説明

グラフェン集合体およびその製造方法

【課題】高い電気伝導率を有するグラフェン集合体およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】実施形態によれば、グラフェン集合体は、複数のグラフェンと、前記複数のグラフェンのそれぞれの端に化学修飾された電子供与体と、前記電子供与体から電子を受容することが可能な金属イオンと、を備える。前記複数のグラフェンのそれぞれは平面状に配列されている。前記複数のグラフェン中の隣り合うグラフェンどうしは、前記電子供与体と前記金属イオンとの配位結合によって繋がっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、グラフェン集合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、それぞれの炭素原子がsp結合で繋がれ、ベンゼン環が2次元状に配列した構造を有する。グラフェンは、その層面と平行な方向において高い電気伝導性を有する。グラフェンは、次世代半導体の微細配線材料や液晶ディスプレイ基板の透明導電膜などへの適用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−063492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、高い電気伝導率を有するグラフェン集合体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のグラフェン集合体は、複数のグラフェンと、前記複数のグラフェンのそれぞれの端に化学修飾された電子供与体と、前記電子供与体から電子を受容することが可能な金属イオンと、を備える。前記複数のグラフェンのそれぞれは平面状に配列されている。前記複数のグラフェン中の隣り合うグラフェンどうしは、前記電子供与体と前記金属イオンとの配位結合によって繋がっている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】実施形態に係るグラフェン集合体を説明する図であり、(a)は、平面模式図、(b)は、側面模式図である。
【図2】実施形態に係るグラフェン集合体を説明する図であり、(a)は、側面模式図、(b)は、別の形態の側面模式図である。
【図3】グラフェン集合体を製造する過程を説明する図である。
【図4】グラフェン集合体を製造する過程を説明する図である。
【図5】実施形態の変形例に係るグラフェン集合体を説明する平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係るグラフェン集合体を説明する図であり、(a)は、平面模式図、(b)は、側面模式図である。
図1(a)では、片状のグラフェンの一部が分子式で表されている。図1(b)では、分子式ではなく単に片状のグラフェンが示されている。また、実施形態では、グラフェンの層面に対して略平行な方向をX方向とし、X方向に対して略垂直な方向をY方向とする。X方向とY方向とは、略直交している。また、実施形態では、グラフェンの層面を「主面」としたり、あるいは「グラフェン面」とする場合がある。
【0009】
実施形態に係るグラフェン集合体1は、複数のグラフェン10と、複数のグラフェン10のそれぞれの端に化学修飾された電子供与体20と、電子供与体20から電子を受容することが可能な金属イオン30と、を備える。
【0010】
複数のグラフェン10のそれぞれは、平面状(二次元平面状)に配列されている。複数のグラフェン10中の隣り合うグラフェン10Aとグラフェン10Bどうしは、電子供与体20と金属イオン30との配位結合によって繋がっている。すなわち、複数のグラフェン10と、電子供与体20と、金属イオン30と、によって金属錯体(金属キレート)が形成されている。
【0011】
電子供与体20は、極性基である。実施形態では電子供与体20の例として、有機配位分子であるカルボキシラート基(COO)が例示されている。
【0012】
金属イオン30としては、電子供与体20と平面四配位錯体を形成する金属イオンが選択される。例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)のいずれかのイオンが金属イオン30として挙げられる。
【0013】
電子供与体20が中心金属である金属イオン30を囲んで同一平面において4配位することにより、グラフェン10Aの層面とグラフェン10Bの層面とは、同一平面に対して略平行になる。従って、グラフェン10が連鎖して結合したグラフェン集合体1において、複数のグラフェン10のそれぞれの層面は、同一平面に対して略平行に配列されている。
【0014】
図2は、実施形態に係るグラフェン集合体を説明する図であり、(a)は、側面模式図、(b)は、別の形態の側面模式図である。
図2には、グラフェン10の主面に対して略平行な方向であるX方向と、グラフェン10の主面に対して略垂直な方向であるY方向と、が示されている。図2において、電子供与体20および金属イオン30は、省略されている。
【0015】
図2(a)には、複数のグラフェン集合体1がY方向に積層された状態が示されている。グラフェン集合体1の中、複数のグラフェン10のそれぞれは、図1のごとく互いに繋がれている。例えば、複数のグラフェン10のそれぞれは、X方向に配列されている。換言すれば、複数のグラフェン10が集まったグラフェン集合体1のそれぞれは、X方向に延在している。
【0016】
ところで、グラファイトの各層が分散したものがグラフェンである。換言すれば、グラフェンの主面間にファンデルワールス力が働いて複数のグラフェンが秩序性をもってY方向に積層すると、熱力学的に安定なグラファイトが形成する。
【0017】
例えば、複数のグラフェン集合体1を同じ系(例えば、容器)内で形成したとき、複数のグラフェン10がY方向に積層する場合がある。このとき、グラフェン集合体1自体も平面構造を有しているため、グラフェン集合体1中の一部のグラフェン10がY方向に積層すると、グラフェン集合体1全体がY方向に積層してグラフェン積層体2を形成する場合がある。このグラフェン積層体2は、複数のグラフェン集合体1が束になったものであり、X方向において高い電気伝導率を有する。
【0018】
グラフェン積層体2において、個々のグラフェン集合体1中のグラフェン10のX方向の位相は、同じであってもよく、互いにずれていてもよい。例えば、図2(b)には、他のグラフェン積層体3が例示されている。このグラフェン積層体3においては、個々のグラフェン集合体1のグラフェン10のX方向の位相が互いにずれている。
【0019】
また、図2には、複数のグラフェン10のそれぞれのサイズが略同じ状態が例示されているが、複数のグラフェン10の平面サイズは、それぞれ異なってもよい。
【0020】
グラフェン集合体1の製造方法について説明する。
図3および図4は、グラフェン集合体を製造する過程を説明する図である。
【0021】
まず、図3(a)に示すように、複数のグラフェン10を準備する。続いて、複数のグラフェン10のそれぞれを酸化性溶液に浸漬するか、もしくは酸化性ガスに晒す。すると、矢印R1で示した炭素(C)が酸化されて、この部分の六員環が開環する。この状態を、図3(b)に示す。
【0022】
グラフェン10においては、一般的に端ほどエネルギーが高くなっている。すなわち、グラフェン10においては端ほど反応性が高い。従って、グラフェン10を酸化しようとすると、グラフェン10の端が選択的に酸化する。
【0023】
グラフェン10の端を選択的に酸化することによって、複数のグラフェン10のそれぞれの端に電子供与体20が化学修飾される。電子供与体20は、例えば、カルボキシラート基(COO)である。
【0024】
酸化性溶液としては、例えば、硫酸(HSO)と硝酸(HNO)とを含む溶液、硫酸と過酸化水素水(H)とを含む溶液、硫酸と電気分解した硫酸とを含む溶液(カロ酸溶液)、硫酸とオゾン(O)とを含む溶液、オゾンを含む溶液の少なくともの1つを含む溶液が挙げられる。酸化性ガスとしては、例えば、オゾンガス、酸素プラズマ等が挙げられる。
【0025】
次に、図4(a)に示すように、金属イオン含有溶液40を準備する。図4(a)には、金属イオン含有溶液40の一例として、硫酸銅水溶液が例示されている。金属イオン含有溶液40中には、金属イオンである銅イオン(Cu2+)が含まれている。この金属イオン含有溶液40に、上述した複数のグラフェン10を混合する。例えば、金属イオン含有溶液40と、複数のグラフェン10が浸漬された酸化性溶液と、を混ぜたり、酸化性溶液から複数のグラフェン10を取り出した後、複数のグラフェン10に金属イオン含有溶液40を滴下してもよい。また、必要に応じて金属イオン含有溶液40を加熱してもよい。
【0026】
混合後においては、図4(b)に示すように、複数のグラフェン10中の一対のグラフェン10どうしが電子供与体20と金属イオン30との配位結合によって繋がる。これにより、複数のグラフェン10が連結したグラフェン集合体1が形成される。さらに、グラフェン集合体1中のグラフェン10が積層して、グラフェン積層体2(またはグラフェン積層体3)が形成される。
【0027】
ところで、実施形態とは別の比較例では、電子受容体有機分子によって端が化学修飾されたグラフェンと、電子供与体有機分子によって端が化学修飾されたグラフェンと、を電子受容体有機分子と電子供与体有機分子とを結合させることにより繋げている。すなわち、比較例では、金属錯体を形成しない。このような方法によっても複数のグラフェンが連結したグラフェン集合体が形成される。
【0028】
しかし、電子受容体有機分子および電子供与体有機分子は、一般的には常温常圧で半導体である。また、電子供与体有機分子と電子受容体有機分子とによって繋げた複数のグラフェンは、それぞれの主面が同一平面に対して略平行になるとは限らない。
【0029】
これに対して、実施形態に係るグラフェン集合体1においては、複数のグラフェン10と、電子供与体20と、金属イオン30と、によって金属錯体を形成している。金属イオン30としては、平面四配位錯体を形成する金属イオンが選択される。これにより、グラフェン10の整列性、凝集性がより高くなる。例えば、グラフェン10は、金属イオンを介して連鎖して結合する。また、グラフェン集合体1において、複数のグラフェン10のそれぞれの層面は、同一平面に対して略平行に配列されている。
【0030】
また、グラフェン集合体1においては、グラフェン集合体1の両端に電圧を印加すると、グラフェン10内、および隣り合うグラフェン10とグラフェン10との間に電流が流れて、その両端間に電流が流れる。
【0031】
ここで、グラフェン10とグラフェン10との間では、電子供与体20/金属イオン30/電子供与体20を経由して電流が流れる。あるいは、グラフェン10とグラフェン10との間にトンネル電流が生じる場合もある。
【0032】
グラフェン集合体1においては、グラフェン10とグラフェン10との間に抵抗率が有機半導体よりも低い金属(金属イオン30)が介在している。従って、グラフェン集合体1の面内方向(X方向)における電気伝導率はより高くなる。
【0033】
また、グラフェン集合体1は、平面構造を有する。従って、グラフェン積層体2(またはグラフェン積層体3)の整列性、凝集性もより高くなる。これにより、グラフェン積層体2(またはグラフェン積層体3)の密度はより高くなる。その結果、グラフェン積層体2(またはグラフェン積層体3)のX方向における電気伝導率はより高くなる。
【0034】
また、グラフェン積層体3においては、金属イオン30の上下にグラフェン10が接近している。このような構造であれば、金属イオン30を介してグラフェン10の積層方向(Y方向)に電流が流れる場合もある(図2(b)の矢印e参照)。すなわち、グラフェン積層体3において、電流はグラフェン10の面内方向(X方向)およびグラフェン10の積層方向(Y方向)に流れる。これにより、グラフェン積層体の電気伝導率はより高くなる。
【0035】
また、グラフェン集合体1においては、グラフェン10とグラフェン10とを金属で繋げているので耐熱性が向上する。
【0036】
図5は、実施形態の変形例に係るグラフェン集合体を説明する平面模式図である。
図5(a)〜図5(c)では、片状のグラフェン10の一部が分子式で表されている。
【0037】
図5(a)においては、電子供与体21として、酸素が示されている。図5(b)においては、電子供与体22として、アミノ基が示されている。図5(c)においては、電子供与体23として、ニトロ基が示されている。このような電子供与体を用いても、金属イオン30と電子供与体20とによって平面四配位錯体が形成され、平面構造のグラフェン集合体が形成される。
【0038】
以上説明したグラフェン集合体1は、溶媒中に分散させて導電性の塗布材料として用いてもよく、樹脂中に分散させて導電性樹脂を形成してもよい。また、グラフェン積層体2(またはグラフェン積層体3)の厚みが所定の光透過性を有する程度の厚みであれば、グラフェン積層体2(またはグラフェン積層体3)は、発光素子、液晶パネル、太陽電池等の透明電極として使用され得る。このように、実施形態に係るグラフェン集合体1の汎用性は高い。
【0039】
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、実施形態はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、実施形態の特徴を備えている限り、実施形態の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0040】
また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて複合させることができ、これらを組み合わせたものも実施形態の特徴を含む限り実施形態の範囲に包含される。その他、実施形態の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても実施形態の範囲に属するものと了解される。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1 グラフェン集合体
2、3 グラフェン積層体
10、10A、10B グラフェン
20、21、22、23 電子供与体
30 金属イオン
40 金属イオン含有溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のグラフェンと、
前記複数のグラフェンのそれぞれの端に化学修飾された電子供与体と、
前記電子供与体から電子を受容することが可能な金属イオンと、
を備え、
前記複数のグラフェンのそれぞれは平面状に配列され、
前記複数のグラフェン中の隣り合うグラフェンどうしは、前記電子供与体と前記金属イオンとの配位結合によって繋がれているグラフェン集合体。
【請求項2】
前記複数のグラフェンのそれぞれの主面が同一平面に対して略平行に配列されている請求項1記載のグラフェン集合体。
【請求項3】
前記金属イオンは、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)のいずれかのイオンである請求項1または2に記載のグラフェン集合体。
【請求項4】
請求項1に記載されたグラフェン集合体の製造方法であって、
前記複数のグラフェンのそれぞれの前記端に前記電子供与体を化学修飾した後、前記複数のグラフェンのそれぞれと、前記金属イオンを含有する溶液と、を混合するグラフェン集合体の製造方法。
【請求項5】
前記複数のグラフェンのそれぞれを酸化性溶液に浸漬するか、もしくは酸化性ガスに晒すことにより、前記複数のグラフェンのそれぞれの前記端に前記電子供与体を化学修飾する請求項4記載のグラフェン集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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