説明

クロムフリー金属保護皮膜の形成方法及びクロムフリー金属保護皮膜形成処理剤

【課題】被処理金属表面に、一切のクロムを含有せず、且つ、均一で良好な外観と耐食性と塗装密着性とを兼ね備えた皮膜を形成する。
【解決手段】金属の保護皮膜形成方法は、(A)ジルコニウム、(B)硝酸イオン、(C)芳香族スルホン酸、及び、(D)フッ素イオンを含有する液体組成物によりクロムフリー保護皮膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムフリー金属保護皮膜の形成方法及びクロムフリー金属保護皮膜形成処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、亜鉛、アルミニウム及びマグネシウム等は多くの工業材料として使用されており、様々な分野で利用されている。しかしながら、これらの材料はそのまま使用すると錆と呼ばれる水酸化物を形成し、強度や外観が大きく低下する。そのため通常は、その表面に保護皮膜を形成させることが一般的である。このような保護皮膜形成としては、クロメート皮膜処理が一般的に知られている。クロメート皮膜処理は更に電解クロメート処理、塗布型クロメート処理、及び、反応型クロメート処理の3種類に分類される。これらのクロメート処理は、保護皮膜としての効果の他に、良好な外観や良好な塗装密着性が得られるため、多くの工業分野で利用されている。
【0003】
しかしながら、クロメート処理は、いずれも有害な六価クロムを使用するため、処理液のみならず処理品からも溶出する六価クロムが人体や環境へ悪影響があるとして、近年大きな問題となっている。これは、クロメート皮膜が皮膜中の六価クロムにより耐食性を発揮する皮膜である以上、如何ともしがたい問題である。
【0004】
そこで、この六価クロメートに代わる化成皮膜の開発が行われ、以下に示すように多くの発明が出願されている。現行の六価クロメート代替皮膜は三価クロム皮膜と完全クロムフリー皮膜に大別されるが、六価クロメートと比較した場合、耐食性で劣る傾向があり、多くの企業や研究機関が三価クロム皮膜及び完全クロムフリー皮膜の更なる性能向上に向け、研究を重ねているのが現状である。また三価クロム皮膜と完全クロムフリー皮膜とでは、三価クロム皮膜の方が耐食性が勝る傾向があるが、三価クロム皮膜は三価クロムを含有するため、これが特別な環境下では六価クロムに酸化される可能性を指摘する意見もある。従って、最終的には完全クロムフリー皮膜で六価クロメートに相当する耐食性を有する皮膜の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4493930号公報
【特許文献2】特開2010−31332号公報
【特許文献3】特開2002−47578号公報
【特許文献4】特開2007−204847号公報
【特許文献5】特開2005−171296号公報
【特許文献6】特開2006−161115号公報
【特許文献7】特開平11−131255号公報
【特許文献8】特開平8−176842号公報
【特許文献9】特開2009−256697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
六価クロムフリー金属保護皮膜において、外観、耐食性及び塗装密着性の全てに優れた保護形成は存在せず、耐食性が優れていても外観や塗装密着性に問題が確認される等、改善が必要な状況である。このような背景下、本発明は、金属表面、特に、亜鉛または亜鉛合金表面、アルミニウムまたはアルミニウム合金表面、マグネシウムまたはマグネシウム合金表面上に、外観、耐食性及び塗装密着性全てに優れた完全クロムフリー金属保護皮膜を形成する方法及び保護被膜形成処理剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ジルコニウム、(B)硝酸イオン、(C)芳香族スルホン酸、及び、(D)フッ素イオンを含有する液体組成物により処理を行うことで、被処理金属上に外観、耐食性及び塗装密着性に優れた完全クロムフリーの保護皮膜が形成されることを見出した。また上記液体組成物に更に(E)珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸、アンモニウムからなる群のうちの1種以上を添加することで、更に耐食性が良好な保護皮膜が形成されることを見出した。
【0008】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、(A)ジルコニウム、(B)硝酸イオン、(C)芳香族スルホン酸、及び、(D)フッ素イオンを含有する液体組成物によりクロムフリー保護皮膜を形成する金属の保護皮膜形成方法である。
【0009】
本発明に係る保護皮膜形成方法の一実施形態においては、前記液体組成物が、更に(E)珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸及びアンモニウムからなる群のうちの1種以上を含む。
【0010】
本発明に係る保護皮膜形成方法の別の一実施形態においては、被処理金属が亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、鉄、錫及びこれらの合金からなる群のうちの1種以上である。
【0011】
本発明に係る保護皮膜形成方法の更に別の一実施形態においては、更にケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの一種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行う。
【0012】
本発明に係る保護皮膜形成方法の更に別の一実施形態においては、前記保護皮膜の形成前に、被処理金属に、脱脂、活性化又は表面調整のための前処理を行う。
【0013】
本発明は他の側面において、(A)ジルコニウム、(B)硝酸イオン、(C)芳香族スルホン酸、及び、(D)フッ素イオンを含有する金属のクロムフリー保護皮膜形成処理剤である。
【0014】
本発明に係る保護皮膜形成処理剤の一実施形態においては、更に(E)珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸及びアンモニウムからなる群のうちの1種以上を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被処理金属表面に、一切のクロムを含有せず、且つ、均一で良好な外観と耐食性と塗装密着性とを兼ね備えた皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(被処理金属)
本発明の保護皮膜を形成する被処理金属としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、鉄、錫及びこれらの合金等が挙げられる。本発明で形成される保護皮膜は、特に亜鉛めっき、亜鉛合金めっき、亜鉛ダイキャスト、アルミニウム、ダイキャストを含むアルミニウム合金、マグネシウム、ダイキャストを含むマグネシウム合金に対し効果的に作用する。
【0017】
反応の詳細な機構については、ジルコニウムが強固な皮膜骨格を形成し、硝酸イオンと芳香族スルホン酸とフッ素イオンとが皮膜形成を適切に促進するものと考えられ、この4成分が同時に存在することにより、相乗的に皮膜形成が促進され、強固な皮膜が形成されるものと考えられる。また、珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸、アンモニウムといった物質を添加することにより更に耐食性が良好となる。金属カチオンについては皮膜骨格形成成分として作用し、また珪酸化合物や有機酸や無機アニオンやアンモニウムについては皮膜形成の更なる促進の他に、皮膜成分としても作用することで耐食性の向上に寄与しているものと推測される。
【0018】
(ジルコニウムの供給源)
ジルコニウムの供給源としては、オキシ塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、ジルコンフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化水素酸、ジルコニウムゾル等のジルコニウム化合物が利用できる。ジルコニウムの化合物であれば、上記以外の物質でもジルコニウムの供給源として利用できる。これらジルコニウム化合物は、一種又は二種以上を供給源として使用することができる。当該化合物のジルコニウム濃度としては、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜20g/Lであるのがより好ましい。ジルコニウム濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性及び塗装密着性が得られる。ジルコニウム濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性と塗装密着性の低下を招き、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、処理液中に沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0019】
(硝酸イオンの供給源)
硝酸イオンの供給源としては、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム等の各種硝酸化合物が利用できる。硝酸ジルコニウム等のジルコニウム化合物に含有される硝酸イオンも供給源として利用できる。硝酸イオンの化合物であれば、上記以外の物質も硝酸イオンの供給源として利用できる。これら硝酸イオンは、硝酸化合物を一種または二種以上を供給源として使用することができる。硝酸イオンの濃度は、0.001〜200g/Lが好ましく、0.01〜100g/Lであるのがより好ましい。硝酸イオンの濃度が上記範囲内であれば、良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。硝酸イオンの濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性と塗装密着性の低下を招き、200g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、処理外観でムラが発生しやすくなり好ましくない。
【0020】
(芳香族スルホン酸の供給源)
芳香族スルホン酸の供給源としては、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸やこれら芳香族スルホン酸の塩等が利用できる。芳香族スルホン酸の化合物であれば、上記以外の物質でも芳香族スルホン酸の供給源として利用できる。これら芳香族スルホン酸は一種または二種以上を供給源として使用することができる。芳香族スルホン酸の濃度は、0.001〜100g/Lが好ましく、0.01〜50g/Lであるのがより好ましい。芳香族スルホン酸濃度が上記範囲内であれば、良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。芳香族スルホン酸が0.001g/Lより低下すると耐食性の低下を招き、100g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0021】
(フッ素イオンの供給源)
フッ素イオンの供給源としては、フッ化水素、フッ化ナトリウム、酸性フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、ケイフッ化物、ジルコンフッ化アンモニウム、ジルコンフッ化水素酸、ホウフッ化物等のフッ素化合物が使用できる。フッ素イオンの化合物であれば、上記以外の物質でもフッ素イオンの供給源として利用できる。これらフッ素化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。フッ素イオンの濃度は、0.001〜80g/Lが好ましく、0.01〜40g/Lであるのがより好ましい。フッ素イオン濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。フッ素イオンが0.001g/Lより低下すると耐食性と塗装密着性の低下を招き、80g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0022】
(珪酸化合物の供給源)
珪酸化合物の供給源としては珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、オルソ珪酸塩、メタ珪酸塩、コロイダルシリカ等の珪酸化合物が使用できる。珪酸の化合物であれば、上記以外の物質でも珪酸化合物の供給源として利用できる。これら珪酸化合物は一種または二種以上を使用することができる。珪酸化合物の濃度は、0.001〜20g/Lが好ましく、0.01〜10g/Lであるのがより好ましい。珪酸濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。珪酸化合物が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、20g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0023】
(芳香族スルホン酸以外の有機酸の供給源)
芳香族スルホン酸以外の有機酸の供給源としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グルコン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸、酒石酸、グリコール酸、ジグリコール酸、乳酸、グリシン、クエン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸やこれらの有機酸塩等が利用できる。有機酸の化合物であれば、上記以外の物質でも有機酸の供給源として利用できる。これら有機酸は一種または二種以上を供給源として使用することができる。有機酸の濃度は、0.001〜200g/Lが好ましく、0.01〜100g/Lの範囲であるのがより好ましい。有機酸濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。有機酸濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、200g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、廃水処理性低下するため好ましくない。
【0024】
(アミンの供給源)
アミンの供給源としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、グリシン、アリルアミン等が利用できる。アミンであれば、上記以外の物質でもアミンの供給源として利用できる。これらアミンは一種または二種以上を供給源として使用することができる。アミンの濃度は、0.001〜200g/Lが好ましく、0.01〜100g/Lの範囲であるのがより好ましい。アミン濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。アミン濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、200g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、廃水処理性低下するため好ましくない。
【0025】
(亜鉛の供給源)
亜鉛の供給源としては、酸化亜鉛、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、炭酸亜鉛等の亜鉛化合物が利用できる。亜鉛の化合物であれば、上記以外の物質でも亜鉛の供給源として利用できる。これら亜鉛化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。亜鉛濃度は、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。亜鉛濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。亜鉛濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0026】
(マグネシウムの供給源)
マグネシウムの供給源としては、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物が利用できる。マグネシウムの化合物であれば、上記以外の物質でもマグネシウムの供給源として利用できる。これらマグネシウム化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。マグネシウム濃度は、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lの範囲であるのがより好ましい。マグネシウム濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。マグネシウム濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0027】
(アルミニウムの供給源)
アルミニウムの供給源としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、コロイダルアルミナ等のアルミニウム化合物が利用できる。アルミニウムの化合物であれば、上記以外の物質でもアルミニウムの供給源として利用できる。これらアルミニウム化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。アルミニウム濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。アルミニウム濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。アルミニウム濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0028】
(カルシウムの供給源)
カルシウムの供給源としては、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム化合物が利用できる。カルシウムの化合物であれば、上記以外の物質でもカルシウムの供給源として利用できる。これらカルシウム化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。カルシウム濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。カルシウム濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。カルシウム濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0029】
(コバルトの供給源)
コバルトの供給源としては、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、炭酸コバルト等のコバルト化合物が利用できる。これらコバルト化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。コバルトの化合物であれば、上記以外の物質でもコバルトの供給源として利用できる。コバルト濃度は、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。コバルト濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。コバルト濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0030】
(ニッケルの供給源)
ニッケルの供給源としては、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、スルファミン酸ニッケル等のニッケル化合物が利用できる。ニッケルの化合物であれば、上記以外の物質でもニッケルの供給源として利用できる。これらニッケル化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。ニッケル濃度は、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。ニッケル濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。ニッケル濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0031】
(バナジウムの供給源)
バナジウムの供給源としては、硝酸バナジウム、硫酸バナジウム、塩化バナジウム、バナジン酸、メタバナジン酸カリウム、メタバナジン酸アンモニウム等のバナジウム化合物が利用できる。バナジウムの化合物であれば、上記以外の物質でもバナジウムの供給源として利用できる。これらバナジウム化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。バナジウム濃度は、0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。バナジウム濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。バナジウム濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0032】
(タングステンの供給源)
タングステンの供給源としては、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸マグネシウム等のタングステン化合物が利用できる。タングステンの化合物であれば、上記以外の物質でもタングステンの供給源として利用できる。これらタングステン化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。タングステン濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜20g/Lであるのがより好ましい。タングステン濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。タングステン濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0033】
(硫酸の供給源)
硫酸の供給源としては、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ジルコニウム等の硫酸塩が利用できる。硫酸塩であれば、上記以外の物質でも硫酸塩の供給源として利用できる。これら硫酸塩は一種または二種以上を供給源として使用することができる。硫酸濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。硫酸濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。硫酸濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0034】
(塩素の供給源)
塩素の供給源としては、塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化ジルコニウム等の塩素化合物が利用できる。塩素化合物であれば、上記以外の物質でも塩素化合物の供給源として利用できる。これら塩素化合物は一種または二種以上を供給源として使用することができる。塩素濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。塩素濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。塩素濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0035】
(リンの酸素酸の供給源)
リンの酸素酸の供給源としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、テトラポリリン酸、トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等のリンの酸素酸が利用できる。リンの酸素酸であれば、上記以外の物質でもリンの酸素酸の供給源として利用できる。これらリンの酸素酸は一種または二種以上を供給源として使用することができる。リンの酸素酸濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。リンの酸素酸濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。リンの酸素酸濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、廃水処理性低下するため好ましくない。
【0036】
(アンモニウムの供給源)
アンモニウムの供給源としては、アンモニア水、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、フッ化アンモニウム、酸性化フッ化アンモニウム、ジルコンフッ化アンモニウム、等のアンモニウム化合物が利用できる。アンモニウム化合物であれば、上記以外の物質でもアンモニウムの供給源として利用できる。これらアンモニウムは一種または二種以上を供給源として使用することができる。アンモニウム濃度として0.001〜50g/Lが好ましく、0.01〜30g/Lであるのがより好ましい。アンモニウム濃度が上記範囲内で良好な化成皮膜が形成でき、安定な外観、耐食性、塗装密着性が得られる。アンモニウム濃度が0.001g/Lより低下すると耐食性の向上効果が得られにくく、50g/Lを超えるとコストメリットの低下と共に、沈殿が発生しやすくなり好ましくない。
【0037】
皮膜形成に用いる処理液のpHは、pH0.5〜6.0の範囲が好ましく、より好ましくは1.5〜5.5である。pHが0.5より低い場合は被処理金属の表面が粗面化しやすく、6.0より高い場合は皮膜化成速度が低下するとともに処理液に沈殿が生じやすくなるため好ましくない。なお、処理液のpH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸の無機酸や、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア水のアルカリを用いることができる。
【0038】
(保護皮膜形成方法)
本発明の保護皮膜の形成は、被処理金属を上記処理剤に浸漬させることにより行う。更に保護皮膜形成後に必要に応じて水洗と乾燥等の処理を行ってもよい。また、塗布や吹き付け工程による皮膜形成も可能である。保護膜形成の前に、被処理金属の表面に、必要に応じて脱脂、活性化又は表面調整のための前処理を行ってもよい。処理液での処理温度は10〜60℃の範囲が好ましく、より好ましくは20〜50℃である。処理温度が10℃より低い場合は化成皮膜の反応速度が低下し、60℃より高い場合は蒸発による処理液面の低下が生じるため好ましくない。処理液での処理時間は5〜600秒の範囲が好ましく、より好ましくは10〜180秒である。処理時間が5秒より短い場合は皮膜化成が不十分となり、600秒より長い場合は表面が白くボケるといった外観不良が発生しやすくなるため好ましくない。
【0039】
保護皮膜形成処理を行う際、あらかじめ被処理金属の脱脂、活性化、表面調整を行うことで、本発明の処理外観、耐食性及び塗装密着性を向上させることが可能である。脱脂に関しては被処理金属により適した工程があるが、亜鉛めっきや亜鉛合金めっきに関してはめっき後に硝酸活性を行い、その後、保護皮膜形成処理を行うことが適している。亜鉛ダイキャストやアルミニウム、アルミニウム合金に関しては脱脂や必要に応じて活性処理を行い、その後に保護皮膜形成処理を行うことが適している。マグネシウムやマグネシウム合金に関しては、脱脂、活性化又は表面調整の後に保護皮膜形成処理を行うことが適している。これらの前処理に関しては、各被処理金属に応じて適宜行うことで本発明に係る保護皮膜形成処理の性能を引き出すことが可能である。
【0040】
保護皮膜形成処理を実施後に、ケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの一種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行っても良い。これらコーティング剤に特に限定はなくアクリル樹脂、オレフィン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート等の樹脂類やケイ酸塩、コロイダルシリカ等を成分とするコーティング剤を用いても良い。これらの樹脂濃度は、0.01〜800g/Lが好ましいが、適切な濃度は樹脂の種類により異なる。コーティング剤としては、具体的には、コスマーコート(商品名、関西ペイント(株))、ハイシール272(商品名、日本表面化学(株))、ストロンJコート(商品名、日本表面化学(株))、トライナーTR−170(商品名、日本表面化学(株))、フィニガード(商品名、Coventya社)等が挙げられる。アクリル樹脂としては、具体的には、ヒロタイト(商品名、日立化成(株))、アロセット((株)日本触媒)等があり、オレフィン樹脂については、フローセン(商品名、住友精化(株))、PES(商品名、日本ユニカー(株))、ケミパール(商品名、三井化学(株))、サンファイン(商品名、旭化成(株))等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0042】
試験片として、鋼板に電気亜鉛めっき、鋼板に電気亜鉛鉄合金めっき(鉄共析率0.3w%)、亜鉛ダイキャストZDC2、アルミニウム板A1100、アルミニウムダイキャストADC12、アルミニウム鋳物AC4C、アルミニウム合金板A6063、マグネシウム展伸材AZ31、マグネシウム展伸材AZ91、マグネシウムダイキャストAZ91D、マグネシウム展伸材LZ91といった各種の標準被処理金属試験片を用いた。亜鉛めっきと亜鉛鉄合金めっきとは、めっき後に水洗、硝酸活性(67.5%硝酸5mL/L、室温5秒)、水洗を行い、各実施例条件で処理、水洗後に乾燥した。亜鉛ダイキャスト、アルミニウム板、アルミニウム鋳物、アルミニウム合金板、アルミニウムダイキャストにつては、脱脂(日本表面化学(株)製ケイクリン6を30mL/L、50℃、5分)、水洗、各実施例条件で処理、水洗、乾燥の工程で処理した。マグネシウム展伸材、マグネシウムダイキャストについては脱脂(日本表面化学(株)製S−0717を30g/L、55℃、5分)、水洗、活性化(日本表面化学(株)製ME−410を50mL/L、45℃、2分)、水洗、表面調整(日本表面化学(株)製MD−420を100mL/L、55℃、2分)、水洗の工程後、各実施例条件で処理、水洗、乾燥、の工程で処理した。各処理液のpH調整は硝酸とアンモニア水を使用した。
また実施例121〜129に関しては、各素材に適した上記前処理工程後、実施例121〜129に記載の処理条件で保護皮膜形成処理、水洗、その後各コーティング処理を行い、乾燥した。コーティング処理にはハイシール272(日本表面化学(株)製、ポリアクリル樹脂型コーティング剤)とストロンJコート(日本表面化学(株)製、水分散型シリカ型コーティング剤)、ケミパールW410(三井化学(株)製、オレフィン樹脂)を使用した。耐食性の評価はJIS Z 2731に従う塩水噴霧試験を行った。塗装密着性試験は、試験片表面にエポキシ系塗料を塗布し、焼き付け乾燥した後碁盤目状にクロスカットを入れ、沸騰水に30分浸漬後、セロハンテープを圧着させ、これを垂直方向に剥離し評価した。
試験条件及び評価結果を表1〜12に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
【表7】

【0050】
【表8】

【0051】
【表9】

【0052】
【表10】

【0053】
【表11】

【0054】
【表12】

【0055】
上記碁盤目試験評価は、以下の基準による。
A:はく離無し
B:はく離5%未満
C:はく離10%未満
D:はく離50%未満
E:はく離50%以上
上記塩水噴霧試験評価は、以下の基準による。
A:白錆発生無し
B:白錆発生5%未満
C:白錆発生10%未満
D:白錆発生50%未満
E:白錆発生50%以上
また、素材が亜鉛・亜鉛合金である実施例1〜40、実施例121〜123、比較例1〜8に関しては、塩水噴霧試験72時間後に評価を行った。素材がアルミニウム・アルミニウム合金である実施例41〜80、実施例124〜126、比較例9〜16に関しては、塩水噴霧48時間後に評価を行った。素材がマグネシウム・マグネシウム合金である実施例81〜120、実施例127〜129、比較例17〜24に関しては、塩水噴霧試験24時間後に評価を行った。
【0056】
(評価)
実施例の結果から、(A)ジルコニウム、(B)硝酸イオン、(C)芳香族スルホン酸、及び、(D)フッ素イオンを含有する液体組成物により保護皮膜を形成することにより、優れた外観・耐食性・塗装密着性が得られることが確認された。更に(E)珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸、アンモニウムからなる群のうちの1種以上を液体組成物に添加することで耐食性がより良好となることが確認された。一方、比較例の結果からは、上記成分(A)〜(D)のうちどれか一つが不足しても優れた外観・耐食性・塗装密着性が得られないことが確認された。また、上記成分(A)〜(D)のうちどれか一つが不足している液体組成物に上記成分(E)を添加しても、実施例に匹敵する外観・耐食性・塗装密着性を得るには至らないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジルコニウム、
(B)硝酸イオン、
(C)芳香族スルホン酸、及び、
(D)フッ素イオン
を含有する液体組成物によりクロムフリー保護皮膜を形成する金属の保護皮膜形成方法。
【請求項2】
前記液体組成物が、更に(E)珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸及びアンモニウムからなる群のうちの1種以上を含む請求項1に記載の保護皮膜形成方法。
【請求項3】
被処理金属が亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、ニッケル、クロム、鉄、錫及びこれらの合金からなる群のうちの1種以上である請求項1又は2に記載の保護皮膜形成方法。
【請求項4】
前記保護皮膜の形成後に、更にケイ素、樹脂及びワックスからなる群のうちの一種以上を含有するコーティング剤にて後処理を行う請求項1〜3のいずれかに記載の保護皮膜形成方法。
【請求項5】
前記保護皮膜の形成前に、被処理金属に、脱脂、活性化又は表面調整のための前処理を行う請求項1〜4のいずれかに記載の保護皮膜形成方法。
【請求項6】
(A)ジルコニウム、
(B)硝酸イオン、
(C)芳香族スルホン酸、及び、
(D)フッ素イオン
を含有する金属のクロムフリー保護皮膜形成処理剤。
【請求項7】
更に(E)珪酸化合物、芳香族スルホン酸以外の有機酸、アミン、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ニッケル、バナジウム、タングステン、硫酸、塩素、リンの酸素酸及びアンモニウムからなる群のうちの1種以上を含む請求項6に記載の保護皮膜形成処理剤。

【公開番号】特開2012−188679(P2012−188679A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50545(P2011−50545)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】