説明

グラフトポリマーを有する多糖類マトリックス、その製造方法およびその使用

本発明は、官能基を有する少なくとも1種のエチレンモノマー化合物からのグラフトポリマーが表面上に結合し、多糖類マトリックスが、対流的透過性を有する多孔質であり、非粒子状である多糖類出発マトリックスに、少なくとも1種のエチレンモノマー化合物を、少なくとも1つのカルボン酸基および/または、X=−O、−Sもしくは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸、ならびに遷移金属化合物またはランタノイド化合物の存在下でグラフトすることにより製造される、対流的透過性を有する多孔質であり、非粒子状である多糖類マトリックスに関する。本発明の多糖類マトリックスは、高いタンパク質結合能によって特徴づけられる。本発明はさらに、多糖類マトリックスを製造する方法および物質分離のための多糖類マトリックスの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物に由来するグラフトオンポリマー(grafted-on polymer)が表面上に固定され、ここで多糖類マトリックスが、多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類出発マトリックスに、少なくとも1つのカルボン酸基を有し、かつ/またはX=−O、−Sまたは−Nである少なくとも1種の酸性XH基を有する有機酸、および遷移金属またはランタニド化合物の存在下で、官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物をグラフトすることにより調製される、多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類マトリックス、ならびにまた多糖類マトリックスを調製するための方法、ならびにこの種の多糖類マトリックスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子、例えばタンパク質、アミノ酸、核酸、ウィルスまたは内毒素などの液体媒体からの濾過、精製または除去は、生物製剤産業にとって大変興味深い。特に吸着膜の形態の多孔質であり、非粒子状の多糖類マトリックスは、特に吸着質がマトリックスの容量に比べて極めて低濃度で液相中に存在するプロセスにおいて用いられ、したがってマトリックスの単位面積に基づいて、大きい体積の液相を、容量が使い果たされるまで処理することができる。典型的な用途は、デオキシリボ核酸およびリボ核酸(RNAおよびDNA)、ウィルス、宿主細胞タンパク質ならびに内毒素を吸着させて、これらの汚染物質を抗体含有溶液から正に荷電した膜を用いて除去することである。
【0003】
前記膜の開放孔構造により、孔内部中の大きな吸着質の吸着が可能になる。慣用のゲルについては、これらの場合における吸着は、外部の粒子表面に限定される。したがって、膜を、特に大きな吸着質、例えばDNA、RNA、血液凝固第VIII因子(FVIII)およびウィルスなどの精製において用いることにうまく利用できる。しかし、より小さな吸着質の吸着には、膜のより小さな内側表面および結果として得られたより低い容量は、クロマトグラフィーゲルと比較して不利である。
【0004】
DE 39 29 648 C1およびEP 0 490 940 B1には、窒素含有ポリマー、より具体的にはポリアミド上にグラフトするためのプロセスが開示されている。それらは、ハロゲンによって、好ましくは有機次亜ハロゲン化物、有機N−ハロゲン化合物またはテトラクロロメタンからの塩素原子によって置き換えられているポリマーのNH基の水素をベースとし、窒素フリーラジカル形成を、その後還元剤との反応によって行う。あらゆる所望のエチレン系モノマーを、次にフリーラジカル窒素部位上にグラフトすることができる。当該膜がそれ自体有用であることが明らかになった、これらのプロセスにより調製されたこれらの膜の欠点は、それらが、出発膜よりも顕著に低い透水率を有することである。
【0005】
したがって、EP 0 527 992 B1には、第1のポリマー(例えば水和セルロース、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)または水和セルロースなど)を含む膜を第2のポリマー、好ましくはN−塩素化ナイロン誘導体の溶液で被覆し、その後このようにして被覆された膜にエチレン系モノマーをグラフトすることによって、低下した透水率の問題を解決することが提案されている。このプロセスの欠点は、エチレン系不飽和モノマーを第1のポリマー上に直接グラフトすることができないこと、およびグラフト反応のための構造上の前提条件が、このように第1のポリマーの第2のポリマーの溶液での、グラフトが起こり得る前のコーティングであることである。このプロセスは複雑であり、その個々の多数のステップのためにコストが大きい。
【0006】
表面上にエポキシ含有メタクリル酸誘導体がグラフトされたヒドロキシル含有担体(例えばMerckからのFractogel(登録商標)TSK)をベースとするイオン交換体は、EP 0 722 360 B1から知られている。グラフトオンポリマーのエポキシ基を、その後隣接ジオールまたは1,2−アミノアルコール官能に、NHまたはOH含有試薬によって変換することができる。
【0007】
EP 0 337 144 B1には、ヒドロキシル含有担体が開示されており、その表面に、式中Y=−CO、−CN、−CHO、−OH、−CHNHまたは−CHNRである単位[−CR’R’’−CRY]を繰り返し単位として有する、グラフト重合によって製造可能なポリマーが共有結合している。当該担体は、ヒト血清中の、およびモノクローナル抗体を含むマウス腹水中の免疫グロブリンの分画のために用いられる。
【0008】
EP 1 163 045 B1には、カチオンで修飾された膜を調製するためのプロセスが開示されており、ここで、好ましくはポリエーテルスルホンを含む微多孔出発膜に、エポキシ基およびカチオン性基を有するジアリルアミンコポリマー、ポリアルキレンアミンおよびカチオン性基を有するアミン反応性化合物を含む組成物を架橋させることにより調製されたコーティングを提供する。アミン反応性化合物は、好ましくはアンモニウム基を有するグリシジル化合物である。
【0009】
EP 1 614 459 B1には、カチオンで修飾された膜を調製するためのプロセスが開示されており、ここで、好ましくは(任意に親水性の)ポリエーテルスルホンを含む微多孔出発膜を、ジアリルアミンコポリマー、ジアリルジアルキルアンモニウムハロゲン化物および第四級アンモニウム基を有するアクリル酸モノマーの混合物で処理し、カチオンで修飾された膜に熱処理によって変換する。
【0010】
EP 0 538 315 B1には、スポンジ構造を有する多孔質担体からなる多孔質マトリックスが開示されており、当該担体は、その内側表面および外側表面上に官能基を有するグラフトオンポリマー層を有し、ここでポリマー層は、多孔質担体の細孔容積の調整可能な比率を占めることができるように、マトリックスと接触する液相によって溶媒和可能である(solvatable)。多孔質担体に用いられる前駆体は、窒素含有ポリマー、例えばナイロン誘導体またはナイロン誘導体で被覆された水和セルロースであり、その上に、例えばヒドロキシエチルメタクリレートおよびグリシジルメタクリレートの混合物の形態のモノマーを、反応性部位としてN−Cl基を介してグラフトする。
【0011】
Y. Chen et al.は、“Polymer Composites”, vol. 28, 2007, pages 47-56において、グラフト開始剤としての硫酸セリウム(IV)アンモニウムおよびクエン酸の混合物の存在下でグラフトされるモノマーとしてのトウモロコシデンプンおよびアクリルアミドからのグラフトコポリマーの調製を開示している。当該著者によるIR分光学的研究によれば、トウモロコシデンプンへの効率的なグラフトのために、トウモロコシデンプンのヘキソース構成要素の酸化的環開裂は必須であり、またその後、Ce4+カチオンとの反応の結果、フリーラジカル炭素原子が、デンプンのポリマー骨格中でアクリルアミドとの反応のために発生する。
【0012】
EP 1 386 660 B1には、免疫グロブリンを免疫グロブリン混合物から2〜10のpH範囲において単離するためのプロセスが開示されており、ここで各々の場合において複数の可変の官能基SP1−Lを有するマトリックスM−SP1−Lを用いる。ここで、Mは、500ダルトン以下の分子量を有する配位子LがスペーサーSP1を介して結合しているクロマトグラフィー開始マトリックスである。配位子Lは、好ましくは、任意に酸性基を担持していてもよい単環式の、または二環式の(ヘテロ)芳香族化合物からなる群から選択される。
【0013】
EP 0 921 855 B1には、同様に免疫グロブリンを免疫グロブリン混合物から2〜10のpH範囲において単離するためのプロセスが開示されており、ここで官能基SP1−Lが結合しているマトリックスMを用いる。マトリックスMにスペーサーSP1によって結合している配位子Lは、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾールおよびベンゾキサゾールからなる群から選択される。配位子Lは、任意に、例えばスルホン酸置換基またはカルボン酸置換基などの酸性基を、その二環式のヘテロ芳香族部分上に担持していてもよい。
【0014】
EP 1 718 668 B1には、溶液中で少なくとも1種の汚染物質から抗体を分離するためのプロセスが開示されており、ここで、マルチモードの(multimodal)配位子のみを固定化したクロマトグラフィー樹脂を用いる。ここで、マルチモードの配位子は、分離される成分との少なくとも2種の異なる結合相互作用(すなわち、イオノゲン性(ionogenic)および疎水性相互作用)中に進入することができる配位子である。配位子は、これらの2種の結合相互作用のためのカチオン交換基および少なくとも1つの芳香族(ヘテロ)環系を有する。
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、表面上にグラフトオンポリマーが固定され、高いタンパク質結合能を有する、多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類マトリックスを提供すること、および前記多糖類マトリックスを調製するための、費用効率が高く、効率的なプロセスを提供することにある。さらに、物質分離のための多糖類マトリックスの使用を提案する。
この目的は、本発明による、請求項1に記載の多糖類マトリックス、請求項13および14に記載のその調製のためのプロセス、ならびに本発明による物質分離のための請求項18に記載の膜の使用によって達成される。
【0016】
特に、表面上に、官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物から由来するグラフトオンポリマーが固定され、マトリックスが、多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類出発マトリックスに、少なくとも1つのカルボン酸基を有し、かつ/または式中X=−O、−Sもしくは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸、および遷移金属またはランタニド化合物の存在下で、官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物をグラフトして、官能基を有するポリマーを生成し、それを、多糖類開始マトリックス上にグラフトすることによって調製される、多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類マトリックスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、表2B)の項目1)、5)および9)に従って調製した膜の、ウシ血清アルブミンについての破過曲線を示す図である。
【0018】
本発明の文脈において、多孔質の非粒子状多糖類マトリックスは、各々の場合において多糖類を含む、開放した孔の(open-pored)発泡体または微多孔膜を意味するものと理解される。好ましいのは、孔が凝集した空間系からなり、したがってそれらの流れ抵抗に比例した高い比表面積を有する、スポンジタイプの構造を有する微多孔膜である。多糖類マトリックスとして使用可能な微多孔膜の典型的な層の厚さは、50〜500μm、好ましくは100〜300μmの範囲内にある。
【0019】
平均細孔径は、好ましくは0.01〜20μmの範囲内、特に好ましくは0.1〜15μmの範囲内、および最も好ましくは0.4〜10μmの範囲内であり、平均細孔径を、“Capillary Flow Porometer 6.0” Coulter Porometer, CAPWIN Software System、Porous Materials Inc.を用いて決定する。この種の膜は、平面状であるかまたは円筒形であり得る。円筒形の膜は、膜中空繊維、膜毛細管(membrane capillary)または膜管と称される。平坦な膜は、本発明の文脈において好ましく、らせん巻きの、または積層されたモジュール中に一体化された吸着膜が、特に好ましい。
【0020】
本発明の文脈において、対流的に透過性の多糖類マトリックスは、水圧差の作用を用いて、吸着質含有媒体での対流的な透過を達成し、これによって、マトリックスの内部中への濃度勾配の方向における吸着質(1種または2種以上)の純粋な拡散輸送の代わりに、対流的な輸送が達成され、それが、流量が高い条件で、拡散輸送より極めてはるかに迅速である、多糖類マトリックスを意味するものと理解されるべきである。
【0021】
その結果、微粒子状マトリックス(例えばクロマトグラフィーゲル)に特有であり、拡散限界と称される欠点を、回避することができる。当該欠点は、マトリックスの粒子サイズの増大に伴って、および吸着質のモル質量の増大に伴って、吸着平衡を達成するのに必要な時間が顕著に増大し、この結果反応速度の悪化がもたらされることである。
【0022】
好ましい態様において、多糖類出発マトリックスは多糖類からなり、一方他の態様において、それは多糖類コーティングを有する多孔質担体である。
これらの2つの態様において、多糖類は、セルロースエステル、セルロースエーテル、セルロース水和物、アガロース、キチン、キトサン、デキストランまたはその組み合わせからなる群から選択される。任意に、前述の多糖類は、架橋していてもよい。
【0023】
特に好ましい多糖類は、セルロースエステルであり、さらに特に一酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、アセト酪酸セルロースまたは硝酸セルロース、セルロースエーテル、さらに特にメチルセルロースまたはエチルセルロース、およびまたその混合物であり、酢酸セルロース、さらに特に二酢酸セルロースが、最も好ましい。
【0024】
多糖類コーティングを有する多孔質担体の前述の態様において、多孔質担体は、好ましくは微多孔であり、ポリアミド、ポリ(エーテル)スルホン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロペン、ポリエテン、ポリテトラフルオロエテン、それらのコポリマーまたはその混合物からなる群から選択されたポリマーからなる。
【0025】
本発明の多孔質多糖類マトリックスの表面上に、官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物から由来するグラフトオンポリマーを固定し、ここで多孔質マトリックスの表面は、内側表面、すなわち孔内部壁領域および外側表面、すなわち多孔質マトリックスの外側領域の両方を意味するものと理解される。
【0026】
好ましくは、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーは、(メタ)アクリル酸誘導体であり、その官能基がイオノゲン性またはイオノゲン性に変換可能な基、疎水性基および/またはエポキシ基である、少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物から生成する。
【0027】
本発明の目的のために、好ましいのは、特に、スチレン、アルファ−メチルスチレン、4−エトキシスチレン、3,4−ジメトキシスチレン、4−ベンジルオキシ−3−メトキシスチレン、フルオロスチレン、クロロメチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、ビニルアニソール、4−ビニル安息香酸、4−ビニルベンジルクロリド、ビニルアニリン、N,N−ジメチルビニルベンジルアミン、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、4−ビニルビフェニル、2−ビニルナフタレン、N−(イソブトキシメチル)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アクリルアミド、ベンジル2−プロピルアクリレート、エチレングリコールフェニルエーテルアクリレート、ヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、テトラヒドロフリルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプチルアクリレート、ベンジルメタクリレート、ブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エチレングリコールフェニルエーテルメタクリレート、2−(メチルチオ)エチルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ポリ(プロピレングリコール)メタクリレート、アリルベンジルエーテル、ビニルピリジン、酢酸ビニル、ポリ(エチレングリコール)(n)モノメタクリレートまたはその組み合わせからなる群から選択されたエチレン系モノマー化合物である。これらの前述のモノマーは、疎水性基を官能基として有し、それはまた、多糖類マトリックス上にグラフトしたポリマーによって保持されている。
【0028】
本発明の膜の他の好ましい態様において、その調製は、官能基としてイオノゲン性基またはイオンに変換可能な基、好ましくは酸性基を含む少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物を用いる。好ましいのは、特にアクリル酸、メタクリル酸、2−アクリルアミドグリコール酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、2−カルボキシエチルアクリレート、2−(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2−アミノエチルメタクリレート、2−(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]ジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド、[3−(メタクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[3−(アクリロイルアミノ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムヒドロキシド、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビニルスルホン酸誘導体、スチレンスルホン酸誘導体またはその組み合わせである。
【0029】
他の態様において、本発明の膜を、官能基として極性の非イオノゲン性基を含む少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物、さらに特にヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルアミノ−1−プロパノール、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノメタクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコールまたはその組み合わせを用いて調製する。
【0030】
本発明の目的のためのさらに好ましいエチレン系モノマー化合物は、官能基としてエポキシ基を含み、それをその後求核試薬と反応させることができる。特に好ましいのは、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレートである。
【0031】
本発明の他の態様において、本発明の膜を、官能基として架橋可能な基を含み、エチレン系モノマーを出発マトリックス上にグラフトした後にグラフトオンポリマーの架橋が起こるのを可能にする少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物、例えばエチレングリコールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)(n)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)(n)ジメタクリレート、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、ビスフェノールAジメタクリレート、アリルメタクリレート、3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、1,1,1−トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ビスフェノールAジグリシジルエーテル付加物またはその組み合わせから調製する。架橋可能な基を有するこれらのモノマーを、単独で、または前述のモノマー化合物の少なくとも1種と組み合わせて用いて、本発明の膜を調製してもよい。
【0032】
さらに、多糖類出発マトリックス上に、すべての前述のタイプのモノマー化合物を、各々の場合において単独で、またはすべての前述のモノマー化合物である少なくとも1種の他の種類と組み合わせてグラフトすることが可能である。
【0033】
特に好ましい態様において、本発明の多糖類マトリックスを、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートの混合物にベンジルメタクリレートをグラフトすることにより調製する。
【0034】
前述の少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物の多糖類出発マトリックス上へのグラフトを、特に有利には、フリーラジカル部位を出発マトリックス上に生じる遷移金属またはランタニド化合物の存在下で行い、その上に少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物をフリーラジカル的にグラフトする。好ましくは、本発明の膜を、セリウム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム化合物またはその組み合わせからなる群からの遷移金属またはランタニド化合物の存在下でグラフトすることにより調製する。特に好ましいのは、Ce(IV)塩を用いることである。
【0035】
驚くべきことに、本発明の多糖類マトリックスが、少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物の多糖類出発マトリックス上へのグラフトを、少なくとも1つのカルボン酸基および/または、式中X=−O、−Sまたは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸の存在下で行った場合に、顕著に増大したタンパク質結合能を有することが見出された。ウシ血清アルブミン(BSA)の静的結合能は、特に、すべての調製パラメーターがこの前述の有機酸を用いる場合を除いて同一である、比較多糖類マトリックスに関して8.4倍まで増大され得る。
【0036】
静的結合能は、本明細書中では、本発明による、特に好ましくは膜として存在する多糖類マトリックスの単位面積に関しての吸着質(例えばBSA)の平衡状態で結合した質量を、mg/cmで意味するものと理解されるべきである。
【0037】
前述の比較マトリックスと比較して1.5〜8.4倍増大した静的タンパク質結合能を有する本発明の多糖類マトリックスを、少なくとも1つのカルボン酸基および/または少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸の存在下での、上記のグラフトによって調製することができ、ここで前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、乳酸またはその組み合わせからなる群から選択され、式中X=−Oである。
【0038】
本発明の1つの態様において、多糖類出発マトリックス自体上にグラフトしたポリマーの官能基は、流体中に存在する吸着質と相互作用してもよい。
【0039】
本発明の他の好ましい態様において、グラフトの後に、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基が、流体中に存在する吸着質と相互作用することが可能である少なくとも1種の配位子と反応することが可能である。
【0040】
特に好ましくは、配位子は、カチオン性、アニオン性および/または疎水性基を有する。前述の配位子は、グラフトオンポリマーのモノマー単位の官能基と反応し、これによって各々のモノマー単位は、少なくとも1種の配位子によって官能化される、グラフトオンポリマーの繰り返し単位に変換可能である(配位子の「ポリマー類似反応(polymer analogous reaction)」)。
【0041】
本発明の文脈においてカチオン性基を有する好ましい配位子は、特に、ブチルアミン、ヘキシルアミン、シクロプロピルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、クロロアニリン、ベンジルアミン、フェニルエチルアミン、フェニルプロピルアミン、フェニルヘキシルアミン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロアニリン、4−(トリフルオロメチル)アニリン、トルイジン、1−(4−メチルフェニル)エチルアミン、1−ナフチルアミン、1−メチル−3−フェニルプロピルアミンまたはその組み合わせからなる群から選択された、1個の窒素原子を有する第一アミン、
【0042】
1個の窒素原子を有する第二アミン、例えばジメチルアミン、N−エチルメチルアミン、ジイソプロピルアミン、N−メチルアニリン、N−メチルシクロヘキシルアミン、4−トリフルオロメチル−N−メチルアニリン、N−ベンジルメチルアミン、N−エチルアニリン、N−メチルエタノールアミン、4−メトキシ−N−メチルアニリン、N−エチルシクロヘキシルアミン、N−エチルベンジルアミン、2−メトキシ−N−メチルベンジルアミン、ジフェニルアミン、N−シクロヘキシルアニリン、ジベンジルアミンまたはその組み合わせ、
【0043】
およびトリメチルアミン、N,N−ジメチルエチルアミン、N,N−ジエチルメチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N−メチルジプロピルアミン、6−(ジメチルアミノ)フルベン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチル−1−ナフチルアミン、N−ヘキシルアニリン、ジシクロヘキシルアミン、N−ベンジルアニリン、N,N−ジシクロヘキシルメチルアミン、N−ベンジル−N−エチルアニリン、N−ベンジル−N−ヒドロキシエチル−N−メチルアミンまたはその組み合わせからなる群から選択された、1個の窒素原子を有する第三アミンである。
【0044】
1つより多いカチオン性基を有する、本発明の文脈において好ましい配位子の他の群は、以下でポリアミンと称する1個より多い窒素原子を有するアミンである。多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基を前述のポリアミンと反応させることによって、グラフトオンポリマーを架橋させ、正の電荷担体の密度を窒素原子の第四級化により増大させることが可能である。
【0045】
特に好ましくは、ポリアミンは、エチレンジアミン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,8−ジアミノオクタン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、3−(ジメチルアミノ)−1−プロピルアミン、ジエチレントリアミン、N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、2−(アミノメチル)−2−メチル−1,3−プロパンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチルジメチルプロパンジアミン、
【0046】
N,N,N’−トリメチル−1,3−プロパンジアミン、トリエチレンテトラミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、4−アミノベンジルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、3,3’−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、トリス(ジメチルアミノ)メタン、4−(2−アミノエチル)アニリン、N,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、ビス[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]エーテル、テトラエチレン−ペンタアミン、500〜500000g/molの種々の分子量のポリエチレンイミン、
【0047】
N−ベンジルエチレンジアミン、N−シクロヘキシル−1,3−プロパンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロポキシ)ブタン、4,4’−オキシジアニリン、2−[2−(ジメチルアミノエチル)メチルアミノ]エタノール、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N,N−ジメチルピペラジン、アミノエチルピペラジン、1,4−ビス−(3−アミノプロピル)ピペラジン、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン、ジアザビシクロオクタン、アグマチン、S−トリアジンまたはその組み合わせからなる群から選択される。
【0048】
1個の、または1個より多い窒素原子を有する前述の配位子を用いる場合には、本発明の多糖類マトリックスを、好ましくは、配位子の窒素原子(1個または2個以上)との反応による開環反応に進入し、官能基としてエポキシ基を有する、少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物のグラフトにより調製する。この態様におけるエチレン系モノマー化合物として特に好ましいのは、グリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートである。
【0049】
1個より多い窒素原子を有する配位子の場合において、本発明の多糖類マトリックスのグラフトオンポリマーを、2個または3個以上の前記窒素原子によるエポキシ基の開環反応によって架橋することが可能であり、ここで前記架橋を、2つの異なるグラフトオンポリマー鎖のエポキシ基と分子間で、または同一のグラフトオンポリマー鎖のエポキシ基と分子内で行うことができる。
【0050】
1個より多い窒素原子、特に好ましくは2個の窒素原子を有するポリアミンを配位子として用いる本発明の他の変法において、エポキシ基の開環反応を、前記窒素原子の1個のみによって行い、一方開環反応に関与しない残余の窒素原子(1個または2個以上)は、本発明の多糖類マトリックス上のイオン交換基の密度の増大に寄与する。
【0051】
特に好ましくは、配位子として用いるポリアミンは、式(I)
N−B−NR (I)
で表される対称の、または非対称のポリアミンであり、ここで、基RNのみ、または他に基NRが、グラフトオンポリマーのエポキシ基との開環反応に進入するかを、架橋Bの長さおよび構造によって制御することが可能である。
【0052】
対称的なポリアミンの場合には、基RNおよびNRは、同一であり、架橋Bは対称的な構造を有し、すなわち架橋Bは、式(I)で表される環式の、または非環式の分子鎖を貫通する概念軸に垂直な鏡面を有する。2つのアミノ基の反応性は同一であり、これによってRNおよび基NRによるエポキシ基の二重の開環反応の可能性が増大する。
【0053】
これらの2つのアミノ基の1つのみによる反応に、架橋Bの長さおよび用いたジアミンの反応液中の濃度によって影響を及ぼすことができる。架橋Bが短く、反応液中のジアミンの濃度が高くなるに従って、基RNまたはNRの1つのみによる開環反応の可能性は大きくなる。あるいはまた、これらのアミノ基の1つを、好適な保護基によって、グラフトオンポリマーの官能基との反応から保護することができる。保護基をアミン中に導入する方法は、当業者に既知である("Protective Groups in Organic Synthesis", 第3版、Theodora W. Greene, Peter G.M. Wuts, 1999)。
【0054】
本発明の目的のために好ましい対称的なポリアミンの例は、例えばN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−プロパンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス[2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル]エーテル、テトラメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N’−ジメチルピペラジン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、オルトおよび/もしくはパラキシリレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ブタンジアミンまたは1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0055】
非対称ポリアミンの場合において、RNおよびNR基の置換基は、異なる。この結果、2つのアミノ基の反応性は異なるものとなる。結果として、1つのみのアミノ基RNまたはNRのグラフトオンポリマーとの反応が、優先的に起こる。
【0056】
非対称ジアミンの例は、例えば3−(ジメチルアミノ)−1−プロピルアミン、N,N,N’−トリメチル−1,3−プロパンジアミン、2−アミノ−5−ジエチルアミノペンタン、N,N−ジエチル−N’,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−N’,N’−ジメチル−1,2−プロパンジアミン、2−{[2−(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール、1−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジンまたはその組み合わせである。
【0057】
本発明の他の態様において、少なくとも1つのアニオン性基を有する配位子を用いる。特に好ましいのは、スルホン酸基を有する配位子である。これらのスルホン酸配位子を、例えば本発明の膜中に、SO2−アニオンまたはそれらの誘導体のグラフトオンポリマーのモノマー単位の官能基との反応によって導入することができ、これによって一部のまたはすべてのモノマー単位を、スルホン酸基(SOH基)によって官能化された、グラフトオンポリマーの繰り返し単位に変換することができる。この場合において、グラフトオンモノマー単位の官能基は、好ましくはエポキシ基である。特に好ましくは、エチレン系モノマー化合物は、グリシジルメタクリレートである。
【0058】
他の好ましい変法において、グラフトの後に、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基を、2種の異なる配位子と反応させることが可能であり、そのうち、第1の配位子はアニオン性基を有し、第2の配位子は疎水性基を有する。
【0059】
この場合において、グラフトオンポリマーの官能基は、好ましくは2種の異なる配位子と開環反応において反応するエポキシ基である。特に好ましくは、この態様において、グラフトオンポリマーを、グリシジルメタクリレートから生成する。
【0060】
特に好ましくは、第1の配位子は、スルホン酸基−SOHであり、それを、SO2−イオンまたはそれらの誘導体から出発して上記のように膜中に導入することができ、第2の配位子は、疎水性アリール部分を有するアニリンまたはスルファニル酸(4−アミノベンゼンスルホン酸)である。
最も好ましくは、第1の配位子はスルホン酸基であり、第2の配位子はスルファニル酸である。
【0061】
スルホン酸基およびスルファニル酸基の、この前述の配位子の組み合わせを有する本発明の膜の場合において、驚くべきことに、それらが、300mMまでのNaClの塩濃度において高いタンパク質結合能を尚有し、一方他の点では同一の条件下で調製したが、スルファニル酸を唯一の配位子として有するのみである比較の膜は、150〜300mMのNaClの塩濃度範囲において、タンパク質結合能を実質的に有しないことが見出された。したがって、スルホン酸およびスルファニル酸配位子を有する本発明の膜のこの態様は、汚染物質除去および生体分子濃縮のためのカチオン交換体として用いるのに特に適し、当該プロセスのためには、カチオン交換体は、それらの高い塩感受性のために現在まで使用可能ではなかった。
【0062】
少なくとも1種の配位子が相互作用することができる吸着質は、本発明の文脈において、1種または2種以上の標的物質および/またはバイオ技術プロセスの汚染物質を意味するものと理解されるべきである。吸着質は、個々の分子、関連するものまたは粒子であり得、当該場合において、それらは、好ましくはタンパク質、核酸、ウィルス、モノクローナル抗体または生体起源の他の物質である。
【0063】
吸着質の、本発明の多糖類マトリックスに結合した配位子との相互作用は、可逆的または不可逆であり得る;いずれの場合においても、吸着質を、好ましくは水性液体である流体から除去することが可能になる。標的物質は、濃縮されたかまたは純粋な形態の流体から回収されるべきである有用な物質である。汚染物質は、技術的な、規制上のまたは他の理由により流体からの除去が必要であるかまたは所望される物質である。「ネガティブな吸着」と称する汚染物質の除去について、吸着は、多糖類マトリックスを1回のみ用いるべきである場合には、不可逆的に進行することができる(進行し得る)。標的物質(1種または2種以上)の吸着の場合において、当該プロセスは、可逆的に進行しなければならない。単なる濃縮または2種または3種以上の標的物質への分離のいずれかを行うことができ、後者の場合において、吸着、脱着のいずれかまたは両方を、選択的に行うことができる。
【0064】
本発明の多糖類マトリックスを、好ましくは、共通の特徴として、遷移金属またはランタニド化合物の存在下での、および有機酸の存在下での少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物のグラフトを含む、2種の代替のプロセスによって調製する。
【0065】
本発明の多糖類マトリックスを調製する第1のプロセスは、以下のステップ:
A)少なくとも1つのカルボン酸基および/または、式中X=−O、−Sまたは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸で処理した、多孔質の多糖類出発マトリックスを提供すること、ならびに
B)ステップA)において提供したマトリックスに、遷移金属またはランタニド化合物および官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物を含む混合物をグラフトして、官能基を有するポリマーを生成し、それを、多糖類出発マトリックス上にグラフトすること、
を含む。
【0066】
本発明において、有機酸で処理した多糖類出発マトリックスを、ステップA)において、出発マトリックスの調製のためのキャスト溶液にすでに選択的に加えた有機酸によって、または、その調製の後に有機酸と接触させた多孔質の出発マトリックスの、本質的には全表面によって提供する。好ましくは、前記接触を、好適な溶媒、特に好ましくは水または水および有機溶媒の混合物中の有機酸の溶液と共に、出発マトリックスを浸漬、噴霧または含浸させることによって行う。多糖類出発マトリックスを基準とする有機酸の濃度は、0.03〜300mmolの酸/1kgの出発マトリックス、好ましくは0.1〜100mmolの酸/1kgの出発マトリックス、および最も好ましくは0.2〜20mmolの酸/1kgの出発マトリックスである。
【0067】
ステップB)におけるその後のグラフトを、好ましくは、遷移金属またはランタニド化合物、少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物および水もしくは少なくとも1種の有機溶媒もしくは乳化剤またはその混合物を含むグラフト液を用いて行う。グラフト液は、溶液またはエマルジョンの形態であり得る。遷移金属またはランタニド化合物のグラフト液中の濃度は、0.1〜100mmol/l、好ましくは0.5〜50mmol/l、および特に好ましくは2〜30mmol/lである。少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物のグラフト液中の濃度は、50重量%より低く、好ましくは20重量%より低く、最も好ましくは5重量%より低い。
【0068】
本発明の多糖類マトリックスを調製する前記第1のプロセスの1つの変法によれば、有機酸で処理した多孔質の多糖類出発マトリックスを、ステップA)において提供し、その後ステップB)を、モノマー化合物、遷移金属またはランタニド化合物、およびさらに有機酸を含むグラフト液を用いて行う。多糖類出発マトリックスを基準とする有機酸の濃度は、0.01〜300mmolの酸/1kgの出発マトリックス、好ましくは0.2〜100mmolの酸/1kgの出発マトリックス、および最も好ましくは0.3〜20mmolの酸/1kgの出発マトリックスであり、一方有機酸のグラフト液中の濃度は、0.01〜100mmol/l、好ましくは0.05〜30mmol/l、および最も好ましくは0.1〜3mmol/lである。
【0069】
この変法における遷移金属またはランタニド化合物のグラフト液中の濃度は、0.1〜100mmol/l、好ましくは0.5〜50mmol/l、および特に好ましくは2〜30mmol/lである。
【0070】
本発明の多糖類マトリックスを調製する第2のプロセスは、以下のステップ:
A)遷移金属またはランタニド化合物で処理した多孔質の多糖類出発マトリックスを提供すること、ならびに
B)ステップA)において提供したマトリックスに、少なくとも1つのカルボン酸基および/または、式中X=−O、−Sまたは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸、ならびに官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物を含む混合物をグラフトして、官能基を有するポリマーを生成し、それを多糖類出発マトリックス上にグラフトすること、
を含む。
【0071】
本発明によれば、遷移金属またはランタニド化合物で処理した多糖類出発マトリックスを、ステップA)において、遷移金属またはランタニド化合物と接触させた多孔質の出発マトリックスの、本質的には全表面によって提供する。
【0072】
好ましくは、前記接触を、好適な溶媒中の、特に好ましくは水または水および有機溶媒の混合物中の遷移金属またはランタニド化合物の溶液で出発マトリックスを浸漬、噴霧または含浸させることによって達成する。多糖類出発マトリックスを基準とする、遷移金属またはランタニド化合物の濃度は、0.2〜500mmol/1kgの出発マトリックス、好ましくは1〜200mmol/1kgの出発マトリックス、および最も好ましくは2〜100mmol/1kgの出発マトリックスである。
【0073】
ステップB)におけるその後のグラフトを、好ましくは有機酸、少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物および水もしくは少なくとも1種の有機溶媒またはその混合物を含むグラフト液を用いて行う。グラフト液は、溶液またはエマルジョンの形態であり得る。グラフト液中の有機酸の濃度は、0.01〜100mmol/l、好ましくは0.05〜30mmol/l、および特に好ましくは0.1〜3mmol/lである。
【0074】
グラフト液中の少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物の濃度は、50重量%より低く、好ましくは20重量%より低く、および最も好ましくは5重量%より低い。
【0075】
本発明の多糖類マトリックスを調製する2種の前述のプロセスにおいて、ステップB)におけるグラフトの後に、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基が、その後のステップC)において、流体中に存在する吸着質と相互作用することが可能である少なくとも1種の配位子と反応することが可能である。前記配位子は、好ましくは、上記で記載したようにカチオン性、アニオン性および/または疎水性基を有し、ステップB)においてグラフトしたポリマーのモノマー単位の官能基との「ポリマー類似反応」に進入することができ、したがって前記モノマー単位を、少なくとも1種の配位子によって官能化されたグラフトオンポリマーの繰り返し単位に変換する。あるいはまた、2種の異なる配位子を用いることができ、その中で第1の配位子はアニオン性基を有し、第2の配位子は疎水性基を有する。
【0076】
本発明の両方のプロセスにおいて、多糖類出発マトリックスは、好ましくはセルロースエステル、水和セルロース、セルロースエーテル、アガロース、キチン、キトサン、デキストランまたはその組み合わせからなる群から選択される。
【0077】
当該変法においてセルロースエステルを出発マトリックスとして用いる、本発明の多糖類マトリックスを調製するための本発明の2種のプロセスの他の変法は、多糖類マトリックスのエステル基を加水分解するための、塩基性媒体で多糖類マトリックス処理する追加のステップを含む。
【0078】
グラフトステップB)に、他のステップCにおいて少なくとも1種の配位子をポリマーの官能基と反応させることが続く1つの変法において、塩基性媒体での多糖類マトリックスの処理を、ステップC)の間またはステップC)の後に行う。
【0079】
ステップC)における配位子との反応を省略する他の変法において、湿潤しているかまたは乾燥している多糖類マトリックスの塩基性媒体での処理を、ステップBにおいてグラフトの後に行う。
【0080】
塩基性媒体での処理を、好ましくはアルカリ性化合物、特に好ましくはアルカリ金属水酸化物を含む水性媒体を用いて行う。特に好ましいのは、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液である。また、例えばアルカリ金属炭酸塩(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたは炭酸セシウム)、リン酸三ナトリウムおよび/またはリン酸三カリウムなどのアルカリ金属水酸化物および他のアルカリ性化合物の混合物を用いることが可能である。
【0081】
多糖類マトリックスの塩基性処理の条件を、好ましくは、グラフトオンポリマーのすべてのエポキシ基が加水分解されないか、またはわずかに加水分解されるに過ぎないように選択する。塩基性媒体中のアルカリ性化合物の濃度を、広範囲に変化させることができ、エポキシ基の保存、マトリックスのエステル基の加水分解反応またはポリマー類似反応が優先的に起こるように最適化する。本発明の1つの特に好ましい態様によれば、水および水酸化ナトリウムを含む塩基性媒体を用い、ここで溶液中の水酸化ナトリウムの濃度は、0.1〜10重量%の範囲内、特に好ましくは0.4〜4重量%の範囲内にある。
【0082】
塩基性媒体は、1種または2種以上の添加剤を含んでいてもよい。好適な添加剤は、特に、例えば塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムなどの塩または有機溶媒である。有機溶媒は、好ましくはアルコール、ケトンまたはエーテルからなる群から選択される。特に好ましいのは、エタノール、メタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、アセトン、ジオキサン、N−メチルピロリドン、ジグライムまたはその混合物である。
【0083】
本発明の多糖類マトリックスを物質分離において用いて、粒子状であり、コロイド状であり、溶解した成分を液体培体から除去する。除去するべき成分は、好ましくは所望されない生物的汚染物質である。特に好ましくは、除去するべき成分は、細胞培養溶液からの汚染物質、例えば細胞、細胞片、細胞タンパク質、DNA、ウィルス、内毒素などを含む。当該除去は、液体媒体からの所望されない生物的汚染物質の少なくとも1種を含み、一方液体媒体中に同様に存在する標的生成物を単離し、溶離液として精製する。本発明の目的のための標的生成物は、生体分子を意味するものと理解される。特に好ましくは、標的生成物は、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチドまたはホルモンを意味するものと理解される。液体媒体は、本発明の多糖類マトリックスを用いて除去するべき構成成分の接触を行うことを可能にするすべての媒体を意味するものと理解される。
【0084】
本発明の利点は、少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物および少なくとも1種の配位子の好適な選択によって、高いタンパク質結合能を有する、所望の具体的な物質分離用途のための多糖類マトリックスを提供することが可能になることである。
【0085】

本発明を、例によってより詳細に以下に説明するが、例は、いかなる方法によっても本発明を限定しない。
例におけるCA膜のすべての言及は、ポリエステル不織布で補強され、約3μmの孔径(”Capillary Flow Porometer 6.0” Coulter Porometer, CAPWIN Software System, Porous Materials Inc.を用いて測定したもの)および600〜700ml/(分*bar*cm)の水流量を有する、1種の酢酸セルロース膜を指す。本発明の膜および比較膜についてのすべての流量値を、pH=7.3における20mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/HCl(TRIS/HCl)緩衝液に対して、ml/(分*bar*cm)において報告する。すべての静的結合能値を、mg/cmにおいて報告する。
【0086】
mg/mlでの動的結合能を、多糖類マトリックスの流出における吸着質の濃度が、流入における吸着質の濃度の定義された割合である時点までの、本発明の多糖類マトリックスに(溶液として)通じた吸着質の量として定義する。実用上の理由によって、10%の流入濃度を報告する。
他に明記しない限り、百分率は重量による。
【0087】
例1:有機酸で処理したCA膜上へのグリシジルメタクリレートのグラフト、架橋剤、ランタニド化合物をグラフト液中に有しない変法
240cmの合計面積を有する8枚の円形のCA膜シートを、逆浸透(RO)水で湿潤させ、RO水で10分間洗浄し、次に、1000gの、水中、表1に列挙した有機酸0.1mmolの溶液に10分間浸漬した。その後、膜を、循環空気乾燥キャビネット中で、80℃にて15分間乾燥した。有機酸で処理した240cmのCA膜を、22℃の温度に調整した反応容器のガス空間中に固定した。14.6gのグリシジルメタクリレートおよび0.45gのArlatone(登録商標)G(Atlas)を、最初に反応容器に投入し、30分間膜と共に窒素をガス供給した。
【0088】
1.5gの硫酸Ce(IV)、5.0gの20%強度の硫酸および478gのRO水を含む溶液に、30分間窒素をガス供給し、窒素下で反応容器に移送した。当該混合物を、5分間撹拌した。その後、反応容器のガス空間からの膜を、溶液中に浸漬し、約5秒後、溶液からガス空間に移送して戻した。さらに20分後、膜を、先ず5分間0.2%強度の硫酸水溶液で、次に10分間流れるRO水で洗浄した。その後、膜を、0.5MのNaOH中で30分間振盪し、流れるRO水で10分間洗浄した。
【0089】
比較例1:
表1の比較膜を、例1に従って調製したが、グラフトを行う前に、表1からの有機酸の1種でのCA膜の処理を、行わなかった。
【0090】
表1は、有機酸で処理しなかったが、先ず例1に従って、次に例5に従って他の方法で同様に反応させた、円形のCA膜シート(「比較膜」)と比較した、例1に従ってグラフトし、例5に従って第四級アンモニウム基と反応させた膜の、流量およびウシ血清アルブミンについての容量に関するデータを含む。有機酸で処理した膜を用いることによって、用いた有機酸がクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、アスコルビン酸、D−グルクロン酸または乳酸である場合に、BSAについての静的結合能を、比較膜と比較して1.5〜8.4倍増大させることが可能である。
【0091】
【表1】

【0092】
例2:有機酸で処理したCA膜上へのグリシジルメタクリレートのグラフト、架橋剤、ランタニド化合物をグラフト液中に有する変法
240cmの合計面積を有する8枚の円形のCA膜シートを、RO水で湿潤させ、RO水で10分間洗浄し、次に、1000gの、水中のクエン酸0.1mM溶液に10分間浸漬した。その後、膜を、循環空気乾燥キャビネット中で、80℃にて15分間乾燥した。240cmのCA膜を、22℃の温度に調整した反応容器のガス空間中に固定した。14.5gのグリシジルメタクリレート、0.07gのエチレングリコールジメタクリレートおよび0.45gのArlatone(登録商標)G(Atlas)を、最初に反応容器に投入し、30分間膜と共に窒素をガス供給した。
【0093】
1.5gの硫酸Ce(IV)、5.0gの20%強度の硫酸および478gのRO水を含む溶液に、30分間窒素をガス供給し、窒素下で反応容器に移送した。当該混合物を、5分間撹拌した。その後、反応容器のガス空間からの膜を、当該溶液中に浸漬し、約5秒後、溶液からガス空間に移送して戻した。さらに20分後、膜を、先ず5分間0.2%強度の硫酸水溶液で、次に10分間流れるRO水で洗浄した。その後、膜を、0.5MのNaOH中で30分間振盪し、流れるRO水で10分間洗浄した。
【0094】
例3:ランタニド化合物で処理したCA膜上へのグリシジルメタクリレートのグラフト、架橋剤、有機酸をグラフト液中に有する変法
240cmの合計面積を有する8枚の円形のCA膜シートを、RO水で湿潤させ、RO水で10分間洗浄し、1.5gの硫酸セリウム(IV)、5.0gの20%強度の硫酸および478gのRO水を含む500gの溶液に5分間浸漬した。その後、膜を、循環空気乾燥キャビネット中で、60℃にて15分間乾燥した。240cmのCA膜を、22℃の温度に調整した反応容器のガス空間中に固定した。10.0gのグリシジルメタクリレート、0.05gのエチレングリコールジメタクリレート、0.05gのクエン酸および490gのRO水を含む溶液に、反応容器のガス空間中の膜と共に、30分間窒素をガス供給した。
【0095】
その後、反応容器のガス空間からの膜を、溶液中に浸漬し、約5秒後、溶液からガス空間に移送して戻した。さらに20分後、膜を、500gの0.2%強度の硫酸中で10分間振盪した。その後、膜を、流れるRO水で10分間洗浄した。その後、膜を、0.5MのNaOH中で30分間振盪し、流れるRO水で10分間洗浄した。
【0096】
例4:酸で処理したCA膜上への2種の異なるモノマー(グリシジルメタクリレートおよびベンジルメタクリレート)のグラフト、架橋剤、ランタニド化合物をグラフト液中に有する変法
240cmの合計面積を有する8枚の円形のCA膜シートを、RO水で湿潤させ、RO水で10分間洗浄し、次に、1000gの、水中のクエン酸0.1mM溶液に10分間浸漬した。その後、膜を、循環空気乾燥キャビネット中で、80℃にて15分間乾燥した。240cmのCA膜を、22℃の温度に調整した反応容器のガス空間中に固定した。13.5gのグリシジルメタクリレート、0.07gのエチレングリコールジメタクリレート、1.0gのベンジルメタクリレートおよび0.45gのArlatone(登録商標)G(Atlas)を、最初に反応容器に投入し、30分間膜と共に窒素をガス供給した。
【0097】
1.5gの硫酸Ce(IV)、5.0gの20%強度のHSOおよび478gのRO水を含む溶液に、30分間窒素をガス供給し、窒素下で反応容器に移送した。当該混合物を、5分間撹拌した。その後、反応容器のガス空間からの膜を、当該溶液中に浸漬し、約5秒後、溶液からガス空間に移送して戻した。さらに20分後、膜を、流れるRO水で10分間洗浄した。その後、膜を、0.5MのNaOH中で30分間振盪し、流れるRO水で10分間洗浄した。
【0098】
例5:配位子(第四級アンモニウム基)を導入するポリマー類似反応
例1、2および3からのグラフト膜を、トリメチルアミンの10%強度の水溶液で30℃にて35分間、および5%強度の硫酸水溶液で室温にて5分間連続的に処理し、次に流水で10分間洗浄した。
【0099】
例6:配位子(スルホン酸基)を導入するポリマー類似反応
例1からの膜を、380gのNaSO、40.0gのNaHPO・HO、100gのテトラブチルアンモニウム二硫酸塩および1200gの水を含む溶液中で、32%強度の水酸化ナトリウム水溶液でpH 8.0に調整し、80℃にて45分間処理し、次に流水で10分間、35gの1%強度の塩酸水溶液で5分間、30gの1M NaCl水溶液で各々の回において2×5分間、500gの5%強度の硫酸水溶液で5分間、および流水で10分間洗浄した。
【0100】
例7:2種の異なる配位子(スルホン酸基およびフェニルアミノ基)を導入するポリマー類似反応
18重量%のNaSO、1重量%のアニリン、5重量%のテトラブチルアンモニウム二硫酸塩、2重量%のNaHPO・2HO(32%強度のNaOHでpH8に調整したもの)を含む312gの水溶液を、35℃に加熱した。例1からの膜を加え、反応溶液を、35℃にて16時間撹拌した。膜を、次に、流れるRO水で10分間、200gの5%強度の硫酸水溶液で15分間、200gの50mMのNaSO水溶液で2×10分間、流れるRO水で5分間、300gのエタノールで2×10分間および最後に流れるRO水で5分間洗浄した。
【0101】
例8:配位子(スルホン酸基)を導入するポリマー類似反応
例2からの膜を、例6に記載したように反応させた。
【0102】
比較例2:
配位子(スルファニル酸基)を導入するポリマー類似反応
RO水中のスルファニル酸(4−アミノベンゼンスルホン酸)の2%強度の溶液を、32%強度のNaOHでpH 11.3に調整した。例2からの膜を加え、反応溶液を65℃にて3時間撹拌した。膜を、流れるRO水で10分間、200gの5%強度の硫酸水溶液で15分間、200gの50mMのNaSO水溶液で2×10分間、流れるRO水で5分間、300gのエタノールで2×10分間および最後に流れるRO水で25分間洗浄した。
【0103】
例9:2種の異なる配位子(スルホン酸基およびスルファニル酸基)を導入するポリマー類似反応
例6に記載したスルホン化溶液を、溶解した構成成分の出発濃度の2/3までRO水で希釈し、次に、希釈したスルホン化溶液中のスルファニル酸含量が2重量%または4重量%となるまで、スルファニル酸(Aldrich S5263)と混合した。スルファニル酸が溶解した後、pHを、32%強度のNaOHで11.3に調整した。例2からの膜を加え、反応溶液を65℃にて3時間撹拌した。膜を、流れるRO水で10分間、200gの5%強度の硫酸水溶液で15分間、200gの50mMのNaSO水溶液で2×10分間、流れるRO水で5分間、300gのエタノールで2×10分間および最後に流れるRO水で25分間洗浄した。
【0104】
例10:グラフトオンポリマーの架橋を伴って第四級アンモニウム基を導入するポリマー類似反応
例1の膜を、10重量%のトリメチルアミンおよび2.5重量%のジアザビシクロオクタンを含む水溶液中で30℃にて35分間、および5%強度の硫酸中で室温にて5分間処理し、次に流水で10分間洗浄した。
【0105】
例11:第二および第三アミノ基を有する配位子を導入するポリマー類似反応
例1からの膜を、N−ジエチル−N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミンの20%強度の水溶液中で60℃にて1時間、および5%強度の硫酸中で室温にて5分間処理し、次に流水で10分間洗浄した。
【0106】
例12:第三アミノ基を有する配位子を導入するポリマー類似反応
例2からの膜を、N,N−ジメチルベンジルアミンの1%強度の水溶液中で60℃にて1時間、および5%強度の硫酸中で室温にて5分間連続的に処理し、次に流水で10分間洗浄した。
【0107】
膜の評価:
得られた膜を、以下に記載するように評価した。
1)流量決定
12.5cmの活性膜面積を有する膜を、各々ケーシング中に取り付け、100mlの緩衝液(10mMのKPi緩衝液(KHPO溶液をKHPO溶液と混合することにより調製した、pH=7.0を有する0.01mol/リットルのリン酸カリウム緩衝液)および1MのNaCl水溶液を含む混合物であり、7.0のpHに調整したもの)を濾過する時間を測定した。配位子と反応した膜についての表2に示した流量値は、pH=7.3における対応するTRIS/HCl緩衝液に関連する。同一の緩衝液を、以下に記載する結合能決定に関して用いた。
【0108】
2)アミン配位子を有する正に荷電した膜の静的結合能の決定
各々の場合において17.6cmの活性膜面積を有する膜を、35mlの20mMのTRIS/HCl(pH7.3)中で3×5分間、毎分約80回転(rpm)にて振盪した。その後、膜を、20mMのTRIS/HCl(pH=7.3)中の2mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)溶液(Kraeber, Ellerbeck, 注文番号041 80 10 900、ロット番号49 09 20 52)の溶液35ml中で、12〜18時間、20〜25℃にて約80rpmにて振盪した。その後、膜を、各々の場合において35mlの20mMのTRIS/HCl(pH=7.3)で2×15分間洗浄した。その後、膜試料を、20mMのTRIS/HClの溶液および1Mの塩化ナトリウム水溶液を含む20mlの混合物中で、pH=7.3にて振盪した。溶出したウシ血清アルブミンの量を、280nmにて光学濃度(OD)を測定することにより決定した。
【0109】
3)例6、7、8および9ならびに比較例2による、スルホン酸および/またはスルファニル酸配位子を有する負に荷電した膜の静的結合能の決定
各々の場合において17.6cmの活性膜面積を有する膜を、35mlの10mMのKPi緩衝液(pH7.0)中で、3×5分間約80rpmにて振盪した。その後、膜を、10mMのKPi緩衝液(pH7.6)中の2mg/mlのリゾチーム(Sigma Aldrich Chemie, Taufkirchen, 注文番号L6876、ロット番号114K0626)の溶液35ml中で、12〜18時間、20〜25℃にて約80rpmにて振盪した。その後、膜を、2×15分間、各々の場合において35mlの10mMのKPi緩衝液(pH7.0)で洗浄した。その後、膜を、10mMのKPi緩衝液および1M塩化ナトリウム水溶液を含む20mlの混合物(pH=7.3)中で振盪した。溶出したリゾチームの量を、280nmにて光学濃度(OD)を測定することにより決定した。
【0110】
4)例8および9による、ならびに比較例2による負に荷電した膜の、150mMおよび300mMのNaClの種々の濃度における静的結合能の決定
比較例2による、ならびに例8および9による膜の静的結合能を、以下の方法によって決定した:各々の場合において17.6cmの活性膜面積を有する膜を、35mlの20mMの緩衝酢酸溶液(pH=5.0、150mMまたは300mMのNaCl濃度に選択的に調整したもの)中で、3×5分間約80回転/分にて振盪した。その後、膜を、20mMの緩衝酢酸溶液(pH=5.0、150mMまたは300mMのNaCl濃度に選択的に調整したもの)中の1mg/mlのグロブリンG-5009 Sigma(Sigma Aldrich Chemie、由来:ウシ血液)の溶液35ml中で、12〜18時間、20〜25℃にて約80回転/分にて振盪した。
【0111】
その後、膜を、各々の場合において、35mlの20mMの緩衝酢酸溶液(pH=5.0、150mMまたは300mMのNaCl濃度に選択的に調整したもの)で、2×15分間処理した。その後、膜を、各々の場合において20mlの20mMの緩衝酢酸溶液(pH=5.0+1MのNaCl)中で振盪した。溶出したグロブリンの量を、280nmにて光学濃度(OD)を測定することにより決定した。
【0112】
5)アミン配位子を有する正に荷電した膜の静的結合能の決定
膜の3つの層を、膜ホルダー中に固定した。積層膜(membrane stack)は、15cmの膜面積、5cmの流量面積および750μmの層高(bed height)(積層膜の厚さ)を、膜ホルダーに有していた。膜ホルダー中の膜を、20mMのTRIS/HCl緩衝液(pH=7.3)で浸し、空気を置換し、次にGeneral Electric Health Careからの「Aekta(登録商標) Explorer 100」FPLCシステムに接続した。
【0113】
その後、膜または積層膜を、BSA(ウシ血清アルブミン)結合に関して、2つのステップを含む試験プログラムを用いて試験した。試験プログラムの2つのステップを、以下のように規定する:
1.pH=7.3における10mlの50mMの20mMのTRIS/HCl緩衝液との膜の平衡
2.UV検出器中の濃度が出発濃度の10%となるまで、pH=7.3における20mMのTRIS/HCl緩衝液中の1mg/mlのBSAで膜に負荷をかける。
【0114】
両方のステップを、10ml/分の流速にて行った。すべてのステップにおいて、280nmにおける吸光度を、膜ユニットの後方のUV検出器において測定した。このようにしてプロットした破過曲線の上方の面積を、死容積を減算した後に積分し、したがって10%破過における動的結合能を、計算した。
【0115】
以下の表2は、グラフトオンポリマー上の官能基を配位子と反応させた、本発明の膜に関するデータを含む。項目「例1、5」は、例えば、出発膜を先ず例1に従って反応させ、その後例5に従って配位子とさらに反応させたことを意味する。
【0116】
【表2A】

【0117】
【表2B】

* 20mMのTRIS/HCl緩衝液を用いてpH=7.3にて測定した、1barにおける1cmの流量面積および1cmの高さを有する積層膜を通過した流量
** 10%DBC=10%破過における動的結合能
膜の厚さを考慮した、cmでの膜面積を基準とした容量の、mlでの膜容積を基準とした容量への換算
【0118】
図1は、表2B)の項目1)、5)および9)に従って調製した膜の、ウシ血清アルブミンについての破過曲線を示す。Y軸は、流出における濃度c(BSA)と流入における濃度c(BSA)の比を示し、一方X軸は、BSAでの負荷を示す。
【0119】
以下の表3は、アニオン性基を有する少なくとも1つの配位子を有する、比較例2の膜、ならびに本発明の例8および9による膜についてのデータを含む。スルファニル酸配位子を有するに過ぎない比較例2の膜は、グロブリンについての、およびリゾチームについての極めて低い静的結合能のみを示し、一方スルホン酸およびスルファニル酸基の両方を配位子として有する膜は、高い塩濃度においてもリゾチームおよびグロブリンについての高い静的結合能を示す。
【0120】
【表3A】

【0121】
【表3B】

* 20mMの緩衝酢酸溶液 pH=5.0+150mMのNaClを用いて測定した流量
** 例9によるスルホン化溶液中での重量%単位でのスルファニル酸の濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類マトリックスであって、表面上に、官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物から由来するグラフトオンポリマーが固定され、
・多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類出発マトリックスに、
・少なくとも1つのカルボン酸基および/または式中X=−O、−Sもしくは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸、ならびに
・遷移金属またはランタニド化合物
の存在下で、
・官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物を
グラフトして、
官能基を有するポリマーを生成し、それを、多糖類開始マトリックス上にグラフトする
ことによって調製される、前記多孔質であり、非粒子状であり、対流的に透過性の多糖類マトリックス。
【請求項2】
多糖類出発マトリックスが多糖類からなる、請求項1に記載の多糖類マトリックス。
【請求項3】
多糖類出発マトリックスが多糖類コーティングを有する多孔質担体である、請求項1に記載の多糖類マトリックス。
【請求項4】
多孔質担体が、ポリアミド、ポリ(エーテル)スルホン、ポリビニリデンジフルオリド、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、それらのコポリマーまたはその混合物からなる群から選択されたポリマーからなる、請求項3に記載の多糖類マトリックス。
【請求項5】
多糖類が、セルロースエステル、セルロースエーテル、水和セルロース、アガロース、キチン、キトサン、デキストランまたはその組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の多糖類マトリックス。
【請求項6】
少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物が、(メタ)アクリル酸誘導体であり、エチレン系モノマー化合物の官能基が、イオノゲン性基、疎水性基および/またはエポキシ基である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の多糖類マトリックス。
【請求項7】
遷移金属またはランタニド化合物が、セリウム、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、バナジウム化合物またはその組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の多糖類マトリックス。
【請求項8】
少なくとも1つのカルボン酸基および/または少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、アスコルビン酸、グルクロン酸、乳酸またはその組み合わせからなる群から選択され、ここでX=−Oである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多糖類マトリックス。
【請求項9】
グラフトの後に、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基を、流体中に存在する吸着質と相互作用することが可能である少なくとも1種の配位子と反応させる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の多糖類マトリックス。
【請求項10】
配位子が、カチオン性、アニオン性および/または疎水性基を含む、請求項9に記載の多糖類マトリックス。
【請求項11】
グラフトの後に、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基を、2種の異なる配位子と反応させ、そのうち、第1の配位子がアニオン性基を含み、第2の配位子が疎水性基を含む、請求項10に記載の多糖類マトリックス。
【請求項12】
第1の配位子が、スルホン酸基またはスルホン酸基に変換可能な基を含み、第2の配位子が、アニリンまたは4−アミノベンゼンスルホン酸である、請求項11に記載の多糖類マトリックス。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の多糖類マトリックスを調製するプロセスであって、以下のステップ:
A)少なくとも1つのカルボン酸基および/または、式中X=−O、−Sまたは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸で処理した、多孔質の多糖類出発マトリックスを提供すること、ならびに
B)ステップA)において提供したマトリックスに、遷移金属またはランタニド化合物および官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物を含む混合物をグラフトして、官能基を有するポリマーを生成し、それを、多糖類出発マトリックス上にグラフトすること
を含む、前記プロセス。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の多糖類マトリックスを調製するプロセスであって、以下のステップ:
A)遷移金属またはランタニド化合物で処理した多孔質の多糖類出発マトリックスを提供すること、ならびに
B)ステップA)において提供したマトリックスに、少なくとも1つのカルボン酸基および/または、式中X=−O、−Sまたは−Nである少なくとも1つの酸性XH基を有する有機酸、ならびに官能基を有する少なくとも1種のエチレン系モノマー化合物を含む混合物をグラフトして、官能基を有するポリマーを生成し、それを多糖類出発マトリックス上にグラフトすること
を含む、前記プロセス。
【請求項15】
ステップB)におけるグラフトの後に、多糖類出発マトリックス上にグラフトしたポリマーの官能基を、その後のステップC)において、流体中に存在する吸着質と相互作用することが可能である少なくとも1種の配位子と反応させる、請求項13または14に記載のプロセス。
【請求項16】
多糖類が、セルロースエステル、水和セルロース、セルロースエーテル、アガロース、キチン、キトサン、デキストランおよび/またはその組み合わせからなる群から選択される、請求項13〜15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
多糖類がセルロースエステルであり、マトリックスをさらに、ステップB)の後、ステップC)の間またはステップC)の後に塩基性媒体で処理する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の多糖類マトリックスの、物質分離のための使用。
【請求項19】
請求項12に記載の多糖類マトリックスを、カチオン交換体として生体分子を精製するために用いる、請求項18に記載の多糖類マトリックスの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2012−530147(P2012−530147A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514367(P2012−514367)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002496
【国際公開番号】WO2010/142363
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(507266912)ザトーリウス ステディム ビオテーク ゲーエムベーハー (10)
【Fターム(参考)】