説明

グラビア印刷版

【課題】 転写ムラが抑制され延いては印刷膜表面の平滑性を高め得るグラビア印刷版を提供する。
【解決手段】 印刷方向の前方側に、セル28の各々に第1土手24および第2土手26よりも低く且つ深部32より高い中間段部34が備えられることから、土手24,26近傍における深さ寸法の変化が緩和される。そのため、圧力低下が緩和されるため、転写ムラが抑制され、延いては印刷膜表面の平滑性が高められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷に用いられるグラビア印刷版の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば薄層形成には一般に真空蒸着やCVD等が用いられているが、雰囲気制御の必要のために高コストである。これに対して、近年電子部品製造においてグラビア印刷(凹版印刷)を用いて膜厚1(μm)前後の薄層形成が求められているものがある。例えば、導体層と絶縁体層を交互に積層する積層セラミックコンデンサが一例として挙げられる。このような印刷による薄層形成は、大気中で行われることから雰囲気制御が無用なため、低コストで簡便な利点がある。
【0003】
上記のグラビア印刷は、例えば、直交する多数本の土手により区画形成された多数のセルが画像部(すなわちパターン部)に備えられるグラビア印刷版を用い、それら多数のセルにペーストを流し込んで余剰のペーストをドクターブレードで掻き取った後、被印刷物に印刷用版を押し当てて転写する手法である。上記の土手は、このようにペーストを充填する際にドクターブレードによる過剰な掻き取りを防ぐ作用を有する。また、グラビア印刷版をグラビアロールと称される円筒の外周面に設けることで連続印刷を行うようにしたものが一般に用いられている。
【0004】
ところで、上記目的で設けられている土手は画像部内におけるペーストの流動を阻害し、延いては印刷膜の表面平滑性を低下させるため、これを改善することが従来から種々提案されている。例えば、セルを細溝で相互に連通させて部分的に結合したセルの集合体を成すことで、一部のセルでペースト転写量の過不足が生じても、細溝を経由してペーストが流動し全体として滑らかでムラのない転写が得られるようにしたものがある(例えば特許文献1を参照。)。
【0005】
また、土手を印刷方向に沿って伸びる複数本の印刷方向土手とこれに直交する複数本の堰き止め方向土手とから構成すると共に、堰き止め方向土手には印刷方向に隣り合うセル間を連通させる切欠きをセルよりも浅い深さ寸法で設けたものがある(例えば特許文献2を参照。)。この構成によれば、切欠きの深さ寸法を浅くすることでペーストの過度の流動が抑制されるため、斯かる目的で切欠きの幅寸法を小さくする場合に転写時のペーストの連続性が阻害されることや切欠き形成時のサイドエッチングの問題が緩和される。
【0006】
また、同様に印刷方向土手と堰き止め方向土手とを備える場合において、その堰き止め方向土手の高さ寸法を印刷方向土手よりも低くしたものがある(例えば特許文献3を参照。)。この構成によれば、ペーストの糸引きが印刷方向のみに生じるので、垂直方向にも糸引きが生じる場合における糸引きの重なり延いては印刷膜の表面平滑性の低下が好適に抑制される。
【0007】
また、上記各技術とは目的が異なるが、画像部内の外周部のセルの開口面積を内周部のそれよりも小さくして、その外周部のセルの開口面積の均一化を図ったものが提案されている(例えば特許文献4を参照。)。内外周のセルの開口面積を同一とする従来構造では、画像部の大きさとセル寸法やセルピッチとの関係を特に考慮していなかったため、それらの寸法関係次第で、画像部の一隅から印刷方向およびこれに直交する方向にセルを並べると、終端の1列のセルが他のセルに比べて開口面積が小さくなり、延いては印刷膜の周縁部の厚さ寸法が不均一になる場合があった。上記構成によれば、外周部のセルの開口面積が均一化されることから、印刷膜の周縁部の厚さ寸法が均一になり、MLCCの内部電極形成に適用した場合等にも安定した電気的特性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−012697号公報
【特許文献2】特開2006−110825号公報
【特許文献3】特開2006−110923号公報
【特許文献4】特開平09−076459号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】塩冶孜編集及び代表執筆「印刷インキ工学」印刷学会出版部、1969年4月、P89−91及びP176−185
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、グラビア印刷版において、ペーストの流動性を高め或いは転写量を均一化するための工夫が種々行われていた。しかしながら、例えば膜厚が1(μm)以下の薄膜を形成しようとする場合、上記各技術を適用しても、看過し難い転写ムラが生じ、ピンホールが見られたり印刷膜表面の平滑性が得られず、甚だしい場合は印刷膜が島状になって連続膜が得られない、或いはパターンの一部が欠ける等の問題があった。
【0011】
本発明者等は、上記のような転写ムラを抑制すべく鋭意研究を重ねた結果、転写時の急激な圧力変化が影響しているとの結論に至った。
【0012】
因みに、グラビア印刷において、印刷時にグラビアローラと圧胴との間で印刷ペーストに作用する押圧力の変化挙動については従来から多数の研究が為され良く知られるところである。一定速度で回転しているグラビアローラおよび圧胴間の間隙(すなわちニップ)に入った印刷ペーストの受ける圧力は、直ちに急上昇するが、その後、緩やかに低下し、ニップ出口では負圧に転ずる(例えば前記非特許文献1を参照。)。このようにニップ出口で負圧に転ずる際に印刷ペーストに空洞が生じ、その空洞を起点として印刷ペーストが糸引き状態となるので、転写ムラが生じて印刷膜の表面平滑性が低下するものと考えられる。
【0013】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、転写ムラが抑制され延いては印刷膜表面の平滑性を高め得るグラビア印刷版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、所定の第1方向に沿って伸びる複数本の第1土手とこれに直交し且つその第1土手と同一高さ寸法を有する複数本の第2土手とによって区画形成された複数個のセルを画像部に備え、グラビア印刷によって被印刷物上にペーストを所定パターンで塗布するために用いられるグラビア印刷版であって、(a)前記複数個のセルの各々は前記第1土手および前記第2土手により形成される周壁のうち少なくとも印刷方向の前方側の一部が段付き形状を成すことにより形成された中間段部を備えたことにある。
【発明の効果】
【0015】
このようにすれば、印刷方向の前方側には、複数個のセルの各々に第1土手および第2土手よりも低く且つセル底面より高い中間段部が備えられることから、土手近傍における深さ寸法の変化が緩和される。前述したように印刷ペーストの受ける圧力がニップ出口において負圧へ転ずるのは、グラビア印刷版が圧胴から離れる際に、それまで圧縮されていた印刷ペーストが膨張させられるためであるが、上述したように中間段部が備えられることによって深さ寸法変化が緩和されると、圧力低下が緩和されるため、転写ムラが抑制され、延いては印刷膜表面の平滑性が高められる。
【0016】
しかも、印刷ペーストが転写された被印刷物はその印刷ペースト中の溶剤を吸収するのでその粘度が高められることとなるが、上記のような段付き形状では粘度の高められた造粘層の厚さ寸法が土手付近よりも中央部で薄くなる。そのため、レベリングによる膜厚低下量が土手付近と中央部とで等しくなるので印刷膜厚の一様性が向上する利点がある。
【0017】
ここで、好適には、前記グラビア印刷版において、前記第1土手および前記第2土手は印刷方向に対して所定のバイアス角度だけ傾斜する向きに沿って伸びるもので、前記中間段部は前記第1土手および前記第2土手のうち印刷方向の前方側に位置する部分に沿って設けられている。このようにすれば、印刷方向に対して中間段部および土手が傾斜していることから、印刷時には各セルにおいて中間段部および土手に到達した部分から順次に圧力が変化することになる。そのため、全体として圧力変化が一層緩やかになるので、転写ムラが一層抑制される。
【0018】
また、好適には、前記グラビア印刷版において、前記中間段部は、その深さ寸法の1〜4倍の範囲内の幅寸法を有するものである。前述したように、中間段部は深さ寸法変化を緩和することで急激な圧力低下を緩和するものであるから、十分な緩和効果を得るためにはその幅寸法が十分に大きいことが望ましいが、過度に大きくなると圧力変化のない領域が生じその領域は圧力低下の緩和に何ら寄与しない反面で、印刷ペーストの充填量を減じるので、幅寸法は必要以上に大きくしないことが望ましい。中間段部の深さ寸法が大きくなるほど圧力変化が大きくなるから、その幅寸法の望ましい範囲は上下限共に深さ寸法との関連で決まり、圧力低下を十分に緩和するためには幅寸法は深さ寸法の1倍以上が望ましく、圧力変化のない領域を生じさせないためには幅寸法は深さ寸法の4倍以下が望ましい。
【0019】
また、好適には、前記グラビア印刷版において、前記中間段部は、前記セルの深さ寸法の1/3〜2/3の深さ寸法を有するものである。中間段部を有するセル形状においては、印刷過程においてセル深さ寸法の変化に伴う圧力変化を二度に亘って受けることになる。何れにおいてもセル深さ寸法の急激な変化に伴う急激な圧力低下は、セル深さ寸法の変化が小さいほど小さくなるから、中間段部の深さ寸法は、それらの二度の圧力変化が何れも十分に小さくなるように、上記範囲に定めることが好ましい。また、このような観点から、中間段部の深さ寸法はセル深さ寸法の1/2程度が最も好ましい。
【0020】
また、好適には、前記第1土手および前記第2土手は、隣接するセルを連結する切欠き部を備えたものである。このようにすれば、一部のセルでペースト転写量の過不足が生じても、セルを取り囲む周壁に設けられた切欠き部を経由して印刷ペーストが流動してその過不足が緩和される利点がある。
【0021】
また、好適には、上記切欠き部の深さ寸法は前記中間段部の深さ寸法と同一である。印刷ペーストの過剰な流動を抑制するためには切欠き部の幅寸法を小さくすることが望ましいが、その場合、転写時の印刷ペーストの連続性を保つためには切欠き部の深さ寸法が浅い方が好ましい。切欠き部の深さ寸法を中間段部の深さ寸法と同程度にすればこれらを共に満足することができる。また、それらの深さ寸法を同一にすれば、中間段部およびセル底面の何れとも異なる深さ寸法で切欠き部を設ける場合に比較して画像部内の段数が減じられるので、グラビア印刷版の製造が容易になる利点もある。
【0022】
また、好適には、前記グラビア印刷版は、前記画像部内に100(μm)×100(μm)以上の大きさを有するパターンを備えたものである。本発明は、このような比較的大きいパターンを有するグラビア印刷版に好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例のグラビア印刷版が適用されるグラビア印刷機の要部構成を模式的に示す図である。
【図2】図1のグラビア印刷機に備えられたグラビア印刷版の印刷面の一部を拡大して示す平面図である。
【図3】図2におけるA−A視断面図を示す図である。
【図4】図3に示す断面を用いて被印刷物への印刷ペーストの転写の第1段階を説明する図である。
【図5】転写直後の印刷膜の状態を説明するための図4に対応する図である。
【図6】レベリング後の印刷膜の状態を説明するための図4に対応する図である。
【図7】印刷方向の後方側よりも前方側で段付き部を大きくした構成例である。
【図8】図2のグラビア印刷版を用いて形成された印刷膜の一部を拡大した顕微鏡写真である。
【図9】従来のグラビア印刷版を用いて形成された印刷膜の一部を拡大した顕微鏡写真である。
【図10】従来の他のグラビア印刷版を用いて形成された印刷膜の一部を拡大した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0025】
図1はグラビア印刷機の全体構成を模式的に示した図で、版胴10は例えば水平方向に沿って伸びる回転軸回りの回転可能に支持されて、貯留槽12中の印刷ペースト14に一部が浸された状態にある。この版胴10の外周面には凹版であるグラビア印刷版16が固着されており、貯留槽12の上方にはドクター18が先端部をそのグラビア印刷版16に押し付けられた状態で備えられている。
【0026】
また、版胴10の上方には、圧胴20がその版胴10と平行な回転軸回りの回転可能に支持されている。この圧胴20は、それらの間を通されたセラミックグリーンシート等の被印刷物22を介して版胴10に押し付けられた状態にある。
【0027】
図2は、上記のグラビア印刷版16の画像部の一部を拡大して示す平面図で、図3はそのA−A視断面図である。グラビア印刷版16の画像部には、一方向に沿って伸びる多数の第1土手24と、これに直交する他方向に沿って伸びる多数の第2土手26とが備えられており、これら第1土手24および第2土手26によって画像部が区画されることで印刷画像を構成する最小単位である多数のセル28が形成されている。
【0028】
上記の第1土手24および第2土手26は、それぞれの長手方向において交点で交互に切欠かれることにより、何れも長手方向に断続する形状で設けられている。第1土手24および第2土手26の断続する個々の部分の長さ寸法は、何れもセル28の略2個分である。これら第1土手24および第2土手26は、それぞれ例えば90(μm)程度の中心間隔で設けられており、幅寸法はそれぞれ例えば10(μm)程度である。そのため、セル28の各々の内法寸法すなわちセル28内に形成されている凹所30の内法寸法は例えば80(μm)四方となっている。
【0029】
上記の凹所30の中央部には、例えば60(μm)四方程度の大きさで深さ寸法が部分的に深くされた深部32が備えられている。深部32の深さ寸法は、第1土手24および第2土手26の上面から例えば20(μm)程度であり、それらの間すなわち深部32の周囲には、土手24,26により形成される周壁の一部が段付き形状とされることにより深さ寸法が10(μm)程度の中間段部34が形成されている。中間段部34の幅寸法は深部32と第1土手24および第2土手26の何れとの間においても、例えば10(μm)程度の一様な大きさとされている。すなわち、中間段部34は幅寸法/深さ寸法=1となるように形成されている。
【0030】
なお、第1土手24および第2土手26をそれぞれ断続させる切欠き部36,38は、全ての箇所において10(μm)程度の幅寸法で形成されている。また、切欠き部36,38の深さ寸法は中間段部34と同一である。なお、以上の第1土手24、第2土手26、深部32、中間段部34等は、例えば、グラビア印刷版16を構成するための金属円筒或いは円柱を用意し、良く知られるフォトエッチングの手法を用いて形成される。すなわち、例えば鉄或いはアルミニウム製円柱の表面にCuなどでメッキを施して均一な層を形成後、エッチングにより凹部を形成し、その後、Crメッキなどで表面を覆うことによりグラビア印刷版16が得られる。凹所30はこのようにして形成されることから、中間段部34および深部32のそれぞれの周縁部にはエッチング処理に起因するR10〜15(μm)程度の曲面が存在する。
【0031】
また、前記図2に印刷方向を示すように、上記第1土手24および第2土手26は、その印刷方向に対して例えば22.5°程度の一定のバイアス角度だけ傾斜して設けられている。上記印刷方向は版胴10の回転方向に一致するもので、第1土手24および第2土手26はその回転方向に対して傾斜して設けられている。なお、上記バイアス角度は、版胴10が回転して圧胴20との間で被印刷物22を押圧して印刷が為されるに際して、回転に伴う被印刷物22との接触面積の変化を抑制し、延いては印刷ペースト14に加えられる圧力の変化を抑制するために設けられている。
【0032】
このように構成されたグラビア印刷版16を用いてグラビア印刷を行うに際しては、版胴10と圧胴20との間に被印刷物22を通して図1に示す矢印a方向に版胴10を回転させると、印刷ペースト14がグラビア印刷版16の表面に供給され、次いで、ドクター18で余剰分が掻き落とされることにより、その画像部に設けられた凹所30に印刷ペースト14が充填される。その後、更に版胴10が回転すると、圧胴20によって版胴10の版面すなわちグラビア印刷版16に押圧される被印刷物22の表面に印刷ペースト14が転写されて印刷が行われる。
【0033】
図4〜図6は、上記のように印刷が行われるに際して、印刷ペースト14の挙動を説明するための断面図である。図4は、グラビア印刷版16が被印刷物22に押し付けられ、その凹所30内に充填された印刷ペースト14がその被印刷物22の表面に転写される段階を示している。図5は、グラビア印刷版16が被印刷物22から引き剥がされた転写直後の段階を示した図である。転写直後ではペースト膜40の周縁部の厚みが内周部に比較して厚くなっている。
【0034】
なお、上記図4、図5を対比すれば明らかなように、印刷ペースト14は凹所30内に充填された全量が転写されず、転写されるのは被印刷物22に接している部分の近傍の一部の量に留まる。図4で凹所30内に描いている破線は、被印刷物22に転写される転写部42と、凹所30内に残留する残留部44との境界線である。
【0035】
図6は、転写後に更にレベリングが施された後の状態を示している。ペースト膜40は転写された直後は未だ十分な流動性を有しており、レベリングが施されることによって略一様な厚さ寸法でピンホール等の欠陥の少ない(或いはない)ペースト膜40が得られる。
【0036】
以下、上記グラビア印刷版16を積層セラミックコンデンサの内部電極形成に用いた更に具体的な実施例について説明する。金属粉と、セラミック粉と、樹脂を溶剤に溶解したビヒクルとを混合し、ロールミルで混練して印刷ペースト14を作製した。金属粉は例えば平均粒径が1(μm)以下のNi粉である。また、セラミック粉は例えば平均粒径が1(μm)以下のBaTiO3である。また、樹脂はエチルセルロース、溶剤はターピネオール系である。また、各成分の混合比は、粉:樹脂:溶剤を35〜64:3〜10:35〜60程度とした。また、印刷ペースト14の粘度は0.3〜6.5(Pa・s)に調節した。
【0037】
一方、試験用のグラビア印刷版16としては、前述したような多数のセル28で構成された0.5×2.0(mm)程度の大きさの長方形パターンを備えたものを用意した。凹所30の寸法形状は前述した通りとし、比較例として中間段部34を有していない深さ寸法が20(μm)および10(μm)の2種のグラビア印刷版を用意した。
【0038】
そして、圧胴20の押し付け圧を300(kgf)、被印刷物22の送り速度を50(mm/s)として印刷処理を行い、120(℃)のオーブンで10分間乾燥させた後、得られた印刷膜の外観を光学顕微鏡で観察した。その結果、前述したように中間段部34を備えたグラビア印刷版16を用いて形成した印刷膜は、図8に示されるように全体が略一様な厚さ寸法で形成されると共にピンホールも殆ど認められなかった。これに対し、中間段部34が設けられない他は同様な条件としたものすなわち深さ寸法が20(μm)のグラビア印刷版を用いた比較例では、図9に示されるように前記長方形パターンの周縁部のみが転写された。また、深さ寸法が10(μm)とされた比較例では、図10に示されるように全体が転写されたものの多数のピンホールが生ずる結果となった。これら図8〜図10は、被印刷物22に形成された印刷膜の一部を拡大して示したもので、写真中に現れている縦長の長方形は例えば1005サイズの積層セラミックコンデンサの2個分の導体層に対応し、それぞれ0.5(mm)×2(mm)の大きさを備えている。
【0039】
なお、上記3種のグラビア印刷版を用いて、印刷ペーストの調合仕様を種々変更して同様に印刷性を評価した。具体的には、ペースト中の金属粉含有量を40〜55(wt%)、樹脂の種類をエチルセルロースの他にブチラール樹脂およびアクリル樹脂、樹脂量を金属成分に対して1.1〜6.5(wt%)、溶剤は前記ターピネオール系を2種適宜の割合で混合したものを用いる他にジヒドロターピニールアセテートやC10H14等の芳香族を使用、粘度は100rpmで0.6〜0.8(Pa・s)に調整した。これら種々調合仕様を変更した印刷ペーストにおいても、印刷ペーストの仕様に応じて相違は認められるものの、概ね前記図8〜図10に示されるものと同様な印刷結果となった。すなわち、中間段部34を備える本実施例のグラビア印刷版16を用いた場合にはピンホールの極めて少ない均一性の高い印刷膜が得られたが、中間段部34を備えていない従来のグラビア印刷版では、深さ20(μm)では専ら周縁部のみに印刷される結果となり、深さ10(μm)では多数のピンホールが生じる結果となった。
【0040】
なお、この実験では、図7に示すように、前記深部32がセル28の中央部(一点鎖線で示す)よりも印刷方向の後方側にずれた位置に設けられており、その結果、中間段部34が印刷方向の前方側に偏って形成されている。具体的には、中間段部34の幅寸法は、後方側で5(μm)程度、前方側で15(μm)程度になっていた。したがって、上記評価結果によれば、印刷方向の前方側に中間段部34が形成されていれば足り、後方側には中間段部34が設けられていなくとも何ら支障はないものと考えられる。
【0041】
次に、凹所30の条件を変更して実験した結果を説明する。以下の条件1〜3に、前述した凹所30の各部寸法と相違する部分のみを記す。
(条件1)
中間段部34の深さ寸法 5(μm)
中間段部34の幅/深さ=2
深部32の深さ寸法 10(μm)
(条件2)
中間段部34の深さ寸法 5(μm)
同 幅寸法 20(μm)
中間段部34の幅/深さ=4
深部32の深さ寸法 10(μm)
(条件3)
中間段部34の深さ寸法 5(μm)
中間段部34の幅/深さ=2
深部32の深さ寸法 10(μm)
バイアス角度 45°
【0042】
上記各部の寸法を変更した他は前述した条件で導体膜を形成したところ、上記何れの場合も、厚さ寸法が一様で欠陥の無い導体膜が得られた。また、形成された導体膜の表面粗さRaを測定したところ、前記ドクター18のブレード角度が55°の場合には、条件1で0.33(μm)、条件2で0.29(μm)、条件3で0.24(μm)と比較的良好な結果が得られた。また、ブレード角度を変更して更に評価を行ったところ、65°では、条件1で0.30(μm)、条件2で0.27(μm)、条件3で0.20(μm)の結果が得られ、75°では、条件1で0.26(μm)、条件2で0.25(μm)、条件3で0.20(μm)の結果が得られた。なお、上記ブレード角度は、版胴10のドクター18接触部の接線とそのドクター18との成す角度である。
【0043】
上記評価結果によれば、中間段部34および深部32の深さ寸法を変更しても良好な結果を得ることができ、また、ブレード角度を変更することで形成されれう膜の表面粗さを改善可能であることも確かめられた。
【0044】
上述したように、本実施例によれば、印刷方向の前方側に、セル28の各々に第1土手24および第2土手26よりも低く且つ深部32より高い中間段部34が備えられることから、土手24,26近傍における深さ寸法の変化が緩和される。そのため、圧力低下が緩和されるため、転写ムラが抑制され、延いては印刷膜表面の平滑性が高められる。
【0045】
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【符号の説明】
【0046】
10:版胴、12:貯留槽、14:印刷ペースト、16:グラビア印刷版、18:ドクター、20:圧胴、22:被印刷物、24:第1土手、26:第2土手、28:セル、30:凹所、32:深部、34:中間段部、36,38:切欠き部、40:ペースト膜、42:転写部、44:残留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の第1方向に沿って伸びる複数本の第1土手とこれに直交し且つその第1土手と同一高さ寸法を有する複数本の第2土手とによって区画形成された複数個のセルを画像部に備え、グラビア印刷によって被印刷物上にペーストを所定パターンで塗布するために用いられるグラビア印刷版であって、
前記複数個のセルの各々は前記第1土手および前記第2土手により形成される周壁のうち少なくとも印刷方向の前方側の一部が段付き形状を成すことにより形成された中間段部を備えたことを特徴とするグラビア印刷版。
【請求項2】
前記第1土手および前記第2土手は印刷方向に対して所定のバイアス角度だけ傾斜する向きに沿って伸びるもので、前記中間段部は前記第1土手および前記第2土手のうち印刷方向の前方側に位置する部分に沿って設けられている請求項1のグラビア印刷版。
【請求項3】
前記中間段部は、その深さ寸法の1〜4倍の範囲内の幅寸法を有するものである請求項1のグラビア印刷版。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate