説明

クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法

【課題】医薬品原料などの合成中間体として有用なクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】スルホ安息香酸化合物の金属塩を、塩素化し、副生する金属塩化物を酸性水で溶解した後、分液除去することを特徴とする下式


(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、ニトロ基またはカルボキシル基を示す。MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属原子を示し、少なくとも一方は、アルカリ金属原子である。)で表されるクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品原料などの合成中間体として有用なクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物は医薬品等の重要な中間体として使用される。スルホ安息香酸化合物は、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造のための有用な原料となりえるが、潮解性など取り扱いの問題からスルホ安息香酸化合物の金属塩が工業的に流通されている。そのため、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物を得るためには、スルホ安息香酸化合物の金属塩を塩素化した後、金属塩化物を取り除く必要がある。
【0003】
例えば、金属塩化物をろ過することにより除去する場合、ろ過性が著しく悪く長時間を要し工業的に困難である。そこで、水を添加し、金属塩化物を溶解させた後、分液除去する方法が提案されている。(特許文献1)
【0004】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】中国特許出願公開第101550097号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法によると、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物が加水分解しやすく、収率が低下するため工業的に不利である。
【0007】
本発明の課題は、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物を簡便に、かつ高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、スルホ安息香酸化合物の金属塩を非水溶性有機溶媒中で塩素化し、酸性水で金属塩化物を溶解した後、分液除去することにより、ろ過の必要が無く、また、加水分解が起こりにくく、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物を収率よく取得できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下に示すとおりの、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法に関する。
【0010】
項1.式(1);
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、ニトロ基またはカルボキシル基を示す。MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属原子を示し、少なくとも一方は、アルカリ金属原子である。)で表されるスルホ安息香酸化合物の金属塩を、塩素化し、副生する金属塩化物を酸性水で溶解した後、分液除去することを特徴とする、式(2);
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Rは、前記式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。
【0015】
項2.項1に記載の酸性水が、塩酸水または硫酸水である、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。
【0016】
項3.クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物が、3−クロロスルホニルベンゾイルクロライドである、項1または2に記載のクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明に用いられるスルホ安息香酸化合物の金属塩は、下記式(1)で表される化合物である。
【0019】
【化4】

【0020】
式(1)において、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、ニトロ基またはカルボキシル基を示す。
【0021】
Rで示されるハロゲン原子としては、例えば、塩素原子および臭素原子等を挙げることができる。
【0022】
Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基等を挙げることができる。
【0023】
Rで示される炭素数1〜4のアルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基およびブトキシ基等を挙げることができる。
【0024】
これらの中で、Rの好ましい例としては、水素原子、塩素原子、メチル基およびメトキシ基を挙げることができる。
【0025】
また、式(1)において、MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属原子を示し、少なくとも一方は、アルカリ金属原子である。
【0026】
およびMで示されるアルカリ金属原子としては、例えば、リチウム原子、ナトリウム原子およびカリウム原子等を挙げることができる。
【0027】
式(1)で表されるスルホ安息香酸化合物の金属塩の具体例としては、例えば、3−スルホ安息香酸ナトリウム、4−スルホ安息香酸カリウム、2−スルホ安息香酸カリウム、3−スルホ−5−ニトロ安息香酸ナトリウム、2−スルホ−5−ニトロ安息香酸カリウム、2−スルホ−4−ニトロ安息香酸カリウム、3−スルホ−5−メチル安息香酸ナトリウム、2−スルホ−5−メチル安息香酸カリウム、3−スルホ−5−エチル安息香酸ナトリウム、2−スルホ−5−エチル安息香酸カリウム、3−スルホ−5−メトキシ安息香酸ナトリウム、2−スルホ−5−メトキシ安息香酸カリウム、3−スルホ−5−クロロ安息香酸ナトリウムおよび2−スルホ−5−クロロ安息香酸カリウム等を挙げることができる。これらの中でも、入手が容易である観点から、3−スルホ安息香酸ナトリウムであることが好ましい。
【0028】
本発明で用いる塩素化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化チオニル、三塩化燐および五塩化燐を挙げることができる。
【0029】
塩素化剤の使用割合は、収率を向上させる観点および経済性の観点から、スルホ安息香酸化合物の金属塩1モルに対して、2〜6モルであることが好ましい。
【0030】
また、塩素化剤に加えて、アミド化合物を添加してもよい。塩素化剤にアミド化合物を作用させることにより、ビルスマイヤー反応でみられる反応性の高いビルスマイヤー錯体を生成させ、塩素化反応を促進させることができる。
【0031】
塩素化反応を促進させるために用いられるアミド化合物としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジイソプロピルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドおよびN,N−ジイソプロピルアセトアミド等を挙げることができる。
【0032】
アミド化合物の使用量は、特に限定されないが、収率を向上させる観点および経済性の観点から、スルホ安息香酸化合物の金属塩100質量部に対して、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは1〜100質量部の範囲である。
【0033】
前記塩素化反応に用いられる溶媒は、当該反応に対して不活性な溶媒であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼンおよびキシレン等を挙げることができる。
【0034】
溶媒の使用量は、操作性を向上させる観点および経済性の観点から、スルホ安息香酸金属塩化合物100質量部に対して、100〜10000質量部であることが好ましい。
【0035】
塩素化の反応温度は、特に限定されないが、50〜150℃であるのが好ましい。反応温度が150℃を超えると、副反応が起こりやすく、50℃未満であると、反応速度が遅くなり過ぎるので好ましくない。反応時間は、反応温度によって異なるために一概には言えないが、0.5〜24時間であるのが好ましい。
【0036】
本発明のクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法においては、金属塩化物が副生するため、除去する必要がある。そこで、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の加水分解を抑制し、金属塩化物を分液除去するために酸性水を用いる。
金属塩化物を分液除去するための酸性水としては、塩酸水、硫酸水、リン酸水および硝酸水等が挙げられる。中でも、経済的な観点から塩酸水または硫酸水が好ましく用いられる。
【0037】
本発明において、使用される酸性水の濃度は、好ましくは5.0〜50.0質量%、より好ましくは7.0〜10.0質量%の範囲である。酸性水の濃度が、5.0質量%未満の場合には、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の加水分解が起こりやすくなり、50.0質量%を超える場合、金属塩化物を溶解するために多量の酸性水が必要となり、経済的に不利である。
【0038】
また、酸性水の使用量は、特に制限されるものではないが、スルホ安息香酸化合物の金属塩100質量部に対して、好ましくは100〜10000質量部、より好ましくは100〜1000質量部の範囲である。酸性水の使用量が、100質量部未満の場合には、金属塩化物に溶け残りが見られるおそれがあり、10000質量部を超える場合、使用量に見合う効果が得られず、経済的に不利である。
【0039】
金属塩化物を酸性水で溶解した後、分液除去する温度は、特に限定されないが、0〜25℃であるのが好ましい。分液除去する温度が25℃を超える場合、加水分解が起こりやすくなり、0℃未満の場合、金属塩化物が溶解しにくくなり、分液操作が困難となるおそれがある。金属塩化物を酸性水により分液除去する時間は、分液除去する温度によって異なるために一概には言えないが、0.2〜2時間であるのが好ましい。
【0040】
上記のようにして得られる反応液から、目的とするクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物を単離および精製する方法としては、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物が液体の場合は、減圧蒸留する方法等により、また、固体の場合は、そのまま晶析させるか、抽出して再結晶させる方法等により単離および精製することができる。
【0041】
かくして得られる式(2)で表されるクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の具体例としては、3−クロロスルホニルベンゾイルクロライド、4−クロロスルホニルベンゾイルクロライド、2−クロロスルホニルベンゾイルクロライド、3−クロロスルホニル−5−ベンゾイルクロライド、2−クロロスルホニル−5−ベンゾイルクロライド、2−クロロスルホニル−4−ベンゾイルクロライド、3−クロロスルホニル−5−メチルベンゾイルクロライド、2−クロロスルホニル−5−ベンゾイルクロライド、3−クロロスルホニル−5−エチルベンゾイルクロライドム、2−クロロスルホニル−5−エチルベンゾイルクロライド、3−クロロスルホニル−5−メトキシベンゾイルクロライド、2−クロロスルホニル−5−メトキシベンゾイルクロライド、3−クロロスルホニル−5−クロロベンゾイルクロライドおよび2−クロロスルホニル−5−クロロベンゾイルクロライド等を挙げることができる。これらの中でも、原料の入手が容易である観点から、3−クロロスルホニルベンゾイルクロライドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、医薬品等の重要な中間体であるクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物を、簡便に、かつ高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0044】
実施例1
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた3L容の四つ口フラスコに、3−スルホ安息香酸ナトリウム50.0g(0.22モル)、N,N−ジメチルホルムアミド0.9gおよびトルエン97.0gを仕込み、塩化チオニル61.0g(0.51モル)を滴下した後、70℃で5時間撹拌した。反応終了後、10℃まで冷却し、8質量%塩酸水87.0gを添加した後、分液を行った。得られた油層の溶媒を留去し、3−クロロスルホニルベンゾイルクロライド51.5g(0.215モル)を得た。得られた3−クロロスルホニルベンゾイルクロライドの収率は、3−スルホ安息香酸ナトリウムに対して98%であり、純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、98.0%であった。
【0045】
比較例1
撹拌機、温度計、滴下ロートおよび冷却管を備えた3L容の四つ口フラスコに、3−スルホ安息香酸ナトリウム50.0g(0.22モル)、N,N−ジメチルホルムアミド0.9gおよびトルエン97.0gを仕込み、塩化チオニル61.0g(0.51モル)を滴下した後、70℃で5時間撹拌した。反応終了後、10℃まで冷却し、水87.0gを添加した後、分液を行った。得られた油層の溶媒を留去し、3−クロロスルホニルベンゾイルクロライド40.9g(0.17モル)を得た。得られた3−クロロスルホニルベンゾイルクロライドの収率は、3−スルホ安息香酸ナトリウムに対して78%であり、純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、94.0%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシル基、ニトロ基またはカルボキシル基を示す。MおよびMは、それぞれ独立して、水素原子またはアルカリ金属原子を示し、少なくとも一方は、アルカリ金属原子である。)で表されるスルホ安息香酸化合物の金属塩を、塩素化し、副生する金属塩化物を酸性水で溶解した後、分液除去することを特徴とする式(2);
【化2】

(式中、Rは、前記式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表されるクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸性水が、塩酸水または硫酸水である、クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。
【請求項3】
クロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物が、3−クロロスルホニルベンゾイルクロライドである、請求項1または2に記載のクロロスルホニルベンゾイルクロライド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2013−95703(P2013−95703A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240058(P2011−240058)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】