説明

クロロプレンゴム及びクロロプレンゴム組成物

【課題】金型汚染防止効果に優れたクロロプレンゴムを提供する。
【解決手段】ポリクロロプレンゴムに、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルや亜リン酸トリブチルエステルなどの亜リン酸エステル化合物、及びリン酸トリ(ノニルフェニル)エステルやリン酸トリブチルエステルなどのリン酸エステル化合物のうち少なくとも1種の化合物を合計で0.1〜5.0質量%と、ベンゼンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸化合物、及び脂肪酸化合物のうち少なくとも1種の化合物を合計で0.1〜3.0質量%とを含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレンゴム及びクロロプレンゴム組成物に関する。より詳しくは、金型を使用して成形されるクロロプレンゴム及びクロロプレンゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、耐熱性、耐候性、耐オゾン性及び耐薬品性などに優れており、一般的工業用ゴム製品、自動車用部品及び接着剤などの幅広い分野で使用されている。このようなクロロプレンゴム成形体は、一般に、クロロプレンゴムに、加硫剤、加硫促進剤及び充填剤などを配合した組成物を、所定形状に成形した後、加硫することにより製造される(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、射出成形、押出成形及びプレス成形などのように、金型を使用する成形方でクロロプレンゴム成形体を製造する場合、金型の内面に配合物が付着して堆積しやすいという問題点がある。このような金型汚染は、寸法精度が低下や外観不良の原因となり、成形体の品質低下を招く。
【0004】
そこで、従来、金型汚染防止効果のある成分を配合したクロロプレン組成物が提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)。具体的には、特許文献2には、クロロプレンゴム100質量部に対して、平均分子量が8000〜11000のポリエチレングリコールを1〜10質量部配合したクロロプレンゴム組成物が開示されている。また、特許文献3には、クロロプレンゴム100質量部に対して、塩素化ポリエチレンを1〜50質量部配合したクロロプレンゴム組成物が開示されている。
【0005】
一方、配合成分ではなく、クロロプレンゴム自体を金型汚染しにくいものとする技術も提案されている(特許文献4参照)。この特許文献4に記載のクロロプレンゴムでは、乳化剤に、セスキテルペンの含有量が0〜1質量%、かつ(8,15−イソピマル酸)÷(ジヒドロピマル酸の含有量)の値が1以上である不均化ロジン酸の金属塩を使用することで、クロロプレンゴム中に残留する乳化剤成分に起因する金型汚染防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−68405号公報
【特許文献2】特開2001−181450号公報
【特許文献3】特開2005−60546号公報
【特許文献4】特開2006−143826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来のクロロプレンゴムにおける金型汚染防止技術には、以下に示す問題点がある。即ち、特許文献2,3に記載のクロロプレンゴム組成物のように、ポリエチレングリコールや塩素化ポリエチレンといった金型汚染を抑制する効果のある成分を配合する方法は、オープンロールや内部攪拌機により物理的に混練りするものであるため、薬品の分散状態にむらが生じやすいという問題点がある。
【0008】
また、特許文献4に記載されているように、特定の乳化剤を使用することで、クロロプレンに含まれる汚染成分を低減する方法は、金型に付着物が生じると、それが酸化劣化して金型表面に固着することを防止することはできない。このような理由から、従来のクロロプレンゴム組成物における金型汚染防止効果は十分ではなく、更なる改善が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、金型汚染防止効果に優れたクロロプレンゴム及びクロロプレンゴム組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るクロロプレンゴムは、亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物のうち少なくとも1種の化合物:合計で0.1〜5.0質量%と、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物のうち少なくとも1種の化合物:合計で0.1〜3.0質量%と、を含有する。
【0011】
このクロロプレンゴムに配合される脂肪族化合物としては、例えば官能基当量が2×10−3〜8×10−3のものを使用することができる。
【0012】
また、スルホン酸化合物としては、下記化学式1で表される構造のものを配合することができ、その具体例としては、ベンゼンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。なお、下記化学式1において、Rはアルキル基又はアリール基を表す。
【0013】
【化1】

【0014】
一方、亜リン酸エステル化合物としては、下記化学式2で表される構造のものを配合することができ、その具体例としては、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルや亜リン酸トリブチルエステルが挙げられる。
また、亜リン酸エステル化合物としては、下記化学式3で表される構造のものを配合することができ、その具体例としては、リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルやリン酸トリブチルエステルなどが挙げられる。
なお、下記化学式2,3におけるR、R,R,Rは、アルキル基又はアリール基を表し、これらは同一でも、異なっていてもよい。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
更に、このクロロプレンゴムは、凍結ロールでシーティングして水洗する工程においてラテックスのpHを7.5以上として製造されたものであってもよい。
【0018】
本発明のクロロプレンゴム組成物は、前述したクロロプレンゴムを含有するものであり、11.0±0.2gを円柱状に予備成形した後、直径が29mm、高さが12.5mmの円柱金型にセットし、該金型を圧縮板に挟み込み、前記圧縮板の下部にフェロタイププレート板を装着した状態で、200℃で5分間の加硫を200回行ったとき、堆積物の平均厚さが3μm以下であるか又は厚さが10μm以上の堆積物がないものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、亜リン酸エステル化合物及び/又はリン酸エステル化合物と、スルホン酸化合物及び/又は脂肪酸化合物とを特定量含有しているため、成形時における金型への付着を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係るクロロプレンゴムについて説明する。本実施形態のクロロプレンゴムは、クロロプレン重合体を主成分とし、亜リン酸エステル化合物及び/又はリン酸エステル化合物を合計で0.1〜5.0質量%、並びにスルホン酸化合物及び/又は脂肪酸化合物を合計で0.1〜3.0質量%含有している。
【0022】
[クロロプレン重合体]
クロロプレン重合体は、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下、クロロプレンと記す。)の単独重合体、又は、クロロプレンと他の単量体との共重合体である。ここで、クロロプレンと共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸のエステル類や、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどのメタクリル酸のエステル類や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ(メタ)アクリレート類や、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。
【0023】
なお、クロロプレンと共重合する単量体は、1種類に限定されるものではなく、例えばクロロプレンを含む3種以上の単量体を共重合したものでもよい。また、クロロプレン重合体のポリマー構造も、特に限定されるものではない。
【0024】
[亜リン酸エステル化合物,リン酸エステル化合物:合計で0.1〜5.0質量%]
亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物は、金型表面に付着した配合物が酸化することを防止する効果がある。しかしながら、これらの含有量が合計で0.1質量%未満であると、十分な効果が得られず、また、これらの含有量が合計で5.0質量%を超えると、クロロプレンゴム組成物の物性を低下させる原因となる。よって、亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物の含有量は、合計で0.1〜5.0質量%とする。
【0025】
亜リン酸エステル化合物は、下記化学式4で表される構造を有する。なお、下記化学式4におけるR,R,R,Rは、アルキル基又はアリール基を表し、これらは同一でも、異なっていてもよい。そして、本実施形態のクロロプレンゴムに含有される亜リン酸エステル化合物としては、例えば、亜リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルや亜リン酸トリブチルエステルなどが挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
また、リン酸エステル化合物は、下記化学式5で表される構造を有する。なお、下記化学式5におけるR,R,R,Rは、アルキル基又はアリール基を表し、これらは同一でも、異なっていてもよい。そして、本実施形態のクロロプレンゴムに含有されるリン酸エステル化合物としては、例えば、リン酸トリ(ノニルフェニル)エステルやリン酸トリブチルエステルなどが挙げられる。
【0028】
【化5】

【0029】
[スルホン酸化合物,脂肪酸化合物:合計で0.1〜3.0質量%]
スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物は、金型表面に配合物が堆積することを抑制する効果がある。しかしながら、これらの含有量が合計で0.1質量%未満であると、十分な効果が得られず、また、これらの含有量が合計で3.0質量%を超えると、クロロプレンゴム組成物の物性低下や、成形時の融合不良を引き起こす原因となる。よって、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物の含有量は、合計で0.1〜3.0質量%とする。
【0030】
スルホン酸化合物は、下記化学式6で表される構造を有する。なお、下記化学式6におけるRはアルキル基又はアリール基を表す。下記化学式6で表される構造のスルホン酸化合物としては、例えば、ベンゼンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸メタンスルホン酸、CAS(10−カンファースルホン酸)、p−トルエンスルホン酸(トシル酸)などが挙げられ、その中でも特に、ベンゼンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸が好適である。
【0031】
【化6】

【0032】
また、脂肪族化合物としては、金型汚染性改善性の観点から、下記数式1で規定される官能基当量が2×10−3〜8×10−3のものが好ましい。このような脂肪族化合物としては、例えば、ステアリン酸やオレイン酸などが挙げられる。
【0033】
【数1】

【0034】
[その他の成分]
本実施形態のクロロプレンゴムは、前述した各成分に加えて、ロジン酸、ロジン酸塩、乳化分散剤、重合反応の触媒、触媒活性化剤、連鎖移動剤及び重合禁止剤などを含有していてもよい。
【0035】
[製造方法]
次に、本実施形態のクロロプレンゴムの製造方法について説明する。本実施形態のクロロプレンゴムの製造方法では、クロロプレンを主成分とする原料モノマーを、乳化重合する。
【0036】
その際、乳化分散剤としては、ロジン酸又はロジン酸塩を用いることができる。ロジン酸の具体例としては、例えば、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ピマール酸、ジヒドロピマール酸、イソピマール酸、セコデヒドロアビエチン酸などの樹脂酸の単成分若しくはこれらの混合物などが挙げられる。
【0037】
また、これらのロジン酸には、オレイン酸、ステアリン酸又はオクタデセン酸などの脂肪酸が含まれていてもよい。更に、ロジン酸を水素化反応及び/又は不均化反応に供し、次いで精製した淡色ロジン酸でもよい。更にまた、ロジン酸塩としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属塩、カルシウムなどのアルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩などが挙げられる。なお、乳化分散剤は、ロジン酸又はロジン酸塩に限定されるものではなく、例えば芳香族ナフタレンホルマリン縮合物などのように、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものを用いることができる。
【0038】
重合反応の触媒としては、例えば硫酸カリウム等の無機過酸化物、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類などの有機過酸化物が挙げられる。触媒活性化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、酸化鉄(II)、アントラキノン、β−スルフォン酸ナトリウム、フォルムアミジンスルフォン酸、L−アスコルビン酸などが挙げられる。
【0039】
重合開始剤は、特に限定されるものではなく、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものを使用することができる。具体的には、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、第3−ブチルヒドロパーオキサイドなどの有機過酸化物などが好適に用いられる。
【0040】
連鎖移動剤も、特に限定されるものではなく、通常のクロロプレンの乳化重合に使用されるものが使用できる。具体的には、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどの長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィドなどのジアルキルキサントゲンジスルフィド類、ヨードホルムなどの公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0041】
重合を停止する際に添加する重合停止剤は、特に限定されるものではなく、通常用いられているものを使用することができる。具体的には、フェノチアジン、パラ−t−ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン、チオジフェニルアミン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼンなどを用いることができる。
【0042】
なお、クロロプレンラテックスの重合温度は、特に限定されるものではなく、一般に乳化重合が行われる範囲とすることができる。また、前述した重合工程で得られクロロプレン重合体(クロロプレンゴム)の最終重合率は、特に限定するものではなく、0〜100%の範囲内で任意に調節することができる。
【0043】
そして、本実施形態のクロロプレンゴムの製造方法においては、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物については、所定量を、例えば、原料モノマーを水に乳化する際に添加するか、又は、重合終了後の重合液中に、これらの化合物を溶解したクロロプレンモノマー乳化液として添加する。その際、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物の種類は、特に限定されるものではないが、スルホン酸及び脂肪酸の金属塩として添加することが好ましく、これらのナトリウム塩又はカリウム塩がより好ましい。
【0044】
一方、亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物は、所定量を、例えば、重合終了後の重合液中に、これらの化合物を溶解したクロロプレンモノマー乳化液として添加する。これにより、容易に、クロロプレン中の亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物の含有量を合計で0.1〜5.0質量%にすると共に、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物の含有量を合計で0.1〜3.0質量%とすることができる。
【0045】
次に、重合工程により得られた重合液から、未反応単量体の除去(脱モノマー)を行う。その方法は、特に限定されるものではなく、減圧加熱などの公知の方法を適用することができる。重合後に、スルホン酸化合物、脂肪酸化合物、亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物を、クロロプレンモノマー乳化液として、添加する場合でも、その後に脱モノマー工程を行うため、未反応単量体の残留は問題とならない。
【0046】
そして、例えば希酢酸などを用いて、クロロプレン系重合体(クロロプレンラテックス)のpHを7.5以上に調整した後、凍結ロールでシーティングして水洗し、脱水を行った後、乾燥させて、クロロプレンゴムシートとする。このように、凍結凝固乾燥法により洗浄などを行う際に、ラテックスのpHを7.5以上とすることにより、金型汚染の原因の1つである乳化剤を水溶化し、効果的に除去することができる。
【0047】
本実施形態のクロロプレンゴムは、亜リン酸エステル化合物及び/又はリン酸エステル化合物と、スルホン酸化合物及び/又は脂肪酸化合物とを、特定量含有しているため、詳細なメカニズムは不明であるが、亜リン酸エステル化合物やリン酸エステル化合物により金型表面への付着物の酸化による固着が防止されると共に、スルホン酸や脂肪酸の酸性官能基と金型表面の金属原子との相互作用により、金型表面への配合物の付着が防止される。これにより、金型の汚染を防止することができる。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係るクロロプレンゴム組成物について説明する。本実施形態のクロロプレンゴム組成物は、前述した第1の実施形態のクロロプレンゴムに、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、滑剤、老化防止剤、安定剤、シランカップリング剤及び受酸剤などを配合したものである。
【0049】
本実施形態のクロロプレンゴム組成物に添加可能な加硫剤としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、バリウム、ゲルマニウム、チタニウム、錫、ジルコニウム、アンチモン、バナジウム、ビスマス、モリブデン、タングステン、テルル、セレン、鉄、ニッケル、コバルト、オスミウムなどの金属単体、及びこれらの酸化物や水酸化物などを使用することができる。これら金属化合物のなかでも、特に、酸化カルシウムや酸化亜鉛、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、酸化マグネシウムが、加硫効果が高いため好ましい。なお、これらの加硫剤は2種以上を併用して用いてもよい。
【0050】
また、加硫促進剤としては、例えば、チオウレア系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、スルフェンアミド系加硫促進剤などを使用することができる。これらのなかでも、特に、エチレンチオウレアが、加工性と加硫物の物性バランスに優れるため好ましい。なお、これらの加硫剤促進剤は2種以上を併用して用いてもよい。
【0051】
本実施形態のクロロプレンゴム組成物には、必要に応じて、軟化剤、充填剤、補強剤、可塑剤、加工助剤、滑剤、老化防止剤、安定剤、シランカップリング剤などが配合されていてもよい。
【0052】
本実施形態のクロロプレンゴム組成物に配合される充填剤及び補強剤は、通常のクロロプレンゴム用途に使用されているものを用いることができ、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0053】
また、可塑剤も、通常のクロロプレンゴム用途に使用されている可塑剤を用いることができ、例えば、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペートなどが挙げられる。
【0054】
老化防止剤としては、通常のクロロプレンゴム用途に使用されている老化防止剤を用いることができる。具体的には、アミン系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、カルバミン酸金属塩、フェノール系老化防止剤、ワックスなどを使用することができ、これらは単独のみならず併用することもできる。特に、これらの老化防止剤のなかでも、アミン系老化防止剤である4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、オクチル化ジフェニルアミンなどを用いると、成形体の耐熱性を向上させることができる。
【0055】
軟化剤としては、通常のクロロプレンゴム用途に使用されている軟化剤を用いることができる。具体的には、潤滑油、プロセスオイル、パラフィン、流動パラフィン、ワセリン、石油アスファルトなどの石油系軟化剤、ナタネ油、アマニ油、ヒマシ油、ヤシ油などの植物油系軟化剤を使用することができ、これらは単独のみならず併用することもできる。
【0056】
本実施形態のクロロプレンゴム組成物は、11.0±0.2gの円柱状に予備成形した後、直径29mm、高さ12.5mmの円柱金型にセットし、これを圧縮板に挟み込み、圧縮板下部にフェロタイププレート板を装着した状態で、200℃×5分で200回加硫操作を行ったとき、堆積物の平均厚さが3μm以下であるか、又は厚さが10μm以上の堆積物を有さないことが望ましい。そして、このようなクロロプレンゴム組成物は、金型への配合物の付着や固着がほとんどみられず、金型汚染改善効果に優れている。
【0057】
本実施形態のクロロプレンゴム組成物は、例えばプレス加硫、射出成形加硫、加硫缶加硫、UHF加硫、LCM加硫、HFB加硫などの公知の方法で加硫し、加硫体とすることができる。
【0058】
本実施形態のクロロプレンゴム組成物は、亜リン酸エステル化合物及び/又はリン酸エステル化合物と、スルホン酸化合物及び/又は脂肪酸化合物とを特定量含有するクロロプレンゴムを使用しているため、成形時に金型を汚染せず、機械的強度及び永久圧縮歪みに優れた加硫体や成形体を製造することができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記表1に示す実施例1〜5及び比較例1〜5のクロロプレンゴムを使用して、下記表2に示す組成のクロロプレンゴム組成物を作製し、その特性について評価した。なお、下記表1に示す各成分の含有量(質量%)は、クロロプレンゴム全量を基準とした値である。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
<クロロプレンゴムの作製方法>
(実施例1)
内容積5リットルの反応器を用い、窒素気流下で、水120質量部、不均化トールロジンカリウム塩、4.0質量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.54質量部(ドデシルベンゼンスルホン酸0.5質量部相当)、その他添加剤として水酸化ナトリウム0.8質量部、亜硫酸水素ナトリウム0.3質量部を仕込み、溶解後、撹拌しながらクロロプレン単量体100質量部とn−ドデシルメルカプタン0.10質量部を加えた。
【0063】
そして、過硫酸カリウム0.1質量部を触媒として用いて、窒素雰囲気下40℃で重合させ、最終重合率が70%に達したところでフェノチアジンとリン酸トリブチルエステル0.5質量部を含む乳濁液を加えて重合を停止し、減圧下で未反応単量体を除去した。引き続き、希酢酸を用いて、クロロプレン系重合体(クロロプレンラテックス)のpHを7.5に調整した。ここにおいても凝固物発生等の異常は見られなかった。そして、凍結凝固乾燥法により、クロロプレンゴムシート(実施例1)を得た。
【0064】
(実施例2)
リン酸トリブチルエステルを、亜リン酸(トリノニフェニル)エステルに変えた以外は、前述した実施例1と同様の方法で、実施例2のクロロプレンゴムを作製した。
【0065】
(実施例3)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、オレイン酸カリウムに変えた以外は、前述した実施例1と同様の方法で、実施例3のクロロプレンゴムを作製した。
【0066】
(実施例4)
リン酸トリブチルエステルを、亜リン酸(トリノニフェニル)エステルに変えた以外は、前述した実施例3と同様の方法で、実施例4のクロロプレンゴムを作製した。
【0067】
(実施例5)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びオレイン酸カリウムを、それぞれドデシルベンゼンスルホン酸0.25質量部相当及びオレイン酸0.25質量部相当添加すると共に、リン酸トリブチルエステル及び亜リン酸(トリノニフェニル)エステルをそれぞれ0.25質量部添加した以外は、前述した実施例1と同様の方法で、実施例5のクロロプレンゴムを作製した。
【0068】
(比較例1)
リン酸トリブチルエステル及び亜リン酸(トリノニフェニル)エステルの添加量を変えた以外は、前述した実施例5と同様の方法で、比較例1のクロロプレンゴムを作製した。
【0069】
(比較例2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ドデシルベンゼンスルホン酸)及びオレイン酸カリウム(オレイン酸)の添加量を変えた以外は、前述した実施例5と同様の方法で、比較例2のクロロプレンゴムを作製した。
【0070】
(比較例3)
リン酸トリブチルエステル及び亜リン酸(トリノニフェニル)エステルの添加量を変えた以外は、前述した実施例5と同様の方法で、比較例3のクロロプレンゴムを作製した。
【0071】
(比較例4)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ドデシルベンゼンスルホン酸)を添加せず、オレイン酸カリウムをオレイン酸5質量部相当添加し、それ以外は、前述した実施例5と同様の方法で、比較例4のクロロプレンゴムを作製した。
【0072】
(比較例5)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(ドデシルベンゼンスルホン酸)、オレイン酸カリウム(オレイン酸)、リン酸トリブチルエステル及び亜リン酸(トリノニフェニル)エステルのいずれも添加せず、それ以外は、前述した実施例1と同様の方法で、比較例5のクロロプレンゴムを作製した。
【0073】
次に、これら実施例及び比較例の各クロロプレンゴムを使用して、上記表2に示す組成のクロロプレンゴム組成物を作製し、それらを以下に示す方法及び条件で評価した。
【0074】
(硬さ)
JIS K 6250に基づいてテストピースを作製し(加硫条件:170℃×15分間)、JIS K 6253に基づいて、各加硫物(加硫ゴム)の硬度測定を行った。
【0075】
(加工特性)
実施例及び比較例の各クロロプレンゴム組成物について、JIS−K 6300に基づいて、125℃におけるスコーチタイムを測定した。
【0076】
(引張強度)
JIS K 6250に基づいてテストピースを作製し(加硫条件:170℃×15分間)、JIS K 6253に基づいて引張試験を行い、各加硫物(加硫ゴム)の強度及び伸びを測定した。
【0077】
(圧縮永久歪)
実施例及び比較例の各クロロプレンゴム組成物を、170℃で20分間加硫したものについて、JIS K 6262に基づいて、100℃の温度条件下で70時間試験したときの圧縮永久歪を測定した。
【0078】
(金型汚染)
実施例及び比較例の各組成物を、11.0±0.2gの円柱状に予備成形した後、直径29mm、高さ12.5mmの円柱金型にセットして圧縮板に挟み込んだ。そして、圧縮板下部にフェロタイププレート板を装着し、200℃×5分で200回加硫操作を行い、汚染物の堆積状態を観察した。また、加硫1回毎に、約1分をかけて金型から加硫物を取り外し、未加硫物を再セットした。その際、汚染物の堆積状態は3Dレーザー電子顕微鏡(VK−9700;株式会社キーエンス製)を使用して測定した。
【0079】
以上の結果を下記表3にまとめて示す。
【0080】
【表3】

【0081】
上記表3に示すように、亜リン酸化合物及びリン酸化合物の含有量が0.1質量%未満であった比較例1のクロロプレンゴムを使用した組成物は、堆積物の厚さが10μm以上の部分があった。また、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物の含有量が0.1質量%未満であった比較例2のクロロプレンゴムを使用した組成物は、堆積物の平均厚さが4.4μmと厚く、堆積物の厚さが10μm以上の部分もあった。
【0082】
亜リン酸化合物及びリン酸化合物の含有量が5.0質量%を超えている比較例3のクロロプレンゴムを使用した組成物は、圧縮永久歪の値が高く、堆積物の厚さが10μm以上の部分も見られた。また、脂肪酸化合物の含有量が3質量%を超えている比較例4のクロロプレンゴムを使用した組成物は、堆積物の厚さが10μm以上にはならなかったが、圧縮永久歪の値が高かった。
【0083】
更に亜リン酸化合物、リン酸化合物、スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物のいずれも含有していない比較例5のクロロプレンゴムを使用した組成物は、堆積物の平均厚さが13.5μmと極めて厚く、堆積物の厚さが10μm以上の部分も63%と広範囲に亘っていた。
【0084】
これに対して、本発明の範囲で、ドデシルベンゼンスルホン酸及び/又はオレイン酸と、リン酸トリブチルエステル及び/又は亜リン酸(トリノニルフェニル)エステルを含有する実施例1〜5のクロロプレンゴムを使用した組成物は、汚染堆積物が少なく、その他の物性も優れていた。
【0085】
以上の結果から、本発明によれば、成形時の金型汚染を防止できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物のうち少なくとも1種の化合物:合計で0.1〜5.0質量%と、
スルホン酸化合物及び脂肪酸化合物のうち少なくとも1種の化合物:合計で0.1〜3.0質量%と、
を含有するポリクロロプレンゴム。
【請求項2】
官能基当量が2×10−3〜8×10−3である脂肪族化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載のポリクロロプレンゴム。
【請求項3】
下記化学式(A)で表されるスルホン酸化合物を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のクロロプレンゴム。

【請求項4】
前記スルホン酸化合物がベンゼンスルホン酸及び/又はドデシルベンゼンスルホン酸であることを特徴とする請求項3に記載のクロロプレンゴム。
【請求項5】
下記化学式(B)で表される亜リン酸エステル化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のクロロプレンゴム。

【請求項6】
前記亜リン酸エステル化合物が亜リン酸トリ(ノニルフェニル)エステル及び/又は亜リン酸トリブチルエステルであることを特徴とする請求項5に記載のクロロプレンゴム。
【請求項7】
下記化学式(C)で表されるリン酸エステル化合物を含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のクロロプレンゴム。

【請求項8】
前記リン酸エステル化合物がリン酸トリ(ノニルフェニル)エステル及び/又はリン酸トリブチルエステルであることを特徴とする請求項7に記載のクロロプレンゴム。
【請求項9】
凍結ロールでシーティングして水洗する工程においてラテックスのpHを7.5以上として製造されたものであることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のクロロプレンゴム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のクロロプレンゴムを含有し、
11.0±0.2gを円柱状に予備成形した後、直径が29mm、高さが12.5mmの円柱金型にセットし、該金型を圧縮板に挟み込み、前記圧縮板の下部にフェロタイププレート板を装着した状態で、200℃で5分間の加硫を200回行ったとき、堆積物の平均厚さが3μm以下であるか又は厚さが10μm以上の堆積物がないクロロプレンゴム組成物。

【公開番号】特開2012−233126(P2012−233126A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104104(P2011−104104)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】