説明

グアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体

【課題】公知のグアニジン化合物とは異なる、新規なグアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を提供することである。
【解決手段】下記式(1)で表されるグアニジン化合物、及び該グアニジン化合物から誘導されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を提供することである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性触媒として有用な新規グアニジン化合物、リサイクル(再利用)可能なグアニジン化合物のポリマー固定化複合体並びに該ポリマー固定化複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成に係わる金属カチオンやプロトン等の捕捉のための塩基性化合物の検討が進められている。近年では、医薬品をはじめとする各種化成品の不斉合成の触媒系を構成するものとして、また、金属イオンの回収等の水質浄化に係わる環境技術手段としてもこれらの捕捉剤化合物が注目されている。
【0003】
グアニジンはスーパー塩基とも呼ばれ、塩基触媒として種々の有機合成反応に応用可能な化合物であることが知られている。
このような背景において、本発明者らは、カチオン捕捉機能やその触媒への利用等の観点から、有機塩基性化合物としてのグアニジン化合物に注目し、その合成法や捕捉能、触媒等についての検討を行ってきている(非特許文献1−4)。
【0004】
また、本発明者らは、ビスグアニジン化合物及び該化合物のポリマー固定化複合体を報告している。(特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、発明者らによるこれまでの検討からは、触媒、捕捉剤として利用する場合の反応系、特に反応生成物との分離、そしてリサイクル(再利用)についての簡便性、経済性を高めることが望まれていた。
【非特許文献1】J. Org. Chem., 2000, 65, 7770-7773
【非特許文献2】Chem. Eur. J., 2002, 8, 552-557
【非特許文献3】有機合成化学協会誌 2003, 61, 60−68
【非特許文献4】第48回日本薬学会関東支部大会(千葉)、2004, 10, 9
【特許文献1】国際公報WO2005/110997
【特許文献2】特開2007-332362
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の背景から、これまでの発明者らの検討を踏まえて、反応系、特に反応生成物との分離及びリサイクル(再利用)についての簡便性、経済性をさらに高めることができ、なおかつ、塩基性触媒能をより一層高めることのできるグアニジン化合物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
【0008】
次式(1)で表されるグアニジン化合物。
【化7】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
X:ヒドロキシル基、アルキルオキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アミド基、ウレア基、チオアミド基、又はチオウレア基
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【0009】
Xがベンジルオキシル基、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4のアルコキシル基であるグアニジン化合物。
及びRがメチル基である前記記載のグアニジン化合物。
【0010】
次式(2)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体。
【化8】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【0011】
及びRがメチル基である前記記載のポリマー固定化複合体。
【0012】
次式(6)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体。
【化9】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
Y:炭化水素鎖、含酸素炭化水素鎖、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、ウレア基、又はチオウレア基
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【0013】
及びRがメチル基である前記記載のポリマー固定化複合体。
【0014】
上式(2)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の製造方法であって、上式(1)で表されるグアニジン化合物を次式(3)で表されるポリマー化合物と反応させることを特徴とする製造方法。
【化10】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
V:反応性基
【0015】
Xがヒドロキシル基である前記記載の製造方法。
【0016】
上記記載のグアニジン化合物又は上記記載のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を有効成分とする塩基性触媒。
【発明の効果】
【0017】
本発明の新規グアニジン化合物又はグアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、優れた塩基性触媒能を示した。しかも、グアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、この高い触媒能を固体状ポリマーへの固定化状態においても実現している。
また、グアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、固体状ポリマーへの固定によって、反応系、特に生成物からの分離及びリサイクル(再利用)を簡便に効率的なものとし、経済性を高めることを可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下に、その実施の形態について説明する。
【0019】
(本発明の化合物の定義)
本明細書におけるグアニジン化合物の命名において、下記の定義を使用する。
【0020】
「アルキル基」は、直鎖であっても分岐であってもよい。アルキル基は特に記載しないかぎり炭素数が1〜4のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3の直鎖アルキル基が最も好ましい。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、またはヘキシル基等が挙げられる。
なお、本発明で好ましいアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基であるが、より好ましいくはメチル基である。
【0021】
「アリール基」とは、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基をいう。
「置換アリール基」(置換基を有するアリール基をいう)としては、アリール基中の水素原子の1個以上が、低級アルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化低級アルキル基、または低級アルコキシ基等で置換された基が好ましい。置換アリール基としては置換フェニル基が好ましく、特にモノハロフェニル基(たとえばクロロフェニル基、フルオロフェニル基、ブロモフェニル基等)、(ハロゲン化低級アルキル)置換フェニル基(たとえばトリフルオロメチルフェニル基等)、または(低級アルコキシ)フェニル基(たとえばメトキシフェニル基、エトキシフェニル基等が挙げられる。
なお、本発明で好ましいアリール基は、ベンジル基、フェニル基、ジフェニル基であるが、より好ましくはベンジル基である。
【0022】
本発明で好ましいアルコキシル基は、メトキシル基、エトキシル基、プロポキシル基、ブトキシル基、ペンチルオキシル基、ヘキシルオキシル基、ヘプチルオキシル基、又はベンジルオキシル基であるが、より好ましくはベンジルオキシル基である。
【0023】
本発明で好ましいアリールオキシル基は、フェノキシル基、トルイルオキシル基、又はナフチルオキシル基である。
【0024】
また、本発明の好ましい各置換基としては、アミノ基(NRab)、アミド基(NRaCORb)、ウレア基{NRa (C=O)NHRb}、チオアミド基(NRaCSRb)、又はチオウレア基(NRa (C=S)NHRb)である。
なお、各置換基のRa、Rbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、又はアリール基から選択される。
【0025】
加えて、本発明の好ましい各置換基としては、アルキル(アリール)チオ基(SRc)、又はチオール基(SH)である。
なお、置換基のRCは、アルキル基、又はアリール基から選択される。
【0026】
本発明の式(1)で表されるグアニジン化合物としては、生理活性や物性の観点より以下の化合物が好ましい。
Xは、ベンジルオキシル基、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4のアルコキシル基であることが好ましい。特に、Xは、ベンジルオキシル基又はヒドロキシル基であることが好ましい。
1、R2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であることが好ましい。特に、R1、R2は、それぞれメチル基であることが好ましい。
【0027】
本発明の式(2)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体としては、生理活性や物性の観点より以下の化合物が好ましい。
1、R2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であることが好ましい。特に、R1、R2は、それぞれメチル基であることが好ましい。
また、Polは、固体状のポリマーであって、各種のものでよく、たとえばポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・アクリル共重合体、その他、従来より固相触媒や固定化用として用いられているポリマーの各種のものから選択されてよい。その形状は、ビーズ等としての粒状や、バルク状、メッシュ状、板状等の各種であってよく、本発明の複合体の用途に応じて定めることができる。これらは市販品としても利用してもよい。たとえばシグマアルドリッチ社製のもの等を市販品として用いることができる。特に好ましいPolは、ポリスチレンポリマー又はスチレン-ジビニルベンゼンコポリマーである。
【0028】
本発明の式(6)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体としては、生理活性や物性の観点より以下の化合物が好ましい。
1、R2は、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基であることが好ましい。特に、R1、R2は、それぞれメチル基であることが好ましい。
Yは、炭化水素鎖、含酸素炭化水素鎖、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、ウレア基、又はチオウレア基が好ましい。
なお、炭化水素鎖は、直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和の炭化水素鎖であってよい。好適には、炭素数1〜10のアルキレン、アルケニレン、アリールアルキレン鎖である。
また、含酸素炭化水素鎖は、炭素鎖上に酸素原子、硫黄原子、及び/又は窒素原子を有していてもよい。たとえば、下記式(7)であることが好ましい。
【0029】
【化11】

【0030】
上記式(7)では、Yは、O又はSを示し、mは1以上の正の整数を、n、k、lは、各々、0または1以上の正の整数を示す。ここで、たとえば、YはO(酸素原子)であり、m=1〜4、n=1〜3、k=1〜10、l=1〜4のものが好ましい。
【0031】
(本発明の好ましいグアニジン化合物の態様)
本発明のグアニジン化合物における好ましいR1,R2及びXの組み合わせは、以下の通りである。
1はメチル基であり、R2はメチル基であり、Xはベンジルオキシル基である{本グアニジン化合物をベンジルオキシ−グアニジン(Benzyloxy-guanidine)と称する場合がある}。
1はメチル基であり、R2はメチル基であり、Xはヒドロキシル基である{本グアニジン化合物をヒドロキシ−グアニジン(Hydroxy-guanidine)と称する場合がある}。
【0032】
本発明のグアニジン化合物は、全ての鏡像異性体 、ジアステレオマー、及びそのラセミ混合物を含む。
【0033】
(本発明の好ましいグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の態様)
本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体における好ましいR1、R2及びPolの組み合わせは、以下の通りである。
1はメチル基であり、R2はメチル基であり、Polはポリスチレンポリマーである{本グアニジン化合物のポリマー固定化複合体をPolymer-supported (PS) Hydroxy-guanidineと称する場合がある}。
【0034】
(本発明のグアニジン化合物の製造方法)
グアニジン化合物の製造方法は、以下のスキーム1を利用して製造することができる。しかしながら、本発明のグアニジン化合物を製造できる方法であればいかなる方法でも良い。なお、詳細は、下記実施例で説明する。
【0035】
【化9】

【0036】
(本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の製造方法)
グアニジン化合物のポリマー固定化複合体の製造方法は、以下のスキーム2を利用して製造することができる。しかしながら、本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を製造できる方法であればいかなる方法でも良い。なお、詳細は、下記実施例で説明する。
ここで、反応性基であるVは、固体状のポリマーをグアニジン化合物に固定化可能な基であれば特に限定されない。
該ポリマーと反応性基を有する(Pol−V:式3)の例示として、公知の樹脂、特にMerrifield resin、ハイポゲル (Hypogel)、テンタゲル (Tentagel)等が好ましい。
【0037】
【化10】

【0038】
(再利用)
本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、塩基性触媒等に使用した後でも、容易に回収でき、さらに再利用することができる。
再利用方法は、以下に例示するが特に限定されない。
(1)触媒反応等に使用したグアニジン化合物のポリマー固定化複合体をろ過により回収した後に再利用する。
(2)触媒反応等に使用したグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を該複合体回収用カラムに通して回収した後に再利用する。
【0039】
(塩基性触媒)
本発明のグアニジン化合物又はグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を有効成分とする塩基性触媒は、種々の有機合成反応に応用可能な触媒である。下記実施例では、グアニジン化合物又はグアニジン化合物のポリマー固定化複合体が優れたマイケル反応の触媒であることを示している。
さらに、本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、再利用した場合でも、高い塩基性触媒活性を有している。
【0040】
(その他の用途)
本発明のグアニジン化合物又はグアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、下記用途にも使用することができる。
(1)光学分割剤
(2)キラル分子分離剤
(3)キラル分子分離用クロマト担体
【0041】
以下に具体例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。
【実施例1】
【0042】
(グアニジンの合成)
下記反応スキーム3に従って、本発明の下記グアニジン(式4)の合成を実施した。
なお、プロトンおよびカーボン核磁気共鳴スペクトルは重クロロホルム中内部標準としてテトラメチルシランを用い、日本電子JNM−ECP400にて測定した。赤外吸収スペクトルは日本分光FT/IR−300Eにて測定し、質量分析は直接法を用い日本電子GC−メイトにて測定した。融点は柳本製融点測定器にて測定した。
【0043】
【化12】

【0044】
【化13】

【0045】
(1)O-Benzyltyrosineの合成
Tyrosine (2.0774 g, 11.466 mM) の 2M NaOH 水溶液 (11.6 mL) に、CuSO4.5H2O (1.4311g, 5.734 mM) を水 (6 mL) に溶解した溶液を加え外温 60℃で1時間攪拌後、室温に戻した。その後、MeOH (40.1mL)、2 M NaOH水溶液 (1.7mL)、benzyl bromide (1.7 mL, d =1.438, 14.3 mM) を加え、室温にて24 時間攪拌した。反応終了後、沈殿をろ取し、MeOH (20 mL)、水(20 mL)、1M HCl水溶液 (24 mL)、水 (20 mL)、1M NH4OH 水溶液 (24 mL)、 acetone (10 mL)、水(10 mL)、diethyl ether(10 mL)、及びMeOH(20 mL)で順次洗浄し、O-benzyltyrosine(2.5862 g、83.1%、粉末結晶、mp 186-190 ℃)を得た(参照:文献A)。
なお、構造特性は以下の通りである。
【0046】
IR Vmax cm-1: 3033 (OH), 1608 (C=O), 1H-NMR (400 MHz, C6D6) δ: 3.23-3.52 (2H, m, 3-H), 4.55 (1H, m, 2-H), 5.13 (2H, s, OCH2Ph), 6.95-7.33 (9H, m, ArH)。
【0047】
(2)O-Benzyltyrosinolの合成
Tetrahydrofuran (20.7 mL) に 上記(1)で得られたO-benzyltyrosine (940.0 mg, 3.469 mM) を少しずつ攪拌しながら加えた。そして、溶解後、アルゴン置換して氷冷した。次に diboraneのtetrahydrofuran 溶液(1M 溶液、10.3 mL)をゆっくり加えてから室温に戻し、外温85℃で3時間還流した。反応終了後、よく攪拌しながら MeOH(2 mL)を加え、さらに 0.5時間攪拌後、減圧下溶媒留去した。残渣は、20% KOH水溶液 (13.2 mL) に溶かし、室温で 4時間攪拌後、dichloromethane (10 mL x 4) で抽出した。得られた有機層を水 (1 mL) で洗浄し、MgSO4にて乾燥後、減圧下溶媒留去し、無色結晶 (953.2 mg, 106.8%) を得た。得られた結晶をカラムクロマトグラフィー (NH-シリカゲル, benzene : MeOH = 10 : 1) にて精製し、benzyltyrosinolを無色結晶 (744.2 mg, 83.4%) として得た(参照:文献A)。この無色結晶をさらにAcOEtで再結晶して無色プリズム晶{(704.4 mg, 78.9%), mp 100-103 ℃}を得た。
なお、構造特性は以下の通りである。
【0048】
IR Vmax cm-1: 3350 (OH), 1610 (C=O), 1H-NMR (400 MHz, CF3CO2H) δ: 2.47 (1H, dd, J=8.4, 13.6Hz, ArCHaHCH), 2.74 (1H, dd, J=5.4, 13.6Hz, ArCHHbCH), 3.08 (1H, m, CH2CHCH2), 3.37(1H, dd, J=7.2, 10.5Hz, CHCHaHO), 3.63 (1H, dd, J=4.0, 10.5Hz, CHCHHbO), 5.05 (2H, s, OCH2Ph), 6.93 (2H, d, J=8.4 Hz, ArH x 2), 7.11 (2H, d, J= 8.4 Hz, ArH x 2), 7.31-7.45 (5H, m, ArH x 5)。
【0049】
(3)2-[(1S)-(4-Benzyloxyphenyl)methyl-2-hydroxyethylimino]-1,3-dimethyl-(4R,5R)-diphenylimidazolidine (Benzyloxy-guanidine)の合成
アルゴン雰囲気下、上記(2)で得られたbenzyltyrosinol (360.9mg, 1.53mM, 1.0 Meq) の dichloromethane溶液 (2.0 mL) に triethylamine (1.0 mL, d=0.726, 7.175 mM) を加え、氷冷した。次に、2-chloro-1,3-dimethyl-(4R,5R)-diphenylimidazolium chloride(494.5 mg, 1.539 mM:参照文献2)をdichloromethane (4.5 mL) に溶解した溶液を、滴下し、3時間攪拌した。 反応終了後、氷冷しながら 10% HCl 水溶液 (5.0 mL) を加え、pH 3 に調整し、水 (10 mL) にて希釈し、 有機層と水層に分離した。さらに水層を dichloromethane (10 mL x 3) で抽出し、得られた有機層をあわせ、減圧下溶媒を留去し、茶色オイルを得た。該茶色オイルに水 (60 mL) を加えたところ、無色結晶が析出した。該結晶をtoluene (30 mL x 2) で抽出し、塩基性および中性物質を除去した。水層は 20% NaOH水溶液 (11 mL) を加え、pH を調整し(pH >11)、toluene (50 mL x 3) で抽出した。 得られた有機層を水 (7 mL)、飽和食塩水 (7 mL) にて洗浄し、K2CO3で乾燥後、 減圧下溶媒を留去し、Benzyloxy-guanidine(466.2 mg, 59.9%:淡黄色オイル)を得た。該淡黄色オイルはさらに精製することなく、次の反応に使用した。
なお、構造特性は以下の通りである。
【0050】
IR Vmax cm-1: 3282-3650 (br, OH), 1624 (C=O); 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6, 150 ℃) δ: 2.97 (1H, m, CHCHaHAr), 3.06 (6H, s, NMe x 2), 3.33 (1H, dd, J=4.0, 9.2 Hz, CHCHbHAr), 3.95 (2H, d, J=5.6 Hz, CHCH2O), 4.25 (2H, s, 4-, 5-H), 4.55 (1H, br s, NCHCH2(CH2)), 5.55 (2H, s, OCH2Ph), 7.39 (2H, d, J=8.4 Hz, ArH x 2), 7.47 (4H, d, J=7.2 Hz, ArH x 4), 7.63 (2H, d, J=8.0 Hz, ArH x 2), 7.72-7.75 (7H, m, ArH x 7), 7.80 (2H, t, J=7.2 Hz, ArH x 2), 7.88 (2H, d, J=8.4 Hz, ArH x 2);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ:39.0 (CH2), 57.5 (NMe), 65.8 (CH2), 69.9 (CH2), 72.5-74.5 (br, CH), 114.4 (CH), 127.3 (CH), 127.4 (CH), 127.8 (CH), 128.2 (CH), 128.5 (CH), 128.6 (CH), 130.5 (CH), 132. 2 (C), 137.0 (C), 138.1 (C), 157.2 (C), 157.8 (C); HRFABMS m/z: 506.2808 ([M+H]+) (Calcd for C33H36N3O2: 506.2783)。
【0051】
(4)2-[(1S)-(4-Hydroxyphenyl)methyl-2-hydroxyethylimino]-1,3-dimethyl-(4R,5R)-diphenylimidazolidine (Hydroxy-guanidine)の合成
5% Pd / C (200.2 mg, 0.l094 mM) に MeOH (50 mL) を加え水素気流下、室温にて攪拌した。そこに、上記(3)で得られたBenzyloxy-guanidine (1.8900 g, 3.738 mM) を MeOH (5 mL)に溶解した溶液を加え水素気流下、室温にて5時間攪拌した。反応終了後、セライトろ過にて触媒を除去後、ろ液を減圧留去し、黄色結晶 (1.8761 g, 4.515 mM )を得た。得られた結晶をカラムクロマトグラフィー(NH-シリカゲル, benzene : MeOH = 5 : 1) にて精製し、Hydroxy-guanidine を淡黄色オイル (1.3135 g, 84.6%) として得た。
なお、構造特性は以下の通りである。
【0052】
IR Vmax cm-1: 3000 (br, OH), 1649 (C=N); 1H-NMR (400 MHz, DMSO-d6, 150 ℃) δ: 2.60 (6H, s, NMe x 2), 2.70-2.85 (2H, br, CHCH2Ar), 3.48 (2H, d, J=6.0 Hz, CHCH2O), 3.79 (2H, s, 4-, 5-H), 4.08 (1H, br s, NCHCH2(CH2)), 6.72 (2H, d, J=8.0 Hz, ArH x 2), 7.01-7.37 (17H, m, ArH x 17);
13C-NMR (100 MHz, CDCl3) δ:38.6 (CH2), 58.6 (NMe), 64.9 (CH2), 74.0 (br, CH), 116.7 (CH), 127.0 (CH), 128.5 (CH), 128.8 (CH), 130.2 (CH), 137.1 (C), 159.0 (C), 159.2 (C); HR FABMS m/z: 416.2323 ([M+H]+) (Calcd for C26H30N3O2: 416.2288)。
【実施例2】
【0053】
(グアニジン化合物のポリマー固定化複合体の合成)
下記反応スキーム4に従って、本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の合成を実施した。なお、式中のPSはポリスチレンポリマーを示している。
【0054】
【化14】

【0055】
上記実施例1(4)で合成したHydroxy-guanidine (101.4 mg, 0.244 mM) と K2CO3 (67.4 mg, 0.488 mM, 2.0 Meq) に acetone (1.0 mL) を加え 0.5 時間攪拌後、Merrifield resin (東京化成製、ca 1.7 mmol/g, 137.2 mg, 0.98 Meq) を加え、1日攪拌し、固体と溶液を分離した。得られた固体は水、MeOH及びdiethyl ether で洗浄し、ポリマー固定化グアニジンを無色結晶 {126.1 mg, loading 0.122 mmol/g:元素分析値 (C, 85.35; H, 7.26; N, 0.60) から算出}として得た。
なお、構造特性は以下の通りである。
【0056】
IR Vmax cm-1: 3674 (br, OH)
【実施例3】
【0057】
本発明のグアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体での触媒活性の確認
グアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の触媒活性を確認するためにマイケル反応(参照:下記反応式1)を行った。さらに、コントロールとして、本発明者がすでに報告しているグアニジン化合物(参照:式5、無置換グアニジンと称する場合がある)でも同様の反応を行った。
加えて、コントロールとして、下記式(8)のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体(「ハイポゲル固定化グアニジン化合物のポリマー固定化複合体」、「テンタゲル固定化グアニジン化合物のポリマー固定化複合体」と称する場合がある)での触媒活性(参照:下記反応式2、3)を測定した。詳細は、以下の通りである。
【0058】
(1)マイケル反応の方法
t-Butyl diphenyliminoacetate (0.12-0.16 mM)、methyl vinyl ketone (0.04 mL, d = 0.842, 3.8 mM)をtetrahydrofuran (0.5 mL) に溶解し、各グアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体 (ca 0.02 mM) 存在下 20 ℃ にて撹拌した。反応終了(あるいは2日)後溶媒を留去し、無色オイルを得た。該オイルをカラムクロマトグラフィー (SiO2, hexane : ethyl acetate = 3 : 1) にて精製し、付加体を無色オイルとして得た。エナンチオマー過剰率は、下記の条件にて測定した。
キラルカラム:DAICEL CHIRALCEL OD; 溶媒: n-hexane : 2-propanol = 100 : 1; 流速: 1.0 mL / min; 検出: 253 nm; 保持時間: 10.2 min (R), 12.3 min (S)
【0059】
(各グアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の処理方法)
1.ベンジルオキシ−グアニジンを用いたマイケル反応
t-Butyl diphenyliminoacetate (46.3 mg, 0.157 mM)、Benzyloxy-guanidine (13.0 mg, 0.025 mM) を用いて4日間反応し、付加体 (51.2 mg) を得た。
2.ヒドロキシグアニジンを用いたマイケル反応
t-Butyl diphenyliminoacetate (34.8 mg, 0.118 mM)、Hydroxy-guanidine (10.2 mg, 0.024 mM) を用いて2日間反応し、付加体 (35.8 mg) を得た。
3.グアニジン化合物のポリマー固定化複合体を用いたマイケル反応
t-Butyl diphenyliminoacetate (34.7 mg, 0.116 mM)、Polymer-supported (PS) Hydroxy-guanidine (200.1 mg, 0.024 mM) を用いて2日間反応し、付加体 (37.0 mg) を得た。
4.無置換グアニジンを用いたマイケル反応
t-Butyl diphenyliminoacetate (40.9 mg, 0.139 mM)、無置換guanidine (10.5 mg, 0.025 mM) を用いて4日間反応し、付加体 (42.7 mg) を得た。
【0060】
【化15】

【0061】
【化16】

【0062】
【化17】

【0063】
【化18】

【0064】
【化19】

【0065】
(マイケル反応の測定結果)
マイケル反応の測定結果を下記表1に示す。
本発明のいずれのグアニジン化合物及びグアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、収率(yieid)及び鏡像体過剰率(ee)の結果により、十分な触媒活性を示すことが認められた。
また、ヒドロキシグアニジンは反応の加速が認められ、その要因としてフェノール性水酸基による methyl vinyl ketone の活性化であると考えられる。
一方、コントロールであるハイポゲル固定化グアニジン化合物のポリマー固定化複合体での反応2(反応式2)では、反応が起こらなかった。また、該ポリマー固定化複合体での反応3(反応式3)の収率(5%)及び鏡像体過剰率(7%)は非常に低い結果であった。
加えて、コントロールであるテンタゲル固定化グアニジン化合物のポリマー固定化複合体での反応2(反応式2)では、副産物が非常に多く生成した。
すなわち、ハイポゲル固定化グアニジン化合物のポリマー固定化複合体及びテンタゲル固定化グアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、塩基性触媒活性は実質的にないと考えられる。しかし、本発明のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体は、固体状ポリマーへの固定化状態においても高い触媒能を達成した。
【0066】
【表1】

【実施例4】
【0067】
グアニジン化合物のポリマー固定化複合体の再利用の検討
上記実施例2のマイケル反応で使用したグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を回収し、そして回収したグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の触媒活性を確認する。詳細は、以下の通りである。
【0068】
(1)回収方法
上記実施例2のマイケル反応で使用したグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を、ろ過等により反応液から分離する。該分離したポリマー固定化複合体は、有機溶媒、水、メタノール(またはエタノールやアセトンなど水溶性有機溶媒)、有機溶媒にて、順次洗浄後、乾燥する。
【0069】
文献
A:Caplar, V.; Raza, Z.; Katalenic, D.; Zinic, M. Croat. Chem. Acta, 2003, 76, 23-36.
B:Isobe, T.; Fukuda, K.; Ishikawa, T. J. Org. Chem., 2000, 65, 7770-7773.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(1)で表されるグアニジン化合物。
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
X:ヒドロキシル基、アルキルオキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アミド基、ウレア基、チオアミド基、又はチオウレア基
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【請求項2】
Xがベンジルオキシル基、ヒドロキシル基、又は炭素数1〜4のアルコキシル基である請求項1に記載のグアニジン化合物。
【請求項3】
及びRがメチル基である請求項1又は2に記載のグアニジン化合物。
【請求項4】
次式(2)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体。
【化2】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【請求項5】
次式(6)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体。
【化3】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
Y:炭化水素鎖、含酸素炭化水素鎖、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、ウレア基、又はチオウレア基
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【請求項6】
及びRがメチル基である請求項4又は5に記載のポリマー固定化複合体。
【請求項7】
次式(2)で表されるグアニジン化合物のポリマー固定化複合体の製造方法であって、次式(1)で表されるグアニジン化合物を次式(3)で表されるポリマー化合物と反応させることを特徴とする製造方法。
【化4】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【化5】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
X:ヒドロキシル基、アルキルオキシル基、アルコキシル基、アリールオキシル基、チオール基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、アミド基、ウレア基、チオアミド基、又はチオウレア基
、R:それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1〜3の直鎖アルキル基
【化6】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
Pol:固体状のポリマー
V:反応性基
【請求項8】
Xがヒドロキシル基である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1に記載のグアニジン化合物又は請求項4〜6のいずれか1に記載のグアニジン化合物のポリマー固定化複合体を有効成分とする塩基性触媒。

【公開番号】特開2010−111633(P2010−111633A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286452(P2008−286452)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】