説明

クロロシランからハイドロジェンシランへの水素化脱塩素のための触媒および該触媒を用いたハイドロジェンシランの製造方法

一般式RnCl4-nSiのクロロシランを、金属酸化物をベースとする担体上の、亜鉛および/または亜鉛を含有する合金の触媒量の触媒(K)の存在下に水素ガスと反応させることにより、一般式RnCl3-nSiHのハイドロジェンシランを製造する方法[上記式中でRは両方の式において、同時に、かつ相互に無関係に水素を表すか、1〜18個の炭素原子を有する置換されているか、もしくは非置換であってよい炭化水素基を表し、かつnは1〜3の値をとることができる]。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の亜鉛をベースとする不均一系触媒の存在下にクロロシランを水素ガスによって接触水素化することによりハイドロジェンシランを製造する方法およびその触媒に関する。
【0002】
本発明による方法はたとえば純粋なケイ素を製造する際に大量に生じるテトラクロロシランをトリクロロシランへと水素化脱塩素するために適切であり、この場合、トリクロロシランはたとえばあらためてケイ素を析出させるために使用することができるか、または本発明による方法によりさらに、その同族体であるジクロロシラン、クロロシランおよびモノシランへと反応させることができる。
【0003】
本発明による方法のもう1つの適用は、たとえばアルキルクロロシランからのハイドロジェンアルキルクロロシランの製造である。ミュラー・ロッコウ(Mueller−Rochow)法として公知のメチルクロロシランの製造方法では、塩化メチルを元素のケイ素と反応させる。この際にシランからなる混合物が得られ、これはクロロシラン、たとえばメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン以外に、特にハイドロジェンシラン、たとえばメチルジクロロシランおよびジメチルクロロシランを含有している。これらのハイドロジェンシランは、たとえばヒドロシリル化反応によって別の有機官能性シランへと変換させることができるために、非常に興味深いものである。ハイドロジェンシランはミュラー・ロッコウ合成において結合生成物として生じるにすぎないため、その入手可能性は極めて限られている。従って、適切かつミュラー・ロッコウ法とは切り離された、クロロシランのハイドロジェンシランへの変換は興味深いものである。
【0004】
クロロシランからハイドロジェンシランを製造するためには、種々の方法が公知である。高純度のテトラクロロシランの水素化脱塩素は通常、従来技術によれば極めて高い温度での熱による変換によって行われる。
【0005】
たとえばUS3933985は、テトラクロロシランと水素とからの、900℃〜1200℃の範囲の温度およびH2:SiCl4のモル比1:1〜3:1でのトリクロロシランへの反応を記載している。12〜13%の収率が記載されている。特許US4217334には、水素を用いて900℃〜1200℃の温度範囲でテトラクロロシランを水素化することにより、テトラクロロシランからトリクロロシランへと変換するために最適化された方法が報告されている。H2:SiCl4の高いモル比(50:1まで)および高温の生成物ガスの300℃未満への流体によるクエンチングによって、明らかに高いトリクロロシラン収率が達成される(H2:テトラクロロシラン5:1で、約35%)。この方法の欠点は、反応ガス中の明らかに高い水素割合ならびに流体により適用されるクエンチングであり、これらの両者によって方法のエネルギー消費量ひいてはコストが著しく高くなる。
【0006】
これらの純粋に熱的な方法以外に、さらに、文献から公知の金属水素化物錯体、たとえば水素化アルミニウムナトリウムもしくはリチウムを用いた反応および特に貴金属ではない金属との化学量論的な反応が公知である。
【0007】
たとえばUS5329038には、銅、亜鉛またはスズの群からの触媒の存在下で、水素源および塩化物捕捉剤としてのアルミニウムとの反応によりクロロシランからハイドロジェンシランが得られる方法が記載されており、この場合、アルミニウムを化学量論的な量で使用しなくてはならず、かつ相応する塩化アルミニウムが結合生成物として生じる。
【0008】
US2406605は、似たような方法を記載しており、この場合、化学量論的な量のアルミニウム、マグネシウムまたは亜鉛との反応は、触媒を用いずに行われるが、しかし同様に相応する塩化物が等モル量で生じる。
【0009】
EP0412342は、微分散アルミニウムを塩化アルミニウムおよび塩化ナトリウムからなる塩溶融液中で水素と反応させて水素化物とし、これを、周期律表の第2〜第4族のハロゲン置換された化合物の反応のために消費しながら相応する水素化化合物へと反応させるために利用する。
【0010】
EP0714900には、クロロシランを水素と共に、担体材料上のルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金の群からの金属からなる不均一系触媒を用いて、相応する水素化誘導体へと反応させる方法が記載されている。
【0011】
これらの公知の方法全てに共通していることは、極めて高い温度で作業をするか、または化学量論的な量の塩化物捕捉剤の使用、もしくは生じる結合生成物および副生成物、または方法技術的に問題のある金属溶融物および塩溶融物の使用によって、方法が非経済的であるか、あるいは特に化学量論的な反応では、著量の副生成物が形成されることである。
【0012】
従って、従来技術を改善し、特に経済的で普遍的に適用可能な方法であって、工業的に取り扱うことが可能な温度範囲で分子水素を用いて、クロロシランを不均一系触媒により水素化脱塩素することができる方法を開発するという課題が存在していた。
【0013】
意外なことに、高温で、金属酸化物からなる担体中の触媒量の元素の亜鉛の存在下で、任意のクロロシランと水素ガスとを反応させると、ハイドロジェンシランが得られることが判明した。
【0014】
従って本発明の対象は、一般式
nCl4-nSi
のクロロシランを、有利には高融点の金属酸化物をベースとする担体上に、有利には分散された、触媒量(K)の亜鉛および/または亜鉛を含有する合金の存在下に水素ガスと反応させることにより、一般式
nCl3-nSiH
のハイドロジェンシランを製造する方法[上記式中でRは、両方の式において同時に、かつ相互に無関係に水素原子を表すか、1〜18個の炭素原子を有する、置換されているか、もしくは非置換であってよい炭化水素基、好ましくは有利に1〜18個の炭素原子を有する、好ましくは1〜12個の炭素原子を有する、さらに有利には1〜8個の炭素原子を有する、置換もしくは非置換のアルキル基またはアリール基を表し、特に有利にはメチル基、フェニル基またはエチル基を表し、かつnは1〜3の値をとることができる]である。
【0015】
本発明による方法では、有利には1種のクロロシランまたは複数種のクロロシランの混合物を使用することができる。
【0016】
有利には本発明による方法では、ミュラー・ロッコウ法で生じる生成物であるテトラクロロシラン、メチルトリクロロシランおよびジメチルジクロロシランを使用する。
【0017】
本発明による方法は、気相中、使用されるクロロシランおよび水素の混合物の露点より高い温度で実施され、亜鉛の融点より高い温度での実施が有利であり、有利には本発明による方法は、300℃〜800℃、有利には300℃〜600℃、特に有利には450℃〜600℃の温度で実施される。
【0018】
亜鉛を含有する合金は有利には、亜鉛、真鍮、および/またはブロンズである。
【0019】
触媒の亜鉛は、全固体触媒(K)に対して、元素の亜鉛を有利には0.1〜99.9質量%の量で、好ましくは1〜50質量%の量で、特に有利には5〜30質量%の量で含有している。触媒である亜鉛と担体とは、有利には触媒である亜鉛が多孔質の担体中で、担体の内部表面上に存在しているという意味で、担体中に存在しているものが使用される。担体、有利にはマトリックスとして、つまり有利には骨格として有利には1もしくは複数の、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、に酸化ジルコニウム、またはこれらの混合酸化物の群からの、好ましくは高融点の金属酸化物、たとえば有利にはアルミノケイ酸塩、好ましくはゼオライト、およびこれらの任意の混合物が考えられ、その際、二酸化ケイ素が有利であり、かつ熱分解法二酸化ケイ素が特に有利である。不均一系の固体は、さらに有利には少量の1もしくは複数の、銅、スズおよびケイ素の群からの助触媒、またはこれらの物質を任意の混合物として含有していてもよく、その際、これらは元素の亜鉛の量に対して、有利には0.01〜1、特に有利には0.25〜1の比率で含有されており、その際、銅が有利であり、かつ亜鉛は亜鉛の質量の半分まで置換することができる、つまり亜鉛対助触媒、有利には銅は1:1の比率で存在する。担体は有利には多孔質である。
【0020】
本発明による触媒を用いた、クロロシランと水素とを含有する気体混合物の反応は通常、気体に対する触媒の負荷率(GHSV=gas hourly space velocity)を毎時100〜10000、有利には250〜2500、特に有利には500〜1000として行われ、その際、気体混合物中の反応すべきクロロシランの割合は、1〜90体積%、有利には5〜50体積%、および特に有利には20〜40体積%である。
【0021】
本発明による方法において生じるハイドロジェンシランは、その低い沸点に基づいて、有利には蒸留により未反応のクロロシランから分離することができる。有利には未反応のクロロシランを返送し、かつ改めて反応のために使用する。
【0022】
本発明による方法は、回分式に、または連続的に実施することができる。
【0023】
本発明のもう1つの対象は、触媒Kであり、この触媒Kは、有利には高融点の金属酸化物をベースとする担体上に有利に分散された亜鉛または亜鉛含有合金を含有している。
【0024】
触媒Kは、有利には多孔質であり、有利には二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムの群からの1もしくは複数の金属酸化物、またはこれらの混合物、有利にはアルミノケイ酸塩、好ましくはゼオライトおよびこれらの任意の混合物(この場合、二酸化ケイ素が有利であり、かつ熱分解法二酸化ケイ素が特に有利である)を蒸留水中に分散させ、金属の亜鉛ならびに場合により銅、スズ、およびケイ素の群からの1もしくは複数の、またはこれらの任意の混合物の群からの助触媒を前記材料に添加することによって製造される。この材料は押し出され、かつ有利には長さ4mm〜20mm、好ましくは4mm〜10mm、有利に直径1mm〜6mm、好ましくは3mm〜6mmの円柱体へと乾燥させる。さらに前記材料は、任意の形状へのプレス成形が可能であり、たとえば有利にはペレット、リングまたはタブレット、および有利には1もしくは複数の開口部を有していてもよい。金属触媒である亜鉛は、固体触媒(K)、つまり触媒と担体とに対して、0.1〜99.9質量%の量で、有利には1〜50質量%の量で、特に有利には5〜30質量%の量で添加され、場合により有利に銅、スズおよびケイ素の群からの助触媒は、元素の亜鉛の量に対して、有利には0.01〜1質量%、特に有利には0.25〜1質量%の量で添加される。
【0025】
以下の例により、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0026】
例1:テトラクロロシランの水素化脱塩素
熱分解法シリカ30gを、蒸留水70g中に分散させ、かつ金属の亜鉛を、全固体に対して1質量%に相当する割合で材料に添加する。この材料を引き続きストランドへと押出成形し、かつ乾燥させる。乾燥させた触媒10gを、管型反応器に導入し、かつまず500℃で2時間、水素で処理する。水素中のテトラクロロシラン20体積%の混合物を450℃で、毎時625のGHSVに相応させて触媒に案内し、かつ生じる生成物混合物の組成をガスクロマトグラフィーにより測定する。
【0027】
形成されたトリクロロシランの量はこの場合、亜鉛1モルあたりのSiHCl3 2モルの化学量論的な反応を明らかに上回っている。約48時間後の試験終了まで、225のTON(turn over number)が達成される。
【0028】
例2:メチルトリクロロシランの水素化脱塩素
熱分解法シリカ30gを蒸留水70gに分散させ、全固体含有率に対して1質量%の割合に相応する金属の亜鉛を材料に添加する。この材料を引き続き、プランジャー式押出機を用いてストランドへと押出成形し、切断し、かつ乾燥させる。乾燥した触媒10gを、管型反応器に導入し、まず500℃で2時間、水素で処理する。水素中メチルトリクロロシラン20体積%の混合物を450℃で毎時625のGHSVに相応させて触媒に案内し、かつ生じる生成物混合物の組成をガスクロマトグラフィーにより測定する。
【0029】
化学量論的な理論的反応の場合であれば、亜鉛1モルあたり最大で2モルのジクロロメチルシランが形成されるにすぎない。結果は、メチルトリクロロシランの水素化脱塩素の反応生成物としてのメチルジクロロシランの、顕著に化学量論を上回る形成を示し、これは約36時間の試験終了まで、120のTONに相応する。
【0030】
例3:メチルトリクロロシランの水素化脱塩素
熱分解法シリカ30gを、蒸留水70g中に分散させ、かつ触媒活性金属を、全固体に対して、以下の表に記載の質量%に相応させて材料に添加する。この材料を引き続きストランドへと押出成形し、かつ乾燥させる。乾燥させた触媒10gを、管型反応器に導入し、かつまず500℃で2時間、水素で処理する。水素中のテトラクロロシラン20体積%の混合物を450℃で、625/h-1のGHSVで触媒に案内し、かつ生じる生成物混合物の組成をガスクロマトグラフィーにより測定する。その結果は、以下の表に記載の定常的な収率の形となっている。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
nCl4-nSi
のクロロシランを、金属酸化物をベースとする担体上の、亜鉛および/または亜鉛を含有する合金の触媒量の触媒(K)の存在下に水素ガスと反応させることにより、一般式
nCl3-nSiH
のハイドロジェンシランの製造方法[上記式中でRは、両方の式において、同時に、かつ相互に無関係に水素原子を表すか、1〜18個の炭素原子を有する、置換されているか、もしくは非置換であってよい炭化水素基を表し、かつnは1〜3の値をとることができる]。
【請求項2】
金属酸化物が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、またはこれらの混合酸化物であることを特徴とする、請求項1記載のハイドロジェンシランの製造方法。
【請求項3】
金属酸化物が、熱分解法二酸化ケイ素であることを特徴とする、請求項2記載のハイドロジェンシランの製造方法。
【請求項4】
触媒(K)が、さらに付加的にそれぞれ銅、スズおよびケイ素の群からの1の物質を含有しているか、またはこれらの任意の混合物を含有していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のハイドロジェンシランの製造方法。
【請求項5】
亜鉛および/または亜鉛を含有する合金は、触媒(K)に対して元素の亜鉛5質量%〜30質量%の量で担体中に含有されていることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のハイドロジェンシランの製造方法。
【請求項6】
前記方法を300℃〜600℃で実施することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のハイドロジェンシランの製造方法。
【請求項7】
金属酸化物をベースとする担体上の亜鉛および/または亜鉛を含有する合金を含有する触媒(K)であることを特徴とする触媒。
【請求項8】
金属酸化物が、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムまたはこれらの混合酸化物であることを特徴とする、請求項7記載の触媒。
【請求項9】
金属酸化物が、熱分解法二酸化ケイ素であることを特徴とする、請求項8記載の触媒。
【請求項10】
触媒(K)が、さらに付加的にそれぞれ銅、スズおよびケイ素の群からの1の物質を含有しているか、またはこれらの物質を任意の混合物として含有していることを特徴とする、請求項9記載の触媒。

【公表番号】特表2013−502392(P2013−502392A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525141(P2012−525141)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061780
【国際公開番号】WO2011/020773
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】