説明

クロロシラン精製用フィルター装置、クロロシラン精製装置及び精製方法

【課題】塩化反応炉で生成したクロロシランを含むガスの中から塩化アルミニウムを効率的に分離除去することを目的とし、そのための金属シリコン微粉等除去用のフィルター装置、そのフィルター装置を通過した後のガス中のクロロシランを精製する装置及び方法を提供する。
【解決手段】金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガス中のダストを除去するためのフィルター装置2であって、クロロシランを含むガスを通過させるケーシング11の内部に、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルター12が設けられるとともに、ケーシング11の壁を加熱するケーシング加熱手段17が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたトリクロロシラン等のクロロシランを含むガス中のクロロシランを精製する際に、そのガスに含まれる金属シリコン微粉等のダストを除去するフィルター装置、このフィルター装置を経由したガスから塩化アルミニウムを分離除去するクロロシラン精製装置及び精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコンを製造するための原料として使用されるトリクロロシランは、塩化反応炉で金属シリコン粉末に塩化水素ガスを反応させることで製造され、その後、多段階の蒸留を経て純度が高められる。この塩化反応炉で発生するガス中には、生成されるトリクロロシランの他に、四塩化珪素、水素、及び未反応ガスとして塩化水素が含まれているとともに、原料として用いた金属シリコンの微粉や金属シリコン中の不純物(Fe、Al、Ti、Ni等)が反応して生成された金属塩化物が含まれる。
【0003】
この金属塩化物のうち塩化アルミニウム(AlCl)は、比較的昇華点が低い(183℃/2.5atm)が、塩化反応以降の系内がその昇華点以下の雰囲気であると固化し易く、その後の工程でタンクや配管等に堆積して閉塞や腐食の原因となる。そこで、従来では、例えば、塩化反応炉の後工程である蒸留塔の塔底から堆積物を定期的に抜き出す、あるいは金属シリコン中のアルミニウム濃度が極めて低い原料を使用するなどの対策が採られていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−1804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、蒸留塔の塔底に塩化アルミニウムを単に堆積させるだけでは、その堆積物を抜き出す作業を頻繁に行う必要があり、また、金属シリコン中のアルミニウム濃度を規定する方法では、使用に供される金属シリコンが制限され、コスト高を招く原因となり易い。
そこで、塩化反応炉で生成したクロロシランを含むガスの中から塩化アルミニウムを分離除去する技術が求められるが、前述したように、塩化反応炉で発生するガス中には、塩化アルミニウムの他にも、金属シリコンの微粉等も含まれており、塩化アルミニウムを効率的に分離除去するためには、この金属シリコン微粉等を予め取り除いておく必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、塩化反応炉で生成したクロロシランを含むガスの中から塩化アルミニウムを効率的に分離除去することを目的とし、そのための金属シリコン微粉等除去用のフィルター装置、そのフィルター装置を通過した後のガスからクロロシランを精製する装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフィルター装置は、金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガス中のダストを除去するためのフィルター装置であって、前記クロロシランを含むガスを通過させるケーシングの内部に、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルターが設けられるとともに、前記ケーシングの壁を加熱するケーシング加熱手段が設けられていることを特徴とする。
【0008】
前述したように金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガス中には、金属シリコン微粉等がダストとして混在している。この金属シリコン微粉等が混在したまま塩化アルミニウムを分離除去することは難しい。
そこで、予めフィルターを通過させてダストを除去するのであるが、この場合、クロロシランを含むガス中には未反応の塩化水素も含まれるため、フィルターとして金属製のものを使用すると、孔食や割れが発生するおそれがあるので、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルターを用いて、フィルターとしての耐久性を高めるようにしている。
また、このガスは高温状態で導入されるが、ガス中に含まれる塩化アルミニウム等の金属塩化物は冷却されると固化してしまう。そこで、ケーシングの壁を例えば155℃以上に加熱することにより、これら金属塩化物がケーシングの内面に付着することが防止され、これら金属塩化物を下流側に通過させるとともに、フィルターで捕捉した金属シリコンへの金属塩化物の混入を抑制して、その後の処理を容易にすることができる。
【0009】
本発明のフィルター装置において、前記ケーシング加熱手段は、前記ケーシングの壁の外面に巻き付け状態に固定され、内部にスチームが流通されるスチーム配管によって構成されているとよい。スチーム配管は汎用されているものであって設置が容易であり、ケーシングの壁を有効に加熱することができる。
【0010】
また、本発明のクロロシラン精製装置は、前記フィルター装置と、該フィルター装置を通過した前記クロロシランを含むガスから塩化アルミニウムを分離除去する金属塩化物除去装置とを備え、前記金属塩化物除去装置は、前記ガスを通過させるハウジング内に塩化ナトリウムが充填されるとともに、該塩化ナトリウムの層を加熱する塩化ナトリウム加熱手段を有していることを特徴とする。
そして、本発明のクロロシラン精製方法は、金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガス中のダストを前記フィルター装置を用いて除去した後、該フィルター装置を通過した前記クロロシランを含むガスを加熱状態の塩化ナトリウムの層に通過させることにより、前記ガスから塩化アルミニウムを分離除去することを特徴とする。
【0011】
フィルター装置により金属シリコン微粉等のダストが除去された後のガスが金属塩化物除去装置のハウジング内に送り込まれると、塩化ナトリウムの層を通過する際に、ガス中に含まれる塩化アルミニウムと塩化ナトリウムとの反応により複塩を生成し、この複塩を分離させた後のガスが回収される。
塩化アルミニウム(AlCl)と塩化ナトリウム(NaCl)とから生成される複塩は、塩化アルミニウムナトリウム(NaAlCl)であり、約155℃以上で融液状態となるものであり、加熱により融液状態として塩化ナトリウムの層から排除することができる。
この場合、ガス中に金属シリコンの粉末が混在していると、この金属シリコンの粉末が塩化ナトリウムに付着し、その表面を覆って塩化ナトリウムを粘土状質にしてしまうため、ガスが通過し難くなって塩化ナトリウムが塩化アルミニウムと反応しなくなるが、予めフィルター装置によって金属シリコンの粉末を除去しているので、塩化アルミニウムを塩化ナトリウムと確実に反応させて分離除去することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガスから金属シリコン微粉等をフィルター装置によって除去しているから、その後に塩化アルミニウムを確実に分離除去することができ、その場合に、フィルター装置としてポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルターを用いたことにより、孔食や割れの発生を防止して、フィルターとしての耐久性が高められ、また、ケーシング加熱手段によってフィルター装置のケーシングの壁を加熱するから、金属塩化物がケーシングの内面に付着することが防止され、フィルターで捕捉した金属シリコン粉末への金属塩化物の混入を抑制して、その後処理を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る精製装置の一実施形態を示す全体概略構成図である。
【図2】図1の精製装置におけるフィルター装置の縦断面図である。
【図3】図1の精製装置における金属塩化物除去装置の縦断面図である。
【図4】図3の金属塩化物除去装置におけるハウジングに固定された伝熱管を示す縦断面図である。
【図5】図3の金属塩化物除去装置におけるハウジングの底部と複塩排出管との接合部付近の縦断面図である。
【図6】本発明に係る精製装置に用いられるフィルター装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図7】本発明に係る精製装置に用いられる金属塩化物除去装置の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図8】本発明の効果確認のために行った実施例の装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は一実施形態におけるクロロシラン精製装置の全体構成を示しており、この精製装置1は、その前工程における塩化反応炉(図示略)で金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガスを通過させ金属シリコンの粉末を除去するフィルター装置2と、フィルター装置2を通過したガスから塩化アルミニウムを分離除去する金属塩化物除去装置3とを備えている。
【0015】
フィルター装置2は、図2に示すように、ケーシング11内に、複数の筒状のフィルター12が吊り下げられている構成である。このフィルター装置2に使用されているフィルター12は、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを微細な連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルターが使用されている。
【0016】
この場合、ケーシング11の上部に、その内部を横断するように水平に仕切り板13が設けられるとともに、この仕切り板13に、複数個の貫通孔14が形成されている。筒状のフィルター12は、上端部が開口するとともに、下端部が閉じられており、その上端部が仕切り板13の各貫通孔14を通って仕切り板13の上面に固定され、仕切り板13から下方に吊り下げ状態に支持されている。また、各筒状フィルター12の内部には、メッシュ状の補強筒15が挿入されている。この補強筒15は、筒状フィルター12の内径よりも若干小さい外径に形成されており、上下端とも開口され、その上端のフランジ部15aが仕切り板13の上面にフィルター12を挟んだ状態として固定されている。また、筒状フィルター12の下端部は、その内部の補強筒15とともに、複数のフィルター12どうしが相互に連結具16によって連結状態とされている。
【0017】
また、ケーシング11の壁の外面には、スチーム配管17が巻き付け状態に固定されており、このスチーム配管17内にスチームを流通させることにより、ケーシング11の壁を加熱状態とするようになっている。なお、このスチーム配管17の外側からケーシング11の全体を覆うように保温材18が設けられている。
そして、ケーシング11の下部にガス導入管19が設けられ、仕切り板13よりも上方のケーシング11の頂部にガス排出管20が設けられており、塩化反応炉からのガスがケーシング11下部のガス導入管19から導入され、筒状のフィルター12内に導かれ、該フィルター12を通過してケーシング11頂部のガス排出管20から排出され、後述の金属塩化物除去装置3に送り出される。
【0018】
また、ケーシング11内の雰囲気温度を計測する温度計21が設置され、その温度計21の計測結果に基づき、ケーシング11内雰囲気を115〜230℃の温度範囲に維持するように、ガス排出管20のバルブ22の開度が調整されるようになっている。
なお、このフィルター装置2は、いわゆる逆洗式のバグフィルターであり、塩化反応炉からのガスの導入を停止し、ガス排出管20から窒素や不活性ガスを注入することにより、筒状のフィルター12を膨らませながら、表面に付着したダストを落下させて除去することができるようになっており、ケーシング11の下端部には、落下したダストを排出するダスト排出管23が設けられ、このダスト排出管23を開閉する弁24が設けられている。そして、ガス導入管19とガス排出管20との間の差圧を計測する差圧計25が設けられており、この差圧計25の計測結果に基づき、フィルター12の逆洗時期を判断するようになっている。
【0019】
一方、金属塩化物除去装置3は、塩化ナトリウムを充填したハウジング31と、このハウジング31内に充填される塩化ナトリウムを乾燥しながら保持する乾燥器32と、ハウジング31内で生成された複塩を処理する複塩処理系33とを備える構成とされている。
【0020】
ハウジング31は、図3に示すように、上下方向に沿う円筒状の胴体部31Aと、この胴体部31Aの下端に連結された凹状の底部31Bと、胴体部31Aの上端に連結されたドーム状の天板部31Cとを備えている。
【0021】
胴体部31Aの下部には格子板34が設けられて、胴体部31Aの内部を上下に仕切るようにしており、その格子板34の上に網板35が載置状態に設けられ、この網板35の上に、塩化ナトリウムが充填されるようになっている。この場合、格子板34は鉄によって形成されているが、網板35は、ニッケル基耐食合金であるハステロイ(登録商標)が使用されている。網板35にハステロイを使用するのは、スチールでは後述の複塩によって浸食されてしまい、またステンレス鋼では塩素の影響と考えられる割れが発生する可能性があるからである。
【0022】
また、塩化ナトリウムは、ペレット状の造粒塩あるいはその成型品が適用されており、例えば32mm×22mm×12mm〜46mm×37mm×20mmの固形物とされる。造粒塩の粒の形は塊状でもよい。塩化ナトリウムの粒の大きさは限定されないが、塩化ナトリウムの長径方向の大きさが、隣り合う伝熱管37(後述する)同士の間隔より十分小さくすることが好ましい。さらに、その大きさとしては網板35から落下しない程度であればよい。図3の破線のハッチングで示す領域に充填されており、符号36がその塩化ナトリウムの層を示している。
【0023】
また、網板35の上方位置の胴体部31A内には、塩化ナトリウム加熱手段として複数の伝熱管37が胴体部31Aの周方向に適宜の間隔をおいて設けられている。これら伝熱管37は、全体としてはL字状に屈曲しており、胴体部31Aの側壁から半径内方に突出して胴体部31Aの上下方向に沿って上向きに延びるように配置され、図3に示されるように、塩化ナトリウム層36の全体に埋没するように配置されている。また、各伝熱管37は、図4に示すように内管41と外管42との二重管構造とされ、その内管41は上端が開口して外管42の上端に連通している。そして、内管41から導入されたスチーム等の熱媒体が内管41の上端の開口から外管42内にあふれ、外管42と内管41との間の環状空間を経由して外管42の下端のドレン管43から排出されるように構成されている。なお、伝熱管37と胴体31Aの側壁との間、及び伝熱管37相互の間には十分な間隔が開けられ、塩化ナトリウムが部分的に詰ることがないようにされている。
【0024】
また、格子板34の下方の底部31Bには、その側方からガスを供給するガス供給管44と、後述するように底部31Bの最深部から複塩を下方に排出するための複塩排出管45とが接続され、一方、天板部31Cには、ガス回収管46と、塩化ナトリウムの投入口47と、のぞき窓付きのノズル管48とが接続されている。
【0025】
また、ハウジング31の底部31Bの外面には、図5に示すように、この底部31Bを覆って二重壁とするようにジャケットの外壁51が設けられており、空間部52に熱媒体が流通させられるようになっている。ジャケットは外壁51と、底部31Bと、それらの間の空間52とを有する。そして、底部31Bから下方に延びる複塩排出管45は、この外壁51を貫通するように設けられるが、ハウジング31の底部31B下面には、複塩排出管35の回りを囲むように筒状壁53が設けられ、この筒状壁53の外側に外壁51が設けられていることにより、外壁51と複塩排出管45とが筒状壁53によって離間させられた状態とされている。複塩排出管45と底部31Bとの接合部は、複塩がハウジング31の底部31Bから複塩排出管45に流れ込む際に複塩による摩耗などのダメージを最も受け易く、この接合部は、その部分に万一孔が開けられても外壁51内の空間部52に達しないように設計されているのである。
【0026】
この場合、筒状壁53と複塩排出管45との間の空間を閉塞するようにリング状の端板54が設けられており、これら筒状壁53、複塩排出管45、端板54により、ハウジング31の底部31Bの外側に、複塩排出管45を囲むリング状室55が形成され、このリング状室55の底にドレン管56が接続されている。なお、ハウジング31の底部31Bと複塩排出管45との接合部付近に、これらの内面を覆うように、例えばハステロイ(登録商標)等の耐食合金からなるライナーを内貼りするようにしてもよい。
【0027】
乾燥器32は、ハウジング31の上方に設けられており、タンク61内に一定量の塩化ナトリウムを貯留して乾燥しておくようになっている。また、タンク61内の下部はホッパー61aとされ、その下部開口62を開閉するための栓63が設けられている。そして、そのホッパー61aの下部開口62がハウジング31の投入口47の上方に配置されている。
【0028】
また、複塩処理系5は、図示は省略するが、ハウジング31から受け取った複塩を一時貯留するタンクと、このタンクから抜き出した複塩を加水分解する処理槽とを備える構成とされている。
【0029】
このように構成した精製装置1において、前工程の塩化反応炉において金属シリコンと塩化水素との反応によって発生したトリクロロシランを含むガスは、まずフィルター装置2に導入され、内部のフィルター12によってダストが捕捉される。
このフィルター装置2においては、仕切り板13から吊り下げられている各筒状のフィルター12内に補強筒15が設けられていることから、この補強筒15により筒状のフィルター12が膨らんだ状態に保持され、その表面(外面)へのダストの捕集効果が高められている。この場合、温度計21によってケーシング11内の雰囲気温度が計測され、その雰囲気温度が115℃以下あるいは230℃以上となった場合には、ガス排出管20のバルブ22の開度を調整することにより、雰囲気温度を115〜230℃の温度範囲内に維持するようにしている。また、そのケーシング11の壁がスチーム配管17内を流通するスチームによって加熱されており、ガス中に含まれる塩化アルミニウム等の金属塩化物がケーシング11の壁の内面に付着することがないようにされている。したがって、これら金属塩化物はガスのまま下流側に通過してガス排出管20から排出される。
【0030】
また、この場合、ガス導入管19とガス排出管20との間の差圧を差圧計25によって計測しており、その差圧が予め定めた所定値以上になった場合に、フィルター12の目詰まりが生じていると判断して、逆洗作業を実施する。
このフィルター12で捕捉した金属シリコン粉末を逆洗によってフィルター12から払い落す際には、ケーシング11の壁にシリコン粉末が落下するため、その壁の内面に金属塩化物が付着していると、金属シリコン粉末に金属塩化物が混入することになり、その後に金属シリコン粉末のみを分離することが難しくなるが、ケーシング11の壁がスチーム配管17によって加熱状態とされて金属塩化物が付着していないので、落下した金属シリコン粉末を効率よく回収することができ、その後の処理を容易にすることができる。
【0031】
次いで、逆洗によるダスト除去後の運転再開時には、フィルター12の目詰まりが解消しているので、ガスの流速が急激に上昇して、フィルター12表面の微粉等がガス流に乗って下流に流れてしまうことがあるため、ガス排出管20のバルブ22の開度を小さくしておき、これを徐々に開いていくことにより、微粉等が下流に流れないようにするのが好ましい。
なお、差圧計25の計測により差圧が異常に小さくなった場合には、フィルター12に切れ等の破損が生じたと判断して、運転を停止し点検することが行われる。
【0032】
そして、このフィルター装置2を通過したガスは金属塩化物除去装置3に送られ、ガス中の塩化アルミニウムと金属塩化物除去装置3内の塩化ナトリウムとが反応する。この場合、金属シリコン粉末が混在したまま金属塩化物除去装置3に送り込まれると、金属シリコン粉末が塩化ナトリウムの表面を覆って粘土状質にしてしまうため、ガスが通過し難くなって塩化ナトリウムが機能しなくなるが、フィルター装置2で金属シリコン粉末等のダストが予め除去されているので、塩化ナトリウムの機能を有効に発揮させることができる。
【0033】
金属塩化物除去装置3では、そのハウジング31に供給されたガスは、その底部31Bから格子板34、網板35を通って塩化ナトリウム層36に送り込まれる。この塩化ナトリウム層36は、その内部に設置されている伝熱管37からの熱により例えば155〜200℃、好ましくは160〜200℃に加熱されており、その塩化ナトリウム層36内をガスが通過する間に、ガス中の塩化アルミニウムと塩化ナトリウムとにより、これらの複塩である塩化アルミニウムナトリウムを生成し、塩化ナトリウム層36から出て複塩が分離された後のガスがガス回収管46から排出される。この場合、塩化ナトリウムは多数の塊状のものとされているので、塩化ナトリウム層36にはこれら塊状物の間に空間が形成されており、このため、ガスが塩化ナトリウム層36内に広く行き渡って接触し、複塩を効率的に生成することができる。
【0034】
一方、生成された複塩は、約155℃以上で融液となるものであり、網板35及び格子板34を通過してハウジング31の底部31Bに流れ落ち、複塩排出管45から複塩処理系33に送られて、加水分解処理がなされる。また、ハウジング31内の塩化ナトリウムは消費されて徐々に減少するので、定期的に乾燥器32から塩化ナトリウムを補充することが行われる。
【0035】
このようにして塩化アルミニウムが除去されたガスは、その後、トリクロロシランの純度を高めるため、蒸留工程等に送られるが、前述した精製工程において金属シリコンの粉末や塩化アルミニウムが除去されているので、配管の閉塞や腐食の発生が抑制される。
【0036】
一方、図6は本発明のフィルター装置の他の実施形態を示している。
このフィルター装置71は、フィルター72に付着したダストの払い落しのために、フィルター72に振動を加える加振機73がケーシング74の上に設けられている。このフィルター装置71に設けられる各フィルター72は、図2のフィルター装置2とは逆に、下端部が開口し、上端部が閉じられている。また、ケーシング74の上に設けられた加振機73から振動軸75がケーシング74内に挿入されており、この振動軸75の下端部に水平な支持板76が固定され、この支持板76に複数のフック77が取り付けられ、各フック77に一つずつフィルター72が吊り下げられている。
【0037】
また、ケーシング74の下部には、水平な仕切り板78が設けられるとともに、この仕切り板78に形成した貫通孔79の回りに筒状部80が垂直上方に向けて立設されており、この筒状部80に各フィルター72の下端部が被せられ、その外側から巻き付けた結束具81によって固定されている。また、フィルター72の上端部には、これを内側から広げるようにリング82が固定されており、フィルター72は、このリング82から下端部の筒状部80までがストレートの筒状に保持されるようになっている。
そして、仕切り板78の下方のガス導入管19から導入されたガスが仕切り板78の貫通孔79からフィルター72内に流通し、このフィルター72を通過してケーシング74上部のガス排出管20から排出される構成である。
【0038】
フィルター72の素材として、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを微細な連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルターが用いられている点、及びケーシング74の壁の外面にスチーム配管17が巻き付け状態に固定されている点等は先の一実施形態と同様であり、その他、一実施形態と共通部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0039】
このフィルター装置71においても、前工程から送られたガス中の金属シリコン粉末等のダストがフィルター72に捕捉され、下流の金属塩化物除去装置3に送られる。先の一実施形態と同様に、ケーシング74の壁はスチーム配管17内を流通するスチームによって加熱状態とされるとともに、ケーシング74内の雰囲気温度は115〜230℃となるようにされ、また、ガス導入管19とガス排出管20との間の差圧を監視し、フィルター72に付着したダスト払い落しの時期や、フィルター72の交換時期を判断することが行われる。
また、フィルター72で捕捉したダストを払い落す際には、加振機73を作動させてフィルター72の上端部を振動させることにより、その内面に付着したダストを落下させる。このとき、ガス排出管20のバルブ22は閉じた状態としておき、払い落し後は、一実施形態の場合と同様に、バルブ22を徐々に開いて、急激なガスの流れにより微粉がガス流に混入しないように調整される。また、払い落されたシリコン粉末はダスト排出管23から排出される。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、フィルター装置の加熱手段としてスチーム配管をケーシングに巻き付け状態に設けたが、スチーム配管に代えて伝熱ヒータを設けてもよく、これらを併用してもよい。
また、塩化ナトリウム加熱手段においても、ハウジング内に伝熱管を配設したが、バンドヒーター、テープヒーター等によりハウジングの外側から加熱する構成のものでもよく、それを伝熱管と併用してもよい。
【0041】
また、フィルター装置にバグフィルターを用いたが、他の構造のフィルター装置であってもよい。さらに、差圧を監視してフィルターの目詰まりを判断するようにしたが、フィルターにガスを流通させた時間を計測して、所定時間経過したら、逆洗や振動により、フィルターに付着しているダストを払い落すようにしてもよい。また、図3に示す金属塩化物除去装置3においては、伝熱管17をハウジング31の胴体部31Aに複数本固定したが、図7に示す金属塩化物除去装置91のように、胴体31Aの周方向に連続する伝熱管92としてもよい。この伝熱管92は、胴体31Aの側壁を複数回貫通しながら胴体31Aの周方向に連続して設けられており、ハウジング31の内部に配置された部分では、上下方向に延び、下端部で折り返すように形成されている。
その他、金属塩化物除去装置のハウジングの底部の外側に筒状壁と端板とによりリング状室を形成したが、少なくとも筒状壁を有していればよい。端板は省略してもよい。筒状壁を複塩排出管の回りに二重管状に設けてもよい。
【実施例】
【0042】
金属シリコン粉末と塩化水素ガスを前工程の塩化反応炉で反応させたクロロシランガスを図8に示すようにフィルター装置2に導入して、クロロシランガス中の金属粉末ダストを除去した後、クロロシランガスを塩化ナトリウムが充填された金属塩化物除去装置3のハウジング31に供給し、数時間〜数十時間にわたり、150〜220℃の温度で反応させて、ハウジング入口前Aおよびハウジング出口後Bにおけるガスを採取した。採取したガスは凝縮させて、原子発光分光光度計(ICP−AES)により塩化アルミニウム中のAlの成分を測定し、クロロシラン中に含まれる塩化アルミニウムの重量割合の確認を行った。
なお、フィルター装置2には、ポリテトラフルオロエチレン製のフィルターを用いた。ハウジング31は、内径155.2mm、高さ1300mmのもので、胴体の周囲をテープヒーターで覆って周囲から加熱した。炉内温度の測定箇所を図8中に符号Tで示している。網板35としては、直径3mmのワイヤを4mm間隔で縦横に編み込んだものを使用した。塩化ナトリウムとしては、40×40×18mmのNaCl分が98.53wt%の造粒塩を用いた。採取したガスは、−60℃以下のドライアイス−メタノール液によって凝縮した。その結果を表1に示す。表中の除去率は、(入口前濃度−出口後濃度)/入口前濃度の百分率である。
【0043】
【表1】

【0044】
この表1からわかるように、数時間におけるクロロシランガスの精製においては155℃以上の温度において塩化アルミニウムの除去率は、66.5〜97.3%であった。いずれの測定においても、反応時間帯でのハウジング内での閉塞は発生しなかった。
なお、塩化ナトリウムを充填したハウジングの稼動を停止し、ハウジング内の温度が低下した際に、ハウジング内の複塩の凝固が確認されたため、実稼動におけるハウジング内の温度が低下した場合の閉塞を避けるために、複塩の再溶融温度を確認したところ、約155〜160℃で溶融することが確認された。したがって、ハウジング内を155℃以上、好ましくは160℃以上に加熱するのがよい。
【符号の説明】
【0045】
1 精製装置
2 フィルター装置
3 金属塩化物除去装置
11 ケーシング
12 フィルター
13 仕切り板
15 補強筒
17 スチーム配管(ケーシング加熱手段)
18 保温材
19 ガス導入管
20 ガス排出管
21 温度計
22 バルブ
23 ダスト排出管
25 差圧計
31 ハウジング
32 乾燥器
33 複塩処理系
34 格子板
35 網板
36 塩化ナトリウム層
37 伝熱管(塩化ナトリウム加熱手段)
44 ガス供給管
45 複塩排出管
46 ガス回収管
71 フィルター装置
72 フィルター
73 加振機
78 仕切り板
80 筒状部
82 リング
91 金属塩化物除去装置
92 伝熱管(塩化ナトリウム加熱手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガス中のダストを除去するためのフィルター装置であって、前記クロロシランを含むガスを通過させるケーシングの内部に、ポリテトラフルオロエチレンの織物を用いたフィルター又はポリテトラフルオロエチレンを連続多孔質体としてなるメンブレン状のフィルターが設けられるとともに、前記ケーシングの壁を加熱するケーシング加熱手段が設けられていることを特徴とするフィルター装置。
【請求項2】
前記ケーシング加熱手段は、前記ケーシングの壁の外面に巻き付け状態に固定され、内部にスチームが流通されるスチーム配管によって構成されていることを特徴とする請求項1記載のフィルター装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のフィルター装置と、該フィルター装置を通過した前記クロロシランを含むガスを塩化ナトリウムの層を通過させることにより、前記ガスから塩化アルミニウムを分離除去する金属塩化物除去装置とを備えることを特徴とするクロロシラン精製装置。
【請求項4】
金属シリコンと塩化水素の反応により生成されたクロロシランを含むガス中のダストを請求項1記載のフィルター装置を用いて除去した後、該フィルター装置を通過した前記クロロシランを含むガスを塩化ナトリウムの層を通過させることにより、前記ガスから塩化アルミニウムを分離除去することを特徴とするクロロシラン精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−63480(P2011−63480A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216021(P2009−216021)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】