説明

クロム電解質用の新規添加剤

本発明は,表面張力を低下させ,したがってクロム析出プロセスを改良する,クロム電解質用のフッ素界面活性剤を含まない長期間安定な添加剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,クロム電解質用の添加剤の分野,特にクロム電解質に添加する界面活性剤の分野,およびポリマー金属化用の添加剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学的クロムめっき法は,典型的にはクロム電解質中で高濃度の攻撃的なクロム酸により行われ,この方法に関しては,攻撃的な噴霧ミストの形成を防止するために,広範な種類の様々な添加剤が提案されている。しかしながら,一方では望ましい特性を有し,他方ではクロムめっき法における攻撃的な条件に耐えられる化合物を見いだすことは,実用上困難であることが知られている。
【0003】
噴霧ミストを低減させるのに特に適しているものは泡沫形成性湿潤剤であり,これは,表面張力を低下させることにより,噴霧喪失を低下させるのみならず,クロム電解質のエントレインメントも非常に低下させる。この目的のため,広範な種類の様々な製品が提案されており,例としては,パーフルオロアルキルスルホン酸(PFOA)が挙げられる。これらの製品はまた,クロム酸の強い酸化特性に対して安定である。しかしながら,これらの使用には問題があり,多くの用途では既に禁止されている。これらのフッ素界面活性剤は,光分解,加水分解,酸化的または還元的変質を何ら受けないため,生物分解性ではない。これらは,好気的にも嫌気的にも生物分解されない。パーフルオロアルキルスルホン酸は,その物理化学的特性のため,最終代謝産物として残留し,それ以上分解されない。
【0004】
DE1034945は,添加剤としてのアルキルメチルスルホネートを提案しており,これは,界面活性剤の特性を有し,同時にクロム層の平滑化に関してプロセスを改良する効果を有すると述べられている。しかしながら,これらの添加剤は,クロムめっき法の過程で非常に短い時間の間に分解するため,実用には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】DE1034945
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって,本発明は,上述の欠点の少ないクロム電解質用の添加剤を見いだすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は,請求項1記載の添加剤により達成される。すなわち,本発明は,添加剤,特にクロム電解質用の平滑添加剤を提供し,この添加剤は,0.1g/lの添加剤および250g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液が,30mN/m以下の表面張力を有し,かつ,270g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液中で,0.1g/lの添加剤が45℃で,および6000Ahの通電(charge passage)で4時間以上の安定性を有することを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において“添加剤”との用語は,個々の物質および物質の混合物のいずれにも関連しうることに留意すべきである。ただし,読みやすさおよび明確性の理由から,本明細書中では“添加剤”は単数として表記する。用いられる添加剤が物質の混合物である場合,それぞれの場合において,物質の混合物は記述される特性をもつが,混合物の個々の成分もまた記述される特性をもつことを意味する。
【0009】
本発明の文脈においては,“安定性”とは,クロム電解質の化学的に厳しい条件下で,表面張力に関して添加剤の効力が持続することを意味する。
【0010】
特に,本発明の文脈においては,所定の期間にわたる“安定性”とは,その期間の間に表面張力が5mN/mより大きく増加しないことを意味する。
【0011】
特に,本発明の文脈においては,“クロム電解質”,および/または“クロム酸作業溶液”とは,触媒および/またはさらに別の酸を含むクロム電解質またはクロム酸溶液を意味すると理解される。
【0012】
驚くべきことに,本発明の最多用途であるクロムめっき法作業用のクロム酸溶液にかかる添加剤を加えたときに,下記の利点の少なくとも1つ,通常は2以上を達成しうることが見いだされた:
− 本発明の添加剤を使用すると,クロム電解質の作業が持続的に改良される。
− 添加剤の使用は,顕著により小さいガスバブルの形成につながり,これは有害物質の放出の劇的な低下を伴う。
− 同様に,エントレインメント喪失を顕著に低下させることができる。
− プロセスによって異なるが,添加剤を用いると多くの用途において電解質の分散性が改良される。
− 添加剤は,硬度,網目状亀裂,構造などの層特性に関しても,層の特性に有害な影響を与えない。
【0013】
0.1g/lの添加剤および250g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液は,好ましくは28mN/m以下の,さらに好ましくは25mN以下の表面張力を有する。
【0014】
0.1g/lの添加剤および400g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液は,好ましくは,35mN/m以下の,さらに好ましくは30mN/m以下の表面張力を有する。
【0015】
45℃で0.1g/lの添加剤および270g/lのクロム酸を含むクロム電解質は,好ましくは,8時間以上の,さらに好ましくは12時間以上の安定性を有する。
【0016】
本発明の好ましい態様においては,添加剤はフッ素界面活性剤を含まない。このことは,特に,添加剤が有機フッ素化合物を全く含まないか,または添加剤中の有機フッ素化合物の割合が検出限界未満であることを意味することが理解される。
【0017】
本発明の好ましい態様においては,添加剤は生物分解性である。このことは,特に,OECD分類にしたがって,8日後のスクリーニング試験において,添加剤の99.5%以上,好ましくは99.8%以上が分解されていることを意味することが理解される。このような添加剤は,多くの用途において,環境汚染を防止するための費用を最小にするか,あるいは完全に不要とすることに寄与する。
【0018】
0.1g/lの添加剤および250g/lのクロム酸を含むクロム電解質は,好ましくは,30A/dm以上60A/dm未満,さらに好ましくは40A/dm以上50A/dm未満の電流密度を有する。
【0019】
0.2g/lの添加剤および350−400g/lのクロム酸を含むクロム電解質は,好ましくは,5A/dm以上25A/dm未満,さらに好ましくは8A/dm以上20A/dm未満の電流密度を有する。
【0020】
本発明の好ましい態様においては,添加剤は,長鎖アルキルモノスルホン酸,長鎖アルキルジスルホン酸,長鎖アルキルポリスルホン酸,長鎖アルキルモノスルホン酸の塩,長鎖アルキルジスルホン酸の塩,長鎖アルキルポリスルホン酸の塩,およびこれらの混合物からなる群より選択される物質を含む。
【0021】
この文脈において,“長鎖”とは,Cおよびそれ以上を意味することが理解される。長鎖アルキルラジカルは,好ましくは分枝していないが,分枝鎖のアルキル−モノ−,−ジ−および−ポリ−スルホン酸およびこれらの塩を使用することも可能である。
【0022】
本発明の好ましい態様において用いられる塩は,アルカリ金属塩,アルカリ土類金属塩,NH塩,NR塩(R=アルキル)およびこれらの混合物である。
【0023】
本発明の好ましい態様においては,添加剤は,少なくとも1つの成分として,化合物CH(CHSOHまたはその塩(nは10以上18以下である)を含む。実用上は,これらの化合物はしばしば特に高い安定性を有しており,この観点において好ましい。
【0024】
より好ましくは,添加剤は,少なくとも1つの成分として,化合物CH(CHSOHまたはその塩(nは12以上17以下である)を含み;さらに好ましくは,添加剤は,少なくとも1つの成分として,化合物CH(CHSOHまたはその塩(nは14以上16以下である)を含む。
【0025】
本発明はまた,本発明の添加剤をクロム電解質における平滑剤として使用することに関する。本発明の好ましい態様においては,添加剤の濃度は,0.05g/l以上20g/l以下であり,より好ましくは0.1g/l以上10g/l以下であり,最も好ましくは1g/l以上3g/l以下である。
【0026】
本発明はまた,本発明の添加剤をポリマー媒染剤における添加剤として使用することに関する。本発明者らは,驚くべきことに,本発明の添加剤は,クロム電解質においてのみならずポリマー金属化の前処理においても用いることができることを見いだした。これらの媒染剤においては,添加剤は湿潤効果を有し,クロム酸含有媒染剤の表面張力を低下させることができる。クロム酸ミスト形成およびエントレインメントに対する有益な効果は,クロム電解質について上述した効果に匹敵する。
【0027】
本発明はまた,少なくとも1つの成分として化合物:
CH(CHSO
[式中,nは10以上18以下であり,より好ましくはnは12以上17以下であり,さらに好ましくはnは14以上16以下である]
またはその塩,またはこれらの混合物を含む添加剤をポリマー媒染剤中の添加剤として使用することに関する。
【0028】
本発明にしたがって用いるべき上述の成分,および特許請求され実施例に記載されている成分は,そのサイズ,三次元構造,材料の選択および技術的設計について特別の条件はなく,使用の技術分野で知られる選択基準を非限定的に用いることができる。
【実施例】
【0029】
本発明の主題のさらなる詳細な説明,特徴および利点は,従属項ならびに下記の本発明の実施例から明らかである。実施例は本発明の添加剤の1つの使用法を詳細に説明するが,これは純粋に例示的なものであり,限定ではない。
【0030】
実施例I:
400g/lのクロム酸,5g/lのリン酸,3g/lの硝酸カリウム,3g/lのアルカリ土類フッ化物(例えば,セリウム,ランタン),および本発明の添加剤として2g/lのペンタデカンスルホン酸ナトリウムを入れた浴中で,温度20−25℃および電流密度20A/dmで,黒クロムコーティングを行った。
【0031】
本発明の添加剤を加えることにより,表面張力を29.8mN/mまで低下させることができた。
【0032】
続く実験においては,析出したクロム層が非常に均一な外観を有することが認められた。特に,電解質の分散性が改良された。いくつかのシートを試験したところ,ハルセルによる対応する試験によれば,いくつかのシートではクロム層の分散性が平均で1.0−1.5cm改良された。
【0033】
材料および方法
表面張力は,K8張力計(Kruess Hamburg)を用いて測定した。ユニットはDuNouyリング法により動作させた。リングによって液体薄層を引き上げる力を測定した。リングと表面が接触しているかぎり液体を持ち上げる。トーションバランスを用いて,白金リングを持ち上げるのに必要な力を測定した。この力はリングが液体から遠くに引かれれば引かれるほど大きくなる。最大の力を適用した点において,液体薄層が壊れた時,力が平衡しており,ここから液体の表面張力を計算することができる。リングの形態は製造元による装置特異的検量線を用いて考慮に入れた。
【0034】
電流密度は,電流計を用いて電流を測定し,既知の表面形状のクロムめっきされるべき部材を基準として測定した。
【0035】
電解質の分散性は,ハルセル中の電解質を用いる試験の後に,シートの評価により判定した。クロム層の分散は,シートをテストランに通した後にシート上の被覆された表面の拡がりを測定することにより判定した。測定は定規を用いて行った。一般に,信頼性のある平均値を得るために,数枚のシートを被覆し,同じ条件で測定した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1g/lの添加剤および250g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液が,30mN/m以下の表面張力を有し,および,270g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液中で,0.1g/lの添加剤が45℃および6000Ahの通電で4時間以上の安定性を有することを特徴とする添加剤,特にクロム電解質用の平滑添加剤。
【請求項2】
添加剤はフッ素界面活性剤を含まない,請求項1記載の添加剤。
【請求項3】
添加剤は生物分解性である,請求項1または2記載の添加剤。
【請求項4】
0.1g/lの添加剤および250g/lのクロム酸を含むクロム酸溶液が,30A/dm以上60A/dm以下の電流密度を有する,請求項1−3のいずれかに記載の添加剤。
【請求項5】
長鎖アルキルモノスルホン酸,長鎖アルキルジスルホン酸,長鎖アルキルポリスルホン酸,長鎖アルキルモノスルホン酸の塩,長鎖アルキルジスルホン酸の塩,長鎖アルキルポリスルホン酸の塩,およびこれらの混合物からなる群より選択される物質を含む,請求項1−4のいずれかに記載の添加剤。
【請求項6】
CH(CHSOH(nは10以上18以下である)またはその塩を含む,請求項1−5のいずれかに記載の添加剤。
【請求項7】
請求項1−6のいずれかに記載の添加剤の,クロム電解質における平滑剤としての使用。
【請求項8】
添加剤の濃度は0.05g/l以上20g/l以下である,請求項7記載の使用。
【請求項9】
請求項1−6のいずれかに記載の添加剤の,ポリマー金属化の前処理用のポリマー媒染剤における添加剤としての使用。




【公表番号】特表2010−502836(P2010−502836A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527138(P2009−527138)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059308
【国際公開番号】WO2008/028932
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(509062974)テーイーべー ケミカルズ アーゲー (1)
【Fターム(参考)】