説明

クローン化されたイヌ科動物及びその生産方法

クローン化されたイヌ科動物及びその生産方法が開示されている。該方法は,イヌ科動物の卵から核を除去して除核卵を製造する工程,イヌ科動物の体細胞を核供与細胞として使用して前記除核卵に最適化された条件で核移植を実施して核移植胚を製造する工程,及びこの核移植胚を代理母の卵管に移植する工程を含む。本発明はクローン化されたイヌ科動物を生産する方法を提供し,従って,優良なイヌ科動物の繁殖,貴重な又は絶滅の危機にあるイヌ科動物の保存,異種移植,疾患モデル動物など獣医学,人類学及び医学研究分野の発達に寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクローン化されたイヌ科動物及びその生産方法に関する。より具体的には,本発明はイヌ科動物の成熟卵から核を除去して除核された受核卵を製造した後,イヌ科動物の体細胞を核供与細胞として使用して最適化された条件で前記除核された卵に核移植を実施して核移植胚を製造すること,この核移植胚を代理母の卵管に移植することを含むクローン化されたイヌ科動物の生産方法及び前記方法によって生産されたクローン化されたイヌ科動物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の細胞融合又は細胞質内注入による体細胞核移植技術の発展により,クローン化動物の生産が本格的に行われている。
【0003】
体細胞核移植技術は生殖過程で一般的に行われる減数分裂及び半数体保有生殖細胞形成を経由しなくても子孫を誕生させることができる技術であり,生体の二倍体保有体細胞を除核卵に移植して胚を生産して,前記胚をin vivoに移植して新しい個体を発生させる方法である。一般的に体細胞核移植技術において体細胞供与核を移植する受核卵(recipient oocyte)はin vitroで人工的に培養して第二減数分裂中期に到達するまで成熟させた後に使用される。そして,体細胞核移植にともなう染色体異常発生を防止するためには,体細胞を移植する前に前記成熟卵の核を除去する。前記成熟細胞の囲卵腔又は細胞質に体細胞を注入した後,前記除核卵と体細胞を電気的刺激により物理的に融合させる。融合対は,電気刺激又は化学物質によって活性化させた後,代理母に移植して産子を誕生させる。
【0004】
このような体細胞核移植技術は,例えば優良動物の繁殖,希少動物又は絶滅するおそれのある動物の保存,特定栄養物質の生産,治療用生体物質の生産,臓器移植用動物の生産,病疾患動物の生産,細胞及び遺伝子治療のような医学的に価値のある臓器移植代替用の動物の生産などの分野で広く活用することができる。
【0005】
動物のクローン化技術は,英国のロスリン研究所のウィルムート(Wilmut)博士によって,6才のヒツジから乳腺細胞を採取し,その細胞を核が除去された卵に移植して核移植胚を生産した後,この胚をin vivoに移植し,クローン化動物のドリーを誕生させることによって最初に成功した。以後,ウシ,マウス,ヤギ,ブタ及びウサギなどが,動物成体から得られる体細胞を用いた核移植方法により生産されてきた(国際特許公開第WO9937143A2号,欧州特許第930009A1号,国際特許公開第WO9934669A1号,国際特許公開第WO9901164A1号及び米国特許第5945577号)。
【0006】
一方,ウシ,ブタのような産業動物のクローン化だけでなく,イヌのような他の愛玩動物のクローン化も多くの人々の関心の対象になっている。近年は,ペットとしては初めてネコがクローン化され,イヌのクローン化についての研究も実施された。
【0007】
しかし,まだ体細胞核移植方法によるイヌ科動物のクローン化が成功した事例は報告されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の発明者らはクローン化されたイヌ科動物の生産方法を研究し,その結果,電気融合条件,核移植胚活性化条件及び代理母への胚の移植条件を最適化して,体細胞移植方法によってクローン化されたイヌ科動物を初めて生産し,本発明を完成した。
【0009】
従って,本発明の目的は体細胞核移植技術を利用したイヌ科動物の核移植胚の生産方法を提供することである。
【0010】
また,本発明の他の目的は,前記方法によって製造されたイヌ科動物の核移植胚を提供することである。
【0011】
また,本発明の他の目的は,前記核移植胚を代理母に移植して,産子を出生させる工程を含むクローン化されたイヌ科動物の生産方法を提供することである。
【0012】
また,本発明の他の目的は,前記方法によって生産されたクローン化されたイヌ科動物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために,本発明は体細胞核移植技術を利用したイヌ科動物の核移植胚生産方法を提供する。
【0014】
他の態様において,本発明は前記方法によって製造されたイヌ科動物の核移植胚を提供する。
【0015】
さらに別の態様においては,本発明は前記核移植胚を代理母に移植して産子を出生させる工程を含むクローン化されたイヌ科動物の生産方法を提供する。
【0016】
別の態様においては,本発明は前記方法によって製造されたクローン化されたイヌ科動物を提供する。
【0017】
以下,本発明を詳細に説明する。
【0018】
用語の定義
本発明で使用される用語「核移植」は,除核細胞に他の細胞の核DNAを人工的に結合させて,同じ形質及び要求された品質を有するようにする遺伝子操作技術をいう。
【0019】
本発明で使用される用語「核移植胚」は,核供与細胞が導入又は融合された胚をいう。
【0020】
本発明で使用される用語「クローン化」は,一つの個体と同じ遺伝子セットを有する新しい個体を作る遺伝子操作技術を意味する。特に本発明では,細胞,胚細胞,胎児細胞及び/又は動物細胞が他の細胞,胚細胞,胎児細胞及び/又は動物細胞の核DNA配列と実質的に類似又は同一の核DNA配列を有することをいう。
【0021】
本発明で使用される用語「核供与細胞」は核受容体である受核卵に核を移す細胞又は細胞の核をいう。
【0022】
本発明で使用される用語「受核卵」は,核が除去された後,核供与細胞からの核の移植を受ける卵をいう。
【0023】
本発明で使用される用語「成熟卵」は第二減数分裂中期まで到達した卵をいう。
【0024】
本発明で使用される用語「除核卵」は核が除去された卵を意味する。
【0025】
本発明で使用される用語「融合」は核供与細胞と受核卵の脂質膜との結合を意味する。例えば,脂質膜は細胞の原形質膜又は核膜であり得る。融合は核供与細胞と受核卵が互いに隣接するように位置している時又は核供与細胞が受核卵の囲卵腔(perivitelline space)内に位置している時に核供与細胞と受核卵の間に電気的刺激を加えることによって起こすことができる。
【0026】
本発明で使用される用語「活性化」は核移植工程前,核移植工程の間又は核移植工程後に細胞が分裂するように刺激を与えることをいう。望ましくは,本発明では核移植段工程に細胞が分裂するように刺激を与えることをいう。
【0027】
本発明で使用される用語「産子(living offspring)」は子宮外で生存できる動物をいう。望ましくは,1秒間,1分間,1時間,1日,1週間,1ヶ月間,6ヶ月間又は1年間以上生存できる動物をいう。前記「産子」動物は生存のために子宮内環境の循環系を必要としない。
【0028】
本発明で使用される用語「イヌ科動物」としてはイヌ,オオカミ,キツネ,ジャッカル,コヨーテ,チョウセンオオカミ及びタヌキが含まれる。望ましくは,イヌ又はオオカミが含まれる。イヌは野生のオオカミが家畜化されたものであることが分かっており,このため,オオカミとイヌは染色体数が同一で,妊娠期間,性ホルモンの変化が類似している(シール他(Seal US et al.),Biology Reproduction 1979年,21:1057-1066) 。
【0029】
本発明は核移植胚の電気融合及び活性化条件を最適化してイヌ科動物の核移植胚を製造し,前記核移植胚を代理母の卵管に移植して産子を生産することによって,体細胞核移植技術によるイヌ科動物のクローン化に初めて成功したことに特徴がある。
【0030】
本発明のイヌ科動物の核移植胚の生産方法は,
(a)イヌ科動物の成熟卵から除核された受核卵を製造する工程と,
(b)ドナーとなるイヌ科動物の組織から体細胞を分離して核供与細胞を製造する工程と,
(c)前記工程(a)の除核卵に工程(b)の核供与細胞を顕微注入して3.0〜3.5kV/cmの電圧で核供与細胞を除核卵と電気融合させる工程と,
(d)前記工程(c)で融合させた卵を活性化させる工程とを含む。
【0031】
以下,本発明のイヌ科動物の核移植胚生産方法の各工程を説明する。
【0032】
第1工程:受核卵の除核
受核卵として使用するためには,イヌ科動物から回収された未成熟卵をin vitroで成熟させることができ,また,in vivoで成熟した卵を回収することができる。一般的にほ乳動物(例えば,ウシ,ブタ,ヒツジなど)の卵は成熟卵,すなわち第二減数分裂中期(metaphase II)で排卵されるが,イヌ科動物の卵は他の動物とは違って第一減数分裂の前期に排卵されて,卵管内で48〜72時間の間,留まりながら成熟する。イヌ科動物の卵核成熟率が非常に低く,イヌ科動物の排卵時期及び繁殖生理が他の動物とは異なるため,in vivoで成熟したイヌ科動物の卵を回収し,受核卵として使用することが望ましい。
【0033】
より具体的には,イヌ科動物からの成熟卵の回収は,好ましくはイヌ科動物の排卵誘発後約48〜72時間に,より望ましくは約72時間に実施する。この点に関し,イヌ科動物の排卵日は当該分野で公知の方法により決めることができる。排卵日を決める方法には,例えば,膣スミア試験,血清性ホルモン値測定及び超音波診断システムが含まれるが,これらに限定されない。イヌ科動物の発情の開始は外陰部膨張及び漿液血性分泌により確認することができる。
【0034】
本発明の一試験例では,膣スミア試験と血清プロゲステロン濃度の分析を実施し,非角質化上皮細胞が80%以上,血清プロゲステロン濃度が約4.0〜7.5ng/mLに達した時を排卵日と見なした。これに基づき,排卵後48〜72時間,望ましく排卵後約72時間に卵を回収した。一方,イヌ科動物から排卵された卵の成熟時期は排卵後48〜72時間であることが公知であり,本発明の発明者らは排卵後48時間,60時間及び72時間に回収した卵を分析し,その結果,排卵後約72時間に回収された卵が第二減数分裂中期に該当する成熟卵であることを確認した。また,本発明で実際にクローン化イヌの生産に成功した卵も排卵後72時間に回収された卵であった。したがって,イヌ科動物の成熟卵の回収は排卵後72時間が最も望ましいということが分かった。
【0035】
in vivoで成熟した卵を回収する方法としては,対象動物を麻酔した後に開腹することを含む外科的方法を用いることができる。より具体的には,in vivoで成熟した卵の回収は当該分野で公知の任意の方法で卵管切除法を用いて行うことができる。前記卵管切除法は卵管を外科的に切り出した後,卵回収培地を卵管内部に潅流させて得た潅流液から卵を回収する方法である。
【0036】
また,in vivoで成熟した卵はカテーテルを卵管采に挿入した後,卵管−子宮の接合部位に針装着カテーテルを利用して潅流液を注入することによって回収することができる。この方法は卵管を損傷させないため,卵を供与する動物を次の発情にも利用できる長所がある。
【0037】
したがって,望ましくは,in vivoで成熟した卵の回収は卵管を損傷させないカテーテルを利用した方法を用いる。一方,本発明の発明者らはカテーテルを利用した卵回収方法において,卵回収率を高めるために,卵管入口への挿入が容易になるように先端が丸く処理されている卵回収用ニードルを開発した(図1参照)。より具体的には,本発明の発明者らが開発したニードルを利用した卵回収方法は,先端が丸く処理された卵回収用ニードルを卵管内に挿入し,結紮した後,卵管−子宮の接合部位に卵回収用培地を潅流させて,前記卵回収用ニードルに潅流液が流入するようにして,この潅流液を顕微鏡で観察しながら成熟した卵を選択する方法である。
【0038】
成熟した卵を回収した後,卵の半数体核を除去する。卵の除核は当該分野で公知の任意の方法を用いて実施できる(米国特許第4994384号,米国特許第5057420号,米国特許第5945577号,欧州特許公開第0930009A1号,大韓民国特許第342437号,カンダ他(Kanda et al), J. Vet. Med. Sci., 57(4):641-646, 1995年; Willadsen, Nature, 320:63-65, 1986年, ナガシマ他(Nagashima et al.), Mol. Reprod. Dev. 48:339-343 1997年; ナガシマ他, J. Reprod Dev 38:37-78, 1992年; プラター他(Prather et al.), Biol. Reprod 41:414-418, 1989年, プラター他, J. Exp. Zool. 255:355-358, 1990年; サイトウ他(Saito et al.), Assis Reprod Tech Andro, 259:257-266, 1992年; テロウ他(Terlouw et al.), Theriogenology 37:309, 1992年)。
【0039】
望ましくは,受核卵の除核は下記の二種類の方法のいずれかを用いて実施できる。一つの方法は,成熟した受核卵の卵丘細胞(cumulus cell)を除去した後,マイクロニードルを利用して受核卵の透明帯の一部を切開してスリットを形成し,このスリットから第1極体,核及び周辺の細胞質(可能な限り少ない量)を除去することを含む。他の方法は,受核卵の卵丘細胞を除去し,卵を染色し,そして吸入ピペット(aspiration pipet)を利用して,第1極体及び卵の核を除去する。より望ましくは,卵の除核のためには,受核卵の状態を視覚的に評価して生存率が高い卵に対しては吸入方法を用い,生存率の低い卵に対してはスリットを形成する方法を用いる。
【0040】
第2工程:核供与細胞の製造
核供与細胞としてはイヌ科動物由来の体細胞を使用することができる。具体的には,本発明で使用される体細胞は,イヌ科動物の胚細胞,胎児細胞(fetus cell),幼若細胞(juvenile cell),成体細胞(adult cell),望ましくは成体細胞から得られる卵丘,皮膚,口腔粘膜,血液,骨髄,肝臓,肺,腎臓,筋肉及び生殖器官などのような組織由来のものである。本発明で使用することができる体細胞としては例えば,卵丘細胞,上皮細胞,繊維芽細胞,神経細胞,表皮細胞,角化細胞,造血細胞,メラニン細胞,軟骨細胞,赤血球,マクロファージ,単球細胞,筋肉細胞,Bリンパ球,Tリンパ球,胚幹細胞,胚生殖細胞などが含まれるが,これらに限定されない。より望ましくは,本発明で使用される体細胞は,胎児繊維芽細胞及び成体繊維芽細胞,卵丘細胞でありうる。
【0041】
そして,本発明で使用される核供与細胞は,野生型体細胞を遺伝子トランスファー法や遺伝子ターゲティング法を利用して,特定遺伝子で形質転換させたものであってもよい。前記遺伝子トランスファー法や遺伝子ターゲティング法は当該分野で公知のため,当業者であれば容易に実施することができる。
【0042】
核供与細胞として提供される体細胞は,外科的サンプル又はバイオプシーサンプルを製造する方法により得ることができ,当該分野で公知の方法により前記サンプルから単一細胞を得ることができる。例えば,クローン化すべき動物からの組織の一部を無菌的に切開して前記の外科的標本又はバイオプシーサンプルを得て,このサンプルを細かく刻み,トリプシンで処理した後,組織培養用培地で培養する。組織培養用培地で3,4日培養した後に培養皿の細胞の生長を確認する。細胞が完全に生長したら,組織の一部を今後の使用のために凍結して液体窒素に保管して,残りは核移植に利用するために継代培養する。核移植に使用するために細胞は継代培養を10回以下として,細胞が過度に大きくなるのを防止する。
【0043】
前記組織培養用培地は,当該分野で公知のものでよく,例えば,TCM−199,DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)などがある。
【0044】
第3工程:核供与細胞の顕微注入(microinjection)及び融合
除核卵への核供与細胞の顕微注入は移植用ピペットを使用して,核供与細胞を除核卵の細胞質と透明帯との間に顕微注入することによって行われた。
【0045】
前記核供与細胞を顕微注入した除核卵はセルマニピュレーターを使用して電気的に核供与細胞と融合させる。
【0046】
電気的融合は交流電流でも直流電流でも行うことができる。望ましくは,3.0〜3.5kV/cmの電圧で行うことができ,より望ましくは直流電圧3.0〜3.5kV/cmで10〜30μsを1〜3回実施することができる。最も望ましくは,直流電圧3.0〜3.5kV/cmで20μsを2回実施することができる。前記で電圧が3.0kV/cm未満である場合又は3.5kV/cmを超過する場合には,除核卵と核供与細胞の融合率が非常に低くなるであろう。前記電気的融合時の電圧範囲は今まで知られていた一般的な電気的融合時の電圧範囲(1.7〜2.0kV/cm)より高いという特徴がある。
【0047】
本発明の一試験例では電気融合時の最適電圧範囲を決めるために核供与細胞を顕微注入した核移植胚を各々違う電圧範囲で電気的に融合した後,顕微鏡で融合率を調べた(試験例2参照)。その結果,核融合率は低い電圧より高い電圧で高いことがわかり,電圧範囲が3.0〜3.5kV/cmの場合に融合率が75.2%で最も高くなることが分かった(表7参照)。
【0048】
核供与細胞と卵の電気的刺激による融合は融合用培地内で実施できる。本発明で使用される融合用培地はマンニトール,MgSO,HEPES及びBSAを含有する。
【0049】
第4工程:融合した核移植胚の活性化
融合した核移植胚の活性化は一時的に停止した細胞周期を再開させる工程である。細胞周期を再活性化するためには細胞周期を停止させる要素のMPF,MAPキターゼなどの細胞信号伝達物質の活性を低下させなければならない。
【0050】
一般的に,核移植胚を活性化する方法には,電気的方法及び化学的方法がある。本発明では核移植胚を化学的方法により活性化するのが望ましい。前記化学的方法は電気的活性化方法に比べて,本発明による核移植胚の活性化をより多く促進することができる。前記化学的方法としては,エタノール,イノシトール三リン酸(IP),2価イオン(例えばCa2+又はSr2+),微小管抑制剤(microtubule inhibitors(例えばサイトカラシンB),2価イオンイオノフォア,6−ジメチルアミノプリン(DMAP)のような蛋白質キナーゼ抑制剤),蛋白質合成抑制剤(例えば,シクロヘキシミド),ホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)のような物質で核移植胚を処理する方法がある。望ましくは,核移植胚の活性化のための化学的方法としては,本発明においてカルシウムイオノフォアと6−ジメチルアミノプリンで核移植胚を同時に又は段階的に処理する方法を用いることができる。より望ましくは,カルシウムイオノフォア5〜10μMで37〜39℃で3〜6分間処理した後,6−ジメチルアミノプリン1.5mM〜2.5mMで37〜39℃で4〜5時間処理する。
【0051】
本発明の一試験例では,前記核移植胚を電気的方法と化学的方法で各々活性化した後,核移植胚の発育段階を観察した(試験例3参照)。その結果,化学的活性化方法が,核移植胚の発育力を高め,化学的方法によって核移植胚を活性化することによって核移植胚を桑実胚期まで発育させることができることが確認された(表8参照)。
【0052】
したがって,本発明は前記方法によって製造されたイヌ科動物の核移植胚を提供する。本発明の発明者らは本発明の一実施例で製造したイヌ科動物の核移植胚をスナッピー(Snuppy)(クローン化されたイヌ科動物の胚)と命名して,2005年7月15日付で韓国生命工学研究員遺伝子銀行(KCTC,大韓民国,大田(テジョン)広域市,儒城(ユソン)区,魚隠(オウン)洞,52番地)に寄託番号KCTC 10831BPで寄託した。
【0053】
前記核移植胚は凍結保存し,必要な時にこれを溶解して使うことができる。
【0054】
そして,本発明によるイヌ科動物の核移植胚は代理母に移植して産子を出生させることによって,クローン化されたイヌ科動物を生産するのに使用することができる。望ましくは,本発明による核移植胚の代理母への移植は代理母の卵管に移植することにより行われる。移植は当該分野で公知の方法を用いて実施することができ,望ましくはカテーテルをクローン化した胚を移植するのに使用することができる。
【0055】
本発明の一実施例において,本発明の核移植胚を代理母の卵管に移植することによってクローン化犬「スナッピー」と「NT−2#」を初めて生産した(実施例6参照)。しかし,本発明の一試験例では,本発明の核移植胚を代理母の子宮に移植した場合には代理母は妊娠しなかったことが確認された(試験例4参照)。したがって,クローン化犬の生産において核移植胚の移植は代理母の卵管に行うことが望ましいことが分かった。
【0056】
一方,核移植胚の代理母への移植において,前記核移植胚は1細胞期,2細胞期又は4細胞期でありうる。また,前記核移植胚は代理母が準備されるまで鉱物油で覆われた25μlのマイクロドロップ(microdrop)のmSOFで培養することができる。
【0057】
したがって,本発明はクローン化されたイヌ科動物を提供する。クローン化されたイヌ科動物は核供与細胞又は供与体と完全に同じ遺伝的特性を有する。本発明の一実施例では本発明の方法によりクローン化犬を生産して,遺伝的特性をマイクロサテライト分析法を利用して分析した(試験例1参照)。その結果,本発明によるクローン化犬は核供与細胞又は供与体と完全に同じ遺伝的特性を有することを確認することができた(表6参照)。
【発明の効果】
【0058】
前記で説明したように,本発明は,クローン化されたイヌ科動物を生産する方法を提供する。従って,本発明は,優良なイヌ科動物の繁殖,貴重な又は絶滅の危機にあるイヌ科動物の保存,異種移植,疾患モデル動物など獣医学,人類学及び医学研究分野の発達に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下, 本発明を実施例によって詳細に説明する。しかしながら,下記実施例は本発明を例示する目的でのみ示されており,本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【0060】
実施例1:イヌからの受核卵の回収
受核卵の回収のために使用したイヌは1〜3年の雑種雌イヌ131匹で,韓国のソウル大学校の飼育管理研究所で確立した標準により飼育されたものである。発情期が始まったイヌを対象に膣スミアと血清プロゲステロンの濃度を毎日測定して排卵日を決め,排卵日から48〜72時間後の成熟卵を回収した。
【0061】
血清プロゲステロンの濃度を測定するために,血液3〜5mlを毎日採取して遠心分離して血清を得た後,該血清をプロゲステロンコーティングされたチューブラジオイムノアッセーキットDSL−3900 ACTIVE(ダイアグノスティック・システムズ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド(Diagnostic Systems Laboratories, Inc.),テキサス州)を使って分析した。プロゲステロン濃度が4.0〜7.5ng/mlに達した日を排卵日と見なした(ハセ他(Hase et al.),J. Vet. Med. Sci.,62:243-248,2000年)。
【0062】
膣スミア試験は発情期の初期症候が現れた日から毎日スミアを採取することによって実施した。スミアは綿棒を外陰部に挿入することによって採取し,これをスライドグラスの上に塗抹した。ディフ・クイック(Diff-Quik)染色液(国際試薬株式会社(International chemical co.),日本)で染色した後,該スミアを顕微鏡で調べた。表皮細胞が上皮細胞角化指数(cornified index)(エヴァンス J.M.他(Evans J.M. et al.),Vet. Rec,7:598-599,1970年)80%より高くに達した時を排卵時期と見なした。
【0063】
排卵された卵の成熟時期は排卵後48〜72時間であることは公知である。したがって,本発明の発明者らは排卵後48〜72時間の卵を下記のような方法で回収した。
【0064】
まず,体内成熟卵の採取時期に達した雌イヌに硫酸アトロピン(0.05mg/kg)とマレイン酸アセプロマジン(0.025mg/kg)を投与し,ケタミン(5mg/kg)を投与して麻酔した。前記麻酔状態はイソフルレン(isoflurane)を投与することによって維持した。
【0065】
前記麻酔した雌イヌに無菌的に外科手術を実施して中間腹部の部分を5〜10cmを切開して卵管が露出するようにした。その後,先端を丸く処理したニードル(図1)を卵管腹腔口に挿入し,縫合糸を利用して固定させた。その後,卵管−子宮接合部に24ゲージIVカテーテルを装着して卵回収用培地(表1)を潅流させることによって潅流液が16ゲージニードルに流れていくようにした。前記潅流液を滅菌ペトリ皿に移し,その後潅流液を顕微鏡で観察して成熟卵を選別した。
【0066】
【表1】

【0067】
結果として,1匹のイヌから平均12個の成熟卵が得られ,合計1370個の卵を回収した。
【0068】
実施例2:受核卵の除核
Ca2+無添加CR2培地(チャールズ・ローゼンクランス2(Charles Rosenkrans 2))(ローゼンクランス他(Rosenkrans et al.),Biol. Reprod. 49,459-462,1993年)にHEPESバッファーを添加して製造したhCR2aa培地(表2)に0.1%(v/v)のヒアルロニダーゼ (シグマ(Sigma),米国)を添加した。その後,反復的にピペッティングして,前記実施例1で回収した卵から卵丘細胞を除去した。その後,この卵を5μg/mLのビスベンズイミド(bisbenzimide) (Hoechst 33342)で5分間染色し,蛍光倒立顕微鏡を利用して×200の倍率で観察して第1極体が確認された卵だけを選別した。hCR2aa培地(表2)に10%(v/v)のFBSと5μg/mLサイトカラシンBを添加した後,該培地中,前記で選別された卵をマイクロマニピュレーター (ナリシゲ(Narishige),日本国,東京)を使用して除核した。すなわち,ホールディングマイクロピペット(内径150μm)で受核卵を固定した後,第1極体,周辺の細胞質(5%未満),及び卵核を吸引ピペットを用いて除去した。前記除核した卵を10%(v/v)FBSが添加されたTCM−199培地(表3)中で保存した。
【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
実施例3:核供与細胞の製造
核供与細胞としてはイヌから得られた成体繊維芽細胞を使用した。この目的のために,まず3才の雄のアフガンハウンドの耳の皮膚組織を分離した。前記耳の皮膚組織片をダルベッコリン酸緩衝液 (DPBS;Dulbecco's Phosphate Buffered Saline)中で3回洗浄して手術用ナイフで細かく刻んだ。前記の刻んだ皮膚組織を0.25%(w/v)のトリプシン及び1mMのEDTAを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;ライフテクノロジーズ社(Life Technologies),メリーランド州,ロックヴィル(Rockville))に入れて37℃で1時間処理した。トリプシンによって分解された細胞をCa2+及びMg2+無添加DPBS内で300×gで2分間の遠心分離を行うことにより1回洗浄した後,100mmのプラスチック培養皿に接種した。その後,前記接種した細胞を,10%(v/v)のFBS,1mMのグルタミン,25mMのNaHCO及び1%(v/v)の最小必須培地非必須アミノ酸溶液(ライフテクノロジーズ社)が添加されたDMEM培地で39℃,5%のCO,95%の大気下の飽和湿度雰囲気で6〜8日間継代培養した。付着しなかった細胞凝集塊を除去した後,付着した細胞を0.1%のトリプシン及び0.02%のEDTAを使用して1分間トリプシン分解することにより,4〜6日間隔で継代培養した。その後,凍結用培地に入れて−196℃の液体窒素中に保管した。該凍結用培地は,80%(v/v)のDMEM,10%(v/v)のDMSO及び10%(v/v)のFBSで構成される
【0072】
実施例4:除核卵への核供与細胞の顕微注入及び融合
実施例2で製造した除核卵に実施例3で製造した核供与細胞を顕微注入した。実施例2のマイクロマニピュレーターの吸引ピペットを移植用ピペットに交換した後,固定された卵をhCR2aa培地中の100mg/mLフィトヘマグルチニン(phitohemagglutinin)で処理した。除核卵のスリットを固定用ピペットで固定した後,移植用ピペットを挿入した。その後,実施例3の繊維芽細胞から分離した単一細胞を除核卵の細胞質と透明帯との間に移植ピペットで注入した。
【0073】
前記のように核供与細胞が注入された卵を融合培地(0.26Mのマンニトール,0.1mMのMgSO,0.5mMのHEPES及び0.05%のBSAを含有する)に入れて,ステンレススチールワイヤ電極を備えた細胞融合チャンバー(BTX 453,3.2mm gap;BTX,カリフォルニア州,サンディエゴ)に移した。3分間平衡させた後,BTXエレクトロセルマニピュレーターを使用して,電圧3.0〜3.5kV/cmで20秒間直流電流を通電して核供与細胞を卵に融合させた。融合は,回収された卵が弱い卵の場合には低い電圧で(3.0kv/cM程度)行う。また,健常な卵の場合には高い電圧(3.5kv/cm程度)で融合を実施した。融合は,平均3.3kv/cmの電圧で実施した。
【0074】
融合した核移植胚1095個を立体顕微鏡により選別し,これを表4に示す改変合成卵管液(mSOF;modified synthetic oviductal fluid)中で3時間培養した(ジャング他(Jang et al.),Reprod Fertil Dev,15,179-185,2003年)。
【0075】
【表4】

【0076】
実施例5:核移植胚の活性化
前記実施例4で得られた核移植胚を10μMイオノフォア(シグマ)を含有するmSOF(表4)中,39℃で4分間培養した。その後,前記胚を洗浄し,1.9mMの6−ジメチルアミノプリンが添加されたmSOF中でさらに4時間培養した。
【0077】
本発明の発明者らは,前記で製造したイヌ科の核移植胚の一つを「スナッピー」(クローン化したイヌの胚)と命名して,2005年7月15日付で国際寄託機関である韓国生命工学研究員遺伝子銀行(KCTC,大田(テジョン)広域市,儒城(ユソン)区,魚隠(オウン)洞,52番地)に寄託番号KCTC 10831BPとして寄託した。前記核移植胚は代理母に移植するまで鉱物油で覆われたmSOFのマイクロドロップ25μl中で培養した。
【0078】
実施例6:代理母への移植及びクローン化イヌの生産
前記実施例5の核移植胚を外科的方法により代理母の卵管に移植した。移植は前記実施例5で核移植胚を活性化した後代理母の準備状態により実施した。すなわち,代理母が直ちに準備される場合には核移植胚の移植を直ちに実施し,そうではない場合には核移植胚を活性化した翌日(クローン化胚芽段階:2細胞期又は4細胞期)に移植を実施した。代理母としては,雑種犬及びラブラドールリトリーバーで構成される123匹のイヌを使用した。選択されたイヌは病気がなく,正常な発情周期の反復を示し,正常な子宮状態を有していた。前記代理母に前記実施例5の再構築胚1,095個を外科的に移植した。この目的のために代理母に0.1mg/kgのアセプロマジンと6mg/kgのプロポフォール(propofol)を血管注射して麻酔させ,2%のイソフルレンを使用して麻酔状態を維持した。麻酔した雌イヌの手術部位を無菌処理して,卵管を露出させるために一般的な開腹手術法により腹の中央部分を5〜10cm切開した。手で腹腔内を刺激して卵巣と卵管及び子宮をスリットに引き出した。引き出された卵巣の卵巣間膜を用心深く扱って,卵管の開口部を認識し,1.0mlのツベルクリン注射器(ラテックスフリー,ベクトン・ディッキンソン・アンド・カンパニー(Becton Dickinson & CO.) ,ニュージャージー州07417,フランクリンレイクス(Franklin lakes))が装着された3.5Fトムキャットカテーテル(Tom cat catheter),シャーウッド(Sherwood), ミズーリ州,セントルイス(St. Louis))を卵管内に入れてカテーテルの前方に十分な空間を確保した。その後,核移植胚をカテーテルから卵管に注入した。核移植胚の注入が成功したかどうかを顕微鏡で観察し,抗生剤を含有する生理食塩水500mlを腹腔内注入した。腹部の縫合は吸水性縫合糸を利用して行い,その後,皮膚縫合を実施した。手術後感染を防止するために広範囲抗生剤を3日間投与した。
【0079】
代理母に核移植胚を移植した後22日目に7.0MHZのリニアアレイプローブ(linear-array probe)が装着されたSONOACE9900超音波スキャナー(メジソン株式会社(Medison Co. LTD),韓国)を使用して妊娠の有無を検査した。妊娠状態は初期に妊娠を確認した後2週ごとに超音波でモニターした。その結果,3匹のイヌから妊娠事実を確認した。その中で1匹は死に至り,残り2匹のうち1匹から核移植胚を移植してから60日後,2005年4月24日に帝王切開手術でクローン化イヌが分娩された。クローン化犬の体重は530gで健常であった。このクローン化犬を「スナッピー(Snuppy)」(Seoul National University puppy)と命名した。また,残り1匹から核移植胚を移植してから60日後,2005年5月29日に帝王切開手術でクローン化犬が分娩された。クローン化犬の体重は550gで健常であった。このクローン化犬の名前を「NT−2#」と命名した。
【0080】
試験例1:本発明の方法により生産されたクローン化イヌの遺伝的同一性調査
本発明の方法により,前記実施例6で得られたクローン化犬スナッピー及びクローン化犬NT−2#が実施例3の核供与細胞を提供したドナー犬であるアフガンハウンドと遺伝的に同一であるかを調査した。
【0081】
クローン化した子犬,ドナー犬,代理レシピエント(surrogate recipient),核供与繊維芽細胞のゲノムDNAを分離した。この目的のために,クローン化犬の尾から組織断片を回収し,ドナー犬及び代理母から血液試料を回収した。組織断片,血液試料及び繊維芽細胞の各々を400μgのプロテアーゼKが添加された溶解緩衝液[0.05Mのトリス(pH 8.0),0.05MのEDTA(pH 8.0),0.5%のSDS]に入れて一晩培養した。その後,フェノール抽出及びエタノール沈殿を実施して各試料からゲノムDNAを分離した。
【0082】
前記で分離したDNAを50μlのTEに溶解し,これを使用して8個のイヌ科動物に特異的なマーカー[PEZ01,PEZ02,PEZ08,PEZ15(米国特許第5874217号参照),REN162B09,REN105L03,REN165M10,FH2140(http://www.fhcre.org/science/dog_ genome/dog.html参照)] を利用したマイクロサテライト分析を実施した(フランシスコ,L.V.他(Francisco,L.V. et al.) Mamm. Genome 7,359-362 1996年;ネフ,M.W.他(Neff,M.W. et al.)Genetics. 151,803-820,1999年;リッチマン,M.他(Richman,M. et al.) J. Biochem. Biophys. Methods 47,137-149,2001年;デニス,S.他(Denise,S. et al.) Animal Genetics. 35,14-17,2004年)。前記分離したゲノムDNAを鋳型にして,前記公知マーカーの配列を基礎にして製造した蛍光標識部位特異的プライマー(表5)を使用してPCR増幅を実施した。この増幅産物を自動DNA配列分析装置(ABI373:アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems),カリフォルニア州,フォスターシティ(Foster City))を使用して分析した。PCR増幅反応では94℃で1分間の変性前段階(predenaturation),94℃で20秒間の変性,58℃で20秒間のアニーリング,74℃で20秒間の伸長のサイクル30回,その後,74℃で5分間の伸長後段階(post-extension)からなるものであった。また,PCR産物の大きさを分析するためにソフトウェア(ジーンスキャン(GeneScan)及びゲノタイパー(Genotyper),アプライド・バイオシステムズ)を使った。
【0083】
【表5】

【0084】
結果として,本発明の方法により生産されたクローン化犬スナッピー及びNT−2#はドナー犬であるアフガンハウンド及び該ドナー犬から分離した繊維芽細胞と完全に遺伝的同一性を有することが確認された。一方,本発明のクローン化犬と代理母(ラブラドールリトリーバー又は雑種犬)は遺伝的に異なることが確認された(表6)。
【0085】
【表6】

【0086】
試験例2:核供与細胞の電気的融合条件の最適化
核供与細胞の除核卵への電気的融合条件を最適化するために前記実施例4と同じ方法で除核卵に核供与細胞を顕微注入し,電圧条件を各々1.7〜1.9kv/cm,2.1〜2.5kv/cm,3.0〜3.5kv/cmの条件に変えて核供与細胞と卵を融合させた。その後,再構築した胚の融合を立体顕微鏡で調べた。
【0087】
その結果,電圧を3.0〜3.5kv/cmにした場合に核移植卵270個中203個が融合し(融合率75.2%),他の条件に比べて融合率が非常に高いことが確認された(表7)。
【0088】
【表7】

【0089】
試験例3:核移植胚の活性化条件の最適化
実施例4で得られた核移植胚を電気的方法又は化学的方法によって活性化させた。その後,核移植胚の発生段階を観察した。電気的方法においては,前記実施例4の核移植胚を塩化カルシウム(CaCl)100nMが添加されたマンニトール培地(0.26Mのマンニトール,0.1mMのMgSO,0.5mMのHEPES及び0.05%のBSA)に入れてステンレススチールワイヤ電極を備えた細胞融合チャンバー(BTX 453,3.2mm gap;BTX,カリフォルニア州,サンディエゴ)に移した。3分間平衡させた後,BTX電気細胞マニピュレーター(Electro-Cell Manipulator)を使用して,前記電極に電圧3.0〜3.5kV/cMで20秒間直流電流を通電した。
【0090】
化学的活性化方法においては,実施例4の核移植胚を10mMのイオノフォア(シグマ)を含有するmSOFに入れ,該培地中,39℃で4分間培養した。その後,培養物を洗浄して,1.9mMの6−ジメチルアミノプリンが添加されたmSOF(表4)中でさらに4時間培養した。培養が完了した後,胚をTCM199培地(表3)に移した。
【0091】
電気的方法及び化学的方法により活性化された核移植胚の発育程度を倍率100の立体顕微鏡で調べた。
【0092】
その結果,化学的活性化が核移植胚の発育力を高めたことが確認された。すなわち,化学的方法によって活性化した核移植胚の場合には2細胞期まで到達した卵は80%だったが,電気的方法により活性化した核移植胚の場合には約53%のみが2細胞期に到達したことが確認された。また,化学的方法により活性化された胚は,核移植胚から桑実胚期まで発育したが,電気的に活性化した胚は16細胞期までしか発育しないことが明らかになった(表8)。
【0093】
【表8】

【0094】
試験例4:本発明によるイヌ科動物の核移植胚の代理母への移植条件の最適化
実施例5で活性化された核移植胚を,mSOF培地(表4)中,38〜39℃,5%の二酸化炭素及び5%の酸素の雰囲気の培養器で培養して,8細胞期まで育った胚を0.1%のウシ胎児血清が添加されたPBSに浸漬させてこれをストローで20匹の代理母(雑種犬)の子宮角に移植した。
【0095】
核移植胚を移植した後22日目に妊娠の有無を前記実施例6と同じ方法により超音波スキャナー(メジソン株式会社,韓国)を使用して検査した。
【0096】
その結果,子宮に移植した核移植胚は全て妊娠には至らなかった。したがって,核移植胚は実施例6に例示した通り卵管に移植することが望ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の一実施例において,犬から卵を回収するために使用した15ゲージ及び18ゲージ卵回収用ニードルの写真である。
【図2】本発明の方法により生産されたクローン化犬スナッピーとドナー犬の写真(a)及びクローン化犬スナッピーと代理母の写真(b)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イヌ科動物の成熟卵から除核された受核卵を製造する工程と,
(b)ドナーとなるイヌ科動物の組織から体細胞を分離して核供与細胞を製造する工程と,
(c)前記工程(a)の前記除核卵に前記工程(b)の前記核供与細胞を顕微注入して3.0〜3.5kV/cmの電圧で前記供与細胞と前記除核卵を電気融合させる工程と,
(d)前記工程(c)で融合した前記卵を活性化させる工程とを含む
イヌ科動物の核移植胚の製造方法。
【請求項2】
前記成熟卵がin vivoで成熟した卵である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記in vivoで成熟した卵のイヌ科動物からの回収を排卵後48〜72時間に実施する請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)の体細胞が,卵丘細胞,上皮細胞,繊維芽細胞,神経細胞,上皮細胞,角化細胞,造血細胞,メラニン細胞,軟骨細胞,赤血球,マクロファージ,単球細胞,筋肉細胞,Bリンパ球,Tリンパ球,胚幹細胞,胚生殖細胞,胎児細胞,胎盤細胞及び胚細胞からなる群より選択されるものである請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記体細胞が繊維芽細胞又は卵丘細胞である請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記工程の(c)電気融合が,直流電圧3.0〜3.5kV/cm,10〜30μsで,1〜3回実施する請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記工程(d)の活性化工程が,融合した卵をカルシウムイオノフォア及びDMAP(6−ジメチルアミノプリン)で同時に又は段階的に処理することにより行われる請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記活性化方法が,融合した卵をカルシウムイオノフォア5〜10μMで37〜39℃で3〜5分間処理した後,DMAP(6−ジメチルアミノプリン)1.5mM〜2.5mMで37〜39℃で4〜5時間処理することにより行われる請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記イヌ科動物が,イヌ,オオカミ,キツネ,ジャッカル,コヨーテ,チョウセンオオカミ及びタヌキからなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記イヌ科動物が,イヌ,オオカミ及びキツネからなる群より選択される請求項1記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか1項記載の方法によって製造された核移植胚。
【請求項12】
寄託番号KCTC 10831BPで韓国生命工学研究員遺伝子銀行(KCTC)に寄託されている請求項11記載の核移植胚。
【請求項13】
請求項11又12記載の核移植胚を代理母の卵管に移植して産子を出生させる工程を含むクローン化されたイヌ科動物の生産方法。
【請求項14】
前記イヌ科動物が,イヌ,オオカミ,キツネ,ジャッカル,コヨーテ,チョウセンオオカミ及びタヌキからなる群より選択される請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記イヌ科動物がイヌ,オオカミ及びキツネからなる群より選択される請求項13記載の方法。
【請求項16】
請求項13記載の方法によって生産されたクローン化されたイヌ科動物。
【請求項17】
前記クローン化されたイヌ科動物が請求項1の核供与細胞又はドナー動物と同じ遺伝子型を有する請求項16記載のクローン化されたイヌ科動物。
【請求項18】
前記イヌ科動物が,イヌ,オオカミ,キツネ,ジャッカル,コヨーテ,チョウセンオオカミ及びタヌキからなる群より選択される請求項16記載のクローン化されたイヌ科動物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−502162(P2009−502162A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523795(P2008−523795)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002938
【国際公開番号】WO2007/013763
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(507171856)ソウル ナショナル ユニバーシティー インダストリー ファンデーション (14)
【Fターム(参考)】