説明

グラフトカーボンの製造方法および記録用インク

【構成】水系顔料分散記録用インクにおいて、カーボンブラックを(1)常圧下で放電処理する工程と(2)ビニル基を有する単体を光重合によってグラフト重合させる工程とからなる製造方法と、この工程において表面処理したカーボンブラックを使用した記録用インク。
【効果】一般に市販される普通紙や再生紙に対して印字がにじまず、高印字品質が得られ、さらに、保存安定性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は水系顔料分散記録用インクに関し、特に一般に市販されている普通紙や再生紙においてにじみが生じず高印字品質が得られ、さらに、保存安定性に優れるインクジェット記録用インクに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、インクジェット記録等に用いられる水系の顔料インクは顔料が本質的に疎水性であるため水には分散しにくく、そのためにインクとして保存安定性に欠けるものであった。そこでその問題を解決する手段として、カーボンブラックの表面をグラフト重合処理によって親水化して分散性を高める方法が特公平1−49369に提示されている。
【0003】ここでは、グラフト重合するには、金属アクリレートやアンモニウムアクリレートといった過酸化物とともにカーボンブラックを撹拌し、グラフト反応位置を生成した後、ラジカル重合開始剤及びアミンラジカル重合促進剤の存在下でモノマーを重合させる方法が示されている。そして、このグラフトカーボンブラックを使用したインクジェット記録用インクはグラフトカーボンブラックを含む重合反応懸濁液を希釈し、湿潤剤のような慣用のインクジェット添加物を添加することによって得られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしこの様な提案のものでは、インク中に過酸化物のイオン、ラジカル重合開始剤、アミンラジカル重合促進剤、さらに未反応のモノマーや副生成物であるホモポリマーといった不純物を含んでいるめ、普通紙や再生紙に対して印字を行なった場合、紙の繊維に沿ってインクが拡散してにじみが生じ、高印字品質が得られないという課題があった。
【0005】本発明はこの様な問題点を解決するためのものであり、液体インクにより文字・画像記録を行なうインクジェット記録装置において、一般に市販される普通紙や再生紙に対してにじみが生じない高品質の記録が得られ、かつ、保存安定性に優れたインクジェット記録用インクを提供するところにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のインクジェット記録用インクは、(1)常圧下で放電処理する工程と(2)ビニル基を有するモノマーを光重合によってグラフト重合させる工程とからなる製造方法において表面処理したカーボンブラックを水または/及び水溶性有機溶剤に分散させることを特徴とする。
【0007】本発明によれば、カーボンブラック表面が水及び水溶性有機溶剤に少なくとも部分的に可溶である樹脂に被覆されていることにより、分散媒に対する分散性が向上し、さらに、インク吐出ノズルより吐出されたインクジェット記録用インクの液滴が記録紙に付着した状態では粒子表面を被覆する高分子鎖同士が絡み合って凝集し、さらに、記録紙のセルロース繊維とからみつくことにより、粒子が分散媒と共にセルロース繊維に沿って展開する事がない。また、インク中に塩やラジカル重合剤といったような不純物が存在すると印字のにじみを誘発するが本発明においてはこれらの不純物を含まずにグラフト重合させることができ、未反応モノマーやホモポリマーを除去することによって、より印字のにじみが防止される。
【0008】本発明におけるカーボンブラックとしては、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の通常公知の方法によって製造されたカーボンブラックが使用できるが、その表面にはカルボキシル基、水酸基、カルボニル基等の官能基が存在する。
【0009】これらの官能基と本発明に使用するビニル基を有するモノマーを重合させると水や水溶性有機溶剤への分散性が優れたカーボンブラックが得られる。
【0010】本発明に使用するビニル基を有するモノマーとしては具体的に、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリル酸、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、ビニル酢酸(ビニル酢酸より誘導されるポリビニルアルコール)等が挙げられ、アクリルアミドが最も好ましい。
【0011】放電処理はカーボンブラック表面の活性度を高める。具体的にはカーボンブラック表面に過酸化物を生成し、ビニル基を有するモノマーがカーボンブラックの表面に直接グラフト重合するためのものである。グロー放電、コロナ放電、プラズマ等の方法がある。
【0012】重合は、光を用いて行う。このとき、カーボンブラック表面の過酸化物から水酸基の結合が切れ、モノマーの重合とグラフト化が同時に起こる。
【0013】反応時間は30分から6時間である。より長い反応時間は害はないが不経済である。冷却後に、副生成物として生成したホモポリマーは凍結乾燥や遠心分離といった慣用の方法で除去することが可能である。また未反応モノマーは水への溶解性が高いので熱水を用いて洗浄する。
【0014】本発明において処理されたカーボンブラックを得るのに際し、カーボンブラックの表面処理を均一に行い、カーボンブラックとビニル基を有するモノマーとを強固に結合させ、得られた処理カーボンブラックの水系インクジェット記録用インク中での分散性を高めるために、カーボンブラック/ビニル基を有するモノマーの比率は重量比で10/1〜10/100とするのが好ましい。
【0015】この様にして得られた表面処理されたカーボンブラックは水や水溶性有機溶剤に容易に分散する。水溶性有機溶剤として具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、#300、#400等の多価アルコール類、トリエチレングリコールモノメチルエーテルメタノール等の多価アルコール類のアルキルエーテル誘導体類、グリセリルモノアセテート等の多価アルコールのエステル誘導体類、N−メチル−2−ピロリドン等の含窒素環状化合物、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール等の炭素数1〜6の低級アルコール等が挙げられる。
【0016】上記水溶性有機溶剤の使用量は、インクの全重量に対して40重量%以下で、好ましくは3〜30重量%である。
【0017】表面処理されたカーボンブラックの水及び水溶性有機溶剤への分散は容易なので、ボールミルやサンドミル、ロールミルといったような分散機での高剪断力を必要とせず、超音波ホモジナイザーのような超音波分散機を使用すれば十分に分散させることができる。
【0018】インクに使用する表面処理カーボンブラックの使用量は表面処理による重合度を考慮する必要があるが、インクの色濃度及び、インク吐出ノズルの目詰まり防止を考慮して、0.5〜20重量%の割合で用いられる。好ましくは1〜10重量%がよい。
【0019】そのほかにも、インク物性を調節するための粘度調整剤や表面張力調整剤、pH調整剤等の添加剤や、防カビ剤、防腐剤、また、バインダーとしての樹脂を適宜添加することができる。
【0020】
【実施例】以下、実施例・比較例を挙げることにより本発明を具体的に説明するが、本例が本発明を限定するものではない。
【0021】実施例1成分■カーボンブラック #25 20重量部(三菱化成工業(株)製)
アクリルアミド 10重量部純水 90重量部成分■表面処理カーボンブラック 5重量部グリセリン 2重量部エタノール 6重量部純水 87重量部カーボンブラックを電極間が6センチメートル、電極間電圧270ボルト、周波数60ヘルツ、0.04トールのアルゴン雰囲気中で5秒間グロー放電処理し、成分■を内部照射することができる反応容器にいれ、窒素ガスを吹き込みながら、100Wの紫外線ランプにより、撹拌しながら30℃で3時間重合させる。重合物を遠心分離機で12000回転×1時間でホモポリマーを十分に除去し、熱水で3時間攪拌しながら洗浄した後乾燥させ、次に、成分■を混合し、超音波ホモジナイザーで粒径を整え、50μmのメンブランフィルターで粗大粒子及びごみを除去してインクジェット記録用インクを得た。
【0022】実施例2成分■カーボンブラック MA−7 10重量部(三菱化成工業(株)製)
アクリル酸 90重量部純水 210重量部成分■表面処理カーボンブラック 3重量部グリセリン 10重量部1−プロパノール 4重量部純水 83重量部電極間が5ミリメートル、電極間電圧100ボルト、周波数60ヘルツのコロナ放電装置で10分間放電処理し、その処理済みのカーボンブラック等の成分■を実施例1と同様に内部照射することができる反応容器にいれ、窒素ガスを吹き込みながら、100Wの紫外線ランプにより、撹拌しながら50℃で2時間重合させる。重合物を遠心分離機で12000回転×90分でホモポリマーを十分に除去し、熱水で3時間攪拌しながら洗浄した後乾燥させ、次に、成分■を混合し、超音波ホモジナイザーで粒径を整え、50μmのメンブランフィルターで粗大粒子及びごみを除去してインクジェット記録用インクを得た。
【0023】実施例3成分■カーボンブラック MA−600 10重量部(三菱化成工業(株)製)
N,N−ジメチルアクリルアミド 50重量部純水 200重量部成分■表面処理カーボンブラック 3重量部エチレングリコール 4重量部エタノール 5重量部純水 88重量部カーボンブラックの表面を活性化させるために、電極間が5ミリメートル、電極間電圧100ボルト、周波数60ヘルツの放電装置で10分間放電処理し、その処理済みのカーボンブラック等の成分■を反応容器にいれ、窒素ガスを吹き込み、撹拌しながら65℃で1時間重合させる。重合物を遠心分離機で10000回転×90分でホモポリマーを十分に除去し、熱水で3時間攪拌しながら洗浄した後乾燥させ、次に、成分■を混合し、超音波ホモジナイザーで粒径を整え、50μmのメンブランフィルターで粗大粒子及びごみを除去してインクジェット記録用インクを得た。
【0024】比較例1グラフトカーボンブラック(#25) 5重量部アクリルアミド 1重量部グリセリン 2重量部エタノール 6重量部純水 86重量部比較例2カーボンブラック MA−7 3重量部ダイレクトイエロー86(分散剤) 0.5重量部グリセリン 10重量部1−プロパノール 4重量部純水 82.5重量部比較例1、2は、超音波ホモジナイザーで粒径を整え、50μmのメンブランフィルターで粗大粒子及びごみを除去してインクジェット記録用インクを得た。なお、比較例1のグラフトカーボンブラックは実施例1と同様の方法でグラフト化したものである。
【0025】比較例3成分■カーボンブラック MA−7 50重量部純水 300重量部エタノール 30重量部過硫酸アンモニウム 5重量部N−テトラエチル-エチレンシ゛アミン 0.2重量部成分■アクリル酸 50.2重量部過硫酸アンモニウム 1重量部成分■重合反応懸濁液 100重量部グリセリン 20重量部純水 200重量部成分■のカーボンブラックとイオン交換水、エタノールを混合し撹拌する。次に、過硫酸アンモニウムとN−テトラエチル−エチレンジアミンを加え、混合物を90℃で18時間撹拌する。次に、成分■を加え、混合物を95℃で24時間撹拌還流する。冷却後、成分■の割合で、重合反応懸濁液を希釈し、超音波ホモジナイザーで粒径を整え、50μmのメンブランフィルターで粗大粒子及びごみを除去してインクジェット記録用インクを得た。
【0026】以上得られたインクを用いて、以下に示す評価方法で試験を行なった。
【0027】印字品質(にじみ)
代表的な汎用普通紙であるXeroxP(富士ゼロックス商標)及び代表的な再生紙であるXeroxR(富士ゼロックス商標)にHG−5130(セイコーエプソン社製)で印字を行ない、にじみの有無を次の判断基準にしたがって評価する。
【0028】
にじみがなく鮮明な印字 ○ひげ状のにじみが発生する △文字の輪郭がはっきりしないほどにじむ ×保存安定性インク50ccをラボランスクリュウ管瓶に採取し、70℃にて100時間放置した後カーボンブラックの沈降の有無を調べた。
【0029】
沈降無し ○沈降有り ×上記結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【0031】表1より明らかなように、比較例3のような過酸化物によって活性点を作り、ビニル基を有するモノマーをグラフト重合したカーボンブラックを含む重合反応懸濁液を希釈したようなインクでは、保存安定性は良いものの印字がにじんでしまい、高印字品質が得られなかった。しかし、実施例に示したような常圧下で放電処理することによって活性点を作り、光重合によってカーボンブラックにビニル基を有するモノマーをグラフト重合した顔料インクは印字品質がよく、保存安定性に優れたインクであった。
【0032】
【発明の効果】以上説明したように本発明により、カーボンブラック表面にビニル基を有するモノマーをグラフト重合によって表面処理をした顔料を分散させた記録用インクにおいて、一般に市販される普通紙や再生紙に対してにじみが生じず、高印字品質が得られ、さらに、保存安定性に優れた記録用インクを得る事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】カーボンブラックを、(1)常圧下で放電処理する工程および(2)ビニル基を有するモノマーを光重合によってグラフト重合させる工程とからなることを特徴とするグラフトカーボンの製造方法。
【請求項2】請求項1記載のグラフトカーボンを水または/及び水溶性有機溶剤に分散させることを特徴とする記録用インク。