説明

グラブ浚渫船を使用した浚渫方法

【課題】グラブバケットを昇降動作させた際の汚濁の拡散を好適に抑制することができ、且つ効率のよいグラブ浚渫船を使用した浚渫方法の提供。
【解決手段】グラブ浚渫船を使用した浚渫方法において、グラブバケット3を下降速度切替え位置DCPまで下降標準速度DV0にて下降させ、下降速度切替え位置DCPより水底Bまでを下降徐行速度DV1にて下降させた後、水底部を掘削し、グラブバケット3を上昇徐行速度UV1にて水底Bより上昇速度切替え位置UCPまで上昇させた後、上昇速度切替え位置UCP上の領域において上昇標準速度UV0にてグラブバケット3を上昇させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のシェルが開閉動作してなるグラブバケットを有するグラブ浚渫船を使用して港湾等の水底を浚渫するグラブ浚渫船を使用した浚渫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の浚渫方法においては、グラブバケットをクレーン等の昇降手段により昇降自在に吊下げ支持させてなるグラブ浚渫船を使用し、グラブバケットを構成する両シェルを開いた状態でグラブバケットを下降させて両シェルの刃先部を水底部に貫入させ、その状態から両シェルを閉鎖させつつグラブバケットを上昇させることにより水底部を掘削するようになっている。
【0003】
この様なグラブ浚渫船を使用した浚渫方法では、グラブバケットを水底に着底させ、シェルの刃先部を水底部に貫入させる際に汚濁を拡散させてしまうという問題があった。
【0004】
従来、このような問題を解決する方法として、浚渫作業を行う領域の水面部に汚濁拡散防止用枠体を浮かべ、且つ汚濁拡散防止用枠体下に汚濁拡散防止用カーテンを設置し、この汚濁拡散防止用枠体及び汚濁拡散防止用カーテンに囲まれた領域内にグラブバケットを下降させることにより汚濁の拡散を防止するようにした方法が標準的に使用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
しかしながら、上述の如き汚濁拡散防止用枠体及びカーテンを使用した方法では、グラブバケットを着底させた際にカーテン下縁と水底面との間の隙間から汚濁が拡散してしまうおそれがあった。
【0006】
一方、近年においては、グラブバケットを低速で着底させることによって汚濁の拡散を抑制できることが知られており、また、作業効率を考慮して、グラブバケットを水底面より所定の距離を隔てた下降速度切替え位置まで下降標準速度にて下降させた後、下降速度切替え位置下の領域においてグラブバケットを下降標準速度より低速な下降徐行速度にて下降させて着底させるようにした方法が知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0007】
尚、ここで下降標準速度とは、グラブバケット重量、クレーン性能、吊り下げワイヤー強度等の昇降手段の性能を決定する諸条件に基づいて最も安全且つ効率的にグラブバケットの下降動作を行える速度をいうものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−68268号公報
【特許文献2】特開2006−27830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、下降速度切替え位置及び下降徐行速度を設定するに際して浚渫対象区域の地質等を考慮しておらず、更に、下降速度切替え位置及び下降徐行速度を決定するための明確な根拠が乏しく、地質状態、下降速度切替え位置及び下降徐行速度の組み合わせによっては汚濁拡散抑制効果が過剰であったり、或いは不十分であったりするおそれがあった。
【0010】
また、この種の従来技術では、水底よりグラブバケットを上昇させる際に生じる汚濁の拡散については十分に考慮されていないという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、このような従来の問題に鑑み、グラブバケットを昇降動作させた際の汚濁の拡散を好適に抑制することができ、且つ効率のよいグラブ浚渫船を使用した浚渫方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、互いに対向した一対のシェルが開閉動作されるようにしてなるグラブバケットと、該グラブバケットを昇降自在に吊下げ支持する昇降手段と、水底位置を測定する測定手段とを備えたグラブ浚渫船を使用し、前記両シェルを開放させた状態で前記グラブバケットを下降させ、前記両シェルを水底部に貫入させた後、該水底部において前記両シェルを閉じ、その状態で前記グラブバケットを上昇させて前記水底部を掘削する浚渫方法において、前記測定手段により水底面位置を測定し、該水底面位置に基づいて該水底面より所定の距離を隔てた位置に下降速度切替え位置を設定するとともに、下降標準速度よりも低速な下降徐行速度を設定し、前記グラブバケットを前記下降速度切替え位置まで前記下降標準速度にて下降させ、前記下降速度切替え位置より前記水底までを前記下降徐行速度にて下降させた後、前記両シェルを閉じて前記水底部を掘削し、前記測定手段により掘削後の水底面位置を測定し、該測定された掘削後水底面位置に基づいて該掘削後水底面より所定の距離を隔てた位置に上昇速度切替え位置を設定するとともに、上昇標準速度よりも低速な上昇徐行速度を設定し、前記グラブバケットを前記上昇徐行速度にて前記水底より前記上昇速度切替え位置まで上昇させた後、前記上昇速度切替え位置より前記上昇標準速度にて前記グラブバケットを上昇させることにある。
【0013】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記下降速度切替え位置及び上昇速度切替え位置において前記グラブバケットを一旦停止させることにある。
【0014】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記水底部の地質に関するデータを測定しておき、前記地質データに基づいて前記下降速度切替え位置、下降徐行速度、上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度を設定することにある。
【0015】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1、2又は3の構成に加え、前記下降徐行速度は、下降標準速度の1/4〜1/2とすることにある。
【0016】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1〜3又は4の構成に加え、前記下降速度切替え位置は、前記水底面より3〜5mとすることにある。
【0017】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1〜4又は5の構成に加え、前記上昇徐行速度は、上昇標準速度の1/4〜1/2とすることにある。
【0018】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項1〜5又は6の構成に加え、前記上昇速度切替え位置は、前記掘削後水底面より1〜3mとすることにある。
【0019】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項1〜6又は7の構成に加え、前記グラブ浚渫船は、前記グラブバケット、前記昇降手段及び測定手段の動作を制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記測定手段に前記水底位置及び前記掘削後水底位置を測定させ、該測定された前記水底位置又は前記掘削後水底位置に基づいて前記下降速度切替え位置、下降徐行速度、上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度を自動的に設定することにある。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るグラブ浚渫船を使用した浚渫方法は、上述したように、互いに対向した一対のシェルが開閉動作されるようにしてなるグラブバケットと、該グラブバケットを昇降自在に吊下げ支持する昇降手段と、水底位置を測定する測定手段とを備えたグラブ浚渫船を使用し、前記両シェルを開放させた状態で前記グラブバケットを下降させ、前記両シェルを水底部に貫入させた後、該水底部において前記両シェルを閉じ、その状態で前記グラブバケットを上昇させて前記水底部を掘削する浚渫方法において、前記測定手段により水底面位置を測定し、該水底面位置に基づいて該水底面より所定の距離を隔てた位置に下降速度切替え位置を設定するとともに、下降標準速度よりも低速な下降徐行速度を設定し、前記グラブバケットを前記下降速度切替え位置まで前記下降標準速度にて下降させ、前記下降速度切替え位置より前記水底までを前記下降徐行速度にて下降させた後、前記両シェルを閉じて前記水底部を掘削し、前記測定手段により掘削後の水底面位置を測定し、該測定された掘削後水底面位置に基づいて該掘削後水底面より所定の距離を隔てた位置に上昇速度切替え位置を設定するとともに、上昇標準速度よりも低速な上昇徐行速度を設定し、前記グラブバケットを前記上昇徐行速度にて前記水底より前記上昇速度切替え位置まで上昇させた後、前記上昇速度切替え位置より前記上昇標準速度にて前記グラブバケットを上昇させることにより、グラブバケットによる浚渫作業における汚濁の拡散を好適に抑制することができ、また、グラブバケットの下降動作及び上昇動作それぞれに速度切替え位置及び徐行速度を設定することで十分な汚濁拡散抑制効果を確保しつつ効率よく浚渫作業を行うことができる。
【0021】
また、本発明において、前記下降速度切替え位置及び上昇速度切替え位置において前記グラブバケットを一旦停止させることにより、確実に標準速度から徐行速度へ切替えることができ、昇降動作に伴う水流が水底部に及ぼす影響を抑制し、高い汚濁拡散抑制効果を得ることができる。
【0022】
更に、本発明において、前記水底部の地質に関するデータを測定しておき、前記地質データに基づいて前記下降速度切替え位置、下降徐行速度、上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度を設定することにより、十分な汚濁拡散抑制効果を確保しつつ効率よく浚渫作業を行うことができる。
【0023】
更にまた、本発明において、前記下降徐行速度は、下降標準速度の1/4〜1/2とすることにより、十分な汚濁拡散抑制効果を確保しつつ効率よく浚渫作業を行うことができる。
【0024】
また、本発明において、前記下降速度切替え位置は、前記水底面より3〜5mとすることにより、グラブバケットの下降動作に伴う水流が水底部に及ぼす影響を好適に抑制することができる。
【0025】
更に、本発明において、前記上昇徐行速度は、上昇標準速度の1/4〜1/2とすることにより、十分な汚濁拡散抑制効果を確保しつつ効率よく浚渫作業を行うことができる。
【0026】
更にまた、本発明において、前記上昇速度切替え位置は、前記掘削後水底面より1〜3mとすることにより、十分な汚濁拡散抑制効果を確保しつつ効率よく浚渫作業を行うことができる。
【0027】
また、本発明において、前記グラブ浚渫船は、前記グラブバケット、前記昇降手段及び測定手段の動作を制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記測定手段に前記水底位置及び前記掘削後水底位置を測定させ、該測定された前記水底位置又は前記掘削後水底位置に基づいて前記下降速度切替え位置、下降徐行速度、上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度を自動的に設定することにより、オペレータによる人為的ミスを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るグラブ浚渫船を使用した浚渫方法に使用するグラブ浚渫船の一例を示す側面図である。
【図2】本発明に係るグラブ浚渫船を使用した浚渫方法におけるグラブバケットの下降動作を説明するための正面図である。
【図3】同上のグラブバケットの上昇動作を説明するための正面図である。
【図4】下降速度切替え位置及び下降徐行速度の組み合わせと汚濁拡散抑制効果の関係について行った実験の結果を示すグラフであって、(a)はN値=0のときの結果を示すグラフ、(b)はN値=5のときの結果を示すグラフである。
【図5】上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度の組み合わせと汚濁拡散抑制効果の関係について行った実験の結果を示すグラフであって、(a)はN値=0のときの結果を示すグラフ、(b)はN値=5のときの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係るグラブ浚渫船を使用した浚渫方法の実施の態様を図に示した実施例に基づいて説明する。
【0030】
まず、本発明方法に使用するグラブ浚渫船について説明する。
【0031】
グラブ浚渫船1は、図1に示すように、互いに対向した一対のシェル2,2が開閉動作されるようにしてなるグラブバケット3と、グラブバケット3を昇降自在に吊下げ支持する昇降手段4と、水底位置を測定する測定手段5と、グラブバケット3、昇降手段4及び測定手段5の動作を制御する制御手段とを備え、グラブバケット3を汚濁拡散防止用枠体6及びカーテン7に囲まれた領域に下降させ、その領域内の水底部Bを浚渫するようになっている。
【0032】
このグラブ浚渫船1は、押船方式であって、作業工程に合わせて水上を移動することができるようになっている。尚、図中符号8はスパット(固定用杭)であって、水底に向けて打ち込まれてグラブ浚渫船1を所定の位置に固定できるようになっている。
【0033】
昇降手段4は、グラブ浚渫船1上に搭載されたクレーンをもって構成され、ジブ4aより繰り出された吊下げ用ワイヤー9の先端部にグラブバケット3が吊り下げられ、吊下げ用ワイヤー9の繰り出し及び巻き取り動作によりグラブバケット3の上下移動ができるようになっている。
【0034】
この昇降手段4は、GPS発信機等からなる位置管理手段を備え、この位置管理手段よりジブ傾斜角度、クレーン旋回角度等の位置情報を制御手段に出力するようになっている。
【0035】
また、昇降手段4は、吊下げ用ワイヤー9の繰り出し長さを測定する長さ測定手段、吊下げ用ワイヤー9の繰り出し又は巻き取り速度を測定する速度測定手段を備え、制御手段は、この長さ測定手段及び速度測定手段より出力される動作情報に基づきトルクコンバータを制御し、吊下げ用ワイヤー9の繰り出し及び巻き取り動作、即ち、吊下げ用ワイヤー9を繰り出し長さ、繰り出し速度及び巻き取り速度を制御でき、それによりグラブバケット3の位置及び下降速度、上昇速度を制御できるようになっている。
【0036】
更にグラブバケット3の下降、掘削及び上昇の一連の作業は、制御手段によりシーケンス制御されるようになっている。
【0037】
ここでグラブバケット3の昇降速度は、クレーン性能、グラブバケット重量、吊り下げ用ワイヤー強度等の昇降手段4の性能を決定する諸条件に基づいて決定され、最も安全且つ効率的にグラブバケット3の昇降動作を行える速度をそれぞれ下降標準速度DV0及び上昇標準速度UV0というものとする。例えば、20m級のグラブバケット3を使用する場合の下降標準速度DV0及び上昇標準速度UV0は1〜2m/sである。
【0038】
一方、グラブバケット3には、例えば、複索式のものを使用し、ジブ4aより繰り出された吊下げ用ワイヤー9とは別の開閉動作用ワイヤー10を動作させることによりそれに伴い両シェル2,2の開閉動作がなされるようになっている。
【0039】
また、グラブ浚渫船1には、船首部分に測定手段5を備え、グラブバケット3下の水底面位置を測定できるようになっている。
【0040】
この測定手段5には、例えば、ナローマルチビーム測探機や3Dソナーを使用し、水底位置(水深)を測定するとともに水底面の不陸等の水底形状を立体的且つ広範囲にわたって測定できるようになっている。
【0041】
次に、上述の如きグラブ浚渫船1を使用した浚渫方法に関し図2、図3に示す実施例について説明する。
【0042】
まず、浚渫作業を開始する前に浚渫対象区域の地質に関するデータ(N値等)を測定し、測定された地質データを制御手段に入力する。
【0043】
次に、グラブ浚渫船1を浚渫対象位置まで移動させるとともに、汚濁拡散防止用枠体6及びカーテン7を設置し、浚渫対象区域を囲う。
【0044】
そして、位置管理手段によるジブ傾斜角度、クレーン旋回角度等の位置情報に基づき、クレーン4を動作させてグラブバケット3を浚渫位置に移動させ、その位置において制御手段によるシーケンス制御により浚渫作業を行う。
【0045】
この浚渫作業は、まず、制御手段が測定手段5を動作させ、浚渫区域内の水底面B位置を測定し、上述した地質データ及び水底面位置データに基づき下降速度切替え位置DCP及び下降徐行速度DV1を設定する。
【0046】
下降速度切替え位置DCPは、水底面より3〜5m、下降徐行速度DV1は、下降標準速度DV0より低速、具体的には下降標準速度DV0の1/4〜1/2の速度に設定される。
【0047】
また、この下降速度切替え位置DCPと下降徐行速度DV1との組み合わせは、汚濁拡散抑制効果、経済性等の観点から最も効果的な組み合わせを制御手段が演算に基づき選択するようになっている。
【0048】
即ちグラブバケット3の下降動作においては、下降速度切替え位置DCPの影響が大きく、下降速度切替え位置DCPが水底面より遠いほど汚濁拡散抑制効果が高い一方、低速で下降する距離が長いと工期が長くなるため、制御手段は、選択された下降速度切替え位置DCPに応じて、汚濁拡散抑制効果を満たす最速の下降徐行速度DV1を選択するようになっている。
【0049】
下降速度切替え位置DCP及び下降徐行速度DV1の設定が完了した後、制御手段は、設定された下降速度切替え位置DCPに基づき、昇降手段4を動作させて吊下げ用ワイヤー9を繰り出し、下降速度切替え位置DCPまで下降標準速度DV0にて両シェル2,2を開いた状態でグラブバケット3を下降させ、下降速度切替え位置DCPにおいてグラブバケット3を一旦停止させる。
【0050】
このように、グラブバケット3を下降速度切替え位置DCPにおいて一旦停止させることにより、下降標準速度DV0から下降徐行速度DV1への切替えを確実に行え、且つ、グラブバケット3の下降動作に伴う水流が水底部に及ぼす影響を抑制することができる。
【0051】
そして、一旦停止後、制御手段は、トルクコンバータを制御しつつ昇降手段4を動作させ、下降速度切替え位置DCPより設定された下降徐行速度DV1にて水底までグラブバケット3を下降させ、シェル2,2の刃先部分を水底部Bに貫入させる。
【0052】
次に、制御手段は、操作用ワイヤー10を両シェル2,2が閉じる方向に動作させつつ、吊下げ用ワイヤー9を巻き取り動作させ、シェル2,2の刃先部分を水平方向に移動させつつ両シェル2,2を閉じることにより水底部Bを掘削する。
【0053】
また、制御手段は、この掘削動作とともに測定手段5に掘削後の水底位置B1を測定させ、この掘削後水底位置B1の測定データ及び上述した地質データに基づき、上昇速度切替え位置UCP及び上昇徐行速度UV1を設定する。
【0054】
この上昇速度切替え位置UCPは、掘削後水底面B1より1〜3m、上昇徐行速度UV1は、上昇標準速度UV0より低速、具体的には上昇標準速度UV0の1/4〜1/2の速度に設定される。
【0055】
また、この上昇速度切替え位置UCPと上昇徐行速度UV1との組み合わせは、汚濁拡散抑制効果、経済性等の観点から最も効果的な組み合わせを制御手段が演算に基づき選択するようになっている。
【0056】
即ち、グラブバケット3の上昇動作においては、上昇徐行速度UV1の影響が大きく、上昇徐行速度UV1が遅いほど汚濁拡散抑制効果が高い一方、速度が遅くなる分工期が長くなるため、制御手段は、汚濁拡散抑制効果を満たす最短の上昇速度切替え位置UCPを選択するようになっている。
【0057】
このように、グラブバケット3の下降動作と上昇動作では、それぞれ別の速度切替え位置及び徐行速度を設定することにより、下降動作及び上昇動作のそれぞれで最適な速度切替え位置と徐行速度の組み合わせを選択でき、下降動作と上昇動作における速度切替え位置及び徐行速度を一律に設定する場合に比べ、効率よく浚渫作業を行うことができる。
【0058】
そして、上昇速度切替え位置UCP及び上昇徐行速度UV1の設定が完了した後、制御手段は、巻き取り速度を制御しつつ吊下げ用ワイヤー9を巻き取り、掘削後の水底面B1より上昇速度切替え位置UCPまで上昇徐行速度UV1にてグラブバケット3を上昇させ、上昇速度切替え位置UCPにおいてグラブバケット3を一旦停止させる。
【0059】
然る後、ワイヤー繰り出し長さ及び巻き取り速度を制御しつつ吊下げ用ワイヤー9を巻き取り、上昇標準速度UV0にて水上までグラブバケット3を上昇させ、クレーン4を動作させてグラブバケット3を土運搬船上に移動させるとともに開閉動作用ワイヤー10を動作させて両シェル2,2を開き、土運搬船に掘削した浚渫土を投入する。
【0060】
そして、上述の浚渫作業を汚濁拡散防止用枠体6及びカーテン7に囲まれた浚渫区域内で場所を移動させつつ繰り返した後、グラブ浚渫船1を移動させつつ上述の一連の作業を繰り返す。
【0061】
尚、上述の実施例においては、グラブ浚渫船が制御手段を備え、制御手段によりグラブバケット、昇降手段及び測定手段を自動的に制御するようにした例について説明したが、グラブバケット、昇降手段、測定手段をそれぞれオペレータが手動操作により動作させるようにしてもよい。
【0062】
次に、地質、速度切替え位置及び徐行速度の組み合わせと汚濁拡散抑制効果の関係について行った実験について説明する。
【0063】
この実験では、土質性状(N値)の異なる2地点(N値=0、N値=5)のシルト地盤において、下降速度切替え位置DCPと下降徐行速度DV1との組み合わせ及び上昇速度切替え位置UCPと上昇徐行速度UV1との組み合わせが異なる複数のケースについてグラブバケット3の下降動作及び上昇動作を行い、その際の汚濁拡散防止用枠体6及びカーテン7に囲まれた区域内の濁度値を濁度計にて計測し、それをSS値(mg/L)に換算し、グラブバケット3を標準速度にて下降動作又は上昇動作させた場合のSS値と比較した。その結果を表1〜表4及び図4〜図5に示す。
【0064】
尚、表1〜表4に示すSS値は、水深8m〜13mの複数の深度で計測を行い、その平均値を示したものであり、また、表1〜表4に示す低減率は、それぞれCASE1−0、2−0、3−0、4−0を基準とした各CASEの低減率を示したものである。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
上記結果からわかるように、グラブバケット3の下降動作においては、表1、表2及び図4に示すように、下降徐行速度DV1を下降標準速度DV0の1/4と1/2とした場合に両者に大きな差異は見られず、一方、下降速度切替え位置DCPを水底より3mに設置した場合に比べ水底より5mに設置した場合の方がより高い汚濁拡散抑制効果が得られることがわかる。即ち、グラブバケット3の下降動作における汚濁拡散抑制効果は、下降速度切替え位置DCPによる影響が大きいことがわかる。
【0070】
一方、グラブバケット3の上昇動作においては、表3、表4及び図5に示すように、上昇速度切替え位置を水底より1mに設定した場合と水底より3mに設定した場合とで両者に大きな差異は見られず、一方、上昇徐行速度UV1を上昇標準速度UV0の1/2に設定した場合に比べ上昇徐行速度UV1を上昇標準速度UV0の1/4に設定した場合の方がより高い汚濁拡散抑制効果が得られることがわかる。即ち、グラブバケット3の上昇動作における汚濁拡散抑制効果は、上昇徐行速度UV1による影響が大きいことがわかる。
【0071】
更に、地質(N値)に関し比較すると、N値の高い方(N値=5)、即ち土質の硬い方がN値の低い方(N値=0)に比べて汚濁の拡散が少ない。
【0072】
従って、地質を考慮した上で、下降動作時及び上昇動作時それぞれで最適な速度切替え位置及び徐行速度の組み合わせを選択することにより、一連の浚渫作業を通じて十分な汚濁拡散抑制効果を確保しつつ効率よく行うことができることが確認できる。
【符号の説明】
【0073】
B 水底部
DCP 下降速度切替え位置
UCP 上昇速度切替え位置
DV0 下降標準速度
DV1 下降徐行速度
UV0 上昇標準速度
UV1 上昇徐行速度
1 グラブ浚渫船
2 シェル
3 グラブバケット
4 昇降手段(クレーン)
5 測定手段
6 汚濁拡散防止用枠体
7 汚濁拡散防止用カーテン
8 スパット
9 吊下げ用ワイヤー
10 開閉動作用ワイヤー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向した一対のシェルが開閉動作されるようにしてなるグラブバケットと、該グラブバケットを昇降自在に吊下げ支持する昇降手段と、水底位置を測定する測定手段とを備えたグラブ浚渫船を使用し、前記両シェルを開放させた状態で前記グラブバケットを下降させ、前記両シェルを水底部に貫入させた後、該水底部において前記両シェルを閉じ、その状態で前記グラブバケットを上昇させて前記水底部を掘削する浚渫方法において、
前記測定手段により水底面位置を測定し、該水底面位置に基づいて該水底面より所定の距離を隔てた位置に下降速度切替え位置を設定するとともに、下降標準速度よりも低速な下降徐行速度を設定し、前記グラブバケットを前記下降速度切替え位置まで前記下降標準速度にて下降させ、前記下降速度切替え位置より前記水底までを前記下降徐行速度にて下降させた後、前記両シェルを閉じて前記水底部を掘削し、前記測定手段により掘削後の水底面位置を測定し、該測定された掘削後水底面位置に基づいて該掘削後水底面より所定の距離を隔てた位置に上昇速度切替え位置を設定するとともに、上昇標準速度よりも低速な上昇徐行速度を設定し、前記グラブバケットを前記上昇徐行速度にて前記水底より前記上昇速度切替え位置まで上昇させた後、前記上昇速度切替え位置より前記上昇標準速度にて前記グラブバケットを上昇させることを特徴としてなるグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項2】
前記下降速度切替え位置及び上昇速度切替え位置において前記グラブバケットを一旦停止させる請求項1に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項3】
前記水底部の地質に関するデータを測定しておき、前記地質データに基づいて前記下降速度切替え位置、下降徐行速度、上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度を設定する請求項1又は2に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項4】
前記下降徐行速度は、下降標準速度の1/4〜1/2とする請求項1、2又は3に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項5】
前記下降速度切替え位置は、前記水底面より3〜5mとする請求項1〜3又は4に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項6】
前記上昇徐行速度は、上昇標準速度の1/4〜1/2とする請求項1〜4又は5に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項7】
前記上昇速度切替え位置は、前記掘削後水底面より1〜3mとする請求項1〜5又は6に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。
【請求項8】
前記グラブ浚渫船は、前記グラブバケット、前記昇降手段及び測定手段の動作を制御する制御手段を備え、該制御手段は、前記測定手段に前記水底位置及び前記掘削後水底位置を測定させ、該測定された前記水底位置又は前記掘削後水底位置に基づいて前記下降速度切替え位置、下降徐行速度、上昇速度切替え位置及び上昇徐行速度を自動的に設定する請求項1〜6又は7に記載のグラブ浚渫船を使用した浚渫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87472(P2013−87472A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227989(P2011−227989)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)