説明

グラフト化基材の製造方法及び製造装置

【解決課題】ホモポリマーの発生を低減させて、グラフト率の高いグラフト化基材を得ることができるグラフト化基材の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】高分子基材に反応活性点を生成させる反応活性点生成工程と、反応活性点を生成させた高分子基材に反応性モノマーをグラフト重合するグラフト重合反応工程と、形成されたグラフト鎖に官能基を導入する官能基導入工程と、を具備し、反応活性点生成工程とグラフト重合反応工程とは別個に行う、グラフト化基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホモポリマーの付着率の少ないグラフト化基材を得ることができるグラフト化基材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフト化基材を製造するためのグラフト重合法は種々提案されており、例えば、電子線やγ線などの放射線源を用いて、高分子基材中に反応活性点を生成する放射線を用いたグラフト重合法等が提案されている(特許文献1〜5)。
【0003】
しかし、従来提案されている放射線を用いたグラフト重合方法では、高分子基材中に生成した活性点の失活速度が速く、照射工程と反応工程とを同時に行う同時照射が一般的であり、2成分以上の混合モノマーや2官能性モノマーをグラフト重合に用いる場合、モノマー同士の重合により生成するホモポリマー(同成分または異成分同士で自己重合により生成する低分子量の高分子)が多く発生してしまい、グラフト率が低いグラフト化基材しか得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開平05-209071号公報
【特許文献2】特開平11−2799385号公報
【特許文献3】特開2004−137385号公報
【特許文献4】特開2007−069157号公報
【特許文献5】特開2007−130540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明は、ホモポリマーの発生を低減させて、グラフト率の高いグラフト化基材を得ることができるグラフト化基材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、放射線を用いてグラフト重合するに際して放射線を照射する工程と重合を行う工程とを分けて行うことにより前記目的を達成しうることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、高分子基材に反応活性点を生成させる反応活性点生成工程と、反応活性点を生成させた高分子基材に反応性モノマーをグラフト重合するグラフト重合反応工程と、形成されたグラフト鎖に官能基を導入する官能基導入工程と、を具備するグラフト化基材の製造方法である。ここで、反応活性点生成工程と、グラフト重合反応工程とは別工程である。
【0007】
本発明において、前記反応活性点生成工程は、
(a)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中、1〜200kGyの電子線やγ線を照射する放射線照射;
(b)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中、室温以下の温度で、100MHz以上5GHz以下の高周波を照射するプラズマ照射;
(c)高分子基材に、不活性ガス雰囲気でUVを照射するUV照射;
(d)高分子基材に、窒素バブリング下、室温〜100℃の範囲でラジカル開始剤及び重合触媒を用いる化学重合;
のいずれかにより行うことができる。
【0008】
また、本発明において、前記グラフト重合反応工程は、反応活性点を生成させた高分子基材を、理論量よりも少量の初期投入量のモノマーを含む反応液と接触させ、所定の反応温度で反応させつつ逐次モノマーを該反応液中に投入してグラフト重合を行うことができる。このとき、投入する前のモノマーの温度をグラフト反応中のモノマー温度よりも1〜20℃程度低く保持することによって、モノマーの自己重合を抑制し、重合開始後に生成するホモポリマーの高分子基材への付着を抑制することが望ましい。
【0009】
また、本発明は、前記のグラフト化基材を製造する方法を実施する製造装置であって、反応性モノマーを貯蔵するモノマー貯槽と、反応活性点が生成されている高分子基材を着脱自在に巻付けて保持し、多数の空孔を表面に有する中空部材を有する高分子基材保持部材を具備する、グラフト重合反応器と、当該グラフト重合反応器に当該モノマー貯槽からモノマー溶液を導入するモノマー溶液導入ラインと、当該グラフト重合反応器から使用後のモノマー溶液を当該モノマー貯槽に戻すモノマー溶液循環ラインと、を具備する、グラフト化基材製造装置を提供するものである。
【0010】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
<グラフト化基材>
本発明において用いられる前記高分子基材としては、不織布、織布、繊維(単繊維、フィラメント)、フィルム、シート、膜、粒状物などを挙げることができる。
【0011】
また、前記高分子基材に用いられる高分子化合物としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系高分子;セルロース、キチン、キトサン、ポリ乳酸などの天然高分子;ポリウレタン、ナイロン、ビニロン等が挙げられ、使用に際しては単独又は混合物として用いることができる。
【0012】
グラフト重合により導入されるグラフト鎖を形成する際には、反応性モノマーが用いられる。この際用いることができる反応性モノマーは、グリシジルメタクリレート、アクリル酸などのビニル反応性モノマーや、一般式A;CH=C(CH)COO(CHn1OCO−R−CO−OPO(OH)R’(式中、Rは置換基を有してもよい(CHn2又はCであり、R’は水酸基又はCH=C(CH)COO(CHn3OCO−R−CO−O−基であり、n1〜n3はそれぞれ独立して1〜6の整数である。)で表される化合物〔モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等〕等を挙げることができ、使用に際しては単独又は混合物として用いることができる。
【0013】
本発明の製造方法で得られるグラフト化基材は、前記の反応性基材に前記反応性モノマーを重合してなるグラフト鎖が形成されてなる基材であるが、グラフト率は、60〜200%であるのが好ましい。ここで、「グラフト率」とは、高分子基材にグラフトした反応性モノマーの重量増加分〔(グラフト化後の高分子基材の重量−グラフト化前の高分子基材の重量)/グラフト化前の高分子基材の重量〕(%)をいう。
【0014】
<反応活性点生成工程>
前記反応活性点を生成する工程は、(a)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中、1〜200kGyのγ線を照射する放射線照射;(b)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中室温以下の温度で、100MHz以上5GHz以下の高周波を照射するプラズマ照射;(c)高分子基材に、不活性ガス雰囲気でUVを照射するUV照射;(d)高分子基材に、窒素バブリング下、室温〜100℃の範囲でラジカル開始剤及び重合触媒を用いる化学重合;のいずれかにより行うことができる。
【0015】
(a)〜(c)の照射は、予めパッキングした反応容器に高分子基材を封入し、反応容器内の酸素を窒素、アルゴンなどの不活性ガスにより置換するか、または真空排気した後窒素またはアルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下とし、室温又はドライアイスなどによる冷却下で行うことが好ましく、照射線量は反応活性点を生成させるのに充分な線量であることを条件に適宜決定することができる。たとえば、1〜200kGyのγ線を照射する場合には、10分〜20時間とすることが好ましい。プラズマ照射は、10MHz以上5GHz以下の高周波を1分以上〜10時間程度照射することが好ましい。UV照射の場合には、100W程度のランプ(波長190〜370nmの光を照射することができるランプ、具体的には、水銀やキセノンランプ等)を用いて、1分以上〜10時間程度行うことが好ましい。
【0016】
化学重合により反応活性点を生成するには、窒素バブリング下、室温〜100℃の範囲で、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルなどのラジカル開始剤を用いることが好ましい。
【0017】
<グラフト重合反応工程>
前記グラフト重合反応工程は、反応活性点を生成させた高分子基材を、反応性モノマーを含む反応液と接触させてグラフト重合を行い、高分子基材の反応活性点にグラフト鎖を導入する。このとき、反応活性点を生成させた高分子基材に接触させる反応性モノマーを含む反応液を循環再利用することで、モノマーの使用量をほぼ理論量と同等に低減することができる。通常、グラフト重合反応においては、理論量の150%以上と過剰の反応性モノマーを添加することが必要であるから、本発明のグラフト重合反応工程で使用する理論量とほぼ同等のモノマー量は少量で済むことになる。また、ほぼ理論量と同等の反応性モノマーを含む反応液を逐次的に高分子基材に接触させることで、過剰量のモノマーのホモ重合を抑制し、ホモポリマーの生成を低減させることができる。よって、前記モノマーの使用量は理論量の100〜120%であるのが好ましい。なお、「理論量」とは、目的のグラフト化材のグラフト率に必要なモノマー量や電子線やγ線の照射により生成された反応点に対して理論上グラフト反応させてグラフト鎖として導入可能であるモノマー量を意味する。
【0018】
また、グラフト重合反応温度は、反応性モノマーの反応性に依存するが、典型的には30〜60℃、好適には40〜50℃であり、反応時間は30分〜5時間であるのが好ましい。高分子基材と接触させる前の前記反応性モノマーを含む反応液の温度又は投入前の貯蔵時のモノマーの温度は、ホモポリマーの生成を抑制するために、グラフト重合反応温度よりも1〜20℃低く維持されていることが好ましい。グラフト重合反応前のモノマーの温度が上記範囲よりも高温であると、目的の高分子基材との反応速度が遅くモノマー同士が自己重合を起こしてしまい、また、適正な設定温度であっても反応の進行に伴い反応熱(グラフト反応によりモノマーが重合する際に発生する熱)が生じて自己重合が進行してしまうので、ホモポリマーが多量に生成されてしまう。
【0019】
また、反応液におけるモノマーの含有率は、1〜50重量%であるのが好ましく、更に好ましくは10〜30重量%である。上記範囲よりも低濃度の場合は目的のグラフト率が達成されず、グラフト部位に斑が生じる。また、上記範囲よりも高濃度の場合は、ホモポリマーの生成が著しく進行し、重合による反応熱が生じ、温度が上昇するためグラフト率の制御が困難となる。
【0020】
反応液において、モノマーは溶媒に溶解されているか、界面活性剤を用いて水に分散させているのが好ましい。前記溶媒としては、水が挙げられ、前記界面活性剤としては、Tween(商標)シリーズやSpan(商標)シリーズ、ドデシル硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0021】
<官能基導入工程>
本発明においては、前記グラフト重合反応工程により形成されたグラフト鎖に、金属イオン捕集基などの官能基を導入する官能基導入工程を行う。
【0022】
導入することが好適な官能基としては、アミン、アミド、イミン、イミド、リン酸、ホスホン酸、スルホン酸、カルボン酸、水酸基等を挙げることができる。この際の反応温度は、室温〜80℃とするのが好ましく、反応時間は、10分〜1時間とするのが好ましい。たとえば、40℃でエチレンジアミン溶液中にグラフト鎖が形成されたグラフト化基材を浸漬させて、アミン基を導入することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のグラフト化基材の製造方法によれば、ホモポリマーの発生を低減させて、グラフト率の高いグラフト化基材を得ることができる。
また、本発明のグラフト化基材の製造装置によれば、前記製造方法を簡便に実施することができる。
【発明の実施の形態】
【0024】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
ここで、図1は、本発明の製造装置の一実施形態を示す模式図であり、図2は、図1に示す高分子基材保持部材を拡大して示す一部破断斜視図である。
【0025】
図1に示す製造装置1は、反応性モノマーを貯蔵するモノマー貯槽6と、反応活性点が生成されている高分子基材を着脱自在に巻付けて保持し、多数の空孔を表面に有する中空部材を有する高分子基材保持部材を具備する、グラフト重合反応器10と、当該グラフト重合反応器10に当該モノマー貯槽6からモノマー溶液を導入するモノマー溶液導入ライン3と、当該グラフト重合反応器10から使用後のモノマー溶液を当該モノマー貯槽30に戻すモノマー溶液循環ライン3’と、を具備する。モノマー溶液導入ライン3には、不活性ガス投入ライン2が弁を介して接続されている。
【0026】
更に、詳述すると、図示する実施態様において、製造装置1は、筒状のグラフト重合反応容器10を直列に2本連結した反応容器ユニット4を4つ並列に連設してなり、各反応容器ユニット4は、それぞれ配管を介してモノマーを含む反応液を貯蔵するモノマー貯槽6に連結されている。モノマー貯槽6と各反応容器ユニットとは、弁9bを有するモノマー溶液導入ライン3によって連結されている。また、モノマー溶液導入ライン3にはポンプ8が設けられて、反応液が循環するようになされている。各反応容器ユニット4の出口端部はそれぞれ弁9cを介してモノマー溶液循環ライン3’に連結されて、反応終了後の反応液がモノマー貯槽6に戻るようになされている。モノマー溶液循環ライン3’には、ストレーナー5が設けられており、反応終了後の反応液をモノマー貯槽6に戻す前に、グラフト重合反応によって発生したホモポリマーを除去することができるようになされている。また、モノマー貯槽6は、モノマー貯蔵内のモノマーの温度を調節するための熱源ヒーターと調整モーター(共に図示せず)を具備する。
【0027】
グラフト重合反応容器10内部には、高分子基材13を着脱自在に巻付けて保持し、多数の空孔を表面に有する中空部材12を有する高分子基材保持部材11が設けられている。グラフト重合反応器10外周には、熱ジャケット(図示せず)が取り付けられており、グラフト重合反応器10内部の温度を加温することができる。また、グラフト重合反応器10は、外部からγ線などの量子ビームを照射することができる素材、たとえば、ステンレス鋼SUSから構成されている。
【0028】
各グラフト重合反応容器10は、特に図示しないが、開閉自在で且つ密閉可能な構造とされており、内部には、図2に示すように、中空部材12と、中空部材に巻き回された高分子基材13と、高分子基材13の表面を覆い、前記モノマーを含む反応液が通過自在である基材固定用ネット部材14とを有し、これらを、その長手方向が反応液の流れ方向に沿う方向(図1の矢印方向)となるようにグラフト重合反応容器10内部に設置する。
【0029】
また、グラフト重合反応容器10は、前記高分子基材保持部材11に巻き付けられている高分子基材13の表面に対して平行にモノマーを含む反応液が流れるように該反応液の流れ方向を規定するため、図1に示すように各グラフト重合反応容器10の長手方向が反応液の流れ方向に沿う方向(図1の矢印方向)となるように設置されている。これにより、モノマーが高分子基材全体と接触してムラなくグラフト化を行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
〔実施例1〕
高分子基材としてポリエチレン製不織布(繊維径13ミクロン)を使用し、グラフト重合を行った。
【0031】
グラフト重合は、図1及び2に示す製造装置を用いて行った。高分子基材13を中空部材12に巻き付け、各グラフト重合反応容器10に装填した。高分子基材13はグラフト重合反応容器10一個あたり、幅30cm×長さ5mのものを2本ずつ、計8本を装填した。装填後はアルゴンガスでグラフト重合反応容器10内の酸素を圧送排出し、その後、グラフト重合反応容器10内をポンプ8により真空にした。この圧送、真空の操作を数回繰り返し、グラフト重合反応容器10内の酸素を排除し、次いで、グラフト重合反応容器10内をアルゴンガスにより加圧状態にした。脱酸素後のグラフト重合反応容器10に、γ線を160kGy(10kGy/h×16時間)照射した。照射後のグラフト重合反応容器10は、図1に示す反応容器ユニット4に組み込んだ。
【0032】
次に、リン酸基を含有するモノマーとして、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート 10.5重量部、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート 19.5重量部の混合モノマーを水 68重量部に、界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム 2重量部を用いて、分散させて反応液を調製し、得られた反応液をアルゴンガスにより脱酸素化した。この脱酸素化した反応液をγ線照射後のグラフト重合反応容器10に送液した。次いで、反応温度を74℃に設定し、反応開始当初のモノマー量は、理論量の105重量%とし、反応進行に従って順次1分当たり105重量%のモノマーが反応容器内に投入されるように反応液を循環させた。モノマーの昇温を促進させ、高分子基材13の温度が55℃を超えた時点で設定温度を72.5℃に設定変更した。30分後に温調および通液を停止した。停止後は、モノマーを排出させ、その後、60℃の恒温温浴水槽に筒を移送し、3時間反応させた。ホモポリマーの重合を抑えるために温浴の温度の上昇を抑制した。これにより、反応は定量的に進行し、図3に示すように、グラフト物の芯側と外側および通液方向に対して上下方向に分布がなく反応を進行させることができた。
【0033】
〔実施例2〕
高分子基材としてポリエチレン−ポリプロピレンの複合繊維で構成される不織布を、幅70cm×長さ5mに切り出したものを用い、図2に示す中空部材12に巻付けた後、実施例1に示すグラフト重合反応容器10に装填した。グラフト重合反応容器10内部を窒素ガスにより脱酸素化を行った後、グラフト重合反応容器10にドライアイス冷却下でγ線を50kGy照射した。照射後のグラフト重合反応器10内に保持されている不織布に、速やかに、予め窒素置換したエマルション状態のグリシジルメタクリレート(GMA)をモノマーとする反応液(グリシジルメタクリレート5重量%、水91重量%、界面活性剤として商品名「Tween20」関東化学社製 4重量%)を通液接触させた。反応開始当初のモノマー量は、理論量の100重量%とし、反応進行に従って順次1分当たり、105重量%のモノマーがグラフト重合反応容器10内に投入されるように反応液を循環させた。反応は、反応液を40℃で30分通液循環させた状態で行った。その結果、グラフト率(反応前後の重量増加により算出)150〜200%のものが得られた。得られたGMAグラフト化基材は、グラフト重合反応容器10内に純水、メタノールを循環させて洗浄した。次に、GMAグラフト化基材をグラフト重合反応容器10から取り出し、30重量%エチレンジアミン溶液中に40℃、30分浸漬し、GMAグラフト化基材中のエポキシ基にアミン基を導入した。導入率は2.5〜2.7mmol/gであった。得られたアミン型グラフト化基材の水銀に対する吸着特性を図4に示す。市販樹脂(商品名「CR11」三菱化学社製)のアミン型(△)と比較して、本実施例で得られたアミン基導入グラフト化基材は、10倍の速度で通液した際に100倍の濃縮比を示した。また、吸着容量を同様に設定した場合、本実施例で得られたアミン基導入グラフト化基材は、3000倍以上の速度で通液可能であることがわかった。
【0034】
〔実施例3〕
高分子基材としてポリプロピレン製単繊維(繊維径:30μm)を使用し、中空部材12に糸まり状態になるように巻き付けた。巻付後の糸は図2に示すようにしてグラフト重合反応容器10に装填し、脱酸素化を行った。その後、グラフト重合反応容器10にドライアイス冷却下でγ線を100kGy照射した。γ線照射後、グラフト重合反応器10内のポリプロピレン製単繊維に、予め脱酸素化したエマルション状態のモノマー溶液(アクリロニトリル:AN30重量%、純水65重量%、界面活性剤として商品名「Tween80」(関東化学社製)5重量%)を通液接触させた。反応開始当初のモノマー量は、理論量の100重量%とし、反応進行に従って順次1分当たり120重量%のモノマーがグラフト重合反応容器10内に投入されるように反応液を循環させた。グラフト重合反応容器10内部を40℃に保持しながら、通液循環させ、グラフト重合反応を3時間行った。その結果、グラフト率120〜180%のANグラフト化基材が得られた。得られたグラフト化基材に3重量%ヒドロキシルアミン中性溶液中、80℃、30分間アミドキシム化反応を行い、アミドキシム型の吸着材を得た。
【0035】
得られた吸着材を、鉛、コバルト、ニッケルをそれぞれ1ppmに調整したpH2〜12の溶液中に浸漬して、温度を25℃に保持し、2時間撹拌した。結果を図5〜図7に示す。pH5の溶液では、すべての金属について95%以上回収することができた。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明の製造装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す高分子基材保持部材を拡大して示す一部破断斜視図である。
【図3】図3は、実施例1におけるグラフト反応のグラフト率を示すチャートである。
【図4】図4は、実施例2で得られたアミン型グラフト化基材の水銀に対する吸着特性を示すチャートである。
【図5】図5は、鉛についての吸着試験の結果を示すグラフである。
【図6】図6は、コバルトについての吸着試験の結果を示すグラフである。
【図7】図7は、ニッケルについての吸着試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 製造装置
3 モノマー溶液導入ライン
3’ モノマー溶液循環ライン
4 反応器ユニット
5 ストレーナー
6 モノマー貯槽
10 グラフト重合反応容器
11 高分子基材保持部材
12 中空部材
13 高分子基材
14 基材固定用ネット部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材に反応活性点を生成させる反応活性点生成工程と、
反応活性点を生成させた高分子基材に反応性モノマーをグラフト重合するグラフト重合反応工程と、
形成されたグラフト鎖に官能基を導入する官能基導入工程と、
を具備し、当該反応活性点生成工程と当該グラフト重合反応工程とは別個に行う、グラフト化基材の製造方法。
【請求項2】
前記反応活性点生成工程は、
(a)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中、1〜200kGyのγ線を照射する放射線照射;
(b)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中、室温以下の温度で、100MHz以上5GHz以下の高周波を照射するプラズマ照射;
(c)高分子基材に、不活性ガス雰囲気中でUVを照射するUV照射;
(d)高分子基材に、窒素バブリング下、室温〜100℃の範囲でラジカル開始剤及び重合触媒を用いる化学重合;
のいずれかにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフト重合反応工程において、反応活性点を生成させた高分子基材に、30〜60℃の範囲のグラフト重合反応温度で、反応性モノマーを含む反応液と逐次的に接触させてグラフト重合を行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記グラフト重合反応工程において、反応活性点を生成させた高分子基材に、前記反応性モノマーを含む反応液を循環再利用して逐次的に接触させる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グラフト重合反応工程において高分子基材と接触させる前の前記反応性モノマーを含む反応液の温度を、グラフト重合反応温度よりも1〜20℃低く維持する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフト重合反応工程において使用するモノマーの量は理論量の100〜120%である、請求項3〜5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
前記グラフト重合反応工程において生成するホモポリマーを除去するホモポリマー除去工程をさらに具備する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記官能基導入工程において導入される官能基は金属イオン捕集基である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
反応性モノマーを貯蔵するモノマー貯槽と、
反応活性点が生成されている高分子基材を着脱自在に巻付けて保持し、多数の空孔を表面に有する中空部材を有する高分子基材保持部材を具備する、グラフト重合反応器と、
当該グラフト重合反応器に当該モノマー貯槽からモノマー溶液を導入するモノマー溶液導入ラインと、
当該グラフト重合反応器から使用後のモノマー溶液を当該モノマー貯槽に戻すモノマー溶液循環ラインと、
を具備する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を実施するグラフト化基材製造装置。
【請求項10】
前記グラフト重合反応容器は、前記高分子基材保持部材に巻き付けられている高分子基材の表面に対して平行流としてモノマー溶液を流す流れ方向規定手段をさらに有する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記高分子基材保持部に巻き着けられた高分子基材の表面を覆い、前記モノマー溶液が通過自在である基材固定用ネット部材をさらに有する、請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
前記モノマー溶液循環ラインには、前記グラフト重合反応器において生成するホモポリマーを除去するストレーナーがさらに設けられている、請求項9〜11のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−65106(P2010−65106A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231550(P2008−231550)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【出願人】(508273599)株式会社ERHテクノリサーチ (1)
【Fターム(参考)】