説明

グラファイト様ナノ粒子の分散方法

分散助剤の存在下、エネルギーを導入しながらグラファイト様ナノ粒子を連続液相に分散させる、グラファイト様ナノ粒子の分散方法であって、ブロックコポリマーに基づく分散助剤を使用し、ブロックコポリマーの少なくとも1つのブロックが、脂肪族鎖結合を介してブロックコポリマー主鎖に結合している芳香族側鎖を含有する、方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散助剤の存在下、エネルギーを導入しながらグラファイト様ナノ粒子を連続液相に分散させる、グラファイト様ナノ粒子の既知の分散方法に基づく。
本発明は、ブロックコポリマーを含んでなる炭素系ナノ粒子分散用分散助剤の使用に関し、ブロックコポリマーの少なくとも1つのブロックは、脂肪族鎖を介してブロックコポリマー主鎖に結合している芳香族側鎖を含有する。
【背景技術】
【0002】
機能性ポリマー複合材料は、材料の開発において全く新しい可能性をもたらす。ナノスケール充填材を添加することによって、ポリマーの性質プロフィルを明らかに改善および拡張することができる。しかしながら、そのようなナノ粒子の効果的な使用にとっての主要な問題は、ナノ粒子の分散性である。なぜなら、ナノ粒子は、ファン・デル・ワールス力によって互いに強く引き合い、その製造方法の故に互いに高度に集合し、凝集した状態で存在するからである。
【0003】
更に近年は、適当な分散助剤を開発するための試みがますます盛んになっている。しかしながら、これまで、有機溶媒中、より高い濃度において十分活性である分散助剤は、炭素系ナノ粒子のためには見出されていない。Islamらは、Nanoletters, 3, 269-273, 2003において、SWNTの水性分散体中でドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用して、20mg/Lまでの濃度を達成した。Wenseleersらは、Adv. Funct. Mater. 14, 1105-1112, 2004において、多くの異なった分散助剤を互いに比較しているが、より高い濃度は実現できていない。しかも、そのような分散体は、ポリマーへのナノ粒子の添加にはほとんど適していない。
【0004】
有機分散体は、そのような用途のために必要である。これまで使用されてきた方法の範囲は、SunらによってJ. M. Tour, Chem. Eur. J., 10, 812-817, 2004において報告されているようなナノ粒子の化学的機能化、またはTasisらによってChem. Eur. J., 9, 4000-4008, 2003において記載されているような、モノマー単位、オリゴマーまたはポリマーとの共有結合を包含する。これに代わるものとして、SzleiferらはPolymer, 46, 7803, 2005において、帯電表面および高分子電解質のCNTへの吸着をモニターしており、RouseはLangmuir, 21, 1055-1061, 2005において、ポリマーによるCNTの封入を研究しており、ChenらはJ. Am. Chem. Soc. 123, 3838, 2001において、π−π相互作用による錯化を研究している。
【0005】
しかしながら、カーボンナノチューブの化学的機能化、およびナノ粒子の最外グラファイト層との関連共有結合の主要な欠点は、CNTの電子構造がこれらの方法によって変わり、一般に望ましくない変化が、物理的性質または化学的性質、特に導電率において生じることである。ピレンを含有する分散助剤はそれ自体知られており、カーボンナノチューブを分散させるために有機溶媒中での添加剤として、LouらによってChem. Mater. 16, 4005-4011, 2004において、そしてBahunらによってJ. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 44, 1941-1951, 2006において既に使用されている。しかしながら、これらの分散助剤は、有機溶媒中で非常に効果的であるとは言えず、THF中では最大0.65mg/mlまでの低いCNT溶解度(即ち微分散溶液)しか達成できなかった。
【0006】
同様に乏しい分散作用なら、主鎖を形成している芳香族頭部および側鎖を形成している脂肪族尾部を含んでなる分散助剤を用いて、EP 1965451 A1において達成されている。US 20070221913 A1では、芳香族イミドまたはポリビニルピロリドンに基づき、従ってもっぱら主鎖に芳香族官能基を含有する分散助剤が開発されている。これらの分散助剤もまた、グラファイト様ナノ粒子分散体を成功裏に分散させるのに非常に効果的であるとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】EP 1965451 A1
【特許文献2】US 20070221913 A1
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Islamら、Nanoletters, 3, 269-273, 2003
【非特許文献2】Wenseleersら、Adv. Funct. Mater. 14, 1105-1112, 2004
【非特許文献3】Sunら、J. M. Tour, Chem. Eur. J., 10, 812-817, 2004
【非特許文献4】Tasisら、Chem. Eur. J., 9, 4000-4008, 2003
【非特許文献5】Szleiferら、Polymer, 46, 7803, 2005
【非特許文献6】Rouse, Langmuir, 21, 1055-1061, 2005
【非特許文献7】Chenら、J. Am. Chem. Soc. 123, 3838, 2001
【非特許文献8】Louら、Chem. Mater. 16, 4005-4011, 2004
【非特許文献9】Bahunら、J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 44, 1941-1951, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、グラファイト様ナノ粒子を有機溶媒中に分散して安定化することができる非常に効果的な分散助剤を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
意外なことに、少なくとも1つのブロックが脂肪族鎖を介して主鎖に結合している芳香族側鎖を有するブロックコポリマーが、有機溶媒中での、カーボンナノチューブおよび他のグラファイト様ナノ粒子(例えば、グラフェンまたは層状ナノグラファイトまたはカーボンナノファイバー)のための非常に効果的な分散助剤として使用できることが見出された。本発明において、ブロック長さおよび側鎖の選択は、高い分散有効性のために決定的に重要である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
グラファイト様ナノ粒子表面に対する親和性を増すために、芳香族アンカー基の数は2つ以上であることが好ましい。更に、可溶性ポリマーブロックの長さと同様に、主鎖と芳香族アンカー基の間にある脂肪族鎖の長さは、分散助剤の活性にとって重要である。
【0012】
本発明は、分散助剤の存在下、エネルギーを導入しながらグラファイト様ナノ粒子を連続液相に分散させる、グラファイト様ナノ粒子の分散方法であって、ブロックコポリマーに基づく分散助剤を使用し、ブロックコポリマーが、側鎖を含有しないポリマーブロックE)、および芳香族基D)を含有し、脂肪族鎖C)を介してブロックA)の主鎖に結合している側鎖B)を含有するポリマーブロックA)の少なくとも1つを有することを特徴とする、方法を提供する。
【0013】
芳香族側鎖B)含有ブロックA)の長さが、ビニルポリマー、特に、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリスチレン、並びにポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートまたはポリウレタンからなる群からのモノマー単位を少なくとも5つ含む、分散助剤を使用することが好ましい。
【0014】
少なくとも1つの単環式芳香族基または多環式芳香族基D)、特にアミノ基によって任意に置換されていてよいC〜C32芳香族基、好ましくはアミノ基によって任意に置換されていてよいC10〜C27芳香族基に基づく芳香族側鎖B)を含有する分散助剤であって、芳香族基が、ヘテロ原子、特に窒素、酸素および硫黄からなる群からの1つ以上のヘテロ原子を任意に含有してよい分散助剤が好ましい。
【0015】
分散助剤における脂肪族鎖C)は、好ましくはC〜C10アルキル鎖、特にC〜Cアルキル鎖によって形成されている。
【0016】
芳香族側鎖B)の多環式芳香族基D)は、好ましくはピレン誘導体基である。
【0017】
好ましい方法では、分散助剤におけるブロックコポリマーE)は、ビニルポリマー、特に、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリスチレン、並びにポリエステル、ポリアミドおよびポリウレタンからなる群からのポリマーに基づく。
【0018】
本発明の特に好ましい態様では、分散助剤における側鎖不含有ブロックE)は、アクリレートまたはメタクリレートからなる群からのモノマー単位の50〜500個、好ましくは100〜200個からなり、分散助剤における側鎖含有ブロックA)は、置換アクリレートまたは置換メタクリレートからなる群からのモノマー単位の5〜100個、好ましくは10〜80個からなる。
【0019】
グラファイト様ナノ粒子は、好ましくは1〜500nmの範囲の直径、より好ましくは2〜50nmの範囲の直径を有する。
【0020】
グラファイト様ナノ粒子は、特に好ましくは、単層グラファイト構造体または多層グラファイト構造体である。
【0021】
単層グラファイト構造体または多層グラファイト構造体は、特に好ましくは、グラフェン、カーボンナノチューブまたはそれらの混合物の形態である。
【0022】
連続液相として、有機溶媒、水またはそれらの混合物を使用することを特徴とする方法が更に好ましい。
【0023】
有機溶媒は、好ましくは、単官能性または多官能性、直鎖、分枝または環状のアルコールまたはポリオール、脂肪族、脂環式またはハロゲン化炭化水素、直鎖および環状のエーテル、エステル、アルデヒド、ケトンまたは酸、並びにアミドおよびピロリドンからなる群から選択され、特に好ましくはテトラヒドロフランである。
【0024】
本発明は更に、本発明の方法によって製造された、有機溶媒中における炭素系ナノ粒子のための分散助剤を提供する。
【0025】
本発明はまた、導電性構造体または導電性被膜を製造するための有機溶媒含有印刷インキとしての前記分散体の使用を提供する。
【0026】
本発明におけるグラファイト様ナノ粒子は、少なくとも、単一壁、二重壁または多重壁カーボンナノチューブ(CNT)、フィッシュボーン構造またはプレートレット構造カーボンナノファイバー、或いはナノスケールのグラファイトまたはグラフェンであって、例えば高膨張グラファイトから得ることができる。
【0027】
分散助剤は、好ましくは、少なくとも2つの異なったブロックからなるブロックコポリマーである。その少なくとも1つのブロックA)は、(スペーサーとも称される)脂肪族鎖C)を介して主鎖に結合している芳香族側鎖を有する。
【0028】
本発明において、ポリマーブロックE)は、既知のモノマー単位、特にアクリレートおよびメタクリレートから形成されていてよく、前記モノマー単位は、特に下記置換基を含有することができる:水素;直鎖状および分枝状C〜Cアルキル基、特にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基;場合によりC〜Cアルキル基によって置換されていてよいアリール基、特にフェニル基。
【0029】
更にポリマーは、重付加または重縮合によって生成してもよい。このような方法で、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステルおよびポリウレタン並びにそれらの組み合わせを得る。それらの例は、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンからのポリアミド(PA 6,6)、ポリ(6−アミノヘキサン酸)(PA 6)、ジメチルテレフタレートおよびエチレングリコールからのポリエステル(PET)、炭酸からのポリカーボネート、炭酸ジエチルまたはホスゲンおよびビスフェノールAからのポリカーボネート、カルバミン酸からのポリウレタン、イソシアネートおよび少なくとも二官能性の種々の成分(例えばアルコールおよびアミン)からのポリウレタンを包含する。
【0030】
主鎖にポリアクリレートまたはアクリル酸ポリマーを有する分散助剤の使用が好ましく、多種多様な溶媒に対して良好な親和性を有する、ポリメチルメタクリレートに基づく分散助剤の使用が特に好ましい。ブロックコポリマーは側鎖を更に含有し、側鎖は好ましくは、反応性エステルモノマー(特に好ましくはペンタフルオロフェニルメタクリレート)を介して主鎖に共有結合することができる。本発明における芳香族側鎖の主鎖への共有結合は、好ましくは、アミド官能基を介する。好適には、芳香族基の組み込みに下記アミン化合物を使用する。
【化1】

【0031】
別の可能な化合物は、下記化合物の誘導体であり、それらは、前記した特に好ましい化合物と同様、少なくとも1つのアルキル側基を含有し、その少なくとも1つは第一級アミノ官能基を含有する。
【化2】

【0032】
分散助剤のためのブロックコポリマーの調製は好ましくは、「可逆的付加−開裂連鎖移動重合(RAFT)」によって実施する。この手段によって制御して所望のブロックコポリマーを生成することができる。
【0033】
特に、本発明の分散助剤は、このタイプの重合反応によって、規定されたブロック長さおよび規定された芳香族側鎖を伴い、制御して調製することができる。
【0034】
そのような分散助剤を用いると、多くの異なった溶媒および必要に応じて有機モノマーの中で、グラファイト様ナノ粒子を簡単かつ効率的に分散させることができる。炭素系ナノ粒子にとって好ましい溶媒は、有機溶媒、例えばエーテル、特に環式および非環式エーテル、特に好ましくは、テトラヒドロフラン、ジオキサン、フランおよびポリアルキレングリコールジアルキルエーテル、直鎖、分枝または環状の単官能性または多官能性アルコール、とりわけ、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデシルアルコール、ベンジルアルコール、プロパルギルアルコール、オレイルアルコール、リノレイルアルコール、オキソアルコール、ネオペンチルアルコール、シクロヘキサノール、脂肪アルコール、またはジオールおよびポリオール、例えばグリコール、エーテルアルコール、例として特に、2−メトキシエタノール、モノフェニルジグリコール、フェニルエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、炭化水素、例えば特に、トルエン、キシレン並びに脂肪族および/または脂環式ベンジン画分、複素環式芳香族化合物、例えば特に、ピペリジン、ピリジン、ピロール、塩素化炭化水素、例えば特に、クロロホルムおよびトリクロロエタン、テトラクロロエタン、四塩化炭素、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエテン、またはカルボン酸エステル、特にモノカルボン酸エステル、例えば特に酢酸エチルおよび酢酸ブチル、またはジカルボン酸エステルまたはポリカルボン酸エステル、例えばC〜Cジカルボン酸エステルのジアルキルエステル、例としてエーテルエステル、特にアルキルグリコールエステル、例えば特にエチルグリコールアセテートおよびメトキシプロピルアセテート、ラクトン、例えばブチロラクトン、フタレート、アルデヒドまたはケトン、例として特に、メチルイソケトン、シクロヘキサノンおよびアセトン、酸アミド、例えば特に、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ニトロメタン、トリエチルアミン、スルホラン、ニトロベンゼン、ホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、キノリン、ブロモベンゼン、アニリン、アニソール、アセトニトリル、ベンゾニトリル、チオフェンおよび前記溶媒の混合物である。
【0035】
更に、イオン液体、即ちいわゆる超臨界液体を基本的に使用することもできる。本発明では、水を使用することもできる。
【0036】
これらの分散体は、当業者に知られている分散技術によって、例えば、超音波の使用、ビーズミルまたはボールミルの使用、高圧剪断分散機による分散、または三本ロールミルによる分散によって調製することができる。
【0037】
このように調製した分散体は、特に、分散助剤1mLにつき2.5mgまでのナノ粒子含量を有し、3ヶ月の貯蔵後または高速回転遠心機における高圧および剪断への暴露後であってもなお安定である。
【0038】
これらの分散助剤を用いると、既知のグラファイト様ナノ粒子の全てを、容易に確実に分散させることができる。これらの分散助剤は、例えば高膨張グラファイトから得ることができる、単層または多層、単一壁または多重壁カーボンナノチューブ(CNT)、フィッシュボーン構造またはプレートレット構造カーボンナノファイバー、ナノスケールのグラファイトまたはグラフェンを分散させるのに特に適している。本発明の分散助剤は、カーボンナノチューブを分散させるのに極めて適している。
【0039】
先行技術によれば、カーボンナノチューブは、3〜100nmの直径および直径の数倍の長さを有する、主として円筒状のカーボンチューブを意味すると理解される。カーボンナノチューブは、規則正しい炭素原子の層を1つ以上含んでなり、種々の形態のコアを有する。これらのカーボンナノチューブは、例えば、「カーボンフィブリル」または「中空カーボンファイバー」とも称される。
【0040】
カーボンナノチューブは、技術文献において以前から知られている。一般にIijima(Nature 354, 56-58, 1991)がナノチューブの発見者として挙げられるが、これらの材料、特に幾つかのグラファイト層を有する繊維状グラファイト材料は既に、1970年代および1980年代初期から知られていた。TatesおよびBaker(GB 1469930 A1(1977)およびEP 56004 A2)は、炭化水素の触媒分解による非常に細かい繊維状炭素の蒸着を初めて記載した。しかしながら、短鎖炭化水素に基づいて製造した炭素フィラメントを、それらの直径に関してより詳細に特徴付けていない。
【0041】
これらのカーボンナノチューブの常套の構造は、円筒型構造である。円筒状構造の場合、単一壁モノカーボンナノチューブ(単一壁カーボンナノチューブ)と多重壁円筒状カーボンナノチューブ(多重壁カーボンナノチューブ)とに分類される。これらを製造するための通常の方法は、例えば、アーク法(アーク放電)、レーザーアブレーション法、気相からの化学蒸着法(CVD法)および気相からの触媒化学蒸着法(CCVD法)である。
【0042】
Iijima(Nature 354, 1991, 56-8)は、2層以上のグラフェンを含んでなり、丸まって継ぎ目のない閉じた円筒になり、互いに入れ子状に重なっているカーボンチューブの、アーク放電法における生成を開示している。丸まっている方向に依存して、炭素原子は、カーボンファイバーの長手軸に関してキラル配置およびアキラル配置を取ることができる。
【0043】
グラフェンの単一凝集性層(いわゆるスクロール型)またはグラフェンの中断された層(いわゆるオニオン型)がナノチューブ構造の基礎であるカーボンチューブの構造は、BaconらによってJ. Appl. Phys. 34, 1960, 283-90に初めて記載された。この構造は、スクロール型と称されている。相応の構造体は、Zhouら(Science, 263, 1994, 1744-47)およびLavinら(Carbon 40, 2002, 1123-30)によっても見出されている。
【0044】
本発明において使用できるカーボンナノチューブは、円筒型、スクロール型またはオニオン型の単一壁または多重壁カーボンナノチューブの全てである。円筒型、スクロール型またはその混合型の多重壁カーボンナノチューブを使用することが好ましい。
【0045】
長さの外径に対する比が5より大きい、好ましくは100より大きいカーボンナノチューブを使用することが特に好適である。
【0046】
カーボンナノチューブは、特に好ましくは、凝集体として使用する。この凝集体は、とりわけ0.05〜5mm、好ましくは0.1〜2mm、特に好ましくは0.2〜1mmの平均直径を有する。
【0047】
特に好適に使用するカーボンナノチューブは、本質的に3〜100nm、好ましくは5〜80nm、特に好ましくは6〜60nmの平均直径を有する。
【0048】
連続または中断されたグラフェン層を1つしか有さないスクロール型の前記した既知のCNTとは対照的に、重なって組み合わさり丸くなった複数のグラフェン層を含んでなるCNT構造体(マルチスクロール型)もまた、本出願人によって見出されている。これらのカーボンナノチューブおよびそれらのカーボンナノチューブ凝集体は例えば、未公開のドイツ国特許出願102007044031.8の対象物である。CNTおよびその製造方法に関する同出願の全内容を引用してここに組み込む。このCNT構造体は、多重壁円筒状モノカーボンナノチューブ(円筒状MWNT)構造体の単一壁円筒状カーボンナノチューブ(円筒状SWNT)構造体に対する関係に相当する、単純スクロール型カーボンナノチューブに対する関係を有する。
【0049】
オニオン型構造体とは対照的に、これらのカーボンナノチューブ中の単一のグラフェン層またはグラファイト層は明らかに、中断なしにCNTの中心から外縁まで連続して広がっている。これにより例えば、単純スクロール構造を有するCNT(Carbon 34, 1996, 1301-3)またはオニオン型構造を有するCNT(Science 263, 1994, 1744-7)と比較して、より開いた縁が、挿入物のための入口として利用できるので、チューブ骨格における別の材料の挿入を改善およびより迅速化することが可能になる。
【0050】
カーボンナノチューブの製造方法として現在知られている方法は、アーク放電法、レーザーアブレーション法および触媒法を包含する。これらの方法の多くでは、カーボンブラック、非晶質炭素、および大きい直径を有する繊維が副生成物として生成される。触媒法は、担持触媒粒子上の堆積と、イン・サイチューで生成され、ナノメーター範囲の直径を有する金属中心上の堆積(いわゆる流動法)とに分類される。反応条件下で気体である炭化水素からの炭素の触媒的堆積による製造の場合(以下、CCVD;触媒炭素蒸着)、アセチレン、メタン、エタン、エチレン、ブタン、ブテン、ブタジエン、ベンゼンおよび別の炭素含有出発物質が可能な炭素供与体として挙げられる。従って、触媒法から得られるCNTを使用することが好ましい。
【0051】
触媒は一般に、金属、金属酸化物、或いは分解性または還元性金属成分を含有する。例えば、先行技術において、触媒のための金属として、Fe、Mo、Ni、V、Mn、Sn、Co、Cuおよび別の亜族の元素が挙げられている。個々の金属は確かに通常、カーボンナノチューブの生成を促進する傾向を有するが、先行技術によれば、前記金属の組み合わせに基づく金属触媒を用いると、高い収率および非晶質炭素の低い含量が有利に達成される。従って、混合触媒を用いて得られるCNTを使用することが好ましい。
【0052】
CNTの製造に特に有利な触媒系は、Fe、Co、Mn、MoおよびNiからなる群からの2種以上の元素を含有する金属または金属化合物の組み合わせに基づく。
【0053】
経験上、カーボンナノチューブの生成および生成されたチューブの性質は、触媒として使用した金属成分または複数の金属成分の組み合わせ、場合により使用した触媒担持材料、および触媒と担体の間の相互作用、出発ガスおよびその分圧、水素ガスまたは他のガスの混合、反応温度、および滞留時間または使用する反応器に複雑に依存する。
【0054】
カーボンナノチューブの製造のために特に好ましく使用する方法は、WO 2006/050903 A2から知られている。
【0055】
種々の触媒系を使用する、これまで記載されてきた種々の方法では、種々の構造のカーボンナノチューブが製造される。カーボンナノチューブは、主にカーボンナノチューブ粉末としてプロセスから取り出すことができる。
【0056】
本発明に更に好ましく適しているカーボンナノチューブは、下記文献に基本的に記載されている方法によって得られる。
【0057】
100nm未満の直径を有するカーボンナノチューブの製造方法は初めて、EP 205 556 B1に記載された。同文献では、製造のために、軽質(即ち、短鎖および中鎖、脂肪族或いは単環式芳香族または二環式芳香族)炭化水素および鉄系触媒を使用し、鉄系触媒により炭素担体化合物を800〜900℃を超える温度で分解する。
【0058】
WO 86/03455 A1は、3.5〜70nmの一定直径および100より大きいアスペクト比(直径に対する長さの比)を示し、コア領域を有する円筒状構造を有するカーボンフィラメントの製造方法を記載している。これらのフィブリルは、フィブリルの円筒軸の周りに同心円状に配列された規則正しい炭素原子の多数の連続層を含んでなる。これらの円筒様ナノチューブは、850℃〜1200℃の温度で、金属含有粒子を用いて、炭素含有化合物からCVD法によって製造されている。
【0059】
WO 2007/093337 A2は、円筒状構造を有する常套のカーボンナノチューブの製造に適した触媒の製造方法を開示している。この触媒を固定床で使用すると、5〜30nmの範囲の直径を有する円筒状カーボンナノチューブが比較的高い収率で得られる。
【0060】
円筒状カーボンナノチューブを製造するための全く異なる方法は、Oberlin、EndoおよびKoyama(Carbon 14, 1976, 133)によって記載されている。この方法では、芳香族炭化水素(例えばベンゼン)を金属触媒を用いて反応させている。生じたカーボンチューブは、触媒粒子直径とほぼ同じ直径を有するよく規制された黒鉛中空コアを有する。コア上には、あまりグラファイト様に配列していないカーボンが見られる。チューブ全体は、高温(2500℃〜3000℃)での処理によってグラファイト化することができる。
【0061】
(アーク法、噴霧熱分解法またはCVD法を用いた)前記方法のほとんどは、カーボンナノチューブの製造のために現在使用されている。しかしながら、単一壁円筒状カーボンナノチューブの製造は、装置が非常に高価であり、既知の製造方法による非常に遅い生成速度で、望ましくない高含量の不純物をもたらす多くの副反応をしばしば伴って進行する。即ち、そのような方法の収率は比較的低くなる。従って、単一壁円筒状カーボンナノチューブの製造は、現在産業的にはなお非常に費用がかかるので、単一壁円筒状カーボンナノチューブは、非常に特異的な用途のために特に少量で使用されている。本発明のために、単一壁円筒状カーボンナノチューブを使用することはできるが、円筒型またはスクロール型の多重壁CNTの使用ほどは好ましくはない。
【0062】
互いに入れ子状になっている継ぎ目のない円筒状ナノチューブとして、または前記したスクロール構造体またはオニオン構造体としての多重壁カーボンナノチューブの製造方法は現在、主に触媒法を用いて比較的大きい規模で商業的に実施されている。これらの方法は通常、前記したアーク法および他の方法より高い収率を示し、現在典型的にはキログラムスケール(世界中で数百キログラム/日)で実施されている。このように製造されたMWカーボンナノチューブは一般に、単一壁ナノチューブより幾分安価であるので、例えば他の材料における性能向上添加剤として使用される。
【0063】
本発明を以下の実施例によってより詳細に説明するが、実施例は本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0064】
実施例1
化学式Iの分散助剤を、反応式2に従って合成した。
第一ブロックのため、4gのメチルメタクリレート、84mgのRAFT剤(4−シアノ−4−メチル−4−チオベンゾイルスルファニル−酪酸)(M. Eberhardt, P. Theato, Macromol. Rapid Commun. 26, 1488, 2005)および6.2mgのAIBN(α,α’−アゾイソブチロニトリル)を、6mlのジオキサンに溶解した。70℃で21時間、重合を実施した。THFに溶解し、ヘキサンから沈殿させることによって、ポリマーを精製した。
第二ブロックのため、500mgのポリマー、1mgのAIBNおよびペンタフルオロフェニルメタクリレート(M. Eberhardt, R. Mruk, R. Zentel, P. Theato, Eur. Polym. J. 41, 1569-1575, 2005)、182mgのP(MMA-b-PFPMA) 20、364mgのP(MMA-b-PFPMA) 40および542mgのP(MMA-b-PFPMA) 60を、4mlのジオキサンに溶解した。70℃で40時間、重合を実施した。THFに溶解し、ヘキサンから沈殿させることによって、ポリマーを精製した。465mgのP(MMA-b-PFPMA) 20、554mgのP(MMA-b-PFPMA) 40および690mgのP(MMA-b-PFPMA) 60を得た。
【0065】
実施例2
ポリマー類似反応
50mgのポリマーP(MMA-b-PFPMA)を、2mlのテトラヒドロフラン(THF)中3倍過剰のトリエチルアミンおよび2倍過剰のピレンメチルアミン塩酸塩に混入した。窒素雰囲気下、45℃で12時間、反応を実施した。析出した副生成物を、遠心分離およびデカンテーションによって分離した。石油エーテルから沈殿させることによって、ポリマーを精製した。
【0066】
実施例3
ピレンメチルアミン塩酸塩に代えて1−ピレンブチルアミン塩酸塩を用いた以外は、実施例2と同様に実施した。
【表1】

【表2】

【化3】

【0067】
実施例4(比較例)
【表3】

【表4】

【化4】

【0068】
実施例5
THF中でのCNTの分散
2.5mg/mlのCNTを含有するTHF中P(MMA-b-C4 ピレン) 40(2.3mg/ml)を、超音波処理した(10W×15分間)。遠心処理し、数週間放置した後であっても、分散体は安定であった。
【0069】
実施例6
1mgのグラフェンを、2mlのクロロホルムに、1mgのポリマーP(MMA-b-C4 ピレン) 40またはP(MMA-b-C4 ピレン) 60を用いて分散させた(超音波、10W×10分間)。遠心処理し、数週間放置した後であっても、分散体は安定であった。
【0070】
実施例7(比較例)
1mgのグラフェンを、2mlのクロロホルムに、1mgのピレン-PMMA 90を用いて分散させた(超音波、10W×10分間)。分散体は不安定であり、数分の後には既に沈降が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散助剤の存在下、エネルギーを導入しながらグラファイト様ナノ粒子を連続液相に分散させる、グラファイト様ナノ粒子の分散方法であって、ブロックコポリマーに基づく分散助剤を使用し、ブロックコポリマーが、側鎖を含有しないポリマーブロックE)、および芳香族基D)を含有し、脂肪族鎖C)を介してブロックA)の主鎖に結合している側鎖B)を含有するポリマーブロックA)の少なくとも1つを有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
分散助剤におけるブロックコポリマーE)が、ビニルポリマー、特に、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリスチレン、並びにポリエステル、ポリアミドおよびポリウレタンからなる群からのポリマーに基づくことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
分散助剤における芳香族側鎖B)含有ブロックA)の長さが、ビニルポリマー、特に、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリスチレン、並びにポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネートまたはポリウレタンからなる群からのモノマー単位を少なくとも5つ含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
分散助剤における芳香族側鎖B)が、少なくとも1つの単環式芳香族基または多環式芳香族基D)、特にアミノ基によって任意に置換されていてよいC〜C32芳香族基、好ましくはアミノ基によって任意に置換されていてよいC10〜C27芳香族基に基づき、芳香族基が、ヘテロ原子、特に窒素、酸素および硫黄からなる群からの1つ以上のヘテロ原子を任意に含有してよいことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
分散助剤における脂肪族鎖C)が、C〜C10アルキル鎖、特にC〜Cアルキル鎖によって形成されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
多環式芳香族基がピレン誘導体基であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
分散助剤における側鎖不含有ブロックE)が、アクリレートまたはメタクリレートからなる群からのモノマー単位の50〜500個、好ましくは100〜200個からなることを特徴とする、請求項2〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
分散助剤における側鎖含有ブロックA)が、置換アクリレートまたは置換メタクリレートからなる群からのモノマー単位の5〜100個、好ましくは10〜80個からなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
グラファイト様ナノ粒子が、1〜500nmの範囲の直径、好ましくは2〜50nmの範囲の直径を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
グラファイト様ナノ粒子が単層グラファイト構造体または多層グラファイト構造体であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
単層グラファイト構造体または多層グラファイト構造体がグラフェン、カーボンナノチューブまたはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
連続液相が有機溶媒、水またはそれらの混合物であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
有機溶媒が、単官能性または多官能性、直鎖、分枝または環状のアルコールまたはポリオール、脂肪族、脂環式またはハロゲン化炭化水素、直鎖および環状のエーテル、エステル、アルデヒド、ケトンまたは酸、並びにアミドおよびピロリドンからなる群から選択され、好ましくはテトラヒドロフランであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法から得られたグラファイト様ナノ粒子分散体。
【請求項15】
導電性構造体または導電性被膜を製造するための有機溶媒含有印刷インキとしての請求項14に記載の分散体の使用。

【公表番号】特表2012−520224(P2012−520224A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553332(P2011−553332)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001393
【国際公開番号】WO2010/102759
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】