説明

クロマトグラフ分析装置

【課題】 GC/MSでカラム入口切除等の分離条件の変更を行った場合に、その前に設定してあるSIM測定パラメータを1つずつ変更しなければならず面倒である。
【解決手段】 分離条件の変更の後、所定の参照成分を含む標準試料を分析すると、データ処理部31ではその分析により得られるクロマトグラムに現れている参照成分のピークの保持時間の実測値を求め、その実測値と分析条件情報格納部34に格納されている分離条件変更前の参照成分の保持時間の情報とに基づいて、目的成分のピークの保持時間のずれを推定して分析条件情報格納部34に格納されているSIM測定パラメータの各イオンセットの測定時間範囲を修正する。目的試料を分析する際に修正されたパラメータに従ってSIM測定を行うことにより、オペレータが所望する測定が行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)、或いはこうしたクロマトグラフと質量分析装置(MS)とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS又はLC/MS)等、を含むクロマトグラフ分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分離カラムを用いたクロマトグラフ分析では、そのカラムの特性に合わせた分析条件が目的試料の分析に先立って設定され、これに従って分析が自動的に遂行される。一般的には、分析対象である化合物を含む標準試料を実際に分析し、その結果を元に最適な分析条件を設定する。以下、ガスクロマトグラフ(GC)と質量分析装置(MS)とを組み合わせたガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)を例に挙げて説明する。
【0003】
GC/MSではMS部におけるデータ収集方法として、いわゆるスキャン測定とSIM(選択イオンモニタリング)測定とが知られており、通常、いずれかが選択される(例えば特許文献1など参照)。スキャン測定では、所定の質量数範囲内で繰り返し質量数を走査するから、その質量数範囲に含まれる全てのイオンが検出される。したがって、未知試料の定性分析等、分析対象成分の質量数が不明である場合に有用である。一方、SIM測定では、予め指定された1乃至複数の特定の質量数を有するイオンのみを選択的に時分割で検出する。したがって、分析対象の物質が既知で、その物質の定量分析を高感度で行う場合に有用である。
【0004】
スキャン測定を行う場合のデータ収集条件(スキャン測定パラメータ)としては、測定する質量数範囲と同時に、測定開始時間及び測定終了時間を設定する必要がある。例えば、質量数範囲:100〜500、測定開始時間:5分、測定終了時間:18分と設定された場合には、カラム入口に設けられた試料気化室内に試料が注入された時点を時間ゼロとして、5分が経過した時点から18分が経過した時点までの13分間、100〜500の質量数範囲を所定の質量数ステップ幅で以て繰り返し質量走査しながら検出データを収集する。
【0005】
一方、SIM測定を行う場合のデータ収集条件(SIM測定パラメータ)としては、測定対象とする1乃至複数の質量数と同時に測定開始時間及び測定終了時間を設定する必要があるが、通常、カラムからの各種成分の溶出時間に合わせて異なる質量数を測定するため、測定開始時間及び測定終了時間で規定される測定時間範囲を複数設定できるようになっている。例えば、
・測定時間範囲:5〜8分、測定質量数:151,120,130
・測定時間範囲:8〜10分、測定質量数:250,273,157,311,256,450
・測定時間範囲:10〜12分、測定質量数:167,345,327
というように、測定時間範囲を区切って各測定時間範囲毎に1乃至複数の測定質量数を設定する。分析実行時に、MS部では、この設定内容に応じて試料注入時点からの時間経過に伴って順次測定対象の質量数を切り換えながら検出データを収集する。なお、本明細書では、このSIM測定の1つの測定時間範囲をイオンセットと呼ぶ。即ち、上記例の場合、3つのイオンセットが設定されている。
【0006】
ところで、ガスクロマトグラフでは、様々な要因によってクロマトグラム上で同一成分のピークの出現する時間が変動する。例えば、キャピラリカラムのメンテナンスのためにその入口部分を所定長さだけ切断した場合、分析条件の1つであるカラムオーブンの昇温プログラムを変更した場合、或いは、カラムを内径や長さ等、サイズが異なるものに交換した場合、などである。
【0007】
GC/MSでは、このようなクロマトグラムの時間軸方向の変動を生じる要因がある場合には、予め設定済みの上記のようなデータ収集条件(具体的にはその中の測定時間範囲等の時間的パラメータ)を変更する必要がある。スキャン測定の場合、測定開始時間と測定終了時間という2つの時間的パラメータを変更しさえすればよいが、SIM測定の場合には、各イオンセットの測定開始時間及び測定終了時間を全て変更しなければならない。既存のGC/MSでは、設定可能な最大イオンセット数は例えば32、64或いはそれ以上と多くなっており、多数のイオンセットが設定されている場合には上記のような時間的パラメータの変更はオペレータにとってかなり手間が掛かる作業である。
【0008】
またGC/MSでは、スキャン測定とSIM測定とを組み合わせた測定や、MS/MS(MSn)分析が行われる場合があるが、こうした測定でもカラムからの化合物の溶出時間毎に各種パラメータの設定が必要であるため、上述したようにクロマトグラムの時間軸方向の変動がある場合にはこれらパラメータも変更しなければならず、測定対象の化合物が多い場合には変更作業はたいへん面倒で手間が掛かる。
【0009】
また、GC/MSでなく、例えば分取液体クロマトグラフのようにカラムで時間的に分離させた試料成分を分取・分画する等の、時間的パラメータを含む処理条件に依存する処理を実行する際にも同様の問題が生じる。こうした場合でも、例えば分取・分画する試料成分の数が多いときには処理条件の変更作業は面倒である。
【0010】
【特許文献1】特開平10−283982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、例えばキャピラリカラムの入口端切除などクロマトグラムの時間軸方向の変動を起こす要因がある場合に、既に設定されているデータ収集条件や処理条件の変更を簡単に行うことにより、オペレータの負担や作業ミスを軽減することができるクロマトグラフ分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これまで、例えば或る試料をクロマトグラフ分析することで取得したクロマトグラムに現れている未知成分のピークを正確に同定するために、既知の成分のピークの実測保持時間に基づいて未知成分のピークの保持時間を修正し、その修正された保持時間を定性用データベースに照らしてピーク同定を行う、或いは、定性用データベースに収録されている保持時間を修正してその修正値を利用してピーク同定を行う、といったデータ処理が行われている。即ち、これはクロマトグラムデータを採取した後に、そのデータに対してクロマトグラムの時間軸方向の変動を補正する、又はそのデータを同定するための解析用パラメータに対してクロマトグラムの時間軸方向の変動を補正するものである。
【0013】
こうした従来の補正は目的試料に対する分析を実行した後になされるものであるが、本発明はこうした補正を目的試料に対する分析を実行する前にその分析に関するデータ収集条件や処理条件に適用することで上記のような目的を達成しようとするものである。
【0014】
即ち、上記課題を解決するために成された本発明は、予め設定された分離条件に従ってカラムにより時間的に分離された試料成分を、予め設定されたデータ収集条件に従って検出して検出データを収集する、又は予め設定された処理条件に従って処理するクロマトグラフ分析装置であって、前記データ収集条件又は処理条件としてカラムへの試料導入時点からの経過時間に関する時間的パラメータを含むものにおいて、
a)目的試料の分析についてオペレータにより設定されたデータ収集条件又は処理条件を記憶しておく条件記憶手段と、
b)目的試料に対する分析を実行しようとする分析条件の下で既知の所定成分を含む標準試料に対して実行された分析結果であるクロマトグラムに基づいて、該所定成分の保持時間を求める実測値取得手段と、
c)該実測値取得手段により求まった保持時間を利用して、前記条件記憶手段に記憶してあるデータ収集条件又は処理条件に含まれる時間的パラメータを修正する修正手段と、
を備え、前記データ収集条件または処理条件に含まれる時間的パラメータが前記修正手段により修正された状態において目的試料に対する分析を実行することを特徴としている。
【0015】
本発明に係るクロマトグラフ分析装置の典型的な一実施態様は、カラムにより時間的に分離された試料成分を質量分析装置により検出するクロマトグラフ質量分析装置であり、その場合には、前記データ収集条件に含まれる時間的パラメータは質量分析装置におけるスキャン測定又は選択モニタリング測定を行う際の測定時間範囲を定めるものである。
【発明の効果】
【0016】
ここで言う「分離条件」とは分析条件の一部であり、カラムでの試料成分の分離に影響を与える条件、具体的には、カラムの種類、カラムのサイズ(長さや内径)、カラム温度(昇温プログラム)、移動相の移動速度などである。
【0017】
本発明に係るクロマトグラフ分析装置では、目的試料に対する分析を行うに先立ってその分析と同一の分離条件の下で既知の所定成分を含む標準試料の分析を行ってクロマトグラムを取得する。クロマトグラフ質量分析装置の場合には、このクロマトグラムは全イオンを対象とするトータルイオンクロマトグラム又は所定成分の質量数に着目したマスクロマトグラムのいずれでもよい。得られたクロマトグラムには所定成分のピークが出現しているから、実測値取得手段はそのピークの位置からその所定成分の保持時間を求める。修正手段はこの保持時間の実測値を利用して、条件記憶手段に記憶してあるデータ収集条件又は処理条件に含まれる時間的パラメータを修正するが、その際に2つの方法のいずれかを採り得る。
【0018】
その1つは、条件記憶手段に記憶してあるデータ収集条件又は処理条件を設定する際の元となった分析条件で以て標準試料を分析したときの所定成分の保持時間を基準とする方法である。この基準時からの分析条件の相違に応じて所定成分の保持時間は変動しており、所定成分以外の他の各種成分の保持時間も同様の傾向で以て変動すると推定できるから、それによりデータ収集条件又は処理条件に含まれる時間的パラメータを修正することができる。
【0019】
他の1つは目的成分の保持指標(リテンションインデックス)を利用する方法である。周知のように保持指標は例えばn−アルカンの同族体系列等を基準物質とした相対的な値であって、保持時間とは異なり、移動相(例えばキャリアガス)流量やカラム温度などの分析条件には依存しない。したがって、目的成分の保持指標が分かっていれば、その基準物質を上記所定成分として分析して保持時間を取得し、その保持時間の実測値と目的成分の保持指標とから、その目的成分の保持時間の変動を推定し、それによりデータ収集条件又は処理条件に含まれる時間的パラメータを修正することができる。
【0020】
いずれにしても、上記修正手段により修正されたデータ収集条件又は処理条件に含まれる時間的パラメータは、その時点、つまり目的試料を分析しようとする時点でのカラムの分離特性を反映しているから、これに基づいて目的試料に対する分析を実行して検出データを収集したり所定の処理を行ったりすることにより、オペレータが意図するところの適切な結果を得ることができる。
【0021】
以上のように本発明に係るクロマトグラフ分析装置によれば、データ収集条件又は処理条件に多数の時間的パラメータが含まれる場合でも、オペレータはこれをいちいち個別に変更する作業が不要であり、オペレータの負担が軽減されるとともに変更作業に伴う入力ミス等の誤りも防止することができる。特に例えばGC/MSにおけるSIM測定のイオンセットの数が多い場合や、SIM測定とスキャン測定とを同時に行うような測定モードでの複雑なパラメータ設定が必要な場合、或いはMS/MS測定での複雑なパラメータ設定が必要な場合などに利用すれば、作業効率の大幅な改善が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明に係るクロマトグラフ分析装置においてデータ収集条件や処理条件に含まれる時間的パラメータの修正方法について説明する。この時間的パラメータの修正は、分離条件変更前の目的成分のピークの保持時間に基づいて、分離条件変更後の目的成分のピークの保持時間を推定するという処理を基本とする。この処理方法としては、次の2つの方法がある。
[方法I] 校正用の参照成分の保持時間の実測値に基づいて目的成分のピークの保持時間を推定する方法
[方法II] 目的成分の保持指標の情報に基づいて目的成分のピークの保持時間を推定する方法
【0023】
まず方法Iについて説明する。いま、或る分離条件(分離条件F1とする)の下での分析により得られたクロマトグラム(GC/MSではトータルイオンクロマトグラム)が図2(a)に示すものであるとする。このクロマトグラムに現れているピークA、Bはいずれも校正用の参照成分のピークであり、この2つのピークA、Bに時間的に挟まれたピークXが本来の分析対象である目的成分のピークである。この分析が実行された時点から分離条件の変更として例えばカラムの入口端が切除された場合、その切除分だけカラム長が短くなるためカラムに導入された各成分の通過は切除前よりも早まる。いま、カラム切除後の分離条件(分離条件F2とする)の下で校正用標準試料の分析を行って図2(b)に示すようなクロマトグラムが得られたものとする。
【0024】
分離条件F1の下での分析から分離条件F2の下での分析に変更する際の、目的成分のピークの保持時間を推定するための計算式は次の(1)式となる。
tx=(Tx−T1)/(T2−T1)×(t2−t1)+t1 …(1)
ここで、
tx:目的成分ピークXの保持時間の推定値
t1:分離条件F2の下での第1参照成分の保持時間の実測値
t2:分離条件F2の下での第2参照成分の保持時間の実測値
Tx:分離条件F1の下での目的成分ピークの保持時間
T1:分離条件F1の下での第1参照成分の保持時間
T2:分離条件F1の下での第2参照成分の保持時間
であり、いずれも図2(a)、(b)に示してある。これにより、分離条件が変更された後の目的成分のピークの保持時間がほぼ分かるから、それを前提にして、その目的成分ピークに関するデータを検出したりその目的成分を処理したりするための時間的パラメータを修正することができる。
【0025】
次に、方法IIについて説明する。ここでは、最も一般的なn−アルカンの同族体系列を基準物質とした場合の保持指標を考える。いま、図3に示すクロマトグラムにおいて炭素数nが1であるメタン(CH4)のピークの出現位置を基準とし、n−アルカンの隣接するCnとCn+1のピークの間に物質Xのピークが存在するものとする。昇温分析である場合には、目的成分Xの保持指標Ixは次の(2)式で定義される。
Ix=[(tx−tc1)/(tc2−tc1)]×100+100×n …(2)
ここで、
Tx:目的成分ピークの保持時間
tc1:炭素数n個のn−アルカンのピークの保持時間
tc2:炭素数n+1個のn−アルカンのピークの保持時間
である。保持指標はカラムのサイズや移動相速度などに依存しない値である。したがって、目的成分の保持指標Ixが既知であれば、(2)式を変形した(3)式により、分離条件F2の条件の下での目的成分のピークの保持時間を推定することができる。
tx=(Ix/100−n)×(t2−t1)+t1 …(3)
tx:目的成分ピークXの保持時間の推定値
t1:分離条件F2の下でのCnのピークの保持時間の実測値
t2:分離条件F2の下でのCn+1のピークの保持時間の実測値
これにより、方法Iと同様に分離条件が変更された後の目的成分のピークの保持時間がほぼ分かるから、それを前提にして、その目的成分ピークに関するデータを検出したりその目的成分を処理したりするための時間的パラメータを修正することができる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明に係るクロマトグラフ分析装置の一実施例であるGC/MSについて、図面を参照しながら説明する。図1は本実施例によるGC/MSの要部のブロック構成図である。
【0027】
GC部10では、カラムオーブン14により適度の温度に加熱されるカラム15の入口に試料気化室11が設けられ、その試料気化室11にはキャリアガス流路13を通して所定流量でキャリアガス(典型的にはHeガス)が供給されカラム15へと流れ込む。その状態でマイクロシリンジ12により試料気化室11内に少量の液体試料が注入されると、液体試料は即座に気化しキャリアガス流に乗ってカラム15内に送られる。カラム15を通過する間に試料ガス中の各成分は時間的に分離されてその出口に到達し、MS部20のイオン化室21内に導入される。
【0028】
MS部20においては、イオン化室21、イオン光学系22、四重極質量フィルタ23、及び検出器24が、図示しない真空ポンプにより真空吸引される真空容器25内に配設されている。上述したようにGC分析の進行に伴って順次イオン化室21に導入された試料分子又は原子は、例えば熱電子との接触によってイオン化される。発生したイオンはイオン化室21の外側に引き出され、イオン光学系22により収束されて4本のロッド電極から構成される四重極質量フィルタ23の長軸方向の空間に導入される。四重極質量フィルタ23には直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、その印加電圧に応じた質量数(質量/電荷)を有するイオンのみがその長軸方向の空間を通過し、検出器24に到達して検出される。
【0029】
検出器24による検出信号はA/D変換器30によりデジタルデータに変換されてデータ処理部31に送られる。データ処理部31は所定の演算処理を行うことにより、マススペクトル、マスクロマトグラム、或いはトータルイオンクロマトグラムなどを適宜作成し、さらに所定のアルゴリズムに基づいて定量分析や定性分析などを実行する。GC部10及びMS部20を構成する各ブロックの動作は、制御部33により統括的に制御される。制御部33やデータ処理部31は、操作部36や表示部37が付設されたパーソナルコンピュータ35上で所定の制御・処理プログラムを実行することによりそれぞれの機能が達成される。
【0030】
本実施例のGC/MSでは、特徴的な構成として、制御部33に分析条件情報格納部34を備えるとともに、データ処理部31に分析条件情報格納部34の情報内容を修正する機能を有する分析条件変更処理部32を備える。即ち、分析条件情報格納部34は、上述したようなカラムでの分離特性に影響を与える分離条件やデータ収集条件であるSIM測定パラメータなど、GC/MS分析の遂行にあたって必要な各種の条件を全て格納しておくための記憶手段である。また、分析条件変更処理部32は、この分析条件情報格納部34に格納されているデータ収集条件を上述したような方法に基づいて修正するものである。
【0031】
いま、或る分離条件F1の下でのデータ収集条件として図4に示すようなSIM測定パラメータをオペレータが設定したものとする。即ち、それぞれ異なる測定質量数が指定された3つのイオンセットが設定されている。分離条件F1の下で分析を行う場合には、このSIM測定パラメータに従ってMS部20でSIM測定を行って検出データを収集すればよいが、カラムの入口端を切断した場合や昇温プログラム等の分離条件を変更した場合には、上述したようにクロマトグラムが時間軸方向に移動するため、SIM測定パラメータの各イオンセットの測定開始時間及び測定終了時間を全て変更する必要がある。
【0032】
このときには、オペレータは操作部36によりパラメータの修正処理を指示する。制御部33はこの指示を受けてまず、変更後の分離条件F2の下で所定の校正用標準試料のGC/MS分析を実行する。このときにはトータルイオンクロマトグラムを取得する必要があるから、所定の質量数範囲のスキャン測定が自動的に設定される。標準試料には複数の参照成分が含まれるため、分析の結果として、データ処理部31ではそれら参照成分のピークが出現するクロマトグラムが作成される。その後、そのクロマトグラムに対してピーク検出が実行され、各ピークが同定されることで、参照成分の保持時間の実測値が求まる。
【0033】
次いで、分析条件情報格納部34に格納されている上記SIM測定パラメータに対して修正処理が実行される。具体的には、図4に示したテーブルのN行目のイオンセットの測定開始時間をTs[N]及び測定終了時間をTe[N]とし、それぞれの時間を(1)式におけるTxに見立てて計算を行い、得られるtxの値を修正後の測定開始時間Ts'[N]及び修正後の測定終了時間Te'[N]とする。即ち、N行目のイオンセットの測定開始時間及び測定終了時間が第1参照成分の保持時間と第2参照成分の保持時間に挟まれている場合には、次の(4)式及び(5)式によってそれぞれの値を算出する。
Ts’[N]=(Ts[N]−T1)/(T2−T1)×(t2−t1)+t1 …(4)
Te’[N]=(Te[N]−T1)/(T2−T1)×(t2−t1)+t1 …(5)
Ts’[N]:N行目のイオンセットの測定開始時間の修正後の値
Te’[N]:N行目のイオンセットの測定開始時間の修正後の値
t1:第1参照成分の保持時間の実測値
t2:第2参照成分の保持時間の実測値
Ts[N]:N行目のイオンセットの測定開始時間の設定値(図4中の値)
Te[N]:N行目のイオンセットの測定開始時間の設定値(図4中の値)
T1:分離条件F1の下での第1参照成分の保持時間
T2:分離条件F1の下での第2参照成分の保持時間
【0034】
全ての行のイオンセットについて、各イオンセット毎に校正用の参照成分の保持時間情報を元に同様の計算を実行することにより測定開始時間及び測定終了時間を計算し、図5に示すようにそれぞれの値を修正する。引き続いて目的試料のGC/MS分析が実行される際にはこの修正されたSIM測定パラメータに従って、各測定時間範囲毎に測定質量数が切り換えられて例えばその測定質量数毎のマスクロマトグラムが作成される。この例ではイオンセットは3個であるが、実際の装置ではイオンセットの数はこれによりも遙かに多い場合が多く、上記処理により自動的に全てのSIM測定パラメータが目的試料を分析しようとする分離条件に合わせて適切に修正されることにより、オペレータの作業負担が大幅に軽減される。
【0035】
上記説明は方法Iに従った修正処理を行うものであるが、前述したように方法IIに従って修正処理を行ってもよい。その場合には、図4に示したN行目のイオンセットの測定開始時間Ts[N]及び測定終了時間Te[N]と分離条件F1の下でのn−アルカンの保持時間との関係から、予めそれぞれの測定開始時間Ts[N]及び測定終了時間Te[N]に対応する保持指標値Is[N]、Ie[N]とを求めておく。そして、分離条件F2に変更後にもn−アルカンの標準試料を分析してトータルイオンクロマトグラムを作成し、各炭素数に対応したピークを検出してそれぞれの保持時間の実測値を求める。
【0036】
そして、N行目のイオンセットの測定開始時間及び測定終了時間が第1参照成分の保持時間と第2参照成分の保持時間に挟まれている場合には、(3)式に基づく次の(6)式、(7)式により、測定開始時間及び測定終了時間の修正値を算出する。
Ts’[N]=(Is[N]/100−n)×(t2−t1)+t1 …(6)
Te’[N]=(Ie[N]/100−n)×(t2−t1)+t1 …(7)
t1:分離条件F2の下でのCnのピークの保持時間の実測値
t2:分離条件F2の下でのCn+1のピークの保持時間の実測値
これによっても、上記の場合と同様に自動的に全てのSIM測定パラメータを修正することができ、その修正した値に基づいてSIM測定を実行させることができる。
【0037】
なお、上記実施例はSIM測定パラメータの中の時間的パラメータ、つまり各イオンセットの測定開始時間及び測定終了時間を修正する場合について説明したが、SIM測定パラメータでなくスキャン測定パラメータ等についても同様の手法で修正することができる、また、スキャン測定とSIM測定を同時に実行する測定モードやMS/MS分析モードで設定される各種時間的パラメータの修正にも同様に利用することができる。
【0038】
さらにGC/MSやLC/MSなどのクロマトグラフ質量分析装置ではなく、検出器に紫外可視分光光度計等の他の検出器を用いたGC、LC、或いは分取装置と組み合わせたLC分取装置等の各種のクロマトグラフ分析装置において、オペレータが予め設定した時間的パラメータに従ってデータ収集や分離された試料に対する処理を実行する場合に本発明が適用可能であることは容易に想到しえるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例であるGC/MSの要部のブロック構成図。
【図2】本発明における時間的パラメータの修正方法を説明するためのクロマトグラムの一例を示す図。
【図3】本発明における時間的パラメータの修正方法を説明するためのクロマトグラムの一例を示す図。
【図4】本実施例のGC/MSにおけるSIM測定パラメータの修正処理を説明するための図。
【図5】本実施例のGC/MSにおけるSIM測定パラメータの修正処理を説明するための図。
【符号の説明】
【0040】
10…GC部
11…試料気化室
12…マイクロシリンジ
13…キャリアガス流路
14…カラムオーブン
15…カラム
20…MS部
21…イオン化室
22…イオン光学系
23…四重極質量フィルタ
24…検出器
25…真空容器
30…A/D変換器
31…データ処理部
32…分析条件変更処理部
33…制御部
34…分析条件情報格納部
35…パーソナルコンピュータ
36…操作部
37…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された分離条件に従ってカラムにより時間的に分離された試料成分を、予め設定されたデータ収集条件に従って検出して検出データを収集する、又は予め設定された処理条件に従って処理するクロマトグラフ分析装置であって、前記データ収集条件又は処理条件としてカラムへの試料導入時点からの経過時間に関する時間的パラメータを含むものにおいて、
a)目的試料の分析についてオペレータにより設定されたデータ収集条件又は処理条件を記憶しておく条件記憶手段と、
b)目的試料に対する分析を実行しようとする分離条件の下で既知の所定成分を含む標準試料に対して実行された分析結果であるクロマトグラムに基づいて、該所定成分の保持時間を求める実測値取得手段と、
c)該実測値取得手段により求まった保持時間を利用して、前記条件記憶手段に記憶してあるデータ収集条件又は処理条件に含まれる時間的パラメータを修正する修正手段と、
を備え、前記データ収集条件または処理条件に含まれる時間的パラメータが前記修正手段により修正された状態において目的試料に対する分析を実行することを特徴とするクロマトグラフ分析装置。
【請求項2】
前記カラムにより時間的に分離された試料成分を質量分析装置により検出するクロマトグラフ質量分析装置であって、前記データ収集条件に含まれる時間的パラメータは質量分析装置におけるスキャン測定又は選択モニタリング測定を行う際の測定時間範囲を定めるものであることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラフ分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−322842(P2006−322842A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146935(P2005−146935)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】