説明

クーロメトリ式測定方法、クーロメトリ式測定セル用治具及びクーロメトリ式測定セルセット

【課題】簡単な構成で容易に、クーロメトリ式測定セルの検出極上へ試料液を供給する高さ、角度、位置などを一定に保つことができるクーロメトリ式測定方法、クーロメトリ式測定セル用治具及びクーロメトリ式測定セルセットを提供する。
【解決手段】クーロメトリ式測定方法は、測定セル10に対して液供給装置30を配置する治具20を測定セル10上の所定位置に配置する工程と、液供給装置30のノズル31の検出極2に対する相対位置を決めるようにして、容器1の外部に検出極2を露出させるための容器1の開口部13に関係付けて液供給装置30を治具20によって保持する工程と、治具20によって保持された液供給装置30のノズル31を通して電解のために所定量の試料液を検出極2上に供給する工程と、を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性多孔質体から成る電極を使用したクーロメトリ式測定セルを用いたクーロメトリ式測定方法、クーロメトリ式測定セルに対して液供給装置を配置するためのクーロメトリ式測定セル用治具、及びクーロメトリ式測定セルとクーロメトリ式測定セル用治具とが組み合わされたクーロメトリ式測定セルセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、食品に含まれるビタミンC(還元型アスコルビン酸)、水中の遊離残留塩素などの定量を、迅速且つ簡便に行う方法として、導電性多孔質体から成る電極を使用したクーロメトリ式測定方法(電量分析法)が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
即ち、この方法では、電解液を含浸した導電性多孔質体から成る検出極及び対極を隔膜を介して配置した測定セルに試料液を供給して電解(電気分解)を行い、その時の電気的な変化量(検出極における電圧、電流又は電気量)を測定することにより、試料液中の測定対象成分を定量する。即ち、電解を行った時の電気的な変化量が、試料液中の測定対象成分の量に関係することから、その電気的な変化量を測定することにより、試料液中の測定対象成分を定量することができる。
【0004】
より具体的には、この方法では、検出極及び対極を構成する導電性多孔質物質としてカーボンフェルトを使用し、これらの電極を隔膜としてのイオン交換膜を介して積層状態で配置したクーロメトリ式測定セルが用いられる。即ち、測定セルは、電解液が含浸されたカーボンフェルトから成る検出極を備えた検出極室と、電解液が含浸されたカーボンフェルトから成る対極を備えた対極室とを、イオン交換膜を介して隣接させた状態で有する。そして、典型的には、電極間に一定の電圧を印加した状態で、測定対象成分を含む一定量の試料液をその測定セルの検出極上に直接供給して電解を行い、その電解に伴って流れる電気量を測定する(定電位法,定電圧法)。つまり、測定対象成分の濃度に比例した電解時間と電流の積算値を測定し、その積算値から試料液中の測定対象成分を定量することができる。別法として、電極間に一定の電流を流した状態で電解を行う定電流法を用いることもできる。
【0005】
このように、導電性多孔質体から成る電極を使用したクーロメトリ式測定方法において用いられる測定セルでは、隔膜を介して検出極と対極とが対向して配置されている。検出極及び作用極は、典型的には、無数のカーボン繊維(炭素繊維)からなるカーボンフェルトで形成され、その表面積は非常に大きい。測定を行うには、検出極側に5μl〜100μl程度の一定量の試料液を滴下するのみでよく、一般に20〜30秒で測定は終了する。又、1つの試料液についての測定を終了した後、続けて試料液を滴下して測定することが可能であるため、多検体の測定に適している。
【0006】
このようなクーロメトリ式測定方法では、測定精度を維持するためには、試料液のサンプリング量を正確に定量することと同時に、その試料液を素早く検出極の導電性多孔質体に拡散させることが重要である。そのため、液供給装置(注入器具)として、押し出しスピードの速いピペッターが用いられることが多い。
【特許文献1】特許第2633280号公報
【特許文献2】特開平2−311756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、ピペッターで試料液を測定セルの検出極上に注入する際、注入高さ、注入角度、注入位置を容易に一定とし得るようにはなっていなかった。
【0008】
即ち、上述のように、クーロメトリ式測定方法では、正確に試料液をサンプリングすることが重要であるが、同時に、サンプリングした試料液を素早く注入して、検出極の導電性多孔質体層に拡散させることも、測定精度の維持のためには重要である。そして、そのためには、常に、一定の高さ、一定の角度、一定の位置にて、測定セルの検出極上に試料液を注入することが重要である。
【0009】
ところが、通常、ピペッターの操作は手作業であるため、検出極上への試料液の注入の都度、その高さ、角度、位置が異なることが多く、測定精度に影響を与えることがあった。
【0010】
従って、本発明は、簡単な構成で容易に、クーロメトリ式測定セルの検出極上へ試料液を供給する高さ、角度、位置などを一定に保つことができるクーロメトリ式測定方法、クーロメトリ式測定セル用治具及びクーロメトリ式測定セルセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は本発明に係るクーロメトリ式測定方法、クーロメトリ式測定セル用治具及びクーロメトリ式測定セルセットにて達成される。要約すれば、第1の本発明は、電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極及び対極が容器内で隔膜を介して配置された測定セルの前記検出極上に、ノズルを備える液供給装置によって所定量の試料液を供給して電解を行うことにより、試料液中の測定対象の定量を行うクーロメトリ式測定方法において、前記測定セルに対して前記液供給装置を配置する治具を前記測定セル上の所定位置に配置する工程と、前記液供給装置の前記ノズルの前記検出極に対する相対位置を決めるようにして、前記容器の外部に前記検出極を露出させるための前記容器の開口部に関係付けて前記液供給装置を前記治具によって保持する工程と、前記治具によって保持された前記液供給装置の前記ノズルを通して前記電解のために所定量の試料液を前記検出極上に供給する工程と、を有することを特徴とするクーロメトリ式測定方法である。本発明の一実施態様によると、前記治具を配置する工程は、前記測定セルと前記治具とを嵌合させることを含む。又、本発明の一実施態様によると、前記液供給装置を保持する工程は、前記治具に設けられた貫通穴を通して前記ノズルを前記検出極に接近させると共に、前記貫通穴の周囲の担持部に前記液供給装置を担持させることを含む。
【0012】
第2の本発明によれば、電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極及び対極と、前記検出極と前記対極との間に配置された隔膜と、前記検出極、前記対極及び前記隔膜を収容する容器と、を備えた測定セルに対して、前記検出極上に所定量の試料液を供給するためのノズルを備える液供給装置を配置するためのクーロメトリ式測定セル用治具であって、前記測定セルによって支持される支持受け部と、前記液供給装置の前記ノズルの前記検出極に対する相対位置を決めるようにして、前記容器の外部に前記検出極を露出させるための前記容器の開口部に関係付けて前記液供給装置を保持する取り付け部と、を有することを特徴とするクーロメトリ式測定セル用治具が提供される。本発明の一実施態様によると、当該クーロメトリ式測定セル用治具は前記測定セルと前記液供給装置との間に配置される管状部材であり、該管状部材の第1の端部は開放されており、その端面が前記開口部の周囲の前記容器の面によって支持される前記支持受け部をなし、該管状部材の前記第1の端部とは反対側の第2の端部に前記取り付け部が設けられている。又、本発明の一実施態様によると、前記第1の端部は、前記開口部の周囲に設けられた環状突出部と嵌合する。又、本発明の一実施態様によると、前記取り付け部は、前記ノズルが通される貫通穴と、前記液供給装置を担持する前記貫通穴の周囲の担持部と、を有する。
【0013】
第3の本発明によれば、電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極及び対極と、前記検出極と前記対極との間に配置された隔膜と、前記検出極、前記対極及び前記隔膜を収容する容器と、を備えた測定セルと、前記測定セルに対して前記検出極上に所定量の試料液を供給するための液供給装置を配置するための治具と、が組み合わされたクーロメトリ式測定セルセットであって、前記測定セルは、前記容器の外部に前記検出極を露出させるための開口部と、前記治具を前記測定セル上の所定位置に配置するための測定セル側位置決め部と、前記治具を支持する支持部と、を有し、前記治具は、前記測定セルの前記支持部によって支持される支持受け部と、前記治具を前記測定セル上の所定位置に配置するために前記測定セル側位置決め部と協働する治具側位置決め部と、前記液供給装置の前記ノズルの前記検出極に対する相対位置を決めるようにして前記開口部に関係付けて前記液供給装置を保持する取り付け部と、を有する、ことを特徴とするクーロメトリ式測定セルセットが提供される。本発明の一実施態様によると、前記治具は前記測定セルと前記液供給装置との間に配置される管状部材であり、前記支持部は前記開口部の周囲の前記容器の面であり、前記支持受け部は前記管状部材の開放された第1の端部の端面であり、前記取り付け部は前記環状部材の前記第1の端部とは反対側の第2の端部に設けられている。又、本発明の一実施態様によると、前記測定セル側位置決め部は前記開口部の周囲に設けられた環状突出部であり、前記治具側位置決め部は前記第1の端部である。又、本発明の一実施態様によると、前記取り付け部は、前記ノズルが通される貫通穴と、前記液供給装置を担持する前記貫通穴の周囲の担持部と、を有する。又、本発明の一実施態様によると、クーロメトリ式測定セルセットには更に、前記液供給装置が組み合わされている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単な構成で容易に、クーロメトリ式測定セルの検出極上へ試料液を供給する高さ、角度、位置などを一定に保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るクーロメトリ式測定方法、クーロメトリ式測定セル用治具及びクーロメトリ式測定セルセットを図面に則して更に詳しく説明する。
【0016】
実施例1
図1は、本発明に係るクーロメトリ式測定方法を適用することのできるクーロメトリ式測定セル(以下、単に「測定セル」という)の一実施例の要部断面構成を示す模式図である。図2は、本実施例の測定セルの外観図である。尚、本実施例では、クーロメトリ式測定セルは、水中の遊離残留塩素の測定用のものであるとして説明する。
【0017】
図1を参照して、測定セル10は、電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極(作用極)2及び対極3と、検出極2と対極3との間に配置された隔膜4と、検出極2、対極3及び隔膜4を収容する容器(ケーシング)1と、を備えている。又、検出極2に接続された検出極リード線5及び対極3に接続された対極リード線6が容器1内から引き出されている。
【0018】
容器1は、隔膜4を挟んで両側にそれぞれ設けられた検出極室11及び対極室12を有している。そして、検出極室11には検出極用の電解液が含浸された検出極2が充填され、対極室12には対極用の電解液が含浸された対極3が充填されている。対極3、隔膜4及び検出極2は、容器1内において、それぞれの主平面が略平行となるように下からこの順番で積層された状態で配置されている。
【0019】
そして、容器1には、検出極2の隔膜4に隣接する側とは反対側の面の少なくとも一部を容器1の外部に露出させるように、液供給開口部(以下、単に「開口部」という)13が設けられている。又、開口部13を画成する縁部14が、容器1の外側に向けて突出するように設けられている。本実施例では、開口部13は円形であり、この円形の開口部13の全周にわたって環状突出部を形成する縁部14が設けられている。
【0020】
検出極2及び対極3を構成する導電性多孔質体としては、導電性繊維の集合体が好適に用いられる。又、この導電性繊維の集合体としては、好ましくは、カーボン繊維の集合体であるカーボンフェルト、カーボンクロスなどが用いられる。本実施例では、検出極2及び対極3は、カーボンフェルトで形成した。検出極2及び対極3の形状、大きさは、特に制限されるものではないが、通常、厚さ2mm〜10mm、直径15mm〜50mmの円板状のものを用いることで好結果が得られる。
【0021】
検出極2及び対極3に含浸される電解液は、測定対象によって選択され、又適宜調整されるものであって、特に制限されるものではないが、一般に、各種のpH緩衝液や、該pH緩衝液に電解補助物質(電子移動媒体)としてKI、KBrなどのハロゲン化物、金属錯体、ハロゲンイオン、錯配位子、酵素などを溶解又は分散させたものが使用される。
【0022】
隔膜4としては、イオン交換膜が好適に用いられる。本実施例では、陽イオン交換膜を用いた。隔膜4は、対極室12を液密的に封止するように容器1に取り付けられている。
【0023】
リード線5、6としては、白金などの貴金属材料から成る導電を好適に用いることができる。リード線5、6の容器1からの引き出し部は液密的に封止されている。
【0024】
斯かる構成の測定セル10を用いて、試料中の測定対象成分、即ち、本実施例では水中の遊離残留塩素を定量する際には、液供給装置としてのノズルを備えるピペッター(定量ピペット,ディスペンサー)により計り取った所定量の試料液(水)を、開口部13から直接検出極2上に供給(注入,滴下)する。この時、検出極2と対極3との間に所定の電圧を印加しておくことによって、定電位法による電解が行われる。そして、この時流れる電気量から、試料液(水)中の遊離残留塩素が定量される。
【0025】
ここで、前述のように、導電性多孔質体から成る電極を使用したクーロメトリ式測定方法において測定精度を維持するためには、試料液を正確にサンプリングすることと同時に、サンプリングした試料液を素早く検出極2に拡散させることが重要である。この時、試料液を検出極2上に供給する条件、即ち、高さ、角度、位置がばらつくと、測定精度に影響を与えることがある。図6は、従来のクーロメトリ式測定方法において、ピペッターのノズル31を介した検出極2上への試料液の供給条件がばらつく様子を模式的に示している。
【0026】
そこで、本実施例では、図3及び図4に示すように、ピペッター30から測定セル10へ試料液を注入する際に、注入高さ、注入角度、注入位置を一定に保つ目的で、治具(ピペッター取付治具)20を測定セル10に取り付ける。治具20を測定セル10に取り付けることにより、常に一定条件で試料液を検出極2上に供給して、常に一定条件で測定を行うことが可能となり、測定精度を向上することができる。
【0027】
図3は本実施例に従って測定セル10上に治具20を配置し、更にその治具20上にピペッター30を配置した状態、即ち、測定セル10と、治具20と、ピペッター30とを接続した状態を示す部分断面側面図である。又、図4は、測定セル10と、治具20と、ピペッター30とを連結する前の状態を示す部分断面組み立て側面図である。
【0028】
即ち、本実施例では、クーロメトリ式測定方法は、(i)測定セル10に対して液供給装置としてのピペッター30を配置する治具20を測定セル10上の所定位置に配置する工程と、(ii)ピペッター30のノズル31の検出極2に対する相対位置を決めるようにして、容器1の外部に検出極2を露出させるための容器1の開口部13に関係付けてピペッター30を治具20によって保持する工程と、(iii)治具20によって保持されたピペッター30のノズル31を通して電解のために所定量の試料液を検出極2上に供給する工程と、を有する。
【0029】
即ち、本実施例に従って構成されるクーロメトリ式測定セル用治具20は、測定セル10によって支持される支持受け部22と、ピペッター30のノズル31の検出極2に対する相対位置を決めるようにして、容器1の外部に検出極2を露出させるための容器1の開口部13に関係付けてピペッター30を保持する取り付け部23と、を有する。又、上述のような測定セル10と治具20とが組み合わされて、本実施例に従うクーロメトリ式測定セルセットが構成される。又、測定セル10の提供者は、測定セル10及び治具20に加えて、ピペッター30をも組み合わせてクーロメトリ式測定セルセットとして提供してもよい。
【0030】
特に、本実施例では、治具20は測定セル10とピペッター30との間に配置される管状部材であり、その第1の端部20aは開放されており、その端面22が上記支持受け部として、開口部13の周囲の容器1の面とされる支持部15によって支持される。又、特に、本実施例では、管状部材とされる治具20の上記第1の端部20aとは反対側の第2の端部20bに上記取り付け部としての閉鎖部材23が設けられている。
【0031】
更に説明すると、本実施例では、治具20は全体として断面円形の管状形状を有しており、円筒部21と、円筒部21の一方の端部を閉じるように設けられた閉鎖部材23と、を有する。
【0032】
円筒部21の一方の端部は開放されており、治具20の上記第1の端部20aをなす。この第1の端部20a側の円筒部21の端面22が、測定セル10の支持部15によって支持される。
【0033】
又、この第1の端部20a側の円筒部21の内径は、測定セル10の開口部13の周囲に設けられた環状突出部である縁部14の外径と同等(同じか又は若干大きい)とされている。そのため、治具20が測定セル10上に配置された状態で、治具20の第1の端部20aは、その内周面側で測定セル10の縁部14と嵌合する。即ち、治具20の第1の端部20aで縁部14を外側から覆うようにして、第1の端部20aと縁部14とが嵌合する。これにより、治具20の測定セル10に対する相対位置を決めることができる。尚、本実施例では、円筒部21は全体的に略一様な内径及び外径を有するように形成されている。
【0034】
このように、本実施例では、測定セル10の縁部14が測定セル側位置決め部として機能し、又治具20の第1の端部20aが測定セル側位置決め部と協働する治具側位置決め部として機能する。これら治具側及び測定セル側の位置決め部同士を嵌合させることにより、治具20を測定セル10上の所定位置に配置することができる。
【0035】
一方、円筒部21の他方の端部を閉じるように設けられる閉鎖部材23は、その一方の端部に、凸状の段部23aが形成されている。この段部23aを円筒部21の端部に嵌合させて固定することにより、閉鎖部材23が円筒部21に結合される。閉鎖部材23の段部23aが設けられた側とは反対側の端部が、治具20の上記第2の端部20bをなす。
【0036】
そして、閉鎖部材23には、ノズル位置決め部としてのノズル31が通される貫通穴24が設けられている。貫通穴24は、閉鎖部材23の略中央に位置して、円筒部21と同心的に設けられている。更に、治具20の第2の端部20bを構成する、閉鎖部材23の段部23aが設けられた側と反対側の端面25が、ピペッター30を担持する担持部として機能する。担持部25は、この担持部25に接触するピペッター30の部分に対応した任意の形状とすればよい。本実施例では、ピペッター30の担持部25に接触する部分が平坦であることから、担持部25は平坦な面とされている。
【0037】
ピペッター30を治具20上に配置する際には、ノズル31を貫通穴24に通してノズル31の先端31aを検出極2に接近させて行き、貫通穴24の周囲の担持部25にピペッター30を担持させる。本実施例では、治具20によってピペッター30が適正に保持された状態で、ノズル31の一部は貫通穴24と略嵌合している。そして、本実施例では、この貫通穴24の内径は、ピペッター30を治具20によって保持した状態で貫通穴24内に位置するノズル31の外径と同等(同じか若干大きい)とされている。又、本実施例では、貫通穴24は、円筒部21の軸線方向に沿って所定の長さを有する。この所定の長さは、貫通穴24に挿入されたノズル31の検出極2に対する相対位置が変わるのを実質的に防止するのに十分であるように設定されている。
【0038】
より具体的には、本実施例では、ピペッター30が治具20によって保持された状態で貫通穴24内に位置する部分のノズル31の外径がφ6.4mmであるのに対して、貫通穴24の内径はφ6.8mmとした。又、貫通穴24の軸線方向(即ち、円筒部21の軸線方向)に沿うノズル31の長さが86mmであるのに対して、貫通穴24の軸線方向の長さは20mmとした。
【0039】
上述のように、本実施例のクーロメトリ測定方法において、治具20を測定セル10上に配置する工程は、好ましくは、測定セル10と治具20とを嵌合させることを含む。又、本実施例のクーロメトリ測定方法において、ピペッター30を治具20により保持する工程は、好ましくは、治具20に設けられた貫通穴24を通してノズル31を検出極2に接近させると共に、貫通穴24の周囲の担持部25にピペッター30を担持させることを含む。
【0040】
円筒部21及び閉鎖部材23は、これに限定されるものではないが、適当な剛性を有するプラスチックなどによって好適に作製される。円筒部21と閉鎖部材23とは、圧入嵌合、スナップフィット(弾発係合)、接着、溶着などの適当な固定手段で固定することができる。又、本実施例では、円筒部21と取り付け部としての閉鎖部材23とを別部材として形成して、これらを結合することにより治具20を作製しているが、治具20は一体的に作製されてもよい。
【0041】
ここで、ピペッター30としては、斯界にて一般的な、ノズル31が本体32に対して着脱可能とされており、ノズル31を使い捨てできるように構成された手持ち型のものを好適に用いることができる。本体32には、液を定量的に吸引した後排出することのできる、シリンジ及びこのシリンジに嵌合したピストンなどで構成された液定量手段が設けられている。本実施例では、本体32の一部として、ノズル31が取り付けられている本体32の端面が、治具20の担持部25に担持される。
【0042】
上述のようなピペッター30の使い捨てチップ部分、即ち、ノズル31の大きさ、形状は様々である。従って、上記貫通穴24などとされるノズル位置決め部の形状、大きさは、それぞれのノズル31の大きさ、形状に対応して適宜設定することができる。
【0043】
又、本実施例では、貫通穴24とされるノズル位置決め部により使い捨てチップ部分の移動を規制することによって、ノズルの先端の移動を規制するものとした。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図3に示される円筒部21内に位置するノズル31の先端31a側の一部分のみが使い捨てチップ部分とされており、該チップ部分が接続されたピペッター30の一部の移動を貫通穴24などとされるノズル位置決め部により規制することで、ノズルの先端の移動を規制するようにしてもよい。
【0044】
治具20の高さは、ピペッター30が治具20によって保持された状態で、ノズル31の先端31aと検出極2との間の距離が3mm以下となるように設定されることが好ましい。この距離が3mmを越えると、本体32から排出されノズル31の先端31aから滴下した試料液の勢い(飛び出し速度)が低下してしまい、検出極2の内部まで試料液を浸透させることができなくなることがある。これにより、試料液の電解が進まなくなり、測定誤差を生じてしまう虞がある。典型的には、ノズル31の先端31aは、検出極2に接触しないように設定されるが、所望により、ノズル31の先端31aが検出極2に接触するようにしてもよい。即ち、ピペッター30が治具20上に配置された時に、ノズル31の先端31aと検出極2との間の距離は、0〜3mmの範囲が望ましい。
【0045】
尚、本実施例では、測定セル10に形成された環状突出部である縁部14が測定セル10上の所定位置に治具20を配置するための測定セル側位置決め部として働き、この縁部14の外側に治具側位置決め部として働く治具20の第1の端部20aを嵌合させた。しかし、セル側位置決め部及び治具側位置決め部が協働して測定セル10上の所定位置に治具20を配置させる態様は、上記本実施例のものに限定されるものではない。
【0046】
例えば、図5(a)に示すように、測定セル10に形成された環状突出部14の内側に治具20の第1の端部20aが嵌合するようになっていてもよい。この場合、環状突出部14の内側の容器10の面が治具20を支持する支持部となる。又、勿論、測定セル側位置決め部として容器1に形成される突出部は環状であることに限定されるものではなく、例えば上記環状突出部を複数に分割したものなど、開口部13の周囲に設けられた複数の独立した突出部(凸部)であってもよい。
【0047】
更に、測定セル側位置決め部は突出部に限定されるものではなく、例えば図5(b)に示すような開口部13の周囲に設けられた環状凹部16を、測定セル側位置決め部とすることができる。この場合、この環状凹部16の底部16aが治具20を支持する支持部となる。又、勿論、測定セル側位置決め部として容器1に形成される凹部は環状であることに限定されるものではなく、例えば上記環状凹部を複数に分割したものなど、開口部13の周囲に設けられた複数の独立した凹部であってもよい。治具側位置決め部は、測定セル側の凹部に対応した突出部とすればよい。
【0048】
以上説明したように、本実施例によれば、簡単な構成で容易に、測定セル10の検出極2上へ試料液を供給する高さ、角度、位置などを一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るクーロメトリ測定方法を適用することのできるクーロメトリ式測定セルの一実施例の要部断面構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係るクーロメトリ測定方法を適用することのできるクーロメトリ式測定セルの一実施例の外観図である。
【図3】本発明に係るクーロメトリ式測定セル用治具の使用態様を説明するための測定セル、治具及びピペッターの部分断面側面図である。
【図4】本発明に係るクーロメトリ式測定セル用治具の使用態様を説明するための測定セル、治具及びピペッターの部分断面組み立て側面図である。
【図5】測定セル上で治具を位置決めする方法の他の実施例を説明するための部分断面側面図である。
【図6】従来のクーロメトリ式測定方法における検出極上への試料液の供給態様を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0050】
1 容器
2 検出極
3 対極
4 隔膜
10 クーロメトリ式測定セル
13 液供給開口部
14 縁部
15 支持部
20 クーロメトリ式測定セル用治具
22 支持受け部
23 閉鎖部材(取り付け部)
24 貫通穴
25 担持部
30 ピペッター(液供給装置)
31 ノズル
32 本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極及び対極が容器内で隔膜を介して配置された測定セルの前記検出極上に、ノズルを備える液供給装置によって所定量の試料液を供給して電解を行うことにより、試料液中の測定対象の定量を行うクーロメトリ式測定方法において、
前記測定セルに対して前記液供給装置を配置する治具を前記測定セル上の所定位置に配置する工程と、
前記液供給装置の前記ノズルの前記検出極に対する相対位置を決めるようにして、前記容器の外部に前記検出極を露出させるための前記容器の開口部に関係付けて前記液供給装置を前記治具によって保持する工程と、
前記治具によって保持された前記液供給装置の前記ノズルを通して前記電解のために所定量の試料液を前記検出極上に供給する工程と、
を有することを特徴とするクーロメトリ式測定方法。
【請求項2】
前記治具を配置する工程は、前記測定セルと前記治具とを嵌合させることを含むことを特徴とする請求項1に記載のクーロメトリ式測定方法。
【請求項3】
前記液供給装置を保持する工程は、前記治具に設けられた貫通穴を通して前記ノズルを前記検出極に接近させると共に、前記貫通穴の周囲の担持部に前記液供給装置を担持させることを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のクーロメトリ式測定方法。
【請求項4】
電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極及び対極と、前記検出極と前記対極との間に配置された隔膜と、前記検出極、前記対極及び前記隔膜を収容する容器と、を備えた測定セルに対して、前記検出極上に所定量の試料液を供給するためのノズルを備える液供給装置を配置するためのクーロメトリ式測定セル用治具であって、
前記測定セルによって支持される支持受け部と、
前記液供給装置の前記ノズルの前記検出極に対する相対位置を決めるようにして、前記容器の外部に前記検出極を露出させるための前記容器の開口部に関係付けて前記液供給装置を保持する取り付け部と、
を有することを特徴とするクーロメトリ式測定セル用治具。
【請求項5】
当該クーロメトリ式測定セル用治具は前記測定セルと前記液供給装置との間に配置される管状部材であり、該管状部材の第1の端部は開放されており、その端面が前記開口部の周囲の前記容器の面によって支持される前記支持受け部をなし、該管状部材の前記第1の端部とは反対側の第2の端部に前記取り付け部が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のクーロメトリ式測定セル用治具。
【請求項6】
前記第1の端部は、前記開口部の周囲に設けられた環状突出部と嵌合することを特徴とする請求項5に記載のクーロメトリ式測定セル用治具。
【請求項7】
前記取り付け部は、前記ノズルが通される貫通穴と、前記液供給装置を担持する前記貫通穴の周囲の担持部と、を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれかの項に記載のクーロメトリ式測定セル用治具。
【請求項8】
電解液が含浸された導電性多孔質体から成る検出極及び対極と、前記検出極と前記対極との間に配置された隔膜と、前記検出極、前記対極及び前記隔膜を収容する容器と、を備えた測定セルと、前記測定セルに対して前記検出極上に所定量の試料液を供給するための液供給装置を配置するための治具と、が組み合わされたクーロメトリ式測定セルセットであって、
前記測定セルは、前記容器の外部に前記検出極を露出させるための開口部と、前記治具を前記測定セル上の所定位置に配置するための測定セル側位置決め部と、前記治具を支持する支持部と、を有し、
前記治具は、前記測定セルの前記支持部によって支持される支持受け部と、前記治具を前記測定セル上の所定位置に配置するために前記測定セル側位置決め部と協働する治具側位置決め部と、前記液供給装置の前記ノズルの前記検出極に対する相対位置を決めるようにして前記開口部に関係付けて前記液供給装置を保持する取り付け部と、を有する、
ことを特徴とするクーロメトリ式測定セルセット。
【請求項9】
前記治具は前記測定セルと前記液供給装置との間に配置される管状部材であり、前記支持部は前記開口部の周囲の前記容器の面であり、前記支持受け部は前記管状部材の開放された第1の端部の端面であり、前記取り付け部は前記環状部材の前記第1の端部とは反対側の第2の端部に設けられていることを特徴とする請求項8に記載のクーロメトリ式測定セルセット。
【請求項10】
前記測定セル側位置決め部は前記開口部の周囲に設けられた環状突出部であり、前記治具側位置決め部は前記第1の端部であることを特徴とする請求項8又は9に記載のクーロメトリ式測定セルセット。
【請求項11】
前記取り付け部は、前記ノズルが通される貫通穴と、前記液供給装置を担持する前記貫通穴の周囲の担持部と、を有することを特徴とする請求項8〜10のいずれかの項に記載のクーロメトリ式測定セルセット。
【請求項12】
更に、前記液供給装置が組み合わされていることを特徴とする請求項8〜11のいずれかの項に記載のクーロメトリ式測定セルセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−241373(P2008−241373A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80362(P2007−80362)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)