説明

クロマトグラフ質量分析装置

【課題】スキャン測定において目的成分のクロマトグラムピークトップのデータを確実に捉えられるようにする。
【解決手段】例えばSIM測定により目的成分の保持時間を予め求め、保持時間情報記憶部33に格納しておく。スキャン測定の測定パラメータとして測定インターバル、測定開始時間などが入力部36から設定されると、スキャン開始時間演算部32は、目的成分の保持時間と測定インターバルとに加え、測定開始質量、測定終了質量などから計算される目的成分の質量に対応したデータ取得の遅れ時間を用いて測定開始時間を修正する。これにより、目的成分の質量に拘わらずピークトップのデータを捉えることができるようになり、ピーク高さを正確に求めることができるとともに、分析の再現性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)や液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)などのクロマトグラフ質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量分析部において所定の質量(厳密にはm/z値)範囲の質量走査を繰り返すスキャン測定を実行するクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GC/MS等のクロマトグラフ質量分析装置では、代表的な測定モードとして、スキャン測定とSIM(選択イオンモニタリング)測定とが知られている。スキャン測定は、設定された2つの質量の間を連続的に走査しながらイオンの信号強度を取得する手法であり、主として定性分析を目的としたマススペクトルの取得などに利用されている。一方、SIM測定は、或る特定の1乃至複数の質量のイオン信号強度のみを取得する手法であり、主として定量分析を目的として高感度なクロマトグラムを得るために利用されている。
【0003】
SIM測定では、予め測定対象の質量を指定する必要があり、基本的に、既知の物質を測定対象とする。これに対し、スキャン測定は質量が不明である物質についても信号強度を得ることができるため、含有成分が未知である試料の分析に利用されることが多かった。しかしながら、近年、質量分析装置の急速な性能改善により、スキャン測定でも十分に高感度な測定が可能になってきており、また、測定対象である物質以外に意図しない物質が試料に含まれていた場合でもこれを逃さず検出できるという利点があるため、定量分析にスキャン測定が利用されることも多くなってきている。
【0004】
スキャン測定を行う際にユーザにより設定される主な測定パラメータは、測定開始時間Ts、測定終了時間Te、測定開始質量Ms、測定終了質量Me、測定インターバルTiなどである。これらパラメータが設定された場合の、時間経過に伴う質量走査の様子を図2に示す(例えば特許文献1など参照)。図で分かるように、測定開始質量Msから測定終了質量Meに亘る質量走査が、測定開始時間Tsから測定終了時間Teまで繰り返し実行される。質量走査の繰り返し周期が測定インターバルTiであり、測定インターバルTi、測定開始質量Ms、及び測定終了質量Meにより走査速度が決まる。
【0005】
例えばGC/MSにおいて、GC部で分離された試料成分は時間的に連続的な分布をとるから、或る成分の時間的な強度変化を観察するには、連続的なデータを採ることが理想的である。SIM測定において1つの質量のみにおけるイオン強度データを繰り返し取得してマスクロマトグラムを作成する場合、検出信号をサンプリングするサンプリング時間間隔でデータの取得間隔が決まるため、この間隔をかなり短くすることができる。これに対し、スキャン測定では、図2に示すように、或る質量(例えば図中のMmc)に対して得られるイオン強度データは測定インターバルTiの時間間隔となり、その間隔はかなり広い。
【0006】
図3(a)及び図4(a)は、或る試料成分の時間的に連続する強度分布による仮想的なクロマトグラムとデータ取得点との関係を示す図であり、図3(b)及び図4(b)はそれぞれのデータ取得点を繋いで実際に作成できる折れ線状のクロマトグラムを示す図である。GC/MSでは一般的に、1つのクロマトグラムピークの出現期間におけるデータ点数はたかだか10程度である。そのため、図3に示すように、クロマトグラムピークトップのデータを採取できる場合もあれば、図4に示すように、クロマトグラムピークトップを外れたカーブ上のデータしか採取できない場合もある。
【0007】
クロマトグラムピークの高さは本来、最大の信号強度値で定義するものであるが、図4の例の場合、最大の信号強度値を採り逃がしてしまうことになるため、正確なピーク高さを求めることができない。また、同一試料に対して複数回のGC/MS分析を行う際に、同一成分のクロマトグラムカーブ上でデータを採る位置が分析毎に変化するため、繰り返し分析の再現性を損なうことにもなる。
【0008】
上述したようなピークトップデータの採りこぼしを少なくするには、測定インターバルTiをできるだけ短くすることが望ましい。しかしながら、測定インターバルTiが短いほど1つのm/z値当たりの測定時間が短くなり、分析感度の点で不利である。
【0009】
【特許文献1】特開2002−25498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、スキャン測定においてクロマトグラムのピークトップのデータを確実に捉えることができるクロマトグラフ質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、クロマトグラフ部で時間方向に分離された試料成分を質量分析部に導入し、スキャン測定モードで質量分析するクロマトグラフ質量分析装置において、
クロマトグラフ部における目的成分の保持時間と、スキャン測定の繰り返しの測定インターバルとに基づいて、スキャン測定の開始時間を決定するタイミング決定手段、を備えることを特徴としている。
【0012】
目的成分の保持時間は、例えば、同一クロマトグラフ分析条件の下で予めSIM測定モードで得られたマスクロマトグラムから求めておくことができる。
【0013】
また、測定インターバルは、後述する測定条件設定手段によりユーザが直接的にその値を設定するようにしてもよいし、或いは、走査速度など別の測定パラメータから計算されるものを利用することもできる。特に、測定インターバルが、実質的な質量走査を実行する測定期間と、電圧の安定化などに必要な実質的な質量走査を行わない準備期間とからなり、その準備期間の時間幅が質量走査範囲などに依存して決められる場合には、別の測定パラメータから算出される測定インターバルが用いられる。
【0014】
従来一般的に、スキャン測定の開始時間はユーザの設定により任意に、つまり他の測定パラメータや目的成分の保持時間などとは無関係に決められるようになっていた。これに対し、本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置では、タイミング決定手段が、目的成分の保持時間、即ち、クロマトグラム上でその目的成分のピークトップが出現する時間を基準とし、測定インターバルを所定数分だけ時間的に遡った時点を元にスキャン測定の開始のタイミングを決定する。簡潔に言えば、ピークの出現時間が既知である目的成分のピートップのデータを取得できるように、時間的に遡ってスキャン測定の開始のタイミングが決定される。
【0015】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置の一態様として、
少なくとも前記測定インターバルとスキャン測定の開始時間とを含むスキャン測定パラメータを設定する測定条件設定手段をさらに備え、前記タイミング決定手段は、前記測定条件設定手段により設定されたスキャン測定の開始時間を、目的成分の保持時間と測定インターバルとに基づいて修正する構成とすることができる。
【0016】
この構成では、ユーザは測定条件設定手段によりスキャン測定パラメータとして測定インターバルとスキャン測定の開始時間とを設定し、タイミング決定手段は、設定された測定開始時間を中心として前後に最大、測定インターバルの期間の範囲内で、目的成分の保持時間にデータ取得点がくるように測定開始時間を調整する。したがって、ユーザが設定した測定開始時間の付近で実際にスキャン測定が開始されるので、ユーザにとって操作上の違和感が少なく、またユーザが意図する時間範囲のデータ(マススペクトル、マスクロマトグラム)を収集することができる。
【0017】
また本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置において、より厳密に目的成分のピートップのデータを捉えるには、前記タイミング決定手段は、目的成分の保持時間及び測定インターバルに加え、測定インターバル期間中における目的成分の質量に対するデータ取得の遅れ時間を考慮して、スキャン測定の開始時間を決定することが好ましい。
【0018】
即ち、予め設定された2つの質量(測定開始質量及び測定終了質量)の間を質量走査するのには或る程度の時間を要するから、目的成分の質量が質量走査範囲のどこに位置するのかによってデータ取得のタイミングが異なる。そこで、タイミング決定手段は、例えば、測定開始質量、測定終了質量、測定インターバル、さらには測定インターバル中に実質的に質量走査をしていない準備期間がある場合にはその準備期間の時間幅と、目的成分の質量とから、測定インターバル期間中における当該目的成分のデータ取得の遅れ時間を算出し、この遅れ時間を含めてスキャン測定の開始時間を決定する。これにより、どのような質量の目的成分に対しても、ほぼ正確にピークトップデータを捉えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置によれば、クロマトグラフ部における保持時間が既知である目的成分について、クロマトグラムピークのトップを確実に捉えてデータを収集することができる。そのため、ピーク高さを算出する際の精度が向上するとともに、同一成分に対し複数回の分析を行う場合のデータの再現性も向上する。また、ピークの最大点のデータを得ることができるため、最大感度を達成でき、微量な成分の検出、定量にも威力を発揮する。
【0020】
なお、1つの試料中に複数の目的成分が存在する場合に、クロマトグラフ部において時間方向に分離された各目的成分に対してそれぞれ異なる測定パラメータを設定した上でスキャン測定を実行することが可能であるが、その際にも、目的成分毎に最適な測定開始時間を決定することができ、各目的成分のクロマトグラムピークのトップのデータをそれぞれ取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施例であるGC/MSを、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるGC/MSの要部の構成図である。
【0022】
GC部1では、ヘリウム等のキャリアガスが略一定流量でもって試料気化室10を経てカラム12に供給される。その状態でインジェクタ11により少量の液体試料が試料気化室10内に注入されると、該試料は短時間で気化し、キャリアガス流に乗ってカラム12に送り込まれる。試料中の各種成分はカラム12を通過する間に時間方向に分離され、試料注入時点からの時間経過に伴って各種成分が順番にカラム12から流出してMS部2へと導入される。
【0023】
MS部2では、導入された試料ガス中の成分が例えば電子イオン化法などによるイオン源20によりイオン化され、生成されたイオンは四重極質量フィルタ21に送り込まれる。四重極質量フィルタ21の各ロッド電極には四重極駆動部24から直流電圧と高周波電圧とが重畳された電圧が印加され、その電圧に応じた質量(m/z値)を有するイオンのみが選択的に四重極質量フィルタ21を通り抜けてイオン検出器22に到達する。イオン検出器22は単位時間内に到達したイオンの数に応じたイオン電流を検出信号として出力し、A/D変換器23はこの検出信号をデジタル化してデータ処理部35へと送る。
【0024】
四重極駆動部24から四重極質量フィルタ21に印加される電圧は四重極制御部31により制御される。即ち、四重極制御部31は、スキャン測定モード、SIM測定モードなどの測定モードと各測定モードについて設定される測定パラメータとに基づいて、適宜のパターンで四重極質量フィルタ21に電圧が印加されるように四重極駆動部24に制御信号を送る。制御部34は、四重極制御部31やそのほかの各部の動作を統括的に制御する。制御部34、四重極制御部31、データ処理部35などは、入力部36、表示部37が付設されたパーソナルコンピュータ30を中心に構成され、パーソナルコンピュータ30にインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアにより後述するような制御や処理が達成される。
【0025】
本実施例のGC/MSでは、後述する特徴的な制御・処理を実行するために、四重極制御部31はスキャン開始時間演算部(本発明におけるタイミング決定手段に相当)32を機能ブロックとして含み、スキャン開始時間演算部32は保持時間情報記憶部33に格納されている保持時間情報を利用してスキャン測定時の測定開始時間を計算する。
【0026】
本実施例のGC/MSは、スキャン測定モードで質量分析が実行される際の四重極質量フィルタ21を駆動する制御動作にその特徴を有する。次に、この制御動作を図1に加え図5、図6を参照して説明する。
【0027】
この制御動作を実施するために、スキャン測定モードによるGC/MS分析を実行するときと同じGC分離条件(同一のカラム、同一のガス流速など)の下での、測定対象である成分(以下、目的成分という)の保持時間Trを予め求めておき、保持時間情報記憶部33に格納しておく。質量(m/z値)が既知である成分の保持時間を高い精度で求める典型的な手法としては、目的成分の質量を指定したSIM測定を実行してマスクロマトグラムを作成し、そのマスクロマトグラム上に現れる目的成分に対応したピークのトップの位置から保持時間(リテンションタイム)を求めるのが有効である。SIM測定、特に測定対象を1つの質量に絞ったSIM測定では、スキャン測定に比べて格段に短い時間間隔で(つまり密に)イオン強度データを収集することができるから、クロマトグラムピークトップのデータを採り損なう可能性は低く、高い精度で保持時間を得ることができる。複数の目的成分をスキャン測定モードで分析したい場合には、各目的成分の保持時間を求めて保持時間情報記憶部33に格納しておく。
【0028】
スキャン測定モードを指定した分析の実行に先立ち、オペレータ(ユーザ)は分析条件を入力部36から入力設定する。この分析条件には、スキャン測定モードの測定パラメータとして、測定開始時間Ts、測定終了時間Te、測定開始質量Ms、測定終了質量Me、測定インターバルTiなどを含む。なお、上述したように測定インターバルTiは質量走査の繰り返し周期であるが、測定インターバルTiの期間には、図6に示すように、実質的に質量走査が行われている測定期間Tmesと、実質的な質量走査が行われていない準備期間Tsetと、を含む。準備期間Tsetを設けるのは、四重極駆動部24において測定終了質量Meに対応した電圧値から測定開始質量Msに対応した電圧値に電圧を下げる際に電圧が安定するのに或る程度時間を要するためである。
【0029】
なお、この実施例の説明では、準備期間Tsetの時間幅は一定であるとするが、準備期間Tsetの時間幅は質量範囲(測定終了質量Meと測定開始質量Msとの差)に依存して決められる場合もあり、その場合、準備期間Tsetの時間幅は可変である。こうした制御が行われる場合には、例えば、測定インターバルTiではなく測定期間Tmesが測定パラメータの1つとして設定され、測定終了質量Meと測定開始質量Msとから決まる準備期間Tsetが測定期間Tmesに加算されることで測定インターバルTiが算出される。また、走査速度が測定パラメータの1つとして設定される場合には、走査速度と測定終了質量Meと測定開始質量Msとから測定期間Tmesが計算され、その測定期間Tmesと準備期間Tsetとが加算されることで測定インターバルTiが算出される。
【0030】
上記のようにスキャン測定の測定パラメータが設定されると、これを制御部34を通して受け取った四重極制御部31においてスキャン開始時間演算部32が、保持時間情報記憶部33から目的成分の保持時間Ttrを読み出し、この保持時間Ttrと測定インターバルTiとから測定開始時間Tsを計算する。具体的には、図5に示すように、目的成分のクロマトマトグラムピークのトップが出現する時間が保持時間Ttrであり、測定インターバルTiの時間間隔でしかデータを取得することができないから、ピークトップの位置がデータ取得点となるように測定開始時間を調整する。
【0031】
いま、1つの測定インターバルの終了時点でデータが取得されるものとすると、スキャン開始時間演算部32は次の(1)式により測定開始時間Ts’を求めればよいことになる。
Ts’=Ttr−n・Ti …(1)
ここで、nは任意の整数である。図5は上記(1)式の概念を示している。即ち、目的成分の保持時間Ttrを起点として、測定インターバルTiの規定倍数、つまりn・Tiだけ時間的に遡った時点を測定開始時間Ts’と定める。但し、ここでは、測定パラメータの1つとして測定開始時間Tsがユーザにより設定されているため、上記のTs’がこの測定開始時間Tsと最も近くなるようにnの値を決める。これにより、測定パラメータとして設定された測定開始時間Tsはその前後に最大、測定インターバルの時間幅の範囲で実際の測定開始時間Ts’に修正される。
【0032】
実際には、「1つの測定インターバルの終了時点でデータが取得される」とは限らず、測定インターバルTiの中でデータが得られるタイミングは、測定対象の質量に応じて異なる。そこで、目的成分のクロマトグラフピークトップのデータを確実に取得するためには、その目的成分の質量に対するデータが取得される時間遅れを考慮する必要がある。いま、上述のように、測定インターバルTiを測定期間Tmesと準備期間Tsetとに分けて考えると、質量Mmc(Ms≦Mmc≦Me)に対するデータを取得するための測定期間内での時間遅れTxは、図6より、
Tx=Tmes × [(Mmc−Ms)/(Me−Ms)] …(2)
である。したがって、(1)式は(2)式の時間遅れTxを考慮して、
Ts’=Ttr−n・Ti+Tmes×[(Mmc−Ms)/(Me−Ms)] …(3)
とすることができる。
【0033】
(3)式による計算では、目的成分の質量Mmcに応じた遅れ時間が考慮されて測定開始時間Ts’が決定される。したがって、どのような目的成分を分析する場合でも、その目的成分のクロマトグラムピークトップのデータを捉えるように測定開始時間Ts’を決めることができる。こうして測定開始時間Ts’が決まると、四重極制御部24では、これとそのほかの測定パラメータとを用いて図2に示すような電圧印加パターンが決定され、分析の実行に従ってこれに基づいた四重極駆動部24の制御が実行される。その結果、データ処理部35では、目的成分のクロマトグラムピークトップのデータを確実に取得することができる。
【0034】
なお、1回のGC/MS分析に対し、測定開始時間Tsと測定終了時間Teとで決まるスキャン測定実行期間が重ならないという制約の下に、複数の測定パラメータの組(Ts、Te、Ms、Me、Ti)を設定することも可能である。図7は、異なる2つの目的成分がそれぞれ出現する時間付近に合わせて、その目的成分の質量が入るような適宜の質量範囲を設定したスキャン測定を実行する場合の例である。1つの目的成分に対する測定パラメータとして、測定開始時間Ts1、測定終了時間Te1、測定開始質量Ms1、測定終了質量Me1、測定インターバルTi1が設定され、別の目的成分に対する測定パラメータとして、測定開始時間Ts2、測定終了時間Te2、測定開始質量Ms2、測定終了質量Me2、測定インターバルTi2が設定されている。このような場合でも、それぞれも目的成分の保持時間が与えられれば、その保持時間と測定パラメータとに基づいて、各目的成分のクロマトグラムピークトップのデータを捉えられるような測定開始時間Ts1’(Ts1の修正値)、Ts2’(Ts2の修正値)を求めることができる。
【0035】
また上記実施例の説明では、目的成分の保持時間Ttrとしてその目的成分に対する実測の保持時間を用いているが、目的成分の保持時間の指標となる別の成分の保持時間Trefから目的成分の保持時間Ttrを予測計算することも可能である。これは、目的成分を含む試料を1回しか分析できない(つまり前もってSIM測定が行えない)ような場合に有用である。
【0036】
一例を挙げると、目的成分の保持指標が既知である場合、n−アルカンを含む試料をSIM測定モードで分析して正確な保持時間を求めれば、この保持時間と目的成分の保持指標とから目的成分の保持時間Ttrを計算することができる。いま、クロマトグラム上で目的成分のピークがn−Cアルカンのピークとn−Cn+1アルカンのピークとの間に現れる場合、n−Cアルカンのピークの出現時間t、n−Cn+1アルカンのピークの出現時間tn+1と、目的成分の保持時間Ttrとを用いて、次の(4)式により目的成分の保持指標ixは定義される。
ix=100・(Ttr−t)/(tn+1−t)+n …(4)
したがって、逆に予め目的成分の保持指標ixが分かっていれば、n−Cアルカンのピークの出現時間t、n−Cn+1アルカンのピークの出現時間tn+1を用いて、次の(5)式により目的成分の保持時間Ttrを算出することができる。
Ttr={(ix/100)−n}・(tn+1−t)+t …(5)
【0037】
もちろん、保持指標の基準物質としてn−アルカン以外の物質を利用することもできる。また、保持指標に代えて相対保持比などを用いることができることも明らかである。
【0038】
上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。例えば上記実施例は本発明をGC/MSに適用したものであるが、LC/MSに本発明を適用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施例によるGC/MSの要部の構成図。
【図2】スキャン測定モードの際の時間経過に伴う質量走査の様子を示す図。
【図3】ピークトップのデータを捉えることができる場合のデータ取得点と実際に作成されるクロマトグラムを示す図。
【図4】ピークトップのデータを捉えることができない場合のデータ取得点と実際に作成されるクロマトグラムを示す図。
【図5】本実施例のGC/MSにおける目的成分のクロマトマトグラムピークと測定開始時間との関係を示す図。
【図6】本実施例のGC/MSにおける測定開始時間決定方法の説明図。
【図7】試料中に複数の目的成分がある場合の質量走査の様子を示す図。
【符号の説明】
【0040】
1…GC部
10…試料気化室
11…インジェクタ
12…カラム
2…MS部
20…イオン源
21…四重極質量フィルタ
22…イオン検出器
23…A/D変換器
24…四重極駆動部
30…パーソナルコンピュータ
31…四重極制御部
32…スキャン開始時間演算部
33…保持時間情報記憶部
34…制御部
35…データ処理部
36…入力部
37…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ部で時間方向に分離された試料成分を質量分析部に導入し、スキャン測定モードで質量分析するクロマトグラフ質量分析装置において、
クロマトグラフ部における目的成分の保持時間と、スキャン測定の繰り返しの測定インターバルとに基づいて、スキャン測定の開始時間を決定するタイミング決定手段、を備えることを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクロマトグラフ質量分析装置であって、
少なくとも前記測定インターバルとスキャン測定の開始時間とを含むスキャン測定パラメータを設定する測定条件設定手段をさらに備え、
前記タイミング決定手段は、前記測定条件設定手段により設定されたスキャン測定の開始時間を、目的成分の保持時間と前記測定インターバルとに基づいて修正することを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクロマトグラフ質量分析装置であって、
前記タイミング決定手段は、目的成分の保持時間及び測定インターバルに加え、測定インターバル期間中における目的成分の質量に対するデータ取得の遅れ時間を考慮して、スキャン測定の開始時間を決定することを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−71651(P2010−71651A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235917(P2008−235917)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】