説明

クロム薄膜被覆用塗料組成物

【課題】種々の条件下におけるクロム薄膜への付着性が良好で、かつ、充分な耐傷付き性を備えた被覆塗膜を形成できる塗料組成物の提供。
【解決手段】基材上に設けられるクロム薄膜を被覆する被覆用塗料組成物であって、リン酸基と、該リン酸基に含まれる水酸基以外の水酸基とを有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート(B)と、金属キレート(C)と、を含むことを特徴とするクロム薄膜被覆用塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム薄膜の被覆に使用されるクロム薄膜被覆用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、自動車、自動二輪車などには、蒸着、スパッタリング、湿式法メッキなどで形成された金属薄膜を備えた光輝性部品が使用されている。
金属薄膜の形成には、例えば鉄、アルミニウム、クロムなどが使用されるが、なかでも特許文献1などに記載されているクロム薄膜は、独特の風合いを備え、鉄、アルミニウムなどに比べて硬度、耐候性などの特性が良好であるため、広く採用されるようになってきている。クロム薄膜は、このように硬度、耐候性などの特性が良好であるため、その上に保護用の被覆塗膜を設けることは、従来は一般的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−63472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、金属薄膜には、より高い耐久性能が求められ、そのため、耐候性試験において生じる表面の曇りなどが問題になってきている。そこで、クロム薄膜上にも、被覆塗膜を設けることが検討されてきている。ところが、クロム薄膜は他の金属薄膜に比べて被覆塗膜の付着性が悪い。そのため、クロム薄膜に対しての付着性が良好で、また、充分な耐傷付き性をも備えた被覆塗膜を形成できる塗料組成物は未だ見出されていなかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、種々の条件下におけるクロム薄膜への付着性が良好で、かつ、充分な耐傷付き性を備えた被覆塗膜を形成できる塗料組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のクロム薄膜被覆用塗料組成物は、基材上に設けられるクロム薄膜を被覆する被覆用塗料組成物であって、リン酸基と、該リン酸基に含まれる水酸基以外の水酸基とを有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート(B)と、金属キレート(C)と、を含むことを特徴とする。
前記アクリル系共重合体(A)は、リン酸基を有する単量体(a)と、水酸基を有し、リン酸基を有しない単量体(b)とを少なくとも含む単量体組成物が重合した共重合体であり、前記単量体組成物中の前記単量体(a)の割合が、0.2〜20質量%であることが好ましい。
前記単量体(b)に由来する前記アクリル系共重合体(A)の水酸基価は、10〜200mgKOH/gであることが好ましい。
前記金属キレート(C)は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部配合されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗料組成物によれば、種々の条件下におけるクロム薄膜に対しての付着性が良好で、かつ、充分な耐傷付き性を備えた被覆塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のクロム薄膜被覆用塗料組成物(以下、単に塗料組成物という場合もある。)は、基材上に設けられたクロム薄膜の上に被覆塗膜を形成するための塗料組成物である。該塗料組成物は、アクリル系共重合体(A)と、イソシアネート(B)と、金属キレート(C)とを含有する。
【0009】
(アクリル系共重合体(A))
アクリル系共重合体(A)は、リン酸基と、該リン酸基に含まれる水酸基とは別に水酸基を有する。リン酸基を有するアクリル系共重合体(A)を用いることによって、種々の条件下における付着性に優れる被覆塗膜を形成することができる。ここで種々の条件下における付着性とは、初期付着性、耐洗浄付着性(被覆塗膜に高圧水を所定時間当てた後の塗膜の付着性。)、耐候付着性(耐候試験後の塗膜の付着性。)などである。また、アクリル系共重合体(A)が、リン酸基に含まれる水酸基とは別の水酸基を有することにより、この水酸基がイソシアネート(B)と反応して良好に塗膜化する。
このようなアクリル系共重合体(A)は、リン酸基を有する単量体(a)と、水酸基を有し、リン酸基を有しない単量体(b)と、必要に応じて使用される単量体(c)とを含む単量体組成物の重合により製造される。
【0010】
リン酸基を有する単量体(a)としては、例えば、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジフェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、フェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、アシッド・ホスホオキシエチルメタクリレート、メタクリロイル・オキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピルメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコールメタクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアシッドホスフェート、アリルアルコールアシッドホスフェートなどが挙げられ、1種以上を使用できる。
代表的な製品としては、ホスマーPE(ユニケミカル社製;アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート)、ライトエステルP−1M(共栄社化学株式会社製、2−メタクリルロイロキシエチルアシッドホスフェート)が挙げられる。
【0011】
水酸基を有し、リン酸基を有しない単量体(b)としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、1種以上を使用できる。
【0012】
必要に応じて使用されるその他の単量体(c)としては、反応性が優れ入手しやすいことから、アクリル系の単量体が好ましく、なかでも、芳香族環を持たない単量体を用いると、形成される被覆塗膜の耐候性が優れるため好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、n−(メタ)アクリル酸ブチル、t−(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、ビニルシクロヘキサンなどが挙げられ、1種以上を使用できる。
【0013】
上述の単量体(a)〜(c)を含む単量体組成物中、リン酸基を有する単量体(a)の割合は、0.2〜20質量%であることが好ましく、1.0〜10質量%の範囲がより好ましく、2.0〜3.0質量%の範囲がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、リン酸基による被覆塗膜の種々の条件下における付着性が優れる。一方、上記範囲の上限値以下であると、親水性が過度に高くならないため、例えば40℃程度の温水に所定時間浸漬しても、被覆塗膜に白化が認められにくいという特性、すなわち、耐温水性に優れる。
【0014】
上述の単量体(a)〜(c)を含む単量体組成物中、水酸基を有し、リン酸基を有しない単量体(b)の割合は、この単量体(b)に由来するアクリル系共重合体(A)の水酸基価が10〜200mgKOH/gとなるように決定することが好ましい。より好ましい水酸基価は30〜120mgKOH/gであり、さらに好ましくは50〜80mgKOH/gである。上記範囲の下限値以上であると、被覆塗膜の耐傷付き性が優れ、一方、上記範囲の上限値以下であると、被覆塗膜の架橋による収縮が強くなり過ぎず、耐洗浄性が優れる。
【0015】
アクリル系共重合体(A)は、上述の単量体組成物と、必要に応じて溶媒や重合開始剤などを混合し、窒素などの不活性ガス雰囲気下、50〜110℃において5〜15時間反応させる方法などで製造できる。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン系溶剤が挙げられる。これら溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2’,4’−ジメチル−4’−メトキシバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、メチルエチルケトンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブタン、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、α−(tert−ブチルパーオキシ)イソプロピルベンゼン、イソブチルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノチルパーオキサイド、ラウロリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシカーボネート、ジ−エトキシイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシカーボネート、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサレート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチル−オキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキシアリルカーボネート、イソアミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、tert−ブチルパーオキシアゼレートなどが挙げられる。
【0016】
アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度は、−20〜90℃の範囲にあることが好ましく、より好ましくは1〜50℃、さらに好ましくは30〜40℃である。ガラス転移温度が上記範囲の下限値以上であると、被覆塗膜の耐傷付き性が優れ、一方、上記範囲の上限値以下であると、被覆塗膜の耐衝撃性が優れる。
【0017】
アクリル系共重合体(A)の質量平均分子量は、5000〜200000が好ましく、10000〜150000がより好ましく、50000〜90000がさらに好ましい。質量平均分子量が上記範囲の下限値以上であると、被覆塗膜の耐傷付き性が優れ、一方、上記範囲の上限値以下であると、被覆塗膜の平滑性が優れる。
【0018】
(イソシアネート(B))
イソシアネート(B)は、アクリル系共重合体(A)の有する水酸基と反応する成分である。イソシアネート(B)としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂環族イソシアネートなどが挙げられ、1種以上を使用できる。イソシアネート(B)としては、芳香族環を持たない脂肪族や脂環族の単量体を用いると、耐候性に優れる被覆塗膜が得られ、好ましい。
【0019】
イソシアネート(B)の配合量は、該イソシアネート(B)中のNCO基と、アクリル系共重合体(A)中の水酸基との比率(NCO/OH)が0.3〜3となるように決定することが好ましく、より好ましくは0.7〜2、さらに好ましくは1〜1.5である。比率(NCO/OH)が上記範囲の下限値以上であると、被覆塗膜の耐温水性が優れ、一方、上記範囲の上限値以下であると、被覆塗膜の耐衝撃性が優れる。
【0020】
(金属キレート(C))
金属キレート(C)は、被覆塗膜の耐傷付き性を向上させるための成分である。金属キレート(C)としては、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(商品名:ALCH、川研ファインケミカル株式会社製。)、アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート(商品名:アルミキレートM、川研ファインケミカル株式会社製。)、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート(商品名:アルミキレートD、川研ファインケミカル株式会社製。)、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート(商品名:プレンアクトAL−M、味の素株式会社製。)などのアルミニウムキレートが挙げられ、1種以上を使用できる。
また、アルミニウムキレート以外の金属キレート(C)として、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)(商品名:オルガチックスTC100、マツモトファインケミカル株式会社製。)、チタンテトラアセチルアセトネート(商品名:オルガチックスTC401、マツモトファインケミカル株式会社製。)、チタニウムジ−2−エチルヘキソキシビス(2−エチルー3−ヒドロキシヘキソキシド)(商品名:オルガチックスTC200、マツモトファインケミカル株式会社製。)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)(商品名:オルガチックスTC750、マツモトファインケミカル株式会社製。)、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン(商品名:T−50、日本曹達株式会社製。)、プロパンジオキシチタンビス(エチルアセトアセテート)(商品名:T−60、日本曹達株式会社製。)等のチタネート系キレートが挙げられ、1種以上を使用できる。
【0021】
金属キレート(C)の配合量は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましく、1〜2質量部がさらに好ましい。金属キレート(C)の配合量が上記範囲の下限値以上であると、被覆塗膜の耐傷付き性が優れ、一方、上記範囲の上限値以下であると、塗料組成物の貯蔵安定性が優れ、可使時間が充分に長くなる。
【0022】
塗料組成物には、上述したアクリル系共重合体(A)、イソシアネート(B)、金属キレート(C)の他に、溶剤、表面調整剤、チクソトロピック剤、紫外線吸収剤、光安定剤などが含まれてよい。アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、紫外線吸収剤を2〜8質量部、光安定剤を1〜4質量部配合すると、より耐候性の優れる被覆塗膜を形成でき、好ましい。
【0023】
溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノールなどのアルコール系溶剤が挙げられ、1種以上を使用できる。
【0024】
塗料組成物は、各成分を混合することにより調製できる。調製された塗料組成物を基材上に設けられたクロム薄膜上に塗装することにより、被覆塗膜を形成できる。
クロム薄膜としては、蒸着、スパッタリング、湿式メッキ法などで形成された例えば厚さ5〜150nmの薄膜が挙げられる。
基材としては、住宅などの建物に用いられる建材、自動車や自動二輪車の部品などの各種成形品が挙げられ、成形品を構成する材質としては、アルミニウム、鉄、ステンレス、亜鉛、銅、ブリキなどの金属、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、PC(ポリカーボネート)、PC/ABS(ポリカーボネートとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体とのアロイ)、ポリアミド、PP(ポリプロピレン)、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリル酸メチル共重合体)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂が挙げられる。また、基材とクロム薄膜との間には、公知のベースコート塗料によるベースコートなど他の層が形成されていてもよい。また、被覆塗膜の上に、さらに他の層が形成されてもよい。
【0025】
塗料組成物の塗装方法としては、例えばスプレー塗装法、刷毛塗り法、ローラ塗装法、カーテンコート法、フローコート法、浸漬塗り法などが挙げられ、塗装後、70〜90℃で加熱乾燥させることにより、被覆塗膜を形成できる。被覆塗膜の乾燥後の厚さとしては、5〜60μmが好ましい。
【0026】
以上説明した塗料組成物は、リン酸基と、該リン酸基に含まれる水酸基以外の水酸基とを有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート(B)と、金属キレート(C)とを含むため、種々の条件下におけるクロム薄膜に対しての付着性が良好で、かつ、充分な耐傷付き性を備えた被覆塗膜を形成できる。また、この被覆塗膜は、レベリング性、耐衝撃性、耐温水性、耐候性(外観)にも優れる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[アクリル系共重合体(A−1)〜(A−13)の製造]
表1に示す配合部数(質量部)の各単量体およびAIBNと、トルエン100質量部とを三口の反応容器に入れた。ついで、この反応容器内の空気を窒素ガスで置換し、窒素雰囲気中、撹拌下で、反応容器内の反応溶液を75℃まで昇温し、反応させた。反応時間は表1に示すとおりとした。反応後、反応容器内の液を酢酸エチルで希釈し、固形分30質量%に調整し、表1に示すアクリル系共重合体(A−1)〜(A−13)をそれぞれ調製した。
得られた各アクリル系重合体のガラス転移点(Tg)、水酸基価、質量平均分子量を表1に示す。これらの測定方法は以下の通りである。
【0028】
(1)ガラス転移温度:JIS K7121に準拠して、示差走査熱量計(島津製作所社製「DSC−60A」)を用いて測定した。
(2)水酸基価:JIS K1557に準拠して測定した。
(3)質量平均分子量:ゲルパーミエーションクロマトグラフ法により測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1中の略号は下記化合物を示す。
MMA:メチルメタクリレート
n−BMA:n−ブチルメタクリレート
HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
ライトエステルP−1M:共栄社化学社製、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
【0031】
[例1〜21]
各成分を表2および3に示す配合部数(質量部)で混合して、塗料組成物を調製した。表中、アクリル系共重合体(A)の配合部数は固形分換算である。
そして、調製した塗料組成物を硬質クロムメッキの施された鋼鈑上に、乾燥膜厚20μmとなるようにスプレー塗装し、80℃×30分間乾燥することにより、塗膜(被覆塗膜)を形成し、これを試験片とした。
このようにして得られた試験片について、表2および3に示すように、種々の条件下での付着性(初期付着性、耐洗浄付着性、耐候付着性)、耐傷付き性、レべリング性、耐衝撃性、耐温水性、耐候性(外観)を評価した。結果を表2および3に示す。
なお、例1〜18が実施例であり、例19〜21が比較例である。
【0032】
<評価>
(1)初期付着性
試験片に1mm幅で10×10の碁盤目状にカッターで切れ目を入れ、碁盤目状の部分にテープ(ニチバン(株)製、セロハンテープ)を貼着し、剥がす操作を実施し、クロムメッキと被覆塗膜との間の初期付着性について、下記の基準により評価した。
◎:剥離が全く認められない。
○:碁盤目の線に沿った部分や、マスの角の部分にわずかな剥離が認められるが、実用上問題はない。
△:1マスのうち半分以上が剥離したマスはなく、実用上問題はない。
×:1マス以上の剥離が認められた。
【0033】
(2)耐傷付き性
カナキン3号綿布にて荷重500g/cmで5往復後の表面状態を目視にて観察した。
◎:全く傷が認められない。
○:筋傷が認められるが3本未満であり、実用上問題ない。
△:筋傷が3本以上認められるが、実用上問題ない。
×:目立つ傷が多く認められた。
【0034】
(3)レベリング性(平滑性)
試験片の表面状態を目視にて観察した。
◎:表面が平滑である。
○:表面に細かいわずかなゆず肌が認められるが、実用上問題ない。
△:表面にゆず肌が認められるが、実用上問題ない。
【0035】
(4)耐衝撃性
デュポン式試験機にて、撃針1/2インチ、500g、高さ50cmの条件で試験を行った。
◎:表面に目立った傷が認められない。
○:表面の撃針が当たった部分にわずかなしわが認められるが実用上問題ない。
△:表面の撃針が当たった部分にしわが認められるが剥離は認められず、実用上問題ない。
【0036】
(5)耐温水性
40℃の温水中に試験片を240時間浸漬した後、試験片の状態を試験終了直後と24時間後に目視にて評価した。
◎:試験前と変化なし。
○:部分的に薄い白化を認めるが24時間後には消失し実用上問題ない。
△:全体的に薄い白化を認めるが24時間後には消失し実用上問題ない。
【0037】
(6)耐洗浄付着性
試験片にカッターナイフにてX型の切込みを入れた後、その部分に8MPaの水を30秒間当てた後、塗膜の状態を評価した。
◎:試験前と変化なし。
○:切込み部分に沿って筋状の剥離をわずかに認めるが、実用上問題なし。
△:切込み部分に沿って筋状の剥離を認めるが、剥がれた部分の先端から基端までの剥がれ長さは1mm以下と極わずかであり、実用上問題なし。
×:切込み部分から剥離を認める。
【0038】
(7)耐候性(外観)、耐候付着性
試験片を促進耐候性試験機(スガ試験機株式会社製、「サンシャインウェザオメーターWL−SUN−DC−B型」)にセットし、温度63℃、人口太陽光線の照射時間2000時間、該2000時間中の水噴射時間400時間として、試験片の劣化促進試験を実施した。そして、試験終了後の試験片において、耐候性(外観)と、上記(1)と同じ方法によるクロムメッキと被覆塗膜との間の付着性(耐候付着性)とを評価した。耐候付着性の評価基準は上記(1)と同じである。耐候性(外観)については、表中の「◎」は、表面状態に問題がないことを示す。
【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
表2、3中の略号は下記化合物を示す。
デュラネート24A−100:旭化成ケミカルズ(株)、ヘキサメチレンジイソシアネート NCO含有量=23.5%
スミジュールN3300:住化バイエルウレタン(株)、ヘキサメチレンジイソシアネート NCO含有量=21.8%
ALCH:川研ファインケミカル(株)、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート
プレンアクトAL−M:アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート
BYK―330:ビックケミー(株)、表面調整剤
チヌビン328:BASFジャパン(株)、紫外線吸収剤
チヌビン292:BASFジャパン(株)、光安定剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設けられるクロム薄膜を被覆する被覆用塗料組成物であって、
リン酸基と、該リン酸基に含まれる水酸基以外の水酸基とを有するアクリル系共重合体(A)と、
イソシアネート(B)と、
金属キレート(C)と、
を含むことを特徴とするクロム薄膜被覆用塗料組成物。
【請求項2】
前記アクリル系共重合体(A)は、リン酸基を有する単量体(a)と、水酸基を有し、リン酸基を有しない単量体(b)とを少なくとも含む単量体組成物が重合した共重合体であり、前記単量体組成物中の前記単量体(a)の割合が、0.2〜20質量%であることを特徴とする請求項1に記載のクロム薄膜被覆用塗料組成物。
【請求項3】
前記単量体(b)に由来する前記アクリル系共重合体(A)の水酸基価が10〜200mgKOH/gであることを特徴とする請求項2に記載のクロム薄膜被覆用塗料組成物。
【請求項4】
前記金属キレート(C)は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部配合されたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のクロム薄膜被覆用塗料組成物。



【公開番号】特開2013−40292(P2013−40292A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178860(P2011−178860)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】