文で説明している。
【0008】
図2において、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて距離差(a+aa)分の遅延がつねに満たされれば、L再生位置から(a+aa)分後方の−kR再生位置とR再生位置はともに、リスナー左耳bを中心とし、なお左右スピーカーを一定角度以上で見込むとき左側に膨らむ偏円B(当明細書では以下同様に表記)上にあることになる。同様に、R再生位置から(a+aa)分後方の−kL再生位置とL再生位置はともに、リスナー右耳cを中心とし、なお左右スピーカーを一定角度以上で見込むとき右側に膨らむ偏円C(当明細書では以下同様に表記)上にあることになる。
なお平面図に記載される偏円B,Cの膨らみは略記であり、個人差の大きい実際の膨らみとは異なる。また平面図には、以下、 1)〜 4)の4経路の再生音のみを、矢印を付した直線で記入し、以降の図でも比較のためこれに倣う。
1)左スピーカー再生音のうちL。
2)上記Lがフィルター特性Kをともなって右耳に聴取されるクロストークKL。
3)右スピーカー再生音のうちクロストークキャンセル信号 −kL。
4)上記−kLがフィルター特性Kを伴って左耳に聴取される、クロストークキャンセル信号のクロストーク(当明細書では以下これを、2次クロストーク、と表記する)−kKL。
図2で上記4経路は、左スピーカーで発せられたクロストークKLと右スピーカー(a+aa)分後方で発せられたクロストークキャンセル信号 −kLがリスナー右耳に同時到達し、この時Lは距離差(a+aa)分、左耳を通り越していて、また2次クロストーク −kKLは、さらに距離差(a+aa)分を要するために、左耳より(a+aa)分、手前に達していることを示す。
【0009】
現行クロストークキャンセルシステムでは、クロストークキャンセル信号のフィルター特性kは通常、クロストークのフィルター特性Kより帯域制限される。これは逆相関係のクロストークとクロストークキャンセル信号間では、波長の長い低音ほど到達時間差があっても良好に相殺されるが、波長の短い高音ほど、到達時間差を許容しないことから、リスニングエリアを極端に限定しないためには、クロストークキャンセル信号の高域をKより制限した方が実用的だからである。
【0010】
一方、クロストークはステレオスピーカーとリスナー両耳間で生じるにも係わらず、外部機器に依存せず、スピーカーシステム自体で実施できる、実用的なクロストークキャンセル技術は一般化していない。
図3に、ステレオスピーカーシステムで現行クロストークキャンセルシステムの機能を置換した場合の、構成、およびリスナーとの関係を示す。図3に示すように、ステレオスピーカーシステムで現行クロストークキャンセルシステムの機能を置換する場合、以下の構成を要する。
すなわち左スピーカーシステム3では、Lを再生する少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを左主ユニットと表記)1と、Rをフィルター部により左主ユニット1に対し相対的に帯域制限、減衰して逆相再生する、少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを左副ユニットと表記)1Aを要する。又、右スピーカーシステム4では、Rを再生する少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを右主ユニットと表記)2と、Lをフィルター部により右主ユニット2に対し相対的に帯域制限、減衰して逆相再生する、少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを右副ユニットと表記)2Aを要する。
上記フィルター部の特性は可変とすることが理想だが、固定されても一定効果を有する。ただし上記左右主、副ユニットは、リスナーが左右スピーカーシステム3,4を見込む角度に応じて、リスナー両耳に対して、適切な前後距離差を要し、クロストークを常にキャンセルするには、左主ユニットと右副ユニットが、偏円C上に位置し、また右主ユニットと左副ユニットが、偏円B上に位置すべきである。
【0011】
現行クロストークキャンセルシステムの機能を4ユニットで置き換えた、上記図3の左右主、副ユニット配置をCCS配置(当明細書では以下同様に表記)とする。CCS配置では、副ユニットのフィルター特性kは、ネットワークやアッテネーター等の一般的スピーカー製作技術で容易に満たせる。しかし左右スピーカーを見込む角度ごとに、主ユニットに対して副ユニットを(a+aa)分、適切に後退させることは難しい。
【0012】
左右スピーカーシステムのユニット配置により、上記距離差(a+aa)分のうちa分の遅延量を、概ね50°以下で左右スピーカーを見込む時、つねに満たす先行技術が従来より開示されている。
図4に示すように、上記技術によれば、リスナー両耳を結ぶ直線に平行する直線(当明細書では以下、上記直線を、基準線、と表記する)、すなわち基準線D1上でリスナーから左右等距離、等角度の左側のpに左主ユニット1が配置され、また右側のqに右主ユニット2が配置される。又、上記左主ユニット1からリスナー両耳間隔E分左のoに左副ユニット1Aが配置され、また上記右主ユニット2からリスナー両耳間隔E分右のrに、右副ユニット2Aが配置される。
このとき第1の平行四辺形bcpoと、第2の平行四辺形bcrqは合同となるから、ob=qb=pc=rcである。
この関係は、偏円B,Cが膨らみを持たない範囲では、基準線D1を上下に動かしても変わらず、obとqbはリスナー左耳bを中心とする正円Bの半径となり、またpcとrcはリスナー右耳cを中心とする正円Cの半径となる。したがって、共に正円C上の左主ユニットのクロストークKLと、右副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kLは、常に右耳cに同時到達し、また共に正円B上の右主ユニットのクロストークKRと、左副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kRは、常に左耳bに同時到達する。
当明細書では上記4ユニット配置を以下、SDA配置と表記する。
なおSDA配置では、仮に正円Bを上記偏円Bに置き換え、また正円Cを上記偏円Cに置き換えて、基準線D1と偏円Cとの左、右の交点に左主ユニットと右副ユニットを位置させ、また基準線D1と偏円Bとの右、左の交点に右主ユニットと左副ユニットを位置させるものとすれば、距離差(a+aa)分を満たして、任意の角度でクロストークキャンセルすることになる。
【0013】
図には示さないが、上記SDA配置で、基準線D1をリスナーから遠ざけていくと、円B,Cの交点で左右主ユニットが1個に重なり、この時、交点から両耳間隔左に左副ユニットが位置し、また交点から両耳間隔右に右副ユニットが位置する。
これと近似的なユニット配置で、上下に重ねた2ユニットで(L+R)を再生し、左副ユニットで左差信号2(L−R)を再生し、また右副ユニットで右差信号2(L−R)を再生する、いわゆる“マトリックススピーカー”があり、“マトリックススピーカー”で一定のサラウンド効果が得られることは、当業者に知られる。
【0014】
一方、ステレオスピーカーがクロストークを伴うように、現行クロストークキャンセルシステムは2次クロストークを伴う。
2次クロストークは図2の現行クロストークキャンセルシステムでは、左スピーカーのLから(a+aa)分遅延する −kRがさらに距離差(a+aa)分を要し、頭部遮蔽効果でさらにK分のフィルター特性をともない −kKRとなって右耳に聴取され、又、右スピーカーのRから(a+aa)分遅延する −kLがさらに距離差(a+aa)分を要し、頭部遮蔽効果でさらにK分のフィルター特性をともない −kKLとなって左耳に聴取されるものである。
すなわち現行クロストークキャンセルシステムでは、2次クロストークはL,Rから距離差2(a+aa)分遅延して左右の耳に到達する。
【0015】
2次クロストークは図4のSDA配置でも、左副ユニットからリスナー右耳へ到達する −kKR、および右副ユニットからリスナー左耳へ到達する −kKLとして生じる。
SDA配置では −kRおよび −kLがL,R再生位置より基準線上で両耳間隔外側である分、2次クロストークの遅延量はCCS配置より大きくなる。この差をS(当明細書では以下同様に表記)とし、SDA配置でも基準線と偏円B,Cとの交点に左右主、副ユニットを配置して距離差(a+aa)分を満たすものとすれば、SDA配置では2次クロストークは、L,Rから距離差2(a+aa)+S分遅延して左右の耳へ到達することになる。
【0016】
ただし図2の現行クロストークキャンセルシステム、および図4のSDA配置は、リスナー両耳b,cを結ぶ直線上では共に、偏円Cとの左側の交点CLで、Lを、偏円Bとの左側の交点BLで、−kRを再生し、また偏円Bとの右側の交点BRで、Rを、偏円Cとの右側の交点CRで、−kLを再生する。
この時aは両耳間隔E分となってSは0となり、現行クロストークキャンセルシステムとSDA配置は等しくなる。
またこの時、偏円B,Cの膨らみを含めない半径を両耳間隔E分とすれば、現行クロストークキャンセルシステムとSDA配置はともに、左耳位置bでLを再生し、L再生音が頭部を回り込み右耳cにも達するクロストークを、右耳cから等距離右で再生する −kLでキャンセルすることになる。また同様に右耳位置cでRを再生し、R再生音が頭部を回り込み左耳bにも達するクロストークを、左耳bから等距離左で再生する −kRでキャンセルすることになる。
すなわち両者はともに、密閉型ヘッドフォンと同義的な構造となる。ただしこの時、2次クロストークの遅延時間もまたL,Rから距離差2(E+aa)分で最大となる。
【0017】
すなわち、直線bc上ではヘッドフォン構造と同義的に、CLとBLで再生されるLと −kR、およびBRとCRで再生されるRと −kLを、現行クロストークキャンセルシステムとSDA配置は、以下方法で、リスナー前方で再生するものと見なせる。
すなわち現行クロストークキャンセルシステムは、左耳bを起点とする直線上でLを再生し、その後方で −kRを再生し、また右耳cを起点とする直線上でRを再生し、その後方で −kLを再生して、上記2直線を両耳b,cを中心に回転させる構造によって、左右スピーカーを180°以下で見込めるようにする。
またSDA配置は、基準線D1を前方へ平行移動させる構造によって、左右スピーカーを、距離差aa分が大きくならない概ね50°以下で見込めるようにする。
Sは、上記構造の違いによって生じるものである。
【0018】
クロストークは、左右スピーカーを小さく見込むほど、再生音場を左右スピーカーを結んだ直線上に矮小化する。いっぽう2次クロストークは、現行クロストークキャンセルシステムでは左右スピーカーを大きな角度で見込むほど、再生音場を、左右スピーカー後方側にのみ非現実的に拡大する。
なお上記SDA配置では、音場は左右スピーカーを結ぶ直線の延長線上で、左右にのみ非現実的に拡大する。音場変形の上記違いは、小型スピーカー4個を図2、図4に準じて配置してステレオ再生すれば、容易に確認可能である。
【0019】
そこで音場が歪められないよう、現行クロストークキャンセルシステムには、2次クロストークの影響を軽減する技術が併用される。
例えば、クロストークキャンセルシステムにおいて2次クロストーク(−kKLおよび−kKR)を、さらに反対側スピーカーの2次クロストークキャンセル信号(kkLおよびkkR)で相殺し、そのばあい2次クロストークキャンセル信号がさらに反対側の耳で聴取される3次クロストーク(kkKLおよびkkKR)を、反対側スピーカーからの3次クロストークキャンセル信号(−kkkLおよび−kkkR)で相殺する……と、高次のクロストークキャンセル信号を演算して生成し、一定時間次々と左右スピーカーで再生して相殺する技術がある。
なお現在一般的には、入力信号に頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を与える音場補正技術が併用される。上記技術はバイフォニックで頭内定位をともなって狭小となる音場を、バイノーラルに近づける技術に類し、2次クロストークで失われる、リスナーを包囲する音場感を得るものである。
クロストークキャンセル技術に上記頭部伝達関数(HRTF)にもとづく音場補正技術を併用した技術は、一般にバーチャルサラウンド技術と呼ばれる。バーチャルサラウンド技術を用いたシステムは、前方2スピーカーで包囲感を含む音場を再生する。ただし上記システムを販売する大多数のメーカーは、リアスピーカーを用いるマルチチャンネルサラウンドステレオシステムでは、より現実的なサラウンド音場が得られると、ユーザーに説明している。
また上記バーチャルサラウンドシステムより、適切に設置された2チャンネルステレオシステムの再生音の方が現実的だと感じるユーザーは多く、実際に高度なマニア向けのステレオスピーカーシステムの試聴には、通常2チャンネルステレオが用いられる。
【0020】
特許文献1は、クロストークキャンセルが、“あたかもヘッドフォンで聴取するような効果を与える”と説明される一例である。
特許文献2は、SDA配置のスピーカーにおいて、左右副ユニットで差信号成分を再生する1980年代の先行技術である。
特許文献3は、特許文献2の技術に頭部伝達関数(HRTF)にもとづく音場補正技術を併用する、2007年に特許公開された技術である。
特許文献4は、クロストークキャンセル時に生じる高次のクロストークを、一定時間次々とクロストークキャンセルしていく技術である。
非特許文献1は、1980年代に販売された、特許文献2にもとづく技術を用いたスピーカーシステムである。なおこの商品説明にも、クロストークキャンセル効果によってL,R再生音が“ヘッドフォンのように(like headphones)Lチャンネルは左耳に、Rチャンネルは右耳にのみ聴取される”と表現されている。
非特許文献2は、オーディオ評論家の故長岡鉄男氏の製作になる、いわゆる“マトリックススピーカー”の一例である。
【特許文献1】特開2007−202139号広報『音像定位装置』(JP.A) 明細書0003項
【特許文献2】米国特許 第4489432号明細書『METHOD AND APPARATUS FOR REPRODUCING SOUND HAVING A REALISTIC AMBIENT FIELD AND ACOUSTIC IMAGE』
【特許文献3】特表2007−510334(P2007−510334A)号広報(JP.A)『前方配置ラウドスピーカからのマルチチャネルオーディオサラウンドサウンドシステム』
【特許文献4】特開平11−187497号広報(JP.A)『音像音場制御装置』請求項1
【非特許文献1】米国Polk Audioホームページ内、SDA1BおよびSDA−SRSのカタログ http://www.polkaudio.com/search/older.php
【非特許文献2】音楽之友社『長岡鉄男のオリジナル・スピーカー設計図4 こんなスピーカー見たことない 図面集編3』 2002年 P176〜P177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
現行クロストークキャンセルシステムは、2次クロストークを生じて音場を歪め、またリスナーが左右一方へ移動した時に、逆相感をともなって音場が移動方向と反対側へ大きく振られる。なお2次クロストークは、3個以上のスピーカーを用いるクロストークキャンセルシステムでも、L,R再生音に対する遅延時間は異なるが、やはり生じる。そこでクロストークキャンセル技術には通常、入力信号に頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を与える音場補正技術が併用され、上記SDA配置を用いるスピーカーシステムにもまた、現在では上記音場補正技術が併用されている。
しかし大多数のメーカーが認めるように、クロストークキャンセル技術に上記音場補正技術を併用する、いわゆるバーチャルサラウンド技術で得られる音場と比較した時、サラウンド音場では、リアスピーカーを用いるマルチチャンネルサラウンドシステムの方が現実的であり、ステレオ再生では、良質のステレオスピーカーシステムの方が現実的である。
すなわち、本来ステレオスピーカーのクロストークを低下させることを目的としたクロストークキャンセル技術は、単体の技術としても、他の技術を併用しても、クロストークを低下させることによって、一般的ステレオスピーカーに対して明らかな優位性を持つとは言い難い。
これはクロストークキャンセルによって生じる2次クロストークのためであって、また2次クロストークにより歪められる音場を、現在クロストークキャンセル技術に併用される音場補正技術で、充分に補正されないためである。
しかしクロストークは元々、ステレオスピーカーとリスナー両耳間で生じるものである。したがってステレオスピーカー自体がクロストークを低下させる効果を持ち、その際、2次クロストークを伴わなければ、そのスピーカーがクロストークを伴うスピーカーに対して優位性を持つことは明らかである。
なおステレオスピーカーで2次クロストークを伴わずに成立するクロストークキャンセル技術であれば、他の方法で実施した場合にも、同様に矛盾を生じないクロストークキャンセル効果が得られることになる。
【0022】
(2次クロストークの発生原因 1)
2次クロストーク発生原因は、図4に示すSDA配置のスピーカーシステムでは以下のように説明できる。
なお上記正円B,Cは以下、単に円B,Cと表記する。
図4に示される上記SDA配置では、右主ユニットと左副ユニットは、基準線D1と円Bとの右側の交点qおよび左側の交点oにあり、また左主ユニットと右副ユニットは、基準線D1と円Cとの左側の交点pおよび右側の交点rにある。
リスナーが左右スピーカーシステム3、4を見込む角度を変えることは、基準線を前後に移動し、左右それぞれの主、副ユニット間隔を両耳間隔Eに保ったまま円B、円Cそれぞれとの2つの交点を見込む角度を変えることに等しい。そこで基準線D1を、リスナー左耳正面で円Bと接し、またリスナー右耳正面で円Cと接する基準線D2とする。
この時、左主ユニットと右副ユニットは、ともに円C上にある条件を保ったまま右耳正面の仮想的左ユニットVsL(SDA配置の仮想的左ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なり、また右主ユニットと左副ユニットは、ともに円B上にある条件を保ったまま左耳正面の仮想的右ユニットVsR(SDA配置の仮想的右ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なる。
【0023】
すなわち任意の基準線D1上の左主ユニット(L)と右副ユニット(−kL)は、リスナー右耳正面でLを再生する、両耳に対して左右逆転したVsLを、クロストークキャンセルの目的で、Lを再生する左ユニットと −kLを再生する右ユニットに、円C上で左右等分したものと見なせる。
したがってVsL自体がLを再生する場合2次クロストークを生じないが、円C上で、すなわち右耳に対して左右等分した左主ユニットと右副ユニットは、左耳に対しては右副ユニットの方が2a+S分遠く、左主ユニットのLが左耳に到達したあと、右副ユニットの −kLが距離差2a+S分遅延して左耳に達する2次クロストーク、−kKLとなる。
同様に、任意の基準線D1上の右主ユニット(R)と左副ユニット(−kR)は、リスナー左耳正面でRを再生する両耳に対して左右逆転したVsRを、クロストークキャンセルの目的で、Rを再生する右ユニットと −kRを再生する左ユニットに、円B上で左右等分したものと見なせる。
したがってVsR自体がRを再生する場合2次クロストークを生じないが、円B上で、すなわち左耳に対して左右等分した左副ユニットと右主ユニットは、右耳に対しては左副ユニットの方が2a+S分遠く、右主ユニットのRが右耳に到達したあと、左副ユニットの −kRが距離差2a+S分遅延して右耳に達する2次クロストーク、−kKRとなる。
【0024】
(2次クロストークの発生原因 2)
一方現行クロストークキャンセルシステムの2次クロストーク発生原因は、以下のように説明できる。
現行クロストークキャンセルシステムの再生音を4ユニットで置き換えた、図3に示す上記CCS配置のスピーカーシステムにおいて説明する。
CCS配置の左主ユニットを偏円C上で、また右主ユニットを偏円B上で等角度ずつ、リスナーが見込む角度を絞っていくと、両者は偏円B,Cの交点で重なる。このとき左耳bと左主ユニットを通る直線上で後方の左副ユニット、および右耳cと右主ユニットを通る直線上で後方の右副ユニットもまた、偏円B,Cの交点で重なる。
これは左主ユニットと右副ユニットがともに偏円C上にある条件を保ったまま仮想的左ユニットVcL(CCS配置の仮想的左ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なり、また右主ユニットと左副ユニットがともに偏円B上にある条件を保ったまま仮想的右ユニットVcR(CCS配置の仮想的右ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なったものと見なせる。
すなわちCCS配置は、リスナー正面の偏円B,Cの交点でLを再生する仮想的左ユニットVcLを、クロストークキャンセルの目的でLを再生する左ユニットと −kLを再生する右ユニットに、偏円C上で分割し、またRを再生する仮想的右ユニットVcRを、クロストークキャンセルの目的でRを再生する右ユニットと −kRを再生する左ユニットに、偏円B上で分割したことになる。
【0025】
リスナー正面の上記VcL,VcRも、実使用時には両耳に対して左右が逆転する。すなわちVcL,VcRを左右ユニットに分割するため、左主ユニットを偏円C上で、また右主ユニットを偏円B上で、左右等角度に広げる。この時、偏円B,Cそれぞれの中心が両耳間隔ずれているために、VcL,VcRは以下のようにずれる。
1)右耳cと偏円B上の右主ユニットを結ぶ直線上で、偏円Cとの交点にある右副ユニット位置は、偏円C上で左右主ユニット位置より大きく移動する。そのため左右主ユニットを左右に振り分けるにつれ、偏円C上で左主ユニットと右副ユニットの中点となるVcLは右にずれる。
2)左耳bと偏円C上の左主ユニットを結ぶ直線上で、偏円Bとの交点にある左副ユニット位置は、偏円B上で左右主ユニット位置より大きく移動する。そのため左右主ユニットを左右に振り分けるにつれ、偏円B上で右主ユニットと左副ユニットの中点となるVcRは、左にずれる。
リスナー右側でLを再生する両耳と左右逆転したVcL自体は、2次クロストークを生じない。しかしVcLを偏円C上で、すなわち右耳cに対して左右等分した左主ユニットと右副ユニットは、左耳bに対しては右副ユニットの方が左主ユニットよりほぼ2(a+aa)分遠く、L到達後に −kLがほぼ距離差2(a+aa)分遅延して左耳に達する2次クロストーク、−kKLとなる。
またリスナー左側でRを再生する両耳と左右逆転したVcR自体は、2次クロストークを生じない。しかしVcRを偏円B上で、すなわち左耳bに対して左右等分した右主ユニットと左副ユニットは、右耳cに対しては左副ユニットの方が右主ユニットよりほぼ2(a+aa)分遠く、R到達後に −kRがほぼ距離差2(a+aa)分遅延して右耳に達する2次クロストーク、−kKRとなる。
なおCCS配置の −kRおよび −kL再生位置である左右副ユニットが実際の位置なのに対して、現行クロストークキャンセルシステムの −kRおよび −kL再生位置iiおよびjjはスピーカー後方の仮想的位置である。このために現行クロストークキャンセルシステムでは、L,Rに対する2次クロストークの遅延時間は2(a+aa)分となる。
【0026】
図4のSDA配置、図3のCCS配置、いずれにおいても、リスナー右前方でLを再生する仮想的左ユニットは、偏円C上で、Lを再生する左主ユニットと −kLを再生する右副ユニットに分割される。またリスナー左前方でRを再生する仮想的右ユニットは、偏円B上で、Rを再生する右主ユニットと −kRを再生する左副ユニットに分割される。
この時、−kL,−kRはL,Rとベクトル合成されてサラウンド定位を作るため、ステレオ音場が左右逆転するわけではない。しかし位相差情報は混乱して2次クロストークを生じ、またリスナーが左右一方へ移動した時に、音場が移動方向と反対側へ大きく振られる現象を生じる。
上記現象は、当業者が知るように、リスナーが両耳間隔の半分程度左右へ移動した位置でもっとも大きくなるのであって、上記位置は、現行クロストークキャンセルシステムの、左右逆転する上記仮想的左ユニットXcLもしくは上記仮想的右ユニットXcRの正面である。すなわちリスナーが一方へ移動した時、近接側主ユニットの聴感上の音量が上昇するのに反して、XcLおよびXcR正面では位相上、リスナーは反対側ユニットの正面位置へ移動したに等しく、左右音量差情報が左右位相差情報と矛盾して、音像と音場が反対方向へ振られるのである。
上記矛盾はSDA配置、CCS配置、およびCCS配置と概ね等しい現行クロストークキャンセルシステムで、同様に生じる。
【0027】
(従来技術の矛盾点)
仮想的ユニットが両耳に対して左右逆転し、2次クロストークを生じる矛盾は、現行クロストークキャンセルシステムの技術が、“ヘッドフォンのように”、Lチャンネルをリスナー左耳にのみ、またRチャンネルをリスナー右耳にのみ聴取させることを目的とした原理により生じる。
“ヘッドフォンのように”という表現は、遅くとも1980年代以来、多くのメーカーが用いている。しかし表現通りならクロストークキャンセルシステムは、バイノーラル収録以外のステレオ収録ソースで、バイフォニック相当となり、頭内定位をともなう狭小な音場しか得らない。しかし現行クロストークキャンセルシステムは“ヘッドフォンのような”音場を再生しない。
【0028】
特に大口径ではないコーン型スピーカーユニットをバッフルを用いずに再生すると、指向性に応じて500〜1kHz前後以下の中低音域(当明細書では以下、500〜1kHz前後以下の周波数帯域を指して中低音域と表記し、500〜1kHz前後以上の周波数帯域を指して中音域、または中高音域と表記する)では音圧レベルは一部にピークをともなうが全体として大幅に低下する。
上記現象は、エンクロージャーを持つスピーカーA,Bを近接して逆相再生しても同様である。また上記スピーカーA,Bに対して一定距離をとってエンクロージャーを持つスピーカーCで上記正相音または逆相音を再生した場合、スピーカーCは、リスニングポイントに係わらず、スピーカーA,Bの影響を受けずに中低音域を良好に再生する。
すなわち逆相音は、波長の長い低音域ほど、多少の到達時間差と無関係に、近接スピーカー間で自己完結的に打ち消し合い、上記スピーカーA,B間で正相音か逆相音のいずれかが過多とならなければ、遠方のスピーカーC再生音に影響しない。
したがって、図3のCCS配置と図4のSDA配置、いずれも左右それぞれ近接する主、副ユニット間で、中低音域のL,Rに共通するモノラル成分は相殺され、リスナー両耳との距離にかかわらず、反対側スピーカーの、中低音域モノラル成分のクロストークはキャンセルされない。
【0029】
一例として、CCS配置ないしはSDA配置の左右主ユニットに対し、左右副ユニットの中低音域レベルを −3dBにした場合の、中低音域を説明する。
この場合、左主、副ユニット間でLと −kRに共通のモノラル成分が相殺され、左副ユニットの −kRはモノラル成分を失い、左主ユニットLのモノラル成分もまた −3dBとなる。又、右主、副ユニット間でもRと −kLに共通のモノラル成分が相殺され、右副ユニットの −kLはモノラル成分を失い、右主ユニットRのモノラル成分もまた −3dBとなる。
しかし右主ユニットのモノラル成分はクロストークにより聴感レベルは −3dBから0dB程度に上昇して中央定位し、いっぽうモノラル成分以外のRはクロストークキャンセルされて、聴感レベルは0dBのままとなる。又、左主ユニットのモノラル成分はクロストークにより聴感レベルは −3dBから0dB程度に上昇して中央定位し、いっぽうモノラル成分以外のLはクロストークキャンセルされて、聴感レベルは0dBのままとなる。
なお左右副ユニットの中低音域レベルを主ユニットに対して −3dB〜0dBとすれば、近接する主、副ユニット間でモノラル成分が過剰に相殺され、聴感レベルが低下するが、この間も左右副ユニットモノラル成分は失われ、主ユニットのモノラル成分はスピーカー間に中央定位する。また左右副ユニットの中低音域レベルを −3dB以下にしても、左右副ユニットモノラル成分はやはり失われ、左右主ユニットのモノラル成分はスピーカー間に中央定位する。
つまり現行クロストークキャンセルシステムは、一般的ステレオスピーカーが中低音域ではモノラル成分かそれ以外かに係わらずクロストークを生じ、聴感レベルが3dB程度上昇するに対して、中低音域レベルを低下させヘッドフォンに似た再生バランスにでき、またモノラル成分以外のL,Rをクロストークキャンセルできるが、モノラル成分はクロストーク、すなわちスピーカー位置情報をともない、スピーカー間に中央定位するのである。
【0030】
中低音域のモノラル成分がスピーカー間に中央定位することは、現行クロストークキャンセル回路でも同様である。
中低音域では、左オーディオ信号LからkRを減算し、また右オーディオ信号RからkLを減算する時、一方を1ミリ秒(ms)程度遅延させても波形はほぼ逆特性となり、モノラル成分は相殺され、クロストークキャンセル信号のモノラル成分は失われ、L,R中低音域のモノラル成分も減衰する。したがって左右スピーカー再生音L,Rのうちモノラル成分はkに応じてレベル低下するが、左右スピーカー間に定位する。
なおクロストークキャンセル信号として、L,R差信号を用いる回路では、差信号のL、R配分に応じてモノラル成分が除外されるため、モノラル成分はやはりスピーカー間に中央定位する。
【0031】
一方、一般的ステレオスピーカーでは、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、中高音域でクロストークが低下し、サラウンド再生も可能である。すなわちクロストークは、スピーカー位置情報を伴いにくい程度にまで低下しうる。
ただしこれはL,Rに共通するモノラル成分かそれ以外かには係わらない。
したがって一般的ステレオスピーカーもまた、リスナーとスピーカーの距離に応じた中央定位は、左右スピーカーを大きな角度で見込む場合にも低減しにくい、L,R中低音域のクロストークで主に得ていて、上記中低音域の中央定位を基準に、クロストークが少ないL,R中高音により、サラウンド音場をともないうるステレオ定位を得ていることになる。
【0032】
つまり、現行クロストークキャンセルシステムと一般的ステレオシステムには、モノラル成分以外のL、R中低音域のクロストーク量以外は、相対的な違いしかない。実際に、オンマイク収録された中央ボーカルは、双方ともに左右スピーカー間に定位するのであり、現行クロストークキャンセルシステムもまた、一般的ステレオシステム同様、ステレオフォニックの原理に準じていることになる。
したがって現行クロストークキャンセルシステムが、上記のように両耳を結ぶ直線上でヘッドフォン同様の効果を得ようとして有する、両耳と左右逆転する仮想的ユニットを左右等分したに等しい上記構造は、前方の左右スピーカーを両耳で聴取するステレオフォニックの原理に反し、位相上の混乱を生じ、クロストークキャンセル技術単独で現実的な再生音が得られないのである。
また現行クロストークキャンセルシステムがステレオフォニックに準じ、オンマイク収録された中央ボーカルが頭内定位しない以上、バイフォニック相当の音場をバイノーラル相当の音場に置換する必然性はない。したがって入力信号に頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を与える音場補正技術は、2次クロストーク歪で変形される再生音場を、リスナーを包囲するようさらに変形させる技術であることになり、現行クロストークキャンセルシステムの上記矛盾を解消しない。
【0033】
(課題)
ステレオ再生の理想を考慮すれば、ステレオスピーカーは、リスナーの両耳間隔に設置したペアマイク(当明細書では以下これを『両耳間隔ペアマイク』と表記する)と等価的な信号変換器になり、マイクとスピーカーが聴感上相殺されることで、リスナーが自身の両耳で収録音を聴くに等しくし、したがってサラウンド情報を含めた、収録現場の音像と音場を現実的に認識させることができると考えられる。
ただしステレオフォニックでは、上記のように中低音域の少なくともモノラル成分は、左右スピーカー間に中央定位する。そのためマイクとスピーカーが聴感上相殺された場合、リスナーが認識する上記収録現場の音像と音場は、スピーカーとの距離に応じてリスナーから遠ざかり、リスナーがスピーカーに近付かなければ、中央ボーカルが目前に定位することはない。
【0034】
しかしながら現在のステレオスピーカーは、適切に設置されれば中高音域ではクロストークが少なく、一定のサラウンド音場を含むものの、中低音域では、クロストークにより再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線上に歪められ、過渡特性が低下し、楽器の大きさや現実的な音場が再現されず、リスナー両耳間隔に設置したペアマイクと等価的とは言えない。
一方現行クロストークキャンセルシステムもまた、2次クロストークを生じ、音像と音場が非現実的に歪められ、両耳間隔ペアマイクと矛盾する。また現在クロストークキャンセル技術に併用される音場補正技術は、上記矛盾を解消しない。
そこで当発明は、一般的スピーカーユニットを用いるステレオスピーカーシステムであって、上記両耳間隔のペアマイクと等価的な信号変換器に近く、ステレオスピーカーでクロストークレベルが高くなる中低音域を中心としたL,Rに共通するモノラル成分以外のクロストークを、2次クロストークをともなわずに低減することによって、サラウンド音場を含めたステレオ音場を良好に再生して、なおかつ一般的ステレオアンプで駆動でき、また左右スピーカーの設置角度に応じて多様なスピーカーユニット配置を許容して、広く製品化可能なクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムの実現を課題とし、又、一般的ステレオスピーカーの、中低音域を中心とするクロストークを低減し、2次クロストークを生じない、クロストークキャンセル方法を提供することをも課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0035】
以上の課題を解決するために、第一発明はステレオスピーカーシステムであって、
左スピーカーシステムは、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(左主ユニット)と、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(左副ユニット)および上記左副ユニットに接続される左フィルター部とを具備することによって、上記左主ユニットで左オーディオ出力Lを再生し、また上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記左副ユニットで右オーディオ出力Rを逆相再生し、
並びに、右スピーカーシステムは、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(右主ユニット)と、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(右副ユニット)および上記右副ユニットに接続される右フィルター部とを具備することによって、上記右主ユニットで右オーディオ出力Rを再生し、また上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記右副ユニットで左オーディオ出力Lを逆相再生し、
上記左右スピーカーシステムがリスナーに対して左右等距離かつ等角度となる時に、左主ユニット、左副ユニット、右副ユニットおよび右主ユニットがリスナー両耳を結ぶ直線と平行する直線上に配置されることを前提条件として、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左主ユニットと左副ユニット間、および右主ユニットと右副ユニット間の高低差を許容し、
左スピーカーシステムでは、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に設け、
また右スピーカーシステムでは、上記右主ユニットに対して上記右副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に設けるものとして、
上記構成により2次クロストークをキャンセルした場合に、左主ユニット再生音のクロストークより右副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右副ユニット再生音を限定し、並びに、右主ユニット再生音のクロストークより左副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左副ユニット再生音を限定したことを特徴とする、クロストークキャンセルステレオスピーカーシステムである。
【0036】
第ニ発明は、0035項に記載のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムにおいて、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に設け、また上記右主ユニットに対して前記右副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に設けたことを特徴とするクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムである。
【0037】
第三発明は、クロストークキャンセル方法であって、任意のステレオスピーカーシステムの、リスナーに対して左右等距離かつ等角度に配置される、左スピーカーシステムで左オーディオ出力Lを再生し、および右スピーカーシステムで右オーディオ出力Rを再生し、
又、少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される左フィルター部とを具備する左サブスピーカーにおいて、右オーディオ出力Rを、上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、並びに少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される右フィルター部とを具備する右サブスピーカーにおいて、左オーディオ出力Lを、上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、
上記左サブスピーカーの再生帯域を主に再生する左スピーカーシステムのユニットを左スピーカー位置(当項では以下同様に表記)とし、また上記右サブスピーカーの再生帯域を主に再生する右スピーカーシステムのユニットを右スピーカー位置(当項では以下同様に表記)とした場合、
左スピーカー位置、左サブスピーカー、右サブスピーカーおよび右スピーカー位置を直線上に配置し、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左スピーカー位置と左サブスピーカー間、および右スピーカー位置と右サブスピーカー間の高低差を許容して、
上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に配置し、
また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に配置するものとして、
上記構成によって2次クロストークをキャンセルした場合に、左スピーカーシステム再生音のクロストークより右サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右サブスピーカー再生音を限定し、並びに、右スピーカーシステム再生音のクロストークより左サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左サブスピーカー再生音を限定し、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【0038】
第四発明は、0037項に記載のクロストークキャンセル方法において、上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に配置し、また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に配置することを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【0039】
第五発明は、クロストークキャンセル方法であって、リスナーに対して等距離かつ等角度の左右スピーカーから、リスナーの一方の耳位置に再生音が到達するときの直線で計測される距離差を変数a(以下同様に表記)とし、リスナーが左右スピーカーを大きな角度で見込む時に、左右スピーカー再生音の一方がリスナー頭部を回り込むことでaに加算される距離差を変数aa(以下同様に表記)とする場合、
左オーディオ入力信号Lを、WとXとし、また右オーディオ入力信号Rを、YとZとして、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の10〜150%のうち任意の距離差h分遅延させ、またXとYそれぞれをフィルターブロックに入力して、W,Zに対して相対的に周波数帯域と出力レベルを制限して、
上記ディレイブロックより出力されたWから、上記フィルターブロックより出力されたYを減算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロックより出力されたZからは、上記フィルターブロックより出力されたXを減算して右オーディオ出力とし、
なお上記左右オーディオ出力を増幅し、リスナーから左右等距離かつ等角度に配置された左右スピーカーで再生して2次クロストークをキャンセルした場合、Wのクロストークよりクロストークキャンセル信号Xが、リスナー右耳に先行到達し、またZのクロストークよりクロストークキャンセル信号Yが、リスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域および出力レベル以内に、上記フィルターブロックによりXとYを限定することで、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【0040】
第六発明は、0039項に記載のクロストークキャンセル方法において、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の80〜120%のうち任意の距離差h分遅延させることを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【発明の効果】
【0041】
(クロストークキャンセルステレオスピーカーシステム)
上記のように構成された第一発明のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムによれば、左右スピーカーシステムを、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない、概ね50°以内で見込むいずれの角度でも、リスナー左耳位置、右耳位置、左副ユニット位置および左主ユニット位置で作られる第1の平行四辺形、およびリスナー左耳位置、右耳位置、右主ユニット位置および右副ユニット位置で作られる第2の平行四辺形が合同になる。したがって左主ユニットと右副ユニットはともに、リスナー左耳を中心とする円B上にあるため、右副ユニットの2次クロストーク −kKLは、左主ユニットのLと左耳に同時到達して相殺される。又、右主ユニットと左副ユニットはともに、リスナー右耳を中心とする円C上にあるため、左副ユニットの2次クロストーク −kKRは、右主ユニットのRと右耳に同時到達して相殺される。
ただしこの場合2次クロストークは生じないが、右耳に対しては、左主ユニットのクロストークKLより、右副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kLは2a+S分先行到達し、また左耳に対しては、右主ユニットのクロストークKRより、左副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kRは2a+S分先行到達する。そこでクロストークキャンセル信号を、少なくとも上記到達誤差をともなっても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量に限定することによって、第一発明の上記クロストークキャンセルステレオスピーカーシステムにより、2次クロストークを伴わずに、中低音域のクロストークキャンセルもまた成立する。
なお上記のように、近接する左主、副ユニット間および右主、副ユニット間で、Lと −kRおよびRと −kLのうちL,Rに共通するモノラル成分は相殺されるため、左主ユニットのL再生音および右主ユニットのR再生音のうち中低音域のモノラル成分はクロストークをともなう。またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性、および中低音域モノラル成分以外のL,Rクロストークをキャンセルする第一発明の効果により、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じない。
【0042】
上記SDA配置とは左右それぞれの主、副ユニットが逆転する構成を持つ、上記第一発明のユニット配置は必然的に、リスナー左耳正面でLを再生する仮想的左ユニットXsL(SDA配置の仮想的左ユニットVsLと左右逆転する仮想的左ユニットを、当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、左耳を中心にXsLまでを半径とする円B上で左右等分して、左主ユニットでLを再生し、右副ユニットで−kLを再生したに等しい。
又、リスナー右耳正面でRを再生する仮想的右ユニットXsR(前記SDA配置の仮想的右ユニットVsRと左右逆転する仮想的右ユニットを、当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、右耳を中心にXsRまでを半径とする円C上で左右等分して、右主ユニットでRを再生し、左副ユニットで−kRを再生したに等しい。
【0043】
リスナー左耳正面でLを再生するXsLと、リスナー右耳正面でRを再生するXsRは、上記両耳間隔ペアマイクと等価的な信号変換器といえ、両者が相殺された時、リスナーは収録現場で、ステレオマイクと同等の特性を持つ自身の両耳で音像および音場を聴くに等しい。ただし中低音域のクロストークでスピーカー間の中央定位が決定するステレオフォニックの原理に従って、リスナーとスピーカーの距離に応じて、聴感上、各音源はマイクから遠ざかことになる。
したがって第一発明のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムは、収録ソースおよびスピーカー配置に応じて、概ね全再生帯域でサラウンド音場をともなう音像と音場を再生し、中低音域の過渡特性に優れ、左右音量差情報および位相差情報が混乱を生じないためにサラウンド音場はリスナーを自然に包囲して現実的で、中、大型楽器の大きさを適切に再現する。
また両耳間隔ペアマイクと近似的な各種ペアマイク収録音や、マルチトラック収録音を主にL,R音量差でステレオ定位させた収録音、各種マルチチャンネルサラウンドステレオをアナログエンコードしたステレオソースも、3次元的に再生する。
【0044】
上記第一発明は、一般的スピーカーユニットを用い、ステレオアンプで使用できるステレオスピーカーシステムである。したがって汎用性に優れ、信号経路が単純なためコストパフォーマンスに優れる製品を製作でき、かつ高度な音質と音場再現性を追求できる。またステレオ初期の収録ソースに本来含まれている3次元的で広々とした音場を現実的に、かつ過渡特性の向上でニュアンス豊かに再生する。
【0045】
(クロストークキャンセル方法)
以上の効果はまた、第五発明の方法で構成されたクロストークキャンセル回路出力を、増幅し、リスナーに対して左右等距離かつ等角度に配置した一般的ステレオスピーカーで再生した場合にも近似的となる。
ディレイブロックの遅延量を距離差(a+aa)とした場合を例に、第五発明の効果を記載する。
上記クロストークキャンセル回路の、左オーディオ出力L−kRのうちLは、−kRより(a+aa)分遅延し、また右オーディオ出力R−kLのうちRは、−kLより(a+aa)分遅延する。したがって左右オーディオ出力を増幅し、左右スピーカーで再生した時、右スピーカー位置で再生される −kLと左スピーカー位置より(a+aa)分後方で再生されるLは、リスナー左耳から等距離となり、−kLが左耳に達する2次クロストーク−kKLは、左耳にLと同時到達して相殺される。又、左スピーカー位置で再生される −kRと右スピーカー位置より(a+aa)分後方で再生されるRは、リスナー右耳から等距離となり、−kRが右耳に達する2次クロストーク−kKRは、右耳にRと同時到達して相殺される。
ただしこの場合2次クロストークは生じないが、右耳に対しては、左スピーカーの(a+aa)分後方で再生されるクロストークKLより、右スピーカー位置で再生されるクロストークキャンセル信号 −kLの方が、2(a+aa)分先行到達する。また左耳に対しては、右スピーカーの(a+aa)分後方で再生されるクロストークKRより、左スピーカー位置で再生されるクロストークキャンセル信号 −kRの方が、2(a+aa)分先行到達する。
そこでクロストークキャンセル信号を、少なくとも上記到達誤差をともなっても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量に限定することによって、第五発明の方法で構成された上記クロストークキャンセル回路出力を、増幅し、上記ステレオスピーカーで再生することにより、2次クロストークを伴わずに、中低音域でクロストークキャンセルもまた成立する。
なお上記クロストークキャンセル回路の、左オーディオ出力L−kRではL,Rに共通するモノラル成分の中低音域は相殺され、また右オーディオ出力R−kLではL,Rに共通するモノラル成分の中低音域は相殺されるため、中低音域のモノラル成分はクロストークをともなう。またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性、および中低音域モノラル成分以外のL,Rクロストークをキャンセルする第五発明の効果により、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じない。
【0046】
第五発明の方法で構成されたクロストークキャンセル回路出力を増幅し、左右等距離かつ等角度のスピーカーで再生して、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて距離差(a+aa)分の遅延量がつねに満たされたとする。この場合、リスナー左耳を中心とする偏円B上に、左スピーカーのL再生位置と、右スピーカーの −kL再生位置がともにあり、またリスナー右耳を中心とする偏円C上に、右スピーカーのR再生位置と、左スピーカーの −kR再生位置がともにあることになる。
ただし偏円B,Cの中心が両耳間隔ずれているために、リスナーが左右スピーカーを見込む角度を広げるにつれ、偏円C上の左スピーカー位置の −kRより、その(a+aa)分後方で偏円B上となるL再生位置の方が大きく移動し、また偏円B上の右スピーカー位置の −kLより、その(a+aa)分後方で偏円C上となるR再生位置の方が大きく移動する。このため左右スピーカーを見込む角度を広げるにつれ、偏円B上のL再生位置と −kL再生位置の中点は偏円B、Cの交点から左にずれ、また偏円C上のR再生位置と −kR再生位置の中点は偏円B、Cの交点から右にずれる。
したがって上記ステレオシステムにおいて、上記偏円B上のL再生位置と −kL再生位置は、その中点でLを再生する仮想的左ユニットXcL(CCS配置の仮想的左ユニットVcLと左右逆転する仮想的左ユニットを当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、偏円B上で左右等分したものといえ、又、上記偏円C上のR再生位置と −kR再生位置は、その中点でRを再生する仮想的右ユニットXcR(CCS配置の仮想的右ユニットVcRと左右逆転する仮想的右ユニットを当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、偏円C上で左右等分したものといえる。
Lを再生する上記XcLはリスナー正面より左にずれ、またRを再生する上記XcRはリスナー正面より右にずれることから、XcL,XcRは両耳間隔ペアマイクと近似的といえる。
したがって両者が近似的な信号変換器となって相殺された時、リスナーは収録現場で、ステレオマイクと同等の特性を持つ自身の両耳で音像および音場を聴くに等しい。ただし中低音域のクロストークでスピーカー間の中央定位を決定するステレオフォニックの原理に従って、リスナーとスピーカーの距離に応じて、聴感上、各音源はマイクから遠ざかことになる。
【0047】
第五発明のクロストークキャンセル回路は、現在一般的なクロストークキャンセル回路のブロック構成を変更し、フィルター回路の特性を調整するだけでも容易に実施可能であり、2次クロストークで音場が歪められないため頭部伝達関数(HRTF)に基づくフィルターで原音を加工する必要がなく、回路の簡素化によりコストパフォーマンスに優れる製品を製作でき、かつ高度な音質と音場再現性を追求できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
図1,5に第一発明の実施形態のひとつを示す。
図1は第一発明の実施形態のひとつを斜視図で示し、共通の記号で示される図5は第一発明の実施形態のひとつの左右スピーカーシステムとリスナーとの関係を示した平面図である。
第一発明はステレオスピーカーシステムであり、その実施形態のひとつにおいて、左スピーカーシステム31は左主ユニット1と、左副ユニット1Aおよび左副ユニット1Aに接続されるフィルターf11を具備する。また右スピーカーシステム41は、右主ユニット2と、右副ユニット2Aおよび右副ユニット2Aに接続されるフィルターf21を具備する。
図1,5では左右スピーカーシステム31,41のエンクロージャーを左右に分離した形状の一例を示すが、左右スピーカーシステム31,41はまた左右一体型としたり、テレビやパーソナルコンピューター、一体型ステレオシステムに代表される各種音響機器に内蔵されても差し支えない。なお上記の例は各種音響機器が多様であることの例示であり各種音響機器を限定するものではない。
【0049】
上記実施形態のひとつでは左主ユニット1、左副ユニット1A、右主ユニット2、および右副ユニット2Aのそれぞれが個別の信号系統を有する。そのため信号系統ごとの構成要素をそれぞれ、左主ユニット1側、左副ユニット1A側、右主ユニット2側、および右副ユニット2A側(当明細書ではいずれも以下同様に表記)と区別する。
このとき左オーディオ出力Lは、左主ユニット1側に入力されて直接左主ユニット1に接続され、また右副ユニット2A側にも入力されフィルター部f21を経て再生帯域と音量が制限されて、右副ユニット2Aに逆相接続される。並びにこのとき、右オーディオ出力Rは、右主ユニット2側に入力されて直接右主ユニット2に接続され、また左副ユニット1A側にも入力されフィルター部f11を経て再生帯域と音量が制限されて、左副ユニット1Aに逆相接続される。
【0050】
上記フィルターf11は、右主ユニット2のクロストークKRに対して、左副ユニット1Aのクロストークキャンセル信号−kRが左耳に、少なくとも距離差2a+S分先行到達しても、逆相感を生じず良好に相殺される再生帯域、音量以内に、左右スピーカーシステム31,41を見込む角度と下記製作に応じて、上記左副ユニット1Aで逆相再生されるRを限定するもので、並びに上記フィルターf21は、左主ユニット1のクロストークKLに対して、右副ユニット2Aのクロストークキャンセル信号−kLが右耳に、少なくとも距離差2a+S分先行到達しても、逆相感を生じず良好に相殺される再生帯域、音量以内に、左右スピーカーシステム31,41を見込む角度と下記製作意図に応じて、上記右副ユニット2Aで逆相再生されるLを限定するもので、一例としては同一の主、副ユニット間で、副ユニットに対してカットオフ300Hzの一次ローパスフィルターと−6dBのアッテネーターを用いて得られる特性を例示できる。なお上記特性は当業者の理解を容易にするための、多様に設定しうる特性の一例であって限定ではない。
なお上記製作意図とは例えばリスニングポイントを限定して比較的高い周波数帯域までクロストークキャンセル効果を持たせる、またはリスニングポイントを限定しないよう、再生帯域ないしは音量をより制限するといった意図を指す。
フィルターf11およびf21は一般的にはローパス回路と減衰器とからなるが、双方が必須とは限らない。例えば副ユニットがユニット特性やエンクロージャーの構造によりローパス特性を備える場合には、必ずしもローパス回路を要しない。また主、副ユニット間で、能率の違いや、インピーダンスの違いや、ユニット数の違いにより実質的に主ユニットの音圧レベルが副ユニットを上回れば、必ずしも減衰器を必要としない。
要するにフィルター部は、総合的なL,R再生音に対して副ユニット再生音を、相対的に帯域制限、減衰させることを目的とするのであり、したがってフィルター部f11,f21では、主、副ユニット間での相対的なフィルター特性を満たした上であれば、さらに自由な特性や回路等を持っても差し支えない。自由な特性や回路等とは、一例として左右副ユニットのバンドパス特性や変則的なスロープ特性や、フィルターにより位相回転を生じる場合にこれを補正する回路や、リスナーがフィルター特性や減衰量を調整できる手段を指す。なお上記は自由な特性や回路等の一例であって限定ではない。
また主、副ユニット間での相対的なフィルター特性を満たした上であれば、フィルター部f11,f21に加えて、左右主ユニットと左右副ユニットの一方か双方にローブースト特性を持たせる等、スピーカーに応じた固有の音作りがなされても差し支えない。
なおフィルターf11およびf21の機能は、マルチアンプを用いて自由な外部機器、例えばサウンドプロセッサーやイコライザーで置換しても差し支えなく、また上記アンプおよび上記外部機器が左右スピーカーシステム31,41に内蔵されても差し支えない。
上記構成により、左スピーカーシステム31の左主ユニット1はLを、左副ユニット1Aは −kRを同時再生し、また右スピーカーシステム41の右主ユニット2はRを、右副ユニット2Aは −kLを、同時再生する。
【0051】
上記構成を有する左右スピーカーシステム31,41は、リスナーに対して左右等距離かつ等角度となる時に、左主ユニット1、左副ユニット1A、右副ユニット2Aおよび右主ユニット2がリスナー両耳b,cを結ぶ直線と平行する直線上、すなわち基準線D上に位置するよう配置されることを前提条件として、左スピーカーシステム31では、上記左主ユニット1に対して上記左副ユニット1Aがリスナー両耳間隔Eに略等しい距離、右に設置され、並びに右スピーカーシステム41では、上記右主ユニット2に対して上記右副ユニット2Aがリスナー両耳間隔Eに略等しい距離、左に設置される。
この場合図5で示すように、リスナー左耳bと右耳cと左副ユニット1A位置pおよび左主ユニット1位置oで作られる、第1の平行四辺形bcpoは、リスナー左耳bと右耳cと右主ユニット2位置rおよび右副ユニット位置qで作られる、第2の平行四辺形bcrqと合同となる。したがって左右スピーカーシステム31,41を、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない、概ね50°以内で見込むいずれの角度でも、ob=qb=pc=rcが成立し、o,qは左耳bを中心とする円B上にあり、p,rは右耳cを中心とする円C上にあることになる。このため上記左主ユニット1のLと上記右副ユニット2Aの −kLは、左耳bに同時到達して2次クロストークを生じず、また上記右主ユニット2のRと上記左副ユニット1Aの −kRは、右耳cに同時到達して2次クロストークは相殺される。
ただしこの時には、上記左主ユニット1のLに対して、上記右副ユニット2Aの −kLは右耳bには、上記のように2a+S分先行到達し、また上記右主ユニット2のRに対して、上記左副ユニット1Aの −kRは左耳bには、上記のように2a+S分先行到達する。
しかし、上記フィルターf11およびf21によって、左右副ユニットのクロストークキャンセル信号は、少なくとも上記到達誤差をともなっても、逆相感を生じず良好に相殺される再生帯域、音量に限定されている。
したがって第一発明の実施形態のひとつでは、中低音域を中心としてクロストークキャンセルが成立し、2次クロストークを生じない。
なおこの時、略両耳間隔で近接する左右それぞれの主、副ユニット間で、L,Rに共通するモノラル成分中低音域が相殺されて、モノラル成分中低音域はクロストークキャンセルされずにスピーカー間に中央定位し、またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳との上記一般的特性、および中低音域モノラル成分以外のL,Rクロストークをキャンセルする第一発明の実施形態のひとつの効果により、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じず、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場が得られる。
【0052】
このとき上記リスナー両耳間隔とは、通例17cmとして用いられる、リスナー左耳位置とリスナー右耳位置を直線で結んだ距離を指す。ただしリスナーの年齢差、性差、個人差を考慮してより適正に用いられることが望ましく、例えば幼児向けの製品では、左右主、副ユニット間隔を17cmより小さい、適切な距離としても差し支えない。また当明細書の図では便宜上、スピーカーユニット位置は振動板位置として作図するが、スピーカーユニット位置は、当業者間で一般に用いられているボイスコイル位置とすることが望ましい。
なおスピーカーユニットの向きは自由でよく、また例えば、基準線D上で上記リスナー両耳間隔に略等しい距離を取った主、副ユニット位置を仮想的発音位置とし無指向性ユニット、もしくは複数のユニットを組み合わせて無指向性に近付けたユニットが配置されても差し支えない。
なお図1に示される上記左右スピーカーシステム31,41の形状は、主、副ユニット間隔を適切に取る形状の一例を示すものであって限定ではなく、左右スピーカーシステム31,41は自由な形状で製作でき、また上記左右主、副ユニットの一方または双方は、マルチウェイユニットを含む複数ユニットとしても差し支えない。
【0053】
SDA配置とは左右それぞれの主、副ユニットが逆転する構成となる、上記のユニット配置は必然的に、リスナー左耳b正面でLを再生する仮想的左ユニットXsLを、左耳bを中心にXsLまでを半径とする円B上で左右等分して、左主ユニット1でLを再生し、右副ユニット2Aで −kLを再生したに等しい。又、リスナー右耳c正面でRを再生する仮想的右ユニットXsRを、右耳cを中心にXsRまでを半径とする円C上で左右等分して、右主ユニット2でRを再生し、左副ユニット1Aで −kRを再生したに等しく、前記両耳間隔ペアマイクと等価的な信号変換器と見なせる。
【0054】
いっぽう上記左右スピーカーシステム31,41は近接配置されても上記仮想的左右ユニットXsL,XsRは両耳間隔のままである。
なお副ユニット1A,2Aは反対側主ユニット2,1に近付くにつれ、近接側主ユニットとL,Rに共通するモノラル成分を相殺されるだけではなく、モノラル成分以外も同様に相殺されて、中低音域のクロストークは増加する。ただしクロストークとクロストークキャンセル信号の到達誤差2a+S自体が小さくなる分、副ユニットの再生帯域はより高音域へ広げられ、クロストークキャンセルの成立する帯域は狭められない。したがってフィルター部f11,f21の特性を角度に応じて調整すれば、クロストークキャンセルによる音場再生効果が失われることはない。
【0055】
なお図5に示される第一発明の実施形態のひとつにおいて、基準線上で左右それぞれの主、副ユニット1と1Aおよび2と2Aを、両耳間隔に略等しくすることは、リスナー左耳bに対して左主ユニット1と右副ユニット2Aを等距離とし、またリスナー右耳cに対して右主ユニット2と左副ユニット1Aを等距離とするのが目的である。したがって上記基準線上に各ユニットが配置された時の、リスナー左耳bとの距離関係が略保たれれば、左主ユニット1と右副ユニット2A間に高低差があっても差し支えなく、またリスナー右耳cとの距離関係が略保たれれば、右主ユニット2と左副ユニット1A間で高低差があっても差し支えない。
すなわちリスナー両耳との距離が略保たれれば、左主ユニット1と左副ユニット1A間、および右主ユニット2と右副ユニット2A間の高低差を許容することになる。
このため大型ユニットを使用する場合にも、主ユニット1,2に対して副ユニット1A,2Aを斜め上、または斜め下となるように設置することにより、左右それぞれの主、副ユニット、1と1A、2と2A間の相対的な水平距離を両耳間隔に略等しい距離に設置することは容易である。
【0056】
リスナーが上記左右スピーカーシステム31,41を、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが増大する、概ね50°以上で見込む場合、クロストークがクロストークキャンセル信号より遅延し、また同時に2次クロストークがL,R再生音より遅延する。
上記のうち2次クロストークがL,R再生音より遅延することは、上記左右副ユニット1A,2Aが、上記左右主ユニット1,2より距離差aa分後退することに等しい。したがってそれに応じて上記左右主ユニットもまた距離差aa分後退させた場合、L,R再生音に対して2次クロストークは遅延しなくなる。
ただしこの場合、上記のうちクロストークはクロストークキャンセル信号よりさらに遅延することになる。そのため、上記到達誤差の増加があっても逆相感を伴わず、良好に相殺される再生帯域、音量に左右副ユニット再生音を限定すればいいことになる。
したがって上記左右スピーカーシステム31,41をaaの大きくなる角度で見込む場合に対して、リスナーがフィルター特性を変化させ、左右主ユニット1,2をaa分後退させる自由な方法が講じられても差し支えない。
【0057】
リスナーがフィルター特性を変化させることは、コイルのインダクタンスを切り替えたり、アッテネーターを操作できればよく、容易である。
また左右主ユニット1,2をaa分後退させる方法の一例には、左右スピーカーシステム31,41を、基準線Dに対して適宜外向きに設置する方法が挙げられ、これにより一定範囲のaaの増加に対して微調整が可能となる。
また別の一例としては、aaの増加分、左右副ユニット1A、2Aを基準線Dに対してリスナーに近付けてもいいことから、左右スピーカーシステム31,41を特定の角度で見込む場合の、aa分の厚みを持つアダプターリングあるいはサブバッフル等の介在物を用意することによって、上記介在物なしにユニットを取り付ければ左右スピーカーシステム31,41を概ね50°以内の自由な角度で見込め、また上記介在物を介してユニットをバッフルに取り付けることにより、概ね50°以上の特定の角度で見込む設置も可能とする方法を取っても差し支えない。
なお逆に、リスナーの両耳間隔が小さい場合、例えばリスナーが子供である場合は、主、副ユニットを略両耳間隔とした左右スピーカーシステム31,41を基準線に対して内側に向けて設置したり、上記介在物を介して左右主ユニット1、2をバッフルに取り付けて調整しても差し支えない。なお上記の例は一例であって、左右スピーカーシステム31,41を見込む角度、もしくはリスナーの両耳間隔に応じた微調整の方法を限定するものではない。
【0058】
第一発明の実施形態のひとつにおいて得られる、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場は、左右再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない概ね50°以内の範囲で、リスナーがスピーカー中央で前後に移動しても同様に得られるが、また上記実施形態のひとつでは、リスニングエリアは左右に対しても限定されにくい。
これは現行クロストークキャンセルシステムでは、上記のように左右位相差情報が混乱しており、リスナーが左右一方へ移動した時に、上記仮想的左右ユニットVcLまたはVcR正面において、位相上はリスナーが逆方向へ移動したに等しくなって、再生音場が実際の移動方向と反対側へ大きく振られる現象を生じるのに対して、第一発明の実施形態のひとつでは、上記仮想的左右ユニットXsLおよびXsRが両耳間隔ペアマイクと等価的であり、また左右副ユニットの再生帯域が中低音域に限られることから、主、副ユニット間で逆相感およびコムフィルター現象が生じにくいためである。
これは一般的ステレオスピーカーが、リスナーが移動するとコムフィルター現象をともなうものの、リスニングエリアを極端に限定しないのと同様である。
【0059】
なお2次クロストークは、上記のようにリスナーがスピーカー中央にいる時に、L,R再生音と同時に両耳へ到達する。
したがってリスナーが左右へ移動した場合、移動した側の耳では、2次クロストークはL,R再生音より遅延して、音場は左右スピーカーを結ぶ線上で外側へ広がる傾向を生じる。また反対側の耳では、2次クロストークがL,R再生音より先行到達して、次項に記すように音場はリスナー側へ引き寄せられる傾向を生じる。
この効果が左右でバランスすることにより、リスナーが左右へ移動した場合に、音像および音場が近接側スピーカーにマスキングされにくく、音場全体は移動方向へずれるものの、一定のサラウンド音場感を保ち、分解能が低下しにくい。
また上記クロストークキャンセル効果は、上記左右スピーカーシステム31,41をリスナー後方側に設置しても成立するため、第一発明の実施形態のひとつは、マルチチャンネルサラウンドステレオのリア左右スピーカーとして使用できる。
【0060】
上記のように、2次クロストークはL,R再生音から遅延または先行したばあい、再生音場を歪める。
この傾向は多チャンネル音源を編集する場合に用いられる、原音と位相を変化させた音を混合するフェイザー(Phaser)またはフェイズシフター(Phasesifter)と呼ばれる機器、いわゆるエフェクターを利用し、サラウンド音場を演出する効果に準ずると考えられるが、連続性を持つ一般的傾向として、略以下の 1−1)および 1−2)のようにまとめられる。
1−1)左右スピーカーでL,Rを再生し、左耳と左スピーカーを結ぶ線上でR逆相音を再生し、また右耳と右スピーカーを結ぶ線上でL逆相音を再生する場合、L,Rに対してL,R逆相音が遅延到達すると、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線の後方側へ歪められる。逆に先行到達する場合、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線よりリスナー側へ引き寄せられて両耳間に収束し、またリスナー全周で奥行き感が低下する。
1−2)左右スピーカーでL,Rを再生し、左右スピーカーを結ぶ線上でR逆相音、およびL逆相音を再生する場合、L,Rに対してL,R逆相音が遅延到達すると、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線の延長上でのみ左右へ歪められる。逆に先行到達する場合、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線よりリスナー側へ引き寄せられ、音場の左右幅は保たれるがリスナー前後で奥行き感が低下する。
上記傾向は、小型スピーカー4個を上記のように配置してステレオ再生することで容易に確かめられる。これは当発明の効果ではないが、以下の実施形態において意図的に利用できるために記載し、仮に“2次クロストークによる音場強調効果”(当明細書では以下同様に表記)と表記する。
【0061】
当業者間では、ステレオ再生において、中、大型楽器の大きさは、ウーファーの口径に応じて再現されると主張されることが多かった。これに対し、第一発明の実施形態のひとつでは、一般的ステレオスピーカーではクロストークを生じて失われがちな中低音域のモノラル成分以外のL,R音量差情報、位相差情報が得られ、また現行クロストークキャンセルシステムと異って上記情報が両耳間隔ペアマイクに対して矛盾しないため、良好なステレオ収録音では、中低音域のL,R音量差情報および位相差情報としてソースに収録される、中、大型楽器の立体的な大きさを、スピーカーユニットの口径に係わらず、中低音域の再生能力に従って、明確に再現し分ける。
またここから逆に、一般的ステレオスピーカーの大口径ウーファーで音源ごとの大きさが再現される理由は、大口径ウーファーが100〜500Hz前後の中低音域で指向性が鋭く、L,Rチャンネル間の音量差情報、位相差情報が聴取しやすくなるためであると考えられる。大口径ウーファーに関する記述は当発明の効果とは異なるが、当発明の効果を当業者に伝える上で重大な有効性を持つため、これを記載する。
【0062】
図1,5に示される上記実施形態のひとつではまた矛盾を生じずに、左副ユニット1A側に、L差信号オーディオ出力L−nR(n>0)を逆相入力でき、右副ユニット2A側に、R差信号オーディオ出力R−nL(n>0)を逆相入力できる。
上記実施形態のひとつでは、L差信号オーディオ出力L−nRは逆相入力され、フィルターf11を通過してk(nR−L)となり、左副ユニット1Aで逆相再生されてk(L−nR)となる。またR差信号オーディオ出力R−nLは逆相入力され、フィルターf21を通過してk(nL−R)となり、右副ユニット2Aで逆相再生されてk(R−nL)となる。
すなわち、左主ユニット1はLを、左副ユニット1Aはk(L−nR)を同時再生し、また右主ユニット2はRを、右副ユニット2Aはk(R−nL)を同時再生する。
【0063】
n=1として、上記L,R差信号を用いた場合のクロストークキャンセル効果を説明する。
左主ユニット1の再生音Lと、右副ユニット2Aの差信号 −kLとの間では、双方が左耳bに同時到達して2次クロストークは相殺され、ただし差信号 −kLがモノラル成分を含まないため、Lのうちモノラル成分は減衰せず、また右耳cには距離差2a+S分の到達誤差を生じるものの、中低音域を中心とすればモノラル成分以外のLクロストークもキャンセルされ、ただしLのうちモノラル成分はクロストークをともなう。又、右主ユニット2の再生音Rと、左副ユニット1Aの差信号 −kRとの間では、双方が右耳cに同時到達して2次クロストークは相殺され、ただし差信号 −kRがモノラル成分を含まないため、Rのうちモノラル成分は減衰せず、また左耳bには距離差2a+S分の到達誤差を生じるものの、中低音域を中心とすればモノラル成分以外のRクロストークもキャンセルされ、ただしRのうちモノラル成分はクロストークをともなう。
いっぽう左右副ユニット1Aと2Aはリスナーから左右等距離かつ等角度である。このため左副ユニット1A差信号kLが右耳に達するクロストークkKLもまた、右副ユニット2A差信号 −kLと、到達誤差aのみで右耳に達してクロストークキャンセルされる。また右副ユニット2A差信号kRが左耳に達するクロストークkKRもまた、左副ユニット1A差信号 −kRと、到達誤差aのみで左耳に達してクロストークキャンセルされる。
なお左主ユニット1と右副ユニット2Aが、リスナー左耳正面でLを再生する仮想的左ユニットXsLを左右等分したもので、また右主ユニット2と左副ユニット1Aが、リスナー右耳正面でRを再生する仮想的右ユニットXsRを左右等分したものである関係は変わらない。
いっぽう左右副ユニット1Aと2Aの、kLと −kL間、およびkRと −kR間では、リスナー正面でLおよびRの差信号を再生する新たな仮想的左右ユニットを左右等分した関係となる。新たな仮想的ユニットは、いわばワンポイントマイクと等価的といえ、両耳間隔ペアマイクと左右が逆転する矛盾を生じない。
ただしリスナーはL,Rそれぞれのモノラル成分以外を時間差をともなって2度聴くことになって、過渡特性は低下する。
なお、左右副ユニット1A,2Aにはまた、上記L−nRおよびR−nLと近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオのリア左右オーディオ出力を、同様に逆相入力しても、一定のサラウンド音場が再生可能である。これは上記リアチャンネルの多くが、L−nR、およびR−nLに準じた信号配分で収録されるためである。
【実施例1】
【0064】
図5に示される第一発明の実施形態のひとつは、上記のように左右スピーカーシステム31,41を見込む角度を小さくしていき、リスナーが最小の角度で見込む形態のひとつとして、左副ユニット1Aおよび右副ユニット2Aの機能を、少なくとも1個のセンターユニットに置換した、3ユニットで構成される実施例1とすることもできる。
左副ユニット1Aおよび右副ユニット2Aの機能をセンターユニットに置換することは、双方の再生音を加算した−k(L+R)を、センターユニットが再生することにより可能となる。
なお実施例1は後記するように、3ユニット以外の構成に置換して実施することもできる。
【0065】
図6に、センターユニットで−k(L+R)を再生する方法のひとつとして、いわゆるダブルボイスコイルのスピーカーユニットの、2系統のボイスコイルに、−kRおよび −kLを入力する方法を用いた場合の、上記3ユニットで構成される第一発明の実施例1を示す。
図6において、左ユニット11は上記左主ユニット1を置換したものであってLを再生し、また右ユニット21は上記右主ユニット2を置換したものであってRを再生する。
いっぽうダブルボイスコイルのセンターユニット8は、上記左副ユニット1Aおよび右副ユニット2Aを置換したものであって、R入力をフィルター部13で帯域制限、減衰して逆相接続し、ならびにL入力をフィルター部23で帯域制限、減衰して逆相接続することで、−k(L+R)を再生する。
上記3ユニットはともに基準線D上において、リスナー正面にセンターユニットが配置された時、左ユニット11がセンターユニット8に対して、両耳間隔に略等しい距離左に設置され、また右ユニット21が上記センターユニット8に対して、両耳間隔に略等しい距離右に設置される。
【0066】
図6に示される3ユニットによる実施例1では、センターユニット8再生音 −k(L+R)の中低音域は、モノラル成分かそれ以外かに係わらず左右ユニット11,21と等しく打ち消しあって失われる。また左右ユニット11,21はセンターユニット8との相殺分だけ中低音域の音圧が低下するものの、L,R中低音域ではモノラル成分とモノラル成分以外が、共にクロストークをともない、左右ユニット間にほぼモノラル定位する。
しかし中音域においては、センターユニット8再生音 −k(L+R)のモノラル成分は左右ユニット11,21と等しく相殺されるためクロストークキャンセル効果を持たず、左右ユニット11,21の間隔が小さいため、L,Rに共通のモノラル成分は中音域においても高いレベルでクロストークをともない、左右ユニット11,21間に明確に中央定位する。
これに対して、モノラル成分以外では、左耳bおよび右耳cに対して、以下のようにクロストークキャンセルが成立する。
左耳bに対しては、センターユニット8再生音 −k(L+R)と左ユニット11のL再生音が同時到達して、2次クロストークに当たる −kLはLに相殺される。しかし右ユニット21のクロストークKRに対してセンターユニット8の −kRは到達誤差が僅かなため、フィルターf13によるR再生帯域の制限が小さくて済み、中音域で幅広く、クロストークキャンセルできる。並びに右耳cに対しては、センターユニット8再生音 −k(L+R)と右ユニット21のR再生音が同時到達して、2次クロストークに当たる −kRはRに相殺される。しかし左ユニット11のクロストークKLに対してセンターユニット8の −kLは到達誤差が僅かなため、フィルターf23によるL再生帯域の制限が小さくて済み、中音域で幅広く、クロストークキャンセルできる。
さらに高音域においては、左右ユニット11,21の間隔は狭いが、耳介の構造によりクロストークレベルは中低音域より低い。
したがって上記ステレオスピーカーと両耳間の一般的特性、および上記3ユニットによる実施例1による中音域のクロストークキャンセル効果の相乗効果で、中音域モノラル成分は左右ユニット11,21間に中央定位し、モノラル成分以外のL,R中、高音域でクロストークが低下する。
【0067】
なお上記3ユニットによる実施例1もまた、リスナー左耳正面でLを再生する上記仮想的ユニットXsLを円B上で両耳間隔の1/2ずつ、左ユニット11とセンターユニット8に等分し、またリスナー右耳正面でRを再生する上記仮想的ユニットXsRを円C上で両耳間隔の1/2ずつ、右主ユニット2とセンターユニット8に等分した構造となる。このため中高音域では両耳間隔ペアマイクと等価的となって、2次クロストークを生じず、図5に示される第一発明の実施形態のひとつ同様、リスニングエリアを限定しにくい。
ただし実施例1では中低音域で左右音量差情報および位相差情報が得られないため、中、大型楽器の大きさは表現されない。
【0068】
なお一般的ステレオスピーカーを大きな角度で見込んだ場合にも、中高音域のクロストークは低下するが、中高音域のモノラル成分もまたクロストークを伴いにくく、中央定位は中低音域でしか得られない。これに対して、図6に示される3ユニットによる実施例1では、低音域から中音域の広い帯域でモノラル成分がクロストークをともなって、かつ中音域の広い帯域でモノラル成分以外のクロストークが低下するため、左右スピーカー11,21間に明確な中央定位が得られ、リスナーはこの中央定位を基準ベクトルとして、中高音域のL,R音量差情報と位相差情報とのベクトル合成により、立体的な音場定位を認識する。
したがって中音域における音像、音場の立体感が一般的スピーカーを大きな角度で見込むより明確で、サラウンド音場をともなう。
【0069】
なお第一発明の実施形態のひとつにおいては上記のように主、副ユニット間の高低差が許容されるのと同様、図6に示される実施例1の上記ダブルボイスコイルのセンターユニット8もまた、左右ユニット11,21に対して、リスナー両耳との距離を略保って上下差を持っても効果に変わりはない。
したがって上記ダブルボイスコイルのセンターユニット8は、例えば−kRを再生する通常ユニット81と、−kLを再生する通常ユニット82に置き換え、上記センターユニット8が基準線D上に設置されたばあいの位置に対して、リスナー両耳との距離を略保って上下に設置し、−k(L+R)を再生しても差し支えない。
なお上記の例は、センターユニット8で−k(L+R)を再生する方法が多様であることの一例であって限定ではなく、センターユニット8で−k(L+R)を再生する方法は自由であって差し支えない。
【実施例2】
【0070】
図1,5は、第一発明の上記実施形態のひとつを示すとともに、また第二発明の実施例2において、上記左副ユニット1Aが上記左主ユニット1に対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%となる、図1,5では101として示す水平方向に規定される領域内に設置され、又、上記右副ユニット2Aが上記右主ユニット2に対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%となる、図1,5では201として示す水平方向に規定される領域内に設置されることを示す。
すなわち第二発明の実施例2は、上記第一発明の実施形態のひとつにおいて、上記左主ユニット1に対して上記左副ユニット1Aを、リスナー両耳間隔E分の0〜150%のうち任意の距離g、右に設け、また上記右主ユニット2に対して上記右副ユニット2Aを、リスナー両耳間隔E分の0〜150%のうち任意の距離g、左に設けることで実施される。
【0071】
したがって実施例2は、第一発明の実施形態のひとつ、および上記実施例1を含むとともに、さらにリスナーが上記左右スピーカーシステム31,41を見込む角度に応じた主、副ユニット間隔を任意の距離gに変更することによって、複数の効果を有する。そのため左右スピーカーシステム31,41は、それぞれの主、副ユニットの、2種類以上の相対的水平間隔をリスナーが選択できる、自由な手段を備えても差し支えない。
【0072】
図7は、上記手段の一例として、上記左スピーカーシステム31を例に、上記左主、副ユニット1,1Aの双方を、エンクロージャーへ取り付りつける時に介在させるアダプターリングAR1,AR2を略示す。
上記アダプターリングAR1,AR2は、ユニット取り付け位置がアダプターリング中央から一方に偏心する構造を有することで、ユニットをアダプターリングに取りつけ、さらに上記アダプターリングAR1,AR2をエンクロージャーへ取り付りつける場合に、取り付け角度を選択することにより、上記主、副ユニット1,1A間の複数の相対的水平距離を選択する手段を示す。
なお勿論、スピーカーユニットのフランジに同様の形態を持たせてもよく、また図7に示される上記アダプターリングは形状を限定するものではなく、例えばサブバッフルでもよく、要するにスピーカーユニットとエンクロージャーを固定する際の介在物により、主、副ユニット間の複数の相対的水平距離を選択する手段の一例を示すものである。また上記主、副ユニット双方を1個の介在物に取りつけた上で、上記介在物をエンクロージャーへ取り付ける時に、取り付け角度によって主、副ユニット双方の相対的水平間隔を複数選択しても差し支えない。
【0073】
また前記左右スピーカーシステム31、41において、前記左右主、副ユニット1,1Aおよび2,2Aをバッフル面において45°斜め方向以外に設置し、スピーカーを縦置きするか横置きするかで2種類の相対的水平間隔を選択したり、エンクロージャーを角柱状や円柱状ないしは多面体とし、エンクロージャーの置き方により複数の相対的水平間隔を選択する構造としても差し支えない。
図8に、略楕円柱形状のエンクロージャーとした実施形態の一例を示す。図8ではともに略楕円形となる左右スピーカーシステム32,42のバッフル面に、上記左右主、副ユニット1,1Aおよび2,2Aを適宜設置し、置き方を限定しない置き台上にセットしたエンクロージャーを、リスナーが自由に置き換えて相対的水平間隔を選択できる形状の一例である。
なお図7に示されるアダプターリングや、図8に示されるエンクロージャーおよび置き台は、上記方法が多様であることの例示であって、方法や形状を限定するものではなく、主、副ユニットの複数の水平距離を選択する方法は自由であって差し支えない。
【0074】
なお第ニ発明の実施例2において上記主、副ユニット間隔を、両耳間隔E分の0〜150%のうち任意の距離g分とすることは、リスナー左耳bに対して上記左主ユニット1を、上記左副ユニット1Aから距離差a分の0〜150%のうち任意の距離差h分、後方に配置し、又、リスナー右耳cに対して上記右主ユニット2を、上記右副ユニット2Aから距離差a分の0〜150%のうち任意の距離差h分、後方に配置することに等しい。
したがって上記左右スピーカーシステム31,41とリスナーの位置関係が比較的固定的な場合は、主、副ユニット間に前後差を設けることで上記距離差を満たしたり、相対的水平距離と前後差の双方を組み合わせて上記距離差分を満たしても差し支えない。
また、基準線上における主、副ユニット間隔をリスナー両耳間隔E分にほぼ等しい任意の距離gg分とした上記左右スピーカーシステム31,41の主、副ユニットをマルチアンプで駆動し、外部ディレイ装置で、上記主、副ユニットいずれかに遅延量を加算または減算することで、第ニ発明の実施例2の、以下に記載する効果を得ても差し支えない。
【0075】
第ニ発明の実施例2は、第一発明の上記実施形態のひとつで得られる上記クロストークキャンセル効果を、以下 2−1)〜 2−4)に示すように変更し、使用上の利便性を付加する。
【0076】
2−1)第1の効果は、上記左右スピーカーシステム31,41が概ね50°〜180°のうち特定の角度で見込まれる時、上記第一発明の実施形態のひとつでは2次クロストークがL,R再生音に対して遅延する誤差を補正する効果である。
左右スピーカーシステムを見込む角度が大きくなった場合の、左右再生音の一方がリスナー頭部を回り込むことで生じる距離差aaに対して、第一発明の上記実施形態のひとつでは、上記左右主ユニット1,2を基準線Dからaa分後退させ、必要に応じてフィルター部の特性を変化させることで微調整可能であった。
これは2次クロストークの遅延が、上記左右主ユニット1,2に対して上記左右副ユニット1A,2Aがaa分後退したに等しく、したがって上記左右主ユニット1,2をaa分後退させてL,R再生音と2次クロストークを同時到達させ、その場合クロストークとクロストークキャンセル信号の到達誤差がさらに大きくなっても良好に相殺される再生帯域、音量に、クロストークキャンセル信号を限定すればいいからである。
一方2次クロストークの遅延はまた、基準線D上で、上記左右主ユニット1,2に対して上記左右副ユニット1A,2Aが、距離差aa分に応じて接近することにも等しい。
したがってリスナーが上記左右スピーカーシステム31,41を概ね50°以上の特定の角度、例えばITU−R推奨の60°といった角度で見込む場合、左右それぞれの上記主、副ユニット1と1A、および2と2Aの間隔を、両耳間隔Eの100〜150%のうち適切な間隔に設置し、その場合クロストークがクロストークキャンセル信号に対してさらに遅延しても良好に相殺される再生帯域、音量に、クロストークキャンセル信号を限定すればいいことになる。
ただし主、副ユニット間隔が両耳間隔Eより大きくなるにつれ、リスナーが前後に移動した時に上記ob=qb=pc=rcとなる関係が失われて、リスニングポイントは限定的となる。
【0077】
2−2)第2の効果は、 1−2)に記載した“2次クロストークによる音場強調効果”を意図に応じて利用できることである。
すなわち任意の基準線D上で主、副ユニット間隔を、両耳間隔E以上の特定の間隔とした上記左右スピーカーシステム31,41を、概ね50°以内の自由な角度で見込んだ場合、並びに概ね50°以上で見込む時に、(a+aa)分に対応する以上の主、副ユニット間隔を取った場合、2次クロストークがL,R再生音より先行到達する。このため再生音場は、左右スピーカーを結ぶ直線よりリスナー側へ引き寄せられ、なお音場の左右幅が保たれ、前後方向で奥行き感が低下する。
この傾向は、小音量再生時には聴取しにくいサラウンド成分を強調して聴き取りやすくする、ラウドネスコントロールに類似した効果として利用可能である。例えば、通常映画館同様の大音量では使用されないテレビ内蔵型のスピーカーや、小音量再生されがちな小型ステレオシステムにおいて上記“2次クロストークによる音場強調効果”を適宜用いることは、合理的となる場合がある。
【0078】
2−3)第3の効果は、左右スピーカーシステム31,41が小さな角度で見込まれる場合に、スピーカー形状を限定しにくくする効果である。
第ニ発明の実施例2においては、上記左右スピーカーシステム31,41を小さな角度で見込む場合にも、主、副ユニット間隔を両耳間隔Eに略等しい距離とした時、もっとも現実的で立体的な再生音場が得られる。
しかし左右スピーカーシステム31,41を見込む角度が小さくなるにつれてa自体が小さくなる。このため上記左右各主、副ユニット1と1Aおよび2と2Aの間隔を両耳間隔E分以下としても、L,Rに対する2次クロストークの絶対的な遅延量は少なく、再生音場を歪めにくい。また上記左右各主、副ユニット1と1Aおよび2と2Aが垂直配置されて水平距離差が0になった時点でも、上記仮想的ユニットXsLおよびXsRはリスナー正面の一点で重なるだけで左右逆転しない。
したがって上記左右スピーカーシステム31,41を小さな角度で見込む場合には両耳間隔E分の0〜100%の範囲内の任意の距離g、上記左主ユニット1に対して上記左副ユニット1Aを右に設置し、並びに上記右主ユニット2に対して上記右副ユニット2Aを左に設置しても、第ニ発明の実施例2はステレオフォニックの原理に反することなく、サラウンド音場をともなう充分現実的なステレオ音場が再生でき、スピーカー形状を限定しにくく、小型音響機器にも搭載可能となる。
【0079】
2−4)第4の効果は、リスナーがスピーカーに近接して左右に移動した時にも再生音場を安定的にする効果である。
主、副ユニット間隔を両耳間隔Eとした上記左右スピーカーシステム31,41は、左右位相差上の混乱がないため、リスナーが左右に移動しても再生音場に矛盾を生じない。
しかしリスナーがスピーカーに近接した場合、両耳b、cへの各ユニット再生音の到達時間が刻々変化し、上記副ユニット1A,2Aの再生帯域、音量が充分限定的であっても、音像および音場定位が不安定になりがちである。
これに対して、上記左右スピーカーシステム31,41が小さな角度で見込まれる場合に、上記主、副ユニット1と1A、および2と2Aの水平距離を両耳間隔E分の100%以下で0%に近づけるにつれ、音場再現性は低下しがちなものの、安定的な音場を、広いリスニングエリアに供給できる。
【実施例3】
【0080】
図9は、任意のステレオスピーカーシステムとサブスピーカーにより、クロストークキャンセル帯域を限定することで2次クロストークを生じずにクロストークをキャンセルする、第三発明のクロストークキャンセル方法の実施例3を示す斜視図である。
任意のステレオスピーカーシステムの、図9においてm1で示される左スピーカーシステムはLを再生し、m2で示される右スピーカーシステムはRを再生し、リスナーに対して左右等距離、等角度に配置される。
これに対して、実施例3では、少なくとも1個のスピーカーユニットとフィルター部とからなる左サブスピーカーs1、および少なくとも1個のスピーカーユニットとフィルター部とからなる右サブスピーカーs2を用いて、左サブスピーカーs1には右オーディオ出力Rを接続し、フィルター部f14で再生帯域、音量を制限して、少なくとも1個のスピーカーユニット1AAで逆相再生し、並びに上記右サブスピーカーs2には左オーディオ出力Lを接続し、フィルター部f24で再生帯域、音量を制限して、少なくとも1個のスピーカーユニット2AAで逆相再生する。
【0081】
この時フィルター部f14,f24は、第一発明の実施形態におけるフィルター部f11,f21に略等しい。
すなわちフィルター部f14は、左サブスピーカーs1のクロストークキャンセル信号 −kRが、右スピーカーシステムm2のクロストークKRに対して、左耳に少なくとも2a+s分先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、リスナーが左右スピーカーシステムm1,m2を見込む角度と下記製作意図に応じて限定するものである。
並びに、フィルター部f24は、右サブスピーカーs2のクロストークキャンセル信号 −kLが、左スピーカーシステムm1のクロストークKLに対して、右耳に少なくとも2a+s分先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、リスナーが左右スピーカーシステムm1,m2を見込む角度と下記製作意図に応じて限定するものである。
なお上記製作意図とは、例えばリスニングエリアを限定して高い周波数帯域まで幅広くクロストークキャンセル効果を持たせる、あるいはリスニングエリアを広く取るために低い周波数帯域に限定してクロストークキャンセル効果を持たせるといった意図である。
フィルター部f14およびf24は、一般的にはローパス回路と減衰器とからなるが、双方が必須とは限らない。例えば左右サブスピーカーs1,s2がユニット特性やエンクロージャーの構造によりローパス特性を備える場合には必ずしもローパス回路を要しない。また左右スピーカーシステムm1,m2と左右サブスピーカーs1,s2間での能率や、インピーダンスや、ユニット数の違いにより実質的に左右スピーカーシステムm1,m2の音圧レベルが左右サブスピーカーs1,s2を上回れば、必ずしも減衰器を必要としない。
要するにフィルター部f14およびf24は、左右スピーカーシステムm1,m2の再生音に対して左右サブスピーカーs1,s2の再生音を、相対的に帯域制限、減衰させることを目的とする。
またフィルター部f14およびf24では左右スピーカーシステムm1,m2と左右サブスピーカーs1,s2間での相対的な上記フィルター特性を満たした上で自由な特性を持っても差し支えない。自由な特性とは、例えばバンドパス特性や、複数のバンドパス特性を組み合わせることを含めた特殊なスロープ特性であり、また自由な回路等を含んでも差し支えない。自由な回路等とは、例えばフィルターにより位相回転が生じる場合にこれを補正する回路や、リスナーがフィルター特性や減衰量を調整できる手段があげらる。
なおフィルター部f14およびf24の機能はマルチアンプを用いて自由な外部機器、例えばサウンドプロセッサーやイコライザーで置換でき、またアンプおよび上記外部機器が左右サブスピーカーs1,s2に内蔵されても差し支えない。
上記フィルター部f14およびf24によってサブスピーカーs1,s2は左右スピーカーシステムm1,m2に対して相対的なフィルター特性kを有することになって、左スピーカーシステムm1はLを、左サブスピーカーs1は −kRを、右スピーカーシステムm2はRを、および右サブスピーカーs2は −kLを、同時再生する。
【0082】
この時左スピーカーシステムm1を構成するユニットのうち、左サブスピーカーs1の再生帯域を主に再生するユニットを、左スピーカー位置1Vとし、また右スピーカーシステムm2を構成するユニットのうち、右サブスピーカーs2の再生帯域を主に再生するユニットを、右スピーカー位置2Vとする。
図9では仮に左右スピーカー位置1Vおよび2Vが、3ウェイユニットのうちウーファーである場合を示すが、図9に示されるのは、上記のように規定される1V,2V位置の例示であって、1Vおよび2Vがウーファーであるとは限らない。また左右スピーカーシステムm1,m2、および左右サブスピーカーs1,s2もまたユニット位置を示すためのものであって、各スピーカーの形態やユニット数、設置位置を限定するものではない。
【0083】
上記左スピーカー位置1V、上記左サブスピーカーs1、上記右サブスピーカーs2および上記右スピーカー位置2Vは直線上に配置され、なお左右スピーカーシステムm1,m2がリスナーに対して左右等距離、等角度に配置されているため、上記4つの位置は基準線D上に共にあることになる。
これを前提条件に、上記左スピーカー位置1Vに対して、リスナー両耳間隔Eに略等しい距離、右となる基準線D上の位置をss1とし、また上記右スピーカー位置2Vに対して、リスナー両耳間隔Eに略等しい距離、左となる基準線D上の位置をss2として、ss1に上記左サブスピーカーs1が設置され、ss2に上記右サブスピーカーs2が設置されることで、第三発明のクロストークキャンセル方法のひとつの形態が実施される。
しかしながら、任意のステレオスピーカーシステムの左右スピーカー位置1V,2Vに対して、上記ss1,ss2に左右サブスピーカーs1およびs2を設置できるのは、双方が小型である場合に限られる。
【0084】
いっぽう図5に示される第一発明の実施形態のひとつに等しく、図9に示す第三発明の実施例3のスピーカー配置もまた、リスナー左耳に対して左スピーカー位置1Vと右サブスピーカーs2を等距離とし、リスナー右耳に対して右スピーカー位置2Vと左サブスピーカーs1を等距離とすることが目的であるから、リスナー両耳b,cとの距離が略保たれれば左スピーカー位置1Vと左サブスピーカーs1間、および右スピーカー位置2Vと右サブスピーカーs2間の高低差があっても同様の効果が得られる。
したがって左右スピーカー位置1V,2Vを通る直線を基準線Dとした場合、左サブスピーカーs1は、リスナー両耳間から基準線D上の位置ss1までを半径とする円6上に略あれば左スピーカー位置1Vに対して高低差を生じてもよく、また、右サブスピーカーs2は、リスナー両耳間から基準線D上の位置ss2までを半径とする円7上に略あれば、右スピーカー位置2Vに対して高低差を生じてもよい。
ただし左右サブスピーカーs1,s2は一般に、上記左右スピーカー位置1V,2Vに近いほうが好ましい。これは双方が近接するほど、L,Rに共通するモノラル成分がより高い周波数まで相殺関係になり、モノラル成分が高い周波数までクロストークをともなって中央定位が明確になり、中央定位と左右音量差、位相差情報のベクトル合成で再現される音場がより現実的になるためである。
【0085】
以上のようなスピーカー配置によれば、左右スピーカーシステムm1,m2を、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない、概ね50°以内で見込むいずれの角度でも、リスナー左耳位置、右耳位置、ss1、および左スピーカー位置1Vで作られる第1の平行四辺形と、リスナー左耳位置、右耳位置、右スピーカー位置2V、およびss2で作られる第2の平行四辺形が常に合同になる。
したがって左スピーカー位置1Vと右サブスピーカーs2はともに、リスナー左耳を中心とする円B上にあるか、もしくはこれに等しい距離関係にあることになって、右サブスピーカーs2の2次クロストーク −kKLは、左スピーカー位置1VとなるユニットのLと左耳に同時到達して相殺される。並びに右スピーカー位置2Vと左サブスピーカーs1はともに、リスナー右耳を中心とする円C上にあるか、もしくはこれに等しい距離関係にあることになって、左サブスピーカーs1の2次クロストーク −kKRは、右スピーカー位置2VとなるユニットのRと右耳に同時到達して相殺される。
ただしこの場合には、上記右サブスピーカーs2のクロストークキャンセル信号 −kLは、上記左スピーカー位置1VとなるユニットのクロストークKLより右耳に、2a+S分先行到達し、並びに上記左サブスピーカーs1のクロストークキャンセル信号 −kRは、上記右スピーカー位置2VとなるユニットのクロストークKRより左耳に、2a+S分先行到達する。
しかし上記左右サブスピーカーs1,s2の再生音は、フィルター部f14,f24により、少なくとも上記到達誤差をともなっても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量に限定されるため、第三発明の実施形態のひとつにより2次クロストークを伴わずに、中低音域を中心としてクロストークキャンセルもまた成立する。
なおL,Rに共通のモノラル成分は近接する左スピーカー位置1Vとなるユニットと左サブスピーカーs1間、および近接する右スピーカー位置2Vとなるユニットと右サブスピーカーs2間で相殺されるため、中低音域のL,Rモノラル成分はクロストークキャンセルされない。また中高音域では左右スピーカーシステムm1,m2とリスナー両耳b,c間の一般的特性によりクロストークレベルは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳間の一般的特性、及び中低音域中心にL,Rモノラル成分以外をクロストークキャンセルする第三発明の実施例3の効果により、モノラル音像は左右スピーカーシステムm1,m2間に中央定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じず、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場が得られる。
【0086】
上記実施例3ではまた、上記位置ss1を、基準線D上の左スピーカー位置1Vに対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%、すなわち図9では水平方向に規定される領域101のうちで任意の距離g分、右に設け、また上記位置ss2を、基準線D上の右スピーカー位置2Vに対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%、すなわち図9では水平方向に規定される領域201のうちで任意の距離g分、左に設けることによっても実施される。
【0087】
これによって上記実施例3は、左右スピーカー位置1V,2Vに対して左右サブスピーカー位置ss1,ss2を両耳間隔E分の100〜150%のうち適切な距離とし、フィルター特性を適宜変更するか予め余裕を持たせておくことで、第ニ発明の実施例2のひとつの効果として 2−1)に記載したように、左右スピーカーシステムm1,m2を概ね50〜180°で配置した時にも、2次クロストークを生じずにクロストークをキャンセルできる。また 2−2)に記載したように、“2次クロストークによる音場強調効果”を利用できる。
さらに左右スピーカーシステムm1,m2を小さな角度で見込むにつれ、左右スピーカー位置1V,2Vに対して左右サブスピーカー位置ss1,ss2を両耳間隔E分の0〜100%のうち任意の距離とし、必要に応じてフィルター部のkを適宜変更することで、 2−3)に記載したように、ステレオフォニックの原理に矛盾しない範囲で、音場再現性は低下しがちなものの、安定的な音場を、広いリスニングエリアに供給できる。
【0088】
図9に示される第三発明の実施例3ではまた、左サブスピーカーs1に、L−nR(n>0)と表記できる、自由なL、R信号比nを持つL差信号オーディオ出力を逆相入力し、右サブスピーカーs2に、R−nL(n>0)と表記できる、自由なL,R信号比nを持つR差信号オーディオ出力を逆相入力しても差し支えなく、上記のようにステレオフォニックの原理に矛盾しない。ただしリスナーはL,Rそれぞれのモノラル成分以外を時間差をともなって2度聴くことになって、過渡特性は低下する。
なお上記差信号オーディオ出力と近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオの、リア左チャンネル出力を左サブスピーカーs1に、およびリア右チャンネル出力を右サブスピーカーs2に逆相入力しても、一定のサラウンド音場が再生可能である。これは上記リアチャンネルの多くが、L−nR、およびR−nLに準じた信号配分で収録されるためである。
【0089】
上記実施例3に示される左右サブスピーカーs1およびs2は、特定のステレオスピーカーシステムの専用スピーカーとして製作できる他、一般的ステレオスピーカーシステムに対して上記クロストークキャンセル効果を付加する、汎用サブスピーカーとして製作しても差し支えない。
【実施例4】
【0090】
図10において、第五発明の実施例4は、50のブロック図で示されるクロストークキャンセル回路である。
すなわちクロストークキャンセル回路50では、左オーディオ入力LをWとXとし、また右オーディオ入力RをYとZとし、上記W,Zをそれぞれディレイブロックに入力して、X,Yに対して、リスナーが左右スピーカー33,43を見込む角度に応じた距離差(a+aa)分の10%〜150%の範囲で任意の距離差h分のディレイ特性に設定、もしくは調整される。
一方上記X,Yはそれぞれフィルターブロックに入力し、W,Zに対して、相対的な次項記載のフィルター特性を持たせる。
上記ディレイブロックより出力されたWからは、上記フィルターブロックより出力されたYを減算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロックより出力されたZからは、上記フィルターブロックより出力されたXを減算して右オーディオ出力とすることで、実施例4では最も適切なクロストークキャンセル効果、および意図に応じた効果が得られる。
【0091】
上記フィルターブロックとは、クロストークキャンセル回路50の左右オーディオ出力を増幅し、リスナーから左右等距離、等角度に配置した左右スピーカー33,43で再生した場合において、左スピーカー33から右耳cに達するクロストークKLに対して、右スピーカー43のクロストークキャンセル信号 −kLが、少なくとも距離差2(a+aa)分、リスナー右耳cに先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺され、並びに右スピーカー43から左耳bに達するクロストークKRに対して、左スピーカー33のクロストークキャンセル信号 −kRが、少なくとも距離差2(a+aa)分、リスナー左耳bに先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域および出力レベル以内に、下記製作者もしくはユーザーの意図に応じてX,Yを限定するものである。
なお上記製作者もしくはユーザーの意図とは、リスニングエリアを限定してより高い周波数帯域までクロストークキャンセル効果を持たせる、あるいはリスニングエリアを広く取るために低い周波数帯域にのみ限定してクロストークキャンセル効果を持たせるといった意図である。
フィルターブロックは一般的にはローパス回路と減衰器ないしは減衰回路とからなり、またフィルターブロックでは上記フィルター特性を満たした上で、X,Yに自由な特性を持たせるものでもよく、自由な特性とは、例えばバンドパス特性や、複数のバンドパス特性を組み合わせることを含めた変則的なスロープ特性であって、またフィルターブロックは自由な回路等を含んでもよく、自由な回路等とは、例えばフィルターで位相回転を生じる場合にこれを補正する回路や、ユーザーがフィルター特性や減衰量を調整できる手段があげられる。
【0092】
なおクロストークキャンセル回路50は、図10に示されるように、上記回路出力をL,Rアンプで増幅し、左右スピーカー33,43で再生する場合には、上記のように左オーディオ出力と右オーディオ出力の2系統にまとめられる他、システム構成に応じて3系統以上のオーディオ出力としても差し支えない。
例えばマルチアンプを用いて、左右スピーカー33,43と共に、クロストークキャンセル用左右スピーカー33A,43Aで再生するシステム構成の場合、左右スピーカー33,43およびクロストークキャンセル用左右スピーカー33A,43Aがリスナーに対して等距離に配置されることを基準として、上記ディレイブロックから出力されたWを左オーディオ出力とし、および上記ディレイブロックから出力されたZを右オーディオ出力とし、又、上記フィルターブロックから出力されたYを逆相として、クロストークキャンセル用左オーディオ出力とし、および上記フィルターブロックから出力されたXを逆相として、クロストークキャンセル用右オーディオ出力とできる。
同様に、マルチアンプを用いて、左右スピーカー33,43とともに、センタースピーカー9でクロストークキャンセルするシステム構成の場合には、左右スピーカー33,43、およびセンタースピーカー9がリスナーに対して等距離に配置されることを基準として、上記ディレイブロックから出力されたWをLオーディオ出力とし、および上記ディレイブロックから出力されたZをRオーディオ出力とし、又、上記フィルターブロックから出力されたYとXを加算して逆相とし、センターチャンネル出力とできる。
なお3個以上のスピーカーを使用する場合、リスナーと各スピーカーの距離差に応じて、上記ディレイ特性を満たしながら、各チャンネルのリスナーへの到達時間を総合的に整合させる手段を含んでも差し支えない。
【0093】
クロストークキャンセル回路50を構成するフィルターブロックとディレイブロックそれぞれの回路は自由に設計されて差し支えない。なおフィルターブロックの帯域制限、減衰量は現在一般的なクロストークキャンセル回路より、通常はるかに大きくなるが、ディレイブロックの距離差(a+aa)分の遅延量自体は、現在一般的なクロストークキャンセル回路で作成されるディレイ特性に等しく、ブロック構成が全く異なるだけである。
クロストークキャンセル回路50は、上記ディレイ特性およびフィルター特性を満たした上で、自由な機能や回路を備えてよく、自由な機能や回路とは、例えば上記左右スピーカー33,43を見込む角度に応じてフィルター特性とディレイ特性を関連性を伴って変化させる機能や、リスナーと左右スピーカー33,43との位置関係やリスナーの顔面形状を特定する方法を備えて各特性が設定される機能や、再生音に疑似的な残響音を付加する回路があげられる。
また第五発明の実施例4において、ディレイ特性を(a+aa)の100〜150%のうち任意の値として前記“2次クロストークによる音場強調効果”を用いる場合、L,R再生音に2次クロストークが先行するにつれ、再生音場は両耳間に収束する傾向を持つ。したがって上記音場を両耳間に収束しないようX,Y、ないしはW,Zの位相を適宜回転させる回路を有しても差し支えない。
以上の自由な機能や回路の例は、クロストークキャンセル回路50が、上記ディレイ特性およびフィルター特性を満たした上で、矛盾なく備えられる機能や回路が多様であることの例示であって限定ではなく、クロストークキャンセル回路50は自由な機能や回路を備えて差し支えない。
【0094】
上記のように構成された図10に示される実施例4において、遅延量を距離差(a+aa)とした場合、クロストークキャンセル回路50の左オーディオ出力L−kRのうちLは、−kRに対して距離差(a+aa)分遅延し、また右オーディオ出力R−kLのうちRは、−kLに対して距離差(a+aa)分遅延することになる。
このため、上記左オーディオ出力L−kRをLアンプで増幅して、左スピーカー33で再生し、また右オーディオ出力R−kLをRアンプで増幅して、右スピーカー43で再生した場合、以下のように2次クロストークが相殺される。
すなわち図10に示されるように、左スピーカー位置iiで再生される −kRと、右スピーカー位置から(a+aa)分後方のjで再生されるRは、リスナー右耳cを中心とした前記偏円C上にともにあり、したがって −kRの2次クロストーク −kKRは、右耳cにRと同時到達して相殺される。並びに右スピーカー位置jjで再生される −kLと、左スピーカー位置から(a+aa)分後方のiで再生されるLは、リスナー左耳bを中心とした前記偏円B上にともにあり、したがって −kLの2次クロストーク −kKLは、左耳bにLと同時到達して相殺される。
ただしこの場合2次クロストークは相殺されるものの、左スピーカー位置より(a+aa)分後方のiから右耳cに達するクロストークKLに対して、右スピーカー位置jjから右耳cに達するクロストークキャンセル信号 −kLは、距離差2(a+aa)分、先行到達する。並びに右スピーカー位置より(a+aa)分後方のjから左耳bに達するクロストークKRに対して、左スピーカー位置iiから左耳bに達するクロストークキャンセル信号 −kRは、距離差2(a+aa)分、先行到達する。
しかし上記フィルターブロックにおいて、クロストークキャンセル信号となるX,Yを、W,Z再生音のクロストークより少なくとも2(a+aa)分先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域、出力レベルに限定しているために、実施例4の上記クロストークキャンセル回路の効果により、2次クロストークを伴わずに、中低音域を中心としてクロストークキャンセルもまた成立する。
なおクロストークキャンセル回路50出力のL−kRでは、L,Rに共通するモノラル成分中低音域では1ミリ秒(ms)程度の遅延量とほぼ無関係に逆特性となって、Lのモノラル成分中低音域は減衰し、−kRのモノラル成分中低音域は失われる。同様にR−kLでは、L,Rに共通するモノラル成分中低音域では1ミリ秒(ms)程度の遅延量とほぼ無関係に逆特性となって、Rのモノラル成分中低音域は減衰し、−kLのモノラル成分中低音域は失われる。
したがってL,R中低音域のモノラル成分はクロストークキャンセルされず、クロストークをともなって左右スピーカー33,43間に中央定位し、中低音域のL,Rモノラル成分以外のみがクロストークキャンセルされる。またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳間の一般的特性、及び中低音域中心にL,Rモノラル成分以外をクロストークキャンセルする第五発明の実施例4で得られる効果との相乗効果により、上記左右スピーカー33,43では、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じず、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場が得られる。
【0095】
図10に示される実施例4では、リスナーが左右スピーカー33,43を見込む角度、すなわちリスナーとスピーカーとの距離に応じて、遅延量を設定する必要がある。
しかし上記のように、L再生位置iと −kL再生位置jjがリスナー左前方の仮想的左ユニットXcLを円B上で等分したものとなり、またR再生位置jと −kR再生位置iiがリスナー右前方の仮想的右ユニットXcRを円C上で等分したものとなって、ステレオフォニックの原理に矛盾しない。したがって、リスナーが左右に移動した場合に、一般的クロストークキャンセルシステムで発生しがちな違和感を生じない。
またリスナーがスピーカー中央にいる時に、2次クロストークは両耳に、L,R再生音と同時到達する。したがってリスナーが左右へ移動した場合、移動した側の耳では、2次クロストークはL,R再生音より遅延して、移動側音場は左右スピーカー後方へ広がる傾向を生じる。また反対側の耳では2次クロストークがL,R再生音より先行到達して、反対側音場はリスナー側へ引き寄せられる傾向を生じる。
このためリスナーが左右へ移動した場合にも音場感が保たれやすく、音像および音場が近接側スピーカーにマスキングされにくい。そのため音場全体は移動方向へずれるものの、一定のサラウンド音場感を保ち、分解能が低下しにくい。
なお上記クロストークキャンセル効果は、リスナー後方でも矛盾なく成立する。
【0096】
なお、第五発明の実施例4において、WとZを、左右スピーカー33,43を見込む角度に応じた距離差(a+aa)分の100%〜150%ののうち任意のディレイ特性とした場合、L,R再生音に対して両耳b,cに2次クロストークが先行到達し、2−2)に記載したように、“2次クロストークによる音場強調効果”が得られ、小音量再生時に聴取しにくいサラウンド音場を聴取しやすくする効果を持つ。
またこの場合、第五発明の実施例4においては、再生音場は左右スピーカーからリスナー側へ引寄せられ、両耳間に収束する傾向となるため、上記X,Y、ないしはW,Zの位相を回転させて、再生音場をリスナー両耳間に収束しないよう、適宜変形しても差し支えない。
【0097】
いっぽうリスナーが左右スピーカー33,43を小さな角度で見込む場合、すなわち(a+aa)のうちaaが0となり、a自体も小さくなるにつれて、ディレイ特性を距離差(a+aa)分の10〜100%としても、2次クロストークが音場に与える影響は小さて済む。
またこの間においては、上記仮想的ユニットXcLがリスナー正面より左にあり、上記XcRがリスナー正面より右にあることになって、ステレオフォニックの原理に矛盾しない。
この場合、 2−4)に記載したように、ディレイ特性を距離差(a+aa)分とした場合に較べて音場再現性は低下しがちなものの、安定的な音場を、広いリスニングエリアに供給できる。
【0098】
なお図10では、上記第五発明の実施例4において、左オーディオ入力LをWとXに、また右オーディオ入力RをZとYに分割する場合のブロック図が示されるが、又、クロストークキャンセル回路50では、Wに左オーディオ信号Lを入力し、Zに右オーディオ信号Rを入力し、いっぽうXには、R−nL(n>0)と表記できる、自由なL,R信号比nを有するR差信号を逆相入力し、Yには、L−nR(n>0)と表記できる、自由なL,R信号比nを有するL差信号を逆相入力しても差し支えない。
【0099】
R差信号R−nLがXに逆相入力された時、フィルターブロック出力はk(nL−R)となり、同出力はZのディレイブロック出力Rから減算されるために、クロストークキャンセル回路50の右オーディオ出力はR+k(R−nL)となり、ただしR−knLにおいて差信号 −knLはRからL,Rに共通のモノラル成分を減算しない。並びにL差信号L−nRがYに逆相入力された時、フィルターブロック出力はk(nR−L)となり、同出力はWのディレイブロック出力Lから減算されるために、クロストークキャンセル回路50の左オーディオ出力はL+k(L−nR)となり、ただしL−knRにおいて差信号 −knRはLからL,Rに共通のモノラル成分を減算しない。
したがって上記出力をL,Rアンプで増幅し、左右スピーカー33,43で再生した場合に、L,R再生音のうちモノラル成分中低音域は減衰せずにクロストークをともない、聴感レベルは最大3dB程度上昇して左右スピーカー33,43間に中央定位する。
一方、ディレイ特性を距離差(a+aa)分とした時、左オーディオ出力、L+k(L−nR)のうちLと 差信号−nR間、および右オーディオ出力、R+k(R−nL)のうちRと 差信号−nL間では、モノラル成分が減衰しないこと以外、X,YにL,Rを入力した場合と同様にクロストークキャンセル効果を持つ。
また右スピーカー位置jjで再生される差信号kRのクロストークkKRは、左スピーカー位置iiで再生される差信号 −knRと距離差(a+aa)分のみ遅延して左耳に到達する。したがって(2a+aa)分の到達誤差をともなっても良好に相殺される周波数帯域、出力レベルに限定される双方は、良好にクロストークキャンセルされる。並びに、左スピーカー位置iiで再生される差信号kLのクロストークkKLは、右スピーカー位置jjで再生される差信号 −knLと距離差(a+aa)分のみ遅延して右耳に到達する。したがって(2a+aa)分の到達誤差をともなっても良好に相殺される周波数帯域、出力レベルに限定される双方は、良好にクロストークキャンセルされる。
【0100】
なお上記差信号を用いる場合にも、左スピーカーの(a+aa)分後方のiで再生されるLと、右スピーカー位置jjで再生される −knLが、リスナー左前方でLを再生する仮想的左ユニットXcLを左右等分したもので、並びに、右スピーカーの(a+aa)分後方のjで再生されるRと、左スピーカー位置iiで再生される −knRが、リスナー右前方でRを再生する仮想的左ユニットXcRを左右等分したものである関係は、差信号を用いない場合と変わらない。
いっぽう左右スピーカー位置iiとjjで再生されるkLと −knL間、および −knRとkR間では、偏円B,Cの交点でLおよびRの差信号を再生する新たな仮想的左右ユニットを左右等分した関係となる。新たな仮想的ユニットは、いわばワンポイントマイクと等価的といえ、両耳に対して左右逆転する矛盾を生じない。
ただしXおよびYに差信号を用いる場合、リスナーはL,Rそれぞれのモノラル成分以外を時間差をともなって2度聴くことになって、過渡特性は低下する。
なおXには、R−nLと近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオのリア右オーディオ信号を逆相入力し、およびYには、L−nRと近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオのリア左オーディオ信号を逆相入力することで、一定のサラウンド音場を得ることも可能である。これは上記リアチャンネルの多くが、L−nR、およびR−nLに準じた信号配分で収録されるからである。
【0101】
第五発明の実施例4は、図10において50で示されるクロストークキャンセル回路として実施されるが、その用途をステレオ再生装置に限るものではない。
例えば実施例4に50で示されるクロストークキャンセル回路はまた、スピーカーとリスナーの位置関係がある程度特定できる用途において、各種オーディオソース製作時に、収録音や製作音に一定のクロストークキャンセル効果を持たせられ、これによって製作された各種オーディオソースを再生する場合、一般的ステレオスピーカーを用いるオーディオシステムによって、再生音の一部、もしくは再生音全体にクロストークキャンセル効果を付加できる。
なお上記の各種オーディオソースとは、CDやDVDの音声、テレビ音声、映画音声、ラジオ、携帯用の小型無線電話機の音声に代表される、そこから音が得られる媒体を指すものであって、なお上記の例はそこから音が得られる媒体が多様であることの例示であって、媒体を限定するものではなく、例えば案内放送やカーナビゲーション(Satellite navigation system)の音声において再生音場を極端に変形し、例えばリスナーの耳元に音像を定位させて注意力を喚起したり、音によって方向を指示する用途にも使用できることになる。
【実施例5】
【0102】
第五発明の実施例4は、上記のようにステレオフォニックの原理に矛盾しない範囲で、マイクとスピーカーを等価的信号変換器とする。したがって上記原理による、図10では50で示されるクロストークキャンセル回路はまた、ディレイ特性をマイナスの距離差分とし、フィルターブロックより出力されたYおよびXを、ディレイブロックより出力されたWおよびZから減算する代わりに加算することで、ヘッドフォン用のクロストーク生成回路として応用でき、ステレオフォニックの原理に矛盾を生じない。
なお、WとZそれぞれを、XとYに対して任意の距離差 −(a+aa)分遅延させることは、XとYそれぞれをWとZに対して任意の距離差(a+aa)分遅延させることに等しい。
したがって上記クロストーク生成回路は、第五発明の実施例5として、図11にブロック図55で示すブロック構成としても差し支えない。
上記クロストーク生成回路55は、左オーディオ入力信号Lを、WとXとし、また右オーディオ入力信号Rを、YとZとし、
XとYそれぞれをディレイブロックに入力して、WとZに対して任意の距離差(a+aa)分遅延させ、かつXとYそれぞれをまたフィルターブロックにも入力して、WとZに対して上記到達誤差を生じてもコムフィルター現象および逆相感が大きくならない範囲で、任意に限定し、なおXとYが入力されるのはディレイブロックとフィルターブロック、いずれが先でもよく、
上記ディレイブロック並びにフィルターブロック双方を経たY出力を、Wに加算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロック並びにフィルターブロックの双方を経て出力されたXを、Zに加算して右オーディオ出力とすることで実施される。
なおまた第五発明の実施例5の構成は、上記基本構成を満たした上で自由な応用を許容する。
一例としては、例えばL,Rオーディオ信号を加算したL+Rから、差信号2L−R並びに差信号2R−Lを減算することで得られる、L,Rに共通するモノラル成分を、L,Rと任意の割合で混合してX,Yに入力し、中低音域のL,Rに共通するモノラル成分とモノラル成分以外のクロストーク量を相対的に変化させて生成する応用例が挙げられる。なお上記の例は一例であって、自由な応用を限定するものではない。
なお通常のステレオフォニック式収録音によって立体的なヘッドフォン音場が得られる上記回路は、音楽鑑賞用のヘッドフォンに用途が限られず、補聴器として用いる上でも有効性を持ち、その場合、2〜3kHz以下の周波数帯域において3次元的な音場再現性が得られるため、いわゆる骨伝導型ヘッドフォンとしても充分な音場再現性が得られる。
【0103】
なお第五発明の実施例4のクロストークキャンセル回路とその用途の例示、および実施例5に示す応用例とその用途の例示は、それが多様であることの例示であって限定ではない。したがって第五発明は多様な実施形態において、上記第一、第ニ発明と共通して有する、クロストークキャンセル帯域を限定することで2次クロストークを生じないクロストークキャンセル原理を用いて差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】第一発明の形態と、第ニ発明の副ユニット設置領域を示す斜視図である。
【図2】現在のクロストークキャンセル回路の基本構成を示すブロック図である。
【図3】“現行クロストークキャンセルシステム”をスピーカーに置き換えた場合のブロック図である。
【図4】SDA配置、およびリスナーとの関係を示す平面図である。
【図5】第一発明とリスナー両耳との関係、および第ニ発明の副ユニット設置領域を示す平面図である。
【図6】3ユニットによる実施例1を示すブロック図である。
【図7】アダプターリングの一例を示す斜視図である。
【図8】楕円柱状のエンクロージャーの一例を示す斜視図である。
【図9】実施例3と、サブスピーカーが設置される範囲を示す斜視図である。
【図10】実施例4のクロストークキャンセル回路を示すブロック図である。
【図11】実施例5クロストーク生成回路を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0105】
1 左主ユニット
11 3ユニット構成の左ユニット
101 左副ユニットの設置領域
1A 左副ユニット
1AA 左サブスピーカーのユニット
1V 左スピーカー位置
2 右主ユニット
21 3ユニット構成の右ユニット
201 右副ユニットの設置領域
2A 右副ユニット
2AA 右サブスピーカーのユニット
2V 右スピーカー位置
3,31〜33 左スピーカーシステム
4,41〜43 右スピーカーシステム
5,50 クロストークキャンセル回路
55 クロストーク生成回路
6,7 リスナー両耳間を中心に1ss,2ssまでを半径とする垂直の円
8 センターユニット
a 左右再生音が一方の耳位置に到達する時の、直線で計測される距離差
aa 左右再生音の一方が頭部を回り込むための距離差
AR1,AR2 アダプターリング
b 左耳位置
B bを中心とする円、および偏円
BL 直線bc上の −kL再生位置
BR 直線bc上のR再生位置
c 右耳位置
C cを中心とする円、および偏円
CL 直線bc上のL再生位置
CR 直線bc上の−kL再生位置
D,D1,D2 両耳を結ぶ線に平行な直線(基準線)
E 両耳間隔
f11〜14 左フィルター部
f21〜24 右フィルター部
i L再生位置
ii −kR再生位置
j R再生位置
jj −kL再生位置
m1,m2 任意のステレオ左右スピーカーシステム
o 円B,偏円Bと基準線D,D1の左側の交点
p 円C,偏円Cと基準線D,D1の左側の交点
q 円B,偏円Bと基準線D,D1の右側の交点
r 円C,偏円Cと基準線D,D1の右側の交点
s1,s2 左右サブスピーカー
ss1,ss2 仮想的左右サブスピーカー位置
VcL,VcR CCS配置の仮想的左右ユニット
VsL,VsR SDA配置の仮想的左右ユニット
W L信号側
X Lを加工するクロストークキャンセル信号側
XcL,XcR 第四発明の仮想的左右ユニット
XsL,XsR 第一発明の仮想的左右ユニット
Y Rを加工するクロストークキャンセル信号側
Z R信号側
【技術分野】
【0001】
本発明はステレオスピーカーのクロストークを、2次クロストークを伴わずに低減し、サラウンド音場を再生するための、ステレオスピーカー、およびクロストークキャンセル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりステレオ再生の理想は、人の両耳間隔に近く設置されたペアマイクによって、収録現場の音を、L,R音量差情報と位相差情報とともに収録し、収録音を低歪みで伝達、増幅して、上記ペアマイクと等価的な信号変換器で再生して、ペアマイクと上記信号変換器とを聴感上相殺し、リスナーが自身の耳で収録現場の音を聴取するに等しくすることだとされてきた。
【0003】
上記方法にバイノーラルがある。ダミーヘッドに取り付けた左右2個のマイク収録音をヘッドフォン再生し、マイクとヘッドフォンが等価的な信号変換器となって相殺された時、リスナーは自身の両耳で収録現場の音を聴取するに等しい。
なおバイフォニックはステレオ収録音をヘッドフォン再生するもので、ペアマイクとヘッドフォンは等価的ではないため、再生音場は頭内定位をともない狭小となる。この頭内定位を回避するため、再生音に頭部伝達関数(HRTF)に基づくフィルター特性を持たせる技術がある。
【0004】
一方ステレオフォニックは、リスナー前方の左右等距離、等角度に2個のスピーカーを設置し、ステレオ収録音を両耳で聴取するものである。ステレオ収録音は通常L,Rチャンネル共通の同一成分(当明細書では以下これを、モノラル成分、と表記する)と、モノラル成分以外のL,R成分を含み、リスナーは左右スピーカーが再生するモノラル成分のクロストークでスピーカー間の中央定位を認識し、上記中央定位を基準ベクトルとし、モノラル成分以外のL,R音量差情報と位相差情報とのベクトル合成によって、立体的な音場定位を認識する。
【0005】
しかしステレオスピーカーを小さな角度で見込むと、モノラル成分以外のL,R成分のクロストークが増加し、再生音場は左右スピーカー間に矮小化される。
上記傾向の改善のため、ステレオスピーカーは、ITU−R推奨の60°といった大きな角度で見込むよう配置される。これにより頭部遮蔽効果でクロストークが低下すると、ステレオスピーカーは一定のサラウンド音場も再生する。しかし低音域ほどクロストークは残存し、再生音場はスピーカー間に歪められ、中、大型楽器の大きさが再現されない。また左右スピーカーを大きな角度で見込むほど、左右スピーカーそれぞれが発する音は時間差をともなって両耳に聴取され、過渡特性が低下する。
なお中、大型楽器の大きさは、大口径ウーファーでのみ再現されると考える当業者は多い。
【0006】
そこで、上記クロストークを打ち消し、ステレオソースが本来含むサラウンド音場再生を目的としたクロストークキャンセルシステムが多数商品化されてきた。
図2に示される、基本的なクロストークキャンセル回路5では、左オーディオ入力LをWとXとし、右オーディオ入力RをYとZとして、XとYを、WとZに対して遅延させ、かつフィルター特性を持たせた後、XをZから減算して右オーディオ出力とし、YをWから減算して左オーディオ出力とする。
なお出力の仕方は上記2チャンネルに限られず、左右ステレオスピーカー以外に、クロストークキャンセル用スピーカーを用いる場合、それに応じて、上記クロストークキャンセル回路5の出力は3チャンネル以上となる。ただし3チャンネル以上としたスピーカー構成では、リスナー両耳との関係性はそれぞれ異なるため、本明細書では、クロストークキャンセル回路5の左右オーディオ出力を、増幅し、ステレオスピーカーで再生する方式にのみ触れる。
【0007】
リスナーに対して等距離、等角度の左右それぞれのスピーカーから遠方側の耳に再生音が到達するとき、頭部遮蔽効果や耳介の構造で生じるフィルター特性を変数K(当明細書では以下同様に表記)とし、これに応じてクロストークキャンセル信号に付加される、通常Kとは異なるフィルター特性を変数k(当明細書では以下同様に表記)とする。又、左右スピーカー双方からリスナーの一方の耳位置に再生音が到達する時の、直線で計測される距離差を変数a(当明細書では以下同様に表記)とし、また左右スピーカー再生音の一方が頭部を回り込むためにaに加算される距離差を変数aa(当明細書では以下同様に表記)とする。
上記変数K,k,aおよびaaを用いれば、ステレオスピーカーのうち左スピーカーのクロストークキャンセル信号 −kRは、L再生位置から(a+aa)分後方で発せられたように遅延した時に、右スピーカーのクロストークKRとリスナー左耳へ同時到達して、相殺される。同様に右スピーカーのクロストークキャンセル信号 −kLは、R再生位置から(a+aa)分後方で発せられたように遅延した時に、左スピーカーのクロストークKLとリスナー右耳へ同時到達して、相殺される。
図2に示される、L,R再生音に対してクロストークキャンセル信号 −kR,−kLを遅延させるクロストークキャンセル回路の左右オーディオ出力を、増幅し、リスナーから左右等距離、等角度に配置したステレオスピーカーで再生する装置を、現行クロストークキャンセルシステム(当明細書では以下同様に表記)とする。現行クロストークキャンセルシステムは、多くの場合、入力信号に前記頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を持たせる音場補正技術を併用して広く販売されていて、多くのメーカーは、上記クロストークキャンセルシステムが、“ヘッドフォンのように”Lチャンネルを左耳のみに聴取させ、またRチャンネルを右耳のみに聴取させると、特許文献やユーザーへの紹介文で説明している。
【0008】
図2において、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて距離差(a+aa)分の遅延がつねに満たされれば、L再生位置から(a+aa)分後方の−kR再生位置とR再生位置はともに、リスナー左耳bを中心とし、なお左右スピーカーを一定角度以上で見込むとき左側に膨らむ偏円B(当明細書では以下同様に表記)上にあることになる。同様に、R再生位置から(a+aa)分後方の−kL再生位置とL再生位置はともに、リスナー右耳cを中心とし、なお左右スピーカーを一定角度以上で見込むとき右側に膨らむ偏円C(当明細書では以下同様に表記)上にあることになる。
なお平面図に記載される偏円B,Cの膨らみは略記であり、個人差の大きい実際の膨らみとは異なる。また平面図には、以下、 1)〜 4)の4経路の再生音のみを、矢印を付した直線で記入し、以降の図でも比較のためこれに倣う。
1)左スピーカー再生音のうちL。
2)上記Lがフィルター特性Kをともなって右耳に聴取されるクロストークKL。
3)右スピーカー再生音のうちクロストークキャンセル信号 −kL。
4)上記−kLがフィルター特性Kを伴って左耳に聴取される、クロストークキャンセル信号のクロストーク(当明細書では以下これを、2次クロストーク、と表記する)−kKL。
図2で上記4経路は、左スピーカーで発せられたクロストークKLと右スピーカー(a+aa)分後方で発せられたクロストークキャンセル信号 −kLがリスナー右耳に同時到達し、この時Lは距離差(a+aa)分、左耳を通り越していて、また2次クロストーク −kKLは、さらに距離差(a+aa)分を要するために、左耳より(a+aa)分、手前に達していることを示す。
【0009】
現行クロストークキャンセルシステムでは、クロストークキャンセル信号のフィルター特性kは通常、クロストークのフィルター特性Kより帯域制限される。これは逆相関係のクロストークとクロストークキャンセル信号間では、波長の長い低音ほど到達時間差があっても良好に相殺されるが、波長の短い高音ほど、到達時間差を許容しないことから、リスニングエリアを極端に限定しないためには、クロストークキャンセル信号の高域をKより制限した方が実用的だからである。
【0010】
一方、クロストークはステレオスピーカーとリスナー両耳間で生じるにも係わらず、外部機器に依存せず、スピーカーシステム自体で実施できる、実用的なクロストークキャンセル技術は一般化していない。
図3に、ステレオスピーカーシステムで現行クロストークキャンセルシステムの機能を置換した場合の、構成、およびリスナーとの関係を示す。図3に示すように、ステレオスピーカーシステムで現行クロストークキャンセルシステムの機能を置換する場合、以下の構成を要する。
すなわち左スピーカーシステム3では、Lを再生する少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを左主ユニットと表記)1と、Rをフィルター部により左主ユニット1に対し相対的に帯域制限、減衰して逆相再生する、少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを左副ユニットと表記)1Aを要する。又、右スピーカーシステム4では、Rを再生する少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを右主ユニットと表記)2と、Lをフィルター部により右主ユニット2に対し相対的に帯域制限、減衰して逆相再生する、少なくとも1個のスピーカーユニット(当明細書では以下これを右副ユニットと表記)2Aを要する。
上記フィルター部の特性は可変とすることが理想だが、固定されても一定効果を有する。ただし上記左右主、副ユニットは、リスナーが左右スピーカーシステム3,4を見込む角度に応じて、リスナー両耳に対して、適切な前後距離差を要し、クロストークを常にキャンセルするには、左主ユニットと右副ユニットが、偏円C上に位置し、また右主ユニットと左副ユニットが、偏円B上に位置すべきである。
【0011】
現行クロストークキャンセルシステムの機能を4ユニットで置き換えた、上記図3の左右主、副ユニット配置をCCS配置(当明細書では以下同様に表記)とする。CCS配置では、副ユニットのフィルター特性kは、ネットワークやアッテネーター等の一般的スピーカー製作技術で容易に満たせる。しかし左右スピーカーを見込む角度ごとに、主ユニットに対して副ユニットを(a+aa)分、適切に後退させることは難しい。
【0012】
左右スピーカーシステムのユニット配置により、上記距離差(a+aa)分のうちa分の遅延量を、概ね50°以下で左右スピーカーを見込む時、つねに満たす先行技術が従来より開示されている。
図4に示すように、上記技術によれば、リスナー両耳を結ぶ直線に平行する直線(当明細書では以下、上記直線を、基準線、と表記する)、すなわち基準線D1上でリスナーから左右等距離、等角度の左側のpに左主ユニット1が配置され、また右側のqに右主ユニット2が配置される。又、上記左主ユニット1からリスナー両耳間隔E分左のoに左副ユニット1Aが配置され、また上記右主ユニット2からリスナー両耳間隔E分右のrに、右副ユニット2Aが配置される。
このとき第1の平行四辺形bcpoと、第2の平行四辺形bcrqは合同となるから、ob=qb=pc=rcである。
この関係は、偏円B,Cが膨らみを持たない範囲では、基準線D1を上下に動かしても変わらず、obとqbはリスナー左耳bを中心とする正円Bの半径となり、またpcとrcはリスナー右耳cを中心とする正円Cの半径となる。したがって、共に正円C上の左主ユニットのクロストークKLと、右副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kLは、常に右耳cに同時到達し、また共に正円B上の右主ユニットのクロストークKRと、左副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kRは、常に左耳bに同時到達する。
当明細書では上記4ユニット配置を以下、SDA配置と表記する。
なおSDA配置では、仮に正円Bを上記偏円Bに置き換え、また正円Cを上記偏円Cに置き換えて、基準線D1と偏円Cとの左、右の交点に左主ユニットと右副ユニットを位置させ、また基準線D1と偏円Bとの右、左の交点に右主ユニットと左副ユニットを位置させるものとすれば、距離差(a+aa)分を満たして、任意の角度でクロストークキャンセルすることになる。
【0013】
図には示さないが、上記SDA配置で、基準線D1をリスナーから遠ざけていくと、円B,Cの交点で左右主ユニットが1個に重なり、この時、交点から両耳間隔左に左副ユニットが位置し、また交点から両耳間隔右に右副ユニットが位置する。
これと近似的なユニット配置で、上下に重ねた2ユニットで(L+R)を再生し、左副ユニットで左差信号2(L−R)を再生し、また右副ユニットで右差信号2(L−R)を再生する、いわゆる“マトリックススピーカー”があり、“マトリックススピーカー”で一定のサラウンド効果が得られることは、当業者に知られる。
【0014】
一方、ステレオスピーカーがクロストークを伴うように、現行クロストークキャンセルシステムは2次クロストークを伴う。
2次クロストークは図2の現行クロストークキャンセルシステムでは、左スピーカーのLから(a+aa)分遅延する −kRがさらに距離差(a+aa)分を要し、頭部遮蔽効果でさらにK分のフィルター特性をともない −kKRとなって右耳に聴取され、又、右スピーカーのRから(a+aa)分遅延する −kLがさらに距離差(a+aa)分を要し、頭部遮蔽効果でさらにK分のフィルター特性をともない −kKLとなって左耳に聴取されるものである。
すなわち現行クロストークキャンセルシステムでは、2次クロストークはL,Rから距離差2(a+aa)分遅延して左右の耳に到達する。
【0015】
2次クロストークは図4のSDA配置でも、左副ユニットからリスナー右耳へ到達する −kKR、および右副ユニットからリスナー左耳へ到達する −kKLとして生じる。
SDA配置では −kRおよび −kLがL,R再生位置より基準線上で両耳間隔外側である分、2次クロストークの遅延量はCCS配置より大きくなる。この差をS(当明細書では以下同様に表記)とし、SDA配置でも基準線と偏円B,Cとの交点に左右主、副ユニットを配置して距離差(a+aa)分を満たすものとすれば、SDA配置では2次クロストークは、L,Rから距離差2(a+aa)+S分遅延して左右の耳へ到達することになる。
【0016】
ただし図2の現行クロストークキャンセルシステム、および図4のSDA配置は、リスナー両耳b,cを結ぶ直線上では共に、偏円Cとの左側の交点CLで、Lを、偏円Bとの左側の交点BLで、−kRを再生し、また偏円Bとの右側の交点BRで、Rを、偏円Cとの右側の交点CRで、−kLを再生する。
この時aは両耳間隔E分となってSは0となり、現行クロストークキャンセルシステムとSDA配置は等しくなる。
またこの時、偏円B,Cの膨らみを含めない半径を両耳間隔E分とすれば、現行クロストークキャンセルシステムとSDA配置はともに、左耳位置bでLを再生し、L再生音が頭部を回り込み右耳cにも達するクロストークを、右耳cから等距離右で再生する −kLでキャンセルすることになる。また同様に右耳位置cでRを再生し、R再生音が頭部を回り込み左耳bにも達するクロストークを、左耳bから等距離左で再生する −kRでキャンセルすることになる。
すなわち両者はともに、密閉型ヘッドフォンと同義的な構造となる。ただしこの時、2次クロストークの遅延時間もまたL,Rから距離差2(E+aa)分で最大となる。
【0017】
すなわち、直線bc上ではヘッドフォン構造と同義的に、CLとBLで再生されるLと −kR、およびBRとCRで再生されるRと −kLを、現行クロストークキャンセルシステムとSDA配置は、以下方法で、リスナー前方で再生するものと見なせる。
すなわち現行クロストークキャンセルシステムは、左耳bを起点とする直線上でLを再生し、その後方で −kRを再生し、また右耳cを起点とする直線上でRを再生し、その後方で −kLを再生して、上記2直線を両耳b,cを中心に回転させる構造によって、左右スピーカーを180°以下で見込めるようにする。
またSDA配置は、基準線D1を前方へ平行移動させる構造によって、左右スピーカーを、距離差aa分が大きくならない概ね50°以下で見込めるようにする。
Sは、上記構造の違いによって生じるものである。
【0018】
クロストークは、左右スピーカーを小さく見込むほど、再生音場を左右スピーカーを結んだ直線上に矮小化する。いっぽう2次クロストークは、現行クロストークキャンセルシステムでは左右スピーカーを大きな角度で見込むほど、再生音場を、左右スピーカー後方側にのみ非現実的に拡大する。
なお上記SDA配置では、音場は左右スピーカーを結ぶ直線の延長線上で、左右にのみ非現実的に拡大する。音場変形の上記違いは、小型スピーカー4個を図2、図4に準じて配置してステレオ再生すれば、容易に確認可能である。
【0019】
そこで音場が歪められないよう、現行クロストークキャンセルシステムには、2次クロストークの影響を軽減する技術が併用される。
例えば、クロストークキャンセルシステムにおいて2次クロストーク(−kKLおよび−kKR)を、さらに反対側スピーカーの2次クロストークキャンセル信号(kkLおよびkkR)で相殺し、そのばあい2次クロストークキャンセル信号がさらに反対側の耳で聴取される3次クロストーク(kkKLおよびkkKR)を、反対側スピーカーからの3次クロストークキャンセル信号(−kkkLおよび−kkkR)で相殺する……と、高次のクロストークキャンセル信号を演算して生成し、一定時間次々と左右スピーカーで再生して相殺する技術がある。
なお現在一般的には、入力信号に頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を与える音場補正技術が併用される。上記技術はバイフォニックで頭内定位をともなって狭小となる音場を、バイノーラルに近づける技術に類し、2次クロストークで失われる、リスナーを包囲する音場感を得るものである。
クロストークキャンセル技術に上記頭部伝達関数(HRTF)にもとづく音場補正技術を併用した技術は、一般にバーチャルサラウンド技術と呼ばれる。バーチャルサラウンド技術を用いたシステムは、前方2スピーカーで包囲感を含む音場を再生する。ただし上記システムを販売する大多数のメーカーは、リアスピーカーを用いるマルチチャンネルサラウンドステレオシステムでは、より現実的なサラウンド音場が得られると、ユーザーに説明している。
また上記バーチャルサラウンドシステムより、適切に設置された2チャンネルステレオシステムの再生音の方が現実的だと感じるユーザーは多く、実際に高度なマニア向けのステレオスピーカーシステムの試聴には、通常2チャンネルステレオが用いられる。
【0020】
特許文献1は、クロストークキャンセルが、“あたかもヘッドフォンで聴取するような効果を与える”と説明される一例である。
特許文献2は、SDA配置のスピーカーにおいて、左右副ユニットで差信号成分を再生する1980年代の先行技術である。
特許文献3は、特許文献2の技術に頭部伝達関数(HRTF)にもとづく音場補正技術を併用する、2007年に特許公開された技術である。
特許文献4は、クロストークキャンセル時に生じる高次のクロストークを、一定時間次々とクロストークキャンセルしていく技術である。
非特許文献1は、1980年代に販売された、特許文献2にもとづく技術を用いたスピーカーシステムである。なおこの商品説明にも、クロストークキャンセル効果によってL,R再生音が“ヘッドフォンのように(like headphones)Lチャンネルは左耳に、Rチャンネルは右耳にのみ聴取される”と表現されている。
非特許文献2は、オーディオ評論家の故長岡鉄男氏の製作になる、いわゆる“マトリックススピーカー”の一例である。
【特許文献1】特開2007−202139号広報『音像定位装置』(JP.A) 明細書0003項
【特許文献2】米国特許 第4489432号明細書『METHOD AND APPARATUS FOR REPRODUCING SOUND HAVING A REALISTIC AMBIENT FIELD AND ACOUSTIC IMAGE』
【特許文献3】特表2007−510334(P2007−510334A)号広報(JP.A)『前方配置ラウドスピーカからのマルチチャネルオーディオサラウンドサウンドシステム』
【特許文献4】特開平11−187497号広報(JP.A)『音像音場制御装置』請求項1
【非特許文献1】米国Polk Audioホームページ内、SDA1BおよびSDA−SRSのカタログ http://www.polkaudio.com/search/older.php
【非特許文献2】音楽之友社『長岡鉄男のオリジナル・スピーカー設計図4 こんなスピーカー見たことない 図面集編3』 2002年 P176〜P177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
現行クロストークキャンセルシステムは、2次クロストークを生じて音場を歪め、またリスナーが左右一方へ移動した時に、逆相感をともなって音場が移動方向と反対側へ大きく振られる。なお2次クロストークは、3個以上のスピーカーを用いるクロストークキャンセルシステムでも、L,R再生音に対する遅延時間は異なるが、やはり生じる。そこでクロストークキャンセル技術には通常、入力信号に頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を与える音場補正技術が併用され、上記SDA配置を用いるスピーカーシステムにもまた、現在では上記音場補正技術が併用されている。
しかし大多数のメーカーが認めるように、クロストークキャンセル技術に上記音場補正技術を併用する、いわゆるバーチャルサラウンド技術で得られる音場と比較した時、サラウンド音場では、リアスピーカーを用いるマルチチャンネルサラウンドシステムの方が現実的であり、ステレオ再生では、良質のステレオスピーカーシステムの方が現実的である。
すなわち、本来ステレオスピーカーのクロストークを低下させることを目的としたクロストークキャンセル技術は、単体の技術としても、他の技術を併用しても、クロストークを低下させることによって、一般的ステレオスピーカーに対して明らかな優位性を持つとは言い難い。
これはクロストークキャンセルによって生じる2次クロストークのためであって、また2次クロストークにより歪められる音場を、現在クロストークキャンセル技術に併用される音場補正技術で、充分に補正されないためである。
しかしクロストークは元々、ステレオスピーカーとリスナー両耳間で生じるものである。したがってステレオスピーカー自体がクロストークを低下させる効果を持ち、その際、2次クロストークを伴わなければ、そのスピーカーがクロストークを伴うスピーカーに対して優位性を持つことは明らかである。
なおステレオスピーカーで2次クロストークを伴わずに成立するクロストークキャンセル技術であれば、他の方法で実施した場合にも、同様に矛盾を生じないクロストークキャンセル効果が得られることになる。
【0022】
(2次クロストークの発生原因 1)
2次クロストーク発生原因は、図4に示すSDA配置のスピーカーシステムでは以下のように説明できる。
なお上記正円B,Cは以下、単に円B,Cと表記する。
図4に示される上記SDA配置では、右主ユニットと左副ユニットは、基準線D1と円Bとの右側の交点qおよび左側の交点oにあり、また左主ユニットと右副ユニットは、基準線D1と円Cとの左側の交点pおよび右側の交点rにある。
リスナーが左右スピーカーシステム3、4を見込む角度を変えることは、基準線を前後に移動し、左右それぞれの主、副ユニット間隔を両耳間隔Eに保ったまま円B、円Cそれぞれとの2つの交点を見込む角度を変えることに等しい。そこで基準線D1を、リスナー左耳正面で円Bと接し、またリスナー右耳正面で円Cと接する基準線D2とする。
この時、左主ユニットと右副ユニットは、ともに円C上にある条件を保ったまま右耳正面の仮想的左ユニットVsL(SDA配置の仮想的左ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なり、また右主ユニットと左副ユニットは、ともに円B上にある条件を保ったまま左耳正面の仮想的右ユニットVsR(SDA配置の仮想的右ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なる。
【0023】
すなわち任意の基準線D1上の左主ユニット(L)と右副ユニット(−kL)は、リスナー右耳正面でLを再生する、両耳に対して左右逆転したVsLを、クロストークキャンセルの目的で、Lを再生する左ユニットと −kLを再生する右ユニットに、円C上で左右等分したものと見なせる。
したがってVsL自体がLを再生する場合2次クロストークを生じないが、円C上で、すなわち右耳に対して左右等分した左主ユニットと右副ユニットは、左耳に対しては右副ユニットの方が2a+S分遠く、左主ユニットのLが左耳に到達したあと、右副ユニットの −kLが距離差2a+S分遅延して左耳に達する2次クロストーク、−kKLとなる。
同様に、任意の基準線D1上の右主ユニット(R)と左副ユニット(−kR)は、リスナー左耳正面でRを再生する両耳に対して左右逆転したVsRを、クロストークキャンセルの目的で、Rを再生する右ユニットと −kRを再生する左ユニットに、円B上で左右等分したものと見なせる。
したがってVsR自体がRを再生する場合2次クロストークを生じないが、円B上で、すなわち左耳に対して左右等分した左副ユニットと右主ユニットは、右耳に対しては左副ユニットの方が2a+S分遠く、右主ユニットのRが右耳に到達したあと、左副ユニットの −kRが距離差2a+S分遅延して右耳に達する2次クロストーク、−kKRとなる。
【0024】
(2次クロストークの発生原因 2)
一方現行クロストークキャンセルシステムの2次クロストーク発生原因は、以下のように説明できる。
現行クロストークキャンセルシステムの再生音を4ユニットで置き換えた、図3に示す上記CCS配置のスピーカーシステムにおいて説明する。
CCS配置の左主ユニットを偏円C上で、また右主ユニットを偏円B上で等角度ずつ、リスナーが見込む角度を絞っていくと、両者は偏円B,Cの交点で重なる。このとき左耳bと左主ユニットを通る直線上で後方の左副ユニット、および右耳cと右主ユニットを通る直線上で後方の右副ユニットもまた、偏円B,Cの交点で重なる。
これは左主ユニットと右副ユニットがともに偏円C上にある条件を保ったまま仮想的左ユニットVcL(CCS配置の仮想的左ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なり、また右主ユニットと左副ユニットがともに偏円B上にある条件を保ったまま仮想的右ユニットVcR(CCS配置の仮想的右ユニットを、当明細書では以下同様に表記)として重なったものと見なせる。
すなわちCCS配置は、リスナー正面の偏円B,Cの交点でLを再生する仮想的左ユニットVcLを、クロストークキャンセルの目的でLを再生する左ユニットと −kLを再生する右ユニットに、偏円C上で分割し、またRを再生する仮想的右ユニットVcRを、クロストークキャンセルの目的でRを再生する右ユニットと −kRを再生する左ユニットに、偏円B上で分割したことになる。
【0025】
リスナー正面の上記VcL,VcRも、実使用時には両耳に対して左右が逆転する。すなわちVcL,VcRを左右ユニットに分割するため、左主ユニットを偏円C上で、また右主ユニットを偏円B上で、左右等角度に広げる。この時、偏円B,Cそれぞれの中心が両耳間隔ずれているために、VcL,VcRは以下のようにずれる。
1)右耳cと偏円B上の右主ユニットを結ぶ直線上で、偏円Cとの交点にある右副ユニット位置は、偏円C上で左右主ユニット位置より大きく移動する。そのため左右主ユニットを左右に振り分けるにつれ、偏円C上で左主ユニットと右副ユニットの中点となるVcLは右にずれる。
2)左耳bと偏円C上の左主ユニットを結ぶ直線上で、偏円Bとの交点にある左副ユニット位置は、偏円B上で左右主ユニット位置より大きく移動する。そのため左右主ユニットを左右に振り分けるにつれ、偏円B上で右主ユニットと左副ユニットの中点となるVcRは、左にずれる。
リスナー右側でLを再生する両耳と左右逆転したVcL自体は、2次クロストークを生じない。しかしVcLを偏円C上で、すなわち右耳cに対して左右等分した左主ユニットと右副ユニットは、左耳bに対しては右副ユニットの方が左主ユニットよりほぼ2(a+aa)分遠く、L到達後に −kLがほぼ距離差2(a+aa)分遅延して左耳に達する2次クロストーク、−kKLとなる。
またリスナー左側でRを再生する両耳と左右逆転したVcR自体は、2次クロストークを生じない。しかしVcRを偏円B上で、すなわち左耳bに対して左右等分した右主ユニットと左副ユニットは、右耳cに対しては左副ユニットの方が右主ユニットよりほぼ2(a+aa)分遠く、R到達後に −kRがほぼ距離差2(a+aa)分遅延して右耳に達する2次クロストーク、−kKRとなる。
なおCCS配置の −kRおよび −kL再生位置である左右副ユニットが実際の位置なのに対して、現行クロストークキャンセルシステムの −kRおよび −kL再生位置iiおよびjjはスピーカー後方の仮想的位置である。このために現行クロストークキャンセルシステムでは、L,Rに対する2次クロストークの遅延時間は2(a+aa)分となる。
【0026】
図4のSDA配置、図3のCCS配置、いずれにおいても、リスナー右前方でLを再生する仮想的左ユニットは、偏円C上で、Lを再生する左主ユニットと −kLを再生する右副ユニットに分割される。またリスナー左前方でRを再生する仮想的右ユニットは、偏円B上で、Rを再生する右主ユニットと −kRを再生する左副ユニットに分割される。
この時、−kL,−kRはL,Rとベクトル合成されてサラウンド定位を作るため、ステレオ音場が左右逆転するわけではない。しかし位相差情報は混乱して2次クロストークを生じ、またリスナーが左右一方へ移動した時に、音場が移動方向と反対側へ大きく振られる現象を生じる。
上記現象は、当業者が知るように、リスナーが両耳間隔の半分程度左右へ移動した位置でもっとも大きくなるのであって、上記位置は、現行クロストークキャンセルシステムの、左右逆転する上記仮想的左ユニットXcLもしくは上記仮想的右ユニットXcRの正面である。すなわちリスナーが一方へ移動した時、近接側主ユニットの聴感上の音量が上昇するのに反して、XcLおよびXcR正面では位相上、リスナーは反対側ユニットの正面位置へ移動したに等しく、左右音量差情報が左右位相差情報と矛盾して、音像と音場が反対方向へ振られるのである。
上記矛盾はSDA配置、CCS配置、およびCCS配置と概ね等しい現行クロストークキャンセルシステムで、同様に生じる。
【0027】
(従来技術の矛盾点)
仮想的ユニットが両耳に対して左右逆転し、2次クロストークを生じる矛盾は、現行クロストークキャンセルシステムの技術が、“ヘッドフォンのように”、Lチャンネルをリスナー左耳にのみ、またRチャンネルをリスナー右耳にのみ聴取させることを目的とした原理により生じる。
“ヘッドフォンのように”という表現は、遅くとも1980年代以来、多くのメーカーが用いている。しかし表現通りならクロストークキャンセルシステムは、バイノーラル収録以外のステレオ収録ソースで、バイフォニック相当となり、頭内定位をともなう狭小な音場しか得らない。しかし現行クロストークキャンセルシステムは“ヘッドフォンのような”音場を再生しない。
【0028】
特に大口径ではないコーン型スピーカーユニットをバッフルを用いずに再生すると、指向性に応じて500〜1kHz前後以下の中低音域(当明細書では以下、500〜1kHz前後以下の周波数帯域を指して中低音域と表記し、500〜1kHz前後以上の周波数帯域を指して中音域、または中高音域と表記する)では音圧レベルは一部にピークをともなうが全体として大幅に低下する。
上記現象は、エンクロージャーを持つスピーカーA,Bを近接して逆相再生しても同様である。また上記スピーカーA,Bに対して一定距離をとってエンクロージャーを持つスピーカーCで上記正相音または逆相音を再生した場合、スピーカーCは、リスニングポイントに係わらず、スピーカーA,Bの影響を受けずに中低音域を良好に再生する。
すなわち逆相音は、波長の長い低音域ほど、多少の到達時間差と無関係に、近接スピーカー間で自己完結的に打ち消し合い、上記スピーカーA,B間で正相音か逆相音のいずれかが過多とならなければ、遠方のスピーカーC再生音に影響しない。
したがって、図3のCCS配置と図4のSDA配置、いずれも左右それぞれ近接する主、副ユニット間で、中低音域のL,Rに共通するモノラル成分は相殺され、リスナー両耳との距離にかかわらず、反対側スピーカーの、中低音域モノラル成分のクロストークはキャンセルされない。
【0029】
一例として、CCS配置ないしはSDA配置の左右主ユニットに対し、左右副ユニットの中低音域レベルを −3dBにした場合の、中低音域を説明する。
この場合、左主、副ユニット間でLと −kRに共通のモノラル成分が相殺され、左副ユニットの −kRはモノラル成分を失い、左主ユニットLのモノラル成分もまた −3dBとなる。又、右主、副ユニット間でもRと −kLに共通のモノラル成分が相殺され、右副ユニットの −kLはモノラル成分を失い、右主ユニットRのモノラル成分もまた −3dBとなる。
しかし右主ユニットのモノラル成分はクロストークにより聴感レベルは −3dBから0dB程度に上昇して中央定位し、いっぽうモノラル成分以外のRはクロストークキャンセルされて、聴感レベルは0dBのままとなる。又、左主ユニットのモノラル成分はクロストークにより聴感レベルは −3dBから0dB程度に上昇して中央定位し、いっぽうモノラル成分以外のLはクロストークキャンセルされて、聴感レベルは0dBのままとなる。
なお左右副ユニットの中低音域レベルを主ユニットに対して −3dB〜0dBとすれば、近接する主、副ユニット間でモノラル成分が過剰に相殺され、聴感レベルが低下するが、この間も左右副ユニットモノラル成分は失われ、主ユニットのモノラル成分はスピーカー間に中央定位する。また左右副ユニットの中低音域レベルを −3dB以下にしても、左右副ユニットモノラル成分はやはり失われ、左右主ユニットのモノラル成分はスピーカー間に中央定位する。
つまり現行クロストークキャンセルシステムは、一般的ステレオスピーカーが中低音域ではモノラル成分かそれ以外かに係わらずクロストークを生じ、聴感レベルが3dB程度上昇するに対して、中低音域レベルを低下させヘッドフォンに似た再生バランスにでき、またモノラル成分以外のL,Rをクロストークキャンセルできるが、モノラル成分はクロストーク、すなわちスピーカー位置情報をともない、スピーカー間に中央定位するのである。
【0030】
中低音域のモノラル成分がスピーカー間に中央定位することは、現行クロストークキャンセル回路でも同様である。
中低音域では、左オーディオ信号LからkRを減算し、また右オーディオ信号RからkLを減算する時、一方を1ミリ秒(ms)程度遅延させても波形はほぼ逆特性となり、モノラル成分は相殺され、クロストークキャンセル信号のモノラル成分は失われ、L,R中低音域のモノラル成分も減衰する。したがって左右スピーカー再生音L,Rのうちモノラル成分はkに応じてレベル低下するが、左右スピーカー間に定位する。
なおクロストークキャンセル信号として、L,R差信号を用いる回路では、差信号のL、R配分に応じてモノラル成分が除外されるため、モノラル成分はやはりスピーカー間に中央定位する。
【0031】
一方、一般的ステレオスピーカーでは、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、中高音域でクロストークが低下し、サラウンド再生も可能である。すなわちクロストークは、スピーカー位置情報を伴いにくい程度にまで低下しうる。
ただしこれはL,Rに共通するモノラル成分かそれ以外かには係わらない。
したがって一般的ステレオスピーカーもまた、リスナーとスピーカーの距離に応じた中央定位は、左右スピーカーを大きな角度で見込む場合にも低減しにくい、L,R中低音域のクロストークで主に得ていて、上記中低音域の中央定位を基準に、クロストークが少ないL,R中高音により、サラウンド音場をともないうるステレオ定位を得ていることになる。
【0032】
つまり、現行クロストークキャンセルシステムと一般的ステレオシステムには、モノラル成分以外のL、R中低音域のクロストーク量以外は、相対的な違いしかない。実際に、オンマイク収録された中央ボーカルは、双方ともに左右スピーカー間に定位するのであり、現行クロストークキャンセルシステムもまた、一般的ステレオシステム同様、ステレオフォニックの原理に準じていることになる。
したがって現行クロストークキャンセルシステムが、上記のように両耳を結ぶ直線上でヘッドフォン同様の効果を得ようとして有する、両耳と左右逆転する仮想的ユニットを左右等分したに等しい上記構造は、前方の左右スピーカーを両耳で聴取するステレオフォニックの原理に反し、位相上の混乱を生じ、クロストークキャンセル技術単独で現実的な再生音が得られないのである。
また現行クロストークキャンセルシステムがステレオフォニックに準じ、オンマイク収録された中央ボーカルが頭内定位しない以上、バイフォニック相当の音場をバイノーラル相当の音場に置換する必然性はない。したがって入力信号に頭部伝達関数(HRTF)にもとづくフィルター特性を与える音場補正技術は、2次クロストーク歪で変形される再生音場を、リスナーを包囲するようさらに変形させる技術であることになり、現行クロストークキャンセルシステムの上記矛盾を解消しない。
【0033】
(課題)
ステレオ再生の理想を考慮すれば、ステレオスピーカーは、リスナーの両耳間隔に設置したペアマイク(当明細書では以下これを『両耳間隔ペアマイク』と表記する)と等価的な信号変換器になり、マイクとスピーカーが聴感上相殺されることで、リスナーが自身の両耳で収録音を聴くに等しくし、したがってサラウンド情報を含めた、収録現場の音像と音場を現実的に認識させることができると考えられる。
ただしステレオフォニックでは、上記のように中低音域の少なくともモノラル成分は、左右スピーカー間に中央定位する。そのためマイクとスピーカーが聴感上相殺された場合、リスナーが認識する上記収録現場の音像と音場は、スピーカーとの距離に応じてリスナーから遠ざかり、リスナーがスピーカーに近付かなければ、中央ボーカルが目前に定位することはない。
【0034】
しかしながら現在のステレオスピーカーは、適切に設置されれば中高音域ではクロストークが少なく、一定のサラウンド音場を含むものの、中低音域では、クロストークにより再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線上に歪められ、過渡特性が低下し、楽器の大きさや現実的な音場が再現されず、リスナー両耳間隔に設置したペアマイクと等価的とは言えない。
一方現行クロストークキャンセルシステムもまた、2次クロストークを生じ、音像と音場が非現実的に歪められ、両耳間隔ペアマイクと矛盾する。また現在クロストークキャンセル技術に併用される音場補正技術は、上記矛盾を解消しない。
そこで当発明は、一般的スピーカーユニットを用いるステレオスピーカーシステムであって、上記両耳間隔のペアマイクと等価的な信号変換器に近く、ステレオスピーカーでクロストークレベルが高くなる中低音域を中心としたL,Rに共通するモノラル成分以外のクロストークを、2次クロストークをともなわずに低減することによって、サラウンド音場を含めたステレオ音場を良好に再生して、なおかつ一般的ステレオアンプで駆動でき、また左右スピーカーの設置角度に応じて多様なスピーカーユニット配置を許容して、広く製品化可能なクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムの実現を課題とし、又、一般的ステレオスピーカーの、中低音域を中心とするクロストークを低減し、2次クロストークを生じない、クロストークキャンセル方法を提供することをも課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0035】
以上の課題を解決するために、第一発明はステレオスピーカーシステムであって、
左スピーカーシステムは、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(左主ユニット)と、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(左副ユニット)および上記左副ユニットに接続される左フィルター部とを具備することによって、上記左主ユニットで左オーディオ出力Lを再生し、また上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記左副ユニットで右オーディオ出力Rを逆相再生し、
並びに、右スピーカーシステムは、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(右主ユニット)と、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(右副ユニット)および上記右副ユニットに接続される右フィルター部とを具備することによって、上記右主ユニットで右オーディオ出力Rを再生し、また上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記右副ユニットで左オーディオ出力Lを逆相再生し、
上記左右スピーカーシステムがリスナーに対して左右等距離かつ等角度となる時に、左主ユニット、左副ユニット、右副ユニットおよび右主ユニットがリスナー両耳を結ぶ直線と平行する直線上に配置されることを前提条件として、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左主ユニットと左副ユニット間、および右主ユニットと右副ユニット間の高低差を許容し、
左スピーカーシステムでは、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に設け、
また右スピーカーシステムでは、上記右主ユニットに対して上記右副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に設けるものとして、
上記構成により2次クロストークをキャンセルした場合に、左主ユニット再生音のクロストークより右副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右副ユニット再生音を限定し、並びに、右主ユニット再生音のクロストークより左副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左副ユニット再生音を限定したことを特徴とする、クロストークキャンセルステレオスピーカーシステムである。
【0036】
第ニ発明は、0035項に記載のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムにおいて、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に設け、また上記右主ユニットに対して前記右副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に設けたことを特徴とするクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムである。
【0037】
第三発明は、クロストークキャンセル方法であって、任意のステレオスピーカーシステムの、リスナーに対して左右等距離かつ等角度に配置される、左スピーカーシステムで左オーディオ出力Lを再生し、および右スピーカーシステムで右オーディオ出力Rを再生し、
又、少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される左フィルター部とを具備する左サブスピーカーにおいて、右オーディオ出力Rを、上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、並びに少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される右フィルター部とを具備する右サブスピーカーにおいて、左オーディオ出力Lを、上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、
上記左サブスピーカーの再生帯域を主に再生する左スピーカーシステムのユニットを左スピーカー位置(当項では以下同様に表記)とし、また上記右サブスピーカーの再生帯域を主に再生する右スピーカーシステムのユニットを右スピーカー位置(当項では以下同様に表記)とした場合、
左スピーカー位置、左サブスピーカー、右サブスピーカーおよび右スピーカー位置を直線上に配置し、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左スピーカー位置と左サブスピーカー間、および右スピーカー位置と右サブスピーカー間の高低差を許容して、
上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に配置し、
また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に配置するものとして、
上記構成によって2次クロストークをキャンセルした場合に、左スピーカーシステム再生音のクロストークより右サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右サブスピーカー再生音を限定し、並びに、右スピーカーシステム再生音のクロストークより左サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左サブスピーカー再生音を限定し、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【0038】
第四発明は、0037項に記載のクロストークキャンセル方法において、上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に配置し、また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に配置することを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【0039】
第五発明は、クロストークキャンセル方法であって、リスナーに対して等距離かつ等角度の左右スピーカーから、リスナーの一方の耳位置に再生音が到達するときの直線で計測される距離差を変数a(以下同様に表記)とし、リスナーが左右スピーカーを大きな角度で見込む時に、左右スピーカー再生音の一方がリスナー頭部を回り込むことでaに加算される距離差を変数aa(以下同様に表記)とする場合、
左オーディオ入力信号Lを、WとXとし、また右オーディオ入力信号Rを、YとZとして、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の10〜150%のうち任意の距離差h分遅延させ、またXとYそれぞれをフィルターブロックに入力して、W,Zに対して相対的に周波数帯域と出力レベルを制限して、
上記ディレイブロックより出力されたWから、上記フィルターブロックより出力されたYを減算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロックより出力されたZからは、上記フィルターブロックより出力されたXを減算して右オーディオ出力とし、
なお上記左右オーディオ出力を増幅し、リスナーから左右等距離かつ等角度に配置された左右スピーカーで再生して2次クロストークをキャンセルした場合、Wのクロストークよりクロストークキャンセル信号Xが、リスナー右耳に先行到達し、またZのクロストークよりクロストークキャンセル信号Yが、リスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域および出力レベル以内に、上記フィルターブロックによりXとYを限定することで、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【0040】
第六発明は、0039項に記載のクロストークキャンセル方法において、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の80〜120%のうち任意の距離差h分遅延させることを特徴とするクロストークキャンセル方法である。
【発明の効果】
【0041】
(クロストークキャンセルステレオスピーカーシステム)
上記のように構成された第一発明のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムによれば、左右スピーカーシステムを、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない、概ね50°以内で見込むいずれの角度でも、リスナー左耳位置、右耳位置、左副ユニット位置および左主ユニット位置で作られる第1の平行四辺形、およびリスナー左耳位置、右耳位置、右主ユニット位置および右副ユニット位置で作られる第2の平行四辺形が合同になる。したがって左主ユニットと右副ユニットはともに、リスナー左耳を中心とする円B上にあるため、右副ユニットの2次クロストーク −kKLは、左主ユニットのLと左耳に同時到達して相殺される。又、右主ユニットと左副ユニットはともに、リスナー右耳を中心とする円C上にあるため、左副ユニットの2次クロストーク −kKRは、右主ユニットのRと右耳に同時到達して相殺される。
ただしこの場合2次クロストークは生じないが、右耳に対しては、左主ユニットのクロストークKLより、右副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kLは2a+S分先行到達し、また左耳に対しては、右主ユニットのクロストークKRより、左副ユニットのクロストークキャンセル信号 −kRは2a+S分先行到達する。そこでクロストークキャンセル信号を、少なくとも上記到達誤差をともなっても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量に限定することによって、第一発明の上記クロストークキャンセルステレオスピーカーシステムにより、2次クロストークを伴わずに、中低音域のクロストークキャンセルもまた成立する。
なお上記のように、近接する左主、副ユニット間および右主、副ユニット間で、Lと −kRおよびRと −kLのうちL,Rに共通するモノラル成分は相殺されるため、左主ユニットのL再生音および右主ユニットのR再生音のうち中低音域のモノラル成分はクロストークをともなう。またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性、および中低音域モノラル成分以外のL,Rクロストークをキャンセルする第一発明の効果により、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じない。
【0042】
上記SDA配置とは左右それぞれの主、副ユニットが逆転する構成を持つ、上記第一発明のユニット配置は必然的に、リスナー左耳正面でLを再生する仮想的左ユニットXsL(SDA配置の仮想的左ユニットVsLと左右逆転する仮想的左ユニットを、当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、左耳を中心にXsLまでを半径とする円B上で左右等分して、左主ユニットでLを再生し、右副ユニットで−kLを再生したに等しい。
又、リスナー右耳正面でRを再生する仮想的右ユニットXsR(前記SDA配置の仮想的右ユニットVsRと左右逆転する仮想的右ユニットを、当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、右耳を中心にXsRまでを半径とする円C上で左右等分して、右主ユニットでRを再生し、左副ユニットで−kRを再生したに等しい。
【0043】
リスナー左耳正面でLを再生するXsLと、リスナー右耳正面でRを再生するXsRは、上記両耳間隔ペアマイクと等価的な信号変換器といえ、両者が相殺された時、リスナーは収録現場で、ステレオマイクと同等の特性を持つ自身の両耳で音像および音場を聴くに等しい。ただし中低音域のクロストークでスピーカー間の中央定位が決定するステレオフォニックの原理に従って、リスナーとスピーカーの距離に応じて、聴感上、各音源はマイクから遠ざかことになる。
したがって第一発明のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムは、収録ソースおよびスピーカー配置に応じて、概ね全再生帯域でサラウンド音場をともなう音像と音場を再生し、中低音域の過渡特性に優れ、左右音量差情報および位相差情報が混乱を生じないためにサラウンド音場はリスナーを自然に包囲して現実的で、中、大型楽器の大きさを適切に再現する。
また両耳間隔ペアマイクと近似的な各種ペアマイク収録音や、マルチトラック収録音を主にL,R音量差でステレオ定位させた収録音、各種マルチチャンネルサラウンドステレオをアナログエンコードしたステレオソースも、3次元的に再生する。
【0044】
上記第一発明は、一般的スピーカーユニットを用い、ステレオアンプで使用できるステレオスピーカーシステムである。したがって汎用性に優れ、信号経路が単純なためコストパフォーマンスに優れる製品を製作でき、かつ高度な音質と音場再現性を追求できる。またステレオ初期の収録ソースに本来含まれている3次元的で広々とした音場を現実的に、かつ過渡特性の向上でニュアンス豊かに再生する。
【0045】
(クロストークキャンセル方法)
以上の効果はまた、第五発明の方法で構成されたクロストークキャンセル回路出力を、増幅し、リスナーに対して左右等距離かつ等角度に配置した一般的ステレオスピーカーで再生した場合にも近似的となる。
ディレイブロックの遅延量を距離差(a+aa)とした場合を例に、第五発明の効果を記載する。
上記クロストークキャンセル回路の、左オーディオ出力L−kRのうちLは、−kRより(a+aa)分遅延し、また右オーディオ出力R−kLのうちRは、−kLより(a+aa)分遅延する。したがって左右オーディオ出力を増幅し、左右スピーカーで再生した時、右スピーカー位置で再生される −kLと左スピーカー位置より(a+aa)分後方で再生されるLは、リスナー左耳から等距離となり、−kLが左耳に達する2次クロストーク−kKLは、左耳にLと同時到達して相殺される。又、左スピーカー位置で再生される −kRと右スピーカー位置より(a+aa)分後方で再生されるRは、リスナー右耳から等距離となり、−kRが右耳に達する2次クロストーク−kKRは、右耳にRと同時到達して相殺される。
ただしこの場合2次クロストークは生じないが、右耳に対しては、左スピーカーの(a+aa)分後方で再生されるクロストークKLより、右スピーカー位置で再生されるクロストークキャンセル信号 −kLの方が、2(a+aa)分先行到達する。また左耳に対しては、右スピーカーの(a+aa)分後方で再生されるクロストークKRより、左スピーカー位置で再生されるクロストークキャンセル信号 −kRの方が、2(a+aa)分先行到達する。
そこでクロストークキャンセル信号を、少なくとも上記到達誤差をともなっても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量に限定することによって、第五発明の方法で構成された上記クロストークキャンセル回路出力を、増幅し、上記ステレオスピーカーで再生することにより、2次クロストークを伴わずに、中低音域でクロストークキャンセルもまた成立する。
なお上記クロストークキャンセル回路の、左オーディオ出力L−kRではL,Rに共通するモノラル成分の中低音域は相殺され、また右オーディオ出力R−kLではL,Rに共通するモノラル成分の中低音域は相殺されるため、中低音域のモノラル成分はクロストークをともなう。またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性、および中低音域モノラル成分以外のL,Rクロストークをキャンセルする第五発明の効果により、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じない。
【0046】
第五発明の方法で構成されたクロストークキャンセル回路出力を増幅し、左右等距離かつ等角度のスピーカーで再生して、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて距離差(a+aa)分の遅延量がつねに満たされたとする。この場合、リスナー左耳を中心とする偏円B上に、左スピーカーのL再生位置と、右スピーカーの −kL再生位置がともにあり、またリスナー右耳を中心とする偏円C上に、右スピーカーのR再生位置と、左スピーカーの −kR再生位置がともにあることになる。
ただし偏円B,Cの中心が両耳間隔ずれているために、リスナーが左右スピーカーを見込む角度を広げるにつれ、偏円C上の左スピーカー位置の −kRより、その(a+aa)分後方で偏円B上となるL再生位置の方が大きく移動し、また偏円B上の右スピーカー位置の −kLより、その(a+aa)分後方で偏円C上となるR再生位置の方が大きく移動する。このため左右スピーカーを見込む角度を広げるにつれ、偏円B上のL再生位置と −kL再生位置の中点は偏円B、Cの交点から左にずれ、また偏円C上のR再生位置と −kR再生位置の中点は偏円B、Cの交点から右にずれる。
したがって上記ステレオシステムにおいて、上記偏円B上のL再生位置と −kL再生位置は、その中点でLを再生する仮想的左ユニットXcL(CCS配置の仮想的左ユニットVcLと左右逆転する仮想的左ユニットを当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、偏円B上で左右等分したものといえ、又、上記偏円C上のR再生位置と −kR再生位置は、その中点でRを再生する仮想的右ユニットXcR(CCS配置の仮想的右ユニットVcRと左右逆転する仮想的右ユニットを当明細書では以下同様に表記)を、中低音域で2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルする目的で、偏円C上で左右等分したものといえる。
Lを再生する上記XcLはリスナー正面より左にずれ、またRを再生する上記XcRはリスナー正面より右にずれることから、XcL,XcRは両耳間隔ペアマイクと近似的といえる。
したがって両者が近似的な信号変換器となって相殺された時、リスナーは収録現場で、ステレオマイクと同等の特性を持つ自身の両耳で音像および音場を聴くに等しい。ただし中低音域のクロストークでスピーカー間の中央定位を決定するステレオフォニックの原理に従って、リスナーとスピーカーの距離に応じて、聴感上、各音源はマイクから遠ざかことになる。
【0047】
第五発明のクロストークキャンセル回路は、現在一般的なクロストークキャンセル回路のブロック構成を変更し、フィルター回路の特性を調整するだけでも容易に実施可能であり、2次クロストークで音場が歪められないため頭部伝達関数(HRTF)に基づくフィルターで原音を加工する必要がなく、回路の簡素化によりコストパフォーマンスに優れる製品を製作でき、かつ高度な音質と音場再現性を追求できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
図1,5に第一発明の実施形態のひとつを示す。
図1は第一発明の実施形態のひとつを斜視図で示し、共通の記号で示される図5は第一発明の実施形態のひとつの左右スピーカーシステムとリスナーとの関係を示した平面図である。
第一発明はステレオスピーカーシステムであり、その実施形態のひとつにおいて、左スピーカーシステム31は左主ユニット1と、左副ユニット1Aおよび左副ユニット1Aに接続されるフィルターf11を具備する。また右スピーカーシステム41は、右主ユニット2と、右副ユニット2Aおよび右副ユニット2Aに接続されるフィルターf21を具備する。
図1,5では左右スピーカーシステム31,41のエンクロージャーを左右に分離した形状の一例を示すが、左右スピーカーシステム31,41はまた左右一体型としたり、テレビやパーソナルコンピューター、一体型ステレオシステムに代表される各種音響機器に内蔵されても差し支えない。なお上記の例は各種音響機器が多様であることの例示であり各種音響機器を限定するものではない。
【0049】
上記実施形態のひとつでは左主ユニット1、左副ユニット1A、右主ユニット2、および右副ユニット2Aのそれぞれが個別の信号系統を有する。そのため信号系統ごとの構成要素をそれぞれ、左主ユニット1側、左副ユニット1A側、右主ユニット2側、および右副ユニット2A側(当明細書ではいずれも以下同様に表記)と区別する。
このとき左オーディオ出力Lは、左主ユニット1側に入力されて直接左主ユニット1に接続され、また右副ユニット2A側にも入力されフィルター部f21を経て再生帯域と音量が制限されて、右副ユニット2Aに逆相接続される。並びにこのとき、右オーディオ出力Rは、右主ユニット2側に入力されて直接右主ユニット2に接続され、また左副ユニット1A側にも入力されフィルター部f11を経て再生帯域と音量が制限されて、左副ユニット1Aに逆相接続される。
【0050】
上記フィルターf11は、右主ユニット2のクロストークKRに対して、左副ユニット1Aのクロストークキャンセル信号−kRが左耳に、少なくとも距離差2a+S分先行到達しても、逆相感を生じず良好に相殺される再生帯域、音量以内に、左右スピーカーシステム31,41を見込む角度と下記製作に応じて、上記左副ユニット1Aで逆相再生されるRを限定するもので、並びに上記フィルターf21は、左主ユニット1のクロストークKLに対して、右副ユニット2Aのクロストークキャンセル信号−kLが右耳に、少なくとも距離差2a+S分先行到達しても、逆相感を生じず良好に相殺される再生帯域、音量以内に、左右スピーカーシステム31,41を見込む角度と下記製作意図に応じて、上記右副ユニット2Aで逆相再生されるLを限定するもので、一例としては同一の主、副ユニット間で、副ユニットに対してカットオフ300Hzの一次ローパスフィルターと−6dBのアッテネーターを用いて得られる特性を例示できる。なお上記特性は当業者の理解を容易にするための、多様に設定しうる特性の一例であって限定ではない。
なお上記製作意図とは例えばリスニングポイントを限定して比較的高い周波数帯域までクロストークキャンセル効果を持たせる、またはリスニングポイントを限定しないよう、再生帯域ないしは音量をより制限するといった意図を指す。
フィルターf11およびf21は一般的にはローパス回路と減衰器とからなるが、双方が必須とは限らない。例えば副ユニットがユニット特性やエンクロージャーの構造によりローパス特性を備える場合には、必ずしもローパス回路を要しない。また主、副ユニット間で、能率の違いや、インピーダンスの違いや、ユニット数の違いにより実質的に主ユニットの音圧レベルが副ユニットを上回れば、必ずしも減衰器を必要としない。
要するにフィルター部は、総合的なL,R再生音に対して副ユニット再生音を、相対的に帯域制限、減衰させることを目的とするのであり、したがってフィルター部f11,f21では、主、副ユニット間での相対的なフィルター特性を満たした上であれば、さらに自由な特性や回路等を持っても差し支えない。自由な特性や回路等とは、一例として左右副ユニットのバンドパス特性や変則的なスロープ特性や、フィルターにより位相回転を生じる場合にこれを補正する回路や、リスナーがフィルター特性や減衰量を調整できる手段を指す。なお上記は自由な特性や回路等の一例であって限定ではない。
また主、副ユニット間での相対的なフィルター特性を満たした上であれば、フィルター部f11,f21に加えて、左右主ユニットと左右副ユニットの一方か双方にローブースト特性を持たせる等、スピーカーに応じた固有の音作りがなされても差し支えない。
なおフィルターf11およびf21の機能は、マルチアンプを用いて自由な外部機器、例えばサウンドプロセッサーやイコライザーで置換しても差し支えなく、また上記アンプおよび上記外部機器が左右スピーカーシステム31,41に内蔵されても差し支えない。
上記構成により、左スピーカーシステム31の左主ユニット1はLを、左副ユニット1Aは −kRを同時再生し、また右スピーカーシステム41の右主ユニット2はRを、右副ユニット2Aは −kLを、同時再生する。
【0051】
上記構成を有する左右スピーカーシステム31,41は、リスナーに対して左右等距離かつ等角度となる時に、左主ユニット1、左副ユニット1A、右副ユニット2Aおよび右主ユニット2がリスナー両耳b,cを結ぶ直線と平行する直線上、すなわち基準線D上に位置するよう配置されることを前提条件として、左スピーカーシステム31では、上記左主ユニット1に対して上記左副ユニット1Aがリスナー両耳間隔Eに略等しい距離、右に設置され、並びに右スピーカーシステム41では、上記右主ユニット2に対して上記右副ユニット2Aがリスナー両耳間隔Eに略等しい距離、左に設置される。
この場合図5で示すように、リスナー左耳bと右耳cと左副ユニット1A位置pおよび左主ユニット1位置oで作られる、第1の平行四辺形bcpoは、リスナー左耳bと右耳cと右主ユニット2位置rおよび右副ユニット位置qで作られる、第2の平行四辺形bcrqと合同となる。したがって左右スピーカーシステム31,41を、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない、概ね50°以内で見込むいずれの角度でも、ob=qb=pc=rcが成立し、o,qは左耳bを中心とする円B上にあり、p,rは右耳cを中心とする円C上にあることになる。このため上記左主ユニット1のLと上記右副ユニット2Aの −kLは、左耳bに同時到達して2次クロストークを生じず、また上記右主ユニット2のRと上記左副ユニット1Aの −kRは、右耳cに同時到達して2次クロストークは相殺される。
ただしこの時には、上記左主ユニット1のLに対して、上記右副ユニット2Aの −kLは右耳bには、上記のように2a+S分先行到達し、また上記右主ユニット2のRに対して、上記左副ユニット1Aの −kRは左耳bには、上記のように2a+S分先行到達する。
しかし、上記フィルターf11およびf21によって、左右副ユニットのクロストークキャンセル信号は、少なくとも上記到達誤差をともなっても、逆相感を生じず良好に相殺される再生帯域、音量に限定されている。
したがって第一発明の実施形態のひとつでは、中低音域を中心としてクロストークキャンセルが成立し、2次クロストークを生じない。
なおこの時、略両耳間隔で近接する左右それぞれの主、副ユニット間で、L,Rに共通するモノラル成分中低音域が相殺されて、モノラル成分中低音域はクロストークキャンセルされずにスピーカー間に中央定位し、またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳との上記一般的特性、および中低音域モノラル成分以外のL,Rクロストークをキャンセルする第一発明の実施形態のひとつの効果により、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じず、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場が得られる。
【0052】
このとき上記リスナー両耳間隔とは、通例17cmとして用いられる、リスナー左耳位置とリスナー右耳位置を直線で結んだ距離を指す。ただしリスナーの年齢差、性差、個人差を考慮してより適正に用いられることが望ましく、例えば幼児向けの製品では、左右主、副ユニット間隔を17cmより小さい、適切な距離としても差し支えない。また当明細書の図では便宜上、スピーカーユニット位置は振動板位置として作図するが、スピーカーユニット位置は、当業者間で一般に用いられているボイスコイル位置とすることが望ましい。
なおスピーカーユニットの向きは自由でよく、また例えば、基準線D上で上記リスナー両耳間隔に略等しい距離を取った主、副ユニット位置を仮想的発音位置とし無指向性ユニット、もしくは複数のユニットを組み合わせて無指向性に近付けたユニットが配置されても差し支えない。
なお図1に示される上記左右スピーカーシステム31,41の形状は、主、副ユニット間隔を適切に取る形状の一例を示すものであって限定ではなく、左右スピーカーシステム31,41は自由な形状で製作でき、また上記左右主、副ユニットの一方または双方は、マルチウェイユニットを含む複数ユニットとしても差し支えない。
【0053】
SDA配置とは左右それぞれの主、副ユニットが逆転する構成となる、上記のユニット配置は必然的に、リスナー左耳b正面でLを再生する仮想的左ユニットXsLを、左耳bを中心にXsLまでを半径とする円B上で左右等分して、左主ユニット1でLを再生し、右副ユニット2Aで −kLを再生したに等しい。又、リスナー右耳c正面でRを再生する仮想的右ユニットXsRを、右耳cを中心にXsRまでを半径とする円C上で左右等分して、右主ユニット2でRを再生し、左副ユニット1Aで −kRを再生したに等しく、前記両耳間隔ペアマイクと等価的な信号変換器と見なせる。
【0054】
いっぽう上記左右スピーカーシステム31,41は近接配置されても上記仮想的左右ユニットXsL,XsRは両耳間隔のままである。
なお副ユニット1A,2Aは反対側主ユニット2,1に近付くにつれ、近接側主ユニットとL,Rに共通するモノラル成分を相殺されるだけではなく、モノラル成分以外も同様に相殺されて、中低音域のクロストークは増加する。ただしクロストークとクロストークキャンセル信号の到達誤差2a+S自体が小さくなる分、副ユニットの再生帯域はより高音域へ広げられ、クロストークキャンセルの成立する帯域は狭められない。したがってフィルター部f11,f21の特性を角度に応じて調整すれば、クロストークキャンセルによる音場再生効果が失われることはない。
【0055】
なお図5に示される第一発明の実施形態のひとつにおいて、基準線上で左右それぞれの主、副ユニット1と1Aおよび2と2Aを、両耳間隔に略等しくすることは、リスナー左耳bに対して左主ユニット1と右副ユニット2Aを等距離とし、またリスナー右耳cに対して右主ユニット2と左副ユニット1Aを等距離とするのが目的である。したがって上記基準線上に各ユニットが配置された時の、リスナー左耳bとの距離関係が略保たれれば、左主ユニット1と右副ユニット2A間に高低差があっても差し支えなく、またリスナー右耳cとの距離関係が略保たれれば、右主ユニット2と左副ユニット1A間で高低差があっても差し支えない。
すなわちリスナー両耳との距離が略保たれれば、左主ユニット1と左副ユニット1A間、および右主ユニット2と右副ユニット2A間の高低差を許容することになる。
このため大型ユニットを使用する場合にも、主ユニット1,2に対して副ユニット1A,2Aを斜め上、または斜め下となるように設置することにより、左右それぞれの主、副ユニット、1と1A、2と2A間の相対的な水平距離を両耳間隔に略等しい距離に設置することは容易である。
【0056】
リスナーが上記左右スピーカーシステム31,41を、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが増大する、概ね50°以上で見込む場合、クロストークがクロストークキャンセル信号より遅延し、また同時に2次クロストークがL,R再生音より遅延する。
上記のうち2次クロストークがL,R再生音より遅延することは、上記左右副ユニット1A,2Aが、上記左右主ユニット1,2より距離差aa分後退することに等しい。したがってそれに応じて上記左右主ユニットもまた距離差aa分後退させた場合、L,R再生音に対して2次クロストークは遅延しなくなる。
ただしこの場合、上記のうちクロストークはクロストークキャンセル信号よりさらに遅延することになる。そのため、上記到達誤差の増加があっても逆相感を伴わず、良好に相殺される再生帯域、音量に左右副ユニット再生音を限定すればいいことになる。
したがって上記左右スピーカーシステム31,41をaaの大きくなる角度で見込む場合に対して、リスナーがフィルター特性を変化させ、左右主ユニット1,2をaa分後退させる自由な方法が講じられても差し支えない。
【0057】
リスナーがフィルター特性を変化させることは、コイルのインダクタンスを切り替えたり、アッテネーターを操作できればよく、容易である。
また左右主ユニット1,2をaa分後退させる方法の一例には、左右スピーカーシステム31,41を、基準線Dに対して適宜外向きに設置する方法が挙げられ、これにより一定範囲のaaの増加に対して微調整が可能となる。
また別の一例としては、aaの増加分、左右副ユニット1A、2Aを基準線Dに対してリスナーに近付けてもいいことから、左右スピーカーシステム31,41を特定の角度で見込む場合の、aa分の厚みを持つアダプターリングあるいはサブバッフル等の介在物を用意することによって、上記介在物なしにユニットを取り付ければ左右スピーカーシステム31,41を概ね50°以内の自由な角度で見込め、また上記介在物を介してユニットをバッフルに取り付けることにより、概ね50°以上の特定の角度で見込む設置も可能とする方法を取っても差し支えない。
なお逆に、リスナーの両耳間隔が小さい場合、例えばリスナーが子供である場合は、主、副ユニットを略両耳間隔とした左右スピーカーシステム31,41を基準線に対して内側に向けて設置したり、上記介在物を介して左右主ユニット1、2をバッフルに取り付けて調整しても差し支えない。なお上記の例は一例であって、左右スピーカーシステム31,41を見込む角度、もしくはリスナーの両耳間隔に応じた微調整の方法を限定するものではない。
【0058】
第一発明の実施形態のひとつにおいて得られる、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場は、左右再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない概ね50°以内の範囲で、リスナーがスピーカー中央で前後に移動しても同様に得られるが、また上記実施形態のひとつでは、リスニングエリアは左右に対しても限定されにくい。
これは現行クロストークキャンセルシステムでは、上記のように左右位相差情報が混乱しており、リスナーが左右一方へ移動した時に、上記仮想的左右ユニットVcLまたはVcR正面において、位相上はリスナーが逆方向へ移動したに等しくなって、再生音場が実際の移動方向と反対側へ大きく振られる現象を生じるのに対して、第一発明の実施形態のひとつでは、上記仮想的左右ユニットXsLおよびXsRが両耳間隔ペアマイクと等価的であり、また左右副ユニットの再生帯域が中低音域に限られることから、主、副ユニット間で逆相感およびコムフィルター現象が生じにくいためである。
これは一般的ステレオスピーカーが、リスナーが移動するとコムフィルター現象をともなうものの、リスニングエリアを極端に限定しないのと同様である。
【0059】
なお2次クロストークは、上記のようにリスナーがスピーカー中央にいる時に、L,R再生音と同時に両耳へ到達する。
したがってリスナーが左右へ移動した場合、移動した側の耳では、2次クロストークはL,R再生音より遅延して、音場は左右スピーカーを結ぶ線上で外側へ広がる傾向を生じる。また反対側の耳では、2次クロストークがL,R再生音より先行到達して、次項に記すように音場はリスナー側へ引き寄せられる傾向を生じる。
この効果が左右でバランスすることにより、リスナーが左右へ移動した場合に、音像および音場が近接側スピーカーにマスキングされにくく、音場全体は移動方向へずれるものの、一定のサラウンド音場感を保ち、分解能が低下しにくい。
また上記クロストークキャンセル効果は、上記左右スピーカーシステム31,41をリスナー後方側に設置しても成立するため、第一発明の実施形態のひとつは、マルチチャンネルサラウンドステレオのリア左右スピーカーとして使用できる。
【0060】
上記のように、2次クロストークはL,R再生音から遅延または先行したばあい、再生音場を歪める。
この傾向は多チャンネル音源を編集する場合に用いられる、原音と位相を変化させた音を混合するフェイザー(Phaser)またはフェイズシフター(Phasesifter)と呼ばれる機器、いわゆるエフェクターを利用し、サラウンド音場を演出する効果に準ずると考えられるが、連続性を持つ一般的傾向として、略以下の 1−1)および 1−2)のようにまとめられる。
1−1)左右スピーカーでL,Rを再生し、左耳と左スピーカーを結ぶ線上でR逆相音を再生し、また右耳と右スピーカーを結ぶ線上でL逆相音を再生する場合、L,Rに対してL,R逆相音が遅延到達すると、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線の後方側へ歪められる。逆に先行到達する場合、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線よりリスナー側へ引き寄せられて両耳間に収束し、またリスナー全周で奥行き感が低下する。
1−2)左右スピーカーでL,Rを再生し、左右スピーカーを結ぶ線上でR逆相音、およびL逆相音を再生する場合、L,Rに対してL,R逆相音が遅延到達すると、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線の延長上でのみ左右へ歪められる。逆に先行到達する場合、再生音場は左右スピーカーを結ぶ直線よりリスナー側へ引き寄せられ、音場の左右幅は保たれるがリスナー前後で奥行き感が低下する。
上記傾向は、小型スピーカー4個を上記のように配置してステレオ再生することで容易に確かめられる。これは当発明の効果ではないが、以下の実施形態において意図的に利用できるために記載し、仮に“2次クロストークによる音場強調効果”(当明細書では以下同様に表記)と表記する。
【0061】
当業者間では、ステレオ再生において、中、大型楽器の大きさは、ウーファーの口径に応じて再現されると主張されることが多かった。これに対し、第一発明の実施形態のひとつでは、一般的ステレオスピーカーではクロストークを生じて失われがちな中低音域のモノラル成分以外のL,R音量差情報、位相差情報が得られ、また現行クロストークキャンセルシステムと異って上記情報が両耳間隔ペアマイクに対して矛盾しないため、良好なステレオ収録音では、中低音域のL,R音量差情報および位相差情報としてソースに収録される、中、大型楽器の立体的な大きさを、スピーカーユニットの口径に係わらず、中低音域の再生能力に従って、明確に再現し分ける。
またここから逆に、一般的ステレオスピーカーの大口径ウーファーで音源ごとの大きさが再現される理由は、大口径ウーファーが100〜500Hz前後の中低音域で指向性が鋭く、L,Rチャンネル間の音量差情報、位相差情報が聴取しやすくなるためであると考えられる。大口径ウーファーに関する記述は当発明の効果とは異なるが、当発明の効果を当業者に伝える上で重大な有効性を持つため、これを記載する。
【0062】
図1,5に示される上記実施形態のひとつではまた矛盾を生じずに、左副ユニット1A側に、L差信号オーディオ出力L−nR(n>0)を逆相入力でき、右副ユニット2A側に、R差信号オーディオ出力R−nL(n>0)を逆相入力できる。
上記実施形態のひとつでは、L差信号オーディオ出力L−nRは逆相入力され、フィルターf11を通過してk(nR−L)となり、左副ユニット1Aで逆相再生されてk(L−nR)となる。またR差信号オーディオ出力R−nLは逆相入力され、フィルターf21を通過してk(nL−R)となり、右副ユニット2Aで逆相再生されてk(R−nL)となる。
すなわち、左主ユニット1はLを、左副ユニット1Aはk(L−nR)を同時再生し、また右主ユニット2はRを、右副ユニット2Aはk(R−nL)を同時再生する。
【0063】
n=1として、上記L,R差信号を用いた場合のクロストークキャンセル効果を説明する。
左主ユニット1の再生音Lと、右副ユニット2Aの差信号 −kLとの間では、双方が左耳bに同時到達して2次クロストークは相殺され、ただし差信号 −kLがモノラル成分を含まないため、Lのうちモノラル成分は減衰せず、また右耳cには距離差2a+S分の到達誤差を生じるものの、中低音域を中心とすればモノラル成分以外のLクロストークもキャンセルされ、ただしLのうちモノラル成分はクロストークをともなう。又、右主ユニット2の再生音Rと、左副ユニット1Aの差信号 −kRとの間では、双方が右耳cに同時到達して2次クロストークは相殺され、ただし差信号 −kRがモノラル成分を含まないため、Rのうちモノラル成分は減衰せず、また左耳bには距離差2a+S分の到達誤差を生じるものの、中低音域を中心とすればモノラル成分以外のRクロストークもキャンセルされ、ただしRのうちモノラル成分はクロストークをともなう。
いっぽう左右副ユニット1Aと2Aはリスナーから左右等距離かつ等角度である。このため左副ユニット1A差信号kLが右耳に達するクロストークkKLもまた、右副ユニット2A差信号 −kLと、到達誤差aのみで右耳に達してクロストークキャンセルされる。また右副ユニット2A差信号kRが左耳に達するクロストークkKRもまた、左副ユニット1A差信号 −kRと、到達誤差aのみで左耳に達してクロストークキャンセルされる。
なお左主ユニット1と右副ユニット2Aが、リスナー左耳正面でLを再生する仮想的左ユニットXsLを左右等分したもので、また右主ユニット2と左副ユニット1Aが、リスナー右耳正面でRを再生する仮想的右ユニットXsRを左右等分したものである関係は変わらない。
いっぽう左右副ユニット1Aと2Aの、kLと −kL間、およびkRと −kR間では、リスナー正面でLおよびRの差信号を再生する新たな仮想的左右ユニットを左右等分した関係となる。新たな仮想的ユニットは、いわばワンポイントマイクと等価的といえ、両耳間隔ペアマイクと左右が逆転する矛盾を生じない。
ただしリスナーはL,Rそれぞれのモノラル成分以外を時間差をともなって2度聴くことになって、過渡特性は低下する。
なお、左右副ユニット1A,2Aにはまた、上記L−nRおよびR−nLと近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオのリア左右オーディオ出力を、同様に逆相入力しても、一定のサラウンド音場が再生可能である。これは上記リアチャンネルの多くが、L−nR、およびR−nLに準じた信号配分で収録されるためである。
【実施例1】
【0064】
図5に示される第一発明の実施形態のひとつは、上記のように左右スピーカーシステム31,41を見込む角度を小さくしていき、リスナーが最小の角度で見込む形態のひとつとして、左副ユニット1Aおよび右副ユニット2Aの機能を、少なくとも1個のセンターユニットに置換した、3ユニットで構成される実施例1とすることもできる。
左副ユニット1Aおよび右副ユニット2Aの機能をセンターユニットに置換することは、双方の再生音を加算した−k(L+R)を、センターユニットが再生することにより可能となる。
なお実施例1は後記するように、3ユニット以外の構成に置換して実施することもできる。
【0065】
図6に、センターユニットで−k(L+R)を再生する方法のひとつとして、いわゆるダブルボイスコイルのスピーカーユニットの、2系統のボイスコイルに、−kRおよび −kLを入力する方法を用いた場合の、上記3ユニットで構成される第一発明の実施例1を示す。
図6において、左ユニット11は上記左主ユニット1を置換したものであってLを再生し、また右ユニット21は上記右主ユニット2を置換したものであってRを再生する。
いっぽうダブルボイスコイルのセンターユニット8は、上記左副ユニット1Aおよび右副ユニット2Aを置換したものであって、R入力をフィルター部13で帯域制限、減衰して逆相接続し、ならびにL入力をフィルター部23で帯域制限、減衰して逆相接続することで、−k(L+R)を再生する。
上記3ユニットはともに基準線D上において、リスナー正面にセンターユニットが配置された時、左ユニット11がセンターユニット8に対して、両耳間隔に略等しい距離左に設置され、また右ユニット21が上記センターユニット8に対して、両耳間隔に略等しい距離右に設置される。
【0066】
図6に示される3ユニットによる実施例1では、センターユニット8再生音 −k(L+R)の中低音域は、モノラル成分かそれ以外かに係わらず左右ユニット11,21と等しく打ち消しあって失われる。また左右ユニット11,21はセンターユニット8との相殺分だけ中低音域の音圧が低下するものの、L,R中低音域ではモノラル成分とモノラル成分以外が、共にクロストークをともない、左右ユニット間にほぼモノラル定位する。
しかし中音域においては、センターユニット8再生音 −k(L+R)のモノラル成分は左右ユニット11,21と等しく相殺されるためクロストークキャンセル効果を持たず、左右ユニット11,21の間隔が小さいため、L,Rに共通のモノラル成分は中音域においても高いレベルでクロストークをともない、左右ユニット11,21間に明確に中央定位する。
これに対して、モノラル成分以外では、左耳bおよび右耳cに対して、以下のようにクロストークキャンセルが成立する。
左耳bに対しては、センターユニット8再生音 −k(L+R)と左ユニット11のL再生音が同時到達して、2次クロストークに当たる −kLはLに相殺される。しかし右ユニット21のクロストークKRに対してセンターユニット8の −kRは到達誤差が僅かなため、フィルターf13によるR再生帯域の制限が小さくて済み、中音域で幅広く、クロストークキャンセルできる。並びに右耳cに対しては、センターユニット8再生音 −k(L+R)と右ユニット21のR再生音が同時到達して、2次クロストークに当たる −kRはRに相殺される。しかし左ユニット11のクロストークKLに対してセンターユニット8の −kLは到達誤差が僅かなため、フィルターf23によるL再生帯域の制限が小さくて済み、中音域で幅広く、クロストークキャンセルできる。
さらに高音域においては、左右ユニット11,21の間隔は狭いが、耳介の構造によりクロストークレベルは中低音域より低い。
したがって上記ステレオスピーカーと両耳間の一般的特性、および上記3ユニットによる実施例1による中音域のクロストークキャンセル効果の相乗効果で、中音域モノラル成分は左右ユニット11,21間に中央定位し、モノラル成分以外のL,R中、高音域でクロストークが低下する。
【0067】
なお上記3ユニットによる実施例1もまた、リスナー左耳正面でLを再生する上記仮想的ユニットXsLを円B上で両耳間隔の1/2ずつ、左ユニット11とセンターユニット8に等分し、またリスナー右耳正面でRを再生する上記仮想的ユニットXsRを円C上で両耳間隔の1/2ずつ、右主ユニット2とセンターユニット8に等分した構造となる。このため中高音域では両耳間隔ペアマイクと等価的となって、2次クロストークを生じず、図5に示される第一発明の実施形態のひとつ同様、リスニングエリアを限定しにくい。
ただし実施例1では中低音域で左右音量差情報および位相差情報が得られないため、中、大型楽器の大きさは表現されない。
【0068】
なお一般的ステレオスピーカーを大きな角度で見込んだ場合にも、中高音域のクロストークは低下するが、中高音域のモノラル成分もまたクロストークを伴いにくく、中央定位は中低音域でしか得られない。これに対して、図6に示される3ユニットによる実施例1では、低音域から中音域の広い帯域でモノラル成分がクロストークをともなって、かつ中音域の広い帯域でモノラル成分以外のクロストークが低下するため、左右スピーカー11,21間に明確な中央定位が得られ、リスナーはこの中央定位を基準ベクトルとして、中高音域のL,R音量差情報と位相差情報とのベクトル合成により、立体的な音場定位を認識する。
したがって中音域における音像、音場の立体感が一般的スピーカーを大きな角度で見込むより明確で、サラウンド音場をともなう。
【0069】
なお第一発明の実施形態のひとつにおいては上記のように主、副ユニット間の高低差が許容されるのと同様、図6に示される実施例1の上記ダブルボイスコイルのセンターユニット8もまた、左右ユニット11,21に対して、リスナー両耳との距離を略保って上下差を持っても効果に変わりはない。
したがって上記ダブルボイスコイルのセンターユニット8は、例えば−kRを再生する通常ユニット81と、−kLを再生する通常ユニット82に置き換え、上記センターユニット8が基準線D上に設置されたばあいの位置に対して、リスナー両耳との距離を略保って上下に設置し、−k(L+R)を再生しても差し支えない。
なお上記の例は、センターユニット8で−k(L+R)を再生する方法が多様であることの一例であって限定ではなく、センターユニット8で−k(L+R)を再生する方法は自由であって差し支えない。
【実施例2】
【0070】
図1,5は、第一発明の上記実施形態のひとつを示すとともに、また第二発明の実施例2において、上記左副ユニット1Aが上記左主ユニット1に対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%となる、図1,5では101として示す水平方向に規定される領域内に設置され、又、上記右副ユニット2Aが上記右主ユニット2に対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%となる、図1,5では201として示す水平方向に規定される領域内に設置されることを示す。
すなわち第二発明の実施例2は、上記第一発明の実施形態のひとつにおいて、上記左主ユニット1に対して上記左副ユニット1Aを、リスナー両耳間隔E分の0〜150%のうち任意の距離g、右に設け、また上記右主ユニット2に対して上記右副ユニット2Aを、リスナー両耳間隔E分の0〜150%のうち任意の距離g、左に設けることで実施される。
【0071】
したがって実施例2は、第一発明の実施形態のひとつ、および上記実施例1を含むとともに、さらにリスナーが上記左右スピーカーシステム31,41を見込む角度に応じた主、副ユニット間隔を任意の距離gに変更することによって、複数の効果を有する。そのため左右スピーカーシステム31,41は、それぞれの主、副ユニットの、2種類以上の相対的水平間隔をリスナーが選択できる、自由な手段を備えても差し支えない。
【0072】
図7は、上記手段の一例として、上記左スピーカーシステム31を例に、上記左主、副ユニット1,1Aの双方を、エンクロージャーへ取り付りつける時に介在させるアダプターリングAR1,AR2を略示す。
上記アダプターリングAR1,AR2は、ユニット取り付け位置がアダプターリング中央から一方に偏心する構造を有することで、ユニットをアダプターリングに取りつけ、さらに上記アダプターリングAR1,AR2をエンクロージャーへ取り付りつける場合に、取り付け角度を選択することにより、上記主、副ユニット1,1A間の複数の相対的水平距離を選択する手段を示す。
なお勿論、スピーカーユニットのフランジに同様の形態を持たせてもよく、また図7に示される上記アダプターリングは形状を限定するものではなく、例えばサブバッフルでもよく、要するにスピーカーユニットとエンクロージャーを固定する際の介在物により、主、副ユニット間の複数の相対的水平距離を選択する手段の一例を示すものである。また上記主、副ユニット双方を1個の介在物に取りつけた上で、上記介在物をエンクロージャーへ取り付ける時に、取り付け角度によって主、副ユニット双方の相対的水平間隔を複数選択しても差し支えない。
【0073】
また前記左右スピーカーシステム31、41において、前記左右主、副ユニット1,1Aおよび2,2Aをバッフル面において45°斜め方向以外に設置し、スピーカーを縦置きするか横置きするかで2種類の相対的水平間隔を選択したり、エンクロージャーを角柱状や円柱状ないしは多面体とし、エンクロージャーの置き方により複数の相対的水平間隔を選択する構造としても差し支えない。
図8に、略楕円柱形状のエンクロージャーとした実施形態の一例を示す。図8ではともに略楕円形となる左右スピーカーシステム32,42のバッフル面に、上記左右主、副ユニット1,1Aおよび2,2Aを適宜設置し、置き方を限定しない置き台上にセットしたエンクロージャーを、リスナーが自由に置き換えて相対的水平間隔を選択できる形状の一例である。
なお図7に示されるアダプターリングや、図8に示されるエンクロージャーおよび置き台は、上記方法が多様であることの例示であって、方法や形状を限定するものではなく、主、副ユニットの複数の水平距離を選択する方法は自由であって差し支えない。
【0074】
なお第ニ発明の実施例2において上記主、副ユニット間隔を、両耳間隔E分の0〜150%のうち任意の距離g分とすることは、リスナー左耳bに対して上記左主ユニット1を、上記左副ユニット1Aから距離差a分の0〜150%のうち任意の距離差h分、後方に配置し、又、リスナー右耳cに対して上記右主ユニット2を、上記右副ユニット2Aから距離差a分の0〜150%のうち任意の距離差h分、後方に配置することに等しい。
したがって上記左右スピーカーシステム31,41とリスナーの位置関係が比較的固定的な場合は、主、副ユニット間に前後差を設けることで上記距離差を満たしたり、相対的水平距離と前後差の双方を組み合わせて上記距離差分を満たしても差し支えない。
また、基準線上における主、副ユニット間隔をリスナー両耳間隔E分にほぼ等しい任意の距離gg分とした上記左右スピーカーシステム31,41の主、副ユニットをマルチアンプで駆動し、外部ディレイ装置で、上記主、副ユニットいずれかに遅延量を加算または減算することで、第ニ発明の実施例2の、以下に記載する効果を得ても差し支えない。
【0075】
第ニ発明の実施例2は、第一発明の上記実施形態のひとつで得られる上記クロストークキャンセル効果を、以下 2−1)〜 2−4)に示すように変更し、使用上の利便性を付加する。
【0076】
2−1)第1の効果は、上記左右スピーカーシステム31,41が概ね50°〜180°のうち特定の角度で見込まれる時、上記第一発明の実施形態のひとつでは2次クロストークがL,R再生音に対して遅延する誤差を補正する効果である。
左右スピーカーシステムを見込む角度が大きくなった場合の、左右再生音の一方がリスナー頭部を回り込むことで生じる距離差aaに対して、第一発明の上記実施形態のひとつでは、上記左右主ユニット1,2を基準線Dからaa分後退させ、必要に応じてフィルター部の特性を変化させることで微調整可能であった。
これは2次クロストークの遅延が、上記左右主ユニット1,2に対して上記左右副ユニット1A,2Aがaa分後退したに等しく、したがって上記左右主ユニット1,2をaa分後退させてL,R再生音と2次クロストークを同時到達させ、その場合クロストークとクロストークキャンセル信号の到達誤差がさらに大きくなっても良好に相殺される再生帯域、音量に、クロストークキャンセル信号を限定すればいいからである。
一方2次クロストークの遅延はまた、基準線D上で、上記左右主ユニット1,2に対して上記左右副ユニット1A,2Aが、距離差aa分に応じて接近することにも等しい。
したがってリスナーが上記左右スピーカーシステム31,41を概ね50°以上の特定の角度、例えばITU−R推奨の60°といった角度で見込む場合、左右それぞれの上記主、副ユニット1と1A、および2と2Aの間隔を、両耳間隔Eの100〜150%のうち適切な間隔に設置し、その場合クロストークがクロストークキャンセル信号に対してさらに遅延しても良好に相殺される再生帯域、音量に、クロストークキャンセル信号を限定すればいいことになる。
ただし主、副ユニット間隔が両耳間隔Eより大きくなるにつれ、リスナーが前後に移動した時に上記ob=qb=pc=rcとなる関係が失われて、リスニングポイントは限定的となる。
【0077】
2−2)第2の効果は、 1−2)に記載した“2次クロストークによる音場強調効果”を意図に応じて利用できることである。
すなわち任意の基準線D上で主、副ユニット間隔を、両耳間隔E以上の特定の間隔とした上記左右スピーカーシステム31,41を、概ね50°以内の自由な角度で見込んだ場合、並びに概ね50°以上で見込む時に、(a+aa)分に対応する以上の主、副ユニット間隔を取った場合、2次クロストークがL,R再生音より先行到達する。このため再生音場は、左右スピーカーを結ぶ直線よりリスナー側へ引き寄せられ、なお音場の左右幅が保たれ、前後方向で奥行き感が低下する。
この傾向は、小音量再生時には聴取しにくいサラウンド成分を強調して聴き取りやすくする、ラウドネスコントロールに類似した効果として利用可能である。例えば、通常映画館同様の大音量では使用されないテレビ内蔵型のスピーカーや、小音量再生されがちな小型ステレオシステムにおいて上記“2次クロストークによる音場強調効果”を適宜用いることは、合理的となる場合がある。
【0078】
2−3)第3の効果は、左右スピーカーシステム31,41が小さな角度で見込まれる場合に、スピーカー形状を限定しにくくする効果である。
第ニ発明の実施例2においては、上記左右スピーカーシステム31,41を小さな角度で見込む場合にも、主、副ユニット間隔を両耳間隔Eに略等しい距離とした時、もっとも現実的で立体的な再生音場が得られる。
しかし左右スピーカーシステム31,41を見込む角度が小さくなるにつれてa自体が小さくなる。このため上記左右各主、副ユニット1と1Aおよび2と2Aの間隔を両耳間隔E分以下としても、L,Rに対する2次クロストークの絶対的な遅延量は少なく、再生音場を歪めにくい。また上記左右各主、副ユニット1と1Aおよび2と2Aが垂直配置されて水平距離差が0になった時点でも、上記仮想的ユニットXsLおよびXsRはリスナー正面の一点で重なるだけで左右逆転しない。
したがって上記左右スピーカーシステム31,41を小さな角度で見込む場合には両耳間隔E分の0〜100%の範囲内の任意の距離g、上記左主ユニット1に対して上記左副ユニット1Aを右に設置し、並びに上記右主ユニット2に対して上記右副ユニット2Aを左に設置しても、第ニ発明の実施例2はステレオフォニックの原理に反することなく、サラウンド音場をともなう充分現実的なステレオ音場が再生でき、スピーカー形状を限定しにくく、小型音響機器にも搭載可能となる。
【0079】
2−4)第4の効果は、リスナーがスピーカーに近接して左右に移動した時にも再生音場を安定的にする効果である。
主、副ユニット間隔を両耳間隔Eとした上記左右スピーカーシステム31,41は、左右位相差上の混乱がないため、リスナーが左右に移動しても再生音場に矛盾を生じない。
しかしリスナーがスピーカーに近接した場合、両耳b、cへの各ユニット再生音の到達時間が刻々変化し、上記副ユニット1A,2Aの再生帯域、音量が充分限定的であっても、音像および音場定位が不安定になりがちである。
これに対して、上記左右スピーカーシステム31,41が小さな角度で見込まれる場合に、上記主、副ユニット1と1A、および2と2Aの水平距離を両耳間隔E分の100%以下で0%に近づけるにつれ、音場再現性は低下しがちなものの、安定的な音場を、広いリスニングエリアに供給できる。
【実施例3】
【0080】
図9は、任意のステレオスピーカーシステムとサブスピーカーにより、クロストークキャンセル帯域を限定することで2次クロストークを生じずにクロストークをキャンセルする、第三発明のクロストークキャンセル方法の実施例3を示す斜視図である。
任意のステレオスピーカーシステムの、図9においてm1で示される左スピーカーシステムはLを再生し、m2で示される右スピーカーシステムはRを再生し、リスナーに対して左右等距離、等角度に配置される。
これに対して、実施例3では、少なくとも1個のスピーカーユニットとフィルター部とからなる左サブスピーカーs1、および少なくとも1個のスピーカーユニットとフィルター部とからなる右サブスピーカーs2を用いて、左サブスピーカーs1には右オーディオ出力Rを接続し、フィルター部f14で再生帯域、音量を制限して、少なくとも1個のスピーカーユニット1AAで逆相再生し、並びに上記右サブスピーカーs2には左オーディオ出力Lを接続し、フィルター部f24で再生帯域、音量を制限して、少なくとも1個のスピーカーユニット2AAで逆相再生する。
【0081】
この時フィルター部f14,f24は、第一発明の実施形態におけるフィルター部f11,f21に略等しい。
すなわちフィルター部f14は、左サブスピーカーs1のクロストークキャンセル信号 −kRが、右スピーカーシステムm2のクロストークKRに対して、左耳に少なくとも2a+s分先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、リスナーが左右スピーカーシステムm1,m2を見込む角度と下記製作意図に応じて限定するものである。
並びに、フィルター部f24は、右サブスピーカーs2のクロストークキャンセル信号 −kLが、左スピーカーシステムm1のクロストークKLに対して、右耳に少なくとも2a+s分先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、リスナーが左右スピーカーシステムm1,m2を見込む角度と下記製作意図に応じて限定するものである。
なお上記製作意図とは、例えばリスニングエリアを限定して高い周波数帯域まで幅広くクロストークキャンセル効果を持たせる、あるいはリスニングエリアを広く取るために低い周波数帯域に限定してクロストークキャンセル効果を持たせるといった意図である。
フィルター部f14およびf24は、一般的にはローパス回路と減衰器とからなるが、双方が必須とは限らない。例えば左右サブスピーカーs1,s2がユニット特性やエンクロージャーの構造によりローパス特性を備える場合には必ずしもローパス回路を要しない。また左右スピーカーシステムm1,m2と左右サブスピーカーs1,s2間での能率や、インピーダンスや、ユニット数の違いにより実質的に左右スピーカーシステムm1,m2の音圧レベルが左右サブスピーカーs1,s2を上回れば、必ずしも減衰器を必要としない。
要するにフィルター部f14およびf24は、左右スピーカーシステムm1,m2の再生音に対して左右サブスピーカーs1,s2の再生音を、相対的に帯域制限、減衰させることを目的とする。
またフィルター部f14およびf24では左右スピーカーシステムm1,m2と左右サブスピーカーs1,s2間での相対的な上記フィルター特性を満たした上で自由な特性を持っても差し支えない。自由な特性とは、例えばバンドパス特性や、複数のバンドパス特性を組み合わせることを含めた特殊なスロープ特性であり、また自由な回路等を含んでも差し支えない。自由な回路等とは、例えばフィルターにより位相回転が生じる場合にこれを補正する回路や、リスナーがフィルター特性や減衰量を調整できる手段があげらる。
なおフィルター部f14およびf24の機能はマルチアンプを用いて自由な外部機器、例えばサウンドプロセッサーやイコライザーで置換でき、またアンプおよび上記外部機器が左右サブスピーカーs1,s2に内蔵されても差し支えない。
上記フィルター部f14およびf24によってサブスピーカーs1,s2は左右スピーカーシステムm1,m2に対して相対的なフィルター特性kを有することになって、左スピーカーシステムm1はLを、左サブスピーカーs1は −kRを、右スピーカーシステムm2はRを、および右サブスピーカーs2は −kLを、同時再生する。
【0082】
この時左スピーカーシステムm1を構成するユニットのうち、左サブスピーカーs1の再生帯域を主に再生するユニットを、左スピーカー位置1Vとし、また右スピーカーシステムm2を構成するユニットのうち、右サブスピーカーs2の再生帯域を主に再生するユニットを、右スピーカー位置2Vとする。
図9では仮に左右スピーカー位置1Vおよび2Vが、3ウェイユニットのうちウーファーである場合を示すが、図9に示されるのは、上記のように規定される1V,2V位置の例示であって、1Vおよび2Vがウーファーであるとは限らない。また左右スピーカーシステムm1,m2、および左右サブスピーカーs1,s2もまたユニット位置を示すためのものであって、各スピーカーの形態やユニット数、設置位置を限定するものではない。
【0083】
上記左スピーカー位置1V、上記左サブスピーカーs1、上記右サブスピーカーs2および上記右スピーカー位置2Vは直線上に配置され、なお左右スピーカーシステムm1,m2がリスナーに対して左右等距離、等角度に配置されているため、上記4つの位置は基準線D上に共にあることになる。
これを前提条件に、上記左スピーカー位置1Vに対して、リスナー両耳間隔Eに略等しい距離、右となる基準線D上の位置をss1とし、また上記右スピーカー位置2Vに対して、リスナー両耳間隔Eに略等しい距離、左となる基準線D上の位置をss2として、ss1に上記左サブスピーカーs1が設置され、ss2に上記右サブスピーカーs2が設置されることで、第三発明のクロストークキャンセル方法のひとつの形態が実施される。
しかしながら、任意のステレオスピーカーシステムの左右スピーカー位置1V,2Vに対して、上記ss1,ss2に左右サブスピーカーs1およびs2を設置できるのは、双方が小型である場合に限られる。
【0084】
いっぽう図5に示される第一発明の実施形態のひとつに等しく、図9に示す第三発明の実施例3のスピーカー配置もまた、リスナー左耳に対して左スピーカー位置1Vと右サブスピーカーs2を等距離とし、リスナー右耳に対して右スピーカー位置2Vと左サブスピーカーs1を等距離とすることが目的であるから、リスナー両耳b,cとの距離が略保たれれば左スピーカー位置1Vと左サブスピーカーs1間、および右スピーカー位置2Vと右サブスピーカーs2間の高低差があっても同様の効果が得られる。
したがって左右スピーカー位置1V,2Vを通る直線を基準線Dとした場合、左サブスピーカーs1は、リスナー両耳間から基準線D上の位置ss1までを半径とする円6上に略あれば左スピーカー位置1Vに対して高低差を生じてもよく、また、右サブスピーカーs2は、リスナー両耳間から基準線D上の位置ss2までを半径とする円7上に略あれば、右スピーカー位置2Vに対して高低差を生じてもよい。
ただし左右サブスピーカーs1,s2は一般に、上記左右スピーカー位置1V,2Vに近いほうが好ましい。これは双方が近接するほど、L,Rに共通するモノラル成分がより高い周波数まで相殺関係になり、モノラル成分が高い周波数までクロストークをともなって中央定位が明確になり、中央定位と左右音量差、位相差情報のベクトル合成で再現される音場がより現実的になるためである。
【0085】
以上のようなスピーカー配置によれば、左右スピーカーシステムm1,m2を、再生音の一方が頭部を回り込む距離差aaが大きくならない、概ね50°以内で見込むいずれの角度でも、リスナー左耳位置、右耳位置、ss1、および左スピーカー位置1Vで作られる第1の平行四辺形と、リスナー左耳位置、右耳位置、右スピーカー位置2V、およびss2で作られる第2の平行四辺形が常に合同になる。
したがって左スピーカー位置1Vと右サブスピーカーs2はともに、リスナー左耳を中心とする円B上にあるか、もしくはこれに等しい距離関係にあることになって、右サブスピーカーs2の2次クロストーク −kKLは、左スピーカー位置1VとなるユニットのLと左耳に同時到達して相殺される。並びに右スピーカー位置2Vと左サブスピーカーs1はともに、リスナー右耳を中心とする円C上にあるか、もしくはこれに等しい距離関係にあることになって、左サブスピーカーs1の2次クロストーク −kKRは、右スピーカー位置2VとなるユニットのRと右耳に同時到達して相殺される。
ただしこの場合には、上記右サブスピーカーs2のクロストークキャンセル信号 −kLは、上記左スピーカー位置1VとなるユニットのクロストークKLより右耳に、2a+S分先行到達し、並びに上記左サブスピーカーs1のクロストークキャンセル信号 −kRは、上記右スピーカー位置2VとなるユニットのクロストークKRより左耳に、2a+S分先行到達する。
しかし上記左右サブスピーカーs1,s2の再生音は、フィルター部f14,f24により、少なくとも上記到達誤差をともなっても逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量に限定されるため、第三発明の実施形態のひとつにより2次クロストークを伴わずに、中低音域を中心としてクロストークキャンセルもまた成立する。
なおL,Rに共通のモノラル成分は近接する左スピーカー位置1Vとなるユニットと左サブスピーカーs1間、および近接する右スピーカー位置2Vとなるユニットと右サブスピーカーs2間で相殺されるため、中低音域のL,Rモノラル成分はクロストークキャンセルされない。また中高音域では左右スピーカーシステムm1,m2とリスナー両耳b,c間の一般的特性によりクロストークレベルは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳間の一般的特性、及び中低音域中心にL,Rモノラル成分以外をクロストークキャンセルする第三発明の実施例3の効果により、モノラル音像は左右スピーカーシステムm1,m2間に中央定位し、クロストークレベルは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じず、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場が得られる。
【0086】
上記実施例3ではまた、上記位置ss1を、基準線D上の左スピーカー位置1Vに対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%、すなわち図9では水平方向に規定される領域101のうちで任意の距離g分、右に設け、また上記位置ss2を、基準線D上の右スピーカー位置2Vに対して、リスナー両耳間隔E分の0〜150%、すなわち図9では水平方向に規定される領域201のうちで任意の距離g分、左に設けることによっても実施される。
【0087】
これによって上記実施例3は、左右スピーカー位置1V,2Vに対して左右サブスピーカー位置ss1,ss2を両耳間隔E分の100〜150%のうち適切な距離とし、フィルター特性を適宜変更するか予め余裕を持たせておくことで、第ニ発明の実施例2のひとつの効果として 2−1)に記載したように、左右スピーカーシステムm1,m2を概ね50〜180°で配置した時にも、2次クロストークを生じずにクロストークをキャンセルできる。また 2−2)に記載したように、“2次クロストークによる音場強調効果”を利用できる。
さらに左右スピーカーシステムm1,m2を小さな角度で見込むにつれ、左右スピーカー位置1V,2Vに対して左右サブスピーカー位置ss1,ss2を両耳間隔E分の0〜100%のうち任意の距離とし、必要に応じてフィルター部のkを適宜変更することで、 2−3)に記載したように、ステレオフォニックの原理に矛盾しない範囲で、音場再現性は低下しがちなものの、安定的な音場を、広いリスニングエリアに供給できる。
【0088】
図9に示される第三発明の実施例3ではまた、左サブスピーカーs1に、L−nR(n>0)と表記できる、自由なL、R信号比nを持つL差信号オーディオ出力を逆相入力し、右サブスピーカーs2に、R−nL(n>0)と表記できる、自由なL,R信号比nを持つR差信号オーディオ出力を逆相入力しても差し支えなく、上記のようにステレオフォニックの原理に矛盾しない。ただしリスナーはL,Rそれぞれのモノラル成分以外を時間差をともなって2度聴くことになって、過渡特性は低下する。
なお上記差信号オーディオ出力と近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオの、リア左チャンネル出力を左サブスピーカーs1に、およびリア右チャンネル出力を右サブスピーカーs2に逆相入力しても、一定のサラウンド音場が再生可能である。これは上記リアチャンネルの多くが、L−nR、およびR−nLに準じた信号配分で収録されるためである。
【0089】
上記実施例3に示される左右サブスピーカーs1およびs2は、特定のステレオスピーカーシステムの専用スピーカーとして製作できる他、一般的ステレオスピーカーシステムに対して上記クロストークキャンセル効果を付加する、汎用サブスピーカーとして製作しても差し支えない。
【実施例4】
【0090】
図10において、第五発明の実施例4は、50のブロック図で示されるクロストークキャンセル回路である。
すなわちクロストークキャンセル回路50では、左オーディオ入力LをWとXとし、また右オーディオ入力RをYとZとし、上記W,Zをそれぞれディレイブロックに入力して、X,Yに対して、リスナーが左右スピーカー33,43を見込む角度に応じた距離差(a+aa)分の10%〜150%の範囲で任意の距離差h分のディレイ特性に設定、もしくは調整される。
一方上記X,Yはそれぞれフィルターブロックに入力し、W,Zに対して、相対的な次項記載のフィルター特性を持たせる。
上記ディレイブロックより出力されたWからは、上記フィルターブロックより出力されたYを減算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロックより出力されたZからは、上記フィルターブロックより出力されたXを減算して右オーディオ出力とすることで、実施例4では最も適切なクロストークキャンセル効果、および意図に応じた効果が得られる。
【0091】
上記フィルターブロックとは、クロストークキャンセル回路50の左右オーディオ出力を増幅し、リスナーから左右等距離、等角度に配置した左右スピーカー33,43で再生した場合において、左スピーカー33から右耳cに達するクロストークKLに対して、右スピーカー43のクロストークキャンセル信号 −kLが、少なくとも距離差2(a+aa)分、リスナー右耳cに先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺され、並びに右スピーカー43から左耳bに達するクロストークKRに対して、左スピーカー33のクロストークキャンセル信号 −kRが、少なくとも距離差2(a+aa)分、リスナー左耳bに先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域および出力レベル以内に、下記製作者もしくはユーザーの意図に応じてX,Yを限定するものである。
なお上記製作者もしくはユーザーの意図とは、リスニングエリアを限定してより高い周波数帯域までクロストークキャンセル効果を持たせる、あるいはリスニングエリアを広く取るために低い周波数帯域にのみ限定してクロストークキャンセル効果を持たせるといった意図である。
フィルターブロックは一般的にはローパス回路と減衰器ないしは減衰回路とからなり、またフィルターブロックでは上記フィルター特性を満たした上で、X,Yに自由な特性を持たせるものでもよく、自由な特性とは、例えばバンドパス特性や、複数のバンドパス特性を組み合わせることを含めた変則的なスロープ特性であって、またフィルターブロックは自由な回路等を含んでもよく、自由な回路等とは、例えばフィルターで位相回転を生じる場合にこれを補正する回路や、ユーザーがフィルター特性や減衰量を調整できる手段があげられる。
【0092】
なおクロストークキャンセル回路50は、図10に示されるように、上記回路出力をL,Rアンプで増幅し、左右スピーカー33,43で再生する場合には、上記のように左オーディオ出力と右オーディオ出力の2系統にまとめられる他、システム構成に応じて3系統以上のオーディオ出力としても差し支えない。
例えばマルチアンプを用いて、左右スピーカー33,43と共に、クロストークキャンセル用左右スピーカー33A,43Aで再生するシステム構成の場合、左右スピーカー33,43およびクロストークキャンセル用左右スピーカー33A,43Aがリスナーに対して等距離に配置されることを基準として、上記ディレイブロックから出力されたWを左オーディオ出力とし、および上記ディレイブロックから出力されたZを右オーディオ出力とし、又、上記フィルターブロックから出力されたYを逆相として、クロストークキャンセル用左オーディオ出力とし、および上記フィルターブロックから出力されたXを逆相として、クロストークキャンセル用右オーディオ出力とできる。
同様に、マルチアンプを用いて、左右スピーカー33,43とともに、センタースピーカー9でクロストークキャンセルするシステム構成の場合には、左右スピーカー33,43、およびセンタースピーカー9がリスナーに対して等距離に配置されることを基準として、上記ディレイブロックから出力されたWをLオーディオ出力とし、および上記ディレイブロックから出力されたZをRオーディオ出力とし、又、上記フィルターブロックから出力されたYとXを加算して逆相とし、センターチャンネル出力とできる。
なお3個以上のスピーカーを使用する場合、リスナーと各スピーカーの距離差に応じて、上記ディレイ特性を満たしながら、各チャンネルのリスナーへの到達時間を総合的に整合させる手段を含んでも差し支えない。
【0093】
クロストークキャンセル回路50を構成するフィルターブロックとディレイブロックそれぞれの回路は自由に設計されて差し支えない。なおフィルターブロックの帯域制限、減衰量は現在一般的なクロストークキャンセル回路より、通常はるかに大きくなるが、ディレイブロックの距離差(a+aa)分の遅延量自体は、現在一般的なクロストークキャンセル回路で作成されるディレイ特性に等しく、ブロック構成が全く異なるだけである。
クロストークキャンセル回路50は、上記ディレイ特性およびフィルター特性を満たした上で、自由な機能や回路を備えてよく、自由な機能や回路とは、例えば上記左右スピーカー33,43を見込む角度に応じてフィルター特性とディレイ特性を関連性を伴って変化させる機能や、リスナーと左右スピーカー33,43との位置関係やリスナーの顔面形状を特定する方法を備えて各特性が設定される機能や、再生音に疑似的な残響音を付加する回路があげられる。
また第五発明の実施例4において、ディレイ特性を(a+aa)の100〜150%のうち任意の値として前記“2次クロストークによる音場強調効果”を用いる場合、L,R再生音に2次クロストークが先行するにつれ、再生音場は両耳間に収束する傾向を持つ。したがって上記音場を両耳間に収束しないようX,Y、ないしはW,Zの位相を適宜回転させる回路を有しても差し支えない。
以上の自由な機能や回路の例は、クロストークキャンセル回路50が、上記ディレイ特性およびフィルター特性を満たした上で、矛盾なく備えられる機能や回路が多様であることの例示であって限定ではなく、クロストークキャンセル回路50は自由な機能や回路を備えて差し支えない。
【0094】
上記のように構成された図10に示される実施例4において、遅延量を距離差(a+aa)とした場合、クロストークキャンセル回路50の左オーディオ出力L−kRのうちLは、−kRに対して距離差(a+aa)分遅延し、また右オーディオ出力R−kLのうちRは、−kLに対して距離差(a+aa)分遅延することになる。
このため、上記左オーディオ出力L−kRをLアンプで増幅して、左スピーカー33で再生し、また右オーディオ出力R−kLをRアンプで増幅して、右スピーカー43で再生した場合、以下のように2次クロストークが相殺される。
すなわち図10に示されるように、左スピーカー位置iiで再生される −kRと、右スピーカー位置から(a+aa)分後方のjで再生されるRは、リスナー右耳cを中心とした前記偏円C上にともにあり、したがって −kRの2次クロストーク −kKRは、右耳cにRと同時到達して相殺される。並びに右スピーカー位置jjで再生される −kLと、左スピーカー位置から(a+aa)分後方のiで再生されるLは、リスナー左耳bを中心とした前記偏円B上にともにあり、したがって −kLの2次クロストーク −kKLは、左耳bにLと同時到達して相殺される。
ただしこの場合2次クロストークは相殺されるものの、左スピーカー位置より(a+aa)分後方のiから右耳cに達するクロストークKLに対して、右スピーカー位置jjから右耳cに達するクロストークキャンセル信号 −kLは、距離差2(a+aa)分、先行到達する。並びに右スピーカー位置より(a+aa)分後方のjから左耳bに達するクロストークKRに対して、左スピーカー位置iiから左耳bに達するクロストークキャンセル信号 −kRは、距離差2(a+aa)分、先行到達する。
しかし上記フィルターブロックにおいて、クロストークキャンセル信号となるX,Yを、W,Z再生音のクロストークより少なくとも2(a+aa)分先行到達しても逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域、出力レベルに限定しているために、実施例4の上記クロストークキャンセル回路の効果により、2次クロストークを伴わずに、中低音域を中心としてクロストークキャンセルもまた成立する。
なおクロストークキャンセル回路50出力のL−kRでは、L,Rに共通するモノラル成分中低音域では1ミリ秒(ms)程度の遅延量とほぼ無関係に逆特性となって、Lのモノラル成分中低音域は減衰し、−kRのモノラル成分中低音域は失われる。同様にR−kLでは、L,Rに共通するモノラル成分中低音域では1ミリ秒(ms)程度の遅延量とほぼ無関係に逆特性となって、Rのモノラル成分中低音域は減衰し、−kLのモノラル成分中低音域は失われる。
したがってL,R中低音域のモノラル成分はクロストークキャンセルされず、クロストークをともなって左右スピーカー33,43間に中央定位し、中低音域のL,Rモノラル成分以外のみがクロストークキャンセルされる。またステレオスピーカーでクロストークが問題となるのは特に中低音域においてであり、中高音域では、ステレオスピーカーとリスナー両耳との一般的特性として、リスナーが左右スピーカーを見込む角度に応じて、サラウンド音場を充分伴いうる程度までクロストークは減衰する。
したがってステレオスピーカーとリスナー両耳間の一般的特性、及び中低音域中心にL,Rモノラル成分以外をクロストークキャンセルする第五発明の実施例4で得られる効果との相乗効果により、上記左右スピーカー33,43では、モノラル音像は中低音域のクロストークによってスピーカー間に定位し、クロストークは概ね全再生帯域で低く保たれ、2次クロストークを生じず、サラウンド音場を含む良好なステレオ音場が得られる。
【0095】
図10に示される実施例4では、リスナーが左右スピーカー33,43を見込む角度、すなわちリスナーとスピーカーとの距離に応じて、遅延量を設定する必要がある。
しかし上記のように、L再生位置iと −kL再生位置jjがリスナー左前方の仮想的左ユニットXcLを円B上で等分したものとなり、またR再生位置jと −kR再生位置iiがリスナー右前方の仮想的右ユニットXcRを円C上で等分したものとなって、ステレオフォニックの原理に矛盾しない。したがって、リスナーが左右に移動した場合に、一般的クロストークキャンセルシステムで発生しがちな違和感を生じない。
またリスナーがスピーカー中央にいる時に、2次クロストークは両耳に、L,R再生音と同時到達する。したがってリスナーが左右へ移動した場合、移動した側の耳では、2次クロストークはL,R再生音より遅延して、移動側音場は左右スピーカー後方へ広がる傾向を生じる。また反対側の耳では2次クロストークがL,R再生音より先行到達して、反対側音場はリスナー側へ引き寄せられる傾向を生じる。
このためリスナーが左右へ移動した場合にも音場感が保たれやすく、音像および音場が近接側スピーカーにマスキングされにくい。そのため音場全体は移動方向へずれるものの、一定のサラウンド音場感を保ち、分解能が低下しにくい。
なお上記クロストークキャンセル効果は、リスナー後方でも矛盾なく成立する。
【0096】
なお、第五発明の実施例4において、WとZを、左右スピーカー33,43を見込む角度に応じた距離差(a+aa)分の100%〜150%ののうち任意のディレイ特性とした場合、L,R再生音に対して両耳b,cに2次クロストークが先行到達し、2−2)に記載したように、“2次クロストークによる音場強調効果”が得られ、小音量再生時に聴取しにくいサラウンド音場を聴取しやすくする効果を持つ。
またこの場合、第五発明の実施例4においては、再生音場は左右スピーカーからリスナー側へ引寄せられ、両耳間に収束する傾向となるため、上記X,Y、ないしはW,Zの位相を回転させて、再生音場をリスナー両耳間に収束しないよう、適宜変形しても差し支えない。
【0097】
いっぽうリスナーが左右スピーカー33,43を小さな角度で見込む場合、すなわち(a+aa)のうちaaが0となり、a自体も小さくなるにつれて、ディレイ特性を距離差(a+aa)分の10〜100%としても、2次クロストークが音場に与える影響は小さて済む。
またこの間においては、上記仮想的ユニットXcLがリスナー正面より左にあり、上記XcRがリスナー正面より右にあることになって、ステレオフォニックの原理に矛盾しない。
この場合、 2−4)に記載したように、ディレイ特性を距離差(a+aa)分とした場合に較べて音場再現性は低下しがちなものの、安定的な音場を、広いリスニングエリアに供給できる。
【0098】
なお図10では、上記第五発明の実施例4において、左オーディオ入力LをWとXに、また右オーディオ入力RをZとYに分割する場合のブロック図が示されるが、又、クロストークキャンセル回路50では、Wに左オーディオ信号Lを入力し、Zに右オーディオ信号Rを入力し、いっぽうXには、R−nL(n>0)と表記できる、自由なL,R信号比nを有するR差信号を逆相入力し、Yには、L−nR(n>0)と表記できる、自由なL,R信号比nを有するL差信号を逆相入力しても差し支えない。
【0099】
R差信号R−nLがXに逆相入力された時、フィルターブロック出力はk(nL−R)となり、同出力はZのディレイブロック出力Rから減算されるために、クロストークキャンセル回路50の右オーディオ出力はR+k(R−nL)となり、ただしR−knLにおいて差信号 −knLはRからL,Rに共通のモノラル成分を減算しない。並びにL差信号L−nRがYに逆相入力された時、フィルターブロック出力はk(nR−L)となり、同出力はWのディレイブロック出力Lから減算されるために、クロストークキャンセル回路50の左オーディオ出力はL+k(L−nR)となり、ただしL−knRにおいて差信号 −knRはLからL,Rに共通のモノラル成分を減算しない。
したがって上記出力をL,Rアンプで増幅し、左右スピーカー33,43で再生した場合に、L,R再生音のうちモノラル成分中低音域は減衰せずにクロストークをともない、聴感レベルは最大3dB程度上昇して左右スピーカー33,43間に中央定位する。
一方、ディレイ特性を距離差(a+aa)分とした時、左オーディオ出力、L+k(L−nR)のうちLと 差信号−nR間、および右オーディオ出力、R+k(R−nL)のうちRと 差信号−nL間では、モノラル成分が減衰しないこと以外、X,YにL,Rを入力した場合と同様にクロストークキャンセル効果を持つ。
また右スピーカー位置jjで再生される差信号kRのクロストークkKRは、左スピーカー位置iiで再生される差信号 −knRと距離差(a+aa)分のみ遅延して左耳に到達する。したがって(2a+aa)分の到達誤差をともなっても良好に相殺される周波数帯域、出力レベルに限定される双方は、良好にクロストークキャンセルされる。並びに、左スピーカー位置iiで再生される差信号kLのクロストークkKLは、右スピーカー位置jjで再生される差信号 −knLと距離差(a+aa)分のみ遅延して右耳に到達する。したがって(2a+aa)分の到達誤差をともなっても良好に相殺される周波数帯域、出力レベルに限定される双方は、良好にクロストークキャンセルされる。
【0100】
なお上記差信号を用いる場合にも、左スピーカーの(a+aa)分後方のiで再生されるLと、右スピーカー位置jjで再生される −knLが、リスナー左前方でLを再生する仮想的左ユニットXcLを左右等分したもので、並びに、右スピーカーの(a+aa)分後方のjで再生されるRと、左スピーカー位置iiで再生される −knRが、リスナー右前方でRを再生する仮想的左ユニットXcRを左右等分したものである関係は、差信号を用いない場合と変わらない。
いっぽう左右スピーカー位置iiとjjで再生されるkLと −knL間、および −knRとkR間では、偏円B,Cの交点でLおよびRの差信号を再生する新たな仮想的左右ユニットを左右等分した関係となる。新たな仮想的ユニットは、いわばワンポイントマイクと等価的といえ、両耳に対して左右逆転する矛盾を生じない。
ただしXおよびYに差信号を用いる場合、リスナーはL,Rそれぞれのモノラル成分以外を時間差をともなって2度聴くことになって、過渡特性は低下する。
なおXには、R−nLと近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオのリア右オーディオ信号を逆相入力し、およびYには、L−nRと近似的である各種マルチチャンネルサラウンドステレオのリア左オーディオ信号を逆相入力することで、一定のサラウンド音場を得ることも可能である。これは上記リアチャンネルの多くが、L−nR、およびR−nLに準じた信号配分で収録されるからである。
【0101】
第五発明の実施例4は、図10において50で示されるクロストークキャンセル回路として実施されるが、その用途をステレオ再生装置に限るものではない。
例えば実施例4に50で示されるクロストークキャンセル回路はまた、スピーカーとリスナーの位置関係がある程度特定できる用途において、各種オーディオソース製作時に、収録音や製作音に一定のクロストークキャンセル効果を持たせられ、これによって製作された各種オーディオソースを再生する場合、一般的ステレオスピーカーを用いるオーディオシステムによって、再生音の一部、もしくは再生音全体にクロストークキャンセル効果を付加できる。
なお上記の各種オーディオソースとは、CDやDVDの音声、テレビ音声、映画音声、ラジオ、携帯用の小型無線電話機の音声に代表される、そこから音が得られる媒体を指すものであって、なお上記の例はそこから音が得られる媒体が多様であることの例示であって、媒体を限定するものではなく、例えば案内放送やカーナビゲーション(Satellite navigation system)の音声において再生音場を極端に変形し、例えばリスナーの耳元に音像を定位させて注意力を喚起したり、音によって方向を指示する用途にも使用できることになる。
【実施例5】
【0102】
第五発明の実施例4は、上記のようにステレオフォニックの原理に矛盾しない範囲で、マイクとスピーカーを等価的信号変換器とする。したがって上記原理による、図10では50で示されるクロストークキャンセル回路はまた、ディレイ特性をマイナスの距離差分とし、フィルターブロックより出力されたYおよびXを、ディレイブロックより出力されたWおよびZから減算する代わりに加算することで、ヘッドフォン用のクロストーク生成回路として応用でき、ステレオフォニックの原理に矛盾を生じない。
なお、WとZそれぞれを、XとYに対して任意の距離差 −(a+aa)分遅延させることは、XとYそれぞれをWとZに対して任意の距離差(a+aa)分遅延させることに等しい。
したがって上記クロストーク生成回路は、第五発明の実施例5として、図11にブロック図55で示すブロック構成としても差し支えない。
上記クロストーク生成回路55は、左オーディオ入力信号Lを、WとXとし、また右オーディオ入力信号Rを、YとZとし、
XとYそれぞれをディレイブロックに入力して、WとZに対して任意の距離差(a+aa)分遅延させ、かつXとYそれぞれをまたフィルターブロックにも入力して、WとZに対して上記到達誤差を生じてもコムフィルター現象および逆相感が大きくならない範囲で、任意に限定し、なおXとYが入力されるのはディレイブロックとフィルターブロック、いずれが先でもよく、
上記ディレイブロック並びにフィルターブロック双方を経たY出力を、Wに加算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロック並びにフィルターブロックの双方を経て出力されたXを、Zに加算して右オーディオ出力とすることで実施される。
なおまた第五発明の実施例5の構成は、上記基本構成を満たした上で自由な応用を許容する。
一例としては、例えばL,Rオーディオ信号を加算したL+Rから、差信号2L−R並びに差信号2R−Lを減算することで得られる、L,Rに共通するモノラル成分を、L,Rと任意の割合で混合してX,Yに入力し、中低音域のL,Rに共通するモノラル成分とモノラル成分以外のクロストーク量を相対的に変化させて生成する応用例が挙げられる。なお上記の例は一例であって、自由な応用を限定するものではない。
なお通常のステレオフォニック式収録音によって立体的なヘッドフォン音場が得られる上記回路は、音楽鑑賞用のヘッドフォンに用途が限られず、補聴器として用いる上でも有効性を持ち、その場合、2〜3kHz以下の周波数帯域において3次元的な音場再現性が得られるため、いわゆる骨伝導型ヘッドフォンとしても充分な音場再現性が得られる。
【0103】
なお第五発明の実施例4のクロストークキャンセル回路とその用途の例示、および実施例5に示す応用例とその用途の例示は、それが多様であることの例示であって限定ではない。したがって第五発明は多様な実施形態において、上記第一、第ニ発明と共通して有する、クロストークキャンセル帯域を限定することで2次クロストークを生じないクロストークキャンセル原理を用いて差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】第一発明の形態と、第ニ発明の副ユニット設置領域を示す斜視図である。
【図2】現在のクロストークキャンセル回路の基本構成を示すブロック図である。
【図3】“現行クロストークキャンセルシステム”をスピーカーに置き換えた場合のブロック図である。
【図4】SDA配置、およびリスナーとの関係を示す平面図である。
【図5】第一発明とリスナー両耳との関係、および第ニ発明の副ユニット設置領域を示す平面図である。
【図6】3ユニットによる実施例1を示すブロック図である。
【図7】アダプターリングの一例を示す斜視図である。
【図8】楕円柱状のエンクロージャーの一例を示す斜視図である。
【図9】実施例3と、サブスピーカーが設置される範囲を示す斜視図である。
【図10】実施例4のクロストークキャンセル回路を示すブロック図である。
【図11】実施例5クロストーク生成回路を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0105】
1 左主ユニット
11 3ユニット構成の左ユニット
101 左副ユニットの設置領域
1A 左副ユニット
1AA 左サブスピーカーのユニット
1V 左スピーカー位置
2 右主ユニット
21 3ユニット構成の右ユニット
201 右副ユニットの設置領域
2A 右副ユニット
2AA 右サブスピーカーのユニット
2V 右スピーカー位置
3,31〜33 左スピーカーシステム
4,41〜43 右スピーカーシステム
5,50 クロストークキャンセル回路
55 クロストーク生成回路
6,7 リスナー両耳間を中心に1ss,2ssまでを半径とする垂直の円
8 センターユニット
a 左右再生音が一方の耳位置に到達する時の、直線で計測される距離差
aa 左右再生音の一方が頭部を回り込むための距離差
AR1,AR2 アダプターリング
b 左耳位置
B bを中心とする円、および偏円
BL 直線bc上の −kL再生位置
BR 直線bc上のR再生位置
c 右耳位置
C cを中心とする円、および偏円
CL 直線bc上のL再生位置
CR 直線bc上の−kL再生位置
D,D1,D2 両耳を結ぶ線に平行な直線(基準線)
E 両耳間隔
f11〜14 左フィルター部
f21〜24 右フィルター部
i L再生位置
ii −kR再生位置
j R再生位置
jj −kL再生位置
m1,m2 任意のステレオ左右スピーカーシステム
o 円B,偏円Bと基準線D,D1の左側の交点
p 円C,偏円Cと基準線D,D1の左側の交点
q 円B,偏円Bと基準線D,D1の右側の交点
r 円C,偏円Cと基準線D,D1の右側の交点
s1,s2 左右サブスピーカー
ss1,ss2 仮想的左右サブスピーカー位置
VcL,VcR CCS配置の仮想的左右ユニット
VsL,VsR SDA配置の仮想的左右ユニット
W L信号側
X Lを加工するクロストークキャンセル信号側
XcL,XcR 第四発明の仮想的左右ユニット
XsL,XsR 第一発明の仮想的左右ユニット
Y Rを加工するクロストークキャンセル信号側
Z R信号側
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオスピーカーシステムであって、
左スピーカーシステムは、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを左主ユニットと表記)と、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを左副ユニットと表記)および上記左副ユニットに接続される左フィルター部とを具備することによって、上記左主ユニットで左オーディオ出力Lを再生し、また上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記左副ユニットで右オーディオ出力Rを逆相再生し、
並びに、右スピーカーシステムは、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを右主ユニットと表記)と、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを右副ユニットと表記)および上記右副ユニットに接続される右フィルター部とを具備することによって、上記右主ユニットで右オーディオ出力Rを再生し、また上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記右副ユニットで左オーディオ出力Lを逆相再生し、
上記左右スピーカーシステムがリスナーに対して左右等距離かつ等角度となる時に、左主ユニット、左副ユニット、右副ユニットおよび右主ユニットがリスナー両耳を結ぶ直線と平行する直線上に配置されることを前提条件として、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左主ユニットと左副ユニット間、および右主ユニットと右副ユニット間の高低差を許容し、
左スピーカーシステムでは、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に設け、
また右スピーカーシステムでは、上記右主ユニットに対して上記右副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に設けるものとして、
上記構成により2次クロストークをキャンセルした場合に、左主ユニット再生音のクロストークより右副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右副ユニット再生音を限定し、並びに、右主ユニット再生音のクロストークより左副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左副ユニット再生音を限定したことを特徴とする、クロストークキャンセルステレオスピーカーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムにおいて、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に設け、また上記右主ユニットに対して前記右副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に設けたことを特徴とするクロストークキャンセルステレオスピーカーシステム。
【請求項3】
クロストークキャンセル方法であって、任意のステレオスピーカーシステムの、リスナーに対して左右等距離かつ等角度に配置される、左スピーカーシステムで左オーディオ出力Lを再生し、および右スピーカーシステムで右オーディオ出力Rを再生し、
又、少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される左フィルター部とを具備する左サブスピーカーにおいて、右オーディオ出力Rを、上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、並びに少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される右フィルター部とを具備する右サブスピーカーにおいて、左オーディオ出力Lを、上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、
上記左サブスピーカーの再生帯域を主に再生する左スピーカーシステムのユニットを左スピーカー位置(当請求項では以下同様に表記)とし、また上記右サブスピーカーの再生帯域を主に再生する右スピーカーシステムのユニットを右スピーカー位置(当請求項では以下同様に表記)とした場合、
左スピーカー位置、左サブスピーカー、右サブスピーカーおよび右スピーカー位置を直線上に配置し、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左スピーカー位置と左サブスピーカー間、および右スピーカー位置と右サブスピーカー間の高低差を許容して、
上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に配置し、
また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に配置するものとして、
上記構成によって2次クロストークをキャンセルした場合に、左スピーカーシステム再生音のクロストークより右サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右サブスピーカー再生音を限定し、並びに、右スピーカーシステム再生音のクロストークより左サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左サブスピーカー再生音を限定し、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項4】
請求項3に記載のクロストークキャンセル方法において、上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に配置し、また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に配置することを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項5】
クロストークキャンセル方法であって、リスナーに対して等距離かつ等角度の左右スピーカーから、リスナーの一方の耳位置に再生音が到達するときの直線で計測される距離差を変数a(当請求項では以下同様に表記)とし、リスナーが左右スピーカーを大きな角度で見込む時に、左右スピーカー再生音の一方がリスナー頭部を回り込むことでaに加算される距離差を変数aa(当請求項では以下同様に表記)とする場合、
左オーディオ入力信号Lを、WとXとし、また右オーディオ入力信号Rを、YとZとして、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の10〜150%のうち任意の距離差h分遅延させ、またXとYそれぞれをフィルターブロックに入力して、W,Zに対して相対的に周波数帯域と出力レベルを制限して、
上記ディレイブロックより出力されたWから、上記フィルターブロックより出力されたYを減算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロックより出力されたZからは、上記フィルターブロックより出力されたXを減算して右オーディオ出力とし、
なお上記左右オーディオ出力を増幅し、リスナーから左右等距離かつ等角度に配置された左右スピーカーで再生して2次クロストークをキャンセルした場合、Wのクロストークよりクロストークキャンセル信号Xが、リスナー右耳に先行到達し、またZのクロストークよりクロストークキャンセル信号Yが、リスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域および出力レベル以内に、上記フィルターブロックによりXとYを限定することで、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項6】
請求項5に記載のクロストークキャンセル方法において、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の80〜120%のうち任意の距離差h分遅延させることを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項1】
ステレオスピーカーシステムであって、
左スピーカーシステムは、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを左主ユニットと表記)と、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを左副ユニットと表記)および上記左副ユニットに接続される左フィルター部とを具備することによって、上記左主ユニットで左オーディオ出力Lを再生し、また上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記左副ユニットで右オーディオ出力Rを逆相再生し、
並びに、右スピーカーシステムは、右オーディオ出力Rが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを右主ユニットと表記)と、左オーディオ出力Lが入力される少なくとも1個のスピーカーユニット(請求項1,2では以下これを右副ユニットと表記)および上記右副ユニットに接続される右フィルター部とを具備することによって、上記右主ユニットで右オーディオ出力Rを再生し、また上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して、上記右副ユニットで左オーディオ出力Lを逆相再生し、
上記左右スピーカーシステムがリスナーに対して左右等距離かつ等角度となる時に、左主ユニット、左副ユニット、右副ユニットおよび右主ユニットがリスナー両耳を結ぶ直線と平行する直線上に配置されることを前提条件として、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左主ユニットと左副ユニット間、および右主ユニットと右副ユニット間の高低差を許容し、
左スピーカーシステムでは、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に設け、
また右スピーカーシステムでは、上記右主ユニットに対して上記右副ユニットを、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に設けるものとして、
上記構成により2次クロストークをキャンセルした場合に、左主ユニット再生音のクロストークより右副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右副ユニット再生音を限定し、並びに、右主ユニット再生音のクロストークより左副ユニットのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左副ユニット再生音を限定したことを特徴とする、クロストークキャンセルステレオスピーカーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のクロストークキャンセルステレオスピーカーシステムにおいて、上記左主ユニットに対して上記左副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に設け、また上記右主ユニットに対して前記右副ユニットを、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に設けたことを特徴とするクロストークキャンセルステレオスピーカーシステム。
【請求項3】
クロストークキャンセル方法であって、任意のステレオスピーカーシステムの、リスナーに対して左右等距離かつ等角度に配置される、左スピーカーシステムで左オーディオ出力Lを再生し、および右スピーカーシステムで右オーディオ出力Rを再生し、
又、少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される左フィルター部とを具備する左サブスピーカーにおいて、右オーディオ出力Rを、上記左フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、並びに少なくとも1個のスピーカーユニットと、スピーカーユニットに接続される右フィルター部とを具備する右サブスピーカーにおいて、左オーディオ出力Lを、上記右フィルター部により再生帯域、音量を制限して逆相再生し、
上記左サブスピーカーの再生帯域を主に再生する左スピーカーシステムのユニットを左スピーカー位置(当請求項では以下同様に表記)とし、また上記右サブスピーカーの再生帯域を主に再生する右スピーカーシステムのユニットを右スピーカー位置(当請求項では以下同様に表記)とした場合、
左スピーカー位置、左サブスピーカー、右サブスピーカーおよび右スピーカー位置を直線上に配置し、ただし上記直線上に配置した時の、リスナー両耳との距離が略保たれれば左スピーカー位置と左サブスピーカー間、および右スピーカー位置と右サブスピーカー間の高低差を許容して、
上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、右に配置し、
また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔の0〜150%のうち任意の距離g、左に配置するものとして、
上記構成によって2次クロストークをキャンセルした場合に、左スピーカーシステム再生音のクロストークより右サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー右耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記右フィルター部により上記右サブスピーカー再生音を限定し、並びに、右スピーカーシステム再生音のクロストークより左サブスピーカーのクロストークキャンセル信号がリスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される再生帯域、音量以内に、上記左フィルター部により上記左サブスピーカー再生音を限定し、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項4】
請求項3に記載のクロストークキャンセル方法において、上記左サブスピーカーを上記左スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、右に配置し、また上記右サブスピーカーを上記右スピーカー位置に対して、リスナー両耳間隔に略等しい距離、左に配置することを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項5】
クロストークキャンセル方法であって、リスナーに対して等距離かつ等角度の左右スピーカーから、リスナーの一方の耳位置に再生音が到達するときの直線で計測される距離差を変数a(当請求項では以下同様に表記)とし、リスナーが左右スピーカーを大きな角度で見込む時に、左右スピーカー再生音の一方がリスナー頭部を回り込むことでaに加算される距離差を変数aa(当請求項では以下同様に表記)とする場合、
左オーディオ入力信号Lを、WとXとし、また右オーディオ入力信号Rを、YとZとして、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の10〜150%のうち任意の距離差h分遅延させ、またXとYそれぞれをフィルターブロックに入力して、W,Zに対して相対的に周波数帯域と出力レベルを制限して、
上記ディレイブロックより出力されたWから、上記フィルターブロックより出力されたYを減算して左オーディオ出力とし、また上記ディレイブロックより出力されたZからは、上記フィルターブロックより出力されたXを減算して右オーディオ出力とし、
なお上記左右オーディオ出力を増幅し、リスナーから左右等距離かつ等角度に配置された左右スピーカーで再生して2次クロストークをキャンセルした場合、Wのクロストークよりクロストークキャンセル信号Xが、リスナー右耳に先行到達し、またZのクロストークよりクロストークキャンセル信号Yが、リスナー左耳に先行到達しても、逆相感を生じず、良好に相殺される周波数帯域および出力レベル以内に、上記フィルターブロックによりXとYを限定することで、2次クロストークを伴わずにクロストークキャンセルすることを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【請求項6】
請求項5に記載のクロストークキャンセル方法において、WとZそれぞれをディレイブロックに入力して、X,Yに対して距離差(a+aa)分の80〜120%のうち任意の距離差h分遅延させることを特徴とするクロストークキャンセル方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−16573(P2010−16573A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174019(P2008−174019)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(307015035)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(307015035)
【Fターム(参考)】
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