説明

グラビア塗工装置

【課題】磁性を有する塗工液を用い、所望の階調性を伴った塗工を、既存の設備を最大限利用し、効率良く実現し得るグラビア塗工装置を提供すること。
【解決手段】本発明のグラビア塗工装置1Aは、塗工液Wが収容される液槽2と、液槽2内の塗工液W中に配置され、塗工液Wを貯留可能なセル30を外周面3aに多数有するグラビアロール3と、グラビアロール3の上方に配置されたバックアップロール4とを備え、両ロール3,4間で被塗工シート10をニップし、被塗工シート10に塗工液Wを塗工する。塗工液W中に、磁性を有する粒状体が含有されている。液漕2内に、円筒状の磁性ロール8が、グラビアロール3の外周面3aに対向配置されており、磁性ロール8の一部が塗工液W中に浸漬されるように配置されている。磁性ロール8の外周面8aは、塗工液W中の前記粒状体を磁力により引きつける磁性を有しており、且つ部分的に該磁力が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア塗工装置に関する。詳しくは、磁性粒状体を含有する塗工液を使用し、濃淡をつけて塗工することができるグラビア塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙やフィルム等の被塗工シートに、塗工液を塗工するための塗工装置として、塗工液を貯留可能なセルが外周面に多数形成されたグラビアロール(グラビア版胴)と、該グラビアロールとの間で該被塗工シートを押圧するバックアップロール(圧胴)とを備えたグラビア塗工装置が知られている。図8には、従来のグラビア塗工装置の概略が示されている。図8に示すグラビア塗工装置91は、グラビアロール92と該グラビアロール92に対向配置されたバックアップロール93とを備えている。グラビアロール92の下方には、塗工液Wが収容される液槽94が設けられている。また、グラビアロール92の外周面上の塗工液Wを掻き落とすドクターブレード95が設けられている。斯かる構成のグラビア塗工装置91において、図示しないロール駆動装置によって両ロール92,93をそれぞれ図中矢印で示す方向に回転させることにより、液槽94内の塗工液Wが、グラビアロール92の外周面に形成された多数のセル内に供給され、ドクターブレード95で該外周面上の余剰の塗工液Wが掻き落とされ、該セル内の塗工液Wが、両ロール92,93間で押圧された被塗工シート90に塗工されるようになっている。
【0003】
また、特許文献1には、グラビア塗工装置を用いて被塗工面にスジ模様を発現させる技術が記載されている。特許文献1に記載の技術は、基材に、下層としてカチオン性塗工液を塗工し乾燥させた後、該下層の上にグラビア塗工装置によりアニオン性塗工液を塗工し、これら上下層の境界面で急速にゲル化させることにより、意匠性の高いスジ模様を発現させるというものである。また、特許文献2には、蓄光インクや蛍光インクを用いたグラビア印刷において、グラビアロールのセルの深度を特定範囲に設定することで、蓄光効果や蛍光効果を確保できることが記載されている。
【0004】
また、被塗工物への意匠性付与を目的として、パール顔料やガラスフレークに代表される高輝度顔料の塗工が実施されている。これらの粒子の中には磁性を帯びるものも含まれる。例えば、パール顔料の着色を目的として干渉層に少量の酸化コバルトを含む酸化チタンをマイカにコーティングしたものが挙げられる。あるいは、磁性そのものを被塗工物に付与したい場合などでも、例えば鉄粉等の磁性粒子を塗工することが日常的に実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2812284号公報
【特許文献2】特許第3464476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グラビア塗工は、グラビアロールのセルの大きさ(開口度、深度等)を調整することによって、階調性を伴った塗工を1つの塗工ヘッドで(1回の塗工作業で)実現することが可能であり、斯かる塗工により、被塗工シートの被塗工面に、塗工液成分の付着量の差異に起因する濃淡を表現することができる。しかし、既に通常のグラビアロール(セルの大きさが均一なグラビアロール)を所有している場合において、そのような階調性を伴った塗工をする場合、そのセルに、階調性を伴った塗工が可能になるように新たに彫刻を施すとなると、塗工コストの高騰を招くおそれがある。
【0007】
また、例えばアルミペーストやパール顔料などの高輝度顔料に代表される、粒子径が20〜200μm程度の比較的大粒径の粒状体を含む塗工液を塗工する場合には、次の理由で階調性の表現に制限が生じる。即ち、大粒径の粒状体をグラビアロールのセル内に進入させ、その後のドクターブレードで掻き落されないようにして被塗工シートに転移させるためには、常に一定以上のセルの開口度が必要となり、その開口度以下に塗工量分布を設定することができない。既存の設備を最大限利用し、所望の階調性を伴った塗工を効率良く実現し得るグラビア塗工装置は未だ提供されていない。
【0008】
従って本発明の課題は、磁性を有する塗工液を用い、所望の階調性を伴った塗工を、既存の設備を最大限利用し、効率良く実現し得るグラビア塗工装置を提供することにある。
【0009】
本発明は、塗工液が収容される液槽と、該塗工液を貯留可能なセルを外周面に多数有するグラビアロールと、該グラビアロールの上方に配置されたバックアップロールとを備え、該両ロール間で被塗工シートをニップし、該被塗工シートに該塗工液を塗工するグラビア塗工装置において、前記塗工液中に、磁性を有する粒状体が含有されており、前記液漕内に、円筒状の磁性ロールが、前記グラビアロールの外周面に対向配置されており、該磁性ロールの一部が前記塗工液中に浸漬されるように配置されており、前記磁性ロールの外周面は、前記塗工液中の前記粒状体を磁力により引きつける磁性を有しており、且つ部分的に該磁力が異なっているグラビア塗工装置を提供することにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁性を有する塗工液を用い、所望の階調性を伴った塗工を比較的低コストで効率良く実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明のグラビア塗工装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図2は、図1に示すグラビア塗工装置におけるグラビアロールの斜視図である。
【図3】図3(a)は、図2に示すグラビアロールの外周面の一部を拡大して示す平面図、図3(b)は、図3(a)のI−I線断面を模式的に示す断面図である。
【図4】図4は、図1に示す磁性ロールの斜視図である。
【図5】図5は、図1に示すグラビア塗工装置を用いて得られる塗工済みシートの被塗工面を模式的に示す平面図である。
【図6】図6は、本発明のグラビア塗工装置の他の実施形態を示す概略図である。
【図7】図7は、本発明のグラビア塗工装置の更に他の実施形態を示す概略図である。
【図8】図8は、従来のグラビア塗工装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、その好ましい一実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。第1実施形態のグラビア塗工装置1Aは、図1に示すように、塗工液Wが収容される液槽2と、液槽2内の塗工液W中に浸漬されるように配置されたグラビアロール3と、グラビアロール3の上方に配置されたバックアップロール4とを備え、両ロール3,4間で被塗工シート10をニップし、被塗工シート10に塗工液Wを塗工するものである。
【0013】
液槽2には、液槽2に塗工液Wを供給する塗工液供給手段(図示せず)が接続されている。該塗工液供給手段は、塗工液Wを貯留するタンク、該タンクから液槽2に塗工液を一定量供給するポンプ、及びこれらを接続する配管等を含んで構成されている。
【0014】
グラビアロール3及びバックアップロール4は、何れも、ロール軸回りに回転可能に支持された円筒形状のロールであり、それぞれのロール周面3a,4aを対向させて上下に並べて配置されている。両ロール3,4それぞれのロール軸には、駆動手段(図示せず)が設けられており、該駆動手段からの駆動力が伝達されることによって、両ロール3,4が同期して回転するようになされている。両ロール3,4は、それぞれ、アルミニウム合金や鉄鋼等の金属製の剛体を含んで構成されている。
【0015】
グラビアロール3は、図2及び図3に示すように、その外周面3aに、塗工液Wを貯留可能なセル30を多数有している。より具体的には、グラビアロール3の外周面3aには、グラビアロール3の周方向X及びロール軸方向Yの両方に交差する直線状の画線部31,32がそれぞれ複数本設けられており、互いに交差する画線部31と画線部32とによって区画された領域に、セル30が形成されている。セル30は、画線部31,32よりも凹んだ凹部であり、凹部としてのセル30と、凸部としての画線部31,32とによって、グラビアロール3の外周面3aに凹凸が付されている。各セル30は、逆ピラミッド型の四角錐形状をなし、その開口部は、図3(a)に示すように、平面視において四角形形状をしている。多数のセル30は、互いに同形状且つ同サイズである。グラビアロール3自体は、この種のグラビア塗工装置におけるグラビアロールと同様に構成することができる。また、バックアップロール4も、この種のグラビア塗工装置におけるバックアップロールと同様に構成することができる。バックアップロール4の外周面4aは、凹凸が無く平坦(平滑)である。
【0016】
図1に示すように、グラビアロール3の上部側方であって、バックアップロール4とのニップ部(被塗工シート10との接触部)Nよりも上流側には、グラビアロール3の外周面3a上に供給された塗工液Wのうちの余剰分を掻き取るドクターブレード5が設けられている。
【0017】
また、図1に示すように、グラビアロール3の上方であってバックアップロール4の前後方向に、ガイドロール6,7が配されている。長尺帯状の被塗工シート10は、シート搬送手段(図示せず)によって、ガイドロール6を経てグラビアロール3とバックアップロール4とで形成されるニップ部Nを通された後、ガイドロール7を経て搬送される。ガイドロール6,7は上下動可能に配置されており、ガイドロール6,7の配置位置を調整することにより、被塗工シート10の搬送時の張力を調整することができる。
【0018】
第1実施形態のグラビア塗工装置1Aの主たる特徴の一つは、塗工液W中に磁性を有する粒状体を含有させると共に、グラビアロール3の近傍に、該粒状体を磁力により引きつける磁性を有する磁性ロール8を配置した点にある。図1に示すように、液漕2内には、円筒状の磁性ロール8が、グラビアロール3の外周面3aに対向配置されており、磁性ロール8の一部(下部)が塗工液W中に浸漬されるように配置されている。
【0019】
磁性ロール8は、図1に示すように、液槽2内において、グラビアロール3とバックアップロール4とで形成されるニップ部Nよりも上流側に位置し、該ロール8の一部(上部)が塗工液Wの液面に浮かんだ状態で、その磁力によりグラビアロール3の外周面3aに磁着(接触)しており、グラビアロール3とでニップ部N0を形成している。磁性ロール8は、それ自体に動力の無いフリーロール(従動ロール)であり、また、ロール軸回りに回転可能に支持されておらず、浮力及び磁力のみで、所定の配置位置を維持している。磁性ロール8は、ロール軸回りに回転するグラビアロール3との摩擦及び磁力によって回転(従動回転)する。
【0020】
磁性ロール8は、図4に示すように、塗工液W中の前記粒状体を磁力により引きつける磁性を有していないか又は塗工液W中の前記粒状体を引きつける磁力が相対的に弱い、非又は弱磁性材料から構成されたロール本体80を含んで構成されている。ロール本体80は、中空部81を有する円筒状のロールであり、その外周面は、凹凸の無い平坦(平滑)な面であり、磁性ロール8の外周面8aを構成している。ロール本体80のロール軸方向Yの両端は閉塞端となっていて中空部81は密閉空間となっており、ロール本体80(磁性ロール8)を液槽2内の塗工液W中に浸漬させても、中空部81に塗工液Wは侵入しないようになされている。ロール本体80のロール軸方向Y(CD)の全長は、少なくとも目的とする塗工幅と同じかそれよりも長く設定されており、ロール本体80(磁性ロール8)は、グラビアロール3の外周面3aのロール軸方向(CD)に磁着している。
【0021】
図4に示すように、中空部81を画成するロール本体80の内周面8bには、塗工液W中の前記粒状体を引きつける磁力が相対的に強い、強磁性材料としての磁石83aが部分的に設けられており、これにより磁性ロール8の外周面8aは、部分的に磁力が異なっている。より具体的には、ロール本体80の内周面8bには複数(図4では4個)の磁石83aが設けられており、複数の磁石83aは、ロール軸方向Y(CD)に所定間隔を置いて配されており、互いに隣り合う2個の磁石83a,83aの間及びロール本体80のCDの両端部は、磁石83aが配されておらず、ロール本体80を構成する前記非又は弱磁性材料からなる、非又は弱磁性部82となっている。ロール本体80(磁性ロール8)の外周面8aにおける、磁石83aに対応する部分は、相対的に磁力が強い強磁性部83となっている。各磁石83aは、薄板状をなし、CDに所定幅を有し且つロール本体80の周方向の全長に亘っており、接着剤等の公知の接合手段により内周面8bに接合されている。このように、磁性ロール8の外周面8aには、非又は弱磁性部82と強磁性部83とがCDに交互に配されており、斯かる構成により、外周面8aは部分的に磁力が異なっている。
【0022】
円筒状ロール80の構成材料である非又は弱磁性材料としては、前述したように円筒状ロール80(磁性ロール8)を液槽2内の塗工液W中に浸漬させたときに、その一部(上部)が塗工液Wの液面に浮かんだ状態となるようにする観点から、水に浮き易い、比較的軽い(低比重)のものが好ましい。また、非又は弱磁性材料としては、円筒状ロール80の内周面8bに配された磁石83aの磁力に影響を与えず、磁石83aによる塗工液W中の前記粒状体の引きつけを妨げないものが好ましい。以上の観点から、非又は弱磁性材料として特に好ましいものとしては、円筒状の管体及び該管体の外面を被覆する外装体を含んで構成され、該管体が、例えば紙;ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン等の樹脂等からなり、該外装体が、例えばポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、テフロン(登録商標)等の耐溶剤性素材からなるものが挙げられる。前記外装体は、主として、前記管体を塗工液から保護する役割を果たす。
【0023】
また、磁石83a(強磁性材料)としては、バリウムフェライト磁石、ストロンチウムフェライト磁石、希土類磁石あるいは、フェライト磁石とゴム、プラスチックを複合したボンド磁石等を用いることができる。
【0024】
前述したように、塗工液W中には、磁性を有する粒状体(以下、磁性粒状体ともいう)が含有されている。磁性粒状体としては、磁石83aの磁力によって該磁石83aに引きつけられるものであれば良く、例えば鉄−ケイ素系, 鉄−ケイ素−クロム系, 鉄−ケイ素−アルミニウム系、鉄系、コバルト系, 鉄−ニッケル系, 鉄−コバルト系の化合物から成る各種磁性材料粉末や、これらの成分に一般的な色材顔料をコーティングした顔料等が挙げられる。塗工液Wには、これらの磁性粒状体の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。磁性粒状体の平均粒径は、特に制限されないが、好ましくは0.05〜200μm、更に好ましくは0.1〜100μmである。平均粒径が0.05μm未満の粒子は、超比表面積効果によって粒子間相互作用が非常に大きいため分散が困難となる。平均粒径が200μmを越える粒子は塗工液中で沈降しやすいため長期安定的に塗工することが困難となる。塗工液Wにおける磁性粒状体の含有量は、塗工液Wの全質量に対して、好ましくは10〜80質量%、更に好ましくは30〜70質量%である。磁性粒状体の含有量が80質量%を越えると、塗工液Wの成分として通常磁性粒状体と併用される、接着剤の組成比が低くなるため、塗工物(塗工済みシート)から磁性粒状体が脱落しやすい。一方、磁性粒状体の含有量が10質量%未満であると、接着剤の効果が余剰となりコスト的に適切といえない。
【0025】
塗工液Wは、磁性粒状体に加えて、該磁性粒状体の分散媒として働く、水や有機溶媒等の液媒体を含んでいる。塗工液Wは、更に必要に応じ、前述した接着剤となるバインダー樹脂の他、消泡剤、レベリング剤、分散剤、沈降防止剤等の助剤を含んでいても良い。バインダー樹脂としては、この種の塗工液に使用可能な公知のものを特に制限無く使用できる。
【0026】
塗工液Wの粘度は、好ましくはザーンカップR#3/25℃において15〜30秒、更に好ましくは17〜25秒である。塗工液Wの粘度が30秒より高すぎると、磁性ロール8の従動回転が妨げられて所望の階調性が得られないおそれがある。一方、塗工液Wの粘度が15秒より低いと、版かぶりなどの原因になる他、磁性粒状体として粒子径の大きい顔料を使用した場合は沈降しやすくなり、長期安定的な塗工が困難となる。塗工液Wの粘度は、磁性粒状体の種類や含有量、バインダー樹脂の選択、レオロジーコントロール剤の添加等により調整可能である。
【0027】
被塗工シート10としては、通常、紙、樹脂製フィルム、金属箔又はこれらの複合体等が用いられる。
【0028】
このような構成のグラビア塗工装置1Aにおいて、図1に示すように、長尺帯状の被塗工シート10が、ガイドロール6、グラビアロール3とバックアップロール4とで形成されたニップ部N、及びガイドロール7を順次通って、図1中X1で示す方向(MD)に搬送される。この間、液槽2内の塗工液Wに下部が浸漬されるように配置されていたグラビアロール3が図中矢印で示す方向に回転すると、グラビアロール3の外周面3aにニップ部N0にて磁着している磁性ロール8が、図中矢印で示す方向に従動回転する。液槽2内の塗工液Wは、グラビアロール3の回転によってピックアップされてその外周面3a上に供給され、外周面3aに形成されたセル30内に貯留される。
【0029】
前述したように、磁性ロール8の外周面8aは、塗工液W中の磁性粒状体を磁力により引きつける磁性を有しているため、ニップ部N0及びその近傍において、グラビアロール3の外周面3aあるいはその近傍に存する磁性粒状体の一部が、磁性ロール8の外周面8a側に引き付けられて外周面8aに磁着する。また、前述したように外周面8aの磁力は均一ではないため、グラビアロール3側から磁性ロール8側への磁性粒状体の移行量は、グラビアロール3の外周面3aの全域において均一ではなく、非又は弱磁性部82に対向する領域において相対的に少なく、強磁性部83に対向する領域において相対的に多くなり、その結果、グラビアロール3の外周面3a上において、磁性ロール8の非又は弱磁性部82に対向する部分に、磁性粒状体が相対的に多く供給されて磁性粒状体の高密度部が形成され、磁性ロール8の強磁性部83に対向する部分に、磁性粒状体が相対的に少なく供給されて磁性粒状体の低密度部が形成される。尚、強磁性部83の磁力が非常に強い場合、グラビアロール3の外周面3a上における該強磁性部83に対向する部分には、磁性粒状体は実質的に供給されず、該部分は、実質的に磁性粒状体の存在しない非存在部となり得る。一方、磁性ロール8における塗工液W中の磁性粒状体の磁着量は、非又は弱磁性部82において相対的に少なく、強磁性部83において相対的に多くなる。こうして、グラビアロール3の外周面3a上(セル30内)に不均一に供給された磁性粒状体を含む、塗工液Wは、そのうちの余剰分がドクターブレード5によって掻き取られた後、ニップ部Nに移送される。
【0030】
ニップ部Nにおいて、グラビアロール3とバックアップロール4との間で被塗工シート10が所定のニップ圧で押圧されることによって、該グラビアロール3の外周面3a上(セル30内)の塗工液Wが、該被塗工シート10の該グラビアロール3との対向面(被塗工面)に転写される。このとき、外周面3a上の塗工液Wにおける磁性粒状体の分布は、磁性粒状体の高密度部と低密度部(非存在部)とがロール軸方向Y(CD)に交互に配された分布となっており、斯かる磁性粒状体の分布がそのまま被塗工シート10の被塗工面に転写される。こうして、被塗工シート10の被塗工面に、磁性体粒状体(塗工液W)の塗工量差に起因する濃淡が表現され、階調性を伴った塗工が得られる。
【0031】
図5には、本発明に係る塗工パターンの一例として、ニップ部Nを通過した被塗工シート10の塗工パターンが示されている。図5に示すように、被塗工シート10の被塗工面には、磁性体粒状体(塗工液W)の塗工量が相対的に多い多塗工部12と、磁性体粒状体が実質的に塗工されていないか又は磁性体粒状体の塗工量が相対的に少ない非又は少塗工部13とが形成されている。多塗工部12は、ニップ部N0において磁性ロール8の非又は弱磁性部82の影響を受けた部分であり、磁性ロール8における非又は弱磁性部82と同数形成されている。また、非又は少塗工部13は、ニップ部N0において磁性ロール8の強磁性部83の影響を受けた部分であり、磁性ロール8における強磁性部83と同数形成されている。多塗工部12及び非又は少塗工部13は、それぞれ、平面視において搬送方向X1(MD)に延びる矩形形状をしており、搬送方向X1と直交する方向Y(CD)に交互に配されている。
【0032】
こうして被塗工面に階調性を伴った塗工が施された被塗工シート10は、その後、自然乾燥又は加熱強制乾燥され、これにより目的とする、被塗工シート10上に塗工膜が形成された塗工済みシートが得られる。被塗工シート10を加熱強制乾燥する場合、加熱手段としては、例えば、電気乾燥炉(自然対流式又は強制対流式)、熱風循環式の乾燥炉、遠赤外線による加熱と熱風循環を併用した乾燥炉等、公知のものを特に制限無く用いることができる。
【0033】
第1実施形態のグラビア塗工装置1Aによれば、塗工液W中に磁性粒状体が含有され、且つグラビアロール3の近傍に、該磁性粒状体を磁力により引きつける磁性を有する磁性ロール8が配置されているため、グラビアロール3の外周面3a上において磁性粒状体(塗工液W)の供給量に差が生じ、これにより被塗工シート10に、磁性粒状体の供給量差に起因した階調性を伴った塗工パターンを、1つの塗工ヘッドで(1回の塗工作業で)施すことができる。階調性を伴った塗工パターンは、磁性ロール8における強磁性部83(磁石83a)の磁力、寸法、配置を適宜調整することにより、変更可能である。
【0034】
また、グラビア塗工において粒子径が20〜200μm程度の比較的大粒径の粒状体を含む塗工液を塗工する場合には、該粒状体をグラビアロールのセル内に進入させ、その後のドクターブレードで掻き落されないようにして被塗工シートに転移させるために、常に一定以上のセルの開口度が必要となるところ、従来は、その開口度以下に塗工量分布を設定することができず、表現できる階調性の幅が制限されてしまうという問題があった。これに対し、第1実施形態のように、通常のグラビアロールに加えて磁性粒状体と磁性ロールとの組み合わせを用いることによって、階調性を伴った塗工を得る目的でグラビアロール(セル)に特に手を加える必要は無くなるため、比較的大きな粒状体を含む塗工液を用いた場合でも、セルの大きさの制約を受けること無く、階調性の幅が広い塗工が可能となる。また、第1実施形態の塗工装置1Aは、既存のグラビア塗工設備を最大限利用して作製可能なものであるため、第1実施形態によれば、階調性を伴った塗工を比較的低コストで効率良く実現することができる。
【0035】
図6及び図7には、本発明のグラビア塗工装置の他の実施形態が示されている。尚、後述する他の実施形態については、前述した第1実施形態と異なる構成部分を主として説明し、同様の構成部分は同一の符号を付して説明を省略する。特に説明しない構成部分は、第1実施形態についての説明が適宜適用される。
【0036】
図6には、本発明のグラビア塗工装置の第2実施形態が示されている。第2実施形態のグラビア塗工装置1Bは、磁性ロール8の配置位置が第1実施形態と異なっている。グラビア塗工装置1Bに係る磁性ロール8は、図6に示すように、ニップ部Nよりも下流側に位置している。第2実施形態のグラビア塗工装置1Bによっても、第1実施形態のグラビア塗工装置1Aと同様に、階調性を伴った塗工が効率良く得られる。
【0037】
図7には、本発明のグラビア塗工装置の第3実施形態が示されている。第3実施形態のグラビア塗工装置1Cは、いわゆるオフセットグラビアコーターであり、図7に示すように、グラビアロール3とバックアップロール4との間に配置されたオフセットロール9を備え、オフセットロール9とバックアップロール4との間で被塗工シート10をニップし、被塗工シート10に塗工液Wを塗工するようになされている。オフセットロール9は、ロール軸回りに回転可能に支持された円筒形状のロールであり、その外周面9aはゴム等で形成されており、凹凸の無い平坦(平滑)な面である。オフセットロール9のロール軸には、駆動手段(図示せず)が設けられており、該駆動手段からの駆動力が伝達されることによって、オフセットロール9は、グラビアロール3及びバックアップロール4に同期して回転するようになされている。オフセットロール9としては、通常のオフセットグラビアコーターにおけるオフセットロールを用いることができる。
【0038】
グラビア塗工装置1Cにおいて、グラビアロール3の回転によってその外周面3a上に供給された塗工液Wは、グラビアロール3とオフセットロール9とで形成されたニップ部N1にて、オフセットロール9の外周面9a上に転写される。このとき、外周面9a上に形成される塗工液W中の磁性粒状体の転写パターンは、ニップ部N0で形成された不均一な磁性粒状体の分布パターン(磁性粒状体の高密度部と低密度部(非存在部)とがロール軸方向Y(CD)に交互に配された分布パターン)である。こうして、オフセットロール9に所定のパターンで転写された磁性粒状体(塗工液W)は、オフセットロール9とバックアップロール4とで形成されたニップ部N2に移送され、該ニップ部N2にて被塗工シート10に塗工される。第3実施形態のグラビア塗工装置1Cによっても、第1実施形態のグラビア塗工装置1Aと同様に、階調性を伴った塗工が効率良く得られる。
【0039】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態では、磁性ロール8は、それ自体に動力の無いフリーロールであったが、駆動手段を具備させて駆動ロールとし、ロール軸周りに回転可能に支持しても良い。その場合、駆動ロールである磁性ロール8は、その一部が塗工液Wの液面に浮かぶように構成されている必要はなく、中空部81は無くても良いし、金属等の比較的高比重の材で構成されていても良い。また、駆動ロールである磁性ロール8は、グラビアロール3の外周面3aに磁着させずに、支持部材を介して外周面3aから所定距離離間させて配置しても良い。また、前記実施形態では、磁石83aは、ロール本体80の内周面8bに設けられていたが、外周面8aに設けられていても良く、両面8a,8bそれぞれに設けられていても良い。
【0040】
また、前記実施形態では、グラビアロール3が液槽2内の塗工液W中に浸漬されるように配置されていたが、グラビアロール3は塗工液W中に浸漬させず、磁性ロール8のみを液槽2内の塗工液W中に浸漬させても良い。
【0041】
また、磁性ロール8における非又は弱磁性部82及び強磁性部83の配置パターンは、図4に示す如きストライプ状に制限されず、適宜設定可能である。前記実施形態では、複数の強磁性部83は、何れも同形状、同寸法で且つ磁力が同じであったが、形状、寸法及び/又は磁力が揃っていなくても良い。例えば、強磁性部83の磁力がロール軸方向Y(CD)における一方向(図4中、右方向又は左方向)に向かって漸次減少又は増加するように設定することによって、磁性粒状体(塗工液W)の塗工量が該一方向に向かって漸次増加又は減少していくような、階調性のある塗工パターンが得られるようになる。
【符号の説明】
【0042】
1A,1B,1C,91 グラビア塗工装置
2 液槽
3,92 グラビアロール
3a グラビアロールの外周面
30 セル
4,93 バックアップロール
4a バックアップロールの外周面
5,95 ドクターブレード
6,7 ガイドロール
8 磁性ロール
8a 磁性ロール(ロール本体)の外周面
80 ロール本体(非又は弱磁性材料)
81 中空部
82 非又は弱磁性部
83 強磁性部
83a 磁石(強磁性材料)
9 オフセットロール
10,90 被塗工シート
12 多塗工部
13 非又は少塗工部
W 塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工液が収容される液槽と、該塗工液を貯留可能なセルを外周面に多数有するグラビアロールと、該グラビアロールの上方に配置されたバックアップロールとを備え、該両ロール間で被塗工シートをニップし、該被塗工シートに該塗工液を塗工するグラビア塗工装置において、
前記塗工液中に、磁性を有する粒状体が含有されており、
前記液漕内に、円筒状の磁性ロールが、前記グラビアロールの外周面に対向配置されており、該磁性ロールの一部が前記塗工液中に浸漬されるように配置されており、
前記磁性ロールの外周面は、前記塗工液中の前記粒状体を磁力により引きつける磁性を有しており、且つ部分的に該磁力が異なっているグラビア塗工装置。
【請求項2】
前記磁性ロールは、その一部が前記塗工液の液面に浮かんだ状態で、前記グラビアロールの外周面に磁着している請求項1記載のグラビア塗工装置。
【請求項3】
前記磁性ロールは、前記磁性を有していないか又は前記塗工液中の前記粒状体を引きつける磁力が相対的に弱い、非又は弱磁性材料から構成されたロール本体を含んで構成されており、該ロール本体の周面に、該磁力が相対的に強い強磁性材料が部分的に設けられている請求項1又は2記載のグラビア塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206700(P2011−206700A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77480(P2010−77480)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(507369811)特種東海製紙株式会社 (11)
【Fターム(参考)】