説明

クロマトグラフィ/質量分析のデータ依存データ収集における動的なバックグラウンド信号の排除

物質の質量分析のデータを取得するための方法およびシステム。方法は、物質をクロマトグラフィプロセスまたはその他の分離プロセスの対象にすることと、その出力をイオン化することと、イオン化された出力を再帰的な質量解析の対象にすることと、反復的な解析の間に取得されたデータに関する改良された処理および解析を提供することとを含んでいる。本発明の一局面にしたがうシステムは、イオン源と、選択された質量のイオンの解析が可能な質量分析器と、質量分析器から、複数の質量分析を表すデータを表している信号を受信し、上記信号を保持するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(分野)
本発明は、概して、質量分析器の分野に関し、より具体的には、クロマトグラフィ/質量分析システムにおいて溶出した化合物を識別するための、データ依存収集技術を用いた自動MS/MS収集に関する。本発明はまた、複雑な混合物における興味のある種(species of interest)の識別の際の収集後のデータ処理にも用いられ得る。
【背景技術】
【0002】
(序)
質量分析器は、テストサンプルから溶出された種(species)の識別および特徴付けのために、しばしばクロマトグラフィシステムと組み合わされる。そのような組み合わされたシステムにおいて、溶出溶剤はイオン化され、その後のデータ解析のために、特定の時間間隔(例えば、0.01〜10秒の範囲)で、溶出溶剤の一連の質量スペクトルが取得される。テストサンプルは多くの種または化合物を含み得るので、溶出している興味のある種または化合物を自動的に決定または識別すること、ならびにそれらを特徴付けるためにMS/MS解析を実行することが可能であることが、しばしば望ましい。しかしながら、複雑な混合物における興味のある種を実時間内で識別することは、困難な作業であり得る。
【0003】
質量分析器に関連する様々な自動ツール、ならびに質量分析器に関連するデータ収集・解析ソフトウェアが、この問題を解決するために開発されてきた。周知な自動ツールは、IDA(TM)(Information Dependent Acquisition(TM))システムであり、これは、MDS Sciex Inc.およびApplera Corporationによって市販されている。データ収集プロセスの間、このツールは、前駆イオンを選択するために、質量スペクトルの質量ピークを識別する。その後、このツールは、質量分析(MS/MSまたはMS/MS/MS)の1つ以上の連続的段階に入り、そこでは、選択された前駆イオンがフラグメント化される。結果として得られるMS/MS(またはそれよりも高位の)スペクトルは、エネルギーの観点で許容される全てのフラグメント化プロセス(前駆イオンからフラグメントイオン、およびフラグメントイオンからその他のフラグメントイオン)の合成である。連続的なMS段階によって説明されるスペクトルの豊富さおよび/または解離経路は、スペクトルデータベースまたはMS/MSライブラリを調べるとき、あるいは化合物の特徴付けに用いられる構造情報を提供するときに、化合物の識別のために極めて有用であり得る。
【0004】
その他の質量分析システムの製造業者は、同様の実時間データ依存スイッチ機能を提供する。例えば、Thermo Finning LLC(カリフォルニア州、サンノゼ)は、DDE(Data Dependent Experiment(TM))ツールを市販しており、Waters Corporation(Micromass(TM))は、Data Directed Analysis(DDA)(TM)ツールを市販している。
【0005】
上述の実時間データ依存スイッチ機能は、例えば、一部のインビボのサンプル解析または単一タンパク質の消化解析のような適用(これらにおいては、興味のある質量ピークの検出が極めて容易である)において、適切な結果を提供し得る。しかしながら、生体液(例えば、尿または血漿の抽出物)または消化タンパク質(例えば、消化された細胞溶解物)の混合物のような、より複雑なサンプルセットを扱うときには、同時に溶出しているその他多くの主要な成分または種が存在し得、これらは、興味のある被検体または種の「影(shadow)」となったり、興味のある被検体または種を隠したりし、興味のある被検体または種は弱い信号強度を有することになり、その結果、実際に興味のある(イオン化された)種を効率的に選択することが不可能になる。本質的に、低レベルの濃度で溶出している種を検出することは、しばしば困難である。
【0006】
IDA(TM)ツールにおいて、MS/MSのためにシステムによって「選ばれる」質量ピークの選択は、含有物リストを用いることによって、あるいは当該技術分野において周知なより詳細なサーベイスキャン(例えば、ニュートラルロス、プレカーサー)およびEMC(enhanced multiply−charged scan)を用いることによって、改善され得る。しかしながら、これらのアプローチは、解析されるサンプルについてのなんらかの知見を想定しているので、常に適用できるとは限らない。代わりに、動的排除プロセス(dynamic exclusion process)が用いられ得、この動的排除プロセスにおいては、解離のためのイオンが選択されると、そのイオンは次の数スキャンの間は無視され、次に最も高い強度ピークを有しているイオンが解離のために選択される。しかしながら、これは、多くの主要な成分と同時に溶出しているわずかな濃度の種に関する問題を解決するわけではない。
【0007】
前駆イオンの適切な選択は、種の識別において重要であるということを認識されたい。イオンの適切な選択はまた、データ依存の収集技術において、有用な最小量の情報が収集されることを保証する。このことは、種の識別および特徴付けの高速化および単純化を促進し得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(概要)
一般的に、本発明にしたがうシステムおよび方法は、速い立ち上がりの質量信号またはその他の特色のある質量信号を識別することによって、わずかな濃度の種、および主要なその他多くの成分と同時に溶出しているその他の種を識別することが可能である。このことは、好適には、質量分析と、先に取得された1つ以上の質量分析を含んだ質量分析のバックグラウンドとを比較することによって、実行され得る。
【0009】
本発明の一局面にしたがうと、物質の質量分析のデータを取得するための方法が、提供される。この方法において、物質は、クロマトグラフィプロセスの対象となり、その出力は、イオン化される。質量分析は、イオン化された出力から取得される。その後、速い立ち上がりの質量信号を有しているイオンは、現在の質量分析と、先に取得された1つ以上の出力の質量分析を含み得る質量分析のバックグラウンドとを比較することによって、識別される。その後、識別されたイオンは、フラグメント化され、結果として得られた質量分析が記録される。これらのステップは、好適には、動的に繰り返され、クロマトグラフィカラムからの実質的に全ての溶出している種が、質量によって識別され、追加的な質量分析の情報を取得するために、フラグメント化される。
【0010】
速い立ち上がりの質量信号に関連するイオンは、例えば、現在の質量分析から、先に取得された質量分析を減算することにより、あるいは平均化することにより、識別され得る。あるいは、速い立ち上がりの質量信号に関連するイオンは、先に取得された1つ以上の出力の質量分析における値または平均値に対し、現在の質量スペクトルにおける各質量信号の値における割合の変化を決定することにより、識別され得る。
【0011】
速い立ち上がりの質量信号の識別は、さらなる数学的技術を用いることによって、さらに精密化または改良され得る。上記数学的技術は、例えば、様々なデータまたは曲線の平滑化または近似に関するアルゴリズム、および/またはさらなるアルゴリズムを含み得、このアルゴリズムは、数学的に推論される曲線の形状または近似される曲線の形状を用いた、様々な検体の溶出を記述する増加率、減少率、または微分を近似するように構成されている。例えば、LC/MS/MS解析においては、先の多くのMSスキャンにわたるこれらのイオンの強度に基づいて、先のスキャンに関連する時間における特定の点でのイオン電流を表しているデータを利用し、このデータに対して、カーブフィッティングまたはその他の曲線近似アルゴリズムを適用することにより、興味のある質量電荷比(m/z)を有している1つ以上のイオンが識別され得、抽出されたイオンの全体的または部分的なクロマトグラム(XIC)が生成され得る。興味のある時間における1次微分またはその他の微分(例えば、時間に関する微分)が決定されるか、近似され、イオンの溶出率が速い立ち上がりであるか、興味のあるものであるかが、決定され得る。
【0012】
したがって、別の局面において、本発明は、物質を記述する質量分析のデータを取得するためのシステムおよび方法を提供する。この局面にしたがうシステムは、イオン源と、選択された質量のイオンの解析が可能な質量分析器と、質量分析器から、複数の質量分析を表すデータを表している信号を受信し、上記信号を保持するように構成されている、コントローラとを含んでいる。コントローラは、複数の質量分析に関連するデータおよび非線形またはその他の曲線近似アルゴリズムを用いることにより、少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な情報を生成するように構成されており、生成された情報を用いることにより、イオン化された物質のさらなる解析のために有用なさらなる質量分析の情報(例えば、MS/MSスペクトルを含むが、これには限定されない)を生成するように構成されている。
【0013】
本発明は、さらに、そのようなシステムを用いた実装に適した方法を提供する。
【0014】
必要に応じて、1つ以上の識別されたイオンは、動的な排除リストに掲載され得る。そのようなイオンは、その後、速い立ち上がりの質量信号または興味のある質量信号に関連しているとしては考慮されないので、その後の質量分析のために、速い立ち上がりのその他の信号に関連する1つ以上のイオンの識別および選択が可能になる。必要に応じて、速い立ち上がりの質量信号を有しているイオンの識別の前に、プレカーサースキャンまたはニュートラルロススキャンが実行され得る。
【0015】
質量分析器およびそのコントローラによって、記録され、その後に処理されるデータの量を減らすために、さらには解析プロセスの速度、効率、精度を増大させるために、その他の枠組みおよびプロセスが、用いられ得る。例えば、1つ以上の閾値が確立されることにより、検出された強度を決定する前に、少なくとも所望される最小の強度の質量分析によって検出されるm/z比のイオンのみに対し、記録およびさらなる処理が行われる。このことは、例えば、不純物または興味がないものであり得る物質に関連するデータの処理を減らすことの役に立つので、本発明にしたがうその他の方法およびプロセスと関連して用いられたときに、特に有用である。
【0016】
質量分析のデータが取得されると、溶出されている化合物を自動的に識別するか、化合物の特徴付けに使用するために、例えば、識別されたイオンのフラグメント化と質量分析のデータベースとを比較することにより、質量分析が取得され得る。
【0017】
本発明のその他の局面は、上述の方法およびプロセスを実行するためのシステムおよび装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(様々な実施形態に関する記載)
図1は、液体クロマトグラフィ・質量分析(LCMS;liquid chromatography−mass spectrometry)システム10の基本構成要素を示しており、上記システムは、クロマトグラフィカラム12を含んでおり、上記クロマトグラフィカラムは、当該技術分野において公知なように、多段階の質量分析を実行することが可能な質量分析器14に接続されている。そのようなシステムの例は、MDS Sciexによって市販されている、QSTAR(TM)またはAPI 4000(TM)LC/MS/MSシステムであるが、当業者は、本発明は、MSおよびMS/MSまたはその他のマルチMS性能(例えば、3Dトラップ、TOF(time−of−flight)アナライザ、またはフーリエ変換(FTMS)アナライザ)を有する、任意の適切に制御されるシステムに適用され得ることを理解し得る。データ収集コントローラ16は、自動的なMSおよびMS/MSのデータ収集が可能であり、単一のLC/MS解析からの最大限の情報抽出が可能である。
【0019】
コントローラ16は、質量分析器14によって収集または提供されたデータ信号を受信、格納、および処理するように構成されており、質量分析器14によって実行される動作を制御するように構成されたコマンド信号を提供するように構成されている。コントローラ16はさらに、MSシステム10を制御するために適したユーザインターフェースを提供しており、上記ユーザインターフェースは、例えば、ユーザからシステムコマンドを受け取ってそれを実行することに適した入力/出力デバイスを含んでいる。特に、コントローラ16は、質量分析器14によって収集されたデータを処理し、質量分析器14にコマンド信号(上記データの処理によって生成された情報に少なくとも一部分基づいている)を提供するように構成されている。
【0020】
当業者によって理解されるように、コントローラ16は、本明細書に記載されている目的を達成することに適したデータの収集および処理のための任意のシステムまたはデバイスを含み得る。コントローラ16は、例えば、適切にプログラムされたコンピュータ、またはプログラム可能な汎用コンピュータ、または特定用途向けコンピュータ、あるいはプログラミングデバイスおよびデータ収集デバイスおよび制御デバイスに関連した、その他の自動データ処理装置を含み得る。本明細書に記載されているように、コントローラ16は、例えば、質量分析器14によって実行されるイオン検出スキャンを制御および監視し;例えば、液体クロマトグラフィ(LC)カラム12によって提供されるイオンの質量分析器14による上記のような検出を表すデータを、収集および処理するように構成されている。
【0021】
したがって、コントローラ16は、適切に符号化された構造化プログラムによって自動的および/または双方向の制御を行うように構成された1つ以上の自動的なデータ処理チップを含み得、これは、1つ以上のアプリケーションおよびオペレーティングシステム、ならびに任意の必要な揮発性または持続性の格納媒体を含み得る。本明細書に接した当業者ならば理解し得るように、本発明を実施することに適した多種多様なプロセッサおよびプログラミング言語は、いまや市場で入手可能であり、今後も開発されていくことは疑いない。適切なプロセッサおよびプログラミングを含んだ適切なコントローラの例は、MDS Sciex(カナダ、オンタリオ州)によって市販されている、QSTAR(TM)またはAPI 4000(TM)LC/MS/MSに組み込まれているようなものである。
【0022】
本発明を実施する際の使用に適したイオン源は、任意のLCカラム、または本明細書に開示されている目的と両立するその他のイオン源12を含み得る。例えば、当業者によって理解されるように、任意の液体クロマトグラフィまたはその他の持続放出型(sustained−release)イオン源が要件を満たし得る。本発明は、LCカラムとその他のイオン源(様々な性質のイオンの持続性の流れまたはその他の流れを生成する)との組み合わせで、特に有用であり、例えば、連続的なトレース堆積に適したLC−Matrix−Assisted Laser Desorption Ionization(LC−MALDI)システムを含む。
【0023】
質量分析器14は、本明細書に開示されている目的と両立する任意のイオン検出器および/またはアナライザを含み得る。例えば、当業者に理解されるように、3Dトラップ、TOF検出器、およびその他のタイプの質量分析器が要件を満たし得る。本発明は、イオン群の反復的または再帰的なスキャンまたはその他のサンプリングが可能な質量分析器との組み合わせで、特に有用である。
【0024】
図2は、API 3000(TM)システムを用いたヒト成長ホルモン(Hgh)消化に実行されるLC/MS解析の一部分として出力されたデータの一部を示している。示されているデータは、57〜63分の解析の実行に属している。信号40は、実行の全体のイオン強度(TCI)をプロットしており、これは、溶出している全ての種の全体の濃度を表している。質量分析器14はまた、所定の範囲(より詳細には、m/z範囲)の質量に対するイオン強度を記録し、信号42から52は、質量対電荷比がそれぞれ694m/z、578m/z、713m/z、734m/z、748m/z、および913m/zのイオンをカウントしている抽出イオンをプロットしている。これらの信号は、この時間にわたる、様々な(しかし全てではない)溶出種の強度を描いている。
【0025】
実行のうちの約58.5〜59分の間において、多くの溶出種が存在していることがわかるが、図2には、それらのサブセットが示されている。時間t0およびt1において取得された、これらの溶出種に対するMSスペクトルは、図3(時間t1)および図4(時間t0)に示されおり、これらの時間の各々におけるイオン強度は、以下の表1にまとめられている。
【0026】
ほぼ同じ時間に多くの質量ピークが現れているので、従来技術のシステムは、2次質量解析を実行するための質量ピークを選択することが困難であった。イオン694m/zによって生成された高い強度の信号の存在下で、多くの低い強度の信号(特に、質量578m/z、713m/z、および748m/zのイオン)が存在するので、この問題は、さらに困難なものとなる。
【0027】
図5は、2次質量解析のために従来技術のコントローラによって選択され得るイオンを示す概略図であり、上記2次質量解析は、従来技術のデータ依存収集ツールを用いたものであるが、本発明にしたがう動的なバックグラウンド信号の排除は用いていない。図5は、実行のうちの57.16〜60.76分の間において、従来技術のデータ収集コントローラ(IDA(TM)システム)が、(上記システムが動的な排除の基準を適用するようにプログラムされていないときに)2次質量解析を実行するためにイオン694m/zのみを選択したということを示している。しかしながら、クロマトグラフィの稼動によって上記の時間の間に溶出されたその他の質量は、図中に示された領域にわたって溶出された代表的な質量である。したがって、従来技術のシステムによると、解析の品質は、悪い影響を受け得る。
【0028】
対照的に、好適な実施形態において、コントローラ16は、最も新しく収集されたMSスペクトルと動的な「スペクトルのバックグラウンド(spectrographic background)」とを比較することによって、任意の所与の時点における、最速の立ち上がり信号またはその他の速い立ち上がり信号を識別することを試みる。図示を簡単にするために、この技術の単純な例は、図3(後の時間)と図4(前の時間)とを比較することによって、理解され得る。この比較から、質量748m/zが、最速の立ち上がり信号(これは、図2の信号50に対応している)を有していることが理解され得る。
【0029】
この現象は、2つの単純な定量化方法を用いることによって、コントローラ16によって、定量化され得る:(i)先に収集されたMSスペクトルから信号の現在の値を減算すること;(ii)信号の値における割合を変化させること。表1は、これらの基準のうちのいずれか一方を用いることによって、コントローラ16が、748m/zおよび713m/zの両方のイオンをIDA選択の最上位に移動させ得るということを示している。
【0030】
【表1】

このようにして、質量748m/zおよび713m/zのイオンが選択されると、コントローラ16は、これらのイオンをフラグメント化し、結果として得られた質量スペクトルを記録することによって、質量分析器14に対し、質量分析器14を動的に動作させ、2次質量解析を実行させるように構成されたコマンド信号を提供し得る。好適な実施形態においては、所定数の選択されたイオンがフラグメント化されるが、代替的な実施形態においては、「最良」のマッチ(例えば、748m/z)のみが、その後のフラグメント化のために選択され得る。
【0031】
上述の定量化方法の両方は、利点を提供する:多くの状況において、割合または相対的利得は、成長率に注目するときに、好適な技術であるが、絶対的利得は、顕著な増加を有している種を対象とした減算方法によって計算される。「速い立ち上がり信号」という用語は、特に、急速に立ち上がる信号を含むように(すなわち、相対的な用語としては、成長率によって計算されるものとして、絶対的な用語としては、減算方法によって計算されるものとして)定義されている。
【0032】
図6は、実行のうちの57.16〜60.76分の間に取得されたデータに対するこれらの技術の結果を示している。各ブロック60は、1つ以上の連続的なスキャンを表しており、2次MS解析を実行するために、コントローラ16によって、様々なイオンの質量ピークが選択されている。選択されたm/z比およびスキャン数(例えば、694−8スキャン、5スキャン、2スキャン)が示されており、上記スキャンに対し、識別されたm/z範囲が選択されている。図6は、本発明の好適な実施形態にしたがう、2次質量解析のために選択されたイオンを示す概略図であり、これは、任意の所与の時点における速い立ち上がりの質量信号を識別することを目的としている。動的なバックグラウンド信号の排除を用いると、IDAに対してより多くのイオンが(それらが質量スペクトルの基準ピークでないときでさえも)正しく選択される。イオンがその他の選択されたイオンに対応する信号よりも速く立ち上がる信号に対応している場合、それらは検出され、更なる解析のためにデータが用いられる。
【0033】
これまでに提供された例において、コントローラ16は、直前のMSスペクトルの1つを表すデータを利用し、質量分析のバックグラウンドを決定していた。しかしながら、コントローラ16の代わりに、多くのMSスペクトルにわたって質量信号を平均化することにより、質量分析のバックグラウンドを取得して、比較することも可能である。例えば、図7は、質量668.5m/z、1412.0m/z、および1466.0m/z(それぞれ信号62、64、および66によって示されている)のイオンに対するLC/MSの実行に関する、51.4〜53.6分の間に取得された様々な抽出イオンのカウントを示している。図7におけるブロック70a、70b、および70cによって示されているように、信号のバックグラウンドの平均値を決定するために用いられるスペクトルの数は、質量ピークにわたって選択され得る被覆範囲またはデータ点の数を決定する。例えば、ブロック70aにおいて、時間t4における信号62に対するバックグラウンドの平均値は、直前のMSスペクトルの1つから取得される(0.05分または3秒前に取得される)ので、コントローラは、信号の立ち上がりのみを考慮する。信号がそのピーク値を過ぎるとすぐに、減算または割合の変化を用いることによって負の数の結果が得られる(これは、時間t4における信号62の値を、時間t3における上記信号の値から減算することによって理解できる)。
【0034】
しかしながら、ブロック70bにおいては、コントローラ16が、3つの直前のスペクトルを表しているデータを利用することによって、信号62のバックグラウンド値を決定するときに、質量ピークにわたるより広い被覆範囲またはデータ点の数が考慮されることが示されている。ブロック70cは、信号62のバックグラウンド値を決定するために10個の直前のスペクトルが用いられるときの被覆範囲を示している。そのような技術は、移動平均に類似しており、信号における突然の摂動を平滑化し、誤った結果にならないようにすることに役立つ。質量信号のバックグラウンドの平均値を決定するためにコントローラが用いるスペクトルの数は、好適には、システムのユーザによって設定または解除され得る。
【0035】
多くのMS質量分析器から入手可能なデータ(例えば、信号における突然の摂動を平滑化し、誤った結果を減らす際に、反復的または再帰的なMSサイクルによって生成される)を用いた、さらなる数学的技術の適用による方法は、例えば、様々なデータまたは曲線平滑化アルゴリズムを含んでおり、これらは、例えばLCカラムのようなイオン源からの様々な検体の溶出に関する増減率またはその他の局面を評価するために用いられる。上述のように、質量信号のバックグラウンドの平均値を決定するためにコントローラ16が用いるスペクトルの数は、システムのユーザによって設定または解除され得、あるいは例えば、データの品質の統計的評価に基づいて、自動的に決定され得る。
【0036】
例えば、LC−MS解析において、コントローラ16は、特に興味のある質量電荷比(m/z)を有している1つ以上のイオンを識別し、XICの全体または一部分を生成し得る(先の多くのMSスキャンを介して質量分析器14によって検出された、識別されたイオンの強度に基づいて、生成される)。これは、例えば、指定された数の先のスキャンに関連する特定の時点において1つ以上のイオン電流を表しているデータを利用し、データに対して、カーブフィッティングまたはその他の適切なアルゴリズムを適用することによって、行われ得る。例えば、イオンの溶出率が、速い立ち上がりであるかどうか、あるいは、さらなる解析のために興味のあるものであるかどうかを決定するために、平滑化または近似または評価されたデータ曲線に基づいて、解析における興味のある様々な時点またはその他の点において、1次または高次の微分(例えば、時間に関する微分)が、決定され得る。そのような技術は、例えば、成長率等を計算することによって、速い立ち上がりの信号を識別する際に、特に有用である。
【0037】
溶出または提供されているイオンの状態または内容に関する迅速かつ正確な評価において、そのような技術の値は、検出された質量スペクトルの所望の部分に関する解析に集中するための、任意の1つ以上の追加的なプロセスを追加的に用いることによって、改良され得る。
【0038】
例えば、本発明の一部の実施形態において、2次MS解析のためのイオンの選択は、速い立ち上がりの質量信号の基準に加えて、または速い立ち上がりの質量信号との組み合わせで、その他の基準に基づき得る。例えば、必要に応じて、上述の動的なバックグラウンドの比較は、動的な排除と組み合わされ得る。例えば、1つの枠組みにおいて、速い立ち上がりの質量信号に関連しているとして識別されたイオンは、排除リストに掲載され、所定数のその後のスキャンに対しては、考慮されない。この技術は、速い立ち上がりの質量信号を有しているイオンが選択された後に、所定の連続的な時間まで排除リストへのイオンの掲載を遅延させることによって、強化され得る。加えて、必要に応じて、コントローラは、動的なバックグラウンドの比較の適用の前に、MSまたはMS/MSスキャン(例えば、プレカーサーおよび/またはニュートラルロススキャン)を用い得る。
【0039】
別の例として、所与のスキャンまたは一連のスキャンにおいて取得されたどのデータが、さらなる処理のために格納または保持されるべきであるかに関する決定における基準として、1つ以上の閾値が、ユーザによって、またはコントローラ16を用いることにより、自動的および/または双方向的に確立され得る。その結果、質量分析器によって所望の最小の強度比で検出されたm/z比のイオンのみに対し、データが記録され、さらに処理される。
【0040】
上述のように、データ曲線平滑化アルゴリズム、動的排除技術、強度の閾値、およびその他の技術は、例えば、コントローラ16によって収集されてその後に処理される、不純物または興味のない物質に関連するデータの処理を減らすことによって、データ処理の効率を向上させるために用いられる。そのような技術は、互いに関連して用いられるとき、および/または本発明に関連するその他の方法および処理と関連して用いられるときに、特に効果的である。これらは、例えば、再帰的なTOFMSおよび/またはFTMS解析において、高いデータスキャニング/収集レートに直面する場合に、特に有用である。
【0041】
図8は、本発明にしたがう再帰的なTOFM解析において記録されるデータを処理する方法に関する実施形態の概略図である。プロセス800は、例えば、例えばコントローラ16のようなコントローラの制御下で、図1に示されているシステムによって実施されるのに適切である。
【0042】
802において、コントローラ16は、コマンド信号を発し、上記コマンド信号は、質量分析器14に、質量分析器に関連している検出器のサーベイスキャンを実行させ、検出器によって検出されたイオンに関連するm/z比を表しているデータをコントローラ16へと提供させるように、構成されている。例えば、TOF質量アナライザの場合、質量分析器14は、コントローラ16に、所与の時間内または所与のサーベイ期間の間に、検出器によって検出されたイオンに関連するm/z比の数を表しているデータを提供し得る。ここで、所与の時間または所与のサーベイ期間は、それぞれのイオンが検出される時間(例えば、現在のサーベイ期間の開始からの相対的な時間)に関連する。一部の場合において、質量分析器14によるスキャンの間に必要とされ、コントローラ16に提供されるデータの量は、比較的大きい。例えば、QSTAR(TM) LC/MS/MSシステムによって実行される典型的な解析の場合、スキャニング時間の間の検出器の全サーベイスキャンの結果、検出器は数万個(例えば、10,000個から100万個以上、典型的な数は、500,000個)のデータ点を取得し得る。各々は、相対的時間およびm/z比から構成されており、これは、検出されたイオンの数に対応している。コントローラ16は、取得されたデータを、例えば、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリのような、揮発性メモリ、あるいはその他の容易に利用可能なバッファに保持し得る。
【0043】
804において、コントローラ16は、例えば、802におけるサーベイスキャンの間に検出された各m/z比のイオンの総数を決定し、好適には、興味のあるm/z比に関連するデータを保持する一方で、残りのデータを無視または削除することにより、質量分析器によって提供されたデータをピークリストにソートし得る。コントローラ16は、有利にも、格納されたデータ(これは、ここでは、ピークリストと呼称され得る)を、揮発性メモリまたはその他の容易にアクセスできるメモリに保持し続け得る。格納されたデータは、例えば、トレースに対応し、図3に示されている、時間t1において行われるスキャンに対応し得る。この結果、QSTAR(TM) LC/MS/MSシステムによって実行される典型的な解析の場合には、検出器の所与のサーベイに関連する興味のあるデータ点の数は、全サーベイスキャンの間に取得された10,000個から100万個以上のデータ点から、非常に小さなオーダーのデータ点、例えば、典型的な解析においては、約1000個のデータ点に減らされ得る。減らされたデータセットは、さらなるアクセスおよび処理のために、揮発性メモリおよび/または永続性メモリに保持され得る。
【0044】
ステップ804において、ピークリストによって識別される保持されたデータに含まれるイオンおよび/またはm/z比は、本明細書に記載されているように、本明細書に記載されているプロセスを用いることにより、コントローラ16によって自動的に識別されるか、例えば、コントローラ16に提供されるバッチまたは双方向的な命令信号を用いることにより、指定され得る。
【0045】
806において、コントローラ16は、例えば、本明細書に記載されているようなデータ低減技術を適用することにより、保持されているデータを、揮発性メモリに保持されるか、その後にコントローラ16によって処理され得るぶんだけに減少させ得る。例えば、コントローラ16は、所与のスキャニングサーベイの間に検出された様々なm/z(またはピーク)を表しているデータ(例えば、全ての検出されたイオン)の強度と、ユーザによって確立されるか、またはシステム10によって決定された閾値とを比較し得る。例えば、所与の電荷の絶対的または相対的な強度あるいは検出レベルが確立され得、コントローラ16は、例えば、適切なプログラムによって、確立された閾値を下回る強度のピークに対応するm/z比を無視するように命令され得る。例えば、5.05e5 cpsの閾値が確立され得、その閾値を下回る検出されたデータ強度のm/z比に対応するデータは、さらなる処理のためには、保持されないし、考慮されない。この結果、例えば、図9のピーク901対応するデータは、さらなる考慮からは外され(ピーク901は図9の累積トレース(cummulative trace)には現れない)、曲線またはピーク62、64、66に関連するデータのみが、さらに処理され得る。
【0046】
代替的に、あるいは追加的に、相対的な値が、確立され得る。例えば、図3および/または図4に対応する解析において、選択された閾値を下回る相対的な強度のピークは、さらなる処理からは外され得る。例えば、10%の閾値が設定された場合、コントローラ16は、ピーク371、1121、1530、713、および887(ならびに図3に示されているがラベル付けされていないその他のピーク)に関連するデータの処理を停止し得る。
【0047】
さらなる例として、806において、コントローラ16は、揮発性メモリに保持されているデータを減らし(そうしなければ、これらデータは、その後、本明細書に記載されているイオン抽出基準の適用により、コントローラ16によって処理され得る)、その結果、選択されたm/z比に対応しているデータは、コントローラ16によるさらなる処理から外され得る。
【0048】
806においてそのようなデータ低減技術を適用すると、QSTAR(TM) LC/MS/MSシステムによって実行される典型的な解析の場合には、以後のステップ806においては、所与のサーベイに関連する興味のあるデータ点の個数が、保持されている約1,000個の点から、約100個(またはそれよりも少ない)のデータ点に減らされることになる。各々は、興味のあるm/z比、ならびにそれぞれのサーベイまたはスキャン期間の間に記録された電荷の強度を表している。減らされたデータセットは、その後のアクセスおよび処理のために、揮発性メモリに保持され得、好適には、永続性メモリに保持され得る。当業者には理解されるように、処理されるデータの実質的な減少は、興味のあるデータの処理時間の増加につながるので、データに関連して生成され得る出力の数および品質の両方を増大させ、MSスキャンが処理され得るレートを増大させ得る。このことは、本明細書に記載されているように、システムによって要求され、システムによって処理されるデータの品質を改良し得る。
【0049】
808において、コントローラ16は、選択された数の先のサーベイスキャンに関連するデータにアクセスし、興味のある1つ以上の指定されたイオン(すなわち、m/z比)に対し、XICを生成し得る。このことは、様々な方法で達成され得る。例えば、第1のステップとして、個々の時間−m/z強度のデータ点の間に描かれている直線によって表されている線分によって近似される、1次の曲線が生成され得る。そのような曲線は、図9における曲線62によって図示されており、これは、データ点62−1〜62−22の間に描かれている線分から構成されている。この方法で生成されたXICに関連するデータは、例えば、本明細書に記載されているように、速い立ち上がりの信号を識別するために用いられ得る。
【0050】
しかしながら、ある場合において観察されるように、XICにおけるデータ点の間の直線の結合によって生成された、1次(すなわち、線形)の曲線近似を用いると、解析において不正確さまたはその他の困難をもたらすことになる。例えば、MSサーベイスキャンの間のサイクル時間と比較したとき、溶出されるかイオン源12によって提供される解析されるサンプルの構成要素の相対的部分が、比較的高いレートで変化する場合、溶出率または供給率におけるピークまたは谷は失われ、その後、評価され、結果として、化合物ならびに化合物の構成要素の相対的レベルの誤った識別につながり得る。同様に、接触率(質量分析器における検出器プレートの領域に衝突する様々なm/z比のイオンによる)がアナライザによって完全に処理されるには高すぎるとき(すなわち、検出器の領域の処理容量が超過しており、検出器が飽和しているとき)、XICトレースにおけるピークは、評価を受け、同様の結果につながり得る。
【0051】
このように、多くの場合において、取得されたデータ点に基づいて、改良された2次の曲線、または高次の曲線、またはその他の非線形の曲線(または改良された線形の曲線もあり得る)の表現を用いることにより、質量分析の解析における品質は、改良され得る。したがって、ステップ810において、コントローラ16は、取得されたトレースデータにアクセスし、様々なXIC曲線平滑化アルゴリズムのうちの任意のものを実行することにより、コントローラ16によって生成されたXICの全てまたは任意の部分の曲線近似を提供する。コントローラ16によって実行されるアルゴリズムは、任意の適切なカーブフィッティングアルゴリズムまたは平滑化アルゴリズム、あるいはその他の適切な数学的操作を含み得、上記数学的操作は、例えば、可変線形(varied linear)カーブフィッティング方法および非線形カーブフィッティング方法(最小2乗フィッティング、荷重最小2乗フィッティング、およびロバストフィッティング(これら全ては、境界を有するか有さない));スプラインまたは補間(2次または高次の多項式あるいは指数関数を含む)を含んでおり、生成されたXICに関する様々な情報を生成するために用いられ得る。上記情報は、例えば、局所的または全体的はXIC曲線近似;曲線上の任意の1つの以上の点における変化率(1次微分)、曲線の局所的な最小点または最大点(1次微分がゼロとなる点)、および曲線の下の領域(区間)を含んでいる。
【0052】
本明細書において記載または提示されている任意の目的に適切なアルゴリズムが、用いられ得る。本明細書に接した当業者によって理解されるように、多くの適切なアルゴリズムが公知であり、今後も開発されていくことは疑いようがない。一実施形態において、動的なイオン選択のための強度の微分を比較するために、1次微分が、データ点のペアごとに2〜3点の単純な非線形平滑化と共に用いられる。
【0053】
図9は、本発明のこの局面にしたがって生成されたXICの図を含んでいる。既に記載されたように、曲線62は、時間t1〜t22における22個の異なるサーベイスキャンの間に、質量分析器14によって提供されたデータを用いることによって、コントローラ16によって生成された1次または直線の近似を表している。22個の記録されたサーベイスキャンの間の約668.5のm/zのイオンの強度を表しているデータを用いることにより、コントローラ16は、曲線62A(そのm/z比のイオンの実際の溶出をより現実的に近似している可能性がある平滑化されたXIC曲線を表している)を記述するデータを生成し、プロットまたは表示させる。
【0054】
812において、コントローラ16は、平滑化されたXIC曲線(例えば、曲線62A)を表しているデータにアクセスし、1次微分またはその他の値、あるいはXIC上の興味のある点に関連する関数を決定する。これを用いることにより、例えば、814において、XICが速い立ち上がり信号として選択された点を定量化しているかどうか、あるいはXICに関連するイオンが、興味のあるイオンを識別しているかどうか、804において生成された含有物リストに含ませるかどうかを決定する。例えば、上述のように、システム10のユーザは、コントローラ16に、ソース12によって提供された、ピークリストに含まれるべき速い立ち上がり信号に関連する、1つ以上の溶出物またはその他のイオンを識別するように命令し得る。
【0055】
識別された興味のあるイオンに関する現在のリストは、814において適切に改変され、コントローラ16は、興味のある1つ以上のXICと共に、揮発性メモリまたは永続性メモリ内にリストを保持させ、プロセス800は、802において、2次的またはその後のMSサーベイを繰り返され得る。ループ802〜814は、全ての興味のある化合物または全ての興味のある相対的割合が、識別されるまで繰り返されるか、コントローラ16および/またはシステム10のユーザが、所望の質量解析が完了したと満足するまで繰り返され得る。
【0056】
本発明は、より濃度の高い種(典型的には高い強度で検出される)の存在下で、同時に溶出しているか、ソース12によって提供され得る、低い強度の種の検出を改良する。結果として、このアプローチを用いることにより、同位体または同位体比の完全性が保存されることが期待される。加えて、本発明は、コントローラをプログラムするためにユーザが必要とする多くの基準を単純化する可能性を提供する。
【0057】
本発明はまた、有用な情報を収集する際の効率を改善する一方で、収集されるデータの量を最小化する。このことは、例えば、シフトされる情報の量を最小化する追加的な利点を提供し、そのようなデータに対する実時間の解析能力を向上させる。
【0058】
単一の反応の監視に関連して、好適な実施形態が記載されてきた。しかしながら、本発明は、様々なさらなる解析プロセスに適用され得るということが、理解され得る。さらなる解析プロセスは、例えば、従来技術において公知な、選択イオン監視(SIM)、選択反応監視(SRM)、多重反応監視(MRM)(イオン変換の複数の生成が関しされる場合を含む)、多電荷スキャンを含んでいる。本発明は、キャピラリー電気泳動質量分析システム(CE−MS)およびガスクロマトグラフィ質量分析システム(GC−MS)に適用され得ることを、理解されたい。当業者は、本発明の趣旨および範囲から逸れることなしに、好適な実施形態に対し、様々な改変がなされ得ることを、理解し得る。
【0059】
図10(その一部分である10aおよび10bを含んでいる)は、本発明にしたがって取得された解析と、通常のIDAプロセスにしたがって取得された解析との比較の結果に関する表を提供している。
【0060】
図10aは、従来のIDA特徴(「通常のIDA」)ならびに本発明にしたがうシステムおよびプロセスの実施形態(「IDA−DBS」)を用いることによって、単一のLC射出から検出および検証された、ハロペリドールの代謝産物の解析結果を示している。表に示されているように、本発明にしたがうシステムおよびプロセスを用いることにより、成功率において、顕著な向上が取得された。
【0061】
図10bは、従来のIDA特徴(「通常のIDA」)ならびに本発明にしたがうシステムおよびプロセスの実施形態(「IDA−DBS」)を用いることによって、単一のLC射出から検出および検証された、ジクロフェナクの代謝産物の解析結果を示している。表に示されているように、本発明にしたがうシステムおよびプロセスを用いることにより、成功率において、顕著な向上が取得された。
【0062】
図11は、LC/MSの実行の一部分にわたる、時間(分)の関数として検出された様々な質量のサンプル強度(cps)のプロット、ならびに局所的なプロットの微分の挿入図である。挿入図に示されているような局所的な微分は、例えば、トレースにおける所望の数の過去の点を用いることにより、計算され得る。示されている例においては、2つのトレースが示されており、選択されたイオンに対するLCピークは、実線で示されており、平坦信号は、破線で示されている。各トレースに対する1次微分の曲線は、コントローラ16によって提供された最後の20データ点に基づいて、本明細書に記載されている曲線近似アルゴリズムを用いることにより、示されている。約13.5秒において、1次微分が最大値に達すると(真ん中の挿入図に示されている)、コントローラ16は、実線のトレースに関連するイオンを、さらなる質量解析のために選択する。
【0063】
上述の本発明は、明瞭化および理解を目的としていくぶん詳細に記載されてきたが、当業者は、本開示を読むことにより、形式および詳細において、添付の請求の範囲における本発明の正しい範囲から逸れることなしに、様々な変更がなされ得るということを、理解し得る。したがって、本発明は、上述で述べられているそのままの構成要素または方法の詳細または構成に限定されるものではなく目的に必要なまたは本来の範囲を除き、図面を含む本開示に記載されている方法またはプロセスに関するステップまたは段階に対する順序は、一切意図されても、示唆されてもいない。多くの場合、目的ステップの順序は、記載されている方法の目的、効果、または意味を変更することなしに、変更され得る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
本発明の上述の局面およびその他の局面は、本発明の特定の実施形態に関する記載および添付図面からより明らかになる。添付図面は、単に例示を目的としており、本発明の原理を限定することを目的とはしていない。
【図1】図1は、本発明を実施する際の使用に適したLC/MSシステムの概略的なブロック図である。
【図2】図2は、LC/MSの実行の一部分にわたる、時間(分)の関数として検出された様々な質量の強度(cps)をプロットしているグラフである。
【図3】図3は、図2に示されているLC/MSの実行の一部分における、第1の時間(t1)に行われた質量分析である。
【図4】図4は、図2に示されているLC/MSの実行の一部分における、第2の時間(t0)に行われた質量分析である。
【図5】図5は、2次質量解析のために選択され得るイオンを示す概略図であり、上記2次質量解析は、従来技術のデータ依存収集ツールを用いたものであるが、本発明にしたがう動的なバックグラウンド信号の排除は用いていない。
【図6】図6は、本発明の好適な実施形態にしたがう、2次質量解析のために選択されたイオンを示す概略図である。
【図7】図7は、質量ピークの部分を示す概略図であり、これは、速い立ち上がり質量信号の検出の際に考慮され得る。
【図8】図8は、本発明にしたがう、マルチMS解析における記録データを処理する方法を示す概略図である。
【図9】図9は、本発明にしたがって生成される、抽出されたイオンクロ的グラムの図である。
【図10a】図10aは、従来技術にしたがうプロセスおよび本発明にしたがうプロセスを用いて取得された比較結果の表を提供している。
【図10b】図10bは、従来技術にしたがうプロセスおよび本発明にしたがうプロセスを用いて取得された比較結果の表を提供している。
【図11】図11は、LC/MSの実行の一部分にわたる、時間(分)の関数として検出された様々な質量のサンプル強度(cps)のプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質を記述する質量分析のデータを取得するための方法であって、
該物質をイオン化することと、
該イオン化された物質の一部分の現在の質量分析を取得し、該現在の質量分析を表しているデータを保持することと、
該イオン化された物質の少なくとも2つのさらなる部分の次の質量分析を取得し、該少なくとも2つのさらなる質量分析を表しているデータを保持することと、
該現在の質量分析および該少なくとも2つの次の質量分析に関連するデータ、ならびに非線形曲線近似アルゴリズムを用いることにより、少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な情報を生成することと、
該少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な該生成された情報を用いることにより、該イオン化された物質のさらなる解析のために有用なさらなる情報を生成することと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な前記生成された情報は、該抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する微分を記述する情報を生成するために用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する前記微分は、速い立ち上がり信号に関連する少なくとも1つのイオンを識別するために用いられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン化された物質の一部分の現在の質量分析を取得する前に、プレカーサースキャンを実行すること
を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記イオン化された物質の一部分の現在の質量分析を取得する前に、ニュートラルロススキャンを実行すること
を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの質量分析を表しているデータと、先に決定された複数の質量分析を表しているデータベースに格納されたデータとを比較することにより、物質を自動的に識別すること
を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの質量分析に関連するデータと指定された基準とを比較し、該基準を満たしているデータのみを保持することにより、少なくとも1つの質量分析を表している保持されたデータの量を減らすこと
を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記指定された基準は、強度の閾値を含んでいる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記指定された基準は、少なくとも1つの興味のあるイオンを特定する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記指定された基準は、少なくとも1つの興味のないイオンを特定する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
質量分析システムであって、
イオン源と、
選択された質量の少なくとも1つのイオンを解析することが可能な質量分析器と、
コントローラであって、
該質量分析器から、複数の質量分析を表すデータを表している信号を受信し、該信号を保持することと、
該複数の質量分析に関連するデータおよび非線形曲線近似アルゴリズムを用いることにより、少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な情報を生成することと、
該生成された情報を用いることにより、該イオン化された物質のさらなる解析のために有用なさらなる情報を生成することと
を行うように構成された、コントローラと
を備えている、システム。
【請求項12】
前記コントローラは、前記少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な前記生成された情報を用いることにより、該抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する微分を記述する情報を生成するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記コントローラは、前記抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する前記微分を用いることにより、速い立ち上がり信号に関連する少なくとも1つのイオンを識別するように構成されている、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記コントローラは、少なくとも1つの質量分析を表しているデータと、先に決定された複数の質量分析を表しているデータベースに格納されたデータとを比較することにより、物質を自動的に識別するように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記コントローラは、前記質量分析器から受信された信号によって表されているデータと指定された基準とを比較し、該基準を満たしているデータのみを保持することにより、保持されたデータの量を減らすように構成されている、請求項11に記載のシステム。
【請求項16】
前記指定された基準は、強度の閾値を含んでいる、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記指定された基準は、少なくとも1つの興味のあるイオンを特定する、請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記指定された基準は、少なくとも1つの興味のないイオンを特定する、請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
質量分析器のためのコントローラであって、該コントローラは、選択された質量の少なくとも1つのイオンを検出することが可能な検出器を備えており、該コントローラは、
該質量分析器から、複数の質量分析を表すデータを表している信号を受信し、該信号を保持することと、
該複数の質量分析に関連するデータおよび非線形曲線近似アルゴリズムを用いることにより、少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な情報を生成することと、
該生成された情報を用いることにより、該イオン化された物質のさらなる解析のために有用なさらなる情報を生成することと
を行うように構成されている、コントローラ。
【請求項20】
前記少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な前記生成された情報を用いることにより、該抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する微分を記述する情報を生成するように構成されている、請求項19に記載のコントローラ。
【請求項21】
前記抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する前記微分を用いることにより、速い立ち上がり信号に関連する少なくとも1つのイオンを識別するように構成されている、請求項20に記載のコントローラ。
【請求項22】
少なくとも1つの質量分析を表しているデータと、先に決定された複数の質量分析を表しているデータベースに格納されたデータとを比較することにより、物質を自動的に識別するように構成されている、請求項19に記載のコントローラ。
【請求項23】
前記質量分析器から受信された信号によって表されているデータと指定された基準とを比較し、該基準を満たしているデータのみを保持することにより、保持されたデータの量を減らすように構成されている、請求項19に記載のコントローラ。
【請求項24】
コンピュータ利用可能媒体であって、該コンピュータ利用可能媒体は、そこに具体化されたコンピュータ読取り可能コードを有しており、該コンピュータ読取り可能コードは、該質量分析器のコントローラに、
該質量分析器から、複数の質量分析を表すデータを表している信号を受信させ、
該複数の質量分析に関連するデータおよび非線形曲線近似アルゴリズムを用いることにより、少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な情報を生成させ、
該生成された情報を用いることにより、該イオン化された物質のさらなる解析のために有用なさらなる情報を生成させる、
コンピュータ利用可能媒体。
【請求項25】
前記コンピュータ利用可能媒体に具体化されたコンピュータ読取り可能コードを含んでおり、該コンピュータ読取り可能コードは、前記コントローラに、前記少なくとも1つの抽出されたイオンのクロマトグラムを記述するために有用な前記生成された情報を用いることにより、該抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する微分を記述する情報を生成させる、請求項24に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項26】
前記コンピュータ利用可能媒体に具体化されたコンピュータ読取り可能コードを含んでおり、該コンピュータ読取り可能コードは、前記コントローラに、前記抽出されたイオンのクロマトグラムに関連する前記微分を用いることにより、速い立ち上がり信号に関連する少なくとも1つのイオンを識別させる、請求項25に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項27】
前記コンピュータ利用可能媒体に具体化されたコンピュータ読取り可能コードを含んでおり、該コンピュータ読取り可能コードは、前記コントローラに、少なくとも1つの質量分析を表しているデータと、先に決定された複数の質量分析を表しているデータベースに格納されたデータとを比較することにより、物質を自動的に識別させる、請求項24に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項28】
前記コンピュータ利用可能媒体に具体化されたコンピュータ読取り可能コードを含んでおり、該コンピュータ読取り可能コードは、前記コントローラに、前記質量分析器から受信された信号によって表されているデータと指定された基準とを比較し、該基準を満たしているデータのみを保持することにより、保持されたデータの量を減らさせる、請求項24に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項29】
前記指定された基準は、強度の閾値を含んでいる、請求項28に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項30】
前記指定された基準は、少なくとも1つの興味のあるイオンを特定する、請求項28に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項31】
前記指定された基準は、少なくとも1つの興味のないイオンを特定する、請求項28に記載のコンピュータ利用可能媒体。
【請求項32】
本明細書中に記載され、言及され、例示されている、任意または全ての新規なその他の特徴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−542767(P2008−542767A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515014(P2008−515014)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000943
【国際公開番号】WO2006/130983
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(505377197)エムディーエス インコーポレイテッド ドゥーイング ビジネス スルー イッツ エムディーエス サイエックス ディヴィジョン (12)
【Fターム(参考)】