説明

グラフト変性ポリビニルアセタールの製法

【課題】 生産性に優れ、耐溶剤性の良好なグラフト化ポリビニルアセタールの製法を提供すること。
【解決手段】エチレン性不飽和単量体をビニルアルコール系重合体の1〜25重量%水溶液中で、ビニルアルコール系重合体にグラフト重合し、次いで酸触媒およびアルデヒドの存在下にアセタール化することを特徴とするグラフト変性ポリビニルアセタールの製法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト変性ポリビニルアセタールの製法、その製法で得られる樹脂および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアセタール樹脂は、さまざまな有機・無機基材に対する接着性や相溶性、有機溶剤への溶解性に優れており、種々の接着剤やセラミック用バインダー、各種インク、塗料等や、建築用・自動車用の安全ガラス中間膜として広範に利用されている。
ところで近年、ポリビニルアセタール樹脂の高機能化についての検討がなされている。例えば特許文献1には、アルキル(メタ)アクリレート単量体がグラフト重合されたグラフト変性ポリビニルアセタールからなる、セラミックグリーンシート成形用バインダーが開示されている。このバインダーはグラフト変性を行っていないポリビニルアセタールからなるバインダーと比較して、熱分解性に優れていることがわかっており、グラフト重合を行うことによってポリビニルアセタールが高機能化された一例である。
【0003】
特許文献1によると、ここで用いられているグラフト変性ポリビニルアセタールは、ポリビニルアセタール樹脂へのアルキル(メタ)アクリレート単量体のグラフト重合反応により合成されている。ところがこの方法に従ってグラフト変性ポリビニルアセタールを合成するには、まず水溶液中でビニルアルコール系重合体をアセタール化し、洗浄などの後処理を行ってポリビニルアセタールの粉末を得、このポリビニルアセタールに対してエチレン性不飽和単量体のグラフト重合反応を行うため、反応工程が多くなり生産性が悪いという問題点があった。また工程簡略化のために、ポリビニルアルコールをアセタール化し、洗浄工程を経ることなくエチレン性不飽和単量体のグラフト重合反応を行うと、グラフト重合を行う際の反応器内に未反応のアルデヒドが残っているため、ラジカル連鎖移動反応が起こりやすくグラフト重合が阻害される、といった問題が起こる。
また、特許文献1に記載の方法を用いてグラフト変性ポリビニルアセタールの合成を行う場合において、反応後のグラフト変性ポリビニルアセタールの精製が容易である粉体のグラフト変性ポリビニルアセタールを得ようとすると、ポリビニルアセタールへのエチレン性不飽和単量体のグラフト重合反応は、水中懸濁重合法で行うことが好ましい。ところが、ポリビニルアセタールへのエチレン性不飽和単量体のグラフト重合反応を水中懸濁重合法で行うと、反応は終始不均一反応系(固体のポリビニルアセタールと、液体または水に溶解した状態のエチレン性不飽和単量体との反応)で行われるため、グラフト重合反応が効率的に進行しないといった問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開2001−172553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の課題を解決して、生産性に優れ、しかも熱硬化性などの種々の機能を付与した、グラフト変性ポリビニルアセタールの製法、その製法によって得られるグラフト変性ポリビニルアセタール、さらにその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば上記目的は、エチレン性不飽和単量体をビニルアルコール系重合体の1〜25重量%水溶液中で、ビニルアルコール系重合体にグラフト重合し、次いで酸触媒およびアルデヒドの存在下にアセタール化することを特徴とする、グラフト変性ポリビニルアセタールの製法によって達成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法によれば、従来のグラフト変性ポリビニルアセタールの製法では必須であった、グラフト化反応とアセタール化反応の間に行っていた洗浄工程を省略できるため、工程の簡略化ができ生産性に優れている。さらに、得られるグラフト変性ポリビニルアセタールには熱硬化性等、種々の機能を付与することができる。
また、本発明の方法では、グラフト重合反応を水に溶解したポリビニルアルコールとエチレン性不飽和単量体(液体)の間で行うため、グラフト重合初期〜中期(もしくは終了まで)の反応が均一系となり、グラフト重合反応を効率的に進行させることができる。また本方法で得られるグラフト変性ポリビニルアセタールは、反応後の洗浄が容易な粉体の形状で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明においてポリビニルアルコール系重合体にエチレン性不飽和重合体をグラフト重合した後、洗浄工程を経ることなくアセタール化することが、上記本発明の目的達成のためには極めて重要である。
【0009】
グラフト重合する方法としては、エチレン性不飽和単量体を、グラフト重合開始剤の存在下に、ビニルアルコール系重合体水溶液中でグラフト重合する方法が挙げられる。
【0010】
グラフト重合する際のビニルアルコール系重合体水溶液は、ビニルアルコール系重合体の濃度が1〜25重量%水溶液であることが好適であり、さらに好適には3〜20%、最適には5〜15重量%であるとよい。ここでビニルアルコール系重合体の濃度は、(ビニルアルコール系重合体の乾燥重量/ビニルアルコール系重合体水溶液の重量)×100で算出される。ビニルアルコール系重合体の乾燥重量とは、ビニルアルコール系重合体水溶液を、105℃で、3時間乾燥したときの重量である。ビニルアルコール系重合体の濃度が1重量%より低いと生産性が著しく悪いため好ましくなく、また25重量%より高いと、ビニルアルコール系重合体水溶液粘度が高くなりすぎ、アセタール化反応を良好に行うことができないといった問題が起こる。
【0011】
ビニルアルコール系重合体水溶液中でエチレン性不飽和化合物をグラフト重合させる形式としては、回分重合法、半回分重合法、連続重合法および半連続重合法のうちいずれの方法を採用してもよい。またグラフト重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法などの任意の公知方法を用いることができるが、これらのうち溶液重合法が好適である。
【0012】
グラフト重合開始剤としては特に限定されないが、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの過酸化アシロイル;クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、i−プロピルパーアセテートなどのアルキル過酸エステル;ジ−t−ブチルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などを挙げることができる。また、過酸化水素などの過酸化物と酒石酸などの還元剤を組み合わせたレドックス系重合開始剤でもよい。このレドックス系重合開始剤を用いる場合には、反応を促進するために硫化第一鉄、塩化第一鉄などを添加してもよい。またα,α−ジメトキシ−α−モノフォリノ−メチルチオフェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド、ベンゾフェノン、チオキサントン、テトラメチルチウラムジサルファイドなど光重合開始剤も使用することができる。
グラフト重合開始剤の使用量はエチレン性不飽和単量体に対し0.001〜5重量%が好適であり、さらに好適には0.01〜1重量%である。グラフト重合開始剤の添加方法は特に限定されず、グラフト重合反応開始時に一括添加してもよいし、2回以上に分割して添加してもよく、また連続的に添加してもよい。
【0013】
グラフト重合反応に用いるエチレン性不飽和単量体は特に限定されないが、とくにグラフト重合反応における反応性の高さから、α、β−不飽和カルボン酸、α、β−不飽和カルボン酸塩、α、β−不飽和カルボン酸エステル、α、β−不飽和カルボン酸アミド、マレイミド化合物、α、β−不飽和カルボン酸無水物、α、β−不飽和カルボン酸クロリド、α、β−不飽和ケトンおよび芳香族ビニル化合物が好適である。ここで芳香族ビニル化合物とは、ビニル基で置換された芳香族化合物を意味し、またビニル基は置換基を有するビニル基でもかまわない。
具体的には、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、けい皮酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、トランス−2−ヘキサン酸などのα、β−不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのα、β−不飽和カルボン酸塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−スルホキシプロピルカリウム塩、(メタ)アクリル酸3−トリストリメチルシロキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸2−トリメチルシロキシエチル、クロトン酸メチル、アコニット酸メチル、けい皮酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸メチル、トランス−2−ヘキサン酸メチル、2−カルボキシエチルメタクリレートなどのα、β−不飽和カルボン酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−(t−ブチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、クロトンアミドなどのα、β−不飽和カルボン酸アミド;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド化合物;無水(メタ)アクリル酸、無水クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのα、β−不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸クロリド、クロトン酸クロリド、フマル酸クロリドなどのα、β−不飽和カルボン酸クロリド;イソプロピリデンアセトン、ジイソプロピリデンアセトン、2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロペンテン−1−オン、3−デセン−2−オン、3−メチル−3−ブテン−2−オン、メチルビニルケトン、3−ノネン−2−オン、3−オクテン−2−オンなどのα、β−不飽和ケトン;スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、4−ブチルスチレン、4−フェニルスチレン、4−フルオロスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、4−クロロスチレン、4−ブロモスチレン、4−ヨードスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アミノスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−シアノメチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−ニトロスチレン、4−スチレンスルホン酸ナトリウム、4−スチレンスルホン酸クロリド、4−ビニルフェニルボラン酸、α−メチルスチレン、トランス−β−メチルスチレン、2−メチル−1−フェニルプロペン、1−フェニル−1−シクロヘキセン、β−ブロモスチレン、けい皮アルコール、けい皮クロリド、けい皮ブロミド、β−スチレンスルホン酸ナトリウム、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−イソプロペニルナフタレン、1−ビニルイミダゾールなどの芳香族ビニル化合物が挙げられる。
【0014】
エチレン性不飽和単量体としては、上記以外に、ビニルエチルエーテル、ビニルn−ブチルエーテル、ビニルフェニルエーテル、ビニル2−クロロエチルエーテル、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン、2,3−ジヒドロフラン、1,4−ジオキセン、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、イソプロペニルメチルエーテルなどのビニルエーテル;酢酸ビニル、酪酸ビニル、酢酸イソプロペニルなどのビニルエステル;1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,3−シクロオクタジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、クロロプレンなどの共役ジエン化合物;N−メチルピロリドンなどのビニルアミン化合物;エチレン、プロペン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、アリルアルコールなども挙げられる。
【0015】
グラフト重合反応に用いるエチレン性不飽和単量体の使用量は特に限定されないが、好ましくはビニルアルコール系重合体100重量部に対して1〜1000重量部使用すると良く、さらに好ましくはビニルアルコール系重合体100重量部に対して5〜500重量部使用すると良い。ここで使用するエチレン性不飽和単量体は必ずしも全量をグラフト重合反応させる必要は無いが、未反応のエチレン性不飽和単量体を精製する工程を省略するために、全量をグラフト重合反応させることが好ましい。
【0016】
これらエチレン性不飽和単量体の添加方法は特に限定されないが、グラフト重合反応を開始する前に一括添加してもよいし、2回以上に分割して添加してもよく、また連続的に添加してもよい。
【0017】
本発明に用いられるビニルアルコール系重合体は、ビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。ビニルエステル系単量体を重合する方法としては、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来公知の方法を適用することができる。重合開始剤としては、重合方法に応じて、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などが適宜選ばれる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解などが適用でき、この中でもメタノールを溶剤とし苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いるけん化反応が簡便であり最も好ましい。ビニルアルコール系重合体の重合度は100〜2500が好適であり、さらに好適には150〜2000である。
【0018】
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニルなどが挙げられるが、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
エチレン性不飽和単量体をグラフト重合したビニルアルコール系重合体を水溶液中で、酸触媒およびアルデヒドの存在下にアセタール化し、グラフト変性ポリビニルアセタールを得る方法としては、たとえば、エチレン性不飽和単量体をグラフト重合したグラフト変性ビニルアルコール系重合体の水溶液の温度を−10〜30℃に調節し、次に、アルデヒドおよび酸触媒を添加し、温度を一定に保ちながら、30〜300分アセタール化反応を進め、さらに30〜200分かけて、30〜80℃迄昇温し、30〜500分保持し、さらに水洗および中和処理する方法が挙げられる。
【0020】
アセタール化に用いられる酸触媒としては特に限定されず、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能であり、たとえば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中で塩酸、硫酸、硝酸が好適であり、とりわけ塩酸が好適である。
【0021】
アセタール化に用いられるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、n−ペンチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、n−ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドなど特に限定されず、またn−ブチルアルデヒドジメチルアセタールなどのようなアルデヒドジアルキルアセタールなども挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上が併用されてもよい。これらアルデヒドの中でも特にn−ブチルアルデヒドが好ましく用いられる。
【0022】
本発明で得られるグラフト変性ポリビニルアセタールは、アセタール化度が40〜85モル%、より好ましくは50〜85モル%、さらに好ましくは55〜85モル%であるとよい。またビニルエステル基含有量は0.1〜30モル%、より好ましくは0.1〜25モル%、さらに好ましくは0.1〜15モル%であると良い。またビニルアルコール基含有量は10〜50モル%、より好ましくは10〜45モル%、さらに好ましくは10〜40モル%であると良い。これらの含有量は、グラフト変性ポリビニルアセタールの主鎖のエチレンパートを基準として計算された値である。
【0023】
このようにして得られるグラフト変性ポリビニルアセタールのグラフト側鎖含有量は特に限定されないが、例えばグラフト変性ポリビニルアセタールのグラフト側鎖を除いた部分100重量部に対するグラフト側鎖の量を指標として表せば、1〜1000重量部であることが好適であり、5〜500重量部であるとさらに好適である。
【0024】
以上のような方法で得られるグラフト変性ポリビニルアセタールは、反応に用いるエチレン性不飽和単量体の種類、および量により様々な性能を付与することができる。特にエチレン性不飽和単量体としてカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を用いて得られるグラフト変性ポリビニルアセタールは、例えばそのグラフト変性ポリビニルアセタールからなる塗膜を加熱することで、グラフト側鎖に含まれるカルボキシル基とポリビニルアセタールのヒドロキシル基との間でエステル化反応を起こし分子間架橋構造を形成するため、熱硬化性グラフト変性ポリビニルアセタールとして有用である。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、既述のα、β−不飽和カルボン酸や4−カルボキシスチレン、2−カルボキシエチルメタクリレートなどを用いることができるが、この限りではない。
【0025】
本発明で得られるグラフト変性ポリビニルアセタール、特にエチレン性不飽和単量体としてカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を用いて得られる熱硬化性グラフト変性ポリビニルアセタールは、特に粉体塗料として有用である。以下これを説明する。
【0026】
従来、粉体塗料として、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂などからなる粉体塗料が知られており、主として金属(基材)を錆や溶剤から保護する目的で用いられている。特に最近では、環境負荷を低減するために、溶剤系塗料の使用が忌避されてきており、生産速度の向上、コスト低減などが期待されることから粉体塗料が注目されている。
【0027】
ところで、ポリビニルアセタールから形成される塗膜の特徴として、種々の基材との接着性に優れていること、耐候性に優れていること、さらに塗膜の硬度が高いことなどが挙げられ、粉体塗料としての利用が期待できる。
【0028】
ところがポリビニルアセタールは一般に極性有機溶剤、特にエタノール、プロパノールなどの低級アルコールに溶解しやすい性質を有している。これらの有機溶剤は家庭用消毒剤、除菌剤や洗浄液、あるいはウェットティッシュなどに使われている。そのためこれらを用いて、ポリビニルアセタールから得られた塗膜を拭いたり、あるいは洗浄液に塗膜を浸漬したりすると、塗膜表面が白化して外観を損なう、あるいは塗膜が溶解し基材が剥き出しになるといった問題が起こる可能性がある。
【0029】
この課題を解決する方法として、本発明で得られる熱硬化性グラフト変性ポリビニルアセタールの使用が考えられる。具体的には熱硬化性グラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料を用いて塗装を行い、その後熱処理を行うことで、ポリビニルアセタール樹脂分子間に架橋構造が形成され、塗膜に耐溶剤性が付与される。
【0030】
グラフト変性ポリビニルアセタール樹脂を主成分とする粉体塗料に用いるグラフト変性ポリビニルアセタール樹脂粉体の平均粒子径は特に限定されないが、その平均1次粒子径が10μm以下であることが好適であり、また平均2次粒子径が150μm以下であることが好適であり、好ましくは130μm、さらに好ましくは110μmであると良い。また最大2次粒子径が250μm以下であることも好適である。本発明記載の方法に従って合成したグラフト変性ポリビニルアセタール樹脂がこのような平均1次粒子径、平均2次粒子径を有する粉体で得られる場合には、そのまま粉体塗料として用いることが可能であり、また必要に応じて粉砕法、スプレードライ法、VAMP法、篩い分けなどの方法により、このような平均1次粒子径、平均2次粒子径に調整することも可能である。平均1次粒子径、平均2次粒子径がこの範囲を満たすことにより、粉体塗装後の塗膜が均一な厚みで得られる。
【0031】
グラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料に用いるグラフト変性ポリビニルアセタール樹脂粉体の平均2次粒子径は、レーザー回折法による測定により求めることができる。測定に用いることができる装置として、例えば、(株)島津製作所製の粒度分布測定装置SALD2200等を挙げることができる。
グラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料に用いる、グラフト変性ポリビニルアセタール樹脂粉体の平均1次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、粉体を1000倍の倍率で3箇所(3枚)撮影して得られた写真から判定可能な1次粒子径を測定(写真1枚につき50点以上)し、その平均値を求めることで算出できる。なお、1次粒子径の測定は、長径を対象にして行った。
【0032】
粉体塗料にはその目的に反しない限り、必要に応じて、染色顔料、酸化防止剤、可塑剤、流動改質剤、その他の添加剤が含まれていてもよい。それらの添加方法については特に限定されないが、グラフト変性ポリビニルアセタールからなる粉体中に含まれていても良いし、グラフト変性ポリビニルアセタールからなる粉体と、それら添加剤を含む粉体がドライブレンドされていてもかまわない。
【0033】
またグラフト変性ポリビニルアセタールは、形成される塗膜の表面平滑性の観点から、水分量が2.5重量%以下であることが好ましく、さらに2.0重量%以下であることが好ましい。グラフト変性ポリビニルアセタールの水分量を2.5重量%以下にする方法としては、本発明記載の方法により得られるグラフト変性ポリビニルアセタールを、水または水/アルコールの混合溶液等により洗浄した後、乾燥に付することにより、水分を規定の量以下にまで除去する方法等が挙げられる。
【0034】
本発明のグラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料は、種々の方法により基材に塗装することが可能である。その方法としては、流動浸漬法、静電塗装法、溶射法等が挙げられる。塗装する際の温度条件は、採用される塗装方法や、用いられるグラフト変性ポリビニルアセタールの種類により異なるが、100〜300℃程度が好ましい。
【0035】
本発明において塗装の対象となる基材としては、鋼管、鋼板などの金属のほか、陶器、セラミック、ガラス、プラスチックなどを挙げることができる。通常、これらの金属に粉体塗装を施す場合には、金属と塗膜との接着性、金属の耐食性、外観などが改善されることを期待して、脱脂、リン酸塩処理、メッキなどの前処理、プライマー処理を目的とするエポキシ系樹脂等の塗布が必要に応じて実施される。本発明のグラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料を、基材の表面に塗装することで多層構造体が得られる。この時、必要に応じて他の樹脂層との多層化を行うこともできる。多層化を行う方法としては特に限定されないが、粉体塗装を複数回行う方法、本発明の粉体塗料と他の樹脂からなる混合物を溶融させ、親和性の差により相分離させて一度の塗装で2層以上の樹脂層を得る方法などが例示される。これらの内、粉体塗装を複数回行う方法が、樹脂間の親和性等を考慮する必要がなく好適である。
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下の実施例において「%」および「部」は特に断りのない限り、「重量%」および「重量部」を意味する。
【実施例1】
【0037】
(グラフト変性ポリビニルアセタールの調製)
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた2リットルガラス製容器に、イオン交換水1350g、ビニルアルコール系重合体PVA−1(重合度300、けん化度88モル%)110gを仕込み、120Rpmで攪拌しながら、95℃、60分で完全に溶解した(ビニルアルコール系重合体の濃度7.5重量%)。さらにエチレン性不飽和単量体としてメタクリル酸20g、10%酒石酸ナトリウム水溶液2g、微粉状硫化第一鉄0.001gを添加し(グラフト重合前PVA水溶液)、溶液を60℃まで冷却した。その際、窒素バブリングを十分に行い、反応容器内を窒素雰囲気にした。続いて溶液を60℃に保ちながら、0.5重量%過酸化水素水16gを30分かけて添加してグラフト重合反応を行い、グラフト変性ビニルアルコール系重合体の懸濁水溶液を得た(グラフト重合後PVA水溶液)。この水溶液を120Rpmで攪拌下、10℃まで約30分かけて徐々に冷却した後、n−ブチルアルデヒド64gと20%の塩酸90mLを添加し、アセタール化反応を100分行った。その後、60分かけて50℃まで昇温し、120分保持後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して中和を行い、再洗浄、乾燥して、グラフト変性ポリビニルアセタール(PVB−1)を得た。得られたPVB−1の、主鎖エチレンパートを基準にして計算したアセタール化度は68モル%、ビニルエステル基含有量は11モル%であり、ビニルアルコール基含有量は21モル%であった。また、PVB−1の平均1次粒子径は2.3μmであり、平均2次粒子径は88μmであり、PVB−1の含水量は1.5重量%であった。
【0038】
(グラフト変性ポリビニルアセタールの側鎖含有率の測定)
まずグラフト重合前PVA水溶液、およびグラフト重合後PVA水溶液における不揮発成分の含有量を次のように求めた。
グラフト重合前PVA水溶液(またはグラフト重合後PVA水溶液)を2g量り取り(乾燥前重量)、5mmHg、80℃で10時間乾燥した(乾燥後重量)。グラフト重合前PVA水溶液、グラフト重合後PVA水溶液の不揮発成分含有量を下記計算式により求めた。
(グラフト重合前PVA水溶液の不揮発成分含有量)=(グラフト重合前PVA水溶液の乾燥後重量)/(グラフト重合前PVA水溶液の乾燥前重量)
(グラフト重合後PVA水溶液の不揮発成分含有量)=(グラフト重合後PVA水溶液の乾燥後重量)/(グラフト重合後PVA水溶液の乾燥前重量)
【0039】
下記計算式により、グラフト変性ビニルアルコール系重合体における、グラフトPVA側鎖含有率を求めた。
(グラフトPVA側鎖含有率)=[(グラフト重合後PVA水溶液の不揮発成分含有量)−(グラフト重合前PVA水溶液の不揮発成分含有量)]/(グラフト重合前PVA水溶液の不揮発成分含有量)×100
以上の計算によって求めたグラフトPVA側鎖含有率と、グラフト変性ポリビニルアセタールのアセタール化度、ビニルエステル基含有量、ビニルアルコール基含有量(後述する方法により算出)から、グラフト変性ポリビニルアセタールのグラフト側鎖含有率を算出した。
【0040】
(ポリビニルアセタールのビニルエステル基含有量)
JIS K6728に記載の方法に基づき算出した。
(ポリビニルアセタールのビニルアルコール基含有量)
JIS K6728に記載の方法に基づき算出した。
【0041】
(熱処理フィルムの作成)
7.6gのPVB−1を10cm×10cm×0.8mmの型枠内で、230℃、10分間熱プレスし、熱処理フィルム−1を得た。
(耐エタノール試験)
熱処理フィルム−1を2cm×10cm×0.8mm切りとり(試験前PVBフィルム)、50℃に保った100gのエタノール中に浸漬し、そのままの温度で2時間静置した。残存しているフィルムを取り出してろ紙で表面のエタノールをふき取り(試験後PVBフィルム)、105℃、3時間乾燥した(乾燥後PVBフィルム)。以下の式でフィルム残存率、フィルム膨潤度を計算し、PVB−1の耐エタノール性を評価した。
(フィルム残存率)=[(乾燥後PVBフィルム重量)/(試験前PVBフィルム重量)]×100
(フィルム膨潤度)=[(試験後PVBフィルム重量)/(乾燥後PVBフィルム重量)]×100
【0042】
(グラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料の調製)
PVB−1を60メッシュ(目開き250μm)の金網を用いてふるい、250μm以上の粒子を取り除き、粉体塗料−1とした。
(粉体塗料を用いた基材の塗装)
0.8mm(厚)×50mm×100mmのステンレス板(SAS304)の表面を洗剤を用いて洗浄して脱脂した後、イオン交換水で十分に洗浄して基材とした。この基材に対して、以下の方法により粉体塗料−1を用い、流動浸漬法により塗装を行った。
多孔板および円筒状の塗装室(流動室)(高さ50cm、直径30cm)を備えた容器に粉体塗料−1を入れ、空気を多孔板を通して塗装室に吹き込むことで、粉体塗料−1を流動させた。前記ステンレス板からなる基材を予熱し(温度230℃、10分間)、これを粉体塗料−1の流動層中に懸垂し、10秒経過した後取り出し、230℃の温度条件で10分間加熱して塗装物を得た。
(塗装物の耐溶剤性評価)
エタノールを含浸させたガーゼで塗装物表面を5回ふき取り、そのときの塗膜の状態を目視により確認した。
○:塗膜表面に変化が見られない。
×:塗膜表面の白化や溶解が見られる。
【実施例2】
【0043】
実施例1において、メタクリル酸の使用量を40gに変更して反応を行った。得られたグラフト変性ポリビニルアセタール(PVB−2)のアセタール化度は68モル%、ビニルエステル基含有量は11モル%であり、ビニルアルコール基含有量は21モル%であった。また、PVB−2の平均1次粒子径は2.0μmであり、平均2次粒子径は87μmであり、PVB−2の含水量は1.3重量%であった。
実施例1の方法において、PVB−1の代わりにPVB−2を用いて熱処理フィルム−2を作成し、耐エタノール試験により評価した。またPVB−1の代わりにPVB−2を用いて粉体塗料−2を得て、これを使用して塗装物を作成し、耐溶剤性を評価した。評価結果を表1に示す。
【実施例3】
【0044】
実施例1において、メタクリル酸20gの代わりにメタクリル酸20gとメタクリル酸メチル20gを使用して反応を行った。得られたグラフト変性ポリビニルアセタール(PVB−3)のアセタール化度は69モル%、ビニルエステル基含有量は11モル%であり、ビニルアルコール基含有量は20モル%であった。また、PVB−3の平均1次粒子径は1.9μmであり、平均2次粒子径は80μmであり、PVB−3の含水量は1.9重量%であった。
実施例1の方法において、PVB−1の代わりにPVB−3を用いて熱処理フィルム−3を作成し、耐エタノール試験により評価した。またPVB−1の代わりにPVB−3を用いて粉体塗料−3を得て、これを使用して塗装物を作成し、耐溶剤性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0045】
比較例1
(グラフト変性を行っていないポリビニルアセタールの調製、評価)
還流冷却器、温度計、イカリ型攪拌翼を備えた3リットルガラス製容器に、イオン交換水2160g、PVA−1(重合度300、けん化度88モル%)179gを仕込み(PVA濃度7.5重量%)、120Rpmで攪拌しながら、95℃、60分で完全に溶解した。この水溶液を120Rpmで攪拌下、10℃まで約30分かけて徐々に冷却した後、n−ブチルアルデヒド106gと20%の塩酸140mLを添加し、アセタール化反応を100分行った。その後、60分かけて50℃まで昇温し、120分保持後、室温まで冷却した。析出した樹脂をイオン交換水で洗浄後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、再洗浄し、乾燥して、グラフト変性を行っていないポリビニルアセタール(PVB−4)を得た。得られたPVB−4の主鎖エチレンパートを基準にして計算したアセタール化度は68モル%、ビニルエステル基含有量は11モル%であり、ビニルアルコール基含有量は21モル%であった。また、PVB−4の平均1次粒子径は2.0μmであり、平均2次粒子径は96μmであり、PVB−4の含水量は1.6重量%であった。
実施例1の方法において、PVB−1の代わりにPVB−4を用いて熱処理フィルム−4を作成し、耐エタノール試験により評価した。またPVB−1の代わりにPVB−4を用いて粉体塗料−4を得て、これを使用して塗装物を作成し、耐溶剤性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の方法は生産性に優れており、さらにエチレン性不飽和単量体の種類、使用量に応じて種々の物性を付与したグラフト変性ポリビニルアセタールが得られる。ここで得られるグラフト変性ポリビニルアセタールは各種用途、たとえば、粉体塗料、溶剤系塗料、プライマー、セラミックス用バインダー、インク用バインダー、自動車ガラスや建築ガラスの中間膜などに使用されるが、特にエチレン性不飽和単量体としてカルボキシル基を有しているものを用いた場合に得られるグラフト変性ポリビニルアセタールは、例えばこの樹脂から得られる塗膜を熱処理した際の耐溶剤性が良好であることから、熱硬化性の粉体塗料として好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体をビニルアルコール系重合体の1〜25重量%水溶液中で、ビニルアルコール系重合体にグラフト重合反応し、次いで酸触媒およびアルデヒドの存在下にアセタール化することを特徴とするグラフト変性ポリビニルアセタールの製法。
【請求項2】
エチレン性不飽和単量体が、α、β−不飽和カルボン酸、α、β−不飽和カルボン酸塩、α、β−不飽和カルボン酸エステル、α、β−不飽和カルボン酸アミド、マレイミド化合物、α、β−不飽和カルボン酸無水物、α、β−不飽和カルボン酸クロリド、α、β−不飽和ケトンおよびビニル芳香族化合物から選ばれる化合物である、請求項1記載のグラフト変性ポリビニルアセタールの製法。
【請求項3】
アルデヒドが、n−ブチルアルデヒドである請求項1または2記載のグラフト変性ポリビニルアセタールの製法。
【請求項4】
グラフト変性ポリビニルアセタールの主鎖のエチレンパートを基準にしたアセタール化度が40〜85モル%、ビニルエステル基含有量が0.1〜30モル%、ビニルアルコール基含有量が10〜50モル%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグラフト変性ポリビニルアセタールの製法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製法によって得られたグラフト変性ポリビニルアセタール。
【請求項6】
エチレン性不飽和単量体が、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製法によって得られたグラフト変性ポリビニルアセタール。
【請求項7】
請求項5または6記載のグラフト変性ポリビニルアセタールを主成分とする粉体塗料。

【公開番号】特開2008−297348(P2008−297348A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142077(P2007−142077)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】