説明

グラフトコポリマー、熱可塑性樹脂組成物および成形品

【課題】熱可塑性樹脂組成物の帯電防止剤として効果があり、且つ、熱可塑性樹脂組成物の成型品である保護フィルムに配合した場合に被保護物への転写物が抑制される(耐転写性が付与される)ポリマーを提供することを課題とする。
【解決手段】下記のA成分、B成分およびC成分を共重合して得られるグラフトコポリマー。
A成分:重合性官能基を有するポリオレフィン;
B成分:重合性官能基を有するポリオキシエチレン;
C成分:アルキル(メタ)アクリレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性に優れた熱可塑性樹脂組成物とその成形品およびこれに用いるグラフトコポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂の多くは電気伝導性が低く、帯電し易い。樹脂が帯電すると、樹脂成型品への印刷又は塗装の不良、樹脂成型品へのほこり等の汚れの付着等の問題につながるため、樹脂成型品の製造では帯電防止剤が従来使用されている。
【0003】
帯電防止剤の使用方法としては、帯電防止剤を樹脂表面に塗布する方法と樹脂内部に練り込む方法とに大別される。しかし、前者方法では、樹脂成型品の生産工程が多くなり、また帯電防止効果の持続性に難があるため、工業的には後者の方法が主流となっている。
【0004】
樹脂内部に練り込むタイプの帯電防止剤としては、例えば、ポリオレフィン(a)のブロックと、体積固有抵抗値が10〜1011Ω・cmの親水性ポリマー(b)のブロックとが、繰り返し交互に結合した構造を有することを特徴とするブロックポリマーを含有してなる帯電防止剤(特許文献1)などが知られている。
【0005】
しかし、上記帯電防止剤は、十分な効果を得るには比較的多量に樹脂に添加する必要がある。また、上記帯電防止剤を保護フィルム(液晶ディスプレイ等の表面保護等のために使用されるフィルム状の樹脂成型品)に配合したものを使用すると、帯電防止剤に由来する転写物が被保護物に見られることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−278985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の帯電防止剤として効果があり、且つ、熱可塑性樹脂組成物の成型品である保護フィルムに配合して使用した場合に被保護物への転写物が抑制される(耐転写性が付与される)ポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、新規なグラフトコポリマーを熱可塑性樹脂組成物に配合すると上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記(1)〜(4)からなっている。
(1)下記のA成分、B成分およびC成分を共重合して得られるグラフトコポリマー。
A成分:重合性官能基を有するポリオレフィン;
B成分:重合性官能基を有するポリオキシエチレン;
C成分:アルキル(メタ)アクリレート。
(2)主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、且つ側鎖がポリオレフィン鎖及びポリオキシエチレン鎖である前記(1)記載のグラフトコポリマー。
(3)前記(1)または(2)に記載のグラフトコポリマーを配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
(4)熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である前記(3)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)前記(4)に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグラフトコポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物および成形品は、帯電防止性が付与されたものであり、且つ耐転写性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のグラフトコポリマーは、下記のA成分、B成分およびC成分を共重合して得られるものである。
A成分:重合性官能基を有するポリオレフィン;
B成分:重合性官能基を有するポリオキシエチレン;
C成分:アルキル(メタ)アクリレート。
【0012】
本発明でいうグラフトコポリマーとは、二種以上の単量体を重合して得られるポリマー(共重合ポリマー)であって、主鎖およびそれから分岐する側鎖から構成され、且つ主鎖を構成する単量体単位と側鎖を構成する単量体単位が異なるものである。
【0013】
[重合性官能基について]
本発明における重合性官能基とは、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、配位重合などが可能な二重結合基をいい、例えば、オレフィン基、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリル基などが挙げられる。
【0014】
[A成分について]
本発明でA成分として用いられる重合性官能基を有するポリオレフィンは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセンなどの不飽和炭化水素を主として重合してなる重合体(ポリオレフィン)に重合性官能基を導入したものである。
【0015】
ポリオレフィンに重合性官能基を導入する方法としては、ブタジエン、ビニルエトキシエトキシアクリレートなどの分子内に二つの二重結合を持つモノマーを共重合させる方法、ポリオレフィンを酸化する方法、ポリオレフィンと(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、ウンデシレン酸などのカルボキシル基を有するモノマーとを共重合させる方法、グラフト重合等によりカルボキシル基を導入したポリオレフィンと、カルボキシル基と反応性を持つ官能基及び重合性官能基を併せ持つグリシジルメタクリレートなどの化合物とを反応させる方法、ポリオレフィンを熱分解することにより末端にオレフィン基を導入する方法などが挙げられる。これら方法の中でも、ポリオレフィンを熱分解して末端にオレフィン基を導入する方法が、工程が比較的単純で簡便であるため好ましい。
【0016】
A成分の重量平均分子量は、300〜50000が好ましく、1000〜30000がより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、得られるグラフトコポリマーが熱可塑性樹脂に対して十分な相溶性を示さないため好ましくない。また、重量平均分子量が50000を超えるものは共重合性に乏しく、グラフトコポリマーの製造が困難なものであるため好ましくない。
【0017】
A成分としては、例えば、熱分解ポリプロピレンワックス(商品名:ハイワックスNP055;重量平均分子量7000;三井化学社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0018】
[B成分について]
本発明でB成分として用いられる重合性官能基を有するポリオキシエチレンは、エチレンオキサイドを主として重合してなる重合体(ポリオキシエチレン)に重合性官能基を導入したものである。
【0019】
かかるB成分としては、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、高級アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ビス(ポリエチレングリコール)マレート、ビス(メトキシポリエチレングリコール)マレート、ビス(ブトキシポリエチレングリコール)マレート、ビス(高級アルコキシポリエチレングリコール)マレート、ビス(ノニルフェニルポリエチレングリコール)マレート、ビス(ポリエチレングリコール)フマレート、ビス(メトキシポリエチレングリコール)フマレート、ビス(ブトキシポリエチレングリコール)フマレート、ビス(高級アルコキシポリエチレングリコール)フマレート、ビス(ノニルフェニルポリエチレングリコール)フマレート、ポリオキシエチレンアリルエーテルおよびそのエステル、ポリオキシエチレンペンテニルエーテルおよびそのエステル、ポリオキシエチレンウンデシレニルエーテルおよびそのエステルなどが挙げられる。これらの内、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、高級アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートは共重合性が高いため、これらを用いると帯電防止剤としての効果に優れたグラフトコポリマーが得られるため好ましい。
【0020】
B成分の重量平均分子量は、300〜10000が好ましく、300〜5000がより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、グラフトコポリマーが十分なイオン伝導性を示さないため好ましくない。また、重量平均分子量が10000を超えるものは共重合性が乏しく、重合時にゲル化しやすくなるなどの問題があるため好ましくない。
【0021】
B成分としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名:PME−400;重量平均分子量400;日油社製)等が商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0022】
[C成分について]
本発明でC成分として用いられるアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのアルキル(メタ)アクリレートは、本発明のグラフトコポリマーの製造では、上記A成分およびB成分を互いに相溶または分散させるためのコモノマーとして用いられる。
【0023】
[グラフトコポリマーの製造方法]
上記A成分、B成分及びC成分を共重合して本発明のグラフトコポリマーを製造するための方法としては、例えばラジカル重合、アニオン重合、配位重合など公知の重合方法が挙げられるが、重合が比較的容易なラジカル重合が好ましい。ラジカル重合において重合を制御するため、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いる重合法、コバルトポルフィルン錯体を用いる重合法、ニトロキシドを用いる重合法、有機テルル化合物などの高周期ヘテロ元素化合物を用いる重合法、可逆的付加脱離連鎖移動重合法(RAFT)、原子移動ラジカル重合法(ATRP)などを実施しても良い。
【0024】
また、ラジカル重合において反応温度が100℃以上の高温の場合、熱により重合が開始するためラジカル重合開始剤の使用は必須ではないが、ラジカル重合開始剤を適宜使用することができる。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ化合物など一般的にラジカル重合の開始剤基として知られている化合物を使用することができ、半減期1分となる温度(1分間半減期温度)が150〜200℃の範囲にある有機過酸化物が好ましく使用される。このようなラジカル重合開始剤としては、具体的には、例えば、ジ−t−ブチルパーオキサイド(1分間半減期温度193℃)、t−ブチルクミルパーオキサイド(同178℃)、ジクミルパーオキサイド(同171℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(同179℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3(同193℃)等のジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテート(同159℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(同165℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(同166℃)、ジ−t−ブチルジパーオキシフタレート(同159℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(同158℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(同162℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3(同162℃)等のパーオキシエステル類、メチルエチルケトンパーオキサイド(同171℃)、シクロヘキサノンパーオキサイド(同174℃)等のケトンパーオキサイド類等、好ましくはジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン3等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0025】
また、ラジカル重合では、ラジカル重合開始剤を用いる代わりに光重合開始剤を用いて紫外線を照射することにより重合を開始することもできる。
【0026】
上記ラジカル重合により本発明のグラフトコポリマーを製造する具体的方法としては、以下に示す方法1及び2を例示することができる。
【0027】
<方法1>
方法1は、A成分とC成分を予め溶融状態にしておき、これにB成分を添加して反応させる方法である。
【0028】
より具体的には、還流管、温度計、滴下ロートおよび攪拌翼などを備えた反応容器に、A成分およびC成分を仕込み、加熱・攪拌混合しながら該滴下ロートからB成分を滴下する。反応温度(加熱温度)は、通常100〜230℃の範囲、好ましくは140〜200℃の範囲である。また、反応時間は通常10分〜3時間、好ましくは10分〜1時間である。また、ラジカル重合開始剤を用いる場合は、B成分に予めラジカル重合開始剤を添加したものを滴下ロートから滴下することができる。この場合、ラジカル重合開始剤の添加量は、B成分100質量部に対して、通常0.01〜5.0質量部、好ましくは0.1〜1.0質量部である。また、反応後は、公知の方法により、残存モノマー及び/又は溶媒の留去、重合開始剤の追添による残存モノマーの再重合、適当な溶媒中での再沈殿、沈殿したポリマーの濾過又は遠心分離、ポリマーの洗浄及び乾燥を行うことができる。
【0029】
<方法2>
方法2は、押出機等の溶融混練装置にA成分、B成分及びC成分を供給して溶融混練する方法である。
【0030】
より具体的には、A成分を二軸押出機の供給口から供給し、該押出機の途中から液状添加物設備を用いて、B成分及びC成分を供給して溶融混練する。該押出機の混練を行う部分の温度(例えば、シリンダー温度)は、通常100〜300℃であり、好ましくは140〜250℃である。混練時間は、通常1〜10分間であり、好ましくは1〜3分間である。押出量は、押出機の種類や性能等により異なり一様ではないが、例えば同方向二軸押出機(MFU15TW;L/D=60;テクノベル社製)を使用する場合、通常0.5〜5kg/hrであり、好ましくは0.8〜3kg/hrである。また、反応後は、公知の方法により、残存モノマー及び/又は溶媒の留去、重合開始剤の追添による残存モノマーの再重合、適当な溶媒中での再沈殿、沈殿したポリマーの濾過又は遠心分離、ポリマーの洗浄及び乾燥を行うことができる。
【0031】
上記方法1および2では、A成分の配合量は、A成分、B成分及びC成分の合計100質量%に対して、通常5〜70質量%、好ましくは10〜50質量%である。A成分の配合量が5質量%未満であると、得られるグラフトコポリマーが熱可塑性樹脂に十分な相溶性を示さず、70質量%を超えると、グラフトコポリマー自体のイオン伝導性が低下し、本発明の効果が十分に得られないため好ましくない。また、B成分の配合量は、A成分、B成分及びC成分の合計100質量%に対して、通常5〜85質量%、好ましくは10〜80質量%である。B成分の配合量が5質量%未満であると、得られるグラフトコポリマーは十分なイオン伝導性を示さず、80質量%を超えると、得られる共重合ポリマーの熱可塑性樹脂に対する相溶性が低下するため、本発明の効果が十分に得られないため好ましくない。また、C成分の配合量は、A成分、B成分及びC成分の合計100質量%に対して、通常5〜70質量%である。C成分の配合量が5質量%未満であると、A成分とB成分が相溶せず、70質量%を超えると、得られるグラフトコポリマーの熱可塑性樹脂との相溶性が低下したり、イオン伝導性が低下するため好ましくない。
【0032】
本発明のグラフトコポリマーは、残存モノマーの含有量が10質量%以下であることが好ましい。その含有量が10質量%を超えると、グラフトコポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物から残存モノマーがブリードアウトする場合があり好ましくない。本発明のグラフトコポリマーの残存モノマー含量は、該ポリマーをピリジンに溶解してろ過し、得られたろ液を島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計(型式:CGMS−QP2010)を用いて測定することができる。
【0033】
本発明のグラフトコポリマーの重量平均分子量は3000〜100000であることが好ましい。重量平均分子量が3000未満であると、グラフトコポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物にブリードアウトが生じ易くなるため好ましくなく、重量平均分子量が100000を超えると、グラフトコポリマーを配合した熱可塑性樹脂組成物の融解時の流動性が低下して加工性が悪化するため好ましくない。また、重量平均分子量が100000を超えると、重合時にゲルが生じやすいため好ましくない。グラフトコポリマーの重量平均分子量を3000〜100000に調整する方法としては、上述したグラフトコポリマーの製造において、重合に用いる溶剤の使用量、重合温度(反応温度)、グラフト重合開始剤の使用量や種類を調整する方法、チオール化合物やハロゲン化合物などの連鎖移動剤を添加する方法、ジビニルベンゼンやポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレートなどの架橋剤を添加する方法などが挙げられる。
【0034】
本発明のグラフトコポリマーの重量平均分子量は、東ソー社製高温GPC装置(HLC−8121GPC/HT)を用いて、所定の条件(溶媒:オルトジクロロベンゼン、カラム:TSKgel GMHxl−HT×2本、カラム温度:135℃、検出:RI、サンプル濃度:0.3mg/mL)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定することができる。
【0035】
本発明のグラフトコポリマーは、本発明の目的および効果を損なわない限り、紫外線等の光吸収剤、熱安定剤、染顔料、無機充填剤、加水分解抑制剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、結晶造核剤、帯電防止剤、防曇剤等を添加したものであっても良い。
【0036】
ここで、上述した方法により製造される本発明のグラフトコポリマーは、A成分及びB成分の有する化学構造などから、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、且つ側鎖にポリオレフィン鎖及びポリオキシエチレン鎖を有するグラフトコポリマーであると推測される。このことは、H−NMRまたは13C−NMRによる分析を行い、A成分、B成分及びグラフトコポリマーのスペクトルの化学シフトを比較することなどにより確認できる。
【0037】
本発明のグラフトコポリマーは、熱可塑性樹脂に添加して熱可塑性樹脂組成物とすることによりその効果を発揮する。本発明のグラフトコポリマーを適用できる熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンオクテンゴム、ポリメチルペンテン、エチレン環状オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体などのビニルポリマー、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどのエンジニアリングプラスチック等が挙げられ、中でもポリオレフィンは、本発明のグラフトコポリマーの分散性が良好であるという点で好ましく、ポリオレフィンのうち、特にポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく用いられる。これら熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記熱可塑性樹脂と本発明のグラフトコポリマーとを含有する熱可塑性樹脂組成物は、プラスチックの成型に用いられる通常の押出機、射出成形機、カレンダー成形機、圧縮成形機、ブロー成形機などの成形機を用いて押出、射出、圧縮、ブロー等の熱成形することにより成型品(例えば、保護フィルムなど)に加工すること(成形加工)が可能である。該成形加工では、熱可塑性樹脂とグラフトコポリマーは別々に成形機に供給して混練しても良く、これらを予め混合したものを成形機に供給しても良い。また、該成形加工では、原料の一部または全部を予め一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練し、ペレット化やマスターバッチ化したものを原料として用いても良い。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物およびその成型品における熱可塑性樹脂およびグラフトコポリマーの配合割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、グラフトコポリマーが1〜50重量部が好ましく、グラフトコポリマーが5〜30重量部がより好ましい。熱可塑性樹脂及びグラフトコポリマーの配合割合がこのような数値範囲であると、これらを配合した熱可塑性樹脂組成物およびその成型品の機械物性が損なわれず、またこれらに十分な帯電防止性が付与されるため好ましい。
【0040】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
還流管、温度計、滴下ロートおよび攪拌翼を備えた300mL容4つ口フラスコに、熱分解ポリプロピレンワックス(商品名:ハイワックスNP055;三井化学社製)25g、ベヘニルメタクリレート(商品名:VMA−70;日油社製)50gを仕込み、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名:PME−400;日油社製)75gを滴下速度4g/minで滴下ロートに仕込んだ。オイルバスを用いてフラスコ内の内容物の温度を150℃に調整し、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートを滴下しながら攪拌翼の回転数400rpmで60分間加熱・攪拌し、重合反応を行わせた。重合終了後、得られたポリマーを熱キシレンに溶解し、メタノール中に再沈殿することにより精製し、共重合ポリマー1を得た。
また、上記精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、島津製作所社製のガスクロマトグラフ質量分析計(型式:CGMS−QP2010)を用いてベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの含有量を分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの90%以上が重合により消費されていた。
また、共重合ポリマー1についてFT−IRを用いて、熱分解ポリプロピレンワックスのメチル基由来の1165cm−1近辺の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートのエーテル基由来の1100cm−1近辺の吸収のいずれもが確認された。
以上のことから、共重合ポリマー1は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
【0042】
[実施例2]
実施例1のオイルバスの設定温度を200℃にしたこと以外は実施例1と同様に実施し、共重合ポリマー2を得た。
共重合ポリマー2の製造における精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、実施例1と同様にガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの90%以上が重合により消費されていた。また、共重合ポリマー2について、実施例1と同様にFT−IRを用いて分析したところ、熱分解ポリプロピレンワックス由来の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の吸収のいずれもが確認された。
以上のことから、共重合ポリマー2は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
【0043】
[実施例3]
実施例1のオイルバスの設定温度を175℃としたこと、熱分解ポリプロピレンワックスの仕込み量を50gとしたこと、及びメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの仕込み量を50gとしたこと以外は実施例1と同様に実施し、共重合ポリマー3を得た。
共重合ポリマー3の製造における精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、実施例1と同様にGC−MSを用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの90%以上が重合により消費されていた。また、共重合ポリマー3について、実施例1と同様にFT−IRを用いて分析したところ、熱分解ポリプロピレンワックス由来の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の吸収のいずれもが確認された。
以上のことから、共重合ポリマー3は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
【0044】
[実施例4]
実施例1のオイルバスの設定温度を175℃としたこと、実施例1のメトキシポリエチレングリコールメタクリレート75gに替えて、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート75gに重合開始剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.44gを添加したものを仕込んだこと以外は実施例1と同様に実施し、共重合ポリマー4を得た。
共重合ポリマー4の製造における精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、実施例1と同様にGC−MSを用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの90%以上が重合により消費されていた。また、共重合ポリマー4について、実施例1と同様にFT−IRを用いて分析したところ、熱分解ポリプロピレンワックス由来の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の吸収のいずれもが確認された。
以上のことから、共重合ポリマー4は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
【0045】
[実施例5]
実施例1のベヘニルメタクリレート50gに替えて、ステアリルアクリレート(商品名:STA;日油社製)50gを仕込んだこと以外は、実施例1と同様に実施し、共重合ポリマー5を得た。
共重合ポリマー5の製造における精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、実施例1と同様にGC−MSを用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの90%以上が重合により消費されていた。また、共重合ポリマー5について、実施例1と同様にFT−IRを用いて分析したところ、熱分解ポリプロピレンワックス由来の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の吸収のいずれもが確認された。
以上のことから、共重合ポリマー5は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
【0046】
[実施例6]
熱分解ポリプロピレンワックス(商品名:ハイワックスNP055;三井化学社製)100gおよび重合開始剤として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン0.88gを200℃に設定した同方向二軸押出機(MFU15TW;L/D=60;テクノベル社製)のメインフィーダーより供給し、ベヘニルメタクリレート(商品名:VMA−70;日油社製)100gとメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名:PME−400;日油社製)100gを同押出機の液添フィーダーより供給してスクリュー回転数700rpmにて溶融混練を行った。混練時間は約2分であり、押出量は1kg/hrであった。得られた混練物を熱キシレンに溶解し、さらにメタノール中に再沈殿して精製し、共重合ポリマー6を得た。
また、上記精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、実施例1と同様にGC−MSを用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの80%以上が重合により消費されていた。また、共重合ポリマー6について、実施例1と同様にFT−IRを用いて分析したところ、熱分解ポリプロピレンワックス由来の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の吸収のいずれもが確認された。
以上のことから、共重合ポリマー6は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
【0047】
[比較例1]
実施例1の熱分解ポリプロピレンワックス25g、ベヘニルメタクリレート50gおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名:PME−400;日油社製)75gに替えて、熱分解ポリプロピレンワックス50gおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレート50gを仕込んだこと以外は実施例1と同様に実施し、共重合ポリマー7を得た。
なお、比較例1では、得られたポリマーの一部が固液分離しており、精製時に熱キシレンに不溶なゲルが生じていた。そこで、熱キシレンに溶解した部分について実施例1と同様にGC−MSを用いて分析したところ、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの90%以上が重合により消費されていた。また、共重合ポリマー7について、実施例1と同様にFT−IRを用いて分析したところ、熱分解ポリプロピレンワックス由来の吸収と、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート由来の吸収のいずれもが確認された。
よって、共重合ポリマー7は、熱分解ポリプロピレンワックス、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートおよびベヘニルメタクリレートの共重合体であって、主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、側鎖にポリプロピレン鎖とポリエチレングリコール鎖を持つグラフトコポリマーであると推測される。
一方、熱キシレンに不溶なゲルについて140℃、2hrの条件でキシレンを揮発させ、ゲルの重量を測定したところ34.4gであった。また、このゲルについてFT−IRを用いて分析したところ、吸収はほぼメトキシポリエチレングリコールメタクリレートに一致したため、このゲルはメトキシポリエチレングリコールメタクリレートのホモポリマーであると推測される。
以上のことから、共重合ポリマー7は、グラフトコポリマー以外のポリマーを一定の割合で含有し、上記共重合ポリマー1〜6とは異なっていた。
【0048】
[比較例2]
実施例6の熱分解ポリプロピレンワックス100gに替えて、ポリプロピレン(商品名:プライムポリプロ H−700;プライムポリマー社製)100gを仕込んだこと以外は、実施例6と同様に実施し、共重合ポリマー8を得た。
共重合ポリマー8の製造における精製過程で副生するキシレンメタノール溶液について、実施例6と同様にGC−MSを用いて分析したところ、ベヘニルメタクリレートおよびメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの80%以上が重合により消費されていた。
また、共重合ポリマー8について、FT−IRを用いて分析したところ、ポリプロピレンのメチル基由来の1165cm−1近辺の吸収に対し、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートのエーテル基由来の1100cm−1近辺の吸収は小さかった。よって、共重合ポリマー8は、ベヘニルメタクリレートとメトキシポリエチレングリコールメタクリレートの共重合体を主として含有するものであると考えられ、上記共重合ポリマー1〜6とは異なっていた。
【0049】
ここで、上述した実施例1〜6並びに比較例1及び2で使用した原材料の配合を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
[実施例7〜12、比較例3〜6]
表2に示す配合処方に従って、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(商品名:プライムポリプロ H−700;プライムポリマー社製)並びに帯電防止剤として上記共重合ポリマー1〜8、市販品1(商品名;ペレスタット300;ポリプロピレンポリエチレングリコール交互共重合体;三洋化成社製)および市販品2(商品名;リケマールS−100A;グリセリンステアリン酸エステル;理研ビタミン社製)を良く混合して、射出成形機にて230℃で、80mm×80mm×2mmの成形品(試験片)を作製した。
【0052】
[成形品の評価]
上記成形品(試験片)を用い、下記方法(1)による表面固有抵抗値の測定および下記方法(2)による耐転写性の評価を実施した。結果を表2に示す。
【0053】
(1)表面固有抵抗値の測定方法
20℃、湿度65%Rhの条件下で1週間エージングした試験片を、同条件で極超絶縁計(型式:SEM−10型;東亜電波工業社製)により表面固有抵抗値を測定する。測定では、印加電圧は500Vとし、印加開始から1分後の表面固有抵抗値を読み取る。さらに、メタノールを浸したろ紙にて試験片の表面を拭い、ブリードアウトしたポリマー等を除去した後、再度同様に測定する。
【0054】
(2)耐転写性の評価方法
試験片を水道水にて良く洗浄して十分に乾燥させ、これをガラス平板(80mm×80mm×5mm)の上面に完全に重ね合せて載置し、25℃、湿度50%Rhの条件下で、該試験片の上から15.6g/cmの荷重を24時間かける。荷重後、ガラス平板上面の転写物の状態を目視にて観察し、以下の基準に従って記号化する。
○:転写物による汚れが全く見られない
△:転写物による若干の汚れが見られる
×:転写物による汚れが見られる
【0055】
【表2】

【0056】
表2から明らかなように、本発明のグラフトコポリマーである共重合ポリマー1〜6を配合した熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、いずれも表面固有抵抗値が1.0×1014(Ω)未満であることから帯電防止性が付与されており、且つ耐転写性にも優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分、B成分およびC成分を共重合して得られるグラフトコポリマー。
A成分:重合性官能基を有するポリオレフィン;
B成分:重合性官能基を有するポリオキシエチレン;
C成分:アルキル(メタ)アクリレート。
【請求項2】
主鎖が炭素−炭素結合鎖であり、且つ側鎖がポリオレフィン鎖及びポリオキシエチレン鎖である請求項1に記載のグラフトコポリマー。
【請求項3】
請求項1または2に記載のグラフトコポリマーを配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。


【公開番号】特開2013−56986(P2013−56986A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195572(P2011−195572)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】