説明

グラフェン構造体、グラフェン構造体の製造方法、光電変換素子、太陽電池及び撮像装置

【課題】本技術の目的は、ドーピングされたグラフェンの経時劣化を抑制することが可能なグラフェン構造体、その製造方法、光電変換素子、太陽電池及び撮像装置を提供すること
【解決手段】本技術のグラフェン構造体は、導電層と保護層とを具備する。導電層は、ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる。保護層は、前記導電層に積層された、水より酸化還元電位が高い物質からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ドーピングされたグラフェンを有するグラフェン構造体、その製造方法、当該グラフェン構造体を用いた光電変換素子、太陽電池及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素原子が六角形格子構造に配列したシート状の物質であり、その導電性や光透過性からタッチパネルや太陽電池等の電極材料等として注目されている。ここで、近年、グラフェンにドーパントをドーピングすることによりキャリア濃度を向上させ、電気抵抗を低下(導電性を向上)させることが可能であることがわかっている。
【0003】
しかしながら、ドーピングされていないグラフェンの導電特性は経時的に安定であるのに対し、ドーピングによりグラフェンのキャリア濃度を一定値以上とした場合、時間の経過と共にキャリア濃度が徐々に減少(抵抗が徐々に増加)するという問題がある。例えばこのようなグラフェンを利用したデバイスでは、時間の経過と共に導電特性が変動してしまい、精度等の点で問題となる。
【0004】
このような問題に対し、例えば非特許文献1には、多層グラフェン(単層グラフェンが複数層積層されたもの)の層間にドーパントを挿入し、導電特性の経時劣化を抑制する技術について開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Fethullah Gunes et al., "Layer-by-Layer Doping of Few-Layer Graphene Film", ACS Nano, July 27 2010, Vol.4, No.8, pp4595-4600
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載の技術では導電特性の経時劣化の抑制効果は小さく、さらには多層グラフェンを利用するため、単層グラフェンの場合に比べて光透過性が小さいという問題があった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、ドーピングされたグラフェンの経時劣化を抑制することが可能なグラフェン構造体、その製造方法、当該グラフェン構造体を用いた光電変換素子、太陽電池及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るグラフェン構造体は、導電層と保護層とを具備する。
上記導電層は、ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる。
上記保護層は、上記導電層に積層された、水より酸化還元電位が高い物質からなる。
【0009】
この構成によれば、水より高い酸化還元電位を有する保護層により、環境中(空気中や溶液中)の水による導電層への電子供与が防止され、グラフェンの導電特性の経時劣化を防止することが可能となる。
【0010】
上記保護層は、水と反応する物質からなる犠牲層であってもよい。
【0011】
この構成によれば、犠牲層によりグラフェン構造体に接触した水が分解され、水による導電層への電子供与を防止することが可能である。
【0012】
上記保護層は、非水溶液からなる非水溶液層であってもよい。
【0013】
この構成によれば、非水溶液(疎水性溶液)からなる非水溶液層によって、導電層への水の接触が防止され、水による導電層への電子供与を防止することが可能である。
【0014】
上記保護層は、水を遮蔽する材料からなり上記導電層を被覆する封止層であってもよい。
【0015】
この構成によれば、封止層によって導電層への水の接触が防止され、水による導電層への電子供与を防止することが可能である。
【0016】
上記保護層は、上記ドーピングに寄与しない余剰量の上記ドーパントからなる余剰ドーパント層であってもよい。
【0017】
この構成によれば、グラフェンのドーピングに必要なドーパントの量から余剰するドーパントからなる余剰ドーパント層によって、水による導電層への電子供与を防止することが可能である。
【0018】
上記保護層は、水分を含有しない乾燥気体からなる乾燥気体層であってもよい。
【0019】
この構成によれば、乾燥気体層によって導電層への水の接触が防止され、水による導電層への電子供与を防止することが可能である。
【0020】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係るグラフェン構造体の製造方法は、グラフェンにドーパントをドーピングして導電層を形成する。
上記導電層に、水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層を積層する。
【0021】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る光電変換素子は、ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、上記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる。
【0022】
この構成によれば、光電変換効率及び経時的安定性に優れた光電変換素子とすることが可能である。
【0023】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る太陽電池は、ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、上記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる。
【0024】
この構成によれば、発電効率及び経時的安定性に優れた太陽電池とすることが可能である。
【0025】
上記目的を達成するため、本技術の一形態に係る撮像装置は、ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、上記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる。
【0026】
この構成によれば、経時的安定性に優れた撮像装置とすることが可能である。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本技術によれば、ドーピングされたグラフェンの経時劣化を抑制することが可能なグラフェン構造体、その製造方法、当該グラフェン構造体を用いた光電変換素子、太陽電池及び撮像装置を提供することを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本技術の第1の実施形態に係るグラフェン構造体を示す模式図である。
【図2】本技術の第1の実施形態に係るグラフェン構造体を示す模式図である。
【図3】比較に係るグラフェン構造体のバンドダイアグラムである。
【図4】本技術の第1の実施形態に係るグラフェン構造体の製造方法を示す模式図である。
【図5】本技術の第2の実施形態に係るグラフェン構造体を示す模式図である。
【図6】本技術の第3の実施形態に係るグラフェン構造体を示す模式図である。
【図7】本技術の第4の実施形態に係るグラフェン構造体を示す模式図である。
【図8】本技術の第5の実施形態に係るグラフェン構造体を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本技術の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0030】
(第1の実施形態)
本技術の第1の実施形態に係るグラフェン構造体について説明する。
【0031】
<グラフェン構造体の構成>
図1及び図2は、本実施形態に係るグラフェン構造体10の層構造を示す模式図である。これらの図に示すように、グラフェン構造体10は、基板11、導電層12、犠牲層13が順に積層されて構成されている。
【0032】
基板11は、グラフェン構造体10の支持基板であり、材料は特に限定されないが、例えば石英基板とすることができる。グラフェン構造体10に光透過性が要求される場合には、基板11を光透過性を有する材料からなるものとすることができる。
【0033】
導電層12は、グラフェン層121とドーパント層122から構成される。グラフェン層121及びドーパント層122は、図1に示すようにグラフェン層121が下層(基板11側)であってもよく、図2に示すようにドーパント層122が下層であってもよい。
【0034】
グラフェン層121はグラフェンからなる。グラフェンは互いにsp結合をした炭素原子により構成される平面的な六角形格子構造を有するシート状物質であり、積層されていない単層グラフェンと、複数層の単層グラフェンが積層された多層グラフェンがある。本実施形態においてはいずれにも限定されないが、グラフェン構造体10の光透過性や層間剥離が生じない点から単層グラフェンが好適である。
【0035】
ドーパント層122はドーパントからなる。ドーパントは水より酸化還元電位が高い物質、例えば、硝酸、TFSA(トリフルオロメタンスルホン酸)、塩化金、塩化パラジウム、塩化鉄、塩化銀、塩化白金、ヨウ化金等から選択することができる。図1又は図2に示すように、ドーパント層122はグラフェン層121に接触しており、界面近傍に位置するドーパントがグラフェン層121のグラフェンに化学的に吸着し、ドーピング(化学ドーピング)がされる。
【0036】
犠牲層13は、水より酸化還元電位が高く、水と反応する物質からなる。犠牲層13により、環境中(大気中や溶液中)の水分が導電層12に到達するまでに犠牲層13と反応し、導電層12に到達しない。これにより、導電層12の導電特性の経時変化が防止されるのであるが、その理由については後述する。
【0037】
犠牲層13はさらに、導電性及び光透過性を有するものとすることができる。犠牲層13を導電性を有するものとすることにより、グラフェン構造体10の上層(基板11と反対側)から導電層12への電気的接触を確保することができる。また、犠牲層13を光透過性を有するものとすることにより、グラフェン構造体10を光透過性を有するものとすることができる。
【0038】
犠牲層13は、水の導電層12への到達を阻止できるものであればよいので、導電層12の全表面を被覆するものでなくてもよく、例えば微細な貫通孔を有するものとすることもできる。また、犠牲層13が絶縁材料からなる場合であっても、微小な厚さとすることにより、導電層12を流れる電流が犠牲層13を通過(リーク)して、導電層12の電気的接触を確保するものとすることも可能である。
【0039】
本実施形態に係るグラフェン構造体10は以上のように構成される。グラフェン構造体10は、例えばタッチパネルや太陽電池等の電極として用いることが可能である。
【0040】
<導電特性の経時劣化について>
グラフェン構造体10の、導電特性の経時変化の防止について説明する。比較として、犠牲層13に相当する構成が設けられていないグラフェン構造体(以下、「比較に係るグラフェン構造体」とする)について説明する。
【0041】
図3(a)〜(c)は、比較に係るグラフェン構造体についてのバンドダイアグラムである。これらの図において縦軸はエネルギー準位であり、破線Fはグラフェンのフェルミ準位(電子の存在確率が50%となる準位)である。フェルミ準位以下のところに電子が充填され、フェルミ準位近傍の電子の存在量がキャリア濃度に対応する。
【0042】
図3(a)は、真空環境におけるグラフェン(ドーピングなし)の状態である。この状態から、グラフェンにドーパントを化学的にドーピングさせた場合、図3(b)に示すように、グラフェンのフェルミ準位Fがドーパントの酸化還元電位D1に一致するまでグラフェンからドーパントに電子が供与される。
【0043】
この状態が維持できれば理想的であるが、実際にはそうはならない。図3(c)に示すように、環境中の水分が電子供与体として作用し、時間の経過と共にグラフェンのフェルミ準位が水及びドーパントの酸化還元電位D2まで上昇する。この結果、グラフェンのキャリア濃度が低下し、導電性が低下する。環境中の水分が電子供与体として作用すること、即ち、環境中の水分がドーピングされたグラフェンの導電特性の経時劣化の原因であることは、本発明者らが実験的に発見したものである。
【0044】
このように、環境中の水分が導電特性の経時劣化の原因であることから、水(液相も気相も含む)によるグラフェンへの電子供与を防止することができれば、導電特性の経時劣化を抑制することが可能となる。本実施形態に係るグラフェン構造体10においては、犠牲層13が環境中の水と反応し、導電層12への電子供与を阻止するので、導電層12の導電特性の経時劣化を防止することが可能となる。
【0045】
<グラフェン構造体の製造方法>
グラフェン構造体10の製造方法について説明する。図4は、図1に示すグラフェン構造体10の製造方法を示す模式図である。
【0046】
図4(a)に示すように、触媒基板K上にグラフェンを成膜し、グラフェン層121を形成する。グラフェンの成膜は、触媒基板Kの表面に供給された炭素源物質(炭素原子を含む物質)を熱によりグラフェン化させる熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法や、炭素源物質をプラズマ化してグラフェンを生成させるプラズマCVD法等を用いてすることができる。
【0047】
触媒基板Kの材料は特に限定されないが、例えばニッケル、鉄、銅等とすることができる。触媒基板Kとして銅を用いることにより、密着性の高い単層グラフェンが生成するため、好適である。触媒基板Kの表面に炭素源物質(メタン等)を供給し、触媒基板Kをグラフェン生成温度以上に加熱することにより、触媒基板K上にグラフェンを成膜することができる。具体的には、メタン及び水素(触媒基板Kの還元用)の混合ガス(メタン:水素=100cc:5cc)雰囲気中で、触媒基板Kを960℃に加熱し、10分間維持することにより、グラフェンを成長させることができる。
【0048】
続いて、図4(b)に示すように、グラフェン層121を任意の基板11上に転写する。転写方法は特に限定されないが、次のようにすることができる。即ち、グラフェン層121上に4%PMMA(Poly(methyl methacrylate))溶液をスピンコート(2000rpm、40秒)により塗布し、130℃で5分間ベークする。これにより、グラフェン層121上にPMMAからなる樹脂層が形成される。次に、1M塩化鉄溶液を用いて触媒基板Kをエッチング(除去)する。
【0049】
樹脂層上のグラフェン層121を超純水で洗浄した後、グラフェン層121を基板11(石英基板等)に転写し、自然乾燥させる。乾燥後、アセトンによりPMMAを溶解させて除去する。アセトンは100℃程度の加熱下で真空乾燥することにより除去することができる。なお、PMMAの除去は、PMMAを水素雰囲気中で400℃程度に加熱(アニール)して分解することによって実施してもよい。これにより、基板11上にグラフェン層121が転写される。他の転写方法としては、例えば接着剤を用いる方法や熱剥離テープを用いる方法を挙げることができる。
【0050】
続いて、図4(c)に示すように、グラフェン層121上にドーパント層122を積層し、グラフェンをドーピングする。これは例えば次のようにすることができる。即ち、塩化金を室温で4時間真空乾燥し、それを溶媒(脱水ニトロメタン等)に溶解して10mMの溶液(以下、ドーパント溶液)を得る。ドーパント溶液を乾燥空気中でバーコート又はスピンコート(2000rpm、40秒)によりグラフェン層121上に塗布し、真空乾燥させる。これによりドーパント層122が形成される。
【0051】
なお、ドーパント溶液の塗布は、上記アニール後すぐに実施することが望ましい。空気中の水分がグラフェン層121に付着することを防止するためである。また、上記ドーパント溶液の溶媒は、水を吸収しにくい溶媒または非水溶媒が好適である。さらにドーパント溶液におけるドーパントの濃度は適宜選択可能であるが、濃度が高すぎると導電層12の光透過率が低下し、濃度が低すぎるとドーピング後の抵抗劣化が生じやすくなる。
【0052】
続いて、ドーパント層122上に犠牲層13を積層する(図1参照)。犠牲層13は、例えばドーパント層122上に、犠牲層13の材料を含む溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させることによって形成させることができる。スピンコートの際、空気中の水分がドーパント層122等に付着することを防止するため、乾燥空気中でスピンコートを実施することが望ましい。
【0053】
以上のようにして図1に示すグラフェン構造体10を作製することができる。なお、図2に示すグラフェン構造体10は例えば、予めドーパント層122が積層された基板11上に、グラフェンを転写することによって作製することが可能である。
【0054】
<グラフェン構造体の効果>
以上のように、本実施形態に係るグラフェン構造体10は、ドーパント層122によるグラフェン層121へのドーピングによりグラフェン層121の抵抗を減少させることが可能である。さらに、環境中の水分によるグラフェン層121への電子供与が犠牲層13により阻止されるため、グラフェン層121の導電特性の経時劣化を防止することが可能である。
【0055】
本実施形態に係るグラフェン構造体10は、光電変換素子、太陽電池、撮像装置、タッチパネル等の透明導電膜として用いることが可能である。上記のようにグラフェン構造体10は導電性が高く、かつ経時的に安定した導電特性を有するため、これらのデバイスに好適である。
【0056】
(第2の実施形態)
本技術の第2の実施形態に係るグラフェン構造体について説明する。なお、本実施形態において第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する場合がある。
【0057】
<グラフェン構造体の構成>
図5は、本実施形態に係るグラフェン構造体20の層構造を示す模式図である。これらの図に示すように、グラフェン構造体20は、基板21、導電層22、非水溶液層23が順に積層されて構成されている。
【0058】
基板21は、グラフェン構造体20の支持基板であり、材料やサイズ等は特に限定されないが、例えば石英基板とすることができる。グラフェン構造体20に光透過性が要求される場合には、基板21を光透過性を有する材料からなるものとすることができる。
【0059】
導電層22は、グラフェン層221とドーパント層222から構成される。グラフェン層221及びドーパント層222は、図5に示すようにグラフェン層221が下層(基板21側)であってもよく、ドーパント層222が下層であってもよい。
【0060】
グラフェン層221はグラフェンからなる。本実施形態においてもグラフェン構造体20の光透過性や層間剥離が生じない点から単層グラフェンが好適である。
【0061】
ドーパント層122はドーパントからなる。ドーパントは水より酸化還元電位が高い物質から選択することができる。図5に示すように、ドーパント層222はグラフェン層221に接触しており、界面近傍に位置するドーパントがグラフェン層221のグラフェンに化学的に吸着し、ドーピング(化学ドーピング)がされる。
【0062】
非水溶液層23は、水より酸化還元電位が高く水を含まない液体からなる。このような液体としては、電池の電解液等に用いられるカーボネート、エーテル等の非水系液体や、脱水されたイオン液体等の親水性液体が上げられる。非水溶液層23中には水分が存在しないので、上述したような水分に起因する導電特性の経時劣化が生じない。
【0063】
本実施形態に係るグラフェン構造体10は以上のように構成される。グラフェン構造体20は、例えば電解液に浸漬される電池の電極として用いることが可能である。
【0064】
<グラフェン構造体の製造方法>
グラフェン構造体20の製造方法について説明する。本実施形態に係るグラフェン構造体20の製造方法は、ドーパント層222の積層までは第1の実施形態と同様にすることができる。
【0065】
ドーパント層222の積層後、その上に非水溶液層23を積層する。これは例えば、基板21上にグラフェン層221及びドーパント層222を積層した積層体を非水溶液に浸漬することによってすることができる。以上のようにして図5に示すグラフェン構造体20を作製することができる。
【0066】
<グラフェン構造体の効果>
以上のように、本実施形態に係るグラフェン構造体20は、ドーパント層222によるグラフェン層221へのドーピングによりグラフェン層221の抵抗を減少させることが可能である。さらに、非水溶液層23に水分が含まれないため、境中の水分によるグラフェン層221への電子供与が発生せず、グラフェン層221の導電特性の経時劣化を防止することが可能である。
【0067】
本実施形態に係るグラフェン構造体20は、光電変換素子、太陽電池、撮像装置、タッチパネル等の透明導電膜として用いることが可能である。上記のようにグラフェン構造体20は導電性が高く、かつ経時的に安定した導電特性を有するため、これらのデバイスに好適である。
【0068】
(第3の実施形態)
本技術の第3の実施形態に係るグラフェン構造体について説明する。なお、本実施形態において第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する場合がある。
【0069】
<グラフェン構造体の構成>
図6は、本実施形態に係るグラフェン構造体30の層構造を示す模式図である。これらの図に示すように、グラフェン構造体30は、基板31、導電層32、封止層33が順に積層されて構成されている。
【0070】
基板31は、グラフェン構造体30の支持基板であり、材料やサイズ等は特に限定されないが、例えば石英基板とすることができる。グラフェン構造体30に光透過性が要求される場合には、基板31を光透過性を有する材料からなるものとすることができる。
【0071】
導電層32は、グラフェン層321とドーパント層322から構成される。グラフェン層321及びドーパント層322は、図6に示すようにグラフェン層321が下層(基板31側)であってもよく、ドーパント層322が下層であってもよい。
【0072】
グラフェン層321はグラフェンからなる。本実施形態においてもグラフェン構造体20の光透過性や層間剥離が生じない点から単層グラフェンが好適である。
【0073】
ドーパント層322はドーパントからなる。ドーパントは水より酸化還元電位が高い物質から選択することができる。図6に示すように、ドーパント層322はグラフェン層321に接触しており、界面近傍に位置するドーパントがグラフェン層321のグラフェンに化学的に吸着し、ドーピング(化学ドーピング)がされる。
【0074】
封止層33は、水より酸化還元電位が高く、水(液相及び気相)を遮蔽する材料からなり、導電層32の全表面を露出しないように被覆する。封止層33により、環境中の水分の導電層12への到達が防止され、即ち、水によるグラフェン層321への電子供与が阻止される。封止層33は水の導電層12への到達を阻止できるものであればいいので、絶縁材料からなる場合であっても、微小な厚さとすることにより、導電層32を流れる電流が封止層33を通過(リーク)して、導電層32の電気的接触を確保するものとすることも可能である。
【0075】
本実施形態に係るグラフェン構造体30は以上のように構成される。グラフェン構造体30は、例えばタッチパネルや太陽電池等の電極として用いることが可能である。
【0076】
<グラフェン構造体の製造方法>
グラフェン構造体30の製造方法について説明する。本実施形態に係るグラフェン構造体30の製造方法は、ドーパント層322の積層までは第1の実施形態と同様にすることができる。
【0077】
ドーパント層322の積層後、その上に封止層33を積層する。封止層33は、例えばドーパント層322上に、封止層33の材料を含む溶液をスピンコートにより塗布し、乾燥させることによって形成させることができる。スピンコートの際、空気中の水分がドーパント層322等に付着することを防止するため、乾燥空気中でスピンコートを実施することが望ましい。以上のようにして図6に示すグラフェン構造体30を作製することができる。
【0078】
<グラフェン構造体の効果>
以上のように、本実施形態に係るグラフェン構造体30は、ドーパント層322によるグラフェン層321へのドーピングによりグラフェン層321の抵抗を減少させることが可能である。さらに、封止層33が環境中の水分の導電層32への到達を防止するため、環境中の水分によるグラフェン層321への電子供与が発生せず、グラフェン層321の導電特性の経時劣化を防止することが可能である。
【0079】
本実施形態に係るグラフェン構造体30は、光電変換素子、太陽電池、撮像装置、タッチパネル等の透明導電膜として用いることが可能である。上記のようにグラフェン構造体30は導電性が高く、かつ経時的に安定した導電特性を有するため、これらのデバイスに好適である。
【0080】
(第4の実施形態)
本技術の第4の実施形態に係るグラフェン構造体について説明する。なお、本実施形態において第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する場合がある。
【0081】
<グラフェン構造体の構成>
図7は、本実施形態に係るグラフェン構造体40の層構造を示す模式図である。これらの図に示すように、グラフェン構造体40は、基板41、導電層42、余剰ドーパント層44が順に積層されて構成されている。
【0082】
基板41は、グラフェン構造体40の支持基板であり、材料やサイズ等は特に限定されないが、例えば石英基板とすることができる。グラフェン構造体40に光透過性が要求される場合には、基板41を光透過性を有する材料からなるものとすることができる。
【0083】
導電層42は、グラフェン層421とドーパント層422から構成される。グラフェン層421及びドーパント層422は、図7に示すようにグラフェン層421が下層(基板41側)であってもよく、ドーパント層422が下層であってもよい。
【0084】
グラフェン層421はグラフェンからなる。本実施形態においてもグラフェン構造体40の光透過性や層間剥離が生じない点から単層グラフェンが好適である。
【0085】
ドーパント層422はドーパントからなる。ドーパントは水より酸化還元電位が高い物質から選択することができる。図7に示すように、ドーパント層422はグラフェン層421に接触しており、界面近傍に位置するドーパントがグラフェン層421のグラフェンに化学的に吸着し、ドーピング(化学ドーピング)がされる。
【0086】
余剰ドーパント層43は、ドーパントのうちグラフェンを構成する炭素原子数に対して
余剰し、ドーピングに寄与しないドーパントからなる層である。グラフェン層421に積層するドーパントの量がグラフェンを構成する炭素原子数に対して多すぎると、そのドーパントはドーピングに寄与しない、余剰のドーパントとなる。即ち、本実施形態においては、意図的に過剰量のドーパントをグラフェン層421に積層することにより、グラフェンのドーピングに寄与するドーパント層422と、グラフェンのドーピングに寄与しない余剰ドーパント層43が形成されている。
【0087】
余剰ドーパント層43が存在することによって、環境中の水分から導電層42に対する電子供与が阻止される。これにより、導電層42の導電特性の経時劣化を防止することが可能となる。
【0088】
本実施形態に係るグラフェン構造体40は以上のように構成される。グラフェン構造体40は、例えばタッチパネルや太陽電池等の電極として用いることが可能である。
【0089】
<グラフェン構造体の製造方法>
グラフェン構造体40の製造方法について説明する。本実施形態に係るグラフェン構造体40の製造方法は、グラフェン層421の積層までは第1の実施形態と同様にすることができる。
【0090】
グラフェン層421の積層後、グラフェン層421上にドーパント層422を積層し、グラフェンをドーピングする。これは例えば次のようにすることができる。即ち、塩化金を室温で4時間真空乾燥し、それを溶媒(脱水ニトロメタン等)に溶解して10mMの溶液(以下、ドーパント溶液)を得る。ドーパント溶液をスピンコート(2000rpm、40秒)によりグラフェン層421上に塗布し、真空乾燥させる。これによりドーパント層422が形成される。
【0091】
この際、ドーパント溶液の濃度をより高くすることによって、ドーパント層422と共に余剰ドーパント層43を形成することが可能である。また、ドーパント層422の形成後、再度ドーパント溶液をスピンコートして乾燥させることにより、余剰ドーパント層43を形成してもよい。以上のようにして図1に示すグラフェン構造体40を作製することができる。
【0092】
<グラフェン構造体の効果>
以上のように、本実施形態に係るグラフェン構造体40は、ドーパント層422によるグラフェン層421へのドーピングによりグラフェン層421の抵抗を減少させることが可能である。さらに、余剰ドーパント層43が環境中の水分にからの電子供与を受容するため、環境中の水分によるグラフェン層421への電子供与が発生せず、グラフェン層421の導電特性の経時劣化を防止することが可能である。
【0093】
本実施形態に係るグラフェン構造体40は、光電変換素子、太陽電池、撮像装置、タッチパネル等の透明導電膜として用いることが可能である。上記のようにグラフェン構造体40は導電性が高く、かつ経時的に安定した導電特性を有するため、これらのデバイスに好適である。
【0094】
(第5の実施形態)
本技術の第4の実施形態に係るグラフェン構造体について説明する。なお、本実施形態において第1の実施形態と同様の構成については説明を省略する場合がある。
【0095】
<グラフェン構造体の構成>
図8は、本実施形態に係るグラフェン構造体50の層構造を示す模式図である。これらの図に示すように、グラフェン構造体50は、基板51、導電層52、乾燥気体層53が順に積層されて構成されている。
【0096】
基板51は、グラフェン構造体50の支持基板であり、材料やサイズ等は特に限定されないが、例えば石英基板とすることができる。グラフェン構造体50に光透過性が要求される場合には、基板51を光透過性を有する材料からなるものとすることができる。
【0097】
導電層52は、グラフェン層521とドーパント層522から構成される。グラフェン層521及びドーパント層522は、図8に示すようにグラフェン層521が下層(基板41側)であってもよく、ドーパント層522が下層であってもよい。
【0098】
グラフェン層521はグラフェンからなる。本実施形態においてもグラフェン構造体50の光透過性や層間剥離が生じない点から単層グラフェンが好適である。
【0099】
ドーパント層522はドーパントからなる。ドーパントは水より酸化還元電位が高い物質から選択することができる。図8に示すように、ドーパント層522はグラフェン層521に接触しており、界面近傍に位置するドーパントがグラフェン層521のグラフェンに化学的に吸着し、ドーピング(化学ドーピング)がされる。
【0100】
乾燥気体層53は、水分を含有しない気体からなり、図9に示すように、セル53aによって形成された室内に封入されたものとすることができる。例えば、セル53aの内壁に、水分を吸収する材料を塗布することによって気体中の水分を除去し、乾燥気体としたものであってもよい。気体の種類は特に限定されず、乾燥空気や不活性ガスとすることができる。乾燥気体層53中に水分が存在しないことにより、上述したような水分に起因する導電特性の経時劣化が生じない。
【0101】
本実施形態に係るグラフェン構造体40は以上のように構成される。グラフェン構造体40は、例えばタッチパネルや太陽電池等の電極として用いることが可能である。
【0102】
<グラフェン構造体の製造方法>
グラフェン構造体50の製造方法について説明する。本実施形態に係るグラフェン構造体50の製造方法は、ドーパント層522の積層までは第1の実施形態と同様にすることができる。
【0103】
ドーパント層522の積層後、その上にセル53aを装着し、その内部に乾燥気体を導入し、あるいはセル53aに設けられた水分吸収材料によって気体中の水分を除去させることにより、乾燥気体層53を形成することができる。
【0104】
<グラフェン構造体の効果>
以上のように、本実施形態に係るグラフェン構造体50は、ドーパント層522によるグラフェン層521へのドーピングによりグラフェン層521の抵抗を減少させることが可能である。さらに、乾燥気体層53が環境中の水分の導電層32への到達を防止するため、環境中の水分によるグラフェン層521への電子供与が発生せず、グラフェン層521の導電特性の経時劣化を防止することが可能である。
【0105】
本実施形態に係るグラフェン構造体50は、光電変換素子、太陽電池、撮像装置、タッチパネル等の透明導電膜として用いることが可能である。上記のようにグラフェン構造体50は導電性が高く、かつ経時的に安定した導電特性を有するため、これらのデバイスに好適である。
【0106】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
【0107】
(1)
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、
上記導電層に積層された、水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層と
を具備するグラフェン構造体。
【0108】
(2)
上記(1)に記載のグラフェン構造体であって、
上記保護層は、水と反応する物質からなる犠牲層である
グラフェン構造体。
【0109】
(3)
上記(1)又は(2)に記載のグラフェン構造体であって、
上記保護層は、非水溶液からなる非水溶液層である
グラフェン構造体。
【0110】
(4)
上記(1)から(3)のいずれかに記載のグラフェン構造体であって、
上記保護層は、水を遮蔽する材料からなり上記導電層を被覆する封止層である
グラフェン構造体。
【0111】
(5)
上記(1)から(4)のいずれかに記載のグラフェン構造体であって、
上記保護層は、上記ドーピングに寄与しない余剰量の上記ドーパントからなる余剰ドーパント層である
グラフェン構造体。
【0112】
(6)
上記(1)から(5)のいずれかに記載のグラフェン構造体であって、
上記保護層は、水分を含有しない乾燥気体からなる乾燥気体層である
グラフェン構造体。
【0113】
(7)
グラフェンにドーパントをドーピングして導電層を形成し、
上記導電層に、水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層を積層する
グラフェン構造体の製造方法。
【0114】
(8)
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、上記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる
光電変換素子。
【0115】
(9)
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、上記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる
太陽電池。
【0116】
(10)
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、上記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる
撮像装置。
【符号の説明】
【0117】
10、20、30、40、50…グラフェン構造体
11、21、31、41、51…基板
12、22、32、42、52…導電層
13…犠牲層
23…非水溶液層
33…封止層
43…余剰ドーパント層
53…乾燥気体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、
前記導電層に積層された、水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層と
を具備するグラフェン構造体。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフェン構造体であって、
前記保護層は、水と反応する物質からなる犠牲層である
グラフェン構造体。
【請求項3】
請求項1に記載のグラフェン構造体であって、
前記保護層は、非水溶液からなる非水溶液層である
グラフェン構造体。
【請求項4】
請求項1に記載のグラフェン構造体であって、
前記保護層は、水を遮蔽する材料からなり前記導電層を被覆する封止層である
グラフェン構造体。
【請求項5】
請求項1に記載のグラフェン構造体であって、
前記保護層は、前記ドーピングに寄与しない余剰量の前記ドーパントからなる余剰ドーパント層である
グラフェン構造体。
【請求項6】
請求項1に記載のグラフェン構造体であって、
前記保護層は、水分を含有しない乾燥気体からなる乾燥気体層である
グラフェン構造体。
【請求項7】
グラフェンにドーパントをドーピングして導電層を形成し、
前記導電層に、水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層を積層する
グラフェン構造体の製造方法。
【請求項8】
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、前記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる
光電変換素子。
【請求項9】
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、前記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる
太陽電池。
【請求項10】
ドーパントによりドーピングされたグラフェンからなる導電層と、前記導電層に積層された水より酸化還元電位が高い物質からなる保護層とを有するグラフェン構造体を透明導電膜として用いる
撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−35699(P2013−35699A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170810(P2011−170810)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】