説明

クロマトグラフィー媒体の衛生化

クロマトグラフィー媒体を衛生化する方法が提供される。該方法は、低い温度よび低いpHにおいて該媒体を酸性カオトロピック剤と接触させることを含む。該方法は、病原体除去および/または不活性化を提供し、特定の態様中ではウイルス不活性化を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
血液製剤の病原体汚染の可能性は、全世界にわたる重要な医学的問題となっている。ある種の鍵となる病原性ウイルスの存在についての改善された試験方法は、血液製剤の投薬と関連する疾患の発生を著しく低下させたけれども、血液供給の安全性に関する関心は残っている。さらに、日常的には試験されないその他のウイルス性、細菌性、および未知の作用物質は、血液製剤の投薬に脅威となる可能性を残している。加えて、血液供給物の試験は、ドナー集団に入り込む恐れがある将来の未知病原体に対して血液および血液製剤の安全性を保証できず、そして感度が高い試験が実効性を持つまでに疾患伝達をもたらす可能性がある。かかる関心事による影響は低いが、組換えまたは遺伝子導入手段により産生されたタンパク質治療剤も病原性作用物質による汚染を受ける。
【0002】
血液製剤を介するウイルス性またはその他の可能な疾患の伝達を排除するための別の解決方法は、血液製剤中の活性病原体を減少させる手段の開発である。血液製剤の病原体汚染の危険を低下させるために現在利用されている方法には、各種の濾過およびクロマトグラフィー技術が含まれる。それらの方法の工程は、病原体の浄化または全体的な血液製剤分別スキームの役割に専らゆだねられている。しかし、血液生成物の分別に使用される装置の作製および維持には衛生化または汚染除去を必要とし、それらは、困難となる可能性がある。例えば、病原体汚染血漿中間体のクロマトグラフィー分別は、クロマトグラフィー媒体自体の残留汚染をもたらすであろう。これは、媒体が次に使用されるために再生される場合に、製品の流れへの病原体伝達の可能な源となる。従って、血液製剤の調製に使用される再使用可能なクロマトグラフィー媒体の信頼できる衛生化への要求がある。
【発明の開示】
【0003】
本発明の衛生化方法は、組換えおよび遺伝子導入手段により産生されるものを含み、タンパク質治療剤の調製に使用されるクロマトグラフィー媒体(クロマトグラフィー媒体、分離媒体、および装置を含むが、それらに限定はされない)に同伴する、ウイルスを含む病原体を不活性化または除去する方法を提供する。本方法は、各種の病原体に対して有効である。タンパク質治療剤の数が増加するに従って、それらの製品を精製するためのスペシャルティーアフィニティー樹脂を含む各種クロマトグラフィー媒体の使用も同時に増加している。
【0004】
従って、本発明の一つの局面は、酸性カオトロピック剤、例えば塩酸グアニジンの溶液を媒体と接触させることによるクロマトグラフィー媒体の衛生化方法に関する。特定の態様では、グアニジンの酸性の尿素またはその他の塩が使用できる。
【0005】
別の態様では、本発明は、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度において、および酸性条件下で約0℃〜約10℃の温度において媒体を塩酸グアニジンの溶液と接触させてクロマトグラフィー媒体を衛生化する方法に関する。グアニジン溶液は、例えば0.1M酢酸を用いて緩衝することもできる。さらに別の態様では、本発明は、酸性条件下で約0℃〜約10℃の温度において約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度である塩酸グアニジンの溶液と媒体を接触させることにより、治療的投薬のための物質の精製または調製に媒体を引き続いて利用できるために十分なように、クロマトグラフィー媒体に同伴または付着するウイルス性汚染物を不活性化する方法に関する。
【0006】
さらに別の態様では、本発明は、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度において、および約1〜約5のpHで約0℃〜約10℃の温度において樹脂を塩酸グアニジンの溶液と接触させることにより、アルカリ不安定性マトリックスを有するクロマトグラフィー樹脂、アルカリ不安定性リガンドを有する樹脂、および/もしくはアルカリ不安定性リガンドリンケージを有する樹脂のウイルス不活性化を達成するための方法に関する。特定の態様では、pHは約2.5〜約4.5であることができる。pH、カオトロピック剤の濃度、および温度は、クロマトグラフィー媒体の有用な特性を著しくは損なわないで衛生化の所望の水準が達成できるように選択される。一つの態様では、衛生化の所望の水準は、動物またはヒト内での治療的使用のための製品の調製における媒体の引き続いての使用が可能となるために十分な水準である。本発明の方法は、衛生化および/または所望もしくは所要の特性保持の特定の水準を確認するために媒体を回収して試験することを含むことができる。
【0007】
一つの局面では、本発明は、媒体を酸性塩酸グアニジンの溶液と接触させることによるクロマトグラフィー媒体を衛生化する方法に関する。本発明による衛生化は、ウイルス不活性化を含むことができる。特定の態様では、ウイルス不活性化は、治療的投薬のための物質の精製または調製において衛生化した媒体の引き続いての使用ができるために十分である。
【0008】
一つの態様では、クロマトグラフィー媒体は、酸性条件下で約0℃〜約10℃の温度において塩酸グアニジンの溶液に暴露されることができる温度は約4℃であることができる。塩酸グアニジンの溶液は、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度であることができる。塩酸グアニジンの濃度は、約7モルであることもできる。塩酸グアニジンの溶液は約2.5〜約4.5のpHであることができる。
【0009】
別の態様では、クロマトグラフィー媒体はアルカリ不安定性マトリックスおよび/またはアルカリ不安定性リガンドもしくは複数のリガンドを有する樹脂であることができる。
【0010】
別の態様では、本発明は、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度において、および酸性条件下で約0℃〜約10℃の温度において、媒体を塩酸グアニジンの溶液と接触させてクロマトグラフィー媒体を衛生化する方法に関する。本発明による衛生化は、クロマトグラフィー媒体を汚染する可能性がある感染性作用物質の不活性化を含んでなることができる。感染性作用物質は、血液製剤出発物質、例えば血漿の汚染物であることができる。本発明により処理が可能な汚染物には、ウイルス性、細胞性病原体またはタンパク質病原体が含まれる。その例には下記が含まれる:ウイルス性(パルボウイルスB19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス、ヒトヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン−バーウイルス、西ナイルウイルス)、細菌性(梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、淋菌(Neisseria gonorrhoea)、トラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、マルタ熱菌(Brucella melitensis)、マルタ熱菌(Brucella melitensis)、エールリヒア属細菌(Ehrlichia)、ブドウ球菌属細菌(Staphylococci)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginos))または寄生生物性(プラスモジウム属原虫(Plasmodium)、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、バベシア・ミクロティ(Babesia microti))。感染性作用物質は、病原性プリオンタンパク質(それは本明細書中ではPrPScと称し、非感染性プリオン種はPrP、そして非特定的にはPrPで表すこともある)であることができる。組換えまたは遺伝子導入手段により産生されるタンパク質治療剤について、感染性作用物質の例は、マウスレトロウイルス(murine retrovirus)、ウシ海綿状脳症、およびスクレーピーを含む。
【0011】
さらに別の態様では、本発明は、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度において、および約0℃〜約25℃の温度および約1〜約5のpHにおいて、媒体を塩酸グアニジンの溶液と接触させることにより、治療的投薬のための物質の精製または調製に引き続いて媒体を利用させるために十分である、クロマトグラフィー媒体のウイルス不活性化を達成するための方法に関する。塩酸グアニジンの溶液は、約6モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度であることができる。塩酸グアニジンの溶液は、約7モルの塩酸グアニジンの濃度であることもできる。温度は、約0℃〜約10℃であることができる。温度は、約2℃〜約8℃であることもできる。温度は、約4℃であることもできる。pHは約2.5〜約4.5であることができる。pHは約4であることもできる。
【0012】
本発明の方法に従って、塩酸グアニジン濃度、pH、および温度は、クロマトグラフィー媒体の受容できる衛生化を提供する範囲内で変化されてもよい。上記のように、低温では、グアニジンの溶解度はpHの低下により増加する。しかし、特定の衛生化用途では、低温は本質的な関心事ではなく、そして十分に高いグアニジン濃度が、より高いpHで達成されるであろう。塩酸グアニジン濃度、pH、および温度の最適な組み合わせは、本明細書中で提供されるガイダンスに基づいて特定の環境に対する当該技術分野の熟練者により決定されることができる。
【0013】
さらに別の局面で、本発明は、本発明の方法に従って樹脂を塩酸グアニジンの溶液と接触させて、アルカリ不安定性マトリックスを有するクロマトグラフィー樹脂、アルカリ不安定性リガンドを有する樹脂、および/またはアルカリ不安定性リガンドリンケージを有する樹脂のウイルス不活性化を達成する方法に関する。樹脂は、アルカリ不安定性マトリックスまたはリンケージを有することができる。
【0014】
樹脂はアルカリ不安定性リガンドもしくは複数のリガンド、例えばベンズアミジン−セファロース(SEPHAROSE)、ヘパリン−セファロース、チバクロン(Cibacron)ブルー−セファロース、およびタンパク質A−セファロースを有することもできる。病原体不活性化は、カラム樹脂を衛生化溶液と平衡化するために必要な時間経過以内で実現されてもよく、そして所望の不活性化水準が達成されるまで静的または動的維持として延長されてもよい。
【0015】
一つの態様では、樹脂は化学的カプリングしたリガンドを有するポリマー性支持体を含んでなり、それは例えばアルカリ条件下で加水分解または構造的損傷の原因となると考えられる小さい有機化合物もしくは巨大分子、例えばタンパク質、炭水化物もしくは核酸であってもよい。別の態様では、樹脂は、リガンドに化学的に連結するポリマー性支持体であり、それはアルカリ条件下で加水分解の原因となると考えられる化学結合を介する、小さい有機化合物もしくは巨大分子、例えばタンパク質、炭水化物もしくは核酸であることができる。
【0016】
さらに別の態様では、樹脂は、小さい有機化合物もしくは巨大分子、例えばタンパク質、炭水化物もしくは核酸であることができるリガンドにカプリングされた化学架橋されビーズ化されたアガロース(SEPHAROSEタイプ)またはその他のポリマー性ビーズ支持体である。
【0017】
「不活性化」の用語とは、病原体単位に複製を不可能とさせるような、病原体単位の改変として本明細書中では定義される。これは、与えられた試料中に存在するすべての病原体単位が複製不可能とされる「完全不活性化」、または存在する病原体単位の大部分が複製不可能とされる「本質的不活性化」とは区別される。
【0018】
「不活性化」方法が「完全不活性化」を達成するかしないかを評価するために、特定の例を考察すると有用である。ある細菌培養物は、新鮮な培養プレートに移行されそして繁殖された場合に、培養物の試料がある期間後に検出不可能である場合に、不活性化されたと称される。生存能力がある細菌の最小数が、シグナルを検出可能とするためにプレートに与えられなければならない。最適な検出方法を用いると、この最小数は1個の細菌細胞である。次善の検出方法を用いると、シグナルが観察されるために適用される細菌細胞の最小数は1個よりはるかに多いであろう。該検出方法は、その下では「不活性化方法」が完全に有効である(そしてその上では「不活性化」が実際には部分的にしか有効でない)ように見られる「閾値」を決定する。
【0019】
検出方法および閾値の同様な考察は、不活性化方法の感度限界を決定する際にも存在する。その場合にも、「不活性化」とは、病原体の単位が複製不可能とされる(または疾患、例えば病原性プリオンタンパク質の伝達を不可能とする)ことを意味する。
【0020】
in vivoもしくはin vitroのいずれでも、ヒトにより使用される物質の不活性化方法の場合に、検出方法とは、理論的には物質への暴露の結果としての疾患の感染の水準の測定と考えられることができる。従って、それ以下で不活性化方法が完全である閾値は、物質との接触のために起きる疾患を防止するために十分な不活性化の水準と考えられる。この実際的なシナリオでは、本発明による方法が「完全不活性化」をもたらすことは本質的ではないことが認められる。すなわち、「本質的不活性化」が、生存能力がある部分が疾患を起こすためには不十分である限り妥当である。従って、残存する病原体のいかなる生存能力がある部分も疾患を起こすためには不十分である場合に、「本質的にすべて」の病原体が不活性化される。本発明の不活性化方法は、本質的に不活性化された病原体をもたらすことができる。
ウイルス不活性化
「塩酸グアニジン」および「グアニジンHCl」の用語は、本明細書中では互換可能に使用される。塩酸グアニジンは、タンパク質溶液中のウイルスを不活性化できることが知られている。ウイルス不活性化は、加熱ステップにおいて関係するタンパク質溶液に直接塩酸グアニジンを加えると(約3M以下の濃度)促進される。塩酸グアニジン自体は、通常はミリモル濃度で少数のウイルスの複製を阻害する能力を有する。塩酸グアニジンの使用は、緊密に結合したタンパク質をクロマトグラフィー樹脂から除去するとして公知である。
【0021】
本発明の一つの局面では、酸性化塩酸グアニジンの溶液は、約4℃において、ヒト血漿、血漿画分から、またはその他の動物もしくは組換え起源からのタンパク質を精製するためにクロマトグラフィー樹脂を使用した後に該樹脂に同伴して残留しているウイルスを不活性化するために使用できることが証明される。
【0022】
現在では、クロマトグラフィー樹脂に同伴するウイルスを不活性化する一つの方法は、NaOHを用いて樹脂を処理することである。有効ではあるが、この方法は、アルカリに不安定なマトリックスまたはリガンドを有する多数のクロマトグラフィー樹脂(ベンズアミジン−SEPHAROSEを含むが、それに限定はされない)にとっては耐えられない。
【0023】
さらに、多数のクロマトグラフィー方法は、低い生物負荷(bioburden)の水準を維持しおよび/またはタンパク質の生物学的活性を維持するために4℃の目標温度で実施される。しかし、塩酸グアニジンの溶解度は、温度の関数として低下する。本発明によると、低温(4℃)における高濃度の塩酸グアニジン(8Mまで)の溶解度は、溶液を酸性化することにより維持できることが発見された。さらに、本発明者らは、pH4.0において6.5M塩酸グアニジンを使用する、4℃の溶液内のウイルスの不活性化を証明した。さらに、有効ウイルス不活性化を維持しながらpH3.0においてこの濃度を4Mまで低下できることも発見した。
【0024】
さらに、本発明者らは、クロマトグラフィーカラム同伴ウイルス(ベンズアミジン−SEPHAROSE樹脂)は、pH3.0において塩酸グアニジンの高濃度(7.2M)の使用を介して不活性化できることを証明した。下記の実施例を参照されたい。
プリオン汚染
伝達性(transmissible)海綿状脳症(TSE)感染性作用物質(病原性プリオンタンパク質)はヒト血液または血液製品中で同定されてはいないけれども、最近の動物モデルは、理論的な危険が存在する徴候を証明している。従って、クロマトグラフィー媒体を含む生物学的治療剤の単離の間の血漿またはその他の血液製品中間体へ暴露される生産表面を処理するために使用されるいずれの衛生化方式も、PrPSc、すなわちTSE感染性に関係する感染性タンパク質性作用物質を除去または不活性化することが望ましい。
【0025】
PrPScの一つの決定的特性は、プロテナーゼK消化への耐性である。PrPの正常な細胞形態(PrP)のプロテナーゼK消化は、PrPの完全な消失をもたらすが(高感度ウエスタンブロッティング技術により評価され、例えばLee,D.,et al.,J.Virol.Methods,84(1):77−89(2000)参照、引用することにより本明細書に編入される)、プロテナーゼKによるPrPScの消化は、PrPRES として同定されるタンパク質の末端短縮形態を生成する。PrPRES 免疫反応性の低下により証明されるプロテナーゼK耐性の消失は、PrPSc不活性化と相関性がある。
【0026】
PrPScを加水分解または変性のいずれかをさせる化学薬品は、現場洗浄(clean−in−place)剤の可能性がある。カオトロピック剤である塩酸グアニジンは、ほとんど中性のpHの溶液中でPrPScを不活性化することが公知である(Caughey,et al.,J.of Virology,71:4107−4110(1997);Manuelidis,L.,J.of Neurovirol.3:62−65(1997))。クロマトグラフィー媒体の現場洗浄剤としての酸性塩酸グアニジンの使用を支持するために、PrPScを不活性化するこの調剤の能力が研究された。PrPScを4M塩酸グアニジン、pH3溶液内に再懸濁し、室温で1時間インキュベーションした。非処理対照物と比較して、PrPRES 免疫反応性における≧2.5logの低下が、酸性グアニジンのこの低い濃度でも観察された。加えて、7.2M塩酸グアニジン、pH3を用いる表面吸着PrPScの処理は、免疫反応性PrPRES に少なくとも2.75logの低下を起こした(1時間のインキュベーションでも)。PrPRES 免疫反応性の低下は、酸性塩酸グアニジンがPrPScを効果的に不活性化することを証明する。
実施例
【実施例1】
【0027】
ウイルス不活性化アッセイ:カラムクロマトグラフィー
クロマトグラフィー媒体の衛生化の一つの局面としてウイルス浄化(clearance)を評価するために、下記のアッセイを使用した。下記の表1に使用される「負荷」、「溶離ピーク」などの用語は、タンパク質精製の技術分野で通常使用される用語に相当する。
【0028】
カラム負荷物質(セリンプロテアーゼプラスミンを濃度約0.9mg/mLで含む希釈タンパク質溶液)を、関係するウイルス(ブタ・パルボウイルス;PPV)を用いて、10%の最終体積寄与(すなわちウイルス溶液1容:負荷物の9容)となるまで「スパイク」した。PPV溶液は、ATCC(Amrican Type Culture Collection)から入手したミニブタ腎臓(MPK)細胞中のウイルスを、10%FBSおよびNHG(DMEM+10%FBS+NHG)を含むダルベッコの変性イーグル媒体(Gibco/Life Technologies,Grand Island,NY)を用いて増殖して調製した。NHGは、0.1mM非必須アミノ酸(Gibco/Life Technologies,Grand Island,NY)、10mM HEPES(N−〔2−ヒドロキシエチル〕ピペラジン−N’−〔2−エタンスルホン酸〕;Sigma Chemical Company,St.Louis,MO)、ゲンタマイシン(0.05mg/mL;Gibco/Life Technologies,Grand Island,NY)およびファンギゾン(fungizone、2.5μgアンフィテリシンB/mL;Gibco/Life Technologies,Grand Island,NY)から成っていた。PPVは、低い感染多重度(moi、0.1〜0.01の範囲内)でMPK細胞のサブ集密単層を感染させて調製し、PPV繁殖媒体(DMEM+10%FBS+NHG)を加え、次いでCOインキュベーター中、36℃〜38℃で進行したCPEが観察されるまで細胞をインキュベーションした。感染された細胞を冷凍乾燥で破壊し、そして細胞溶解物を−70℃で使用するまで保管した。ウイルススパイクは、ウイルス感染細胞溶解物を解凍し、低速で遠心分離して(例えば5000RPMまたは4100xg、15分間、5℃、SORVALL SLA 600TCローター)細胞破片を除去しそしてウイルススパイクとして使用するための清澄な上清を採取して調製した。次いで「スパイク」した負荷物質をアッセイ(下記参照)して負荷物中のウイルスの測定可能量(力価)を決定した。次いで「スパイク」した負荷物をベンズアミジンSEPHAROSEカラムに加えそして関係するタンパク質(プラスミン)を精製するために通常行われるようにしてクロマトグラフィーサイクルを実施した。画分を捕集しそしてクロマトグラフィーサイクルの間にそれらの体積を測定した。次いでそれぞれの画分をアッセイして特定の画分と一緒に分配されたウイルスの量を決定した。次いで、力価(mlあたりのウイルス粒子の数として通常対数的に表される)に画分の体積を掛けてウイルスの全量を種々の画分について算出した。
【0029】
ウイルス浄化の量は、特定の画分内の全ウイルスに対する負荷物内の全ウイルスの比率として通常報告される:
Log10〔負荷物体積x負荷物力価/画分体積x画分力価〕
これは、対数低下値または”LRV”と称される。
【0030】
典型的には、「溶出ピーク」物質が、最も関係ある画分であり、それは通常はこれが所望の精製タンパク質を含むからである。
【0031】
ウイルス(PPV)をアッセイするために、試料(スパイクした負荷物、各種画分など)の半対数(half log10)(1:3.2)の系統希釈液をハンクス液(Hanks Buffered Saline Solution)中で調製した。次いで、これらの系統希釈物の試料を96ウエル組織培養プレート内に接種された約60%集密のMPK細胞に加えた。使用の直前に、細胞から増殖媒体を除去しそしてDMEM100μL+2%FBS+NHGをそれぞれのウエルに加え戻した。それぞれの希釈度で8個の平行試料(100μLアリコート)を、プレート上の一連の細胞の所与の列に加えた。この方法で、単一プレートが12種類までの異なる希釈度を収容した。一列(ウエル8個)は、ウイルス陰性対照としてHBSSのみを受け入れた。次いで、細胞を種々の希釈度で、COインキュベーター中、36℃〜38℃で75分間インキュベーションした。インキュベーション期間の後、すべての溶液をそれぞれのウエルから取り去りそして増殖媒体と交換した。次いでプレートをCOインキュベーター中、36℃〜38℃で7日間インキュベーションした。7日間のインキュベーション期間後(表1参照)、細胞をウイルス感染の証拠について細胞を顕微鏡検査した(感染は通常細胞死滅として表れる)。プレート上の感染されたウエルの数を評価しそして希釈の上昇を考慮に入れて、ウイルス力価を算出した。力価を得るためにSpearmanおよびKarberの方法と称される統計的方法を日常的に使用した(Spearman,C.and G.Karber、In:Bibrack,B.and G.Wittmann,eds.Virologische Arbeitsmethoden、Stuttgart:Fischer Verlag,pp37−39(1974))。 試料を「滴定」して感染の徴候がない(陽性)ことが非希釈物質を受け入れたそれらの細胞で観察された場合には、アッセイ検出の限界は≦0.7log10TCID50/ml(組織培養感染量、50%終点)として報告された。これは、試料mlあたりにウイルス粒子が5個未満であることを示す。
【0032】
アッセイされた試料がウイルスを検出するために使用された細胞に対して毒性である場合には、この「細胞毒性」は、上昇した「検出限界」をもたらす。この状況では、細胞に対して非毒性であった系列希釈試料の最初のものが検出の限界を表す。この上昇した検出限界は、ウイルスが酸性塩酸グアニジン中で滴定された場合に観察された。細胞のタイプに応じて、3.2−3まで希釈された酸性塩酸グアニジンがまだ細胞に対して毒性である場合もあり、そして報告された検出限界は≦2.8log10TCID50/mlとなる。
【0033】
下記の表1は、3回のウイルス浄化クロマトグラフィー実験の要約を示す。この表は、プラスミンを精製するために使用されたベンズアミジン−SEPHAROSEクロマトグラフィーステップの評価を例証するものである。それらの実験は、非外被ウイルス(ブタパルボウイルス:PPV)を用いて実施され、それは物理的および化学的手段による不活性化に対して著しく耐性であることが知られている。クロマトグラフィーサイクルは下記の5ステップから成る:負荷、洗浄、溶離、再生/衛生化および貯蔵。再生/衛生化ステップは、酸性塩酸グアニジン(7.2MグアニジンHCl、0.1M酢酸、pH3.0)を用いた。表1のデータは、大部分のウイルスがカラムを通過しそして流通/洗浄画分に同伴したことを示す。溶離ピーク画分内のウイルスの量は負荷物質内のものより約2log10低いけれども、ウイルスの測定可能量がカラムの出口で観察できた。この理由から、カラムは、衛生化して再使用できる前にカラム上に残留するあらゆるウイルスを不活性化および除去されなければならない。これらの状況は、血液製剤精製クロマトグラフィー後のカラムの実際の浄化をシミュレートした。
【0034】
再生/衛生化ステップの間に捕集された物質内のウイルス力価の増加(溶出ピーク力価と比較して)は、ウイルスがカラムから除去されたことを証明する。それに続く貯蔵ステップは、再生/衛生化ステップ後の溶出物内に測定可能なウイルスがもやは存在しないことを証明した。貯蔵緩衝液(20%エタノール)は細胞にわずかに毒性であり、従って≦1.8log10TCID50/mlの検出限界である。ウイルス洗浄試験の一日後でカラムが洗浄緩衝液と平衡化するので、前−平衡画分と標識される試料をカラム溶出物から採取した。それらの画分内に測定可能なウイルスが存在しないことは、カラムが有効に衛生化されたことをさらに証明する。
【0035】
【表1】

【実施例2】
【0036】
ベンズアミジン−SEPHAROSEの衛生化
ベンズアミジン−SEPHAROSE樹脂は、高(≧9)および低い(≦1)pH条件では安定ではないので衛生化に問題をもたらす。従って、pH安定特性のために、他のさらに安定な樹脂で日常的に行われているような衛生化のためのNaOHの使用は排除される。
【0037】
耐久性(物理−化学的不活性化技術)モデルウイルスとしてブタパルボウイルス(PPV)を不活性化する能力について、一連の溶液を評価した。溶液に対する要求事項は以下である。
【0038】
1)アッセイの検出限界までウイルス(PPV)死滅(実施例1参照)、
2)4℃で有効、および
3)ベンズアミジン−SEPHAROSE樹脂との相容性。
【0039】
試験した溶液には、各種のアルコール、界面活性剤、および塩酸グアニジンを含むカオトロピック剤が含まれていた(表2)。最初のスクリーニングで、室温でのアッセイの検出限界までウイルスを死滅させるために有効として8M塩酸グアニジンが決定された。4℃における不活性化では、低温で沈降物が生成するので、最初は8Mグアニジンを用いて評価できなかった。しかし、25%アルコールを含む塩酸グアニジンのより低い濃度(6M)が4℃でも安定な溶液となり(沈降物なし)、それはウイルス死滅のために部分的にのみ有効であった。8M塩酸グアニジンが溶液内に止まる条件を決定するために一連の実験を行った。8Mグアニジンを酸性化(pH4.0または3.0へ)すると、4℃で沈降しない溶液が得られた。加えて、ウイルスと混合すると(ウイルス1部:酸性塩酸グアニジン9部、最終塩酸グアニジン濃度=7.2M)、検出限界までの不活性化が4℃で30分以内に起きた。同様の実験を、ウイルス浄化評価実験の後に、7.2M塩酸グアニジン、pH3.0でベンズアミジン−SEPHAROSEカラムを処理して行った。この処理は、上記のアッセイ検出の限界までの有効ウイルス(PPVおよびウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV))不活性化を証明した。
【0040】
【表2】

【0041】
ウイルス減少は、陽性対照の力価から実験試料の力価を差し引いて算出した。完全ウイルス不活性化をもたらす処置結果は、灰色の地色で示したことに注意のこと。
略語
SDA:溶剤変性アルコール;GH:グアニジンHCl;AA:酢酸;BA:ベンジルアルコール;Hib.:ヒビテン(Hibitane):PA:過酢酸;SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
【0042】
【表3】

【0043】
ウイルス減少は、陽性対照の力価から実験試料の力価を差し引いて算出した。
【実施例3】
【0044】
プリオン病原体の不活性化
クロマトグラフィー媒体の現場清浄剤としての酸性塩酸グアニジンをさらに研究するために、PrPSc(病原性プリオンタンパク質、伝達性海綿状脳症すなわちTSE内の病原性作用物質)を不活性化するこの調剤の能力を試験した。PrPScを4M塩酸グアニジン、pH3溶液中に再懸濁しそして1時間、室温でインキュベーションした。非処理対照と比較して、PrPRES 免疫反応性に≧2.5log低下が、この低い酸性塩酸グアニジン濃度でも観察された。さらに、7.2M塩酸グアニジン、pH3を用いる表面吸着PrPScの処理は、免疫反応性PrPRES に2.75log低下をもたらした。PrPRES 免疫反応性の低下は、PrPScを不活性化する塩酸グアニジン、pH3の有効性を証明する(Lee,D. et al.,J.Virol.Methods,84(1):77−89(2000)参照、引用することにより本明細書に編入される)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィー媒体を衛生化する方法であって、約1〜約5のpHにおいて、該媒体の所望の特性を保存しながら衛生化の所望の水準に到達するために十分な時間および温度で、該媒体を塩酸グアニジンの溶液と接触させることを含んでなる方法。
【請求項2】
衛生化がウイルス不活性化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ウイルス不活性化が、衛生化された媒体を、引き続いて、治療的投薬のための物質の精製または調製に使用できるために十分である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
クロマトグラフィー媒体が、約0℃〜約25℃の温度で塩酸グアニジンの溶液に暴露される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
温度が約4℃である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
塩酸グアニジンの溶液が約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
塩酸グアニジンの濃度が約7モルである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
塩酸グアニジンの溶液が約2.5〜約4.5のpHである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
クロマトグラフィー媒体が、アルカリ不安定性マトリックスを有する樹脂およびアルカリ不安定性リガンドを有する樹脂からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
クロマトグラフィー媒体を衛生化する方法であって、約0℃〜約10℃の温度、および約1〜約5のpHにおいて、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度である該塩酸グアニジンの溶液と該媒体を接触させることを含んでなる方法。
【請求項11】
衛生化が、クロマトグラフィー媒体を汚染する可能性がある感染性作用物質の不活性化のために十分な条件下で、該溶液をクロマトグラフィー媒体と接触させることを含んでなる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
感染性作用物質が、血液製剤の、ウイルス性、細胞性または病原性のタンパク質汚染物である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
血液製剤の汚染物が、パルボウイルスB19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス、ヒトヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン−バーウイルス、西ナイルウイルス、梅毒トレポネーマ(Treponema
pallidum)、淋菌(Neisseria gonorrhoea)、トラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、マルタ熱菌(Brucella melitensis)、マルタ熱菌(Brucella melitensis)、エールリヒア属細菌(Ehrlichia)、ブドウ球菌属細菌(Staphylococci)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginos)、プラスモジウム属原虫(Plasmodium)、クルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)、バベシア・ミクロティ(Babesia microti)、および病原性プリオンタンパク質から成る群から選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
感染性作用物質が、パルボウイルスB19、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス、ヒトヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタイン−バーウイルス、および西ナイルウイルスから成る群から選択されるウイルスである、請求項12記載の方法。
【請求項15】
感染性作用物質がプリオンタンパク質である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
治療的投薬のための物質の精製または調製にクロマトグラフィー媒体を引き続いて使用できるために十分である、該媒体に結びついたウイルスを不活性化する方法であって、約0℃〜約10℃の温度、そして約1〜約5のpHにおいて、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度である塩酸グアニジンの溶液と該媒体を接触させることを含んでなる方法。
【請求項17】
塩酸グアニジンの溶液が、約7モルの塩酸グアニジンの濃度である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
温度が約4℃である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
pHが約4である、請求項16記載の方法。
【請求項20】
アルカリ不安定性マトリックスを有する樹脂およびアルカリ不安定性リガンドを有する樹脂からなる群から選択されるクロマトグラフィー樹脂のウイルス不活性化を達成する方法であって、約0℃〜約10℃の温度、および約2.5〜約4.5のpHにおいて、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度である塩酸グアニジンの溶液と該媒体を接触させることを含んでなる方法。
【請求項21】
塩酸グアニジンの濃度が約7モルである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
温度が約4℃である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
pHが約4である、請求項20記載の方法。
【請求項24】
樹脂がアルカリ不安定性結合を有する、請求項20記載の方法。
【請求項25】
樹脂が、ベンズアミジン−セファロース(SEPHAROSE)、ヘパリン−セファロース、チバクロン(CIBACRON)ブルー−セファロース、およびタンパク質A−セファロースから成る群から選択される、請求項20記載の方法。
【請求項26】
樹脂がアルカリ不安定性のリガンドまたはリガンドリンケージを含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項27】
クロマトグラフィー媒体を衛生化する方法であって、
約1〜約5のpHにおいて、該媒体の所望の特性を保存しながら衛生化の所望の水準を達成するために十分な時間および温度で、該媒体を塩酸グアニジンの溶液と接触させ、
媒体を回収し、そして
衛生化の所望の水準を確認するために該媒体を試験する
ことを含んでなる方法。
【請求項28】
クロマトグラフィー媒体を衛生化する方法であって、
約0℃〜約10℃の温度、および約2.5〜約4.5のpHにおいて、約3モル〜約8モルの塩酸グアニジンの濃度である塩酸グアニジンの溶液と該媒体を接触させ、
媒体を回収し、そして
衛生化の所望の水準を確認するために該媒体を試験する
ことを含んでなる方法。

【公表番号】特表2007−528989(P2007−528989A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518717(P2006−518717)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/020891
【国際公開番号】WO2005/007204
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(503106111)バイエル・ヘルスケア・エルエルシー (154)
【Fターム(参考)】