説明

クロロプレンラテックス及びクロロプレンラテックスを含有する接着剤組成物

【課題】 保管中のラテックス安定性を維持し、長期間に渡って使用可能なクロロプレンラテックス、及びそれを含有する接着剤組成物を提供する。
【解決手段】 ラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が以下の式(1)で示される範囲にあり、かつ、ラテックス中に含まれる乳化剤の重量分率:E(%)が以下の式(2)で示される範囲にあるクロロプレンラテックス、及びクロロプレンラテックスを含有する接着剤組成物。
0.037×lnT(℃)≦D50(μm)≦0.2 (1)
(式中、lnT(℃)は重合温度T(℃)の自然対数を表す。)
−10×D50(μm)+3≦E(%)≦−15×D50(μm)+6(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックスの長期間の保存安定性が良好であり、接着剤とした際に物性が良好であるクロロプレンラテックスに関するものである。なお、本発明における長期間とは、10℃の冷蔵保管においては2年以上、23℃の常温保管における5ヶ月以上を指す。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴム等をベースとした溶剤系接着剤は、その良好な作業性や接着物性から各種用途に用いられてきた。
【0003】
しかし、使用される有機溶剤は地球環境や作業者の健康に悪影響を与え、時には作業場の火災等を引き起こす危険性を有しているため、クロロプレンラテックスによる脱溶剤の検討がなされている。
【0004】
クロロプレンラテックスとしては各種の方法が知られている(例えば、特許文献1,特許文献2)
クロロプレンゴムの高分子鎖が広がった状態で存在する溶剤系接着剤と異なり、ラテックス中では高分子鎖が縮まりその表面が乳化剤で保護された粒子として存在するため、溶剤系接着剤と比較して貼り合せ時の密着性(コンタクト性)が劣る。特に多量の乳化剤を使用した場合や、高分子量化によるポリマーの分岐の増加、ゲル分の増加などが生じるとコンタクト性が低下する。
【0005】
この問題を解決する方法の1つとして、クロロホルムに溶解した際に不溶部となるゲル分を含まないクロロプレン系共重合体ラテックス及びそれを用いた接着剤組成物が知られている(例えば、特許文献3,非特許文献1)。
【0006】
しかし、クロロプレンゴムは保管中に徐々に脱塩酸し、ラテックスのpHが低下する。そのため、特許文献1,特許文献2に示されるように、ロジン酸の金属塩からなるを乳化剤を用いた場合、pHが低下によりラテックスの安定性が低下し、ゴムが析出するなどの問題が生じる。また、特許文献3のようにゲル分不含により物性を向上させる場合も、保管中の分子量増加によりゲルが発生すると物性が低下することから、長期間の保存において保管安定性が良好であるということはラテックス製品において非常に重要である。
【0007】
ラテックスの粒子の表面は乳化剤で覆われているため、保管安定性を良好なものとする為に乳化剤は必要不可欠である。一方で、過剰な乳化剤は接着剤貼り合せ時のコンタクト性を低下させる。また、重合場の形成や被着体への濡れ性などにも乳化剤は関与し、ラテックス製造時から接着剤物性に至るまで全てに影響する。よって、これらのバランスは非常に微妙でかつそのバランスを安定に保つことが非常に重要なものとなる。
【0008】
ラテックスの粒子径については、例えば特許文献4において、粒子径が20nm以上150nm未満において安定で生産性に優れると記載されている。また、仕込み単量体100質量部に対し乳化剤及び/又は分散剤を10質量部以上添加量するとラテックスから仕上げたゴムの物性に悪影響を及ぼす可能性があると記載されている。
【0009】
しかし、ラテックス状態での保管におけるポリマーの安定性と接着物性については記載されておらず、粒子径及び乳化剤量のクロロプレンラテックスの保存安定性及び接着物性に関する検討は今までなされていないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】特公昭51−39262号公報
【特許文献2】特開2001−49043号公報
【特許文献3】特開平8−218044号公報
【特許文献4】特開2003−55409号公報
【非特許文献1】JETI Vol.44 No.12(88頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゲル分不含により物性を向上させたクロロプレンラテックスについて、保管中のラテックス安定性を維持し、長期間に渡って良好な物性を維持するクロロプレンラテックス及び接着剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、このような背景の下、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ラテックスの粒子径と乳化剤量を一定範囲とすることで、保管中の分子量変化を抑えることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、ラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が所定の式で示される範囲にあり、かつ、ラテックス中に含まれる乳化剤の重量分率:E(%)が所定の式の範囲であることを特徴とするクロロプレンラテックス、及びそれを含有することを特徴とする接着剤組成物である。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のクロロプレンラテックスは、ラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が以下の式(1)で示される範囲にあるものである。
【0015】
0.037×lnT(℃)≦D50(μm)≦0.2 (1)
ラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が0.037×lnT(℃)より小さいと、ラテックスの保管安定性が悪くなり、0.2を超えると、粒子が沈降する恐れがある。
【0016】
さらに、本発明のクロロプレンラテックスは、ラテックス中に含まれる乳化剤の重量分率:E(%)が以下の式(2)で示される範囲にあるものである。
【0017】
−10×D50(μm)+3≦E(%)≦−15×D50(μm)+6(2)
乳化剤の重量分率:E(%)が−10×D50+3より小さいと、ラテックスの安定性が悪くなり、−15×D50(μm)+6より大きいと、接着物性が劣る。
【0018】
また、クロロプレンラテックスの固形分あたりの乳化剤量が2.5〜3.5wt%の範囲であると貯蔵安定性を損なうことなくより良好な接着物性が得られるので好ましい。
【0019】
本発明のクロロプレンラテックスとは、2−クロロ−1,3−ブタジエンであるクロロプレンの単量体を単独で重合、またはクロロプレンと共重合可能な他の単量体と共重合して得られたラテックスであり、必要に応じて、クロロプレンと共重合可能な他の単量体を2種類以上用いても良い。クロロプレンと共重合可能なその他の単量体としては、例えば、2,3−ジクロロ−1,3ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸等があげられる。
【0020】
本発明のクロロプレンラテックスの製造方法としては、例えば、クロロプレン単量体、又はクロロプレン単量体とクロロプレンと共重合可能な他の単量体をラジカル乳化重合すればよい。乳化重合は、上記の単量体、及び乳化剤を、重合開始剤、連鎖移動剤等と共に乳化し、所定温度にて行い、所定の転化率で重合停止剤を添加し、動的光散乱法(レーザー散乱光解析)によるラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が0.037×lnT(℃)≦D50(μm)≦0.2(式中、lnT(℃)は重合温度T(℃)の自然対数を表す。)で示される範囲にあり、かつ、ラテックス中に含まれる乳化剤の重量分率:E(%)が−10×D50(μm)+3≦E(%)≦−15×D50(μm)+6の範囲となるよう行えば良い。
【0021】
ラテックスの粒子径は、重合場の数に依存し、重合場が多いほど粒子径は小さくなる。その為、乳化剤の量や重合温度、重合開始剤の量にて調整可能であり、一般的に粒径を小さくするには、乳化剤使用量や、重合開始剤を増加し、重合場を増やせば良い。
【0022】
ラテックスに含まれる乳化剤の重量分率は、重合初期の仕込み比により調整できるが、この範囲に入らない仕込み比で乳化剤を使用した場合でも、乳化剤やモノマー、水、その他の添加物を追加したり、重合終了後に減圧濃縮をして水や未反応単量体を除去することでも調整が可能である。また、その追加のタイミングは特に限定するものでなく、重合開始直後から重合終了後まで任意に行うことができる。
【0023】
重合で使用する乳化剤は一般的に乳化重合に用いるものであれば特に限定するものではなく、アニオン型、ノニオン型、カチオン型などが用いられる。アニオン型乳化剤としては、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型などがあり、カルボン酸型としては、例えば、ロジン酸のアルカリ金属塩、脂肪酸のアルカリ金属塩、アルケニルコハク酸のアルカリ金属塩、ポリカルボン酸のアルカリ金属塩の高分子化合物などがあげられ、硫酸エステル型としては、例えば、ラウリル硫酸塩,ステアリル硫酸塩などの炭素数が10〜20のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩,ポリオキシエチレンステアリルエーテル硫酸塩などの炭素数が10〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩などがあげられ、スルホン酸型としては、例えば、デカンスルホン酸塩,ラウリルスルホン酸塩,ステアリルスルホン酸塩などの炭素数が10〜20のアルカンスルホン酸塩、ラウリルベンゼンスルホン酸塩,ステアリルベンゼンスルホン酸塩などの炭素数が10〜20のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリルジフェニルエーテルジスルホン酸塩,ステアリルジフェニルエーテルジスルホン酸塩などの炭素数が10〜20のアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ブチルナフタレンスルホン酸塩,ラウリルナフタレンスルホン酸塩などの炭素数が4〜20のアルキルナフタレンスルホン酸塩などがあげられ、塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどがあげられる。ノニオン型乳化剤としては、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等があげられる。カチオン型乳化剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩などがあり、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどがあげられる。これらは、1種類でも良く、2種類以上を含んでいても良いが、重合挙動及び接着物性が良好であることから、ロジン酸のナトリウム塩やアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のナトリウム塩が通常用いられている。
【0024】
乳化剤の使用量は特に限定するものではなく、ラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が0.037×lnT(℃)≦D50(μm)≦0.2(式中、lnT(℃)は重合温度T(℃)の自然対数を表す。)で示される範囲となるよう重合時の乳化剤量を調整し、ラテックス中に含まれる乳化剤の重量分率:E(%)が−10×D50(μm)+3≦E(%)≦−15×D50(μm)+6の範囲となるよう必要に応じて重合中又は重合終了後に調整を行なえば良く、例えば、クロロプレン単量体100重量部に対して2〜4重量部で重合を開始し、重合中又は重合終了後クロロプレン単量体100重量部に対して1〜4重量部を添加することがあげられる。また、粒径制御及び乳化剤の重量分率調整のため、重合前に限らず、重合中、重合終了後の任意のタイミングでの追加が可能である。また、重合の安定化のため、クロロプレン100重量部に対してスルホン酸のアルカリ金属塩からなる安定剤0.1〜2重量部を含むことが好ましい。また、その添加時期は、特に限定するものではなく、重合前、重合中、重合終了後の任意のタイミングで添加が可能である。ここに、スルホン酸のアルカリ金属塩からなる安定剤としては、例えば、ペンタンスルホン酸のアルカリ金属塩,オクタンスルホン酸のアルカリ金属塩などの炭素数が8以下の脂肪族スルホン酸のアルカリ金属塩、トルエンスルホン酸のアルカリ金属塩,スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩,ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩,ブチルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩などの芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩、ラウリル硫酸のアルカリ金属塩などのアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸のアルカリ金属塩などのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアルカリ金属塩、及びナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩とホルマリンの縮合物や不飽和結合を有するスルホン酸化合物のアルカリ金属塩と共重合可能な単量体との各種共重合体などのスルホン酸化合物のアルカリ金属塩を有する各種化合物などがあげられる。不飽和結合を有するスルホン酸化合物としては、例えば、ビニルスルホン酸のアルカリ金属塩、アリルスルホン酸のアルカリ金属塩、メタリルスルホン酸のアルカリ金属塩、イソプレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩などがあげられ、それらと共重合可能な単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、メチルメタクリレートなどがあげられる。アルカリ金属塩としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムなどがあげられる。これらは、1種類でも良く、2種類以上含んでいても良いが、なかでも重合時のラテックス安定性の面からナフタレンスルホン酸の金属塩とホルムアルデヒドの縮合物または、スチレンスルホン酸の金属塩とメタクリル酸の共重合体が好ましい。
【0025】
重合開始剤としては、公知のフリーラジカル性物質、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過酸化物、過酸化水素、ターシャリーブチルヒドロパーオキサイド等の無機又は有機過酸化物等を用いることができる。また、これらは単独又は還元性物質、例えば、チオ硫酸塩、チオ亜硫酸塩、ハイドロサルファイト、有機アミン等との併用レドックス系で用いても良い。重合開始剤の量は特に限定するものではなく、例えば、クロロプレン単量体100重量部に対して0.02重量部以下があげられる。
【0026】
連鎖移動剤としては、例えば、アルキルメルカプタン、ハロゲン炭化水素、アルキルキサントゲンジスルフィド、硫黄等の分子量調節剤等があげられ、これらのうち、臭気及び作業性の面からn−ドデシルメルカプタンが好ましい。
【0027】
重合温度は特に限定するものではなく、0〜80℃の範囲で行うことができ、好ましくは10〜50℃の範囲である。
【0028】
重合終了時期は特に限定するものでないが、生産性を考慮すると、単量体の転化率が60〜100%まで重合を行うことが好ましい。
【0029】
重合停止剤としては、通常用いられる停止剤であれば特に限定するものでなく、例えば、フェノチアジン、2,6−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキシルアミン等が使用できる。
【0030】
本発明のクロロプレンラテックスを含む接着剤は、単独でも接着剤として使用可能であるが、要求物性に応じて、粘着付与樹脂、架橋剤等を添加することができる。
【0031】
粘着付与樹脂としては特に限定するものではなく、例えば、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系炭化水素等があげられ、例えば、重合ロジン、ロジン変性樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール、水添ロジン、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、石油樹脂、クマロン樹脂等が使用される。
【0032】
架橋剤としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、エポキシ樹脂、ポリアジリジン化合物、ポリオキサゾリン化合物、ポリイソシアネート化合物等クロロプレンラテックスに均一に混合できる化合物であれば用いることができる。
【0033】
クロロプレンラテックスを主成分とする接着剤の粘度は、各種増粘剤、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、疎水化セルロース、会合型ノニオン界面活性剤等の水溶性ポリマー、及びカルボキシル基含有ポリマーから構成されるアルカリ可溶型の増粘剤、ヘクトライト等のシリケート化合物等の配合により所望の値に調整できる。また必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、凍結防止剤、造膜助剤、可塑剤、クレー等の各種充填剤を適宜配合しても良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明のクロロプレンラテックスは、粒径と乳化剤量のバランスを取ることで長期間の保管において物性が安定であり、これを含有する接着剤組成物は安定した物性を示すものである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における保管期間は、10℃における2年に相当する促進条件として50℃における7日間以上の保管とした。
【0036】
各物性は以下の方法で測定した。
【0037】
<粒子径測定>
ラテックスを0.01〜0.1質量%となるように蒸留水で希釈し、Microtrac UPA(日機装株式会社製)にて粒子径測定を行った。粒子径として、D50%粒子径(メジアン径)を用いた。
【0038】
<機械的安定性>
恒温室(23℃)に30分以上静置して温度調節したラテックスを100メッシュのステンレス製金網にてろ過後100.0gを秤量して測定試料とし、旧JISK6392を参考にマーロン試験法によりラテックスの機械的安定性を測定した。ポリエチレンライナーへの荷重は15kgとし、回転を開始し、10分後、マーロンカップ内のラテックスを秤量済みの100メッシュのステンレス製金網にてろ過し、更に純水で洗いこみ、析出物を取り出し、十分に純水で洗浄した後に110℃のギヤオーブンにて恒量になるまで乾燥する。その後、デシケーター中で室温になるまで冷却し、0.1mgの精度まで秤量する。ラテックスの固形分をS(%)、析出量をG(g)とし、下記の式にてラテックス中の固形分に対するゴム凝固率C(%)を測定した。
【0039】
C=G/(100×S/100)×100
ただし、機械的安定性が悪く、回転中にラッピング現象によりラテックスがマーロンカップから飛び出すような場合は直ちに回転を停止し、結果は測定不能とした。
【0040】
<ポリマーのゲル分及び溶液粘度>
ラテックスをシャーレに流延し、ドライアイスにて凍結後真空乾燥機において24時間以上経過後に秤量を行い、重量変化が1%以下となるまで乾燥した。その後、そのゴムを重量換算で1%の濃度となるようにトルエンに溶解し、ボールミルにて16時間混合・溶解した。得られた溶液を200メッシュの金網にてろ過、トルエンにて洗浄後、残渣を170℃で10分乾燥し、その重量と溶解したゴムの重量の比を少数第一位を四捨五入してゲル分とした。またゲル分同様にそのゴムを重量換算で10%の濃度となるようにトルエンに溶解し、その粘度をB型粘度計を用いて測定した。測定は、試料容器を23℃の恒温槽に1時間浸漬した後に、No.3ローターを用いて12rpmで測定し、60秒後の値を用いた。
【0041】
<乳化剤濃度>
重合に使用した乳化剤及び後添加した乳化剤の合計量からラテックスあたり、又は固形分あたりの濃度を算出した。
【0042】
<接着剤配合>
ラテックス100重量部に対し、樹脂エマルジョン40重量部、(商品名:E−100、荒川化学工業(株))金属酸化物1重量部(商品名:AZ−SW、大崎工業(株))増粘剤2重量部(商品名:アデカノールUH−420、(株)ADEKA)を混合して接着剤組成物を作製した。
【0043】
<配合安定性>
接着剤配合時のゴム析出有無を観察した。
【0044】
<接着強度>
9号帆布2枚(約150mm×60mm)それぞれの片面に下塗りとして刷毛で接着剤組成物を約250g/m塗布し、80℃で5分乾燥後、再度刷毛で接着剤組成物を110g/m塗布、80℃で5分乾燥後に冷却をおこなうことで被着体を作成。それに、接着剤組成物を刷毛で110g/m塗布した後23℃にて60分間乾燥し、ハンドローラーを用いて圧着。150mm×25mmのサイズに切り出したものを測定用の試験片とした。接着強度の測定はテンシロン型引っ張り試験機を用いて23℃の雰囲気下にて100mm/minの剥離速度で180°方向の引っ張りにて行った。測定は圧着してから2分後に実施した。
【0045】
実施例1
表1で示した重量部のクロロプレン、メタクリル酸、n−ドデシルメルカプタン、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(商品名:ペレックスSS−H、花王(株)製)、ナフタレンスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドの縮合物(商品名:デモールN、花王(株))、ハイドロサルファイトナトリウム、及び純水を攪拌機付き10Lオートクレーブ中40℃で重合を行い、クロロプレン系共重合体ラテックスを作製した。重合は窒素雰囲気下で0.35重量%の過硫酸カリウム水溶液を連続的に滴下して行い、重合転化率が約90%となった時点でフェノチアジンを加え反応を停止し、乳化剤量調整のためアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムを単量体合計100重量部に対し2重量部の割合で追加した。減圧下で未反応単量体を除去するとともに水分を濃縮し、固形分を55%のラテックスAを得た。
【0046】
【表1】

ラテックスは所定の方法で乳化剤濃度及び粒子径を測定した後、ラテックスAの一部を容器に入れ、50℃雰囲気で8日間保管し、保管前後の25℃におけるラテックスの機械的安定性、ポリマーの10%トルエン溶液粘度、ゲル分を測定した。また、保管前後のラテックスそれぞれに対し、樹脂エマルジョン、金属酸化物、増粘剤を配合して接着剤組成物を作製し、その配合安定性、及び接着強度を測定した。配合を表2に示し、結果を表3に示す。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も良好な値であった。また、粒径及び乳化剤量の相関を図1,図2,図3に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

実施例2
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム及びハイドロサルファイトNaの添加量を表1に示す割合に変更した以外は実施例1に従ってラテックスBを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も非常に良好な値であった。
【0049】
実施例3
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム及びハイドロサルファイトNaの添加量を表1に示す割合に変更し、固形分あたりの乳化剤量の調整のため重合転化率が50%をこえたところでクロロプレン単量体を追加した以外は実施例1に従ってラテックスCを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も非常に良好な値であった。
【0050】
実施例4
重合転化率を変更した以外は実施例1に従ってラテックスDを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0051】
実施例5
重合温度を50℃とした以外は実施例1に従ってラテックスEを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の増加はほとんど無く、接着強度も良好な値であった。
【0052】
実施例6
重合温度を10℃とし、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの使用量を変更した以外は実施例1に従ってラテックスFを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0053】
実施例7
重合温度を10℃とし、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの使用量及び重合転化率を変更した以外は実施例1に従ってラテックスGを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の増加はほとんど無く、接着強度も良好な値であった。
【0054】
実施例8
表1で示した重量部のクロロプレン単量体、n−ドデシルメルカプタン、ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK−25、荒川化学(株))、水酸化ナトリウム、ハイドロサルファイトナトリウム、及び純水を攪拌機付き10Lオートクレーブ中40℃で重合を行いクロロプレンラテックスを作製した。重合は窒素雰囲気下で0.35重量%の過硫酸カリウム水溶液を連続的に滴下して行い、重合転化率が約90%となった時点で重合停止剤を加え反応を停止した。乳化剤量調整のため、クロロプレン単量体100重量部に対し1.5重量部のロジン酸カリウムを追加した後、減圧下で未反応単量体の除去及び濃縮により固形分を55%に調整しラテックスHを作製した。結果を表3に示す。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0055】
実施例9
重合温度を10℃とし、重合終了後に追加するロジン酸カリウム量を変更した以外は実施例8に従ってラテックスIを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0056】
実施例10
重合温度を15℃とし、ロジン酸カリウムの使用量を変更した以外は実施例8に従ってラテックスJを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0057】
実施例11
重合温度を15℃とし、ロジン酸カリウムの使用量を変更し、更に固形分あたりの乳化剤量の調整のため重合転化率が50%を超えたところでクロロプレン単量体を追加した以外は実施例8に従ってラテックスKを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0058】
実施例12
重合温度を15℃とし、重合終了後に追加するロジン酸カリウム量及び重合転化率を変更した以外は実施例8に従ってラテックスLを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の発生は無く、接着強度も良好な値であった。
【0059】
実施例13
重合温度を20℃とし、ロジン酸カリウムの使用量を変更した以外は実施例8に従ってラテックスMを作製し、評価を実施した。表3の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であり、保管によるゲル分の増加は無く、接着強度も良好な値であった。
【0060】
比較例1
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム及びハイドロサルファイトNaの使用量を表4に示す割合に変更した以外は実施例1に従ってラテックスaを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であるが、保管によりゴム分が容器の底に堆積物が見られた。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

比較例2
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの添加量を表4に示す割合に変更した以外は実施例1に従ってラテックスbを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であるが、接着強度が低かった。
【0063】
比較例3
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの使用量(使用比率)及び重合温度を表4に示す割合に変更した以外は実施例1に従ってラテックスcを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管によりゲル分が発生し、保管後は接着強度が低下した。
【0064】
比較例4
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの使用量及び重合温度を表4に示す割合に変更した以外は実施例1に従ってラテックスdを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管によりゲル分が発生し、保管後は接着強度が低下した。
【0065】
比較例5
アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウムの添加量及び重合温度を表4に示す割合に変更した以外は実施例1に従ってラテックスeを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性が悪く、ゴムが析出した。
【0066】
比較例6
ロジン酸カリウムの添加量を表4に示す割合に変更した以外は実施例7に従ってラテックスfを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管の前後共にラテックスの機械的安定性及び配合安定性は良好であるが、ゲル分が大きく増加し接着強度が低下した。
【0067】
比較例7
ロジン酸カリウムの添加量及び重合温度を表4に示す割合に変更した以外は実施例5に従ってラテックスgを作製し、評価を実施した。結果を表5に示す。表5の結果より、50℃保管によりゲル分が発生し、保管後は接着強度が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例及び比較例における重合温度とD50(μm)の関係を示す図である。図中の実線が式(1)の範囲を示し、各プロット横の文字が対応するラテックスを示す(大文字のアルファベットが実施例、小文字のアルファベットが比較例である)。
【図2】実施例及び比較例における粒子径とラテックス中の乳化剤量(%)の関係を示す図である。図中の実線が式(2)の範囲を示し、各プロット横の文字が対応するラテックスを示す。
【図3】実施例及び比較例における固形分あたりの乳化剤量(%)を示す図である。図中の点線は請求項2に記載のwt%の上限及び下限を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックスの粒子径(メジアン径):D50(μm)が以下の式(1)で示される範囲にあり、かつ、ラテックス中に含まれる乳化剤の重量分率:E(%)が以下の式(2)で示される範囲にあることを特徴とするクロロプレンラテックス。
0.037×lnT(℃)≦D50(μm)≦0.2 (1)
(式中、lnT(℃)は重合温度T(℃)の自然対数を表す。)
−10×D50(μm)+3≦E(%)≦−15×D50(μm)+6(2)
【請求項2】
固形分あたりの乳化剤量が2.5〜3.5wt%であることを特徴とする請求項1に記載のクロロプレンラテックス。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のクロロプレンラテックスを含有することを特徴とする接着剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−155535(P2009−155535A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337105(P2007−337105)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】