説明

グラファイト層

本発明は、グラファイト層を製造する方法であって、側方方向に架橋される、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を有する少なくとも1つの単層を、減圧又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する工程を含む、グラファイト層を製造する方法、並びにこの方法によって得ることができるグラファイト層に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側方方向に架橋される、低分子量芳香族化合物(low-molecular weight aromatics)及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物(low-molecular weight heteroaromatics)を有する少なくとも1つの単層を、真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する工程を含む、グラファイト層を製造する方法、及びこの方法によって得ることができるグラファイト層に関する。
【背景技術】
【0002】
グラファイト薄層は、当該技術分野において既知であり、高純度グラファイト結晶から剥離することによって、炭化シリコンの熱分解によって、Pt(111)に対してCを加熱することによって、又はグラフェン酸化物から得られる。しかしながら、グラファイト層を製造するこれらの方法は、厳密な制限を受け、限られた範囲内でしか適用させることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このため、本発明の目的は、ナノメートル範囲における基板表面の、目的とされる側方構造化も可能にする極薄グラファイト層を製造する新規な方法を提供することである。詳細には、該方法は、種々の基板上において、ナノメートル範囲におけるグラファイト層の構造体を作製し得るのに役立つ。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は特許請求の範囲で特徴付けられる実施形態によって解決される。
【0005】
特に、側方方向に架橋される、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を有する少なくとも1つの単層を、真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する工程を含む、グラファイト層を製造する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明によれば、「グラファイト層」という用語は、大部分が炭素から構成される導電層を意味し、該導電層は、いくつかの原子層、好ましくは1〜3つの原子層から成り、任意にドーパントを有していてもよい。好ましくは、本発明によるグラファイト層は、炭素から構成され、1〜3つの原子層から成る層であり、なお、グラフェン層と称することもある。本発明によるグラファイト層の層厚は好ましくは2nm未満である。
【0007】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物が側方方向に架橋された単層、すなわち、側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を架橋することによって作製され得る。好ましくは、側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物の(架橋されていない)単層を、高エネルギー放射を用いて処理することによって作製される。
【0008】
本発明による方法では、特に高エネルギー放射を用いて処理されることによって架橋され得る単層が、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン及びアントラセンから成る群から選択される芳香族化合物、並びに/又はビピリジン、ターピリジン、チオフェン、ビチエニル、ターチエニル及びピロールから成る群から選択されるヘテロ芳香族化合物から構成されることが好ましい。
【0009】
側方方向における単層の架橋は、高エネルギー放射を用いて行われる。詳細には、側方方向における単層の架橋は、電子放射、プラズマ放射、X線放射、β線放射、γ線放射、VUV放射、EUV放射又はUV放射を用いて処理することによって達成することができる。
【0010】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物は、好ましくはアンカー基を有する。低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物がアンカー基を有する場合、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物の単層は、単層として簡単に、複数の基板と結合することができる。基板に対する架橋された単層の結合は、物理吸着によって(すなわち、約0.5eV/原子の又は41.9kJ/mol未満の結合エネルギーを用いて)、又は化学吸着によって(すなわち、0.5eV/原子超の又は41.9kJ/mol以上の結合エネルギーを用いて)、例えば共有結合を形成することによって達成することができる。アンカー基は、カルボキシ基、チオ基、トリクロロシリル基、トリアルコキシシリル基、ホスホネート基、ヒドロキサム酸基及びホスフェート基から成る群から選択され得る。アンカー基は、側方方向に架橋される低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層と、1〜10のメチレン基長さを有するスペーサにより共有結合し得る。
【0011】
当業者は、アンカー基の性質を各所望の基板材料に好適に適応させることができる。例えば、トリクロロシラン又はトリメトキシシラン、トリエトキシシラン等のトリアルコキシシランが、酸化シリコン表面に関するアンカー基として特に好適である。水素化シリコン表面を固定化するのにアルコール基を使用することもできる。金表面及び銀表面に関しては、チオ基が可能なアンカー基であり、鉄又はクロム等の酸化金属表面に関しては、ホスホン酸、カルボン酸又はヒドロキサム酸が好適である。
【0012】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、高エネルギー放射を用いて処理することによって作製され得る側方架橋された単層は、基板上に化学吸着又は物理吸着することも、又は自己保持型である、すなわち基板表面に結合しないことも可能である。
【0013】
基板上に化学吸着すなわち共有結合する側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、基板に適用することによって、且つ高エネルギー放射を用いて処理されることによって作製され得る。
【0014】
所望であれば、側方架橋された単層は、好適な移動媒体を用いて別の基板に移動させることができる。例えば、金基板、シリコン基板又は窒化シリコン基板に適用される側方架橋された単層は、好適な移動媒体を用いて別の基板、好ましくは、酸化シリコン、酸化アルミニウム、ガラス、白金、イリジウム、タングステン又はモリブデン等の熱的に安定な基板に移動させることができる。
【0015】
自己保持型である、すなわち基板表面に結合しない側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、基板に適用することによって、高エネルギー放射を用いて処理されることによって、且つ架橋された単層と基板との結合を切断することによって、好ましくは架橋された単層のアンカー基と基板との共有結合を切断することによって作製され得る。当業者は、架橋された単層と基板との結合を切断する好適な条件を選択することができる。例えば、ビフェニルチオールから構成される架橋された単層と、基板である金との結合は、ヨウ素蒸気を用いた処理によって切断することができる。
【0016】
別の実施の形態において、自己保持型である、すなわち基板表面に結合しない側方架橋された単層は、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、基板上の犠牲層又は中間層に適用することによって、高エネルギー放射を用いて処理されることによって、且つ架橋された単層と基板との間の犠牲層又は中間層を溶解することによって作製され得る。当業者は、架橋された単層と基板との間に配置されるかかる犠牲層に好適な材料を選択することができる。例えば、架橋された単層と、シリコン等の基板との間の犠牲層としての窒化シリコン層は、フッ化水素酸を用いた処理によって除去することができる。
【0017】
側方架橋された単層と基板との結合の切断、及び側方架橋された単層と基板との間の犠牲層又は中間層の溶解は、例えば、Advanced Materials 2005, 17, 2583-2587のように行うことができるが、これに限定されない。これらの技法を用いて、例えば、自己保持型である、すなわち基板表面に結合しない側方架橋された単層を作製することが可能であり、この単層は、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を有し、側方方向に架橋される少なくとも1つの単層を、真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する本発明の工程におけるグラファイト層の製造に使用することができる。
【0018】
基板は一部の領域にくぼみを有し得る。例えば、基板は穴、へこみ又は溝を有することが可能である。基板は、同様に、格子状であっても、又は格子様の形状であってもよい。好ましくは、基板は、タングステン等の熱的に安定な材料から構成される。本発明により製造されるグラファイト層は、基板状に支持されるか、又は単に基板上にあって、基板の少なくとも一部の領域のくぼみ上にかかるか又はくぼみを被覆し得る。
【0019】
本発明の実施形態によれば、側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を、金、シリコン又は窒化シリコン等の第1の基板上で架橋し、続いて側方架橋された単層を、酸化シリコン、酸化アルミニウム、ガラス、白金、イリジウム、タングステン又はモリブデン等の第2の熱的に安定な基板に移動させ、その後、真空又は不活性気体下で800Kを越える温度までこの熱的に安定な基板上で側方架橋された単層を加熱することによって作製することが可能である。
【0020】
しかしながらまた、側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を、金、シリコン、窒化シリコン、白金又はイリジウム等の第1の基板上で架橋し、その後、側方架橋された単層を、真空又は不活性気体下で800Kを越える温度まで加熱し、続いて側方架橋された単層を、酸化シリコン又はガラス等の第2の基板に移動させることによって作製することが可能である。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態において、側方架橋された単層は、好ましくはアンカー基を有する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を、酸化シリコン等の基板上で架橋することによって作製され、該側方架橋された単層は、酸化シリコン上に導電性グラファイト層を形成するために、該基板上において真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱される。このように、例えば、ガラス等の絶縁体表面上に導電層を作製することが可能である。このような配置は、例えばモニター及び/又は太陽電池に利用することができる。
【0022】
基板が、金、銀、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、タングステン、モリブデン、白金、アルミニウム、鉄、鋼、シリコン、ゲルマニウム、リン化インジウム、ガリウムヒ素、及びそれらの酸化物若しくは合金、又は混合物、並びにグラファイト、インジウムスズ酸化物(ITO)、及びケイ酸ガラス又はホウ酸ガラスから成る群から選択される。
【0023】
本発明の一実施形態では、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層がその表面上に官能基を担持することができ、該基が、ハロゲン原子、カルボキシ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はカルボニル基から選択される。単層を成す、低分子量芳香族及び/又は低分子量ヘテロ芳香族分子又は単位は、下位の基板表面に化学結合するか、又はアンカー基により下位の基板表面に共有結合し得る。
【0024】
本発明の特に好ましい実施形態では、ビフェニル単位から構成される単層が、特に金又は銀の対応する基板表面に、アンカー基であるチオ基を介して共有結合し得る。
【0025】
高エネルギー放射を用いて処理されることによって架橋され得る単層は、ほんの数個の原子層の厚みを有し、ここでは、0.3nm〜3nmの範囲内の層厚が好ましい。
【0026】
基板材料の表面が、原子レベルで平らであり且つ均質である、すなわち、如何なるエッジ転位又は欠陥も有しない場合には、グラファイト層も、原子レベルで平らであり、均質であり、且つ欠陥が無く、また基板表面上に略理想的な平滑な膜を形成する。グラファイト層は、基板のモルフォロジに適合する。このようにして、三次元表面モルフォロジを有する物体も、規定厚みのグラファイト層により被覆され得る。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、グラファイト層を製造する本発明の方法は、
基板を準備する工程と、
基板の表面を必要に応じて改質する工程と、
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物の単層を基板の表面に、アンカー基を介した共有結合又は物理吸着を用いて適用する工程と、
基板の表面に共有結合により又は物理吸着により結合される、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層が、(高エネルギー放射を用いて処理される領域において)側方方向に共有結合的に架橋されるように、得られた基板を、少なくとも一部の領域において高エネルギー放射を用いて処理する工程と、
上記の基板から別の、好ましくは熱的に安定な基板に、側方架橋された単層を必要に応じて移動させる工程と、
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を少なくとも一部の領域において高エネルギー放射を用いて処理することによって作製される側方架橋された単層を、真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する工程とを含む。
【0028】
「熱的に安定な基板」という用語は、側方架橋された単層を真空下で加熱する工程において安定であり、且つ実質的に変化しない基板を意味する。熱的に安定な基板は、800K超、好ましくは1000K超、特に好ましくは1600K超、より好ましくは2000K超で安定であり、基本的に変化しない。最も好ましくは、熱的に安定な基板は、3000K超でも熱的に安定であり、加熱工程において実質的に変化しないままである。
【0029】
製造されたグラファイト層は、基板上に直に残る、すなわち例えば、製造されたグラファイト層と基板との間に配置される犠牲層を溶解することによって残り、上述と同様に基板上に配置され得る。さらに、製造されたグラファイト層を基板上に自己保持的に配置することも可能である。特に、これは、側方架橋された単層を真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する工程において、自己保持型の側方架橋された単層を使用することによって実現することができる。
【0030】
適用される単層は、高エネルギー放射、好ましくはX線放射、β線放射、γ線放射、VUV放射、EUV放射又はUV放射を用いて処理される場合に、側方方向に共有的に架橋され、物理吸着又は共有結合した薄く安定な層を基板表面上に作る。側方方向に架橋されることにより、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層は、高い機械的安定性及び化学的安定性を得て、損傷又は腐食性物質から下位の基板表面を効果的に保護する。また、基板の表面にアンカー基を介して物理吸着又は共有結合し、且つ低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、高エネルギー放射を用いて処理することによって作製され得る側方架橋された単層は、熱的に安定であり、好適な基板に対する優れた接着を示す。
【0031】
本発明による方法の一実施形態において、架橋は、微細に集束されたイオン化電子、イオン又はフォトン放射を用いた側方構造化を用いて行われ得る。構造化される領域にわたるビームの集束及び走査は、走査型電子顕微鏡による電子ビームリソグラフィ、又は集束イオン(FIB)によるリソグラフィ等において、電子光学素子又はイオン光学素子により実施され得る。好ましくは、構造化は局所プローブプロセスによっても行われ得る。ここで、電子、イオン又はフォトンの集束は、電子、イオン又はフォトン源(局所プローブ)が小さいことにより確実となる。そのため、局所プローブは、0.1nm〜1000nmの距離で、構造化される領域全体に誘導される。電子に関して特に好適な局所プローブとしては、走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)のチップ、及び例えば、Muller et al. (Ultramicroscopy 50, 57 (1993))の方法により作製された、原子レベルで規定されるフィールドエミッタチップが挙げられる。フィールドエミッタチップは、プローブとサンプルとの間の距離がより大きくなる(10nmを超える)構造化のための局所プローブとして特に好適であり、また、電界イオン源としても用いることができる。近接場光学顕微鏡(SNOM)に用いられるような、ガラス又は別のフォトン伝導材料から成るファインチップは、フォトンによる構造化に好適である。全ての局所プローブ法において、局所プローブは、位置決め装置、例えば圧電セラミック素子から成るものにより、曝露される領域にわたって直接位置決めされる。
【0032】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物の単層を適用することに代えて、例えば、飽和しているか又は物理吸着された分子若しくは単位、又は基板表面にアンカー基を介して共有結合する分子若しくは単位を適用し、上記分子若しくは単位が、例えば、シクロヘキシル、ビシクロヘキシル、ターシクロヘキシル、部分的に若しくは完全に水素化したナフタレン又はアントラセン、又は、部分的に若しくは完全に水素化したヘテロ芳香族化合物を含む場合には、対応する芳香族化合物又はヘテロ芳香族化合物に対する脱水素化が、高エネルギー放射を用いた処理の際に、側方方向における架橋に加えて起こる可能性がある。ニトロ基が、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層の表面に結合する場合には、本発明による方法において、架橋放射の作用区域でこれらのニトロ基もアミノ基に変換され得る。
【0033】
本発明による方法のさらなる実施形態において、高エネルギー放射を用いた処理は、基板表面に適用される単層の空間により規定される領域しか曝露又は照射されないように、シャドーマスクを用いて行われ得ることにより、構造化表面が、保護された領域及び保護されない領域を有する基板上に形成される、すなわち、曝露領域は保護され、曝露されない領域は保護されない。よって、本発明により作製される製品はネガレジストとしても使用することができる。
【0034】
曝露されないすなわち照射されない領域に存在する、好ましくはアンカー基を介して結合する(すなわち、側方架橋された単層の一部でない)、物理吸着、又は共有結合すなわち化学吸着された低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物が、続いて除去され得る。これは、熱処理によって、好適な溶媒を用いた処理によって、又は好適な脱着剤を用いた処理によって行われ得る。高エネルギー放射を用いた上記構造化方法によって、ナノメートル範囲の構造化又はパターン化を伴う側方架橋された単層を作ることが可能である。曝露されないすなわち照射されない領域に存在する好ましくはアンカー基を介して結合する、吸着又は共有結合された低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物が、続いて除去され、得られる基板はその後、真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱された後、ナノメートル範囲の構造化又はパターン化を伴うグラファイト層又はグラフェン層が形成され得る。
【0035】
別の実施形態では、曝露されないすなわち照射されない領域に存在する好ましくはアンカー基を介して結合する、吸着又は共有結合された低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を除去せずに、得られる基板を真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで直接加熱することが可能である。このアプローチでは、好ましくはアンカー基を介して結合する、吸着又は共有結合された低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物が、熱的に脱着され、架橋された単層を形成する側方架橋された芳香族化合物及び/又はヘテロ芳香族化合物が、ナノメートル範囲の構造化又はパターン化を伴うグラファイト層又はグラフェン層に変換される。それにより、初めて、基板上において目的とされるナノメートル範囲の構造化又はパターン化を伴うグラファイト層又はグラフェン層を作ることが可能となった。
【0036】
電子による照射のために、大面積照明電子源、例えば「フラッドガン」又はHild et al., Langmuir, 14, 342-346 (1998)の図2に記載されているような構築物を使用することができる。使用される電子エネルギーは、好ましくは1eV〜1000eVの広範囲にわたって各有機膜及びそれらの基板に適合し得る。例えば、1,1’−ビフェニル−4−チオールを金上で架橋するのに、50eV〜100eVの電子放射を使用し得る。
【0037】
側方構造化のために、開口領域のみを電子に曝露させるように、シャドーマスクと組み合わせた大面積照明電子源を使用してもよい。また、走査型電子顕微鏡により、架橋される領域全体に位置決めすることができる集束電子ビームも側方構造化に好適である。さらに、電子が小角範囲で放出されるフィールドエミッタチップ等の電子源は、好適な変位要素(ステップモータ、ピエゾトランスレータ)を用いて、架橋される領域全体に位置決めされる場合に、直接使用することができる。
【0038】
電磁放射(例えばX線放射、UV放射)による大面積架橋のために、従来技術において利用可能な光源を使用してもよい。側方構造化のためには、各波長範囲又は好適な光ガイドによる走査に好適なマスクが可能である。
【0039】
基板の表面は、単層が適用される前に洗浄されるか又は化学的に改質されてもよい。洗浄は水、又はエタノール、アセトン若しくはジメチルホルムアミド等の有機溶媒による表面の簡単なすすぎによって、又はUV放射により生じる酸素プラズマを用いた処理によって行われ得る。ホスホン酸基、カルボン酸基又はヒドロキサム酸基等のアンカー基を有する単層が、酸化金属表面に適用される場合、金属表面の従来の制御酸化が有益である。これは、過酸化水素、カロ酸又は硝酸等の酸化剤による金属表面の処理により行われ得る。基板表面を改質する更なる可能性は、アミノ基、ヒドロキシ基、クロロ基、ブロモ基、カルボキシ基又はイソシアネート基等の末端反応基を有する第1の有機単層を適用することであり、実際に架橋される単層は、第2の工程において好適な官能基によりこの末端反応基と化学結合する。
【0040】
基板に対する低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物の単層の適用は、例えば、浸漬法、キャスティング法、スピンコーティング法によって、希釈溶液からの吸着によって、又は真空蒸着によって行われ得る。
【0041】
本発明の方法の実施形態によれば、低分子量芳香族化合物及び/又はヘテロ芳香族化合物が側方架橋された少なくとも1つの単層の加熱は、真空下で行われる。グラファイト層を製造する方法において適用される真空は、側方架橋された単層及び得られるグラファイト層の酸化及び/又は望ましくない外来原子による汚染が、加熱工程において効果的に防止され得るように選択される。したがって、グラファイト層を製造する方法では、1mbar未満の圧力が適用され、10−2mbar未満の圧力が好ましく、10−3mbar未満の圧力が特に好ましい。グラファイト層を製造する方法では、10−2mbar〜10−12mbarの圧力範囲の真空が特に好適であることが分かっており、10−7mbar〜10−12mbarの圧力範囲の真空(超高真空)が特に好適である。
【0042】
本発明による方法の別の実施形態では、低分子量芳香族化合物及び/又はヘテロ芳香族化合物が側方架橋された少なくとも1つの単層の加熱は、不活性気体下で行われ、また、本発明の範囲内において、「不活性気体」という用語は、不活性気体と水素との混合物を意味する。不活性気体は、任意の好適な不活性気体又は水素とその混合物であり得る。好ましくは、アルゴン又はアルゴンと水素との混合物が使用される。
【0043】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、高エネルギー放射を用いて処理することによって形成され得る側方架橋された単層の加熱は、800Kを超える温度で行われる。側方架橋された単層の加熱は好ましくは、1000Kを超える温度で行われ、1300Kを超える温度が特に好ましい。さらに好ましくは、温度は1600Kを超える。加熱が、より高い温度で(すなわち、1600Kを超える温度で)行われる場合、モリブデン又はタングステンがそれらの温度で本発明によるグラファイト層と反応することにより炭化物を形成するため、基板としてモリブデン又はタングステンを使用しないことが好ましい。
【0044】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態によれば、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を高エネルギー放射を用いて処理することによって形成され得る側方架橋された単層の加熱は、2000Kを超える温度で、とりわけ2500Kを超える温度又は3000Kを超える温度で行われ得る。
【0045】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層を、高エネルギー放射を用いて処理することによって形成され得る側方架橋された単層を加熱する工程に関する温度の上限は、炭素の昇華温度、及び使用される基板の融解温度又は分解温度により決められる。
【0046】
さらに、本発明によれば、本発明の上記方法によって得られるグラファイト層又はグラフェン層が提供される。本発明の方法によって製造することができるグラファイト層は、好ましくは導電性である。
【0047】
本発明によるグラファイト層は2nm未満の層厚を有する。好ましくは、本発明により製造されるグラファイト層は、導電性グラファイト層である。
【0048】
本発明による方法の使用によって、特にリソグラフィ技法を用いて、任意の形状及びサイズの側方架橋された単層を製造することが可能であり、これを任意の形状及びサイズのグラファイト層に変換することもできる。
【0049】
側方架橋に関する好適なプロセスパラメータ(例えば、エネルギー及び照射量)、並びに温度及び/又は圧力の選択によって、グラファイト層の化学的純度(例えば、外来原子の数)及び構造欠陥が制御され得る。
【0050】
化学的官能化された単層の使用は、化学ドープ及び/又は化学的官能化されたグラファイト層の製造を可能にする。
【0051】
本発明によるグラファイト層の応用分野は、例えば物質分離のための(例えば膜又はフィルタとしての)、ナノスケール導電体、小型圧力センサ(例えばナノマイクロフォン)における伝導性膜、電子顕微鏡におけるパッド、グラフェンの導電性及び化学的官能化を調節するためのグラフェンのドーピングである。
【実施例】
【0052】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0053】
(A)低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される単層の高エネルギー放射を用いた処理による、側方架橋された単層の製造
【0054】
実施例A1
100nm厚で蒸着した金層を有するシリコンウエハを4−ビフェニルチオールの1mmolエタノール溶液に1時間入れることにより、金上の4−ビフェニルチオールの単層を作製する。続いて、ウエハを取り出し、エタノール(p.a.)で数回すすいで、窒素流で乾燥させる。層を架橋するために、単層を有するウエハに真空チャンバ内で(p=10−5mbar〜10−9mbar)、電子エネルギー100eV及び照射量40000μC/cmを有する「Leybold flood gun」(model 869000)を用いて照射する。層を、真空チャンバから取り出した後、その利用用途に直ちに使用するか又はさらに化学的官能化させることができる。
【0055】
実施例A2
ステンレス鋼の表面を従来の有機洗浄液で数回洗浄して、脱イオン水で数回すすいだ後、テルフェニルホスホン酸のジメチルホルムアミド溶液(1mmol)で洗浄した表面を処理することによって、テルフェニル−4−ホスホン酸の単層を調製する。12時間後に、単層が形成され、各々毎に鋼基板を純粋なジメチルホルムアミド及び脱イオン水ですすぐ。続いて、実施例1のように単層を照射し架橋する。ここで、電子エネルギーを200eVまで増大させることができる。30000μC/cmの照射量は、完璧な架橋に十分なものである。
【0056】
実施例A3
500μm径のシリコンギアを、30%過酸化水素3部と濃硫酸1部との混合物中に1分間入れる。続いて、これを脱イオン水ですすぎ、4−トリクロロシリルビフェニルのテトラヒドロフラン溶液(1mmol)に入れる。2時間後、ギアを取り出し、テトラヒドロフランですすぎ、窒素流で乾燥させ、実施例1と同様の照射及び架橋手順にかける。安定で連続的に架橋された表面層が得られ、これは機械的な摩耗からギアを効果的に保護するものである。
【0057】
実施例A4
実施例1と同様に、4,4’−ニトロビフェニルチオールの単層を金表面上に調製する。照射前に、層を金属シャドーマスクで被覆する。実施例1のように行った照射後、曝露スポットにおけるニトロ基はアミノ基へ変換し、層はそれらのスポットで架橋される。層の残りの領域(マスクで被覆される)は変化しないままである。照射により形成されるアミノ基は、例えば、テトラヒドロフラン又はアセトン等の有機溶媒溶液からのイソシアネート、酸塩化物又は酸無水物を用いたその後の処理によってアシル化することができる。
【0058】
B)側方架橋された単層を真空下で800Kを超える温度まで加熱することによるグラファイト層の作製
【0059】
実施例B1
窒化シリコン上に作製される4’−[(3−トリメトキシシリル)プロポキシ]−[1,1’−ビフェニル]−4−カルボニトリルの側方架橋された単層を白金基板に移動させ、10−5mbarで1500Kまで加熱する。
【0060】
実施例B2
金上に作製される4−ビフェニルチオールの側方架橋された単層を白金基板に移動させ、10−8mbarで1800Kまで加熱する。
【0061】
実施例B3
金上に作製される4−ビフェニルチオールの側方架橋された単層をイリジウム基板に移動させ、10−6mbarで2000Kまで加熱する。
【0062】
対応する圧力の下で各指示温度まで加熱した後、実施例B1〜実施例B3で形成されたグラファイト層は、2nm未満の厚み及び導電性等の所望の特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
側方方向に架橋される、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物を有する少なくとも1つの単層を、真空又は不活性気体下で800Kを超える温度まで加熱する工程を含む、グラファイト層を製造する方法。
【請求項2】
前記単層が、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン及びアントラセンから成る群から選択される芳香族化合物、並びに/又はビピリジン、ターピリジン、チオフェン、ビチエニル、ターチエニル及びピロールから成る群から選択されるヘテロ芳香族化合物から構成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物が、アンカー基を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンカー基が、カルボキシ基、チオ基、トリクロロシリル基、トリアルコキシシリル基、ホスホネート基、ヒドロキサム酸基及びリン酸基から成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アンカー基を、低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される前記側方架橋された単層と、1〜10のメチレン基長さを有するスペーサにより共有結合させる、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記側方架橋された単層が、基板上に物理吸着若しくは化学吸着するか、又は自己保持的に存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基板が一部の領域にくぼみを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基板が、金、銀、チタン、ジルコニウム、バナジウム、クロム、マンガン、タングステン、モリブデン、白金、アルミニウム、鉄、鋼、シリコン、ゲルマニウム、リン化インジウム、ガリウムヒ素、及びそれらの酸化物若しくは合金、又は混合物、並びにグラファイト、インジウムスズ酸化物(ITO)、及びケイ酸ガラス又はホウ酸ガラスから成る群から選択される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
低分子量芳香族化合物及び/又は低分子量ヘテロ芳香族化合物から構成される前記単層がその表面上に官能基を担持し、該基が、ハロゲン原子、カルボキシ基、トリフルオロメチル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、ヒドロキシ基又はカルボニル基から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記単層がビフェニル単位から構成され、前記アンカー基がチオール基から構成される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記単層が0.3nm〜3nmの範囲内の層厚を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
10−7mbar〜10−12mbarの圧力範囲の真空下で加熱を行う、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
不活性気体下で加熱を行う、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
1600Kを超える温度で前記側方架橋された単層の加熱を行う、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、グラファイト層。

【公表番号】特表2010−537923(P2010−537923A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522265(P2010−522265)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007203
【国際公開番号】WO2009/030473
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(510056146)ユニヴェルシテート ビーレフェルト (3)
【Fターム(参考)】