説明

グラビア印刷方法、グラビア印刷方法の管理方法、グラビア印刷用インキ組成物、及び、グラビア印刷物

【課題】顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックによる感熱発色層の発色が防止されたグラビア印刷物、当該印刷物の製造方法、並びに、当該製造方法のための管理方法及びインキ組成物を提供する。
【解決手段】グラビア印刷方法は、インキ用樹脂、顔料、及び、溶剤を含むインキを調製する工程と、基材(14)上に積層された感熱発色層(16)及び保護層(20)を有する感熱体(10)に、インキをグラビア印刷して印刷層(22)を形成する工程とを備える。溶剤は、17質量%以上30質量%以下のケトン系成分と、芳香族系成分とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷方法及びグラビア印刷用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券等の偽造防止や真贋判定に用いられる印刷技術として、鱗片状顔料を含むインキを用いてグラビア印刷(凹版印刷)を行う技術が知られている。
この技術によれば、例えば感熱紙に鱗片状顔料を含む光輝性印刷層を形成することもでき、光輝性印刷層の色は見る角度によって変化する。この変色性は、カラーコピー機では再現不可能であるため、有価証券等の偽造が防止される。また、有価証券等に接した者は、この変色性を確認することで、その真贋を容易に判断することができる。
この技術にあっては、グラビア印刷用インキに含まれる溶剤によって、感熱紙の感熱発色層が発色する(溶剤アタック)おそれがある。この溶剤アタックを考慮して、特許文献1が開示するグラビア印刷システムに用いられるグラビア印刷用インキでは、溶剤として、メチルエチルケトン及びトルエンを1:1の比率で含む混合物が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−262630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1が開示するように、ポリエステル系樹脂とともに、メチルエチルケトン及びトルエンを1:1の比率で含む混合物を溶剤として用いた場合、光輝性印刷層中の鱗片状顔料が、基材に沿った配向状態(リーフィング状態)を保ちながら密集し、高輝度で且つ変色性に優れた光輝性印刷層を有する印刷物が得られる。
しかしながら、メチルエチルケトン及びトルエンを1:1の比率で含む混合物を溶剤として用いた場合、感熱紙の仕様、例えば感熱紙の保護層の厚さや材質によっては、溶剤アタックが発生し、感熱紙10の感熱発色層が発色するおそれがあることが判明した。
【0005】
本発明は、上述した事情に基づいてなされ、その目的とするところは、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックによる感熱発色層の発色が防止されたグラビア印刷物、当該印刷物の製造方法、並びに、当該製造方法のための管理方法及びインキ組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した目的を達成すべく種々の検討を重ね、メチルエチルケトンの比率を低下させることで、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が防止されることを見出し、本発明に想到した。
なお従来、メチルエチルケトン及びトルエンを1:1の比率で含む混合物が溶剤として用いられていたが、これは、メチルエチルケトンの比率が低くなった場合、凹版の凹部(画線部)にグラビア印刷用インキが入りにくくなり、この凹部によって印刷物に印刷されるべき画線がかすれ易くなるからである。またこの場合、インキを安定に貯留することが困難になる等の不具合も発生するからであった。このため、メチルエチルケトンの比率を低下させることは、本技術分野の技術者にとって採用が困難であった。
このような状況下であっても、本発明者は、メチルエチルケトンの比率を低下させたことによる生じる不具合は、技術的に十分に抑制可能であることを見出し、本発明を実現可能ならしめた。
【0007】
すなわち、本発明の一態様によれば、インキ用樹脂、顔料、及び、溶剤を含むインキを調製する工程と、基材上に積層された感熱発色層及び保護層を有する感熱体に、前記インキをグラビア印刷して印刷層を形成する工程とを備え、前記溶剤は、17質量%以上30質量%以下のケトン系成分と、芳香族系成分とを含むことを特徴とするグラビア印刷方法が提供される。
【0008】
本発明のグラビア印刷方法によれば、溶剤が17質量%以上のケトン系成分を含むため、インキの再溶解性が良好に保たれる。すなわち、凹版の凹部へグラビア印刷用インキが十分に供給されるとともに、グラビア印刷用インキが安定に貯留される。この結果として、このグラビア印刷方法によれば、印刷された画線等のかすれが防止され、且つ、顔料が均一に分散されたグラビア印刷物が提供される。
一方、溶剤におけるケトン系成分の濃度は、30質量%以下に規制されているため、ケトン系成分と芳香族系成分との比が1:1である場合には、感熱発色層が発色してしまう感熱体を用いたとしても、そのような溶剤アタックの発生が抑制される。
これらの結果として、このグラビア印刷方法によれば、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制される。
【0009】
好ましくは、前記インキ用樹脂はポリエステルウレタン樹脂であり、前記溶剤は、前記ケトン系成分としてメチルエチルケトンを含み、前記芳香族系成分としてトルエンを含む。
この場合、メチルエチルケトン及びトルエンに対して、ポリエステルウレタン樹脂が良く溶解し、インキ中において、顔料が均一に分散させられる。この結果として、好ましいグラビア印刷方法によれば、顔料が均一に分散されたグラビア印刷物が確実に得られる。
【0010】
好ましくは、前記溶剤は、17質量%以上30質量%以下のメチルエチルケトンと、70質量%以上83質量%以下のトルエンとを含む。
この場合、メチルエチルケトン及びトルエンに対して、ポリエステルウレタン樹脂が特に良く溶解し、インキ中において、顔料が更に均一に分散させられる。この結果として、好ましいグラビア印刷方法によれば、顔料が均一に分散されたグラビア印刷物が確実に得られる。
【0011】
本発明のグラビア印刷方法において、溶剤は、脂環式系成分を更に含んでいても良い。この場合も、顔料が均一に分散され、溶剤アタックの発生が抑制される。
【0012】
前記溶剤は、前記脂環式成分としてエチルシクロヘキサンを含んでいてもよい。
この場合、溶剤がエチルシクロヘキサンを含んでいても、所定量のメチルエチルケトン及びトルエンを含んでいることによって、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が得られる。
【0013】
好ましくは、前記溶剤は、17質量%以上30質量%以下のメチルエチルケトンと、62質量%以上82質量%以下のトルエンと、1質量%以上8質量%以下のエチルシクロヘキサンとを含む。
この場合、シクロヘキサンの濃度が1質量%以上8質量%以下に規制されているので、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が得られる。
【0014】
好ましくは、前記顔料は、鱗片状顔料である。この場合、顔料は、鱗片状顔料であったとしても均一に分散され、印刷層として、高輝度で且つ変色性に優れた光輝性印刷層が得られる。
【0015】
また上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、インキ用樹脂、顔料、及び、溶剤を含み、前記溶剤は17質量%以上30質量%以下のケトン系成分を含むことを特徴とするグラビア印刷用インキ組成物が提供される。
【0016】
本発明のグラビア印刷用インキ組成物によれば、溶剤が17質量%以上のケトン系成分を含むため、インキの再溶解性が良好に保たれる。この結果として、このグラビア印刷用インキ組成物によれば、印刷された画線等のかすれが防止され、且つ、顔料が均一に分散されたグラビア印刷物が提供される。
一方、溶剤におけるケトン系成分の濃度は、30質量%以下に規制されているため、ケトン系成分と芳香族系成分との比が1:1である場合には感熱発色層が発色してしまう感熱体を用いたとしても、溶剤アタックの発生が抑制される。
これらの結果として、このグラビア印刷用インキ組成物によれば、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制される。
【0017】
更に上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、上記したグラビア印刷方法のための管理方法であって、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上30質量%以下であるときに前記グラビア印刷方法によって見本サンプルを印刷し、前記グラビア印刷方法に従うように印刷された印刷物と前記見本サンプルとを目視によって比較し、前記比較の結果に基づいて、前記溶剤中のケトン系成分の濃度を調整することを特徴とするグラビア印刷方法のための管理方法が提供される。
【0018】
本発明のグラビア印刷方法及びグラビア印刷用インキ組成物では、溶剤に含まれるケトン系成分の濃度が17質量%以上30質量%以下であり、従来に比べて少ない。このため、ケトン系成分の濃度がこの範囲から外れて17質量%を下回ると、インキの再溶解性が低下して印刷物の画線にかすれが出現し、印刷が困難になる虞がある。
そして通常、印刷された印刷物のみによって、ケトン系成分の濃度が上記範囲にあるか否かを長期に亘って客観的に判定することは困難である。
【0019】
そこで、本発明の管理方法では、印刷された印刷物を見本サンプルと比較することによって、ケトン系成分の濃度が上記範囲にあるか否かが的確に判断される。そして、判断結果に基づいて、ケトン系成分の濃度を調整することで、ケトン系成分の濃度が長期に亘って安定に上記範囲内に保たれる。
この結果として、上記グラビア印刷方法又はグラビア印刷用インキ組成物とともに、この管理方法を採用することにより、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が安定して提供される。
【0020】
好ましくは、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上17.5質量%以下であるときに前記グラビア印刷方法によって見本サンプルを印刷し、前記グラビア印刷方法に従うように印刷された印刷物と前記見本サンプルとを比較することにより、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上であるか否かを判定する。
【0021】
この場合、ケトン系成分の濃度が下限以上であるか否かが的確に判定される。この結果として、この管理方法を採用することによって、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が安定して提供される。
【0022】
好ましくは、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が29.5質量%以上30質量%以下であるときに前記グラビア印刷方法によって見本サンプルを印刷し、前記グラビア印刷方法に従うように印刷された印刷物と前記見本サンプルとを比較することにより、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が30質量%以下であるか否かを判定する。
この場合、ケトン系成分の濃度が上限以下であるか否かが的確に判定される。この結果として、この管理方法を採用することによって、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が安定して提供される。
【0023】
更に、上記した目的を達成するため、本発明の一態様によれば、上記したグラビア印刷方法によって印刷されたグラビア印刷物であって、前記グラビア印刷方法によって作製された塗膜の厚さは1μm以上20μm以下であることを特徴とするグラビア印刷物が提供される。
【0024】
本発明のグラビア印刷物は、塗膜の厚さが1μm以上20μm以下であることによって、塗膜中に十分な量の顔料が分布させらる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、顔料が均一に分散されながら、溶剤アタックの発生が防止されたグラビア印刷物、当該印刷物の製造方法、並びに、当該製造方法のための管理方法及びインキ組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態のグラビア印刷物を概略的に示す平面図である。
【図2】図1のグラビア印刷物の層構造を説明するための概略的な部分断面図である。
【図3】本発明の一実施形態のグラビア印刷方法を実施するためのグラビア印刷装置の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、一実施形態のグラビア印刷物(以下、単に印刷物という)を概略的に示す平面図であり、図2は、図1の概略的な部分断面図である。
印刷物は、被印刷物である感熱体10に任意の文字、図形又は模様(以下、文字等という)をグラビア印刷することにより形成される。本実施形態では、文字等の一例として、「Pearl」という複数の単語12が、規則的に配列された状態にて太文字にて印刷されている。
【0028】
図2に示したように、感熱体10は基材14を有し、基材14としては、例えば、紙、合成紙、及び、プラスチックフィルム等を用いることができ、紙を用いるのが好ましい。基材14が紙である場合、感熱体10のことを感熱紙ともいう。
【0029】
基材14の少なくとも一方の表面には感熱発色層16が設けられ、必要に応じて、感熱発色層16のための下地としてアンカー層18が設けられる。感熱発色層16は、感熱発色層用インキを基材14に塗布し、塗布したインキを乾燥させることによって形成される。感熱発色層用インキは、溶質として、例えば、染料、顕色剤及びバインダーを含むとともに、これらの溶質を溶かすための有機溶剤、及び、必要に応じて希釈剤を含む。
【0030】
感熱発色層16の表面上には保護層20が形成されている。保護層20は、例えば水系塗料を塗布して乾燥させることによって形成される。保護層20は、感熱発色層16を外部から保護する役割を有する。
このような感熱体10として、例えば、株式会社リコー製サーマルペーパーLHB130を用いることができる。
【0031】
保護層20の表面上には、光輝性印刷層22がグラビア印刷によって形成され、光輝性印刷層22の平面形状は、上述した単語12の形状に相当している。光輝性印刷層22は、凹版を用いて、保護層20の表面上に所定形状にて、所定組成のグラビア印刷用インキを転移させて乾燥させることによって形成される。
なお、光輝性印刷層22の厚さTは、1μm以上20μm以下であるのが好ましい。
【0032】
〔グラビア印刷方法〕
上記したグラビア印刷物の製造方法は、所定組成のグラビア印刷用インキを調製する工程と、感熱体10に調整したグラビア印刷用インキをグラビア印刷する工程とを有する。
【0033】
〔グラビア印刷用インキ組成物〕
グラビア印刷用インキは、溶質として、例えば、鱗片状顔料、インキ用樹脂、及び、必要に応じてワックスを含み、これら溶質を均一に分散した状態で保つための溶剤として、有機溶剤を含んでいる。グラビア印刷用インキは、更に、消泡剤等の種々の添加剤を必要に応じて微量含んでいてもよい。
【0034】
〔鱗片状顔料〕
鱗片状顔料は、見る角度によって色が変化する作用を光輝性印刷層22に付与する。鱗片状顔料としては、例えば、アルミニウム、真鍮、銀などの金属顔料、パール顔料や金属酸化物等の無機顔料を用いることができ、なかでもパール顔料を用いるのが好ましい。
パール顔料としては、例えば、オキシ塩化ビスマスの鱗片形状の粉体、天然或いは合成雲母の表面を酸化チタン、酸化鉄、又は、酸化錫などの高屈折率の金属酸化物で被覆した鱗片形状の粉体等を用いることができる。
〔インキ用樹脂〕
インキ用樹脂としては、ポリエステルウレタン樹脂、ポルエステル樹脂、ブチラール樹脂、塩酢ビ樹脂、及び、アクリル樹脂を用いることができ、ポリエステルウレタン樹脂を用いるのが好ましい。
【0035】
〔溶剤〕
グラビア印刷用インキのための溶剤は、ケトン系成分及び芳香族系成分を必須成分として含み、選択成分として脂環式系成分を更に含んでいてもよい。
ケトン系成分としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、又は、これらを混合したものを用いることができ、なかでもメチルエチルケトンを単独で用いるのが好ましい。
芳香族系成分としては、キシレン、トルエン、ベンゼン、フェノール、又は、これらを混合したものを用いることができ、なかでもトルエンを単独で用いるのが好ましい。
溶剤は、脂環式系成分としてシクロヘキサンを含んでいてもよい。
【0036】
各成分の比として、溶剤は、17質量%以上30質量%以下のケトン系成分を含み、好ましくは、17質量%以上30質量%以下のメチルエチルケトンを含む。
そして溶剤は、70質量%以上83質量%以下の芳香族系成分を含み、好ましくは、70質量%以上83質量%以下のトルエンを含む。
また溶剤は、芳香族系成分の一部に代えて、1質量%以上8質量%以下の脂環式成分を含んでいてもよく、脂環式成分としてシクロヘキサンを含んでもよい。このように脂環式成分を含む場合、溶剤は、好ましくは、62質量%以上82質量%以下の芳香族系成分を含む。
更に溶剤は、例えばn−ブタノール等の他の成分を微量含んでいてもよい。
【0037】
〔グラビア印刷装置〕
図2は、光輝性印刷層22の印刷を行うグラビア印刷装置の概略構成を示している。
グラビア印刷装置は、印刷対象の連続体100を搬送する搬送経路102を有する。連続体100は感熱体10が連なったものであり、搬送経路102は、供給ロール104から巻き取りロール106まで延びている。搬送経路102では、例えば100m/分〜180m/分の搬送速度で連続体100が搬送される。
【0038】
搬送経路102には、連続体100を厚さ方向にて挟むようにグラビアシリンダ108及び圧胴110が互いに平行に配置されている。グラビアシリンダ108の外周面には凹版が形成されており、凹版の各凹部(画線部)のグラビア印刷用インキは、圧胴110によって連続体100が凹版に押し付けられることによって、連続体100に転移させられる。
なお、圧胴110によって連続体100加えられる圧力は、例えば、(44.1±4.9)×10Pa(4.5±0.5kgf/cm)であり、ニップ幅は、例えば11.5±1.5mmである。
【0039】
凹版にグラビア印刷用インキを供給するために、グラビアシリンダ108の下方にはインキパン112が配置されている。インキパン112には、インキタンク114から供給装置によってグラビア印刷用インキが供給され、グラビアシリンダ108の外周面は、グラビアシリンダ108の回転に伴いグラビア印刷用インキに接触する。
そして、グラビアシリンダ108の外周面に接した状態でドクター116が配置され、グラビアシリンダ108の回転方向でみたときに、ドクター116は圧胴110よりも上流に位置している。従って、ドクター116によって凹版上の余分のグラビア印刷用インキが掻き落とされた後、圧胴110によって凹版に対し連続体100が押し付けられる。
【0040】
また搬送経路102には、連続体100の搬送方向でみてグラビアシリンダ108及び圧胴110よりも下流に、乾燥ユニット118が配置されている。乾燥ユニット118は、搬送方向でみて例えば3m〜4mの長さを有する。乾燥ユニット118では、連続体100上のグラビア印刷用インキが、例えば、熱風によって乾燥させられる。具体的には、グラビア印刷用インキが、感熱発色層16が発色しない温度、例えば100℃〜120℃の温度で3〜10秒間程度乾燥させられ、これにより文字等を構成する光輝性印刷層22が形成される。
かくして、文字等がグラビア印刷された連続体100は、巻き取りロール106に巻き取られ、適宜後工程に送られる。後工程では、例えば必要に応じて連続体100にオフセット印刷等が行われる。
【0041】
〔グラビア印刷方法の管理方法〕
以下では、上述したグラビア印刷装置を用いて光輝性印刷層22を印刷する場合の管理方法について説明する。
この管理方法によれば、インキパン112に貯留されるグラビア印刷用インキの組成が上記した組成になるよう調整される。ここで、グラビア印刷用インキの組成が上記した組成になっているか否かの判定は、好ましくは、以下の(1)〜(3)の3つの項目を確認することによって行われる。
【0042】
(1)インキパン112内のグラビア印刷用インキの粘度が、ザーンカップ3番で計った流出時間が12秒〜25秒になるような範囲にあるか否かを確認する。粘度がこれよりも高ければ溶剤を追加し、粘度がこれよりも低ければ顔料及びインキ用樹脂を追加する。
(2)下限確認用の見本サンプルの光輝性印刷層22と連続体100に印刷された光輝性印刷層22とを比較し、かすれの発生(例えば文字の欠け)の有無を目視により確認する。かすれの発生が確認された場合、溶剤中のメチルエチルケトンの濃度が17質量%未満になっていると判断し、メチルエチルケトンの濃度が高くなるように、メチルエチルケトンを追加する。
なお、下限確認用の見本サンプルは、好ましくは、溶剤中のメチルエチルケトンの濃度を17質量%以上17.5質量%以下に調整したグラビア印刷用インキを用いて作成される。
【0043】
(3)上限確認用の見本サンプルの光輝性印刷層22と連続体100に印刷された光輝性印刷層22とを比較し、感熱発色層16における黒点の発生の有無を目視により確認する。黒点の発生が確認された場合、溶剤中のメチルエチルケトンの濃度が30質量%超になっていると判断し、メチルエチルケトンの濃度が低くなるように、トルエンやエチルシクロヘキサンを追加する。または、顔料及びインキ用樹脂を追加し、グラビア印刷用インキにおける溶剤の比率を低下させる。
なお、上限確認用の見本サンプルは、好ましくは、溶剤中のメチルエチルケトンの濃度を29.5質量%以上30質量%以下に調整したグラビア印刷用インキを用いて作成される。
【0044】
上述した一実施形態のグラビア印刷物では、グラビア印刷によって形成される塗膜、則ち光輝性印刷層22の厚さが1μm以上20μm以下である。このため光輝性印刷層22中に十分な量の鱗片状顔料が分布させられ、このグラビア印刷物は、高輝度で且つ変色性に優れる。
【0045】
上述した一実施形態のグラビア印刷方法によれば、溶剤が17質量%以上のケトン系成分を含むため、グラビア印刷用インキの再溶解性が良好に保たれる。この結果として、このグラビア印刷方法によれば、高輝度で且つ変色性に優れたグラビア印刷物が提供される。
一方、溶剤におけるケトン系成分の濃度は、30質量%以下に規制されているため、ケトン系成分と芳香族系成分との比が1:1である場合には、感熱発色層16が発色してしまう感熱体10を用いたとしても、そのような溶剤アタックの発生が抑制される。
これらの結果として、このグラビア印刷方法によれば、高輝度で且つ変色性に優れながら、溶剤アタックの発生が抑制される。
【0046】
特に、一実施形態のグラビア印刷方法によれば、溶剤が17質量%以上30質量%以下のメチルエチルケトンと、70質量%以上83質量%以下のトルエンとを含むため、メチルエチルケトン及びトルエンに対して、ポリエステルウレタン樹脂が良く溶解する。このため、グラビア印刷用インキ中において、鱗片状顔料が均一に分散させられる。この結果として、このグラビア印刷方法によれば、高輝度で且つ変色性に優れたグラビア印刷物が確実に得られる。
【0047】
また、上述した一実施形態のグラビア印刷用インキによれば、溶剤が17質量%以上のケトン系成分を含むため、グラビア印刷用インキの再溶解性が良好に保たれる。この結果として、このグラビア印刷用インキによれば、高輝度で且つ変色性に優れたグラビア印刷物が提供される。
一方、溶剤におけるケトン系成分の濃度は、30質量%以下に規制されているため、ケトン系成分と芳香族系成分との比が1:1である場合には感熱発色層16が発色してしまう感熱体10を用いたとしても、溶剤アタックの発生が抑制される。
これらの結果として、このグラビア印刷用インキによれば、高輝度で且つ変色性に優れながら、溶剤アタックの発生が抑制される。
【0048】
ここで、上述した一実施形態のグラビア印刷方法及びグラビア印刷用インキでは、溶剤に含まれるケトン系成分の濃度が17質量%以上30質量%以下であり、従来に比べて少ない。このため、ケトン系成分の濃度がこの範囲から外れると、グラビア印刷用インキの再溶解性が低下してグラビア印刷が困難になる虞がある。
そして通常、グラビア印刷されたグラビア印刷物のみによって、ケトン系成分の濃度が上記範囲にあるか否かを長期に亘って客観的に判定することは困難である。
【0049】
そこで、上記した一実施形態の管理方法では、グラビア印刷されたグラビア印刷物を見本サンプルと比較することによって、インキパン112に貯留されるグラビア印刷用インキの組成が印刷を行うのに連れて徐々に変化したときに、ケトン系成分の濃度が上記範囲にあるか否かが的確に判断される。そして、判断結果に基づいて、ケトン系成分の濃度を調整することで、ケトン系成分の濃度が長期に亘って安定に上記範囲内に保たれる。
この結果として、上記グラビア印刷方法又はグラビア印刷用インキ組成物とともに、この管理方法を採用することにより、高輝度で且つ変色性に優れながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が安定して提供される。
【0050】
そして、一実施形態の管理方法では、溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上17.5質量%以下であるときにグラビア印刷方法によって下限用見本サンプルが印刷されるので、ケトン系成分の濃度が下限以上であるか否かが的確に判定される。この結果として、この管理方法を採用することによって、高輝度で且つ変色性に優れながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が安定して提供される。
【0051】
また、一実施形態の管理方法では、溶剤中のケトン系成分の濃度が29.5質量%以上30質量%以下であるときにグラビア印刷方法によって上限用見本サンプルが印刷されるので、ケトン系成分の濃度が上限以下であるか否かが的確に判定される。この結果として、この管理方法を採用することによって、高輝度で且つ変色性に優れながら、溶剤アタックの発生が抑制されたグラビア印刷物が安定して提供される。
【実施例】
【0052】
1.単独の溶剤による溶剤アタックの確認
感熱体10としての株式会社リコー製のサーマルペーパーLHB130に、表1に示した溶剤を手作業により塗布し、感熱発色層16での発色を肉眼によって確認した。この結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
2.混合された溶剤による溶剤アタックの確認
(1)メチルエチルケトンとトルエンの混合物
表2に示した比率のメチルエチルケトン及びトルエンからなる溶剤を用いて、グラビア印刷用インキを調製した。そして調製したグラビア印刷用インキを、バーコーターを用いて感熱体10としてのサーマルペーパーLHB130に塗布した後、乾燥機を用いて、100℃の温度で10秒間乾燥させた。乾燥後の感熱体10の感熱発色層16での発色を肉眼によって確認した。この結果を表2に示す。
なお、表2に示したように、メチルエチルケトンの濃度が17質量%未満の場合、グラビア印刷用インキの再溶解性が不良となり、印刷が不可能になった。
【0055】
【表2】

(2)メチルエチルケトンとエチルシクロヘキサンの混合物
メチルエチルケトンとエチルシクロヘキサンとの混合物を溶剤として用いた場合、トルエンを用いた場合に比べて、グラビア印刷用インキの再溶解性が悪化し、印刷が不可能になった。よって、この場合、感熱発色層の発色の有無を確認するに至らなかった。
【0056】
(3)メチルエチルケトンとトルエンとエチルシクロヘキサンの混合物
トルエンの一部を1質量%以上8質量%以下のエチルシクロヘキサンで置換したこと以外は上記(1)の場合と同様にして、溶剤アタックの有無を確認した。この結果、表2に示したのと同様の結果が得られた。
ただし、エチルシクロヘキサンの濃度が9質量%以上になると、グラビア印刷用インキがゲル化し、印刷が不可能になった。
【0057】
(4)トルエンとエチルシクロヘキサンの混合物
メチルエチルケトンを含まず、トルエン及びエチルシクロヘキサンのみを含む溶剤を用いた場合、グラビア印刷用インキの再溶解性が不良となり、印刷が不可能になった。よって、この場合、感熱発色層の発色の有無を確認するに至らなかった。
【0058】
3.実施例1の印刷物の作成及び評価
(1)グラビア印刷用インキの調製
以下の(i)〜(vii)の成分を混合して、グラビア印刷用インキを調製した。なお、得られたグラビア印刷用インキは、ザーンカップ3番を用いた流出速度が16秒になるような粘度を有していた。
(i)パール顔料(メルク株式会社製 Xirallic(登録商標)T60−23WNT):1質量部
(ii)メチルエチルケトン:1.245質量部
(iii)トルエン:5.015質量部
(iv)ポリエステルウレタン樹脂(東洋紡績株式会社製 バイロン(登録商標)UR8200):0.725質量部
(v)n−ブタノール:0.01質量部
(vi)ワックス:0.005質量部
(vii)その他(消泡剤等):微量添加
【0059】
(2)グラビア印刷
上記(1)で調製したグラビア印刷用インキを用いて、以下の印刷条件にてグラビア印刷を行った。
連続体:株式会社リコー製 サーマルペーパー LHB130
印刷速度:142m/分
乾燥温度:117℃
乾燥時間:3秒
【0060】
(3)印刷物の評価
得られた印刷物を肉眼によって観察した。観察の結果、得られた印刷物の光輝性印刷層は、高輝度で且つ変色性に優れていながら、溶剤アタックによる感熱発色層の発色が防止されていた。特に、この印刷物は、光輝性印刷層が見る角度によって白色又は黄色を呈し、この印刷物に接した者は、光輝性印刷層の変色を確実に認識することが可能であった。
【0061】
本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されることはなく、種々の変形が可能であり、例えば、グラビア印刷される文字等の形状は特に限定されることはない。また、グラビア印刷物は、有価証券に限定されることはなく、光輝性印刷層は、真贋の判定以外の用途、例えば意匠としての効果を発揮するものであってもよい。
また、グラビア印刷物には、光輝性印刷層22の上又は下に、全面又は部分的に他の印刷、例えばオフセット印刷等が施されていてもよい。
更に、グラビア印刷されるグラビア印刷層は、光輝性印刷層22に限定されることはなく、顔料として、鱗片状顔料以外の顔料を用いてもよい。
最後に、本発明のグラビア印刷方法の実施に用いられるグラビア印刷装置の構成は、上述したものに限定されることはなく、適宜変更可能であるのは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
10 感熱体
12 単語
14 基材
16 感熱発色層
18 アンカー層
20 保護層
22 光輝性印刷層(印刷層)
100 連続体
102 搬送経路
104 供給ロール
106 巻き取りロール
108 グラビアシリンダ
110 圧胴
112 インキパン
114 インキタンク
116 ドクター
118 乾燥ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ用樹脂、顔料、及び、溶剤を含むインキを調製する工程と、
基材上に積層された感熱発色層及び保護層を有する感熱体に、前記インキをグラビア印刷して印刷層を形成する工程とを備え、
前記溶剤は、17質量%以上30質量%以下のケトン系成分と、芳香族系成分とを含むことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項2】
請求項1に記載のグラビア印刷方法において、
前記インキ用樹脂はポリエステルウレタン樹脂であり、
前記溶剤は、前記ケトン系成分としてメチルエチルケトンを含み、前記芳香族系成分としてトルエンを含む
ことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項3】
請求項2に記載のグラビア印刷方法において、
前記溶剤は、17質量%以上30質量%以下のメチルエチルケトンと、70質量%以上83質量%以下のトルエンとを含む
ことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のグラビア印刷方法において、
前記溶剤は、更に、脂環式系成分を含む
ことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項5】
請求項4に記載のグラビア印刷方法において、
前記溶剤は、前記脂環式成分としてエチルシクロヘキサンを含む、
ことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項6】
請求項5に記載のグラビア印刷方法において、
前記溶剤は、17質量%以上30質量%以下のメチルエチルケトンと、62質量%以上82質量%以下のトルエンと、1質量%以上8質量%以下のエチルシクロヘキサンとを含む
ことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載のグラビア印刷方法において、
前記顔料は、鱗片状顔料である
ことを特徴とするグラビア印刷方法。
【請求項8】
インキ用樹脂、顔料、及び、溶剤を含み、
前記溶剤は17質量%以上30質量%以下のケトン系成分を含む
ことを特徴とするグラビア印刷用インキ組成物。
【請求項9】
請求項1乃至7の何れかに記載のグラビア印刷方法のための管理方法であって、
前記溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上30質量%以下であるときに前記グラビア印刷方法によって見本サンプルを印刷し、
前記グラビア印刷方法に従うように印刷された印刷物と前記見本サンプルとを比較し、
前記比較の結果に基づいて、前記溶剤中のケトン系成分の濃度を調整する
ことを特徴とするグラビア印刷方法のための管理方法。
【請求項10】
請求項9に記載のグラビア印刷方法のための管理方法であって、
前記溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上17.5質量%以下であるときに前記グラビア印刷方法によって見本サンプルを印刷し、
前記グラビア印刷方法に従うように印刷された印刷物と前記見本サンプルとを比較することにより、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が17質量%以上であるか否かを判定する
ことを特徴とするグラビア印刷方法のための管理方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のグラビア印刷方法のための管理方法であって、
前記溶剤中のケトン系成分の濃度が29.5質量%以上30質量%以下であるときに前記グラビア印刷方法によって見本サンプルを印刷し、
前記グラビア印刷方法に従うように印刷された印刷物と前記見本サンプルとを比較することにより、前記溶剤中のケトン系成分の濃度が30質量%以下であるか否かを判定する
ことを特徴とするグラビア印刷方法のための管理方法。
【請求項12】
請求項1乃至7の何れかに記載のグラビア印刷方法を用いて印刷されたグラビア印刷物であって、
前記グラビア印刷方法によって作製された塗膜の厚さは1μm以上20μm以下である
ことを特徴とするグラビア印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−208220(P2010−208220A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58455(P2009−58455)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】