説明

クロロヒドリンの製造触媒

【課題】
グリセリン等の多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルと塩素化剤を反応させることによりクロロヒドリン類を得る製造方法において、より効率の良いクロロヒドリン類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
クロロヒドリン類の製造において、カルボン酸及びカルボン酸誘導体からなる化合物群から選択される少なくとも1種以上の化合物と、固体触媒の共存下で、多水酸基脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルを塩素化剤と反応させることにより、クロロヒドリン類の生成を飛躍的に高めることができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピクロロヒドリン、グリシドールなどの製造のために使用されるクロロヒドリン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エピクロロヒドリンの製造に用いられるジクロロヒドリンは、アリルクロライドをクロロヒドリン化することにより一般的に製造される。しかし一般的な製造方法は以前より副生成物であるトリクロロプロパン等の塩素化物が生成するという問題及び廃水が多量に生じるという問題があり、新しい製造方法が望まれている。
【0003】
ジクロロヒドリンの他の製造方法として、ギ酸や酢酸等の触媒存在下、グリセリンと塩化水素ガスを反応させてジクロロヒドリンを製造する方法が知られている。この方法はトリクロロプロパン等の塩素化物を副生することなく、ジクロロヒドリンが製造できる点で好ましい。
【0004】
更に、この製造方法で使用される原料のグリセリンは、植物油や動物油を原料とする反応又はバイオディーゼルの製造により生成する低コストの再生可能資源であることから、経済的又は環境的観点から見ても望ましい原料であると考えられる。
【0005】
上記理由によりグリセリンを原料とするクロロヒドリンの製造方法に関し、反応に有効な触媒の探索、反応条件及び製造工程について、近年活発に研究されている(例えば、特許文献1〜4参照)。現在は触媒としてカルボン酸、カルボン酸誘導体、カルボン酸構造を有した化合物が使用されている。
【0006】
上述のグリセリンと塩化水素ガスを反応させるクロロヒドリンの製造方法は、一般に前記カルボン酸系触媒存在下、下記式(1)で示される。
【化1】

【0007】
【特許文献1】WO2005/021476
【特許文献2】WO2005/054167
【特許文献3】WO2006/020234
【特許文献4】WO2006/110810
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、グリセリン等の多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルと塩素化剤を反応させることによりクロロヒドリン類を得る製造方法において、より効率の良いクロロヒドリン類の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討を重ねたところ、クロロヒドリン類の製造において、カルボン酸及びカルボン酸誘導体からなる化合物群から選択される少なくとも1種以上の化合物と、固体触媒の共存下で、多水酸基脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルを塩素化剤と反応させることにより、クロロヒドリン類の生成を飛躍的に高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルと塩素化剤を反応させることによりクロロヒドリン類を得る製造方法において、カルボン酸系触媒に固体触媒を共存させることにより、従来技術にあるカルボン酸系触媒を単独で用いるよりも、クロロヒドリン類、特にジクロロヒドリンの生成を飛躍的に高めることができた。
【0011】
更に驚くべきことに、固体触媒を共存させることにより、カルボン酸触媒の添加量を大幅に低減することができることが分かった。また固体触媒を用いるメリットは容易に分離・回収できるために、繰り返して使用することが可能である点である。これら固体触媒の使用による効果、及び固体触媒の特性により、触媒コストや環境負荷の大幅な低減が可能となった。
【0012】
また、本発明の触媒を使用した場合、特に、ジクロロプロパノールの生成において、2,3-ジクロロ-1-プロパノールに比して1,3-ジクロロ-2-プロパノールが高選択的に生成した。この1,3-ジクロロ-2-プロパノールは、塩基との反応によるエピクロロヒドリン生成速度が2,3-ジクロロ-1-プロパノールに比して大きいためエピクロロヒドリンの効率的な製造が可能となった。
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明では、カルボン酸系触媒に固体触媒を共存させることにより、グリセリン等の多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルと塩素化剤を反応させることによって、短時間に高い選択率でクロロヒドリンを生成することができる。本発明の方法はバッチ式で反応させることも出来るが、工業的には連続的に反応を進めることが望ましい。
【0014】
出発原料である「多水酸基置換脂肪族炭化水素」とは少なくとも二つ以上の水酸基が別々の炭素原子に結合した脂肪族炭化水素をいう。そのような「脂肪族炭化水素」の炭素数は、2〜60であることが好ましく、2〜40であることがより好ましく、2〜20であることが更に好ましく、2〜6であることが特に好ましく、2〜3であることが最も好ましい。そのような多水酸基置換脂肪族炭化水素として、例えば1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、3-クロロ-1,2-プロパンジオール、2-クロロ-1,3-プロパンジオール、グリセリン、1,2−ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2,4-ブタントリオール等を例示できる。
【0015】
「多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステル」とは、多水酸基置換脂肪族炭化水素をエステル化した化合物を言い、例えばエチレングリコールモノアセテートやグリセリンモノアセテート、グリセリンジアセテート、モノクロロヒドリンアセテート、カルボン酸と多水酸基置換脂肪族炭化水素のモノエステル、ジエステル等を例示できる。
【0016】
多水酸基置換脂肪族炭化水素及びそのエステルは水、有機溶媒、塩、有機化合物を含んだものであっても良い。例えば水やナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを含んだ粗製グリセリンなどが挙げられる。また粗製多水酸基置換脂肪族炭化水素及びそのエステルを精製し、出発原料として精製後の多水酸基置換脂肪族炭化水素及びそのエステルを用いても良い。多水酸基置換脂肪族炭化水素及びそのエステルの純度については、50重量%以上が望ましく、さらに望ましくは80重量%以上である。
【0017】
本発明の「塩素化剤」として、塩化水素ガス及び塩化水素ガスと不活性ガス(例えば窒素ガス、アルゴン及びヘリウム等)の混合物等の気体状の塩化水素、及び塩酸等の液体状の塩化水素であっても良い。
【0018】
本発明で使用されるカルボン酸系触媒としては、カルボン酸及びカルボン酸誘導体からなる化合物群から選択される少なくとも1種以上の化合物が使用できる。カルボン酸およびカルボン酸誘導体としては、炭素数1〜30を有する化合物が使用できるが、1〜20の炭素数を有するモノカルボン酸、または、2〜24の炭素数を有するジカルボン酸とこれらカルボン酸の誘導体が好ましい。モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸及びオクタデカン酸、ジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびウンデカン酸が更に好ましく、カルボン酸誘導体としてはこれらカルボン酸の誘導体がより好ましい。また、カルボン酸誘導体はカルボン酸の塩、酸無水物、エステルを例示することができ、カルボン酸誘導体としてはカルボン酸エステルが好ましい。また、場合によっては、カルボン酸エステルは原料であり、触媒にもなりうる。
【0019】
本発明で使用される「固体触媒」としては、例えば、無機酸化物、無機ハロゲン化物及び酸性有機化合物及びそれらの組み合わせを例示することができる。
「無機酸化物」として、例えば、金属酸化物、複合酸化物、オキシ酸及びオキシ酸塩が好ましい。
「金属酸化物」として、例えばSiO、Al2、TiO、Fe、ZrO、SnO、Ga3、La3、Ce23、CeO、MoO、In3、Tl2O、Tl3等を例示することができる。第3属金属元素および希土類元素の酸化物が好ましく、Ga3、In3、Tl2O、Tl3、La3、Ce23、CeOが特に好ましい。
「複合酸化物」として、例えば、SiO-Al、SiO-TiO、TiO-ZrO、SiO-ZrO、MoO-ZrO等、ゼオライト、ヘテロポリ酸(例えばP、Mo、V、W、Siなどの元素を含有するポリ酸など)、ヘテロポリ酸塩等を例示することができる。ゼオライトとしては、H型でもNa型でも使用できるが、H型が好ましく、SiO2/Alのモル比が30以上のH型高シリカゼオライトが特に好ましい。また前記ヘテロポリ酸、ヘテロポリ酸塩としては、リンタングステン酸、シリコタングステン酸、リンモリブデン酸、シリコモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸がより好ましく、リンタングステン酸の酸性塩が特に好ましい。
「オキシ酸」及び「オキシ酸塩」として、例えば、BPO、AlPO、ポリリン酸、酸性リン酸塩、HBO、酸性ホウ酸塩、ニオブ酸(Nb・nHO)等を例示することができる。
【0020】
「無機ハロゲン化物」としては、例えば、金属ハロゲン化物が好ましい。金属ハロゲン化物としては遷移金属、例えば、スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイドなどの周期表3A族元素、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの周期表4A族元素、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの周期表5A族元素、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金などの周期表8族元素、亜鉛などの周期表2B族元素など)、アルミニウム、ガリウムなど周期表3B族金属、ゲルマニウム、スズなど周期表4B族金属等の金属のフッ化物、塩化物、臭化物又はヨウ化物等を例示できる。
酸性有機化合物として、例えば、有機スルホン酸化合物及びポリカルボン酸化合物が好ましい。有機スルホン酸化合物として、例えば、スルホン酸基含有イオン交換樹脂等の強酸性イオン交換樹脂及び炭素縮合環を含むスルホン酸化合物(CiHjOkSm)等を例示することができる。また、ポリカルボン酸化合物として、カルボン酸基を含有するイオン交換樹脂等の弱酸性イオン交換樹脂を例示することができる。
【0021】
本発明で使用されるカルボン酸系触媒の濃度は、塩素化剤と反応させる出発原料の「多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素エステル」を100重量部として、0.01〜90重量部であることが好ましく、0.1〜40重量部であることがより好ましく、0.3〜20重量部であることが更に好ましい。
【0022】
本発明で使用される固体触媒の濃度は、塩素化剤と反応させる出発原料の「多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素エステル」を100重量部として、0.001〜60重量部であることが好ましく、0.005〜30重量部であることがより好ましく、0.01〜15重量部であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の触媒を用いて、多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素エステルと塩素化剤との反応によりクロロヒドリンを製造する場合の反応は、回分式反応器、又は、流通式反応器のいずれであっても実施できる。また、固体触媒の使用形態は、スラリー状であっても、固定床であっても可能である。
【0024】
本発明の製造方法で得られる目的とする「クロロヒドリン」とは、少なくとも一つの水酸基と塩素原子が別々の炭素原子と結合した化合物を示す。但し、グリセリンの三つの水酸基の一つが塩素原子で置換された2−クロロ−1,3−プロパンジオールは、クロロヒドリンの一種であるが、水酸基を二つ有するので、上述した「多水酸基置換脂肪族炭化水素」にも含まれる。クロロヒドリンとしては、例えば、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、2−クロロ−1,3−プロパンジオール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノールなどが挙げられる。なお本出願においては3−クロロ−1,2−プロパンジオール、2−クロロ−1,3−プロパンジオール及びこれらの混合物を総称して「モノクロロヒドリン」ともいい、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノール及びこれらの混合物を総称して「ジクロロヒドリン」ともいう。
【0025】
本発明における反応温度について好ましい態様としては、50〜200℃、好ましくは70〜160℃、更に好ましくは90〜140℃である。
【0026】
本発明における反応時の圧力は、反応を効率的に進める点で加圧条件が望ましいが、常圧または減圧条件であっても問題は無い。反応は0.01MPaA〜10MPaAであることが好ましく、0.01MPaA〜2MPaAであることより好ましく、0.1MPaA〜0.6MPaAであることが特に好ましい。
【0027】
本発明では反応系より水の除去を行うことにより、より反応を有効に進めることが出来る。水の除去方法は特に限定されず、例えば、蒸留、蒸発、共沸、吸着、気相同伴などの水の除去において一般的に知られているものであれば特に制限は無い。反応を連続的に行う場合には水の除去を連続的に行うことが望ましい。
【0028】
反応終了後には、未反応の多水酸基置換脂肪族炭化水素、反応中間体である他水酸基置換脂肪族炭化水素のモノクロロヒドリン及びそのエステル、部分的に塩素化又はエステル化された多水酸基置換脂肪族炭化水素のオリゴマー及びその混合物を出発原料として再度利用してもよい。
【0029】
生成したクロロヒドリンは一般的に知られている方法を用いることで、他の有機化合物を製造する原料として使用することが出来る。例えば3−クロロ−1,2−プロパンジオール、2−クロロ−1,3−プロパンジオールと塩基を反応させることによりグリシドールの製造、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、2,3−ジクロロ−1−プロパノールと塩基を反応させることによりエピクロロヒドリンの製造などが挙げられる。製造されたエピクロロヒドリンはエポキシ樹脂およびエピクロルヒドリンゴム等の製造並びに医農薬等の出発原料として用いられる。
【0030】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明する。但し、本発明はその要旨を逸脱しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
下記の実施例及び比較例では、ジクロロプロパノールの生成率、及び、モノクロロプロパンジオールの生成率および未反応グリセリン(GL)の残存率は、それぞれ次式によって計算した。
1,3−ジクロロ−2−プロパノール(1,3−DCP)の生成率(%)=生成した1,3−DCPのGCピーク面積/全反応生成物の合計GCピーク面積×100
2,3−ジクロロ−1−プロパノール(2,3−DCP)の生成率(%)=生成した2,3−DCPのGCピーク面積/全反応生成物の合計GCピーク面積×100
3−クロロ−1,2−プロパンジオール(3−MCP)の生成率(%)=生成した3−MCPのGCピーク面積/全反応生成物の合計GCピーク面積×100
2−クロロ−1,3−プロパンジオール(2−MCP)の生成率(%)=生成した2−MCPのGCピーク面積/全反応生成物の合計GCピーク面積×100
未反応GL残存率(GC面積%)=残存したGLのGCピーク面積/全反応生成物の合計GCピーク面積×100
【実施例】
【0032】
実施例1
実施例1では、触媒としてコハク酸およびゼオライトを使用した。反応は、塩化水素ガスの逆止弁つき注入管、撹拌機、圧力計及び安全弁を備えた硝子製オートクレーブを使用して行った。このオートクレーブに市販の試薬コハク酸8.1gおよびH-Y型ゼオライト(米国Zeolyst社製CBV720、以下触媒B−1という)5.4gを入れ、これにグリセリン92gを加えて密閉した後、110℃の油浴に入れ加熱撹拌した。油浴温度が110℃で一定になった後、塩化水素ガスの注入管から塩化水素ガスを0.3MPaGの圧力で注入し2時間反応させた。反応後、反応液を室温まで冷却した後、オートクレーブから反応混合物を取り出し、シリンジフィルターを通して固形分をろ過し、ろ液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。
前記の反応の結果、1,3−DCPの生成率は76.0%、2,3−DCPの生成率は1.6%、3−MCPの生成率は8.8%、2−MCPの生成率は4.5%、GLの残存率は2.4%であった。
【0033】
実施例2
実施例2では、市販の試薬コハク酸8.1gおよびゼオライト(触媒B−1)0.53gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は62.8%、2,3−DCP生成率は1.7%、3−MCPは20.5%、2−MCPは5.7%、GLの残存率は2.5%であった。
【0034】
実施例3
実施例3では、市販試薬のコハク酸8.0gおよび市販試薬の酸化ガリウム(Ga2O3、以下触媒B−2という)5.4gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は65.4%、2,3−DCP生成率は1.9%、3-MCPは14.0%、2-MCPは3.3%、GLの残存率は2.6%であった。
【0035】
実施例4
実施例4では、市販試薬のコハク酸8.1gおよび市販試薬の弱酸性カチオン交換樹脂(アンバーライトIRC76、以下触媒B−3という)5.3gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は65.1%、2,3−DCP生成率は1.4%、3-MCPは23.6%、2-MCPは4.4%、GLの残存率は1.9%であった。
【0036】
実施例5
実施例5では、触媒としてコハク酸およびヘテロポリ酸を使用した。ヘテロポリ酸は、酸性リンタングステン酸セシウム(以下触媒B−4という)であり、J.Mol.Catal., 74(1992), p247−256に記載の方法により合成した。即ち、市販試薬のリンタングステン酸水和物12.246gをイオン交換水に溶かして50.3mlとし、別途、市販試薬の無水炭酸セシウム0.547gをイオン交換水に溶かして20.1mlとした水溶液を調製した。室温で撹拌下の前記のリンタングステン酸水溶液50.3mlに前記の炭酸セシウム水溶液20.1mlを滴下し、得られた沈殿を蒸発乾固した後、蒸発乾固物を305℃で3.5時間真空排気した。
反応は、市販試薬のコハク酸8.0gおよびヘテロポリ酸(触媒B−4)5.4gを使用したこと以外は実施例1と同様に行った。1,3−DCP生成率は60.9%、2,3−DCP生成率は1.6%、3−MCPは23.7%、2−MCPは4.4%、GLの残存率は1.9%であった。
【0037】
実施例6
実施例6では、市販試薬のコハク酸ジエチル16.0gおよびゼオライト(触媒B−1)5.4gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は64.3%、2,3−DCP生成率は1.4%、3−MCPは16.9%、2−MCPは5.0%、GLの残存率は3.2%であった。
【0038】
実施例7
実施例7では、市販試薬のコハク酸ジエチル15.6gおよび酸化ガリウム(触媒B−2)1.4gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は36.6%、2,3−DCP生成率は1.1%、3−MCPは42.9%、2−MCPは6.3%、GLの残存率は3.0%であった。
【0039】
実施例8
実施例8では、市販試薬の無水コハク酸4.4gおよびゼオライト(触媒B−1)5.4gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は63.6%、2,3−DCP生成率は1.5%、3-MCPは19.5%、2-MCPは5.1%、GLの残存率は1.9%であった。
【0040】
実施例9
実施例9では、市販試薬の無水コハク酸4.5gおよび市販試薬の弱酸性カチオン交換樹脂(触媒B−3)5.4gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は59.7%、2,3−DCP生成率は1.5%、3-MCPは26.3%、2−MCPは4.8%、GLの残存率は1.8%であった。
【0041】
実施例10
実施例10では、市販試薬の酢酸5.3gおよびゼオライト(触媒B−1)5.3gを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は79.2%、2,3−DCP生成率は1.6%、3−MCPは7.0%、2−MCPは2.9%、GLの残存率は0.0%であった。
【比較例】
【0042】
比較例1〜5では、触媒B−1〜4の添加なしの系、即ち、カルボン酸およびカルボン酸誘導体のみの存在下の反応を実施した。一方、比較例6〜9では、カルボン酸およびカルボン酸誘導体の添加なしの系、即ち、触媒B−1〜4のみの存在下の反応を実施した。
【0043】
比較例1
比較例1では、触媒として市販試薬のコハク酸7.8gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は50.5%、2,3−DCP生成率は1.2%、3−MCPは35.5%、2−MCPは5.1%、GLの残存率は1.7%であった。
【0044】
比較例2
比較例2では、触媒として市販試薬のコハク酸21.8gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は76.9%、2,3−DCP生成率は1.5%、3−MCPは6.2%、2-MCPは3.4%、GLの残存率は2.5%であった。
【0045】
比較例3
比較例3では、触媒として市販試薬のコハク酸ジエチル15.9gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は32.3%、2,3−DCP生成率は0.8%、3−MCPは48.4%、2−MCPは6.7%、GLの残存率は2.2%であった。
【0046】
比較例4
比較例4では、触媒として市販試薬の無水コハク酸4.5gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は51.5%、2,3−DCP生成率は1.2%、3−MCPは37.5%、2−MCPは8.2%、GLの残存率は0.5%であった。
【0047】
比較例5
比較例5では、触媒として市販試薬の酢酸4.9gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は46.5%、2,3−DCP生成率は0.7%、3−MCPは46.7%、2−MCPは1.8%、GLの残存率は0.0%であった。
【0048】
比較例6
比較例6では、触媒としてゼオライト(触媒B−1)5.4gをのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は0.3%、2,3−DCP生成率は0.0%、3−MCPは16.4%、2-MCPは2.8%、GLの残存率は77.5%であった。
【0049】
比較例7
比較例7では、触媒として市販試薬の酸化ガリウム(触媒B−2)5.4gのみを使用したこと以外は実施例6と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は0.6%、2,3−DCP生成率は0.4%、3−MCPは24.6%、2−MCPは3.5%、GLの残存率は64.6%であった。
【0050】
比較例8
比較例8では、触媒として市販試薬の弱酸性カチオン交換樹脂(触媒B−3)5.4gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は0.4%、2,3−DCP生成率は0.3%、3−MCPは17.9%、2−MCPは2.8%、GLの残存率は74.9%であった。
【0051】
比較例9
比較例9では、触媒としてヘテロポリ酸(触媒B−4)5.4gのみを使用したこと以外は実施例1と同様に反応を行った。1,3−DCP生成率は0.5%、2,3−DCP生成率は0.2%、3−MCPは24.0%、2-MCPは2.9%、GLの残存率は68.7%であった。
【0052】
反応結果を表1にまとめて示す。
【表1】

【0053】
コハク酸及び固体酸であるゼオライトを使用した実施例1の1,3−DCP生成率が76.0%であるのに対して、コハク酸又はゼオライトのいずれか一種のみを使用した比較例1及び6の1,3−DCP生成率は50.5%及び0.3%に過ぎず、コハク酸とゼオライトが共存する場合に1,3−DCP生成を促進する効果が発現することが示される。
また、実施例1、及び、コハク酸の添加量を実施例1の約3倍増としコハク酸のみを使用した比較例2の1,3−DCP生成率を比較すると、各々76.0%及び76.9%となりほぼ同等の活性であることが示され、ゼオライトが共存することによって、コハク酸触媒の使用を大幅に削減できることが示される。また、ゼオライト触媒は固体であり、ろ過、遠心分離、静置−デカンテーション分離、等の分離操作により簡単に分離回収し再使用できることから、本発明のコハク酸−ゼオライト複合触媒系は、触媒コストの低減のみならず、廃棄物の減量による環境負荷の低減の点からも工業プロセスとして有用であることが示される。
更に、コハク酸及び実施例1のゼオライト量を約十分の一に削減して使用した実施例2とコハク酸のみの比較例1の1,3−DCP生成率を比較すると各々62.8%及び50.5%であり、コハク酸量がほぼ同量であっても、極微量のゼオライト添加により、1,3−DCP生成率が大幅に向上する効果があることが示される。
一方、コハク酸、及び、金属酸化物である酸化ガリウム又は固体酸であるイオン交換樹脂又はヘテロポリ酸を共触媒として使用した実施例3、4、5の1,3−DCP生成率が各々65.4%、65.1%、60.9%であるのに対して、コハク酸、酸化ガリウム、イオン交換樹脂、又は、ヘテロポリ酸の何れか一種の触媒のみを使用した比較例1及び7、8、9の1,3−DCP生成率が、各々50.5%及び0.6%、0.4%、0.5%に過ぎないことから、コハク酸触媒に酸化ガリウム、イオン交換樹脂またはヘテロポリ酸が共存される場合に1,3−DCPの生成が促進されることが示される。
表1右欄「GC面積%比」に示した実施例1〜5の1,3−DCP/2,3−DCPの生成率の比は、97/3〜98/2を示し、2,3−DCPに比して1,3−DCPが高選択的に生成することが示される。
【0054】
コハク酸誘導体の一種であるコハク酸ジエチル及び固体酸であるゼオライトを使用した実施例6、及び、コハク酸ジエチル及び金属酸化物である酸化ガリウムを使用した実施例7の1,3−DCP生成率が各々64.3%及び36.6%であるのに対して、コハク酸ジエチル、ゼオライト又は酸化ガリウムの何れか一種の触媒のみを使用した比較例3、6、7の1,3−DCP生成率は、各々32.3%、0.3%、0.6%に過ぎないことから、コハク酸ジエチルにゼオライト又は酸化ガリウムが共存される場合に1,3−DCPの生成が促進されることが示される。
また表1右欄「GC面積%比」に示した実施例6及び7の1,3−DCP/2,3−DCPの生成率の比は、97/3〜98/2を示し、2,3−DCPに比して1,3−DCPが高選択的に生成することが示される。
【0055】
コハク酸誘導体の一つである無水コハク酸及び固体酸であるゼオライトを使用した実施例8、及び、無水コハク酸及びイオン交換樹脂を使用した実施例9の1,3−DCP生成率が各々63.6%及び59.7%であるのに対して、無水コハク酸、ゼオライト又はイオン交換樹脂の何れか一種の触媒のみを使用した比較例4、6、8の1,3−DCP生成率は、各々51.5%、0.3%、0.4%に過ぎないことから、無水コハク酸にゼオライト又はイオン交換樹脂が共存される場合に1,3−DCPの生成が促進されることが示される。
表1右欄「GC面積%比」に示した実施例8及び9の1,3-DCP/2,3-DCPの生成率の比は、いずれも、98/2を示し、2,3-DCPに比して1,3−DCPが高選択的に生成することが示される。
【0056】
酢酸及び固体酸であるゼオライトを使用した実施例10の1,3−DCP生成率が79.2%であるのに対して、酢酸又はゼオライトの何れか一種の触媒のみを使用した比較例5、6の1,3−DCP生成率は、各々46.5%及び0.3%に過ぎないことから、酢酸にゼオライトが共存される場合に1,3−DCPの生成が促進されることが示される。
表1右欄「GC面積%比」に示した実施例10の1,3−DCP/2,3−DCPの生成率の比は、98/2を示し、2,3-DCPに比して1,3-DCPが高選択的に生成することが示される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のカルボン酸と固体触媒の組み合わせは、上記の通り、ジクロロヒドリンの生成活性が高く、触媒の分離が容易であることから、多水酸基置換脂肪族炭化水素と塩素化剤を反応させるクロロヒドリン類の製造において特に有用である。また、本発明の製法により製造されるクロロヒドリン類はエピクロロヒドリンやグリシドールなどの有機化合物の製造に使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸及びカルボン酸誘導体からなる化合物群から選択される少なくとも1種以上の化合物と、固体触媒との共存下で、多水酸基置換脂肪族炭化水素及び/又は多水酸基置換脂肪族炭化水素のエステルと塩素化剤を反応させるクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項2】
固体触媒が無機酸化物、無機ハロゲン化物、酸性有機化合物、またはそれらの組み合わせである請求項1に記載のクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項3】
無機酸化物が金属酸化物、複合酸化物、オキシ酸及びオキシ酸塩である請求項2に記載のクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項4】
金属酸化物が、第3属金属元素および希土類元素の酸化物である請求項3に記載のクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項5】
多水酸基置換脂肪族炭化水素が、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、3-クロロ-1,2-プロパンジオール、2-クロロ-1,3-プロパンジオール、グリセリン、1,2−ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2,4-ブタントリオール、又はこれらの混合物である請求項1〜4のいずれかに記載のクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項6】
カルボン酸及びカルボン酸誘導体が、炭素数1〜30を有する請求項1〜5のいずれかに記載のクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項7】
カルボン酸およびカルボン酸誘導体が、モノカルボン酸、ジカルボン酸、モノカルボン酸誘導体、ジカルボン酸誘導体である請求項1〜6のいずれかに記載のクロロヒドリン類の製造方法
【請求項8】
カルボン酸が、モノカルボン酸として酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸およびノナン酸であり、ジカルボン酸としてシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸であり、カルボン酸誘導体が前記のモノカルボン酸、ジカルボン酸の誘導体である請求項1〜7のいずれかに記載のクロロヒドリン類の製造方法。
【請求項9】
カルボン酸誘導体がカルボン酸のエステル、塩、無水物である請求項1〜8のいずれかに記載のクロロヒドリン類の製造方法。

【公開番号】特開2009−215246(P2009−215246A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61837(P2008−61837)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】