説明

グラフト材料及びその製造方法

【課題】成形済みの有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したまま、分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入する技術を提供する。
本発明の一態様は、(a)有機高分子基材に電離性放射線を照射した後、該基材に重合性モノマー及び重合開始基導入剤を接触させることによって、該基材の高分子主鎖上に、その末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、(b)次に、該基材に重合性モノマーを接触させることによって、グラフト側鎖を成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフト材料及びその製造方法に関する。具体的には、本発明は、成形済みの有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したまま、分子量分布の狭い(小さい)グラフト側鎖を導入する技術に関する。また、本発明の他の態様は、成形済みの有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したまま、少なくとも一部がリビング重合によって形成されたグラフト側鎖を導入する技術に関する。また、本発明の他の態様は、成形済みの有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したまま、従来グラフト重合させることが困難だったモノマーのグラフト側鎖を導入する技術に関する。更に、本発明の他の態様は、成形済みの有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したまま、ブロックコポリマーの形態のグラフト側鎖を導入する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)に代表されるポリオレフィンは、安価で、加工性、耐熱性、耐薬品性、機械的性質などに優れているため、繊維、フィルム、多孔質膜、中空成形品などの形態に加工されて、各種用途に用いられている。しかしながら、ポリオレフィンは化学的に安定であるがために、機能性を持たせること、つまり官能基などで化学修飾することが困難であった。また、成形済みのポリオレフィン基材に対して、その形状を維持したまま機能性を付与することは、手段が更に限定されるために非常に困難であった。
【0003】
成形済みのポリオレフィン基材に機能性を付与する方法としては、プラズマ照射やスルホン化などによって基材表面に官能基を直接導入する方法、架橋重合法などによって機能性官能基を含むポリマーで、基材の表面を化学修飾する方法、或いはポリオレフィン基材にモノマー(重合性物質)をグラフト重合させる方法などがある。
【0004】
これらの中で、ポリオレフィンに電離性放射線を照射して、ポリオレフィン基材の高分子主鎖上にラジカルを生成させ、そこに重合性モノマー(グラフトモノマー)をグラフト重合させる、所謂放射線グラフト重合法は、様々な形状のポリオレフィン基材に適用することができ、しかも基材の形状を維持したままでグラフト重合を行うことができるので、非常に汎用性の高い方法といえる(特許文献1,2)。そして、機能を発現する官能基はポリオレフィン基材に共有結合しているので、これらの官能基が基材から拡散或いは解離することはほとんどない。このような特徴により、放射線グラフト重合法を利用して製造された各種材料は、クリーンルーム用のケミカルフィルタや、半導体産業で使用される薬液処理用のフィルター材料などに適用されている(特許文献3,4)。
【0005】
しかしながら、放射線グラフト重合法は、古典的なラジカル重合を利用しているので、グラフト側鎖同士の架橋や不均化によるグラフト側鎖の成長停止や連鎖移動などの副反応が避けられない。そのため、グラフト側鎖の数(密度)や長さ(分子量及び分子量分布)を制御することが極めて困難である、という問題があった。また、親水性のモノマーの中には、基材が疎水性であるために、単独でグラフト重合させることができないものがあり、そのような場合、重合しやすいモノマーと混合してグラフト共重合させなければならない、という問題があった。更に、放射線を照射した後の基材は、直ちにグラフト重合反応を行う必要があり、製造設備等の事情で一時保管する必要がある場合には、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中で冷凍保存しなければならず、手間がかかっていた。
【0006】
これに対して、より優れた性質や機能を持つ高付加価値材料や高機能材料として、高分子材料の分子量及び構造を精密に制御する必要性が増大していることに伴い、比較的分子量分布の狭いポリマーが得られるリビング重合、中でもリビングラジカル重合に関する研究が、近年盛んに行われている。リビングラジカル重合は、ポリマー末端のフリーラジカ
ルが安定な共有結合型末端(ドーマント種)に変換されているため、成長ポリマー鎖末端のラジカル間の二分子停止反応が抑制され、その結果、比較的分子量が揃った(即ち分子量分布の狭い)ポリマーを得ることができる。従来は、ラジカル重合は、成長種の高い反応性のために、カチオン重合やアニオン重合のようにリビングタイプで重合を進行させることは不可能であると考えられていた。しかしながら、1993年にGeorgeらによって、安定ラジカルであるTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ
ル)の存在下でスチレンのラジカル重合がリビング的に進行することが見出されて以来、リビングラジカル重合に対する関心が高まってきた(非特許文献1)。
【0007】
TEMPOなどのニトロキシルラジカルを用いた方法(安定フリーラジカル重合:SFRP(Stable Free Radical Polymerization)と称される)と共に、現在盛んに研究されているのが、遷移金属錯体を用いたリビングラジカル重合である。これは、ポリマー末端の炭素−ハロゲン結合を、遷移金属錯体の酸化還元反応を利用して可逆的に切断してフリーラジカル種を生成させる方法である。この方法で生じた炭素ラジカルによって重合が進行する。このような重合系は、ハロゲン原子がポリマー末端と金属錯体上を移動することから、原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)と呼ばれる。これまでの研究で、ATRP法で用いる遷移金属錯体として、ルテニウム、銅、鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウム、レニウムなどの周期律表7族から11族に属する金属の錯体が有効であることが分かっている。
【0008】
近年、このようなリビングラジカル重合の特長を利用して、分子量分布の狭いグラフト側鎖を持ったグラフトポリマーの合成に関する研究例が報告されている。しかし、それらの多くは、グラフトポリマーを合成した後に成形しなければならないものが殆どであり、基材の形状を維持したままリビングラジカル重合を行なって分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入している研究例は極めて少ない。成形済みのポリオレフィンにグラフトさせる場合でも、高い重合温度が要求されるために、ポリオレフィン基材を溶解させてからグラフト重合を行う場合が多く、基材の形状を維持したままグラフト側鎖を導入することができない(非特許文献2)。成形済みのポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したままでリビングラジカル重合を行ってグラフト側鎖を導入している例としては、紫外線増感剤を使用してポリエチレン多孔膜に重合開始基を導入した後にグラフト重合を行っている例がある(非特許文献3)。しかしながら、この方法では、適用できるモノマーの種類が限定されており、特に水溶性モノマーをグラフトさせることは、ポリオレフィン基材の表面が疎水性であるために非常に困難である。
【0009】
一方、シリコンウエハやシリカゲルのような無機材料やセルロースなどの基材に対してリビングラジカル重合を行ってグラフト側鎖を導入している研究例が幾つか報告されている。例えば、重合開始基(スルホニルクロリド基)をシリコンウエハ上に共有結合させた後に、リビングラジカル重合(原子移動ラジカル重合)を行って、鎖長と密度が制御されたグラフト側鎖を導入している例が報告されている。また、重合開始基(アゾ基)をシリコンウエハに共有結合させた後に、リビングラジカル重合を行ってグラフト側鎖を導入している例が報告されている。しかしながら、これらの方法は、シリコンウエハ材料の表面に存在する官能基(例えば水酸基)を利用して、ここに重合開始基を導入するというものであり、化学的に不活性なポリオレフィン基材への適用は極めて難しい。
【特許文献1】特公平6−55995号公報
【特許文献2】特開平1−292174号公報
【特許文献3】特開平6−142439号公報
【特許文献4】特開2003−251120号公報
【非特許文献1】Michael K. George, et.al., "Narrow Molecular Weight Resins by a Free-Radical Polymerization Process", Marcomolecules 1993, 26, p.2987-2988
【非特許文献2】K. Yamamoto, et.al., "Living Radical Graft Polymerization of Styrene to Polyethylene with 2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl", Polymer Journal, vol.33, No.11, p.862-867 (2001)
【非特許文献3】K. Yamamoto, et.al., "Living Radical Graft Polymerization of Methyl Methacrylate to Polyethylene Film with Typical and Reverse Atom Transfer Radical Polymerization", Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, vol.40, p.3350-3359 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記に述べてきたように、成形済みのポリオレフィン基材にグラフト側鎖を導入する方法において、基材の形状を維持したまま、グラフト重合反応の際の副反応を抑制しながら、分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入することができ、更に様々なモノマーに適用することのできる汎用性のある方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、成形済みのポリオレフィン基材に対して、基材の形状を維持したままで、分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入することのできる方法を提供すべく鋭意研究を重ねた結果、成形済みのポリオレフィン基材に対して放射線グラフト重合法によってグラフト側鎖を形成すると共に、この放射線グラフトによるグラフト側鎖の末端にリビングラジカル重合用の重合開始基を導入し、導入された重合開始基を利用してリビングラジカル重合によってグラフト側鎖を成長させるという手法により、グラフト側鎖の分子量分布を制御することができることを見出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明の一態様は、有機高分子基材に電離性放射線を照射した後、該基材に重合性モノマー及び重合開始基導入剤を接触させることによって、該基材の高分子主鎖上に、その末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、次に、該基材に重合性モノマーを接触させることによって、グラフト側鎖を成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法に関する。
【0012】
即ち、本発明は、成形済みのポリオレフィン基材に適用することのできる放射線グラフト重合の特長と、分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入することのできるリビングラジカル重合の特長の双方を組みあわせた方法である。本発明によれば、まず、放射線照射によって有機高分子基材の主鎖上に生成したラジカルを利用して重合性モノマーをグラフトさせると共に、開始基導入剤によってグラフト側鎖末端のフリーラジカルをトラップして安定な共有結合種(ドーマント種)とする(工程1)。次に、この共有結合種を重合開始基として、リビングラジカル重合を行う(工程2)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、物理的にも化学的にも均質なグラフト重合物を得ることができ、グラフト側鎖上に官能基を導入した場合には官能基密度も均一にすることができる。また、上記工程1と工程2とで異なる重合性モノマー(グラフトモノマー)を使用することにより、従来法では困難であったポリオレフィン基材へのブロックコポリマーのグラフト側鎖の導入も可能になる。更に、工程1で基材表面の親水性を高めることによって、工程2において、従来は困難であった親水性モノマーの水溶液中での重合も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の各種態様について詳細に説明する。
本発明においてグラフト材料を製造するための有機高分子基材として好適に用いることができるものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどに代表されるポリオレフィン類;PTFE、ポリ塩化ビニルなどに代表されるハロゲン化ポリオレフィン類;エチレン−四フッ化エチレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVA)などに代表されるオレフィン−ハロゲン化ポリオレフィン共重合体;などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
また、本発明において用いることのできる有機高分子基材の形状としては、繊維やその集合体である織布又は不織布、フィルム、多孔質膜、或いは中空成形品(例えば中空糸膜)などを好適に用いることができる。また、繊維材料に関しては、例えば、芯材料と鞘材料とから構成される芯鞘構造繊維、複合撚糸繊維などのような異なる材料を複合的に用いて製造されたものを使用することができる。また、フィルムに関しては、複数層をラミネートしたものや、海島状の構造になるように異なる材料を混合して製造したものを使用することもできる。
【0016】
本発明においては、工程1として、所謂放射線グラフト重合法によって、有機高分子基材に電離性放射線を照射して有機高分子基材の主鎖上にラジカルを生成させ、このラジカルを利用して重合性モノマーをグラフトさせると共に、開始基導入剤によってグラフト側鎖末端のフリーラジカルをトラップして安定な共有結合種(ドーマント種)とする。
【0017】
放射線グラフト重合法において用いることのできる放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、紫外線などを挙げることができるが、本発明において用いるのにはγ線や電子線が適している。また、フィルム等の基材に対してグラフト側鎖をパターニングする必要がある場合には、ビーム状に絞った電子線又は紫外線で描画することができる。またフォトマスクなどのパターンマスクを用いる場合には透過性を考慮したマスク用材料と放射線の組合せを選ぶことが好ましい。いずれの場合においても、生成させるラジカルの安定性を考慮して、放射線照射から重合性モノマーと基材との接触までの時間、重合性モノマーを反応させる際の温度及び雰囲気を調節することが好ましい。
【0018】
放射線グラフト重合法には、グラフト用基材に予め放射線を照射した後、重合性モノマー(グラフトモノマー)と接触させて反応させる前照射グラフト重合法と、基材と重合性モノマーの共存下に放射線を照射する同時照射グラフト重合法とがあるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。しかしながら、ホモポリマーの生成を抑制するためには前照射法が好適に用いられる。また、重合性モノマーと基材との接触方法により、重合性モノマー溶液に基材を浸漬させたまま重合を行う液相グラフト重合法、重合性モノマーの蒸気に基材を接触させて重合を行う気相グラフト重合法、基材を重合性モノマー溶液に浸漬した後、重合性モノマー溶液から取り出して気相中で反応を行わせる含浸気相グラフト重合法などが挙げられるが、いずれの方法も本発明において用いることができる。
【0019】
上述したように、繊維や繊維の集合体である織布/不織布は本発明のグラフト材料を製造するための有機高分子基材として用いるのに適した素材であるが、これは重合性モノマー溶液を保持し易いので、含浸気相グラフト重合法において用いるのに適している。
【0020】
本発明においては、放射線グラフト重合によるグラフト側鎖導入の工程(上記工程1)において、グラフト側鎖を導入すると共に、重合開始基を導入することを特徴とする。重合開始基を導入するためには、グラフトモノマーと開始基導入剤(ラジカルトラップ剤)とを適当な溶媒に溶解させて、十分に脱気して、混合溶液として照射された高分子基材と接触させることが好ましい。この場合には、グラフト側鎖の導入と同時に開始基の導入が行われる。また、まず照射された高分子基材をグラフトモノマーと接触させてグラフト側鎖を導入した後に、開始基導入剤の溶液を基材に接触させて、導入されたグラフト側鎖の末端部分に重合開始基を導入することもできる。
【0021】
上記工程1の放射線グラフト重合において使用することのできるグラフトモノマー(重合性モノマー)としては、ビニル基を有するものであれば任意の重合性モノマーを使用することができる。例えば、スチレン、クロロメチルスチレンに代表されるスチレン系の重合性モノマー;アクリル酸、メタクリル酸又はそれらのエステル化合物やアミド化合物;アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、酢酸ビニルなどを、工程1でのグラフトモノマーとして使用することができる。なお、後段のリビングラジカル重合(工程2)において親水性モノマーの水溶液を用いてリビングラジカル重合を行う場合には、工程1において基材に表面親水性をもたせることが好ましい。この目的のためには、工程1において、グラフトモノマーとして、アクリル酸、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、メタクリル酸ジメチルアミノエチルなどの親水基を有するモノマーが好適に用いられる。
なお、本発明においてモノマーの水溶液を用いて重合を行う場合、溶媒としての水は、必ずしも純水に限定されるものではなく、水とメタノールやジメチルホルムアミド(DMF)などとを含む混合水系溶媒を用いることもできる。したがって、これらの親水性モノマーをこれらの混合水系溶媒中に溶解したものも、本明細書においては「水溶液」と称する。本発明において、このような混合水系溶媒を作成する目的で水に添加して使用することのできる化合物としては、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等の水溶性アルコール、アセトン等の水溶性ケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などを好ましく用いることができる。
【0022】
また、上記工程1において、開始基導入剤(ラジカルトラップ剤)として用いることのできる化合物としては、ハロゲンやN,N−ジアルキルジチオカルバメート基のように、
成長鎖(グラフト側鎖)末端のフリーラジカルと結合し、しかも可逆的に開裂して再びフリーラジカルを生成することのできる官能基を導入できる化合物を用いることができる。成長鎖末端にハロゲンを導入することのできる化合物としては、例えば、遷移金属のトリハロビス(トリフェニルホスフィン)錯体、例えばトリクロロビス(トリフェニルホスフィン)の鉄(III)錯体、ハロゲン化銅(II)、例えば臭化銅(II)のヘキサメチルトリエチレンテトラミン錯体などの遷移金属錯体や、N−ハロスクシンイミド、例えばN−ブロモスクシンイミド(NBS)などを好適に使用することができるが、これらに限定されない。また、成長鎖末端にN,N−ジアルキルジチオカルバメート基を導入することのできる化合物としては、鉄(III)イオン、銅(II)イオン、ニッケル(II)イオン、ルテニウム(III)イオンのジアルキルジチオカルバメート、例えばジエチルジチオカルバメートなどを好適に使用することができるが、これらに限定されない。
【0023】
最終的に得られるグラフト材料のグラフト側鎖全体の分子量分布を狭い範囲で制御しようとする場合には、上記工程1においてグラフト率を低く抑えて、後段の工程2のリビングラジカル重合によってグラフト側鎖の大部分を形成することが好ましい。一方、工程2のリビングラジカル重合において重合性モノマー溶液として水溶液を用いる場合には、工程1の放射線グラフト重合が終了した時点で、有機高分子基材に十分な表面親水性が付与される程度に親水性モノマーがグラフトされていることが望ましい。このような放射線グラフト重合でのグラフト率の制御は、例えば、含浸気相重合法を行うと共に、重合性モノマー液中のモノマー濃度を適当に設定して、基材に対する重合性モノマー液の液量を制御することによって行うことができる。
【0024】
上記の放射線グラフト重合(工程1)が終了したら、グラフト済みの基材を必要に応じ、使用した重合性モノマーの種類によって、純水、アセトン、テトラヒドロフラン又はジクロロメタンなどで洗浄することによって、未反応モノマーなどを除去することが好ましい。なお、工程1で得られた、重合開始基がグラフト側鎖の末端に導入されている基材は、グラフト側鎖末端のラジカルが重合開始基によってトラップされているので、常温で空気中でも長期間保存することができ、そのまま後段のリビングラジカル重合を行うことができる。
【0025】
本発明においては、上述のように、放射線グラフト重合によって、その末端に重合開始基が導入されているグラフト側鎖を有する基材を形成し、次に、リビングラジカル重合によってグラフト側鎖を成長させる(工程2)。
【0026】
上述の工程2において、リビングラジカル重合を行わせるグラフトモノマーとしては、工程1で使用することのできる重合性モノマーと同様に、ビニル基を有するものであれば任意のものを用いることができる。ここで、工程1で使用したグラフトモノマーと異なる重合性モノマーを工程2で使用してリビングラジカル重合を行えば、ブロックコポリマーの形態のグラフト側鎖をポリオレフィンなどの有機高分子基材に導入することができる。リビングラジカル重合の特性により、分子量分布が狭く制御されたグラフト側鎖をポリオレフィンなどの有機高分子基材に導入することができる。
【0027】
工程2のリビングラジカル重合は、工程1が終了したグラフト済み基材と、リビングラジカル重合で使用する重合性モノマーとを接触させ、加熱することによって反応を行わせることも可能だが、重合温度をより低温で行うために好ましくは、工程1でグラフト側鎖末端に導入された重合開始基をグラフト側鎖から引き抜き、可逆的にフリーラジカルを生成させることのできる添加剤(ラジカル引き抜き剤と呼ばれる)を系に添加することによって重合反応を開始することができる。この目的で用いることのできるラジカル引き抜き剤は、工程1でグラフト側鎖末端に導入された重合開始基の種類によって異なる。例えば、工程1でメタクリル酸メチルをグラフト重合し、トリクロロビス(トリフェニルホスフィン)鉄(III)錯体によって重合開始基(塩素原子)を導入した場合には、遷移金属のハロゲン化物、例えば臭化銅(I)のヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)錯体、又は遷移金属のハロゲン化物、例えば臭化銅(I)の2,2’−ビピリジル錯体と、グラフトモノマー、例えばメタクリル酸グリシジルを基材に接触させることによって、リビングラジカル重合を行うことができる。また、工程1で、N−ビニルピロリドンをグラフト重合し、N−ブロモスクシンイミドにより重合開始基(臭素原子)を導入した場合には、遷移金属のハロゲン化物、例えば臭化銅(I)2,2’−ビピリジル錯体と、グラフトモノマー、例えばスチレンスルホン酸リチウムを基材に接触させることによって、リビングラジカル重合を行うことができる。工程2では、グラフト側鎖の成長がリビング的に進行するので、副反応が抑制される結果、ホモポリマーの生成が低減でき、従来よりも分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入することができる。また、リビングラジカル重合のラジカル引き抜き剤としては、上記の化合物の他にも、重合開始基の種類に応じて、ルテニウム、鉄、ニッケル、ロジウム、パラジウムなどの金属錯体を使用することができる。
【0028】
本発明は、上記に説明した方法によって製造されるグラフト材料にも関する。本発明によれば、有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材の主鎖上に、分子量分布の狭い高分子鎖が形成可能なリビング重合によってグラフト側鎖を形成するので、分子量分布が狭く制御されたグラフト側鎖が導入されたグラフト材料を得ることができる。即ち、本発明の一態様は、有機高分子基材の高分子主鎖上に、分子量分布が狭く制御されたグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料に関する。本発明によれば、有機高分子基材、例えばポリオレフィン基材の主鎖上に、好ましくは分子量分布(M/M)が1.5以下の、極めて均一な分子量を有するグラフト側鎖を有するグラフト材料を得ることができる。また、本発明の一態様によれば、前段の放射線グラフト重合工程と、後段のリビングラジカル重合工程とで異なる種類のグラフトモノマーを使用することによって、グラフト側鎖がブロックコポリマー状になっているグラフト材料を得ることができる。また、更に後段のリビングラジカル重合工程を、グラフトモノマーの種類を代えて複数段階行うことによって、更に複数種のモノマー単位(繰り返し単位)のブロックコポリマーの形態のグラフト側鎖を有するグラフト材料を得ることができる。
【0029】
本発明の各種態様は次の通りである。
1.(a)有機高分子基材に電離性放射線を照射した後、該基材に重合性モノマー及び重合開始基導入剤を接触させることによって、該基材の高分子主鎖上に、その末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、(b)次に、該基材に重合性モノマーを接触させることによって、グラフト側鎖を成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法。
【0030】
2.(a)有機高分子基材に重合性モノマー及び重合開始基導入剤を接触させた状態で電離性放射線を照射することによって、該基材の高分子主鎖上に、その末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、(b)次に、該基材に重合性モノマーを接触させることによって、グラフト側鎖を成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法。
【0031】
3.有機高分子基材が、少なくとも一部ポリオレフィンを含む材料である上記第1項又は第2項に記載の方法。
4.工程(a)で使用する重合性モノマーと工程(b)で使用する重合性モノマーとが同一である上記第1項〜第3項のいずれかに記載の方法。
【0032】
5.工程(a)で使用する重合性モノマーと工程(b)で使用する重合性モノマーとが異なるものである上記第1項〜第3項のいずれかに記載の方法。
6. 重合開始基導入剤が、トリハロビス(トリフェニルホスフィン)鉄(III)錯体;ハロゲン化銅(II)のヘキサメチルトリエチレンテトラミン錯体;N−ハロスクシンイミド;鉄(III)イオン、銅(II)イオン、ニッケル(II)イオン又はルテニウム(III)イオンのジアルキルジチオカルバメート錯体;のいずれかである上記第1項〜第5項のいずれかに記載の方法。
【0033】
7.工程(b)において、基材に、重合性モノマー及びラジカル引き抜き剤を接触させることによってグラフト側鎖の成長反応を行う上記第1項〜第6項のいずれかに記載の方法。
【0034】
8.ラジカル引き抜き剤が、遷移金属ハロゲン化物のヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)錯体又は2,2’−ビピリジル錯体である上記第7項に記載の方法。
【0035】
9.上記第1項〜第8項のいずれかに記載の方法によって得られたグラフト材料に、更に工程(b)で使用した重合性モノマーとは異なる重合性モノマーを接触させることによってグラフト側鎖を更に成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法。
【0036】
10.有機高分子基材の高分子主鎖上に、分子量分布が狭くなるように制御されたグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料。
11.グラフト側鎖の分子量分布(M/M)が1.5以下である上記第10項に記載のグラフト材料。
【0037】
12.有機高分子基材の高分子主鎖上に、少なくとも一部がリビング重合によって形成されたグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料。
13.有機高分子基材がポリオレフィン基材である上記第10項〜第12項のいずれかに記載のグラフト材料。
【0038】
14.グラフト側鎖が、2種又はそれ以上の異なる繰り返し単位を含むブロックコポリマーである上記第10項〜第13項のいずれかに記載のグラフト材料。
【0039】
産業上の利用可能性
本発明によれば、有機高分子基材に対して、まず放射線グラフト重合法によって、末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、次に、この重合開始基を利用してリビングラジカル重合によってグラフト側鎖の成長を行わせることによって、ポリオレフィン基材などの不活性な基材に、分子量分布の狭い(即ち均一な鎖長の)グラフト側鎖を導入することができる。したがって、本発明によれば、有機高分子基材の高分子主鎖上に、分子量分布が狭く制御されたグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料を製造することができる。また、放射線グラフト重合工程で用いるグラフトモノマーと、リビングラジカル重合工程で用いるグラフトモノマーとを異なる種類のものとすることによって、有機高分子基材の高分子主鎖上に、ブロックコポリマーの形態の分子量分布の狭いグラフト側鎖を導入することが可能になる。また、本発明によれば、従来困難であった親水性の重合性モノマーによってグラフト側鎖を疎水性の基材に導入することが可能になる。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。なお、以下の記載において、「グラフト率」は、グラフト前の基材に対するグラフト重合後の重量増加分を重量%で表示したものである。また、単位「meq/g-R」は、材料の単位重量あたりのイオン交換容量を表す。
【0041】
実施例1
1.鉄(III)錯体DMF(ジメチルホルムアミド)溶液の調製
100mLメスフラスコ中で、塩化鉄(III)六水和物(270.3mg、1mmol)と、トリフェニルホスフィン(786.9mg、3mmol)とをDMF中に溶解することによって、0.01mol/Lのトリクロロビス(トリフェニルホスフィン)鉄(III)錯体のDMF溶液を調製した。
【0042】
2.放射線グラフト重合工程
ポリエチレン繊維よりなる不織布(DuPont社製、商品名タイベック、平均繊維径0.5〜10μm、平均孔径5μm、目付63g/m2、厚さ0.17mm)を、5.0cm×5.0cmの大きさに切り出し、チャック付きの袋に入れ、袋の中の空気を窒素置換して密閉し、ドライアイス下でγ線を150kGy照射した。
【0043】
200mLナスフラスコにメタクリル酸メチル(10mL)、上記のとおり調製した0.01mol/Lの鉄(III)錯体DMF溶液(10mL)及びDMF(90mL)を入れ、超高純度アルゴンで1時間バブリングした。上記の照射済み不織布(5.0cm×5.0cm、153.9mg)を1枚入れて、高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをフラスコに取り付け、1分間減圧脱気した後、50℃の油浴中で1時間反応させた。基材を取り出し、ソックスレー抽出器を用いて6時間THF(テトラヒドロフラン)洗浄し、温風乾燥機中60℃で3時間乾燥させることにより、グラフト率68.3%のメタクリル酸メチルグラフト不織布1(259.0mg)を得た。
【0044】
3.リビングラジカル重合工程
100mLナスフラスコに、0.02mol/Lのヘキサメチルトリエチレンテトラミン(H
MTETA)のDMF溶液(40mL)とメタクリル酸メチル(10mL)を入れ、超高純度アルゴンで40分間バブリングした。臭化銅(I)(57.4mg、0.4mmol)を加えて1分間撹拌した後、上記のとおり得られたグラフト不織布を2.5cm×2.5cmの大きさに切り出したもの(56.0mg)を入れた。高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをフラスコに取り付け、フラスコ内を1分間減圧脱気し、80℃の油浴中で3時間反応させた。反応後の基材をソックスレー抽出器を用いて6時間THF洗浄し、60℃のオーブンで3時間乾燥させることにより、グラフト率28.9%のメタクリル酸メチルグラフト不織布2(72.2mg)を得た。
【0045】
実施例2
ポリエチレン繊維よりなる不織布(DuPont社製、商品名タイベック、平均繊維径0.5〜10μm、平均孔径5μm、目付63g/m2、厚さ0.17mm)を、5.0cm×5.0cmの大きさに切り出し、チャック付きの袋に入れ、袋の中の空気を窒素置換して密閉し、ドライアイス下でγ線を150kGy照射した。
【0046】
200mLナスフラスコに、メタクリル酸メチル(10mL)及びDMF(50mL)を入れ、超高純度アルゴンで1時間バブリングした。N−ブロモスクシンイミド(89.0mg、0.5mmol)と、上記の照射済み不織布(5.0cm×5.0cm、156.0mg)1枚をフラスコに加え、高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをフラスコに取り付け、1分間減圧脱気し、50℃の油浴中で1時間反応させた。上記実施例1の工程2と同様に洗浄、乾燥させることによって、グラフト率4.6%のメタクリル酸メチルグラフト不織布3(163.1mg)を得た。
【0047】
得られたグラフト不織布を2.5cm×2.5cmの大きさに切り出し(37.6mg)、上記実施例1の工程3と同様にメタクリル酸メチルのグラフトを行ったところ、グラフト率74.2%のメタクリル酸メチルグラフト不織布4(65.5mg)を得た。
【0048】
実施例3
100mLナスフラスコに、0.02mol/Lのヘキサメチルトリエチレンテトラミン(H
MTETA)のDMF溶液(40mL)とメタクリル酸グリシジル(10mL)を入れ、超高純度アルゴンで40分間バブリングした。臭化銅(I)(57.4mg、0.4mmol)を加えて1分間撹拌した後、上記実施例1の工程2で得られたグラフト不織布1を2.5cm×2.5cmの大きさに切り出したもの(60.4mg)を入れた。高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをフラスコに取り付け、フラスコ内を1分間減圧脱気し、80℃の油浴中で3時間反応させた。反応後の基材を実施例1の工程3と同様に処理することによって、メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジルグラフト不織布5(78.0mg)を得た(メタクリル酸グリシジルのグラフト率は29.1%であった)。
【0049】
100mLナスフラスコ中で、亜硫酸ナトリウム(4.0g)及び亜硫酸水素ナトリウム
(2.0g)を純水(38mL)中に溶解し、更にIPA(イソプロピルアルコール)(6
.0g)を加えた。そこへ、上記のとおり得られたグラフト不織布5を2.5cm×2.5cmの大きさに切り出したもの(95.5mg)を加えて、90℃の油浴中で6時間反応させた。反応後、基材を純水で洗浄し、1mol/L塩酸で処理した後、再び純水で洗浄し、乾燥することによって、スルホン酸型不織布6(109.8mg)を得た。この不織布のイオン交換容量を測定したところ、1.1meq/g-Rであった。
【0050】
実施例4
1.放射線グラフト重合工程
高密度ポリエチレン繊維よりなる不織布(倉敷繊維加工社製、商品名OEX−EF4、繊維径2デニール(平均約15μm)、目付60〜70g/m2、厚さ0.30〜0.35mm、通気度110〜130cm3/cm2-sec)を、5.0cm×5.0cmの大きさに切り出し、チャック付ポリ袋に入れ、袋の中の空気を窒素置換して密閉し、電子線(150kGy)を照射した。
【0051】
超高純度アルゴンで30分間バブリングしたN−ビニルピロリドン(NVP)の水溶液(w/w=1/1)中に、上記の電子線照射済PE不織布(5.0cm×5.0cm、161mg)を浸した。これをガラス容器に入れ、高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをガラス容器に取り付け、20秒間減圧脱気し、60℃の恒温槽で2時間反応させた。そして、二方コックを開いて、超高純度アルゴンで20分間バブリングしたN−ブロモスクシンイミド(NBS)のDMF溶液(0.1mol/L、20mL)を加え、室温で1時間攪拌することによりラジカルトラップ反応を行った。反応後の基材を室温の純水ですすぎ洗いし、更に50℃の純水(200mL)で3時間攪拌洗浄した後、60℃のオーブンで3時間乾燥させることにより、グラフト率120.5%のNVPグラフト不織布7(355mg)を得た。
【0052】
2.リビングラジカル重合工程
100mLナスフラスコ中で、スチレンスルホン酸リチウム(3.8g、20mmol)、2,2’−ビピリジル(125.0mg、0.8mmol)及びメタノール(10mL)を純水(30mL)に溶解し、アルゴンで30分間バブリングした。そこに、臭化銅(I)(57.4mg、0.4mmol)を加えて攪拌した後、上記のとおり得られたNVPグラフト不織布7(2.5cm×2.5cm、101.1mg)を入れた。高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをフラスコに取り付け、フラスコ内を1分間減圧脱気した後、50℃の油浴で3時間反応させた。空気曝露によって反応を停止させ、反応後の基材を塩酸(1mol/L)で洗浄した後、純水で洗浄し、60℃のオーブンで3時間乾燥させることにより、グラフト率17.1%のスルホン酸型グラフト不織布8(118.4mg)を得た。
【0053】
実施例5
1.放射線グラフト重合工程
超高純度アルゴンで30分間バブリングしたメタクリル酸2−ジメチルアミノエチル(DMMA)のDMF−水混合溶液(w/w=1/1)に、実施例4で用いたものと同じ電子線照射済PE不織布(5.0cm×5.0cm、163.0mg)を浸した。これをガラス容器に入れ、高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをガラス容器に取り付け、20秒間減圧脱気し、60℃の恒温槽で2時間反応させた。そして、二方コックを開いて、超高純度アルゴンで20分間バブリングしたN−ブロモスクシンイミド(NBS)のDMF溶液(0.1mol/L、20mL)を加え、室温で1時間攪拌することによりラジカルトラップ反応を行った。反応後の基材を室温の純水ですすぎ洗いし、更に50℃の純水(200mL)で3時間攪拌洗浄した後、60℃のオーブンで3時間乾燥させることにより、グラフト率53.0%のDMMAグラフト不織布9(249.4mg)を得た。
【0054】
2.リビングラジカル重合工程
100mLナスフラスコ中で、スチレンスルホン酸ナトリウム(4.1g、20mmol)、2,2’−ビピリジル(125.0mg、0.8mmol)及びメタノール(10mL)を純水(30mL)に溶解し、アルゴンで30分間バブリングした。そこに、臭化銅(I)(57.4mg、0.4mmol)を加えて攪拌した後、上記のとおり得られたDMMAグラフト不織布9(2.5cm×2.5cm、62.3mg)を入れた。高真空用グリースを塗ったジョイントと二方コックをフラスコに取り付け、フラスコ内を1分間減圧脱気した後、50℃の油浴で3時間反応させた。空気曝露によって反応を停止させ、反応後の基材を塩酸(1mol/L)で洗浄した後、純水で洗浄し、60℃のオーブンで3時間乾燥させることにより、グラフト率9.3%のスルホン酸型グラフト不織布10(68.1mg)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機高分子基材に電離性放射線を照射した後、該基材に重合性モノマー及び重合開始基導入剤を接触させることによって、該基材の高分子主鎖上に、その末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、(b)次に、該基材に重合性モノマーを接触させることによって、グラフト側鎖を成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法。
【請求項2】
(a)有機高分子基材に重合性モノマー及び重合開始基導入剤を接触させた状態で電離性放射線を照射することによって、該基材の高分子主鎖上に、その末端に重合開始基を有するグラフト側鎖を導入し、(b)次に、該基材に重合性モノマーを接触させることによって、グラフト側鎖を成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法。
【請求項3】
有機高分子基材が、少なくとも一部ポリオレフィンを含む材料である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)で使用する重合性モノマーと工程(b)で使用する重合性モノマーとが同一である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)で使用する重合性モノマーと工程(b)で使用する重合性モノマーとが異なるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
重合開始基導入剤が、トリハロビス(トリフェニルホスフィン)鉄(III)錯体;ハロゲン化銅(II)のヘキサメチルトリエチレンテトラミン錯体;N−ハロスクシンイミド;鉄(III)イオン、銅(II)イオン、ニッケル(II)イオン又はルテニウム(III)イオンのジアルキルジチオカルバメート錯体;のいずれかである請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において、基材に、重合性モノマー及びラジカル引き抜き剤を接触させることによってグラフト側鎖の成長反応を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ラジカル引き抜き剤が、遷移金属ハロゲン化物のヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)錯体又は2,2’−ビピリジル錯体である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)において親水基を有する重合性モノマーを用いることにより基材に表面親水性を付与し、工程(b)において親水性の重合性モノマーを用いてグラフト側鎖を成長させる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法によって得られたグラフト材料に、更に工程(b)で使用した重合性モノマーとは異なる重合性モノマーを接触させることによってグラフト側鎖を更に成長させることを特徴とするグラフト材料の製造方法。
【請求項11】
有機高分子基材の高分子主鎖上に、分子量分布が狭くなるように制御されたグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料。
【請求項12】
グラフト側鎖の分子量分布(M/M)が1.5以下である請求項11に記載のグラフト材料。
【請求項13】
有機高分子基材の高分子主鎖上に、少なくとも一部がリビング重合によって形成されたグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料。
【請求項14】
有機高分子基材がポリオレフィン基材である請求項11〜13のいずれか1項に記載のグラフト材料。
【請求項15】
グラフト側鎖が、2種又はそれ以上の異なる繰り返し単位を含むブロックコポリマーである請求項11〜14のいずれか1項に記載のグラフト材料。
【請求項16】
疎水性の有機高分子基材の高分子主鎖上に、親水性の重合性モノマーにより構成されるグラフト側鎖を有することを特徴とするグラフト材料。

【公表番号】特表2008−514735(P2008−514735A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513522(P2007−513522)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/JP2005/018051
【国際公開番号】WO2006/035917
【国際公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】