説明

クロロシラン類の精製方法

【課題】クロロシラン類留出物中から不純物を効率よく除去し、クロロシラン類を高純度に精製すること。
【解決手段】水素化工程101および塩素化工程102ではトリクロロシランを含む粗クロロシラン類が得られる。不純物転化工程103では、蒸留補助剤として有機化合物が添加され、リン不純物およびホウ素不純物が高沸点物に転化される。精製工程104に送られてくるクロロシラン類留出物中には、クロロシラン類の他、有機化合物の過剰分と不純物の転化により生じた高沸点物が含まれている。精製工程104に送られてきたクロロシラン類留出物は、蒸発器104aに導入され、トリクロロシラン類を蒸発させる。クロロシラン類の蒸気は蒸留塔104bに供給される。高沸点物に転化された不純物は釜残として残す。蒸発器104aにおいて蒸発した蒸気は蒸留塔104bに供給され、トリクロロシランを主成分とするクロロシラン類の分離と精製が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロシラン類の精製方法に関する。より詳細には、ホウ素不純物およびリン不純物の少なくとも一方の不純物を含有するクロロシラン類からこれらの不純物を除去して高純度のクロロシラン類を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、半導体などの製造原料となる多結晶シリコンには高い純度が求められる。そのため、多結晶シリコンを製造するための原料とされるクロロシラン類は、極めて高純度であることが要求される。例えば、クロロシラン類にホウ素やリンが不純物として含有されている場合、その量がたとえ微量であっても、多結晶シリコンの電気的特性(抵抗率)に著しい影響を与える結果となる。このため、クロロシラン類に含有されているホウ素不純物やリン不純物を効率的に除去する技術を提供することは、実用的に大きな意義をもつこととなる。
【0003】
一般に、クロロシラン類は、不純物を比較的多量に含む冶金級シリコン(いわゆる金属グレードシリコンであり、以下では、「金属シリコン」と呼ぶ)から、公知の方法によって得られた粗クロロシラン類を、さらに蒸留などにより高純度に精製することによって得られる。しかし、一般的に、金属シリコン中には、不純物としてのホウ素やリンが、元素換算で数百ppb〜数百ppmのオーダで含まれており、これらの不純物は粗クロロシラン類の精製過程では充分には除去されず、最終的に得られたクロロシラン類中に残留してしまう。そして、このような残留不純物は、半導体等の製造原料としての多結晶シリコン中に残留して、品質上の問題を引き起こす場合がある。
【0004】
一般に、粗クロロシラン類を得るためには、触媒の存在下で金属シリコンと塩化水素とを接触させて塩素化を行い、その生成物を蒸留する方法が良く知られている(例えば、特開平2005−67979号公報(特許文献1)参照)。また、テトラクロロシランを触媒の存在下で金属シリコンと水素で水素化する方法も知られている(例えば、特開昭58−161915号公報(特許文献2)。粗クロロシラン類とはこの蒸留における留分であり、一般的には、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランなどのクロロシラン類を主成分とする混合物である。
【0005】
このような粗クロロシラン類の製造プロセスにおいて、金属シリコンに含まれているホウ素不純物及びリン不純物は、粗クロロシラン類を生成する際に同時に水素化や塩素化される等して、粗クロロシラン類中に種々の構造の化合物となって混入する。このような粗クロロシラン類を精製してクロロシラン類とするのであるが、最終的に得られるべきクロロシラン類と沸点が近接している化合物は、蒸留工程で分離・除去することは困難である。このため、蒸留留分中にはホウ素化合物及びリン化合物が不純物として混入(残存)する場合があり、かかるクロロシラン類を用いて多結晶シリコンを製造すると、多結晶シリコン中にホウ素およびリンが取り込まれてしまい所望の特性のものを得ることができない結果となる。
【0006】
このような事情から、粗クロロシラン類やクロロシラン類中のホウ素不純物やリン不純物の含有量を低減させる方法(クロロシラン類の精製方法)として、種々の方法が提案されてきた。
【0007】
例えば、D.R.ディーらによる特表昭58−500895号公報(特許文献3)では、高温条件でクロロシラン類に少量の酸素を導入して反応させることによって錯体を形成させ、この錯体とホウ素不純物及びリン不純物との反応により新たな錯体を生成させ、これをクロロシラン類の蒸留工程で分離することにより、不純物濃度の低いクロロシラン類を得る方法が提案されている。
【0008】
しかし、この方法では、錯体を形成させるために170℃以上の高温条件での運転操作が必要とされ、簡便かつ穏やかな条件で操作することができないという問題がある。
【0009】
F.A.Pohlらの米国特許第3,126,248号明細書(特許文献4)では、ベンズアルデヒドやバレロラクトンなどの孤立電子対を保有する元素を含む有機物とホウ素不純物との付加物を生成させ、ついで蒸留することで不純物除去する方法が提案されている。
【0010】
また、同じ発明者らによる米国特許第3,252,752号明細書(特許文献5)では、活性炭やシリカゲル等の吸着剤に固定化したベンズアルデヒドやプロピオニトリルなどによってホウ素不純物を捕捉して除去する方法が報告されている。
【0011】
さらに、特開2009−62213号公報(特許文献6)には、クロロシラン類を、酸素の存在下で芳香族アルデヒドと処理することによって、ホウ素不純物とリン不純物を除去できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平2005−67979号公報
【特許文献2】特開昭58−161915号公報
【特許文献3】特表昭58−500895号公報
【特許文献4】米国特許第3,126,248号明細書
【特許文献5】米国特許第3,252,752号明細書
【特許文献6】特開2009−62213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の、粗クロロシラン類に蒸留補助剤として有機物や金属塩化物を添加し、ホウ素不純物および/またはリン不純物との付加物を生成させ、主成分であるトリクロロシランとの間で沸点差を与えて精製する方法では、粗クロロシラン類に蒸留補助剤を添加したものを蒸留することによって、ホウ素不純物および/またはリン不純物がクロロシラン類の留分から除去される。
【0014】
ところが、ホウ素不純物やリン不純物と蒸留補助剤の付加物は固形物を生じる場合があること、また、一定温度以上の加熱がされた場合には付加物が再解離し、蒸留によってはクロロシラン類と分離しにくい化合物に戻る場合があることが確認された。蒸留を回分や半回分で行った場合、蒸留操作の後半でクロロシランを取り出すための母液温度が徐々に上昇するため、回収率を高くしようとすると、蒸留釜への加熱温度も高く設定され、再解離を生じ易くなる。また、蒸留を連続で行った場合でも、回収率を高くすると、塔底側の温度が高くなり再解離を生じやすくなる。
【0015】
本発明は、上述の問題に鑑み、ホウ素不純物および/またはリン不純物を含有する粗クロロシラン類から、ホウ素不純物および/またはリン不純物を高沸点化する蒸留補助剤を加えて、ホウ素不純物および/またはリン不純物を蒸留により除去する際、回収率を損なうことなく、高効率、高純度で精製を行うクロロシラン類の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上述の問題を解決するため、鋭意検討を行った結果、蒸発器を用いて、蒸留補助剤により高沸点化されたホウ素不純物および/またはリン不純物を除去した後、クロロシラン類の蒸留を行うことにより、蒸留塔内での固形物の発生や蒸留塔への固形物の持ち込みを防ぐことができるほか、再解離によるクロロシラン類のホウ素不純物による再汚染を防止できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0017】
本発明に係るクロロシラン類の精製方法は、金属グレードシリコンの存在下でテトラクロロシランを主成分とするクロロシラン類と水素を反応させてトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を得る水素化工程、または、金属グレードシリコンと塩化水素を反応させてトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を得る塩素化工程と、前記水素化工程または塩素化工程で得られたクロロシラン類留出物を蒸留補助剤として作用する有機化合物の存在下で処理して前記クロロシラン類留出物中に含有されているホウ素不純物およびリン不純物の少なくとも一方の不純物を高沸点物に転化させる不純物転化工程と、前記不純物転化工程を経たクロロシラン類留出物から精製クロロシラン類を分離して系外に回収する精製工程と、を備え、前記精製工程は、蒸発器を用いて前記クロロシラン類留出物中のクロロシラン類を蒸発させることにより該クロロシラン類を前記不純物の高沸点物および前記有機化合物の残留分と分離する第1の精製工程と、蒸留器を用いて前記第1の精製工程で分離されたクロロシラン類を蒸留する第2の精製工程と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
かかる構成とすれば、蒸留器での蒸留前に高沸点化されたホウ素不純物および/またはリン不純物を除去してしまうことにより、蒸留塔内での固形物の発生や蒸留塔への固形物の持ち込みを防ぐことができるほか、蒸留時に母液温度が上昇した際や、蒸留缶壁に付着した母液に含まれる蒸留補助剤とホウ素不純物および/またはリン不純物が再解離して、蒸留により得られるクロロシラン類を汚染することが防止される。
【0019】
好ましくは、前記蒸留補助剤は、エーテル類、アルデヒド類、ケトン類、オキシム類、エステル類、及び、ラクトン類の群より選択される。
【0020】
また、好ましくは、前記第1の精製工程において、前記蒸発器の内壁面温度を150℃以下とする。
【0021】
さらに好ましくは、前記蒸発器の内壁面温度は100℃以下である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の精製方法を用いることにより、クロロシラン類の回収率を上げた場合にも、蒸留補助剤を加えることで形成させたドナー不純物であるリン不純物および/またはアクセプタ不純物であるホウ素不純物との付加物を再解離させることなく、クロロシラン類を高純度で得ることができる。また、固形化した付加物に由来する蒸留塔内部のトレイや充填物への固形物の付着が防止されるため、分離不良や蒸留塔内部の閉塞などによる精製用の蒸留が妨害されることが回避される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のクロロシラン類の精製方法の一態様を説明するためのブロック図である。
【図2】分離工程で精製クロロシラン類を分離した後の残液を、不純物転化工程において再利用することとした態様を示すブロック図である。
【図3】精製工程残液を不純物転化工程に供給する前に、有機化合物とクロロシラン類を主成分とする留分と高沸点物を主成分とする留分とに分離する高沸点物分離工程を設けた態様のブロック図である。
【図4】本発明のクロロシラン類の精製方法の他の態様を説明するためのブロック図である。
【図5】本発明のクロロシラン類の精製方法の他の態様を説明するためのブロック図である。
【図6】本発明のクロロシラン類の精製方法の他の態様を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明のクロロシラン類の精製方法の他の態様を説明するためのブロック図である。
【図8】本発明のクロロシラン類の精製方法の他の態様を説明するためのブロック図である。
【図9】本発明のクロロシラン類の精製方法の他の様態を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
多結晶シリコンの製造等に用いられるトリクロロシランは、上述のように、金属ケイ素の塩素化やテトラクロロシランの水素化によって製造されるが、得られる粗トリクロロシランには、原料として使用する治金級の金属ケイ素に含まれるホウ素やリンが含まれる。本発明の実施の対象となるクロロシラン類としては、特に、このようなホウ素不純物やリン不純物を含有するトリクロロシランが挙げられるが、ジクロロシランやテトラクロロシランに適用することもできる。
【0025】
上述の特許文献3〜6に示されている通り、蒸留補助剤として、ジオキサン等のエーテル類、アルキル置換あるいは非置換のベンズアルデヒド、2重結合にアルキル基が置換された、あるいは非置換のシンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒド類、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルグリオキシム等のオキシム類、バレロラクトン等のラクトン類等、ホウ素に有効に配位可能な孤立電子対を有する化合物を用いて付加物を形成させることにより、ホウ素不純物を高沸点化することができる。そこで、ホウ素不純物の除去方法として、上述のような蒸留補助剤を用いて蒸留を行う方法が広く用いられてきた。更に、芳香族アルデヒド類を用いた場合には、酸素の存在下、リン不純物の高沸点化も同時に行うことができる。
【0026】
ところが、より厳密なホウ素不純物の除去を試みるために行った本発明者らの検討によれば、ホウ素不純物として三塩化ホウ素をモデルとして添加し、ベンズアルデヒドを蒸留補助剤として添加したトリクロロシランを含むクロロシラン混合液の蒸留を行って留分の分析を行ったところ、蒸留後半の留分に付加物が再解離したためと考えられるホウ素による汚染が検出された。
【0027】
そこで、本発明者らは、短時間かつ管理された温度で、蒸発回収したい物質を蒸発しない物質と分離することができる蒸発器を用いて、蒸発補助剤を添加したクロロシラン類より高沸点化されたホウ素不純物および/またはリン不純物を除去し、蒸発回収したクロロシラン類を更に蒸留して精製クロロシラン類を得たところ、付加物の再解離によるホウ素汚染が防止された。
【0028】
ここで用いる蒸発器とは、液体を加熱して蒸発させるために用いられる一般的な熱交換器のことであり、熱交換器の形式はどのようなものでもかまわない。例えば、容器内の液体をジャケットやインナーコイルによって蒸発させるものでもよいし、Uチューブ型やケトル型などのシェルアンドチューブタイプの熱交換器などによって液体を蒸発させる形式のものでもよい。なお、本発明の精製方法において、付加物の再解離を抑制するためには、上述の蒸発器中の加熱部分の表面温度(内壁面温度)は150℃以下に制御されることが好ましく、更に好ましくは、100℃以下である。
【0029】
蒸留補助剤の選択にもよるが、蒸発器により蒸留補助剤を添加したホウ素不純物および/またはリン不純物を含有するクロロシラン類を処理することによって、ホウ素不純物および/またはリン不純物は非蒸発成分側に除去される。また、蒸留補助剤はその一部が非蒸発成分側に、残部は蒸発成分側に分配される。
【0030】
これに続き、蒸発器から回収されたクロロシラン類は、蒸留器を用いて精製される。ここでの蒸留方法は公知のいずれの方法を用いてもよく、システム全体の設計に従い適宜選択される。例えば、最終的に多結晶シリコン製造用のトリクロロシランを得る場合には、ジクロロシランやテトラクロロシランの含量が低い高純度のトリクロロシランを得ることが目的となるが、1段(単段)の蒸留で精製トリクロロシランを得る態様のものでもよく、また、初めの蒸留塔では蒸留補助剤を除くための蒸留を行い、更に、多段の蒸留によってトリクロロシランを得る態様のものでもよい。
【0031】
なお、蒸留補助剤は、常に新しいものを使ってもよいが、蒸発器より回収されたものをそのまま、あるいは精製して用いてもよく、更に、蒸留塔の塔底より回収されたものをそのまま、あるいは精製して用いてもよい。
【0032】
以下に、図面を参照して、本発明に係るクロロシラン類の精製方法を実施するための具体的な態様について説明する。
【0033】
[第1の実施態様]
図1は、本発明のクロロシラン類の精製方法の一態様を説明するためのブロック図である。この図に示したクロロシラン類の精製方法は、水素化工程101および/または塩素化工程102、不純物転化工程103、精製工程104の少なくとも3つの工程を備えている。水素化工程101と塩素化工程102はシステムの要請により一方のみを備えるものでもよく、両方を備えるものでもよい。
【0034】
水素化工程101では、金属シリコンとテトラクロロシランを主成分とするクロロシラン類および水素が供給され、トリクロロシランを含む粗クロロシラン類が得られる。一方、塩素化工程102では、金属シリコンと塩化水素が供給され、触媒の存在下で、トリクロロシランを含む粗クロロシラン類が得られる。
【0035】
水素化工程101あるいは塩素化工程102にて得られた粗クロロシラン類は、必要に応じて精製された後、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランなどのクロロシラン類を主成分とするクロロシラン類留出物として、不純物転化工程103へと送られる。
【0036】
不純物転化工程103では、蒸留補助剤として、上述した有機化合物が添加され、クロロシラン類留出物に含有されているドナー不純物であるリン不純物およびアクセプタ不純物であるホウ素不純物が高沸点物に転化される。
【0037】
有機化合物の存在下でクロロシラン類を処理することにより、クロロシラン類留出物中に含有されているドナー不純物とアクセプタ不純物は高沸点物に転化され、処理後のクロロシラン類留出物は、精製工程104へと送られる。
【0038】
精製工程104に送られてくるクロロシラン類留出物中には、トリクロロシランを含むクロロシラン類の他、不純物転化工程103において添加された有機化合物の過剰分、ドナー不純物およびアクセプタ不純物の転化により生じた高沸点物が含まれている。
【0039】
精製工程104に送られてきたクロロシラン類留出物は、まず蒸発器104aに導入される。蒸発器104aは、スチームや熱媒などによりクロロシラン類留出物が加熱され、トリクロロシラン類を主成分とするトリクロロシラン類を蒸発させる。蒸発したクロロシラン類の蒸気は蒸留塔104bに供給される。高沸点物に転化されたドナー不純物およびアクセプタ不純物は釜残として残す。上述した有機化合物は主には釜残に残るが、一部は蒸発し蒸留塔104bに供給される。
【0040】
蒸発器104aにおいて蒸発した蒸気は、蒸留塔104bに供給される。蒸気を一度凝縮し、液化した後蒸留塔に供給してもよいが、蒸気を直接蒸留塔にガス供給する方がエネルギー的に有利である。
【0041】
蒸留塔104bにより、トリクロロシランを主成分とするクロロシラン類の分離と精製が行われる。蒸留塔104bの塔頂部より系外に回収して、十分にドナー不純物およびアクセプタ不純物が除去された高純度のクロロシラン類を得ることができる。
【0042】
蒸留塔104bは、適切な処理量をもつ塔径と適切な分離能力が得られる段数があれば、1系列でもよい。もちろん、2系列以上の蒸留塔を用いて精製を行ってもよい。
【0043】
得られたクロロシラン類は、充分にドナー不純物およびアクセプタ不純物が除去された高純度のクロロシラン類であり、半導体グレードの高純度多結晶シリコン等を製造するための原料クロロシラン類としても充分な程度の高純度(電子材料グレード)のものである。
【0044】
精製工程104において、蒸発器104aの釜残や蒸留塔104bの塔底液(以下では「精製工程残液」と呼ぶ)は適宜系外に排出されることになるが、この精製工程残液中には、クロロシラン類、過剰に用いられた有機化合物、ドナー不純物およびアクセプタ不純物の高沸点物が含まれている。このうち、クロロシラン類と有機化合物は、再度、不純物転化工程103において再利用可能なものである。
【0045】
図2は、精製工程104で生じる残液(精製工程残液)を、不純物転化工程103において再利用することとした態様を示すブロック図である。この態様では、精製工程104で電子材料グレードのクロロシラン類を分離した後のクロロシラン類留出物残液の少なくとも一部を、上述した有機化合物の少なくとも一部として不純物転化工程103に供給している。このような再利用を行えば、残液中のクロロシラン類の有効利用が図られることに加え、不純物転化工程103に再供給されることとなる有機化合物の分だけ、外部から供給する有機化合物の量を低減させることができる。
【0046】
なお、図3に示した態様のように、精製工程残液を不純物転化工程103に供給する前に、予め、上述した有機化合物とクロロシラン類を主成分とする留分を分離して、有機化合物とクロロシラン類を主成分とする留分を、有機化合物の少なくとも一部として不純物転化工程103に供給する高沸点物分離工程201を設けるようにしてもよい。このような高沸点物分離工程201には、蒸留塔などを用いればよい。上述した有機化合物とクロロシラン類を主成分とする留分を分離した高沸点物を主成分とする残液には、不要物であるドナー不純物およびアクセプタ不純物の高沸点物が含まれており、かかる不要物を一部系外に抜き出しながら有用物を回収することができる。
【0047】
なお、精製工程残液の全量を不純物転化工程103に再供給することを続けると、ドナー不純物およびアクセプタ不純物の高沸点物の濃縮により不都合が生じ得る。従って、クロロシラン類留出物に含有されているドナー不純物およびアクセプタ不純物の量に応じて、精製工程残液の再供給量を調整することが好ましい。
【0048】
[第2の実施態様]
図4〜図9は、本発明のクロロシラン類の精製方法の他の態様を説明するためのブロック図で、これらの図に示したクロロシラン類の精製方法では、第1の実施態様が備える工程に加え、高沸点留分分離工程301および低沸点留分分離工程302の少なくとも一方の工程が設けられている。
【0049】
ここで、高沸点留分分離工程301は、水素化工程101または塩素化工程102で得られたクロロシラン類留出物を、トリクロロシランおよびトリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とする第1類のクロロシラン類留出物と、テトラクロロシランおよびテトラクロロシランよりも高沸点の留分を主成分とする第2類のクロロシラン類留出物とに分離し、第1類のクロロシラン類留出物を、不純物転化工程103、あるいは不純物転化工程103の前に別途設けられる低沸点留分分離工程302に供給する工程である。
【0050】
また、低沸点留分分離工程302は、水素化工程101または塩素化工程102で得られたクロロシラン類留出物を、トリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とする第3類のクロロシラン類留出物と、トリクロロシランおよびトリクロロシランよりも高沸点の留分を主成分とする第4類のクロロシラン類留出物とに分離し、第4類のクロロシラン類留出物を、不純物転化工程103、あるいは不純物転化工程103の前に別途設けられる高沸点留分分離工程301に供給する工程である。
【0051】
図4に示した態様では、水素化工程101および/または塩素化工程102で生成したトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を、高沸点留分分離工程301により精製してクロロシラン類留出物中のトリクロロシラン濃度を高めた後に不純物転化工程103へと送る。
【0052】
水素化工程101または塩素化工程102で生成したクロロシラン類留出物中には、ジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシランの他、ジクロロシランよりも低沸点の不純物やテトラクロロシランよりも高沸点の不純物も混在している。
【0053】
従って、予め、テトラクロロシランおよびテトラクロロシランシランよりも高沸点の留分を分離しておき、不純物転化工程103に送られるクロロシラン類留出物中のトリクロロシラン濃度を高めておくこととすれば、不純物転化工程103の装置負荷の軽減等、多結晶シリコン製造用の原料を精製するという観点から有益である。
【0054】
ここでの高沸点留分分離工程301では、水素化工程101または塩素化工程102から送られてくるトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を、トリクロロシランおよびトリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(便宜上、「第1類のクロロシラン類留出物」という)とテトラクロロシランおよびテトラクロロシランよりも高沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(便宜上、「第2類のクロロシラン類留出物」という)に分離する。
【0055】
この様な分離には、蒸留塔などを用いることができる。例えば、塔頂部より上述の第1類のクロロシラン類留出物を抜き取り、塔底部より上述の第2類のクロロシラン類留出物を抜き取る。その後、トリクロロシランおよびトリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(第1類のクロロシラン類留出物)は、不純物転化工程103へと送られる。
【0056】
図5に示した態様のように、水素化工程101および/または塩素化工程102で生成したトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を、低沸点留分分離工程302により精製してクロロシラン類留出物中のトリクロロシラン濃度を高めた後に不純物転化工程103へと送るようにしてもよい。
【0057】
ここでの低沸点留分分離工程302では、水素化工程101または塩素化工程102から送られてくるトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を、トリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(便宜上、「第3類のクロロシラン類留出物」という)と、トリクロロシランおよびトリクロロシランよりも高沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(便宜上、「第4類のクロロシラン類留出物」という)に分離する。
【0058】
この様な分離には、蒸留塔などを用いることができる。例えば、塔頂部より上述の第3類のクロロシラン類留出物を抜き取り、塔底部より上述の第4類のクロロシラン類留出物を抜き取る。その後、トリクロロシランおよびトリクロロシランよりも高沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(第4類のクロロシラン類留出物)は、不純物転化工程103に送られる。
【0059】
図6で示した態様のように、高沸点留分分離工程301で処理して得たトリクロロシランおよびトリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(第1類のクロロシラン類留出物)を、更に低沸点留分分離工程302で処理して、トリクロロシランよりも低沸点のジクロロシラン等のクロロシラン類を分離することで、更にトリクロロシラン濃度を高めたものを不純物転化工程103に送ることとしてもよい。
【0060】
また、図6に示した態様とは逆に、図7で示した態様のように、低沸点留分分離工程302を先に設け、トリクロロシランよりも低沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(第3類のクロロシラン類留出物)を分離した後のクロロシラン類を高沸点留分分離工程301に送ってテトラクロロシランおよびテトラクロロシランよりも高沸点の留分を主成分とするクロロシラン類(第2類のクロロシラン類留出物)を分離するようにしてもよい。
【0061】
図8に示した態様では、図2を参照して説明したとおり、精製工程残液を、不純物転化工程103において再利用することとしている。この態様では、精製工程残液の少なくとも一部を、上述した有機化合物の少なくとも一部として不純物転化工程103に供給している。
【0062】
図9に示した態様では、図3を参照して説明したとおり、精製工程残液を不純物転化工程103に供給する前に、予め、上述した有機化合物とクロロシラン類を主成分とする留分と高沸点物を主成分とする留分とに分離して、前者(有機化合物とクロロシラン類を主成分とする留分)を有機化合物の少なくとも一部として不純物転化工程103に供給する高沸点物分離工程201を設けている。
【実施例】
【0063】
以下では、実施例により、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0064】
[実施例1]
図2のブロック図に示した設備により、クロロシラン類の精製を実施した。トリクロロシランが70%、テトラクロロシランが30%のクロロシラン類留出物混合液に、混合液中のホウ素量のモル基準で1,000倍になるよう、不純物転化工程103にてベンズアルデヒドを添加した。ベンズアルデヒドが添加されたクロロシラン類留出物は精製工程104に送られ、蒸発器および蒸留塔にて分離を行った。蒸留塔の塔頂部より、トリクロロシランを主成分とする精製されたクロロシラン類を得た。精製されたクロロシラン類を原料に多結晶シリコンを製造してその抵抗率を測定したところ、導電型はn型で3,550Ωcmと高抵抗であった。
【0065】
[実施例2]
図3のブロック図に示した設備により、クロロシラン類の精製を実施した。トリクロロシランが70%、テトラクロロシランが30%のクロロシラン類留出物混合液に、混合液中のホウ素量のモル基準で1,000倍になるよう、不純物転化工程103にてα-ペンチルシンナムアルデヒドを添加した。α-ペンチルシンナムアルデヒドが添加されたクロロシラン類留出物は精製工程104に送られ、蒸発器および蒸留塔にて分離を行った。蒸留塔の塔頂部より、トリクロロシランを主成分とする精製されたクロロシラン類を得た。精製されたクロロシラン類を原料に多結晶シリコンを製造してその抵抗率を測定したところ、導電型はn型で1,850Ωcmと高抵抗であった。精製工程104の蒸留塔の塔底部より排出された残液は、高沸点物分離工程201にてα-ペンチルシンナムアルデヒドを分離し、不純物転化工程103に再供給した。
【0066】
以上説明したように、本発明により、クロロシラン類の精製を高効率かつ高純度で行う方法が提供される。本発明により得られる電子材料グレードクロロシラン類は、半導体用途の多結晶シリコン製造用として有益であるばかりではなく、太陽電池用途の多結晶シリコン製造、シリコン酸化膜の成膜、多結晶シリコン膜の成膜、シリコン化合物薄膜の成膜、エピタキシャルウェハ製造の何れかを目的とした原料としても有益である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、クロロシラン類留出物中からドナー不純物であるリン不純物およびアクセプタ不純物であるホウ素不純物を効率よく除去し、クロロシラン類を高純度に精製するための技術を提供する。
【符号の説明】
【0068】
101 水素化工程
102 塩素化工程
103 不純物転化工程
104 精製工程
104a 蒸発器
104b 蒸留塔
201 高沸点物分離工程
301 高沸点留分分離工程
302 低沸点留分分離工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属グレードシリコンの存在下でテトラクロロシランを主成分とするクロロシラン類と水素を反応させてトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を得る水素化工程、または、金属グレードシリコンと塩化水素を反応させてトリクロロシランを含むクロロシラン類留出物を得る塩素化工程と、
前記水素化工程または塩素化工程で得られたクロロシラン類留出物を蒸留補助剤として作用する有機化合物の存在下で処理して前記クロロシラン類留出物中に含有されているホウ素不純物およびリン不純物の少なくとも一方の不純物を高沸点物に転化させる不純物転化工程と、
前記不純物転化工程を経たクロロシラン類留出物から精製クロロシラン類を分離して系外に回収する精製工程と、を備え、
前記精製工程は、
蒸発器を用いて前記クロロシラン類留出物中のクロロシラン類を蒸発させることにより該クロロシラン類を前記不純物の高沸点物および前記有機化合物の残留分と分離する第1の精製工程と、
蒸留器を用いて前記第1の精製工程で分離されたクロロシラン類を蒸留する第2の精製工程と、
を備えていることを特徴とするクロロシラン類の精製方法。
【請求項2】
前記蒸留補助剤は、エーテル類、アルデヒド類、ケトン類、オキシム類、エステル類、及び、ラクトン類の群より選択される、請求項1に記載のクロロシラン類の精製方法。
【請求項3】
前記第1の精製工程において、前記蒸発器の内壁面温度を150℃以下とする、請求項1又は2に記載のクロロシラン類の精製方法。
【請求項4】
前記蒸発器の内壁面温度は100℃以下である、請求項3に記載のクロロシラン類の精製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1632(P2013−1632A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137664(P2011−137664)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】