説明

グラウト材

【課題】高い強度が得られ、従来の地盤注入材のように簡単な設備で細かい注入管を用いて施工でき、しかも安価なグラウト材を提供すること。
【解決手段】硬化発現材の懸濁液からなるA液と、水ガラスとスラグの混合液からなるB液とを組み合わせ、しかもA液における硬化発現材中のセメント及びスラグとB液中のスラグの総和を特定の範囲に限定するとともに、B液中の水ガラスが施工に必要な時間内にはスラグと反応しないように少なくする。骨材を使うことなく、ホモゲル強度が5N/mm2 以上の高い強度を得ることが可能となる。さらに、水ガラスの使用量を少なくしたことにより、アルカリ溶脱による地盤の汚染を極力抑えることができ、かつ耐久性を高めることができ、コスト的にも安価に供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物や地盤内の空隙、或いは地下構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、地下構造物や地盤内の空隙、或いは地下構造物と地盤との境界面に存在する空洞に注入充填するグラウト材(地盤注入材)として、水ガラスとセメントを主材としたいわゆるケミカルグラウトが使用されており、このようなグラウト材(LW液;Labiles Wasserglas )を用いた工法は通常LW工法と呼ばれている。
【0003】
このLW工法では、A液(水ガラス)とB液(セメント)を別々に調合してポンプで圧送し、注入時に両者を合流させて混合することにより、ゲル化するまでの時間(ゲルタイム)を利用して、グラウトを土粒子の間隙に浸透させたり、或いは地盤に割裂圧入させて、地盤の強化や止水を行うようにしている。
【非特許文献1】柴崎光弘・下田一雄・野上明男著,「薬液注入工法の設計と施工」,第10刷,株式会社山海堂,昭和58年4月30日,p.30−34
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術で述べたLW工法では、通常、A液(JIS3号水ガラス250l、水250l)とB液(セメント250g、水420l)を等量で注入しており、得られるホモゲル強度は4N/mm2 (JISR 5201)程度である。これ以上のゲル強度を得るには、B液中のセメント量を増やすことになるが、水380lに対し380kg(W/C=100%程度)が限界であり、それ以上にすると流動性を損なうことになる。しかも、ゲルタイムは極端に早くなり、また、使用する水ガラスが多くなるため、ゲル化直後の強度が大きくなって注入できなくなる。この問題を解決するため、セメントの一部をスラグで置換したり、水ガラスのモル比(2程度)を低くしたり、さらには水ガラスの量を多くしたりして対応しているが、それでも得られるホモゲル強度はせいぜい10N/mm2 程度である。
【0005】
なお、グラウト材のみがゲル化し固結したものをホモゲルといい、これに対してグラウト材を砂に注入するか或いは混ぜたものをサンドゲルと区別している。また、水ガラスは単一な化合物ではなく、Na2 O(酸化ソーダ)とSiO2 (無水硅酸)とが種々の比率で結合したもので、分子式では「Na2 O,nSiO2 (n=モル比)」で表される。したがって、水ガラスのモル比は、重量比「SiO2 /Na2 O」に1.032(SiO2 とNa2 Oの分子量の比)を掛けたものになる。
【0006】
上記のように、従来のLW工法は、水ガラス(A液)とセメント(B液)を別々に調合することを基本としているので、この組み合わせではそれ以上の強度は得られない。すなわち、A液を水ガラス、B液をセメントとし、水ガラスをセメントで硬化させるという固定概念である限り、5〜10N/mm2 を越えるホモゲル強度は得られない。
【0007】
そして、多量の水ガラスを利用してセメントの強度を高めているため、アルカリ溶脱量が多くなり、地盤のアルカリ汚染が大きくなるという問題がある。すなわち、高アルカリ性の水ガラスの反応は、高アルカリ性のセメントや石灰と同じく、水ガラスをゲル化させることができはするものの、水ガラス中のアルカリは消費されず、全量がグラウト中に残ることになる。
【0008】
そこで、B液の水ガラスをポンプで圧送でき且つA液と十分混合できる程度の粘性に調整した以外の調合水をA液に入れ、セメントの添加量を多くして高い強度を得るという極端な比例注入を行うことも考えられるが、この方法には次のような問題がある。すなわち、極端な比例注入(A液とB液の混合比が4:1以下)で施工するには、性能の異なる2台のポンプを必要とし、また、A液とB液の混合比率の違いによるバラツキを生じ、施工管理が難しくなるという問題がある。なお、注入時にA液とB液を混合してグラウト材とする時に、A液とB液が同じ量であれば等量注入といい、A液とB液の混合比が異なる場合を比例注入という。
【0009】
一方、砂モルタルグラウトは、セメントを多くすれば高い強度が得られるが、砂等の骨材を含んでおり、しかもグラウト中に含まれる水量が少ないために流動性が悪い。したがって、地盤注入材のような簡単な設備で細かい注入管(通常、内径が31mm程度)を用いて注入することができないため、施工的に大きな問題がある。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い強度が得られ、従来の地盤注入材のように簡単な設備で細かい注入管を用いて施工でき、しかも安価なグラウト材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するため、本発明のグラウト材は、硬化発現材の懸濁液からなるA液と、水ガラスとスラグの混合液からなるB液との組合せからなるグラウト材であって、1m3 あたり下記(1)及び(2)の条件を満たし、JISR 5201に準じて測定したホモゲル強度が5N/mm2 以上であることを特徴としている。
(1)A液における硬化発現材中のセメント及びスラグとB液中のスラグの総和が450kg以上であること。
(2)B液中の水ガラスはモル比がJIS3号品相当以上でNa2 O換算で1.9〜18kg含有されていること。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグラウト材は、硬化発現材の懸濁液からなるA液と、水ガラスとスラグの混合液からなるB液とを組み合わせ、しかもA液における硬化発現材中のセメント及びスラグとB液中のスラグの総和を特定の範囲に限定するとともに、B液中の水ガラスが施工に必要な時間内にはスラグと反応しないように少なくしたことにより、骨材を使うことなく、ホモゲル強度が5N/mm2 以上の高い強度を得ることができる。さらに、水ガラスの使用量を少なくしたことにより、アルカリ溶脱による地盤の汚染を極力抑えることができ、かつ耐久性を高めることができ、コスト的にも安価に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のグラウト材は、従来のグラウト材のように水ガラスをセメント等の硬化発現材で硬化させるというものではなく、硬化発現材の懸濁液からなるA液と、少量の水ガラスとスラグの混合液とを組み合わせることにより、多量の硬化発現材(B液のスラグも含む)の使用を可能とし、それによって高い強度を得ようとするものである。すなわち、従来のB液に対応するA液を、B液の水ガラスで硬化させるという発想であり、また水ガラスの使用目的は、従来は主にゲルタイムを利用していたのに対し、本発明では、スラグの硬化、すなわちアルカリ刺激促進を利用したもので、セメント同様、或いはそれに近い早期硬化を図ったものである。
【0014】
本発明で用いるA液の硬化発現材は、難溶性アルカリ物質で、水を加えると硬化する性質を有するもので、代表的には、セメント、セメントとスラグ、スラグと石灰を挙げることができる。このうちセメントは、一般にセメントと称されるもので、普通セメント、早強セメント、高炉セメント等がある。また、スラグは、高炉水さいスラグで、一般に市販されているものを用いる。石灰は生石灰と消石灰とがあるが、好ましくは、消石灰で一般に市販されているものを用いる。
【0015】
本発明のグラウト材は、B液にスラグを使用することが最大の特徴である。このスラグは、A液で説明したスラグと同じ高炉水さいスラグであり、潜在水硬化性を持ち、非常に不安定で、アルカリ刺激剤を加えると硬化する性質がある。アルカリ刺激剤として、一般的には、石灰、セメント、苛性ソーダがあり、主に石灰とセメントがある。
【0016】
また、水ガラスは、高いアルカリ性(pH12前後)を示し、スラグを硬化させることが知られている(例えば、特開平7−166163号公報参照)。すなわち、水ガラス(Na2 O、nSiO2 )に水を加えると加水分解を起こし、苛性ソーダ(NaOH)を生成する。この生成した苛性ソーダを本発明では遊離アルカリと定義する。
【0017】
遊離アルカリは、水ガラスのモル比が低いほど、また濃度が高いほど、グラウト中に含まれる量が多くなる。この遊離アルカリが、スラグのアルカリ刺激剤として作用するかどうかについて種々の実験を行った結果、水ガラスのモル比がJIS3号品(Na2 O:9〜10%・SiO2 :28〜30%)以上でグラウト1m3 あたりNa2 O換算で20kg以下であれば、施工上、必要な時間内(半日程度)ではスラグと反応しないことが判明した。しかし、水ガラスは、単独ではスラグと反応しないが、スラグのアルカリ刺激剤であるセメントや石灰と共存させていると、アルカリ刺激作用を著しく促進させる性質があることも判明した。
【0018】
その結果、B液に水とスラグの混合液を用いても、施工上において何ら問題はなく、またA液とB液が等量或いは比例であっても、ホモゲル強度5N/mm2 以上の高強度を得ることが可能となった。
【0019】
なお、水ガラスとしては、主にモル比がJIS3号品以上の硅酸ソーダを用いるが、硅酸カリも同様に使用することができる。
【0020】
本発明のグラウト材は、地下構造物周辺の地盤で主に土粒子の間隙に浸透させる場合は、微粒化したセメント、スラグ、石灰を用いることが好ましい。また、地下構造物周囲に発生した空洞を目的とした場合は、微粒子の一次鉱物や、増粘剤として粘土鉱物等をグラウトに混入できる範囲内で使用することができる。
【0021】
また、通常のグラウト材に用いられている分散剤、遅延剤、早期強度発現剤、エア発生剤(起泡剤、アルミニウム粉末)等を目的に合わせて使用することができる。
【0022】
本発明のグラウト材を用いた施工方法は特に限定されるものではなく、注入箇所に合わせて選択して行う。例えば、地下構造物の設置場所が浅いところ(トンネルも含む)では、グラウトホール、或いは簡単な方法で注入管を設置して注入する。また、地下構造物の設置場所が深いところ、例えば基礎杭等では、従来の地盤注入材と同様、ロット管(単管又は二重管)で、目的の位置まで窄孔し、そのロット管をそのまま注入管に使用してグラウトを注入、或いは充填する方法で行う。
【0023】
本発明のグラウト材を注入するに際しては、A液とB液を別々に調合した後、等量或いは目的の強度に合わせて可能な範囲の比例で圧送し、目的とする注入箇所に至る途中で合流混合させる。
【0024】
以下に、本発明のグラウト材について、実験結果を示して詳細に説明する。
【0025】
ここで行った実験では、セメントとして普通セメント、スラグとしてディ・シィ(株)のセラメントを使用し、石灰(消石灰)は特1号品、水ガラスはJIS3号品(Na2 O:9.52%・SiO2 :29.50%、モル比3.10、比重1.43)を用いた。なお、水ガラス1lあたりのNa2 Oは0.136kgである。
【0026】
(実験−1)
この実験−1は、スラグと水ガラスと石灰の関係を明らかにするために行ったものであり、表1に実験結果を示してある。
【0027】
【表1】

【0028】
実験No.1−1,1−2は、スラグに水ガラスを加えた場合にアルカリ刺激剤として作用するか否かを確認するため、各試料の粘性の変化を見たものである。具体的には、じょうご型粘度計(上部内径109mm、高さ総長251mm、下部流出口内径4.8mm)を用いて、試験液500ccの流出時間を測定する方法で行った。
【0029】
実験No.1−1,1−2では、いずれも1日以内では粘性の変化は殆ど見られない。このことから、グラウト1m3 あたりモル比がJIS3号品相当以上でNa2 O換算で20kg以下では水ガラスのアルカリ刺激剤としての効果は全くないことが確認できた。
【0030】
次に、実験No.2は、スラグにアルカリ刺激剤として知られている石灰を加えた場合の硬化発現時間と、28日後の一軸圧縮強度を測定したものである。スラグの硬化の判定は、スラグには硬化開始より若干遅れて暗青色に発色する特有の性質があることを利用し、この発色までの日数を以て確認した。また、一軸圧縮強度は、JISR 5201に準じて、供試体を作製し、湿潤状態で養生したものを測定した。
【0031】
実験No.2では、時間の経過とともに粘性が増加するが、スラグが硬化するまでの日数が5日と遅く、28日後の一軸圧縮強度は8.33N/mm2 であった。
【0032】
実験No.3は、スラグに石灰と水ガラスを加えた場合の硬化発現時間と、28日後の一軸圧縮強度を測定したものである。この実験No.3では、水ガラスと石灰がゲル化反応を起こし、粘性は極端に増大しており、またスラグは1.5日で硬化し、28日後の一軸圧縮強度も16.47N/mm2 と大幅に増大した。
【0033】
したがって、実験−1の結果から、水ガラスは、単独ではスラグのアルカリ刺激剤としての硬化は全くないが、石灰と併用することにより、スラグの硬化が極端に早くなることが分かる。また、水ガラスは、スラグのアルカリ刺激促進効果が顕著であると同時に、強度の増大に大きく寄与することも分かる。
【0034】
(実験−2)
この実験−2は、本発明のグラウト材を検証するために行ったものであり、表2にその実験結果を実施例、比較例として示してある。
【0035】
【表2】

【0036】
実験No.1〜8は、A液のスラグと石灰を一定とし、B液の水ガラスの量を変化させた場合について、硬化発現時間と28日後の一軸圧縮強度とを測定したものである。これらの実験結果を見ると、水ガラスが少ない実験No.1では、硬化発現時間が4日とセメントに比べて非常に遅く、水ガラスが増えるにつれて硬化は促進され、実験No.7,8では極端に早くなり0.5日以内で硬化している。また、一軸圧縮強度も、水ガラスが増えるにつれて強くなり、実験No.7でほぼ最大になっている。
【0037】
したがって、実験No.1〜8の結果から、本発明では、スラグの硬化日数が3日以内で、かつ、強度がほぼ最大を示す範囲、すなわちグラウト材1m3 あたり遊離アルカリ(水ガラスからのNa2 O)が1.9kg(実験No.2)から18kg(実験No.7)の範囲とした。それ以上の遊離アルカリの使用は地盤のアルカリ汚染の増大につながり、また耐久性を失う原因にもなり、さらには材料費が割高になること等を考慮して上限を定めた。
【0038】
また、遊離アルカリが少ないと、スラグのアルカリ刺激促進効果があまり期待できないため、この観点からも、本発明では、遊離アルカリがグラウト材1m3 あたりNa2 O換算で1.9kgに満たない場合を除外した。
【0039】
ホモゲル強度については、本発明の目標値である5N/mm2 以上を得るには、A液における硬化発現材中のセメント及びスラグとB液中のスラグの総和がグラウト材1m3 あたり450kg以上であることが実験No.9〜17により確認され、本発明の範囲とした。なお、石灰の使用については、A液の硬化発現材の種類や量により大きく異なるため、本発明では範囲を特定していない。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明によるグラウト材は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化発現材の懸濁液からなるA液と、水ガラスとスラグの混合液からなるB液との組合せからなるグラウト材であって、1m3 あたり下記(1)及び(2)の条件を満たし、JISR 5201に準じて測定したホモゲル強度が5N/mm2 以上であることを特徴とするグラウト材。
(1)A液における硬化発現材中のセメント及びスラグとB液中のスラグの総和が450kg以上であること。
(2)B液中の水ガラスはモル比がJIS3号品相当以上でNa2 O換算で1.9〜18kg含有されていること。

【公開番号】特開2007−169472(P2007−169472A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369370(P2005−369370)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(391032004)有限会社シモダ技術研究所 (13)
【Fターム(参考)】