説明

クロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体、及び当該化合物を触媒として用いた有機化合物の酸化方法

【課題】 機能性材料や触媒などとして有用なクロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体を提供する。又、これらの化合物を触媒として用いた有機化合物の酸化方法を提供する。
【解決手段】 本発明のクロロフィル誘導体の二量体又は金属錯体は、下記の一般式(1):
【化1】


で表されるものであり、金属錯体としてはMn(II)、Mn(III)が配位したものが特に好ましい。本発明のクロロフィル誘導体の二量体又は金属錯体は、リポソーム膜などの脂質二分子膜中に導入されても良く、あるいは電極基板上に固定化されても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化触媒等として有用なクロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体に関するものである、又、本発明は、これらの化合物を触媒として用いる有機化合物の酸化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、数多くのポルフィリン及びクロロフィル誘導体が知られており、種々の分野での応用が検討提案されてきている(例えば下記の特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2003−26690号公報
【特許文献2】特開2002−343572号公報
【特許文献3】特開2002−214233号公報
【0003】
ポルフィリン誘導体は、動植物生体内の代謝過程で重要な役割を演じていることが知られており、例えば、ヘモグロビン、チトクローム系酵素、クロロフィル等は、いずれも酸化還元過程に関与している。この事実から、機能性材料分野や触媒分野等への応用として、多くのポルフィリン誘導体やそれらを触媒として用いた酸化方法の開発が手がけられている。しかしながら、水系、油系及びこれらの混合系における酸化反応を効率よく行うことが可能な触媒についてはほとんど提案されていないのが現状であり、従来のポルフィリン誘導体は、これらの適用範囲が制限されたり、機能の面で充分満足できるものではなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、機能性材料や触媒などとして有用なクロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる実情において、本発明者は鋭意研究を行った結果、後記一般式(1)で表されるクロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体が、優れた酸化触媒作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は、下記の一般式 (1):
【0007】
【化1】

【0008】
で表されるクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を提供するものである。
本発明は、前記一般式(1)で表されるクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を触媒として用いることを特徴とする有機化合物の酸化方法を提供するものである。
【0009】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体は、前記一般式(1)で表されるものであり、特に次の一般式(2)〜(4):
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
(上式中R’は水素原子又はアルキル基を示し、nは10〜300、好ましくは40〜120の数を示す)
【0013】
【化4】

【0014】
で表されるものが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体は、酸化触媒作用に優れ、特に酸化触媒として有用である。また、本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を触媒として用いる本発明の酸化方法を用いることで、水系、油系及びこれらの混合系における酸化反応を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体は、クロロフィル骨格に金属が配位した金属錯体であってもよい。ここで、クロロフィル骨格に配位する金属としては、特に制限されず、例えば、Ag (I)、Ag (II)、Al (III)、Ba (II)、Ca (II)、Co (II)、Cr (III)、Cu (I)、Cu (II)、Fe (II)、Fe (III)、Mg (II)、Mn (II)、Mn (III)、Mo (II)、Mo (III)、Ni (II)、Pb (II)、Pt (II)、W (II)、W (III)、Zn (II)等が挙げられる。特に、Mn (II)、Mn (III)が配位した金属錯体が好ましい。
【0017】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体は、次の一般式(5)で表されるクロロフィルa(Chla)を化学修飾することにより得ることができる。クロロフィルa(Chla)は市販のホウレン草等から容易に抽出することが出来る。
【0018】
【化5】

【0019】
このChlaから金属Mgを除去したものを2,4,6-コリジンに溶かし120℃窒素雰囲気中で還流することで下記化合物(6)のPyroPheophytin aを得ることが出来る。
【0020】
【化6】

【0021】
このPyroPheophytin aを加水分解することで、化合物(7)のPyroPheophorbide aを得ることが出来る。
【0022】
【化7】

【0023】
化合物(7)とN-ε-t-ブトキシカルボニル-L-リジンメチルエステルを縮合し、化合物(8)を得ることができる。
【0024】
【化8】


【0025】
化合物(8)を12N HClaq : 塩化メチレン : メタノール = 4 : 10 : 15 に溶かし、24時間室温で攪拌することにより化合物(9)を得ることができる。
【0026】
【化9】

【0027】
化合物(9)と化合物(7)を縮合し、加水分解することで化合物(2)を得ることができる。
【0028】
また、前記化合物(3)は、例えば次の反応式に従い、化合物(2)又はその金属錯体とポリマーを縮合することにより製造することができる。
【0029】
【化10】

【0030】
この反応は、通常のアミド形成反応の条件に従って行うことができる。例えば、カルボン酸を塩化チオニル等と反応させて酸ハロゲン化物とした後、これと末端のヒドロキシル基にアルキル基が置換していてもよいアミノポリオキシアルキレンとを反応させればよい。また、N,N’ジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤の存在化に反応を行うこともできる。
【0031】
また、同様に前記化合物(4)は、例えば次の反応式に従い、化合物(2)又はその金属錯体とL-ヒスチジンメチルエステルを縮合することにより製造することが出来る。
【0032】
【化11】

【0033】
このようにして得られる本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体は、酸化触媒作用に優れ、特に酸化触媒として有用である。
【0034】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を用いて有機化合物を酸化するには、通常の酸化反応の際に、これを触媒として用いればよい。ここで、酸化される有機化合物は特に制限されず、例えばアゾ色素であるC.I. Acid Orange 7等の酸化分解反応に適用する事ができる。
【0035】
酸化反応の際には、本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体とともにイミダゾール誘導体を用いると、このものは軸配位子として作用するので好ましい。イミダゾール誘導体はクロロフィル誘導体の二量体に対して1〜10000倍用いるのが好ましい。また、化合物(4)のようにイミダゾール基を有している化合物を用いることで、イミダゾールを併用せずとも高い活性を得ることが出来る。
【0036】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を用いる酸化方法は、水系、油系及びこれらの混在する系のいずれにも適用することができ、生体系での使用も可能である。水系で反応を行う場合には、反応系のpHが6〜12、特にpH 8付近であるのが好ましい。また、酸化剤として、過酸化水素等を用いるのが好ましい。
【0037】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を水系で用いる場合、前記化合物(3)はそのまま用いることができるが、前記化合物(2)及び(4)は界面活性剤ミセル中あるいはリポソーム膜等の脂質二分子膜中に導入して使用することができる。
【0038】
ミセルを形成させる界面活性剤には、オクチルグルコシド(非イオン性)、ソディウムドデシルサルフェート(アニオン性)、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(カチオン性)等が使用でき、特に制限されず酸化する物質に適したものを選べばよい。
【0039】
リポソームの調整に用いる脂質としては卵黄フォスファチジルコリン(EggPC)、ジセチルホスフェート(DCP)、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムブロミド(DHDAB)等を使用することができ、EggPCとDHDABを配合して膜表面にカチオン性を帯びたリポソーム膜、EggPCとDCPを配合して膜表面にアニオン性を帯びたリポソーム膜など酸化する物質に適したものを調製すればよい。また、リポソーム膜中に本発明のクロロフィル誘導体の二量体又は金属錯体を導入することで触媒の安定性を向上することができる。
【0040】
また、本発明のクロロフィル誘導体の二量体又は金属錯体を電極上に組織化することにより、不均一系の触媒として利用することが出来る。使用する際は、過酸化水素などの酸化剤を用いる以外に、電極とクロロフィル間の電子移動を利用して基質を酸化反応することもできる。その際、酸素を供給するとより好ましい。
【0041】
電極上に組織化させる手段としては物理吸着、静電相互作用、共有結合などを利用することができる。たとえば、ITO電極をピラニア溶液(濃硫酸:過酸化水素=7:3)に2分間浸漬させ、続いて蒸留水、メタノール、クロロホルムで洗浄した後、所定量のクロロフィル誘導体の二量体と脂質をクロロホルムに溶解したものを滴下し、室温で風乾した。その後2分間温風をあて、膜中に残存するクロロホルムを除去することにより電極上に組織化することができる。脂質にはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、卵黄ホスファチジルコリン(EggPC)等市販品をそのまま使用することができ特に限定されない。
【実施例】
【0042】
本発明を実施例及び比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
Chl aを酢酸中で数分撹拌し中心金属Mgを除去して得られるフェオフィチンa (Pheo a) 100 mgを2, 4, 6-コリジン10 mlに溶かし入れ120℃窒素雰囲気中で3時間還流を行った。その後、室温で放冷し真空乾燥させた後、12.5%硫酸/メタノールを200 ml加え、窒素雰囲気中室温で2時間撹拌した。反応終了後5N水酸化ナトリウムで氷冷しながら中和操作を行った後、塩化メチレンで有機相に抽出し、溶媒留去した。得られた粉末を5N塩酸400 mlに加えて溶かし、窒素雰囲気中室温で3.5時間撹拌した。反応終了後5N水酸化ナトリウムで氷冷しながら中和操作を行った後、塩化メチレンで有機相に抽出し、溶媒留去した。次に、シリカゲルクロマトグラフィにより分離精製することによりPyroPheophorbide a (PPheide a)を収率57.3%で得た。MALDI-TOF-MASS(m/z 534.04 MH+), 1H-NMR (CDCl3) 9.47, 9.35, 及び 8.53 (それぞれ s, 1H, 5-H,10-H, 及び 20-H); 8.00 (dd, J ) 17.7, 11.4 Hz, 1H, 31-CH=CH2); 6.27 (d,1H, trans-32-CH=CH2); 6.15(d, 1H, cis-32-CH=CH2); 5.18 (ABX, 2H, 132-CH2); 4.47 (q, 1H for 18-H); 4.29 (m,1H for 17-H); 3.68 (q, 2H, 8-CH2-CH3); 3.64, 3.39, 及び 3.22 (それぞれ s, 3H, 12-CH3, 2-CH3 及び7-CH3); 2.65 及び 2.32 (それぞれ m, 2H, for 2 ×171-H 及び 2×172-H); 1.81 (d, 3H, 18-CH3); 1.70 (t,3H, 8-CH2CH3), 0.87 及び -1.35 (それぞれ brs, 1H, 2×N-H).
【0044】
(実施例2)
PPheide a 18.8 mgをTHF1mlに溶解しN-ε-t-ブトキシカルボニル-L-リジンメチルエステル(H-Lys(Boc)-OMe) 16 mg、BOP Reagent 60 mgを加え、0 ℃に冷却後にトリエチルアミン 200 μlを加え、室温で2時間撹拌した。その後、溶媒留去しシリカゲルクロマトグラフィにより分離精製し、PPheide a-K(Boc)-OMeを15.6mg得た。収率は57.0 %であった。
【0045】
PPheide a-K(Boc)-OMe11.7mgを12N HClaq : 塩化メチレン : メタノール = 4 : 10 : 15 に溶かし、24時間室温で攪拌したあと、飽和炭酸水素ナトリウムで中和し、塩化メチレンで抽出したものを溶媒留去することによりPPheide a-K(H)-OMeを9.8mg得た。収率は96.1 %であった。
【0046】
PPheide a-K(H)-OMe 9.8mgをTHF 1mlに溶解し、PPheide a 15.0 mgとBOP Reagent 60 mgを加え、0 ℃に冷却後にトリエチルアミン 200 μlを加えた。その後、室温で4時間撹拌した。反応終了後、溶媒留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィにより分離精製し、PPheide a-K(PPheide a)-OMeを10.4 mg得た。収率は、60.2 %であった。MALDI-TOF-MASS(m/z 1194.5 MH+)、1H-NMR (CDCl3) σ−9.18, 8.93(2H, 2s, C5 −H), 8.38(2H, 2s, C20 −H), 8.19, 8.00(2H, 2s, C10 −H), 7.82, 7.60(2H, 2q, C31 −CH=), 7.18(1H, d, CONH1 −NH−), 6.98(1H, t, CONH2 −NH−), 6.15, 6.00(4H, 2d, C32 =CH2), 5.28(3H, q, C25 −OCH3), 4.92, 4.62(4H, 2q, C132 −CH2−), 4.61, 4.23(2H, 2m, C18 −H), 4.08, 3.85(2H, 2m, C17 −H), 3.70(6H, 2s, C12 −CH3), 3.45(2H, t, C24 −CH2−), 3.30, 3.20(6H, 2s, C2 −CH3), 3.18, 2.97(6H, 2s, C7 −CH3), 3.08(4H, 2q, C81 −CH2−), 2.85 (2H, q, C21 −CH2−), 2.05〜2.40(8H, 8m, C171, C172 −CH2−), 1.85(6H, 2d, C18 −CH3), 1.80(2H, m, C22 −CH2−), 1.48(2H, m, C23 −CH2−), 1.35, 1.25(6H, 2t, C82 −CH3), 0.13(2H, br s, −NH), -1.68, -1.90(2H, 2br s, −NH)
【0047】
PPheide a-K(PPheide a)-OMeを5N 塩酸 20 mlで溶解し、窒素置換しながら室温で8時間撹拌した。5N 水酸化ナトリウム水溶液 15 mlで中和したあと、酢酸エチルを用いて水相から抽出した。溶媒留去した後、シリカゲルクロマトグラフィで分離精製し、PPheide a-K(PPheide a)-OH 8.4 mgを得た。収率は81.7 %であった。MALDI-TOF-MASS(m/z 1180.8 MH+)
【0048】
(実施例3)
PPheide a-K(PPheide a)-OH 21 mg をTHF1mlに溶解し、メトキシポリエチレンアミン(M.W 5000)、BOP Reagent 60 mgを加え、0 ℃に冷却後にトリエチルアミン 200 μlを加え、室温で4時間撹拌した。次に限外濾過法によって精製し、フリーズドライによってPEG-PPheide a-K(PPheide a)を78.1mg得た。収率は71.2%であった。1H-NMR(CDCl3) σ−8.98(2H, 2s, C5 −H), 8.44, 8.33(2H, 2s, C20 −H), 7.77(2H, 2q, C31 −CH=), 7.21(1H, d, CONH1 −NH−), 7.13(1H, t, CONH2 −NH−), 6.88(1H, t, CONH3-NH-PEG), 6.00(4H, 2d, C32 =CH2), 4.88(4H, 2q, C132 −CH2−), 3.65(PEG, 456H, -[OCH2,-CH2]- ), 3.03(4H, 2q, C81 −CH2−), 2.99 (2H, q, C21 −CH2−), 2.91(3H,1s, -[OCH2,-CH2]n- CH3), 2.60,2.55(2H,q,C21,-CH2-), 1.98〜2.30(8H, 8m, C171, C172 −CH2−), -1.89, -2.30(2H, 2br s, −NH)
【0049】
(実施例4)
PPheide a-K(PPheide a )-OH10 mgに酢酸2 mlを加え溶解し、そこへ10倍当量の酢酸マンガン(II)4水和物23 mgを酢酸2 mlに溶かし入れ、窒素雰囲気中60℃で1時間還流した。反応終了後、ヘキサンを過剰に加え濾過し、得られた沈殿をジエチルエーテル‐水系の分液ロートで洗浄し、水相に得られたものを塩化メチレンを用いて有機相に抽出し溶媒留去することによりMnPChlorophylide a- (MnPChlorophylide a)-OH(MnPChlide a-K(MnPChlide a)-OHを収率86.1%で得た。
【0050】
(実施例5)
PEG-PPheide a-K(PPheide a)10 mgに酢酸2 mlを加え溶解し、そこへ5倍当量の酢酸マンガン(II)4水和物4 mgを酢酸2 mlに溶かし入れ、窒素雰囲気中60℃で1時間還流した。反応終了後、限外濾過法によって精製し、フリーズドライによってPEG-MnChlide a-K(PChlide a)を8.1mg得た。収率は79.2%であった。
【0051】
(実施例6)
PPheide a-(L-HisOMe)10 mgに酢酸2 mlを加え溶解し、そこへ5倍当量の酢酸マンガン(II)4水和物23 mgを酢酸2 mlに溶かし入れ、窒素雰囲気中60℃で1時間還流した。反応終了後、ヘキサンを過剰に加え濾過し、得られた沈殿をジエチルエーテル‐水系の分液ロートで洗浄し、水相に得られたものを塩化メチレンを用いて有機相に抽出し溶媒留去することでMnPChlide a-(L-HisOMe)を収率89.1%で得た。
【0052】
(実施例7)
EggPC 100 mg(1.43×10-4 mol)とMnPChlide a-K(MnPChlide a)-OH 1.2×10-6molをクロロホルム中に溶かしたものを丸底フラスコに入れ、ロータリーエバポレーターでゆっくり留去し薄膜を調整した。その後真空乾燥によって完全にクロロホルムを除去し、10mM Tris-HCl buffer (pH 8)2.5mlで薄膜をはがし freeze-thawing methodを薄膜が完全にはがれるまで行いMLVを調整した。続いて氷浴中で10分間超音波処理を行うことでSUVを調整し、Sephadex G50 fineを用いてゲル濾過を行い、精製を行った。
【0053】
(実施例8)
過酸化水素(水系)におけるC.I. Acid Orange 7に対する酸化触媒能:各種クロロフィル誘導体の二量体10・Mに対して、アゾ色素C.I. Acid Orange 7(λmax 484 nm) 100・M、イミダゾール 0.1Mを含むTris-HCl buffer (pH 8)溶液を調製し、これに31%過酸化水素を30mM添加しC.I. Acid Orange 7の吸光度変化を観察することでC.I. Acid Orange 7の分解の評価を行った。色素の退色反応においては反応初期の段階では、擬一次反応式に従うことが分かっており、下記式より擬一次速度定数(kobs)を求めた。
ln(C0/Ct) = kobs t
ただしC0:基質初期濃度、Ct:t分後の基質濃度
【0054】
本発明の化合物と、下記比較例のポルフィリン誘導体及び酵素と比較した結果を表1に示す。その結果、本発明の化合物は非常に高い活性を示し、酵素よりも高い触媒活性も認められた。
【0055】
(比較例1)
下記構造をもつ化合物
【0056】
【化12】

【0057】
(比較例2)
下記構造をもつ化合物
【0058】
【化13】

【0059】
(比較例3)
クロロフィルaの中心金属MgをMnに置換した下記化合物
【0060】
【化14】

【0061】
(比較例4)
天然の酵素である西洋ワサビペルオキシダーゼ (EIA用)(和光純薬)
酵素の活性200U/mg, Rz=3.11
【0062】
以下の表1に、イミダゾールの併用の有無での各ポルフィリン誘導体を触媒として用いたC.I.Acid Orange 7の酸化分解反応速度定数を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例9)
脂質膜被覆電極の調整:水平にしたITO電極上にクロロホルム中に溶かしたMnPChlide a /DMPC=150・mol/gの溶液を電極1cm2当たり150nmol/mgになるように滴下し、室温で風乾した。その後温風で膜中に存在するクロロホルムを完全に除去した。なお、今回の実験系ではITO電極2cm2に処理した。
【0065】
(実施例10)
電極とクロロフィル間での電子伝達を利用したアゾ色素の分解:測定はTris-HCl buffer (pH 8.0)中で行った。図1に示すように3電極式セルを用い、参照電極にAg/AgCl / 0.1 M KCl電極、対極に白金電極を使用し、作用極としてクロロフィル誘導体と脂質膜を組織化したITO電極を用いた。作用電極に一定の電位をかけ30分C.I. Acid Orange 7の最大吸収波長である484nmの吸光度の変化を測定しアゾ色素の酸化分解を確認した(図2)。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を用いた化合物は非常に高い活性を示すので、産業上では、人工酵素や有機触媒として漂白剤や抗菌・衛生加工への利用可能性が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は、実施例10にて製作した3電極式セルの構造を示した図である。
【図2】図2は、ITO電極に組織化したMnPChlide aによる30分C.I. Acid Orange 7の分解状況を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式 (1):
【化1】


で表されるクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体。
【請求項2】
前記金属錯体が、前記一般式(1)中のクロロフィル骨格に、Ag (I)、Ag (II)、Al (III)、Ba (II)、Ca (II)、Co (II)、Cr (III)、Cu (I)、Cu (II)、Fe (II)、Fe (III)、Mg (II)、Mn (II)、Mn (III)、Mo (II)、Mo (III)、Ni (II)、Pb (II)、Pt (II)、W (II)、W (III)、及びZn (II) からなるグループより選ばれた金属が配位した化合物であることを特徴とする請求項1記載のクロロフィル誘導体の二量体の金属錯体。
【請求項3】
脂質二分子膜中に導入されていることを特徴とする請求項1又は2記載のクロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体。
【請求項4】
電極基板上に固定化されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロロフィル誘導体の二量体及びその金属錯体。
【請求項5】
有機化合物を酸化させる方法であって、前記請求項1〜4のいずれか1項記載のクロロフィル誘導体の二量体又はその金属錯体を触媒として用いることを特徴とする有機化合物の酸化方法。
【請求項6】
前記酸化をイミダゾール誘導体の共存下にて行うことを特徴とする請求項5記載の酸化方法。
【請求項7】
電極と請求項4記載のクロロフィル誘導体の二量体又は金属錯体との電子伝達を利用することを特徴とする有機化合物の酸化方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−151874(P2006−151874A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345081(P2004−345081)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(591018051)明成化学工業株式会社 (14)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】