説明

グラファイトインキ

【課題】 グラファイトインキにおいて、解重合性有機バインダと有機溶媒とからなるビヒクル、グラファイト粉末、及び充填剤を含有させることにより、インキの粘性挙動を抑制し、版への充填性や作業性を向上しするとともに、光ヌケのない隠蔽力のある、高品位・高品質のグラファイトインキを提供する。
【解決手段】 スチール製3本ロールを用い、平均粒径0.4μmのグラファイト21重量%、重量平均分子量3700のi−ブチルメタクリレート・α−メチルスチレン樹脂34.5重量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテル34.5重量%、オクチル酸珪素3重量%、メタアクリル系オリゴマー1.5重量%及び平均粒径0.2〜0.3μmの酸化チタン5.5重量%からなる組成のミルベースをロールに6回通して練肉し、グラファイトインキを作成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は陰極線管(CRT)や液晶カラーフィルター、プラズマディスプレイに用いられる光吸収層のパターンを被印刷面に塗布、形成するためのグラファイトインキに関する。
【0002】
【従来の技術】従来の陰極線管蛍光面における光吸収層パターンの形成工程は、蛍光面を構成するガラス基板に適当な表面処理を施した後、PVA(ポリビニルアルコール)−重クロム酸アンモニウム感光液で仮パターンを露光・現像し、仮パターン上にグラファイトなどの黒色物質を流転し、仮パターンのエッチング処理をして光吸収層パターンを形成していた。
【0003】蛍光面を形成するには、前記光吸収層パターン上に蛍光顔料を分散したスラリーを塗布し、乾燥・露光・現像・乾燥という工程を3回繰り返すことにより、RGBの蛍光体パターンが形成されるという複雑なプロセスを用いていた。
【0004】また、液晶パネルのカラーフィルターの光吸収層パターンの作製方法についてもほとんどが前記のようなフォトリソ技術を用いているため、工程数が多く、また使用する設備数も多く必要とするものであった。
【0005】一方、蛍光面形成工程およびカラーフィルタ製造工程のフォトリソ法に代わる方法として印刷方法が提案されている。特開平3−252466号公報によるようなグラファイト粉体及び蛍光体粉等を混練したグラファイト及び蛍光体インキを用いてブラック・R・G・B各色のパターンをオフセット印刷する方法が提案されている。これは蛍光面やカラーフィルタを印刷によって必要なパターンのみを形成するため、工数も少なく量産性、大型化に適している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような印刷方式による形成法は、フォトリソ方式のように露光・現像工程を繰り返さないので、工程の簡略化が図れ、大量の水を使用しないので公害物質を含有した排水も発生しないなどの利点があるものの、一方で使用しているインキの印刷性にも問題点を有している。
【0007】特に光吸収層のブラックパターンにおいては、外光の反射率を低減するとともに、内面からの光透過を遮断するための隠蔽性を必要とするので、光吸収効果の高い黒色粉体としてグラファイトを使用している。
【0008】ここで、グラファイト粉体にビヒクルや溶媒等を混ぜ合わせインキ化したもので充分な光吸収効果を得るためには、グラファイトの粉体量としては少なくとも25〜30重量%使用しなければならない。。
【0009】しかしながら、使用するグラファイト粒子は表面積が大きいためグラファイト粉体量として25〜30重量%使用すると溶媒の吸油量が増大し、インキとして適正な吸油が確保できなくなり、結果的にチキソトロピック性の非常に高いインキになる。チキソトロピック性の高いインキはオフセット印刷時において、版から印刷ローラーへオフセットする際、また、印刷ローラーから被印刷面に転写する際の膜形状がレベリングすることなしにそのまま、膜のムラとして残ってしまう。その結果、パターンの割れやスケを発生させ、外観品質を損ねるだけでなく、光ヌケによって隠蔽性が低下し、コントラストなどの特性品質を著しく低下させる。
【0010】さらに、チキソトロピック性の高いインキは静的粘度が高くなるため、インキを版の溝内部にスキージングする際において、インキがスキージへせり上がり、版への充填性が低下するような問題が発生する。また、ディスペンサなどによるインキの供給作業を困難にするものである。
【0011】本発明は、このような印刷方式における課題を解決するもので、インキの印刷性に優れ、印刷されたパターン形状がレベリングされ、スケのない均等な膜厚が得られることによって充分な隠蔽力を確保するとともに、インキのスキージ性、版への充填作業を著しく向上させる、高品質のグラファイトインキを提供することを目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明のグラファイトインキは、解重合性有機バインダと有機溶媒とからなるビヒクル、グラファイト粉末、及び充填剤を含有することを特徴とする。
【0013】本発明のグラファイトインキにおいて、ビヒクル中における有機バインダ量は35〜70重量%の範囲が好ましい。
【0014】また、本発明のグラファイトインキにおいて、ビヒクルの粘度はE型回転粘度計で0.1〜0.6Pa・sの範囲が好ましく、解重合性有機バインダの重量平均分子量は3000〜32000の範囲が好ましい。
【0015】また、本発明のグラファイトインキの構成割合は、ビヒクル67〜75重量%、グラファイト粉末20〜25重量%、及び充填剤5〜8重量%から構成されることが好ましい。
【0016】また、本発明のグラファイトインキにおいて、グラファイト粉末の平均粒径は0.2〜2.0μmの範囲が好ましい。
【0017】さらに、本発明のグラファイトインキにおいて、充填剤の平均粒径は0.2〜0.3μmの範囲が好ましく、充填剤の屈折率は2.0以上が好ましく、充填剤としては酸化チタン粉末が好ましい。
【0018】光吸収パターンを形成するための黒色インキに要求される機能としては、黒色で外光吸収能力があること、内部からの光については前面に透過しない隠蔽力があること、そして優れた印刷特性(充填性、粘度、タック、転移性)と放出ガスの少ないことである。
【0019】優れた印刷特性を得るためには、表面積の大きいグラファイト粉末だけでは限界がある。そこで、本発明においては、グラファイト粉末の少なくとも一部を表面積の比較的小さい別の充填剤に置き換えることによって前記印刷性、及び機能を満足しようとするものである。添加する充填剤に要求される粉体の物質特性としては高い屈折率を有し、粒径および溶媒吸油量が小さいものが望ましく、グラファイト粉体量の20重量%を充填剤に置き換えることによってインキのレベリング性が向上する。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明のグラファイトインキにおいて、ビヒクルは解重合性有機バインダと有機溶媒とからなるものである。解重合性有機バインダとしては、i−ブチルメタクリレート、α−メチルスチレン、メチルメタクリレート及びテトラフルオロエチレン等の中から選ばれる1種以上の単量体を重合して得られる重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でも、i−ブチルメタクリレートとα−メチルスチレンとの共重合体から構成される有機バインダが好ましい。
【0021】有機溶媒としては、α−テレピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート及びエチレングリコールフェニルエーテルの中から選ばれる1種以上から構成される有機溶媒が挙げられる。連続印刷性を考慮した場合、これらの中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0022】ビヒクル中における有機バインダ量は35〜70重量%の範囲が好ましく、35重量%未満では、印刷後のブラックストライプの直線性が低下し、70重量%を超えると、ビヒクルの粘度が高くなり、グラファイトインキの版への充填が困難になるとともに、スキージング時の展延性が悪くなる。
【0023】ビヒクルの粘度はE型回転粘度計で0.1〜0.6Pa・sの範囲が好ましく、0.1Pa・s未満では、膜厚が薄くなり、充分な隠蔽性が得られなくなり、0.6Pa・sを超えると、スキージ性、充填性が悪くなる。
【0024】解重合性有機バインダの重量平均分子量は3000〜32000の範囲が好ましく、3000未満では、ブラックストライプの直線性が低下したり、印刷ローラー表面でのインキ残りが発生し、32000を超えると、ビヒクルの粘度が高くなり、作業性が低下する。
【0025】本発明のグラファイトインキにおいて、グラファイト粉末の平均粒径は0.2〜2.0μmの範囲が好ましく、0.2μm未満では、グラファイト粉末の凝集が多く発生し、印刷パターンが薄くなってすけたり、欠落部分が発生するようになる。また、2.0μmを超えると、印刷膜が詰まりにくくなり、さらに印刷表面の粗さが増大することにより、印刷膜が薄くなってすけるようになる。尚、平均粒径は、光透過法や遠心沈降法を用いて測定を行なう。
【0026】本発明のグラファイトインキにおいて、充填剤の屈折率は2.0以上が好ましく、さらに好ましくは2.0〜3.0の範囲である。2.0未満では、ブラックストライプ表面における外光反射が大きくなり、画像が見えにくくなるという問題が発生する。
【0027】このような充填剤としては、酸化チタン(屈折率2.52〜2.71)、亜鉛華(屈折率2.03)、鉛白(屈折率2.09)、ZnS(屈折率2.37)等が挙げられる。但し、蛍光面を構成する他の組成によっては亜鉛、鉛、硫化物イオンがキラーとなって色変色等の影響を与えるものもあるので、充填剤の選択には注意が必要である。これらの中でも酸化チタン粉末が好ましい。
【0028】充填剤の平均粒径は0.2〜0.3μmの範囲が好ましく、0.2μm未満では、外光反射の抑制効果が低下し、0.3μmを超えると、充填剤自体の色が目立つようになり、特に酸化チタンの場合、充填剤の粉体色が白いため、平均粒径が大きくなると、全体的に白くなり、コントラストが低下してしまうことになる。
【0029】本発明のグラファイトインキは、ビヒクル67〜75重量%、グラファイト粉末20〜25重量%、及び充填剤5〜8重量%から構成されることが好ましい。ビヒクル含有量が67重量%未満では、チキソトロピック性がなく、印刷に必要なインキ特性が得られない。また、75重量%を超えると、静的粘度が低くなりすぎてインキのたれが発生したり、膜が薄くなる。グラファイト粉末の含有量が20重量%未満では、光を隠蔽するのに必要な膜厚が得られず、コントラストが低下し、25重量%を超えると、静的粘度が高くなりすぎて、版へのインキの充填性が悪くなる。充填剤の含有量が5重量%未満では、印刷パターンが割れたり薄くなってすけたりして外観品質やコントラストが低下し、8重量%を超えると、充填剤の色(白色)が強くなりすぎて、コントラストが低下する。
【0030】その他、本発明のグラファイトインキにおいては、結着剤、分散剤等を配合することができる。結着剤としては、オクチル酸ケイ素、オクチル酸アルミニウム、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、オクチル酸チタン等が挙げられ、分散剤としては、メタアクリル系オリゴマー等が挙げられる。結着剤の配合割合としては、グラファイトインキ中において1〜3重量%、分散剤の配合割合としては、グラファイトインキ中において1〜3重量%が適当である。
【0031】
【実施例】以下本発明のグラファイトインキの実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0032】実施例1まず、スチール製3本ロールを用い、下記に示す組成のミルベースをロールに6回通して練肉し、グラファイトインキを作成した。このとき、樹脂は事前に有機溶媒中に攪拌溶解した。
【0033】
(ミルベース組成)
・グラファイト 21重量% (日立粉末冶金(株)製、“GP−60S”、平均粒径0.4μm) ・i−ブチルメタクリレート・α−メチルスチレン樹脂 34.5重量% (積水化成工業(株)製、“IBS−6”、重量平均分子量3700)
・有機溶媒 34.5重量% (関東化学(株)製、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)
・結着剤(オクチル酸珪素) 3重量% ・分散剤 1.5重量% (日本油脂(株)製、“ブレンマーCPN−1”、メタアクリル系オリゴ マー)
・充填剤(酸化チタン、平均粒径0.2〜0.3μm) 5.5重量%
【0034】上記したように、本実施例ではビヒクル中の樹脂量を50重量%、溶剤量を50重量%とした。ビヒクルのE型回転粘度計で測定した粘度は0.35Pa・sであった。また、高屈折率を有する充填剤としての酸化チタン(TiO2 )は、平均粒径0.2〜0.3μm、屈折率2.52〜2.71のものを使用した。
【0035】作成したグラファイトインキのE型粘度計における流動曲線は4〜31Pa・sであった。次に、陰極線管蛍光面における光吸収層(ブラックマトリックス)、液晶パネルのカラーフィルターの光吸収層又はプラズマディスプレイの基板に設けられる光吸収層として、このグラファイトインキを用いて、ガラス基板に線幅40μmの印刷をした。以下に印刷方法を示す。
【0036】凹版はガラス基板に幅47μm、深さ17μmのストライプ状の溝をエッチングによって形成したものを用い、混練した上記グラファイトインキを凹版上に供給し、セラミックス製のスキージにて凹版表面を掻き取り、凹版の溝部のみにグラファイトインキを残し、シリコンゴム(JISゴム硬度で40度)で表面被覆されたブランケットを凹版表面に圧着回転させて、シリコンゴム表面にインキのパターンを転写した。このときの印刷圧力は3kg/cm2 で行い、転写速度は20mm/sで行った。さらに、上記パターンを形成したブランケットを被転写体に圧着し回転させて、転写時と同圧力、同速度で被転写体上にパターンを印刷した。得られたパタ−ンは、膜の形状が良くレベリングされており、スケ・欠けのないものであった。
【0037】上記実施例のグラファイトインキを用いたパターン形成は、従来のフォトリソ方式のように露光・現像工程を繰り返さないので工程の簡略化が図れ、高品質な光吸収層パターンが得られる。また、フォトリソ方式の様に大量の水を使用せず、公害物質を含有した排水も発生しないことが最大の利点である。
【0038】
【発明の効果】以上のように、本発明のグラファイトインキは、グラファイト粉末とビヒクルとを混練したインキに高屈折率を有する充填剤を添加することによって、溶媒の吸油量の最適化が図れ、インキのチキソトロピック性を抑制し、印刷時の印刷パターン膜の表面がよくレベリングされ、印刷された光吸収層のパターン膜形状が均一にレベリングされることにより、光ヌケの発生がなく、高品質な光吸収層パターン、ひいては高性能の蛍光面を形成することができるとともに、印刷性、印刷作業性を向上することができる。また、本発明のグラファイトインキは、充填剤の添加によって静的粘性が低下するため、版への充填性やスキージ時のインキのせり上がりをなくし、作業性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 解重合性有機バインダと有機溶媒とからなるビヒクル、グラファイト粉末、及び充填剤を含有するグラファイトインキ。
【請求項2】 ビヒクル中における有機バインダ量が35〜70重量%の範囲である請求項1に記載のグラファイトインキ。
【請求項3】 ビヒクルの粘度がE型回転粘度計で0.1〜0.6Pa・sの範囲である請求項1又は2に記載のグラファイトインキ。
【請求項4】 解重合性有機バインダの重量平均分子量が3000〜32000の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラファイトインキ。
【請求項5】 ビヒクル67〜75重量%、グラファイト粉末20〜25重量%、及び充填剤5〜8重量%から構成される請求項1〜4のいずれか1項に記載のグラファイトインキ。
【請求項6】 グラファイト粉末の平均粒径が0.2〜2.0μmの範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載のグラファイトインキ。
【請求項7】 充填剤の平均粒径が0.2〜0.3μmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載のグラファイトインキ。
【請求項8】 充填剤の屈折率が2.0以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載のグラファイトインキ。
【請求項9】 充填剤が酸化チタン粉末である請求項1〜8のいずれか1項に記載のグラファイトインキ。

【公開番号】特開平11−246804
【公開日】平成11年(1999)9月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−49806
【出願日】平成10年(1998)3月2日
【出願人】(000005843)松下電子工業株式会社 (43)