説明

クロマトグラフ質量分析装置

【課題】包括的二次元GC/MS分析において多数の含有成分の定量分析を高感度で行えるようにSIM測定条件を自動的且つ的確に決定し、さらにオペレータによる条件の修正も容易にする。
【解決手段】測定条件決定部24は、化合物毎に保持時間と測定対象m/zが収録された化合物テーブル26から必要なデータを読み込み、各カラム12、14の分離特性、モジュレータ13の動作条件等に基づいて予め与えられた条件に従って、保持時間を一次カラム12の保持時間と二次カラム14の保持時間とに割り当て、二次元検出時間テーブル25を作成する。そして、このテーブル25を用い、スキャン測定等により得られた二次元等高線クロマトグラムのデータに対し、時間軸毎にピークを分離可能な境界線を定め、SIM測定区間を決定する。この測定区間を二次元クロマトグラム上に表示し、グラフィカルに変更可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクロマトグラフ(GC)の検出器として質量分析装置(MS)を用いたガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)等のクロマトグラフ質量分析装置に関し、さらに詳しくは、クロマトグラフとして包括的二次元クロマトグラフを利用したクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフの手法の1つとして、包括的(Comprehensive)二次元ガスクロマトグラフ(「GC×GC」等と呼ばれることもある)という手法が知られている(特許文献1、2、非特許文献1参照)。包括的二次元GCは、試料中の各種成分を一次元目のカラム(以下「一次カラム」という)でまず分離し、その溶出成分をモジュレータに導入する。モジュレータは一定時間間隔(数秒程度)毎に導入された成分を捕集した後にごく狭い時間バンド幅で離脱させ、二次元目のカラム(以下「二次カラム」という)に導入するという操作を繰り返す。通常、二次カラムは一次カラムとは極性が異なり、一次カラムで十分に分離されなかった複数の成分を高速で分離可能なものが用いられる。これにより、包括的二次元GCでは、一次カラムで分離されずにピークが重なった試料成分を二次カラムで分離することができ、通常のGCに比べて分離性能が大幅に向上する。このため、保持時間が近い成分を多数含むような試料の分析、例えばディーゼル燃料の炭化水素分析などに非常に威力を発揮する。
【0003】
包括的二次元GCでは、複数の検出器を用いるマルチディメンジョナル(MD)GCとは異なり、1個の検出器から時間経過に伴って検出信号が得られる。極性の相違する二本のカラムそれぞれでの分離状態を分かり易くするために、通常、上記検出信号に基づいて、一次カラムにおける保持時間と二次カラムにおける保持時間とをそれぞれ軸とし信号強度を等高線で表した二次元クロマトグラムや、信号強度も軸とした三次元クロマトグラムが作成される。こうしたクロマトグラムを作成するためのデータ処理用のソフトウエアとしては、米国ゾエックス(ZOEX)社が提供しているGC Image(非特許文献2参照)がよく知られている。
【0004】
図5(a)は、横軸に一次カラムの保持時間、縦軸に二次カラムの保持時間をとった二次元等高線クロマトグラムの一例である。昇温分析の場合、横軸は沸点順を表し、縦軸は極性順を表しており、各化合物の性質の理解が容易であるとともに、多数の化合物が含まれる場合でもどのような化合物が含まれているのかが容易に把握可能となっている。
【0005】
前述したように包括的二次元GCでは、二次カラムにおいて試料成分の分離を数秒程度という短時間で繰り返し実行するため、各試料成分がカラム出口から溶出している時間幅はかなり短い。そのため、包括的二次元GCの検出器として質量分析装置を用いた包括的二次元GC/MSでは、質量分析装置において試料成分を見逃さないように、短いインターバルでの繰り返し測定が必要になる。一般に、所定の質量範囲の走査を繰り返しながら測定を行うスキャン測定では、測定インターバルを短くすると検出感度が低下する。このため、定性分析であればスキャン測定でも構わないが、定量分析、特に信号強度の低い、つまり含有量が少ない(又は含有量が多くてもイオン化されにくい)成分の定量分析を行うには、スキャン測定ではなくSIM(選択イオンモニタリング)測定を行う必要がある。
【0006】
SIM測定は指定された時間範囲において1乃至複数の特定の質量電荷比(m/z値)のイオンのみを選択的に検出する手法であり、時間範囲とその時間範囲において測定する質量電荷比とをSIM測定条件として予め設定しておかなければならない。従来の一般的なGC/MSでは、特許文献3に開示されているように、既知化合物の保持時間と対応する質量電荷比とが記述された化合物テーブルから自動的にSIM測定条件テーブルを作成することが可能となっている。また、自動的に作成されたSIM測定条件テーブルの内容の修正・変更をオペレータが容易に行えるような配慮もなされている。
【0007】
しかしながら、包括的二次元GC/MSにおいてSIM測定条件テーブルを作成する場合には次のような問題がある。即ち、包括的二次元GCでは数秒程度の時間間隔でモジュレーションをかけるため、1つの化合物は複数本のピークに分かれて検出されることになる。しかも、一次カラムで十分に分離されなかった(つまりピークが重なっている)複数の成分に由来する鋭いピークが1つのモジュレーション期間中に混在して現れる。このため、質量分析装置で得られた検出信号を質量電荷比を問わずに時間経過に伴って一次元的に並べたクロマトグラム(トータルイオンクロマトグラム)は非常に複雑になり、こうした状態のクロマトグラムに対し、上記のような従来の、化合物テーブルからSIM測定条件テーブルを作成する手法をそのまま適用することはできない。
【0008】
そこで従来は、図5(a)に示したような二次元クロマトグラムの横軸(一次カラムの時間軸)を横軸とした図5(b)に示すような一次元クロマトグラムを求め、このクロマトグラムに対して化合物テーブルに基づく処理を実行してSIM測定条件を決めるようにしている。こうした処理により、複数の成分は図5(a)上部に示したような複数のSIM測定グループ(この例では[1]〜[6])に区分される。また、それに対応して作成されるSIM測定条件テーブルは図6に示すようになる。
【0009】
その結果、一次カラムで十分に分離されない成分は同じ測定時間範囲にグループ化されることになる。もともと包括的二次元GC/MSで分析される試料に含まれる成分の数は非常に多く保持時間が近いため、上記のようなグループ化では1つのSIM測定グループに入る成分数が多くなることがある。図6中に示すように、SIM測定グループ毎にSIM測定を行う質量電荷比が設定されるため、1つのSIM測定グループに属する成分数が多いと、それだけ測定対象の質量電荷比も多くなる。仮に1つの成分に対して1つの質量電荷比しか測定しないとしても、SIM測定グループ[1]の測定時間範囲では1つの質量電荷比だけ測定すれば済むのに対し、SIM測定グループ[5]の測定時間範囲では5つの質量電荷比を測定しなければならない。1つの成分当たりに測定すべき質量電荷比の数が多い場合にはさらに多くの質量電荷比の測定を行う必要が生じる。このように1つのSIM測定グループに割り当てられる成分の数が多いと、決まった測定インターバルに対してSIM測定を実行すべき質量電荷比の数も多くなり、SIM測定における1つの質量電荷比当たりの測定時間が短くなり感度が低下してしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2004−513367号公報
【特許文献2】特表2007−538249号公報
【特許文献3】特開2003−172726号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】神田広興、「包括的2次元GC(GC×GC)の原理とPOPs分析への応用」、日本分析化学会、第260回ガスクロマトグラフィー研究懇談会特別講演会資料、2003年12月5日発行、p.39−51
【非特許文献2】「GC Image GCxGC Software」、[online]、米国ゾエックス(Zoex)社、[平成21年12月2日検索]、インターネット<URL : http://www.gcimage.com/gcxgc/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、包括的二次元ガスクロマトグラフ(又は包括的二次元液体クロマトグラフ)と質量分析装置とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置において、目的試料に対してスキャン測定等を用いた包括的二次元クロマトグラフ質量分析で予め得られた分析結果に基づいてSIM測定のための適切な測定条件を自動的に決定することができるとともに、必要に応じてオペレータがそれを容易に修正できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明は、一次カラム、モジュレータ、及び二次カラムを具備する包括的二次元クロマトグラフで分離された試料を質量分析装置に導入して検出するクロマトグラフ質量分析装置であって、質量分析装置において選択イオンモニタリング(SIM)法により特定の質量電荷比を有するイオンの検出を行うクロマトグラフ質量分析装置において、
a)測定対象の化合物毎に保持時間と質量電荷比とが対応付けて記憶された化合物情報記憶部と、
b)1つのモジュレーション期間における分離情報に基づいて、前記化合物情報記憶部に記憶されている保持時間を一次カラムの時間軸上の保持時間と二次カラムの時間軸上の保持時間とに割り当てた検出情報を作成し、分析により得られた二次元クロマトグラムに対して前記検出情報を用い所定の条件に基づいて各時間軸上でそれぞれSIM測定区間を決定する測定区間決定処理部と、
c)該測定区間決定処理部で決定された各時間軸上のSIM測定区間に基づいて、時間経過に伴うSIM測定グループの開始時間及び/又は終了時間と該グループに属する化合物に対応した測定対象の質量電荷比とを含むSIM測定条件情報を作成するSIM測定条件設定部と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置では、一般的に数秒程度の短い期間であるモジュレーション期間における分離情報が予め与えられているので、測定区間決定処理部は、化合物情報記憶部に記憶されている保持時間を、一次カラムの時間軸上の保持時間と二次カラムの時間軸上の保持時間とにそれぞれ割り当てることができる。なお、上記分離情報は、モジュレータの動作やカラムの分離特性(極性など)応じて決まるものである。これにより、一次カラムの時間軸上でみたときに複数の化合物のピークが重なり合っていたとしても、二次カラムの時間軸上でその複数の化合物のピークが分離されてさえいれば、該時間軸上でその複数の化合物がそれぞれ異なるSIM測定区間に属するようにSIM測定区間を決定することができる。
【0015】
そしてSIM測定条件設定部は、上述のように二次元的な時間軸上で区画されたSIM測定区間を時間経過に伴う一次元情報に変換しSIM測定条件情報(例えばテーブル)を作成する。こうして作成されたSIM測定条件情報では二次カラムの時間軸上で分離されている成分は通常、異なるSIM測定グループに入ることになる(条件によっては同一グループに入ることもある)から、SIM測定グループは非常に細かく設定され、1つのSIM測定グループに入る化合物の数は1乃至少数に限定される。
【発明の効果】
【0016】
こうしたことから本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置によれば、SIM測定を用いた包括的二次元クロマトグラフ/質量分析の際に、1つの測定時間範囲で測定すべき質量電荷比の数が少なくて済み、1つの質量電荷比当たりの測定時間を十分に確保することができる。その結果、化合物由来のイオンの検出感度が向上し、例えば定量分析の精度を向上させることができる。また、スキャン測定を用いた包括的二次元クロマトグラフ/質量分析の結果を利用してほぼ自動的に、同じ試料に対するSIM測定を用いた包括的二次元クロマトグラフ/質量分析のためのSIM測定条件情報を作成することができる。したがって、オペレータに煩雑な作業を課すことなく、上記のような良好な分析を実行することができる。
【0017】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置は、好ましくは、分析により得られたデータから二次元等高線クロマトグラム等の二次元クロマトグラムを作成して表示部の画面上に表示する二次元クロマトグラム作成処理部を備え、該二次元クロマトグラム作成処理部は、前記測定区間決定処理部により決定されたSIM測定区間の区画を前記二次元クロマトグラム上で識別可能に表示する構成とするとよい。
【0018】
例えば二次元等高線クロマトグラム上で、一次カラムの時間軸に直交する線と二次カラムの時間軸に直交する線とを境界線とする矩形状の領域で測定区間を明示するようにすることができる。また、各時間軸に直交する線だけでなく斜交する線を用いるようにしてもよい。これにより、オペレータはSIM測定のための測定領域を視覚的に把握し易くなる。
【0019】
さらにまた、上記二次元クロマトグラム作成処理部により表示部に表示される二次元クロマトグラム上のSIM測定区間の区画を示す境界線の位置及び形状をオペレータが変更するための操作部をさらに備え、上記測定区間決定処理部はその操作部の操作に応じてSIM測定条件テーブルを内容を変更するようにするとよい。
【0020】
これにより、オペレータは測定対象の化合物のピークが描出されている二次元クロマトグラム上での操作により、SIM測定区間の開始時間や終了時間を簡便に修正することができる。したがって、例えば自動的に決められた測定区間の区分があまり的確でない場合にも、オペレータは化合物の溶出時間を確認しながら適切に測定条件を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例による包括的二次元GC/MSの要部の構成図。
【図2】包括的二次元GC/MSにおける二次元等高線クロマトグラム作成の概念を示す図。
【図3】本実施例の包括的二次元GC/MSにより描出される二次元等高線クロマトグラムの一例を示す図。
【図4】図3(b)に対応したSIM測定条件テーブルの一例を示す図。
【図5】二次元等高線クロマトグラム及びその横軸を唯一の時間軸とした一次元クロマトグラムの一例を示す図。
【図6】図5に対応したSIM測定条件テーブルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施例である包括的二次元GC/MSについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例による包括的二次元GC/MSの要部の構成図である。
【0023】
分析部1は、一次カラム12と、一次カラム12に試料ガスを導入する試料気化室などを含む試料導入部11と、一次カラム12から溶出する成分(化合物)を一定時間間隔で捕集し時間的に圧縮して送り出すモジュレータ13と、一次カラム12とは異なる分離特性(典型的には異なる極性)を有する高速分離可能な二次カラム14と、二段階のカラム12、14で分離された各成分を検出する質量分析計15と、を備える。質量分析計15は質量分析器として四重極質量フィルタを用いた質量分析計であり、スキャン測定とSIM測定とが選択的に行えるようになっている。
【0024】
分析部1に含まれる各部の動作は分析制御部28により制御される。データ処理部2は、質量分析計15で取得されたデータを処理したり、分析制御部28が分析を実施する際に用いる測定条件ファイルを自動的に作成したりする機能を有する。より詳しくは、データ処理部2は、データ格納部21、ピーク検出処理部22、クロマトグラム作成部23、測定条件決定部24、化合物テーブル26、測定条件記憶部27などの機能ブロックを含み、測定条件決定部24は二次元検出時間テーブル25を有する。データ処理部2や分析制御部28の一部はパーソナルコンピュータをハードウエアとし、そのパーソナルコンピュータに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより上記のような各ブロックが機能する。またデータ処理部2には、キーボードやマウス等のポインティングデバイスである操作部3や表示部4が接続されている。本実施例の包括的二次元GC/MSはハードウエアとしては従来の包括的二次元GC/MSと同じであり、上記制御・処理ソフトウエアが従来とは相違することで実質的に異なる構成をとるようにすることができる。
【0025】
まず、分析部1における分析動作を概略的に説明する。分析部1において、試料導入部11は分析制御部28からの指示に応じて、一次カラム12に略一定流量で送られるキャリアガス中に分析対象である試料を導入する。通常、この試料には多数の成分が含まれる。該試料に含まれる各種成分は、所定の昇温プログラムに従って温調された一次カラム12を通過する間に分離されて時間的にずれて溶出する。この時点では全ての成分が十分に分離されるわけではなく、一次カラム12での保持時間が近い成分は重なって(混じった状態で)溶出する。
【0026】
モジュレータ13は一定時間(=モジュレーション期間t:一般に数秒程度だがここでは8秒)中に一次カラム12から溶出してくる成分を全て捕集し、時間的に圧縮して二次カラム14に送り込む、という操作を連続的に繰り返す。したがって、一次カラム12からの溶出成分は漏れなく二次カラム14に送り込まれる。モジュレーション期間t毎に送り込まれた複数の試料成分は二次カラム14を通過する際に高い分解能で時間方向に分離されて溶出し、溶出した順に質量分析計15に導入される。質量分析計15がスキャン測定を実行する場合には、所定の質量範囲のスキャン測定が繰り返されるから、スキャン測定のインターバル毎に所定質量範囲のマススペクトルデータが得られる。二次カラム14から各成分が溶出している時間幅は狭いが、この時間幅よりも短いインターバルでスキャン測定を行うことにより全ての溶出成分を漏れなく検出することができる。こうして質量分析計15で取得されたデータはデータ格納部21に保存される。
【0027】
データ処理部2においてクロマトグラム作成部23は、上記のように収集されたマススペクトルデータに対し、質量電荷比に依らない全てのイオンの強度信号をマススペクトルが得られる毎に合算し、それを時間経過に従って並べることでトータルイオンクロマトグラム(TIC)データを求める。そして、このTICデータをモジュレーション期間t毎に区切り、図2に示すように、モジュレーション期間t内のデータを縦軸方向に順に並べ、横軸方向にモジュレーション期間tの発生順を並べるようにし、強度を等高線(又は色の相違)で表すことにより例えば図3(a)に示すような二次元等高線クロマトグラムを作成する。この二次元等高線クロマトグラムは表示部4の画面上に表示される。
【0028】
上記試料に含まれる特定の成分の定量を行うためにSIM測定条件を決定したい場合、測定条件決定部24は化合物テーブル26から測定対象の成分(化合物)の保持時間や測定質量電荷比(m/z)の情報を選択的に読み込む。測定条件決定部24には、各種成分の保持時間を一次カラム12による試料導入時点を基準とした全成分に亘る広い時間範囲で低い時間分解能の時間軸と二次カラム14によるモジュレーション期間t内に限定された狭い時間範囲で高い時間分解能の時間軸とに割り当てるための検出情報が予め与えられている。この情報は各カラム12、14の分離特性やモジュレータ13の制御動作(例えばモジュレーション期間tなど)に応じて決まるものであり、例えばカラムの長さ、内径、液相の膜厚などの物理的なパラメータが変更された場合は当然のことながら、昇温条件やキャリアガスの流量(又は線速度)などの制御パラメータが変更された場合に、上記検出情報も変更される必要がある。
【0029】
測定条件決定部24は、読み込んだ測定対象成分毎にその保持時間を、上記検出情報を参照して一次カラムの時間軸と二次カラムの時間軸とに割り当てる。これにより、化合物テーブル26中での或る成分の保持時間が例えばTaであったものが、二次元検出時間テーブル25では、当該成分の一次カラム保持時間:Ta1、二次カラム保持時間:Ta2(Ta2は0〜8秒)と変換される。また、化合物テーブル26中で当該成分に対応付けられていた質量電荷比が、それぞれの保持時間Ta1、Ta2に対応付けられる。こうした測定対象成分毎に一次カラム保持時間、二次カラム保持時間、及び質量電荷比を格納したテーブルを作成し、二次元検出時間テーブル25に保存する。
【0030】
ピーク検出処理部22は二次元等高線クロマトグラムを構成するデータを読み込み、該クロマトグラム上に現れているピークを検出し、ピーク毎に一次カラムの時間軸と二次カラムの時間軸のそれぞれにおけるピーク開始点、ピーク終了点等の時間位置に関する情報を、クロマトグラムデータとともに測定条件決定部24に送る。測定条件決定部24は二次元検出時間テーブル25を参照して、クロマトグラム上の各ピークの成分を特定するとともに、時間軸毎に隣接するピークの時間間隔に基づいてSIM測定区間の境界線を定める。例えば一次カラムの時間軸と二次カラムの時間軸のそれぞれについて予めピークの時間間隔が所定時間以上であるときに境界を設定するとの分離条件を定めておき、それに従ってSIM測定区間の境界を設定することができる。これにより、一次カラムの時間軸方向からみたときに(つまりは図5(b)の状態のクロマトグラム)であるときにピークが重なっていて分離できない成分であっても、二次カラム14で十分に分離可能な成分であれば、それら成分の間に境界を設定し、異なるSIM測定区間に属するようにすることができる。
【0031】
上記のように決められた時間軸毎のSIM測定区間の境界線の位置を示す情報はクロマトグラム作成部23に与えられ、クロマトグラム作成部23は表示部4に表示する二次元等高線クロマトグラムにおいて、図3(b)に示すように、各SIM測定区間を矩形状の領域で示す。図3(b)では各領域を異なる塗りつぶしパターン(例えば斜線パターン、横線パターンなど)で示しているが、実際には異なる表示色を用いて区別するようにすることができる。図3(b)と図5(a)とを比較すれば、従来は同じ測定区画にグループ化されていた3つの成分D、E、Fが、本実施例においては成分D、Fと成分Eとが別の測定区画に属するようにグループ化されることが分かる。また、従来は同じ測定区画にグループ化されていた5つの成分H、I、J、K、Lが、本実施例においては成分H、J、Lが属する測定区間と成分Iのみが属する測定区間と成分Kのみが属する測定区間の3つにグループ化されることが分かる。
【0032】
さらに測定条件決定部24は、上記のように二次元的な領域で示されるSIM測定区間を、図2に示したような時間順序に従った、即ち一s次元的な時間軸上の測定区間に分解する。そして、各測定区間の後方の境界の時間位置に基づき測定終了時間を確定するとともに、その測定区間に属する成分を確定し、図4に示すようなテーブルを作成する。前述のように、一次カラム12では分離されない成分が二次カラム14では分離されて鋭い、つまりは時間幅の狭いピークとして現れることから、図4に示すように、同一成分が属する測定区間がモジュレーション期間tにほぼ一致する短い間隔で繰り返し出現する。各成分にはそれぞれ少なくとも1つの測定質量電荷比が定められているから、各測定区間に属する成分に対応した質量電荷比を求めて、これを図4のテーブルに加えることにより、SIM測定条件テーブルが完成する。このテーブルから測定条件ファイルが作成されて測定条件記憶部27に保存される。
【0033】
上述したようにクロマトグラムデータ及びピーク検出結果に基づいてSIM測定区間の境界の設定は自動的に行われるが、含有成分の数が非常に多い場合や類似した成分が多い場合などでは、測定区間の境界が適切に設定されないことがある。そこで、本装置では、表示部4の画面上に図3(b)に示すような二次元等高線クロマトグラムが表示された状態で、オペレータがグラフィカルに測定区間の変更・修正を行えるようにしている。即ち、二次元等高線クロマトグラム上に表示された矩形状の領域の境界は操作部3による簡単な操作(例えばクリック操作による任意の境界線の能動化及びドラッグアンドドロップによる移動)により移動が可能であり、オペレータがそうした移動操作を行った上でその操作を確定させると、測定条件決定部24はSIM測定区間の境界、つまりは測定終了時間を自動的に変更する。また、任意の位置に新たに境界線を追加することで測定区間の数を増やしたり、逆に適切でない境界線を削除することで測定区間の数を減らしたりすることも可能である。
【0034】
但し、測定区間の数を減らした場合には1つの測定区間に属する成分の数が増えるため、例えば測定区間に属する成分の数(又は測定質量電荷比の数)が規定値以上になる場合には、オペレータに対して警告表示を行うようにするとよい。また、境界線を移動させたり追加したりした場合には、測定区間の時間が異常に短くなるおそれがあるから、測定区間の時間が規定値以下になるような変更は禁止するようにするとよい。
【0035】
以上のようにして測定条件記憶部27にSIM測定のための測定条件ファイルが保存された状態でSIM測定の実行が指示されると、分析制御部28は測定条件ファイルを読み込んで、そのファイルで規定される測定条件に従って分析部1の各部を制御することにより、SIM測定を伴う包括的二次元GC/MS分析を実施する。即ち、包括的二次元GCの分離動作自体は上記のスキャン測定時と同じように制御しつつ、図4中のテーブルに示した測定終了時間毎にSIM測定対象の質量電荷比を切り替えるように質量分析計15の動作を制御する。これにより、該当する成分に対応した質量電荷比における信号強度のみが得られ、含有量の少ない成分についても高い感度で検出が可能である。
【0036】
なお、上記実施例では、二次元等高線クロマトグラム上で測定区間の区分けを示す境界線を両時間軸に直交するように設定していたが、必ずしも直交した線である必要はなく、斜めに境界線を設定できるようにしてもよい。また、二次元等高線クロマトグラムでなくても、少なくとも、一次カラムの時間軸と二次カラムの時間軸とを二軸とする二次元クロマトグラムであればよい。
【0037】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0038】
1…分析部
11…試料導入部
12…一次カラム
13…モジュレータ
14…二次カラム
15…質量分析計
2…データ処理部
21…データ格納部
22…ピーク検出処理部
23…クロマトグラム作成部
24…測定条件決定部
25…二次元検出時間テーブル
26…化合物テーブル
27…測定条件記憶部
28…分析制御部
3…操作部
4…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次カラム、モジュレータ、及び二次カラムを具備する包括的二次元クロマトグラフで分離された試料を質量分析装置に導入して検出するクロマトグラフ質量分析装置であって、質量分析装置において選択イオンモニタリング(SIM)法により特定の質量電荷比を有するイオンの検出を行うクロマトグラフ質量分析装置において、
a)測定対象の化合物毎に保持時間と質量電荷比とが対応付けて記憶された化合物情報記憶部と、
b)1つのモジュレーション期間における分離情報に基づいて、前記化合物情報記憶部に記憶されている保持時間を一次カラムの時間軸上の保持時間と二次カラムの時間軸上の保持時間とに割り当てた検出情報を作成し、分析により得られた二次元クロマトグラムに対して前記検出情報を用い所定の条件に基づいて各時間軸上でそれぞれSIM測定区間を決定する測定区間決定処理部と、
c)該測定区間決定処理部で決定された各時間軸上のSIM測定区間に基づいて、時間経過に伴うSIM測定グループの開始時間及び/又は終了時間と該グループに属する化合物に対応した測定対象の質量電荷比とを含むSIM測定条件情報を作成するSIM測定条件設定部と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクロマトグラフ質量分析装置であって、
分析により得られたデータから二次元クロマトグラムを作成して表示部の画面上に表示する二次元クロマトグラム作成処理部を備え、該二次元クロマトグラム作成処理部は、前記測定区間決定処理部により決定されたSIM測定区間の区画を前記二次元クロマトグラム上で識別可能に表示することを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載のクロマトグラフ質量分析装置であって、
前記二次元クロマトグラム作成処理部により表示部に表示される二次元クロマトグラム上のSIM測定区間の区画を示す境界線の位置及び形状をオペレータが変更するための操作部をさらに備え、前記測定区間決定処理部は前記操作部の操作に応じてSIM測定条件テーブルを内容を変更することを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122822(P2011−122822A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278097(P2009−278097)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】