説明

グラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物

【課題】低温環境下においても耐衝撃性に優れ、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性にも優れた成形品を得ることができ、かつ、流動性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびこの熱可塑性樹脂組成物の材料として好適なグラフト共重合体を提供する。
【解決手段】エチレン単位の含有率が40〜65質量%であるエチレン・プロピレン共重合体、および酸変性オレフィン重合体を含むオレフィン樹脂水性分散体を架橋処理した架橋オレフィン樹脂水性分散体の存在下で、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物を乳化重合したグラフト共重合体であって、グラフト率が25〜60質量%である、グラフト共重合体、および該グラフト共重合体と硬質成分とを含有する熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばバンパー、ドアミラー、リアスポイラーなどの自動車外装部品等に好適なグラフト共重合体および熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バンパー、ドアミラー、リアスポイラーなどの自動車外装部品等には熱可塑性樹脂組成物などの成形品が使用されている。自動車外装部品用途の成形品には、耐衝撃性(特に、低温環境下における耐衝撃性)が高いことが求められ、その要求を満たす材料として、例えばABS樹脂、ASA樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。さらに、ABS樹脂のうち、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体およびマレイミド系単量体からなる硬質共重合体と、共役ジエン系ゴムの存在下で芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を共重合させて得たグラフト共重合体とからなる耐熱性ABS樹脂が使用されることもある。
【0003】
また、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体の存在下に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体を含有するAES樹脂を使用することもある。このAES樹脂は、主鎖に二重結合を持たないエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体をゴム成分として用いているため、共役ジエン系ゴムを用いたABS樹脂に比べ、紫外線、酸素およびオゾンに対する抵抗力が大きく、耐候性に優れ、外装部品に適している。
【0004】
AES樹脂としては、例えばエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を乳化グラフト重合して得たグラフト共重合体を含むものが提案されている(特許文献1参照)。また、特定のゲル含量のエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体に特定の製法で芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を乳化グラフト重合して得たグラフト共重合体を含むものが提案されている(特許文献2、3参照)。
また、乳化重合法によりビニル系単量体をエチレン・α−オレフィン共重合体にグラフト重合する方法も知られている(特許文献4参照)。
【0005】
ところで、自動車外装部品では、耐衝撃性、耐候性に優れることだけでなく、高級な製品の意匠性に合わせた高い外観品質が求められ、具体的には高発色性、高光沢性、高表面平滑性(成形品表面にフィッシュアイ等の凹凸が少ないこと)が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−291913号公報
【特許文献2】特開昭63−291942号公報
【特許文献3】特開昭63−291943号公報
【特許文献4】特開2004−231969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のAES樹脂は製造安定性に優れるものの、これらAES樹脂より得られた成形品の低温環境下での耐衝撃性、耐候性などの物性バランスは、必ずしも要求レベルに達するものではなかった。また、これらAES樹脂は、流動性(成形加工性)にも劣るものであった。
また、特許文献4に記載の方法の場合、高いグラフト率でグラフト共重合体が得られるのは、二重結合を有するエチレン・α−オレフィン共重合体へのグラフト共重合体に限られており、得られる成形品の低温環境下での耐衝撃性、光沢性などは満足できるものではなかった。
【0008】
本発明は、低温環境下においても耐衝撃性に優れ、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性にも優れた成形品を得ることができ、かつ、流動性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびこの熱可塑性樹脂組成物の材料として好適なグラフト共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] エチレン単位の含有率が40〜65質量%であるエチレン・プロピレン共重合体、および酸変性オレフィン重合体を含むオレフィン樹脂水性分散体を架橋処理した架橋オレフィン樹脂水性分散体の存在下で、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物を乳化重合したグラフト共重合体であって、グラフト率が25〜60質量%である、グラフト共重合体。
[2] 前記架橋オレフィン樹脂水性分散体の架橋度が30〜80質量%である、[1]に記載のグラフト共重合体。
[3] 前記架橋オレフィン樹脂水性分散体の50%粒子径が0.25〜0.5μmである、[1]または[2]に記載のグラフト共重合体。
[4] 前記架橋オレフィン樹脂水性分散体55〜75質量%の存在下で、前記ビニル系単量体混合物25〜45質量%(ただし、架橋オレフィン樹脂水性分散体とビニル系単量体混合物の合計が100質量%である。)を乳化重合した、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のグラフト共重合体。
[5] [1]〜[4]のいずれか一項に記載のグラフト共重合体と、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む硬質共重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリ乳酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の硬質成分とを含有する、熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、低温環境下においても耐衝撃性に優れ、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性にも優れた成形品を得ることができ、かつ、流動性が良好な熱可塑性樹脂組成物、およびこの熱可塑性樹脂組成物の材料として好適なグラフト共重合体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
「グラフト共重合体(F)および熱可塑性樹脂組成物(H)」
本発明のグラフト共重合体(F)は、エチレン・プロピレン共重合体(A)および酸変性オレフィン重合体(B)を含むオレフィン樹脂水性分散体(C)を架橋処理した架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の存在下で、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物(E)を乳化重合したものである。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物(H)は、本発明のグラフト共重合体(F)と、特定の硬質成分(G)とを含有する。
以下、本発明のグラフト共重合体(F)および熱可塑性樹脂組成物(H)を構成する各成分について説明する。なお、以下において、「成形品」とは、本発明の熱可塑性樹脂組成物(H)を成形してなるものである。
【0012】
<エチレン・プロピレン共重合体(A)>
本発明においては、成形品が低温環境下でも優れた耐衝撃性を発現できるために、エチレン単位の含有率が特定の範囲にあるエチレン・プロピレン共重合体(A)を用いることが重要である。
エチレン・プロピレン共重合体(A)は、エチレンとプロピレンを公知の重合方法により共重合することにより得られる、エチレン単位とプロピレン単位からなる共重合体であり、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどからなる非共役ジエン単位を含まない。
例えば、エチレン・プロピレン共重合体(A)の代わりに、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体を用いた場合には、成形品の低温環境下での耐衝撃性、耐候性が低下する。
また、エチレン・プロピレン共重合体(A)の代わりに、エチレン・1−ブテン共重合体や、エチレン・1−オクテン共重合体を用いた場合には、成形品の耐衝撃性、光沢性が低下する。
【0013】
エチレン・プロピレン共重合体(A)のエチレン単位の含有率は、エチレン単位とプロピレン単位の合計を100質量%としたときに、40〜65質量%である。
エチレン単位の含有率が40質量%よりも低い場合には、成形品の低温環境下での耐衝撃性が劣る。また、エチレン単位の含有率が65質量%よりも高い場合には成形品の低温環境下での耐衝撃性、光沢性が低下する。
【0014】
本発明で用いられるエチレン・プロピレン共重合体(A)は、その製造方法が限定されるものではないが、通常、チーグラー・ナッタ触媒、またはメタロセン触媒を用いて製造されたものが使用される。
チーグラー・ナッタ触媒としては、高活性触媒が好ましく、特にマグネシウム、チタン、ハロゲン、電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物を組み合わせた高活性触媒が好ましい。
【0015】
メタロセン触媒としては、ジルコニウム、ハフニウム、チタンなどの遷移金属にシクロペンタジエニル骨格を有する有機化合物、ハロゲン原子などが配位したメタロセン錯体と、アルモキサン化合物、イオン交換性珪酸塩、有機アルミニウム化合物などを組み合わせた触媒が使用できる。
【0016】
また、エチレン・プロピレン共重合体(A)を重合する際の重合方法としては、スラリー重合法、気相重合法、バルク重合法、溶液重合法、またはこれらを組み合わせた多段重合法などが挙げられる。
【0017】
<酸変性オレフィン重合体(B)>
酸変性オレフィン重合体(B)としては、質量平均分子量が1,000〜5,000のポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン重合体を、官能基を有する化合物で変性したものが好ましく、具体的には、不飽和カルボン酸化合物で変性されたポリエチレン等が挙げられる。
ここで、不飽和カルボン酸化合物としては、例えばアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸およびマレイン酸モノアミドが挙げられる。
この酸変性オレフィン重合体(B)がオレフィン樹脂水性分散体(C)に含まれることで、乳化安定性を高くできる。
【0018】
オレフィン樹脂水性分散体(C)中の酸変性オレフィン重合体(B)の含有量は、エチレン・プロピレン共重合体(A)100質量部に対して0.1〜30質量部であることが好ましい。酸変性オレフィン重合体(B)の含有量が上記範囲内であれば、オレフィン樹脂水性分散体(C)の製造安定性および成形品の耐衝撃性、発色性がより向上する。
【0019】
<オレフィン樹脂水性分散体(C)>
オレフィン樹脂水性分散体(C)を調製する方法としては、公知の溶融混練手段でエチレン・プロピレン共重合体(A)と酸変性オレフィン重合体(B)を溶融混練し、機械的剪断力を与えて分散させ、その混練物を、乳化剤を含む水性媒体に添加する方法等が挙げられる。この方法によれば、安定なオレフィン樹脂水性分散体(C)を得ることができる。
オレフィン樹脂水性分散体(C)の調製方法における溶融混練手段としては特に制限はないが、ニーダー、バンバリーミキサー、多軸スクリュー押出機などが好ましい。
【0020】
オレフィン樹脂水性分散体(C)の調製の際に用いることができる乳化剤としては、通常用いられるものであればよく、例えば、長鎖アルキルカルボン酸塩、スルホコハク酸アルキルエステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等の公知のものが挙げられる。
また、乳化剤の使用量は、得られる熱可塑性樹脂組成物(H)の熱着色を抑制でき、オレフィン樹脂水性分散体(C)の粒子径制御が容易であることから、例えば乳化剤としてオレイン酸カリウムを用いる場合にはエチレン・プロピレン共重合体(A)100質量部に対して1〜8質量部が好ましい。
【0021】
オレフィン樹脂水性分散体(C)の体積基準の50%粒子径は、成形品の物性バランスが優れることから、0.25〜0.5μmであることが好ましく、0.3〜0.45μmであると特に好ましい。
50%粒子径が上記範囲内であれば、成形品の耐衝撃性、発色性がより向上する。
オレフィン樹脂水性分散体(C)の50%粒子径を制御する方法としては、乳化剤の種類または使用量、酸変性オレフィン重合体(B)の種類または含有量、混練時に加える剪断力、温度条件等を調整する方法が挙げられる。
【0022】
<架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)>
架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)は、オレフィン樹脂水性分散体(C)を架橋処理することにより得られる。
架橋処理の方法としては、オレフィン樹脂水性分散体(C)と有機過酸化物を60℃以上で加熱する方法などが挙げられ、有機過酸化物の添加量、過熱温度、加熱時間などを調節することにより架橋度を容易に調整することができる。
また、その他の架橋処理の方法としては、電離性放射線による架橋処理法など、公知の架橋処理法を使用できる。
なお、オレフィン樹脂水性分散体(C)を架橋処理した架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の50%粒子径は、オレフィン樹脂水性分散体(C)の50%粒子径に対して変化はない。
【0023】
オレフィン樹脂水性分散体(C)の架橋処理に使用できる有機過酸化物としては、パーオキシエステル化合物、パーオキシケタール化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物などの有機過酸化物が挙げられる。
パーオキシエステル化合物の具体例としては、α,α’−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエイト、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエイト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエイト、t−ブチルパーオキシネオデカノエイト、t−ヘキシルパーオキシピバレイト、t−ブチルパーオキシピバレイト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエイト、t−ヘキシルパーオキシ2−ヘキシルヘキサノエイト、t−ブチルパーオキシ2−ヘキシルヘキサノエイト、t−ブチルパーオキシイソブチレイト、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエイト、t−ブチルパーオキシラウレイト、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネイト、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネイト、t−ヘキシルパーオキシベンゾエイト、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテイト、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエイト、t−ブチルパーオキシベンゾエイト、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレイトなどが挙げられる。
【0024】
パーオキシケタール化合物の具体例としては、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレイト、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。
【0025】
ジアルキルパーオキサイド化合物の具体例としては、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などが挙げられる。
【0026】
これら有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記の有機過酸化物の中でも、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド化合物が特に好ましい。t−ブチルクミルパーオキサイドの使用量の目安は、オレフィン樹脂水性分散体(C)の固形分100質量部に対して、通常0.1〜10質量部の範囲である。
【0027】
また、オレフィン樹脂水性分散体(C)を架橋処理する際には、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の架橋度を調整するために、多官能性化合物を添加してもよい。
多官能性化合物としては、例えばジビニルベンゼン、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレンジメタクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
これら多官能性化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記の多官能性化合物の中でも、ジビニルベンゼンが好ましい。ジビニルベンゼンの使用量の目安は、オレフィン樹脂水性分散体(C)の固形分100質量部に対して、通常0〜10質量部の範囲である。
【0028】
架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の架橋度は、成形品の耐衝撃性と発色性の観点から30〜80質量%が好ましく、低温環境下での耐衝撃性の観点から40〜60質量%が特に好ましい。
架橋度は、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)を希硫酸にて凝固させ、水洗乾燥して得られる凝固粉試料[D1]0.5gを、200mL、110℃のトルエン中に5時間浸漬し、次いで、200メッシュ金網にて濾過し、残渣を乾燥し、その乾燥物[D2]の質量を測定し、下記式(1)のように求められる。
架橋度(質量%)=乾燥物質量[D2](g)/凝固粉試料質量[D1](g)×100 ・・・(1)
【0029】
<ビニル系単量体混合物(E)>
ビニル系単量体混合物(E)は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を必須成分として含み、これらと共重合可能な他のビニル系単量体を任意成分として含む混合物である。
【0030】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、およびo−,p−ジクロロスチレン等が挙げられる。
これら芳香族ビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記の芳香族ビニル系単量体の中でも、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0031】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
これらシアン化ビニル系単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記のシアン化ビニル系単量体の中でも、アクリロニトリルが好ましい。
【0032】
他のビニル系単量体の例としては、アクリル系単量体およびマレイミド系単量体が挙げられる。
アクリル系単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピルおよびアクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステルや、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピレンおよびメタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸ブチルまたはメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
マレイミド系単量体としては、例えばマレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのN−置換マレイミド系単量体等が挙げられる。
【0033】
ビニル系単量体混合物(E)の組成は、熱可塑性樹脂組成物(H)の流動性や、成形品の耐衝撃性、熱安定性などの物性バランスに優れることから、芳香族ビニル系単量体が60〜82質量%、シアン化ビニル系単量体が18〜40質量%、他のビニル系単量体が0〜22質量%(ただし、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、他のビニル系単量体の合計が100質量%)であることが好ましい。
【0034】
<グラフト共重合体(F)>
グラフト共重合体(F)は、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の存在下でビニル系単量体混合物(E)を乳化重合することにより得られる。
乳化重合以外の方法、例えば溶液重合によりグラフト共重合体(F)を製造した場合には、成形品の耐衝撃性、光沢性、発色性、表面平滑性が低下する。
【0035】
グラフト共重合体(F)は、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)55〜75質量%(固形分)の存在下で、ビニル系単量体混合物(E)25〜45質量%(ただし、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)とビニル系単量体混合物(E)の合計が100質量%)を乳化重合することが好ましい。架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)が55〜75質量%(固形分)であれば、熱可塑性樹脂組成物(H)の流動性や、成形品の耐衝撃性、光沢性、発色性の物性バランスがより向上する。
【0036】
本発明においては、流動性に優れた熱可塑性樹脂組成物(H)、および耐衝撃性、発色性、光沢性のバランスが優れた成形品を得る目的から、グラフト共重合体(F)のグラフト率を制御することが重要である。
グラフト共重合体(F)のグラフト率は、25〜60質量%である。グラフト率が25質量%未満の場合には、成形品の耐衝撃性、発色性、光沢性が低下する。一方、グラフト率が60質量%を超える場合には、得られる熱可塑性樹脂組成物(H)の流動性が低下する。
【0037】
グラフト共重合体(F)のグラフト率は、以下のようにして測定できる。
まず、グラフト共重合体(F)を含有する水性分散体20gをイソプロピルアルコール80gにて凝固し、真空乾燥機にて乾燥し粉状のグラフト共重合体(F)の凝固物を得る。
ついで、グラフト共重合体(F)の凝固物1gを80mLのアセトンに添加し、65〜70℃ にて3時間加熱還流し、得られた懸濁アセトン溶液を遠心分離機にて14,000rpm、30分間遠心分離して、沈殿成分(アセトン不溶成分)とアセトン溶液(アセトン可溶成分)を分取する。そして、沈殿成分(アセトン不溶成分)を乾燥させてその質量(Y(g))を測定し、下記式(2)によりグラフト率を算出する。なお、式(2)におけるYは、グラフト共重合体(F)のアセトン不溶成分の質量(g)、XはYを求める際に使用したグラフト共重合体(F)の全質量(g)、ゴム分率はグラフト共重合体(F)の架橋オレフィン樹脂水性分散体の固形分の含有割合である。
グラフト率(質量%)={(Y−X×ゴム分率)/X×ゴム分率}×100 ・・・(2)
【0038】
グラフト共重合体(F)の製造方法としては、例えば、ビニル系単量体混合物(E)にレドックス系開始剤を混合した上で、ビニル系単量体混合物(E)を1時間以上にわたって、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)に連続的に添加する乳化重合が挙げられる。ビニル系単量体混合物(E)の添加時間が1時間未満の場合、グラフト率が低下する傾向にある。また、重合の際に、連鎖移動剤、乳化剤等を状況に応じて用いてもよい。
なお、グラフト共重合体(F)に必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。
【0039】
レドックス系開始剤としては、油溶性有機過酸化物と硫酸第一鉄−キレート剤−還元剤とを組み合わされたものが好ましい。
油溶性有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
より好ましいレドックス系開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイドと、硫酸第一鉄と、ピロリン酸ナトリウムと、デキストロースとからなるものである。
【0040】
連鎖移動剤としては、メルカプタン類(オクチルメルカプタン、n−,t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−,t−テトラデシルメルカプタン等)、アリルスルフォン酸、メタアリルスルフォン酸及びこれ等のソーダー塩等のアリル化合物、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらの中でもメルカプタン類が好ましい。また、これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の添加方法は、一括、分割、連続のいずれでもよい。
また、連鎖移動剤の添加量は、ビニル単量体混合物(E)を100質量部に対し、2.0質量部以下が好ましい。
【0041】
乳化剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸スルホン酸塩、リン酸系塩、脂肪酸塩、アミノ酸誘導体塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、通常のポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、アニオン部にカルボン酸塩、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩等を有し、カチオン部にアミン塩、第4級アンモニウム塩等を有するものが挙げられる。
乳化剤の添加量は、ビニル単量体混合物(E)を100質量部に対し、10質量部以下が好ましい。
【0042】
このようにして得られるグラフト共重合体(F)は、水中に分散した状態である。グラフト共重合体を含有する水性分散体からグラフト共重合体(F)を回収する方法としては、例えば水性分散体に析出剤を添加し、加熱、攪拌した後、析出剤を分離し、これを水洗、脱水、乾燥する析出法が挙げられる。
析出法における析出剤としては、例えば硫酸、酢酸、塩化カルシウムまたは硫酸マグネシウム等の水溶液が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0043】
以上説明した本発明のグラフト共重合体(F)は、特定の架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の存在下で、特定のビニル系単量体混合物(E)を乳化重合したものであるため、低温環境下においても耐衝撃性に優れ、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性にも優れた成形品を得ることができ、かつ、流動性が良好な熱可塑性樹脂組成物の材料として好適である。
【0044】
<熱可塑性樹脂組成物(H)>
熱可塑性樹脂組成物(H)は、上述した本発明のグラフト共重合体(F)と、硬質共重合体(G1)、ポリカーボネート(G2)、アクリル樹脂(G3)、ポリアミド(G4)、ポリ乳酸(G5)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の硬質成分(G)とを含有する。
【0045】
(硬質共重合体(G1))
硬質共重合体(G1)は、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル系単量体を必須成分として含み、これらと共重合可能な他のビニル系単量体を任意成分として含む混合物からなる共重合体である。
芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、他のビニル系単量体の具体例としては、ビニル系単量体混合物(E)の説明において先に例示した芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、他のビニル系単量体が挙げられる。
【0046】
硬質共重合体(G1)の組成には特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体25〜85質量%、シアン化ビニル系単量体10〜40質量%、およびこれらの単量体と共重合可能な他のビニル系単量体0〜65質量%を構成単位として含む(ただし、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、他のビニル系単量体の合計が100質量%)ものが、得られる熱可塑性樹脂組成物(H1)の流動性、および成形品の耐衝撃性、発色性等の物性バランスの観点から好ましい。
【0047】
硬質共重合体(G1)の製造には、乳化重合や懸濁重合等の重合法が採用される。
硬質共重合体(G1)を乳化重合で製造する場合、反応器内に各単量体と乳化剤と重合開始剤と連鎖移動剤とを仕込み、加熱して重合し、重合後に得られた硬質共重合体(G1)を含む水性分散体から析出法により硬質共重合体(G1)を回収する。
ここで、乳化剤としては、ロジン酸カリウムおよびアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の一般的な乳化重合用乳化剤を用いることができる。また、重合開始剤としては、有機、無機の過酸化物系開始剤を用いることができ、連鎖移動剤としては、メルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、テルペン類等を用いることができる。
析出法としては、グラフト重合後に得られる水性分散体からグラフト共重合体(F)を回収するときと同様の方法を採用できる。
【0048】
硬質共重合体(G1)を懸濁重合で製造する場合、反応器内に各単量体と懸濁剤と懸濁助剤と重合開始剤と連鎖移動剤とを仕込み、加熱して重合し、得られたスラリーを脱水、乾燥して硬質共重合体(G1)を回収する。
ここで、懸濁剤としては、トリカルシウムフォスファイト、ポリビニルアルコール等を用いることができ、懸濁助剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等が用いることができる。また、重合開始剤としては、有機パーオキサイド類を用いることができ、連鎖移動剤としては、メルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、テルペン類等を用いることができる。
【0049】
(ポリカーボネート(G2))
ポリカーボネート(G2)としては、例えば、1種以上のビスフェノール類と、ホスゲンまたは炭酸ジエステルとの反応によって得られるものが挙げられる。
ビスフェノール類としては、例えば、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシフェニル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−アルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−シクロアルカン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルフィド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−エーテル、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、あるいはこれらのアルキル置換体、アリール置換体、ハロゲン置換体等が挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、いわゆるビスフェノールAを原料としたビスフェノールA系ポリカーボネートが容易に入手できるという点から、好ましい。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
ポリカーボネート(G2)とグラフト共重合体(F)を含有する熱可塑性樹脂組成物(H2)を成形した成形品は、特に耐衝撃性が優れる。
なお、熱可塑性樹脂組成物(H2)は、第3成分として硬質共重合体(G1)を含んでもよい。
【0051】
(アクリル樹脂(G3))
アクリル樹脂(G3)は、メタクリル酸エステル系単量体もしくはアクリル酸エステル系単量体を必須成分として含み、任意成分としてこれら単量体と共重合可能なその他のビニル系単量体を重合してなる。
【0052】
メタクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、およびこれらの誘導体等が挙げられ、これらの中でも特にメタクリル酸メチルが好ましい。
アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、およびこれらの誘導体等が挙げられ、これらの中でも特にアクリル酸メチルが好ましい。
共重合可能なその他のビニル系単量体としては、ビニル系単量体混合物(E)の説明において先に例示した芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、マレイミド系単量体などが挙げられる。
メタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、その他のビニル系単量体は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0053】
アクリル樹脂(G3)とグラフト共重合体(F)を含有する熱可塑性樹脂組成物(H3)を成形した成形品は、特に発色性が優れる。
なお、熱可塑性樹脂組成物(H3)は、第3成分として硬質共重合体(G1)を含んでもよい。
【0054】
(ポリアミド(G4))
ポリアミド(G4)としては、例えばジアミンとジカルボン酸とから得られるポリアミドが挙げられる。
ここで、ジアミンとしては、例えばエチレンジアミン、ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−および2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−および1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、芳香族ジアミンが挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0055】
なお、ポリアミド(G4)として、例えばξ−カプロラクタム、ω−ドデカラクタムなどのラクタム類の開環重合によって得られるポリアミド、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などから得られるポリアミドおよびこれらの共重合ポリアミド、混合ポリアミド、さらにはポリアミドをハードセグメントとし、かつポリエーテルをソフトセグメントとするポリアミドエラストマーなどを用いてもよい。これらの中でも、工業的に安価かつ大量に製造されていることから、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリドデカアミド(ナイロン12)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、およびこれらの共重合体、例えばナイロン6/66(”/”印は共重合体であることを意味する。以下、同様。)、ナイロン6/610、ナイロン6/12、ナイロン66/12、ナイロン6/66/610/12、およびこれらの混合体などが好ましい。また、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン/テレフタル酸/イソフタル酸系のポリアミドも好ましい。
【0056】
ポリアミド(G4)とグラフト共重合体(F)を含有する熱可塑性樹脂組成物(H4)は、特に流動性が優れる。また、熱可塑性樹脂組成物(H4)を成形した成形品は、特に耐衝撃性が優れる。
なお、熱可塑性樹脂組成物(H4)は、第3成分として硬質共重合体(G1)を含んでもよい。
【0057】
(ポリ乳酸(G5))
ポリ乳酸(G5)は、乳酸の縮合体であれば特に限定されるものではなく、L乳酸であっても、D乳酸であっても、それらが共重合やブレンドにより交じり合ったものでもよい。これらは、乳酸を直接脱水縮重合する方法、或いはラクチドを開環重合する方法等といった、公知の手段で得ることができる。
ポリ乳酸は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0058】
なお、ポリ乳酸は、乳酸とその他の単量体との共重合体であってもよい。乳酸と共重合し得るその他の単量体としては、例えばジカルボン酸類、ジオール類等が挙げられる。
ジカルボン酸類としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スベリン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−ジシクロヘキサン−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、イタコン酸、マレイン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、およびこれらのエステル形成誘導体等が挙げられる。
ジオール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、チオジエタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジ−、トリ−、テトラ−プロピレングリコール等が挙げられる。 その他の単量体は、1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
ポリ乳酸(G5)とグラフト共重合体(F)を含有する熱可塑性樹脂組成物(H5)は、特に流動性が優れる。また、熱可塑性樹脂組成物(H5)を成形した成形品は、特に耐衝撃性、発色性の物性バランスが優れる。
なお、熱可塑性樹脂組成物(H5)は、第3成分として硬質共重合体(G1)を含んでもよい。
【0060】
(その他の成分)
本発明の熱可塑性樹脂組成物(H)は、必要に応じて酸化防止剤、滑剤、加工助剤、顔料、充填剤、シリコンオイル、パラフィンオイルなどの添加剤を含有してもよい。
【0061】
(熱可塑性樹脂組成物(H)の製造方法)
熱可塑性樹脂組成物(H)は、本発明のグラフト共重合体(F)と、上述した硬質共重合体(G1)、ポリカーボネート(G2)、アクリル樹脂(G3)、ポリアミド(G4)、ポリ乳酸(G5)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の硬質成分(G)とを混合することで得られる。
具体的には、グラフト共重合体(F)および硬質成分(G)と、必要に応じて各種添加剤を混合することで容易に製造される。また、必要に応じて、例えば押出機、バンバリーミキサーまたは混練ロール等にてペレット化してもよい。
【0062】
熱可塑性樹脂組成物(H)は、その流動性、および得られる成形品の耐衝撃性などの物性バランスが優れることから、グラフト共重合体(F)と硬質成分(G)の合計100質量部に対し、グラフト共重合体(F)の含有量が3〜45質量部、硬質成分(G)の含有量が55〜97質量部であることが好ましい。
【0063】
以上説明したように、本発明の熱可塑性樹脂組成物(H)は、上述した本発明のグラフト共重合体(F)と硬質成分(G)とを含有するので、流動性に優れるとともに、低温環境下においても耐衝撃性に優れ、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性にも優れた成形品を得ることができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物(H)を成形した成形品は耐衝撃性に優れるだけでなく、発色性が高いものであり、着色する場合に適している。熱可塑性樹脂組成物を着色する場合には、添加剤として、例えば、着色顔料、染料、カーボンブラック、酸化チタンなどの着色剤を使用できる。
【0064】
<成形品>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(H)より得られる成形品は、例えば射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法などの成形方法により、熱可塑性樹脂組成物(H)を成形加工してなる。
本発明により得られる成形品は、低温環境下においても耐衝撃性に優れ、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性にも優れる。このような成形品は、例えばバンパー、ドアミラー、リアスポイラーなどの自動車外装部品等に好適であるが、それ以外の用途にも適用できる。
【実施例】
【0065】
以下、具体的に実施例を示す。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。また、以下に記載の「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
以下の実施例および比較例における各種測定および評価方法は以下の通りである。
【0066】
[測定方法]
<ガラス転移温度の測定方法>
ガラス転移温度は、粘弾性測定装置(Anton Paar社製、「MCR301」)を用い、1Hzにおける損失弾性率G”の低温領域でのピークトップを測定することにより求めた。
【0067】
<酸価の測定方法>
JIS K5902に準拠し測定した。
【0068】
<50%粒子径の測定方法>
マイクロトラック(日機装社製、「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒として純水を用いて、体積基準の50%粒子径を測定した。
【0069】
<架橋度の測定方法>
架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)を希硫酸にて凝固させ、水洗乾燥して得られる凝固粉試料[D1]0.5gを、200mL、110℃のトルエン中に5時間浸漬し、次いで、200メッシュ金網にて濾過し、残渣を乾燥し、その乾燥物[D2]の質量を測定し、下記式(1)から、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の架橋度を求めた。
架橋度(質量%)=乾燥物質量[D2](g)/凝固粉試料質量[D1](g)×100 ・・・(1)
【0070】
<グラフト率の測定方法>
グラフト重合体単体(F)のグラフト率は、以下のようにして測定した。
まず、グラフト共重合体(F)を含有する水性分散体20gをイソプロピルアルコール80gにて凝固し、真空乾燥機にて乾燥し粉状のグラフト共重合体(F)の凝固物を得た。
ついで、グラフト共重合体(F)の凝固物1gを80mLのアセトンに添加し、65〜70℃ にて3時間加熱還流し、得られた懸濁アセトン溶液を遠心分離機(日立工機社製、「CR21E」)にて14,000rpm、30分間遠心分離して、沈殿成分(アセトン不溶成分)とアセトン溶液(アセトン可溶成分)を分取した。そして、沈殿成分(アセトン不溶成分)を乾燥させてその質量(Y(g))を測定し、下記式(2)によりグラフト率を算出した。なお、式(2)におけるYは、グラフト共重合体(F)のアセトン不溶成分の質量(g)、XはYを求める際に使用したグラフト共重合体(F)の全質量(g)、ゴム分率はグラフト共重合体(F)の架橋オレフィン樹脂水性分散体の固形分の含有割合である。
グラフト率(質量%)={(Y−X×ゴム分率)/X×ゴム分率}×100 ・・・(2)
【0071】
[評価方法]
<溶融混練>
任意の配合でグラフト共重合体(F)と硬質成分(G)を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押し出し機(池貝社製、「PCM30」)で220℃、93.325kPa真空にて溶融混練を行い、熱可塑性樹脂組成物を得た。また、必要に応じて溶融混練後に、ペレタイザー(創研社製、「SH型ペレタイザー」)を用いてペレット化を行った。
【0072】
(メルトボリュームレート(MVR)の測定)
熱可塑性樹脂組成物について、ISO 1133規格に従い測定した。なお、MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性の目安となる。
【0073】
<射出成形>
溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(東芝機械社製、「IS55FP−1.5A」)によりシリンダー温度200〜255℃、金型温度60℃の条件で、曲げ弾性率およびシャルピー衝撃試験用の試験片と、3mm厚の平板を成形した。
【0074】
(曲げ弾性率の測定)
試験片について、曲げ弾性率をISO 178規格に従い測定した。
【0075】
(耐衝撃性の評価:シャルピー衝撃試験)
試験片について、ISO 179に従い、23℃、または−30℃の条件でシャルピー衝撃試験(ノッチ付)を行い、シャルピー衝撃強度を測定した。
【0076】
(光沢性の評価)
3mm厚の平板について、デジタル変角光沢計(スガ試験機社製、「UGV−5D」)にて入射角60°、反射角60°の条件で測定した。
【0077】
(耐候性の評価)
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機社製)を用い、上記射出成形により得た3mm厚の平板を、ブラックパネル温度;63℃、サイクル条件;60分(降雨:12分)の環境下に1,000時間暴露した。そして、デジタル変角光沢計(スガ試験機社製、「UGV−5D」)を用いて、1,000時間の暴露前後の平板の光沢を測定し、下記式で表される光沢保持率(%)を求めた。
光沢保持率(%)=(暴露後の板の光沢)/(暴露前の板の光沢)×100
そして、光沢保持率を下記基準で判定した。
○:光沢保持率が80%以上であり、耐候性に優れていた。
×:光沢保持率が80%未満であり、耐候性が低かった。
【0078】
(発色性の評価)
溶融混練時に熱可塑性樹脂組成物100部に対してカーボンブラック(三菱化学社製、「♯966」)0.5部を添加して3mm厚の平板を成形した。この平板について、測色計(ミノルタ社製、「CM−508D」)によりL*を測定し、発色性の目安とした。なお、L*が低いほど、発色性が良いことを示す。
【0079】
(表面平滑性の評価)
溶融混練して得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを、成形温度200℃、ブロー比1.4の条件で、厚み30μmのフィルムを空冷インフレーション成形した。このフィルムについて、長径が0.1mm以上のフィッシュアイの個数を目視で数え、その個数を単位質量g当たりの個数に換算し、下記基準で判定し、成形品の表面平滑性の目安とした。
○:単位質量g当たり、フィッシュアイが3個未満で表面平滑性が優れていた。
×:単位質量g当たり、フィッシュアイが3個以上で表面平滑性が悪かった。
【0080】
[各種成分]
以下の例では、下記の(A)成分、オレフィン樹脂水性分散体成分(C)、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)、グラフト共重合体(F)、硬質成分(G)を用いた。
【0081】
<(A)成分:エチレン・プロピレン共重合体(A)またはその代替品>
(エチレン・プロピレン共重合体(A−1)の調製)
重合器にトルエンを仕込んだ後に、メチルアルミノオキサンおよびジクロライドチタンからなる重合触媒と、エチレンとプロピレンを表1に示す添加部数で添加し、40℃で30分間重合した。その後、得られた反応液から溶媒、重合触媒を分離し、ガラス転移温度−52℃のエチレン・プロピレン共重合体(A−1)を得た。
【0082】
(エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体(A−2)〜(A−3)の調製)
重合器にトルエンを仕込んだ後に、メチルアルミノオキサンおよびジクロライドチタンからなる重合触媒と、プロピレン、エチレン、非共役ポリエンである5−エチリデン−2−ノルボルネンを表1に示す添加部数で添加し、40℃で30分間重合した。その後、得られた反応液から溶液、重合触媒を分離し、表1に示すガラス転移温度のエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体(A−2)〜(A−3)を得た。
【0083】
(エチレン・1−ブテン共重合体(A−4)の調製)
重合器にヘキサンを仕込んだ後に、エチレンと1−ブテンの混合ガスを表1に示す添加部数で添加すると共に水素ガスを供給し、オキシ三塩化バナジウムとエチルアルミニウムセスキクロリドを重合触媒として用いて、40℃で1時間重合した。
次いで、得られた反応溶液から溶液、重合触媒を分離し、ガラス転移温度−52℃のエチレン・1−ブテン共重合体(A−4)を得た。
【0084】
(エチレン・1−オクテン共重合体(A−5)の調製)
重合器にヘキサンを仕込んだ後に、エチレンと1−オクテンの混合ガスを表1に示す添加部数で添加すると共に水素ガスを供給し、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリドとメチルアルミノキサンのトルエン溶液を重合触媒として用いて、70℃で1時間重合した。
次いで、得られた反応溶液から溶媒、重合触媒を分離し、ガラス転移温度−52℃のエチレン・1−オクテン共重合体(A−5)を得た。
【0085】
(エチレン・プロピレン共重合体(A−6)〜(A−9)の調製)
表1に示すようにエチレンとプロピレンの添加部数を変更した以外は、エチレン・プロピレン共重合体(A−1)と同様にして、エチレン・プロピレン共重合体(A−6)〜(A−9)を得た。各エチレン・プロピレン共重合体(A−6)〜(A−9)のガラス転移温度を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
<オレフィン樹脂水性分散体成分(C)>
(オレフィン樹脂水性分散体(C−1)の調製)
エチレン・プロピレン共重合体(A−1)100部と、酸変性オレフィン重合体(B)として無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製、「三井ハイワックス 2203A」、質量平均分子量:2,700、酸価:30mg/g)(B−1)15部と、アニオン系乳化剤としてオレイン酸カリウム3部とを混合した。
次いで、この混合物を二軸スクリュー押出機(池貝社製、「PCM−30型」L/D=40)のホッパーより4kg/時間で供給し、水酸化カリウム14%水溶液を240g/時間で連続的に供給しながら、220℃に加熱して溶融混練し、得られた溶融混練物を押出した。
引き続き、溶融混練物を同押出機先端に取り付けた冷却装置に連続的に供給し、90℃まで冷却した。取り出した固体を80℃の温水中に投入し、連続的に分散させて、50%粒子径が0.38μmのオレフィン樹脂水性分散体(C−1)を得た。
【0088】
(オレフィン樹脂水性分散体(C−2)〜(C−9)の調製)
表2に示すように、A成分として(A−1)を(A−2)〜(A−9)へ変更した以外は、オレフィン樹脂水性分散体(C−1)と同様にして、オレフィン樹脂水性分散体(C−2)〜(C−9)を得た。各オレフィン樹脂水性分散体(C−2)〜(C−9)の50%粒子径を表2に示す。
【0089】
(オレフィン樹脂水性分散体(C−10)〜(C−15)の調製)
酸変性オレフィン重合体(B−1)の添加部数を表3に示すように変更し、水酸化カリウム水溶液の供給量を調整した以外は、オレフィン樹脂水性分散体(C−1)と同様にして、オレフィン樹脂水性分散体(C−10)〜(C−15)を得た。各オレフィン樹脂水性分散体(C−10)〜(C−15)の50%粒子径を表3に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
<架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)>
(架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)の調製)
架橋オレフィン樹脂水性分散体(C−1)の固形分100部に対して、有機過酸化物としてt−ブチルクミルパーオキサイドを0.7部、多官能性化合物としてジビニルベンゼンを1部添加し、130℃で5時間反応させて、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)を調製した。この架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)の架橋度を測定したところ52%であった。
【0093】
(架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−2)〜(D−9)の調製)
表4に示すようにオレフィン樹脂水性分散体(C)の種類とt−ブチルクミルパーオキサイドの添加部数を変更した以外は、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)と同様にして、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−2)〜(D−9)を得た。各架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−2)〜(D−9)の架橋度を測定した結果を表4に示す。
【0094】
(架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−10)〜(D−17)の調整)
表5に示すようにt−ブチルクミルパーオキサイドの添加部数を変更した以外は、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)と同様にして、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−10)〜(D−17)を得た。各架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−10)〜(D−17)の架橋度を測定した結果を表5に示す。
【0095】
(架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−18)〜(D−23)の調製)
表6に示すようにオレフィン樹脂水性分散体(C)の種類を変更した以外は、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)と同様にして、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−18)〜(D−23)を得た。各架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−18)〜(D−23)の架橋度を測定した結果を表6に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
<グラフト共重合体(F)>
(グラフト共重合体(F−1)の調製)
攪拌機付きステンレス重合槽に、イオン交換水180部、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)を固形分として70部、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部およびデキストロース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。次に、アクリロニトリル10.26部、スチレン19.74部およびクメンハイドロパーオキサイド0.6部を150分連続的に添加し、重合温度を80℃一定に保ち乳化重合を行った。重合後、得られたグラフト共重合体(F−1)を含有する水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、粉状のグラフト共重合体(F−1)を得た。グラフト共重合体(F−1)のグラフト率を測定したところ30%であった。
【0100】
(グラフト共重合体(F−2)〜(F−9)、(F−13)〜(F−20)、(F−25)〜(F−30)の調製)
表7〜9に示すように架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の種類を変更した以外は、グラフト共重合体(F−1)と同様にして、グラフト共重合体(F−2)〜(F−9)、(F−13)〜(F−20)、(F−25)〜(F−30)を得た。各グラフト共重合体(F−2)〜(F−9)、(F−13)〜(F−20)、(F−25)〜(F−30)のグラフト率を測定した結果を表7〜9に示す。
【0101】
(グラフト共重合体(F−10)の調製)
攪拌機付きステンレス重合槽に、架橋オレフィン体樹脂水性分散(D−1)を希硫酸で凝固し、水洗乾燥して得られる凝固粉58部、キシレン180部、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部およびデキストロース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。次に、アクリロニトリル14.4部、スチレン27.6部およびクメンハイドロパーオキサイド0.6部を150分連続的に添加し、重合温度を80℃一定に保ち溶液重合を行った。重合後、得られたグラフト共重合体(F−10)を含有するトルエン溶液に酸化防止剤を添加し、水蒸気蒸留により残留単量体、トルエンなどの揮発分を留去した後に、細かく粉砕することで粉状のグラフト共重合体(F−10)を得た。グラフト共重合体(F−10)のグラフト率を測定したところ30%であった。
【0102】
(グラフト共重合体(F−11)〜(F−12)の調製)
表8に示すように架橋オレフィン樹脂水性分散体(D)の種類を変更した以外は、グラフト共重合体(F−10)と同様にして、グラフト共重合体(F−11)〜(F−12)を得た。各グラフト共重合体(F−11)〜(F−12)のグラフト率を測定した結果を表8に示す。
【0103】
(グラフト共重合体(F−21)の調製)
攪拌機付きステンレス重合槽に、イオン交換水180部、架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)を固形分として58部、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部およびデキストロース0.35部を仕込み、温度を80℃とした。次に、アクリロニトリル14.4部、スチレン27.6部およびクメンハイドロパーオキサイド0.6部を40分連続的に添加し、重合温度を80℃一定に保ち乳化重合を行った。重合後、得られたグラフト共重合体(F−21)を含有する水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、洗浄、脱水、乾燥の工程を経て、粉状のグラフト共重合体(F−21)を得た。グラフト共重合体(F−21)のグラフト率を測定したところ23%であった。
【0104】
(グラフト共重合体(F−22)の調製)
アクリロニトリル、スチレン、クメンハイドロパーオキサイドの添加時間を70分に変更した以外は、グラフト共重合体(F−21)と同様にして、グラフト共重合体(F−22)を得た。グラフト共重合体(F−22)のグラフト率を測定したところ27%であった。
【0105】
(グラフト共重合体(F−23)の調製)
アクリロニトリル、スチレン、クメンハイドロパーオキサイドの添加時間を250分に変更した以外は、グラフト共重合体(F−21)と同様にして、グラフト共重合体(F−23)を得た。グラフト共重合体(F−23)のグラフト率を測定したところ58%であった。
【0106】
(グラフト共重合体(F−24)の調製)
アクリロニトリル、スチレン、クメンハイドロパーオキサイドの添加時間を500分に変更した以外は、グラフト共重合体(F−21)と同様にして、グラフト共重合体(F−24)を得た。グラフト共重合体(F−24)のグラフト率を測定したところ62%であった。
【0107】
(グラフト共重合体(F−31)〜(F−34)の調製)
表10に示すように架橋オレフィン樹脂水性分散体(D−1)、スチレン、アクリロニトリルの添加部数を変更した以外は、グラフト共重合体(F−1)と同様にして、グラフト共重合体(F−31)〜(F−34)を得た。各グラフト共重合体(F−31)〜(F−34)のグラフト率を測定した結果を表10に示す。
【0108】
【表7】

【0109】
【表8】

【0110】
【表9】

【0111】
【表10】

【0112】
<硬質成分(G)>
(硬質共重合体(G1−1)の調製)
窒素置換した攪拌機付きステンレス重合反応槽反応器に、イオン交換水120部、ポリビニルアルコール0.1部、アゾビスイソブチロニトリル0.3部、アクリロニトリル34部、スチレン66部、t−ドデシルメルカプタン0.3部を仕込んだ。そして、反応器の温度50℃ にして5時間重合した後、120℃ に昇温し4時間反応した後に抜き出し、洗浄、乾燥することにより粉状の硬質共重合体(G1−1)を得た。
【0113】
(硬質共重合体(G1−2)の調製)
窒素置換した攪拌機付きステンレス重合反応槽反応器に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.003部、アクリロニトリル28部、スチレン26部、α−メチルスチレン36部、N−フェニルマレイミド10部、ベンゾイルパーオキサイド0.7部、t−ブチルパーオキシベンゾエート0.07部、リン酸カルシウム0.6部、t−ドデシルメルカプタン0.4部、イオン交換水120部を仕込んだ。そして、反応器の温度を80℃まで昇温し、この温度で8時間重合した後、120℃まで昇温し2時間重合させた後に抜き出し、洗浄、乾燥することにより粉状の硬質共重合体(G1−2)を得た。
【0114】
(ポリカーボネート(G2−1))
ポリカーボネート(G2−1)として、ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチック社製、「ユーピロンS−3000F」)を用いた。
【0115】
(アクリル樹脂(G3−1)の調製)
窒素置換した反応器に水120部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾビスイソブチルニトリル0.3部、t−ドデシルメルカプタン(t−DM)0.5部と、メタクリル酸メチル98部及びアクリル酸メチル2部からなる単量体混合物を加え、開始温度60℃として5時間加熱後、120℃に昇温し、4時間重合した後に抜き出し、洗浄、乾燥することにより粉状のアクリル樹脂(G3−1)を得た。
【0116】
(ポリアミド(G4−1))
ポリアミド(G4−1)として、ナイロン−6(宇部興産社製、「1013B」を用いた。
【0117】
(ポリ乳酸(G5−1))
ポリ乳酸(G5−1)として、ポリ乳酸(三井化学社製、「レイシアH100」)を用いた。
【0118】
[実施例1]
粉状のグラフト共重合体(F−1)25部と粉状の硬質共重合体(G1−1)75部を混合し、30mmφの真空ベント付き2軸押し出し機(池貝社製、「PCM30」)で220℃、93.325kPa真空にて溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を調製した。得られた熱可塑性樹脂組成物のMVRを測定した。結果を表11に示す。
また、得られた熱可塑性樹脂組成物をペレット化し、試験片、3mm厚の平板、厚み30μmのフィルムを成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。結果を表11に示す。
【0119】
[実施例2〜11、14〜19]
表11、12に示すようにグラフト共重合体(F)の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表11、12に示す。
【0120】
[実施例12〜13、20〜23]
表12に示すようにグラフト共重合体(F)の種類と添加部数、および硬質共重合体(G1−1)の添加部数を変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表12に示す。
【0121】
[実施例24]
表13に示すように硬質成分(G)の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表13に示す。
【0122】
[実施例25、26]
表13に示すように硬質成分(G)の種類を変更し、溶融混練の条件を260℃、93.325kPaに変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表13に示す。
【0123】
[実施例27、29]
表13に示すように硬質成分(G)の種類を変更し、溶融混練の条件を230℃、93.325kPaに変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表13に示す。
【0124】
[実施例28]
表13に示すように硬質成分(G)の種類を変更し、溶融混練の条件を250℃、93.325kPaに変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表13に示す。
【0125】
[比較例1〜6]
表14に示すようにグラフト共重合体(F)の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表14に示す。
【0126】
[比較例7〜11]
表14に示すようにグラフト共重合体(F)の種類と添加部数、および硬質共重合体(G1−1)の添加部数を変更した以外は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を調製し、MVRを測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて各種成形品を成形し、曲げ弾性率を測定し、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性、表面平滑性を評価した。これらの結果を表14に示す。
【0127】
【表11】

【0128】
【表12】

【0129】
【表13】

【0130】
【表14】

【0131】
表11〜13から明らかなように、実施例1〜29の熱可塑性樹脂組成物は流動性に優れていた。また、実施例1〜29で得られた成形品は、耐衝撃性、光沢性、耐候性、発色性が優れ、成形品表面にブツが少なく表面平滑性が良好であった。
従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、バンパー、ドアミラー、リアスポイラーなどの自動車外装部品等に好適であることが示された。
【0132】
一方、(A)成分としてエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体(A−2、A−3)を用いて調製したグラフト共重合体(F−2、F−3)を用いた比較例1、2では、成形品の低温環境下での耐衝撃性、耐候性が低かった。
(A)成分としてエチレン・1−ブテン共重合体(A−4)を用いて調製したグラフト共重合体(F−4)を用いた比較例3では、成形品の耐衝撃性、光沢性が低かった。
(A)成分としてエチレン・1−オクテン共重合体(A−5)を用いて調製したグラフト共重合体(F−5)を用いた比較例4では、成形品の耐衝撃性、光沢性が低かった。
(A)成分としてエチレン単位の含有率が40質量%未満のエチレン・プロピレン共重合体(A−6)を用いて調製したグラフト共重合体(F−6)を用いた比較例5は、成形品の低温環境下での耐衝撃性が低かった。
(A)成分としてエチレン単位の含有率が65質量%を超えるエチレン・プロピレン共重合体(A−9)を用いて調製したグラフト共重合体(F−9)を用いた比較例6は、成形品の低温環境下での耐衝撃性、光沢性が低かった。
溶液重合でグラフト重合したグラフト共重合体(F−10〜F−12)を用いた比較例7〜9は、成形品の耐衝撃性、光沢性、発色性、表面平滑性が悪かった。
グラフト率が25質量%未満のグラフト共重合体(F−21)を用いた比較例10は、成形品の耐衝撃性、光沢性、発色性が低かった。
グラフト率が60質量%を超えるグラフト共重合体(F−24)を用いた比較例11は、熱可塑性樹脂組成物の流動性が著しく低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位の含有率が40〜65質量%であるエチレン・プロピレン共重合体、および酸変性オレフィン重合体を含むオレフィン樹脂水性分散体を架橋処理した架橋オレフィン樹脂水性分散体の存在下で、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含むビニル系単量体混合物を乳化重合したグラフト共重合体であって、
グラフト率が25〜60質量%である、グラフト共重合体。
【請求項2】
前記架橋オレフィン樹脂水性分散体の架橋度が30〜80質量%である、請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
前記架橋オレフィン樹脂水性分散体の50%粒子径が0.25〜0.5μmである、請求項1または2に記載のグラフト共重合体。
【請求項4】
前記架橋オレフィン樹脂水性分散体55〜75質量%の存在下で、前記ビニル系単量体混合物25〜45質量%(ただし、架橋オレフィン樹脂水性分散体とビニル系単量体混合物の合計が100質量%である。)を乳化重合した、請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラフト共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のグラフト共重合体と、
芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体を含む硬質共重合体、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリ乳酸よりなる群から選ばれる少なくとも1種の硬質成分とを含有する、熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−224670(P2012−224670A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91026(P2011−91026)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】