説明

クロロパーフルオロアシル酢酸エステルの製造方法

【課題】クロロパーフルオロ酢酸エステルの新規製造方法の提供。
【解決手段】式(1):


(但し、R1はトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基を表し、R2はC1−4アルキル基を示す)で表される化合物を蒸留するか、沸点以下の温度で加熱した後、20℃以下に冷却塩素化を行うことを特徴とする、式(2)


(但し、R1はトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基を表し、R2はC1−4アルキル基を示す)で表される2−クロロ−パーフルオロアシル酢酸エステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬や医薬の製造中間体として有用な化合物であるクロロパーフルオロアシル酢酸エステルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーフルオロアシル酢酸エステルを塩素化してクロロパーフルオロアシル酢酸エステルを製造する、中でもトリフルオロアセト酢酸エチルを塩素化して、クロロトリフルオロアセト酢酸エチルを製造する方法としては、例えば特許文献1〜3,非特許文献1などが知られている。しかし、収率は87〜95%であり、必ずしも満足のいくものではない。また、原料のトリフルオロアセト酢酸エチルを蒸留するか、加熱後冷却してから塩素化を行うという方法は知られていない。
【特許文献1】特開2001−220302号公報
【特許文献2】特開2001−172269号広報
【特許文献3】特開2001−172270号広報
【非特許文献1】ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサエティ,(1958年),第80巻,187ページ
【非特許文献2】アグリカルチュラル ケミストリー アンド バイオテクノロジー(イングリッシュ エディション),(2002年),第45巻(1),37ページ
【非特許文献3】ビュレティン オブ ザ コリアン ケミカル ソサエティ,(2001年),第22巻(2),149ページ
【非特許文献4】アーカイブズ オブ ファルマカル リサーチ,(2000年),第23巻(4),315ページ
【非特許文献5】セリヤ キミシェスカヤ(SeriyaKhimicheskaya),(1984年),(5),1106ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の通り、既存の方法は、クロロパーフルオロアシル酢酸エステル、特にクロロトリフルオロアセト酢酸エチルを製造する方法としては収率面で改善の余地を残している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、このような状況に鑑み、鋭意検討した結果、クロロトリフルオロアセト酢酸エチルを製造する際に、原料のトリフルオロアセト酢酸エチルを蒸留するか、あるいは100℃程度で加熱後冷却してから行うと収率が向上することを見いだし、発明に至った。
すなわち、本発明は、
〔1〕式(1):
【0005】
【化1】



【0006】
(但し、R1はトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基を表し、R2はC1−4アルキル基を示す)で表される化合物を加熱した後、20℃以下に冷却してから塩素化を行うことを特徴とする、式(2)
【0007】
【化2】



【0008】
(但し、R1はトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基を表し、R2はC1−4アルキル基を示す)で表される2−クロロ−パーフルオロアシル酢酸エステルの製造方法。
〔2〕加熱が蒸留である、〔1〕記載の製造方法。
〔3〕加熱が沸点以下での加熱である、〔1〕記載の製造方法。
〔4〕加熱が80℃ないし120℃での加熱である、〔1〕記載の製造方法。
〔5〕R1がトリフルオロメチル基であり、R2がエチル基である、〔1〕、〔2〕、〔3〕または〔4〕記載の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、農医薬の製造中間体として重要なクロロパーフルオロアシル酢酸エステルを定量的に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、原料となるパーフルオロアシル酢酸エステルを蒸留する際の条件としては常圧でもかまわないが、減圧下70℃〜80℃、好ましくは75℃程度である。
加熱する際の温度としては、通常80℃〜120℃であり、好ましくは90℃〜110℃である。
加熱は不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
加熱時間は通常2〜10時間であり、好ましくは4〜8時間である。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴンが挙げられるが、工業的な入手のしやすさ、取り扱い等の観点から窒素ガスが好ましい。
加熱後に塩素化を行う際の塩素化剤としては塩素ガス、または液化塩素が好ましい。
塩素化の際の温度としては、20℃以下が好ましく、10℃以下が更に好ましい。
塩素の使用量は、原料に対し0.9〜5当量までの範囲から選べるが、好ましくは1〜1.5当量の範囲である。
本発明の製造方法は無溶媒で実施することが最も好ましいが、溶媒中で行ってもよい。
その際の溶媒としては、反応に不活性であればよく、例えばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン、メチルシクロペンチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1、2−ジクロロエタン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、あるいはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
反応終了後は、得られたクロロパーフルオロアシル酢酸エステルは反応系内に窒素ガスを吹き込むなどして塩酸ガス、及び過剰の塩素を除去すれば生成物をそのまま次の反応に供することが出来る。
必要に応じ蒸留等の通常の手段で単離精製することも出来る。
本発明によれば、反応に供する原料のパーフルオロアシル酢酸エステルは蒸留を実施するか、操作的には加熱のみでも良い。加熱のみの場合は蒸留設備が不要となり設備面での負荷軽減をもたらすことから工業的にも非常に有利である。
また、蒸留あるいは加熱処理により収率が向上するため蒸留精製しなくても次工程での高収率が期待できる。
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に述べるが、本発明はこれによって限定されるものではない。
〔実施例1〕
トリフルオロアセト酢酸エチル60g(0.326mol)を窒素雰囲気下100℃で6時間加熱した後、5〜10℃に冷却し、そこへ塩素ガス25.4g(0.358mol、すなわちトリフルオロアセト酢酸エチルに対し1.1当量)を、窒素気流下にて温度を5〜10℃に保ちながら加え、さらに室温で30分反応させた。窒素ガスを2時間通じて過剰な塩素ガス、発生した塩酸ガスを追い出し、70.62gのクロロトリフルオロアセト酢酸エチルを得た(収率99%)。
〔実施例2〕
トリフルオロアセト酢酸エチル38gを減圧蒸留(74℃/100mmHg)して、36.6gを得た。窒素気流下、蒸留品5.0g(27.17mmol)を5〜10℃に冷却し、その温度を維持しながら2.1g(29.56mmol、すなわちトリフルオロ酢酸エチルに対し1.1当量)を吹き込んだ。このときガスクロマトグラフィー(GC)により反応を確認したが、原料のトリフルオロアセト酢酸エチルはほぼ消失していた。
〔比較例:100℃に加熱しない例〕
窒素気流下トリフルオロアセト酢酸エチル5.47g(29.73mmol)を5〜10℃に冷却し、その温度を維持しながら塩素ガス3.17g(44.60mmol、すなわちトリフルオロアセト酢酸エチルに対し1.5当量)を吹き込んだ。このときガスクロマトグラフィー(GC)により反応を確認したが、原料のトリフルオロアセト酢酸エチルが16.4%残留していた。さらに塩素ガス1.18g(16.62mmol)を追加したが、反応は進まなかった。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明の製造方法は、農薬や医薬の製造中間体として有用な化合物であるクロロパーフルオロアシル酢酸エステルの製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】



(但し、R1はトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基を表し、R2はC1−4アルキル基を示す)で表される化合物を加熱した後、20℃以下に冷却してから塩素化を行うことを特徴とする、式(2)
【化2】



(但し、R1はトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基を表し、R2はC1−4アルキル基を示す)で表される2−クロロ−パーフルオロアシル酢酸エステルの製造方法。

【請求項2】
加熱が蒸留である、請求項1記載の製造方法。

【請求項3】
加熱が沸点以下での加熱である、請求項1記載の製造方法。

【請求項4】
加熱が80℃ないし120℃での加熱である、請求項1記載の製造方法。

【請求項5】
R1がトリフルオロメチル基であり、R2がエチル基である、請求項1、2、3または4記載の製造方法。


【公開番号】特開2007−39384(P2007−39384A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225685(P2005−225685)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】